第14話『期待と不安』


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  時空管理局本局で行われた、時空管理局と地球防艦隊との最初の会談が終わってから1日が経過した頃。第1管理世界として次元世界の中心にあるミッドチルダでも、外世界でうごめく危機感を敏感に察している面々がいた。
  まず代表的なのが、どの世界にでもいるメディア関連であろう。彼らの持つ細かなネットワークは、他管理世界から寄せられた情報を受け取り、或は買い取り、情報交換し、さらに入手した情報の照らし合わせを行いつつも、管理局へと真意を問おうとしているのだ。
  管理局側としても、このメディアの動きには最新の注意を払っていたつもりではあるが、やはり100%の監視をすることなど不可能な話であった。次元航行艦の撃沈事件の真相を知ろうとする、その粘着質極まりないしつこさには、時空管理局の高官メンバー達もうんざりという感じであったが、まかり間違った対応してしまえば、それこそパニックを引き起こす事にもなりかねない。別の地球の存在さえ、今だにはっきりと公表していない今、その世界の艦隊の事も言える筈がなかった。
  しかも、星1つを破壊可能な超兵器を持っているとなったら、尚更のこと食い付いて来るのは目に見えている。対応に追われていく時空管理局は、更なる苦難の選択をしなければならないだろう。

「市民たちに真実を!」
「真実を公表せずして、何が管理局か」

  ――と、自らの正義感を振りかざすメディアだが、それが必ずしも正しい正義感とは限らない。時として都合の良い部分だけを報道して、ついでに誤った感情を誘発させるのも、どの世界でも共通して言える大きなデメリットであった。
  ここミッドチルダに設置されている時空管理局地上部隊こと陸本部でも、今まさにメディア関係者達の受け答えを行っている最中であった。耳と鼻の敏感なメディアの彼らはしつこいものだと、情報担当官の局員は心内で舌打ちをする。表面に出せない感情を必死になって抑えつつ、事実も隠しているのだが、それがいつまでもつかどうか……。
  そのメディアの人間の中でも、特に活発な記者が紛れていた。

「報道官! 次元航行部隊の損害は、本当にテロ組織の活動によるものなのですか?」
「先ほどから申し上げている通り、現時点ではテロ組織の犯行による可能性が極めて高いと推測しております」

  やたらと食いついて離れなず質問を飛ばしているのは、肩にかかる程度の薄い金髪を首の後ろほどでポニーテールにしている29歳程の男性だ。ミッドチルダでも有数のメディアである情報局“MT(ミッドチルダ・タイムズ)”の取材記者マイク・ルーディという。彼は、特に勘や推測、洞察力にずば抜けている記者として、社内でも若手のホープとして期待されている人間である。今回の事件も、かなり違う匂い漂うものがあると察し、隠している真実がある筈だと見ていたのだ。
  その理由として彼が挙げているのが、その次元航行艦撃沈事件を受けてから見られる、本局の動きだった。それまで、活発的に広範囲へ艦船を派遣して、パトロール活動や新惑星の発見に余念が無かった時空管理局が、何故か出航を控えていることが多いことに気付いたのだ。つまり消極的になりつつあるという事実であり、どう見ても次元航行艦を大量に失った事とが原因とみて間違いない。
  そして、その事件を境にして地上部隊側で発表されたのが、かの地上防衛の大型兵器アインヘリアルの後継機であるアインヘリアルUを増産配備するという事実だった。何故、このタイミングで増産配備を決定したのか……当然、次元航行艦が撃沈されたからであろう。因みに、これまで時空管理局に対抗しえる巨大な武装組織というものは、皆無と言って良かった。その反面、巨大な組織ではなくとも驚異的な武装組織は幾つか存在するが。
  今回の件においては、XV級艦船を含んだ艦隊が壊滅しているのだ。幾ら大規模テロリストであったとして、これだけの次元航行艦船を沈めるだけの膨大な武器を、武装組織が保有していると言えるのだろうか。もしも、艦隊規模の巨大な戦力を保有できていたとすれば、如何な時空管理局とはいえども、監視網は穴だらけであったと言わざるを得ない。
  だが、これまでの経験から言えば、これは明らかにテロリスト集団や武装集団が出来るような規模の事件ではないだろう。艦隊を相手に太刀打ちできるというのであれば、それは武装組織というものではなく、他国の軍隊だという見方が出来る。

「情報の中にはテロリストの犯行ではなく、新たな次元世界の攻撃ではないかという見方もありますが?」
「……そこまで詳しい情報は、今のところ入ってはおりませんが、その可能性も視野には入れております」
「記者の皆様。今回の会見は、ここまでとさせて頂きます。これ以上のご質問は自重願います」

  痛いところ突かれたかのような表情を一瞬だけ見せた情報担当官ではあるが、一応の時間が過ぎたのを受けて、司会の人間が区切りをつけて閉会させた。無論、記者達はそれで満足出来るわけではなかったのだが、これ以上の詮索は無理だと悟ると致し方ないという表情で、それぞれ帰り始めていく。
  そんな中でも、ルーディは不満足な顔をさらに2割増したような感じだった。時空管理局は何かを隠しているに違いないのだ。もはやテロリストで済まされるようなレベルを超えている筈だ。ここは何としてでも、真相に辿り着きたいものだが……。
  帰りは、彼の所属局が所有する専用ワゴン車に乗り込み、数人の仲間と共に会見内容の記録を再編集しつつ、帰路を急いだ。

「管理局は、明らかに隠しているな。それもとびきりの情報を」
「チーフの洞察力は、半端ないっすからね。きっと大当たりじゃないんですかい?」

  ワゴン車の運転手を務めている26歳の男性が、砕けた口調で返す。黒い髪に軽い天然パーマをかけた彼――ウィリー・クーヴァは、チーフたるルーディの予想に賛成しているようであった。
  すると、別の若い青年は、やや慎重気味に口を開く。

「あの……チーフの勘には賛成したいんですが、まだ確実な証拠は……」

  年齢は23歳とチームの中でも最年少で、名をシュリス・ツェンバーという。当チームで映像編集や管理を任されていた。

「あぁ。無論、そのとおりさ。俺の感が正しいとしても、確実な情報を入れない事には、偽りの情報を流した嘘吐き屋になっちまうからな。それじゃぁ、メディアの名が泣いちまうし、中途半端な情報を流して騒ぎ立てる他の連中と同列に置かれたくない」

  ツェンバーの言う事は尤もだ、とルーディは機材の点検をしながらもウンと頷いていた。幾ら自分の感が良いからとして、その感をニュースにする訳にはいかないのだ。

「まぁいいさ。いずれは掴んでやる。それよりも、本部へ戻ろう」
「あいよ、チーフ!」

  意気込んで返事を返す運転手のクーヴァーは、ワゴン車をMT本社へと急がせた。



  ミッドチルダ首都からやや離れた市街地には、とある時空管理局局員の住宅があった。それは、時空管理局で知らない者はいない“エース・オブ・エース”と称される、高町なのは一等空尉の自宅である。自宅のリビングルームにて、艶のあるブラウンのロングヘアに、大人としての華麗さを醸し出しているなのはがいた。彼女は、やや不安げな表情でソファーに座りつつテレビを食い入るように見つめていた。
  それは、先の会見の様子であった。次元航行艦の撃沈事件に相応して騒々しくなったのは、彼女も当然知っていた。時空管理局の艦隊が壊滅したことを受けて、各管理世界が不安に駆られている。

「……はぁ」

  形の良い唇から漏れる溜息には、明らかな不安が混じり込んでいた。彼女もまた、この現状を知り不安を掻き立てられずにはいられず、思わずため息を吐いてしまうのだった。無論、不安の要素はそれだけに留まることはなく、直接の連絡で知ることとなった別世界の地球の存在がある。そして、地球の有する驚愕の軍隊の存在をも知って、尚更のこと気が動転していた。
  そして、地球の軍艦が、時空管理局では抑えられない程の強力な武力を持っているのだという。

(もしも……私の知らない地球が確認されたら、管理局は……その地球は、どうなるんだろう)

  大抵の場合は、時空管理局は他世界への直接的接触を避けつつ、管理すべき対象世界として登録されるのが常だ。
  ところが、次元世界に迷い込んだという地球防衛軍は、こちらの存在と素質を知ってしまっている側だ。となると、時空管理局の取る対応はおのずと変わってしまう。魔法文明を知った世界に対してコンタクトを取り、質量兵器の廃絶を押し付けつつも、相応の貿易によって相手の管理世界にも利を与える。……のだが、正直な所、防衛軍程の強力な科学技術を持った科学文明世界には、遭遇したことが無かった。
  もし時空管理局が、彼らの地球が存在する座標を知った場合、どのような対応に出るのであろうか。同時に向こうの地球も、こちらの存在を知った時、どう反応を示すのだろうか。
  彼ら地球防衛軍も平和を維持する為に、命を懸けて戦ってきた軍隊だというのは、親友フェイト・テスタロッサ・ハラオウンから聞いていた。なのは自身も、時空管理局という組織は、全管理世界の平和を護る為の組織であり、世界の中心となる存在だと思っている。何も強硬派の様に傲慢に思っている訳ではない。本心から、平和を守りたいと強く願っているのだ。

(フェイトちゃんの話だと、多少のいざこざはあったって聞いてるけど……後に行う会談はどうなるのかな)

  徐に、テーブルに置いていたマグカップを手に取り、中に注がれていたホットココアを口にする。甘さ控えめのココアが、何故か苦く感じるのは気のせいだろうか。暖かな液体が身体に染み込むのを感じながらも、そのように思ってしまう。
  彼女が一番に危惧していたのは、地球防衛軍と時空管理局で行われる次の対談が、交渉決裂という結果に終わるだけではなく、砲火を交えるような一大事になってしまうのではないか、ということだ。 
  親友のフェイトらから送られてきた情報を見て、その強大な地球艦の力に対して、なのはも強い危機感さえ感じていたのである。それに、地球防衛軍の世界で行われる戦い方というものに、強いギャップも感じた。相手は、血を流すことも日常茶飯事な中で戦い続けてきた兵士で、まさに宇宙戦士の名に相応しい者達だろう。
  それに比べ、魔法で相手を殺さぬようにしてきた自分達は、一体どうなのだろう。無論、相手の命を奪うことなく最小限度の被害に抑え込んで、相手を逮捕することが出来るのは魔法の大きなメリットだ。その代り、今以上に死と対面する確率が跳ね上がることも珍しくはない。
  今の状態でさえ、まだどうなるかわからないが、この後の会談で決裂でもして戦闘に突入してしまったら、時空管理局は対応出来るのだろうか。自分を含めて、魔導師たちは相手を殺す覚悟で戦うことが出来るのか?

(死んでしまいそうになったことは、幾度かあるけど……けど、今度のはまた違ったものになる)

  確かに彼女自身、幼い頃に瀕死の重傷を負った経験はあるが、それは一度で、地球防衛軍の生き抜いてきた人達はその数倍の苦しみを味わってきたに違いないだろう。地球防衛軍の将兵は、いざ戦うとなれば、相手に加減を許すことなく全力で命を奪う覚悟を持って向かって来る筈だ。
  その事態になった場合を想定して、なのはは思わず戦慄してしまい、手にしたマグカップも震えてしまう。

(防衛軍の人達とは、折り合い良くしていきたい……)

  まして地球防衛軍艦隊以外にも、SUSと呼ばれる勢力が存在するのだ。そんな相手に対して強い危機感を感じる一方で、地球防衛軍とは、手を取り合えることを刹那に願う。

(もう、この娘に辛い思いはさせたくない)

  そう願いながらも、彼女の傍らでスヤスヤと寝息を立てている10才ほどの少女に目線を落とす。黄色の髪をした最愛の娘――ヴィヴィオの頭を、優しく撫でるのであった。



  地球艦隊との戦闘で、手痛い反撃を受けてしまったSUS次元方面軍第二艦隊。その屈辱的な第一歩から、およそ2週間が経過している。SUS第二艦隊の本拠地として機能しているケラベローズ要塞の司令室に、いつもと変わらぬ威圧感を放つ総司令官ベルガー大将の姿があった。ただし、威圧感の他に不満と不快感も滲ませているが、その理由は言わずもがな、地球防衛軍の存在だ。
  損害を受けたことで、次元世界侵攻計画を見直している最中であったが、ベルガー総司令の傍らから艦隊司令長官ディゲル中将が現れる。彼もまた、第二戦隊の敗退時に神経質そうな表情にプラスして、不機嫌さを出していた。今の彼は、何処か気分が高揚しているように見受けられた。

「閣下」
「なんだ、ディゲルよ」

  眺めていたホログラムを無造作に停止させてから、視線をディゲルへと向けた。

「開発部より連絡が入りました。例のモノです」
「……ほぅ? いよいよ、アレが出来るというのだな」

  興味が湧いたように、座席ごとディゲルに向き直るベルガー。ディゲルの言う開発部とは、次元方面軍第二艦隊内部に置かれている、所謂兵器開発専門の部署だ。研究開発と並んで艦艇設計等も練っているところだった。
  その開発部から来た知らせというのが、ベルガーの言う“アレ”の存在。ベルガーの問いに満足げに頷いて見せると、ディゲルは彼に開発部直属の専用ドックへと来てもらうように即した。当のベルガーも余裕の出る表情をしている。
  天の川銀河にある大ウルップ星間国家連合のSUS要塞とは、規格も規模も違うケラベローズ要塞。この巨大な要塞の内部には、艦艇を建造する為の工廠施設だけでなく、修理を行うドックも多量に有していた。それは、直径が15kmもあれば当然であるからこそ、相当な設備が整える事ができたのだ。
  案内されたベルガーが向かうのは、その開発部が直属に使用している専用の工廠施設だ。開発部が考案した武器や艦艇を、ここで製造している。

(やっとアレが完成を見る時がきた。完全になれば、管理局は無論、地球の艦でさえ……)

  忌々しい地球艦隊を捻りつ潰せる、と意気込むベルガーの前に、開発部の担当者らしき人物が姿を見せる。当要塞で兵器開発を手掛けている技術者のザイエン技術主任だ。

「総司令閣下。先日来より開発を続けてきましたムルーク級の1番艦が、ようやく完成致しました」
「そうか。では、その姿を拝見させてもらうか?」
「はい。こちらでございます」

  巨大な戦闘艦を建造するには十分な空間を有する工廠ドックを、管理室から眺めるベルガー。しかし、そのドックにはそれらしい巨体の全景がうっすらとあるが、照明が完全に落とされていて良く分からない。とはいえ、その大きさだけでも、全高凡そ1.5kmはありそうである。SUS軍のカン・ペチュ級主力戦艦と同様にして、縦長の艦型であることが伺えた。
  早く見せろと目線で訴えるベルガーの要望に応じて、ザイエン技術主任は傍にあったコンソールに手を触れ、スポットライトの電源を入れた。すると、暗い空間に次々とライトが灯り、徐々にその全貌を照らし出していき、巨体をベルガーの目の前に晒していく。
  やがて、その姿がさらしだされると、ベルガーも唸った。

「おぉ……これが〈ムルーク〉か」
「さようです。これが艦隊の旗艦として、そして強大な戦闘力を持つべくして誕生した、我が軍の最新鋭艦です」

  その全貌は、戦艦にしては歪な形をしていた。SUS軍の特徴である縦長の胴体は同じだが、それを敢えて例えるのであれば、日本でよく採掘された“銅鐸”という代物に近いだろう。銅鐸の大きく平たい面を、艦の舷側にしている。艦頂上の両舷には、大きなデルタ型の安定翼の様な物が一対着いている。正面から見れば、十字架或いはT字に見えるもので、従来のスタイルにしてはフォルムを大きく変えていた。
  さらに武装が露出している様子がない。全ては埋め込み式のようで、艦前面側に、縦一列にして単装型の大口径ビーム砲が、天頂から底辺まで上下にズラリと並んでいた。それが、ざっと見で30門近くある。そして、安定翼の内部にも埋め込み式の単装ビーム砲がズラリと並んでおり、それも概算で40門近くあるのではないだろうか、という程の武装数を持っている。
  もとより、このムルーク級はSUS天の川銀河方面軍第七艦隊が保持していた、マヤ級大型戦艦の拡大発展型であった。故に、外観はマヤ級と瓜二つも同然であり、違うのは大きさのみといったところであろう。
  大型戦闘艦というよりも小型の機動要塞と見られるネームシップ〈ムルーク〉。他国で言えば、かのゴルバ型要塞に匹敵するが、α砲という強力な火砲を持っていたゴルバ型要塞と比べれば、火力面で見劣りはせざるを得ない……が、ムルーク級も負けず劣らずの火力を有する。特に当級から装備された、大口径砲の強化型となる大型重ビーム砲は、α砲にやや劣る程度の高火力砲である。これが、正面に縦一列に並んだ砲門の下層側に5門存在し、集中射撃してやればα砲やβ砲を上回ることも可能であった。ただし、5門一辺に同時射撃するとなれば、かなりのエネルギーを浪費する為、最充填に時間を要することとなるが(各砲門別に各個砲撃するなた、短時間砲撃も可能である)。
  またムルーク級は、ザイエンの言うとおり艦隊旗艦として就役する予定であるが、あくまでもこれはプロトタイプだ。後にムルーク級が量産配備されるという話もあるが、ケラベローズ要塞の生産力では数百隻も量産は出来ない。ましてSUSとしても、全高約1500m級の巨大戦闘艦を、そうそう大量に生産は出来ない。
  ならばマヤ級を量産して、各方面軍に振り分けた方が良い。全高1000m未満のマヤ級が、正式に各戦隊旗艦として配備されるのだ。どっちにしろ、SUS艦隊の戦力は強化されることには違いない。あくまでも艦隊旗艦並びに戦隊旗艦として生まれた故の巨体がムルーク級であり、大半の主戦力は、現在の主力艦を大量に量産しておいた方が、よっぽど良い筈だ。

「最初の1号艦となりますが、同型艦の建造は様子を見るべきかと。今は、大きな損害を受けた、第二戦隊の戦力を補う方が先決でありましょう。なお、我が艦隊の戦力強化案として、本国からも裁可が下りました、マヤ級の増産配備は着々と進んでおります」
「ムルーク級については仕方あるまいが、マヤ級でも十分だろうて。今は、戦力回復に努めるしかあるまい……もう一つの方は?」
「はい、当方面軍の総旗艦となる物は建造中ではありますが、戦力補充に集中するため、就役にはまだ3ヶ月は必要かと」

  〈ムルーク〉に引き続いて完成を待ちわびている巨大な艦体が、〈ムルーク〉の隣で着々と建造されつつあるのがベルガーの目でも確認できた。それは、試作艦として建造中の巨大戦闘艦であり、シルエットも大分異なっている。今までの戦闘艦が縦長であったのに対して、これは全長の方がはるかに大きい。巨大な三角錐を艦体としているようで、全長凡そ1800〜2000mはあるのではないだろうか。まだ建造中故に装甲が剥離しているように見えるが、完成の日も近い。

「ムルーク級に次ぐ、ノア級……早く完成の日を見たいものだ」
「ご期待に添えるよう、急がせます」

  満足そうに頷いたベルガーはその場を後にした。SUS次元方面軍の新たな戦力として完成を見た〈ムルーク〉は、今後の活動に大きな期待を寄せられている。
  座乗する予定にあるのは、第二艦隊司令長官ディゲルであるが、第二戦隊の戦力補充が済み次第、新たなムルーク級の建造を開始する予定ではあった。増産されるムルーク級は艦隊旗艦として就役する予定となっており、本来ならば計8隻を揃えたいところではある……のだが、今回の戦いでは、そこまで漕ぎ付けはしない上にケラベローズ要塞単体では、そこまで建造することすら難しい。その代り、本国からの増援として、マヤ級の追加配備が許可されていたのだった。
  工廠での視察が終わったベルガーは、会議室へと移動した。SUSは地球艦隊に大敗を喫したとはいえ、それは一極致に過ぎない。大侵攻戦はこれから幕を開けるのだ。



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  会議室で各艦隊の司令官たちが顔を合わせており、中にはあの第二戦隊司令官ゲーリンの姿もあった。
  手始めに口を開いたのはディゲルである。

「閣下、管理局への攻撃開始までに〈ノア〉の配備は間に合わないようですが……」
「管理局など、現戦力でも十分すぎる。まして、作戦開始前には、マヤ級が本国から増援として送られてくるのだからな。〈ノア〉が就役しても、さほど変わるまい。就役出来れば、それに越したことはないがな」

  SUS軍第二戦隊の負った傷は、当然ながら癒えていない。工廠をフル運転させているが、元の戦力数210隻に戻すには、1ヶ月は有に時間を必要とする。だが、それでも残っている戦力は、数えるだけでも凡そ1970隻。対する管理局の戦力は、広大な組織なだけあって、2400隻前後の戦力を保持していた。
  一方で問題は地球艦隊の存在であったと言えよう。この損害は殆どが地球艦隊によるもの。下手をすればSUS軍の戦力が半壊させられるかもしれないのだ。

「地球艦隊か……奴らは今、何処にいるか分かっておるのか?」
「それについては、私が――」

  情報参謀長マッケン少将が、地球艦隊の所在を伝えた。彼によれば、地球艦隊は時空管理局の艦隊と合流した後、どうやら時空管理局の総拠点へと移動したらしいという。それを聞いたベルガーは、些か表情を渋らせる。よりにもよって時空管理局の総拠点へと行ってしまったとは……これは少々厄介ではないだろうか?

「しかし閣下、奴らの事はこの際、あのガーウィックらに任せておけばよいでしょう」
「そうです。我々はまず、総本山の周りに浮いている“瓦礫”から崩してまいりましょうぞ」

  ディゲルに続き他の指揮官達も、地球艦隊への処置を今すぐに行う必要はないのではないか、と口を揃えて意見を示した。
  彼らの言う通り、作戦予定では時空管理局の総拠点こと本局へと攻撃を開始するのは、かなり後になっている。地球艦隊も同じ場所にいるのだから、後回しでも問題はない筈である。それにメイン・ディッシュの前には、先ずは前菜を平らげておかねばならない。腹を膨らませるには物足りないだろうが、片付けておくに限る。
  ベルガーとしても、他辺境区にある時空管理局の拠点を潰す事に関しては、計画通りのままに行く方が良いだろうと考えていた。変更が必要だとすれば、それは本局侵攻時の話だ。ディゲルが言ったように、あのエトスら三ヶ国艦隊をぶつけて、磨り潰してしまえばよいのだ。また、質量兵器嫌いの時空管理局のことである。地球艦隊に対する処遇で、色々と摩擦を起こすに違いない。

「地球艦隊も、好き勝手に動けはすまい」
「その通りだ。諸君、地球艦隊の事は、この際放っておいて構わん。まずは目の前の目標から取り掛かるのだ」

  ベルガーが言うと、その侵攻計画に対する見直しを始めさせる。巨大なホログラムが投影されると、そこには次元空間の見取り図が映されていた。まず、先も言った通り本局への直接攻撃は後回しだ。狙うべきは本局ではなく、本局の周囲に点在する10ヶ所の管区拠点だった。
  時空管理局は、その広大な次元世界を散策して管理下に治めてきたのだが、宇宙並みにに広大な次元世界を、次元航行艦が長期間で見て回るなど到底不可能となってきた。そこで時空管理局は、より広大な範囲を捜索又は巡回する為に、中継地点とも言える活動拠点を10ヶ所ほど、各方面ごとに区切って配置させたのである。
  SUSは、まず手始めに、各拠点を潰していこうと計画を立てていたのだ。中継地点とはいえ、次元航行部隊の艦隊戦力はそこそこなものである事は、取得した情報から概ね推察できた。数的には無視しえないが、驚異的な存在とは言い難いのであるが。
  これについては、ディゲルも指摘する。

「奴らの戦力は恐れるに足らん。兵力数は大したものだが、質としては乏しい」

  あからさまに見下したディゲルの発言に、他の指揮官達も苦笑した。広大な次元空間を探索や巡回警備を常時しなければならない彼らが、いつまでも中継拠点にいる筈もない。兵力分散した時空管理局など、なおさら敵ではない。それに、戦闘艦とも呼ぶのには程遠いと評されている次元航行艦を相手に、SUSの戦闘艦なら簡単に撃破することも可能であると実証がされている。
  そして、辺境区拠点の攻略手順は、至ってシンプルだ。


1、SUS軍は、1個の中継拠点及び駐留している管理局の艦隊に対して、1個戦隊の兵力を持って攻略する。

2、手始めに第九管区拠点を攻略。これを担当する第四戦隊は、地上部隊の編入を終え次第出撃、これを攻略する。

3、第四戦隊出撃の3日後、第三戦隊が出撃して第八管区拠点を攻略する。

4、同じことを10ヶ所の拠点に行い、時空管理局の活動力を徹底して割き、同時に精神的圧迫を加える。

5、また、拠点を陥落させた後、至近の管理世界を支配下に置く。

6、管理世界の住民に対しては、手を出してはならないが、刃向かうようであれば見せしめに殲滅する。

7、本局攻略までに、3ヶ月の期間で成し遂げる。


  各戦隊が攻略に向かう訳だが、次元空間も驚くほどに広大であるからして、各拠点への道のりも地味に長い。最短の第九管区拠点に辿りつくにしても、1週間は掛かる見込みであった。
  さらに、尤も遠い拠点へ向かうには、迂回ルートを選定して通れることとなる。迂回する以上は、1ヶ月から1ヶ月半は掛かるとみて間違いない。かといって、次元空間内のワープは厳禁だ。次元空間は必ずしも座標が一定する訳ではなく、時として次元震なる現象も発生する事もあるからだ。下手をすれば、それこそ異次元空間に取り込まれてしまうだろう。
  よって、この次元空間内は通常航行が原則とされる。時間は掛かるが、大宇宙を渡り歩くことを考えると、長い時間ではない。

「本作戦は5日後に発動する。第四戦隊は兼ねてより先陣を切り、敵の辺境拠点を叩くのだ」

  ベルガーから、そう命ぜられたのは第四戦隊司令官コニール少将である。大侵攻の先陣を切る身として、いつにない高揚があった。

「ハッ。先陣として、必ず撃滅してまります」
「よろしい。必要以上に恐れる必要は全く持ってない……が、くれぐれもヘマをするでないぞ?」
「ハッ!」

  ケラベローズ要塞における会議は、作戦の確認をしたところで幕を降ろした。大半は時空管理局の撃滅を容易く見積もり、少数の者は気を引き締める。
  それから5日後になってから、予定通り第四戦隊はケラベローズ要塞から先発して、第九管区拠点へと向かったのである。無論、本国から増援として送られてきたマヤ級の内の1隻を賜り、多少の戦力強化を施しての出撃であったが。



  先遣隊として出撃した第四戦隊の動きは、無論のこと三ヶ国連合艦隊のガーウィックらにも知れ渡った。SUSの本格的な侵攻が始まることは、彼らにも事前に知らされていたのだから、当然でもある。ただし、作戦会議に参加した訳ではなく、やはりと言うべきか、SUSが主導した作戦内容だった。
  こちらと遭難した身であり、“引き取ってもらった身”としては、下手な口出しも出来ないのは仕方がないだろう。SUSが機嫌を悪くすれば、自分らに対して何をやらかすことやら、とガーウィックらは懸念していたのだ。

「提督。SUSの第四戦隊が先発したようです」
「……遂に始まったか」

  〈リーガル〉艦長ウェルナー大佐の報告を耳にしたガーウィックは、司令官席に立ちながら嘆息を吐いた。こうなれば、いつ自分らに出動命令が下るやもしれないのだ。その攻撃対象は、時空管理局とやらなのだが。
  SUSが言う程に、時空管理局とは殲滅すべき敵なのであろうか。ここに来たばかりの自分らには、時空管理局が如何なる存在であるかは、詳しく伝えられてはいない。ただ、情報参謀長マッケン少将の話によれば、あらゆる世界に通じる次元空間を支配管理しているのが時空管理局であり、自分らのルールを押し付けているというのだ――強ち、彼の言っていることは的外れではないのだが。
  以前のSUSにも地球艦隊への攻撃命令を下されたものだが、その結果がアレなのだ。警戒もしたくなる。もしも、時空管理局に攻撃を加えてしまえば、それこそ自分らは、地球艦隊へ真相を問うことも難しくなるであろう。加えて、自分達がSUSに反旗を翻した時には、時空管理局からも信じてもらえなくなってしまう。
  そんなガーウィックの心配を他所にして、要塞司令部のベルガーから直接通信が入った。

『ガーウィック提督。既に知っているだろうが、我が艦隊は行動を開始した。だが、貴官らの出番は今ではない』
「ほぅ……では、いつ動けばよいのですかな?」

  ワザとらしくガーウィックは聞き返すものの、ベルガーは意に反さないという様子で質問に答える。

『我が艦隊は、敵の各中継地点を叩く。予定では3ヶ月以内には、全ての中継拠点を叩き終わる筈だ。その後、全軍は体勢を整え、全面攻勢を持って、敵の本拠点へ攻め入るのだ』
「その時が、我らの出番ということですか」
『さよう。何せ、本拠地には地球軍が駐留しているのだからな』

  ベルガーの言うことは、大かたガーウィックの想像通りといっても良かった。本拠地は叩くが、中にいるであろう地球艦隊に対しての対応を任せたいというのだ。無論、ガーウィックだけではなく、ズイーデル中将やゴルック中将らと共闘して、この少数の地球艦隊を完膚無きまでに叩きのめして欲しいという。これはチャンスでもあった。
  この機会を逃しては、3ヶ国纏めての離反は出来ないであろう。ベルガーの指示に対してガーウィックは躊躇うことなく了承したが、この後に言ったベルガーの言葉に息を呑む。

『その本拠地攻撃の際には、我が方からディゲルが担当する事となる。万事、彼の指示に従ってもらう』

  やはり高級将官を見張り役にして着けてきたか――表には出さずガーウィックは内心で舌打ちした。あくまで自分達を目の届くところで使い潰したいようだ。
  それでもこれを拒否することは出来ない。

「了解した。では、出撃の時まで待機している」

  そこで通信を終えたのだが、彼は通信士に命じて直ぐに2人の提督を呼び出させた。今すぐに会合し、時空管理局の本拠地を攻撃する際の行動を考えなくてはならないからだ。主に本拠地への直接攻撃は、SUSが受け持つことになっているとベルガーは言った。それは即ち、地球艦隊が出て来るまでは遠巻きで見ていればよい、という解釈に繋がる。
  ならば、この間をどう動いていくのか。もし地球艦隊が出て来るのであれば、その時が勝負になるだろう。

(だが、状況はかなり厳しいものだな)

  対話をするにしても状況を考えなくてはならない。SUSが背後にいる状態で通信を行えば、それは背後からの不意打ちを食らう羽目になる。ならばどうすべきか。
  そこで、ガーウィックにはある案がひらめいていた。地球艦隊は、我々同様に次元空間に迷い込んだ身だ。銀河系へ戻る為にも、余計な損害は受けたくない筈。ならば、SUS軍とは軽く砲火を交えた後に、早々に撤退を開始するか、もしくは戦わずして撤退する可能性も十分にあり得た。幾ら強力な決戦兵器を有しているとはいえ、その数はたかだか40隻程度。対するSUSの動員兵力は、凡そ1900隻程に及ぶとされる。この兵力を前にしては、如何な決戦兵器とは言えども補うことは難しいだろう。
  余計な損害を出すよりも、戦力を温存させる方を選ぶのではないだろうか……と様々な思案が飛び交っていた。無論、時空管理局がどう出てくるかにもよるだろう。

(ならば、地球艦隊の退路を防いでおくと見せかけた方が良いかもしれんな)

  ディゲルには、地球艦隊や時空管理局の艦隊が逃走するであろうルートで、予め待ち伏せると伝えておくのだ。さすれば、三ヶ国連合艦隊は、ディゲル率いるSUS艦隊に後ろを見せる心配はない。その時こそが、地球艦隊と更新する最大の機会が巡って来るという訳だ。

「閣下、ゴルック、ズイーデル両提督がこちらへと赴くとのことです」
「そうか。私は会議室へ移る。両提督が来たら、そこまで通してくれ」
「了解しました」

  部下に案内を任せると、ガーウィックは一足先に会議室へと移動していく手前、スクリーンに映されるSUS艦隊の先遣部隊の姿を見やった。

(SUSめ、今に見ておれ。我らエトスの武士道と誇りに傷を付けたその代償、必ず報わせてくれる)

  心中でSUSへ対する強い反感を覚えながらも、その場を後にしたのである。



  一方の時空管理局といえば、そのSUSの艦隊が迫っているとも知らず、高官の面々は一応のSUSへの警戒態勢を敷きつつも、急ぎ戦力の強化に乗り出している。地上部隊では、以前から申請のあったアインヘリヤルUの量産配備が急がされており、ミッドチルダ首都周辺へ配置が行われていた。
  さらに次元航行部隊の方でも、次元航行艦の強化の為に様々な改装を行っている。その中で、地球艦隊が現れる以前に計画されていた新型次元航行艦が、遂に完成を見ていた。
  新鋭艦の名をSX級と言い、全長420mという空前絶後の巨艦である。これが、時空管理局の力の象徴として世間に知れ渡る筈であった――SUSや地球艦隊の存在が知れ渡らなければ。SX級次元航行艦の存在感は、瞬く間に靄の如く薄くなる結果となった。そもそもSX級は、現役艦であるXV級の次世代型次元航行艦として誕生した艦種であるが、どちらかと言えば、次元航行部隊の総旗艦的な役目を帯びた艦種とも言えた。

「時空管理局の、新しい平和の象徴だ」

  等と、強硬派の局員提督は口々に言ったものだが、今は、その声も鳴りを潜めつつあった。寧ろ、平和の象徴ではなく力の象徴だと気付かない者はいなかったが。
  SX級の外観で受ける印象はと言えば、シャープで切れ味が良さそう……であろうか。何せその艦型は、前後に長く、上下に平たくした双二等辺四角錐のようであり、さながら“ブレード”か“ソード”に例えられよう。その平面的なデザインは、前級のXV級と変わらなかったが、シャープかつスマートな印象を与えているのだ。
  これまでの次元航行艦船と違い、幾つかのパーツを組み合わせたようなデザインではなく、本当に平たい双四角錐のみで出来たような姿だった。外装パーツがあるとすれば、艦尾両舷にある次元航行艦船特有の樽型をした魔導炉機関2基だろう。
  表だって武装らしき物は見られないが、全ては格納式であるが故だ。無論、時空管理局にとっての決戦兵器たるアルカンシェルが標準装備されており、発射時には艦首先端が左右に開く仕様になっている。防衛用の対艦魔導砲は、全部で16門を備えており、もしも同等の次元航行艦との対艦戦となっても引けを取らない装備数となってはいた。
  そんなSX級の姿は、本局の工廠ドックにあり、新造艦としてのお披露目として進水式が行われたのだ。進水式とはいっても、この切迫した状況下で華やかには出来ない。時空管理局の上層部ら要人と、報道関係者がいる程度だ。進水式の内容それ自体も、極めて簡素的に行われた。形式通りの式典に、いつにない虚しさを覚えるものだった。
  そして、幕僚長たるレーニッツ大将が式典に向けての言葉を述べると共に、SX級1番艦の名を読み上げた。

「本艦の名を、〈ラティノイア〉と命名す!」

  新たに誕生したSX級ネームシップ〈ラティノイア〉。要人達は、笑顔とは程遠い表情を作りつつ形式的な拍手で迎える。特に強硬派はもとより、慎重派の人間は冴えない表情をしていた。
  その事を出席者であるヴェロッサ・アコースが、小声であるが指摘する。

「有頂天なお偉いさんは兎も角、あの団体は表情からも冴えないようだね」
「当然さ。SX級は完成を見た直後になって、力不足だと指摘されているからな」

  それに答えたのは、ヴェロッサの友人付き合いがあるクロノ・ハラオウンである。クロノも艦艇や多くの武装隊を預かる提督という立場で、この式典に出席していた身だった。そんな彼も、このSX級の就役は歓迎し難い様子である。地球艦隊やSUSが出てこなければ、栄光ある最新鋭艦〈ラティノイア〉としての輝かしい栄誉が与えられたであろう。
  それが誕生した瞬間に、名声は地に落ちたようなものなのだ。時空管理局としては、完成したばかりの〈ラティノイア〉を廃艦にする訳にもいかず、致し方ないという呈で就役させたうえで、次元航行部隊の総旗艦ともしたのである。後続のSX級2番艦は、まだ建造途中であり、全体の凡そ70%が出来上がっていた。これは建造の一時中止が叫ばれており、これではやられるだけだとの声が強まった故である。どう見ても、時空管理局の有する艦船では、概ねSUSに勝てる見込みはないのだ。

「SUSに太刀打ちできるのは、アルカンシェルとアウグストのみ。しかも、アルカンシェルは有効打とは言えない。アウグストくらいしか、有効打は見当たらない……皮肉かな」

  アウグストは、確かに対艦魔導砲としてSUS艦に有効打を与えうる兵器だった。地球艦で言う所の初期型ショックカノンといった存在かもしれないが、時空管理局にとっては数少ない救いであったろう。
  とはいえ、それを装備しているのが小型艦LS級のみであるのは、何と言う皮肉であろうか。大型艦であるXV級やL級では太刀打ちできないのだ。それでも次元航行部隊は、せめて換装可能なL級に対してのみ、急ぎアウグストに換装を進めている状態だった。それでどの程度期待できるかは未知数だが、やらないよりはましである。
  だが、もっと確実な有効打を、時空管理局上層部は真剣に考えだした。一つの結論というのが、地球艦隊の技術導入だ。この結論は皮肉以外の何物でもなかった。結局は、質量兵器を導入しないことにはSUSに敵わないということを示しているからだ。

「地球の技術は、取り入れたくても出来へんからな。なぁ、クロノ君?」
「ん、はやて……」

  佐官クラスの人間として出席していた八神はやてが、突然に話に割り込んできた。クロノは思わず答えに遅れた。はやてが指摘することは、既に上層部も承知している筈だ。
  だが、それだからこそ悩ましいのだ。タキオン粒子のエネルギー変換に成功した波動エンジン技術を取り入れる為には、時空管理局そのものの体質を変化させるをえないのである。前に進もうにも、後ろに下がろうにも、完全に身動きが取れない状況にあった。はやて自身も、この技術を受け入れるべきだと主張する一人ではあるが、その法律がネックになっていた。

「私ら魔導師だけで解決問題でもあらへん。ここは地球防衛軍と協調せな、管理局は滅ぶで」
「はやて……少しは気を付けてくれよ」

  過激な発言をしているであろうことは、ヴェロッサにも分かった。
  だが、その当人である、はやての目は真剣そのものだ。この新たな波乱の時代に突入した今、地球防衛軍の存在はSUSへの抵抗力の大事な一角となっているのは、慎重派な者からは良くわかっていた。強硬派の意見に合わせる訳ではないが、彼女もまた地球防衛軍の存在の優位性を考えている。
  そんな協調性を思い描くよりも先に、時空管理局の瓦解が目の前に迫っていることまでは、予期しえていないのである。




〜〜あとがき〜〜
どうも、第3惑星人です。第14話をお読み頂き誠にありがとうございます。
今回は新造艦のオンパレードみたいな話になってしまいましたが、そろそろ瓦解へ向けて一直線ではないだろかと思います。
戦闘になればなるで、戦闘シーンのオンパレードの可能性は極めて高いです(笑)。
では、その戦闘シーへ向けて頑張ってきたいと思いますので、よろしくお願いします!

〜拍手リンクより〜
[16]投稿日:2011年02月14日19:6:11 EF12 1 [拍手元リンク]
どーもです。
私の方はグダグダ感満載ですが、もし宜しければご笑読下さい。

『主力戦艦』で検索してみて下さい。
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〉〉EF12さん、ご返答ありがとうございます!
実を言えばEF12さんの小説、以前から読んでいたものでした(オイ)
正直な話、その小説を読んでこの作品を書き上げようという起爆剤になったようなものです。
お互いに、作品の完結へ向けて頑張りたいですね!



・2020年2月28日改訂
・2020年3月11日/誤字修正


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