時空管理世界にとっては、次元空間にこれ程かと言う数の死を生み出してきたが、今回もまた、その数に貢献してしまうのは間違いない。
次元管理世界の命運を決める次元大会戦は、激しいドッグファイトに攻防の末、第二幕に移ろうとしていた。両陣営の艦隊はガッツリと肩を組み合うような形で接近している。
そして、主砲が、互いの艦列を狙い定める。まだ、距離はある。光化学系兵器の射程には遠く、例の空間歪曲波の影響も相まって狙い打つのは至難の業と言えよう。
だが連合軍総司令マルセフは、その安心しうる距離でもって先制攻撃を加えようとしていた。

「全艦、コスモ徹甲弾の装填完了!」
「エトス艦隊より入電、『メタルミサイルの発射用意完了!』」

 〈シヴァ〉の各砲身に徹甲弾が装填され、狙いを定めた。エトス艦隊もメタルミサイルの発射体制が整った……。

「……先制攻撃を掛ける。全艦隊、砲門開け! 撃てェ!!」

総旗艦〈シヴァ〉艦橋、その通信機から全艦隊へ向けて、マルセフの号令が響き渡った。瞬間、〈シヴァ〉の主砲、副砲が若干のタイミングのずれを生じさせながら、発砲した。
一瞬だが紅蓮の炎が噴き出し、砲身から実体弾が凄まじい運動エネルギーを与えられて飛び出した。砲塔内部にも、凄まじい衝撃が走る。

「撃てッ!」

地球艦隊が一斉に砲撃を行ったほぼ同時に、エトス艦隊旗艦〈リーガル〉でもガーウィックの発射命令が下された。地球艦隊とは違う、巨大な槍が投げつけられる。
 この発射の瞬間は、対当するSUS前衛艦隊旗艦〈マハムント〉でも、当然のことながら捉える事が出来た。遠い距離での砲撃に、兵士達はこぞって眉にしわを寄せた。
幾らなんでも、この距離で砲撃するのは早すぎる。何を考えているんだ、連合軍の奴らは。

「地球艦隊、エトス艦隊の発砲を確認!」
「この距離でか……」
「奴ら、落ち着きがなくなって浮き足立っているのでしょう」

参謀の1人が楽観した考えを述べる。ルヴェルはその言葉を本気にはしなかった。むしろ、この距離で砲撃するという事は……。危機感と言う意味で、彼は眉をひそめた。
そして2秒もたたない内に、オペレーターの1人が声を上げた。

「超小型の反応、無数に探知! こ、これは……!!」

レーダーに移される比較的小型の反応。それが数えるのが不可能なほどに映し出され、瞬く間にSUS艦隊の前衛へと暴風雨の如く襲い掛かる。
しかも水滴などと言う甘いものではない。戦艦を一撃で沈める事さえ可能な鉄の水滴が、雨あられと降りかかり、SUS戦艦群を食いちぎりにかかった。
 徹甲弾とは言うが、20世紀の戦車に使うような鉄の塊の事ではない。寧ろ、同じ世紀の水上大型戦闘艦が装備した物に近いと言えよう。
敵艦の装甲を貫通した直後、後部の本体が炸裂することで被害を与える徹甲榴弾と言った方が良い。ただし、昔と違うのは、弾丸の前部が鉄でなく超硬化コスモナイト製であり、後部が低出力の波動カードリッジ弾という事だ。
威力こそ本来のエネルギー弾に及ばないが、装甲を貫通し艦内をズタズタにする程度の威力はある。

「くそ、実弾兵器を使うか……通りで遠距離で撃ってきた訳だ」

爆炎に包まれる僚艦を一瞥する程度で、ルヴェルは怯みも覚えてはいない。ビーム兵器が主力であるのはどの世界も変わらない。その先入観がいけなかった。
地球のように、アナログな攻撃方法もあったと言うのにな……。幸いにして被害数は微弱だ。と、ここで第2派が襲い掛かる。今度はエトス軍のメタルミサイルだ。
ミサイルとは言うものの、それは誤表があるかもしれないが、これはあくまでロケット推進機で飛行するものの追尾能力は無い。徹甲弾とほぼ同じようなものだろう。
 銀河系のアルデバラン星系でも、その威力をいかんなく発揮したメタルミサイルは、SUS戦艦を串刺しにした。いや、串刺しを通り越して貫通してしまった。
当然でもある。SUS戦艦は全長160m程度と、全勢力の中では一番全長が短く、全高が長い戦艦だ。それだけ、真正面から貫通するのは容易いものだった。
この追い打ちを受けてなお、ルヴェルは堂々とした態度にあった。日頃は豪胆、大胆と評される彼だが、戦闘指揮でやたらに粗雑な命令を下すことは無かった。

「やってくれるではないか。だが、遠距離攻撃でイニシアティブ(主導権)を握ろうなんて考えは……甘いんだよ」
「敵艦隊、射程内に入ります!」
「よし。全艦、砲撃開始!」

ルヴェルが砲撃命令を下すのと、両翼に展開していた第2、第4戦隊が砲撃を開始するのはほぼ同時。600隻もの前衛艦隊から、2000本近いビームが一斉に放たれた。
挽回するのはこれからだ。とスクリーンを見やっていたルヴェルだったが、次の瞬間には信じ難い光景が写されていた。
SUS艦隊から放たれた砲撃の殆どが、地球艦隊に着弾することなく手前で防がれてしまったのだ。これはどうしたことか、と拡大投影させた。

「これは……!」





 SUSが砲撃を開始するのを見計らって、地球艦隊――〈シヴァ〉と〈ヤマト〉他、各旗艦は、予め装填していた特殊防御兵器を搭載したミサイルを撃ち放っていた。
それは〈ヤマト〉がBH199会戦で使用した、試作型のミサイル防御兵器の量産版で、名を波動防壁発生装置搭載型ミサイル――別称、バリアミサイルである。
波動エネルギーを攻撃だけでなく防御用に使用した兵器で、その効果は〈ヤマト〉が実戦にて既に実証済みであった。
弾頭内部に搭載された装置が作動し、艦隊間で巨大な円状の薄い膜を作り出す。それは水面にも似たもので、薄さに似合わずビームを全て減衰、果ては相殺させてしまったのだ。
 これを見計らったマルセフが、第二射の砲撃命令を下した。

「狙点、固定!」
「砲撃開始!」

実弾攻撃からショックカノンに切り替えられた主砲が、先ほどの紅蓮とは違う青白い閃光を放つ。1000を超すという光の矢が、SUSの砲撃と入れ違いで空間を突き進む。
そしてバラバラなビーム火線は、SUS前衛艦隊の中央――第8戦隊に迫るにつれて全てが集中されていく。そして、地球艦隊の全砲撃が、同じ空間ポイントを貫いた。
ショックカノンによる砲撃がSUS艦隊を捕え、次々と飲み込んでいく様は圧巻だった。その直後には幾つもの爆炎と光球が確認される。艦隊による集中砲撃が生んだ結果だ。
これは空間歪曲波に対する対抗手段の1つで、元々は魔導系砲撃力に劣る管理局次元航行部隊のために編み出されたものだ。
それが歪曲波の影響で砲撃命中率が下がり悩んだところで、マルセフが全軍に採用するよう命じたに至ったのである。
 しかし、瞬時に12隻の戦艦を完全破壊したものの、1個艦隊で200隻規模を誇るSUS艦隊にとっては、致命打に成り得ないものだ。
その倍返しとも言える砲火が、今度は地球艦隊を襲う。比較的先頭に立つ総旗艦〈シヴァ〉に幾つかの命中弾が出るが、それもまた、尽くが装甲に弾き返された。

「左舷甲板、艦首右舷に命中。されど損傷なし!」
「砲撃続行!」

ハッケネン技師長が被害報告を纏め、コレムは砲撃の指揮を執り続ける。傍らマルセフは戦況を睨み付けていた。双方の艦隊比は凡そ130:200といった所である。
彼にとって今回の戦いで違うのは、古代率いる艦隊と自分の艦隊の2個艦隊でSUS1個艦隊(戦隊)を相手取る事が出来る事だった。
以前は1個艦隊に満たぬ数でSUS1個艦隊相手にしていたのだ。それは実に7倍近い敵を相手にしていたと言える。それに比べれば、今回の戦いはどれ程に楽な物であろうか。
 70隻前後の兵力差はあるが、性能差ではほぼ2倍の力を有する。ここで我々が怯んでいてはなるまい……。だが忘れてはならないのは、自分らだけが優位に進んでも意味がない。
それに相手も簡単に勝たせてはくれまい。ゲリラ戦や市民への心理的重圧など仕掛けてくるほどの相手だ。それくらいの対応も出来るとみて、間違いない。

「敵前衛に変化あり!」
「早速か……」

スクリーンを見やると、そこには、中衛の1個艦隊が、前衛に移動してきたのである。それはSUS中衛艦隊左翼部隊のSUS第5戦隊であった。
ルヴェルは砲撃始めから数分の間に、地球艦隊の艦性能がいかなるものかを見抜いた結果だ。彼は自軍だけでは支えるのは難しいと判断し、中衛から増援を要請したのだ。
この要請に対してディゲルはそれを直ぐに了承した。彼自身も、地球艦隊と戦った経験者。であればこそ、地球戦闘艦の脅威をよく知り、ルヴェルの要請に応えた。

「仕方ないな。通信長、〈ヤマト〉に打電してくれ……」

 通信長テラーは、マルセフの指令内容を直ぐに第1特務艦隊旗艦〈ヤマト〉へ打電した。それを、〈ヤマト〉通信長が読み上げる。

「『敵増援艦隊の対応を任せる』――以上!」
「分かった。これより第1特務艦隊は、敵増援艦隊と対当する! 全艦、右へ反転40°!」
「了解、右反転40°!」

旗艦〈ヤマト〉第1艦橋にて、古代はマルセフからの命令を即座に実行した。艦隊はSUS第8戦隊と交戦しつつも右方向へスライドし、増援のSUS第5戦隊と向かい合った。
この時点で、連合軍とSUS軍は互いに4つの艦隊が砲撃戦を行う格好となった。そして、双方の予備兵力が後方に控えているという図だ。
 そしてSUS第5戦隊が正面に出てくる頃と同時に、連合軍側では後衛にいるベルデル艦隊司令官ズイーデルから意見具申があった。

『マルセフ総司令。我が方も前線に加わり、貴艦隊の負担を軽減したいと思うのだが?』
「ありがとう。しかし、心配は無用です」
『むぅ、確かに貴艦隊の実力は身に染みてわかるが……』
「スイーデル提督。貴方の艦隊は、SUS艦隊後方に控える後方部隊の動向に注意を払っていただきたいのです」

確かにズイーデルの艦隊が参加する事で、地球艦隊の被害は軽減され戦果は増えるだろう。だが、忘れてはならない。SUS艦隊には中衛と後衛の4個艦隊――合計して800隻以上の予備兵力がいるのだ。
ここでベルデル艦隊が参加してしまっては、残る次元航行部隊440余隻だけでは対応しきれないのは明白だ。例え新鋭艦が10数隻いても、である。
辛いではあろうが、ここはベルデル艦隊に次元航行部隊と共に後方の安全を確保してもらう。これが最善ではないかと言う次第であった。

『そうか……総司令の命令に従おう。しかし、何かあれば直ぐに申し付けてくれ。我らベルデルの意地にかけて、遂行してくれよう』

そう言ってズイーデルは通信を終えた。彼とて、前線に参加して戦いたいと思っているのだ。それだけではない。民間人大虐殺と言う汚名を着せられた彼らは、その償いきれない罪を、この戦いで償おうとしている。
だがそれは、彼だけではない。両翼で戦っているエトス、フリーデも同様だ。特にフリーデの兵の士気ぶりは尋常ではなかった。
 一方のルヴェルは、増援が来たことで地球艦隊が2分されたことを確認し、ニヤリとする。これでマルセフの艦隊60隻に対して、SUS第8戦隊は幾らか優位に立てた。
3倍以上の戦力差では、早々と勝てる見込みもない筈だ。彼はこのまま大火力による集中的攻撃で地球艦隊を圧倒してやろうか、と考える。
だが、他戦隊との連携も忘れてはならないのを思い出す。とはいえ手をこまねいて磨り潰すのも芸がない。それに我々が前進して地球艦隊を圧倒しさえすれば、連合軍の中央を分断することだって難しくは無い。
 中衛部隊と後衛部隊もこれに続けば、怒涛の流れとなって地球艦隊を壊乱に叩き込み、さらに後方にいる弱小のベルデル、管理局も一層出来よう。
昂ぶりが止まらない。彼は、全艦に前進制圧を命じようとした刹那、砲撃戦に第二の変化が現れた。

「敵連合軍、後退を始めました」
「何だと?」

〈シヴァ〉のマルセフが連合軍全軍へ向けて、後退命令が下令したのだ。連合軍は足並みを崩すことなく、同時に後退を開始した。まるで予め予定に入れていたかのようだ。
ルヴェルは途端に訝しげな表情を作った。奴らめ、距離を保とうとして何のメリットがある? 先の超遠距離砲撃でも再開しようとでも言うのか。
そのような事をしても無駄だと言うに……。いや、待て。これは罠か……それとも時間稼ぎか。だが、罠を張る余裕など連合軍にあるか、甚だ疑問だ。
後者もしかり。連合に余剰兵力など存在しない。ましてや、地球本星にも増援を余力など無い。次第に互いの距離が離れていくのを見やりながら、しばし考えた。
 あまり考え過ぎると、長官の指図が入るからな。そうなったらつまらん。そう思いつつ、彼は幕僚から意見を集めた。

「敵は時空歪曲波の干渉を避けるために後退しているのでは?」
「小官も同意見です」

あり得るが、そういつまでも後退してもいられまい。効果範囲を脱する前に、こちらが下がればいいだけの話だ。
他にはないかと、別の幕僚の意見も聞いた時だ。

「敵の兵力数、配置からして、罠を張り巡らせる余裕はないでしょうが……」
「だが、何だ?」

ややためらう幕僚に、鋭い視線で視線で問いかける。それに体を震わせた幕僚の1人は、ためらいがちにこう発言した。

「気を付けるべきは、後方にいる管理局の艦隊かと……」
「ほぅ、面白いことを言うな、貴官は……」
「い、いえ、その……敵は、我が艦隊が中央突破したところで、あの広範囲破壊兵器を使用するのでは、と推測する次第でして」

臆病な幕僚だな、と評するかたわらで、彼が言う事も十分にあり得る事をルヴェルは感じた。成程な、俺が無暗に突撃したところで、あの兵器が飛んで来るわけか。
考えすぎかもしれんと思うが、そうもいかない。俺の親友はこれと同様の戦法で葬られたのだ。
 もしここで全速で追撃して地球艦隊を突破しようとした刹那、艦列を開けた隙間からアルカンシェルを撃ち込まれるのだろう。
しかも左右にはわざと分離した地球艦隊がおり、散開しようとするのを妨げる。そこまで予測した瞬間、彼は地球にもここまで出来る奴がいるのか、高揚感が増した。

「まぁ、貴官の意見は記憶に留めておこうか」
「は、ありがとうございます」
「とはいえ、だ。それは突破しなければの話だ。堂々と正面から叩きのめせば問題ないだろう」

俺の分野は“攻め”ただこれのみ。それも突撃ばかりが能ではない事を、今ここで示してやろうじゃないか。ここで、彼は一端相手の策に乗ることを決めた。





 敵、前進を開始! オペレーターが報告すると、マルセフは相手が乗せられているのだろうかと不安になりつつ、さらに後退速度を速めた。
後方の次元航行部隊との距離は余裕が持てるだけ取っている。衝突することはない。後退する連合軍に合わせ、SUS前衛艦隊も前進をやや早める。

「上手い具合に、餌に掛かってくれているようですね」
「そうだな……。だが、前進速度が遅いように感じるが……どうかね?」
「確かに、仰る通りかもしれません。SUSの戦艦は、我が方の巡洋艦にも劣らない機動力を有している艦ですから、あるいは……」

油断したところで一気に攻め込んでくるか。それならそれで、こちらの策を見せつけるまでだ。突撃してきたところで艦隊を二分、SUS艦隊に通り道を作らせてやればいい。
同時に後方の次元航行部隊の1部が突出し、アルカンシェル砲を発射するのだ。ただし、これは相手が本気でこちらを中央突破すると言う意思がなければならない作戦だ。
もうすこし速度に勢いを付けさせるためにも、後退速度を上げさせるべきか。そう判断したところで、連合軍全軍にさらなる後退を促す。
 だが、ここでSUSの動きに変化が生じた。速度を増してくるどころか、減速してしまったのだ。これは容易ではないな、と相手の戦術眼を見定めるマルセフ。
距離が一段と開いていくが、相手は追撃の様子を見せてこない。しかたない、前進してみるか。速度に注意させつつも、連合軍は前進を始めた。
目の前に餌をチラつかせているうちに、またSUSが前進を開始する。これに素早く反応して後退する連合軍。来たら逃げ、止まれば進み、という単純かつ難しい動作を繰り返す。
そして前進後退を1回やり取りした後、再びSUS艦隊は速度を緩めた。この焦らす様な動きに対して怪訝な表情したのは、フリーデ艦隊司令ゴルック中将だった。

「おいおい、ちゃんと付いてこないと駄目だろうが……」

 旗艦〈フリデリック〉艦橋でそう言葉を漏らす。無論、相手が、はいそうですか、と言って素直になってくれる筈もない。

「奴らの辞書にも、慎重と言う言葉が載っているようだな」

このゴルックによる独り言に対して、返せる幕僚はいなかった。この敵突撃を誘う作戦において、フリーデ、ベルデル両軍は両翼で押し返すのが役目だ。
地球艦隊と連動することで、SUS前衛艦隊を半包囲網し、そのまま後衛艦隊までをも閉じ込めてしまおうと言う魂胆ではあったが……はたして。
連合軍はSUSの停止に誘われるかのように前進を開始する。まさにその瞬間であった。

「!? 敵艦隊、最大戦足で突っ込んできます!」
「来たか、前進する時を狙おうなんざ、我慢強い奴がいるようだな!」

 同じころ、地球艦隊は当初予定通りに左右に展開しようとした。だが、SUSはその魂胆に乗ってはくれなかった。

「追いかけっこは満足したか? 連合軍。全艦、前進し敵艦隊真正面に火力を集中せよ! いいか、突出するなよ。艦列を広げて圧迫し、ダメージを蓄積させろ!」

ルヴェルの迅速な命令は直ぐに反映される。SUS第8戦隊は艦列を横列陣に変化させつつ、砲撃面積を増大化させた。防衛軍とは違い、ピンポイントではないものの、もの凄い濃密とも言える赤い雨が降り注いだ。
前進で加速を付けたころの地球艦隊は急停止できず、その死の雨をまともに浴びる結果となった。前衛部隊は次々と雨に打たれていき、各部被害報告が連続して出される。
巡洋艦クラスから戦艦クラスならば、電磁幕でビームを凌ぐ事は可能であり、突破されても強固な装甲で跳ね返すことも出来る。だが軽快艦たる駆逐艦は別だ。
電磁幕は出力上低レベルのものでしかない。装甲も幾分か強固とは言え、戦艦程とは言えず、SUS戦艦のビームで装甲を焼き焦がされた挙句、剥離する。
 マルセフ、古代両指令は咄嗟に戦術を変更した。相手は突撃に出てくることない。ただ正面に立ち、数にものを言わせた苛烈な砲撃を浴びせる気なのだ。

「艦列を崩すな、陣形の崩壊は攻撃・防御の低下に繋がるぞ。応射しつつ後退!」

第2特務艦隊ではマルセフが叱咤激励により、混乱する兵士達を纏め上げると同時に艦列を整えさせる。

「慌てるな、陣形を保ちつつ後退! 砲撃を正面の敵艦隊中央に集中し、敵の足を止めるんだ!」

第1特務艦隊でも古代が素早い反応を見せ、艦隊陣形の崩壊を防ぐ。古代の相手するSUS第5戦隊はまだ陣形を広げていない状態もあり、集中砲火が効果を現した。
瞬時に数隻の戦艦が爆炎を上げる様を見せられたSUS第5戦隊司令ベイラ少将は、直ぐに艦隊を散開させて砲火の集中を防がせる。

「数で押されるな、ひたすら撃ちまくれ!」

 そう叫んだのはフリーデ艦隊司令官ゴルック中将だ。多勢力よりもやや威力が劣るとはいえ、連射速度では引けを取らないフリーデ戦艦は、ひたすら撃ち続ける。
負けたら後は無い。ここで全滅しようとも、必ずSUSも道ずれにしてやる! とその闘志をさらに熱く燃やしている。
互いの配置は以下の通りだ。中央戦域では地球艦隊とSUS第8戦隊がぶつかり合い、右翼(地球側から見て)はエトス艦隊と第2戦隊、左翼ではフリーデ艦隊と第4戦隊の激突だ。
ベルデル艦隊は地球艦隊の後方に位置し、状況によっては戦線に加わり、味方の後退を援護する形をとるだろう。管理局艦隊も同様だ。

「対艦ミサイル、一斉射! 敵の艦列を崩せ!」

 フリーデ艦隊全艦から対艦ミサイルが雨あられと降り注ぐ。歪曲波の影響も相まって、自動追尾装置に誤差が生じ、命中率も低下しているが気にする程度の事ではない。
兎に角もミサイルの全力発射で相手の陣形を崩そうと言うものだった。ミサイルの乱れ撃ちに、SUS第4戦隊は艦列を乱す。だが、それも僅かなものだった。
ゴルックもそれくらいの事は承知していた。それでも敵を切り崩すと言う勢いで戦わねば、自分らが押されてしまいかねなかった。
 反対側のエトス艦隊も、その戦いぶりはフリーデに劣らずだ。

「撃ち負かされるなよ。ゴルイ提督の仇、ここで討たせてもらうぞ」
「ハッ!」

〈リーガル〉艦長のウェルナー大佐は復唱し、砲撃を命じる。左翼のエトス艦隊の士気と勢いは、フリーデのそれを上回っていた。
銀河系で戦死したという、ゴルイ元帥の訃報を聞いた時の悔しさは、今も忘れられない。自由を得んがために立ち上がり、その礎となった誇り高き上官の仇を討つ。
ガーウィックは両軍の連携を保ちつつ、まずは目の前の敵をケチらしに掛かったのだ。

「火線を集中せよ! 我が艦隊の砲撃の威力、とくと奴らに味あわせてやるのだ!」

最初から攻勢を強めるエトス艦隊に、SUS第2戦隊は出鼻を挫かれていた。司令官ゲーリン少将も、エトスの砲撃能力に怯みを覚える。
この威力は地球艦隊の戦艦と同等のレベルだ。接近戦ではないにしろ、砲撃も正確ではないにしろ、侮れぬ相手だ。ゲーリンは艦隊を組み替えた。
 大火力には、大火力で対抗する! 各分隊に大口径砲の発射命令を下すとともに、別の分隊には通常砲撃による弾幕を命じた。
SUS戦艦は砲撃しつつも艦列が前後して入れ替わり立ち代りをする。巧みな艦隊運動で時間を稼ぎつつ、充填を完了させた部隊を前進させて、その大口径砲を順次撃ち放つ。

「戦艦〈バルトムント〉大破! 同じく〈ヌスゴー〉撃沈!」
「やってくれるな。動きが鈍い部隊を狙い撃て!」

ガーウィックはゲーリンの戦法の隙を見つけ、待機中の部隊目がけ砲火を叩き込む。充填中で動けない砲撃部隊は瞬時に打ち崩され、ゲーリンも距離を取らざるを得なくなる。
 この様に両翼のフリーデ、エトスは相手の前進に対して迅速に対応を見せた。一時はどうなるかとヒヤリとさせられたガーウィックも、地球艦隊の様子を見て安心する。
だが戦局はこのまま、砲激戦の応酬が続くと言う膠着状態に陥いった。連合軍は誘い込みに失敗した後、SUS第8戦隊ルヴェルは半包囲殲滅戦を目論んだ。
SUS艦隊の一部が地球艦隊の左翼側から迂回し半包囲陣形をとろうとする。しかし、それは後方にいたベルデル艦隊の逆撃によって防がれることになった。

「敵右翼部隊に砲火を集中せよ! 撃ち方始めぇ!!」

ズイーデル中将は猛将の如く命じた。紡錘陣形を執ったベルデル艦隊は、SUS第8戦隊右翼部隊に砲火を集中。瞬間的ではあるが、それは圧倒するに事足りた。
 突然の急進、強襲の前に右翼部隊は足並みを崩され、半包囲を作り上げるタイミングを逸した。ルヴェルは憎たらしいなと言わんばかりであったが、即座に体制を立て直す。
ズイーデルは半包囲体制を諦め、艦列を元に戻すのを確認すると、彼も艦隊を後退させた。SUSの予備軍がいつ迂回してくるか、と危惧したためだ。
第2特務艦隊はベルデル艦隊の稼いだ時間を使い、体制を立て直して見せた。マルセフも、ズイーデルの咄嗟の判断に感謝しつつ反撃を命じた。






 砲撃戦が膠着状態になって10分が経過したころ、連合軍とSUS軍双方に変化はない。どちらも攻めあぐねており、互いが互いの行動を阻止しては、平行線を辿る。
だが、このまま平行線が続くのは非常によろしくないものだ。SUS艦隊総旗艦〈ノア〉においても、ディゲルは中々に進展しない戦況に業を煮やしていた。

「ルヴェルの奴め……あれほど意気がっておきながら、互角の勝負をするのがせいぜいか」

会議の時にはレイオスの仇を討つなどと抜かしておったくせに、何たる不手際だ。とはいえ、ディゲルも地球艦隊の性能は良く知っている。
200隻前後の艦隊を前に、60隻から70隻の艦隊で対抗する地球軍の実力は予想以上だ。ここら辺で一撃を加える必要もあるか……。

「閣下、数においては我が方が遥かに勝ります。ここは、予備兵力を持って、奴らの側背を突いては如何かと……」
「……そうだな。敵連合軍の後方にいるのはベルデルと管理局だ」

 ディゲルは両翼に待機している第3戦隊、そして増援として送られてきた第9戦隊に指示を出した。全速力で両翼の戦場を迂回し、管理局およびベルデルを攻撃せよ、と。
前衛を突破できないのは連合軍も同じ事だ。ならば、動けないところで包囲殲滅してやる。必要とあらば、さらに第10戦隊も送るつもりであった。
命令を受けた第9戦隊と第3戦隊は機動性を生かし、全速力で戦場の両翼を迂回。連合軍を圧して再度の包囲殲滅を意図せんとした。
 だが連合軍も黙って見てはいない。後方に再び待機していたベルデル艦隊は瞬時に動く。同時に次元航行部隊も反応し、迎撃に出てきた。

「先ほどと言い、ズイーデル提督は良い判断力を持っているな。お陰で、こちらも専念できる」
「オズヴェルト提督も、左翼から迫るSUS艦隊を迎撃する模様。さらに、〈デバイス〉の再出撃を行っているかと」

マルセフはズイーデルの迅速な対応と行動力を称賛した。そしてオペレーターの報告にある通り、〈シヴァ〉の戦略スクリーンに映る両軍の様子。
今や互いに巨大な横列陣を形成しようとしている。もしここで両翼が崩されようものなら、連合軍の命運は尽きる。
連合軍の右翼側から迫るSUS第9戦隊にはベルデル艦隊が向かい、反対側の左翼側は次元航行部隊が向かった。その際、次元航行部隊はベルデル側にも多少の兵力を割った。
左翼側はオズヴェルトを指揮官とする艦隊およそ320隻に対し、ベルデル艦隊に加勢したのは残る120隻の次元航行艦。数で言えばそれなりのものだ。
 とはいえ、どこまで支えきれるか分からない。その間にも〈デバイス〉部隊は早々に出撃し、その護衛にF・ガジェットがついていく。
次元航行部隊は僅かに新鋭艦を揃えてはいるが、数で圧倒的に劣る。アルカンシェル砲も下手に使えない。この時空歪曲波の影響も考えなばならないのだ。

「〈デバイス〉隊、攻撃を開始!」
「次元航行部隊、ベルデル艦隊も砲戦に突入しました!」

始まったか。両極端で戦端が開かれ、連合軍には後が無くなる。もしここでSUSがさらなる迂回攻撃に出ようものなら、こちらは何もできない。
頼みの綱は別働隊なのだが……。と、ここでSUSが再び動きを見せた。

「さらに迂回させる気か……」
「い、いえ! これは……!!」

 予備兵力であろう、420隻の艦隊は迂回するルートを取らなかった。予想に反して、そのまま前進してきたのだ。しかも前衛も同時に前進を開始してくる。
この時、SUSの意図を彼は理解した。そうか、迂回させると見せて我が方の兵力を分散、戦闘状態に持ち込み動けなくさせ、そして後ろ盾がなくなった我が艦隊――地球艦隊に突入、一気に殲滅しようという腹なのだ!

「敵前衛艦隊、後方の艦隊、共に前進してきます!」
「無人巡洋艦〈C‐4〉中破! 無人駆逐艦〈D‐10〉大破、戦闘継続不能!!」
「怯むな、撃って撃って、撃ちまくれぇ!」

コレムは声を荒げながらも対処に全力を尽くす。性能差が有ろうと、6倍近くに増した敵艦隊を押し返すことなど不可能に近い。
物量で迫るSUS艦隊は、まさに濁流そのもの。怒涛の勢いを持って、中央に布陣する地球軍艦隊に差し迫ったのである。
 〈シヴァ〉の主砲群は絶え間なく砲撃を続ける。前方方向に対する砲撃能力は凄まじく、一度に主砲24門と副砲6門がSUS戦艦を撃ちぬく。
しかし、狙っては撃ち、狙っては撃ちを繰り返すのだが、SUS艦隊も怯まない。前衛部隊に被害が出ようとも、物量と言う暴力で殴りかかってくる。
地球艦隊はマルセフと古代の連携のもと、双方が相手するSUS艦隊の先頭集団に集中砲撃を加え、その進撃速度を落とそうと試みる。
先端を行くSUS戦艦が集中砲火を浴びて爆散する。そのまま後方の戦艦にも命中、あるいは装甲を削り取るなどして、出鼻を挫いていく。
擦り減らされていくのは自分たちではないか、とルヴェルは舌打ちする。連合軍の中央層が薄くなったとはいえ、その弾幕の層までは薄くはならないか……。
 だが、如何に地球艦隊の性能が優れていようが、120隻程度でSUS艦隊800隻前後の濁流を支えきろうと言うのは、到底無理な話であった。
その限界が、直ぐに目に見え始める。

「第2無人駆逐戦隊、被害甚大! コントロール不能な艦が続出してます!!」
「さらに第5巡洋戦隊も被害増大!」
「無人戦艦〈B‐3〉大破、間もなくコントロール不能に陥ります!!」

如何、とマルセフはこえを 漏らした。ただでさえ第1特務艦隊に比べて10隻程の戦力がないのだ。SUS艦隊の猛撃の前に、無人艦群は電磁幕の限界値を超えてしまった。
艦橋からも、無人戦艦〈B−3〉が次々と弾幕をその身に受けていく。艦内では自動消火システムや、自己修復機能を搭載したアンドロイドが稼働していることだろう。
しかし、人間ほどの対応能力はない。そして遂に無人艦の泣き所である受信アンテナを破壊された。一応、自律機能も搭載されているが、正直どこまであてになるか分からない。
 無人艦比率の多いマルセフの艦隊。この無人艦を纏める戦艦〈ヘルゴラント〉に乗艦している北野は、SUSの猛撃に晒されながらも無人艦の統制に四苦八苦していた。

「司令、無人巡洋艦〈C‐10〉大破、戦闘継続不能!」
「……くそ、なんてざまだ」

彼はパネルに表示されていく艦艇の情報に舌打ちしていた。やはり、所詮は埋め合わせ程度の戦闘艦なのだ。強固な装甲を持とうとも、内部で被害を抑える者がいなければ、その艦は長続きしないことぐらいわかる。
その間にも双方の距離は縮まっていく。次元歪曲波など関係なくとも命中するくらいだ。正確無比を誇る防衛軍の射撃術を物ともせず、SUS艦隊第8戦隊は襲い掛かった。
特に旗艦〈マハムント〉が撃ち放つ主砲は、地球軍の艦艇に多大なダメージを及ぼした。真っ赤ビームがトマホークとなり、防衛軍の陣形を叩き切ろうとするのだ。
刃に掛かった巡洋艦が瞬時に爆炎を上げた。撃沈はしていないが、たった1発で艦体左舷の中央に大穴を開けたのだ。痛々しい傷口が、その破壊力を物語る。
 さらに1隻の〈スーパーアンドロメダ〉級が複数のビーム砲をその身に浴びた。強固な装甲を持ってしても、威力を減退、防ぎきることは叶わない。
第2砲塔がターレットから物の見事に浮かび、完全に使用不能へと追い込んだ。報復にと言わんばかりに、残った第1砲塔が火を噴く。
が、そこまでだった。その砲撃は虚しくも〈マハムント〉を貫くことは叶わない。強力な電磁幕が弾道を逸らし、その隙に止めの一斉射を撃ち込まれた。

「戦艦〈アガメムノン〉……ご、轟沈!?」
「ぁ……なっ!?」

北野は言葉を一瞬失った。〈アガメムノン〉……それは彼の元乗艦であり、この〈ヘルゴラント〉元艦長チリアクス大佐が代わりに指揮を執っていたのだ。
親しいとまではいかなかったが、この次元世界に来てからと言うもの、何かと会話をする事も多かった故、共感することも多かった。

“家族の親交を深めようと思いましてね……”

チリアクスは出撃前にそう言っていた。久々の再会を楽しみにしていたのだ。それが、ここで潰える事になるとは……。
しかし、感傷に浸る余地はない。傍にいる副長の藤谷 美代が心配そうに北野を見るが、彼は感情に任せぬよう今一度冷静になった。

「感傷に浸るのは、生き残ってからだ」
「艦長……」

今は、戦闘に専念せねばならない。だが、戦死したのはチリアクスに留まる事は無いのだ。現に、多くの軍人が散っている。途方もない程、多くの死が……。
 中央の地球艦隊の激戦ぶりに対して、左右の戦場も負けず劣らずの戦闘を行っていた。エトス、フリーデ、ベルデル、次元航行部隊、各艦隊はSUS艦隊に押されはせねども、押し返すことも出来ない事に苛立ちを募らせていた。
現在の状況を天長方向から眺めやるに、全体の艦隊陣形は横列陣からX字型へと変わりつつあった。連合軍がX型であり、SUS軍がΛ(ラムダ)型という具合だ。
このままでは中央を突破されるのも時間の問題だ。それに、地球艦隊の被害も続々と上がってきている。歴戦の勇士たるマルセフと古代も、耐えきるのに限界が差し迫っていた。

「……まだか」
「はい」

 SUS艦隊のビームが〈シヴァ〉の周辺を覆い尽くす。僚艦は陣形を崩さぬ程度に各自の判断で回避行動を取り、砲撃を叩き込んでいく。
そして時折、弾数の少ないバリアミサイルを使い、敵の猛撃を遮断しては果敢に反撃を行う。そんな中でマルセフは懐中時計を見やりながら、何かを待っていた。
この会戦における作戦行動はタイミングが大事だ。だが、SUSの行動は必ずしも、予定通りではない。コレムも、これ以上の防御戦は不可能になると言う見解を出していた。
それだけに、例の部隊がこなければ、最悪の場合は全滅覚悟の波動砲強制発射もあり得る。まだか、まだ来ないか……。コレムの焦りは表情に出る。
目前のSUS第8戦隊、第4戦隊の100隻前後――戦況全体にして200隻は既に撃沈破しているだろう。その代償として、連合軍も150隻前後の艦船を失いつつあった。
 しかし、このままでは埒が明かない……。が、ここで戦局は入れ替わる時期を迎える。突然、SUS艦隊の行動が消極的になったのだ。
そればかりか、前進行動を止め、後退する動きも見せている。どうしたのだ、とマルセフが尋ねようとした途端、レーダー管制室から報告が入る。

『総司令、来ました! 敵の後背に、囮部隊が到着しました!』
「やっと来たか……」

それは、戦艦〈イェロギオフ・アヴェロフ〉率いる囮部隊――幻想艦隊の到着だった。レーダーには、ちょうどSUSから見て、右舷後背から迫りつつあった。
周りが視れば、これはSUS艦隊の後背を突こうとしていると見るか、あるいは要塞への直接攻撃、退路の遮断を意図している物だと考えるであろう。
 後は囮部隊として機能してくれるかが問題だった。だがこの心配は杞憂に終わった。

「馬鹿なッ! 敵の増援だと? レーダーは何を寝ぼけたことを……!!」
「長官、これは誤認ではございません。敵増援艦隊――推定420隻の大艦隊が、我が艦隊の後背に回り込んできているのです!!」

案の定、SUS艦隊はキッチリとこの“増援”をレーダーにキャッチしていた。〈ノア〉指揮官席に座っていたディゲルは、その増援の多さに跳びあがった。
いったい何処から、こんな増援が出てくると言うのだ! 連合軍に、それ程の余裕はない筈だ。ましてや、外世界からの増援などもありえん!
狼狽するディゲルだが、この増援艦隊は殆どが幻に過ぎないことを知らない。そう、SUSは魔導師という存在を、あまりにも見くびっていたのだ。
 レーダーに映る艦隊の内、本当の戦闘艦は〈イェロギオフ・アヴェロフ〉ただ1隻のみ。80隻は精巧な作りをしたダミー艦。残る艦影は全て……幻影だ。

「ど、どうなさいますか?」
「仕方あるまい。我が第1戦隊、第10戦隊は後退、後方の増援を迎え撃つぞ!」

地球艦隊の増援であれば、兵力はなお足りることは無い。2個戦隊では不安なのだ。とはいえ、下手に戦線かた艦隊を引き抜くことはできない。
引き抜けば増長して前進してくるに違いないからだ。あるいは、別の戦線に加わって各個撃破されかねない。狡猾な真似をしてくれるではないか!
彼はやむを得ず自艦隊と第10戦隊を引き連れ、その場を後退・反転しようと試みる。これでは本局での戦いの二の舞となる。
 連合軍は遅まきながら到着した囮部隊の動きと、SUS艦隊の新たな動きに反応した。途端、マルセフは叫んだ。

「今だ! 全艦隊、攻勢に転じる! 全兵装集中攻撃、敵の鼻っ面先に叩き込めぇ!!」

いつになく、彼は荒げた口調で命令を発した。押されっぱなしだった連合軍、特に中央は息を吹き返した。持てる兵力を持ちだし、SUS艦隊の前面にその火力を叩きつけたのだ。
SUS艦隊側は激しく動揺していた。後背の増援に加え、引き抜かれた味方艦隊を見て士気を低下させたのだ。そこに、連合軍の苛烈な反撃である。
ルヴェルも動揺していた1人だ。せっかくここまで来たと言うのに、邪魔立てしおって! と罵声を浴びせた。そして、抑え込んでいた相手が逆に進撃してくる様に、圧倒される。
囮の出現で戦場は転換期を迎えるが、終わりはまだ見えそうにはなかった。

 多大な犠牲を出し続ける次元大戦は始まったばかり。次元空間に流れる血に、戦争という母体はどれだけ欲しているのか……それは誰にも分からない。




〜〜あとがき〜〜
どうも、第3惑星人です!
いやぁ、まだ暑い日が続きますが、皆さまは体調のほど、如何でしょうか?
つい先日、宇宙戦艦ヤマト2199の新作PVが公開されました。観ててガミラスのシュルツ司令に感情移入してしまいましたが……皆さまはどうでしょうか?
娘からのビデオレターを、肩を落として眺めやる彼の姿に、思わず切なさを覚えます。
さて、今回は本番とも言える艦隊戦に突入しました。いろいろと見せたい場面もあるのですが、それを考えたらきりがないので……。
今回は短いですが、ここまでにして、失礼させていただきます。



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