第43無人管理世界、レベンツァ星域。次元航行部隊総旗艦〈ラティノイア〉艦橋に、緊張が走り続けている。訓練からの思わぬ接敵より五〇分近くが経過しようとしていた。
次元航行部隊九二隻は、辛うじて小惑星帯から退避した後に、さらに距離を稼いでからの次元転移に移行を開始していた。
オズヴェルトは自分らだけの次元転移など承服致しかねる、という様子であったが、マルセフの強い説得とこの逃しようのないチャンスを捉えては、転移する他なかったのである。
  スクリーンには、今だにSUSを相手に奮闘する地球艦隊の姿が映されている。自分らが何もせぬうちに撤退する事になろうとは、彼も甚だ無力さを呪うばかりであった。

「司令、他の艦艇は次元転移に成功しました! 残るは本艦のみです!」
「あぁ、分かった。本艦も速やかに転移する。それと、本局へ至急連絡を送れるようにしておけ!」
「了解!」

傷つき、噴煙と被弾時の発光を見せる〈シヴァ〉。その姿が何とも痛々しかった。彼らが現れるまでは、自分らが平和の守護神としていたのに、今はその威厳もない。
管理局の艦船とは、これほどまでに無力だったのか? 地球艦隊と訓練を行ったとはいえ、現実の戦闘を直後に経験したオズヴェルトは管理局の圧倒的な力不足を認めていた。
今自分らに出来る事、それは速やかに退避すると共に本局へ救援要請を行うことくらいだった。自分の兵力にまだ余力が残っていたのであれば、まだ援護の使用もあっただろう。
  やがて〈ラティノイア〉自身も次元空間へと転移を開始する。その様子は、地球艦隊からもハッキリと確認されており、味方の脱出を知って内心では安心していた。
だが彼ら自身の状態には安心する事など、到底出来ない事だった。味方を逃したのは良いとして、今度は自分らの出番なのだ。
しかし、味方艦の機関部損傷を受けて最悪の状況だ。やっとの事で第一小惑星帯へと潜り込む事の出来た、〈シヴァ〉他二隻であったが、損害はやや深刻さを増していた。
  特に〈シヴァ〉と護衛役を引き受けていた〈ヘルゴラント〉と〈イェロギオフ・アヴェロフ〉の戦闘能力低下率は無視出来ないものだ。

「敵艦隊、依然として小惑星帯より七万二〇〇〇キロ手前で停止!」
「報告します! 戦艦〈ヘルゴラント〉中破、機関部は今だ無傷の様ですが、兵装各部に重度のダメージを負っております! 第一、第二砲塔大破、第三砲塔のみ砲撃可能!」
「戦艦〈イェロギオフ・アヴェロフ〉大破、幸い機関部は高出力をキープ可能! ですが、砲撃能力は皆無、残るはミサイル八門と機銃座数機を残すのみです!」
「よく耐えてくれたものだが……」

機動と装甲でSUSの砲撃を誤魔化してきたものの、それにも限界はあった。二〇倍近い艦隊を相手に維持しえたのは、高度な回避と的確な防御幕の展開のお陰だ。
だが被弾は抑える事かなわず、両艦共に痛々しい姿をしている。艦橋のスクリーンからも見え、オペレーターの被害報告を聞き、マルセフも苦々しい表情をしている。
フェイトらもその戦艦の様子がわかる。〈ヘルゴラント〉は艦体に二〇ヶ所以上という被弾数を数えており、前部砲塔は完全に使用不能となっていた。
艦橋付近や艦低部にも幾多か被弾し、黒煙を吹上げつつもチリアクスの応急指示で態勢を整えようとしていた。
  〈イェロギオフ・アヴェロフ〉の被害も深刻だ。土台からやや浮き上がり発砲も出来ない第一砲塔、着弾の高熱を何度も浴びたせいで曲がりくねった第二砲塔の各砲身(バレル)、辺り所が悪かったのか、穴が右側面に開いている第三砲塔、主用兵装の全てが使い物にならないという最悪の状態だった。
推定二五〜三〇発近いビーム砲を艦体各部に喰らい、〈イェロギオフ・アヴェロフ〉の全身をどす黒い黒煙が纏わりつく。無事な個所など無い程に装甲は焦げ、凸凹になっている。
もう少し喰らっていれば廃艦同然となるかもしれない。補給が自由に効かないこの世界、マルセフは何としても彼らを無事に連れて帰りたかったが、それもの望み薄だった。

「本艦の状況はどうか?」
「ハッ! 主砲塔は第一、第三、第四、第六、第一〇番が損傷により使用不能。並びに二番副砲、一番両用砲も使用不可能! 機銃も全体の五割近くが損傷しております! 左舷滑走路は依然として復旧せず!!」
「機関部は損傷軽微。並びに次元転移装置にも異状ありません」
「艦体自体への損傷率は二八パーセントです」

  コレムの問いに、ジェリクソン、パーヴィス、ハッケネンが順に報告を上げる。〈シヴァ〉も三〇発近い直撃弾を受けていた筈だ。
それでもなお平然としている様には、フェイトも唖然とするという表現のしようが無かった。だが戦闘能力は確実に低下しつつある。
小惑星帯から出ると同時にワープか次元転移をしない限り、地球艦隊が生還する術はないだろう。しかし、それで本当に生還可能なのか?
相手も当然、次元転移法を有しているのは以前の遭遇で明らかだ。こちらが転移しても、早々に向こうも転移して追尾して来るのではないか、とマルセフは思ってしまう。
  ならば、転移するよりもここはワープで距離を稼ぎ、SUS艦隊を振り切ってからの転移の方が良いのではないだろうか……。
そうするにしても、損傷個所を修復しなければならず、特に機関部に重大な損傷を負ったとされる〈ブルターニュ〉が問題だ。
完全修理までに間に合うとは思えない。今の所SUSは波動砲を警戒しての事であろうか、小惑星帯前で前進を停止させている。その警戒も長く続きはすまい。
他に選択技があるとすれば、東郷らの来援を待つ事にある。空間歪曲波の妨害も無くなった直後から、〈シヴァ〉は一応の救援信号を送ってはいた。
  が、果たして間に合うか?

「司令、味方が来援に到着するまで、最低でも後六時間は掛かるでしょう。敵も進撃してくる筈です」
「うむ……。〈ブルターニュ〉の機関部は治りそうか?」
「味方の来援までには何とかして見せるとは言っておりますが……」

ラーダーの予想にマルセフも同意見だった。〈ブルターニュ〉の修理状況も芳しくなく、テラーからの報告には思わず声を小さく唸らせた。このままでは全滅を待つだけだ。
波動砲も満足に発射できる艦など僅かである。もし発射してしまえば、離脱するためのワープなど望むべくもないだろう。
  こうしていつまでも待つにはいかない、と彼は心に決心を決めたのはこの直後。

「っ! 司令、敵艦隊が前進を始めました!」
「もう来たか……」

ラーダーは苦々しげな表情でスクリーンを睨む。満足な修理も出来ていない地球艦では、まともな戦闘を望むべくもない。
ましてや、戦艦でまともな戦闘能力を持つのは〈シヴァ〉と〈ブルターニュ〉くらいであり、残る他の巡洋艦、駆逐艦では大多数の相手を前に戦う事など不可能だ。
〈F・ガジェット〉も既に四〇機を切っており、抵抗するにはあまりにも非力だ。SUSはそれを見越したかの様に、小惑星帯へと侵入を開始した。

「敵は、五つの部隊に分かれて半包囲する形で接近!」
「波動砲を撃たせないつもりですね、司令」

的を絞らせない様、数を生かした包囲戦を展開するSUS。そして、マルセフは決断を下した。それにはフェイト、シャリオは驚かずにはいられなかった。

「〈ヘルゴラント〉〈イェロギオフ・アヴェロフ〉及び損傷の軽い艦は直ちに小惑星帯を抜け、次元転移により離脱せよ。残る艦はこの場に留まり離脱を援護する!」
「て、提督!?」

  声を上げたのはフェイトである。これは、事実上の死を意味した命令ではないのか。残留死守部隊として残されたのは〈シヴァ〉を始めとして、戦艦〈ブルターニュ〉、巡洋艦〈ヘロイタイ〉〈タイコンデロガ〉、駆逐艦〈ヘルマン・シューマン〉〈サウロパ〉〈レン〉〈ゴンザレス〉の計八隻だ。
どの艦も判定的には小破〜中破の中間的なものだ。戦闘能力を辛うじて残したこれらの艦は、これから死へとまっしぐらに進もうとしていた。
  が、フェイトと同様に、この命令に不服を唱える艦が全くいなかった訳ではないく、〈ファランクス〉もその一つだった。

「旗艦を残して離脱出来る訳ないわ……。通信長、至急、マルセフ司令に回線をつないで!」

この命令に不服としたのはスタッカートだ。普通ならば旗艦こそが離脱して後の戦闘を指揮するべきである。と彼女はとマルセフに直接進言したものの、それは却下された。
傍に控えていたティアナとマリエルもスタッカート同様に、旗艦が生き残るべきではないかという考えを持っていた。それに、旗艦にはフェイトとシャリオが乗っているのだ。
マルセフは二人を巻き添えにするつもりはないであろうが、リーダーとなるべき者がここで倒れていい筈がない。しかし、その様な思いはマルセフの前に通用することは無かった。
  再三に進言するスタッカートを宥めるが如く抑え、その気持ちにマルセフは有り難く思うが再度同じ命令を下した。それとは別の司令が発っせられた。

「シャトルを至急用意しろ。ハラオウン一尉とフィニーノ一等陸士を乗せて〈ファランクス〉に移乗させる」
「そんな、提督は……っ!」

一方的に思える命令に、フェイトは無論、シャリオも反駁(はんばく)した。自分達だけが〈シヴァ〉から生き残るのではなく、皆で生き残るべきではないのかと。
対してマルセフは断固として首を振らない。さらに驚いたことに自らのデバイス〈バルデッシュ〉でさえも退艦すべきと苦言を呈したのだ。
現状では“マスターたるフェイトの安全を確保出来ない”との言葉に、彼女はらしくもなく意固地になってしまい状況を悪化させるに至った。
  だが、そうしている時間は無い。艦長席より前で一段下の席に座るコレムは意を決してある行動に出たる。出撃前、リンディとマルセフだけで秘密裏に行われた約束だ。
必死になってマルセフを説得しようとするフェイトは、それに気づかない。

「皆で此処を離脱し……ぅぐっ!?」

突然、フェイトは背中に強力な電撃が走った様な感覚に襲われる。何が起きたのか……シャリオは突然に起きた実態を目にしていたようで、悲鳴を上げていた。
酷く痺れる身体を支えきれなくなり、フェイトは前のめりになってしまいラーダーの分厚い胸板に倒れ込む。

(な……何、が……?)

倒れそうになったフェイトをラーダーはしっかりと受けとめてやる。彼女は段々と薄れる意識の中で後ろを振り向くと、そこにはコスモガンを手にしたコレムの姿があった。
  まさか……まさか、彼が自分を撃った……? 信じられないという思いで彼女は、すまなそうな表情をするコレムを最後に意識が途切れてしまった。

「コ、コレム副長、何をなさって……!!」
「すまない、時間が無いんだ」

唖然とするシャリオにも銃口を向けると、コレムは続けて言った。君らは│時空管理局(A・B)の人間だ、地球防衛軍(E・D・F)の死に付き合う事はない。それにこれは味方を逃すためのことだ、と。
シャリオにはどうにも出来なかった。自分に彼らを説得できる訳はない、ここは素直に退艦するしかないのだ。マルセフがラーダーにフェイトを連れて行くように促す。
抱える様にしてガタイの良い参謀はフェイトを抱き上げると、シャリを伴い艦橋を急ぎ退室していった。それを最後まで眺めやるクルー一同。

「やや無理矢理であったが、感謝するよ、副長」
「司令が最悪時の対処法を話して下さったからですよ。さぞかし私を恨むでしょうが、致し方ありません。彼女のデバイスも協力してくれたことですし」
「ははっ、そうだな。ところで、全艦の戦闘準備は整ったかね?」
「ハイ。後はハラオウン一尉とシャリオ一等陸士の退艦が済み次第、というところですね」

  半ば強制的な退艦であったものの、こうでもしなければ彼女は止められなかっただろう。SUSは小惑星を回避しつつも少しずつ前進して来ており、何とか退艦が間に合う。
残留部隊が攻撃準備を終えて間もなく、管理局員を乗せたシャトルが〈シヴァ〉より離艦する。それを見計らって、マルセフは最期の時を迎える命令を下したのである。

「味方の離脱までに、敵を一歩も通らせてはならん。……全艦、砲撃始めぇっ!!」





『〈ラティノイア〉より入電しました!』
「妨害が無くなったのか。よし、繋げ!」

  通信不能に陥ってから凡そ三〇分、やっとのことで〈ラティノイア〉からの通信を受信する事に成功した本局。
そして会議室にて緊急会議を行っていた提督や上層部達に、司令部オペレーターが施設内容通信で連絡を入れて来たのである。
この通信で、不安が一気に晴れたような気分に浸る上層部や一部局員であったが、リンディやレティは胸騒ぎが収まらない。
同じく同席していた、クロノ、はやて、なのは、シグナムも同様の様子だ。さらに地球防衛軍代表として臨時出席している、東郷と北野もこれは落ち着ける気分ではなかった。
  キンガーは早速、詳細を聞き出そうと入電内容を読み上げさせたが、オペレーターの口から出てきた報告は、その場にいた全員に戦慄を与えるのに十分であった。

『我が方はSUS艦隊の攻撃を受け、艦隊は半壊。地球艦隊の援護により辛うじて離脱に成功したものの、地球艦隊は今だ離脱せず。至急、救援を請う!』
「何だと!?」
「SUSの攻撃を受けたのか!」

騒然となった。SUSに遭遇したことより、寧ろその損害だ。一二〇隻の次元航行艦が八七隻に減ったと言う。何という事だ、訓練に出た先で艦隊を失う羽目になるとは!
  中でもショックの大きさに動けないでいたのは、同席していたなのは、はやてであろう。まさか、フェイトやシャリオ、ティアナ、マリエルが残っているという事なのか。
騒然とする中で意見を出す人物がいた。それは東郷であり、彼は早々に救援に赴くべきであることを強く主張したのだ。多くの者は大概それに賛成だが、YESとは言えない。
今この時点で救援のために出撃したとして、戦場で踏み留まっているマルセフ提督らが来援までに生き残っているか、という時間的な問題が浮上していたのである。
報告によればマルセフ率いる艦隊は、小惑星帯内部で籠城戦の状態を続けているという。しかし状況は劣勢であり、逆転するチャンスも訪れないかもしれない、と予想していた。
  しかも、中には不謹慎な事を言う局員提督もいた。地球艦隊には、あの“波動砲(タキオン・キャノン)”があるのだ。今頃出撃しても、SUSの連中を殲滅しているのだろうと。

「貴官は、マルセフ提督らを見捨てるつもりか!」
「ふん、我々では相手に出来ないSUSを簡単に屠る地球艦隊が、負ける訳がないでしょう?」

嫌味を込めてその提督は言い放つ。今までの鬱憤晴らしと言わんばかりだが、それを聞いたなのは一同は怒りが込み上げる。
それはつまり、戦死する事も構わないという事ではないのか、と声を荒げようとするその矢先に先手が声を上げた。

「貴官はそう言うが、つまるところ、管理局員の生命など、どうでもいいという事ですな?」
「何ぃ!」

東郷の声に先ほどの提督は声を荒げた。まだ三〇代後半程の提督に、東郷は老いを感じさせない鋭い眼孔で睨み返す。その睨みに、局員提督は怯みを覚えた。
  プライドで塗り固めた様な相手に構わず、東郷は話を続ける。

「マルセフ提督は波動砲を使用できていれば、今頃はこちらへ帰還している最中です。だが、それも叶わずに次元航行部隊だけが戻って来ている。これは由々しき事態だ!!」
「こうして話している間にも、危機は増大しているのです。至急、救援に赴かせてください!!」

東郷に続けて発言したのは北野だ。周りが止めようとしても、彼らは進み続けるに違いない。時間を無駄にしたくない二人の思いに応えたのはキール、クロベール、フィルスだ。
望み薄であろうと、救援に向かわせるべきであろう。それに、局員も乗り合わせているのだ。当局としても、見捨てる訳には行かないのだと、彼らは言うのだった。
  それに同意したのは幕僚長のレーニッツ、ハラオウン母子など、良識派の面子の他、オブサーバーとして同席しているはやてらだ。

「東郷提督、北野提督、貴方がた地球艦隊は至急救援に向かって頂きたい」
「閣下のご判断に感謝いたします。直ちに出撃します!」

敬礼してから東郷らは真っ先に会議室を後にした。それに続いたのは、観戦武官として乗り合わせているはやてだった。彼女はリンディ達に敬礼をすると、席を立って行く。
なのはは止めたい心境だった。しかし、有無を言わさないようなはやての眼差しい押される形で見送るような格好となってしまったのである。

(お願いだから、無事に帰って来て……)

言葉には出せない。なのはは親友が全員、無事に帰って来てくれることを強く願いつつも、はやての後姿を見続けたのだった。

「艦長、出港準備は既に整っています。後は出撃命令を下されば……」

  艦橋へ戻って来た東郷に対して、目方は早々に艦の状態を報告する。東郷の予めの指示により待機していた故である。
いつでも出撃できるよう、〈ミカサ〉を始めとした残る艦艇二二隻は管理ドック内で準備万端の態勢を維持しつつあったのを知ると、東郷の出すべき命令は決まった。

「これより、我が艦隊は第四三無人管理世界にて戦闘を継続中のマルセフ提督らを救援に赴く! 全艦、出撃!!」
(待っててや、フェイトちゃん、ティアナ、シャーリー、マリー。今行くで!)

観戦武官として乗り合わせる、はやて、リィンフォースU、そして艦内待機していたグリフィスも、まだ戦っているであろうマルセフ達、親友と後輩達の安否を心配しつつ、一刻も早くたどり着けるように祈り続けていた。
〈ミカサ〉の機関部が唸りを上げて管理ドックから次元空間絵と姿を現すと、次は全力で転移ポイントへと向けての航行に移ったのである。
彼らが到着するまでに、マルセフ達にも予想外の展開が巻き起こされている事を想像するのは、今の現状では無理な話であっただろう。





  味方の離脱のために踏み止まる地球艦隊残留部隊は、五つ方向から迫るSUS艦隊の攻勢に晒されていた。マルセフは小惑星帯で必ずしも全滅を望んでいた訳ではない。
あくまで味方の離脱が最優先であり、それが見送りとどけられれば、今度は自分らが離脱する番なのである。
とはいえ、離脱を完全に見送るまでには相当な時間があった様な錯覚を覚えるようで、実際はそれ程までに長くはなかったかもしれない。
確認するまでに〈シヴァ〉も相当な被害を蓄積し始めていた。小惑星帯が味方してくれているとはいえ、被弾は完全にまぬがれぬものだった。
半包囲網に置こうとするSUS艦隊の赤いビームの雨は、小惑星を巻き込み破壊しながらも地球艦隊に降り注いでおり、僚艦も確実なダメージを負っていた。

『右舷五番スラスターに被弾!』
『左舷ウィング、第二両用砲が大破! 使用不能!!』
『艦首下部に着弾!』
「出力、七パーセント低下!」

  各部署からの被害報告が入る。機関室も被弾の影響を受け始めており、波動砲の満足な充填も不可能となっていた。パーヴィスも苦心の表情がよく伺えるが、まだ余裕はある。
総計して四〇発近いビーム砲を浴びていたかもしれない。それでもなお〈シヴァ〉は健在だった。戦闘力は大分落とされてしまい、使用可能な砲門も残り四基一二門だけである。
他の砲塔は、被弾の影響で大きく拉げてしまったり、砲身が吹き飛んでしまったりと散々たるものだ。艦体の至る所が凹み、装甲が剥げ落ち、捲れあがるとした状況だった。

「戦艦〈ブルターニュ〉に被弾! 内部で火災発生!!」
「巡洋艦〈タイコンデロガ〉航行不能!」

艦体から黒煙を吹き始める〈ブルターニュ〉に引き続き、今度は〈タイコンデロガ〉までが航行不能に陥り、戦闘不能寸前まで追い詰められていた。
  それでもマルセフは退かずに味方の離脱を完全にさせるために踏み止まり続けた。本来ならホーミング波動砲で相手を葬るべきなのかもしれない。
この様な半包囲態勢にある中で、〈シヴァ〉がそれを使用すれば、左右に放たれたホーミング波動砲は弧を描きながら綺麗にSUS艦隊を撃滅できた筈であったのだ。
だがホーミング波動砲も必ずしも効果的なものではなかった。幾ら弧を描くとは言っても急な角度を実現出来る訳ではなく、しかもSUS艦隊の包囲位置が半円を描いてはいない。
時間差を付けているように前進しているため、一撃で全てを撃破出来る可能性は低く、さらには波動砲のせいで障害物となる小惑星が取り払われてしまい、敵を助ける事になる。
  これでは時間を稼ぐ事など到底不可能。それを考慮したうえで、マルセフは砲撃戦で時間を稼ぐ方法を選んだのだ。それも限界が近づいてしまった頃、ようやく報告が入った。

「味方艦は全て離脱した模様!」

オペレーターの報告に、マルセフは自分らが脱出する番であると、残留艦隊に告げる。これ以上、踏み止まる意味は無いのだ。後は全力でこの場を離れる事に全力を注がねば!

「今度は我らの番だ! 敵の一番少ない集団目がけて突破を図る!」
「右舷二時方向の敵部隊が一番薄い、そこを目指せ!!」

マルセフの命令に従い、コレムが〈シヴァ〉を先頭にして薄いポイントへと前進させる。
  これを見たSUS艦隊、ディゲルは地球艦隊の意図が強行突破にある事を見抜いていた。

「ディゲル長官、敵は第二小隊に目がけて前進を開始した模様」
「味方の離脱を成功させたか……。構わん、全艦、残る地球艦隊を撃滅せよ! 第二小隊は後退し距離を稼げ!」

そうはさせまいと、全艦の包囲網を縮めさせる。地球艦隊は残る七隻、いや、今また小型艦が航路を逸脱している様子だから六隻。対する第二小隊は一一隻を維持している状態だ。
地球艦隊が万全であれば、一一対六でもSUS艦隊が敗れ去っていたであろう。しかし、今は長時間の攻撃の甲斐あって戦闘能力は半数以下に落ちている。
  │小煩い蠅共(F・ガジェット)も完全に駆逐したのだ、地球艦隊も長くは持つまい。とは言いたいところであるが、まだ油断は禁物だ。
戦闘能力を半減させたとはいえ、意外なところで反撃を受ける可能性は大いにある。終始、気は抜けないものであり、その証拠に先頭を行く〈シヴァ〉の驀進ぶりは他者の度胆を抜かすに充分であった言え、艦体をビームで叩かれながらも怯むことのない姿を見たディゲルも例外では無かった。
  しかし、そんな時になって幕僚の一人が口を開いた。

「長官、そろそろ、援軍が来る時間ですが……」
「援軍……そうか、そうだったな。確かエトスの連中だったか?」
「はい。エトス艦隊六一隻が戦闘エリアに入る頃です。今頃な気もしますが……」

ディゲルは地球艦隊と次元航行部隊に攻撃を仕掛ける前、〈ケラベローズ〉に控えるベルガーへ戦闘報告を告げていた。
無断で戦端を開いたのはディゲルではあるが、実戦による戦闘データの収集という名目で詳細報告を送っていたのだ。
その中で、ベルガーは念を押しての援軍を差し向ける事を決めていた。動員させるのに自軍の兵力を使い続けるのも考え物だとして、彼はここで初めてエトスに指示を出す。
地球艦隊の強さは十分に称してしている。このままSUSだけで地球艦隊と戦闘していては、ダメージの蓄積が馬鹿にならない。だからこそ、部外国のエトスを選んだのだ。

「“ブシドー”とかいう、下らない精神構造を持つ奴らだが、戦闘力は馬鹿には出来んからな。まぁ、貴官の言うとおり、今頃到着しても遅い気もする」

  指揮席の肘掛けに右肘を付き、右拳に頬を乗せながらディゲルは言う。援軍に来てくれるのは、悪い話ではない。
しかし、エトスには次元跳躍技術を持ち合わせていない故に、時間が通常よりも必要としてしまうのだ。
管理局が行ったような、次元転移装置は与えられてはおらず、SUSが用意した艦隊規模用の転移装置をもってしてレベンツァ星域のある世界まで飛んで来たのだった。

「……長官っ! エトス艦隊が戦闘宙域に到着しました!」
「……噂をすれば、か」

  そこでふと思った。地球艦隊の航路からして、そのまま行けばエトス艦隊とぶつかる事となる。どうせ地球艦隊は瀕死も同然の状態だ。
ここは無理に通さんとするより、エトスに任せておいても別に構わないのではないか? ディゲルの率いる艦隊も、なんだかんだで七隻(空間歪曲波発生装置搭載艦も含む)の撃沈と、九隻の大破した艦を出してしまっており、これ以上の損失は好ましくはなかった。

「先ほどの命令を撤回する。地球艦隊の離脱を阻止せずに前進、小惑星帯を出るのだ」
「し、しかし、司令」
「戦闘データは十分に取った。これ以上の損害は馬鹿馬鹿しすぎる。後は奴らに任せ、我らは地球艦隊の退路を断つことに専念だ」

先程までの考えを撤回させると、SUS艦隊は素直に地球艦隊とは真逆の方向に前進を始めた。第二小隊も小惑星帯を利用して地球艦隊からの攻勢を避けつつ、すれ違う。
地球艦隊からはまだエトス艦隊の姿を捉えきれていない筈だ。恐らく、小惑星帯を出てから離脱する時には、罠にはめられたと悔しがりながら散ってゆくであろうな……。
  その様な事を考えていたディゲルだが、彼の思惑は凡そ五分後に無情にも裏切られる結果となった。

「馬鹿なっ! エトスの阿呆共は何をやっているのか!?」

彼はエトスに怒号を浴びせつつ全艦に前進命令を下した。他の幕僚も、エトスが取った行動に対して動揺を隠せていない。彼らが見た光景とは、どんなものであったのか?
SUSは予定通りに小惑星帯を抜け出して地球艦隊の退路を防いだ。エトス艦隊も通すまいとして陣形を広げて包囲態勢に置こうとしていたのだ。そこまでは良かったのである。
一旦足の速度が遅くなった地球艦隊に、エトス艦隊は砲撃を開始した。まだ距離があり有効打を出すには至らない。地球艦隊も決死の反撃に出るも、砲撃はバラバラだ。
  全滅も時間の問題だった筈なのにどうか? エトス艦隊の砲撃は全く命中する気配を見せない。それどころか、わざと外しているのではないか……そう思ったのも束の間だった。
何とエトス艦隊は堂々と地球艦隊に進路を譲ってしまったのだ。これは一体どういう事か! エトスの奴ら、この期に及んで裏切る気か、それとも怖気づいたとでも言うのか!
これを怒り狂わずにはいられないディゲルは、艦隊を前進させて地球艦隊を潰そうとも考えたのだが、それは無理な話だった。砲撃距離に持ち込む前に、離脱されてしまったからだ。

「……地球艦隊、完全にロストしました」
「直ぐに回線をエトス艦隊旗艦へ繋げ! 奴らめ、一体どうゆうつもりで地球艦隊を逃したのか、問い詰めてくれる!」

感情の高ぶりは収まりそうにない。周りの幕僚達も鼻持ちならぬ様子で、エトス艦隊司令官の言い訳を待ち望んだのである。



〜〜あとがき〜〜
どうも、第三惑星人です!
つい先日は最高気温三七度という、死んでしまうのではないかという気温を体験したわけですが(しかし室内に居たと言うw)、皆様は大丈夫でしょうかね?
六月も終わりますが、このままですと来たる夏はどんな事になるやら、想像もつきませんね。
さて、今回にてようやく戦闘パートが終わったわけですが、なんだかグダグダな展開になってしまったと反省しております。
しかも最後にエトスかよ! という突っ込みが絶えないであろう、最後の描写ですが、別の想像をなされていた方には申し訳ないです。
では、今回はここまでにさせて頂きますと共に、次回の更新をお待ちください。

それと、設定画を新しく設置したわけですが、私の汚い絵を晒す事になってしまいましたw
キャラクターはどちらかというと、リアル系で描こうとするものですから、どうしても変な出来になってしまうのが悩みです。
そのうち、絵師様に代行をお願いしてしまうかもしれないですね……。

拍手リンク〜
[四五]投稿日:二〇一一年〇六月一八日九:一八:二二 グレートヤマト
はじめまして。
全話読ませていただきました。
まさかのなのはとヤマトのクロス……。
デスラー総統、次元方面軍を組織してたりするのかな?

>>ご感想の書き込みに感謝します!
私自身も無謀を承知で書かせていただいておりますが、ご満足頂ければ嬉しく思います。
デスラー総統の件ですが、次元方面軍は難しいかもしれないですね。
もしかしたら、出られるかも……?

[四六]投稿日:二〇一一年〇六月二二日一九:五二:一六 EF一二 一
最後で木になる、じゃなくて気になる勢力が登場しそうな気配。
あの面々なんでしょうか?
設定画も拝見しました。
マルセフ提督、英国紳士風の趣がありますね。
他の面々のお姿も楽しみにしています。

>>毎回の書き込みありがとうございます!
最期の気になる影、それがエトスという……期待外れも良いとこですね(←オイ)
それと、設定画は他の者達も書く予定ではありますが……あまり出来に自信が無いです。
本当でしたら、他の絵師様に頼もうかと思う次第です……。



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