会談を終えてから凡そ一ヶ月が経過していた。それまでの間に、地球艦隊は整備を完璧なものとし、さらには次元転移装置の取り付けも完了させていた。
これらは全て、レティの迅速な手配によるものであった。資源管理世界から運ばれてくる資材を、手際よく地球艦隊の分まで確保し、送り届ける。
それを地球艦隊のクルー達が、それを艦内工場で再加工して損傷した箇所へと持って行く他、管理ドックの作業機械等も併用して完全修理を行っていたのだ。
主に技術班の人間が中心となって艦外へ出ており、無重力の中でうまく外装の交換をこなしている様子がフロアからも窺えた。
 その修理作業は順調そのものといえ、完全修理を終えたら、手の空いた作業班が他の艦の修理に回り効率的に作業を進める、という工程を続けた。
作業風景を眺める局員は感嘆としていたものだ。管理局では艦船の補修作業というのは主にオート・メーションで進められている。
それだけに、今地球艦隊の乗組員が行っている外部修理作業の風景というのは、中々お目に掛かれないであろう、と言うのだ。

「どうです、技術長。本艦の状況は……」
『はっ。外壁の修復は完璧です。ただ、次元転移装置の方は、調整に関してしばし時間を要します』

 〈シヴァ〉技術長ハッケネンの報告通り、外壁は完璧となった。一時間もしない内に、次元転移装置の調整も完了する予定であった。
しかしこれまでに、問題が全く無かった訳ではない。それだ次元転移装置の取り付け作業であった。
管理局がその部品や資材を調達してくる手筈だったが、生産ラインに空きの無かった工場でのパーツ量産には、やや手こずってしまったのだ。
やはり装甲板の量産体制に、全力を尽くしたのが影響してたという。その一方で、地球艦隊側も艦内の電気系統もやや改装しなければならなかった。

『それにしても、追加配置というものは言うのは簡単ですが、設置するのは大分苦労しましたよ』
「ご苦労様です、技術長」

加えて〈シヴァ〉は他艦の装甲板を製造するために艦内工場をフル稼働していた事も影響していた。次第にその負担も軽減され、スムーズに進んでいた。
装甲板とパーツの他に、新たに供給されている食糧と医薬品に関しても順次積み込みが行われ、これに関してはもう数時間もしない内に完了した。
 だが地球艦隊とは別に時空管理局(A・B)の状況は切迫している。数日には第六拠点が襲撃されて陥落してしまったのだという。もはや一刻の猶予はない。
管理局では対応に四苦八苦しているとの事で、リンディからも連絡を受けていた。最悪な事に、ここ数週間になってSUSは辛辣な方法を選び出した。
どうやらSUSは、本局と各管理局の間で大規模な通信妨害を行っているとの事だ。これでは対応どころか、連絡さえ執る事も出来ない。
これは完全な孤立を意味していた。各拠点は独自に行動するしかなく、直接連絡を取るにも次元艦船では七日か八日はかかってしまうのだ。

「広すぎた空間が仇になった訳だ」
「そうですね。戦力が多くても、分散配置なおかつ、通信手段が途絶えてしまえば、それは大半が遊軍となるわけですから」

 コレムの呟きに、ジェリクソンが言う。大抵の者であれば、それくらいの事は理解できる。通信手段を途絶えさせるだけで、どれ程の心理的ダメージが期待できることか。
さらにSUSが辛辣なのは、壊滅直前に妨害工作を取りやめる事で、ワザと全滅した事を知らせてやるのだ。管理局は愕然とするばかりである。
この手段には防衛軍面々も嫌悪感を示した。コレムもSUSに蹴りを入れてやりたいと言わんばかりだ。

「わざわざ、全滅した、と教えてくるんだ。心理的効果は大きいうえに、卑劣この上ない」

ここまで来ると、そろそろこの本局も危なくなってきているのではないか。局員のみならず、ミッドチルダの住人までもがそう叫び混乱しているという。
 時空管理局創立以来の大きな傷は、次第に回復を容易ならざるものにまで深めている。伝説の三提督でさえ、この緊急事態に対応に苦悩していた。
各主要世界にもSUSの手は伸びており、地上部隊を尽く葬り去り制圧しているとコレムは聞く。ミッドチルダ住人達の安全は絶対のものとはなり得ていない。
襲撃に備えてどこへ疎開させるべきなのかと局員の幹部達は必死の様子だ。どこへ疎開させてもいずれSUSの手が伸びると分かれば、どこも安全とも思えて来ない。

「SUSの襲撃ペースは次第に感覚が開いているようだ。それでも、十分に早いと言っていいだろう」
「……副長、管理局は相変わらず後手後手に?」
「あぁ。連絡が途絶える寸前、各拠点に対して戦力を集中させるように命じたそうだ。それ以後は妨害工作で何もできない……やっかいなことだ」

テラーの問いにコレムは答える。やはり時空管理局の艦船では大幅な力不足が見えており、SUS艦隊に対しての戦闘は極めて劣勢の展開を見せていた。
艦船の総数も二四〇〇隻近くあったが、今や一四〇〇隻にまで減らされている状態だ。各拠点に兵力を集中させていても、結局は兵力分散の状態を作り出しているに過ぎない。
 今まで艦隊戦を禄に経験したことのない管理局では、その兵法も無知とは言わないまでも未熟ではあった。コレムにしても何とか助言をしておきたいと思うものの……。

「まさか、私如きの意見が彼らに通用するとは思えんしな。下手に口出しする事も出来ん」
「しかし、言わないよりは良いと思いますが……」
「戦術長の言う通りですよ」

ジェリクソンに続いてレノルドもそう助言する。他の者達も揃って言っておくべきだと押すのだが、コレムには自身の助言に確信性の様なものがあるか不安であった。
本当であれば自分よりもまず上司たるマルセフに進言しておくべきだったが、その彼は今現在のところは療養中である。退院ももう間もなくという話ではあるが……。
管理局の艦船を集中的に運用させるべきであろう事を伝えたかった。しかし、管理局の保有する艦船では数を集めてもそれは外見だけの艦隊となりうる可能性が高い。
 話によれば管理局で唯一対抗出来る兵器というのが、反応消滅砲(アルカンシェル)という広範囲殲滅兵器だと聞いていた。だが問題はかなり有るようであった。

「そもそもアルカンシェルは、艦隊戦用の決戦兵器としては不向きらしいのだ」
「どういうことですか? 広範囲殲滅兵器なら、艦隊戦にはうってつけでは……」
「戦闘班長、我らが使用する波動砲(タキオン・キャノン)はチャージが長いが、それが完了さえすれば問題は無かろう?」
「え、えぇ、それはそうですが……」
「アルカンシェルの充填時間は、波動砲より三〇秒早くチャージを完了させることが可能らしい。だが、その予兆が丸見えだというのだ」

そこまで言われて、レノルドはハッと思い出した。SUSと遭遇したときに管理局艦隊は光球を作り出していたのだ。まさかそれがアルカンシェル……。
コレムは頷いてそうだと言う。アルカンシェルは発射までに光球を作り出してしまい、それは敵に今撃ちますよと警告させているようなものだ。これが欠点だ。

「成程、そういう事ですか。それでは、管理局の善戦は難しいですね……」

テラーが難しい表情を作りながら考える仕草をする。こうもなってしまうと、いざ地球艦隊、管理局艦隊が共同戦線を張っても打ち崩されてしまうのがオチであった。
ではどうするべきか? それに艦隊の全体指揮権はどうする? あまりこちらが主導権を握る等と言い出せば、相手が食いついてきて罵声を浴びせて来るに違いないのだ。
と言って管理局の提督に多数の艦船を指揮するのは不慣れと見ているし、うまく指示を出してくれるか怪しいものだ。訓練航海でもしてみるべきだろうか?
 だが日数が足りない。SUSの進撃速度からして二ヶ月もしない内に管理局の全拠点は崩れ去ってしまう事であろう。それでもやらないよりは遥かにましか。

「ここは迷っているよりも、直接話した方が良さそうだな」
「副長、どうなさるおつもりで?」
「うん? あぁ、ちょっとな。通信班長、〈ミカサ〉へ通信を繋いでくれ」
「了解!」

レノルドの疑問にそれとない返事を返しつつも、テラーに東郷への通信を命じた。数秒すると通信用の小型端末スクリーンに東郷の姿が映し出された。

『何かね、大佐』
「閣下、唐突な話ではあるのですが……実は管理局との合同訓練を行おうかと考えているのです」
『なんと、合同訓練とな?』
「はい。これはまだ私の提案でしかないのですが……東郷閣下、及び他の艦艇にも意見を聞いたうえでマルセフ司令へとお伝えしようか思うのです」

コレムは自分ら艦隊と管理局の艦隊との運用練度の違いを示唆したうえで説明した。説明を聞き終えるまで、東郷は口を開かず相槌を打ったりして彼の話を聞き入れた。
東郷にしてもその点は大いに不安であったのだ。防衛軍と管理局、別箇で戦うと言えばそれまでであろうが、それではSUSに勝利する事など到底叶わない話である。
 全てを聞き終えてから東郷は口を開いた。

『成程な。貴官の主張する所は私も賛成だ。訓練期間は無きに等しいであろうが、やらぬよりはマシだろう。それに……』
「?」
『修理作業や療養で練度が落ちとる心配もある。我々だけが訓練を行うより、管理局の者達にも艦隊戦の心得というものを教えていても良かろうて』

意地の悪い老教授の如く、咽の奥で笑う東郷を見てキョトンとするコレムやクルー達。この言葉は長年に渡り艦隊戦を行ってきたからこそ出て来るものであろう。
まだ若いコレムや新任の士官が言っても納得し難いことには間違いない。東郷の方からも他の艦長達に話しておこうと言ってくれた事もあり、速やかにマルセフへと意見の上申を行う事が出来るのだが、兎に角は医療局(メディカル・センター)へ行かねばならない。
 それに管理局の方にも一応、医療局へと赴く事伝えておかねばならない。面倒ではあるが、自分らは管理局の人間ではないのだから当然である。
テラーに頼んで管制室へと通信を送り、許可を貰うのを確認するコレムは小さく頷いて早速下艦の準備を始めた。そこへレノルドが護衛を手配させますかと聞いてくる。

「いや、大丈夫だ。お互いの事は一応の共同戦を張る事に決めている。襲うような野暮なことはするまい」
「ですが……」
「航海長、そんなに心配していても始まらんよ。まぁ、私が捕まったりした場合……遠慮なく撃ってしまえ」
「「……え?」」

一瞬空気が冷えたような気がした。気温は二六度くらいであるのに何故であろうか? 随分とはっちゃけた発言をするコレムに皆は少々唖然としているようだ。
確かに最初の頃は管理局相手にギスギスしていた節もあろう。今は会談によってそことなく味方同士である決めた後だから、余計に真に受けているのであろう。

「……何を固まっているんだ? 単なる冗談だぞ?」
「あ、いや……何でもないです」

冗談だと言い放つコレムにジェリクソンは気まずそうに答える。

「管理局には全員が我らを理解してくれているとは限らんが、以前この艦に来たクロノ・ハラオウン提督や高町一尉、それにテスタロッサ・ハラオウン一尉、リンディ・ハラオウン提督、ロウラン提督らは我々を理解しれているのも事実だ。そんな彼らが暴動を許す筈もないだろう」

と信じたいというのが本音であるが、それは敢えて口にしなかった。後を頼むと言い残して彼は艦橋を出て行った。やや不安が残っているクルーはただ待つしかない。
 コレムが下艦し管理ドックのフロアへ入った頃になると、東郷の手配で全艦隊への連絡が行き渡っていた。
装甲巡洋艦〈ファランクス〉では、久々に行われるであろう訓練を前にして複雑な表情を浮かべる者が多かった。

「訓練……ですか」
「えぇ」
「確かに足並みをそろえる為には、必要だと思いますが……時間がそれ程ありません」

戦術長であるバートンは、やや上の空であり、スタッカートはまんざらでもない様子。レーグに至っては生真面目に必要性を提示している。他のクルーの反応も様々だ。
それでも訓練自体が必要であることは分かっている。だが足手纏いの管理局艦を連れて戦うなど、彼らからすればまっぴら御免であった。
 ふとスタッカートは紅茶の入ったカップを受け皿に置いてため息を吐いた。

「はぁ……」
「どうなさいました? 艦長」
「地球の事が心配なのよ。ブラックホールに飲み込まれると知っていても……ね」

その一言で周りもしんと静まり返る。今まで幾度となく戦渦に巻き込まれ、不屈の復興を成し遂げていた地球が消えて無くなる。
次元空間に来てからは頭が混乱していて、抜けてしまっていたが、今こうして振り返ると何とも言えぬ無念な気持ちが込み上げていた。
 レーグ少佐は元デザリアム出身者であるにしても、一七年もの間地球で過ごしてきた見である。彼にも地球への愛着心というものが染み入っている。
第二の祖国とも言えるのだが、今回のブラックホールの件において二度目の祖国喪失を味わう事になるのだ。
だが彼らは地球がブラックホールからの脅威に救われたことを知らないでいる。そしてそれを知る事が出来るのは、もう少ししてからの事であった。





 管理局本局の通路を歩いているのは、執務官たる八神 はやてであった。しかし彼女とは別にもう一人の少女がいたが、それを人と呼ぶには小さ過ぎるサイズであった。
凡そ三〇センチ程の身長からして、まるで人形とさして変わりないように思える。だが実際に小さな少女は、はやてと会話している。
腰下まで伸びた水色の髪に、蒼氷色(アイスブルー)の瞳持つ小さな少女。その名をリィンフォースU(ツヴァイ)と言う。
はやてに仕える守護騎士団(ヴォルケンリッター)とは少し違う、融合騎(ユニゾン・デバイス)と称される存在だ。
彼女と同じく、青を基色とした管理局の制服に身を包み、何やら会話で盛り上がっている様子である。
 しかし彼女らの目の前に管理局とは全く異なる服を着た人物が視界に入った。

「はやてちゃん、あれは誰ですか?」
「んん? あれは……」

彼女らの視界に映るその不審そうな男性にリィンフォースUは怪訝な表情で主に訊ねる。訊ねられたはやても、一瞬は不審人物かと疑ったものの直ぐに何処の人間か理解した。

「あの人はあの時の地球防衛軍(E・D・F)の軍人やないか」
「へぇ〜、あの人が地球防衛軍なんですか?」

あの時というのは、地球艦隊が管理ドックへ入港したばかりの時に、彼女は友人のユーノやヴェロッサと共に艦を降りるコレムの姿を目撃していたためだ。
なにやらキョロキョロと浮ついている様子から、何かあったのかが伺える。相手は彼女らにはまだ気づいていないのだが、進行方向からしてその男性に当たらざるを得ない。
迂回するのも面倒かつ放っておくのも忍びないとして、致し方なしに接触して訳を聞いてみる事にした。また、はやて自身も直接に話してみたいという興味からでもあった。

「はて……医療局は何所だったか?」

 はやて等が言う不審人物――コレムは局内で迷っているという失態を演じている最中であった。管理ドックのフロアを抜けたまではいいのだが、途中で医療局への道がわからなくなってしまったのである。
日頃〈シヴァ〉に待機していたためであろうが、何とも間の抜けた事を仕出かした事やらと自分を攻めたてているコレム。
こんな事であれば護衛に誰かをつけておくか、局内用の案内図でも見せてもらうべきであったか、等とぼやいていると彼に救いの手が伸べられた。

「あのぅ……」
「?」

 後ろから声を掛けられたコレムは一瞬だけビクリと背筋を伸ばし、後ろへと振り返った。するとどうだろうか、二〇歳になるかどうかの日本人らしき女性がいるではないか。
しかも、右肩に人形(リィンフォースU)を乗せている。変わった趣味をだと思いながらも、声を掛けてきた若き女性局員の方から敬礼の後に自分の名を明かした。

「本局所属の八神 はやて二等陸佐です。何か御困りのことがあるように見受けられましたが……」
「あぁ、私は地球防衛軍艦隊旗艦〈シヴァ〉副長のリキ・コレム大佐です」

この自己紹介までは良かった。だが絶句するべくして、絶句したのは肩に乗っていた人形と思しき方からの自己紹介であった。

「はやて二佐の補佐を務めます、リィンフォースU空曹長です」

語尾に音符マークが付きそうなくらいニコニコな小さな少女。どう反応していいのかわからない。以前入手したデータには守護騎士なる集団がいるのは分かっていた。
 だがこの様な小さな少女までがいるという事までは把握しきれていなかったのだ。驚きを隠しきれないでいるコレムに、はやてがフォローを入れる。

「この子は私のユニゾン・デバイスです」
「ユニゾン……デバイス……?」
「はい、そうなのですよ」

何とも気の軽い少女だことか……。それよりも魔法世界というのは何がいても不思議ではないのだなぁ、とやや空想にふけ気味なコレムであった。
因みに彼ら地球艦隊乗組員は知り得ていないが、ユニゾン・デバイスの他にも空想上の生き物としか見ていなかった生物もいるのだ。
 だが、いつまでも呆気にとられる訳にも行かない。肝心な本題を忘れるところであったことに気づくと、彼ははやて等に自分が行きたい目的地の場所を聞き出した。

「あぁ、医療局ですか。ほな私が案内します」
「良いのかい? 貴官らは移動途中だったのでは……」
「平気です。これと言って急ぎでもないんで」
「……わざわざ申し訳ない、八神二佐、リィンフォース空曹長。では、よろしくお願いする」

やたらと畏まった様にお願いをするコレムに、恐縮な気持ちのはやてであった。早速と言わんばかりに彼女が先導して医療局へと向かう異色の三名。
 到着するまでの間は無言な両者であったが、先に口を開いたのははやての方だった。

「大佐が乗っておられる〈シヴァ〉は、一番大きい艦ですか?」
「そうだが……何か気になる事でも?」

はやてにしてみれば、〈シヴァ〉程の大型戦闘艦というのは初めて目にしたという。次いでの様にしてリィンフォースUも同じことを口にした。当然と言えば当然だ。
一番巨大な艦と言えばつい先日に完成したばかりの〈ラティノイア〉くらいであり、例外と言えば〈ゆりかご〉であろう。まともな戦闘艦で四〇〇メートル越えは初めてだ。
少し好奇心を出しているはやてであるが、そんな彼女にコレムはこんな事を言った。

「二佐、貴官は〈シヴァ〉が最大だと思っているようだが、地球ではまだしも他国から見ればまだまだ小さい方だぞ?」
「えっ! 〈シヴァ〉は小さい方なんですか!?」
「そうだとも。最大で五〇〇メートルの主力戦闘艦、それに一五〇から二六〇メートル規模。合して一万隻を超す配備数を誇っている巨大国家さえあるんだ」

 〈シヴァ〉でさえ他国から見れば小さい……これを聞いた、はやてとリィンフォースUは共に絶句してしまった。
五〇〇メートル級戦闘艦に、二六〇メートル級の戦闘艦が一万以上と来るではないか。これはガルマン・ガミラス帝国の艦船を言っているもので、コレムの言う事に間違いはない。
さらに同級の戦闘空母、三段空母、二連三段空母、二六〇メートル級中型戦闘艦、二〇〇メートル級駆逐艦等の様々な戦闘艦が存在している。
銀河を制する事を目標としたデスラー総統からすれば、この戦力数はまだまだ少ない方であり、全ての戦闘艦を合計しても一万二〇〇〇隻を辛うじて行くかどうかだ。
以前は四方面毎に四〇〇〇隻、計一六〇〇〇隻はあっても良かったのだが、銀河交差現象という大災害に見舞われた時には、それに巻き込まれてしまった。
 勿論の事、その災害に挫けることなくしてデスラーは国家の再建に尽くした。はやてとリィンフォースUは、そのような大帝国が存在するとは少し信じ難い気持ちだ。

「ほんまに驚きですわ、コレム大佐の地球世界ってそんな国家が幾つも存在するんですね?」
「まぁ、驚くのも無理もない。……それより、私も聞きたいことがあるのだが……」
「なんです?」
「貴官は、地球出身だと聞いたが……」

それを尋ねられた瞬間、少しだけビクリとさせたものの、彼女は平常心を保った。やはり自分らの事も知られてるんだ、と思い知らされた。
管理局の事を知られていたという話は、以前に〈シヴァ〉へ訪問した、なのはからも聞かされていただけに隠し通す意味もないことは分かる。

「なんでも、管理局内では選りすぐりのエリートだと聞いている」
「エリートって言われると、何かくすぐったいです。それに、大佐は何もかも知っているようで……」
「何でもじゃないさ。大まかなことだけだよ。それにしても、先日もそうだったが貴官の様な若く美人な局員が、危険な任地へと行くとは信じ難かったよ」
「び、美人やなんて……」

コレムの口から出た美人という言葉に、思わずはやては頬を少し赤らめた。それに反応したリィンフォースUが、赤くなったですぅ! 等と軽く彼女を茶化している。
そんなユニゾン・デバイスに、少しムキになって黙らせると、はやては自分が管理局へ入局した気持ちをコレムに伝えた。 

「確かに私は小さな頃から管理局に入局しました。皆を守りたい一心だったから……だから危険な任務も招致の上なんですよ、大佐」
「だが、それでは……」

 そこまで言ってコレムは口を噤み、何でもないと何事も無かったの如く黙り込む。はやてやリィンフォースUは、彼が何を言おうとしたのか判断がし難かった。
目の前の女性が口にする、皆を守り通したい、平和を守り続けたい、そいう気持ちは十分に理解出来る。コレムだってそういう任務を帯びて、艦隊に勤務しているのだ。
今は二〇歳になるかぐらいの年齢であろうが、それ位の年は防衛軍で言えば訓練学校を卒業して二、三年に当たる。
 しかし管理局の場合、一〇歳に満たぬ子供でさえ任地へ派遣する事さえあるというのだから、地球連邦しいては地球防衛軍からしてみれば異常だ。
管理局への内部組織へ口出しする事は出来ないにしろ、コレムはそんな組織の運用に不満を持っていた。幾ら非殺傷魔法とはいえ、死傷者が発生する事もまれにある。
平和を守りたいと願い、行動する幼き子が命を落としてしまっては元も子もないではないか。死んでしまっては、守りたいものも守れないのだから……。
 やや気まずくなったコレムは、軍帽を深めに被って目線を鍔の下に隠した。平和を守りたい気持ちは一緒であるのに、何故こうも隔たりを感じてしまうのか。
改めて複雑な心境が舞い戻ってくる。すばらく無言のうちに、三名は目的の医療局の入り口に到着した。

「わざわざ済まなかった、八神二佐」
「大したことないです。私らは食堂へ行く途中でしたから」
「そうですよ〜。どうせだったら、コレム大佐も一緒ならよかったですよ」

無理を言うんやない、等とリィンフォースUの頭をこつん、と触る程度に人差し指で小突いた。軽く小突かれた方はやや大げさに痛いですよ〜、等と呟いている。
意外なお誘いの言葉にコレムは苦笑すると、小さき妖精に感謝の言葉を返す。

「曹長のお誘いには感謝するが、私は防衛軍の人間だ。管理局の内部に姿があるだけでも、私は邪険に見られるだろうし、そんなことで貴官らに迷惑は掛けたくないさ」
「そんな事はないですよ大佐。邪険に思ってるのは、頭の固い一部上層部だけです。それに管理局の艦隊を救ってくれたではないですか!」
「そうですよ!」
「そう言ってくれるだけでも感謝するよ、八神二佐。リィンフォースU曹長」

 そう言うのと相まって、丁度良いタイミングでシャマルが姿を現した。はやてからの念話を通じて出迎えに来ていたらしい。
改めて案内をしてくれた二人に敬礼すると、シャマルの案内の元で医療局のマルセフのもとへと向かった。
その際にはやては念話でコレムの事を任せると伝えると、行く目的地であった食堂へと向かって行くのであった。

「閣下!」
「おぉ、副長」

 局での療養生活から凡そ一ヶ月が経過するマルセフ。、地球艦隊の乗組員達は大体の回復を成し得ている様子であった。マルセフ自身も随分と楽そうな表情が伺える。
そして良い知らせとして、意識不明の容態が続いていたラーダーが目覚めたという。これにはコレムも安堵した。そして彼は先ほどの訓練案についてマルセフに話し始めた。

「そうか、分かった。副長の言い分も尤もだろうし、東郷少将も納得しているなら、私も拒否するつもりはない」
「では!」
「うむ、私からは訓練に関しての案は認める。だが管理局の許可を貰う必要があるだろう」

そこまで言った辺りでシャマルが口を出した。どうやら彼女の方から事前にリンディへ連絡を入れておこうか、という申し入れであった。
意外な申し出に答えに詰まるマルセフであったが彼女とリンディとの間柄を聞かされると、その方が手っ取り早さそうだという事になり、兎に角もシャマルに任せる事になった。
リンディに話を通してそこから上層部へと提案を出す形となるが、果たして間に合うのだろうか。二人はその不安を隠せそうにもないが、いつまでそうする訳にもいかない。
いずれ〈シヴァ〉の方へ連絡が入る事になるため、コレムは療養室を退室して戻ろうと思ったが、マルセフにラーダーの様子を見たらどうだと即された。
 それに頷いてコレムは、シャマルの案内でラーダーの横たわるベッドまで足を運ぶ。そこには、意識をはっきりとさせたラーダーの姿が見られ、相手もコレムに気づいた。

「参謀長!」
「副長か。久々に見たな、貴官の顔を……」
「小官もです。非常に危うい様でありましたから、心配が絶えませんでしたよ」
「あぁ……。目が覚めた時、一瞬、あの世へ辿り着いたのかと思った。自分の知っている場所じゃなかったからだ」

ラーダーによれば、彼も目覚めた少し後に現状を聞かされたという。余りにも唐突な事実を知らされ、ラーダーは混乱に拍車を掛けさせられた。
だが同じ病室にいたマルセフと、彼らかも話された内容を耳にして遂に納得をせざるをえなかった。ここはあの世等という世界ではなく、別次元空間に存在する世界の中だと……。
そこからは彼も開き直ったようにして、否定する事をやめて受け入れたのである。

「ラーダー少将、あまり無理をなさらないようにお願いします」
「先生のご忠告に感謝しますよ。副長、私も明後日には何とか動けそうだ。司令は先に退院するようだから、それまで〈シヴァ〉を頼んだぞ?」
「ハッ!」

 先生とはシャマルの事を示しており、防衛軍でも軍医の事を先生と呼ぶ傾向がある。シャマルも外見は二〇歳後半であるが、見てきた年数は通常人の数倍はあるだろうから、先生と呼ばれるのも案外妥当であろう。
マルセフとラーダーに顔を出し終えたコレムは、〈シヴァ〉へと戻り管理局からの返事を待つことになった。マルセフも明日には戻るという話だ。
間もなくSUSからの攻撃が始まろうとする中で、地球艦隊のみならず管理局の面々、巻き込まれた三ヶ国艦隊、そしてマルセフらの故郷である地球、それぞれが先に見える戦いに向けての準備を着々と進めていた。



〜〜あとがき〜〜
どうも、第三惑星人です!
今回は例によって少し?遅い更新となり、申し訳ないです。
遅くなった理由、というのは指してないのですが、つい数日前から『帝都物語』というものにははまり込んでいた次第です(←オイ)。
あまりに登場人物がかっこいいものですから、ついついまた何かと絡ませられないかな……などと想像(もとい妄想)を張り巡らせていました。
さて、今回はコレムらの視点を中心としました。次回はまた別の視点からにしようと思います。
では今回はここらで失礼させていただきます。

拍手リンク〜
[二七]投稿日:二〇一一年〇四月〇六日一七:二一:一三 山口多聞
 原作はどちらとも見ていませんが、燃えます!!がんばってください。

〉〉コメント、ありがとうございます!
読んで燃えて頂いたという事で、私もそれに応えるべく頑張ります!

[二八]投稿日:二〇一一年〇四月〇七日一三:一三:五九 EF一二 一
う〜む、次元転移装置と瞬間物質移送装置がイコールに近い設定だったとは……。
そういう観点もありましたか。

〉〉毎回のコメント、感謝です!
次元転移装置と瞬間物質移送器は、はっきり言ってやっつけなかんじでしたw
まぁ、そういう考え方もありかと思った次第で……w



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