ミッドチルダ北部ベルカ地区に建つ、聖王教会大聖堂。その執務室の作業用デスクを前にして、書類整理などを行う若い女性がいる。
黒の長袖にロングスカートという修道院の様な服を身に纏い、ロングヘアーの金髪にヘアバンド。二五歳前後とされる若いその女性が、書物や書類に目を通していた時の事である。
一般人では読めそうにない、難解な言語が記されたタロットカードの様な物が現れると、彼女の周囲を囲む様にして浮かび上がった。
やがてランダムで数枚程のタロットカードが選び抜かれた。選び抜かれたカードの言葉を記録するために、デスクに予め置かれている白紙に書き始める。
その美女は、やがて写し終えた紙に目を通す。
  時折に起こるそれ――予言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)は、彼女が持ち得る極めて特殊な能力だ。

(今度は、いったい何を知らせると言うのかしら……)

聖王教会の教会騎士団騎士、カリム・グラシア。教会内でも有数な魔導師であり、管理局内ではその手腕や能力から少将としての地位を授けられている程の人物である。
そんな彼女が興味と不安の混じり合ったような心境で、自らが書き(つづ)った言葉の解読をスラスラと行う。
  本人曰く“良く当たる占い程度”らしいが、ここの所は吉凶ばかりだ。SUSという、恐るべき外部勢力の出現を予知したはいいが、所詮は予知するに過ぎない。
局内の対応が予知に大きく反映されたとは言い難く、殆どが痛い目を見ている。次元航行部隊の大敗、管理世界の安否不明及び地上部隊の壊滅。
この報を耳にした時、彼女もまた、次元管理局なるものの力が強大では足りえない事を自覚せざるを得なかった。そして聖王教会もまた、無関係とは言い難いこの事件。
SUSの猛攻を前にして、果たして聖王教会がどの様な対応を可能とするのであろうか? 本音を言えば手の下しようがないというのが現状である。
  強力な武装を持ち得ている訳もなく、単に優秀な魔導師が集うような組織だ。管理局のエース達以上の力を持っていようと、SUSの機械軍事力には到底敵うことは無いだろう。
そこまで考えた時、彼女自身が記した予言文の解読が終了した。原文とは別の訳文を改めて見ると、そこには以前と似たような難解に思える言葉が綴られている。

彷徨いし法の不死者、重なりし円盤もつ戦乱の地にて

分岐乗り越える貿易者の魂となり導かん

遥かな地より導かれし者達が持つ不屈の刃

天を裂き破壊神とその下部のもとへ翼を広げん


(彷徨いし法の不死者……管理局の事?)

“法の不死者”というのは何処となく管理局を示しているのは予測出来る。しかし“彷徨いし”とは? これも予測ながら、次元転移での事故等の事を示しているのではないか。
さらに不可解なのは後の文だった。“重なりし円盤もつ戦乱の地”そして“貿易者”である。一体、どの様な世界だと言うのだろうか……。円盤、といのは特に理解しにくい。
  だが、ここで前例として予言を出した予言文を思い返してみる。破壊神と下部の事は、別世界の地球から来た軍艦の事だった。ならば、この貿易者もそれと同じなのでは?

(私の予測にしか過ぎないけれど……これは、例の地球防衛軍と同じなのかしら? それとも、また別世界からの……)

しかし、後者の考えは否定されるに終わった。二文目には、“破壊神とその下部のもとへ翼を広げん”とある。即ち、これは地球防衛軍のいた世界と同じ者達ではないのか。
でなければ、共に戦おうとする事は無いだろう。そこまで予測した時、これ以上自らの推測ではどうにもならないと判断。
  そして時間を駆ける事が許されない今、彼女はこれを一刻も早く知らせるために、秘書を呼び寄せた。数秒もしない内に、呼ばれた秘書は執務室へ入室した。
グラシアと同じく黒い修道院服を身に纏い、薄いピンク系の髪をショートにした二三歳程の若い女性である。
カリムの長年の秘書兼護衛として、或いは同僚としても信頼に足る人物であり、名をシャッハ・ヌエラと言う。

「お呼びでしょうか、騎士カリム」
「えぇ。はやてを通じて、呼んで欲しい人がいるの」
「お呼びするお方とは?」

そこでカリムは呼んで欲しい人物の名をシャッハに言った。

地球防衛軍(E・D・F)艦隊司令、フュアリス・マルセフ提督よ」

  その名を聞いた時、シャッハは驚きを最小限に抑えつつも聞き返す。まさか、ここへマルセフ提督をお連れするのですか、と。
カリムは肯定の頷きを見せる。彼女が驚くのも無理はない。聖王教会(ただし、カリムに面会するに限って)というのは、一般の人は無論普通の局員でさえ招くことは無い。
それは全て、カリムの希少能力を厳重に守るためである。例外と言うべきは信頼に置く人物のみであり、それが、はやて、なのは、フェイト、クロノ、といった面々。
互いに、強く信頼に結ばれた間柄の人達ばかりが、彼女と直接に会うのである。
  そこへ敢えて、別地球世界の非魔導師である軍人を招こうと言うのだ。

「遂先ほど、新たな予言が出たの。内容からするに……地球防衛軍と関わりが深いのでは、と思うのよ」
「彷徨いし法の不死者……戦乱の地……貿易者……」

シャッハは、解読が終えたばかりの予言に眼を通し始め、カリムの言うところの地球世界が関連している事を、彼女なりに推測する。言われてみれば、そうかもしれない。
だが、他所の人間と言っても過言ではないマルセフを、易々とここへ連れて来れるかどうか、とシャッハも頭を傾げてしまう。

「はやてとフェイトは、地球防衛軍と接しているわよね?」
「えぇ、確かに観察官として乗り込んでいる聞いていますが……。まさか、それではやてを?」

それを考えれば、不可能でもないかもしれない。そこでさらに、リンディらの助力でこちらへと連れて来れるように手配してもらえれば良いのであるが……。
聖王教会はロストロギアの管理・保管を行っているが故に、管理局――特に次元航行部隊との関連は深いものである。その関係を用いてもなお、難しい話でもある。

「分かりました。時間が切迫しているでしょうし、兎に角も連絡を取ってみましょう。」
「ありがとう、お願いするわね。」

  そう言うと、手筈を整えるためにシャッハは執務室を後にした。再び静寂を取り戻した執務室で、カリムは先程の清書した予言文に改めて目を通した。通しつつも、ふと思う。
事故で迷い込んで来た地球防衛軍は、管理局と各世界へ新たな新風を吹き込む存在だ。無論、きっかけとなったのは地球防衛軍だけではなく、SUSも含まれる。
ただし前者は管理局及び各世界に対して、新しい何かを生み出す母体である。後者は破壊と殺戮を吹き込む母体と言えよう。
  この歴史に深く刻まれるであろう、一大事件――或いは戦争。予言の通りならば、地球防衛軍と言う存在がSUSなる強大な敵を打ち破ってくれることになる。
それでもどの道、管理局と各世界は体質を大きく変貌せざる得ないだろう。聞けば、防衛軍は守護神たる頼もしい存在であるらしい。
その強大な力は管理局にとって大きな弊害であるのだという。質量兵器を使用した、最強または最凶と言える武器。
  これを平然として使いこなすには、どれだけに年数を必要とするのであろうか。カリムもまた、優秀な魔導師だ。
地球防衛軍の技術や、管理局に対する考え方が各世界へと広まった時、管理局だけでなく、聖王教会という存在もまた否定されてしまうかもしれない、と思えてならないのだ。
魔導師を重視し、非魔導師を差別するような考え方を持つわけではない彼女でも、不安は全くないと言えば嘘になるのであった。





  はやてから面会の願いを申し出されてから、およそ一時間三〇分が経過した頃だった。管理局が内密に手配した送迎車の後部座席に、面会者となるマルセフの姿があった。
他には随員者としてコレム……ではなく、目方の姿がある。本来なら、副長であるコレムが付いて然る筈べきだが、彼自身はまだ傷を癒え切らせていない。
そこで手を上げて名乗り上げたのは、意外と言うべきか〈ミカサ〉副長の目方 恵子である。明確な目的は言ってはないものの、意義無しと決定した。
  余談ではあるが、〈リットリオ〉艦長のカンピオーニもまた候補しようとしたのだが、あえなく夢に終わった。副長のクリスティアーノに説得――もとい脅迫を受けたためだ。
そして随伴者でもう一人、護衛役として抜栓されたのが坂本である。毎度の事、マルセフやコレムが会議に出席する度に護衛役を引き受けており、当然ながら腕も立つ。
こうして、面会者のマルセフ、随伴者兼護衛役の目方と坂本、という三名が決定した。それからはあまり時間を掛けずして、リンディやレティはたまたフーバー等の手配を通じて、彼らは転送ポートを使ってミッドチルダへ足を下したのである。
初の地球人――マルセフらの祖国にとっては来日が今ここに叶った瞬間でもあった。

「都市の様子は、地球と大して変わらん様だな」
「えぇ。しいて言えば、チューブ・カーが無い、という事くらいですかね?」

  送迎車の車窓に見える街景色を眺めやり、マルセフと目方は呟いた。因みに目方の言うチューブ・カーとは、主都メトロポリスの高層ビル群(重要施設等含め)の間を繋ぐように設置されている、専用の移動車の事である。
こちらの方が、各ビルを降りて隣のビルへ向かうよりも、幾段も時間節約になるのだ。そのために意外と重宝される存在でもある。
  ミッドチルダも今から凡そ半年前には手酷い被害を受けていたと言うのだが、復興もより進んでいるのだろう。或いは、施設関係の方が重度の被害があったと言えた。
運転席にはフェイト、助手席にはやて及びリィンフォースUが乗り込んでいる。もっとも、リィンフォースUは毎度のことながら、はやての方にちょこんと座っているだけだ。
物珍しそうに街景色を眺めやるマルセフ達に、はやては助手席からこんな事を聞いてみた。

「そんな変わらないんですか? 私らも、マルセフ提督らの地球を見てみたいです」
「リィンも見てみたいですぅ」
「ははっ。主要施設の周辺にビル群が立ち並ぶ様は、変わらないよ。まぁ、見てみた方が早いのだろうがね……」

  到底、無理な話である。時空管理局の人間、はたまた別管理世界の人間が、マルセフらの地球に足を降すなど、何年掛かるか知れた事ではない。
助手席に座るはやて、リィンフォースUはその様なこと事をすっ飛ばしたかの如く、自分とは違う世界の地球に足を下す様子を想像していた。
だが、彼女らが地球の様子を見たとして、どの様な反応を示すか。資料の一部でしか見ていない地球の様子を、実際に眼で確かめればきっといたたまれない心境だろう。
今も生々しく残された、クレーターの数々。平和な時間が十数年経過したとしても、その傷跡を残しておく事によって犠牲になった人々への祈りを忘れることは無い。
  首都高速道路を下りてから数十分、マルセフらの乗る車両は無事に聖王教会へと辿り着くことが出来た。
幸いにして、送迎途中で襲われるような事態にならず、ホッと胸を撫で下ろすはやて、フェイトの二人であった。
何せ管理局のみならず、市民の中にでさえ危険な行動に出る可能性があるの。自棄を起こした者が、ここぞとばかりに襲ってくるのを予測してはいたが、それも杞憂に終わった。

「ここが、聖王教会です」
「ほぅ、ここが……」
「教会、と言うとそれ程大きくもない建造物を想像していましたが……」

 車から降りて、はやてはマルセフ達に説明する。ミッドチルダの聖王教会本部となる大聖堂。その建築模様からして、何処となくローマを連想させるような感じも受ける。
この大聖堂は、自然豊かな森の中かつ絶壁の谷間に立地している。その絶壁からは滝が流れており、それが余計に大聖堂をメルヘンな雰囲気に見せているとも言えた。
この様な地形に大聖堂を建てているものは、地球にあっただろうか? ふと、マルセフは過去の記憶の中からドイツにある有名なノイシュバンシュタイン城を思い起こした。
 ただ少し違うとすれば、それは建築位置が絶壁の谷間ではなく、絶壁の山の上に建てられているということであろう。
そんな事を思いながら、彼らは大聖堂へと足を踏み入れる。煉瓦式の壁に、植木が生い茂る大聖堂の中庭を歩き入り口前まで歩くと、そこにはシャッハの姿があった。
はやてにとってはよく顔の知る人物でもある。

「久しぶりやな、シャッハ」
「えぇ。フェイトも久しぶり」

フェイトも軽く頷き微笑み返す。取り敢えず久しぶりの再会は置いておき、今回は重要人物であるマルセフへ挨拶を交わした。

「お初にお目に掛かります。騎士カリムの秘書を務めております、シャッハ・ヌエラと申します。お出迎えに参りました」
「こちらこそ、お出迎えに感謝します。地球防衛軍〈シヴァ〉艦長のフュアリス・マルセフ中将です」
「戦艦〈ミカサ〉副長の目方 恵子中佐です」
「護衛を務めます、坂本 茂少佐です」

  三人の自己紹介が済まされると、シャッハは早速と中へ案内を始めた。だが、彼女もふと違和感を感じている。普通の人間であれば感じる事のない、魔力じみたものだ。
その違和感の元が、目方であったのは言うまでもない。魔導師なのかと疑惑を抱きつつ、その感情は胸の内にしまっておくことになった。
案内人であるシャッハの後に続く。着いたのは、客人用の応接室であった。彼女はドアをノックし、マルセフ達を案内して来た旨を伝えると、中から入室するように返事が来た。
部屋に入る直前、坂本は廊下で待機すると言って入る事を拒んだ。あくまで護衛で来たのであり、深い話し合いの内容までは揺れようとはしない。
それが坂本の言うところであった。マルセフは坂本を廊下に待機させる事を許可し、自分と目方はそのまま入室して行ったのである。

「お待ちしておりました。わざわざご足労をお掛けしました事、感謝します。私が聖王教会騎士団のカリム・グラシアと申します」

  まるで女神だな、というのがマルセフの率直な意見である。ここにカンピオーニがいたら、さぞ惚れ込んでしまっていただろう。
そう思いつつも、深々と頭を下げて挨拶するカリムに、マルセフも自らの名と所属を名乗った。

「恐縮です。私が地球艦隊司令、及び〈シヴァ〉艦長を務めるフュアリス・マルセフ中将です」
「お初にお目に掛かります。小官は〈ミカサ〉副長の目方 恵子中佐です」
(あら? この方は……)

先ほどのシャッハが感じた様に、彼女もまた同様の魔力じみた力を敏感に感じ取っていた。目の前で頭を下げている目方に、意外だと思いつつもまずは席へ座るよう促した。
 座るまでの短い間に、はやては懐かしき友人に話しかけた。無論、念話であるが。

(久しぶりやな、カリム)
(久しぶりです、騎士カリム)
(本当に必死ぶりね、二人とも)

声に出さないよう、三人は念話の中で久々の再会を喜びあう。特にカリムは、フェイトの身を心配していた。それもそうだろう、彼女の乗った艦がSUS艦隊と遭遇したのだ。
ほんの短い間に挨拶を済ませるだけなので、後の詳しい話は後に持ち越しになった。案内された円状のテーブルを前に、マルセフと目方は、被っていた軍帽を外して着席する。
次にカリムを始めとして、はやて、フェイトの三名も席に着く。そして席に着くと同時に、五人分の紅茶トレイにを乗せた別の秘書が、それらを一人づつの前に置いていく。
  その者は、短髪にした濃いめのブラウンの髪に、執事服を身に纏っているのだが、顔立ちが中性的な印象を与えているが、れっきとした女性だ。
彼女の名をオットーと言い、数か月前にはJ・S事件に関わっていたナンバーズという部隊の一人であるが、マルセフはそこまで知り得ている訳でもなく、紅茶を配るオットーに軽く会釈する程度だった。
配り終えてから再び隣の控室に身を置くオットーを確認する。ステンドガラスから入る陽の光に照らされつつも、早速とカリムは本題に入った。

「今回、マルセフ提督らをお呼びしましたのは、こちらの内容をご存じあるのではと思った次第です」
「……拝見させて頂きます」

  カリムがテーブルの上に先ほど解読した予言文を、マルセフらに見やすいように置く。それをマルセフは手に取って目方と共に内容に目を通した。
予言文はさして長いものではない。数秒の間、マルセフは小さく声を唸らせたりして、予言文の意味を捉えようと目を通し続ける。
傍に座る目方も、その分を理解しようと整った眉をやや寄せている。そして二人して、あぁでもない、こぉでもないと小さな声で確認し合う。

「どうです、何かお心当たりになる事はありませんか?」
「……そうですな。私の予想が正しければ、これは……私達の天の川銀河の事を示しているでしょう」
「それは本当ですか?」

思わずはやても聞き返す。マルセフは自信がある訳でもないが、とりあえず頷いて自分の解釈を説明する。

「まずは最初の“彷徨いし法の不死者”ですが、これは貴方がたもご理解している通り、管理局の事を示しているでしょう」
「はい」
「そして、この不死者ですが、これは恐らく……次元航行艦〈アムルタート〉を指しているのでは?」

  幸いにして、マルセフの予測は的を得ていた。元々〈アムルタート〉という名は地球世界で存在する神話世界に登場するものである。
ゾロアスター教において崇拝される善神アムシャ・スプンタの一人でもある。アヴェスター語で“不滅”を意味し、天使或いは女神として崇められている存在だった。
その様な名前が管理局で使用されているのは、恐らく地球出身の局員が持つ知識や資料から、何らかの形で流れ込んだためであろう。

「聞いたことがあります。地球では、確か不死……だと思いますけど、そんな意味があったかと」
「ハラオウン一尉の言うとおりです。〈アムルタート〉は、我が祖国で神話の神として崇められる存在。不死としたら、これが一番当てはまるのではないかと……」

以前もそうであったが、艦名を由来に基づいて表現している様だった。ならば、次元航行部隊所属の局員の中にも、気づいた者はいるのではないだろうか。





  次に取り出されたのは“重なりし円盤持つ戦乱の地”だ。最初こそ何の事か理解が出来なかったものの、円盤という存在がある巨大なものを示していると分かった。

「では、次の重なりし円盤とは?」
「騎士カリムは、私達の世界の資料はご覧になった事はございますか?」
「えぇ、触れる程度にしか見てはおりませんが……」

カリムの質問に答えたのは目方であった。地球防衛軍の過去の歴史資料というのは、限られた範囲内でのみ公開が許されていた。その公開先として、聖王教会も入っていたのだ。
本局とは縁が深い関係で、カリムも地球防衛軍の歴史に目を通したが、唖然と言う他なかった。彼女自身もまた、これ程までに波乱な時代を見た事が無いからだ。
 そして今取り上げた“重なりし円盤持つ戦乱の地”。これは現在の銀河系で起こっていた赤色銀河との交差現象を示しているのではないか? 目方はそう付け加えた。
それを言われた三人は、ハッとした。成程、円盤とは銀河系を指していたのか……と。確かに、銀河とは平たい円盤にも見える形をしている。ならば、貿易者とは何か……。

「……残念ながら、貿易者の詳細までは予測しえません。ですが……」

確実な事が言えるとすれば、この貿易者は援軍たるものではないか、という事だ。援軍と断定するのも難しいのだが、そうと思わせる一文が目につく。
“分岐乗り越える貿易者の魂となる”これはつまり、〈アムルタート〉が何らかの形で貿易者となるものと一体化しているのではないだろうか?
援軍として来るであろう地球防衛軍――防衛軍とも限らないが、残念ながら次元空間への転移する技術など持ち合わせてはいない。
 それがこちらの次元世界へ来ると言うのであれば、地球世界へ流れ付いた〈アムルタート〉の技術を応用してから来るしかないのだ。

「まもなくSUSの大攻勢が始まります……」
「それは私も存じています」
「そこで騎士カリム、この予言に出る来訪者の時期は分かりませんか?」
「……私の能力は、半年から一年先の出来事を大まかに予測するに過ぎないのです。時間的な予言までは、残念ながら……」

カリムも自分の予言には限界がある事を十分に承知している。それだけに、時間の勝負が掛かっている今回の様な場合で時期を予測しえないのは、痛恨の極みだとも言えた。
せめて、もう少し積めた予言が出来れば……と、彼女は表情を曇らせてマルセフに謝罪の言葉を述べる。

「いや、騎士カリムが謝るような必要は全くありません。寧ろ、私達は仲間がここへやって来ると知れただけでも、大いに感謝しております」
「その通りですよ、騎士カリム。小官も、この危機に仲間が来ると知ることが出来て嬉しく思います」
「……ありがとうございます。マルセフ提督、目方中佐」

  はやて、フェイトは、目の前の二人が自信を得たような表情をしている、と思った。これまでは彼らのみで、協力してくれたのだ。
そんな所へ、戦友達が来るとなればどれ程に勇気づけられる事か。何よりも、向こう側からこちらへ来るという事は、マルセフ達も戻れる可能性を大いに秘めている事になる。
そう、地球世界への座標が確保出来るという事でもある。大まかな想定が出来たころになって、ふと、カリムは少し話題の路線を変えてみた。
  それは、先ほどから気になっていた、目方の魔力じみたものについてであった……。

「目方中佐に、お聞きしたい事があります」
「何でしょうか? 騎士カリム」
「貴方は……何か特殊なお力をお持ちではないですか?」

ストレートな質問という訳でもないが、カリムはフェイト、はやての気にしていた事を代表して尋ねる。
聞かれた目方は形の良い眉を少し上げて驚きを示し、マルセフに至っては何の事やらという顔をしていた。
彼は目方の詳しい事情までは知り得てはいない。それも当然と言えば当然で、司令官ともいえる人物が各艦の艦長あるいは副長の出身やプライベートを把握している訳ではない。

「騎士カリムは、何故、私に特別な力があると……」
「これでも、私は魔導師です。人に魔力があるかどうかくらいは、私にもわかります」
「……中佐、本当なのかね?」
(え? マルセフ提督は知らへんかったの?)
(はやて、私が言うのもなんだけど……トップに立つ人が、数千人以上の部下を隅々まで知り得ているとは思えないよ?)

 彼女の指摘通りだ。しかも、マルセフと目方では艦の所属どころか、艦隊の所属も全然違うのだ。
はやても指揮官として機動六課を纏めていたが、友人や知人たるなのは、フェイトらは兎も角として、その下で動いてくれていた大勢の部下達を、隅々まで知り得てはいなかった。

「……はい。騎士カリムの仰る通り、他の人とは少し違うものを持っています」
(やっぱり、そうやったんね)
(うん。けど、この魔力は一体?)

はやてとフェイトは念話で目方の事を推測しているが、そんな目方も隠す必要性は無いと思い、自分の事を話し始めた。まさか、ここに来て自分の事を聞かれるとは思わなかった。

「私の生まれた家は、代々神社を祀っていた一族です。恐らく、八神二佐は神社というものをご存じでしょう?」
「はい。私も日本の生まれですから、それは知っています」

無論、日本に在住していたフェイトも知っている。目方は、神社を知らないであろうカリムに説明をする。お祈りをする場所または神様を祀る場所である、と。
ヨーロッパ等で言えば、教会と何ら変わりないものだ。そして、ここ聖王教会も似たようなものであり、聖王教会大聖堂にも祈りを捧げる人はいるのだ。
  そして本題に入った。目方家は、代々神社を祀るだけの一族ではない。今時の地球では稀にしか見られない、魔術めいた力を継承している。
その魔術めいたものとは、術式等で大きく違ってくるのものの、目方家は一般に言う“陰陽道”を継承していた。

「オンミョウ……ドウ?」

カリムにとっては、初めて耳にする魔術であったに違いない。マルセフも欧州系統の出身故に陰陽道とは一体どんなものであるかは知らなかった。
日本人ならば、陰陽師と聞けばピンとくるであろう。日本平安時代の中でも名の出る陰陽師、安倍晴明は特に有名な人物である。
陰陽道とは、暦、曜日、陽の動きと言った時間的なものと、方位、地形を組み合わせ、応用する事で吉凶を占うものだ。
  しかし中には占いだけではなく、人を殺めたりする事も出来る呪術、式神、といった物も扱う事が出来る(ただし、力量に差が大きいであろうが)陰陽師もいる。
だが陰陽道とは、日本の明治時代頃には完全に忘れ去られる存在へとなりつつあった。科学こそが、首都東京――はては日本を世界へ導くものだと信じられていたからだ。
その様な科学が常識となった世界にとって、目方家の様な陰陽道を扱う事が出来る一族は、非常に貴重な存在でもあった。もはや、世界でも数える程度でしかないであろう。
  聞かされたはやて、リィンフォースU、フェイトは勿論、カリムも驚くには十分なものであった。しかし、考えてみれば、これもあって当然の違いであろうと思った。
魔導師とは、あくまで管理局世界での呼び名であり形である。管理局の上層部でこれを知ったら、目方をスカウトする可能性があるのではないか、と思えてしまった。

「でも、私はそれ程強い力は持ち得ていませんよ? なんせ、こうして防衛軍として活動していますから……。私なんかよりも、父、そして姉の方が上です」
「しかし、それでも何か出来るのでは?」
「そうですね……取り敢えず、私には普通の人には見えないものが視えるんですよ」
(まさかとは思うんやけど……)
(はやて……その、まさかだと思うよ?)
 
そう、そのまさかであった。目方には霊的な視力がある。管理局の様な魔法世界では霊というものが馴染が殆どなく、カリムも目方の霊が見えるという事実には驚きを示していた。
目方はその証拠に、とある一例を言った。まさに、その模範的とも言える一例が傍に存在していたのだ。

「八神二佐」
「は、はい!?」

 突然名を呼ばれてビクリとするはやてに、目方は澄ませた瞳で衝撃的な事を言い放った。貴女の後ろ、一人憑いていますよ、と……。
その瞬間、はやての背筋は今までにない程に寒気が走り、どうしてウチの背後に霊が憑いておるん!? と声には出さないものの念話でフェイトに訴えかけた。
寧ろ訴えかけられたフェイトの方が知りたい。慌てるはやてに、目方は焦らしたように付け加えて言ったのである。

「大丈夫、落ち着いて下さい。悪霊ではないですよ」
「へ? ほ、ホンマですか?」

思わず口調が本来に戻ってしまったが、目方は気にしなかった。彼女は続けて言う。貴女の後ろにいるその霊は、貴女を見守っています、と。では一体、どの様な霊であるのか?
はやては首を傾げて、目方に問う。そして彼女がその霊の特徴を口にした時、はやて、リィンフォースU、そして同席しているフェイトすら驚愕することになる。




〜〜あとがき〜〜
どうも、第三惑星人です!
相変わらず暑い日が続きますが、皆様はいかがお過ごしでしょうか?
さて、今回はリリカル〜のキャラである、カリム・グラシア女史、及びシャッハ・ヌエラ+α(オットー)に登場して頂きました。
いやぁ〜、まさか原作キャラをここまで出すとは……諸注意であれほどに、原作キャラを出さないであろう事を言っておきながら、この結果です(汗)。
また、彼女らの口調なども把握している訳でもないので、違和感をバリバリ感じるかもしれませんが、その時は掲示板等に書き込んで頂けたら幸いです。
にしても……ここにきて中途半端な感じが否めないですね。最後に至ってはオカルト話か! と自分に突っ込みをかましましたがw
では、今回はここまでにして、失礼いたします。

拍手リンクより〜
[五八]投稿日:二〇一一年〇七月二六日八:一三:五一 グレートヤマト
次回は、カリムが登場するみたいですね。
カリムの新たな予言が出るのか?
『守護神(ヤマト)』来るとか……。
古代と北野の再会も見てみたいな。
ヤマトが参戦すれば地球艦隊の士気が上昇するのは間違いないし。
管理局側は、どうすれば士気が上がるのか?
伝説の三提督が前線に立つとかしないと……。

>>書き込み、ありがとうございます!
遂に出してしまいましたよ、カリムを……上手く表現出来ているかもの凄く心配でなりません(汗)。
古代と北野も、久しぶりの再会が出来るようにしたいですね。
管理局は……なんとかなる!(←何がだw)

[五9]投稿日:二〇一一年〇七月二八日二三:二9:四五
F二二Jラプターと申します。前回に「ヤマトの出撃」要望を出させて頂きました。その時は名前を書き忘れていました。今後宜しくお願いします。さてさて戦力減少のこの時にカリムの登場ですか。どんな用事(予言?)なのか気になって仕方ありません。それと自分は兵庫県在住ですので、関西弁についてアドバイスを。・・・申し上げにくいのですが、(圧倒的に)目上の者に向かって、ましてや公的機関では標準的な敬語を使います(先輩・後輩程度なら多少フランクになりますが)。以後の参考にして頂けたら幸いです。

>>以前に続きまして、書き込み感謝いたします!
それと、兵庫県在住の方とお聞きいたしました。はやての口調に関する(関西弁)アドバイス、誠に感謝いたします!!
私自身、関東の人間なものですから、下手に関西弁の口調を崩したくはないと思いつつも、悩ましげなところでした。
アドバイスを基に、再構築させて頂きます。
本当にありがとうございました!!



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