舞い降りし植獣/第2章『植物騒動』(リリカルなのは×ゴジラ)


「ウーノ、君はこれをどう見るかね」
「どう、と言われましても・・・・・・。中々に類を見ない生物としか表現のしようがありません。・・・・・・いえ、植物というべきでしょうか」

  秘匿された大型研究施設内に設けられているモニターの映像を見て、2人の男女があっけからんとしている。1人は紫色の髪に金色の瞳を持つ青年であり、青色のスーツジャケットに身を包み白衣を纏う姿は研究者そのものだが、彼はジェイル・スカリエッティと言う。
もう1人の女性は、背中にまで届く薄紫色のロングヘアに同じく金色の瞳を持っている。秘書官を思わせるような白と紫色のワイシャツに紫色のタイトスカートを着用し、手には指の部分だけが覆われていない黒のグローブを着用している彼女の名をウーノと言った。
  スカリエッティ・・・・・・彼こそが今、世間を騒がせている次元犯罪者である。数々の犯罪に関与している一級犯罪者とも言うべき存在で、管理局も血眼になって捜索している。
その彼は違法である人造人間もとい戦闘機人を作り出しており、これまでに12体の女性戦闘機人を生み出し、それらをナンバーズと命名されている。
彼女らにはそれぞれの持ち味が与えられ、サポート系統と戦闘系統の2つに分けられるが、そこからさらに得意分野を持つのだ。
彼の傍に控えているウーノもまたナンバーズのメンバーであり、彼女が第1号でもある。彼女には後方にて事務処理をメインとした能力を与えられている。
  そんな2人は、理解しがたい光景に数秒の呼吸を置いていった。ウーノはスカリエッティに問いかけられても返答に窮する次第だった。

「広大な管理世界には、巨大なインセクト型の生物もいれば、ドラゴン型、アニマル型、さらにそれらを模したヒューマノイド型と様々だ。しかし、この映像から見る限り、この触手は明らかに動物的なものではない・・・・・・植物的なもの――誣いて言うなれば、蔓だろうね」
「あれが植物ですか。確かに、植物の中にも獲物を呼び寄せて、自らの粘液や葉の部分で捉える食虫植物は存在します。その巨大化した物も確認されていますが・・・・・・」
「世界とはまだまだ広いものだよ、ウーノ。我々には想像できないものもあるだろう。現にして、この映像はどうだい? これほど巨大な蔓が生物の如く動き回っている」

映像の有り得ぬ存在は1つではない。蔓は2本、3本とか数えられるものではなく10本近い本数を数える。

「ですが、表面上は確かに植物かもしれません。あの棘は、薔薇等に見られるものと一致します。ですが・・・・・・ですが、あの先端の、動物の頭部らしきものは何ですか」
「新手の食虫植物、とでも言うしかないだろうね」

  等と議論している間にも、動物とも植物とも取れぬ奇怪な存在は、数人の人間らしき者達と戦闘を繰り広げている。そう、戦闘の真っただ中なのだ。
しかも戦っている相手はナンバーズの面々――11番目の戦闘機人オットーと、12番目の戦闘機人ディード、そして幼い少女の姿と人型をした生物の姿も見えた。
蔓そのものは大した戦闘能力は持っていない様なのだが、身体を撓らせて俊敏に動き翻弄する為か、或は2人の戦闘機人が接近戦メインの能力故か、てこずっている。
切り落としても別の蔓が襲い掛かり、一瞬でも動きを止めれば捕食されてしまう危険性が十分にあった。

「ドクター、これでは牽制に向かった妹達の時間稼ぎが無意味になりかねません。ゼストらもいるとはいえ・・・・・・」
「目標を捕獲できさえすればいいんだ。既に目標の1人は捕獲しているのだろう? それは最優先に持ち帰ってもらう」
「ですが、肝心要の聖王はまだです。あの生物に阻まれて、捕獲できていません」
「ふむ・・・・・・そこはドゥーエの判断に任せよう。私は戦闘の指揮は専門ではないからね」

聖王とは、機動六課で保護された1人の少女――ヴィヴィオの事を指している。スカリエッティの飽くなき野望達成のためには、どうしても必要なキーパーソンなのだ。
  そもそも、捕獲対象である筈のヴィヴィオを手に入れる算段は、緻密に計画された作戦の基で行われ、予定では速やかに終了していてもおかしくはない。
その作戦を滅茶苦茶にしつつあるのが、この正体不明の植物型生物である。こうなってしまったのも、今からおよど5〜6分前の事であった。





「後は、目標を捕まえるだけ」

  燃え盛る機動六課隊舎を前にして、薄い紫色のロングヘアに赤い瞳をした10代前後の少女が、外見に似合わぬ言葉を呟きながらも歩みを進めていった。
彼女の傍には2mに届かんとする人型召喚獣――ガリューが従っている。忍者を思わせるような、昆虫に近い容姿をしたものである。
  その日、時空管理局並びに機動六課、そして世界を揺るがす大事件が発生した。公開意見陳述会と称される会議があったが、その会議には機動六課の面々も護衛として参加することとなっており、はやて、なのは、フェイトら主要メンバーを始め、ヴィータ、シグナム、そして六課新人メンバーである数名が動員されていた。
六課本部の隊舎には残存部隊として、ヴォルケンリッターの参謀格となる“風の癒し手”の二つ名を持つシャマル、そしてザフィーラの2名がいる。
他にも守備を任された魔導師やらが配置についていた。誰しもが予想を覆されるような襲撃を受けるとも知らずにである。
  そしてナンバーズは驚くほどの鮮やかさをもって、手際の良さを見せつけた。システム等の管理を得意とするナンバーズ4番目のクアットロが会議施設の主要システムを掌握し、砲撃能力に特化した10番目のディエチが砲撃攻撃を行い人員の無力化を図ると同時に、ガジェットと呼ばれる無人機がAMF(アンチ・マギリング・フィールド)を展開して魔導師の力を封じてしまう。
慌てて迎撃に出てくる管理局の航空戦力部隊を、飛翔能力と格闘技術に特化した3番目トーレと、同じく飛翔能力並びに各能力に優れた7番目セッテが抑え込んだ。
こうして会議場の護衛に就いていた、はやてら主要メンバーは戦わずして会議室内に孤立し、無力化されてしまったのである。
ヴィータは外側にいたこともあって迎撃に上がるが、そこに屈強の身体を持った魔導師――ゼストと呼ばれる男と対峙することとなり、互角の戦闘を展開することとなった。
  一方で主メンバーの外れている機動六課に対しても破壊の刃が向けられ、大量のガジェットによる襲撃に加えて、ナンバーズのオットーとディード、並びにルーテシアとガリューが電光石火の如く襲い掛かり、不意打ちを受けた残存部隊は壊滅的な打撃を被ることとなる。
鮮やかな手際によって襲撃を完璧なものとしたスカリエッティのナンバーズ。そして本名たる捕獲対象であるヴィヴィオを捉えるだけになった――筈であった。

(やめなさい)
「ぇ・・・・・・?」

  ルーテシアの頭の中に聞きなれない女性の声が響き渡る。近くに誰かいるのか、と思わず後方を振り返ってしまうが、そこには誰もおらず彼女は首をかしげる。
決して幽霊だのという存在を信じてはおらず、誰かが念話で語り掛けてきているのだろうと判断したのは、ごくごく普通の判断であっただろう。普通ならば。
何かが阻止しようとしているという直感はあったものの、傍に控えるガリューは辺りに気配を感じることも無いようで、黙したままだがルーテシアを見つめ返した。
念話を使えるのであれば魔導師の類だろう。なれば魔力の気配を感じても良い筈だが、それがないのも解せない。
  かといって歩みを止める理由にはなり得ない。もはや邪魔な者は尽く戦闘不能に陥れているのだから、残るのは単なる人間でしかないだろう。
そう思い歩みを進めていく彼女とガリューだが、ここでまたもや頭の中に声が響き渡った。

(これ以上、人を傷つけるのはやめなさい)
「姿を見せて」

ハッキリと頭に聞こえてくる声。念話とは違う語り掛けに、少しだが戸惑いを覚えるルーテシア。ガリューも流石に警戒心を強めざるを得なかった。

(もう一度忠告します。今すぐ止めなさい、そうしないと・・・・・・)
「どうするの?」

これに対してルーテシアは臆することはせず、寧ろ半ば挑発的な言葉を発したのだ。そんなに言うのならば、何ができるというのか。
すると、言い返してから不思議な女性の声は聞こえなくなった。やはり今のはこけ脅しだろう、言いようのない恐怖を与えて攻撃を中断させるつもりなのだ、と結論付ける。
  特定不能な女性の声を無視し、ルーテシアとガリューはヴィヴィオのいる部屋へと侵入した。

「・・・・・・いない」

そこに居たであろうヴィヴィオの姿が無かったことに、ルーテシアは戸惑いを覚える。あの少女を捕まえて帰らないといけないのに、これではまずいではないか。
隙を見て逃げ出したと見たルーテシアは、直ぐにガリューに捜索命じた。同時に小さなインゼクトと呼ばれる召還虫を使って探し出す。
目標の発見は容易だった。なにぶん、ヴィヴィオ本人も相当な魔力の持ち主であるからして、少女の発見は難しくは無かったのである。
  当人のヴィヴィオは懸命に走って逃げていた。何時もの様に、彼女の頭の中に声が響いてきたのだ。何時もの話し相手となっていた例の薔薇である。

(ヴィヴィオちゃん、ここは危ないの。早く逃げて頂戴)
「何で、お花さん。なのはママは? フェイトママは?」

年齢の幼い少女には分りもしなかった。いきなり危険だから、と言われてすぐに逃げれるほど理解力があるわけでもない。誰だって惑いはするが英理加は懸命に説得した。
泣きそうな表情を作るヴィヴィオであったが、英理加が「私が守ってあげるから」と励ましてようやく動いたのである。
  だが現実は甘くはなかった。テラスに入ったところで、俊敏さを誇るガリューに瞬く間に発見されてしまったのだ。無論、ルーテシアもガリューに抱かれた状態でいた。

「見つけた」
「やだ、やだよぅ……!」

守ってくれる人達は尽く倒されてしまい、自分自身では成す術もないヴィヴィオ。一歩、また一歩と後ずさりすると同時に、ガリューとルーテシアが二歩、三歩と前進する。
もう手を伸ばせば捕まえられる距離に迫られ、ヴィヴィオは涙を目に一杯浮かばせる。

「助けて・・・・・・なのはママ、フェイトママ・・・・・・!」
「無駄、誰も来ない。ガリュー」

頷き手を伸ばすガリュー。悪魔の手にも思えるガリューの掌を瞳一杯に映したヴィヴィオは、最後の力を振り絞るようにして思わず叫んでいた。

「助けて、お花さん!!」

「「!?」」


  途端、テラスの窓ガラスを突き破りルーテシアとガリューに何かが襲い掛かった。それに驚いたルーテシアと、助けを呼んだヴィヴィオ本人の2人。
ガリューは驚く暇もなくルーテシアを抱きかかえて、瞬時に後方へ素早く飛び退いて回避することに成功した。

「何、これ」

テラスの窓を突き破って侵入してきた異形の物、それは緑色の巨大な蛇のように思えた。直径は優に15pもありそうな太い胴体をしており、それが3体もいる。
しかし、蛇とは違い表面が鱗ではなく、のっぺりとしている印象がある。それだけではなく、所々トゲトゲとしたものが見える。それは蛇と言うより、蔓などの植物に思えた。
  邪魔者の乱入に動揺するルーテシアに対して、ヴィヴィオも何が何やらで理解が追い付いていなかった。しかもその蔓はヴィヴィオを取り囲み始めたのだ。
絞め殺されるのかもしれないという恐怖感が彼女を支配した。

「こ、怖いよ・・・・・・」
(怖がらないで、ヴィヴィオちゃん)
「ふぇ・・・・・・お、お花さん、なの?」

頭に響く女性の声。恐怖に瞑っていた目を開くと、蔓の先端に薔薇が咲いているのに気づく。そう、これはヴィヴィオが話しかけていた薔薇なのだ。
安堵するヴィヴィオの頬を、蔓の先端が指先の様に優しく撫でて涙を拭きとる。

(私が護ってあげるから。あと、この薔薇を摘んで頂戴。御守替わりだから)
「う、うん」

ヴィヴィオは常に小さな兎のヌイグルミを抱きかかえていた。そこに薔薇が加わり、不思議とヴィヴィオは安堵感に浸れるような気がした。
  だが安堵で済まされないのはルーテシアらである。せっかく目標の目の前に来て、訳の分からない邪魔者に阻止されたのだから、戸惑いと怒りを湧き起らせるのも当然だ。

「邪魔しないで! ガリュー!」

物静かで心を閉ざした少女の声に力が入る。ガリューはルーテシアを守ることが最優先であるが、彼女の指示とあればヴィヴィオ捕獲の為に動かなければならない。
俊足で一気に近づいてヴィヴィオを捕獲しようとするが、蔓がそれを阻止しようとする。絡め取ってこようとする蔓を避けながら近づき、1本目の蔓を鋭い爪で切り裂いた。
ドサリ、と鈍い音を立てて落ちる蔓に見向きもせず、2本目を切り落とす。
  残る1本――即ちヴィヴィオを保護する蔓を切り落とそうとするが、両脚に何かが絡みついてしまい、俊足を殺されてしまう。

「!」

驚いたことに、切り落とした筈の蔓が樹液を滴らせながらもガリューの脚に絡みつき、行動を奪ったのである。それは恐るべき生命力であった。
その一瞬の行動の遅れが、英理加に時間を与えることとなる。別の蔓が追加で3本侵入して、ガリューの身体に巻き付いてきたのだ。
補足されまいと新手の蔓を1本、2本と切り落としたが、残る1本目に素早く絡め取られてしまい、身動きさえ封じられてしまう。
  戦闘能力で後れを取ることのないガリューにしては、意外な苦戦を強いられることとなる。ルーテシアも彼の身を案じてしまった。
しかもこの蔓は大蛇顔負けの締め付けを行い、ガリューの自由を奪う。身体をへし折ろう言わんばかりの強力な締め付けだ。
事実、英理加が地球に居た時には、彼女のコントロールが効かなかったとは言えども、とある企業スパイ1名をあっという間に絞め殺してしまった経緯がある。
因みに今の彼女が平然として蔓をコントロールしているのも、時間の経過と彼女なりの努力の結果と言えよう。機動六課の地下に根を張り巡らせたことが出来たように、今の彼女は植獣化しなくとも蔓を操ることが出来るまでになっているのだ。
今のうちにヴィヴィオを安全な場所へ動かすべきか、と蔓で少女を抱きかかえながらテラス外へと出た。
  が、そこで待っていたのはナンバーズの2人だ。捕獲完了の知らせがない事を不審に思ったオットーとディードが連絡を取り、その異常事態を知って駆けつけてきたのだ。

「聖王を渡してもらいます」

焦げ茶色のストレートロングヘアに赤色のヘアバンドをした女性――ディードが両手に剣を持って切りかかる。
そうはさせまいと、新たな蔓を地面の中から出現させてディードの攻撃を阻もうとするが、別方向から焦げ茶のショートヘアに中性的な印象を与えるオットーが挟撃してくる。
  さらに蔓を追加させて対応する英理加は、せめて彼女らの動きを封じてしまおうとしたが、素早い動きで翻弄されてそう簡単に捕まえることができない。
時間を掛けて、はやてらの帰還を待つ他ないと考えていたが、そこに束縛から解放されたガリューが加わってくると情勢は悪い方向に傾きつつあった。
とはいえガリュー達からすれば、たかが蔓、という安易な考えが出来れば如何に楽な事であったか。
  加えて残存するガジェットまで投入され、ヴィヴィオを奪うために血眼になったものの、蔓の方も無限と見える数が伸びあがって迎撃してくる。
その蔓も単なる蔓ではなく、まるで蛇の如き口と、ワニの様な鋭い牙を持った蔓だ。ガジェットも光学兵器やらで攻撃するものの、蔓は切られても再生して襲い掛かる。
絡め取られたガジェットは恐るべき怪力で圧潰し、ある時はへし折られ、或は強靭な顎の力で沈黙するのだ。
  またガジェットも数種類あり、縦長のカプセル型がT型、デルタ翼の形状をしたU型、球状で二本の太い伸縮アームを持つV型が存在する。
しかし、どれもこれもが蔓に雁字搦めにされ、叩き付けられ、引きちぎられ、へし折られる等されて次々と沈黙していった。

「な、なんなのよ・・・・・・あれは」

  異様ともいえる光景に唖然とするのは、留守を預かっていた女性魔導師だ。金髪のセミショートの彼女が、ヴォルケンリッターの1人であるシャマルだ。
サポート専門の彼女には、大量のガジェット投入には多勢に無勢で、ザフィーラ共々戦線を支え切れなく倒れてしまった。
そんな動けない2人の前に現れた、巨大な蔓の群れと対峙するナンバーズとガジェット。片方は明らかに生物だろうに、互角以上に持ち込んでいた。
  だがザフィーラには覚えがあった。ヴィヴィオの話していた英理加と呼ばれる女性の意思が入った薔薇だと。それが、あのような異形に変化したのだと悟ったのである。

「英理加殿・・・・・・」
「ザフィーラ、どうしたの?」

シャマルが隣にいるにも関わらず、思わずザフィーラは英理加の名を口にしてしまう。彼女は呆然としていたためにはっきりと聞き取れてはいないようではあった。
それでも呟いたことに僅かながら気になるところもあったようだ。

「いや、何でもない」

怪しまれない程度に、軽く流した。
  自分の事は秘匿しておきたい、と話していた英理加。ヴィヴィオのピンチを前にして、他者に存在を知られるのを承知で意を決して行動に出たのだろう。
懸命に少女を護る姿を見る事しかできない、傷つき力尽きた自分らにはどうにもできないという歯がゆさがあった。
  そしてこの光景は、会議場で身動きの取れないでいる、はやて達一行にも届いていた。辛うじて通信回線は繋がり、シャマル同様に唖然とせざるを得なかった。

「なんや・・・・・・これ」
「巨大な蛇‥‥‥」

はやての隣で映像を覗き込んでいる、金髪のロングヘアと青色のヘアバンドを付けている女性――聖王協会の騎士カリム・グラシアも信じられないと言わんばかりの表情だ。
蛇と見間違えるのも無理はないが、それが植物であると知ったらどれ程に驚くことか。紅蓮の炎に照らされる背景に浮かぶ巨大な生物は、誰しもが想像しえない光景だった。
スカリエッティの生物兵器かとも思ったが、ナンバーズとガジェット相手に戦闘を繰り広げている所を見ると、敵でもなさそうではある。
  しかしなのは、フェイト、シグナムの3名は、救援に来たメンバーらと合流して、急ぎ現場に駆けつけているのだ。
この正体不明の触手らしき生物は、ガジェットを絡め取ると玩具のように振り回して地面や外壁に叩き付けて破壊したり、ガジェット同士でぶつけて破壊する。
今もまた1体のV型は触手に捕まると、そのままフルスイングで振り回した挙句に上空のU型に命中させると言う荒業までやってのける。
もしこの現場に、親友達が鉢合わせた時、果たして彼女らは無事でいられようか。
  そんな不安を覚えるはやてだったが、傍にいるカリムは驚き半分と何かを悟ったような表情をしている。それに気づいたはやてが尋ねた。

「どないしたん、カリム」
「いえ、先日の預言で心当たりがあって‥‥‥」
「まさか‥‥‥!」

預言とは、彼女のが有する希少能力――予言の著書(プロフェーディン・シュリフテン)によるもので、唐突に発動して詩文形式で半年から数年後の事を予言すると言うものだ。
ただし古代ベルカ語で記されるために読解の仕方によっては複数の意味がとれてしまい、さらには的中する確率も決して良いとはいえず参考程度に留まっていた。
  カリムは数年前に、このジェイル・スカリエッティが関連するであろう事件を予言していたが、ここ最近になって新たな予言が書き起こされていたのである。
親友でもあり妹のような存在であるはやてにも、このことは知らせていたのだが、半信半疑なところもあった。それが以下のものだ。

天より舞い降りし異世界の精霊

地を引き裂き荒ぶる神となりて

世界に破滅と希望を与えん


気になる単語が幾つも出て来くるのは、いつものことであるとしても、今回は跳びぬけて訝し気にならざるを得なかった。
  異世界とは管理世界のことを指すのか、あるいはまだ発見されたことのない世界の事を指すのは不明だ。その異世界から来ると言う精霊とは何を指して言うのか。
しかも地を引き裂いて荒ぶる神となり、世界を破滅と希望を与える、という一文はカリムをゾッとさせた。地を引き裂くほどの力を有するとは、どれ程のものなのか。
世界に破滅と希望とは? この異世界の介入者はミッドチルダをどうするつもりなのだろうか。スカリエッティの行う悪行すら大変危険なものであるのに、ここでさらなる危険要素が増えてくるともなると対処のしよう無くなり尽きてしまう恐れもある。
この映像に映る異形の生物が、今後の世界に破滅をもたらすのか、あるいは希望を与えるのか、それは今後の彼女達の活躍次第になるかもしれない。





  一方でルーテシアらの焦りは怒りに変換され、極限状態にあったといえよう。

「地雷王!」

そこでルーテシアは、召還虫を使って一気に決めるしかないと判断したようだ。地雷王と呼ばれたそれは広範囲攻撃が可能な、甲虫のような昆虫型召還虫だ。
二本の巨大な金色の角を生やしているのが最大の特徴である地雷王は、地面に足を降ろすと広範囲に渡る重圧攻撃を敢行しようと態勢を整える。
  が、このルーテシアの焦りが失策を生む結果となった。地雷王は破壊力のある存在だが、攻撃しようとした途端に蔓が足元から伸びあがり、一瞬で雁字搦めにされたのだ。
しかも強烈な締め付けが襲い掛かり、地雷王たちの身体は悲鳴を上げ、攻撃を強制的に中断せざるを得なかった。

「あぁ・・・・・・!」

動きを封じられた地雷王は、もはやどうしようもない。このままでは任務は失敗に終わってしまう、とルーテシアが思った時だった。
  一筋の光が空気と蔓を引き裂き、一挙に数本を薙ぎ払っていったのである。引き裂かれた蔓は樹液をまき散らしながら、空中を舞って地面に叩き付けられた。
それは砲撃を得意とするディエチの援護砲撃であることに、ディードとオットーが気づくのに時間は掛からなかった。

『貴方達、何を遊んでいるのかしらぁ?』
「クアットロ‥‥‥遊んでいない。手こずっているだけ」
『言い訳は良いわよぉ。遅いと思ったらドクターから連絡を受けて来たのよぉ?』

相変わらず厭味ったらしい話し方だ。ナンバーズの末っ子にあたるディードは、内心でそう感じざるを得ない。どうも、この姉は他者を見下す傾向が強すぎるのだ。
そのクアットロと呼ばれた、茶髪を二本の三つ編みに編んだ眼鏡の女性は、遠いところでディスプレイ越しに呆れ気味になって言う。

『時間がないのよぉ、時間が。ディエチの砲撃で吹き飛ばすから、その間に聖王陛下を保護しなきゃだめよぉ?』
「分かってる」

  途端、ディエチの第2撃が発射されると、ヴィヴィオを抱き抱えていた1本の蔓を正確に寸断し、その隙に俊足を持ってガリューが抱きかかえてしまったのだ。
英理加がしまった、と思った時には時すでに遅く、目標を確保したルーテシア達は即時退散した。これ以上の時間を掛ける余裕もなく、当然の行動といえた。

「ようやく保護したようねぇ‥‥‥あら? 邪魔者が来たわねぇ?」

保護を確認したクアットロは、急遽駆けつけてきた機動六課の一部を見つけた。それは赤毛の少年とピンク色の少女、そして白いドラゴンである。
真面に戦う選択肢はとうに省かれており、一刻も早い帰還が望まれる中でクアットロは最低限の妨害だけをしておくべきと判断した。

「此処から狙撃して撃ち落して頂戴」
「分かった」

  はねっ毛のある茶髪のロングヘアを一本結びにしている女性――ディエチは、自身の武器であるイノーメスカノンを構え直し、飛翔する目標を捉える。
自分の背丈を超える巨大な武器を軽々と扱うのは戦闘機人ならではであろう。牽制とは言え命中させた方が、時間稼ぎは大いに成り得る。
自身の眼さえも狙撃用に特化された特殊レンズとなっており、狙撃命中率を大いに向上させている。その彼女の視線が、飛翔する2名と1匹のドラゴンに定められた。
こちらには気づいていない。エネルギーは最大限とせず最小限に留めておくが、これは目標から下手に魔力を察知されない為の措置であった。
そして獲物を射程内に捕捉した彼女は、イノーメスカノンのトリガーを引き絞った。
  狙われているとはつゆ知らず、赤毛の10歳前後の少年――エリオ・モンディアルと、同じ年頃でピンク色のセミショートの少女――キャロ・ル・ルシエ、そして少女の使役竜フリードリヒは、燃え盛る機動六課隊舎を目にして愕然とせざるを得なかった。
自分達の居場所が破壊されている。過去にとある辛い経験を背負う2人にとっては、自分たちの新しい家でもあった。それだけに衝撃は大きかったのである。

「酷い‥‥‥」
「こんな・・・・・・」

スカリエッティ一味に好き放題にされたことに怒りも沸く。
  ふと、その隊舎の敷地内に蠢く異形の影と、今にも立ち去ろうとするスカリエッティの一味の姿が見えた。中には、以前に遭遇した少女ことルーテシアの姿もあった。
さらにはヴィヴィオが気絶した状態でガリューの腕の中に納まっている。ここで逃がすわけにもいかない、と2人は足止めをしようと一気に降下する。
  そして撤退寸前のルーテシア達を補足した時である。真っ先に異変に気付いたのはキャロであった。

「ッ! エリオ君!」
「え‥‥‥ッ!」

唐突に向かってくる光、それは命を狙う光だ。ディエチの砲撃が2人と1匹を狙撃してきたのである。咄嗟に避けようとして失敗したが、気づくのに今一歩遅かった。
  2人纏めて光に飲み込まれると覚悟した時である。彼らの目前を何かが阻み、ディエチの放った砲撃を受け止めた挙句にエネルギーを減殺してしまった。
この時2人の耳には、砲撃の直撃する音と同時にグシャリ、というグロテスクな鈍い音が鼓膜を叩いていた。自分の身体が引き裂かれた音ではないのは定かである。

「助かってる‥‥‥!?」

恐る恐るエリオが目を開くと、そこには常識ではあり得ない光景があった。何本もの巨大な植物が絡み合いながら天に向かって聳え立ち、ディエチの砲撃から護っていたのだ。
英理加が咄嗟に持てるすべての蔓を総動員して盾代わりとしたのである。これは地球でビオランテとなった時にも、ゴジラを相手に使った防御方法である。
ただしゴジラの放射熱線は予想以上のエネルギー量を誇っていたため、ビオランテの蔓の防御陣はいとも容易く貫通されてしまったが。
  今この時も無論、蔓の方は束になったとは言えどもディエチの砲撃を受けて無傷でいられる筈もなく、数十本という太い蔓の半数以上が千切れ飛んでいる。
時間を優先したためにエネルギーを減らしていたことも要因だろうが、貫通を許さなかっただけ十分だ。子供が傷つく姿を見たくはない英理加の、意地の行動であった。

「護って、くれたの?」
「分からないけど、少なくてもそうみたいだよ」

護られた側は、いったい何が起きたのか全く理解できない。フリードリヒは警戒心を緩めなかった。
  ルーテシア達はそれに構うことは無く、全速でその場から離れていった。その後姿を、残った蔓が追いかけようとするが届かず、諦めざるを得なかった。
牙の着いた蔓の口が大きく開き、甲高い鳴き声を発する。恨めしく、ヴィヴィオを攫った一味を呪わんとする声にも聞こえた。
そんな蔓の遠吠えを耳にするも振り返ることも無く、ルーテシア一行はさっさと立ち去っていった。
  放心状態から回復した時には、ナンバーズもルーテシアもおらず、残されたのは業火の炎に包まれた隊舎、傷付いた隊員達、そして謎の巨大植物の残骸であった。
英理加は残った蔓をすぐさま地面に引き戻したが、無駄な努力であることを十分に理解している。これで、自分は完全に知られたこととなったのだ。
悔しい気持ちが、彼女の中にはあった。当然だろう。ヴィヴィオを護ることが出来なかったのだから。
  だが希望はまだあった。それはヴィヴィオに御守替わりに持たせた、あの薔薇の花の部分である。言わば自分の分身であり、本能的に何処に存在するのかが分かるのだ。
あのゴジラが、自分と同じ遺伝子を有するビオランテの位置を掴んだ時と同じ原理である。本能的な感覚から、居場所を掴めるのだ。

(だけど‥‥‥)

  とはいえ大事になり過ぎた今、自分の存在は明るみになるのは避けられない。まして、あの機動六課の面々でさえ違和感に気づいていたくらいなのである。
ザフィーラと呼ぶ青い狼に口止めを頼んでいたが、もはや彼にもどうする事も出来まい。ここは大人しく彼女らを待つべきか。或はこの場を去るべきか。
去るべき選択を選ぶのが無難なのかもしれない。しかし、今ここで自分の事を明るみにして、彼女たちに納得してもらわなければ、今後ヴィヴィオを助けようとしたときに排除すべき対象と認知されてしまいかねないこともあり得るのだ。
  なればいっそのこと、自分の事を明かして協力する方が得策かもしれない。そう思った英理加は、蔓を再び地中に潜り込ませると同時に、千切られた蔓の残骸も引っ張り込む。
無駄な努力かもしれないが、自分の身体は危険な細胞が含まれていることを考えると、この世界の科学者が悪用する為に利用する可能性も捨てきれない。
自分の様な存在を作らせないために最低限の処置を施したのである。






『昨日、次元犯罪者スカリエッティによる襲撃事件が生じました』
『時空管理局は機能を奪われ、対応も後手後手であったことのことで‥‥‥』
『市民の間からは不安や怒りの声が続々と上がっており‥‥‥』

  ミッドチルダのみならず全管理世界を震撼させたこの事件は、スカリエッティにしてやられたことから管理局の信用を失うものとして報じられてしまった。
またそれだけでなく、この事件の中で現れた正体不明の巨大不明生物の大群のことも取り上げられ、ミッドチルダの安全はどうなっているのか、と叩く始末である。
管理局側にしても重大な失態であり、ましてヴィヴィオが浚われただけでなく局員1名もが連れ去られたことは少なからぬ衝撃を与えている様子だ。
かのカリム・グラシアの予言が的中したことを受けて、この先に待つ絶望の未来は寸分の狂いもなく迫っていると認識せざるを得ない。
  またスカリエッティ一味にこっぴどくしてやられた機動六課の面々――特にはやては、力及ばずだったことに悔んでいた。
しかしそれ以上に、これで終わらせるわけにはいかない、と反撃の体制を整えつつあった。彼女ら機動六課の目的は、浚われたヴィヴィオと奪還する事、奪われた仲間を救う事、そしてスカリエッティが企んでいる野望――過去最大の質量兵器である〈聖王のゆりかご〉の起動を食い止める事である。
〈聖王のゆりかご〉とは古代ベルカの時代に造られた遺産とされ、史上最大の質量兵器もとい飛行戦艦だ。これを動かすためには聖王たるヴィヴィオの存在が不可欠とされる。
かつての聖王の意思によって制御された戦艦により、スカリエッティはミッドチルダのみならず管理世界を脅かそうとしているのだ。
傷付いた局員も大勢いる中、はやて達はその準備に取り掛かる。
  だがそれとは別に、例の巨大不明生物の事で一同が集まっていた。

「本当にこの花が、アレやったっちゅうんか」

はやてが代表して口にした。隊舎の花壇には、はやて、なのは、フェイトを筆頭に、シグナムとヴィータ並びに包帯を巻いたままのザフィーラとシャマルの両名の姿。
加えてエリオ、キャロ、さらには青髪のショートヘアの女性――スバル・ナカジマ、オレンジ色の髪をツーサイドアップにした女性――ティアナ・ランスターの2人もいた。
  彼女らが円を描くようにして並び、見つめる視線にあるもの。ヴィヴィオが話していたという真っ赤な薔薇の花である。見た目は薔薇そのものだ。
以前から何か怪しい感じはしていたものの話半分で済ませていたが、それがあの事件当日に具現化したともなれば信じざるを得ない。
まして事件後にシャマルが思わず、

「ザフィーラ、あの時、英理加って言っていたけど何の事?」
「それは‥‥‥」

と返答に窮してしまい、さらには主であるはやてからも、

「堪忍せな、ザフィーラ。隠し事はあかんで。知っとるんやろ‥‥‥お願いや、教えてくれへんか」

そう言われてしまっては茶を濁すわけにもいかず、正直に話したのである。
  とはいえ、この薔薇が巨大な蔓を操っていたとは、一言二言では納得しがたいところもある。ヴィータなどは疑いの眼差しを向けている。

「本当にこいつが、あの当事者だってぇのか?」
「ちょっと、ヴィータちゃん」

見た目は薔薇でも人の意識が入っていることを考えると、あまり失礼なものの言いようは控えた方が良い。なのはは小さな騎士を窘めた。
傍にいるシグナムはやや警戒心を向けており、いつ何時襲われても対処出来る様に構えている。大事なことは、主を護ることであるからだ。

(構いませんよ。俄かに信じがたいでしょうが‥‥‥)
「本当にテレパシーで話すんだ」

  皆に対して一斉にテレパシーを送る英理加に、フェイトも驚きを隠せない。そんな一同に対して、初めて英理加は自分の名を明かした。

(初めまして、皆さん。私は白神 英理加と言います)
「ヴィータが失礼をしました。私は八神はやて言います。そして、こっちが‥‥‥」

薔薇に向かって挨拶すると言う、一見すると滑稽な風景ではある。はやては、そのまま続けてなのは、フェイトと紹介し、シグナムらやスバル達をも紹介した。
  そして一通りの紹介を終えると、はやては前座なしに単刀直入に英理加に尋ねた。まずは出身の地からである。

「お名前からして、貴女は地球の出身で間違いはありませんか?」
(はい。私は地球の生まれた人間です‥‥‥元ですが)
「私も、なのはちゃんも地球の出身者です。ですが英理加さん、貴女は人間として生を受けられたと仰いますが、そのお姿になったのはどういう訳ですか。正直な話を言いますと、ウチらの地球では、魔法はもとより、人から植物に変化できる発達した技術は到底ありません」

当然だろう。普通はそんなことはできっこないと判断するものだ。人として生を受けた以上、人として天命を全うするものなのだから。
だが、はやての言葉から引っかかる事もあった。彼女は“ウチら”の地球と言ったのだ。という事は、彼女はあの生物――ゴジラの事を知らないのかもしれない。
  そうなると英理加の生まれた地球と、はやて達の知る地球では別次元のものなのだろうか。或は彼女らはそれ以前に生まれていたのか‥‥‥いや、これは考えにくい。
彼女らの容姿からして戦後の昭和時代の生まれとも思えない。ということは、やはり次元別に食い違った地球で生まれたとみるべきだろう。
英理加はそう考えつつも、それを確かめるべく2つほど聞いた。それの返答次第で確実な回答を得られる。

(はやてさん、貴女は平成生まれですか、そしてゴジラをご存知ですか?)
「平成生まれやけど、その、ゴジ‥‥‥ラ、ですか。それは知りません。なのはちゃんは?」
「うぅん、私も聞いたことは無いよ。もしかしたら、ユーノ君なら分かるかもしれないけど」

  案の定、はやてとなのはの両名共に知らないと返答した。完全に違う世界の地球なのだ。英理加も以前の人間のままだった時であれば、信じることは出来なかっただろう。
ゴジラを知らないとなれば、まずはその事から説明をしなければなるまい。そうでなければ、自身の姿を説明することもできないのである。
前置きで自分の地球とはやて達の地球とは別世界であることを説明してから、彼女はゴジラという人類史上最強の巨大生物について話し始めた。

(私の世界には、ゴジラという巨大生物がいます。西暦1954年に現れて、日本を火の海にした、驚異的な生物です)
「54年‥‥‥そんな、古い時代に巨大生物って‥‥‥」
(信じ難いのは無理もありません。ですが、これは私の地球の事実なのです)

呆然とするはやて、そしてなのは。同じく地球に住み着いた経験のあるヴォルケンリッターの面々や、フェイトも衝撃を隠せないでいた。

(ゴジラは、水爆による影響で生まれた生物であると分かりました。その放射能による影響で、人知を遥かに超える強靭な生物へと変貌し、口からは白熱の炎を出しました。日本もこれ以上の被害を受け続ける訳にもいかず、全力で抵抗しましたが‥‥‥当時の自衛隊の武力では歯が立たなかった、と聞いています)
「自衛隊‥‥‥?」

  自衛隊との言葉に僅かに首をかしげたのは、スバルやティアナ、キャロ、エリオだった。地球文化にある程度の馴染みのあるシグナムが答えた。

「自衛隊とは、簡単言えば質量兵器を主力とした軍隊のことだ。無論、自国民を護る為の存在であるがな」
「え? じゃあ、英理加さんの言うゴジラって生物は、質量兵器じゃ死ななかった、ということなんですか!?」
(そういう事になります。貴方達は魔法で解決すると聞きましたが、きっとゴジラには歯が立たないでしょう。何せ、核兵器によって生まれた生物なのですから)

普通ならば死んでしまう状況下で、ゴジラは変貌して驚異的な進化を遂げた。そんな生物に、戦車や戦闘機の砲弾或は爆弾が効くはずもない。
そのゴジラは自衛隊の力では及ばなかっただけでなく、東京を文字通りの火の海としたばかりか、多量の放射能をまき散らして避難民を恐怖に陥れたという。
  はやて、なのは、フェイトは、そんな生物にお目にかけたことは無い。別の物として、かつて〈闇の書〉事件で暴走した巨大な生物なら覚えはある。
あれも相当危険なものであったが、ゴジラとはそれを上回ると言うのか。そして自分達とは違う地球に、そのような生物がいるとは驚くほかなかった。
また血を見て来たヴォルケンリッターの面々にしても、巨大生物とは幾度か戦闘を繰り広げていた経緯があるが、ゴジラと呼ばれる相手には戦慄を覚える。

(しかし、ある科学者の発明した技術が、ゴジラの命を永遠に閉ざしました。それが何であったのかは分かりません。その科学者もまた、ゴジラを倒せるほどの技術を悪用されることを恐れて、自らもゴジラと共に命を絶ったと聞いております‥‥‥ゆえに、その技術の発明は永遠に不明で終わっています)
「そんな事が‥‥‥」

それに反応したのはフェイトだ。彼女が追いかけ続けていた犯罪者ことスカリエッティとは、まるで違う人間だと感じた。
スカリエッティは自らの欲望に、そして忠実に行動しては事件を起こしている。ところがこの科学者は悪用を恐れて自ら命を絶ったのだ。
平和に貢献するつもりが悪用される危険性に気づき、苦悩していたのではないか。彼女はその科学者に同情すら覚えてしまう。

(そして30年後の1984年、大黒島という島で噴火が起きた際、ゴジラと同類の個体が目覚めて動き出しました)
「もう1体いたのかよ」

  ヴィータが呆れるように言う。全高80mの巨大生物ゴジラは火山活動の影響で目覚めると、原子力潜水艦を襲ったり、日本の原子力発電所を襲ったりして、自身の行動に必要なエネルギーである核物質を摂取していったのである。
再び未曾有の大混乱に叩き込まれた日本は、自衛隊の最新兵器〈スーパーX〉を投入してまで対抗した。同時にカドミウム弾によってゴジラを休眠状態に追い込んだ。
ところが、ソ連の核ミサイルがあろうことか日本のゴジラに向かって誤射され、それを慌ててアメリカが撃ち落すと言う一歩間違えれば大惨事寸前の事態が発生する。
  実はこの裏には、核弾頭発射スイッチを乗せたソ連船籍の貨物船が、ゴジラの起こした津波の影響で橋頭堡に打ち付けられ、その衝撃でスイッチが入ったのである。
迎撃したはいいものの、日本上空で撃墜された際に強力な電磁パルスが発生するとともに、電離層による雷がゴジラに直撃してしまい、覚醒させたのだ。
何という偶然だろうか。せっかく活動停止に追い込んだ苦労が水泡に帰し、〈スーパーX〉も力尽きて墜落。もはや何者にも止める術はなかった。
  だがここにきて、ゴジラの渡り鳥と同じ本能を利用した電波作戦が功を奏し、思った通りの方向へと誘導することに成功する。
ゴジラは誘い込まれるまま海を渡り伊豆大島へと上陸すると、三原山の火口付近まで吸い寄せられていった。そこで自衛隊が足元を爆破、バランスを崩したゴジラは三原山の火口へと転落して、この大事件は幕を下ろすこととなったのである。

「それで、ゴジラはくたばっちまったんだろ? その後に、お前は‥‥‥」

  ヴィータは本題に入れと言わんばかりに言うが、ここで英理加は衝撃的な事を言う。

(いえ、ゴジラは死んでなどいなかったのです)
「‥‥‥え?」

思わずヴィータの眼が点になる。

「あの、英理加さん。ゴジラはマグマの中に沈んだんですよね?」
(そうです、なのはさん。ゴジラはマグマの中で休眠(・・)していたんです)
「うっそ‥‥‥」
「そんなのってありですか」

スバルとティアナの両名も開いた口が塞がらなかった。当然だ。生物がマグマの中に放り込まれて無傷でいられるはずがない。ましてマグマの中で休眠するなど。
明らかに常識を超えた生物である。これでもって、ますます管理局の魔導師が相手にならない事実を叩き付けられるような気分であった。
  そしてゴジラが火口へ消え去った時、肝心の英理加はサラジアと呼ばれる中東の国に滞在しており、ゴジラのニュースは耳にしていた。
彼女も日本の実情に悲しんだが、その一方で吉報が彼女と父のところへ舞い込んだ。ゴジラの肉片が採取され、それがサラジアに持ち込まれたと言うのだ。
実はこのゴジラの肉片から採取された細胞――G細胞が、この親子に不幸をもたらすこととなる。

(G細胞は、ゴジラの驚異的な生命力を解くカギとなります。私と父は、その細胞を解明することで、砂漠の様な過酷な環境でも耐え抜ける植物の研究に打ち込みました)

  そして、運命の日。彼女が研究室に足を運んだ直後、他国のエージェントが研究所を爆破してゴジラ細胞を抹消した‥‥‥英理加の命も一緒にである。
衝撃的な話だが、それよりもさらに巨大な衝撃が稲妻の如く、その場にいた彼女らの身体を貫いた。父親の原壱郎が、娘の細胞と薔薇の細胞を結合させたのだ。
タブーを犯してまで英理加を生き伸ばそうとしたが、博士は超えてはならないファウルラインを完全にオーバーしてまで実行したのが‥‥‥。

(私の細胞と薔薇の細胞に、父はG細胞をも組み込んだのです)
「そ、そんなことって‥‥‥!」

  その話に一番の衝撃を受けたのがフェイト本人であった。実は彼女、純然たる人間ではない。母親の手によって作り出された、実の娘の模倣体なのである。
娘を若すぎる歳で失った衝撃に耐えきれず、母親は人工的にフェイトを生み出してしまった。ところが、亡き娘と似て異なる性格故、単なる都合の良い道具としか見なかった。
英理加の境遇とフェイト自身の境遇を想わず重ねてしまい、心に痛みを覚えてしまう。フェイト以外の面々にしても、やってはならないタブーを犯した原壱郎に狂気を感じた。

(永遠に生き永らえさせる為の処置でした。しかし、私は最初こそ意識はありましたが、次第に別の意識に飲み込まれることとなります)
「別の意識とは?」

  ザフィーラが尋ねる。

(G細胞による野性的な意識だと思います。それに変異性の高いG細胞は、ただの薔薇だった私の身体を急速に成長させたのです‥‥‥昨晩、あなた方が見たように)

ゾッとする話だ。しかも英理加の意識とは別の意識により、かつて父の研究室に忍び込んだエージェントの1人を蔓で締め上げ、全身複雑骨折並びに窒息死させたのだ。
今の時点では彼女の意思の赴くままに操れるため、暴走するようなことはないと思われる。ただし、現時点ではの話であるが。
  英理加は原壱郎からビオランテと命名されたが、それは彼女の知るところではない。ビオランテと化した英理加は遂には動物本能に支配されてしまい、ゴジラと対峙した。
一度目はゴジラの火力の前に敗退し、より進化した姿でも善戦虚しく敗れてしまったのだ。そこで英理加はやっと意識を解放され、光の粒子となって飛び立った。
  そして今の至る訳である。

(私は人としての身体には戻れません。ですが、ここに根を下ろして、あのヴィヴィオちゃんと会話する内に、人だった時の懐かしさを覚えました)
「それで、英理加さんはあの夜に自らの存在を知られる危険を犯してまで、あんな行動に出た、と?」
(そうです。あの子が何かに利用されることは、聞かせて頂いてます。だからこそです)

はやての問いに、英理加は力強く答える。そして、今一度英理加はヴィヴィオの救助の為に、渾身の力を持って向かうと言う決意を口にした。

「英理加さん、お気持ちは十分にわかります。けど、これはウチらの失態でもあります。だから、今度はウチら機動六課が立ち向かう番なんです」
「けど、はやて。英理加さんはこのままにしておけないよ? もう多くのところで、この人の存在はばれてる。それにレジアス中将の耳に入れば‥‥‥」
「あの人か‥‥‥」

レジアス・ゲイズ中将。時空管理局地上部隊の最高司令官であり、犯罪撲滅に貢献している腕利きの指導者だ。しかし何かと黒い噂もついて回ることも珍しくはない。
正義感が強いのだが、あまりにも強すぎるが故に違法な手段をも問わないとさえ聞く。そんなレジアス中将は、高レベルランクの集まる機動六課を不快に想っている。
それは犯罪者のレッテルを張られたことのあるフェイト等がいること、そしてランクの高い連中が集まることだ。
  しかも、何かあれば機動六課を解散に追い込むような意気込みまで見せており、今回の事も十分な攻撃の材料となるだろう。
まして英理加の存在が彼の耳元に届けば、はやてを解任に追い込む逆風が一層強くなる。さらに科学者もこぞって集まってくるに違いない。
この世界に来てまで、彼女を研究対象のモルモットにするわけにはいかない。まして英理加は、ヴィヴィオを護ろうとしてくれた恩人の様なものだ。

(有難う、はやてさん、なのはさん。けど、私の処遇の為に、貴女がたに苦労は掛けたくないの。私は、あの娘を、そして世界の終末を必ず防ぎます)
「けど‥‥‥」

  はやては如何にかして、英理加を護ろうと思った。しかし、それを遮って彼女は言った。

(そして、全てが終わった時‥‥‥私を抹消してください)

その時、全ての時が止まったように思えた。




〜〜〜あとがき〜〜〜
第3惑星人でございます。
クロス短編として書き始めて、それ以来ずっと更新停止中だった『舞い降りし植獣編』、よぉ〜〜やく続編を執筆させていただきました。
もう何年経ってんねん、などというお叱りは御尤もです。待って頂いた方には大変申し訳ないです。
実際のところ、ビオランテを暴れさせるという最大の目的を行う前に、どういった経緯でやらせればよいのかと非常に悩ましい事態に陥り、さらには中編を執筆中の段階で元データが買い替える前の旧パソコンが破損したと同時に消えてなくなってしまったので、それ以来中断しておりました。
こんな下手なクロス物でも、続きが読みたい、と言ってくださる方々がおります故、それに応えられるよう、辛うじて中編を記憶を辿りながら復活させました。
とはいえ、ビオランテこと英理加にこんなことが出来る筈がない、というのは承知の上です。どうせなら、と思って無茶苦茶な事をやらせております。
もっともはやて達と会いまみえるという構想は、途中で破棄すべきかどうか迷いましたが、結局このような形になりました。
最終的にはあの姿(むしろもっと変化する)となって、スカリエッティらを絶望のどん底に叩き落そうかと試行錯誤中です。



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