海岸に到着したキラ達は一夏がタンカに乗せられる所を見送る。
何とかキラとアスランが救護班到着まで適切な処置を行った事が幸いしたのかバイタルデータは何とか持ち直したが意識だけは戻らなかった。
千冬は怒鳴り散らす様に現場の人間に命令を下す。
「救護班は即時、負傷者の搬送を急がせろ！！ ザラ、ヤマトは司令部まで来い！！ 他は別命あるまで待機！！」
そう怒鳴るような命令を下すと千冬は一度も一夏の顔やキラ達の顔を見ずにその場を去る。
キラとアスランは千冬に続きその場を後にした。
キラ、アスラン、千冬、真耶の4人は司令部に篭った。
真耶は衛星のデータリンクを利用して福音の位置を割り出す。
「停止していますね……」
真耶の言葉に千冬は画面を睨み付けながら微動だにしない。
キラと、アスランも千冬と同じように画面を見つめた。
「本部はまだ、私達に作戦の継続を？」
その言葉に千冬はようやく重たい口を開いた。
「解除命令が出ていない以上、継続だ」
その言葉に真耶は反論の声を上げる。
「ですが……これからどの様な手を……」
その言葉に、アスランが答える。
「もし……もし、許可していただけるのなら、フリーダムとジャスティスの最大火力で福音の“撃破”は可能です」
キラもアスランと同意見らしく唯、黙って頷いた。
つまりは“殺す”ことも視野に入れた作戦を行う覚悟がある事をアスランは言葉の中にの匂わせた。
千冬が何か言おうとした時、扉をノックする音が響き渡る。
「失礼します」
「誰だ！！」
その呼び掛けに鋭い声で返す千冬。
正直、斬られそうな雰囲気を漂わせていた。
「デュノアです」
「待機と言った筈だ！！」
有無を言わせぬその怒声に怯むシャル。
シャルだけではない、セシリアも鈴も萎縮した。
立ち去る足音を聞きながらアスランは外へ出ようとする。
「何処へ行く積もりだ？ ザラ？」
その言葉にアスランは振り返る事無く千冬に言う。
「部隊員のメンタルケアです。部隊長として部下の精神面を支えるのは当然では？」
「勝手にしろ。お前は指揮官だ。その権利も義務もある」
その千冬なりに配慮にアスランは内心感謝しながら向き直り千冬に頭を下げた。
「有難う御座います」
そう言いいアスランは司令部を後にした。
箒は一夏が眠る枕元に正座をしながら後悔の念に苛まれていた。
其処にノックする音が響き渡る。
「俺だ。アスランだ。箒、入るぞ」
その言葉に肩を震わせながら何も答えない箒。
「いい加減に休んだらどうだ？ 休むのもパイロットの仕事だ」
そう言うとアスランは静かに箒の背に歩み寄る。
無言を貫く箒。
アスランは静かだがハッキリとした口調で言い放つ。
「一夏が落ちた。唯、それだけの事だろう。早く休め。何時出撃があるか解らんからな」
その言葉に箒がキレた。
「唯、それだけの事だと！？ 一夏が落ちたのだぞ！？ お前は、一夏の友だろ！？」
そう叫びながらアスランの胸倉を掴む箒。
「悔しく無いのか！？ 悲しく無いのか！？ お前はそんな薄情者か！？」
怒りに任せて罵声を浴びせ掛ける箒にアスランは無言で箒の頬を叩いた。
その衝撃で、箒は横に倒れこみ叩かれた頬を押さえながらアスランを見やる。
「いい加減にしろ！ 自分で蒔いた種だろう。初めての専用機に乗って浮かれてラリった挙句、命令無視、民間人を見捨てるような行動、挙句に味方の損害を出す行動」
アスランに挙げられた罪状にビクッと肩を震わせる箒。
「確かに、あいつ等は犯罪者だ。だがな、お前は唯、何の信念も無く力に浮かれてあいつ等を見捨てるような事をした。あいつ等と変わらんよ！」
その言葉に箒は反論する。
「あいつ等は秩序を乱したのだぞ！？」
その言葉にアスランも言い放つ。
「お前とて秩序を乱しただろうが！？ 何様だ！？」
そう言いアスランは箒の頬をまた叩き倒した。
「戦場でヒーローを気取るな！！ 戦闘はヒーローごっこじゃない！！」
その言葉に泣きながら反論する箒。
「違う！ 私は！！」
しかし、アスランは箒の反論を切り捨てた。
「戦場では結果が全てだ。力を持ったその瞬間から自分は誰かを悲しませる破壊者になる。お前も専用機を持つ者なら、その自覚と覚悟を持て」
有無を言わせぬアスランの言葉に箒は押し黙った。
箒は浜辺で夕日を眺めながらアスランの言葉を思い出していた。
『戦場でヒーローを気取るな！！ 戦闘はヒーローごっこじゃない！！』
（違う！！ 私は唯……唯、一夏と空を飛べるのが嬉しかった。遠くにいる一夏のそばにいる自分が誇らしかっただけなんだ！！ それにあいつ等は犯罪者だ！！）
『お前とて秩序を乱しただろうが！？ 何様だ！？』
（違う！！ あいつ等は法を犯したのだぞ！？ ソレを助けろだと！？）
『お前は唯、何の信念も無く、力に浮かれてあいつ等を見捨てるような事をした』
（違う……私は……）
『戦場では結果が全てだ。力を持ったその瞬間から自分は誰かを悲しませる破壊者になる。お前も専用機を持つ者なら、その自覚と覚悟を持て』
（力を持つ者の自覚と覚悟……）
その言葉に箒は思い至る。
あの犯罪者にも家族はいるだろう。理由も無く犯罪者になる者は少ない。貧しさから悪に手を染めたかも知れない。仕方が無く法を犯したのかも知れない。確かに犯罪は悪い事だ。そんな事、幼稚園児でも理解できる。なら、どうして彼らが法を犯したのか？ その理由を考えた事はあったか？ いや、無い。
（私は犯罪心理学者でもなければカウンセラーでもない。でも、追い詰められて暴力に訴える心境は理解できる）
追い詰められる人間の心境は理解できるが、法を犯すのは個人の意思の弱さだ。
でも、着る物、住む家、食べる物すら満足に無い状況で人間が人間足り得るのか？
答えはNOだ。
何処かの諺に、衣食住足りて礼節を知ると言う言葉を聞いた事がある。
なら、アスランは理解した上であんな言葉を吐いたのだろうか？
ソレも解らない。
ただ、言える事はアスランは少なくとも自分より周りが見えているのだろう。
箒は知らないだろう。
キラとアスランは戦後処理で多くの嘆きを、戦場の爪あとを覗いてきたのだ。
自分達が引き起こした罪の在り処が其処にはあった。
自分達の正しさを押し通す為に犠牲になった多くの人たちが其処にいた。
今まで信じていた信念が何度も揺らぎそうになった。
それでも、キラとアスランは背負い続けた。
自分達の罪を、自分が引き起こした事を。
死ぬまで忘れぬ為に。
自分達が信じた信念を嘘にしない為に。
「アンタ、何時までそうしているつもり？」
その声に振り返る箒。
「鈴？」
「アンタ、アスランに修正喰らったそうじゃない？」
その言葉に頬を押さえながら言う。
「ああ」
「で？ アンタは如何したいわけ？」
その言葉に箒は戸惑いながらも答える。
自分の気持ち。
キラやアスランの様な自覚や覚悟は持ち合わせていない。
でも、
ああ、でも。
それでも、
力を持つこの身が成し得る事。
「止めたい。心から……福音の暴走を止めたい。それしか、今の自分に出来ることが無い」
その言葉に鈴はニンマリとしながら箒に持ちかける。
「珍しく、てっ言うか、初めて意見が合ったわね」
そう言うと岩陰からセシリア、シャル、ラウラがひょっこり出てきた。
「箒さんだけではありませんわ。私達も同じ意見です」
「キラやアスランには悪いけど、僕も箒と同じ意見かな？」
「ああ、あのままでは私のプライドにも関わる」
「と、言う訳。悔しいのは誰もアンタ一人だけじゃないのよ」
最後に鈴がそう言うとラウラに質問する。
「ラウラ、福音は？」
ラウラは端末を操作し福音の正確な位置を皆に言う。
「ここから30キロ離れた沖合い上空に目標を確認した。ステルスモードに入っていたらしいが、工学迷彩はもっていないようだ。衛星の目視で確認した」
その言葉に鈴は上々と言いたげに答える。
「さすがドイツ軍特殊部隊。やるわね」
その言葉にラウラは全員に質問した。
「そう言うお前達は準備できたのか？」
その言葉に箒以外の全員が頷く。
「待て、ソレは命令違反では無いのか？」
その言葉にアッケラカと鈴が答える。
「だから何？ アンタ、今、戦うって言ったわよね？ その言葉に嘘偽りは無いの？」
その言葉に挑むように箒は答える。
「勿論だ。それに誰も行かないとは言わない」
「なら、決まりね。ま、カッチリ福音ぶっ壊して、全員でアスランの修正を喰らいますか」
そう言うと5人は頷きながら歩き出す。
若き戦乙女達は誓いを胸に福音に復讐戦を挑むのだった。
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