それは唐突であった。主要局員以外の者を急ぎ撤収させている中、管理局本局は地震の様な振動に襲われた。揺れる時間事態はごく二、三数秒で収まるレベルだ。
しかし、それがまた一〇秒ほどの間隔を置きながら連続する。いったい何が起きているのか、とキンガーは状況の説明をオペレーターに求めた。

「レーダーにはエネルギー反応しか捉えられません! ですが、この放射パターンから一隻のみではないかと!」
「先ほどまで後方で援護射撃していた奴か……総員の撤収作業を急げ!!」

転送ポートに駆け寄る大勢の局員達を他所に長距離砲撃を加えてくる。それだけではない、前面に展開しているSUS軍が本局を目指さんと一斉に前進を開始した。
地球艦隊や次元航行部隊、エトス、フリーデ、ベルデルの防衛線を無理やりに突破して来るSUS軍を見て、リンディは察した。もはやこの攻勢を防ぐ事など不可能である、と。

「レーニッツ提督、このままでは到底間に合いません。ここは、艦船にも分譲させるべきです」

  この進言に思わずレーニッツは眉を上げる。隣にいるキンガーも、何を馬鹿な事を、と言わんばかりだ。レティにしても、これは無謀すぎるのではと見ている。

「ハラオウン統括官……正気かね? 次元航行艦に分乗させ避難したとしても外に出た瞬間に沈められるのがおちだ」
「承知しています。ですが、あのSUS艦隊の動きは一撃離脱だと推測します」
「確証はあるの? リンディ」

レティの問いに、リンディは自信を持ってまで頷くことは出来なかった。しかし、SUS艦隊がもし本局を攻撃するつもりであるならば、余裕を持たす筈ではないか?
後背に敵を残して、しかも無理矢理に陣形を突破して来るところを見ると、あれは攻撃を加えたうえで、そのまま離脱するのが狙いではないかと捉えられる。
そこまで言われるとレーニッツも僅かに唸った。キンガーは、それはあくまで推測であろう、と否定する。ここで意見を割るような時間はないのだ。
  SUS艦隊はそこまで来ている。時間が長引けば、それは残る局員達の生命を危険にさらす事となる。レーニッツは危険を承知のうえで命じた。

「ハラオウン統括官の言うとおり、奴らが一撃離脱を狙うのならば望みはあるだろう。それに攻撃の影響で転送ポートが破壊されるやもしれんからな。よろしい、残る局員の一部を至急ドックへと誘導せよ」
「ハッ!」

振動が続く中、リンディはレーニッツの命令を本局内部へと流す。人だかりの発生している転送ポートで、明らかに間に合わない者達は直ぐにドックへと方向を変えた。
  そのドックに残っているのは、地球戦艦である〈ヘルゴラント〉〈イェロギオフ・アヴェロフ〉の二隻、〈L〉級〈アルケミル〉と〈LS〉級〈ティロン〉の二隻。
加えて建造中である〈SX〉級二番艦〈ラハウェイ〉の計五隻だ。この建造中である〈ラハウェイ〉は外見及び機関部等は完成していたが、戦闘力は微塵もなかった。
一応の航行テストは完了しているため、航行だけならば問題はない。それでも不安が多く残るのだが、それを考慮している暇はないのだ。

「B-5区画に被弾!」
「転送ポートの退避完了まで、およそ五分!!」
「さらなる発砲を確認! 来ますっ!!」

転送ポート側に回っていた局員達の退避完了所要時間は次第に短くなる。しかし、その前には〈ガズナ〉級からの砲撃が命中。その命中先がドックのある個所であった。

「ドックへの被害は!」
「第2ゲートに敵弾命中、損壊しました!!」

  まだ大丈夫だ。当たってはならないのは第1ゲートのみ。ここに砲火が飛び込んでしまっては、中に居る艦艇が危険なのだ。そのために、ゲート隔壁は閉じられている。
いざ出る時は、艦船側からのリンクで開けばよい。開閉不可能な最悪の場合は……撃ち破る他ないだろう。

「提督、我々も退避しましょう」
「そうだな。これ以上いてもどうにもならん。総員、直ちに退避! 急げ!!」

もう間もなく、SUS艦隊自体からの砲撃が殺到するはずだ。中央指令室のオペレーター達は、慌ただしく席を立ち、一番近い転送ポートへと向かう。
無論全員が向かう訳ではない。司令部の人間が全員そちらへと回ってしまっては、ドック側の指揮を執る者がいなくなってしまうのだ。
  そこでリンディが艦船側の総指揮を執ると進言するが、キンガーも名乗りを上げた。自分はあくまで本局の指揮官であり、その指揮下にある艦船を放っておく事は許されない。
それが彼の言い分だ。だがレーニッツは全部隊の総司令であり、先に退避して態勢を整えて貰わねばならぬと続けて言う。

「わかった。キンガー提督、ハラオウン統括官、貴官らはドックに赴き、艦船部隊の指揮を執ってくれ」
「「ハッ!」」

後はもう、移動するだけだ。彼らは慌ただしく中央指令室を後にした。その凡そ一分後、遂にSUS軍からの直接攻撃が開始される。

「っ!」
「如何、攻撃が始まったぞ!」

  リンディとキンガー、そして二人に付き添う補佐官二名の計四名は、砲撃の影響で起こる激しい揺れに足元を掬われそうになる。先ほどまでの砲撃とは段違いだ。
さらに脚を早める四人。高速エレベーターを降りた直後だったので、孤立すると言う事態は避けられた。後は、ドックに続く廊下を駆け抜ければ……!
そこで第二射目だった。しかも、SUSのビームが外壁を突き破り内部へと飛び込む。内部へと飛び込まれた各区画はあっという間に破壊されていく。
破壊の余波は、なんと四名のいる区画にまで及んでしまう。それは、悲鳴を上げるまでもなかった。壁や天井を突き破って舞い込んできた衝撃波に対応する暇などなかった。





  方や本格砲撃が始まる前のドックでは……。

「全員、乗り込んだか!?」
「いえ、後三分は掛かります!」

戦艦〈ヘルゴラント〉艦橋で焦りを見せているチリアクス大佐。平常冷静な彼も、この危機に冷汗を流している。そして、ドック内部で局員達を誘導する各艦艇のクルー達。
ギリギリ乗り込めるだけの人数を収容しつつあった。優先的に収容させたのは管理局の艦船からだった。防衛軍艦船と違い、居住空間を目いっぱい利用すれば相当数が入る。
  だが収容が終わる前に攻撃が本格化する事は目に見えている。どうか、このドックにまで被害が及ばないでくれ……と、もはや祈るくらいしか出来ない状態だ。

「〈イェロギオフ・アヴェロフ〉はどうしたか?」
「はっ! コレム大佐の臨時指揮の下、収容を急がせています。遅くとも、あと五分かと……」

〈イェロギオフ・アヴェロフ〉には本来の艦長あるいは副長が居た筈だ。それが何故、怪我人であるコレムが指揮を執っているのか。
あの『レベンツァ星域会戦』で被弾した際、艦長は衝撃に巻き込まれ戦死。さらに副長も全身強打に破片による重症を負ってしまっていたのだ。
損傷具合からすれば当然かもしれない。しかもだ、乗組員の半数近くが負傷あるいは戦死してしまった。艦橋のオペレーター達も同様だった。
  もはや〈イェロギオフ・アヴェロフ〉は動くだけで精一杯だが局員の避難には使える。そこでコレムは負傷した体に鞭打って艦長を代行することになったのだ。

「波動エンジン、出力六〇パーセントまで上昇!」
「よし、いつでも発進出来るよう、スタンバイしておくんだ……っ!」

艦長席にストレッチャーで固定されたコレムは癒えぬ痛みに、やや表情を歪める。包帯は取れておらず、ジャケットを羽織るだけの状態だ。
それを見たシャマルが彼の背中に軽く手を置いて支えた。

「コレム大佐……」
「大丈夫、ですよ、先生。外で戦っている司令達に比べれば、何の事は、ありません」

傍で容態を見守るシャマルにコレムは安心させようと言う。彼女は本局放棄時に、医療局主任として最後まで残っていたのだ。
  その後、残っている負傷者と医療班数名を伴えて、この艦に乗艦した。コレムは傷が完全に癒えていない事もあり、シャマルが傍で緊急の対応をすることになった。
さらにこの艦橋内には、はやて、フェイト、ティアナ、シャリオ、そしてもう一人。

(こ、ここが戦艦の艦橋……)

不謹慎だと自覚しつつも、興奮する女性。一〇代後半程で、やや紫がかった青髪のショートヘア。ルキノ・リリエ二等海士、次元航行部隊に配属されてまだ日が浅い非魔導師だ。
避難中にたまたま、はやて達と合流した。その流れで〈イェロギオフ・アヴェロフ〉に乗艦し、そのまま付いて行って艦橋まで来ていたのだ。
そもそもはやて達が何故艦橋にいるかというと、彼女らで何かしら出来ないかという気持ちと、コレムからも艦橋に来てほしいとのご沙汰があったためだ。
  艦橋内部は人手不足の一言に尽きる。主要オペレーターの過半数が、艦橋付近への被弾時に負傷したのだ。幸い、航海士が無事だっため、航行不能になる事はなかった。
それでも他の人員でさえ多く人数を減じている。補充要員が足りないため、コレムは無茶を承知で彼女らにも手伝ってもらおうとしたのだ。現に通信席ではシャリオが座っている。
防衛軍戦艦の通信席に座るのは初めてであるが、以前にも航海補佐席で座標確認を執った事もあり、幾分か慣れていた。やや不慣れな機械を前に、通信の送受信を行う。
  ふと、艦内が揺れた。砲撃を受けた衝撃が艦にまで伝わったのだ。

「……ん? 今の揺れは……」
「敵の砲撃ではないでしょうか? それ以外に考えられません」

はやてが軽く助言する。コレムもその通りだろう、と納得するように頷く。同時に、まだ避難していない者はいないだろうかと不安になる。そして、案の定それが的中する。

「そういえば、ハラオウン提督とキンガー提督はどうなさった? 早くしないと危険だ」
「問い合わせてみます」

シャリオが通信機のインカムを耳に取り付けて、各艦へ確認を取る。このリンディがまだ到着しない事に、フェイトは胸騒ぎを覚えた。
  そして、シャリオの返事は不安を増加させた。

「コレム大佐、どの艦にも到着されていないとの事です!」
「何っ!?」

瞬間、フェイトは艦橋を飛び出した。義母、そしてキンガーの身に何かあったに違いない、と確信したのだ。コレムが声を掛ける前に、彼女はエレベーターを乗り込んだ。
一人では如何、とすかさずコレムははやてに対して、一緒に言ってくれるように頼んだ。

「分かりました、すぐに後を追って、リンディ提督達を探してきます! ティアナはここにおるんやで」
「え、あ、はい!」

  はやては、時間が無い事を考えて、飛行能力を有する自分とフェイトの二名で急行しようと考えた。それに加え、はやては念話で他の魔導師に同行するように呼びかける。
艦外へと飛び出たフェイトは、リンディ達を探そうといざ飛び出した。

「っ! また砲撃が命中した」

二度目の揺れに不安を増大させるフェイト。はやてが合流する前に、フェイトは飛び立った。





「ぅ……うぅ、ん……」

  リンディは小さく声を上げつつ、目を覚ます。彼女は床に倒れ伏していた。その状態から何とか身体を起こするが、目の前の床に赤い液体がポタリとしたたり落ちた。
その時初めて、自分の額、丁度左目の上辺りが切れている事に気づく。衝撃波に吹き飛ばされ、壁にぶつけた時に出来たのであろう。同時に自分らに何があったのかを悟る。
  そうだ、二度目の砲撃で、爆発に巻き込まれたんだ。彼女らのいた通路は無残に破壊されていた。壁や天井が崩れ、通路の大半を瓦礫として占領している。
よく瓦礫の下敷きにならずに済んだものだ。そして、先ほどまで行動していた筈のキンガー、補佐官らがいない事に気づいた。

「っ……提督、キンガー提督! どこにおられますか!!」

打ち付けた身体を起こし、上官と補佐官を探す。しかし、探し当てるのにそれほど時間はいらなかった。そこには瓦礫によって下敷きにされたキンガーがいたのだ。
そして補佐官であった二名の内、一名が完全に瓦礫の中に埋もれている。もう手遅れなのが、血だまりでわかってしまう。もう一人は幸いに下敷きにもされず、気を失っている。
  慌ててリンディはキンガーに駆け寄る。しかし、彼も瓦礫の中で断末魔の呻きをあげている状態だ。脚が潰され、身体自体にも相当な重圧が掛けられている。
おそらく、骨格にも、内臓にも多大なダメージを与えているだろう。

「しっかりなさってください、提督! 今助けます」
「私に……構う……な。早……く、行け……」

そう言われて、はいそうですか、等と言えるわけがなかった。躊躇するリンディに痺れを切らしたかのように、キンガーは彼女の右腕の裾を力強く掴み、鋭い視線を向ける。
死を間近にしている人間とは思えぬ威圧をリンディに与え、彼は有無を言わさぬ気迫で、行け、と命じる。

「いいか……管理局を……世界、を……頼む」
「っ!? 提督、しっかりなさってください、提督!!」

  そこで完全に、キンガーはガクリと頭を床に伏してしまう。それっきり、彼が言葉を発する事も無い。リンディは何も言えなかった。ただ、何も出来ない自分が情けない。
しかし悔やんでいる暇はない。また、砲撃の衝撃で揺れる局内。リンディは気絶している補佐官に近寄ると、息がある事を確認する。運ぶために抱きかかえようとした時だ。

「義母さん!」
「っ! フェイト!!」

バリアジャケット姿の娘、フェイトが物凄い勢いで飛んで来たのだ。その後ろからは、はやてと二名ほどの魔導師が付いてくる。どうやら、救助に来てくれたみたいだ。
フェイトは母親が傷を負いながらも無事であったことに、思わず安心から涙目になる。抱きつきたいのをこらえ、フェイトはキンガーはどうしたのかと聞く。

「キンガー提督は……もう……」
「え?……っ!!」
「キンガー提督まで……」

母親の気まずい目線の先をフェイトは追い、その先にある光景にショックを受けた。はやても愕然とする。強硬派、頑固者と言われていたあの提督が命を落としたのだ。
  だが感傷に浸る暇はない。彼女らに四度目の衝撃が襲ったのだ。まだSUSの砲撃は続いており、このままでは被弾の衝撃が彼女らを襲いかねなかった。
リンディは息をしている補佐官一名を保護するよう言うと、彼女自身もフェイト達の護衛のもと、ドックにいる〈イェロギオフ・アヴェロフ〉へと向かうのだった。

「四度目の砲撃が命中した模様! 局内の損害は甚大です!」
「中層階の居住区および、動力部にまで被害が及んでいるようです!」

 〈イェロギオフ・アヴェロフ〉艦橋で、二人のオペレーターが本局内部の様子を報告する。一応、艦内からでも局内部の様子が分かる様にシステムのリンクがなされている。
コレムは艦長席にて、この長々と続く砲撃の振動に気分を悪くしたような錯覚を覚えた。このままでは、本局は崩壊するかもしれない。そうなるまえに、脱出できれば!
外の様子は本局のレーダーを通して辛うじて把握できた。SUS軍が無理矢理に接近し、砲撃を加えつつあることは勿論、もう少しすればSUSが離脱していくことも予想できる。

「フィニーノ一等陸士、〈ヘルゴラント〉へ繋いでくれ!」
「は、はい!」

シャリオは急ぎ通信を〈ヘルゴラント〉へ繋げる。数秒してから、チリアクスが通信画面に現れた。彼も焦りを隠せていないようだ。

「艦長、そちらは至急、脱出できる態勢を整えてください!」
『何を言うのか、コレム大佐。貴官らの準備は整ってはいないのではないか』
「いえ、後はハラオウン提督らをお迎えするだけです。本艦を待っていたら、ここを離れる前に皆が運命を共にすることとなってしまいます!」
『……分かった。こちらは直ぐに出れるよう、出入り口前で待機している。貴官らもハラオウン提督らを収容させ次第、ドックから離脱してくれ』
「了解!」

  コレムの要請を受けて、チリアクは他の艦艇にドックから離れるよう指示した。離れるとは言っても、それはあくまで固定アームから艦を離し、出入り口前に移動するだけだ。
ドック内は比較的幅広い。今の状態なら、ドック内部で方向転換できるくらいの余裕はある。〈ヘルゴラント〉は固定アームを半ば無理矢理引き千切るようにして後退した。
そして急速回頭して隔壁前に歩を進めるが、すぐには出れない。隔壁を閉じていることもあるが、出入り口正面にはまだSUS軍が残っているためだ。
  リンディと補佐官の二名を引き連れて戻って来たのは、五度目の砲撃が敢行された直後だ。コレムは戻って来たリンディに、キンガーの事を訪ねた。

「キンガー提督および補佐官一名は……亡くなられました」
「! そう、ですか……。兎に角、ハラオウン提督とそちらの方がご無事で何よりです」

それが精一杯だった。コレムは負傷したリンディへの治療を、シャマルに任せる。幸いにして、リンディは額を切ったくらいで、後は軽く身体を打ち付けた程度だと言う。
その間に彼は発進の命令を下そうとした――刹那!





「くそっ! また敵の砲撃か!!」
「六度目の砲撃です、局内部にさらなに被害拡大!」
「っ!? 大佐、艦のバランスが崩れます!!」

  いざ動こうとしたところへ、六度目の砲撃が本局に炸裂したのだ。それだけではない、被弾した箇所への被弾が重なる事によって、内部隔壁を突き破り被害が瞬く間に広がる。
その爆発と衝撃の余波が、〈イェロギオフ・アヴェロフ〉のいるドック内部へも到達したのだ。大きく揺れるドック内、そしてその揺れにより不安定になる艦体。
飛び込んできた爆発と衝撃波はフロア部分、それは〈イェロギオフ・アヴェロフ〉の真正面から来た。ドック内から噴き上げる爆炎などにより、遂にアームが破損した。

「か、艦首固定アームが破損!」
「傾くぞ! 何かに掴まれぇ!!」

  コレムは咄嗟に叫んだ。メキメキという不吉な音を立てた艦首下部の固定アームは、根元からバキッと折れてしまったのだ。
揺れを抑えるものが無くなった〈イェロギオフ・アヴェロフ〉は前方へつんのめるような姿勢になり、次の瞬間には艦首部分が真正面のフロアへと突っ込んでしまった。
日常ならあり得る筈のない光景だ。あるとするならば、それはきっと入港時にスピードを落とし忘れでもした場合のみ。艦首先がフロアへ突っ込むと、そこで停止する。
  そして中にいる人間にとっても、ぶつかった時の衝撃は大きい。バスが急速発進し、すぐに急速停止するようなものだ。艦内にいる者はただでは済まなかった。

「くぅ……被害、状況……知らせ! 皆、無事……か!?」
「わ、私らは大丈夫ですが……」

発進直前になんという事態に直面するのだ。コレムはSUSに罵声を掛けてやりたかった。艦橋にいたはやて、フェイト他、リンディらは床に倒れたものの無事だったようだ。
中でもコレムにはとんだ災難が重なった。艦長席にて衝突に備えようとしたのだが、生憎と右腕は包帯が巻かれていたためにストレッチャーを外していたのだ。
前方へつんのめった際に、彼は右腕を艦長席の操作卓(コンソール)にぶつけてしまったのである。直りかけた右腕に衝撃が集中、加えて痛みは肋にも伝わった。
  だが、それよりも重大な危機が彼らに訪れた。

「大変です、操舵手が!!」
「なんやて!?」

一人のクルーの声に、はやてが思わず叫んだ。艦橋内の前方、窓際に設けられている操艦座席に座る男性が、座席から投げ出され倒れ伏している。
血反吐を吐いていることから内臓までやられたのか。操舵手は血を流してうめき声をあげている。これでは、艦を操艦する者がいない。
本来なら補充要員がいるが、先日の件で代わりがいないのだ。彼が最後の操舵手とも言えた。
  万事休す……かと思いきや、フェイトはここで誰もが予想外の事を言い放った。

「ルキノ、あなた確か操艦法をレクチャーしてたよね!?」
「えぇっ!? いや、確かに、そうですけど……」
「ほ、本当なのか、テスタロッサ一尉……っ」

指名されたルキノはビクリとする。彼女は密かに地球艦の操艦方法をレクチャーされた事があったのだ。どうしてそういう経緯になったかは、機会があれば語られるだろう。
はやてはルキノの事情は把握していた。何しろ、はやてのを通じて密かに操艦方法を受けれたのだ。知らない筈がない。
しかし彼女が教えてもらったのは一週間あまりだ。ルキノはそう言うが、四の五の言う場合ではない。現状もそうだが、コレムからも強く要望され事で後には引けない。
  なら、やってやる! 半ば自棄になると、座席へ向かった。しかし、いざ座席に座ると、緊張感が吹き上がった。やや震える手で操縦桿を握る。
発進のためのプロセスは既に終えており、後は彼女の腕に頼られるのだ。

(た、確かこのレバーを……手前に引けば)

座席右側にある、幾つかのレバーの一つを掴み、ゆっくりと手前に引っ張る。すると〈イェロギオフ・アヴェロフ〉も、ゆっくりと後進を開始し、艦首をフロアから抜いた。

「いいぞ、その調子だ!」

コレムは彼女を励まし、フェイトも傍に立ってルキノを落ち着かせる。冷や汗が流れながらも引いたレバーを戻して後進を止め、今度は姿勢を水平にする。
  操縦桿を少しずつ左へ回すと、今度は右舷スラスターにより左舷旋回を始める。が、右舷側の幅を確認出来ず、旋回途中に艦尾右舷をフロアへ思いきりぶつけて引きずった。

「あ、あわわ……っ!」
「気にするな、そのまま……〈ヘルゴラント〉後部へ……接近するんだ」

フロアを艦尾で破壊し事に罪悪感を感じながらも、何とか出入り口付近へと近づく。しかし、その間にも爆炎の勢いは強まりつつあった。そして七度目の斉射後……。

「コレム大佐、大変です! 敵の大型艦がこちらへ突っ込んできます!!」
「な……に!」
「チリアクス大佐から入電、『ゲート解放時に波動砲(タキオン・キャノン)を発射す、各艦は離脱の用意をせよ』――以上です!」

チリアクスは突入して来る〈ムルーク〉に波動砲を放ち、撃破する案を出したのだ。ただし、あれだけ巨大な艦だ。拡散波動砲では完全に破壊する事は難しいだろう。
  だがそれは彼の予想の内に入っている。だからこそ、波動砲を収束型へと切り替えさせるのだ。一七年程前では不可能だったが、今の時代はそれを可能とした。

「波動砲充填率、一一〇パーセント! 発射可能まであと三〇秒!!」
「ゲート解放をせよ、敵艦を捉え次第、発射する! 対閃光防御、用意!!」

〈ヘルゴラント〉艦首にある二門の発射口は、徐々に光を強めていた。あのデカブツを破壊するには、収束波動砲しかない。だが、完全に消し去る事は不可能だろう。
何しろ相手は全高一五〇〇メートルだ。波動砲の口径からして収めきれるものではない。良くて爆沈、悪くて上下分断された艦の残骸やら破片が襲い掛かってくる。
それでも撃たないよりはましだ。チリアクスは開いていくゲートに、猛進して来る〈ムルーク〉の姿を確認した。外にいる艦隊が退避しているのを確認して、彼は命じた!

「波動砲、発射ァ!!」

艦首発射口が発光する。光球は直線に変化し、猛進するだけの〈ムルーク〉を正面から見事に撃ち抜く! さぁ、これで凶と出るか、吉と出るか……。
  息をのむチリアクス。その結果は……“凶”と出てしまった。分断された二つの残骸は、ドックへの直撃は免れたものの、その衝突箇所は近い。

「最大戦速、急いでドックから離れるんだ!」

〈ヘルゴラント〉は動き出した。エネルギー圧力が減じているが、それさえも全て食い尽くさんとエンジンがうねりを上げる。後方にいた四隻も続いて前進を始めた。
まさに入れ違いだった。殿だった〈イェロギオフ・アヴェロフ〉がドックから出たと同時に、巨大な残骸二つが本局に衝突したのだ。その光景も凄まじいものである。
残骸は本局の内部へ深くもぐり、そこで爆発したのだ。突入口から爆炎が噴き上げ、本局を揺るがした。

「や……やった……」
「お疲れ様、ルキノ。ありがとう」

  〈イェロギオフ・アヴェロフ〉艦橋で、ルキノは脱出できた安心感からか、ヘナヘナと座席の背もたれからずれ落ちる。フェイトはそんな彼女に労いと感謝の言葉を掛けた。
はやて達、そして周りにいた数名のクルー、負傷したコレムも彼女を褒め称える。だが、まだ操艦を終えた訳ではない。このまま合流するまで、続けるのだ。
一方のコレムは、負傷に気が付いたティアナがシャマルに言った事で、医療魔法を受けていた。直りかけの箇所に再度の怪我、これは痛いで済まされるものではない。

「大佐、ご無理をなさらないでください」
「お手数……掛けます」

  しかし、ここでのんびりとしている暇はない。そうだ、ミッドチルダではSUS別動隊の奇襲を受けているのだ! この事実はマルセフ達には知らされていないままだ。
まだ持ち堪えてくれれば良いが……とコレムは願い、リンディもそれを伝えるべく〈シヴァ〉へ通信を入れるのだった。
本局の陥落は、管理局の歴史以来なかった大事件だ。この有り得もしないだろう事件が実際に発生した。誰しもが、本局が陥落するという事が管理局の終わりであると位置づけた。
だがこの事件は本局陥落にのみ、限られる話ではなかった。ミッドチルダの地上本部では二度目となる、敵襲撃を受けていたのである。



〜〜あとがき〜〜
どうも、第三惑星人です!
今回はわりと早めに上げる事が叶いました……が、まず今回の話、特に今回初登場のルキノ・リリエについて。
彼女が戦艦を操艦する場面ですが、これは私の中で、是非ともやってみたいシーンだ!! と願い続けてきたものです。
元ネタは一応あります。ご視聴された方は、言われればピンとくるかもしれません。
ゴジラ最終作『ゴジラ ファイナル・ウォーズ』後半にて、若い女博士が空中戦艦の舵を握らざるを得ない場面があります。
空中戦艦は敵要塞に半ば突っ込む状態のまま要塞が自爆しそうになりますが、人手不足の艦内で彼女が操縦桿を握り何とか要塞から離脱します。
それを、今回の話でルキノに当て嵌めみました。後々に、何故彼女が操艦レクチャーを受けていたのかは、外伝あたりで語る予定であります。
さて、なにかと長ったらしくなってしまいましたが、次回は地上本部での惨状(恐らくですが)を書き上げようと思います。
……主人公たる、エース様をどうしようかと大いに悩んでおります。

〜拍手リンク〜
[九三]投稿日:二〇一一年一一月一四日一八:三七:五六 ヤマシロ
大×三ピンチ中の管理局、本当に大丈夫でしょうか!?
いや、しかし、我らが古代艦長とヤマトならどうにかしてしまいそうな気がしないこともない。(あと真田さんとか)
そう言えば、どうでもいい話ですが山寺宏一さん、ヤッターマンの劇場版で一人一六役をやったとか、さすがです。

>>書き込みありがとうございます!
管理局……大丈夫ではないですね(汗)しかも地上まで危ないですし。
真田さんは今、地球の復興で忙しいですから、おそらく古代の無謀が始まるかも……。
そして名声優、山寺さんは本当にすごい方ですね。彼ほどに声を使い分け、多数の役を演じられる人はいないでしょう。

[九四]投稿日:二〇一一年一一月一四日一九:一九:三六 グレートヤマト
なのはさんの安否が気になる。
魔王降臨していないよね?
古代の指揮能力高いなぁ。
次回は、ミッド焦土の回か?
来年、リメイク版ヤマトが帰ってくるそうですよ。
そこで、相原くんは出てこないのかな?
藤堂長官の孫と結婚していたら子供もいても良いと思うが……。

>>感想書き込みありがとうございます!
そうですねぇ、あのエースの処遇(←違うw)をどうしようかと悩みまくりですw
もし魔王化しただけで、修羅場を抜けられれば苦労しないでしょうが……。
リメイクの件、正直な話、楽しみです! 今の技術を持ってして最高の映像を作り出してもらえる事を願っています。
それと相原ですが、私の独自解釈設定では、子供をもうけています(一七年もたってますしねw)。

[九五]投稿日:二〇一一年一一月一四日二〇:四二:一四 YUU
初感想です〜戦闘が拮抗してて楽しいですね。
ミッド無防備にするとはお馬鹿ですか?
それとも海の連中による陰謀とか?
SUSの目的が征服ですから民間人よりも現地政府を降伏させるのが一番ですね、となると”なのは”とかは捕虜が確定〜政府の指示無視で地上で戦闘を続けるとテロリストになる罠w
これでまだ管理局体制が存続されるなら可笑しいですが^^;
更新頑張ってください〜つか続き早く読みたい終わり方卑怯です!

>>お初にお目に掛かります、そして書き込みありがとうございます!!
戦闘シーンは描写が上手くいっているかすごく不安ですが、楽しんで頂けている様で、嬉しく思います。
ミッドチルダは決して無防備にしたくて、したわけではありません。
各拠点の戦力の出し渋り(市民の反対も含め)が大きな原因でもありますが……。
それと、なのは捕虜という可能性、無きにしも非ず? つかまる前に援軍が来れば良いのですが。
管理局体制は崩壊寸前、といったところですね。
終わり方に関しては……まぁ、楽しませる表現の一貫と申しましょうか?



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