一夏の訓練を開始して2日目、箒は一夏に剣術を教え、キラは戦闘での機動回避の訓練を行い、アスランは実戦形式の模擬戦を行った。

負けたくない一夏としては有難かったが、キラのリアル弾幕鬼ごっこ (フルバースト、ドラグーンの使用はしていない)やアスランの高速斬撃に一夏は悲鳴を上げた。

2人の生かさず殺さずの神がかり的な手加減で一夏は何とか訓練に耐えている。

例によって例の如く一夏はキラの弾幕祭りに全力で逃げていた。

「如何したの? 逃げないと危ないよ?」

そう言いつつも2挺のビームライフルをフルオートで連射しまくるキラ。

しかもその狙いは正確無比で全弾正確な狙撃と疑いたくなる砲撃だ。

「クソ、キラ!? 手加減しろよ!?」

一夏の悲痛な訴えも虚しくキラは冷静に言い放つ。

「安心して、全力で手加減してるから」

(ウソだ!!)

「いや、本当だから。本気で撃ってたら1発目で終わってたよ?」

(心を読まれた!? しかも何か途轍もないこと言ってる!!)

一夏が心で絶叫しているとキラは容赦無く言い放つ。

「考え事なんて余裕だね? ほら次が来るよ?」

そう言いながらキラは一夏に急速接近しクスィフィアス3レール砲をぶっ放した。

「ぐっわあああああああああああああ!?」

派手な爆発の後、煙の中から爆風で弾き飛ばされた一夏が地面に叩きつけられる。

「今日はここまでだね。ご苦労様、一夏」

ソレを見た後キラは優雅に着地し今日の訓練の終わりを告げた。





一夏が地面に大の字に寝転がっていると箒が一夏の顔を覗き込む。

「大丈夫か、一夏?」

その問いかけに浅い呼吸をしながら何とか答える。

「ゼェ、これが、ゼェ、大丈夫に、ゼェ、見えるか?」

何とか答えられたが正直、一夏は限界だった。

集中力を切らさず手加減しているとは言えキラの鬼の様な弾幕をひたすら回避していたのだ。

集中力は削られ、ソレと平行して体力までも削られる。

更にその上に恐怖までプラスアルファされれば余計にその両方の消費は早い。

箒は一夏が起き上がるまで待つとペットボトルに入ったスポーツドリンクを差し出す。

「飲め。喉も渇いているだろう?」

「有難う。箒」

一夏はソレを嬉しそうに貰うと蓋を素早く開け喉を鳴らしながら勢いよく飲み始めた。

「そんなに慌てて飲むと咽るぞ」

箒はそう言いながら一夏を見つめる。

「ぷは〜……サンキューな箒」

「か、勘違いするな。コレは幼馴染であり、同門への気遣いだ」

頬を赤らめながら明後日の方に顔をそらす箒に一夏は微笑みながらお礼を言う。

「それでもだよ。ありがとな箒」

その顔をみた箒は更に赤くなる。

「如何したんだ箒? 顔が赤いぞ?」

その言葉に更に赤らめながら誤魔化す。

「わ、私の事はどうでもよい。ソレより一夏、どうだ? ヤマトとアスランの訓練は?」

その質問に一夏は渋い顔をしながら答えた。

「正直、解んねえ」

その言葉に眉根を顰めながら問いただす箒。

「どう言うことだ?」

「正直、自信が無いんだ。キラやアスランは教え方は滅茶苦茶上手いよ。でも、強くなってるって実感が全然無いんだ。来る日も来る日も2人に軽くあしらわれて、それでも我武者羅に喰らい付いていっても簡単にアッサリ遠くに離される。だからかな……実感が湧かないのは……」

一夏は握り拳を解きながら掌を見つめ独り言の様に呟いた。

その言葉に箒は天を仰ぎながら一夏に語りかけた。

その声は何時の鋭い棘を帯びた言葉ではない。

彼女自身の掛け値無しの本音だった。

「安心しろ。一夏、お前は強くなってる。私との剣術の訓練では互角に戦っているじゃないか。自信を持て。そうしないと、勝てるものも勝てなくなる」

その言葉に一夏はスックと立ち上がり、箒に向き直り礼を言った。

「ありがとな、箒。スッゲー力が出てきた気がした」

そう言いながら一夏は歩き出すのだった。

取り残される形となった箒はソッポを向きながら誰もいなくなったアリーナで詠う様に言霊を吐き出す。

「昔の一夏に戻ってきたかな……」

と。





セシリアに決闘を申し込まれ丁度1週間、一夏、箒、キラ、アスラン、千冬、真耶がアリーナIS発進場にいた。

「いいか、一夏、今回はヤマトとアスランに訓練をつけてもらった成果、見せてもらうぞ?」

千冬のその言葉に一夏はニヤリとしながら答える。

「ああ、行ってくる、千冬姉」

そう力強く言いながら一夏は専用IS、白式を展開する。

光に包まれ、光が晴れるとそこには白式を装着した一夏がいた。

一夏はカタパルトまで歩き出しながら手を振り、答えた。

それを見た千冬は感心したような顔をする。

「フン、少しはマシな顔が出来る様になったじゃないか。なあ、ヤマト、ザラ」

その言葉にキラは微笑み、アスランはニヒルに笑う。

「ええ、何処かの幼馴染が強烈な喝を入れてくれましたから」

「ああ、全く、愛とは偉大だな。自信の無い男をあそこまで奮い立たせるのですから」

キラとアスランは茶化しながら箒を見つめそんな事を言う。

突然そんな事言われた箒はたじろぎながら言い訳をする。

「あ、あ、あ、あ、アレは、一夏が余りにだらしなくてだな、その、そう! 激励したに過ぎない。他言は無い!」

キラとアスランは先ほどとは打って変わって優しく微笑む。

「僕達も一夏の自信の無さは多少知っていたよ? でもソレは自分で解決していく物だからね。あえて何も言わなかっただけさ」

「それにな、男友達の千の言葉より、近くで自分を見つめ一緒にいる乙女の一言で男は奮い立つもんだ」

その言葉に今度は千冬と真耶が飛びついた。

「ほう……まるで経験があるみたいな言い方だな? 2人とも」

「そうですね。さっきのしゃべり方からしたら明らかに経験した言い回しですよね?」

その言葉に2人は寂しそうな顔をして遠くを見つめる様な目をして言った。

「まあ、取り戻したくとも取り戻せない記憶ですから……」

「今の俺達には……途轍もなく遠い世界の出来事なんですよ……」

その言葉を聞き、千冬と真耶は不用意な発言だったと後悔した。

状況が解らない箒は場の雰囲気が重苦しい事から2人に質問しなかった。

かくして、一夏が飛び立つ準備が整った。

「カタパルトのロックを確認、進路クリア、一夏君、発進どうぞ」

真耶の言葉に一夏は目を瞑り数秒した後、一気に目を見開く。

「織斑 一夏、白式、行くぜ!!」

一夏はキラやアスランが発進の時に名前と機体名を名乗った後、発進する事からカッコいいなと言う短絡的な発想からそんな事を言った。

しかし、キラやアスランが一々、発進のたびに自分の名前と機体名を言っているのは訳がある。

本来、MSなどの機動兵器は部隊内において発進の順番が決まっている。

更に、同じ機体が多い為、例えシグナルが存在していても管制官や整備兵の混乱が多々あった為、誰が何に乗って発進するのかを明確にする為に言っているのだ。

しかし、ISはあくまで競技、スポーツといった意味合いが強いため、そんな事はしなくていいのだが、キラとアスランは元の軍人としての癖が抜けきらないから言っているだけに過ぎない。

兎に角、一夏は実戦と言う名の空へと飛び立った。



一夏が高度30メートルに達した時、セシリアが高度40メートルから語りかけてきた。

「余りに遅いので逃げたのかと心配いたしましたわ。ですが、逃げずに貴方は来た。その蛮勇には敬意を払いますわ」

あくまでイギリス人淑女らしく気に食わない相手は優雅に嫌味を飛ばした。

しかし、一夏も今までの一夏では無い。

ソレくらいの嫌味を返せるくらいの余裕はある。

「そいつは悪かったな。ちょっとティータイムを楽しんでいたんで遅くなった」

「あら、レディーの約束に遅れるなど紳士の風上にも置けませんわ」

「そちらこそ、男を待てるくらいの優雅さと包容力をイギリスにでも落としてきたのか?」

いい加減、舌戦をしても仕方が無いとセシリアは切り上げる。

「まあ、いいでしょう。舌戦は辛うじて合格といたしますわ。次はその口に見合うだけの力を見せてもらいますわ」

「ああ、見せてやるよ、日本男児の実力を!!」

そういい、お互いが臨戦態勢を取る。

『セシリア・オルコット対織斑 一夏のクラス対抗戦選手決定戦を開始します。始め!!』

アナウンスがそう告げた瞬間、セシリアが先手を取った。

セシリアはスターライトmkVを即座に構え一夏目掛けて発砲した。

青いレーザーが一夏を襲うが一夏も青い光の軌跡を高速機動でかわす。

「さあ、踊りなさい。私、セシリア・オルコットとブルーティアーズの奏でる円舞曲を!!」

セシリアは優雅にそう言いながらスターライトmkVを一夏に照準を合わせ乱射する。

しかし、一夏も高速で移動しながら回避に専念する。




その頃、キラ達は、その様子をモニター越しに見つめていた。

「アスラン、彼女、如何思う?」

キラのその問いかけにアスランは自分の考えを述べた。

「オルコットのヤツ、デカイ口叩くだけあって射撃は正確だ。本人の才能もあるだろうがそれを開花させるための努力は惜しんでいないようだ」

その言葉にキラも頷く。

「さすがは、代表候補生と言った所かな? でも射撃が素直すぎるね。フェイントや回避先を読んでの射撃が無いね。ただ、正確に狙いを定めて撃っているだけだ。アレでは無駄撃ちを重ねるだけだよ。更に欲を言えば相手の呼吸や目線、気配やフェイントの意味を読み取れたら合格かな?」

アスランもキラの言葉に頷きながら付け足す。

「更に欲を言えばキラが言った事を行いつつ高速移動が出来ればいいがな。棒立ちでは唯の的だ」

その言葉に箒が質問する。

「何で解ったんだ?」

その質問にキラは簡潔に答える。

「オルコットさんの目線、銃口、立ち位置、呼吸かな」

「射撃は簡単な様に見えて実は難しい。特に熱量銃火器はな。射撃の腕は勿論の事、銃の出力とエネルギーの割り振り、射撃位置による地形応用活用理論、敵との距離による出力変化、天候によるダメージ変化の補正、心理戦などを瞬時に把握、決定して攻撃していかなければならない」

アスランの解説を聞いた瞬間、箒は明らかに嫌な顔をする。

「む、難しいのだな……」

「接近戦にも相手と自分の距離や自分と相手の得物の長さ、自分と相手の移動速度、地形の応用活用、相手との技量の計算や心理戦なんかの要素もあるかな」

「まあ、訓練はそんな説明をせず体で覚えて、経験が補正するのが普通だがな」

「あ、アスラン、オルコットさんが痺れを切らせて奥の手を出すよ」

「ああ、オルコットのヤツ、余裕でいていい相手で無いことを把握したか」






セシリアはまさか、一夏がここまで戦えるとは思っていなかった。

精々4、5発食らって御仕舞いと踏んでいたが、目の前の男がここまで鮮やかに回避するとは思っていなかったのだ。

「貴方が初めてですわ。ここまで私の攻撃を避けたのは。その貴方に敬意を表して本気でいかせていただきますわ!!」

そう言い、ブルーティアーズの肩部装甲の下に伸びる4本の角が一斉に飛び立つ。

そして、一夏の周りを飛び回りレーザーの攻撃を開始した。

「うお!? 何だコレ!?」

一夏はシールドエネルギーを削られながらも何とか回避する。

「さあ、もっと踊りなさい! 踊り疲れる程に!!」

セシリアはそう言いながら機体と同じ名の誘導熱量兵器を一夏に差し向ける。

「クッ!! これじゃあジリ貧だ! こうなったらやるしかない」

そう言いながらシールドエネルギーを削られるの覚悟で超高速回避をしながらセシリアに迫る。

しかし、セシリアも何とか回避してみせる。

「無茶苦茶しますわね!!」

セシリアは毒づきながらも4機のブルーティアーズを操作し一夏を追い払う。

しかし、一夏もブルーティアーズの速度に慣れたのか回避しながらブルーティアーズを破壊する。

「読めたぜ! この兵器の弱点! コイツ等を操作する為に集中してお前は一切攻撃が出来ない」

そう言いながら3機目を切り落とす。

4機目を切り落とし、セシリアに迫った時だった。

「4機! コレで最後だ!!」

セシリアは口元を吊り上げ静かに笑う。

「掛かりましたわね」

「何!?」

その瞬間、ブルーティアーズの後ろ側が前にせり出す。

「4機だけじゃ無くてよ?」

その瞬間、ミサイル型の誘導兵器が一夏を襲う。

しかし、

一夏もまた口元を吊り上げる。

「奥の手を出したな?」

そう言い雪片弐型のビーム刀を展開、ミサイル型誘導兵器を切り落とす。

「な、何ですの!? それは!?」

セシリアの驚きの言葉に静かに瞳を閉じゆっくりと見開きながら名乗る。

「雪片弐型……」

「雪片……弐型?」

一夏はまるで独り言を言う様に語り出す。

「そうだよな、千冬姉と同じ武器を使ってるんだ。弟の俺がまけちゃあ姉ちゃんの名に傷がついちまう。俺はこの刀で自分の大切な物を守る。そう決めた」

そう言いながら雪片弐型を構え直す一夏。

「さあ、セシリア・オルコット。お互い奥の手を出した。そろそろ幕としようぜ!」

そう言いながら一夏は超高速でセシリアに迫る。

「ああ!! もう!! ゴチャゴチャ五月蝿いですわ!!」

そう言いながらセシリアもそれに答える様に手持ちの兵装を連射する。

しかし、一夏はそのことごとくを回避しセシリアの目の前に迫り、無数の斬撃を浴びせる。

回避しようにも高速で追いすがる一夏を振り切れず、シールドエネルギーを削られるセシリア。

しかし、一夏も真近くからの攻撃によりシールドエネルギーが削られる。

暫くの攻防の末、ブザーが鳴り響く。

『セシリア・オルコットのシールドエネルギーエンプティー、勝者、織斑 一夏!!』


その瞬間、勝負は一夏の勝利に終わったのだった。




あとがき
一夏とセシリアのクラス代表決定戦です。
戦闘描写が上手く書けないですね。
難しいです。



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