舞い降りし植獣/第1章『聖王と薔薇』(リリカルなのは×ゴジラ)
――諸注意――
 本作は作者の思いつき、もとい妄想の塊で作成されたものです。原作の『リリカル〜』の時系列が崩れているに加え、さらには時間軸がかなり飛ばれていきます。
一応の話の元は『リリカルなのは ストライカーズ』から出来ておりますが、クロスさせたものが異色なだけにとんでもない展開を起こしてしまいます。
それゆえ、原作通りの戦闘の展開、またはラストシーンとは成り得ない事をご忠告を申し上げます。
 以上の事をご理解頂けたうえで、お読みなる事を、再度、申し上げます。


 日本、福井県沿いにある若狭湾沿岸。そこには2つの巨大な生物が死闘を繰り広げていた。一方は全身が植物に覆われ、ワニの頭をした全高120m程の山の様な怪物。
もう一方は2足歩行で、全身が黒くゴツゴツとした皮膚に太く長い尻尾を持つ怪物で、こちらも80m程の全高を誇り、首から尻尾にかけての背びれが特徴的だった。
ワニ頭の怪物は持ち前の巨体と、その巨体から生えている無数の巨大かつ長い触手、そして溶解性の強い特殊な液体を吐き出して戦う。黒い怪物はその様な巨体に怯む事無く、本能の闘争心からか自ら突っ込んでいき、青白い光を放つ光線を吐き出して触手を吹き飛ばし、さらには本体にも浴びせかける。
 光線を浴びて触手を吹き飛ばされるも、ワニ頭の怪物は接近戦で巨大な顎を使い、黒い怪物の頭を加え込み、かみ砕こうとしている。が、黒い怪物はそれを許さなかった。
噛み砕かれる前に、再び青い光線を放ち、ゼロ距離射撃でワニ頭の口へ直接浴びせたのだ。ワニ頭の怪物は苦しみ悶え、黒い怪物の頭を離し、雄叫びを上げる。
それはもう、壮絶な光景だった。黒い怪物は容赦なく第2撃目を再度、大きく開けた口の中へと放ったのだ。口内へと浴びせられた光線は、ワニ頭の怪物の体内を破壊した。
体内で破壊された余波が、その怪物の背中の葉っぱの様な皮膚を吹き飛ばす。触手の大半を焼き飛ばされ、挙句には体内をも焼き焦がされたワニ頭の怪物に、もはや力はなかった。
 だが、黒い怪物にも異変があった。それは自衛隊により撃ち込まれた特殊弾道の効果であろう。黒い怪物は、戦う力を残さないワニ頭の怪物を放っておいて海へ向かう。
そして、足が岸辺へと着いた瞬間、それは頭から海へと突っ込む形でうつ伏せで倒れてしまった。それら2大怪獣の激闘ぶりを眺めやっていた自衛隊員、そして数人の科学者。
ワニ頭の怪物は、いまだその場にて居座るような形であったが、次の瞬間にはその巨大な身体を光の粒子に変え、果てしのない大空へと舞い上がっていったのである……。


 (また、あの夢)

 “彼女”は意識を現実世界へと戻した。自分には余りにも重々しい、過去の記憶だ。祖国の日本であった、巨大生物による襲撃は事実だ。そして、“彼女”はその時代にいた。
意識が完全に戻っていないのだが、次にはある少女の声に完全に引き戻される。

 「ねぇ、お花さん!」

 またあの娘さんね……と呟く“彼女”。ここ最近、ある“彼女”へ話しかけてくれる幼い少女がいた。その少女は見た目が5才程で、黄色に近い金髪に両目の色が違うオッド・アイ。
その娘は両腕に白く可愛らしい兎の人形を抱え、しゃがみ込んで“彼女”へ話しかける。話しかけれる側の“彼女”とは、それ程までに背が小さいのであろうか? 否、そうではない。
幼き少女がしゃがみ込んで話し込む相手、それは人に非ず。それは花壇の中に咲き誇る薔薇へ向かって話しかけているのだ。傍から見れば滑稽な場面であろう。
“彼女”は少女が呼び掛けたとおり、人ではなく薔薇の花なのだ。

 「今日はね、嬉しい事があったんだよ!」

 蔓延かつ可愛らしい無邪気な笑顔で、少女は薔薇の花へと語りかける。植物には人と会話する能力は無い。だが、ある精神的な面で言えば、それは不可能ではないという証言もある。
では少女にもその様な特別な力があるのだろうか……と問われれば、それは否定できない。この世界は普通の世界ではないのだ。“彼女”の知っている地球とは全く違う世界。
人間には持ち得る筈のない、魔力という特別な力。この世界ではそれが常識であり、その力を使って平和を守っている組織があった。それが、ここ、時空管理局という組織だ。

 「私にね、ママが出来たんだ!」

 出来た……? それは少女の表現不足だろうが、そこは指摘するべきところではない。ここは素直に、良かったね、というお祝いの言葉を掛けてあげるべきだ。
“彼女”は言葉を発していない。寧ろ発する事が出来ない、といえば当然のことである。なんせ、“彼女”は薔薇なのだから……。先ほども記した精神的なもの、すなわちテレパシーの類で彼女の脳へと語りかけているのだ。
しかし、少女の方はそれを理解している訳ではない。少女からすれば“お話してくれる不思議なお花さん”としてしか認識していないのだ。“彼女”からしても、それでも構わない。
少女の耳には、薔薇から返事が聞こえた様な錯覚である。

 (おめでとう、ヴィヴィオちゃん)

 その幼き少女、名をヴィヴィオと言う。薔薇からの言葉に、ヴィヴィオはさらに嬉しそうにして、笑顔を作った。“彼女”に顔があるとすれば、ニコリとしたであろう。
この様なやりとりは、つい最近から続いていた。当初の事を“彼女”は良く覚えている。が、そもそも“彼女”自体、何故ここにいるのか……何故人間ではなく薔薇なのか。
“彼女”が先ほどまでに見ていた夢、それは自分が体験したことである。“彼女”は元々が人間であった。しかし、望みもせぬ形で運命に死を強制されてしまったのだ。
 人間であった時の本名は、白神 英理加(シラガミ・エリカ)と言う。生物学専門の若き研究者として、父の白神 源壱朗(ゲンイチロウ)と共に研究に打ち込んでいた。
しかし生物学という部門に対して、当時の日本国民はあまり良い目は向ていなかった。そこで父親共々にサラジア共和国へと住居を移し、最新の生物学研究所の研究室を借りたのだ。
研究設備も最新鋭と呼ばれ、白神親子は研究にのめり込んだ。2人の研究テーマは『砂漠でも生きられる植物』であり、例えば、小麦や米といった食糧だ。
砂漠化の進む地球を前に、サラジア研究所所長を始めとして大勢の研究者が、その砂漠でも生きられるような植物を開発出来ないか、と願い続けて研究を行ってきた。
だが研究は思う様に進まない。そこへ現れたのが、生物学の権威とも言われていた白神 源壱朗だ。そして、娘の英理加もこの研究に協力したのである。
 2人の技術力はとてつもないものだった。特に娘が開発した、砂漠に適応する小麦は素晴らしいものだった。小麦の細胞にサボテンの成長能力を加え込んだのだと言う。
だが源壱朗にはさらなる研究目標があった。それは、無限の自己再生能力を有する植物を造り上げる事だ。これで、砂漠での適応能力を上げて、砂漠の緑化まで考えていた。
しかし中々、その強力な自己再生能力のある細胞を探し出す事は出来なかった。彼は苦悩していたのだが、そこで最高の細胞サンプルは手に入ったという。
他国では絶対に手に入れる事の出来ない細胞で、それを有するのは巨大かつ凶暴な生物だった。人類の恐怖として認識されており、その恐ろしさは嫌というほどに知っている。
 初めて襲った場所、それが日本だった。襲撃して来た黒い怪物を、皆はこう呼んだ……『ゴジラ』! どこから現れたのかは定かではない、この怪獣ゴジラは東京を破壊したのだ。
だが一説によれば、このゴジラは核エネルギーを大量に浴びた何かの変異体ではないか、とも言われていた。そして、そんな恐怖の怪物は、異常な生命力を持っていた。
どんな兵器に攻撃されても倒れる事のない強靭な身体……そこに、生物学者達は着目したのだ。日本を襲い、自衛隊の尽力により三原山へ封印されたゴジラ。
東京都新宿は瓦礫の山へと姿を変えたのだが、その瓦礫の中に、自衛隊の攻撃を受けた際に飛び散った小さなゴジラの皮膚が確認された。自衛隊はそれを確保、厳重に保管した。
 しかし、どこから嗅ぎつけたのか、米国の特殊部隊までが潜入し、ゴジラの皮膚を採取した。が、それを横取りしたのが白神 源壱朗が協力していたサラジア共和国のエージェント。
強奪まがいで持ち込まれたとは知らずに、彼はゴジラの細胞――G細胞――を凍結処理に掛かり、娘共々に新種の植物を造り上げるために研究に着手したのだ。

 (私も生きていたら……結婚したら、このくらいの子供がいるのかしらね)

 英理加は目の前で一人興奮した様子のヴィヴィオを微笑ましく、かつ羨ましげに眺めていた。そんな彼女が人間としての身体を失った原因……それは、G細胞そのものにあったと言っても過言ではない。
G細胞の存在は早くも世界各国で広まりつつあった。恐怖の対象とされるゴジラの驚異的な生命力を解明しようとした。だが裏を返せば、G細胞による新兵器の開発も含まれている。
そのため、各国はエージェントを派遣し、互いの腹を探りあい、時にはG細胞所有国を叩き潰すと言う横暴までやったのだ。そして、その犠牲者となったのが……彼女だった。

 ――その時の事を彼女は今でも覚えている


 「それじゃ、先に研究棟へ行ってます」
 「あぁ、分かった」

 当時の英理加は、日本より届いたG細胞で早く小麦のさらなる改良をしようと心を躍らせながら、所長と話し合う源壱朗より先に研究所の研究棟へと足を運び込んだ。
研究室には研究用の植物が幾つも置かれていた。研究途中だった小麦は勿論、それと適合させたサボテン。さらには、彼女のお気に入りである薔薇の花の数々が、飾られている。

 (ふふ……もう少しで、私の願いが叶う。この砂漠一面に、薔薇の花を咲かせる夢が!)

 英理加は今までにない程に、高揚していた。彼女が父親と共に挑んでいる研究テーマとは別に、個人的な願望があった。それは、薔薇で砂漠を美しく飾る事である。
今までの研究ではそれが難しかった。だがG細胞が手に入ったとなれば、後は融合させたい細胞とのバランスを考えて研究調査を重ねれば良いのだ。
花瓶にて花を咲かせている薔薇に近づくと、まるで子供に語りかけるが如く呟いた。

 (待っててね、まずは小麦の研究を終えてから片づけるから。それまでに枯れちゃ、だめだよ?)

 いつもより足取りが軽い気がする。早速、G細胞との融合に着手しよう、と一部抽出しておいたG細胞を、保管庫から出した。G細胞はかなり貴重なものだ。
そのために、研究室に全てを置いている訳ではない。この研究室の近い保管室へ厳重に保管されいた。しかし、それがまさか、盗む以外の方法を持ち出されるとは考えていなかった。
数人の見かけぬ研究員が知らぬ間に侵入していたことに、この時は誰も気づけなかった。そんな侵入者がいるとは知らず、英理加は今までの研究データと資料のデータを手に取り、作業に入ろうとした……その刹那!!

 「……っ!? キャアアアァァァ!!!!」

 ズシン、と研究棟全体へ強い揺れが走った直後に、彼女は身体を思いきり吹き飛ばされる感覚に襲われた。いや、実際に吹き飛ばされたのだ、強力な爆薬の衝撃波によって。
保管庫に仕掛けられた爆薬は文字通りに保管庫を跡形もなく消し飛ばした。さらには半径20m近い範囲において、衝撃波と爆風により破壊してしまったのだ。
そして不幸な事に、この範囲内にあった英理加の研究室も巻き添えを喰らった。彼女は最初の衝撃波で既に意識を飛ばされ、そのまま研究室内の反対側の壁へ叩きつけられた。
彼女の身体は壁に叩きつけられると同時に、様々な破片にも襲われる事になる。そして、自分の愛情を注いで育ててきた、薔薇のプランターもが吹き飛ばされた拍子に砕け散った。
支えてくれるものを失った薔薇の束は、バラバラと一帯に散らばる。床へ仰向けに倒れ込んだ英理加の周囲に……。

 「英理加!」

 爆破の音を聞きつけて慌てて駆け込んで来た源壱朗。自分の娘を探し出そうと、研究室内を見回す。そして、ものの数秒で彼は娘を発見した。

 「……英理加!」

 彼は唖然として声が出なかった。愛する娘が倒れ、その周りを縁どるが如く、赤い薔薇が散りばめられていた。それはまるで、薔薇が愛しの主の死を見届けるかの様にも見えた。
彼女に息は無かった。悲壮感が源壱朗を包み込み、無力感が彼の身体を押し潰した。そして彼は、娘の死を素直に受け取る事など出来なかった……。
そこで彼はとんでもない行動に出てしまった。それは、植物同士の細胞をいじるよりもさらに危険であり、タブーとされているものだ。つまり、娘の細胞を薔薇へと組み込んだのだ!
死者を生き返らせる等、自然の法則に反しない限り無理な話だ。そこで娘の細胞を抽出し、彼女が育てていた薔薇で無事なものへと組み込む事で、生きながらえさせようとした。
 しかし彼の眼に、彼女の意志が薔薇に宿ったかなど、確認のしようがない。それでも別に良かった、娘の細胞が融合された薔薇を育て続ける事で喪失感補おうとしたのだ。
源壱朗はサラジアから日本へ帰国し、芦ノ湖付近でひっそりと暮らす事になった……薔薇となった娘、英理加と共に……。だが、それも結局は5年で危機を迎えてしまった。
当時、日本では三原山の火山活動が活発だったため、地震を引き起こしていた。その活発な火山活動が原因で、薔薇を植えたプランターが割れてしまったのである。
しかも植物としての寿命があったのか、薔薇は確実に枯れる気配を見せていた。再度の危機感に苛まれた彼は、ここで2度目のタブーを犯してまう。この時、ゴジラに対抗するための新型生物兵器――細胞レベルのものだが――、抗核エネルギーバクテリアを製造しようと声を掛けられていた。
当初の彼はこれの開発に関わる事を拒んでいた。愛する娘を失った根源でもあるG細胞には、もう手を付けたくはなかったのだ。だが、娘の危機を前にして考えを変えた。
開発に協力する事を利用して、今度は娘の細胞を移植した薔薇にG細胞までをも組み込んでしまったのだ。永遠に枯れる事のない植物……かつて娘と研究してきたテーマの終着点でもあった。


 (結果として、私はとんでもない怪物に成り果てた……けど、お父さんを恨みはしない)

 父の愛情を、英理加は一心に受けていた。それは薔薇になった自分でも変わらない。母が既に高いしていた中で、自分だけが生き甲斐であった事は、彼女も痛い程に理解していた。
どんな姿になろうとも、娘として育ててくれたその思いは伝わっていたのだ。だが結果として、あの様なとんでもない怪物へと変異してしまった。
英理加は怪物となった時の記憶はよく覚えていない。人間としての意識は、怪物としての本能に呑まれたのだ。

 「ヴィヴィオ!」

 少女が嬉しそうに話しかけてくれている最中に、別の若い女性の声が聞こえた。あれは確か、ヴィヴィオの話にあった引き取り人――所謂母親だろうが――なのだろう。
見た目からして十分に若い。英理加の感覚からいえば、駆け寄ってくる女性は日本でいう大学生に当てはまるだろう。話によれば名をなのはといっただろうか?
サイド・ポニーテールにしたブラウンのロングヘアーだが、恐らく元からその色に違いない。それに名前の感じからして、間違いなく日系の出身者に違いなかった。
ヴィヴィオは、名を呼んだ女性――高町 なのは――に気づくと、一目散に彼女の元へと駆け込んでいく。随分と人懐っこい様子だ。以前とはだいぶ違う。
 最初にヴィヴィオを見た時、少女は怯えたような様子があった。両親がいないようで、ここ、保育所施設の様な所で生活しているのだと直感で理解した。
それから英理加は、怯えた様子の少女に聞こえるか分からないテレパシーを使ってみたのだ。だが案の定、彼女のテレパシーはヴィヴィオへと届き、少女を驚かせた。
驚くのも当然だろう。施設内にあるテラスで、突然、花壇にポツンと咲いていた薔薇に話しかけられるのだから。だが少女は、怯えながらも話すうちに、次第に姿勢を柔らかくした。
英理加も怖がられないように、優しく語りかけた。だが、どうしても他の人と会うと、怯えてしまう。やはり慣れるまでは時間が必要なのだろう、と彼女は思った。

 「また、お花とお話ししてたの?」
 「そうだよ!」

 なのはは、この幼い少女が薔薇と話している、という事を真摯に受け止めていた。幼い子供故にこんな事を言っているのかもしれない、とも考えられたが馬鹿にはしなかった。
実際に人間でも、さびしい時を紛らわすために動物は勿論、花と言った植物相手に話しかける事がある。それと全く同じ事だと思ったのだろう。
しかし、英理加はヴィヴィオ意外に話を掛けようとはしなかった。別に彼女を毛嫌いしている訳ではないのだ。寧ろ中を親交を深められたら、とさえ思っている。
それを妨げているのは、英理加という名の薔薇が意思を持っている、といのが露見されるのを恐れていたのだ。科学者の耳にでも入ったらどうなるのか、想像はついている。
 彼女の中には依然として、あのG細胞が組み込まれたままだ。それをこの世界の科学者に知られたとなれば、必ず悪用される。G細胞は自己再生能力が強いだけではない。
細胞を組み込んだ媒体を、とてつもない怪物へと変異させるという性質を持ち合わせていた。この変異性の結果を、誰でもない英理加が身を持って知っていたのだ。そして、それを一番に危惧していた。

 「お昼ご飯、食べよう?」
 「うん!」

 無邪気な笑顔だ、と英理加は思った。そんな笑顔を振りまきながら、もう1人の女性と合流してテラスを後にして行った。再び、その場は静寂さを取り戻した。
とはいかなかったらしい。のそり、のそり、と人間ではない影が歩いてくるのがわかった。それは一見すると狼に見えるのだが、足の爪、ライオンの如き鬣(たてがみ)、紺色に近い体毛、極めつけは赤い目をしている事もあって、狼とは断定出来なかった。
やがて英理加の前まで近づいて来ると、丁度そこで止まる。

 (……)
 「……」

 中々に離れようとはしない。兎の様な赤い目で、一輪の薔薇を見続けている。どうしたものだろうか、と英理加は目の前の動物の対処に困り果てた。
例えここで襲われて食いちぎられようとも、地下に深く張った根があれば、そこから再び再生できるのだ。このままだんまりを決め込んでおいた方が良いだろう。

 「だんまりを決め込む気か?」
 (!)

 まさか、私の事がばれている! 単なる薔薇として見られていたのならともかく、この様の話しかけて来るという事は、自分がコミュニケーション能力を有していると知っているのだ。
それにだ、この狼紛いの動物は普通に会話が出来る。ヴィヴィオとはテレパシーで会話していたのを感知していたともなると、とてつもない能力を有した動物なのだろう。

 「繰り返す……そのまま黙っていてもごまかせんぞ?」
 (……聞こえています)

 このまま黙っていても仕方がない。そう考えると、彼女は狼紛いの動物に返答した。

 「俺はザフィーラ。今までヴィヴィオが世話になっていたようだ」
 (私は英理加……白神 英理加と言います。あの娘の世話をしていた、という程ではありません)

 目の前にいる彼はの名はザフィーラ。ある人物に仕えており、姿を人型のみならずこの様な人型にまでなれる能力があった。英理加は、彼の事をようやくヴィヴィオの話から思い出して再確認した。
彼の話によればヴィヴィオがなのはの被保護者となってのだが、仕事上、暇がないときは彼ともう1人の女性が面倒を見ていると言う。その時に薔薇の話をしたらしいのだ。
面倒を見ていた女性はヴィヴィオの話に合わせて話を聞いていたが、ザフィーラの方はきな臭いと感じたらしい。それで、実際に会話しているのを確かめようとしたのだった。
案の定、彼の判断は正しかった。ヴィヴィオと直接に話していなかったものの、念話に近いもので会話が成り立っている事を知り、今度は正体を確認すべく近づいてきたのだ。

 「名前からするに、地球の出身らしいが?」
 (そうです。今はこの様な姿をしていますけどね)
 「“今”? 過去に何かあった様だが……」
 (……)

 それについて、彼女はあまり話したくはなかった。黙り込んでしまう英理加に対して、ザフィーラは話したくないのなら無理にとは言わない、と強制はしなかった。
それに安堵した英理加であったが、逆に彼女には聞きたい事があった。それはヴィヴィオの事であり、あの少女はいったいどういった過去があったのか。それを知りたかったのだ。
英理加の問いに対して、ザフィーラは数秒程沈黙する。やがて口を開くが、その内容は衝撃を受けるに充分たるものであった。

 (試験体……!)
 「詳しくは聞いてない。だが、あの娘は人造的に作られたとの見方が強い」

 彼女は唖然とした。そして同時にこうも思った。どの世界に来ても、人は同じ過ちを繰り返す、と。父親は自分を生き永らえさせるために、タブーを犯した。
だが、あの娘の場合はそうも思えないような気がする。発見された状況を聞くからに、恐らくは何かの実験を目的に造られたのではないか……と。
だとすれば、造った者も、それを利用とする者も、とんだ大馬鹿者だ。この魔法を使用する世界で渦巻く黒い影が、彼女の思考に陰りを与えた瞬間でもあった。


 あの保護されたヴィヴィオは機動6課と称される場所にて預けられる事となって数週間たった程だ。そして英理加は今、病院にあった植木から機動6課のある公舎に根を降ろしてた。
何故、植物である彼女がここにいるのか。理由は簡単だ、ヴィヴィオに場所を移してもらっただけの事である。運んでもらうときに、若き母親となったなのはヴィヴィオの行動にやや疑問を生じさせてはいたが……。
あのザフィーラと名乗る者と会話した時、彼は自分の事を他人には話さないように願い出ていた。自分の事が公になったらどうなるか……英理加はやや強引ではあるが言ったのだ。
それを聞かされた時のザフィーラも一瞬だけ眉を顰めたが、彼女の言う事を守ってくれる、と約束したのだ。どうやらそれは本当だったようで、6課の人間はまだ気づいていない。
 ヴィヴィオの手により、6課の公舎に根を降ろした英理加は、それからある行動に出た。少しでもこの世界の事を知ろうと、地下に根を張り巡らせ始めたのだ。
彼女の能力は以前よりも増していたかもしれない。彼女は内にあるG細胞を上手く制御し、根を数十倍、数百倍と伸ばしていき、近辺の木々へつなげさせていく。
そして根を絡ませると、精神を他の木々や植物へと直結させ、より広く情報を得ようとした。たかだか3本の薔薇の根が、どうして公舎地下全体に張り巡らされると想像できようか?
これが魔力によるものであれば、一発でバレてしまったであろう。だが、生憎と彼女の有する能力は、本物の生命体としての力だ。しかも、人間が作った悪魔の兵器から――

 (……大分、分かって来たわね)

 現在、彼女の意識は機動6課公舎の隊長室とされる部屋の近くにあった。無論、中に入っている訳ではない、出来ないことは無いが、それでは6課公舎を壊しかねない。
よって部屋の窓を覗ける位置にある、木に意識を集中させていた。中にはブラウン系統のショートヘアをした、20歳になるかどうかの若い女性がいる。
他にもピンク色のロングヘアーをした20代半ばと思しき女性や、小学生程に見えるオレンジ掛かった赤毛の少女。なのは、そしてもう1人の母親となった金髪の若い女性。
話の内容からして、どうやらヴィヴィオに関連するようだった。英理加がこれまで得た知識を総動員した結果、次のような事がわかった。
 まずはここ、6課の内部についてだ。ショートヘアの女性、八神はやてを長とした部隊であり、何やら有能な魔導師達が多くいるということ。次にこの世界、魔法を使用している事は分かっていたが、さらに質量兵器の使用を完全に撤廃させているという事だ。
これは英理加の世界からすればとんでもないことだ。全てを質量兵器に頼る地球は、ゴジラに対抗するためには必要なものであり、ゴジラが居なくなっても必要とされ続ける。
そして管理世界というものがいくつもあるという事。はやて、なのはを始めとして地球出身者もいれば、多世界から来た人間も大勢いるという事。
 次に分かったのは、今巷で世間を騒がせている犯罪者、ジェイル・スカリエッティという科学者がいるという事。しかもこの科学者、人造人間を造っているというのだ。
彼女はスカリエッティという人物を詳しくは知らないが、タブーとされる人造人間に着手し続ける事を知った辺り、危険視するのは当然と言えた。
科学者として正しい事をしているとは思えない。しかもより強い魔導師を造るため、等という理由には思わず憎悪の感情をまくし立て上げたものだ。
そしてヴィヴィオに関して……少女は間違いなく人造的に造られたものであり、何らかの後継としての役割を担っている事だ。それをスカリエッティが狙おうとしているのか……?
そんな時だ。室内で会話をするはやてが、こんな事を口にした。

 「そう言えばな、最近、誰かに見られているような気がするんよ」
 「え? まさかストーカー!?」

 思わず声を上げたのはなのはだった。対して英理加の方はギクリとさせる。魔力を持ってはいないとはいえ、さすがにこうも見続けては何らかの気配を感じられてしまったか?

 「ふてぇ野郎だな。はやてを覗く奴がいたらブチのめしてやる!」
 「まぁ、まぁ……」

 小学生に見える赤毛の少女――ヴィータ――が荒い口調で言い放つのを、金髪の女性――フェイト・テスタロッサ・ハラオウン――が宥める。

 「ですが、主はやて。その視線を感じると言うのはいつ頃からです?」
 「そうやなぁ……あ、そうや! ヴィヴィオがこっちへ来てからや」
 「え? ヴィヴィオが来てから……?」

 そこでさらに英理加は、ある筈もない心臓の鼓動が早まった気がした。まさか、ここでばれてしまうのだろうか? さらに悪い事に、ここでなのはが薔薇の事を口走った。

 「あ、そういえば……」
 「どないしたん?」
 「ヴィヴィオなんだけど……あの子、薔薇とお話してるみたいなの」
 「ハァ? バラって……あの花の薔薇か?」

 思わずヴィータが聞き返す。彼女も最初はヴィヴィオの話し相手代わりに、あの薔薇に話しかけていたのではないかと思っていたのだ。だが、今までの事と、はやての話からすると、なんだが不気味な存在になりつつあった。
まさか、本当に薔薇が話す事などありますか? 等とピンク色のポニーテールの女性――シグナム――は考えてしまう。薔薇が人と会話するなど、はやても聞いた事が無い。
しかしこれで薔薇の存在がますます、怪しいものに見えてきてしまった。神話世界においては、植物の精霊というものが紹介されてはいるが、現実にいるとも思えないのだ。

 「けど、ヴィヴィオはいつも、あの薔薇に話しかけてるのを見てると、本当に会話が成立しているように見えるの」
 「まさか……」

 フェイトも次第に薔薇の存在に対して、気味が悪くなってくる。はやても、これ以上気になっては仕事にならない。それに、スカリエッティに関する事もあるのだ。
結局のところ、薔薇に関する話は後に引き伸ばされる事となり、先ずは安心した英理加である。だが、魔の手が機動6課に迫っているとは、彼女も予測は出来なかった。
そして、その事件により、時空管理局は今までにない恐怖を体験する。JS事件の中でも飛び切り異色とも思え、首謀者のスカリエッティでさえも驚愕させるに十分な出来事だった。




〜〜あとがき〜〜
 どうも、第3惑星人です。
今回はご覧のとおり、ゴジラネタとリリカル〜を混ぜ込んでしまいました……やっちゃった! みたいな心境です。
しかもゴジラネタは実際に作品をご覧にならないと良く分からないと思います。
因みに本作品で引用させていただいたゴジラ作品……平成作品第2弾(後のVSシリーズと称される第1作品目)『ゴジラVSビオランテ』に登場します、白神 英理加です。
 なぜこんな混ぜ合わせをしたか、という理由ですが……これは単に、管理局世界で怪獣を出して大暴れさせたい! という根も葉もない欲望から来ています(汗)
まぁ、他にも理由はあります。ビオランテとリリカル〜って、どこか似た境遇があるんですよね。例えば……ビオランテは、娘の死を受け入れられなかった源一朗の手により作り出された怪物。一方でフェイトもまた、母であるプレシアから実娘のアリシアの代わりとして造られた存在(だったと思いますが)。
科学者は何かしらをやらかしますが、この親側――源一朗とプレシア――の行動に共通点らしきものをみたわけです。子のためにタブーを犯す……これでピン、と来ました。
 それと、ビオランテ化したエリカの力ですが、これは殆んど私の妄想ですので、注意してください。

後、本作品内で大まかな状況をご説明しましたが、一応、ご存じの無い方へ捕捉を……

『ゴジラVSビオランテ』
 この作品は単なる怪獣映画として作られてはおらず、バイオテクノロジーをテーマにした作品です。そのバイオテクノロジーのキーパーソン?がゴジラ細胞でした。
上記でご説明しましたが、英理加の父、源一朗がタブーを犯してまで、薔薇の植物に娘の細胞、そしてさらにはゴジラの細胞をも組み込んでしまいます。
結果として、とんでもない成長・自己再生能力が上昇し、とんでもない怪物になりました。この作品は、科学というものがどんな危険をはらんでいるのか……それを訴えているような作品でもあり、やはり踏み込んではいけないものがある、とも見て取れます。
 人間同士のドラマは見ごたえあるものだと思います。子供向け、とは言い難いですが、かといって馬鹿には出来ない。特に源一朗の言葉には重みを感じました。

 『恐ろしい怪獣はゴジラでも、ビオランテでもありません。本当の怪獣は……それを造る人間です!』(うろ覚えですが)

 この言葉が一番印象に残り、考えさせられるものです。
それと特撮部分も素晴らしいものです。今では難しい所はCGなどを使って(予算の都合上もあるのでしょうが)いますが、この時は全てアナログ。ヘリが上空を飛んでいるシーンなどは、一目ではラジコンだと気づかなかったりします。
そして何よりも注目すべきは、ワイヤー操作による怪獣操演です。ビオランテは特徴状、蔦や蔓が多い怪獣で、これらを操るには多くのピアノ線が必要とされました。
平成ゴジラの中では一番に大いのでは? 推測して見たり……。CGも悪いとは言いませんが、やはり、実物のほうが質量感を出してくれるので好きですね〜。
特に見事だと思ったのは、あるスパイを巨大化した蔦が絡め取って絞め殺したり、持ち上げたりしたシーンは印象的でしたね。特撮、侮るべからず! みたいな。
ただ、ゴジラとビオランテの第2戦目は消化不良的な感じがしたので、何か惜しいな〜と思ったのがありましたね。

……と、なんだか宣伝じみた上に長ったらしくなりました(汗)
次で完結させるつもりですので、どうか生暖かい目でみてやってください。
では……。



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