「これが……管理局の戦闘か」
「その様ですが、何というか……これはこれで恐ろしいですよ、艦長」

 リンディに案内された観戦室で皆が揃って、マルセフとコレムと似たような気持ちを呟いている。それに彼らだけではない、祖国地球の人間も同様の反応を示すに違いない。
彼らが眺めている観戦室からの風景、それは六名の女性陣が魔法を使って戦闘を行っている。白を基色にしたロングスカート衣装を纏っているなのはが、杖らしき物で砲撃をしている他、漆黒のジャケットとミニスカートを身に纏うフェイトは、大鎌を振りかざしている。
 フェイト同様に剣術系を駆使しているのは、桃色の髪をポニーテールで纏め上げ、同系色のインナースーツとジャケットを纏ったような二〇代後半程の女性――シグナム。
小学生くらいの身長でありながら、その倍の大きさを誇るであろうハンマーを振り回しているのは、二本の三つ編みに編んだ薄い赤髪に、同系色のロングスカートとジャケット、ベレー帽の様な帽子を被った少女――ヴィータ。
 フェイトにつき従っていたティアナは、墨黒のインナーの上に袖無しのジャケットを羽織り、ミニスカートに白のニーソックスという格好で、銃型デバイスを駆使しする。
残る一人は、蒼色のショートヘアーの女性――スバル・ナカジマ。墨黒インナーの上から長袖の白ジャケットを羽織り、下はショートパンツという出で立ちである。
腰回りが露出し、健康的な腹部を見せている。彼女の使用しているグローブ型のデバイスから、如何にも接近戦と主張しているのが分かる。
 砲撃しあい、それを障壁らしきもので受け、はたまた切りかかり、そして叩き潰すかのような勢い、それはもう、通常の人間がする様な戦闘ではない事が一目で分かる光景だ。
日頃にこの様な戦闘を繰り返している相手に、生身で立ち向かおう等と誰が思うであろうか? 地球防衛軍(E・D・F)の陸戦部隊――空間騎兵隊でさえ青ざめて避けるに違いない。

「驚いたわね。魔法戦闘というものがあれ程のものなんて……。個人戦闘は侮れないわ」
「同感です、艦長。非科学的とは思っておりましたが、これは対人戦において脅威極まりないですよ」

 〈ファランクス〉のスタッカートとレーグは目の前で白熱化している模擬戦闘に呆気に取られていた。特になのはが放つ魔法には驚異の一言であり、一対一で生身で戦おうとは思えない程、インパクトのある威力だったのだ。

「東郷艦長、私、こんな戦闘に付いていけそうもないです……」
「副長……長生きしている私とて、こんな光景に付いていけそうとは思っとらんよ」
「はぁ、左様で……」

東郷の横にいて話しかけてきたのは、やや病的に見える白い肌に、腰まで伸ばした漆黒の髪を、首辺りで一纏めにした三三歳の女性士官であった。
彼女が〈ミカサ〉副長を務めている目方 真愛美(めかた まなみ)中佐である。六〇代に突入している東郷と並んでいる光景は、さながら父と娘であった。
彼女も典型的な日本人であり、清楚さを感じさせる美女だ。その黒髪と白い肌が余計にそう見せている。東郷の下に配属されてから、まだ日は浅い。
 しかし、彼女の補佐は東郷の期待に十分応え、先日の戦闘でも〈ミカサ〉の指揮を執って支えていた。因みにこれは余談だが、彼女はよく霊を見るという事で有名だ。
その所以として彼女の出身地にあり、実家は代々の社を面倒見てきた住職であったと言う事だ。ただし、幼い頃にガミラス戦役で(やしろ)が破壊されてしまった挙句に叔父と母を失い、辛うじて生き残った父の手によって姉と共々に育て上げられてきた経緯があった。
社は戦役後に再建され、父親が住職として着くと姉も巫女としての道を歩んでいた。が、妹たる真愛美はどういう訳か防衛軍士官学校へ入学してしまい、社を家族にまかせっきりという状態である。
 だが妹の人命を守りたいという強い意思に、父は残念な気持ちで許し、姉は快く受け入れて見送った。しかし巫女ではないのだが、血筋の関係なのか良く霊を目にしてしまう。
その霊的能力は後に管理局――特に魔導師の間でも、意外な形で注目されるプチ有名人として注目を浴びる事となる。

「だが、なんだな。あの年齢にしてエースの名を飾るとは、相当な腕を持つんじゃろうが……」
「?」
「我々の戦い方で管理局が、どれだけその力を発揮出来るかな? 副長」
「それは分かりかねます。私よりも年下という事になるようですが、人を殺めた事が無い彼女らに、私達の戦い方に耐えられるとは……思えません」

目方のそれは厳しい評価であった。血を見る覚悟がある者だけが、生き残れるのだ。神社の娘である目方も、防衛軍の教えを十分に理解していた。
あまり活発的な性格ではない故、大人しく御しとやかな評判を受けている彼女でさえ、こう口にしたのだ。
 東郷と目方とは違う、別の艦長と副長に至っては、驚きの感想を漏らすものの違う方向へと関心を向けていた。
中肉中背の体躯に端正な顔立ち、薄い黄色の頭髪をオールバックに纏め上げ、前髪の右半分を眉毛辺りまで垂れさせているの、三二歳の男性。
彼が戦艦〈リットリオ〉艦長を務めるフォルコ・カンピオーニ大佐である。

(おぉ、管理局の魔導師とやらの戦闘は凄まじいものだな。それに、ハラオウン提督とやらもそうだが、全員が美人・美女と来るではないか。羨ましいぞ、おい!?)
(ッ……こ奴は……)

 口には出さないものの、その感想は軍人としてあるまじきものであろう。典型的なイタリア人の血を引いているためか、どうも彼には楽観主義的で女性好きな一面がある。
そんなだらしのない艦長を横目で睨み付けて、さりげなく肘で突く女性士官の姿。黒混じりな茶髪のセミロング、ジャケット越しでも分かる、身体つき。
一方でやや威圧感を与える、吊り上った目をしているが、口元でそれを和らげる顔立ちをしている。彼女こそ、〈リットリオ〉副長エミー・クリスティアーノ中佐だ。
 やや強めに肘で突かれた当人は副長の様子に気づいた。彼女の目線からは、真面目に観戦せんか、この色ボケ! と無言の威圧を受けられてしまい、渋々とそれに従う。
だが、彼女の牽制も空しく数分で彼の顔はだらしなく、緩み切った顔をする。どうやら彼の脳内では、彼女らをどうお誘いしようかと思考を張り巡らせている様で、それに愛想を尽かそうにも場合が場合なので、クリスティアーノは別の行動に出た。

「……マルセフ司令、少し席を外させて頂きます」
「ん、どうかしたかね?」
「はい。ふぉr……カンピオーニ艦長が具合を崩されたご様子なので」
(は? え? 何を言って……ヴぇっ!?)

 それは一瞬の事だ。突然の副長の言動を気にする間もなくして、彼の鳩尾に女性とは思えぬ重い一撃がめり込み、意識が半ば次元の彼方へと飛びかけてしまった。
しかし彼が殴られた光景など、丁度マルセフらとは反対に位置していた故に見えることは無かった。怒らせた事に後悔するも時既に遅く、カンピオーニは朦朧とした意識の中で彼女に肩を支えられながら、隣の控室に向かった。

「マルセフ提督、あの方は大丈夫ですか?」
「えぇ、まぁ、クリスティアーノ中佐が付いていれば問題ありませんよ」
(いや、今のはどう見て問題があるんやないか!?)

 この日、八神はやての言うところでは、世にも恐ろしい光景を見たと評している。無言でサラッと艦長を沈黙させた副長の後姿には、魔人めいた何かを見たような気がした。
だがもっと恐ろしいと言えば、他の艦長達であろう。まるで何事も無かったかのように模擬戦へと視線を移しているのだ。心配をかけているリンディに至っては、本当にカンピオーニが気分を悪くしたように見えたらしい。

(軍事力がおっかないと思ってたのに、この軍人さん達もおっかないやないか……)

 別の意味で地球防衛軍に恐怖を抱いた瞬間であった。その間にも模擬戦は続いており、防衛軍の軍人達は何かを思いつめる様にして眺めやっている。
この個人戦闘能力は見るべきものがあるであろう。ではどう活用すべきか? 個人戦闘力は確かに高い。だが生身の肉体である事には何ら変わりはないのだ。
これで端然と敵戦車や戦闘機へ立ち向かおうものなら危険を孕む。まるでロケットランチャーを抱えた歩兵が重戦車や戦闘ヘリに攻撃を仕掛ける様な者であろう。
 やはり、戦うにも何か手段が必要である。例えばゲリラ戦があげられるだろう。障害物に身を顰めて敵を待ち伏せし、あらゆる場所からの攻撃を仕掛ける。
攻撃を終えたら直ぐに後退して敵の目をくらます。これがオードソックスだ。それに見た限り、彼女らの中でも迷彩機能を有する魔導師もいるらしかった。
地球で言う光学迷彩であろう。これは極めて有利なゲリラ戦を展開出来るに違いない。彼らは未だに確認しえていないが、実際にこれを活用して迎え撃った魔導師が居た。
ただし、SUSの進撃を食い止めるに至らず戦死してしまったが……。

(個人で飛行出来るというのは、素晴らしい事だ。しかし、航空機に対抗するには速度が遅い。射撃魔法ならいざ知らず、格闘戦で落とせるわけが無い)

 そう評したのは、戦闘空母〈イアラストリアス〉艦長のカール・フレーザー大佐であった。イギリス出身で四五歳、刈上げた白混りの灰色の髪にやや長身的な細身の体躯をしており、艦載機運用に関するプロだ。
戦闘機ともなれば音速に近い速度で飛行する事も可能だ。だが魔導師達ではそれ程の速度を出せるとは思えない。一撃で仕留められれば良いが、一旦引き離されては難しくなる。
これなら地上の陰に隠れての砲撃の方がマシであろうに思えた。隣にいる同艦の副長、クリストファー・マリノ中佐の場合はまた違った考え方をしている。
 魔導師の使用する光学迷彩術を応用して、艦を包み込む事は出来ないであろうかという、大がかりな事であった。考えとしては悪くないであろうが、普段は自分の身を隠すために使用している物を、一気に拡大させて艦を丸ごとというのも正直不可能であると言えた。
或いは幻影術を応用してはどうか? 射撃型魔導師のティアナが目の前で披露している幻影も、普通の人間の目では判別がつかない出来だ。艦を幻影として映し出させるのだ。
これも囮部隊としてなら効果を発揮出来るかもしれないが、やはり戦闘艦の幻影など当人の過度な負担にしかならないだろう。そしてマリノは魔法の威力を再認識した。

(それにしても、あの破壊力を持ちながら非殺傷を可能にするとは……。機械力――魔力以外に頼らないだけあって、凄いものだ)

 模擬戦はその後数分で終わりを告げた。六名共に個性のある戦闘を繰り広げていたが、見るべきは見事なチームワークである。それを如何にしてSUS相手に繋げるか?
マルセフも同様の事を考えていた。管理局の魔導師全てに適するような戦法を構築しえるのか、これも問題だ。様々な思案が駆け巡る一方で、残り組である艦隊一同は……。

「……」

 戦艦〈アガメムノン〉艦橋では、艦長の北野は呆れてものを言えなかった。まさに唖然・呆然と言った言葉が当てはまるであろう反応であった。
彼を始めとする艦橋のクルー達は、揃ってメイン・スクリーンに流される映像を眺めていた。それは言うまでもなく、マルセフらが見ている模擬戦である。
魔法とはよく言ったものだ、と北野は思い常識外の戦闘を呆然と見つめている。人が空を駆け、魔力なる力を用い、はたまた接近戦だけでなく、個人での砲撃戦をこなす。
 しかもそれを行っているのが二〇歳になったばかりかという女性だ。年少では一七歳といったところである。
コスモガンを片手に銃撃戦を行うならまだしも、これは明らかに度が過ぎていると思わざるを得なかった。これが魔法文明における戦闘なのだ。
どう見ても人を死に至らしめるのではないか、と思える様な白服の女性が放つ砲撃。これで非殺傷を可能とするのだから、末恐ろしいものである。
ふと、クルーの一人が言った。

「艦長、生身であれに対当する事にならなくて良かったです……」
「同感だ」

 ただそれだけの返答だった。地球防衛軍では艦隊戦とドッグ・ファイトを主眼にしている訳ではない。開拓惑星を直接守備するための陸上部隊(空間騎兵隊)がいる。
これの正式な発足は凡そ一七年程前のガトランティス戦役直前だ。勿論、それ以前にも陸上部隊はいたが、空間騎兵隊と命名されたのはその時代からが最初であった。
騎兵隊と言うと、文字通りの馬に乗って勇ましく突撃する騎馬隊を連想させがちであるが、無論そのような部隊ではない。
れっきとした近代武装を施した武装兵団であり、突撃レーザー銃の他に対戦車用の携帯小型ロケットランチャー、手榴弾、迫撃砲、連装砲塔型戦車、等々があげられる。 
 そんな彼らの主任務と言えば、先も言ったような基地等の守備であるが、中には敵基地を攻略するための奇襲部隊として活用もされるため、かなり重宝する部隊でもある。
重宝はするのだが、如何せん艦隊戦では活躍の場は無い。現に今回の移民船団護衛でも活躍は宇宙艦隊に殆ど取られていたため、大概が地球本星や開拓地にての留守番が主だ。

「それにしても、個人戦闘で群を抜いている割にはアンバランスな組織ですね、管理局は……」

 そんな事を呟いたのは、薄い茶髪のショートヘアーに、縁玉色(エメラルドグリーン)の瞳を持つ、三一歳の女性で副艦長の藤谷 美代(ふじたに みよ)中佐であった。
在日アメリカ人であった父と日本人である母親の血を引き継ぐ彼女。防衛軍に勤めていた父に憧れた事もあって、彼女も後を追うようにして宇宙戦士訓練学校に入校した。
魔導師達の戦闘が個人的なものとしては強力ではあるのだが、艦船技術に関しては如何せん欠落している所が多い。それは誰しもが認めている事ではあるが尚更戦いにくい。

「それは仕方ないだろう、中佐。彼らはあくまで治安専門なんだ。対艦戦闘を考慮していないのは致命的であろうがね」
「よくあれで治安を保てたものです」

 この女性もまた毒を含む言葉を放っていた。管理局の歴史上で艦隊戦を数える程度で有るくらいで、しかも全てが単艦での戦闘だ。しかも武装に至っては致命的な低威力。
必殺武器も撃つ前から脆バレな欠陥品。尽く辛辣な評価を下していた。こんな艦を率いてどう戦えと言うのか? もしもこれを聞いた管理局の艦長がいればさぞかし怒るだろう。
負けず嫌いな性格をしているためであろうが、北野はそれをよく知っていた。彼女が彼の部下となってから早二年あまりになるが、それだけ居れば否応に分かる。
 時折に突拍子な発言をする副長を、北野は毎回に窘めていた。危険を承知で突っ走るようなタイプでもある故だろう。女性にしては結構珍しい軍人だと言え、北野も驚いていた。

 「副長の意見も最もだが、管理局の前で言わんでくれよ?」
 「艦長に言われなくとも、それは分かっております。」

 もう少し素直になれば印象も変わるのだが、とあまり女性関係を持った事のない色男――北野は考えていた。
地球艦隊の皆が管理局の魔導師達による模擬戦闘を観戦し終え後、今度は地球艦隊が管理局艦隊と合同して訓練をする番であった。
その合同訓練に際しての通信担当を兼任する派遣局員、及び観戦武官の搭乗に関して綿密な話し合いが行われている。それは模擬戦闘から凡そ三〇分後の事だ。





「では、マルセフ提督は三隻までの艦に、乗艦する事を許可したんですか?」

 はやては先だっての派遣局員についての質問をリンディにしていた。他には模擬戦闘を行った面々である、なのは、フェイト、シグナム、ヴィータ、スバル、ティアナ。
それに加えてシャリオとクロノの計一〇名が集まっていた。また別として、はやてのユニゾン・デバイスであるリィンフォースUと、同じくユニゾン・デバイスの少女がいた。
赤毛を短めのツインテールで纏め、管理局制服の腰から蝙蝠翼と細長い尻尾を生やした、見るからに小悪魔を連想させるものだった。
名をアギトと言い、シグナムをマイスターとしてサポートしている存在だ。J・S事件をきっかけに、前マイスターからシグナムへと移った経緯がある。

「えぇ。マルセフ提督の座上する〈シヴァ〉と、東郷提督の座上する〈ミカサ〉の他にもう一隻。〈ファランクス〉と言う名の装甲巡洋艦よ」
「装甲……巡洋艦?」

 聞きなれない艦種の名にシャリオは首を傾げた。他の者も大半が同じ反応である。特にシャリオの様な地球文化に馴染のない者はそうであろうが、クロノは心当たりがあった。

「確か、戦艦と巡洋艦の中間に位置する戦闘艦だろう。地球で見た資料でそんなタイプがあったのを見た事がある」
「クロノ提督、その……装甲巡洋艦って艦は結構な戦闘力を持っているのですか?」

ティアナが不思議がって聞いてくる。クロノも地球に短い間であるが滞在した身だ。それなりの世界事情を知るために情報を読んでいたし、無論、軍事力に関しても触れている。
とはいえ、戦闘艦の詳しい事までは知ってはいなかった。返答に困っていると、リンディが彼に助け舟を出すべく、皆に乗艦先となる艦艇の3D映像を見せた。

「へぇ、確かに強そうだな、地球防衛軍って艦は」
「ほんとですぅ」
「……分かって言ってんのかよ、バッテンチビ(リィンフォースU)

 やや荒っぽい口調をしている少女――ヴィータは言った。それになぞらう様にして、リィンフォースUも頷いたのだが、そこで容赦のない突っ込みを入れるアギト。
バッテンチビとはリィンフォースUを指しており、その口調と態度からして二人の仲が宜しくないのは察せるだろう。が、決して本気で嫌っている訳ではないのだが、それはアギトの男勝りな性格故なのかもしれない。
言われた方は無邪気にムキになって反論する。が、それは直ぐに、はやてとシグナムの仲裁で止められ、双方共に注意を受ける。
 それは兎も角として、とヴィータは再度、防衛軍艦艇を眺めやる。特に〈シヴァ〉の外見から見る武装の数は、相当な戦闘能力と破壊力を有している事を教えていた。
自分らの知る次元航行艦と思い比べても、歴然たる力の差を見せつけられているような気がする。そして問題の〈ファランクス〉をリスト・アップして皆に見せた。
他の艦艇と違うフォルムに違和感を感じる者もいるようだ。他にも砲身の違いなども見受けられた。

「マルセフ提督の話だと、〈ファランクス〉なら一風変わった戦いを見られるだろう、という事よ。私も詳しい事は聞いていないのだけれど……」
「言われてみれば、この艦の主砲が変わってるね」

 フェイトも〈ファランクス〉の違いに気が付いたようである。三本を一纏めにした砲身に、地球出身者であるはやて、なのはもピンと来るものがあった。
ニュースでも取り上げられる事のあった海上自衛隊の艦艇群に、似たような物を見た事があったのだ。

「これ……ガトリングっちゅう奴やない? なのはちゃん」
「うん。多分そうだと思う」
「なんなんですか、そのガトリングって?」

初耳のスバルに、今度はシグナムが口を開いた。彼女とて数年間であるが、地球ではやてと共に過ごした身だ。食事時に見るテレビのニュースも当然の事ながら目にしている。

「簡単に言えば、弾丸を連続して放つ事の出来る兵器の事だ。言い換えるなら……そうだな、高町やティアナの様な砲撃、射撃型であれば、短時間――例えば一秒程に連続発射を可能としているようなものだな」
「そっそんなに凄い兵器なんですか!?」

 スバルは驚き、隣に座るティアナも同様の反応をしている。なのはが放つS・L・B(スター・ライト・ブレイカー)がチャージいらずで連射する光景を思い浮かべると、それもまた脅威であった。
だが、ガトリングとは実際に使用する相手は航空機中心であり、対艦戦では撃沈には至らない。使いようによっては、至近距離から浴びせてやれば、艦表面のみならず内部もハチの巣に出来るであろう。
特に艦橋やエンジン部といった箇所に撃ち込んでやれば相当の損害だ。大概が無傷であっても艦橋部をハチの巣にして機能を奪ってやれば、それは単なる棺桶となり果てる。
地球防衛軍のガトリングはそれを遥かに上回る威力だが……。

「それと、これが〈ファランクス〉艦長、ジュリア・スタッカート中佐。副長のアレリウス・レーグ少佐よ」

 次に映されたのは艦長と副長の姿であった。それを見た途端に周りは細やかな驚きを感じられた。地球防衛軍は管理局の様に、女性も軍人となる事が可能なのかと。
そしてその美貌だ。見た目からして二〇代に見える女性(実際は三〇代だが)の、鮮やかな紅茶色のロングヘアーと慈愛に満ちたような表情に目を奪われてしまった。

「ほぅ、地球防衛軍にも女性軍人がいるのか。しかも艦船の艦長とは……」
「私も正直驚いたわ。リンディ提督みたいに、べっぴん(美人)さんな艦長なんやから」

シグナムはスタッカートの地位をそれなりのものだと感心している。が、実際の所は中佐である事と、艦艇の種類によって乗艦出来る階級もまた違う。
管理局の場合は、大概が提督という地位を持つ者達が艦船の艦長を務めている事が多い。最低でも一佐――大佐相当でなければ、艦船の艦長の椅子は回って来ないことになっているのだが、艦種によっては多少異なることもある。
管理局の決まりを地球で当てはめれば、戦艦から駆逐艦のどの艦であっても大佐であれば艦長となれる一方で、それは階級との不釣り合いを感じさせる結果になるであろう。
 そして皆が当然の如く違和感を感じた人物、副長のアレリウス・レーグであった。普通の人間とは違い、薄めの灰色の肌をしているのだから注目も浴びる事になるであろう。

「何でこいつだけ肌の色が違うんだ?」
「レーグ少佐は地球人ではなくて、デザリアムという軍事国家の生き残りらしいわ」
「え……義母さん、確かデザリアムは地球と……」

共に地球の歴史を見ていた身であるから、クロノには分かっていた。敵国であった兵士であり、または祖国を滅ぼされた生き残りでもあるのだ。
彼の言葉を聞いた他の者も唖然としてリンディに聞き返した。

「リンディ提督、何故、敵国の軍人が地球防衛軍になっているんですか?」
「そうだぜ、確か地球を占領したんだろ? デザリアムって奴らは……」

なのはが最初に言い放つと、次にヴィータが続く。やはり、地球を滅ぼしかけた相手となれば、疑いたくもなるであろう。
 だが、この様な事が管理局にも存在している事を失念しており、リンディは納得のいかなそうな表情を作っている彼女らに思い出させた。

「確かにそうかもしれないわ。けどね、貴女達も思い返してみて? あのスカリエッティと行動していたナンバーズの子達だって、敵として戦っていた筈よ。全員が心を変えてくれた訳ではないけど、半数以上は管理局に入ったり、教会へ入っているでしょう? それと同じ」
「ッ……確かに、そうですけど」

自分らの身近な所に典型的な例があったではないか! なのはのみならず、他の者も失念していた事に気づく。
 だが、スカリエッティとデザリアム帝国ではやった罪の大きさは段違いである事を考えると、どうしても違和感を感じてしまう。
管理局は、逮捕したナンバーズの内で再教育を行うに支障は無いとされた者達にのみ、養成を実地していた。
ナンバーズも事件を起こした当事者であるとはいえ、矯正教育で根本的に直してやれば、日常生活に支障をきたすことなくして、生きていける筈だと考えた故である。
その意図は図に当たった。凡そ半数の元ナンバーズが、再教育プログラムを受けた事で常人とさして変わることなく生活して行けるほどになったのである。
 因みにその大半が、スバルの父――ゲンヤ・ナカジマに引き取られて家族として生活している。

「レーグ少佐とは直接に話を交えていないけど、マルセフ提督から大よその事は聞いたわ。彼は、捕虜の身だった時にスカウトされたらしいの」
「スカウト、ですか?」

シャリオの問いにリンディは頷く。レーグはデザリアム軍人の中でも、かなりの技術的知識を有していることもあったかもしれない。と彼女は今までの知識を纏めて推論した。
デザリアム帝国がサイボーグ技術を常とした国家であり、四〇万光年もの距離をおいても尚、ハイペロン爆弾を遠隔操作する事を可能としているのだ。これだけの科学技術を極めているのであれば、レーグなる人物も相当な才能を持った将校ではなかったのか。
 そこまで考えたものの、話の流れをレーグの事から派遣局員の随員について、と戻す。

「義母さん……」
「何? フェイト」

リンディは娘の声に耳を傾けた。フェイトが言うには、この地球艦隊に搭乗できるチャンスを大いに活用するために、〈海〉の者だけでなく〈陸〉の者からも派遣させてみてはどうかというものであった。
何も〈海〉だけが地球防衛軍と共闘する訳ではないのだから、〈陸〉も搭乗して地球艦隊の戦闘の様子を見定める事で三者の相互理解を深める良い機会なのではないか。
或いは〈陸〉のみならず、技術分野の局員を派遣しても良いのではと言う。技術分野の人間であれば、地球艦の戦闘を見る事によって新しい発見を見出せる事が出来るかもしれない。
 そう言われてからリンディも深く納得したような表情をする。確かに、この合同訓練に置いて地球艦に乗艦出来るチャンスを、大いに活用するには良い案であった。

「ティアナの言う事に一理あるで。〈海〉だけやない、他の分野の人間も乗り込んでみても良いかもしれんわな」
「しかし、乗艦させるにも後二人程が限度では? 既に主はやてとリィンフォース、テスタロッサ、そして補佐としてティアナとシャーリーが決まっているとして、残るは二人です」
「……いや、あてがあるで」

はやての言う候補は誰なのか。リンディも興味深くして聞いてくる。なのはも、親友の言う候補が誰であるのかが非常に気になっていたが、その名を聞いて納得した。

「技術分野からはマリー、〈陸〉からはグリフィス君はどうやろか?」

 マリーはマテリアル・アテンザを言い、管理局内でも有数の技術屋である。もう一人は〈陸〉のグリフィス・ロウラン陸准尉を言う。
どちらもはやてとの付き合いは深いもので、特にグリフィス・ロウランの場合は機動六課時ではやての副官を担っていた若き士官である。
そしてリンディの友人であるレティの息子でもある。グリフィスは主に指揮官タイプの人間としてキャリアを重ねており、はやてとしてもこの若き元部下に地球防衛軍の姿を見てもらおうと考えていたのだった。
 この人選になのは達も納得する所があったが、アテンザについては疑問の付くところもあった。それは彼女の部署の関係が大きい。あくまでデバイスや戦闘機人専門なのだ。

「いんや、マリーの向く目はデバイスだけやない。艦船に関しても、それ相応の知識は持ち合わせているんや。それに、艦船部所の者は今忙しい時期や」
「はやての言う通り、艦船技術部門の連中は大忙しだ。SUSに対抗するための思案を練りに練って、相当に神経をすり減らしているらしい」

クロノの言う事は正しかった。以前に〈シヴァ〉を訪問したマキリア・フォード一尉と、副官のリリー・ネリス三尉は連日の管理局敗退を受けて、対応策に追われていた。
地球艦隊へ時空転移装置を設置させると共に、自分ら艦船の対応に四苦八苦しながらも有効手段を探している。それに代わってアテンザを派遣しようかというのである。

「分かったわ。マリエルさんとグリフィス君には私からレティへ伝えておきましょう」

やや難航した人選問題であったが、はやての助言もあってそれもなんとか解決するに至った。同席していたなのは、フェイト、クロノの他、後輩たちも同じように安堵した。
ようやく決まった人選を基にして、凡そ二日後に行われるであろう地球艦隊と管理局艦隊による、初の共同訓練の際に乗艦する事となる。
 だが人選されたメンバー以外にも、艦船の艦長及び戦隊司令として出撃するクロノも、ある意味では観戦武官のようなものであった。
そしてその訓練当日、管理局――次元航行部隊では経験したことのない戦闘模様を目撃する事になると共に、生の戦闘を目撃する事で衝撃を受ける事にもなるのであった。
しかし混乱の極まるであろうこの世界にて行われる訓練が、素直に終えられるかどうかは誰の予測する所ではなかったのである。



〜〜あとがき〜〜
どうも、第三惑星人です!
最近は暑くなったり、風が強かったり、はたまた雨で寒くなったりと、調子を狂わされそうになる日々ですが、皆様も体調管理は気をつけましょう。
さて、今回は主に管理局視点で話が進みましたが、いかがでしたでしょうか?
さらに新キャラたるカンピオーニ氏のキャラ作りには苦悩した挙句、上記のような結果となりました(汗)。
お気づきになられた人も居られるでしょうが、カンピオーニという苗は実在した軍人から拝借しております(気づいた方は相当な物知りです)。
因みに他にも数名、実在名をお借りしております。
次回は何とか防衛軍視点で訓練模様を描写出来ればなと思いますので、何卒、お待ちいただきたく思います。

それと、今回の作品中でキャラクターの口調等に違和感がございましたら、感想掲示板あるいは拍手リンクにてご指摘ください。
特にリンディのアテンザを呼ぶときの呼称である、あるいはシグナムのはのはに対する呼称、等ですので、お詳しい方は教え頂ければ幸いです。

拍手リンク〜
[三五]投稿日:二〇一一年〇五月〇七日一四:二三:四八 EF一二 一
地球側の面々にすれば、魔法戦闘は目が白黒でしょうね。
ただ、均一な装備で固め、集団戦を主とする正規軍が相手となると、正直通用しないでしょう。
魔導砲撃の弾速は大したことはないし、次弾チャージのタイムラグが大きく、弾自体が発射前から露出してしまいますからね。
エリオとキャロがいなかったのは正解でしょうね。
ただでさえ良くない地球側の心証は一層悪くなりますからね。
もっとも、フリードやボルテールの召喚を目の当たりにしたら、さすがの強者達もたまげるでしょうが。
移動要塞司令部は、支援と共に管理局への牽制にもなりますね。
地球にすれば、シヴァ達を管理局の便利屋兼弾除けにされてはかなわないでしょうし。
波動砲は確かに必要ないかも知れませんね。
波動カートリッジ弾一斉発射でも事足りましょう。

>>毎回の感想書き込みに感謝です!
確かに、防衛軍から見れば管理局の魔導師達の戦闘は異常でしょうね。
人が空を飛んで戦艦並みの砲撃をするとなればなおされでしょうw
移動司令部は改装期間をいれるともう少し後の登場になりそうです。

[三六]投稿日:二〇一一年〇五月〇八日一八:二:二七 橘花
更新おつかれさまです。
科学の世界の住人にとっては、魔法文明というものはやはり驚愕に値するものなのでしょうね。
ところで、派遣艦隊の内訳にあった空母というのはブルーノア級でしょうか?

>>書き込みありがとうございます!
派遣艦隊の詳細ということですが、戦闘空母とは残念ながら〈ブルーノア〉をさしてはいないのです。
まぁ、いずれは登場する機会が……あるかも?しれません。



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