外伝『魔の海峡、アルデバラン星域会戦(中編)』


  地球・アマール・エトス連合軍と、ボラー連邦軍による初の大艦隊戦の火蓋は、地球艦隊の拡散波動砲発射一斉射という先手によって切って落とされた。
炎の川を無理やりに突破して来るボラー連邦軍の先頭集団に向けて放たれた拡散波動砲。太い5本の光道は、やがて無数の小型弾道へと分裂し見事な花火を形成する。
そして、拡散波動砲は見事にボラー連邦軍先頭集団へ直撃した。ボラー連邦軍の半数近くは、分散した拡散波動砲に貫かれる運命にあり、直撃を免れた艦でさえもエネルギー流に巻き込まれて軌道を狂わされ、味方艦と衝突するような有様だった。

「拡散波動砲、敵先頭集団へ命中しました!!」
「ボラー艦隊の4割を撃破した模様! ですが、なおも突入を続けてきます!!」
「・・・・・・波動砲第2射用意! 残る艦艇は砲撃を開始せよ!」

  連合軍艦隊総旗艦 兼 地球艦隊旗艦〈クニャージ・スヴォーロフ〉の艦橋で、オペレーターが命中した事と損害を与えた事を確認すると、ジェーコフはすかさず連射の態勢を命じつつ他艦艇に援護砲撃を命じて時間稼ぎに打って出た。
ボラー連邦軍の4割を削っことで、ある程度の士気向上にも繋がったようだ。他国の将兵達にしても波動砲の破壊力に目を奪われて呆然とした者も多い。
  だがジェーコフの不安は増した。ボラー連邦軍は損害を無視する程に愚かなのか? これでは単なる七面鳥撃ち(ターキー・シューター)ではないだろうか。
おかしい、幾らなんでもおかしすぎる!

「全艦、周囲に目を光らせろ」

そう思うと、彼は全艦艇に周囲へ注意を計るように命じようとした。レーダーには目の前に姿を見せているとはいえ、これが本当の敵かと思えない。
  そしてこの直後、驚くべき事が発生した。

「9時方向、機雷群が一部爆発!」

突然、仕掛けておいた機雷原の1つに爆発が生じたのだ。その機雷原は、彼ら連合軍から見て左舷側の暗礁宙域である。
  オペレーターは恐ろしいものを見たような表情で、報告をしようとした途端・・・・・・薄緑色の光線が、数百という束になって襲い掛かって来たのだ!
奇襲攻撃に対して連合軍の面々は有り得ぬ方向からの砲撃に目を丸くした。

「たっ、大変です! 9時方向より、ボラー艦隊が出現しました!!」
「何だと!? では、目の前のあれは一体・・・・・・!」

コルチャークにしても驚愕の色彩に染め上げられた1人であり、突然の攻撃に狼狽えていた。謀られたのだ! 途端にジェーコフの頭の中には、この言葉が浮かんだ。
レーダーの前方に映されている艦隊――あれは囮艦隊(デコイ・フリート)だ。それも単なる囮艦隊ではなく、簡単に見破れない精巧な作りをしてあったのだ。
そして、ある程度の航行システムと機関部を設置して自動的に艦隊間隔や軌道の修正も出来るのだろう。
  ボラー連邦軍は、こちらの動きを正確に予想していたのだ。地球艦隊は必ずや、二連星が構成する炎の河の反対側にて待機している筈であり、自軍が炎の河を強引に通り抜けようとすれば必ず先手――しかも凶悪な波動砲による一斉射を打たれると予測した。
そこで裏をかこうと綿密に計画を立てて来たのだ。ダミーの囮艦艇ばかりを面倒ながらも準備させ、簡単なプログラムを用いて突入させる機能を与える。
代わりに自分らは予定より早く動き、待ち構えているであろう宙域へ出るように予め航路をセッティングしてきたのだ。

「全艦、左舷へ回頭、順次反撃せよ。戦艦隊は波動砲第2射を中断、直ちに戦列に戻れ!」

  ジェーコフは次々と命令を下し、連合軍を動かしていく。ボラー連邦軍の砲火に晒されるのは、位置からしてエトス艦隊であった。
彼は地球艦隊を左舷へ振り向けつつも、空母部隊は直ちに艦載機を射出し、ボラー連邦軍の艦載機に備えさせる。

「エトス艦隊が反撃を開始した模様!」
(流石はレミオス提督だ。エトス軍の名に恥じぬ、早い反応ぶりだ)

不意打ちを食らいつつもなお、エトス艦隊は左舷へ反転を行い反撃を開始していた。対するボラー連邦軍は、全軍の姿を見せている訳ではない。
まだ6割近くが、暗礁宙域に隠れている状況である。全てが出て来る前に、迎撃態勢を完璧に整えておかねばならないのだ。
  そして連合軍は配置的に不利であり、レミオスの素早い判断があったからこそ瓦解は防げたが、このままでは各個撃破されてしまうに違いない。
連合軍は、ボラー連邦軍が川を渡って来る事を考慮し、凹型陣を執っていたのだ。その左翼にいたエトス艦隊の左舷方向に、ボラー連邦軍の砲火が襲い掛かる。
  エトス艦隊旗艦〈ミュレイネ〉の艦橋では、ボラー連邦軍の奇襲によりオペレーター達の多くが恐怖感に捕らわれつつあった。
それと同時に、戦況スクリーンに被害報告が次々と入っており、それが混乱と恐怖に拍車を掛けつつあったのだ。

「戦艦〈ビレイオン〉通信途絶! 巡洋艦〈タグリー〉大破、戦線を離脱!!」
「慌てないで。全艦、左舷へ90度一斉回頭。右斜形陣に変換し、さらに右舷方向へ転進。ボラー艦隊の左舷へ回り込んで砲撃を集中するのよ!」

レミオスは素早い対応と恐怖状態に陥っていた友軍を叱咤激励する事で、戦線崩壊を見事に防いで見せた手腕は、白銀の戦姫の名に恥じないものであった。
エトス艦隊は連合軍の左翼側に位置しており、しかも半包囲するような体制をとる為、やや左斜めの左斜形陣(地球艦隊から見て)を形勢していたのである。
  そこにボラー連邦軍は、エトス艦隊の左舷やや後方――8時40分の方向に現れて、奇襲をかけてきた形となっている。
これに対してエトス艦隊は、無理な陣形変更をするよりも、まずはその場での反転する事に集中したのは、反転しつつの陣形を変更は容易ではないからだ。
その場での反転を優先した御かげで混乱は避けらたものの、ボラー連邦軍の先手によって戦闘不能に陥った艦艇は8隻にも昇ってしまった。
  しかし、それ如きで戦意を失うレミオスではなく、戦姫と称される彼女の叱咤激励で持ち直したエトス艦隊将兵達も、彼女と同様の気持ちにある。
エトス艦隊は艦首をボラー連邦軍の先頭集団へ向けると、大口径砲の主砲および速射砲塔ですかさず応戦を開始し、逆撃を加わえ始めたのだ。
その場で左舷方向へ反転した結果、ボラー連邦軍に対して右斜めの斜型陣をとる形となった。そして、そのまま右方向へ動き、ボラー連邦軍の左舷側へ回り込む。

「地球艦隊、転進。ボラー艦隊の正面から右舷方向へ出る模様!」
「流石は地球の軍人だわ。ゴルイ閣下と渡り合った実力、そしてSUSとの戦闘での実力は健在ね」

  地球艦隊はエトスの不利を補うためすぐに艦載機を発進させると、ボラー連邦軍先鋒艦隊の正面に位置する宙域へ前進し、その先頭集団へと砲撃を始める。
アマール艦隊も即座に反応した。アマール艦隊は初期位置では右翼にいたため、最も戦場宙域から離れていた。
ペテロウスはボラー連邦軍の出現に驚きはしたものの、迅速な指揮と対応からなる最速の行動を持って、地球軍艦隊の後背を時計周りに迂回し左舷へと回り込んだ。
これによって連合軍はやや不完全ながらも横列陣に陣形を変換し、改めて横列に展開しつつあるボラー連邦軍と対峙する事が出来たのであった、





  一方の側面攻撃を成功させたボラー連邦軍は、自分らの作戦が見事に図に当たったと言う事もあって将兵の間でも早々と士気が上がっていた。
後続の味方艦隊も順次に暗礁宙域を抜けて来る。さすれば、兵力で有利にある自分らに勝機は十分ある、と思っていた。
だが連合軍も叩かれっぱなしで済む筈も無く、強かにボラー連邦軍の横面を張り飛ばしてきたのだ。
  その出て来たボラー連邦軍の中に混じる1隻の戦艦――ボラー連邦軍 アルデバラン方面軍総旗艦 兼 第31打撃艦隊旗艦 バイオン級〈マドヴェーレ〉
ボラー連邦軍の中でも大きな戦艦であり、旗艦を指し示す特殊な赤い全塗装が特徴的だ。長方体型の艦体をしており、やや前部上甲板にコブの様なパーツ、艦底部にある円盤型ブロックパーツも特に目を引き、上部には潜水艦に付いているような艦橋が建っている。
長年に渡り採用が続いているバイオン級旗艦級戦艦であり、17年程前ではハーキンス中将という第8打撃艦隊司令が使っていた事でも知られているものだ。
  その艦橋には、連合軍の動きが鮮明に映され、オペレーターや参謀もやや狼狽え気味であった。

「エトス艦隊、右斜型陣を執りつつ、我が艦隊の左舷へ回り込みます」
「さらに地球艦隊が12時方向から前進、砲撃を開始!」
「司令、敵連合艦隊は、我が方を半包囲するつもりでは・・・・・・!」

やや狼狽えた様子のボラー連邦軍人が危惧する。地球で言う39歳の軍人――参謀長 アンレイド・エルベールト中将が不安を口にしていた。
そして、狼狽える彼を宥めるのは、地球換算で47歳の軍人――アルデバラン方面軍総司令官 兼 第31打撃艦隊司令官ウラジベル・ヴェールキン大将だ。

「狼狽えるな、まだ半包囲されたわけではない。アマール艦隊も位置につけていないのだ」
「は、はい。失礼しました」

そして、落ち着いた様子で、ヴェールキンは対応を打ち出していく。

「前衛の第34打撃艦隊は、そのまま右舷へ転進。後続の第32打撃艦隊は、第34打撃艦隊の左舷に並んで同じく右舷へ転進。我が第31艦隊並びに、後続の艦隊も同じ行動を取り、最終的に全艦隊は緩やかな凹型陣を形成する。そして、敵軍左翼部隊――アマール艦隊のさらに外側へ回り込み、敵連合軍を逆に包囲してやるのだ」

ボラー連邦軍の総兵力は5個艦隊約600隻。全てが暗礁宙域に突入する際に単縦陣を形成する。それが順に1個艦隊づつ暗礁宙域より出てきている状態だ。
  因みにヴェールキンの第31打撃艦隊は3番目に位置する。先頭の第34打撃艦隊がスライドするように右へ動くと、後続の艦隊は同じ動きを辿り始めた。
よってボラー連邦軍は、艦首を連合軍へ向けつつも横一列陣を形成しつつあった。彼の魂胆は、戦力の差を生かして頂戴な包囲網を作り上げ、数に劣る連合軍をさらに外から半包囲して、逆に炎の川へ追い落とそうと言うものである。
彼の手腕だけでなく、艦隊としての乱れぬ練度が要求される。そしてボラー連邦軍の各艦隊は、ヴェールキンの期待通りの動きを執りつつある。
綺麗な半円を描きつつも乱れぬ動きで連合軍艦隊を捉えようとしていたのだ。
  が、連合軍も黙ってはいない。〈クニャージ・スヴォーロフ〉の戦況スクリーンに映される様子を見て、オペレーターがボラー連邦軍の動きを察知して報告する。

「敵はアマール艦隊左舷へ回り込みつつ、半円を描くように展開!」
「敵艦載機多数、アマール艦隊に殺到!」
「如何、艦載機隊はアマール艦隊を援護せよ! ペテロウス将軍連絡、に後退するよう指示を送るのだ」

ボラー連邦軍は艦載機によってアマール艦隊を牽制しつつ、その間に第34打撃艦隊をアマール艦隊の左舷側へと回り込ませようとしている。
アマール艦隊には艦載機が無い分、その策は図に当ったと言えようが、その意図に気づいたジェーコフが咄嗟に艦載機隊を向かわせる事で、アマール艦隊への損害を軽減させると共に戦線を維持させようと必至になっていた。
  アマール軍 第1艦隊旗艦 アマーリウス級〈ガネルシア〉艦橋にも、ジェーコフからの一時的な後退命令が届いていた。

「将軍、ジェーコフ総司令よりご指示が・・・・・・!」
「ボラーの1個艦隊、我が方の左舷に回り込みます!」
「うぅぬ・・・・・・艦載機の無い我々では、限界がある。止むを得ん、後退して共同歩調を取る」

司令官ペテロウス将軍はジェーコフの後退命令に渋々と従う。彼は簡単に激発することは無かったが、本来なら自分らしいやり方で戦いたいものであった。
しかし、今は2国の友軍もいる。下手に行動して総崩れを起こしては、足を引っ張るだけの邪魔な艦隊に成り下がるだろう。また、それだけではない。
派遣を決定したイリヤ女王の名声に傷をつける結果にもなりかねないのだ。ペテロウスは独走を自重し、艦隊をボラー連邦軍 第34打撃艦隊へと艦首を向けさせる。

(我らが崩れては、盟友――地球やエトスに申し訳が立たない)

ペテロウスは拳を握りしめ、制限されている己の戦力や力量に嘆いた。もっと戦力があれば、と考えてしまうのは自惚れに過ぎないだろう。
  その間に第34打撃艦隊は目前のアマール艦隊へ攻撃を集中させる。兵装の殆どを前方集中型として採用しているのがボラー連邦艦の特徴だ。
主砲の殆どは上下に展開する事しか出来ず、左右に砲撃するためには艦ごと回頭せねばならないという難点を抱えている。
だがこれはボラー連邦軍ならではの戦術思想なのだ。ボラー連邦軍の得意とするところは、物量による前面への集中攻撃であるからだ。
  そしてこの兵法と威力は、アマール艦隊を相手にしても如何なく発揮された。苛烈な火力の前に、アマール艦隊は数少ないシールド艦を前面に押し出す。
これらは各戦隊の旗艦としての役割を担っている艦艇群だった。

「各旗艦は前面に展開、シールドを全力を全力で展開し防御に努めよ!」

シールドを張ってボラー連邦軍の火力を凌ごうとする。しかしボラー連邦軍の放つ主砲の破壊力は伊達ではない。今にアマール艦隊は完全崩壊してしまいそうだった。





  ボラー連邦軍の宇宙戦闘艦は、地球軍や他国の戦闘艦艇と等と同様に艦種が幾種かあり、戦艦、空母、巡洋艦、駆逐艦と種類が存在している。
デザインは潜水艦に近い雰囲気を持つのが特徴だ。また大国故の戦力の合理性を極めた生産性やメンテナンス性、さらに拡充性があるのも特徴と言えるだろう。
因みに地球の様な対艦巨砲主義思想にもある種似ており、ボラー連邦艦艇は機動性より圧倒的な火力を重視しているのである。
  まず徹底した対艦戦闘を重視したドラジルク級戦艦。戦艦Aタイプとも呼称される主力戦艦で、改修されつつも長年に渡り運用され続ける戦闘艦だ。
艦型は楕円型で全体的にズングリとした印象を与えているものの、その一方でスマートさも兼ね備える艦体である。
艦首部分は尖っており、上甲板部分も全体的に平たい部分が多い。艦橋構造物も極めて簡素的で、まるで潜水艦のセイルの様に艦体後部にぽつんと建っている。
武装は半格納式連装主砲を上甲板に3基、艦底部に1基。艦首上部に収納式大口径砲1門を備えており、前方への火力集中を常套手段とする。
  次に対惑星や要塞戦に適しているゴラジルク級戦艦。地球で言う戦艦Bタイプで、こちらは殆ど曲線的である為、Aタイプよりズングリに見える。
艦首先端は平らなもので、エンジンの噴射ノズルの数も幾らか多い他、固定式かつ収納式連装主砲を上部甲板の前部に2基搭載している。
また艦首舷側部にも固定式の収納式連装副砲が計6基備えられており、側方からの攻撃に対応したものとなっている。
さらに上甲板にはミサイル発射管を備えるなど実弾兵器も充実させている。そして本級がドラジルク級と決定的に違うの特徴は、艦低部に格納している対惑星・要塞攻撃用の大型ミサイルを1発搭載している事であろう。
  これを多量に用いれば惑星を消し飛ばす事も用意である。実際に使用されたのはバース星というボラー連邦の属国に対してだった。

「ボラー連邦の技術も侮りがたい」

ある地球人技術者はそう評した。ガルマン・ガミラス帝国の保有するプロトンミサイルと違い、200mと小型だが、それでも12発もあれば破壊するに充分。
さらに恐ろしのは、通常の戦艦に搭載していると言う点。わざわざ大型プロトンミサイルを引っ張らなくとも、艦隊によるミサイル攻撃で事足りてしまうのだ。
  旗艦〈ガネルシア〉の艦橋に、次第に重苦しくも緊張した空気が張り詰める。彼らの前では地球艦隊の艦載機隊が壮絶な近接格闘戦を繰り広げているのだ。
そのお陰もあってアマール艦隊とボラー連邦軍 第34打撃艦隊の間は邪魔する者が無かった。アマール艦隊のみならず、この瞬間を待ちわびたのはボラー連邦軍も同じであり、先に動いたのは第34打撃艦隊の方からであった。
  アマールのレーダー手が、途端に反応する無数の飛行物体を捉える。それがミサイルである事に気づくのに、数秒もかからなかった。

「敵巡洋艦、及び駆逐艦より、ミサイル発射を複数確認!」
「ミサイル・・・・・・スペース・ロックに気を付けろ!」

ボラー連邦軍の巡洋艦は綺麗な流線型で、駆逐艦は直線的かつスマート感があり、どちらも全体的にのっぺりとし、艦後部に小さく艦橋が建つくらいだ。
巡洋艦はミサイル兵装型のモルガ級ミサイル巡洋艦とビーム艦砲型のノロゾフ級巡洋艦と2種あり、駆逐艦をスター級汎用駆逐艦と言う。
  モルガ級ミサイル巡洋艦は、格納式主砲2基に伸縮式副砲3基を備え、垂直発射式の八連装VLS発射管を3基装備している巡洋艦である。
方やソロゾフ級巡洋艦は、格納式主砲3基に、伸縮式副砲4基、とドラジルク級戦艦同様のビーム兵器に重点を置いた艦種だった。
  ワークホースたるスター級汎用駆逐艦は、垂直式六連装VLS発射管を2基備え、格納式主砲も2基装備しているなど、バランスよくなっている。
他にも爆雷投射管を8門と収納式連装砲塔を1基搭載しているが、1番厄介なのはペテロウスが警戒したスペース・ロックという名の対艦ミサイルだ。
これが単なるホーミングなら、地球で使用されている物と変わらないかもしれない。
  しかし、このミサイルの場合、素直に目標へと向かってはくれない。“ひねくれ者”なミサイルのなのだ。それはいったい、どういう意味で言っているのか?
まるでミサイルがの動きが、酔っぱらったか人間ののように、クネクネと迷走する様な動きで攻撃目標を絞らせない兵器であるという事だ。
これは迎撃ミサイルの追尾性能を振り切れる程で、機銃等の迎撃をも困難とする厄介極まりないミサイルである。

「副砲群、迎撃に専念せよ!」

  防御陣を築いて対空迎撃に専念するアマール艦隊。その迎撃能力は侮りがたく、ミサイル群をビームの網で絡め捕っては、撃墜していく。
だが追い打ちを掛けるかの如く、今度はボラー連邦軍からの艦載機が迫りくる。

「将軍、ボラーの艦載機が、さらにこちらへ向かいつつあります!」
「数が多いな、奴らは。地球艦隊の艦載機にも、限度があるぞ」

ボラー連邦軍の有する空母も他勢力に劣らぬ性能を有している。空母というものは、本来は艦載数に重点を置くために対艦兵装は少なく、中には皆無の場合もある。
  しかしボラー連邦の場合は、単艦でも最低限の砲撃能力を与えられている。そしてボラー連邦軍の宇宙空母(3種類存在するが)に共通している事は、艦載機の滑走路は全て艦内部にあるという事で、これは発艦中に狙われても安全である事を配慮した結果でもあった。
そして、艦首部の横に広いインテーク状の部分があるが、そこが艦載機の発艦口であり、そこから艦載機群が飛び立つのだ。
因みにボラー連邦軍の保有する宇宙空母のデザインは、潜水艦や深海魚の様な平べったいものである。
  ヴォロフルト級大型空母と称される宇宙空母は、格納式砲塔を4基も備えつつ、その搭載力は80機と同勢力中最大の搭載能力を保有する。
グム・ヴォルト級戦闘空母は、大口径砲2門に、格納式砲塔を3基備え、艦載機は40機と並みの数を有している中堅戦力である。
バルドラム級大型戦闘空母は、戦闘空母の設計に類似しているが一回り大きく、伸縮式の大口径単装砲2門、大型対艦ミサイルを2門備えている他、艦載機も60機を有する上に、艦隊旗艦としての機能を有する戦闘艦だ。

「全艦、対艦載機戦を開始しつつ、前方の艦隊へ砲火を集中。徐々に後退し、地球艦隊の左舷へ並べ!」

  アマール艦隊は後退しつつも応戦し、地球艦隊の左舷へ並ぼうとする。第34打撃艦隊は、これ見逃しと言わんばかりにアマール艦隊へと攻勢を強め始めた。
120隻弱のボラー艦艦から放たれるビームの前に、アマール艦隊は崩壊寸前だ。旗艦〈ガネルシア〉他、同級の艦艇は強固なシールドによりこれを防ぐ。
だが他の艦艇はそうではない。砲撃戦で劣らぬボラー連邦の戦闘艦艇から放たれるエネルギーの束は、アマール艦隊をなぎ倒す勢いで降り注いだ。
〈ガネルシア〉他、9隻は率先して前方の出て、シールドを張っているが、僅か9隻のシールドで防ぎきれるものではなかった。
圧倒的多数で迫るボラー連邦軍に、アマール艦隊は勢いに呑まれかけていた。





  ボラー連邦軍の動きに対して、〈クニャージ・スヴォーロフ〉艦長コルチャーク大佐は危機感を肌に身にヒシヒシと感じていた。
それはボラー連邦軍が得意の物量に物を言わせて、我が連合軍艦隊を完全包囲しようという魂胆ではないか、と言うものであり、しかもそれは完全に的を得ていた。
艦隊数は5対5と同数ではあるが、如何せん艦艇数が違うのだ。ボラー連邦軍の1個正規艦隊は約110〜120隻。それに対し連合軍の1個艦隊は約70隻。
各艦隊は約50隻もの差を付けられているのが実情だった。数で劣る連合軍を、じわじわと追い詰め、包囲するのは時間の問題だと言えよう。

「し、司令! ボラー艦隊は我が方を包囲するつもりでは!?」
「十中八九、そうであろうな。敵に包囲網を作らせてはならん、まずは目前の敵艦隊を切り崩す!」

  現在の各艦隊状況は次の通りだ。中央部の3個地球艦隊に対して、ボラー連邦軍は第31、第32、第33打撃艦隊の3個艦隊が対峙している。
連合軍左翼のアマール艦隊に対しては、第34打撃艦隊が相手をしており、連合軍右翼のエトス艦隊に対しては、第35打撃艦隊が相手する形だ。
  質では連合軍に理があるとしても物量で負ける連合軍だが、包囲されまいとして獅子奮迅の戦いぶりをボラー連邦軍に見せつけ、強固な戦線を維持している。
特に中央戦区である地球艦隊が、第9艦隊の残存を除けば警備や巡視、護衛を主とする部隊の寄せ集めのである事を考えれば、その奮闘ぶりは賞賛すべきものだ。
指揮官と兵士達が、卓越した戦闘手腕や技量によってボラー連邦軍各艦隊を抑え続ける。
  右翼戦線に位置する地球軍 第11艦隊も、一進一退の攻防を繰り広げいていた。それに対当するのはボラー連邦軍 第33打撃艦隊だった。
同艦隊司令官 コヴェルトン・マンドロフ中将は、旗艦 バイオン級〈マルゴドーラ〉の艦橋にあって、固い防御に業を煮やし指揮下の宙雷戦隊を動かした。

「ボラー艦隊、巡洋艦8、駆逐艦16、二手に分かれて急速接近。敵の宙雷戦隊と思われる」
「その突入に合わせて、正面の艦隊も前進」

  第11艦隊旗艦 スーパーアンドロメダ級戦艦〈ディオメデス〉の艦橋にて、オペレーター達が忙しく戦況報告を続けている。
艦橋に設けられている大型スクリーンには、主力同士がぶつかり合う戦場を迂回しているボラー連邦軍の2個宙雷戦隊が映されていた。
宙雷戦隊を左右から突入させて、第11艦隊の前衛を左右から切り崩し、その瞬間に主力が突撃してくるという魂胆なのであろう。
自軍よりも凡そ倍の兵力を有するボラー連邦軍ならではの戦術であり、数に劣る地球艦隊としては辛いものがあった。
  とはいえ、第11艦隊司令官コッパーフィールド少将は、慌てる様子を見る事もなく落ち着いて対処した。

「我が方も宙雷戦隊で敵宙雷戦隊を迎撃。その間、艦砲射撃で味方宙雷戦隊を援護するのだ」

コッパーフィールド少将の指令を受け、左右の分艦隊が即座に動く。さらに各分艦隊司令官から宙雷戦隊へ指令が渡り、瞬時に行動に移った。
先述したとおり、第11艦隊は各警備隊等の兵力を糾合して再編成された艦隊だ。故に、宙雷戦隊を構成する艦艇は現用のフレッチャー級に留まらず、旧世代である吹雪級駆逐艦とリヴァモア級駆逐艦、さらに鹵獲艦であるホワイトパイカー級も編入されている。

「宙雷戦隊は10時方向の敵戦隊を攻撃しつつ、我が艦隊は敵正面を抑え込む」
「こちらは2時方向の敵宙雷戦隊を狙え!」

  第2、第3分艦隊司令が叫ぶ。分艦隊の戦艦部隊と巡洋艦部隊が正面のボラー艦隊を狙いつつも、各艦の第2砲塔等を使って同時攻撃を開始した。
地球艦隊の砲火が主力と宙雷戦隊へ分散されているとはいえ、1発あたりの威力は凄まじいものである事に変わりはない。
  突入して来たボラー連邦軍の2個宙雷戦隊は、ミサイル巡洋艦モロガ級8隻にスター級駆逐艦16隻の計24隻で構成されている。
彼らは斜め前方左右から襲い掛かって地球艦隊に楔を打ち込もうとしたのだが、地球戦艦による援護射撃によって出鼻をくじかれてしまう。
先頭を行くモロガ級巡洋艦2隻が、運悪くも戦艦の砲撃で串刺しにされて轟沈。さらに後続の駆逐艦3隻が直撃を受けるなり、被弾するなりして戦列を離れた。

「突撃!」

  それを見た地球艦隊の2個宙雷戦隊16隻が、足並みを崩したボラー連邦軍 宙雷戦隊に襲い掛かった。旧式だのポンコツだのと揶揄された混成の宙雷戦隊は、フレッチャー級駆逐艦4隻に、吹雪級駆逐艦4隻、ホワイトパイカ―級駆逐艦4隻、リヴァモア級駆逐艦4隻の計16隻で編成され、現世代艦に劣らぬ戦闘を見せつけた。
古くても快速を誇る駆逐艦なのだ。しかも対向してでの突撃なのだから、接近する相対速度も速い。ボラー連邦軍駆逐艦のオペレーター達は、その速さに圧倒される。

「は、早い!」
「地球艦隊より、魚雷多数!」
「迎撃ッ!」

地球艦隊の宙雷戦隊から大型魚雷、通常魚雷の計90発余りが飢えたピラニアの大群のように襲い掛かる。迎撃するもののミサイルで迎撃できる距離にはなかった。
仕方なく対宙機銃を展開して迎撃を試みるが、それも儚い努力に過ぎない。魚雷群は、瞬く間にボラー宙雷戦隊の半数を食い荒らしてしまったのである。
だが殴られる側も一方的に殴られていた訳ではない。ボラー宙雷戦隊もまた、撃沈間際にスペース・ロックや通常ミサイルを数十発解き放ったいたのだ。
  対する第21宙雷戦隊 指揮官アラン・レムスキー大佐の下した指示は、迅速かつ的確なものであった。

「敵ミサイル群、接近! 迎撃ミサイル間に合わない!」
「全艦。取り舵、急速転舵! 敵ミサイル前方に波動爆雷・機雷を一斉射出。残る火器は迎撃!」

快速を誇る駆逐艦だからこそ、敏感な反応も出来たのだろう。第21宙雷戦隊は急速回頭しつつも、ミサイルの進路先に向けて、波動爆雷と機雷が多量に散布する。
かつて〈旧ヤマト〉が取った、対ミサイル・魚雷の防御戦法だ。ボラー宙雷戦隊が放った30発余りのミサイル群は、散布された爆雷や機雷の網に掛かって自爆。
半数以上が迎撃に成功したが、それで終わりではない。残ったミサイル群には対宙機銃群や各砲塔が対応し、次々と撃墜していく。
  それでも捉えきれなかった3発あまりのミサイル群が、第21宙雷戦隊を捉えた。

「駆逐艦〈ディーレイ〉被弾、航行不能!」
「同じく〈バックレイ〉被弾、戦列を離れる!」

その直後、コントロール失った〈ディーレイ〉は爆沈。装甲を貫通されて戦闘不能に陥った〈バックレイ〉は航続したものの、もはや後方に退くしかなかった。
反対側の第25宙雷戦隊でも1隻が砲撃にて撃沈され、地球の宙雷戦隊は2隻を撃沈され1隻が戦闘不能となった。
  だがボラー側の被害が遥かに甚大であった。地球の戦艦や巡洋艦の支援砲撃と、駆逐艦による魚雷攻撃により、ボラー宙雷戦隊は巡洋艦8隻、駆逐艦10隻を完全破壊され、残存艦6隻も何かしらの被害を受けて後退する。
第33打撃艦隊の宙雷戦隊は壊滅状態だ。ボラー連邦軍のストレートを、地球艦隊はカウンターパンチで殴り返し、コーナーの中央から隅まで追いやったのだ。

「敵残存艦潰走。敵本隊も戦列を再編する模様」
「宙雷戦隊は直ちに戦列に復帰。後退したこの時期を逃すな!」

  第11艦隊が相手する第33打撃艦隊の水雷戦隊が痛手を負い、本隊に合流するその瞬間をコッパーフィールドは見逃さなかった。
彼は宙雷戦隊を戦列に戻させると同時に、一挙に攻勢に出たのだ。自軍の戦艦隊を前面に出して、次に巡洋艦からなる巡洋戦隊を出し波動防壁を最大展開させて、直営の1個宙雷戦隊と先程の2個宙雷戦隊を後続させると、一斉に突撃を開始したのである。
  対する第33打撃艦隊も苛烈な砲火を叩き込もうとするが、それを出力を上げた波動防壁が一時的に弾き返すものの、それも永遠ではないのだ。
波動防壁は高出力の展開を強いれば、効力を失って消滅する。再充填までに撃沈される事も十分にあり得るのだ。
マンドロフ中将は、自軍の宙雷戦隊が壊滅させられたことに逆上し、小癪な蛮人め、と罵りつつも集中砲火とミサイルでこれを撃退しようと奮闘した。

「ボラーに臆するな。火力を敵前衛に集中、散式弾も混ぜて発射」

コッパーフィールドの言う散式弾は、対艦載機用カートリッジ弾だ。これを艦艇に使用する訳は、ボラー連邦軍の攻撃を予見してでの事であり、それは的中する。
散式弾がボラー連邦前衛艦隊に飛び込んだ瞬間に炸裂する時と、垂直式のミサイル発射管が放たれたタイミングが偶然にも一致したのである。
打ち出されたばかりのミサイルが誘爆し、駆逐艦のみならず、戦艦も巡洋艦も巻き込まれて撃沈破する有様だった。
  撃ち漏らしたミサイルもあったが、それを迎撃ミサイルと対宙機銃で片付けつつ、第11艦隊は真打である宙雷戦隊を一気に押し出した。

「魚雷発射管、全門発射!」

今度は全駆逐艦による魚雷攻撃だ。その数は大小合わせて100発を軽く超すもので、しかも近距離とくる。迎撃ミサイルは使用不能であった。
崩れた艦列に躍り出る魚雷群は、無数の光球を生み出しては、その数百倍、数千倍の死者を生産していく。さらに戦艦や巡洋艦からの正確な砲撃が、その数を増やす。
  この瞬間、ボラー連邦軍 第33打撃艦隊は前衛と本隊を合わせ、一度に20隻あまりを損失。他にも20隻以上の艦が大破から中破の判定を受けた。
第33打撃艦隊は後退し再編の選択を強いられる事となるが、地球艦隊に休む等と言う暇は無きに等しかった。





  第11艦隊のさらに右翼の戦場宙域――ここは、エトス艦隊の戦場だ。それに対当するのは、ボラー連邦軍 第35打撃艦隊である。
エトス艦隊司令官レミオスは、エトス軍内部では一級の艦隊指揮官であり、それはエトス本国やゴルイ提督も認める程の手腕を持っている。
とは言えボラー連邦軍の指揮官も同レベルの手腕を有していた。第35打撃艦隊司令官 ボンドロ・レーヅィン中将は、地球で言えば57歳になる軍人だ。
  双方は一歩たりとも譲らない状況を作っていた。レーヅィンが攻めれば、レミオスが半ダースもの平手打ち(スパンク)を加えて退ける。
だがレミオスが攻めの行動を執ると、今度は逆の立場にならざるを得ない。彼女の方が、(したた)かかつ、1ダースもの平手打ちを受けるのだ。
この様に同レベルであるのならば、後は手持ちの兵力数が雌雄を決すると言っても過言ではない。レミオスにしても、レーヅィンにしても、互いに理解している。

「やってくれるじゃない。ボラー連邦にも、これ程の人材がいたとはね。いえ、今まで巡り会わなかっただけの事かしら?」
「呑気な事を仰っている場合ではありませんぞ、閣下。我が艦隊は数に勝る敵に対して、五分五分の情勢を保ち続けておりますが、いつ崩されるか・・・・・・」

  ホンテルン艦長が情勢の厳しさを伝えると、レミオスは頷いてみせる。彼の言葉通り、この防壁にはヒビが入っており、いつ砕け散るか分からないのだ。
有能な敵艦隊指揮官との戦闘で、朽ち果てるのも武人としては本望である、というのはエトス国軍人の性格だが、今はそれを美徳とは思ってはいない。
何故なら、これは私戦はないのだ。この敗北は自分ら祖国の敗北を示すばかりではなく、盟友である地球、そしてアマールにも敗北を突き付ける事を意味するのだ。
  彼女は、中々好転しない情勢に、次第に焦りを含まずにはいられない。凛々しい表情にも、次第に汗が滴り苦悶を示し始めてもいた。
だがこの時になって、彼女の戦場に機転が舞い降りた。第35打撃艦隊の右舷前方へ、多数のエネルギーが怒涛の流れを作って流れ込んで来たのだ。

「これは・・・・・・!」
「第11艦隊の砲撃です!」

エトス艦隊の左舷側で戦っていた第11艦隊が、右前方に急進して第35打撃艦隊の右舷側に全ての砲火を一斉に叩き込んだのである。
まさかの介入者にレーヅィンは床を一度だけ強く蹴りつけた。順当にいけば、すり減らして消滅させられたエトス艦隊を、地球の騎士(ナイト)が邪魔したのだ。
  彼が怒りに染まるよりも早く、今度はエトス艦隊が攻勢へ転じた。砲火を受けて崩れた第35打撃艦隊先頭集団に、エトス艦隊も同調して砲火を加えた。

「敵前衛、陣形を崩した」
「6時から3時方向に艦列を伸ばして陣形をアーチ形に展開。第11艦隊に同調して、今度は敵左翼を叩く!」

地球艦隊とエトス艦隊の連携に乗った組織的砲撃は功を奏し、瞬時に第35打撃艦隊を瓦解の谷底へと転落させていった。
そしてレミオスは、地球艦隊と共同して本格的な半包囲殲滅に取り掛かる。第11艦隊が敵左翼を、エトス艦隊が敵右翼と担って、半包囲陣形を作り上げた。
  とはいえそれは長続きしなかった。急遽再編を終えた第33打撃艦隊が友軍の危機を知り急速前進して来たのだ。これには第11艦隊も後退せざるを得ない。
半包囲の半分を崩す事となるのだが、レミオスは慌てず次の行動に移る。第35打撃艦隊が態勢を立て直す前に、アーチ形陣形のまま前進を開始したのだ。
同時にエトス軍の保有する切り札を解禁し、それを第35打撃艦隊へと一斉に撃ち放った。
第35打撃艦隊の各艦レーダーには、数百という高速の物体として捉えられる。

「ミサイルらしき物物体、エトス艦隊より多数発射!」
「迎撃ミサイルで撃ち落とせ!」

咄嗟の判断で囮ミサイルを放とうとするが、それは無意味であった。エトス艦隊から放たれた物体は、光速に近いスピードで第35打撃艦隊の前衛を襲ったからだ。
それはミサイルに近いものであったが微妙に違い、まるで巨大な槍にも見えた。その巨大な槍がボラー前衛艦の戦艦を、艦首から突き入って機関部まで貫き通す。
その直後に爆発した。ディンギルのハイパー放射ミサイルに近い代物であったが、違う点は多い。ハイパー放射ミサイルは弾頭さえ深く食い込めばいい。
  だが、エトス艦隊の使用したミサイルは艦内に奥深くに突き刺さるか、或いは貫通してしまう。爆発するよりも貫く事を前提に置いて開発されたミサイルだ。
火薬の威力よりも鋭く硬い弾頭部分が重要だった。そんな特殊弾頭のミサイルが、次々とボラー戦闘艦艇に突き立てられる。
ヨーロッパの騎士が一騎打ちで使うような、あの鋭く尖った武器を突き刺すような光景にも見えた。

「戦艦〈ボロウィン〉撃沈、戦艦〈バドゥラ〉戦闘不能!」
「第45駆逐艦隊、損害甚大! 第21戦艦隊、壊滅!」
「我が艦隊の前衛部隊、被害率8割に昇る!」

  とんでもない被害率が、第35打撃艦隊旗艦 ラジェンドラ級〈レヅィレスト〉の艦橋内部表示され、レーヅィン中将も、オペレーター達も驚愕してしまう。
レーヅィンは確かに有能な軍人だが、エトスを属国艦隊として侮っていたのだ。この考え方はボラー連邦軍将兵の中でも強いものだ。
典型的な事例として〈旧ヤマト〉が遭遇したバースという国家がある。独立が危ぶまれていたから、ボラー連邦の力で助けてやるのだ。それが彼らの言い口である。

「属国如きに手間取るな! 反撃だ、反撃せよ!!」

もはや冷静さなど微塵もなかった。反撃を口にするばかりで真面な命令など出せていない。その間にも戦闘艦は次々と散っていく。
  エトス艦隊旗艦〈ミュレイネ〉の艦橋で、オペレーターが第35打撃艦隊の瓦解ぶりを瞬時に報告した。彼女も、それに素早く反応する。

「敵艦隊、完全に崩れました!」
「今よ! 全艦突撃、我に続け!!」

その命令だけで、エトス将兵達全員の心に波を打たせた。白銀の戦姫が筆頭に立つ事で、士気は一段と上がる。
  逆に第35打撃艦隊は、少数ながら侮れぬ火力を叩きつけてくるエトス艦隊と、一度距離を置こうと戦線を下げようとして失敗した。
エトス艦隊が10〜11時方向から突入してくる為、第35打撃艦隊は自然と3〜4時方向へと半ば押し込まれる形で後退してしまったのである。
これが戦線に参加しようとした第33打撃艦隊の射線を阻んでしまったのだった。
  まさにマンドロフが砲撃命令を下した直後の事だ。一端空間へ放たれたエネルギー群は、意志を曲げることなく味方の第35打撃艦隊の右後背を撃う。

「な、何をしているか。レーヅィンに射線からどけと伝えろ!」

味方を誤射しておきながら、マンドロフは味方を罵った。味方の第35打撃艦隊が左舷方向から迫った為に艦隊間隔を圧迫され、射線を妨害されたのだから当然だ。
悪い事は続いた。本来の相手である第11艦隊が、好機だと言わんばかりに後退を止めて、前進と砲撃を開始したのだ。
  第35打撃艦隊は散々な負けっぷりを見せた。左舷前方からはエトス艦隊に砲撃され、右舷前方からは再び地球艦隊の砲火を受ける。
さらには味方の邪魔までしてしまい、その邪魔した応酬とも言うべき誤射撃が、後衛部隊並びに右翼部隊に一部が炸裂したのだ。
結果として、前面の敵2個敵艦隊と、後方の味方1個艦隊による極めて不本意(・・・・・・)な挟撃戦が第35打撃艦隊の士気を打ちのめした。
左右前方からは青白いビーム、右後方から緑色のビームが第35打撃艦隊の宙域で交差し、次々と艦艇が火を噴き業火に包まれていく。
  旗艦〈レヅィレスト〉艦橋にて、その不甲斐ないザマ(・・)に、レーヅィンは愕然としたのは言うまでない。

「敵に嵌められるとは・・・・・・!」
「敵弾、来ます! 」

己の判断の誤り、敵への過小評価、諸々を反省する暇はなかった。〈レヅィレスト〉は1発のメタル・ミサイルを受け、4発のビーム砲撃を受けたのだ。
旗艦の5ヶ所の被弾箇所から豪快に黒煙と爆炎を噴き上げる。そしてレーヅィンが退艦命令を発するよりも早く、艦内は火災とダメージを一挙に暴発してしまい、彼は多くの乗組員と共に原子レベルへと還元されたのである。
これが、本会戦における最初の高級指揮官の戦死であった。




〜〜あとがき〜〜
どうも、第3惑星人です!
全編に引き続いて中編を仕上げましたが、如何でしたでしょうか?
戦闘シーンばかりに集中したために、グダグダな感じが・・・・・・(汗)
次回で完結しますので、本編はそれに合わせて投稿したいと思います。

〜外伝での一応の補足説明〜
彗星帝国鹵獲艦について・・・・・・これは主にPS2ソフト『遥かなるイスカンダル』〜『二重銀河の崩壊』までに登場しました、彗星帝国の鹵獲艦を参考にしました。
ただし、大戦艦と巡洋艦の鹵獲艦は存在しておりません。これは作者による妄想で、駆逐艦やミサイル艦、高速中型空母の鹵獲艦があるのに、大戦艦の鹵獲艦が無いのは許せない!(←おいw)とおもい、勝手に付け加えました。
続いて巡洋艦ですが、これは知っている人は少ないと思います。この艦種はPSソフトに登場しておりまして、駆逐艦とセットになったり、大戦艦の護衛をしていたりと、何気なく幅広い活用がされていました・・・・・・が、何故かPS2では登場せず(泣)。それでは余りにも不憫! と思い、鹵獲艦として登場させた次第です。

ディンギル帝国鹵獲艦について・・・・・・これは完全なる作者の妄想です。というより、読者様からリクエストにより、この様な形で登場しました。おそらく、読者様の中でもディンギル鹵獲艦の登場は予想外だと思って方が多いのでは?

ボラー連邦の戦闘艦について・・・・・・基本、原作のアニメとなんら変わりません。固定式武装が大半の戦闘艦ですが、長年の運用性も見込まれている筈!と思い新型艦は敢えて出しませんでした。銀河系を制覇しようとする大国ですから、戦闘艦のモデルチェンジは早々に出来ない筈だと見込み、既存の戦闘艦に修正を加えているのだろう、と設定しました!

エトスの貫通ミサイルについて・・・・・・これは宇宙戦艦ヤマトの週刊誌の情報から得ました。

最期に防衛軍の旧式艦隊について・・・・・・これはメカニック・デザイナーの小林誠さんの設定に基づいています。購入した方は知っておられるかもしれないですが、『神なる永遠の黄昏』という本に記載してありました。次いで言いますと、設定ではアンドロメダ級や旧巡洋艦、アリゾナ級戦艦、はては雪風型駆逐艦までもが、救助活動艦隊として再就役していたとか・・・・・・。



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