ミッドチルダ地上で行われた、戦闘車輌同士の大戦闘。火ぶたを切ったのは〈アインヘリヤルU〉二基による砲撃からであった。

「砲撃、命中しました!!」

管理局地上部隊の一人が叫んだ。三連装砲塔から放たれた魔導エネルギーは、見事にSUS先頭集団へと着弾した。被弾した先頭のSUS自走砲一〇輌余りは跡形もなく吹き飛ぶ。
やった、〈アインヘリヤルU〉の攻撃は通用したんだ! と多くの局員達は歓喜した。それに呼応して、〈アインヘリヤルU〉の前面に並ぶ戦車部隊も砲撃を開始する。
グレーに塗装された、比較的単純な構造をした管理局製戦車は、俺たちもやるぞという意気込みで砲撃した。魔法弾の多くはSUS自走砲に命中したが、喜ばしい結果ではない。

「だ、駄目です! SUSは平然と前進して来ます!」
(やはり駄目か! ちくしょう、もっとましな戦車を造れってんだ!!)

  そう罵るのは現場指揮官のビットマン一佐だった。彼の想像した通り、〈アインヘリヤルU〉以外の兵器が効果を上げなかったのだ。やはり力不足は明らかである。
そしてSUS側も、突然の砲撃に戸惑いを覚えていた。しかし、以前の戦闘データから、魔導師のカモフラージュであると分かると直ぐに反撃に出た。
地平線で無数の赤い発光が確認される。ビットマンは叫んだ、敵弾に備えよ、と。どこまで保つか判らない召喚型防護壁と魔導師の障壁だけだ
その障壁を張ったのは、戦車部隊のさらに前面にいた複数の魔導師達である。誰もが防御に長けた魔導師ばかりであるのだが、これまたどこまで耐えきるか保証がどこにもない。
  やがて、SUSの赤いビーム弾頭が障壁に炸裂した。しかし、一〇〇発以上のビームを防ぎきる事はできなかった。障壁を撃ち破り、そのまま後方へと突き進み地上へ着弾。
同時に、大量の土砂が舞い上がる。それだけではない。この時点で最悪の被害報告が耳に入ってしまった。

「い、一佐! 〈アインヘリヤルU〉が……っ!!」
「何だと!?」

  そう、SUSの初撃により、後方の〈アインヘリヤルU〉二基がどちらとも破壊されたと言うのだ。SUSは後方の〈アインヘリヤルU〉を危険度が高いと判断し。
それを最優先で攻撃したようだ。〈アインヘリヤルU〉はビーム砲撃を受けた影響で、砲塔と砲座が強制的に分離させられている。
吹き飛んだ砲塔部分は逆さまになって、無残な残骸へと化した。新兵器たる〈アインヘリヤルU〉の初陣の戦果は、最初の一斉射だけ。
一〇輌余りのSUS戦車を破壊したのみで終わったのだ。この瞬間、地上部隊の士気は著しく低下した。
  動揺を示す管理局戦車部隊に、追撃が掛けられる。SUS自走砲から放たれる赤いビームが、土塁の一部をいとも簡単に吹き飛ばす。
そして、隠れていた戦車を一撃で破壊したのだ。真正面からビームを受けた管理局の戦車は、まるで内部から圧力を一気に開放されたかのように爆発。
木端微塵に吹き飛んでしまった。無論、中に後込んでいた局員達が無事な筈もない。彼らは生きながら身体を灼熱に焼かれるか、あるいは瞬時に蒸発するかの二者択一しかない。
破壊されゆく僚友の戦車を目撃した事で、残る局員達の恐怖心を大いに煽った。

「二号車、撃破されました!」
「同じく六号車も爆散!!」
「くそっ……! 予定を繰り上げる、全車は直ちに後退、第二ポイントへ敵を誘導する! 第二部隊にも伝えろ!!」

  ビットマン指揮する第一部隊は右翼に当たる。そしてもう一方の第二部隊は左翼。どちらも早々の後退命令に従い後退していくが、他者が見れば潰走していると見えただろう。
それも致し方が無かった。管理局全てに共通して、地上部隊も対戦車戦闘など初めてに等しいのだ。戦車に乗る武装局員は背筋を震わせながらも、操縦している。
作戦の繰り上げにより、援軍との挟撃戦は不可能になった。悪くすればビットマンらの部隊が壊滅し、後から来る増援も返り討ちにあるだろう。
砂漠地帯を大きく後退した管理局地上部隊は、やがて森林地帯へと入る。ここからさらに数十キロも下がれば市街地に突入してしまい、さらには東部方面司令部にも達してしまう。
  森林地帯へと潜り込む管理局の戦車隊と魔導師達。それを逃がさないとSUS戦車部隊が前進を強めた、その瞬間だ。

「将軍、我が部隊の右舷方向から……いえ、第二大隊の左舷方向からも多数のエネルギー反応! 伏兵です!!」
「またカモフラージュか!」

兵士の報告に、SUS地上部隊指揮官 ゴントノフ大佐は舌打ちした。管理局側から放たれた九〇から一〇〇余りの魔砲エネルギーが、SUS戦車部隊の左右を襲ったのだ。
  しかし、その魔砲の威力はバラバラであった。魔導師ランクを考慮していない混合された砲撃部隊だ。さらにSランクレベルの魔導師など、数名もいるかどうか。
大半はBランクレベル。それらの砲撃はSUSに命中してはいるものの、絶大な効果を上げてくれたものは、一割あるかというものだ。戦闘不能になったのはたったの三輌のみ。
実際に直撃を受けた戦車でも、装甲をある程度凹まされたかという損傷具合。対魔導師戦を考慮したAMF(アンチ・マギリング・フィールド)に十分な装甲、超高ランク魔導師なら兎も角中位、低位の魔砲などSUSにとっては、蚊に刺された程度のものでしかない。
  ゴントノフ大佐は即座に一部部隊の反転命令を下し、隠れていた魔導師達の殲滅を行った。魔導師達は戦慄する。真っ黒な殲滅者が、殺意を自分達へと向けるのだ。
この時ビットマンは部隊を急速前進させて、伏兵の魔導師達へと刃を向けたSUS戦車部隊の側面を突こうとした。それは、先のゴントノフの命令で潰える事となる。

「第二、第三中隊以外は、引き返してきた愚か者どもに逆撃を掛けるぞ!」

SUS陸上戦艦の艦橋で、ゴントノフは高らかに命じた。両翼に現れた管理局砲撃部隊に迎撃を当てる傍ら、直属部隊を率いて前進し、管理局の戦車部隊へと一斉砲撃を掛けた。
最初は管理局の戦車が砲撃する。その砲撃は相変わらずSUS自走砲や対空戦車には通用しない。仕返しとして、その数倍の報復が管理局地上部隊へと降り注いだ。
高威力を誇るSUS陸上戦艦の主砲が、管理局戦車一輌を大量の土砂と共に舞い上げ、ひっくり返してしまった。さらにSUS自走砲の主砲が四輌の管理局戦車を破壊する。
  方や魔術師達もSUS自走砲の応酬を受けていた。密かに砂中に隠れていた〈T・ガジェット〉は、接近して来たSUS戦車部隊に猛然と襲い掛かるが効果は無かった。
SUS自走砲の強固な装甲が、〈T・ガジェット〉のアーム攻撃に対して見事に耐えきったのだ。取りついた〈T・ガジェット〉は零距離射撃を喰らい、跡形もなく消し飛ぶ。
奇襲攻撃にビクともしないSUS地上部隊に、管理局員たちは絶望感を露わにし始めた。ここは後退するしかない、と攻撃しながらも森林地帯へと移動する魔導師達。
  だが、そこへ容赦ない追撃を掛けて来たのはSUS対空戦車部隊だ。航空機に有利な戦闘車輌だが、これは対人兵器としても大いに威力を発揮する。

「だ、だずげてぇッ! いぎが、いぎがでぎないいぃぃ!!」

一人は胸部を撃抜かれ、多量の血液が食道を逆流し、呼吸困難に陥れられる。そして、もがき苦しみ、そのまま数秒でこと切れる。

「う、腕があぁ! 腕があああ!!」

さらに一人は、レーザーによって右腕を根元から吹き飛ばされた。それに狂乱し、叫び声を上げ、精神を狂わされる。
この様に、後退しようとする魔導師達を次々と撃ち抜いていく。また、撃ち抜かれるだけではないのだ。
  対人として使用するにはあまりにも凶悪すぎるこの攻撃。人間をバラバラにするにも十分な威力を発揮したのである。

胴体部を撃ち抜かれ他拍子に、上半身と下半身が分離させられる者

頭部に命中し、そこだけごっそりと奪い去られてしまう者

誰のかも分からない肉片に狂乱し、精神的におかしくなる者

砂色の地上にどす黒くも赤い液体が、多量に染み込んでいく。砂がまるで吸血鬼の如く、散りばめられる血液を吸収し、生々しくもその跡を残していく。
魔導師達は悲鳴を上げるばかりだ。飛行能力を有する魔導師は殆どいない。全てが空戦部隊へと回されているためだ。皆、自分の脚で逃げるしかないのだ。

「伏兵の四割近くは撃破に成功、残りは撤退していきます」
「よし。正面の敵を速やかに撃破、しかる後に全速で敵首都を目指す! 全軍、突撃せよ!!」

邪魔な伏兵を片付けられた事で、SUS地上部隊の進行速度はさらに増す。同時に砲撃の威力も増した。この高圧的前進と攻撃により、管理局戦車隊は後退する暇もなく壊滅する。
  ビットマンは管理局の中でも指折りの地上戦闘のプロ。戦車がもっとまともであれば、彼でもこの戦線を維持しえだろう。しかし、やはり性能の差は埋め難いものだった。
森林地帯へと入るまでに、ビットマンの指揮下にあった戦車二〇輌の内一四輌が破壊された。〈T・ガジェット〉も二〇体中、一五体が破壊されてしまっていた。
魔導師一四〇名の内で生きて後退できたのは六五名余り。東部方面部隊は、総合して実に七割を超える損害を出してしまったのだ。これで戦線を維持しえる筈もない。
SUS地上部隊が出した損害と言えば、自走砲一〇輌に対空戦車二輌の計一二輌のみ。部隊からすれば一〇パーセント程度の損害でしかない。
正面の障害が無くなったのを見るや、SUS地上部隊は勢いに乗って森林地帯へと突入を開始した。





「SUS戦車部隊、戦線を突破しました!!」
「東部方面部隊の七〇パーセント以上を損失!?」

  味方の敗走に、東部方面司令部の面々は青ざめていた。スクリーンに映されていた戦線の様子を見て、ローメル准将は思わず唸った。想像以上だ、と。
これでは此処、東部方面司令部を容易く突破される。いや、ここに多方面からの戦力を集中させても間に合わないだろうし、抑えきれないのも目に見えている。
そこで彼は総司令部である地上本部へと緊急通信を入れた。それは、東部方面部隊のさらなる後退と、多方面部隊の戦力集中要請である。全て戦力で迎え撃とうと言うのだ。
  フーバーはこの要請を聞いたとき、上空の敵艦隊の動向が不明な異常は動かせない、と言った。だが間を置いてから続けた。動かないままでは、こちらも早期に全滅するだけだ。
至急、本部周辺に兵力を集中し、SUS地上部隊を迎え撃とう。それだけ言うと、通信は切れた。

「……皆、聞いたな? これより司令部は後退し、本部手前にて態勢を整える! 残存部隊にも至急知らせよ!!」

東部方面戦線の早期崩壊に伴い、多方面部隊は即座に動いた。SUS部隊の侵攻よりも早く合流せんとして、地上本部へと急いだのだ。
もしもここでSUS艦隊が砲撃を掛ければ、フーバーが懸念していた様に移動中に全滅していただろう。だがそうはしなかった。
  これはSUS軍人側の、一種のプライドがそれを憚っていたとも言える。もっとも、SUS地上部隊指揮官たるゴントノフの意向でもあった。
陸上の戦闘は自分らの分野である、艦隊は緊急時以外の手出しはしないでいただこう、と。軍人で非効率的な事を言うのは、何も珍しい事ではない。
自分らの分野であるのに、他の部隊に仕事を横取りされたのでは腹が立つ。何事でもそうだろう。これに対してパグロスト准将は、思う存分に力を振るえ、と許可したのだ。

「よぉし。行くぞ、血祭りにあげてやるのだ!」

結果として、ゴントノフの戦車部隊は予想通りの仕事ぶりを発揮した。管理局東部方面部隊の七割強を撃破し、そのまま森林地帯から住宅街へと侵攻を続けている。
一応、艦隊側からも地上の様子は把握しており、管理局の様子も逐一ゴントノフへと送っていた。この後は、管理局の残存部隊との正面決戦となるであろう。
  対して空中での戦闘はSUSが押しているものの、管理局側もいまだに完全崩壊には至っていない。意外な事に、魔導師と思しき者が数名、孤軍奮闘しているのが伺えた。
SUS艦載機隊の損害は一一機。案外多いな、とパグロストは思う。本来なら管理局の無人機如きに遅れは取らないSUSの戦闘機。
ただし、無人機よりも魔導師が厄介な存在となっていた。魔導師がSUS戦闘機に勝っているとすれば、それは機動性においてであろう。
戦闘機には出来ない、垂直上昇や急降下、さらに空中停止――ヘリコプターで言うところのホバリングが可能であり、それに付いて行けないのだ。
だが、そういう性能差を見越しての行動をしている魔導師はごく一部、一握りでしかない。大半はSUS戦闘機から振り切ろうと自棄になっている。
  艦橋のスクリーンに映る近接格闘戦(ドッグ・ファイト)の様子から見ていたパグロストは、その孤軍奮闘する魔導師をマーキングするように命じ、サブ・スクリーンにその姿を映した。

「ほぅ、こいつ等か……」

その画面に出たのは、白地の服装をした者――なのはに、ピンク色の服装をした者――シグナム、そして赤い服装におなさい外見の者――ヴィータである。
人間のくせにやるではないか、と言葉をこぼすパグロスト。だが厳密に言えば、シグナムとヴィータは人間ならぬプログラムであるが……。
  彼は人間を過小評価していた癖がある。しかし、一度その優秀さを見せつけられたときの彼の評価は大分変化する。その点、多くのSUS軍人とは違う点ではあろう。
劣勢とはいえ、中々に粘るこの三人に対して心中で敬意を評した。だが、だからと言ってこのまま損害を増やす訳にはいかないのが、軍隊の指揮官としての役目である。

「戦闘機隊に伝えよ。本艦でマークした標的を集中して叩け、とな」
「了解!」

SUS戦闘機隊にこのことが伝達されると、一部の部隊が三人目がけて接近を始める。パグロストは、この三人さえ落とせば、ドッグ・ファイトも早々に集結する筈だと踏んでいた。
人間と言うものは、何かしらの支えがあれば耐えられる事が多い。今の管理局らの支えとなっているのは、間違いなくあの三名だ。この三名という柱さえ折ってしまえば……。
管理局本局への襲撃部隊も今頃は大勢を決している筈だろう。確信できないが、あの戦力差なら力押しでも任務は達成られる。

(空間歪曲波の影響で、それが確認できないのが歯がゆいがな)

  やがてマークした三人に元へ、数にして六倍、一八機ものSUS戦闘機が迫る。そして地上の方も管理局地上部隊、ゴントノフ率いる戦車部隊の再戦が始まる。
魔導師三名の方は、やはり直ぐには決着がつかない。一名につき二機づつ三組、入れ替わり立ち替わり戦闘を挑んで消耗させる筈なのだが、優れた機動性で細かく動き回り、戦闘機の追撃を振り切っては追う、この動作を繰り替えす。
  地上戦ではゴントノフ戦車部隊が、数の上では有利な管理局地上部隊を真正面から押しのけている。〈T・ガジェット〉がビル群の間から飛び出し、SUS戦車に肉薄する。
その他、多くの魔導師達がビルの屋上、影から姿を隠しつつも砲撃したり近接戦闘を挑んで来るのだ。だがこうした動きはゴントノフの予想内にあった。
ビルが邪魔だ、ならばビルごと吹き飛ばせ! と大胆にも魔導師の隠れているであろうビルにビームを叩き込んだのだ。

「……っ!?」
「く、崩れるぞ!」

  しかも陸上戦艦からの強力な砲撃である。これには魔導師達も唖然とした。隠れていた二〇階建て近いビルが、SUS陸上戦艦の砲撃一発で崩れ去っていく。
多量の瓦礫が魔導師達を押しつぶし、〈T・ガジェット〉を破壊した。崩れ去れる多量の瓦礫と舞い上がる砂埃。ゲリラ戦は、この様な都市型戦場では有効的な戦法の筈だった。
それが通用しないのは、やはり上空のSUS艦隊の存在が大きい。都市内部の人間までをもレーダーで捉える事までは無理だが、それが纏まって動いているのならば別だ。
後はゲリラ戦法で来るであろう事を予測したゴントノフの対応であろう。魔導師達のみならず、司令部のフーバーも唖然とした。相手の対応が早すぎる!
  彼は自分達の手の内を全て晒されているかのような気分に陥った。幸いにして都心部の市民達は避難しているからよいものを……と、新たに崩されていくビルを眺めるフーバー。
道路に敷き詰めるように展開する管理局とSUSの戦闘は苛烈さを増す。空間の狭い都心であるが故に、大軍でさえも動きを制限される。
だが、正面への戦力差を均等にしていながらも、管理局の戦車や〈T・ガジェット〉は粉砕され、散って行った。

「司令、戦車隊の損耗率が四〇パーセントを超えました!」

  本部中央指令室に届くのは凶報ばかり。管理局地上部隊が築いた防衛ラインは破れる寸前に来ている。厚みのあった陣は、まるで鼠に食い荒らされたチーズの様に脆い。
上空ではF部隊の六割が損耗し、魔導師の空戦部隊も四割が確実に撃ち落され、二割方が負傷によって戦闘不能だ。つまり、四割程度しか残されていないことになる。
数にして、およそ二四〇名の魔導師が空中にて何とか戦闘を続けている状態だ。だが無人機たるF部隊は別として、魔導師達の精神面と体力面での疲労は限界一杯に来ている。
  これ以上の戦闘は無理だ、もうすぐで空中の勝敗はあっという間に終わる。なのは、シグナム、ヴィータはまだ残ってはいるが、戦闘機と死の鬼ごっこを演じている。
SUS地上部隊の砲火が本部手前まで迫ってもいる。これ以上は防ぎきれない……と思った――その時!

「っ! 司令、妨害電波が消えました!!」
「何……!?」

今まで通信を妨害していた空間歪曲波が途絶えたのだ。これに皆が反応し、フーバーとマッカーシーも驚く。そしてフーバーは即座に救援信号を発信させるよう命じた。

「急ぎ、本局へ救援信号を送れ!!」
「本局が勝ち残ったか、それとも……」

この妨害電波の途絶えた事から推察で出来る事。それは本局と地球艦隊が勝利したか、あるいはSUSが本局らを撃破してしまったか、だ。
  だが返答はどちらでもない。大勢は本局と地球防衛軍に傾いているらしい。しかし、SUS艦隊の無謀極まりない突撃により、本局が砲火を直接受けつつあるというのだ。
これでは援軍は無理だ!誰も援軍として参上する事は叶わないのか……と肩を落とすフーバーだったが、この衝撃は彼らだけに与えられたものではない。
SUS側も、戦況に激しく動揺していたのだ。その証拠にSUS地上部隊の進行速度が緩む。緩むどころか攻撃が突然散発的なものへと変わったのである。
  これを知った瞬間、マッカーシーは気づいた。

「敵は本局の戦況に動揺しているのかもしれんぞ?」
「! 成程……これは態勢を整えるチャンスですな。全部隊に告げる、態勢を立て直しつつ後退せよ! 空戦部隊も敵の引き際に乗じて後退せよ!」

続いて彼は大胆な命令を実行に移させるように命じた。その内容は破天荒極まるものだ、と思わせるに充分だった。傍にいたマッカーシーさえも、目の前の若き中将に驚いた。
その大胆極まる命令が実行されようとしたとき、SUS地上部隊は自分らがどうすべきかと行動に迷いを生じさせていた最中だった。ゴントノフも判断に迷う。
  せっかく総本山の一歩手前まで来たと言うのに、何故このような凶報が入ってくるのだ! ゴントノフは陸上戦艦の艦橋で怒鳴った。

(これでは、我々が孤立してしまうではないか……!)

この拠点同時攻撃および制圧作戦は、本局側の勝利が必然となるものだった。本局を落とせれば、こちらとて安心して制圧に専念できる。
制圧出来た後は、安全の確約された航路を通って支援物資やらを待つのみなのだ。それが……まさか、本局攻略が失敗に終わる可能性が高いとは!
現に地球艦隊の増援が現れているらしい。上空に待機している艦隊が、それらに襲われたら自分らは帰れない。
  いつ相手の増援艦隊が現れるか分からない中、パグロストからも撤退命令が下される。ここまで来て、無念だ! と戦車隊が後退しかけた時だ。

「!? 大佐、後方の道路が遮断されました!!」
「何だと、どういう訳だ!!」
「が……瓦礫です! ビルが崩れて、多量の瓦礫が道路を塞いでいます!」

馬鹿な! 彼は思わずそう叫んでしまった。奴ら、自分の都市を自らの手で破壊したと言うのか!? しかも崩されたビルは見事に退路を遮断した。
これが、フーバーの指示した破天荒極まりある命令であったのだ。戦車故に荒れ地でも装甲が可能な筈だ。しかし、それが余りにも許容範囲を超えている。
瓦礫の山を登れないことは無いだろうが、余計な時間を駆けてしまうのだ。後方を遮断されて焦り始めるゴントノフ。そこへさらなるビルが倒壊を始めた。
  今度は横への道を断ってしまったのだ。高層ビルが立ち並ぶ故に、その瓦礫は半端の無いもの。特に、この計算されたかのような崩し方。
SUS地上部隊二つは、瓦礫の囲いによって身動きが出来ない状態となった。それでもここを抜け出してやる! と彼は陸上戦艦を反転させる。

「主砲で瓦礫を吹き飛ばせ!」

こうなれば主砲で瓦礫を消し飛ばして逃げ道を作るまでだ、と思ったその矢先。彼の乗る陸上戦艦に強い衝撃が走った。魔導師と管理局戦車が狙い撃ちして来たのだ!
  指揮車を兼ねる陸上戦艦は、瓦礫の壁の高さよりも背が高い。そこでビットマンは、頭だけ見える陸上戦艦への一斉攻撃を命じたのだ。
戦力は三割にも満たないが敵部隊を引き込んだおかげで他方面の〈アインヘリヤルU〉が射撃できる。これは見事に図に当たった!
さすがに強固な陸上戦艦と言えども、こ艦橋部への集中砲撃には耐えられなかった。管理局残存部隊の全ての攻撃が、艦橋部分を見事に吹き飛ばしたのだ。
  この瞬間、ゴントノフは爆発に巻き込まれ戦死した。戦車隊司令官が戦死したことで、他の部隊は皆騒然となり混乱に拍車を掛ける。逆に管理局は勢いに乗った。

「散々殴られ続けた礼だ、たっぷりと受け取りやがれぇ!!」

局員の一人がそう叫び、魔砲を放つ。上方から複数の集中砲撃を受けるSUS自走砲は、負担に耐えかねると爆炎を上げた。怒りをそのまま叩きつける魔導師達の攻撃は強烈だ。
統率の取れないSUS戦車隊は、自らの能力を誇りながらも烏合の衆へと変わり果てた。それに対して魔導師達は容赦なく反撃を続ける。これでもか、と魔砲を叩き込んでいく。
  だがSUS戦車隊の生き残りもむざむざ標的になる気はなかった。兎も角、今は後退して揚陸艦と合流する事が先決なのだ。
一輌のSUS自走砲が、瓦礫に突破口を作り脱出する。それに付いて行くようにして、他の戦車が雪崩れ込んだ。後は揚陸艦へ一直線である。
この撤退に対してフーバーは追撃を命じはしなかった。上空はSUS戦闘機隊が徐々に後退を始めていた。
魔導師達やF部隊は追撃を掛けたい衝動に駆られたが、フーバーからの厳命と自らの疲労によりそれを断念せざるを得なかった。
相手の上昇に合わせて、地上へと降り立つ魔導師達。その中には、戦闘機と死闘を繰り広げたなのは、シグナム、ヴィータの三名が、見事に生還を果たしていた。

「……」
「……なのは」

  しかし、なのはの表情はより一層に重いものだ。一度は叱咤したヴィータも、彼女へ同言葉を掛ければよいのか分からない。隣にいるシグナムも言葉を掛けられない。
なのはは教え子の死に逝く様を間近で見せられ、同行していた二名は何とか無事だったものの、生還数を上回る教え子を失ったのだ。
バリアジャケットは血に汚れている他、ビームを掠った時にできた焼けであろう焦げも幾つか見られる。顔も汗で汚れ、それを涙が洗い流していた。





  地上と上空の撤退が本格化していたころ、本局攻略部隊が完全に撤退を始めているとの報告に唖然としたのはパグロストだった。一〇〇〇隻以上の艦隊が負けたのか!?
これで後ろ盾は安全ではなくなった。ここは一刻も早い撤退をしなければ、今度は自分らが孤立してしまうのだ。彼は艦橋で揚陸艦部隊の引き揚げを急がせた。
揚陸艦艇の収容には、最低でも後一五分前後掛かる見込みだ。このままでは地球艦隊が来てしまうかも分からない。彼のみならず兵士達にも緊張が走った。
このまま邪魔もされずに撤退と行きたいところであるが……と思った矢先だ。レーダー担当の兵士が声を上げたのだ。

「司令、我が艦隊左舷、一〇時方向、伏角一七度に敵艦反応あり!」
「何?! 本局の奴らが引き返して来たのか!!」

  騒然となる艦橋内部。やがて分析が済んだのか、兵士が表情をやや緩ませて報告した。

「どうも違うようです。艦数は二隻、一隻は大型クラス、もう一隻は中型クラス! なお、大型艦は損傷している模様!!」

これを聞いた兵士達は安堵した。何だ、たかが二隻か、驚かせやがって! 損傷している艦もいるせいか、はたまた管理局の艦であるためか、彼らは過小評価していた。
だがパグロストは違った。彼は現状況を把握したうえで、危険であると悟ったのだ。〈ガズナ〉級二隻は揚陸艦収容中で動けない。ここであの兵器を撃たれたらどうするのだ!
  彼は護衛艦六隻に迎撃を命じた。本来なら〈バフォメット〉と〈ゴルゴン〉の遠距離射撃で迎撃するだろうが、案の定、相手は射角外にいる。撃つには艦ごと傾けねばならない。
さらに追い打ちをかける出来事が発生した。管理局の艦が現れたのを境に、地上からもあの無人機が殺到して来たのだ。これは予定内の行動であったと言うのか。
しかし、それは的を外していた。彼らの前に現れた二隻の次元航行艦船、これは〈クラウディア〉と〈メンフィス〉だ。そう、クロノが率いる艦隊である。
  〈クラウディア〉艦橋では、到着早々にミッドチルダの状況を知るや否、SUSに憎悪を募らせていた。そして、憎悪の対象が目の前で反転して来るのがわかった。

「提督、敵艦隊の内六隻が反転、こちらへ向かって来ます!」
「奴らに撃たせるな、反応消滅砲(アルカンシェル)、スタンバイ!」

クロノはすかさずアルカンシェルの発射準備を命じた。〈クラウディア〉は先日の救助作業で損傷していたものの、航行に支障なしと見て帰還を急いでいたのだ。
本来なら本局へ真っ直ぐ向かうべきであった。しかし、彼の胸中に渦巻く予感がそれを妨げた。そしてその予感は的中、ものの見事にSUS艦隊に遭遇したのである。
二隻は同時にエネルギーの充填を始めた。地上部隊はクロノの動きに合わせて、残存するF部隊をSUS艦隊の旗艦と思しき艦へ攻撃を掛けている。
  上陸艇らしき艦が収容中だったようだ、とクロノは呟く。F部隊が〈バフォメット〉と〈ゴルゴン〉を中心に襲い掛かると、SUSも護衛艦六隻と残る艦載機で応戦を始めた。
この様子に、迎撃に来た六隻のSUS戦艦と巡洋艦に戸惑いが生じた。F部隊に襲われている本隊を助けるか、このまま迎撃に進むか。だがこの判断の迷いがいけなかった。

「アルカンシェル、スタンバイ完了!」
「敵艦の動きが鈍りました!」

この報告にクロノは目を光らせた。チャンスだ、そして……散って逝った、多くの同胞達の無念を受け取れ! 瞬間、彼はトリガーとなるキーを捻り、そして叫んだ。

「アルカンシェル、発射ぁ!!」

〈クラウディア〉と〈メンフィス〉の艦首にきらめく二つの光球。それが一直線に伸び、SUS艦へと突き進む。これを回避しようと散開するが、それは叶わない話だ。
散開先を読んでいたかの如く、アルカンシェルの作り出す巨大な光球は六隻の内、五隻を飲み込んでしまった。残る一隻は艦を半分程だけ食いちぎられ、直後に爆沈した。
  この光景はパグロストにも嫌がおうにも見えた。護衛艦六隻が撃沈され、今もなおF部隊残存機の攻撃を受けている。もう、待つ選択は無くなった!

「提督、敵大型艦二隻が動き出しました!」
「何? まだ小型艇を収容しきっていない状況なのにか……さては、切り捨てるつもりか」

彼らの視点からすれば、そう見えても不思議ではない。揚陸艦二隻がまだ収容しきれていないのだ。しかし、パグロストは切り捨てるつもりではなかった。
一時的に別行動を取ることを選んだのだ。パグロストらは亜空間へと退避し、揚陸艦は全力で指定した宙域まで退避させる。振り切ったところで再合流するつもりであった。
  そこまで看破しえないクロノだったが、追撃命令は出さなかった。クルーの中には、怒りの感情に支配されたかの様に、再度攻撃を掛けるべきだと進言する。
彼らの気持ちは痛いほどに分かる。ミッドチルダの惨状を考えれば当然ともいえるのだ。だが、クロノは追いかけるよりもまずは味方の来援を待つようにと窘めた。

「貴官の気持ちは、私だって同じだ。だが、ここは耐えてくれ。追撃を掛けて返り討ちに遭っては元も子もないんだ。それに、地上の惨状を放っておくわけにはいかん」
「っ……はい……わかりました」

〈ガズナ〉級二隻が亜空間に入り、揚陸艦も全力で離脱を計るのを見計らってF部隊も追撃を止めた。レーダーには離脱していく揚陸艦しか映らない。
それも見えなくなると、彼は戦闘配備継続のまま待機するよう命じる。続いて、地上への状況も把握せねばならないうえ、到着するであろう艦隊を待たねばならなかった。
  一通りの指示を終え、彼はスクリーンに映るミッドチルダの惨状を見た。

(あれほどまでに酷い事になるとは……なのは達は、無事なのか? 母さん達も無事だといいのだが……)

知人や友人、家族の身を一層心配するクロノ。この凌ぎ切った戦闘の後に待ち構える、管理局とミッドチルダの再興、そして戦力の立て直しとSUSへの対抗手段構築……。
やるべきことが多いな、とより真剣に悩むのであった。この大惨事とも言える戦闘――あるいは事件は、管理局の歴史だけでなく地球にも消えない記憶として残さされる。
後にこれを『管理局史上、最悪かつ最大の戦闘』と言われ、『ミッドチルダ攻防戦』と『本局会戦』という戦名を付けられた。
別名『ミッドチルダ襲撃事件』および『管理局本局陥落事件』とも明記され、後の世代に深く、そして広く刻み込まれるのである。



〜〜あとがき〜〜
どうも、第三惑星人です!
何とかミッドチルダ戦の終結に扱ぎ付けることが出来ました!
これ以降直ぐに、このような長ったらしい戦闘は起きない……予定です。
しかし前回と変わらぬ残酷描写で、いまいちだと後になって思う次第。
次回からは復興と再編、管理局と地球防衛軍の話し合いなどが中心となる予定です。
それでは、またのお越しをお待ちしております。

〜拍手リンク〜
[一〇〇]投稿日:二〇一一年一一月二八日一七:三一:六 ヤマシロ
これはひどい。
もう沖縄戦の旧日本軍よりひどいです。
戦力とか戦術とか被害とかetc……。
無事に生き残った魔導師達の精神や心が心配になってきます。
……『生き残れたら』ですが。
こんな状態で後に復帰できるのが果たしてどれほどやら。
地球防衛軍の救援は、間に合うのでしょうか!?

>>感想の書き込み、ありがとうございます!!
そうですねぇ、旧日本軍よりも酷い惨状と化した気もします。
何しろ現状兵器では太刀打ち出来ていないですからね、無理もないかとは思います。
最も重要なのは、生き残った魔導師達の心理的ダメージになりますが、果たして……。

[一〇一]投稿日:二〇一一年一一月三〇日一六:三八:三 EF一二 一
ミッドの武装隊員達は未曾\有の地獄を見ていますね。多数の死傷者が出ており、管理局のみならず地球艦隊も緊急治療に参加しないと間に合わないでしょうが、地球側の場合、基本的な技術はともかく、魔導師のリンカーコアを傷つけずに手術するというノウハウがないので、管理局側医師の立ち会いがないと難しいでしょう。
場合によっては、救命のために魔導師生命を断つ事態もあるでしょうし、トリアージという非情な選択と決断もしなければならなくなりましょう。
はてさて、本局脱出組+マルセフ・東郷艦隊のミッド支援は間に合うのでしょうか?(ヤマトら増援艦隊はしばらく次元転移できませんし)

>>感想の書き込みありがとうございます!
魔導師達の緊急治療に関しては、私自身の知識が乏しいゆえに詳しく描写する事は……ないと思います(汗)
そこの所はおいおいと解決していきたいと思う次第。
今回は増援に地球ではなくクロノ入れてみました。
彼にもたまには、活躍の場を……。

[一〇二]投稿日:二〇一一年一二月〇一日二一:五〇:二二 KIRIE
地上戦、始まりましたね。
どしょっぱなから末期戦の臭い。力押ししかしたことないんだろうし、仕方がないのか。
しかし高町なのは、テメー3期最初の部隊戦闘でどんな行動をとったか思い返してみやがれ、という気分になっちゃう自分はもう立派なアンチなのか。ニュータイプにでも覚醒してまともな戦いが出来るようになってほしいもんです。

>>どうも、感想の書き込み、ありがとうございます!
これで二度目となる地上戦ですが、魔導師達の戦闘描写は難しいの一言に限ります。
エースである、なのはに関しては致し方ないと言いますか、魔導師達全員が共通して血みどろの戦闘は初めてですからね(ヴォルケンご一行は別として)。
真面な戦いに慣れるには、少しばかり、時間が必要なようです。

[一〇三]投稿日:二〇一一年一二月〇二日一六:一一:二六 F二二Jラプター
いやー見事な押されっぷりですな管理局さん。せっかくヤマトのおかげで戦勝気分に浸れると思ったのに・・・。なのはの奮闘に期待するとしますか。では・・お手並み拝見だ・・・かわいい鬼神さん。
それと提案なのですが、戦車を数える単位は「輌」ではなく「輌」の方がミリタリー色が出ると思います。ではまた次回に。

>>書き込みありがとうございます、F二二Jラプターさん!
なのは奮闘ぶり……書こうとしてできませんでした(涙)省略していまい申し訳ない……。
それとミリタリー色へのご意見、ありがとうございます、早速に反映させていただきました!



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