SUS艦隊を撃滅し、残るは超大型旗艦――〈ノア〉および、要塞〈ケラベローズ〉を残すのみとなった今、連合軍の勝利は約束されたものになる筈であった。
だがSUS総旗艦〈ノア〉は予想を覆す戦闘能力で、連合軍を瞬時に圧倒した。全身が武器の塊であるかのような〈ノア〉に、総司令代理の古代は対応に苦悩する。
次元航行部隊は、オズヴェルト提督が戦死。次元航行艦船だけでも被害数40隻を超過しており、戦線を後退せざるを得ない状況に追い込まれてしまった。
地球艦隊やエトス艦隊ですら唯では済まない。予想される〈ノア〉の性能緒元はなんと地球艦隊数個分にまで匹敵することが解って来たのだ。
 〈ノア〉の総攻撃で被害を被る地球艦隊の中で、集中的に叩かれたのは偽〈シヴァ〉こと〈イェロギオフ・アヴェロフ〉であった。

「右舷装甲版に被弾! C区画内部に被害発生!」
「左舷第2スラスター破損! 左舷機銃群6割損失!」
『こちら機関室、出力61%まで低下!』

火花と爆炎、黒煙を随所から噴き上げる〈イェロギオフ・アヴェロフ〉はもはや限界だった。戦艦としての装甲は申し分ないが、相手が悪すぎる。
艦橋内部も被弾の影響で火花が散り、付近にいるオペレーターを傷つける。もはや偽装は解かれている状態だが、被弾は容赦なく続いていた。
さらに1発のビームが、艦底部に設けてある第2艦橋へ直撃する。

「第2艦橋……消滅っ!?」
「くそ、これまでか……」

バーン中佐は悔しそうに呟いた。戦闘不能まで追い詰められ、機関出力もかなりの被害を受けている。戦闘不能は愚か航行すら危ない。これで爆沈していない方が不思議だ。

「ランスター一士、ナカジマ一士、聞こえるか!」
『こちらティアナ、聞こえます!』
「当艦は大破、航行不能に陥るまで時間の問題だ! これより退艦を発令する。君らは乗組員を収容次第、直ちに離脱してくれ!」

 〈イェロギオフ・アヴェロフ〉後部甲板に固定されている〈デバイス〉は今だ無事である。これはティアナとスバルの特殊専用機であるが、それと同時に乗組員の脱出艇代わりにも運用されるように、改良を施されていた。
とはいえ武装ブロックを収容専用のブロックに入れ替えただけで、最大収容人数は30名前後。残るは本艦に搭載されている脱出艇を利用する他ない。

「総員、退艦せよ! 繰り返す、総員、退艦せ――っ!!」

バーンの退艦命令が発令されたと同時だった。対艦ミサイルが艦首上部に直撃したのだ。ズズン、という強い振動と衝撃が艦全体を襲った。
 〈デバイス〉に待機するティアナ、スバル両名もその揺れを感じたほどだ。また被弾した、とティアナは直感した。
大丈夫かどうか、彼女は通信機を通してバーンに確認を取ろうとした。

「中佐、大丈夫ですか!」
『大丈夫だ。それより、君たちは早く――』
『本艦に新たなミサイル接近!』

通信機越しにオペレーターの絶叫が響き渡った。その2秒後、バーンは反射的に通信機から目線を外したその瞬間、強烈な光が通信画面を覆った。
次には強い揺れを感じる。ティアナは被弾したことに恐怖した、が、肝心の通信画面に砂嵐しか残らない。まさか、とティアナの額に汗が滲み出る。

「Master.
The connection with an enclosed bridge stopped.
(マスター。艦橋との連絡が途絶えました)」
「え……ぅ、そ……」
「The enclosed bridge was hit directly.
survivors' reaction -- it is not.(艦橋に直撃しました。生存者の反応、ありません)」

 相棒の〈クロス・ミラージュ〉が放った言葉はあまりにも唐突で、衝撃的なものだった。私の目の前で、バーン中佐が……死んで、しまった?
一瞬、彼女の頭の中は真っ白になった。激しい動揺を見せているようだが、ここで彼女に意識を戻させたのはスバルであった。

「ティア、ティア! しっかりして! ねぇ、お願いだから! 乗組員の収容は終わったよ!!」

以前にトラウマを抱えていた彼女であるが、場合が場合だ。こんな時に、私が思考停止してどうするの、私がしっかりしないといけないんだから!

「ぁ、あ……スバル」
「ショックなのは私も分かるよ。けど、今は……収容した防衛軍の人たちを連れて、脱出しなきゃ!」

まだ動揺しているようだが、ティアナは頷いて発進するように指示した。固定装置が解放され、甲板との距離を話していく〈デバイス〉。
そしてエンジンの出力数を上げ、一刻も早く〈イェロギオフ・アヴェロフ〉から離脱を図った。だが最大限速度を出すことは出来ない。
何故なら、シェルターには防衛軍の人間がいる。彼らは対G用備えを付けている訳でもない。そんなことをしたら彼らが圧縮死してしまう。
 コクピットからでも、黒煙を上げる〈イェロギオフ・アヴェロフ〉を確認できる。見れば、艦橋がミサイルの直撃の影響で半分が吹き飛んでいた。
ティアナは目をそらした。あの中には、まだバーン中佐を始めとするクルー達がいたのだ。自分たちは、彼らを助けることも叶わなかった。
そんな悲壮な思いに深ける彼女だが、今はそんなことを考えている暇はない、気持ちを改めた。

「スバル……このまま、クロノ提督の〈アースラU〉まで行くわよ」
「うん」






 〈シヴァ〉が姿を現したのは、その直後であった。亜空間の波間から姿を現した〈シヴァ〉は、直ぐに砲撃準備を整える。

「全砲門、コスモ徹甲弾装填。目標、敵旗艦!」
「了解! 全砲門、コスモ徹甲弾装填! 目標、敵旗艦!」

マルセフの命令にジェリクソンは復唱し、主砲群に命令を伝達する。〈シヴァ〉は今、SUS最後の1隻〈ノア〉の後背にて、攻撃を開始しようとする寸前であった。
あの旗艦らしい超大型艦は危険すぎる。艦隊が纏めて掛かっても撃沈するのは不可能ではないか、と思わせるに十分な破壊力を見せつけてくれたのだ。
連合軍はあの1隻のために、既に80隻もの艦船を失ってしまった。一刻も早く仕留めねば、全滅と言う可能性さえ有り得る。
 コレムは〈シヴァ〉に残される主砲弾薬数を見て、難色を示した。

「司令、実弾の残弾数、残り80発を切っています」
「徹甲弾はどれくらい残っている?」
「ハッ。徹甲弾のみですと、43発になります」

戦闘艦に積載されている実弾は、それ程多いものではない。何せ主力はエネルギー兵器たるショックカノンだ。弾薬倉庫のために、艦内を圧迫するのは望むことではない。

「一斉射分くらいか……構わん、1番から6番、9番から10番主砲、1番から2番副砲はコスモ徹甲弾を装填!」
「了解!」

出し惜しみをする余裕すらないマルセフは、直ちに主砲に徹甲弾を装填させる。相手は今、後ろを見せている状態だ。エンジン部分を晒しているも同じなのだ。
 この〈ノア〉に弱点があるとすれば、それはエンジン部分に他ならない。或いは、各兵装を隠した数多くの射出口であろう。
だが艦全体を覆う強力なシールドが、被弾を許そうとはしない。ビーム兵器は逸らされてしまう他、ミサイル兵器でさえ、その追尾装置を狂わされてあらぬ方向へ飛んでいく。
とすれば、残る打撃方法はコスモ徹甲弾による砲撃しかない。これならば狂わされる心配もない筈である。問題があるとすれば、〈ノア〉の装甲だ。
通常の戦艦より遥かに強固なものであると見て間違いないだろうというのが、技術長ハッケネンの見解である。

「敵艦、回頭を始めました!」

 オペレーターが叫ぶ。〈ノア〉は背後を撃たれまいとしているのだろうが、その巨体故に回頭速度は遅い。チャンスを逃すわけにはいかない!

「全砲門、砲撃準備完了!」
「目標、敵超大型艦の機関部! 撃てェ!!」

マルセフの号令で、主砲と副砲、そして対艦ミサイルが雨あられと〈ノア〉に向かう。狙うは後部の巨大な推進機関だ。着弾まで時間は掛からない。
〈ノア〉の回頭も間に合わない。命中すれば馬鹿にならない被害を与えられる、と彼らは信じていた。いたのだが、それは信じ難い事態によって打ち砕かれたのだ。

「っ! そんな!!」

ジェリクソンが唖然とした。実弾には影響のない筈の電磁幕シールドなのだが、何故か徹甲弾は軌道を無理やりに逸らされてしまったのだ。
有り得ない、何故こんな事が出来る……。一斉射した弾丸が全て逸らされてしまい、マルセフも焦りを生んだ。
 一方で〈シヴァ〉の攻撃を難なくかわした〈ノア〉では、ディゲルが高笑いをして無敵の要塞戦艦を盛大に自慢した。

「莫迦め、この〈ノア〉は電磁シールドだけではない、重力場シールドも搭載されているのだ。実弾が幾ら来ようとも、〈ノア〉に効かぬわ!」

そうだ。SUS軍艦艇で初めて搭載された防御兵器――重力場シールドの存在があった。これは艦周囲の重力場を調整して、ビームだけではなく実弾の軌道をも、強制的に変えてしまおうというものである。
光化学兵器と実弾兵器の両方を防ぐことが出来る〈ノア〉こそが、最高の戦闘艦である。ディゲルはそう自負していた。

「艦左舷を奴に向けろ。副砲と主砲、ミサイルで一気にケリをつけてやるのだ」
「ちょ、長官。申し上げにくいのですが……」
「何だ」

高まる気分に水を差されてしまい、口を挟む兵士に鋭い視線を投げつけた。身体を震わせる兵士は、恐る恐ると状況を報告した。

「先い程までの連続斉射により、ミサイル弾薬庫は底を尽きかけております」
「……あとどれくらい残されているか?」
「は、はい。193発が残されております」

それで十分だ。それだけの集中攻撃を受ければ、奴とてひとたまりもない! 全てを装填させ、発射させようとした矢先であった。
 今度は右舷側――連合軍より1隻の戦艦が前進してきた。何しに出てきたのだ、自殺志望者か、と呆れるディゲルだが、その艦の正体を知った時、表情を変えた。

「〈ヤマト〉か!」

そうだ、第7艦隊を破り去った張本人たる〈ヤマト〉だ。いいだろう、貴様も同時に葬り去ってくれる! 如何に最強を自負しようとも、この〈ノア〉の前には赤子同然であることを、その身を持って知るが良い!
もはや彼は〈ノア〉に陶酔しきっていた。1隻で艦隊規模を相手取る事も出来る、この〈ノア〉の力をもってすれば撃破も容易である。
ミサイルの装填が完了しようとした時、〈ヤマト〉から6発のミサイルが放たれた。それは艦首魚雷発射管から放たれてものだが、ディゲルの反応は無しに近い。
 たかだか6発程度で何ができる? そう侮っていたのだ。だがこの安易な考えが〈ノア〉に隙を与える事となった。ただのミサイルではなかったのだ。
ミサイルが全てシールドに突き刺さった瞬間だ。それらは軌道を外される前に、予め想定されたかの如く自爆した。が、心を大きく揺らす出来事が発生した。

「大変です! 電磁シールド、ならびに重力場シールドが出力ダウンしました!」
「何だと!? そんな馬鹿な事があるか!」
「どうやら先のミサイルは、強力な波動エネルギーが封入されていた模様!」

これは試作型ミサイルとして開発された、波動エネルギー入りの弾道ミサイルである。ミサイルの弾頭がシールド内に潜り込んだ瞬間に起爆するようになっている。
波動エネルギーを開放し、シールドの類いを相殺するか不安定にするくらいの威力はあり、かのSUS第7艦隊の要塞シールドを消滅の一歩手前まで持って行った代物だ。
〈ノア〉のシールドも、ものの見事に出力を低下させられた。が、完全崩壊には至らない。直ぐにシールドは復元されてしまった。

「シールドを食い破ろうと言うのか。小賢しい地球人め、捻り潰してくれる! 全ミサイル、発射!!」

ディゲルの号令と共に、〈ノア〉のミサイル発射口から多量の対艦ミサイルが放たれた。





「シールド健在!」
「足りないか……」

 〈ヤマト〉艦橋に虚しい結果が入る。このミサイルも、バリアミサイル同様に積載数は少ない。この〈ヤマト〉においても、積載しているのは28発あまりで、残るは22発。
地球艦隊全体にも行き渡ってはおらず、〈ヤマト〉以外に積載された艦はない。どの艦艇も、復旧を最善にされていたためだ。
〈シヴァ〉にも搭載される予定ではあったが、通常兵器の方が生産率が高い上にSUSが迫る時期という事もあって断念せざるを得なかったのである。
つまり、〈ノア〉の強固なシールドを破る鍵は、〈ヤマト〉が持っていると言い手も過言ではないのだ。
 対して今度は、相手側からのミサイルが一斉に発射された。が、その備えを忘れている古代ではない。

「三式弾、撃てッ!」

こちらも残弾数が残り僅かと来ている。第1主砲と第2主砲、並びに第1副砲から放たれた。90発余りのミサイル群に向けて、突っ込んで行く三式弾。
お互いが擦れ違おうとした直前、それは発光した。強力な光が辺りを呑みこみ、SUSのミサイル群を消滅させる。
反対側でも同じ光景が流れており、〈ヤマト〉の倍の数の発光が辺り一面を覆いつくす。蒸発していくミサイルだが、全弾撃墜とまではいかない。

「敵ミサイル32発、接近!」
「コスモスパロー発射! 取り舵反転90度、残りは機銃で撃ち落とす!」

近距離用迎撃ミサイルが、〈ヤマト〉の煙突の両舷に備えられている発射機から撃ち出された。小さな光球を作り上げ、数を減らしていく。
その間に〈ヤマト〉は取り舵で艦を反転させて、迫るミサイル群を機銃群の射角内にいれる。その後、ハリネズミの様な機銃群が、濃密な弾幕でミサイルを叩き落していく。
 〈シヴァ〉も残った僅かなミサイルを、コスモスパローで撃墜あるいは、主砲と副砲で狙撃して見せた。

「総司令、〈ヤマト〉のミサイルならば、勝機を掴めるはずです」
「そのようだな。だが、今度は相手も黙ってはいまい」

その通りだった。ディゲルはこのミサイルを懸念して、次に撃って来たときにはビーム群による弾幕で撃ち落とす腹でいたのだ。当てるためには、死角に入らねばなるまい。
〈ノア〉の死角は、形状からして後方が一番のポイントでしかない。前方からでは、副砲の射程外ではあるものの、主砲の射角に入ってしまうのだ。
別の案として、〈シヴァ〉の亜空間航行能力を用いて〈ノア〉に接近する方法がある。シールド内部には潜り込めずとも、超至近距離に飛び込む事は可能だ。
 だが、ディゲル側もそれを黙って見ているつもりは毛頭なかった。マルセフがそれらを実行しようとする前に、砲撃命令を下す。

「全砲塔、連続射撃! あの2艦を叩き潰せ!!」

〈ノア〉左舷側に〈シヴァ〉、右舷側に〈ヤマト〉、という位置におり、両舷を晒している状態だ。それはつまり、副砲群の射界にも入っていることを意味した。
実弾こそ弾薬欠乏状態になったが、ビーム系統は依然健在。滝の如き副砲群と主砲群の攻撃が、両艦に襲い掛かる。マルセフも古代も、瞬時に対応した。

「バリアミサイル、発射!」

防御兵器として遺憾なく威力を見せ付けるバリアミサイルは、見事に攻撃を防いでみせた。だが〈ノア〉は攻撃を続け、バリアの死角を突いてくる。
赤い豪雨が降り注いだ。〈ヤマト〉も〈シヴァ〉も、全身を赤い雨に打たれていく。最初こそ電磁幕で防いでいるが、耐久限界値を超えたその瞬間には装甲へ着弾を許した。
 堅牢な動く要塞とも言える〈シヴァ〉の艦体に、幾多の爆炎が上がった。

「第2デッキに被弾! 第1飛行甲板にも被弾しました!」
「第3主砲被弾、第6主砲も被弾、使用不能!」
『こちら潜宙ブリッジ、敵弾がめいちゅ――うあああああぁぁああぁっ!!!!』
「潜宙ブリッジに被弾! 亜空間航行、不能!」

艦底部と一体化したように設けられている潜宙管制室に命中し、内部で報告するクルーは叫び声をあげた直後に艦内通信が途絶する。
艦体が大きく振動する中、被害報告は止まる事を知らない。被弾した影響で土台から浮き上がる主砲群。装甲も直撃に耐えられなくなり、次第に剥離されていく。
この〈ノア〉の連続によって、〈シヴァ〉は短時間に30発以上の直撃弾を受けた。だが、レベンツァ会戦と比べればまだ大丈夫だ。




「右回頭45度、最大戦速!」

 回避行動にも限界があり、マルセフは艦を反転させて射程外へと離脱を始めた。だが、このまま回避し続けていても埒が明かない。〈シヴァ〉も長くは持たないだろう。
波動ミサイルも容易に撃たせてくれはすまい。それにあの火力だ、波動ミサイルを発射しても撃墜される可能性の方が遥かに高い。
しかし何とかして、〈ノア〉のシールドを破砕しなければならない……が、上手い戦術もない。波動砲でさえ防いだ相手に、再度波動砲を撃つのは疑問だ。
 だが、可能性がある。この〈シヴァ〉でしか出来ない隠された切り札を使うしかない。

「ハッケネン技師長、我が艦の収束波動砲であれを仕留められるか?」
「それは不可能ですが……“アレ”ならまだ可能性は……」
「まさか、トランジッション波動砲を!?」

艦橋内部で動揺が広がった。トランジッション波動砲とは、6連装波動エンジンの炉心を纏めて使用して発射するものだ。威力は簡単に計算すると6倍の威力になる。
しかも収束型となればなおさらのこと、目標を容易に撃破せしめる。だが実際に使用したことが無い。あるのは〈ヤマト〉だけで、使用した際の代償は大きいものだ。
 下手をすれば二度と波動砲を発射することは出来ない。そしてそのトランジッション波動砲は、〈シヴァ〉にも搭載されている。
さらに本艦の場合は、炉心が全部で18個もある。全てを纏めて発射すれば、〈ノア〉とて蒸発してしまうに違いない。が、それはあくまで理論上の話。
もし18個もの炉心を纏めて使用した場合、通常の16倍の圧力を受ける艦内の発射機構は暴発してしまうだろう。それだけではなく、その場で艦自体が大爆発して消滅する。
 予想は簡単だが規模は想像できない。このあたり一帯が消し飛ぶだろう。コレムもそれくらいの事は考えられる。艦長はそれをやるつもりなのかと心配した。

「成る程、計算してみましょう。艦長、〈ヤマト〉へ連絡をお願いいたします。トランジッション運用データを大至急こちらに、と」
「解った。古代司令には私から話をしよう」
「頼む。なるべく急いでくれ」

その間に〈シヴァ〉は〈ノア〉との距離を取りつつ、後背に出るように舵を切る。反対側の〈ヤマト〉も呼応するように、〈ノア〉前方へと回り込もうとしている。
前方と後方から挟み撃ちにしようとする構図になるが、ディゲルは鬱陶しいと言わんばかりの目を向けた。同時に、ここで危惧している事もある。
 彼はかの人口ブラックホールが何によって潰されたのかを聞いていた。〈ヤマト〉の波動砲だ。しかも要塞を破壊した波動砲とは破格の威力を誇るクラスの、である。
ブラックホールの超重力の干渉を受ける事なく、心臓部たる転移装置を破壊せしめたその威力は、実に〈ノア〉の防御能力を上回るものだと計算されてもいた。
だが今の〈ヤマト〉は推測で3回分に匹敵する波動砲を撃っていることが分かった。既存データと照合した結果、〈ヤマト〉に残されたのは半分の3発分。
これは〈ノア〉の電磁幕、重力場シールドの対応能力限界値ギリギリのエネルギー量であった。しかし尤も警戒すべきは、後方の〈シヴァ〉だ。
あれだけの巨体、しかも地球の新鋭艦とされる戦艦。〈ヤマト〉並みの能力を持っていてもおかしくは無い。

「小賢しい……奴らに後方を取られるな。左舷回頭、常に舷側を向けろ!」
「ハッ!」
「右舷主砲、及び副砲群は〈ヤマト〉を集中! 残る兵装は全て〈シヴァ〉に向けるのだ。集中射撃で木っ端微塵にしてやれ!!」

 前方と後方に回り込もうとする2艦に対して、ディゲルは〈ノア〉の両舷を晒すように厳命した。巨体を重々しくも動かす〈ノア〉に、マルセフら焦りを募らせた。
先の攻撃であれなのだ。連続して食らっていたら撃沈されるのも、時間の問題である。あのハリネズミの様な武装の数、これを減らさなければならない。
反対側にいる〈ヤマト〉も損害が徐々に蓄積していった。いかに強固な装甲とシールドを纏う〈ヤマト〉でさえも、耐えきることは出来なかったのだ。
ビームの被弾で第2主砲が使用不能に陥り、艦首魚雷発射管や舷側八連装ミサイル発射管など、各種武装にも被害を与えていた。
 煙を噴き上げる〈シヴァ〉と〈ヤマト〉。そこに〈ノア〉による第2撃目が襲いかかった。

「敵弾、来ます!」
「上げ舵30、取り舵40! 敵艦副砲の射角外に入るのだ!」

〈ノア〉の副砲群は射角調整がそれ程広くは無いのが欠点でもある。そこでマルセフは、〈ノア〉の左舷斜め上方に艦を動かした。主砲の射角には入るが、副砲群の射角ではない。
反対側の〈ヤマト〉も、右舷斜め上方へ艦を動かす。巧妙な操艦で副砲群の死角に入る2艦に対し、ディゲルは嘲笑した。

「それで逃げたつもりか。主砲、奴らを磨り潰せ!」

広い射角を有する主砲群は〈シヴァ〉らに狙いを定め、再び砲撃を開始した。それに対抗してマルセフと古代も砲撃するも、やはり効果は無い。
実弾を使用しても重力場で逸らされてしまうのがオチだった。雨あられと降り注ぐビームに撃たれゆく〈シヴァ〉と〈ヤマト〉は、次第に黒煙に包まれ始めていく。
 航海長ジェリクソンは操縦桿を握りしめ、巨体を操り致命打を外していく。巨大な戦闘艦らしくない、まるで航空機の様な回避運動に、連合軍将兵も見とれてしまうほどだ。
だが彼の技量も限界がある。額に汗が滲みだし、それは操縦桿を握る手も同様だ。反撃するよりも回避行動で手一杯な今の状況、どう打開すべきか……。

「……艦長、計算結果が出ました! 第1エンジンだけの波動砲ならば、あの巨大艦のシールドも破れます!」

緊張の高まる艦内に、技術長のハッケネンが計算結果が舞い込む。だがリスクも勿論あった。〈ヤマト〉程ではないが、艦体内部の損傷は決して軽くは無いというのだ。
波動砲の第2撃目は難しいだろうが、通常砲撃なれば戦闘続行も可能である。

「よし、それに賭けてみようじゃないか。機関長、大至急、第1波動エンジンのエネルギーを120%まで上げろ」
「了解。第1波動エンジンの出力を120%まで上昇させます」
「総司令、本艦の波動砲で確実に仕留めるにしても、奴の注意をそらすことが必要です」

 ラーダーはさらに言う。〈ヤマト〉に搭載されている貴重な波動弾道ミサイルは、〈シヴァ〉が波動砲を発射する時に使用することが一番望ましいのではないか。
〈ノア〉とて、波動砲を防ぐためには全エネルギーを防御に回す必要がある。つまり、その瞬間は〈ノア〉も迎撃行動に出る事が出来ないと言う事になる。
そして後方にて再編を行う連合軍に対しては、超巨大艦の注意を逸らしてもらうように、援護攻撃を要請すると言うものだった。

「友軍には辛いでしょうが、本艦と〈ヤマト〉が同時攻撃する短い間だけ、あの化け物(巨大戦闘艦)を足止めしてもらいましょう」
「……負担を掛けるが……。通信長、東郷司令に援護要請! 本艦の波動砲発射までの1分間だけ、あの艦の目線を変えさせるのだ」
「ハッ!」

この一撃に賭ける、と強い思いを胸にするマルセフは、味方の犠牲に後ろ髪をひかれるような思いだった。勿論、提案したラーダーも重い選択をしたものだ。
パーヴィス機関長は第1波動エンジンのチャージを急がせる傍ら、テラー通信長は連合軍の東郷へ要請を発した。援護要請を受けた当の東郷も、即決で容認する。
 〈ヤマト〉の古代も、時間が惜しい今に迷う事はなかった。命令で残る発射管に装填されていく波動エネルギーを封入したミサイル。
これらを〈ノア〉に命中させ、シールドを消滅させるのだ。いや、消滅までいかないまでも、その出力を下げるだけでも大きく違う筈である。
後に要塞が控えているとはいえ、この化け物に止めを刺さない限り先は無い。〈ノア〉の砲撃をかわしていく事で、最小限の被害に留めんとする〈ヤマト〉と〈シヴァ〉。
そして連合軍側も、波動砲発射までの短いようで長い時間内に限られた援護行動を開始しようとしていた。

「全艦艇は持ちうる兵装で〈シヴァ〉を援護するぞ!」
「……東郷艦長、対艦ミサイルの発射準備、完了しました!」

 戦艦〈三笠〉に座乗する東郷は、遠距離攻撃の可能なミサイル兵器を中心にした援護を命じた。地球艦隊、フリーデ艦隊は次々とその発射管のハッチを開かせていく。
さらに援護攻撃に効果を出せるよう、ミサイルに工夫を凝らす。〈ノア〉は強力な重力場シールドを有しているが故、実弾兵器をも逸らすことが可能だ。
そこでミサイルの弾頭が装甲にめり込んだ時点で爆破する設定を改変し、着弾直前のおよそ100mで自爆するように設定をしなおした。
 効果のほどがあるかは別として、これでシールド部分へ少しでも負担を掛けられればいい。東郷はそう判断したのだ。

「奴の気を逸らせ! 全艦、ミサイル一斉発射!」
「射ッ!」

副長の目方は、東郷の命令に反応して発射命令を下す。同時に他艦からも一斉にミサイルが放たれる。数百と言う矢が、〈ノア〉に向かって飛んでいく。
ディゲルもそれを確認し、迎撃を命じた。格納された無数の機銃群が迫り出し、副砲群も迎撃のために砲撃を始める。
濃密な弾幕の前に、連合軍のミサイル群はたちまちに数を減らしていった。無論、その間の〈シヴァ〉と〈ヤマト〉への牽制も忘れない。

「幾ら打ち込もうと無駄な事だ」

 無駄な悪あがきだと馬鹿にするディゲルだが、無敵を誇る〈ノア〉の優位も、それまでのことであった。それは〈シヴァ〉のエネルギーゲイン上昇率から始まる。

「長官、僅かながら〈シヴァ〉の艦体から、エネルギー放射率の上昇が確認されます!」
「あのタキオン兵器か。幾ら撃っても無駄な事だ。本艦を〈シヴァ〉と〈ヤマト〉の中間にキープしつつ、艦首を〈シヴァ〉に向けさせろ」

そう、〈シヴァ〉の射軸には〈ヤマト〉が被さっているのだ。ディゲルは自分の事を棚に上げてまで嘲弄すると、念のためとシールドを最大限に展開させた。
もしもここから回避しようものなら、それこそ〈シヴァ〉の思うつぼだと感じたのだろう。だがそうはさせん。〈ヤマト〉と〈シヴァ〉の中間地点をキープすればよい。
味方を犠牲にしてまで勝てるものかと思っていたのだ。しかし、それは斜め上方向へと大きく予想を外すことになった。
 瞬間、〈シヴァ〉から一際輝かしい発光が〈ノア〉のブリッジでも確認できた。波動砲が発射されたのだ。

「タキオン兵器、発射確認! ……っ!?」
「どうした、報告しろ」

唖然とする兵士に苛立ちながら問う。

「タキオンエネルギー、本艦へ直進しません!!」
「な……に!」

これは、いったいどういう事かと思考した瞬間、後方の〈ヤマト〉も同時に動き出した。





「波動弾道ミサイル、全弾発射!」
「発射!」

 古代の命令に従い、上条はミサイル発射管の発射命令を命じた。艦首、艦尾、舷側、煙突、艦底の各発射管から次々と空間へ撃ち出されていく。
弧を描きながら突き進んでいくミサイル群。そして反対側の〈シヴァ〉からは波動砲。しかも、ディゲルの予想したとは波動砲とは大分異なっている。
艦首方向へ直進しなければ、拡散もしないのだ。波動砲は艦首射出口の左右下方から突き出している、3つのラムの様な物の内、左右の2つ部分から発射されていた。
そこは艦名が表記されている部分だ。その部分の装甲板がスライドし、横長の射出口が3つづつ計6つ出現するようになっている。
 このまま発射すれば、確かに波動砲は真正面ではなく、左右方向へと直進してしまう。だが、この波動砲は普通の波動砲とは全く異なる兵器であることを、ディゲルは知らない。

「2つのタキオンエネルギー、歪曲しました!!」
「なん……だとっ! エネルギーが、方向を変えたと言うのか!!」

オペレーターの報告にディゲルが唖然とするのも無理もなかった。この波動砲こそが、地球連邦――地球防衛軍が苦心の末に実用化に扱ぎつけた新兵器。
『ホーミング波動砲』……タキオンエネルギーの制御を可能としたばかりではなく、タキオン指向性フィールドの配備により、その発射方向までをも制御してしまったのだ。
しかし、実用化に扱ぎつけたのは良いのだが、実戦配備に出来るだけの数は無い。タキオンエネルギーを自在に操ると言うのは簡単な事ではないからだ。
拡散波動砲のように、一定の距離で一気に拡散させると言うのならいいが、自在に方向を操るのでは話が違う。真田も、大山も開発を頓挫させられそうになったほどである。
 だが欠点は存在する。方向を変えられるとは言っても、急激な角度をつける事はできないこと。寄り道させる分、射程も余計に長くなるということ。
さらにこの指向性フィールド装置自体が戦艦はおろか艦隊旗艦にすら搭載を躊躇するほど高コストなのだ。だからこそ、新型艦たる〈ブルーノア〉級戦闘艦にのみ搭載される事となったのだ。
そして反対側から迫るミサイル。ディゲルは焦りを表情に滲ませる。

「後方より、〈ヤマト〉のミサイル接近!」
「迎撃っ!」
「駄目です、それではシールドが弱まります!」
「……っ!?」

 ディゲルは喉にものを詰まらせたかのような感覚に陥った。そうだ、迎撃のためにエネルギーを割くことは、シールドの出力を下げる行為も同然なのだ。
タキオン決戦兵器と、あの異様に破壊力のあるミサイル連携攻撃! してやられた……。転移も間に合わない、回避など考える方が馬鹿らしい。
優位に立てていた筈だった。それが、いつ逆転するようになったのだ。気づかぬ内に、自分が地球人の底知れぬ策略に墜ちてしまったとは……。
 やがて波動弾道ミサイルが、先に着弾した。シールドに突入したと同時に爆発するミサイルは、強力な波動エネルギーを放射した。
それにシールドが影響し、強度な守りが一気に揺らぎ弱体化する。

「タキオン兵器、来まーすッ!」
「!!」

指令室の光調整をも無意味にするほど、波動砲の強力な発光量。ホーミング波動砲は〈ノア〉の左右両舷に直撃、シールドを貫通せしめることに成功した。
装甲の斜角なども無意味に等しかった。〈シヴァ〉のホーミング波動砲は、全部で6門の数を誇る。それを一纏めにしたものが、〈ノア〉の両舷から大きく抉った。
 いや、抉ったなどと言う表現は生易しい。貫通したと言うべきだろう。中央部の両舷より撃ち込まれ、2つの大穴を開けてしまったのだ。
それも直径が100m前後もの風穴だ。ディゲルは地球の技術力の高さをマザマザと見せつけられてしまった。ブラックホールを潰した実力は、伊達ではなかったのだ!

「第3ブロック、第4ブロック全壊! 多ブロックも次々と沈黙!!」
『こちら機関室! 出力20%以下に低下、転移およびワープ不能!』
「戦闘能力も2割以下に低下――ッ!」
「……私も、これまでか」

艦橋内部も火花を上げ、オペレーター達はそれに巻き込まれている。艦内部は表現のしようのない惨状だ。艦橋ブロックと艦尾の第5ブロック以外は完全に連絡を絶った。
黒煙で巨体を包む〈ノア〉を目の当たりにし、ディゲルは酷く落胆したかのような表情を作る。結局、自分らは此処までしか出来なかったという事か。
それでも、彼は最期の最期まで戦闘意欲を切り捨てることは無かった。

「出せるだけの速度で構わん、〈シヴァ〉に向かって最大戦速!」

 この様子に一方のマルセフ一同の方が、ディゲルよりも唖然とさせられた。驚くべきは〈ノア〉の耐久力。全長2qの巨体であるが、波動砲も貫通重視で撃たれたのだ。
それであっても、〈ノア〉は誘爆すらせず、その原型を保ち続けている。さらには動力部の熱反応もまだ残されているという、驚きのタフさだ。
タフすぎて逆に不気味さえ感じるものなのだが、この期に及んでまだ戦闘意欲を失っていないという事だろう。
連合艦隊の指揮官一同、兵士一同も驚愕せざるを得ない。

「なんという化け物だ……」

 ラーダーは思わず言葉を漏らした。さらに自分らへと突入を開始する様子が、オペレーターから伝えられる。

「総司令、敵旗艦は前進を開始しました。突っ込んできます!」
「恐ろしい執念だが……。副長、本艦は砲撃可能か?」
「ハッ。波動砲の影響により、発射機構が破損。トランジッション波動砲こそ撃てませんが、通常の波動砲ならば1発は耐えられるかと。その他砲門は使用可能です」

さすがは〈シヴァ〉だ。〈ヤマト〉でさえ、トランジッション波動砲の影響は凄まじいものなのだ。それでもなお、この艦は戦闘を継続可能だと言うのである。

「よろしい。これより、敵旗艦に止めを刺すぞ。残る全兵装は、攻撃準備に掛かれ!」
「了解。全砲塔、全発射管、開け! 目標、敵旗艦!」

逃げも隠れもしない。瀕死状態とは言え、〈ノア〉もその巨体で押しつぶそうと接近するが、思う様に速度が出ない。それは当然である。
〈シヴァ〉に残された武装は、主砲5基13門、副砲4基10門、対空対艦両用砲1基2門。ミサイル発射管などは半数程度だ。砲門数が不揃いなのは、被弾の影響だ。
反対側の〈ヤマト〉も追撃を掛け、砲撃準備を整える。残る連合艦隊も前進し、〈ノア〉の左舷方向から迫りつつあった。
 やがて砲撃準備が整うと、マルセフはスクリーンの〈ノア〉を睨めつけながら、号令を発する。

「砲撃、始めェ!」
「ファイア!」

主砲、副砲が一斉に火を噴く。発射管からも対艦ミサイルが飛び出していき、目標へと飛翔する。反対側の〈ヤマト〉、右舷側(マルセフ側から見て)の連合艦隊も攻撃を開始。
無数のエネルギー・ビームやミサイルは、瀕死状態の〈ノア〉へ降りかかる。巨体故に外す確率も低く、忽ち衝撃や爆炎が〈ノア〉の中にいる兵士達をも襲う。
ブリッジにいるディゲルは、今更死など恐れる必要などない、と言わんばかりの落ち着きぶりだ。先ほどの豹変ぶりはどこかへ飛んで行ってしまった。

「残る砲門を〈シヴァ〉に向けろ。エネルギーもそちら優先だ」

 艦の前進は慣性で止まることは無い。後はひたすら撃ち込み続けてやるだけだ。だが撃沈間近の状態により、兵士達は次々と恐慌状態に陥っていた。

「長官、もう駄目です。降伏をぉおっ!?」

発狂寸前の兵が立ち上がって抗議を唱えるものの、秒差で彼の顔面に風穴が1つ空いた。眉間から後頭部に空洞ができ、SUS人特有の血液らしきものが噴き出た。
後頭部から血しぶきが上がり、背後のコンソールを汚していき、兵士自身も仰向けでその上に倒れ付した。これが引き金となり、他の兵士は理性を彼方へとかなぐり捨てる。

「いぃ、嫌だ、俺は無駄死にしたくな……ぁごぁっ!!」
「逃げる! ここにいたらぇげ、はぁっ!!」
「どいつもこいつも、腰抜けどもが。貴様もか……貴様も敵前逃亡か!!」

さらに狂っていた。手にしたレーザー銃が艦橋内部を飛び交い、背を向ける兵士を撃ち殺していく。中には動けないでいる兵士も含まれ、喉を撃ち抜かれて息絶える。
席を立ち、思うがままに銃を振るう様はまさに悪魔と言えようか。それも、かの管理局のエースと違う、本当に命を無差別に奪い去るその姿。
さらには果敢にも反意を承知で、ディゲルに銃を向ける兵士もいた。が、それも秒殺に終わった。命令に背くものは誰であろうと射殺してやる。
 連合軍の砲火を受けている最中とは思えない、茶番とも言うにはあまりにも酷な様子だった。やがては残り3名の兵士が残ったが、彼らもまた、ディゲルの狂気に当てられて逃げる事さえかなわなかったのだ。
その逃げ遅れた不幸者に、彼は目を向ける。銃身を突き付けて、脅迫する。

「貴様ら、さっさと命令を実行しろ」

反抗する勇気も無かった。生命維持装置さえ停止寸前であるこの状況で、〈ノア〉は不幸な兵士と狂気の上官によって最期の役目を終えようとしている。
SUSにとっては、新たなる次元世界の開拓者として、その大いなる役目を担うものとして期待された箱舟――〈ノア〉。甚だ不本意な最期であろう。
 10%にまで落ち込んだ出力で、撃てる主砲を使って〈シヴァ〉を狙い、単発ではあるがビームを撃ってくる。が、命中はしなかった。
射撃システムもダウンした今の状況では無謀なものだ。倍以上の集中砲火が〈ノア〉に叩き込まれるが、尋常ならざる事態にマルセフも悪寒を感じた。

「艦長、このままでは衝突します!」
「巨体故に砲撃で完全破壊するのは難しいか……」

ラーダーは渋い表情だ。このままでは埒が明かない、波動砲を要請するか……と思ったのも束の間だった。連合艦隊側――次元航行部隊の司令官代理から通信が入った。
レグシア提督(少将)からのもので、アルカンシェルによる一斉射撃ならば、この化け物を仕留められる筈だと提案してきたのだ。

「よろしい。レグシア提督、直ぐに発射してもらいたい」
『了解!』

次元航行部隊各艦の艦首が、一斉に光だす。アルカンシェル発射時の特徴だ。この攻撃に〈ノア〉は成す術もない。回避も迎撃も出来ないのだ。
 やがて1分もしない内にアルカンシェルは最大級の光球を放って、全艦による一斉掃射が行われた。

「アルカンシェル砲、斉射ぁ!!」

臨時総旗艦〈スキャフォルド〉艦橋で、レグシアの命令が通信で駆け巡り、同時にアルカンシェルは〈ノア〉へ向かい直進していく。
迫りくる数十本もの光の矢は、〈ノア〉に着弾、瞬時に巨大な光球へと変化した。

「――!」

ディゲルは声にならない悲鳴を上げて消滅した。直径で数百qという巨大な光球が、〈ノア〉を取りこぼす筈がない。着弾からわずか数秒後だった。
 〈ノア〉がいた空間には何もなかった。流石はアルカンシェルだろうか、消滅せしめるその威力は凄まじく、跡形もなかった。

「……敵旗艦、消滅を確認!」
「当たれば威力は凄まじいことこの上ない」

コレムは改めて、アルカンシェルも恐るべき兵器には違いない、と何度目かわからない改めをする。

「よし……全艦集結! 陣形を整えて、今度は敵要塞に……」
「っ! 総司令、大変です!」

艦隊を結集させてからの総攻撃を図ろうとしたマルセフに、オペレーターが急ぎの変化を報告する。その変化とは何か、マルセフは詳しい報告を求めた。
それは彼らにとって予想を裏切るようなものだった。

「敵要塞周辺に空間の歪みを認める! これは……転移する模様!!」
「なんだと!!」

SUS総司令ベルガー大将の執った行動とは何か。それを知るにはまた、時間をかける必要があった。




〜〜あとがき〜〜
どうも、第3惑星人です。
前科から結構時間が空いてしまいました……。
今回の展開をどう纏めようかと思い、なかなか書き進められませんでした(汗)
読者様の意見を取り入れようとしたり、自分の展開を混ぜ込もうとしたり……結局3分の1を書き換えるに至りました。
そしてまだまだ、戦闘は終わりそうにない模様。
どう終息させたものか、考え物です。

さて、話は変わってヤマト2199の第3章公開が黙然となりました。
勿論私は観に行くつもりです。色々と新キャラや展開が盛り込まれているようで、かなり楽しみにしています。
それにしても新少女キャラたるヒルデ・シュルツの人気ぶりにびっくりw
相次いで、父シュルツに『お義父さんと呼ばせてください!』等とコメントする人も多いのだとかw

では、ここまでにしまして、失礼させていただきます!



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