本局内部の大型食堂には、上級士官から下士官らも共有出来るものとなっている。食事時になれば、それなりの活気や賑やかさがある。
だが、ここ一ヶ月以上も続く各拠点、幾つかの管理世界が陥落したという事実が、局員に対して活気を与えるわけもなく、沈んだ雰囲気しか残さない。
皆して気持ちが沈んでいる。特に次元航行部隊の中でも、艦隊勤務の者のモチベーションというのは極端に低かったと言えるだろう。
沈んでいく僚艦の訃報を聞くごとに、今度は自分らの番であろうかと言わんばかりの負のオーラを発していた。
 だが士官の中には、未だに現実を逃避している者が見受けられ、管理局が敗北する訳がないと公言しているのだ。
それこそ現実的(リアリスト)な人間や、消極派の人間から見れば異端である。まだ分からんのか、SUSに対抗する事は無理に等しいという事を。
そうやっていつまでも現実逃避して、管理局を本当に潰してしまうつもりなのか? 等と批判する者が遙かに多かったのだ。
もはや管理局の名誉うんぬんではないのだ。どうすれば対抗出来るかの術を探り、さらには地球防衛軍なる軍隊の力を借りねばならない。
 今この食堂に足を運んだばかりの八神はやても、同じ様な意見の持ち主であった。はやてはトレイを手にして、食べる分だけの量を盛り始める。
食事は地球文化と対して変わりない様で、地球でいう洋食系統と似通った種類が多く、中でもスパゲティ類というのはそのままと言えよう。
容器に盛り終わると彼女は座るべく席を探しだした。すると一〇メートル先にある円卓テーブルに、彼女のよく知る人物三人――親友のフェイト・T・ハラオウンとティアナ・ランスター、シャリオ・フィニーノの姿が確認出来た。

「ここ、ええかな?」
「はやて? いいよ、空いてるから」

 副官のティアナとシャリオも軽い挨拶をする。席を空けてくれた三人に対して、おおきに、と大阪弁特有の礼を言うとはやてとリィンフォースUが座席に座る。
フェイト達は先に食事に手を付けていたらしいが、半分も減っていないバターロールや、飲んだ様子の無い卵スープ、あるいは一齧りしたサンドイッチ等、全体として減っている様子は見受けられない。
 まだ食べ始めた頃なのであろう。着席草々、はやてはコレムに会ったことを話した。それを聞いた三名は驚きの表情をしていたものの、それ程に大げさな様子でもない。
会った理由について、コレムが医療局(メディカル・センター)へ行く途中に鉢合わせしたと述べる。ふとコレムが局内に単独でいたのか気になり、フェイトははやてに訊ねた。

「コレム大佐は一人で局内にいたの?」
「そうなんよ。いやぁ、ほんまにビックリしたわ。何でも、大佐は医療センターが目的らしかったんやけど……」
「迷ってたんですぅ!」

彼がもしもその場にいたら、さぞかし赤面の表情をしていたことであろう。それを知った三人も、コレムのおっちょこちょいなところに意外さを感じたのだが、はやてに至ってはリィンフォースUに対して、それ言っちゃあかんやろ、と注意した。
 今更そんな事を言っても仕方のない話だが、フェイトにしてもコレムが局内を一人で移動している事には、多少の驚きを禁じ得ない。
ここの食堂ではあまり大きな声で言えないだろうが、彼は地球防衛軍の士官あり、しかも会談では代理人として出席した人物なのだ。
リンディやレティから、ある程度の行動の自由を約束されているわけではあるが、護衛を付けたりはしないのだろうか。
一人で歩いているところで、もしも強硬派に襲われたらどうするのか。フェイトはそう感じずにはいられなかった。
 しかし、それをはやては自身なりに推理してみた。

「コレム大佐が一人で行動してたんは、きっと管理局を信頼してくれるからやろうね」
「え……そうだとしても、危険だとは思わないんですかね?」

ティアナは怪訝な表情をしてコレムの行動を疑問に思う一方、シャリオはどこか納得した様子で頷いている。はやての推理は、大凡のところ当たっていると言えた。
そう言ってから、はやては容器に盛っていたフライドポテトをフォークで差して口に運んだ。次いでとして、小さく砕いたポテトをリィンフォースUの口元に持って行く。
 融合騎(ユニゾン・デバイス)は、守護騎士団(ヴォルケンリッター)らの様なプログラムの一種でもあるのだが、人間と同じくして食物を体内に取り入れる事は出来る。
口元へ運んでもらったリィンフォースUは、嬉しそうにポテトにかぶり付いた。小さな口で懸命に食べる姿が愛らしいリィンフォースUを皆が眺めやりつつも、はやてはトレイに盛っておいたクリーム・スパゲティにフォークを刺すと、クルクルと回し始める。
 たが考え事をしているためか、またはフェイト達と会話に集中しているためであろう、フォークをそのまま気怠そうに回し続けている。 

「医療局ってことは、上官に面会しに行ったの?」
「詳しい事は聞いてはおらへんけど、恐らくはそうやろうね」
「上官って……確か、マルセフ提督の事ですよね?」
「そうだね、シャリオ。マルセフ提督は療養中で会議に出席されていたけど……」

それについては、シャマルとの念話で話していたはやてから聞く事が出来た。防衛軍の負傷した面々の殆どが順調に回復しているという。重症者だった者も意識を戻した。
退院は遅れるだろうが、数日中には出る事が出来るのだろうだ。それを聞いた三名は感心し安堵した。ここまで回復能力が早いのは、魔法による治癒だけではあるまい。
 はやては付け加える程度で話した。地球艦隊の面々が行っていた応急処置が、見事なほどに的確でシャマルらの手間が省けたということだ。

「あ……はやてさんがコレム大佐に会ったという事は、リィンフォース空曹長も会ったんですよね?」
「そうですよ〜」
「コレム大佐はリィンフォースを見て、何とも思わなかったの?」
「あぁ〜、動揺はしてたみたいやね。まぁ、無理からぬことやろね」

ティアナの疑問に本人は気軽そうに答える一方で、フェイトもコレムの反応が気になって聞いてみたが想像通りだったようだ。
普通の魔法文化を有さない人間からしてみれば、リィンフォースUの様な小さな少女はあり得ない存在である。
 そこでフェイトは思った。彼女の後輩であり元機動六課と同じであり、そして被保護者でもある小さな召喚士の少女の事を思い出した。
その少女の名をキャロ・ル・ルシエと言い、あるきっかけでフェイトが保護していた一〇歳前後の幼き子であるが、この少女は魔導師よりも召喚士としての力が強い。
召喚士と聞けば、それまたファンタスティックな世界の醍醐味でもあろう。そしてそれは空想上のものでしかない。あくまでコレムら地球防衛軍にして見れば、である。
 だがそれは、この世界では実在してしまうのだ。この少女が召喚しているのは、架空生物または神話世界で定番とも言える(ドラゴン)(または龍)という生物であった。
地球での呼称や姿形は様々であるがコレムらから言えば、キャロの連れている召喚獣は西洋で言うドラゴンであろう。
日本や中国で言う胴体の極めて長い蛇の様な龍とは違い、西洋の物は胴体が長くなく、背中――或いは腕そのもに翼を生やしている姿が定番であり、少女の竜はまさにそれだった。
 もしもコレムらがそのドラゴンを見た場合、どんな反応を示すのだろうか? やはり呆然として立ち尽くすというのが予想できる。
さらにキャロの竜は形態が三つ程存在しており、通常時は約三〇センチ程の大きさでパタパタと可愛らしく飛び回っているものの、戦闘時には全長五メートル程に変化し、時には人型になったりと、度が過ぎる変化を行う。

「それと……コレム大佐は、管理局に対してはあまり良い印象を持ってはおらへんかったね」
「直接聞いたんですか?」
「ちゃうよ、ティアナ。あの人の会話の様子からやて」
「……やっぱり若すぎるから、ということ?」
「そうかもしらへん。私が幼い頃から管理局に入っていた、と話していたら、難しい表情をしておったわ」

 そこでフェイトは思い出した。コレムが代表者として会談に出席した時に口論になったのだが、その時のコレムと東郷は、次元艦船の中に居た幼き魔導師の姿を見て、相当に怒りに震えていた、とリンディから聞いていたのだ。
地球防衛軍から見れば自分らの採用制度は異端だという事であろう。だがそんな幼き魔導師達の中にも、入局する以前に何らかの理由で魔導師に助けられ、その影響によって魔導師となる事を目指す子達も大勢いる。
実際に彼女らの後輩の中にも、そういった理由で管理局入局を目指して試験を受けた者がいた。

「初めてコレム大佐やマルセフ提督、東郷提督に会った時、あの人達の中にある闘志、とでも言えばいいのかな、それが外見から強く感じられた」
「フェイトさんの言う通りかもしれないです。あの人達の持つ戦いへの考えかたや覚悟の持ち方は、まるで私達とは違うように見受けられました」
「まぁ、あちらは本当の軍隊や。私らは、あくまで次元世界の治安を目的とした組織なわけやし、他人の命を奪うような事は出来へん」
「……でも、それが管理局の限界でもある、ということですよね?」

 最後にシャリオが付け加えた。彼女の言う事は正しい。はやて、フェイトらも非殺傷設定のもとで戦ってきた訳であるが、いざ殺傷可能な戦闘に即時突入出来るかと言われれば、不可能に近い方であったといえるだろう。
もしも魔導師或いは人間相手に殺傷が出来るメンバーと言えば、はやてに仕えるヴォルケンリッターの面々及び、管理局へ入局等をした元ナンバーズの六人のメンバーであろう。

「管理局がどこまで柔軟に対応出来るか、これが最大の問題点と言えるね」
「そやね。マルセフ提督らは、転移技術を提供する代わりに私ら管理局と戦う言うてはるんや。お偉いさん方も、だいぶ頭を柔らかくしてるみたいやし」
「ですが……大丈夫でしょうか?」

 シャリオは転移技術供与に関して不意に思った。管理局側としては貸す形で教えている訳だが、それが本当に戦いの終結後には返してくれるのだろうか?
どのみち元の世界へ戻るには転移装置を使わねばなるまい。その時は管理局側で地球艦隊を転移させる術を持ち合わせるであろうが、その後はどうなるのだろう。
地球連邦政府は他国への侵攻は良しとしない思考を持っている。あくまで同盟関係のような良好な国家間の付き合いを望むとされているものの、それは信じられるのか?
もしも転移技術が地球で独自に完成されてしまったら……次元世界へ手を広げたりするのであろうか? そうなれば管理局と相対することは必然的となるに違いない。
 シャリオの心配にはやては答える。地球艦隊しいては地球連邦はそんな軽薄な事をする可能性は無いと。

「それに母さんやクロノの話だと、地球は幾度となく滅ぼされかけているって言っていた」
「それってどの位ですか?」

リィンフォースUがフェイトに訊ねる。この少女は未だに別の地球に関しての情報を詳しく知り得てはいないためだ。その問いにフェイトは覚えている事を話す。

「コレム大佐が見せた資料だと、確か六回だと思う」
「ろ、六回もですか!?」

小さな少女は驚いて軽く飛び上がる。はやても、地球が侵略を受けていたことは知っていたものの、六度に渡るものだとは想像だにしなかった。
よくもそれだけ攻撃を受けて、その都度に復興を果たせたものだと感心してしまう。しかも、地球の表面には傷跡が生々しい形で残されているといい、普通ならば星としての機能が失われてしまうのでは、と思われてしまうくらいであったらしい。
これを初めて聞いた者であれば、リィンフォースUの様な反応は妥当なものだろう。フェイト、はやてら五人は、かのJ・S事件を再び思い浮かべる。それと比べてどうだろうか。
 彼女らにしても事件当時は懸命に命を懸けて戦い、首謀者たるスカリエッティを捕らえたものだが、地球艦隊から見れば、それは地方反乱のレベルでしか見えない筈だ。
彼らの経験してきた事はもっと過酷で壮大な戦いなのに、自分らはまだまだ小さい戦いを経験したに過ぎないのではないか?
これから想像を絶する血生臭い戦いが控えているとは、予測しえていない。

「あれ以上の過酷さを、私たちは味わう事になるんですね」
「そういう事や、ティアナ。今度に戦う相手は管理局に対して、殺さない事なんてありへんのや。それだけ、過酷だという事を覚悟せな」

 と言いつつも先ほどから回し続けていたフォークの手を止め、何気なく口に運ぶものの麺としてのやや原型を留めていない事に食べてから気づき、思わず不味いと口走る。
それとは別に、はやての先の言葉でより一層の重苦しさが四人の肩に圧し掛かる。だがどう戦えと言うのか? 相手は生身ではない、戦闘艦や戦闘機に乗っているのだ。
 対抗出来る魔導師のタイプというのは必然的に限られてしまい、唯一対抗出来るとすれば射撃タイプの魔導師しかいるまい。
近接戦闘など近づく前に叩き落されてしまうのがオチだ。後は改良型ガジェットとアインヘリアルを使用する他ない。ヘリはあっても、それはあくまで輸送用に使うものだ。

「話が戻ってしまうんですが、コレム大佐は若い魔導師の使う事に反対なさってましたよね?」
「うん、そうだけど……どうしたの、シャーリー?」

シャリオの問いかけに、何か含むところがあると察したフェイトが聞き返す。

「あ、いえ、その……魔導師としての役割、というのをもう少し理解してもらうには、どうすれば良いかと思いまして」
「私も、恐らく彼らは魔法自体に疑念を持ってはいないと思うんです」
「つまりは、地球艦隊の面々に私らの戦闘でも見せてみたらどうや、てことか」

コレムを始めとする地球艦隊の面々の中では、管理局の主流とされている魔法という存在に疑惑を全く持たない訳ではない。
 だがそれは実際に魔法戦闘を目にした事が無い故であり、対人戦闘に特化した魔導師ではこの戦闘に敵わないと見ていた。
少しでも魔導師を理解してもらうにはどうするべきか、それは模擬戦闘等を見せるしかないという事だった。さすれば地球艦隊の面々の意識も多少変わろう。
この模擬戦の見学にはフェイトも同意した。自分ら魔導師の存在価値とは言わないまでも、どんな戦闘をこなしているのか見てもらい、理解してもらう事も大切だと言う。

「模擬戦の様子を見てもらう事は良いとしても、許可を貰わなあかん。それに模擬戦のための参加者もな」
「許可の方は、レティ提督かリンディ提督へ申請すれば大丈夫かと思いますが、参加者は……」

 そこで名が挙がったのが、例の元機動六課メンバーとなる。はやてが言うには、今ここにいるフェイトとティアナの他、ミッドチルダで活動中の高町なのは、及び別部隊で活動しているスバル・ナカジマ、そしてはやてのヴォルケンリッターであるシグナム、ヴィータ、計六名である。
後半で名を上げられた三名については、部隊解散と相まって中々に顔合わせはしていなかったが、これを機会に再会するのも悪くはないであろう、という思いもあった。
 スバル・ナカジマ二等陸士はティアナと同じく機動六課へ配属された一六歳程の女性であり、彼女とは親友としてもチームとしても良いコンビであった。
現在は救助隊(レスキュー・チーム)に所属し、人命救助に懸命に取り組んでいる。シグナム二等空尉はヴォルケンリッターの中心的存在であり、剣術に特化した騎士として名を馳せている。
一方でヴィータ三等空尉は剣術ではなくハンマー型のデバイスを使用する騎士であり、もっとも攻撃的な印象を与える。
他にもまだいるのだが、あまり大人数でやるものでもなく、三人編成による二つのチーム戦の方がやり易いらしい。取り敢えずの人選を決めたところで、後は上官へ許可を申請する事とそれに伴っての、メンバーの招集をしておかねばならない。

「なるべく早く段取っておかなあかんからね。フェイトちゃんとティアナもよろしく頼むわ」
「分かった」

こうして彼女らの模擬戦見学キャンペーンらしき予定の序盤が決まった。だが模擬戦とは違う形で訓練の要請が管理局へと申請をされていた事に気づくのは少し後だ。





「……分かりました。共同訓練につきましては、小官も必要性を認めます。ただ、これは運用部の管轄に預かる事でしょうが、合同となると上層部への申請も必要になると思われますので、ロウラン提督へは私から伝えておきます」
『感謝します、ハラオウン提督。本来なら直接に私が出向いて伝えるべきでしょうが……』
「いえ、お気になさらないでください。マルセフ提督もしっかりと傷を治し頂かねば、後に支障をきたすこともありましょうから。時間を必要以上にかけずに、訓練の許可を取るように計らいます」

 リンディはシャマルからの通信を受けてマルセフとの対話を行っていた。ただし通信越しだ。リンディも自身の役目があるものだから迂闊に動けなかったためでもあった。
マルセフから聞いた合同訓練の旨を聞いたリンディは即座にそれを認め、レティ及び上層部へと連絡をつけてくれると約束してくれたので、彼も安堵していた様子だ。
紳士風の印象を与えるマルセフと直接に話したことは無いが、こうして改めて話すと安心感或いは信頼感を捉える事が出来た。彼はリンディの手配に今一度感謝の意を表する。
通信はそこで終える事となった。リンディはマルセフとの通信との後に、今度は友人であるレティへ先の内容を伝える事にして、通信画面に呼び出す。

「忙しい所でごめんなさい」
『大丈夫よ。ところでどうしたの?』

 レティは先程まで人員配置変更の許可書類や、資材倉庫の分配確認等をしたためた、決済書類等の片づけを終えた直後であった。
運用部として人材、資材、武装等の運用に関しては、彼女が受け持つべき役所であり、今のSUS来襲と言う事態も重なって、仕事量は増大しつつある。
そんな忙しい友人にリンディは折り入っての話を切り出した。マルセフからの提案を聞き入れたレティは一瞬だけ唖然とした様子であったものの、理解を示してくれた。

『分かったわ。マルセフ提督の言う事に一理あると、私も思う。艦船を動員させるには限度があるでしょうけど、地球艦隊と合同訓練が出来るようにしておくわ』
「上層部へは私からも上申しておくから、そちらも即座に動かせようにお願い」

 その言葉に頷いてレティは通信を切った。リンディは次なる相手であるキンガーへと連絡を取らねばならない。
何といっても、彼が次元航行部隊の艦隊運用の責任者なのだから、ここを通さずして合同訓練に踏み込むことは許されない。
通信前に彼女はため息を吐いた。強硬派として名を上げている管理局随一の頑固者として名を通しているキンガー、彼と話すのには骨の折れる事だと思い知らされている。
 だが仕事は仕事だ。個人的感情で無視する事など、それはまた別問題なのだ。やや時間を要してからキンガーは通信画面に現れた。いつもながら、不機嫌そうなのが伺えた。

『なんだね、ハラオウン統括官』
「お忙しい所、失礼いたします。先ほど、地球艦隊司令官からの合同訓練の要請を受けまして、そのご裁可を頂きたく思うのです」
『何だと、合同訓練?』
「はい。管理局は地球艦隊と共戦する事になりましたが、我々は彼らとの戦い方を心得てはいません。これでは、我が方が足を引っ張る事は間違いないでしょう」
『実に不愉快な言葉であるな、ハラオウン統括官。我が管理局が奴らの足を引っ張るなどと、よく言えたものだ。貴官も局員であろう?』

リンディのさりげない言葉に苛立ちが早くも目に見え始めているキンガーであった。頂点に立つのが管理局と信じている彼にしてみれば、魔法文化を持たない地球の艦隊に遅れを取るなどという話は、不愉快極まりないのであろう。
しかし、現実は彼女の言う通りであった。肝心の次元航行艦は魔法世界の最高峰とされる船であるにも関わらず、惨敗という結果を見せてしまっている。
歯が立たない事を目の当たりにされたキンガーはそれを否定したい一心であったろうが、実際は厳しいものである。

「私も管理局の提督としての誇りは持ち合わせております。ですが、SUSと戦う事になった時に、足並みが乱れていては相手の各個撃破にやられてしまいましょう!」
『……分かった。貴官の言うとおり、合同訓練に関する申請を許可する』

 ただし、とキンガーは言葉を後に続けた。合同訓練を行う際にして、地球艦隊へ局員を派遣する事を条件に出してきたのである。これにはリンディも怯みを覚えた。

「本部長、それでは地球艦隊に対して不信の目を向けられるのではありませんか?」
『何を言うか、総務統括官。我らの管轄内で動くとあれば当然の処置であろう? 勝手な行動をされても困るからな』
「ですが、局員を派遣すれば下手に不信感を買い、士気に影響するやもしれません」
『ふっ、それは奴らの考え方次第だ。この条件は必須だ。これを受け入れなければ許可は出せんぞ』

この時期に何を言うのか、この上官は! しかし、そんな駄々をこねる様な条件を蹴ってしてまで断っては、リンディ側も駄々をこねる様な真似をする事となってしまう。
局員派遣というのは必須ともいかないものの、妥当な意見でもあったであろう。管理局の見えるところで別勢力の艦隊が行動するともなれば、それをより間近で監視していたい。
そんな思いもキンガーの心底に宿っている。何よりも彼は地球艦隊を快く思っていないことが最大の原因とも言えた。そしてこれは実戦でも要求する事が見える。

「っ……分かりました。局員の派遣をも検討に入れ、合同訓練を実地いたします」
『あぁ、それと、局員の参加者は、ロウラン運用部長と、貴官らで決めてもらおう。その方が貴官らにも都合が良いだろうからな』

 嫌味をやや降りかけた台詞を投げると、キンガーはリンディとの通信を切った。何とも疲れる人だろうか、あの人は……と彼女は心労が重なったような表情で思った。
兎に角も訓練の許可は下りたのだ。ただし視察官らしき局員を搭乗させねばならない条件付きで、ということである。マルセフはどう反応するか、と苦い表情のリンディ。
 だが救いと言えば、彼女とレティの手により、派遣官を決定出来る事である。もしキンガーの推薦で頭の固い人間が搭乗する事になれば、それは余計に反感を買いかねない。
誰を派遣官として地球艦へ乗り込ませるべきか、それも地球艦隊の全てに乗せる訳にもいくまい。あくまで旗艦となる艦――〈シヴァ〉だけに限定するべきだろうか?
それか旗艦及び副旗艦の二隻だけに留める方が良いのだろうか、彼女は様々なパターンをひねり出した。地球艦隊があまりに分散して行動されてしまうと、その分だけ参加者の規模を増やさねばならないだろう。
 しかしマルセフの事だ、なるべく纏まって行動をしてくれる筈だろうと彼女は願った。そんな折であった、執務室のドアが開いたのは。
誰かと思いきやそれは、はやて、リィンフォースU、フェイト、ティアナ、シャリオの五名である。

「失礼します、リンディ提督」
「どうぞ。皆して私のところに来てどうしたの?」

先ほどまで食堂で話し合っていたはやて達は、地球艦隊の者に対しての模擬戦を見せたいと申し込んでみる。
申し込まれたリンディは、彼女らのタイミングに多少は驚きを示していたが、相互理解を深めるためという名目の下での模擬戦を許可する事にした。
そして次いでと言わんばかりに、リンディは先程までも地球艦隊と次元航行部隊との共同訓練が決定されたことを伝えた。今度に驚いたのははやて達の方だ。

「そんな事が決まっとったんですか?」
「えぇ。マルセフ提督からの直接の申し出でね。これは良い機会だし、必要だと思って上層部とレティに伝えたの。本部長もしかめっ面で許可したわ」

 あからさまに嫌そうな表情をするリンディに、はやては同情した。あの(キンガー)の高圧的な態度は、はやても嫌悪するところであるからだ。
フェイトも苦笑しながら、義母の苦労を察する。

「義母さん、あの本部長が良く許可したね」
「それはそうよ。いつまでも現実逃避をされていては、私たちは永遠にSUSに勝つことは出来ないわ」

そのリンディの表情は、まさに真剣そのものであった。穏やかな雰囲気を持つ彼女でさえも、この緊急事態では切羽詰っていたのだ。そして大事なこともう一つ伝える。
地球艦隊が行動する際に、管理局の局員が派遣されるという事だった。これに対して、怪訝な反応を示すはやて、フェイト。
 だがこれはキンガーの絶対条件であり、選抜は運用部責任者のレティは勿論、総務統括官であるリンディに与えられたと言う。
それを聞いたティアナはリンディに参加者をどうするのかを訪ねた。すると彼女はニヤリと悪戯っぽく口元を綻ばせると、今出来たと言わんばかりに参加者案を公表した。

「それは……はやてさん、フェイト、貴方達よ。レティには後で話すわ」
「「ぇ……えぇ!?」」

それは余りにも唐突であった。二人の女性の反応は当然と言えるだろう。何故自分らが選ばれたのか、突然の指名に対してフェイトは質問で返した。

「お暇、という訳ではないでしょうけど、自由に動き回れるのは執務官が一番適任なのよ。それにフェイト、貴女はコレム大佐とマルセフ提督にお会いしているから、あちらも少しは気持ちを和らげてくれると思うの」
「ほな、どうしてウチが?」
「貴女もコレム大佐とお会いしてるわよね? 先ほどシャマルさんから通信を受けた時に聞いたわ。道案内をしていたんですってね」

知っていたのかこの人は、と嘘を吐かれたような表情をするはやて。しかしリンディは付け加える。拒否権はある、だがなるべく貴方達に頼みたい、と。
上官であり付き合いの長いリンディに頼まれる二人は、やや複雑な表情をしていたものの、数秒後には二人して派遣命令を受諾すると返答する。
唐突な命令に応えてくれてありがとう、とニッコリとした表情でリンディは二人にお礼を言う。後方に控える三人――リィンフォースUとティアナ、シャリオはどうすべきかと、はやてはリンディへ尋ねた。
三人は皆副官として付き添っている立場だ。上司が監察官として赴くならば、副官も当然に付き添って然るべきではないかという。
 だが派遣される人間が三人もいては不快感を増大させる可能性も否定は出来ないが、それは相手に話してみない事には何とも言えなかった。
派遣する予定として〈シヴァ〉と〈ミカサ〉とされ、それらに対してバランスを考えるとどうしても三人と二人になってしまう。
リィンフォースUを人数に入れなければ、ティアナかシャリオをはやての副官として同行させる事も出来るが……。
人形みたいなリィンフォースUであれば、はやてに別の副官を追加してもそうは違和感を感じないだろう。
 結局、考え出された人選メンバーは、〈シヴァ〉にフェイトとティアナ、〈ミカサ〉にはやてとリィンフォースU、そしてシャリオ、とう形で収まった。
 
「後はマルセフ提督へ伝えるわ。それで承諾してくれれば有り難い、というよりも承諾してもらわないとキンガー本部長が納得してくれないわ。乗せてくれるとしても、参加者が一名づつとなれば残念だけどはやてさんとフェイトだけという事になるわ」
「分かっとりますよ、リンディ提督」
「私も平気」

しかし、副官としての立場にある残り三名にとっては不安で致し方ない。上司であり偉大な先輩に何かあったらどうする事も出来ないのだから。
その心配に二人は三人を(なだ)めて落ち着かせている。さてと、またマルセフ提督に連絡しないといけないわね。とリンディは彼女らをその場に待機させておいて、再び医療局のシャマルの下へと通信を繋げたのである。



〜〜あとがき〜〜
どうも、第三惑星人です。
第二二話を何とか仕上げましたが、如何でしたでしょうか?
今回は管理局視点、特に原作の主要キャラたるはやて、フェイトが多く出ました(残念ながらなのはを出すには至らず(汗)))。
訓練も何も入れなかったですが、恐らく次回かそのまた次回に訓練の模様を懸けるかと……ただ、魔導師達の戦闘の様子というのは極めて苦手でありますので、省くあるいは省略する可能性もございますので、その時は何卒ご容赦願います。
では、今回はここまでとさせていただきます。

拍手リンク〜
[二九]投稿日:二〇一一年〇四月一六日一八:四〇:四九
理想郷の捜索掲示板で見つけてきました。
内容が好みにピッタリはまってて、凄く面白かったです。
リリカルなのはでまさか、こんなアプローチがあるとは・・・。
魔導師が活躍する話は多くても、艦隊戦主体の作品は珍しいので、今後も期待します。

>>お好みの内容という事で、大変嬉しく思います!
この様な二次作品ですが、期待して頂けて誠に感謝、これからもよろしくお願いします!

[三〇]投稿日:二〇一一年〇四月一七日一〇:二九:二八 EF一二 一
艦隊機動訓練は確かに必要ですね。
問題は管理局の艦がついてこれるかですが…。
東郷少将の痛烈なダメ出しが管理局艦隊を見舞いそうですね(笑)
あと、いざSUS艦隊との戦闘となれば、シヴァや三笠等の主要艦には連絡担当士官として、管理局の士官も同乗するのでしょうか?
といっても、地球艦へのアレルギー反応が少ないリリカル3人娘とティアナ等、数える位しかいない気がしますが……。

>>歴戦タイプの東郷ですから、きっと罵声(それは違うw)が飛び交う事でしょうw
あと艦隊への参加者の案、私もこれは必要かと思い採用させていただきました!
では、今後もよろしくお願い致します!



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