外伝『海王星会戦』



「少尉、パルチザンが侵入してきた模様です!」
「遂に来たか‥‥‥」

  此処はデザリアム帝国軍が誇るハイペロン爆弾の内部の電子管理室だ。そして、その部屋に飛び込んで報告をしに来た兵士を前に、緊張を高める1人のデザリアム人――デザリアム帝国軍技術部将校 アレリウス・レーグ少尉の姿がそこにあった。
今彼は、極めてまずい状況下におかれていた。それは先程の兵士が、報告しに来た事が原因なのは誰の眼から見ても明白なものである。
まさか、パルチザンがここまで来るとは予想だにしなかった。対人レーダーにされ捉えられなかったというではないか。

(彼らは、いったいどんな手品を使ったのだ)

詳細を纏めると、どうやらパルチザンは地下から奇襲をかけてきたようだった。成程、それならば、遠方から発見されることもないだろうな。
  とはいえ、賞賛している場合ではない。現にハイペロン爆弾警備部隊は、奇襲攻撃を前にして完全に瓦解してしまったのである。

(なんとも脆いものか、我が部隊は‥‥‥)

こちらも厳重に、パトロール戦車を14輌は配備していた筈なのだ。それも尽く、対戦車バズーカの集中砲火を受けて破壊されてしまった。
反撃する帝国軍兵士達であったが、果敢に突撃してくるパルチザンの猛攻も凄まじいものである。ランチャーを装備した部隊が、警備部隊に向けて撃ち込む。
その隙に他のパルチザン達が1気に距離を詰めてくるのだ。教本通りとも言える、援護と突撃の連携だ。

(何故、ここまで追い詰められた?)

  彼は自問自答する。地球侵攻作戦は順調そのものだった筈だ。初戦において、デザリアム帝国軍 太陽系攻略部隊は、地球を一瞬にして占領することに成功した。
だが占領した同時に、彼らデザリアム軍の苦境の始まりでもあったことに気づくのは、そう遠い話ではなかった。

「新型戦車さえあれば、パルチザンなど一掃出来ましょうに‥‥‥」
「言うな。彼らの方が一枚上手だという事なのだ」

1人の兵士が嘆く。そうだ、確かにあの多脚戦車さえあれば、パルチザンをいとも簡単に一掃出来よう。それが出来ないというのだから、落胆もしたくなる。
  多脚戦車とは、デザリアム帝国軍が開発した新型歩行式戦車だ。歩行とは言っても、既に三脚戦車があるが、サイズがかなり小型化されているのが特徴だ。
小型の卵型の車体で1人乗り、4本の足が付いたような外見を持つ本兵器は、ゲリラ戦を行うパルチザンにとって大きな天敵と成る筈であった。
その生産プラントが、量産品1輌を残してパルチザンにより破壊される始末。さらには収容所も襲われ、人質たちも解放されてしまったのだ。
  しかもその破壊された責任として、彼の上司であるアルフォン少佐が、総司令カザンの元で軍法会議に掛けられ死刑判決が下されてしまった。
少佐は部下からも信望厚い将校で、有能な技術者でもあったが、対するカザンは人望が薄い一方で、能力としては高く評価されている人物である。
尊敬してだけに、死刑判決は悲しいものであったが、それも一転した。
  パルチザンが仮司令部を奇襲、カザン総司令が暗殺されてしまったのだ。その代理としてアルフォン少佐が臨時司令代理に就き、地上部隊を統括する事となった。
本来ならカザン総司令の後任となる副司令官や、幕僚団ら高級士官がいた筈なのだが、如何せんパルチザンの奇襲にあって副司令官諸共全滅してしまったのである。
結果としてエスカレーター方式で持ち上がったのがアルフォン少佐だという事だ。
  今は最上階の起爆装置管理室手前にて、少佐自らが多脚戦車に乗り込み、待機している。

「‥‥‥地球人がここまでやるとは、正直予想していませんでした、少尉」

不意に護衛の兵士が口を開く。非常事態ではあるが、緊張しているのは護衛してくれている兵士達も同様だ。

「無理が祟ったのだろう。練りに練った計画ではあったが、占領後の計画が甘かったとしか、言いようがない。司令部も、本国も‥‥‥」

そうだ、占領後から全てがおかしくなり始めたのだ。危険指定した〈ヤマト〉を取り逃がし、パルチザンという反抗組織と、地球残存艦艇の討伐も上手くいかない。
さらに中間補給基地、“狩り人”たるミヨーズ大佐の艦隊と、グロータス准将の要塞艦隊も立て続けに、〈ヤマト〉他残存艦隊(第7艦隊)の前に敗北。
母星の防衛を担うサーグラス准将の黒色艦隊も敗北し、今や母星との激しい戦闘を行っていると言う話だ。思い出すだけでも、目眩のする惨状だ。
  そこまで考えた時だ。銃撃戦の音が激しくなるのを感じた。護衛の兵士達にも緊張が走る。そして電子管理機器が異常を知らせるブザーを鳴らした。

「っ! 何てことだ‥‥‥」

計器類に食い入るが如く、異常先を確認した途端に彼は唖然とした。それは通信システムが作動し、銀河外縁へと向けられていると言うのだ。
このハイペロン爆弾なればこそ、銀河間での通信も可能なものだ。それをいま使っているという事は‥‥‥と、ある予想をした時である。
  突然、扉が開いたかと思うと同時に飛び込んで来たのは、兵士ではなく閃光手榴弾であった。

「目くらましか!?」

護衛兵士達は怯んだ。それは奇襲させるに十分な隙であり、飛び込んできたパルチザン兵士が先制攻撃を加えた。護衛の兵士達は、それに反応が遅れてしまった。
ほぼ瞬間的なものであった。護衛兵士達は成す術もなく打ち倒されてしまい、最後に残ったのはレーグのみというものだった。
彼も視力が回復した頃には、自分が包囲されている事に気付く。
  パルチザン兵士は、レーグが一般兵士とは違う身なりであることに気付くと、撃たずに降伏を勧告した。

「‥‥‥わかった。降伏しよう」

自分は白兵戦に向いていない。そんな事は自分が良く知っている。彼は銃を床に投げ捨てると、大人しく同行していった。
  結果として、デザリアム地上占領軍はハイペロン爆弾の奪回を機に降伏を余儀なくされた。それでも降伏したデザリアム兵は多くない。
大半が死守しようと玉砕した。レーグのように大人しく降伏を受け入れたのは、10名にも届かなかったのだ。
そして、戦死者の中には司令官代理であったアルフォン少佐も含まれていたのは、レーグが耳にするまでもなかった。
捕虜にした地球人女性に想いを寄せ、当人らに打ち倒されたとも聞くが、真意のほどは定かではない。それは、本人にとって本望だったのだろうか。
そのような事は、所詮は本人にしか理解しえないのだ。レーグは連行されつつもそう思った。
  地球はパルチザンの反攻戦により解放され、太陽系内の制宙権さえ確保できなくなったデザリアム艦隊は、地上軍の生き残りを回収もせず引き揚げたという。
それでも何処へ向かったかは、地球防衛軍も直ぐに判明出来なかった。当然かもしれないが、防衛軍とてそう直ぐに体制を立て直すことなど容易な話ではない。
独房に入れられた少ないレーグは、自分らはどうなるのかと思いふけっていたが、そんな余裕が無くなる衝撃的な報告が入った。

「馬鹿な‥‥‥あり得ない‥‥‥。白色銀河‥‥‥ごと? 嘘だ‥‥‥」

  彼らの祖国――デザリアム本星が〈ヤマト〉の波動砲が原因で大爆発を引き起こし、白色銀河と黒色銀河を巻き添えにする形で完全消滅したと言うのだ。
その時の私の動揺ぶりは、生来にないものであった。1歩、2歩、と後ずさりし、壁に背中を合わせると、そのままズルズルと床に沈み、動けなくなったのだ。
報告した防衛軍兵士も、その落胆ぶりを見て思わず同情した。地球とてデザリアムに仕打ちを受けた側であるが‥‥‥。
  これから先、私はどうなる。祖国もないのでは捕虜交換と言う機会もないのは当然だ。永久に、この星で捕虜として生きる事となるのだろうか。
絶望に支配されたまま、レーグは独房の中で呆然とし続けるのであった。





  目を開ければ、そこは見覚えのある天井だった。そうだ、ここは〈ファランクス〉の個室だったな。当艦の副長たるアレリウス・レーグ少佐は溜息を洩らした。

「もう18年ほど前の記憶なのに、それが今になって夢に出てくるとは‥‥‥私も、疲れている証拠なのだろうか?」

そもそも、機械の身体を持ちながらも疲労があるというのが、変な話だと気づいて苦笑した。あるのは精神的な疲労だけである。
ここのところ、この次元世界で働き詰だったからだろうという考えは、容易にできた。それが、時空管理局の技術部士官マリエル・アテンザ主任の個人的な要請だ。
管理局初の武装した小型攻撃艇の開発を依頼されたのである。
  それは『D計画』と称されるもので、波動エンジンを使用した新型戦闘艇を建造しSUSに対抗しようと言うものだった。
本来は法に触れるとされてきたが、状況が変わったのだ。

「‥‥‥そうだ、アテンザ主任と打ち合わせがあったではないか」

  ベッドから上半身をお越し、彼は慌ててハンガーに掛けていたジャケットを掴んでそれを着込む。腰のベルトを締め、軍帽を被ってから個室を出た。
目指すは時空管理局第2拠点。そこで待ち合わせを約束しており、マリエルの他にも、数名の技術者が参加すると言う話であった。
〈ファランクス〉のタラップを降りると、そこは〈トレーダー〉の軍港だ。だいぶ修理すべき艦船の数は減っているようで、空きのドックが見受けられた。
  この〈トレーダー〉からは、第2拠点向けの連絡艇が出る事となっている。予定では個人用転送機が取り付けられるようだが、今すぐと言う訳にもいくまい。
レーグは書類を入れたアタッシュケースを手に下げながらも、防衛軍の使用するシャトルに乗り込む。

「第2拠点までよろしく頼む」
「了解」

多少の揺れを感じながらも、彼は到着までの間、先の夢について思い深けいる。まさか、今になって想い出すとは‥‥‥。
等と座席で窓から次元空間を眺めながら考えていると、彼は再び眠気に襲われ、やがては完全に眠りに入ってしまった。
  気が付けば、そこは独房の中であった。捕虜になってからどれ程が絶つのか、覚えてはいない。

「アレリウス・レーグ少尉。出たまえ」
「‥‥‥」

独房の中で1人たたずむレーグに、地球人の兵士が出るように呼びかける。いったい、私になんの用だろうか? いや、考えるまでもなかったか。
死刑執行でも決まったのだろう。デザリアム帝国は、帝国国民の繁栄のためとはいえ、許し難い罪を重ねてきたのは言うまでもない。
  しかし、この予想は外れてしまった。どうやら、私は尋問されるようだが、今更何を聞き出そうと言うのか。
取調室には2人の士官クラスの軍人がいた。片方は緑色を気色とした制服であり、もう1人は黒のジャケットを羽織った人物。

「私は真田 志郎、防衛軍科学技術中佐だ」
「‥‥‥」

独房から取調室に案内されたレーグに話しかけたのは、真田 志郎だった。〈ヤマト〉はデザリアム本国を滅亡させてから、地球に戻ってきている。
その乗組員である真田は、ある事情を解決するためにレーグに面会しに来ていた。
  さらにもう1人、防衛軍の人間が名乗りを上げる。やや浅黒い肌に強面な印象を与え、頬の傷がより一層に強者らしさを強調させていた。
彼が地球連邦防衛軍 第7艦隊司令官 山南 修 中将である。

「防衛軍第7艦隊司令、山南 修中将だ」

第7艦隊と言われてレーグはハッとした。そうだ、〈ヤマト〉と共に行動したという、地球の艦隊だ。その司令官が直接面会にくるとは、何事であろうか。

「貴官に頼みたいことがあるのだ」

捕虜の身である自分に何をしろと言うのか。釈放だのと言う話でもあるまい。もし釈放の話があったとしても、もはや帰るべき星もないのだ。
落胆の表情が続くレーグだが、真田の口から聞かされた頼みごとに、思わず破顔させることとなる。

「‥‥‥友軍の説得‥‥‥ですと?」
「そうだ」

  山南は動揺を隠せていないレーグの問いに、頷いて答える。デザリアム帝国の残党となった艦隊は、本国が消滅するや否、帰るべき場所を失った。
しかも〈ヤマト〉艦隊は太陽系に帰還中であり、このまま地球周辺にいては、間違いなく攻撃を受ける。それを回避すべく、彼らは姿を眩ましたのだ。
防衛軍としては、姿を眩ました残党を見過ごすわけにもいかない。情報によれば、デザリアム残党艦隊の戦力は220隻前後であるという。
  残党とは言え、その数は防衛軍の4個艦隊(当時は40隻単位で1個艦隊編成)に匹敵する。それに防衛軍艦隊も第7艦隊以外は真面な兵力を残してはいない。
他星系にある警備艦隊は合流するのに時間が掛かり、戦力外と見る他ない。現時点では、太陽系全域にある内惑星艦隊と外惑星艦隊の残存兵力、および護衛艦隊等を合わせるしかないのだが、それでも160隻に届くかどうかである。
それだけデザリアムの侵攻は激しかったという事である。
  真田はそのデザリアム残党艦隊の居場所を突き止めた、とレーグに話した。

「偵察隊の報告では、艦隊は海王星に潜伏しているとの情報を得た」
「‥‥‥1つお尋ねしたい」
「何かな?」
「何故、説得などと言う手間の掛かる事をなさるのか?」

貴方がたにとって、我らデザリアムは憎き敵の筈。それを私に説得させて、降伏させようとは手間がかかり過ぎるではないか。
地球人民の中にも、我らを快く思っていないのが多いのは、考えなくとも分かる。いっそのこと、あのタキオン粒子兵器で決着をつければよいのではないか。
それだけ自分らは酷い仕打ちをしてきた。彼自身も良く熟知している。どうせ生き残っても、永遠に捕虜となるのならば、死んだ方がマシ(・・)ではないか。

「それは違う。少尉」
「何がですか、中佐」
「我々は虐殺をしたくて、戦っている訳ではないのだよ。身を護る為に戦い、時として波動砲を使用している。だが、戦闘を好んでいるのではない」

  身を護る為の戦闘、決戦兵器――波動砲の使用、そう言われたレーグは、戸惑った。

「では‥‥‥」
「地球連邦は、共存の可能性があれば、それを選ぶ。敵として戦った相手でも」

  その顕著な例が、ガトランティス残党である。敵味方の被害を最小限に食い止め、降伏させようとした『雷王作戦』だ。
勿論、降伏した相手を処断するような事はしない。出来ればそのまま太陽系外へと退去してもらうのが最善であった。が、結局それは無しえなかったが。

「共存‥‥‥」

地球は、今までデザリアム帝国が戦ってきた敵とは、全く違うことを感じさせられる。わざわざ共存を選ぶとは、何処までも理解し難い、非合理的な生命体だ。
説得を任されると言う件に関して、最初こそ彼は断るつもりではいた。
  しかし、尽く予想を裏切ってきた地球という存在に大して、さらなる興味も湧いた。今までは、デザリアム人として生きてきたが、今もそれは変わることは無い。
だが、彼らの依頼を受けてみるのも一興かもしれない。そう考えていた。





  レーグは味方である残党軍の説得のため、2日後には防衛軍第7艦隊旗艦〈春藍(シュンラン)に乗艦して地球を離れた。
最初こそ彼は不安だらけであった。敵中に放り込まれるも同然なのだ。だが不思議と、レーグを嫌悪するような兵士はそれ程に見受けられなかった。
海王星に着くまでは、しばらく用意された部屋にて待機する事となるだろう。独房ではなく、下士官などが使用する小部屋を案内された様だ。

「‥‥‥説得に応じてくれるだろうか」

  彼は1人になるなり、不安げに1人呟く。彼は記憶を辿り、現在のデザリアム残党軍司令を特定していた。
それがバクストル・イェーガー大佐である。軍人としては欠落した部分がない、真っ当な司令官であることを知っている。
しかし、それだけに降伏は許し難いと唱えてもいるのだ。降伏よりも戦って死ぬことを良しとする彼は、黒色艦隊司令のサーグラス准将に通じる性格であった。
  〈シュンラン〉は地球軌道を抜けると、月へと向かった。月基地上空にて待機中であった第7艦隊及び、残存兵力を糾合・再編成した艦隊が待機しているのだ。
この糾合・編成した艦隊を第8艦隊として、デザリアム残党の攻略に投入されるのである。

「山南司令、友軍艦隊との合流宙域(ランデブーポイント)に到着しました」
「うむ」
「艦隊より通信。『我、出撃準備を完了す。いつでも出撃可能なり』」

気合十分、と見た。山南は艦橋越しに艦隊を眺めやった。
  しかし、今回は殲滅が目的ではない。被害を最小限に抑えての、敵降伏に追い込むのが最終目的だ。それに戦闘行為を行うのは、最期の手段。
まずはレーグの説得から様子を見るしかないのだ。

「司令、敵は降伏してくれるでしょうか」

  声をかけてきたのは、山南の座る席の後方からだ。それは、34歳程の防衛軍軍人で、第7艦隊作戦参謀 楊 趙李(ヤン チョウイ)准将である。

「分からんな。レーグ少尉の話では、残党司令官はかなり硬派な人物だと言う事だ。考えたくはないが、最悪の場合‥‥‥」
「戦闘に入らざるをえない、という事になりますか」
「かもしらん。戦闘による死が相応しいと考えているようだからな」

そう言う山南の肩は重いものに思えた。兵士までも巻き添えにするという考えには、いかに武人とは言え賛同できるものではない。
こう言った武人は、玉砕あるまで戦う可能性もある。が、逆に言えば司令官座乗の旗艦を潰してしまえば、あるいは‥‥‥。
  とはいえ、現在の地球に残されている機動戦力は残存兵力の盛り合わせと言った具合だ。一番真面なのは第7艦隊のみだと言えるかもしれない。
その第7艦隊は残存兵力を糾合した他、臨時編成された第8艦隊、および第9艦隊と第10艦隊を揃えていた。
その臨時編成された連合艦隊の陣容は以下のとおりである。

第7艦隊(38隻)――
・戦艦‥‥‥旗艦〈シュンラン〉 1隻、旧ドレッドノート級戦艦 4隻、クレイモア級無人弩級戦艦 3隻
・空母‥‥‥伊勢(イセ)級戦闘空母 2隻
・巡洋艦‥‥‥ザラ級巡洋艦 12隻
・駆逐艦‥‥‥吹雪級駆逐艦 10隻、レイピア級無人重駆逐艦 6隻

第8艦隊(37隻)――
・戦艦‥‥‥旗艦〈ネメシス〉 1隻、旧ドレッドノート級戦艦 4隻、ホワイトバトラー級戦艦 2隻
・空母‥‥‥伊勢級戦闘空母 1隻、ホワイトスカウト級空母 2隻
・巡洋艦‥‥‥ザラ級巡洋艦 9隻、ホワイトスター級巡洋艦 3隻、ホワイトランサー級巡洋艦 3隻
・駆逐艦‥‥‥吹雪級駆逐艦 8隻、ホワイトパイカー級駆逐艦 4隻

第9艦隊(31隻)――
巡視(パトロール)艦(軽巡)‥‥‥アルジェリー級パトロール艦 7隻
護衛(フリゲート)艦‥‥‥プラント級フリゲート艦 24隻

第10艦隊(31隻)――
・パトロール艦‥‥‥アルジェリー級パトロール艦 7隻
・フリゲート艦‥‥‥プラント級フリゲート艦 24隻

主隊となる第7艦隊と第8艦隊、遊撃部隊となる第9艦隊と第10艦隊、総計137隻の混成艦隊となった。

「残存艦隊で編成された艦隊で、どこまでやれるだろうか‥‥‥」
「大丈夫ですよ。不意打ちこそ受けましたが、彼らはゲリラ戦で持ち堪えて来たではありませんか」

心配になるのも無理はなかった。実はこの艦隊の中に、〈ヤマト〉を始めとする十数隻の艦艇も編入する予定であったが、それはある理由で取り消した。
それはデザリアム残党軍の地球本土への直接攻撃の可能性だ。地球艦隊が居なくなったところを叩くことも十分にあり得る。それだけの戦力を相手は有しているのだ。

「補給能力のなくなった彼らが、地球に進撃してくるというのは、あまり考えられないと思うが‥‥‥参謀はどう思う」
「ハイ。可能性としては低いと考えます。ですが、相手が自暴自棄になった場合は、十分にあり得るかと」
「その場合、我々も戻らねばならなん。〈ヤマト〉らも、どれだけ時間を稼げるか」

本土奇襲に不安を隠せない2人。
  防衛軍に残された戦闘艦は、上記よりも本当は多くあった。第1外周艦隊を始めとした主力艦隊らは各基地内に放置されたままだ。
ならばそれらを参加させれば良い話ではないか、と思いたくなるがそうもいかない。例のハイペロン爆弾の影響で、中に乗る人間側が全滅しているのだ。
乗る人が居なければ、何の役に立たない。それに各基地へ兵員を送り出す余裕もなかった。デザリアム残党の襲撃を受ければ目も当てられないだろう。
  特に第8艦隊に至っては、鹵獲した艦艇が混ざっている。敵国の艦船を使うのは士気に影響するなどと言う輩も多い。
しかし、いつまた敵に狙われるかわからない地球の事を考えれば、1隻でも戦力は多い方が良いに決まっている。
それに毛嫌いするばかりではなく、敵艦船の技術力を盗むことも重要だ。事実、ガトランティス製艦船の優れている点が明らかになった。
  例として挙げるならば、それは居住性であろう。ガトランティスは各星系間の間を移動し続ける国家である。
それ故に、艦隊も航続距離および居住性の拡充も必須なのだ。

「しかし、あの爆弾1発で、どれだけの兵士が命を奪われたことか」
「‥‥‥司令のお気持ちは、お察しいたします。ですが、だからこそ、生き残った我々は、若者に明日を生きる道を開かねばなりません」
「そうだな。今更ながら、軍人とは罪深いものでもあると、常々考えさせられるよ」

そしてまた、若者の命を奪う戦闘を開始するとなると、気の重くなるものだ。
  しかし、いつまでも感傷に浸るわけにはいかない。気を取り直した山南は、合流した艦隊を海王星に向けて進めるよう、指示を出す。
予定としては、火星軌道を抜けた後に、ワープにより天王星軌道上まで飛ぶ。そこから一気に海王星まで前進、デザリアム残党軍が出撃する前に基地を包囲。
その上でレーグによる説得を開始するものだった。
  だが基地に居ない可能性もあり、海王星周辺で陣を張っている事も有り得る。その時も説得を試みるが‥‥‥。

「司令、火星軌道を抜けます」
「全艦隊、ワープ準備完了」
「よろしい。全艦隊、これより天王星へとワープする。秒読み始め!」

オペレーターが秒読みを開始する。瞬間、全員が緊張に包まれ、そのカウントが遂に0を差した。

「ワープ!」

山南の号令により、地球艦隊は一斉にその宙域から姿を消した。





  地球防衛艦隊は予定通りに航路を進んだが、その先に待っていた展開は最悪だ。海王星より10万qの位置に、目では視認しにくい艦影が多数あったのだ。
その数は200余隻の大艦隊だ。全てが黒い塗装をしており、円盤型の艦体に塔上の艦橋を備え付けた外見を持つ戦闘艦群はデザリアム特有のもの。
これこそが、デザリアム残党の艦隊であり、その陣容は以下の通りだった。

デザリアム残党軍艦隊(203隻)――
・空母‥‥‥ドムドーラ級戦闘母艦 1隻、ドウラム級宇宙母艦 6隻
・戦艦‥‥‥ゴルテウス級戦艦 35隻
・巡洋艦‥‥‥ネリデウス級巡洋艦 63隻
・駆逐艦‥‥‥ガリネルス級駆逐艦 98隻

地球艦隊とは大きく差を付けていた。戦艦の数にしても、地球艦隊は15隻しかない。この戦力差を打開するには、波動砲しかないだろう。
  だが、デザリアムそれは承知している。残党軍旗艦を担っているドムドーラ級戦闘母艦〈ラグレウス〉艦橋では、早くも地球艦隊の出現が報告されていた。

「イェーガー司令、偵察機より報告! 地球艦隊が第7番惑星(天王星)軌道上に出現!」
「やはり来たな。我らに止めを刺そうと言うのだろうが、甘く見ては困るな、地球人」

当残党軍を纏めているイェーガー大佐は、屈強そうな身体で堂々と艦橋に立っていた。武人の風格を滲み出させている彼は、全く動揺する気配も見せない。
数にして彼らは1.5倍以上の戦力を保有している。それに地球艦隊は万全ではない事が、偵察隊の綿密な調査で明らかになっている事もあるだろう。
レーダーに表示される地球艦隊が、天王星から前進を開始した。砲撃戦までは十分に時間がある。
  彼は戦闘準備を下令した。

「全艦、戦闘配備に付け! 空母艦隊は艦載機の発艦準備掛かれ!」
「了解!」

幕僚が復唱し、戦闘準備を進めていく。

(地球人共め、我が祖国を屠り去ったその代償、高くつけさせてもらうぞ)

祖国の敵討ちだと意気込むイェーガーであったが、そこで地球艦隊側からの通信が入ったとの報告を受ける。これに対して、最初は無視しようかと考えた。
  だが、どうせ戦うのであれば、威勢よく相手に名乗り上げても良かろう。デザリアム軍人としては数少ない、武人精神を持つ彼らしいやり方であった。
さらに、せめて相手の顔を見ておくのも一興かとも考えたのだが‥‥‥。
  数秒してから通信スクリーンに現れたのは、山南であった。成程、歴戦たる風格を持っているようだが、果たして何を言ってくるか。

『私は地球防衛軍、第7艦隊司令 山南 修中将だ』
「デザリアム帝国軍艦隊司令、バクストル・イェーガー大佐だ」

降伏勧告は受けぬぞ。と言わんばかりに威圧するイェーガーだが、案の定、山南が口に出したのは停戦および降伏勧告であった。

「降伏勧告とは、笑止千万! 武人たるもの、戦わずして降伏する事などあり得ぬ!」
『‥‥‥我々は無駄な犠牲を好まない。私も武人の端くれ。貴官らの処遇を最善のものとすると約束する』
「ならん、断じて受け入れぬ!」
『‥‥‥では、私ではなく、この者からも言わせてもらおう』
「‥‥‥っ!? 貴様は‥‥‥」

いざ画面に誰が出てくるかと思いきや、それは同じデザリアムの軍人だった。

『アレリウス・レーグ少尉です。閣下、私からもお願い申し上げます。どうか、無益な戦闘を控えては下さいませんか』
「‥‥‥ほざくな!!」

これが同じデザリアム人だと? 冗談じゃない、敵に身を預け、あまつさえ我らに降伏しろと抜かしおる。デザリアムを名乗る資格さえない、虫唾が走るわ!
罵るイェーガーに対して、レーグは屈せずに説得を試みた。
  だが、イェーガーの鉄壁の如き意志を挫くには、圧倒的に戦力不足であった。

『貴様も地球艦隊もろとも、聖総統の待つヴァルハラへ送ってやる! 覚悟するがいい、レーグ!!』
「待って下さい――っ!!」

そこで通信は強制的に切られた。〈シュンラン〉艦橋で砂嵐になったスクリーンを、不甲斐ないと言わんばかりに見るレーグがいた。
ある程度は予想していたとはいえ、ここまで反発されるとは‥‥‥。

「‥‥‥申し訳ありません」
「気にせんでよい、少尉。こうなってしまっては、致し方が無いのだ」

落胆するレーグの肩に手を掛ける山南。参謀の楊も同情の目を向ける。

「提督、敵艦隊が動き出しました!」
「小型反応多数‥‥‥艦載機隊を発艦させた模様!」
「数は?」

レーダーに次々と映る光点に、楊は詳細を求める。
  デザリアム残党軍が発艦させたのは戦闘機と爆撃機の連合部隊、推定350機前後である。空母数からして相手が上回っていた。
地球軍の空母は5隻とそこそこであるのだが、やはり中途半端な戦闘空母であるが故に、数はそう多くはない。
伊勢級戦闘空母は旧ドレッドノート級戦艦を媒体としているもので、艦橋や主砲を艦の中心軸から右舷側に寄せ、そこにアングルドデッキを設けたものである。
搭載数は1隻辺り35機から40機程度で、他国空母に比べ搭載数は少ない。鹵獲艦ホワイトスカウト級は50機程度で、全体で210機前後しかなかった。

「空母戦隊は迎撃機を至急発艦!」

  山南の指示で戦闘空母群から次々と発進する艦載機〈コスモタイガーU〉。デザリアム残党軍の戦闘機性能とは互角と言ってよく、その分地球側が不利に傾く。
デザリアムの保有する戦闘機は3種類存在する。砲座を取り付けた円盤型戦闘機と、空間制圧に威力を発揮する重戦闘機である。
一番厄介なのは、エース級戦闘機とされる芋虫型戦闘機である。元々は攻撃機(雷撃機)であったのを、機関部高出力化を図る事により戦闘機に変貌した。
だが今回はその機体の反応は見られない。このタイプは高出力ジェネレーターを搭載している分、判別もしやすい特徴があるためだ。





  互いの艦隊の中間地点付近で、艦載機同士の激突が始まった。一歩も譲らない近接格闘戦(ドッグ・ファイト)を数分続けていたが、それも直ぐに均衡を崩した。
円盤型爆撃機に、芋虫型攻撃機の攻撃部隊が地球艦隊目がけて襲い掛かろうとしていた。

「敵編隊、迎撃網を突破!」
「コスモスパローで捕捉次第、迎撃! その後は、各艦の判断にて対艦載機戦闘を開始!」

  〈シュンラン〉艦橋に、山南は迎撃指示を命じた。迎撃用ミサイルが各艦から一斉に発射され、デザリアム艦載機隊の先頭集団を次々と叩き落していく。
そしてミサイル迎撃距離の死角に入る頃には、今度はパルスレーザーによる射撃が開始される。その弾幕は濃密という言葉がピッタリであろう。
〈ヤマト〉程ではないにせよ、機銃群の精密な射撃と弾幕は正確に艦載機を撃ち落としていく。機体を貫通され操縦不能になったところで僚機に衝突する機もあった。
防御を掻い潜って襲いかかって来たのは、150機前後であったが、結果的には損害を与える事に辛うじて成功していた。
  だが、デザリアム残党軍の攻撃機隊が、艦隊への攻撃を開始している最中に、早くも変化が訪れた。

「敵艦隊、急速に距離を縮めつつあります! 主砲の有効射程までおよそ5分!」
「‥‥‥なるほどな。艦載機隊で我々が身動きの取れぬ間に、懐に飛び込もうと言う魂胆か」

山南が腕を組んで感心する傍ら、参謀の楊も頷きつつも顎に手を当てながら同意した。やはり波動砲を警戒している証拠なのだろう。
レーグ少尉の話では、空間歪曲波発生装置は存在してないとの事である。目の前の行動が、それを証明した。イェーガーとやら軍人も優秀なようだ。
  とはいえ、このまま波動砲を使えないのでは、数に劣る我々は圧倒的に不利であるのは明白。それに味方艦載機ごと撃つ訳にはいかない。
だが迷えば迷う分だけ、相手は接近してくる。艦載機隊も、自分らが引けば艦隊を狙われると考えてか、反撃している。

「‥‥‥艦載機隊は至急、波動砲の射線上から離脱せよ」
「しかし提督、敵艦載機は今も我が艦隊に取りついております。それにチャージ中は丸裸になりますが‥‥‥よろしいのですか?」
「第1護衛艦隊に通信、波動砲戦準備だ。他の艦隊は対空防御を行いつつ、波動カートリッジ弾を至急装填!」

波動カートリッジ弾は〈ヤマト〉の真田と大山が開発した兵器だ。防衛軍全体に支給されてはいないが、デザリアム本星攻略に同行していた第7艦隊は有している。
  ただし、間に合わせ程度で作っているに過ぎない為、数はたかが知れていた。この会戦で直ぐに使い果たすのは間違いないが、出し惜しみしている場合ではない。

「有効射程まであと2分!」

相変わらずデザリアム艦載機隊粘り強く、地球艦隊に攻撃を仕掛けてきている。弾薬が尽きても機銃で攻撃してくるほどだ。
勇猛果敢な彼らの攻撃で撃沈されたのは、巡洋艦1隻に駆逐艦3隻、護衛艦4隻である。戦闘不能に追い込まれた艦もおり、巡洋艦1隻に駆逐艦2隻、パトロール艦1隻、鹵獲空母も含まれ、計4隻になり、合計で12隻が艦隊から脱落した事となった。
  デザリアム攻撃隊も、なかなかやってくれるではないか。山南はそう呟く――だが、反撃はこれからなのだ。

「敵艦載機隊、離脱を開始!」
「逃げる艦載機は放っておけ」
「司令、砲撃準備が整いました!」

うむ、と山南は頷いた。第9艦隊も直ぐに前進できるように待機させていた。まずは、主砲の一撃で足止めするのだ。
  波動砲の有効射程まで1分30秒を切った時、彼は命じた。

「主砲、一斉射!」
「射ッ!」

第7艦隊所属の艦艇群から、エネルギー弾ではなく実弾兵器が飛び出した。狙うは前進してくるデザリアム残党軍の艦隊だ。
まだ射程内ではない為か、じっと我慢していたイェーガー大佐率いるデザリアム残党軍。数で圧倒してくれると意気込む先で、あの鋼鉄の如き刃が飛び込んできた。
  その発砲炎は旗艦〈ラグレウス〉からでも確認できた。

「地球艦隊の一部、砲撃を開始しました!」
「何‥‥‥っ!?」

すると1隻の戦艦に命中し、途端に大爆発を引き起こした。強固な戦艦が実弾1発で粉砕されてしまったのだと悟るのに時間は掛からなかった。
乗っていた艦長や兵士達も、何が起きたのか理解する暇もなかった。他の艦艇も同様の衝撃が将兵の間に流れてしまい、早くも浮足立ち始めている。
波動カートリッジ弾が1発命中するだけであるのに、轟沈していくその様子にはイェーガーも驚きを禁じ得なかった。

「な、何だ、この威力は! 今までの戦闘データに、これほどの威力がある兵器は聞いていないぞ!」

実弾兵器なのは察しがついたが、その威力が桁違いだ。地球はもう、この様な兵器を開発して前線に配備してきたのか!

「閣下、先の砲撃で、我が方は14隻余りの艦艇を失った模様!」

  兵士も動揺している。味方艦艇が10隻以上失われるとは思いもしなかったのであろう。ロングレンジでこれほどの打撃を与え得るとは考えもしない。
デザリアム帝国は、タキオン粒子を極めて嫌う。それは、自国のエネルギー性質がタキオン粒子と過剰に反応し、最悪の場合は融合反応で大爆発してしまうのだ。
  だがそれも、波動砲を撃たれた場合。通常の兵器は陽電子ビーム砲の類いだと判明している為、これで融合反応を引き起こす事は無い筈であった。
あまりの被害に数に、馬鹿な! と叫ぼうとするや否、それを許さぬ事態が彼を襲った。

「前方の小型艦艇群が前進。タキオン反応増大っ!? こ、これは‥‥‥っ!」
「波動砲か!!」

と分かった刹那、前方に並んだパトロール艦と護衛艦、30隻前後の艦首が一斉に眩い閃光を放った。それらエネルギー弾が、艦載機隊を巻き添えにしつつも、砲撃で混乱しかけたデザリアム艦隊を飲み込んでいってしまったのだ。
小口径な為に広範囲を巻き込む事は出来ないが、小さくても波動砲だ。戦艦、巡洋艦、駆逐艦は尽くがこれに飲み込まれるか、タキオンの余波を受けて融合爆発する。
  閃光が収まった後にスクリーンを見て、イェーガーは愕然とした。200隻もの艦隊が、瞬く間に140隻にまで減っていたのだ。
まさか、チャージ時間が予想よりも早いとは! 波動砲はチャージの掛る兵器である事は知っていた。しかし、通常よりも半分もの時間で発射してしまうとは‥‥‥。
チャージ未了でも威力が小さくとも波動エネルギーというだけで此方は致命傷だ。

「司令、左翼部隊の3割が消滅!」
「我が中央部隊も3割近くが失われました!」
「おのれぇ‥‥‥!」

たかが護衛艦やパトロール艦如き集団に、これほどの被害を受けるとは! イェーガーは幾分か、これらを過小評価していた節があったのは事実であろう。
しかし波動砲は全てが時間の掛かる兵器であると認識していたのが、そもそもの間違いであった。高威力を求めなければ、短時間で発射も可能なのだ。
拳を強く握りしめるイェーガーだが、地球艦隊もすかさず追撃を仕掛けた。
  防衛軍旗艦〈シュンラン〉にて、勝機が来たと言わんばかりに、山南は行動に出た。

「全艦隊、右斜型陣に展開! 敵左翼部隊の左方にから圧力をかける!」

地球艦隊は中央左翼に第7艦隊、中央右翼に第8艦隊、最左翼に第10艦隊、最右翼に第9艦隊を配置していた。右翼の第9艦隊は快速を生かして前進を開始する。
それに続いて第8艦隊も前進。艦隊は素早く斜めの陣形を形成した。
  その間、デザリアム残党軍は波動砲の攻撃もあって、混乱から回復しきれていない。しかも地球艦隊が狙ったのは、混乱しているデザリアム残党軍の左翼部隊だ。
その隙を、先頭を突き進む第9艦隊は見逃しはしなかった。

「全艦、魚雷一斉発射! 敵左翼の横っ腹に蹴りを入れてやれ!!」

  第9艦隊旗艦 アルジェー級パトロール艦〈出雲(イズモ)にて、第9艦隊司令官 東郷 龍一 大佐は、魚雷による先手に打って出た。
30隻もの艦首から魚雷が打ち出され、獲物目がけて飛翔していくと、デザリアム左翼部隊は陣形を崩したまま、迎撃に出てきた。
ガリネルス級駆逐艦は対抗してミサイルを打ち出し、巡洋艦も対空火器とミサイルで迎撃戦を展開していく。
光球を幾つか造りだし、辺りを照らし出したと同時に、今度はビームが飛び込んでくる。それは護衛艦隊からではなく、後続の第8艦隊からのものであった。
防衛軍の主力兵器であるショックカノンが、デザリアム残党軍の駆逐艦や巡洋艦を撃ち抜いた。それは戦艦が成し得る威力と言えよう。
  旧ドレッドノート級戦艦が圧倒的火力を押し出すだけではなく、鹵獲改造戦艦ホワイトバトラー級戦艦の主砲もデザリアム艦を破壊していく。
元々はガトランティス製であるのを改造した際、あの衝撃波砲を参考にした艦橋砲の威力も凄まじいものだ。
艦橋構造の最下層にあたる部分に、衝撃波砲2門が残されている。口径が通常主砲よりも大きな52cm口径を搭載していた。
難点は正面にしか打てない事であるが、それでも余りある性能を叩き出していた。撃たれ弱い巡洋艦等、真っ二つになって轟沈する。

「陣形を崩すな! こちらも奴らと同じ陣形を取り、戦線を支えるのだ!」

  イェーガー大佐は自軍の艦隊を回線を通じて激励し秩序を保とうとしたのだが、一度崩れた士気を回復させるのは容易な事ではなかった。
既に波動砲の恐怖が、兵士の心に浸透しているのだ。

「左翼部隊、6割以上を損失! 支えきれません!」
「左翼旗艦〈デルゴラV〉通信途絶!」
「何だと!」

この時点で、いや、波動砲を撃たれた時点で負けていたのかもしれない。左翼部隊は頭を失い、崩壊のスピードを上げていった。
それだけではない。崩れた挙句に押し戻された残存艦が、中央部隊を巻き添えにしていくのだ。地球艦隊は見事に端からの切り崩しに成功していったのである。
  デザリアム右翼部隊は、味方の窮地を救おうとして逆に罠に掛かってしまった。地球艦隊左翼――第7艦隊と第10艦隊目がけて突進した。
それを予期していたのか、あるいは咄嗟の判断か、こちらも魚雷群の網に掛かったのだ。足を止めたデザリアム右翼部隊に、第7艦隊と第10艦隊が押し返しを図る。

「敵左翼部隊、壊滅!」
「第8艦隊と第9艦隊は、そのまま敵中央を抑え込むのだ。我らも敵右翼部隊に砲火を集中!」

  圧倒的な戦術だ、とレーグは思い知らされた。我らの最初の勝利など、やはりまぐれでしかなかったのではないか。
ハイペロンの奇襲がなけれな、地球占領さえ出来なかった。無論デザリアム帝国内部にも有能な指揮官が幾らかは居たものだ。
イェーガーも凡庸ではないが、それに付いて行く兵士達の方に問題があったかもしれない。祖国を失ったという悲しみを怒りに変え、徹底抗戦と言うエネルギーに変換させているイェーガーとは違い、一般兵士はそこまで切り替える事が出来ないのだろう。
  やがてデザリアム残党軍は地球艦隊に押されてゆき、半包囲態勢を敷かれる立場にあった。しかし地球艦隊も無傷であったわけではない。
デザリアムの有する戦艦などは、地球戦艦に負けぬ重武装を施している。三連装主砲1基に、副砲8基を備えているのだ。
巡洋艦も対艦ミサイルなど豊富で、果敢に反撃を繰り返しているうちに、地球艦隊も戦艦2隻を失う他、10隻近い巡洋艦と駆逐艦を損失した。
  まさに激戦であると言えるが、それも次第にデザリアム側の砲火数が減って来ていた。

「敵艦隊、残り60隻あまり!」
「司令、もう一度降伏勧告を出しましょう。これ以上の犠牲は‥‥‥」
「‥‥‥そうだな。通信手、降伏勧告を送ってくれ」

山南も、これ以上の犠牲は出したくはなかった。砲撃戦の最中、降伏勧告を受けるデザリアム残党軍だが、やはり予想通りと言うべきかイェーガーは受け入れない。
 全滅寸前の艦隊を前に、イェーガーは最期の突撃に打って出た。

「このまま捕虜の身になれるものか。聖総統閣下に顔向けもできん! ‥‥‥全艦に告ぐ。全艦、彼奴らを少しでも多く、聖総統閣下の御前に跪かせてやるぞ!!」

それは特攻だ。イェーガーは兵士に反論させる余地も与えず遠回しに命じたのだ。残されたのは旗艦他、空母2隻、戦艦7隻、巡洋艦18隻、駆逐艦29隻のみ。
刺し違えようとするデザリアム残存艦隊に、地球艦隊は降伏させる選択を断念せざるをえなかった。
  動き出したデザリアム残存艦隊を前に山南も止む無しと判断する。

「落ち着いて狙え、集中的に叩くんだ!」

冷静に対応するよう、艦隊に厳命する。降伏を受け入れてくれぬ相手に、これ以上手加減は出来ない。地球艦隊は意識を切り替え、掃討戦に移った。

「11時50分に敵戦艦1隻!」
「全砲塔、11時50分の敵艦に照準!」

  〈シュンラン〉砲術長が命令を伝達していく。このネームシップたる〈シュンラン〉は、現時点で防衛軍内部では最高峰を自負する戦闘艦である。
決戦兵器である波動砲を3門、四連装主砲5基、三連装副砲3基と桁外れの重武装に加え、堅牢な防御性能と指揮能力を兼ね備えた、総旗艦に相応しい外見も持つ。
  その主砲3基と副砲3基が、迫りくる戦艦に狙いを定める。自動追尾装置の照準がグリーン――即ちロック・オンを示した。
同時に戦艦も主砲を乱射する。刺し違えてやると言わんばかりの気迫を感じるが、そのビームは残念ながら届くことは無い。
〈シュンラン〉に搭載されている、波動防壁がそれを弾いたのだ。そして、今度は自分らが撃つ番である。

「射ッ!」

  砲術帳が発射を命じた。砲身から撃ち出された青白いエネルギー弾24発が、迫る戦艦を直撃する。直撃を受けたその戦艦は、艦中央部を真正面から撃ち抜かれる。
さらに副砲を数基削ぎ取られ、その高い艦橋も中央部から吹き飛んでしまった。瞬間、光と熱が噴き出して轟沈していった。
だが予断は許されない。その爆炎の中から新たな巡洋艦が姿を現したのだ。死にもの狂いになった相手程、恐ろしいものはない。

「休むな、撃て、撃ちまくれ!」

  対するデザリアム残存艦も、苛烈な砲火の中を掻い潜りながらも砲撃を続ける。ある駆逐艦は、護衛艦と零距離射撃で相討ちになる。
中には操舵不能のままのデザリアム残党軍の巡洋艦が、地球の巡洋艦と衝突し轟沈するのだ。
無傷では済まされないものだったが、それもやがて終焉を迎えた。

「奴を‥‥‥せめて旗艦と、あの汚れきったレーグめを道連れにしてやるのだ! 全砲門を奴に集中ッ!!」

血走った目で、イェーガーは叫んだ。この時点で残るは旗艦〈ラグレウス〉他、戦艦2隻に巡洋艦4隻、駆逐艦7隻。
  最期の抵抗が始まった。第7艦隊に艦首を向け、さらに旗艦〈シュンラン〉へと的を絞ると、残存艦は一斉に駆け出した。

「〈シュンラン〉に砲火が集中しています!」
「如何、奴らを通してはならん!」

東郷は残るパトロール艦と護衛艦を率いると、突撃中のデザリアム残存艦の左側面に打撃を加えた。
  だが小口径の主砲では、巡洋艦や駆逐艦を仕留めるので精一杯だ。他の艦隊も東郷の素早い反応に刺激され、全火力を残存艦隊に集中させた。
数百と言う火線がデザリアム残存艦隊に飛び込み、撃砕していく。駆逐艦は一撃で粉微塵となり、巡洋艦ものた打ち回った挙句に轟沈していった。
戦艦でさえも、同種の戦艦相手の砲撃には耐えきる事は叶わなかった。
  そして残されたのは、旗艦〈ラグレウス〉のみとなる。既に幾つか被弾した〈ラグレウス〉は、その巨体から黒煙を噴き出していた。
巨体故であろう、いまだ戦闘能力を失っている様子はない。残った主砲と副砲、さらには機銃群が連続斉射されている。

「このままで終らせんぞ、地球人!」

艦橋内部も火災に見舞われている中、断固として戦闘姿勢を崩さないイェーガーは叫ぶ。〈ラグレウス〉に彼の執念が乗り移ったかのように、艦の前進は止まらない。
〈シュンラン〉に突撃してくる〈ラグレウス〉に、乗組員は気圧された。
  だが、山南は憮然とした様子で動じず、迎撃を命じるだけだ。

「ボサッとしている暇があったら、トドメをさすのだ。急げ!」
「ハ!」

もはや他艦も迎撃するには近すぎ、〈シュンラン〉を誤射しかねない距離にまで接近している。砲術長は急ぎ狙いを定めさせ、最期の一撃を加えんとした。

「斉射!」

砲身から放たれたショックカノンの全てが、尽く〈ラグレウス〉に吸い込まれるように命中した。艦前部は諸に吹き飛び、艦内へも爆炎が蹂躙していく。
共に激しい揺れに襲われる艦橋内部で、無事だったものは1人たりともいない。もはや操艦不能であることは、報告されずともわかった。
  火災が艦橋内部に充満していく中で、イェーガーは故障した身体を起き上がらせ、スクリーンを睨み付けた。

「‥‥‥無念です。聖総統閣下、私もそちらへお供を‥‥‥っ!?」

途端に彼は艦の誘爆に飲み込まれ、言葉を塞がれる形となった。

「敵旗艦、撃沈を確認しました」

  戦闘終了後、地球艦隊はデザリアム艦隊の抵抗により損害を被り、全体としての被害は3割に留まった。それだけ激しい抵抗であったことが伺える。
無事な艦も数少なく、大半は破口を作り、煙を噴き上げている。〈シュンラン〉は大した損傷もなく、戦闘継続が可能であった。

「終ったか、参謀」
「‥‥‥いいえ。海王星には、まだ敵の残党が潜んでいる可能性があります。それらをどうにかしませんと」
「そうだったな。損傷の酷い艦は、艦隊から離脱を許可する。最寄りの友軍基地へ赴き、修理に専念するように」

デザリアム残党軍主力は文字通り壊滅した。1隻残らず、である。その光景を終始見ていたレーグは複雑な心境だった。同時に自分の無力さも実感していた。
  所詮は一介の少尉に過ぎない自分が、上の者を止める事が出来る筈がない。落胆しているレーグに、山南もどう声をかけた物かと考える。

「少尉」
「すみません、山南司令。少しばかり、席を外させてもよろしいでしょうか」
「‥‥‥分かった」

彼もどうしていいのか分からないのだろうか。複雑な表情を作ったまま、艦橋を退室していった。その後ろ姿も、どう表現すれば良いのか分からない。
素直に降伏してくれれば、これ程の事にはならなかっただろう。等と考えてしまうのは、自分の行った行為に対する正当化にすぎないのだろう。
それでも最後の艦隊が全滅した為に、海王星基地のデザリアム人が士気を喪失し降伏したのは僅かな救いだったのだろう。それをレーグは少し後で知ることになる。






「しょ‥‥‥と‥‥‥まし‥‥‥よ」
「ん‥‥‥?」

  次第に微睡から覚めていく。如何、また眠りこけていたのか。

「少佐、到着いたしましたが‥‥‥」
「いや、すまん。眠っていたようだ」

目を開ければ、今度はシャトルの機内だ。どうもここの所、気付いたら寝ると言う事が多いな。眉間に指を当てながらも機長に感謝する。

「お疲れのようですね。ここの所、少佐は管理局に色々と手を差し伸べられているようですが」
「あぁ。そうかもしらん。兎に角、ありがとう」

そう言いつつも、彼はシャトルのタラップを降りたった。するとその先に居たのは、例の女性――マリエル・アテンザ技術主任だ。
青色のジャケットとタイトスカートに白のストッキング、その上に白衣を纏い、トレードマークの丸い眼鏡を掛けている、いつもの出で立ちである。
  彼女も心待ちにしていたようで、笑顔で出迎えてきた。

「ご足労をおかけしました、少佐」
「こちらこそ、お出迎えに感謝します。主任」

さらにマリエルの隣には、若い女性士官の姿もあった。そうだ、彼女がこの『D計画』の責任者、八神 はやて 二佐だ。
そして彼女の左肩には、地球にある空想物語に出てくる妖精のような少女が乗っている。我が祖国では到底、納得しえない魔力という存在。
それで造られたとも言える、ユニゾン・デバイス――リィンフォースUである。

「来て頂いた事、感謝します。レーグ少佐」
「こちらこそ、非才の身ですが、お役にたてればと思っています」

  階級的には彼女の方が上官である。だが、彼女は丁寧な口調で話してくれている。年下とは言え、ここまで丁寧に話されるのも、不思議な感じである。
挨拶を終えると、彼らは実験室へと向かうことになった。そこで、レーグの持ち出した資料と、例の計画とを見比べながら調整していくのだ。
徒歩で移動していく中で、ふと眠気が降りてくる。またか、と思いつつも再び眉間に手を当てるなりして、眠気を覚まそうとする。
  その様子に気づいたのはマリエルで、レーグに疲労が溜まっているのではないかと心配の声をかけた。

「大丈夫ですか、少佐。その、お疲れになられているのでは?」
「大丈夫です。ちょっと懐かしい夢を見ていたのですが、それが原因で寝付けなくて」
「夢ですか‥‥‥」
「はい。それも、遠い昔の話ですよ」

はやてにしても、やはり無理を強いて来たのではないかと不安になる。そう思わせないためにも、レーグは夢が原因ですよ、等と嘘を言う。半分は当たっているが。

「どんな夢なのですか?」

そう聞いてきたのはリィンフォースUである。はやては、レーグ少佐が困るやろ、と言って静止した。

「いえ、構いませんよ。時間が空きましたら、お話しいたします」
「いいんですか、少佐。その‥‥‥」
「八神二佐が気にするような事でもありませんよ。ただ、私が過去に体験したことですから」

それって、十分に気になるもんやないんですか、と言いたげなはやて。だがレーグにとってはただの過去に過ぎない。
  当時は確かに祖国が消滅したり、友軍が玉砕したりと衝撃的な出来事ばかりであった。とはいえ、その過ぎ去った過去をいつもでも引きずるわけにもいかない。
戻らない過去に縛られるのではなく、目の前の新しいことを目指して行こうではないか。悔やみ継深けて時間を浪費するのは、割に合わないのだ。
そう考えるあたり、さすがは機械の祖国出身と言えるかもしれない。少々心配な様子の2人を余所に、これからの計画を練るレーグであった。




〜〜あとがき〜〜
どうも、しばらくぶりです。
今回は本編ではなく外伝を書かせていただきました。
本編を書きつつ、こちらを仕上げたので、時間がかかりました。
今後も、いくつかの外伝を書き上げようかと思いますので、よろしくお願いいたします。

それはそうと、ヤマト2199の第3章、放映されましたね。
私も見に行きましたが、今回は涙を流すばかり(良い意味で)です。
原作同様に戦死するシュルツ司令ですが、キャラクター像を深く掘り下げられた本作では、より涙を誘います。
同様にロボット同士の交流の回も、涙もの(個人的な差は大きいです)。
それと、あのゲールが旧作以上に小物・外道化していましたw
迷彩柄のガミラス艦も、登場シーンが短いですが見ものです(何せセル画では難しいですしね)。



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