「……という訳だ。諸君、この作戦は必ず成功させねばならんぞ」

  ある日、移動式拠点〈トレーダー〉の中に停泊している総旗艦〈シヴァ〉の航行艦橋――もとい第二艦橋では、マルセフからスタッフへ向けて、ある説明がなされていた。
それはつい先日に決まった、第二回合同会議に於ける内容だ。この会議は、第一回目と違って中はスムーズに進んだのだが、防衛軍はとんでもない危険物を持たされたのである。

「し、司令。聞き間違いでないとは思いますが……もう一度、説明をお願いします」

艦橋スタッフの一人である、テラー通信長が聴き直しを求めて来た。顔には大分冷や汗が出ており、それは他のスタッフたちも同様だ。
それをマルセフは、無理もないな、という表情で眺めやり、再度口を開いて簡潔に言い放った。

「極めて凶暴な巨大原住生物のいる資源惑星に於いて、我々の資源採掘・加工施設を設置する事となった」

極めて凶暴かつ巨大な生物、と聞かされたクルー一同は、今度こそ固まってしまった。巨大生物……それはセイウチ、いや、クジラとも比較するのが馬鹿らしいものだ。
艦橋のメイン・スクリーンに投影された、原住生物とされるデータが映し出されている。それを見て、平然としていられるような者は誰一人としていない。
  それは一言で言うならば、怪獣または巨大怪鳥と言うに相応しい容貌をしていた。翼竜プテラノドンの様な巨大な翼を持ち、身体つきもそれに似てはいるのだが、足腰がプテラノドンと比較するとしっかりしているのが分かった。
翼が無くとも脚だけで走る事も出来そうなものだ。そして長い尻尾、平たい頭部と後頭部左右にある二つの角の様な突起物。そして鋭い口……頭部は鋭利的なフォルムだ。
目線も鋭く、獰猛なハンターだと思わせるには十分なものである。全体的にシャープな印象を与える、その巨大怪鳥もといプテラノドン擬きが、資源惑星世界に住んでいた。
  管理局で付けられた名称が『ヴァイパー』だった。最小で全長三〇メートル前後であり、最大で全長九〇メートル近くはある。
翼長も二〇〇メートルに届かんとする大きさを誇るとのことだった。

「この化け物が、例の資源惑星にうようよいるんですか?」
「資料によればその様だな。だが……」

ジェリクソンの問いに答えたのは、このところようやく完全復帰したコレムである。腕の骨折に肋骨の骨折という傷から、日数を掛けて完治してきていたのだ。

「注意しなければならないのは、これだけではないのだ。こいつらも見て欲しい」

  そう言って、彼は手元の操作卓(コンソール)を操作し、別の生物データを見せた。これもまた、会いたくもない奴らだな、とレノルドが呟く。最もな反応ではあろう。
だが生物データにはヴァイパーのみが存在している訳ではない。一つの惑星に生物が一種類しかいない、というのは極めて可能性が低い筈だ。
次のデータが映された時、これもまた彼等は嫌な表情をする。それは動物的というよりも、昆虫系統に属している巨大生物のものだった。一言で言えばトンボ擬きだ。

「なんなんですか、このトンボみたいな化け物は……」
「名前は『メガルス』というものだそうだ。航海長の言うとおり、これはトンボの亜種みたいなものだろう」

外見は大方トンボに見える。しかし、骨格の所々が尖っており、顔つきも極めて凶暴さをアピールしている。さらにトンボらしからぬハサミ型の腕を持っていた。
尻尾の先端も、明らかに突き刺せそうな鋭い針の様な物がある。集団で行動して多量の獲物に襲い掛かる習性があるようで、数も数十匹では効かない。
  さらにこれらには、親玉となる巨大トンボ『メガドラス』が存在している。全長は一二〇メートル前後で、羽は巨大なものが一対の二枚のみ。
だが外殻はさらに鋭利的な印象を与える。顔つきもトンボのものは程遠く、まるで肉食恐竜の顔を付けた様な感じにも見える。
この種類にしては、あまり数が多くないようだとの事だった。

「そして、だ。ここからがさらに大問題なのだが……」

  そう言ってマルセフは、コレムに別の資料データを公開させた。三つ目のデータ、それは人知を遥かに超えた巨大生物のものだった。巨大とういう言葉では物足りない程……。

「な、なんですか、こいつぁ……」
「これも、昆虫みたいですが……」

ジェリクソン、レノルドが口を開けたままで呆然としている。まさに“開いた口が塞がらない”というものだ。それもその筈、公開されたデータの生物は次の通りだ。
  その外見は、地球にかつて生存していたカブトガニに酷似している。全長は最大で三〇〇メートルもあり、それは過去のどの記録を上回る規模だった。
生息地帯は広大な砂漠であるものの、水中を往来する事も可能だと言う。移動速度も侮れない。時速二五〇キロから三〇〇キロは出ると言うのだ。
しかも、単体ではなく群れで移動する。まさに、恐るべき巨大生物『デスバテータ』。管理局が長年、殲滅者として恐れて来た恐怖の元だった。

「これもまたテリトリーに敏感だと聞く。かつて、管理局は砂漠地帯に眠る地下資源を採掘しようと、採掘チームを派遣したらしいのだが……」

そこで、マルセフが口を噤む。言うまでもないのだろう、全滅したと……。周りの者は、この様な恐るべき惑星に工場を建設しなくてはならないのか、とやや青ざめた様子だ。
つけ加えて過去に数度、企業関連の調査隊が送り込まれたものの、全てが無残にも全滅という結果に終わった。施設など造る余裕もなかったようだ。
  〈デスバテータ〉はその巨体と群れで行動する性質もあって、施設などものの数分、いや数十秒もしない内に壊滅させる事も可能だ。彼らは恐ろしいまでの破壊力を有している。

「最低でも、この三種類の巨大生物が、惑星を占めいている。無論、他にも生物は存在するが、それ程脅威でもない」
「まるで怪獣惑星(モンスター・プラネット)ですね」

冗談にもなっていない。まさか戦闘艦を相手にするのではなく、巨大生物と相対する事になろうとは誰が予想していたか? 機械ではなく生物……それだけでも十分に戸惑う。
だが防衛軍の中で生物と戦闘した事が無い、という事はない。実は幾つか実例が存在している。ガミラス戦役時に旧〈ヤマト〉が、それを体験しているのだ。
ガミラスが環境破壊により生み出してしまった巨大蟻が巣食う惑星に始まり、デスラーが刺客として放ったエネルギー生命体の件もある。
  他にも水惑星に存在していた恐竜――如いて言うならばネッシーの様な巨大水中生物や、ピラニアを巨大化させたような怪魚。これらが挙げられる。
ただしこれら全てと戦闘を交えるおり、好んで戦ったわけではなく、それらから身を守るための自衛的なものであった。





  今回、目的地となる惑星――第六無人管理世界もまた、自然世界に住まう巨大な生物に過ぎない。だが、性格からして襲い掛かってくるに違いないだろう。
幾ら凶暴な生物から身を守るためとはいえ、殺すというのも気が引ける話ではある。とはいえ躊躇っていたのでは、資源を確保できないし、SUSに備える事も出来ないのだ。

「生物とはいえ、我々が手を抜けば、相手は容赦なく襲い掛かってくるだろう。下手をすれば、これら三つの集団に挟まれる可能性さえあるのだ」

マルセフは改めて、今回の任務の重要性を伝える。何としても資源採掘工場を設置し、周囲の安全をも完璧なものとしなければならないのだ。コレムも一層、身を引き締める。
  この第六無人管理世界へ派遣されるのは、〈シヴァ〉を中心とする戦闘艦二四隻である。そこに資材運搬用の輸送艦を加えると二八隻となり、これらは基地建設の第一陣となる。
基地建設のために運用される輸送艦に関しては、管理局の艦船を拝借する事になっている。本来なら防衛軍の輸送艦を使用するべきだろう。
だが〈トレーダー〉に搭載出来たのは二隻のみであり、さらに単独転移が出来ない理由もあった。さらに他の艦船も転移装置を有していないのだ。
増設させるには今しばらくの時間を必要としている。それ故に、〈シヴァ〉らが第一陣として向かう事になったのである。
  しかし、出来る事ならば〈トレーダー〉が直接現地に着ければ良いのだが、そうもいかない。何故なら、〈トレーダー〉を飛ばすほどの転移装置が無いためだ。
それだけではない。よしんばそれが叶ったとして、以前の様なやり方では許可などできもしないだろう。〈トレーダー〉が転移するたびに次元震を起こす事になる。
迷惑この上ないため、戦闘艦と輸送艦を使った輸送を行う事にしたのだ。面倒だがそれしかない。一方で、エトスらはどうするのかと言うと……。

「ガーウィック提督らとも話したのだが、彼等には周辺宙域の警備と、輸送航路の安全確保を頼んだ」
「彼等の戦力は、我らの倍以上ですからな。相当な範囲をカバーできそうです」

  ラーダーも心なしか、安心している様だ。ガーウィックを始めとする提督勢や艦隊の力量は、彼等防衛軍も十分に承知している。
不意を打たれたとはいえ、その後の戦闘では巻き返しを行い、見事にSUSの攻勢を押し戻したのだ。だがここで、機関長のパーヴィス大尉が疑問を打ち明ける。
〈シヴァ〉が前線へと出る事となるのは明白であるが、そうなればマルセフも当然行くことになる筈だ。そのマルセフは、皆の意向により総司令官としての立場がある。
  この本拠地たる〈トレーダー〉を離れていても大丈夫なのだろうか、と。この疑問に答えたのはコレムである。

「その事についてだが、マルセフ総司令とラーダー参謀長は一時的に〈シヴァ〉を下艦なさる。代わりに私が〈シヴァ〉の指揮を執る」
「では、艦隊の指揮は?」
「東郷司令が、その任に就かれる」

艦隊規模は上記に示したとおりである。内容としては、〈シヴァ〉と他の戦艦六隻に加え、戦闘空母〈イラストリアス〉一隻、巡洋艦八隻、駆逐艦九隻となっている。
殆どが、最初に転移して来た艦ばかりだ。戦艦〈イェロギオフ・アヴェロフ〉と〈ヘルゴラント〉は、修理の途中で方針が切り替わり、今しばらくはドックを抜けることは無い。
  というのも、これらの艦には、今後建造する予定の無人戦闘艦の指揮艦となってもらうためだ。これら艦隊を東郷が指揮し、〈トレーダー〉司令部にてマルセフが指示を出す。
艦を離れてしまうのだが、それは仕方がない。司令部を空にする訳にもいかないのだ。それに情報集積・処理能力は〈トレーダー〉の方が遥かに優れ、周りの情報も把握しやすい。

「という訳で、私とラーダー参謀は諸君らとは別行動となる。その間、副長の指示を受けるように。それと、支えてやってくれ」
「「ハッ!!」」

マルセフの期待に応えるが如く、スタッフ一同は敬礼と共に復唱する。他の艦艇でも、今回の行動内容に危険視する者も少なくない。寧ろやめた方がいいのでは、と言う者もいる。
案外、それが妥当な判断とも思えるが、管理局はそれ意外に譲る気はない。さらに理屈っぽく言えば、『資源惑星を譲与しろとは言われたが“どんな条件の星で”とまでは言われてない』と返されるだけに終わる。
腹立たしいとも思うが、自分らの条件こそ我が儘なものだ。他人の庭に入って、ここの一部の土地を貸してくださいと言うような物である。目を瞑るしかあるまい。
  そして新たに、マルセフは伝えておかねばならない事があった。それは、工場建設に際して、管理局側から派遣される局員――魔導師達の事だった。

「管理局は、資材運搬のために輸送艦を出すだけではなかったのですか?」
「最初はそうだった。しかし、リンディ・ハラオウン提督から連絡があってな。工場施設の警備として、魔導師を数十名程送りたい、とのことだ」

技術班長であるハッケネン大尉の疑問にマルセフが答える。最初こそは、何かの監視役ではないかとの懸念はあったのも、無理はない。だが疑っても何かを得る訳でもないのだ。
だが、傍にいるコレムは思う。彼女ら程に優れた警備員も、他にはざらにいないだろう。防衛軍は優れた軍隊に違いない。
管理局にも劣らぬ索敵能力を有し、並みならぬ強力な火器兵器を備えた防衛軍の力を持ってさえすれば、工場周辺の警戒など難しい事ではないに違いない。
  防衛軍は強力ではあっても、各個人の能力は強いという訳ではない。コスモガンやレーザーライフル、携帯式ランチャーなど様々だが、魔導師とは徹底的に違う点がある。
それが飛行能力である。これだけは、単なる人間しかいない防衛軍にとっては成し得ぬ事だ。特に、飛行タイプの巨大生物がひしめく資源惑星に降り立つのだ。
上空からの攻撃に対処するためにも、飛行出来る魔導師達の力はとても魅力的に思える。航空機よりも迅速に動ける、その対応能力もまた着目すべき点であろう。
何せ航空機は発艦までに時間を要する。それに比べて魔導師達は、数秒もかからない内にバリア・ジャケットを身に纏う事が可能だ。後は飛び立つだけ。

「魔導師達は、確かに武装レベルでは劣るかもしれないが、個人レベルにおいては、遥かに我々を凌ぐ。それに反射神経も良い。そこで我々がサポートすれば、より完璧な警備網が出来上がる筈だ」
「副長の仰る事はご尤もですね。管理局と我々のマイナスを補えば、かなり高度な範囲をカバー出来ると思います」

  コレムに続いてレノルドも賛同する。それに続いて他のクルー達も、思い思いに賛同していく。やはり一度、フェイト等を迎え入れた事があるからであろう。
今回はフェイト等が参加する尾いう訳ではないのだが、あのリンディがOKを出して派遣する人材なのだ。それ程に心配するような事ではないかもしれない。
合流がいつになるのか、気になったテラーが訪ねる。

「それで、その警備員はいつ合流するのですか?」
「管理局の輸送艦と合流した時だ。人数は二〇名程だという事だ」

  管理局が用意する輸送艦に同乗するのは、警備員の魔導師二〇名ばかり。どれもが優秀な逸材であると言う。それもそのはず、メンバーの中にはなのはが含まれているのだ。
さらには守護騎士団(ヴォルケンリッター)の主力、シグナムとヴィータの二名も入っている。警備にしては物々しいとも思えるが、行く先が巨大生物の巣窟なのだ。
彼女らの様な魔導師が付いてくれるだけでも、随分と違うに違いない。それに、此処まで来てお互いに疑り合うのは、もうなしだ。喜んで受け入れるくらいの気持ちは必要である。

「管理局の輸送艦と合流するのは明日になる。我々も此処を出発し、航行しながら予定されたポイントで合流。そのまま、目的地へと向かう」

  〈トレーダー〉は、管理局の拠点とそれ程距離を置いている訳ではない。と言うよりも、殆ど近隣と言っても過言ではない。
次元航行艦で移動しても一日と掛かることは無く、ものの一〇分か一五分程度で到着できるものだった。
それ故、〈トレーダー〉内部にも個人用転移装置の増設が計られ、着々と行われている最中である。これが完成すれば、管理局との移動も容易いものとなるだろう。
  一通りの説明を終えた後、スタッフ達に解散を命じた。出港は明日になる。皆はそれぞれの役場に戻り、出港までの点検を済ませることになった。
マルセフはラーダーを伴って〈トレーダー〉司令部へと向かう。古代や他の指揮官達と共に、最終チェックを行うためだと言う。
コレムは〈シヴァ〉に残り、各部署の報告を纏めており、明日の航海に支障が無いか調べていた。それに〈シヴァ〉の指揮を全て委託されるのだ。
  今までと変わらぬ事ではあろうが、初めての事でもない。この世界に来てから一度、マルセフの居ない中で艦を指揮している。
あの時は無我夢中だったからな、等と苦笑するコレム。そして今回は、東郷が現場における艦隊の指揮権を持っている。自分は〈シヴァ〉の指示に専念すればよい。
だが戦う相手は戦艦でもなければ戦闘機でもない。巨大生物である。戦闘艦の相手としては、勝手の違う戦いを強いられるだろう。翼竜擬きにトンボ擬き、さらにカブトガニ擬き。
もしもこれらに囲まれてしまっては、対策の打ちようがない。防衛軍の建設する工場施設は、単なるゴミの塊と化すに違いない。

「そこで魔導師……か」

  自室のデスクで、コレムはポツリと呟いた。工場施設を造るだけでも、こうも面倒になろうとは予想していなかった。ましてや、初めて遭遇するであろう巨大生物の大群。
襲ってこないと言う保証はない。資料から察するに、奴らはテリトリーにはかなり煩い様で、侵入して来たものは何であろうと攻撃する。しかも大群を持ってだ。
  そもそも怪獣だなんてものは空想上の生きものに過ぎない筈だった。いや、それだけではない。妖精や神獣といった類のものすら、存在する筈はないと思っていた。
彼の一般知識としてはそうだろう。だが、この次元空間からなる、さまざまな世界では存在しているのだ。妖精とは違うが、八神 はやてと共にいた小さなユニゾン・デバイスなる存在――リィンフォースU空曹長を見て、確信を持った。
  それ以前に、同じ人格プログラムであるシャマルにも会ってはいたのだが、何分、人と同じ大きさかつ姿をしていた者であるが、確定的な自信は無かったのだ。
そして後にフェイトからも、空想と思っていた生物がいるのだと聞かされた。彼女が保護して引き取っているという、二人の少年少女の内、少女がドラゴンを召喚するというのだ。
残念ながら、彼は自分の目でそれを確かめてはいないが、これからはそれを否応なく見る事となる。まったく可愛らしさのない、凶暴な生物たちを……。





  ところ変わって時空管理局の第二拠点。ここでは防衛軍に随伴する輸送艦二隻が、資材を詰め込んでいる最中にある。他のドックは損傷した艦艇が停泊し、修理作業中だ。
自動マニュピレーターが休むことなく動き、それを管理し調整する人間もまた、休むことなく現場に居座り続けている。その様子を、はやて、フェイト、なのはの三人が見守る。
本来はミッドチルダに居る筈のなのは。彼女は明日に備えて、第二拠点へと移動して来たのだ。はやてとフェイトは、まだなのはが無理をしているのでは、と気にかけていた。
  だが本人は、心配しないでと言葉を返して安心させる。古代に会った先日以来、彼女は周りも驚く程の速さで復帰を果たした。余程、彼の言葉に効果があった様だ。
傍にいたスバルも、先輩である彼女の復帰に驚きつつも嬉しく思った。同時に古代に対して、何か信頼しえるようなものを感じた。言葉では言い表せない、何かを。
 
「出発は明日やで。十分に、気ィ付けてな」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう」

友人の心配事に感謝するなのは。はやての肩に乗るリィンフォースUも、心配そうな表情で見つめている。フェイトも同様だ。
立ち直ったとはいえ、これから向かうであろう第六無人管理世界は過酷な資源惑星であり、有能な魔導師でさえ命の危険にさらされる事も珍しくはないのである。
  以前の入植では高ランク魔導師三名の内二名が殉職、一名が重傷を負っている。非魔導師も二〇名は命を落としたという。施設など、言うまでもなく全壊だ。
恐怖に歪んだメディアリポーターの表情を記憶している局員や市民も多い。それほど危険な惑星なのだ。心配しない方がおかしい。
それでもなのはは、それを承知の上で、警備員として立候補したのだ。だがはやては、それでも危ないとして、シグナムとヴィータ、さらにアギトにも声をかけて、彼女を手助けしてくれる様に頼んだのである。

「マルセフ提督は〈トレーダー〉から動けないけど、現場指揮は東郷提督が執るって。あの人はとても信頼出来る人だって義兄さんから聞いたから、大丈夫だよ」
「そやね。ウチも〈ミカサ〉に乗せてもろた時に話したけど、老練で物分かりのいい人や」

クロノは東郷を師と仰いでいる。今では中々、レクチャーを受ける事が出来ないようだが、それはフェイトやはやても同様だ。
通信でレクチャーも可能なのだが、彼女らはプロジェクトに関わる事になって忙しい身であり、マルセフらも会議やら工場建設計画やらで時間を空けられないでいるのだ。
  そんな義兄から直接に聞いた話だった。それに、直接会ったはやても言っている。それだけ、東郷は信頼される人柄と手腕を持っている証拠でもあるのだろう。
ただし、訓練時は鬼と化す。それを、はやてとリィンフォースUは良く知っている。いや、知らされたのだ。次元航行部隊の失態を手厳しく評価し、連続して訓練を続けさせた。
その様な事にもめげず、クロノは良くやったと言うべき出だ。東郷の傍らにいたはやて、リィンフォースUは、時折放たれる東郷の怒号にビックリして縮み上がったが……。

「そう言えば、思い出したことがあるんだけど……」
「どうしたの、なのは?」

  不意にある疑問が浮かび上がった。それは、今話題に上がった東郷についてであった。

「東郷って名字、どこかで聞いた気がするんだけど、気のせいかな?」
「いいや、気のせいやあらへんよ、なのはちゃん」

苗字とは、どこかで必ず同じ人が居てもおかしくはない。だが、歴史上で名が挙がった人物であれば、気になるのはある意味で当然ではないだろうか?
そんななのはに、はやては間違いではない事を言う。東郷の先祖は、歴史的にも有名な人物であり、日本の……いや、世界中の海軍軍人が尊敬をしたほどだ。

「東郷提督は、十中八九、あの“東郷 平八郎”の末裔や」

  東郷 平八郎……明治時代に起きた日露戦争で、名将と称えられた海軍軍人だ。そして、日本の危機を救った英雄的存在でもある。
当時、圧倒的不利な情勢に置かれてた日本に対して、国力が広く戦力も桁違いなロシアは、バルト海の太平洋第二艦隊――通称、バルチック艦隊と太平洋第三艦隊を差し向けた。
戦艦四隻の日本艦隊に対して、ロシア艦隊は八隻。巡洋艦や駆逐艦等の補助艦艇を含めると戦力差はさらに広がった。それでもなお、東郷は怯まなかった。
彼の下に集う優秀な参謀、そして厳しい訓練により練度と士気を上げていた兵士達。『皇国の荒廃はこの一戦にあり』と、全軍の指揮を鼓舞した。
  後に『日本海海戦』と称される大規模な艦隊戦は、冷静沈着な東郷の指揮と、状況判断を見極める優秀な各戦隊司令、参謀の力もあって、日本艦隊が完勝する事が出来た。
ロシア艦隊の戦艦は尽く撃沈、大破し、あるいは拿捕された。対する日本艦隊は戦艦の損失が一隻たりともなかったのだ。
もっとも、ロシアの旅順港という軍港を攻略しようとした際に、日本艦隊は貴重な戦艦を二隻も失っていた。
なのはは、東郷の名前からして改めて、故郷の地球と、防衛軍の地球が近い存在なのだと知ったのである。

「……本当に、同じ歴史を持った地球なんだね」
「正直、複雑な心境だけど……。何から何までも、私達の知る地球を同じなのかな?」
「さぁ、それは分からへんね。ウチらの地球は、少なくとも後二〇〇年は必要や……」

  心中に複雑なものが渦巻くはやて。未だに、彼女は親友達に話してはいない。無論、ヴォルケンリッターの面々にもだ。そんな事を話せば、絶対にショックを与える筈だ。
特に親友の二人には話せない。未来の世界と言えど、故郷が放射能に塗れた事になる等。一〇〇パーセント言い切れる訳ではないが、否定する要素もない。
いつかは、打ち明けるべきなのだろうか。それとも、永遠に心の中に封印しておくべきなのか。彼女の心が整理されるには今しばらくの時間が必要であった。

「それにしても、例の第6無人管理世界……あれは、はやての考えなの?」
「まさか……それはちゃうよ。確かにウチは、防衛軍との会議を早期再開させるために、色々とやってきたけど、あないな世界を提案はしとらん」

  軽く首を振り、苦い表情をしたはやて。確かに彼女は、防衛軍との関係を修復させるために動き回った。しかし、だからと言って、あのような世界を渡そうとは言っていない。
とはいえ、他に渡せそうな惑星が見当たらなかったのは事実である。他の資源惑星は殆どは管理局の手が入っており、他には企業関連が混ざっている状態だ。
だがこれ幸いと思う輩もいる。いまだに防衛軍を快く思わない上層部一部たちがそうだ。同時の会議の時も、防衛軍の質問に対して軽く受け流してしまった。

「何故、この様な惑星を選んだか? 分かり切った事です。それ以外に譲与できる惑星が無いからですよ」

  というような具合だ。しかも、続けてこうも言い放つ。資源惑星の譲与は確かに条件として入っていが“どんな惑星”をという事までは、条件に入ってませんからね、と。
タチ(・・)の悪い冗談だ。いや、冗談ですらないが。防衛軍の司令達は呆れかえったばかりか、反論するのを諦めた。自分達の提言にも原因がある事は明らかであるからだ。
同席していたリンディやレティを始めとした、良識派あるいは慎重派達も呆れたのは当然だった。だが、怪獣さえいなければこれ程の好条件の惑星はない。
データによれば、資源埋蔵量は他の世界の数倍にも及ぶと言われており、希少な資源が地面に露出している場所すらあるのだ。普通ならば目を離せないであろう。
  上層部の人間からすれば、そんな惑星の資源を採れるものなら採ってみろ、という感覚なのだろう。

「……とまぁ、マルセフ提督達が受け入れてくれたのには、感謝せなあかんな」

ここで否定してしまえば、代わりとなる代物を用意するか、防衛軍側が何かしらの変更をしなければならない。それでは、せっかく短縮した期間も無駄になってしまうのだ。
そういう事を考えれば、防衛軍側の受け入れの対応も感謝すべきものがあったろう。だが、その結果として、危険地帯へなのはを含む魔導師が参加しなければならない。
  尤も、彼女は自ら志願したのだ。本局が陥落する以前に見た、あの背筋をも凍らせる悪夢が最初の原因である。そして、あのミッドチルダへの襲撃が最大の原因だ。
後輩や同僚を失った無念と悔しさをバネにして、何かしらの行動を起こそうとした。それが警備員だ。これなら防衛軍に対して、何かしらの役に立てる筈だと……。

「それゃ、そろそろ戻ろか。なのはちゃんも、明日行くんや。しっかりと休んどかないとあかんで?」
「そうだね、ありがとう」

気遣うはやての言葉に、なのはは感謝すると、フェイトやリィンフォースUにも言葉を掛けてからその場を去った。その後姿を、心配そうに見つめる三人の視線。
高ランク魔導師である彼女ならば、簡単にやられるようなことは無い筈だ。シグナムやヴィータらも付いている。後は現場の指揮官たる東郷達に委ねる他ない。
  東郷を筆頭とする資源採掘部隊は、予定通りに出発する。防衛軍の艦隊と管理局の艦隊が合流し、さらに各要所のルートにはエトスらのパトロール部隊が目を光らせる。
第六無人管理惑星へは難なく到着する一団ではあるが、そこが資料で見た以上に危険な場所である事を、痛感するのである。



〜〜あとがき〜〜
どうも、第三惑星人です!
最近は仕事と疲労、あるいは他にやりたい事もあり、日にちが開いてしまいましたが、やっとこそさ投稿できました。
今回の資源惑星に登場するであろう、怪物ネタ関しては読者様からのご意見になります。
もっとも、既存の怪獣を文字って登場させたに過ぎないのですが……分かる人は、すぐにわかるかと思います。
三体目のデバステータに関しては、読者様の発案にございますが、元ネタは宇宙戦艦ヤマトのガトランチス帝国に登場した攻撃機から来ております。
次回以降、これらが猛威を振るう予定になります……。
因みに、巨大蟻のネタはPS版宇宙戦艦ヤマトからで、水中生物は携帯ゲームのワンダースワンの宇宙戦艦ヤマトになります。

さて、話が変わりますが、遂に宇宙戦艦ヤマト二一九九の公開が迫り、先日に新作PV映像も出来ておりました。
何と言いますか、これはもう、期待する所大で有ります! 初代よりも精密となった艦隊戦もさることながら、初代で登場する事が無かったキャラも登場!
例えば、ヤマト2あるいは以降に登場した、土方司令や山南司令を始めとして、ヤマト三に生活班所属として登場した平田一も、早々の登場となります。
まさかの沖田と土方のツーショット……お目に掛かれるとは思いもしませんでした!
加えて、デスラー総統にはきちんとして名がついたようですね。『アベルト・デスラー』とありました。髪型と服装も多少変わってますが、威厳は変わらず健在。

そして声優陣では、ベテランの方がチラホラ見受けられました。
中の人ネタで久川綾さん等は、リリカル〜でリンディ役で活躍されていますし、他にはアーノルド・シュワルツェネッガーの吹き替えで有名な玄田哲章さん、ゲゲゲの鬼太郎でねずみ男等を演じた千葉繁さん、ポケモンで馴染のオーキド博士役の石塚運昇さん等々……。

最後に、新キャラで気になる女性キャラに眼が止まりました。
霊感があるという岬百合理……ヤマト作品で初でしょうかね、この様な特殊な体質設定を与えられたキャラは。
思わず、私がこうして投稿している作品のキャラ、目方を思い浮かべてしまいましたが……。

では、長くなりましたが、ここまでにしまして、失礼させていただきます!

〜拍手リンク〜
[一二〇]投稿日:二〇一二年〇二月〇九日二二:三七:五八 EF一二 一
つ・い・に!
エースオブエースと地球の英雄(本人は強く否定)がサシで会話しましたね。
この2人、頑固ですぐ周りが見えなくなる等、共通点が多いですからね。
古代とすれば、かつての自分を見る思いだったのでしょう。
‥‥考えてみれば、なのはシリーズには“年齢・階級・経歴とも格上で、問答無用で頭が上がらない男キャラ”が非常に少ないんですよね。
おちざんとしてはその辺りが不満です(笑)
管理局が、将来地球連邦を傘下にしようとしたら…。
天の川銀河全てと敵対することになりますね。
星間戦争で鍛えられた国家ばかりですし、ガルマン・ガミラスやボラーには惑星破壊ミサイルがあります。
ガルマン・ガミラスのプロトンミサイルに次元転移能\力が付こうものなら…。
デスラーは躊躇せず実行しそうです。

>>感想の書き込みありがとうございます!
古代となのはの会話シーンは、内容をどういった物にしようかと悩んだ末に、こうなりました。
共通点の見える二人であるだけに、何か通じる者があるのではないかと……。
管理局は範囲が広いとはいえ、天の川銀河を全て敵にするほどの度胸はないでしょうねw
それこそ、管理局は即日に崩壊するでしょう。

[一二一]投稿日:二〇一二年〇二月一二日二三:一三:二 F二二Jラプター
更新お疲れ様です。さらに私のポッと出の提案の採用して頂き誠にありがとうございます。是非作品の字数稼ぎにお使いくださ・・
・ゲフンゲフン。今回の話ではブルーノアの話がツボでした。原作とのうまい絡みだと思います。ただこれ言ってはいけないんですが・・・・・何故に三〇〇年も運用されるんでしょうね?

>>書き込みありがとうございます!
提案の採用は直ぐにとはいきませんが、気長に待っていただければ幸いです。
ブルーノアの三〇〇年運用という設定ですが、深い理由は無いかもしれないですね。
単純に、使えるなら長く使えた方が良い、という結果かもしれないですし、それだけ改良に適した艦なのかも……しれないです。

[一二二]投稿日:二〇一二年〇二月一三日一七:五九:一八 ヤマシロ
久しぶりに感想を投稿します。
全体的なことは、他の方にまかして(オイ)個人的にいくつか。
>さり気ない事に、真田と大山は、〈アムルタート〉から得た次元転移装置のコピーを作成してしまったのだ。
さすが真田さんとトチローさん。この二人に(科学関係で)不可能なことは無いような気がする。
……まさか、重傷から完治した青い箱舟さんは来ないよね(チラ)
>防衛軍の採用している一六式重戦車〈タイフーンU〉の車体前部にショベルを取り付ける事で、ブルドーザーの代わりをしている。
東北大震災でも原発周辺での瓦礫撤去にドーザー装備の九〇式戦車が投入されたそうです。(主に放射能問題で。その後、ヘリでの除染や対放射能の防護を施した民間車両の投入で、すぐに出番が無くなったようですが)

>>どうもです!!
真田と大山が力を合わせれば、不可能なことは無いようなきがしますね。
ブルーノアの再登場は……分からないです(汗)。もしかしたら、何かの機会で登場するかも?
戦車の重機扱いは例があるので、こうしてみました。

[一二三]投稿日:二〇一二年〇二月一四日七:一五:二八 グレートヤマト
そろそろ、デスラー総統にご登場願いたいね。
影は見えど、未だにセリフがない!!
「地球の諸君、久しぶりだね」って。

>>デスラー登場、ですか……こうなると、先の展開がどうなるか私にも予測不可能w
続いてボラーなんかも殴り込みかけてきそうですよw

[一二四]投稿日:二〇一二年〇二月一七日六:一七:九 中山定幸
相変わらず面白いですわ。そして裏のあまり見たくない描写もしっかり書いてあるし。これからどう進むのか楽しみですね。資源惑星として何処がでてくるか?個人的にその時加工惑星としてミッドチルダを出してくるのではないかと思ってます。加工工場を地球が作って操業を共に行い全てが終わりの時工場ごとミッドチルダに返却すると。とかね。そしてファランクス。何か魔導戦艦になりそうですね。ガトリングをベルカ式に見立てて。でもやっぱり一番気になるのはヤマトがどうなるかやな。ヤマトファンとしてはやっぱりヤマトが活躍して欲しいんやな。駄文長々と書きましたがこれからも頑張って楽しませて下さい。

>>書き込みありがとうございます!
面白い、と感じていた抱いて、大変嬉しいです。
この先に待ち受ける資源惑星の展開は、悩みどころ故、時間がかかりそうです。
ヤマトの活躍をご期待されているとの事。シヴァとの割合を考えながら、活躍させていきたいと考えています。



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