銀髪の女性――リスティは今目の前に立っている異形から目を離さない、いや離せられない。

姿形はもちろんあるが、異形の立ち振る舞いや雰囲気、動きから目を離したらまずいと彼女の直感がそう告げているのだ。

異形から目を離した瞬間、自分はやられてしまう……そう告げている。

「その書類を地面に置き、仮面を外して正体を現せ。 そしたら、僕は撃たない」

「……」

異形は何も答えずただ女性を見据えており、何も行動を起こそうとはしない。
お互いその拮抗を続けるつもりかと思いきや……。

ブォオオオオオン! という強いエンジン音が響いた。

「!?」

一体何処からとリスティは音の在り処を探そうとしたが、その必要性はなくなった。

何故なら……異形の後ろからバイクが走ってきているのだ、しかも無人で。

「な、なんだそりゃっ!?」

思わずそう言葉を溢してしまうリスティに対して、異形は気にも留めず後ろに跳躍しバイクに乗り込んだ。

グリップを二,三度捻って、エンジンを更にかけると異形はバイクを走り、リスティの横を通り抜けた。

「っ逃がすか!」

リスティは銃を発砲する――無論異形にではなく、バイクの車輪に向かってだ。

寸分のずれなく叩き込まれた銃弾。 しかし、その銃弾は車輪とぶつかったと同時に砕け散った。

「! どんだけ固いんだ、あの車輪は!?」

銃弾を砕け散らせるほどの強固な車輪など見たこともなければ聞いたこともない、しかし実物を見せられてしまったリスティは悲鳴と驚愕の混じった声で叫んだ。

しかし、そうこうしている間に異形は最早遠く離れてしまい、また道を曲がってしまったため視界から消えていった。

「……はぁっ、はあっ、はぁっ。 つ、疲れた」

無論それは異形との対立だけでなく驚きの連発も含まれている。

なぜ銃弾をも弾け飛ばす車輪があるのだとか、無人で動くバイクがあるのか……。

「益々、彼という存在が見逃せなくなったな……」

フィリスは銃を懐にしまうと、先ほどの異形が出てきた第一倉庫に入る。

そこは荒れ放題となっていた。
テーブルは無残に壊され、埃とゴミがそこら中に散らばっており、何故かそこにあるガラスケースも全体にひびが入っていた。

「一体ここで何があったんだが……」

リスティは何かないかとそこら辺のものを捜しながら歩くと、一際目立つブロンズ製の何かを発見した。

それに目を付けた彼女は両手で持ち上げて、それをひっくり返すと。

「!? これは龍、なの、か?」

チャイニーズマフィアであり、テロ組織である『龍(ロン)』。

龍とそっくりの紋章がこれには彫られているが、もう一つ――この鷹は一体なんなのだろうか?

「くそっ、やっぱりあの時は無理にでも動かして、撃てばよかったか!」

重要ともいえる情報を逃したことに悔しさを覚え、舌打ちをする。

だがここでそんな苛立ちと悔しさを吐いたところで意味がない。
自身を落ち着かせるため、リスティは煙草を口にくわえ、火をつけようとライターを取り出そうとしたとき。

「ん?」

ふと一枚の紙に目についた。

その紙は裏になっていて、何げなく気になったリスティは紙を表側にしてみると。

「なんだこれ、梵字? さっきの異形は退魔師と……いやだけどこんな札を使う退魔師なんているのかな?」

自分の知っている退魔師といえば、霊力の篭った武器で敵を薙ぎ倒すか、言葉で霊と対話し落ち着かせるのどちらか。

こんな梵字の書いた紙を使う退魔師などいるのだろうか……。
それにこの鷹は一体何なのだろうか……。

頭のなかに疑問が浮き出るので、リスティは頭を振るって掻き消した。

「だけど情報収集には役立つだろうし、この紙とブロンズは持って行こうかな」

リスティは紙を懐にしまい、地面に置いてあったブロンズを持とうと手を伸ばすが。

『ポーン。 只今自爆時間丁度となりましたので、爆発させていただきます。 よい数ヶ月をお送りください』

「は?」

突然の間の抜けたボタン音と共に聞かされた音声に理解が遅れたリスティは思わず茫然と声をあげると。

閃光が奔った。





第一倉庫の外観から突然強い閃光が辺りを照らしたかと思いきや、突如第一倉庫の全窓硝子が砕け散り、また扉が大きく吹き飛んでいまい、海の中へと落ちていった。

そんななか、一人の女性……リスティが身体をふらつかせながら出てきた。

どうやら無事のようだ……。

「……っぁ……ぁっ……はっぁ」

しかし言葉を上手く紡がせる事すらできず、空気を求めるかのようにただ口をパクパクと動かす。

(目が……)

瞼は閉ざされたままで、ただ足を動かすリスティ。
衝撃が強すぎたせいか瞼を開けることができず、視界もまったく見ることができない……。

(み、耳が……)

外部から聞こえてくるはずの音が耳には入らず、ただ無音でしかない。 時折、キーンという金切り音でしか聞こえない……。

リスティは今自分がどこでなにをしているのかでさえ分からない。
無音と暗闇でしかない道をただふらつかせているだけなのだ。

どうやらあれは爆弾ではなく、強烈な閃光弾のようだ。
肉体的ダメージはないに等しいが、代わりに眼球や耳などのデリケートな部分に大きなダメージを与えられた挙句に、ショックが大きかったせいか、言葉も発せられなくなってしまっている。

「……ぅっぁ……ぐぅ……ぁ」

リスティはやがて力が入らなくなったのか、遂には倒れた。

その十分後、民間人の連絡によって第一倉庫にやってきた警察官たちによって、リスティは病院へと搬送された。

* * * * *

明朝の六時、月村家のリビングでは緊迫した雰囲気に包まれていた。

雪奈は苛立ちの篭った視線を忍とさくら、そして二人の後ろにただずんでいるノエルに向ける。

居心地が悪そうにしているのは忍だ。

なにせ魔眼をかけ眠らせた挙句、眠っている間に彼女が気になっている人物、本郷心を手錠かけて脅したのだ……。

「……それで忍にさくらさん、そしてノエル。 聞きたいことが山ほどあるんだけどいいかしら?」

「えぇ、構わないわ。 雪奈ちゃん」

「それじゃあ、ありがたく言わせてもらうわ――何を考えているの、貴方たち!」

怒鳴る雪奈に思わず怯えんでしまう忍だが、さくらはただ平然と受け止めていた。


「彼は、本郷くんはわたしの命の恩人よ!? なのにどうして貴方たちは……!」


「彼がもしも貴方を助けた事が演技だとしたら、どうかしら?」


「っ、彼はあの時必死になって護ってくれてたわ! 演技だとしても普通敵を殴りかかろうとはしないわ!」


「騙すためだったら裏の人間は何でもするわ、例え仲間を暴行してでもね」


「ふうん。 裏側を治めている海鳴の街にそんな男を簡単に入らせるだなんて、鈍いものね……」


「あら、男に惑わされている女に言われたくはないわね」


「ふふっ、学生時代結局告白出来なくて、未だにフリーな貴方に言われたくもないわねぇ」



『……』


(ノ、ノエルぅ、何とかしてぇ)

(無理です)

(あっさりと!?)

さくらと雪奈の口論を止めようとノエルに頼った忍だが、そのノエルもあっさりと否定する。

しかし、無理もないと思われる。

あの二人から猛烈な吹雪と寒さを感じさせる雰囲気を漂わせ、またさくらの後ろには狼、雪奈の後ろには虎の姿が見えるのだ。

「……っち。 それじゃあ本題に戻りましょうか」

「っち。 ええ、こんな口論したって何も始まらないわ」

「それじゃあ最初からやらないでよぉ」

『何か言った?』

「ごめんなさいっ!」

忍の文句が聞こえたのか、雪奈とさくらは有無を言わせぬ笑顔と共に重なり合う声の低さと、先ほどの雰囲気や気のせいか背後にいる猛獣たちが忍を睨んでいる。

余計なことを言わなければよかったと内心後悔する忍。

閑話休題(それはともかく)。

熱くなってしまった頭を冷ますべく、雪奈とさくらはとうに冷え切ってしまった紅茶を啜って、冷静さを取り戻す。

「はぁ、だけどさっきも言った通り、わたしは本郷くんが敵側だとは考えにくいのよ。 だって彼は月村家(ここ)の行き先も知らなかったのよ?」

「それも演技だっていう可能性は……」

「それはないわね。 彼、わたしが言っていた道を何度も間違えて遠回りしたのよ、それに彼の運転するサイドもどっちにいくか右左動かしていたし……。 それにさっき彼が逃亡する際ノエルを倒したって云うけど、どうして止めをささなかったのかしら?」

雪奈の言葉に忍とさくらは黙ってしまう。

あの時、心は自動人形であるノエルの掌をあっさりと貫いた。
膝をついたノエルにトドメをさすことすらあの時容易であったはずなのに……何故追撃をしなかったのだろうか。

裏の人間且つ敵ならば彼等に情けや甘えなどない、寧ろ機会を発見したならば直ぐにトドメをさす。

しかし彼はそれをしなかった、一体何故。

「うーん、雪奈の言うとおりなんだけど、だからって彼がまだ敵じゃないとは判断出来ないんだよねぇ」

「ですが本郷様の行動には矛盾点が見当たります。一体どういうことなのでしょうか」

今の現状では彼の立場は微妙な所だ、敵でもなければ味方でもない。 しかし、一刻も早くそれを解明したい、正直ノエルの掌を壊せる程のパワーを持つ人物が敵に回ると正直手間がかかる。

一体どうすればいいのやらと四人は頭を抱え込み、このまま無言の空気が流れると思いきや。

グゥーという腹の空かす音が聞こえた。

音の発生源に目を向けると、顔を真っ赤にさせた忍の姿を見て、一斉にため息をつくと、先ほどまでの真面目な雰囲気は掻き消えた。

『忍……』 「お嬢様……」

「しょ、しょうがないじゃない! お腹空いちゃったんだからぁー!」

心底残念そうに呟きながら忍を見つめる三人、思わず泣き叫んだ。

……その後、忍の腹が空かしてしまったのでノエルと雪奈が朝食を作るため、この話は一時中断となった。




台所にて雪奈とノエルは朝食の準備をしている。

雪奈は半熟な目玉焼きを作り終え、今は味噌汁を作ろうとしているため豆腐や長ネギや油揚げを切っている。

ノエルは鮭を綺麗にピンク色に焼けたのを確認した後、味噌汁の出汁を取り出している。

各々の役割に没頭して、会話も少なかったが、ここでノエルが喋り出した。

「雪奈様、ご質問しても宜しいでしょうか」

「ん? なに?」

「何故、本郷 心様に肩入れをするのですか?」

ピタリと雪奈の動きは止まり、思い切りため息をついた――やはり来たかといわんばかりに。

なぜ雪奈があれほど本郷心のことを信頼することが出来るのだろうか正直なところ分からない。

普段の雪奈ならば初対面の男性のことをあまり信頼しないだろう。 それにもしも心と忍どちらを取るかと言われたら、恐らく忍を選ぶ。

だが、先程の出来事では雪奈は心を信頼し、忍たちを糾弾した。

「……どうしてかしらね」

「……」

「正直分からないのよ。 どうして彼を選んだのか」

雪奈は手に持っていた包丁をまな板の上に置き、ノエルに顔を向ける。

「忍のやり方に関しては正しいって思っているの、彼には確かに怪しいところもある、話を聞くべきだって」

でも、と一息ついて彼女は次の言葉を紡いだ。

「でも彼にあらぬ罪や疑いを掛けられたとき、どうしようもなく嫌な気持ちと信じたくないっていう気持ちに押し出されちゃったの」

雪奈は身体を動きそんな彼女の表情を見て、ノエルは一瞬息をのんだ。

雪奈の浮かべていた表情――頬を赤く染めながらも、目に一杯の涙を滲ませて、ノエルを見つめていた。

「ねぇ……こんなわたし、変よね」

「っいえ、何もおかしくはありません」

ノエルは一瞬だけ言葉を詰めらせながらも、彼女の言葉を否定した。

そう何もおかしくはないのだ、彼女は至って平常だ。

幾らでも本郷心を庇い、彼の為に怒り、彼がどんな罪や疑いを掛けられても彼を信じたいというのは、仕方のないことなのだ。

何故なら、彼女は。


(好いておられるのですね、彼の事を)


本郷心のことが好きなのだから。


そしてノエルは彼女の表情と想いを通して決意した。


もしも本郷心が彼女の想いを裏切り、この表情を壊す事をしでかしたら。


(その時は私のこの手で……殺します)


*****

場所は変わって心の自宅。

リスティの状況や、ノエルの決意など全く知らない彼は今手元に持っている多くの書類を一枚一枚調べていた。

時計の針は既に深夜を超え、既に朝の七時。
昨夜家に帰ってきてからは一睡もしておらず、心はただ一心不乱に資料を読んでいる。


【二つの異なる動物能力を合成し、戦闘用自動人形に加える事に成功。 クラゲの放電と狼の瞬発力、しかし放電に耐えきれず自爆】


【問題を内部の機械と判断。 我々の身体でいう内臓部分にオーバーヒートを起こしてしまう為、 これらの部分は龍の構成員の臓器を移植し、臓器を改造させることで成功】


【しかし、生の臓器のままでは機能が発揮しないことが戦闘実験最中に自動人形に異変が起こったことが解明。 臓器を取り出した後、ある程度の改造を行うべきだと判断】


【Version3と自動人形との戦闘を開始した。一時間戦闘を行った結果、自動人形は壊れることなく実験は成功した。 しかし、我々が創った自動人形は『夜の一族』のように意思がないため、設定した通りの闘い、つまりはマニュアル頼りでしかないため、Version3からは『劣化品』とのこと】


【戦闘用だけでなく、百領は性行為用のも作成を我々に命ぜた。 戦闘用と違い、これは能力など不要。 しかし、意思がないため、制作には研究やミーティングが必要】


【自動人形に意思を込めようとAIを作成しようとしたが、仮面ライダーと同じ様に反乱される可能性があるため、断念】


【今年の三月。 我々の創った自動人形を購入する人物が現れた。 上から目線の連中であったが、精々我々の創った自動人形の実験台になってもらおう】


【購入人物名:氷室遊、月村安次郎】



「……ふぅ」

多くの書類を見ていくうちに、疲れてきた目。
手に持った書類の束をテーブルの上に置き、心は目を休ませるために目を閉じて、しっかりと休ませる。

まさか二つの動物能力を合成させる技術を生み出すとは思いもしなかった……。
かつてのショッカーの敵たちは各々の姿形を以って、それぞれの姿にあった能力を駆使し、自分と戦った。

その時は能力は一つだけで、何とか対応することができたが、二つとなるとどうなるか分からない……。

しかも、自分はまだ彼等がどんな戦い方すら知らない事が痛手だ。

(だけど救いなのはマニュアル通り……あの変な梵字紙から出てきた偽物と同じという可能性。 まだ戦ったことがないから分からないけど、対応できるかもしれない)

それだけでもありがたいと思わなければやってられないなと思わず苦笑いをする心。

目をゆっくりと見開いた心が次に手をとったのは、先ほどの購入者記録だ。

これに書かれている人物名の中で一番目を惹からせたのは、この『月村』という苗字だ。

(これって、月村さんのお父さんの名前かな? いやでもお父さんだったら、家にいるはず……何者なんだこの人。 それに一緒に買った、氷室って一体誰なんだ?)

一応苗字つながりで親類関係には当たるのだろうが、なぜ親類関係がショッカーの創り出した自動人形へと手を出したのだろうか……。

(駄目だ、分からないや)

心は頭を無造作に掻きながら、もうすっかりと冷めてしまった珈琲に口をつけるが、やはりインスタントコーヒーなので、翠屋と違ってあまり美味しくない……。

「とりあえずこれ飲んだら一眠りするか……」

普通珈琲を飲んでしまったら、眠れなくなってしまうのだが、本日様々な出来事や闘いを繰り広げて、疲れがとても溜まっている心にとっては関係のない話である。

心はググっと珈琲を完全に飲み干し、書類を片手に寝室に向かった。

そして寝室に向かいながらも書類を捲ると、立ち止まった。

【イレインオプションのプログラム改善を完了し、既に我らの手の中にある。 ある程度の道化をイレインや氷室たちを適当にやってもらった後、両名を殺害し、月村家の殲滅を行い――後に本郷 心の破壊を命ずる】

「……」

クシャリとその紙を握りつぶしながら、「させるかよ」と言葉を零して、




心が寝付いてから二時間が経った後、心の自宅前に、一人の少女が立っていた。

歳からして雪奈たちと同じ程度。

赤いカチューシャで飾られている金髪の髪の毛は右サイドに垂らしており、紫色の瞳はつまらなそうに心の自宅を見つめていた。

しかしそれよりも最も目が惹かれるのが、彼女の服装であった。
素足を露出したチャイナ服に酷似した服装は、男性を虜にするほどに魅力的で、今にでもその中身が見えそうだ。

「ふぅん、ここにあいつらの『お熱』がいるわけ……なんだかつまらなそうな家ね」

少女は軽く欠伸をし、心の自宅から背を向け、帰ろうとすると。

「うん?」

足元に何かを感知した少女は目線を向ける。

「くぅん」

そこには一匹の子犬が尻尾を振るっていた。 首輪がつけられていない挙句に所々汚れが目立つ為、野生なのだろう。

しかし野生の子犬にしては人懐っこい。
現に少女の足に顔を擦り付け、じゃれ始めたのだ。

最初鬱陶しげに子犬を見ていたが、やがて根負けしたかの様に大きくため息をつく少女。

しかし、そんな少女にお構いなしに子犬が擦り寄って来る。
そんな姿に笑みを浮かべながらしゃがみ込み、じゃれつく子犬の頭を優しく撫でる。

頭を撫でられる子犬は嬉しそうに目を細め、やがてはもっと撫でてといわんばかりに擦り寄ってきた。

「ったく、仕方ないな」

少女は子犬を強く撫で始めると、子犬は尻尾をブンブンと振り始める。
すると前方からガチャッと開く音が聞こえると、子犬は少女から目を離し、前方に向けた。

少女も子犬の後を追うように目線を送ると。

「ん? あぁ、また来たのかい」

「キャン! ワンワン!」

「はいはい、おやつだろ。 ちゃんとあげるから…………っておやお客さんか」

犬用おやつ――骨型クッキー――を持った心の姿があった、子犬の言葉がわかっている様に返事を返すと、子犬の傍にいた少女に気づいた。

「……どうも」

「えぇどうも。 この子の事を見てくれてありがとう、ほらおやつだよ」

ぶっきらぼうに返事を返す少女だが、心は気にする事なく少女に返事を返しながら子犬におやつを与える。

子犬は与えられたクッキーを嬉しそうにかぶりつく、そんな姿に心は微笑ましいといわんばかりに見つめ、少女はそんな心の様子を見つめる。

「……(こいつが、あいつらのお熱か。 別にどこにでもいそうなやつだとは思うけど、まぁかっこいいのは認めるし犬に餌を上げるほど優しい奴。 ってなにを考えてんだが)」

率直な感想と後半の私情を心の中でそう言い終えた後、子犬がクッキーを食べ終えたのを見て帰ろうとしたとき。

「また来てくださいね。 この子、あなたの事を気にいった様だから」

少女は答える事なく去ろうと思っていた、別にもう会う機会ないし会いに行こうとも思ってもいなかったから。

だけど。

「まっ、暇ができたらね」

何故か自分でも不思議なくらい穏やかにそう残して少女は去っていった。



「……だってよかったね」

「アゥン! アンアン!」

少女が去った後、心は子犬にそう言葉を投げると、嬉しそうに吠えた子犬は心に背中を向け、歩き始めた。

「うん、そっちも気をつけなよ。 あといい加減飼い主を見つけな」

「ワンッ!アンアンアンッ!」

子犬はダッと走り出して去っていった。

心があの子犬と出会ったのはこの家にやってきてすぐのこと、そのとき買ってあったクッキーを上げたことで交流が始まったのだ。

子犬の姿が見えなくなるまで見送った心は苦笑し、自宅に入ろうと扉を開けて。

「やれやれ、あの子も意地っ張りだな。 まだ一人でもやっていけるぜ、か」

子犬の言葉に苦笑して、心は自宅の中へと入っていった。

……どうやら子犬の言葉がわかっている様に、ではなく。
子犬の言葉が分かった挙句に、本当に会話をしていたのであった。




後書き

あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします、そして社会人になっても少しずつですが、がんばって書き続けたいと思います!



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