マルセフが衝撃的な発言をした会見から、一週間程が経過している。防衛軍と各国家群、そして管理局は不完全ではあるが、戦力の整備を完了させつつあった。
三ヶ国艦隊――エトス、フリーデ、ベルデルらは完全なる補強修理を済ませており、哨戒活動を広範囲で行っている。防衛軍は続々と入る資材を用いた戦力増強に勤めていた。
有人艦艇の増産が見込めない以上、今増産している戦闘艦は全てが無人艦艇ばかりである。仕方のない処置とはいえ、無いよりは断然に良いものだ。
現時点で完成させたものが無人戦艦二隻、無人巡洋艦四隻、無人駆逐艦一〇隻の計一六隻。全自動(フルオート)の工場設備ということもあって、連続稼働を行った結果だ。
  だが数としては一個艦隊分は必要とされている。つまり、まだ六〇隻近い無人艦が必要となってくる訳だが、これ以上膨れ上がれば、AIの一斉統率にも支障をきたす。
いざという時は独立行動も出来るものの、この開発の裏にはレーグの全面協力があった。彼の祖国には無人攻撃艇〈テンタクルス〉というものが存在している。
さらには完全無人仕様の高速駆逐艦も有していたのだ。機械化が遥かに進んでいただけに、AIの独立時の判断と行動は驚くべき性能を発揮していた。

「あれ程に素晴らしい無人艦は、そうはない」

そう言って、地球の科学者を唸らせたものである。
  レーグも技術部の将校だった故、防衛軍に協力して人工知能の開発にも手を貸した。しかし、戦力が充実化されている最中の時代のため、無人新造艦は建造されなかったが。
それが、今のような事態だからこそ役に立つ。圧倒的な人手不足の対応に、補助的な意味でも良い、出番が来たのだ。
続々と完成する無人艦群……これらの艦は、新編成される第二特務艦隊 第二、第三分艦隊として配属される。
  この第二特務艦隊というのは、マルセフら先に転移したメンバーで固められている艦隊だ。だが新編成される艦隊の内、自動化率が七割という事実上の無人艦隊。
計画では第一分艦隊を〈シヴァ〉以下有人艦艇二六隻で固め、後の二つ分の分艦隊は無人艦艇で固める。
この中には、無人艦隊旗艦用として大改装した〈ヘルゴラント〉と〈イェロギオフ・アヴェロフ〉も含まれており、それぞれ第二分艦隊、第三分艦隊を遠隔操作する事となる。
一隻で一つの分艦隊を指揮することで、負担を分割しようというのだ。各分艦隊を預かる予定の人選も大方決まっており、第二分艦隊を東郷が率い、第三分艦隊を北野が率いる。
  因みに〈ミカサ〉もコンピューター関連でシステムの追加を行っていた。艦年齢が古いとはいえ、そのスペックは負けず劣らずである。特にコンピューターには余裕があった。
これで東郷は自分の乗艦からでも、無人部隊を指揮することが可能となったのだ。一方で北野の乗る〈アガメムノン〉は、それ程の余裕はない。
このままでは、命令系統がやや面倒になってしまう。マルセフから北野へ、そこからチリアクスへ、と一回経由して行うことになってしまい、それは時間のロスにもなる。
  そこで考えられたのが、両艦の艦長を入れ替えるという選択だ。何も艦長が永遠に同じ艦に勤めるという事が、常識という訳でもないのでそれ程驚く話でもない。
ただ今回は、状況が状況なだけに特例という事である。後に余裕が出来れば、北野の乗艦〈アガメムノン〉にも同様のシステムを導入することになるようだ。
完成していた無人艦艇群は、早期前線投入に備えるためにテスト航海を行う事になっていた。それらを率いているのは、無論〈ヘルゴラント〉である。

「全艦のシステム・リンク、良好」
「ご苦労……これより、稼働テストを行う。全艦、発進!」

  〈ヘルゴラント〉航行艦橋に身を移して指揮を執っているのは北野であった。無人艦を預かる身として、彼自身も無人艦隊の指揮感覚を覚えておこうとしたのだろう。
そして先任者であるチリアクスは、以前と同じように航行艦橋の艦長席にて構えている。無人艦のコントロールは航海艦橋にて一括されているため、北野とチリアクスは同じ艦橋にてそれぞれの指揮を執ることになっていた。

「各艦の距離に注意しつつ、予定の空域に向かう」

ゆっくりとドックから出ていく無人艦隊の先頭を行くのは〈ヘルゴラント〉だ。今回の航海テストの目的は、無人艦に搭載しているAIのシステム・チェックだ。
旗艦の指示通りに動くか、戦闘と航行の切り替えのタイム・ラグ、独自行動化させた場合の状態確認等である。この航海で不備な点を洗いざらい出さねばならないのだ。
  〈ヘルゴラント〉に導かれるようにして付いていく無人艦隊の姿を、〈トレーダー〉司令部のスクリーンで眺めやる数名の人物いた。
マルセフ、ラーダー、コレム、アダムスの四名だ。後は司令部のオペレーターが数名程である。皆は若干不安な面目で無人艦隊を見守っているが、それも当然だ。
戦力増強のためとはいえ、こうも急務で建造した無人艦なのだ。真田やレーグらの手が加えられているとはいえ、一〇〇パーセント万全とも言い難いものである。
状況が厳しいのは分かりきったことだ。それに一七年前の無人艦とは性能が違う。無人化に詳しいレーグのお陰もあって、かなりマシにはなっている筈だ。
  悪い結果は出さないだろう。そう思いつつも口を開いたのはラーダーだ。

「無人艦隊……実に、何年ぶりになりますかな?」
「そうだな、一五年振りか……ディンギル戦役後は無人艦が大半だったからな」

マルセフがそう答えた。ディンギル戦役は、一段と人材を失った戦いでもある。故に無人仕様の戦闘艦を建造する羽目になったのだが……。

「そういえば、彼女らの様子はどうですか?」
「ん? あぁ、八神二佐か。計画は順調らしい。以前に渡した波動エンジンのお陰で、完成に扱ぎ付けたようだ」

  コレムの問いかけにマルセフが答えた。八神 はやてを中心として行われている、新造艦建造計画――通称『D計画』は、波動エンジンの出力不足という難題があったのだ。
原因は管理局が生産している、エンジンのエネルギー変換機にあるらしい。頭を悩ましていた計画参加者の一人、マリエルは問題解決のために六日ほど前に訪問して来た。
その尋ね人はレーグである。彼にエンジンの状況を説明し、対応策はないだろうかと考えていたところ、思いもかけない提案を持ち出された。
  それは〈ファランクス〉の全損した波動エンジン一基を、廃棄処分として管理局へ売却することだ。さしもの彼女も、この提案には驚きを禁じ得なかった。
だがここで重要なのは、波動エンジンは全損状態にあること。次に廃棄処分となることだ。これならば、報告書の内容上問題はない上、強奪されても修理できるものでもない。
分解したとしても同じだ。エンジン内部も手ひどく破損しており、それをリサイクルしようとしても出来るものではない。設計図がなければ、模造品さえ望めないだろう。
  実を言えば、この破損した波動エンジンの引き渡しの提案は彼のみの発案ではなかった。艦長たるスタッカートが最初に考え付いたものである。
彼女の指示で波動エンジンを早期処分せずに保存しておいたのだ。それが功を奏して、管理局の新型艦建造に役立つことになった訳である。

「では、司令は新型艦をご覧になられたのですか?」

アダムスが気になったかのようにマルセフへ尋ねる。彼はその問いに頷いて肯定した。

「艦……と言うには小さすぎる気もしたな」
「小さ過ぎる、ですか」
「そうだ」

  思わずコレムが呟き、皆は首をかしげる。小さ過ぎるとは、いったいどういう事なのか? マルセフの話によれば、新型艦は全長五〇メートル程に過ぎないという事である。
駆逐艦よりもかなり小型であり、かつ、コスモパルサーよりも三〇メートル程大きい。だがそこまでの大きさともなれば、艦と呼称してもなんら問題はない。
その大きさからして、コルベット艦というよりも水雷艇または魚雷艇と言った方がしっくりくるかもしれない。むろん、魚雷しか積んでいない訳ではないが。

「フォルムは美しいものだったよ。紡錘型で滑らかな印象を与える」

  しかし、コレムらはあまりピンとこなかった。無理もない、艦と言うくらいなのだから小さくとも、一五〇メートルはあると思っていたのだ。それが三分の一しかない。
それでSUSに対抗出来るのかと不安にもなる。話に聞けば、新型艦は魔導師でないと操艦出来ないとも言うではないか。何故、そのような面倒なことをしたのだろう。
理由は分からないが、マルセフは自分なりに新型艦のコンセプトを掴んでおり、その説明を行った。管理局――しいては八神二佐らが考えたのはこうだ。
  ズバリ、小さくかつ高機動を誇り、高威力の武装を施している艦艇を造り上げる事。そして、その新型艦は過度ともいえる武装を施しているとのことだった。
一撃離脱に特化したものを目指したのであろう。敵艦隊のど真ん中に飛び込んで行くのだから、余程の操艦技術が必要になってくる筈だ。
だがここで、ようやくピンときた。一般の人間が操縦しようものなら、その時間は膨大なものとなる。そこで魔導師の登場となるのだ。
  魔導師は当然ながら、各個人のデバイスを所持している。それは自立思考回路を有する、高性能AIとも言える代物だ。これを、新型艦に組み込むのである。
後は彼ら魔導師の腕次第だ。日頃、デバイスを使っている感覚のように、艦艇を操艦することができる。違和感はあるだろうが、直ぐに馴れる筈だ。

「成程……デバイスが戦闘艦そのものに成り替わるようなものですな」
「そう言うことだ、アダムス准将。それに、魔導師ではないと危険な事もあるというのだが、そこまでは聞いていない」

魔導師でないと危険……という事は、非魔導師では何らかの悪影響を及ぼすというのか。コレムは思わず顎に手をやり、考え込む。
  だが幾ら考えたところで、正解が出てくることでもない。そして、その試作艦は今日にでも運行テストを行うという。運が良ければ、その姿が拝めるかもしれない。
なんせ、〈トレーダー〉と第二拠点は近接していると言っても過言ではないのだ。〈トレーダー〉まで飛んで来ることないだろうが、たった今航海テストに出た無人艦隊ならば、航路上で新型艦を垣間見ることも出来るだろう。
この数十分後、マルセフの言う通りに無人艦隊と新型艦はお互いを垣間見る事となった。が、それは防衛軍、特に無人艦隊には予想を裏切る最悪の形であった。





「レーダーに感! 数は一つです」
「……例の、管理局が開発した新型艦ですね」

  無人艦隊 旗艦〈ヘルゴラント〉の航行艦橋に入った報告に、二七歳のドイツ系男性――副長のネルスト・シュナイダー中佐が反応する。チリアクスも無言ながらも頷いた。
レーダーに捉えたそれは、進路方向からして艦隊の左舷側を斜めに通過していくことになる。つまり、彼らから見れば左方向へ横切って行くことになるのだ。
オペレーターがレーダーの物体を捕捉し、さらにそれを画像処理してスクリーンに投影させた。
  すると、皆が感嘆の声を漏らした。予想していたよりも小さいな、と。それにフォルムが今までと違い、逸脱していると言えるだろう。
今までの次元航行艦は、デルタ状のパーツや樽型のパーツ、等々を組み合わせたものだった。後期に生産された〈SX〉級とも違っており、表面は滑らかな水滴型または紡錘型。
艦首下方には。やや大きめの砲身が一門付いている。両舷中央には、制御翼と思われる一対の前進翼(斜め前に突き出すようなタイプの翼)。
そして後部艦底部が逆さ台形を付けたように出っ張り、艦体後部には並列配置したエンジンが二基――恐らく波動エンジンであろう。
  その名を〈デバイス〉級と命名されている新型艦で、レーダーに確認しているのはその一番艦だ。ただし、防衛軍にはそこまでの詳しい情報は入っていないのだが。
やや不恰好にも思える〈デバイス〉。しかし、五〇メートルとすれば運用は限られるだろう。あれで真面にSUS艦と撃ちあう事など、到底不可能なのは目に見えて明からだ。
一撃離脱が主流の水雷艇……いや、対艦用の砲撃艇とも言うべきか。どこまでも予想でしかない。チリアクスやシュナイダー、さらに北野も同様だった。
  北野は物珍しそうに、〈デバイス〉を眺める。波動エンジンを開発し搭載しているためか、今までの次元航行艦とはスピードが違う。成程、これなら一撃離脱も可能だな。
こちらも向こうも、今のテスト航海で問題を見つけ出して改善できれば完璧と言うところであろう。尤も管理局側には、あれを操艦するためのパイロットを確保する必要がある。
  などと考えていた時だ。レーダー上では、〈デバイス01〉を見つけたこととは別の変化が生じていた。

「准将、どうも妙です」
「もっと正確に報告してください」

怪訝な表情でレーダー手が曖昧な報告をするため、北野に変わりチリアクスが再度尋ねた。どうも第二拠点周辺にいる警備艦艇が、一斉に動き出しているというのだ。
しかも、自分らの艦隊へ向けて、である。これはいったいどうしたことか、防衛軍が何かしたとでも言うのだろうか? 思わず不安感に苛まれつつも、シュナイダーが上申する。

「准将、これは管理局へ早期に確認すべきでは?」
「そうだな……〈トレーダー〉も確認しているだろう。第二拠点へ至急、連絡するんだ」

  全く、いったい何だと言うんだ? 今さらになって手を切るなどと言う、馬鹿な真似はしない筈だ。この意味不明な行動を早く知るべく、通信士は急ぎ打電しようとする……が。

「マルセフ総司令より緊急伝です!」
「パネルに回してくれ」

数秒もしない内に、通信画面となったスクリーンにマルセフが映る。だが、どうも焦っている表情だ。どうしたのかと聞こうとする前に、相手側から口を開いた。

『准将、直ちに新型艦を拿捕してくれ』
「!?」

唐突過ぎる命令だった。何故、マルセフ総司令は〈デバイス01〉を拿捕しろと仰るのだ。あれは試験航海中ではないのか……一度に多量の疑問が湧き上がる北野。
  詳しく説明している暇はない、とマルセフは簡単に事態を説明した。あの新型艦は何者かがジャックしているのだ。急いで抑えなければ大変なことになる、と。
その先にあるものは、考えずとも容易に想像できる。あの新型艦は試作艦的な物なれど、波動エンジンを完成させ、さらには武装も実弾式へと変更されているのだ。
ジャックした者の組織が、何かしらの手で各世界へとその技術を広めてしまっては、管理局どころか防衛軍でも手に負えないことになるであろう。

『もしも停船に従わぬ場合、撃沈も止む無しとする』
「りょ、了解しました!」

  最悪の場合には撃沈も構わない。確かに、闇組織に渡るくらいならば破壊してしまった方が良いだろう。何せ、設計図と資材はまだストックがあるのだ。
何せよ、慌てふためく時間は無かった。北野は復唱すると、演習を至急に切り上げて迎撃態勢を取らせた。丁度相手は真正面に位置するのだ。

「相手の頭を押さえるぞ! 全艦、ウォール(壁面)陣形に移行しつつ、左舷回頭五〇度!」
了解(ヤヴォール)!」
「それと艦載機隊も緊急発進だ、急げ!」

  北野の指示を受け、〈ヘルゴラント〉以下無人艦隊は左舷方向へ回頭し、〈デバイス01〉の真正面に来るように前進した。
同時に艦載機隊も緊急発進すべく、パイロットも動く。対するジャックされた〈デバイス01〉は、なおも突っ込んで来ていた。
幾らなんでも変ではないか。〈デバイス01〉のレーダー範囲が狭い事もあるかもしれない。あるいはスパイが気付いていないだけか……。
艦隊は進路上に待ち伏せるように布陣し、艦載機隊も素早く格納庫から飛び出していった。

(ふむ、時間的に悪くないな)

  〈ヘルゴラント〉下部に備えられている格納庫から飛び出していく艦載機を横目で確認しつつ、北野は急接近する〈デバイス01〉に視線を改める。
通信士には予め停船命令を発信するよう銘じておいた。しかし、その新型艦は一向に速度を緩めることがない。通信は届いている筈だが、やはり無視しているのか?
必死に追いつこうと、警備艦隊が追撃して来るが到底間に合わない。が、レーダーには新たに別の高速機を捉えていた。それは目の前の〈デバイス01〉と全く同じ反応である。
  これに関しては局員が乗り込み、ジャックされた方を追撃中とのことだ。それでも、捉えるのは難しいだろう。

「目標、速度を徐々に上げつつあります! このままでは、二分後に艦隊内部を通過します!」
「准将、どうやら無視する気満々ですね」
「その様です……全艦一回だけ砲撃しろ。威嚇射撃だ!」

なるべく無傷で捉えたいものだ。そう考え、セオリー通りと言うべきか威嚇射撃を命じる。二〇秒後には、全無人艦が目標の至近をかすめるようにして、砲撃を開始した。
数十もの火線が空間を引き裂き、正確に〈デバイス01〉の至近を貫いた。これで止まらぬのなら……言う必要はあるまい。管理局には悪いが、集中砲火で塵と貸すであろう。
  と思いきや、威嚇射撃が効いたのだろうか、〈デバイス01〉は急速に速度を落とした。それを確認した北野は戦闘態勢のまま、艦隊と艦載機を待機させた。

「諦めが良いようで、助かりますな」
「全くですね、副長」

慌ただしい事件が、呆気ないほどに直ぐ終わりを見せてくれたようで何よりだ。シュナイダーのやや安堵した声に、僅かながらも同意するチリアクス。
だが完全に安心しきっている訳ではないのだ。北野は停船した新型艦の側まで艦隊を前進させ、艦載機隊にも周囲の警戒を続けさせる。
生憎とこの新型艦は転移能力までは有しておらず、運ぶならば必ず母船が必要になるのだ。そこで、北野は本部へと一応の対策を取るよう進言した。
  問題の〈デバイス01〉の方は、艦隊でこのまま接近し包囲続け、追い付くであろう次元航行部隊を待つことにした。普通ならば臨検なり行うところではあろう。
しかし有人仕様艦は〈ヘルゴラント〉一隻のみであり、テスト航海も相まって陸戦隊など乗せていない。無人艦には人っこ一人いる筈もない。
辛うじて目視できる距離まで接近すると、そこで艦隊は停止した。相変わらず砲門は新型艦へ向けられているままである。この距離なら外すことはあり得ない。
スパイが諦めたかどうかは疑わしいが、〈トレーダー〉のマルセフ一同や管理局――八神 はやて一同も、少なからずホッとしていた。






「艦隊が到着しました」
「准将、次元航行艦〈クラウディア〉より通信が入りました」

  警備艦隊を代表して通信してきたのは〈クラウディア〉――即ちクロノであった。彼は依然の戦いで負った艦の修復を済ませ、航路周辺の警備に付いていた。
そして今回、運よく近隣を航行中にジャックされた報告を聞き、追跡に入ったのだ。通信画面に出たクロノは、〈デバイス01〉を足止めしてくれた地球艦隊へと礼を述べた。

『面倒をおかけしました、北野提督』
「いや、面倒という事でもないさ。臨検と回航は、そちらに任せるが……」

  問題ありません、と言おうとした、まさにその時であった。新型艦は突如として動き出したのである! ここに来て動き出すとは、何とも諦めの悪い……。
いや、むしろこれを待っていたのだろう。クロノ指揮する艦隊四隻は、〈デバイス01〉を完全包囲する形でいた。その内の一隻が、まさに接舷しようとした時なのだ。
エンジンを全開にし、包囲網から抜け出してしまった。クロノは慌てて撃沈しようかとしたのだが、射線上には僚艦がいる事に気づかされた。
  つまり、スパイはこれを利用したのだ。逃がさないように包囲したため、相打ちする可能性が極めて高かった。それは、防衛軍も同じことである。

「砲撃を……っ!」
「だ、駄目です! 次元航行艦が近すぎます!」

北野は思わず、してやられたと奥歯を噛み締めた。この距離で、しかも砲撃しようとするその先には、管理局の艦隊……誤射では済まされない。
当たってしまえば一撃で轟沈もあり得るのだ。もしここでそのようなミスを犯せばどうなるか。防衛軍の信用は急速に落ち、修復しえない溝が出来てしまう。
それを見越したスパイは、狙ってわざと停戦していたのだ。味方艦が射線上にいては、碌に砲撃も出来ないだろう。油断しているからこうなる、とスパイは言っているだろう。
  見事と言うべきか、〈デバイス01〉は次元航行艦の至近距離を高速ですり抜けると、そのまま前方いる防衛軍艦隊へと突っ込んでいく。
手を直ぐには打てない。北野は直ぐに待機させていた艦載機隊に撃沈命令を下した。

「全機、撃沈を許可する!」

上方と下方にいた〈コスモパルサー〉隊は、群れを成して〈デバイス01〉に肉薄しようとする。しかし、それさえも間に合わなかった。
〈デバイス01〉は、あっという間に無人艦隊の内部へと突入してしまったのだ。それだけではない。その〈デバイス01〉は、試験航海のために飛び立つ予定であった艦だが、武装は実弾兵器を抜いていた。
  しかし、艦載砲だけは違った。エネルギー兵器に類するそれは、波動エンジンから供給されるものなのだ。つまり、射撃は可能なのである。

「目標、至近!」
「何をする気だ!?」

〈ヘルゴラント〉へ真っ直ぐに突っ込んで来る〈デバイス01〉に困惑し、シュナイダーが声を上げる。その時だ。〈デバイス01〉の艦首下部が発光したのは……。
威力は防衛軍の艦載砲に比べれは劣るものではある。しかし、それを至近距離かつ、艦橋に目がけて撃たれようものなら、装甲の意味など成さないのだ。
  すべては一瞬だった。〈デバイス01〉は〈ヘルゴラント〉の艦橋目がけて発砲したのだ。それは通り過ぎるまでのたった一発に過ぎないものであったはずだ。
だが、このたった一発が思わぬラッキー・パンチとなる。

「被害報告!」

直撃たのは、どうやら彼らのいる航海艦橋よりも上の方らしい。着弾した影響で、艦橋内がアラームが鳴り響いた。激しい揺れではないものの、無傷ではないだろう。
そう思いつつもチリアクスは艦の状況を把握しようと、チェックを命じた。

「通信・レーダー装置に被弾!」
「無人艦隊とのリンクが絶たれました。遠隔操作、不能!!」
「何だと!」

  北野だけではなく、チリアクスとシュナイダーも唖然とした。スパイは始めからこれを狙っていたのか? だとすれば、どこまでも計算した奴のようだ。
航海艦橋の直ぐ上には戦闘艦橋があり、さらにその上に塔状のレーダー、及び増設したレドーム型通信装置がある。丁度、そこに被弾してしまったのだ。
だがこんな事態も予測されており、もしもリングが絶たれるようなことがあれば、無人艦の自動運行プログラムが作動仕組みになっている。
先制攻撃などの心配はなく、取りあえずは旗艦の至近を固める行動を執り、後は旗艦と同じ動きをするだけだ。とはいえ、最低限の判断しかできていない。
  北野はすり抜けていった〈デバイス01〉を撃沈するため、急速反転を命じる。すると無人艦艇もそれに倣ってその場回頭し、〈ヘルゴラント〉を追った。

「目標を追撃中の二艦目が、艦隊上方を通過!」
「追い付けるか……」

〈デバイス02〉が後を追いかけていく。追い付けないことは無いだろう、しかしこのままでは逃げられる。彼女らには悪いが、ここは撃沈するしかない。
艦載機隊も〈デバイス01〉を追いかけ、〈ヘルゴラント〉は砲撃再開のため、砲身が狙いを定める。その間にも〈デバイス01〉はさらに加速した。
それも急激な加速だ。〈コスモパルサー〉でさえ、あれ程までに急加速を行うことはない。目標は見る見るうちに引き離されていく。

「主砲は?」
「先の被弾で、照準装置にも支障をきたしております! 正確な砲撃は望めません!!」

  砲術士官が蒼白とした表情で報告する。最悪な事に通信システムも使用不可能だ。修理・回復までには三〇分を要する。こうなってしまっては、無人艦隊に命令も遅れない!
頼みの綱は、〈コスモパルサー〉隊と〈デバイス02〉に任せるしかなかった。もっとも、彼らが遅れを取るとも思えないのだが……。結局は艦載機隊任せになってしまった。
北野もチリアクスも、不甲斐ないなと肩を落とす。最初の試験航海で、まさかの体たらく。〈ヘルゴラント〉は今一度ドック入りせねばなるまい。
特にレドームの方は簡単に直せるものでもないのだ。システム・エラーを全て見直し、新たに組みなおさねばならなかった。
  しかしこの六分程後に、またもや不可解なことが生じた。逃亡した筈の〈デバイス01〉が、〈コスモパルサー〉隊と〈デバイス02〉に囲まれて戻って来たのだ。
これはまた、どういう訳なのか。せっかく逃げ出しておきながら、また戻って来るとは理解不能だ。それにこのコースだと、間違いなく第二拠点へ向かう。
何故だ、今更ながら恐怖に怖気づいたのか? それも有り得るかもしれないが、ならば最初から盗むべきではないだろうに……。

「兎も角、新型艦は戻ったようだし、後は管理局に任せておこう。発光信号を艦載機隊と〈トレーダー〉に向けて送ってくれ」
「了解しました」

艦載機隊には帰還すべしと伝え、〈トレーダー〉にはシステム損壊のために帰還する、と伝えた。この指揮システムが完全でなければ、無人艦隊は成功とも言えないのだ。
  これでまた、予定が遅れてしまう。だが〈ヘルゴラント〉が修復するまで待つのも考え物だ。そうだ、〈イェロギオフ・アヴェロフ〉があったな。
まだ完全ではないとはいえ、システム関連に関しては既に搭載と調整を完備させていた。が、人員が足りないおまけに艦長もいない状態であった。
帰還したら至急、マルセフに上申して〈イェロギオフ・アヴェロフ〉を動かせるようにしよう。どの道テストせねばならないことのなのだ。
時間も節約できるし、まぁ良いだろう。SUSがどう来るかも分からない中で、なるべくプラス思考でいこうとする北野。
  しかしこの一〇分後の事だ。第二拠点の特別ドックにて、些細な……いや、とんでもない光景が、一人の女性の叫び声を呼んでいた。
あまりにもショッキングな事件は、瞬く間に防衛軍側の耳にも入ったのだが、それがどんなものだったのか。後に語られることになろう。




〜〜あとがき〜〜
どうも、第三惑星人です!
ようやく寒さもさり、桜が拝めたこの頃。そして早くも緑に変わっていく……儚いですのぅ。
さて、第五七話は如何でしたでしょうか? 主に新型艦と無人艦についての話になりましたが……。
一応……というよりも、この裏方の話も作る予定です。でないと、何がどうなってんの? になりますから。

それと拍手リンクへのお返事は、次回以降、返信を使用させていただきます。

〜拍手リンク〜
[一三一]投稿日:二〇一二年〇三月三一日一〇:三六:五九 九〇九
どうも初めまして。九〇九と申します。
復活編メインとは珍しいですね。大抵は旧TV版がメインのものが多いので。
そういえばコスモパルサーはいつ頃の開発かつ就役なんでしょうかね?コスモタイガー好きとしては気になっております

>>ありがとうございます!
確かに他の作家様では旧作TV版がメインとなりますね。
私自身としては、大した根拠があって復活編を選んだわけではないんです。
どちらかというと、こちらの場合、色々と弄りやすいんですよね。
補助艦艇とか、スルーされた第二次船団とか……不満足な点を自己解釈しつつ、絡ませる。
それがしたかっただけ、とも言えます。まぁ、ともあれ、これからもよろしくお願いします!

[一三二]投稿日:二〇一二年〇三月三一日一二:五四:八 荒覇吐
初めまして 「荒覇吐」(あらはばき)と申します。
最新話まで一気に見させていただきました。
最新話の管理局の考えは完全に独裁思考ですね。
まあ、ある意味において間違ってはいないんですが、管理局の場合は選民思想などが出すぎているのが不安材料ですね。
(フビライ時代のモンゴル帝国のやり方なら防げるでしょうけど。)
ミッドチルダ攻防では、なのは達は本当の意味で実戦を体験しましたね。その経験がどう生かされるか・・・
(「なのはクロスSS」の「R-TYPE Λ(ラムダ)」では未来の地球人に「お前たちは地球人じゃない!管理世界の人間だ!!」と罵倒されてましたが。
R-TYPEを知らなくても問題なく、オススメ出来ますw)
ディレクターズ版は私も見ましたw
実は波動実験艦「ムサシ」には元ネタがありまして、漫画版「銀河鉄道999」のワープ観測型「プロトヤマト」がそれです。
(機械女王編の続きがあります。「ヤマト」や「まぼろは」も出ています。)
これからも頑張ってください!

>>書き込み、ありがとうございます!
時空管理局の組織体制といったものは、完全に私の独自解釈によりますので、それはご注意ください。
何しろ、リリカル〜側はど素人に近いもので……(汗)
お奨めしていただいた作品は、機会があれば拝見したいと思います。
ディレクターズのムサシの元ネタはそこから来てましたか、相変わらずクロスしてますなぁ、松本先生の漫画はw

[一三三]投稿日:二〇一二年〇四月〇六日一七:五:四九 黒鷹
初めまして黒鷹です。初めて感想を書きます。
に〇ふぁんは“3,15事件”の影響で撤退・削除・移転が相次いでいる状況ですがそれでも影響を免れた人達が頑張っています。
作中ではマルセフ提督。早期終結のため目標――早期講和。この言葉を聞いた時の「……は?」と云う皆さんの気持ちは良く解りますね。
“現実的であって、現実的ではない”でもこれしか手がないですから。
敵を全て皆殺しにしてそれで終結と云うのは誰もやりたくないですから。
“互いが死ぬまで戦う”それを望むのは復讐したい人間か戦争狂くらいな物ですから。
そして「我々は、この次元空間からSUSの脅威を取り除くまで……最後の一兵まで戦い抜きます」
この言葉、その時になったら文字通り“最後の一兵”となっても戦い抜きますね。それ程の“覚悟”が込められた言葉でした。

>>感想の書き込み、感謝です!
にじふぁんの粛清嵐は収まっているみたいですね。これ以上、増えないでほしいものです。
早期講和のシーンは、主に映画『連合艦隊司令長官 山本五十六』から拝借しております。
よろしければ、ご覧になってください。戦闘シーンは少ないですが、ドラマ性は悪くないかと(個人的なものですが)
どちらにしろ全滅まで戦うのは、司令官としても兵士としても避けたいものですね。

[一三四]投稿日:二〇一二年〇四月一〇日一五:二七:〇 グレートヤマト
波動エンジンの技術が拡散したら大変だ。
何しろ惑星どころか、銀河をも破壊できるから……(ヤマトよ永遠に)。
そろそろデスラー総統サイドの話が来てもいいな。
復讐の鬼デスラー、SUSに好き勝手ヤラレっぱなしってことはない。
最後に残念なニュースが……。
真田さん役の青野武氏が亡くなられたそうです。
『こんなこともあろうか』がもう聞けないとは……。
ご冥福をお祈りします。

>>毎度の書き込み、ありがとうござます!
デスラーサイドですか……検討の対象には一応入っておりますが、完全に外伝扱いですね。
この人まで出してしまうと、他のキャラの活躍ぶりが危ぶまれるw
青野武さんにつきましては、知っております。本当に惜しい方です……あぁ、さびしくなりますね。

[一三六]投稿日:二〇一二年〇四月一四日一〇:一二:三一
〇五五.htmlの誤字
クルーの「体長」には気を使うようにしてくれ。
体調
それ故に「抜栓」されたのは、ある意味でお決まりだったと言えるかもしれない。
選抜
そしてロッド「五」と名乗った女性が行う

[一三五]投稿日:二〇一二年〇四月一四日七:三一:一三
〇五三.htmlの誤字
「今回はフェイト等が参加する尾いう訳ではないのだが」

>>誤字報告、ありがとうございます。
ちらほら目立ってしまいますね……無念です。



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