「お疲れ様。はい、今日のバイト代」

「「「ありがとうございやした!」」」

「また良かったら頼むね〜」

チリ紙交換のバイトを終わらせ、コブランダー達は念願のバイト代を手にしていた。
しかし悲しいかな、時給の額が低いため、3人分の金額を足しても家賃には全くもって足らない。
これを持っていったところで、再びおばちゃんに箒で叩かれて門前払いされるのがオチである。

「兄貴ぃ、まだアパートの家賃代には全然足りないぜえ」

「仕方ねえよ。だが今日の食事代くらいにはなるだろ」

「今日も野宿でっかぁ。ああ、暖かい布団で眠りたいわ……」

「贅沢言ってんじゃねえぞ。“欲しがりません、目標金額が貯まるまでは”だ」

何処か哀愁を漂わせながら街中を歩く3人組の前に、不規則な動きの球体がかなりの速さで通り過ぎて行った。
突然の事に唖然としつつ、その正体に一早く気付いたコブランダーは未だに唖然としている2人の頭を叩く。

「おい、スターピースだ! 早く追って俺等のモンにするんだ!」

「「が、合点承知ッ!!」」

大事なバイト代を小さな収納場所に入れ、3人は通り過ぎて行ったスターピースの後を追った。
人混みを必死にかき分け、見失ってしまわないよう、常に視界に入れたままの距離を保つ。
ふと、ガニランはコブランダーに訊いてみた。

「兄貴、もしあのスターピースを手に入れたらどんな願いを叶えてもらうんです?」

「はん……そんな事、最初っから決まってるじゃねえか!」

自信満々に言うコブランダーに対し、ガニランとスパイドンの期待が否応にも高まる。
そしてコブランダーは――2人に向けて言った。

「食費と家賃代を一気に稼ぐ為、何百万つう大金を出してもらう!!」

「「…………さ、流石兄貴ッ!!」」

「そうだろうそうだろう? そうなりゃあボロアパートにこだわることもねえぜ!」

燃える瞳をスターピースに向け、コブランダーは走る。全ては贅沢し放題の何百万を稼ぐため。
その一歩後ろを走りながら、ガニランとスパイドンは気付かれないよう溜め息を吐くのだった。
――世界征服を叶えてもらえば住む場所なんていくらでも手に入る気が……。











――放課後。あやかは昼休みにした約束通り、執事のクワジーロを広場に呼んで明日菜達に紹介していた。
ネギは放課後の職員会議のため、後から来るらしい。先に清掃員の仕事を終わらせたカブタックが来ていた。

「ほえ〜……これが明日菜達の言うビーロボさん達かぁ」

「どうもカブ。僕カブタック」

「初めまして。おいはクワジーロたい」

初めて見る珍しいロボット達に木乃香は興味津々の様子だ。ペタリペタリと身体に触っている。
彼女は特にカブタックが「とても可愛らしい」と言う理由で気に入ったようだ。
明日菜もクワジーロから自分と少し似た物を感じ取ったのか、すっかり彼と打ち解けていた。

「ところでクワジーロ、黒磯から習ったことは覚えました? 今日の夜にテストがあるそうですよ?」

「大丈夫! 何度もシュミレーションをしたし、お嬢の期待にきっと応えられると思うたい!」

「ふふ、なら心から期待させてもらいますわ。しっかり勉強の成果を出すんですよ?」

微笑ましい会話にこの場の空気が和む。普段はあやかに憎まれ口を叩く明日菜も微笑んでいた。
そんな時――遠くから明日菜やのどか、カブタックにとって訊き慣れた声が聞こえてきた。

「「「ま〜てぇぇぇ!!」」」

明日菜、のどか、カブタックが思わず顔を見合わせる。

「カブ……あの声は……」

「もしかして……」

「あの悪ロボトリオよね……?」

そう予想していると、徐々に姿が見えてきた。予想通り声の正体はコブランダー達だった。
しかし何処か様子がおかしい。まるで何かを追い掛けているような――。
その瞬間、明日菜達の前を不規則な動きをする光の球体が通り過ぎて行った。

「あ〜ッ!! あの光は!?」

「あれってまさか、スターピース!?」

カブタックと明日菜の言葉を聞き、残る全員が球体の通り過ぎて行った方向へ向いた。
球体はまだ辛うじて見える。今から追い掛ければ自分達が先に手に入れられそうだ。

「あっ! 何でお前等がこんなところに居るんだ! さてはお前等……」

「俺達がスターピースを追っているのを知って、邪魔しに来たんだな!」

「なんちゅう卑怯な奴等や。あれはワテ等が先に見つけたスターピースやで!」

あらぬ疑いをコブランダー達から掛けられ、明日菜達が憤慨する。

「ちょっと貴方達! 変な言い掛かり付けるのは止めて下さらない!」

「そうよ! それに卑怯なんて言葉、あんた等に言われたくないわよ!」

「何だとぉ!! やるか!」

「良いわ! 受けて立ってやるわよ!」

「う〜!」と唸り声を上げながら睨み合う明日菜とあやか、コブランダー達。
そんな彼女達をカブタックとクワジーロが羽交い絞めにし、必死に宥める。
そしてこの険悪な雰囲気を打ち破ったのは、木乃香とのどかの言葉だった。

「なあなあ、早く追い掛けんとスターピースが何処かに行ってまうで?」

「い、今は喧嘩をしてる場合じゃない……と、思います……はうう」

2人の言葉によって場に沈黙が走る。
そして本来の目的を思い出したのか、明日菜達が「アーッ!」と大声を挙げた。
その後すぐさま全員でスターピースが消え去っていた方向へと走る。
時折明日菜とコブランダーの間で口喧嘩があったが、取っ組み合いには至らなかった。





「ふう、ちょっと遅くなっちゃったな。雪広さん達まだ居るかなぁ?」

職員会議が終わり、待ち合わせの広場へネギは向かっていた。
彼女の言うクワジーロとはどんなロボットなのか、嫌でも期待が高まる。
すると自然と徒歩が早足になり、気が付けばネギは走っていた。

「もう少し――って、あれは……」

視界に入った“それ”は、徐々に自分の方に迫ってきていた。
不規則な動きをする光の球体――それは以前見たことがあった。

「スターピースッ!?」

そう叫ぶと同時に光の球体――スターピースはネギが常時背負っている杖に吸い込まれるように消えていった。
唖然とするネギを尻目に、杖が痙攣を起こしたように震え出す。そして次の瞬間、杖はネギの元を離れていた。

「ああっ!? 父さんから貰った大事な杖が!?」

持ち手に星のマークが浮かんだスターピースの杖はネギの真上を旋回し、跳び回っていた。
ネギはジャンプして何とかそれを取ろうとするが、後一歩のところで手が届かない。

「わ〜ん! どうしよう!?」

「先生ッ!? 一体どうしたのよ!」

困り果てていたネギの元にスターピースを追い掛けていた一行が到着した。
ネギが必死の表情で事情を説明すると、カブタックが口を開いた。

「スターピースが取り憑いたせいで、杖が飛行能力を持っちゃったみたいカブ」

「ほええ〜、スターピースってそんな力もあるん?」

「願いを何でも叶える物じゃからのう。何が起きても不思議じゃ――」

「んなことを言ってる場合じゃねえだろが! 問題は飛んでる坊主の杖をどうやって取るかだろ!」

一同が腕を組み、何か良い手はないかと知恵を絞った。
彼等の上を変わらず旋回している杖はその様子を表しているかのようである。
そんな時――渋い笑い声が何処からともなく聞こえてきた。

「あ……この声は……」

「まさか……」

「そのまさかやろ……」

一同が辺りを見回し、声の主を探す。
すると近くの広場の噴水に飾られている学園長の銅像が動き出した。

「ひとーつ、贔屓は絶対せず! ふたーつ、不正は見逃さず! みっつ、見事にジャッジする!」

1つ目の言葉で銅像が一同の方に向き、2つ目で銅像が立ち上がり、3つ目で銅像が噴水から降り立った。
また何てところからコイツは現れるのか――彼の正体を知っている者達は呆れた表情を浮かべている。
彼を初めて見るクワジーロやあやか、木乃香は呆然としていた。そして銅像が両腕を広げた瞬間――。

「キャプテントンボーグ、ただいま参上!」

銅像と言う“殻”を破り、中からキャプテントンボーグが出てきた。
「面白い人やなぁ」と、木乃香は1人拍手をしていたりする。

「この勝負、私が預かろう! みんな文句は無いな?」

「……いやどうでも良いけど、あんた本物の銅像は何処にやったのよ」

「心配は無用だ。あそこの木の中に隠してある」

左にある1本の木を指差しながらトンボーグは言った。

「あ、あの……後でちゃんと戻しておいて下さいね?」

「この勝負が終わったらな。では今回の対決は……コレだ!」

何処からともなくホワイトボードを取り出し、トンボーグは一同に見せつけた。
そこには黒い太字で大きく『ダルマさんが転んだ対決』と書かれていた。

「「「「ダルマさんが転んだ〜??」」」」

「その通り。今回私は銅像に変装していたので、そこから思い付いた」

「ず、随分とアバウトな方なのですね……」

「褒め言葉として受け取っておこう。ではルールを説明する」


・対決はチーム全員で行う。参加チームはそれぞれネギチーム、コブランダーチーム。
・300m先に居るトンボーグの背に先にタッチしたチームの勝ち。タッチするのは1人でOK。
・動きを止める際、座ったり伏せたりするのは禁止。やってしまった場合は即失格となる。


「説明は以上だ。何か質問はあるか?」

「あ、あの〜……300m先ってトンボーグさんの掛け声が聞き取り難いんじゃ……」

「その点の心配は無用だ。私はマイクを使って『ダルマさんが転んだ』と言うからな」

のどかの質問が終わり、彼は他に質問が無いか一同に訊いた。
どうやら無いらしく、トンボーグは左腕のゴングを静かに構えた。

「それでは第2回スターピース争奪【銅像のように固まれ! ダルマさんが転んだ対決】を開始する!」

ゴングが鳴り響き、上空を飛ぶネギの杖が開催を祝うように旋回速度が速くなった。
これからスターピースを懸けた、ゆるい緊張感走る“ダルマさんが転んだ”が始まる――。



チーム表【ダルマさんが転んだ】開始直後
・ネギチーム〈ネギ、明日菜、あやか、木乃香、のどか、カブタック、クワジーロ〉
・コブランダーチーム〈コブランダー、ガニラン、スパイドン〉



「諸君、準備は良いか!」

300m先に居る、マイクで無駄にデカくなったトンボーグの声が広場に響く。

「「「「お、お〜……」」」」

参加チームの一同は時折近くを通り過ぎる生徒の視線に恥ずかしさを覚えつつも、返事を返した。
明日菜達にしてみれば、今回の対決種目である【ダルマさんが転んだ】など、何年振りだろうか。
子供の頃に飽きるほどやった遊びを、まさかこんな形で再びやるとは夢にも思っていなかった。
こんな姿、同じクラスの連中には決して見られたくないと、明日菜とあやかは心から思っていた。

「みんな準備は出来たようだな。コホン、では……」

胡坐を掻いて眼を瞑り、スティックの先のマイクを口に当てる。
そしてトンボーグは1回目の掛け声を高らかに言い放った。

「ダ〜ル〜マ〜さ〜ん〜が〜……」

地面に描かれている白線から、ネギチームとコブランダーチームの面々が一斉に飛び出す。
運動があまり得意ではない木乃香とのどかは皆の一歩後ろを行き、ゆっくりと確実に進む。
他の面々は相手チームに負けじと、トンボーグが掛け声を伸ばす限り走り続けた。

「こ〜ろ〜ん〜……」

まだトンボーグは伸ばす。一同がいい加減じれったく思えた。

「あの方、意外に焦らしますわね……!」

あやかが呆れ気味に言った。
しかし明日菜は好機と言わんばかりに口端を吊り上げている。

「返って好都合よ。この隙に一気に進んじゃいましょ!」

「そうですわね。行きましょう明日菜さん!」

「お嬢ッ! おいもフォローに回るたい!」

ウインクを交わし、共に駆け出す明日菜とあやか。
そんな彼女達の後ろに張り付くようにクワジーロも付いて行く。
3人に関心しつつ、ネギとカブタックの2人も速度を上げた。

(へへっ、馬鹿な奴等だ。そう簡単に辿り着かせるかよ)

ネギチームの後ろを走るコブランダー達は互いに視線を交わした。
そして同時に頷く。次の掛け声の時にやる事を決めたようである。
次の瞬間、トンボーグの「だッ!」と言う声が広場に響いた。

その声が響いたと同時に歩いていた、又は駆け出していた者が一斉に足を止める。
全員が銅像のように固まり、振り向いたトンボーグの見つめてくる視線を感じた。
暫くして全員のチェックが終わったトンボーグは、満足そうに言った。

「うむ。流石に1回目で失格者は出ないか。それでは2回目だ」

前へ向き直し、トンボーグは再び眼を瞑ってマイクを口に当てた。

「ダ〜ル〜マ〜さ――」

「今だスパイドン、ガニラン! スーパーチェンジだ!」

「「合点承知だッ! 兄貴ッ!」」

ネギ達が驚く間も無く、コブランダーチーム全員がスーパーチェンジを果たした。

「お先に失礼させてもらうぞ! お前等、ここは任せたぜ!」

コブランダーがトンボーグの待つ場所へ駆け出し、残るガニランとスパイドンが明日菜達の前に立ちはだかる。
これでは前に進めず、トンボーグの元へ向かうことが出来ない。この行いに明日菜とあやかが怒りを露わにした。

「なっ! ちょっとアンタ達! そこを退きなさいよ!」

「私達が進めないじゃありませんか! どう言うつもりですの!」

2人の怒声に怯む事なく、スパイドンとガニランはそれぞれ専用武器を構えた。
スパイドンはクローアンカー、ガニランはガニブーメランと言う武器名である。

「どうもこうもないやろ? 嬢ちゃん達にはここで大人しくしててもらいますわ」

「その通り。兄貴がトンボーグにタッチするまでな。ははは」

「むう、卑怯な事を! お嬢達の進む道を塞がせはしない!!」

明日菜とあやかの背後に張り付くように走っていたクワジーロが前へと飛び出し、スパイドンとガニランに組み掛かった。
しかし片やノーマルモード、片やスーパーモードと力の差は歴然である。クワジーロは簡単に返り討ちにされてしまった。

「ううっ……情けないたい……」

「クワジーロッ! 大丈夫ですか!」

倒れるクワジーロに駆け寄るあやか。スパイドンとガニランは「諦めろ!」と言い放つ。
明日菜が悔しさのあまり、クワジーロに続いて挑もうとした時だった――。

「チェンジッ! スーパーモードッ!!」

突如としてネギの声が響いた。それと同時にカブタックが明日菜達を飛び越しながらスーパーチェンジ。
立ちはだかるガニランとスパイドンを地面に押し倒す。ネギとカブタックの隙を突いた反撃であった。

「先生ッ! カブタック!」

「神楽坂さん、今です! 近衛さんと宮崎さんも! 早くトンボーグのところへ!」

「了解や!」

「い、急ぎます!」

押し倒されたガニランとスパイドンを越し、明日菜、木乃香、のどかの3人がトンボーグの元へ急ぐ。

「こ〜ろ〜ん〜……」

トンボーグの声が聞こえてくる。
2回目の掛け声が終わるのも時間の問題だろう。

「くぅぅ……こうなったらあの3人をワイの糸で……」

「そうはさせないぞ! ここでジッとしていてもらう!」

「くそぉ、邪魔だぜカブタック! ガニブーメランッ!」

ガニランが武器を振るい、カブタックの身体に斬り付ける。
その衝撃にカブタックの身体が僅かに動き、怯んだ。
2人はそれを見逃す筈がなく、勢いのままカブタックを押し退けた。

「ジッとしとるんはお前の方やでカブタック! 蜘蛛の糸!」

瞬間スパイドンの掌から無数の蜘蛛の糸が放たれ、カブタックの身体を何重にも絡め取った。
「ああ、カブタック!」と、ネギの彼を心配する声が響いた。

「ったく、手間を掛けさせやがって! スパイドン、早く前の3人にもやれ!」

「そんな煩く言われんでも分かっとるがな! 3人纏めて絡め取ったる……」

何とか2人を阻止しようとカブタックはもがいてみるが、糸は一向に取れない。
それどころか、もがけばもがく程に糸が身体に絡み付いてくるように感じた。
ネギも傍に駆け寄り、手で糸を解こうとするも、全く上手くはいかなかった。

――このままではコブランダーチームに負けてしまう。
眼の前の光景を見せられ、あやかがそう思い始めた時だった。

「お、お嬢。友情コマンダーを……」

「えっ……クワジーロ……?」

「ネギ少年と同じように……コマンダーに……『チェンジ・スーパーモード』と……」

「で、ですが私がネギ先生のように出来るかどうか……」

そんなあやかの言葉を否定するように、クワジーロは彼女の手を握った。

「大丈夫。おいはお嬢を信じとる。お嬢もおいを信じてくれ。そうすれば……」

「…………」

あやかはポケットから友情コマンダーを取り出した。
ジッと見つめた後、一瞬だけ決意したかのように眼を閉じる。
そして――あやかは口を開いた。

「クワジーロッ! チェンジッ! スーパーモードですわ!!」

あやかの声に応えるように、クワジーロが素早く立ち上がった。
彼の眼は光り、全身にエネルギーが満ちているかのようだった。

「おおおおっ! スーパーチェェェンジッ!!」

クワジーロの掛け声と共に、彼の身体がノーマルモードからスーパーモードへと変形していった。
腕と脚が少し伸び、ノーマルモード時の頭部が胴体の部分へと引き込まれる。
そして肩アーマーとパネルが展開し、それと同時にスーパーモード時の凛々しい頭部がせり出た。
クワジーロ・スーパーモードの誕生である。

「クワジーロさんが……!!」

「スーパーモードになった!」

「やった……! やりました!」

クワジーロは静かにあやかに向け、サムズアップを示した。
そしてすぐさまガニランとスパイドンに向けて駆け出した。

「さっきのお礼は存分にさせてもらうたい!!」

「「な、何ぃ!?」」

「ハサミックカッターッ!!」

何処からともなく取り出したクワガタのハサミ型武器を2人に向けて振るう。
火花が散り、ガニランとスパイドンは情けない悲鳴を挙げながら倒れ伏した。

「だッ!!」

そのすぐ後、溜めに溜めたトンボーグの2回目の掛け声が終了を告げた。
無論、この時点での失格者は倒れていたガニランとスパイドンである。
コブランダーは2人が失格してしまった事に内心舌打ちをした。

(だがまあ良い。後一歩で奴の背中にタッチ出来る。そうすれば……)

コブランダーの脳裏に大金を手にして贅沢三昧する光景が浮かんだ。
住むところを借り、美味い物を沢山食べ、念願の世界征服へと繋げる――。
何と素晴らしいことだろうか。コブランダーは笑いを堪え切れなかった。

だがそんな妄想は勝負から眼を逸らしてまでする物ではなかった。
そう、コブランダーは気付いていなかったのだ。
既にトンボーグが3回目の掛け声が始めていることに――。

「「「タ〜ッチ!!」」」

「…………へっ?」

コブランダーは眼を凝らした。眼の前に3人の少女が立っている。
彼女達の手はトンボーグの背中にタッチしていた。
――もう1度コブランダーは眼を凝らす。眼の前の光景は変わらない。

「残念でした。この勝負、私達の勝ちね」

「コブラさんどないしたん? 急に動かなくなってもうたから……」

「わ、悪いと思いましたけど……先にタッチさせてもらいました」

そう――明日菜達は2回目の掛け声が終わった時点でコブランダーのすぐ後ろまで迫っていたのだ。
当のコブランダーは眼の前の結果と、頭の中の妄想に夢中で、彼女達に気が付かなかったのである。
ガックリと膝をついたコブランダーが、信じられないと言った様子で叫んだ。

「嘘だ〜〜〜〜〜ッ!?!?」

「「兄貴ぃぃぃぃぃ!?!?」」

我等が兄貴の大失態にガニランとスパイドンの嘆く声が響いた。

「うむ。この勝負、ネギチームの勝利! 良い勝負だった」

「…………まあ、良い勝負かどうかは微妙だったけどね」

「お世辞ではなく、良い勝負だった。では商品のスターピースを与える」

トンボーグは「とう!」と言う掛け声と共にジャンプし、対決の最中ずっと真上を旋回していたネギの杖を軽々と捕まえた。
そして集まってきたネギチームの代表――ネギに杖を優勝賞品として渡すと、彼はまた煙のように姿を消して去っていった。
見るとコブランダー達も何時の間にか姿を消していた。どうやらあの3人組、逃げ脚はかなり速いようである。

「はあ、良かった。大切な杖を取り戻せて……」

「ねえカブタック君、この綺麗なのがスターピースなん?」

「そうカブ。さあネギ、杖から剥がして願いを叶えるカブ」

みんながワクワクした様子で見守る中、ネギがゆっくりと杖からスターピースを剥がしていく。
そしてようやくスターピースを剥がせたと思ったのも束の間、スターピースは砂と化していった。

「あっ……まさかこれも……」

「うっそぉ!? またモドキ!?」

明日菜の落胆の声と同時にスターピースは砂の山になってしまった。
またしてもスターピースの力を借り受けただけの紛い物“モドキ”であった。

「……完璧に砂になってしまいましたわね」

「スターピースモドキだったか。残念たい」

「これ、スターピースの偽物なん?」

「そうよ木乃香。願いを叶える力なんか無い、インチキな石なの」

「ふ〜ん……でも面白かったわ。またみんなで遊びたいなぁ」

「あんたねえ……」

呆れる明日菜を眼に、ネギとカブタックはクスクスと笑った。
また偽物ではあったが、何処か充実した気持ちになっていた。

「クワジーロ、今日はとても助かりましたわ」

「いいや、お嬢を守るのがおいの仕事。当たり前のことたい」

「ふふ、これからも期待させてもらいますわね」

こうして良い雰囲気のまま終わろうとした――のだが。
そうは問屋が卸さなかったりする。

「あっ……!」

「? どうしたの先生」

「…………トンボーグさん、銅像を元に戻してない」

「「「「あっ……」」」」

一同はまた何処からともなく、トンボーグの笑い声が聞こえてきたような気がした。



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