外伝『ガルマン軍、東へ(前編)』


  地球・エトス・アマール連合艦隊が、ボラー連邦軍5個艦隊を大敗に追いやったアルデバラン星域の会戦が終結して、凡そ3日後の事だった。
地球連邦が戦力の再建で知りようがなかったが、天の川銀河の北部宙域にてガルマン・ガミラス帝国とボラー連邦との本格的な攻防が開始されていたのである。
ガルマン帝国軍 6個空間機甲軍団(3600隻前後)の大戦力は、本星からの作戦目標第1段階を遂行する為に各々の戦場宙域で進軍を開始した。
どの艦隊も勇猛さを持って前進を開始し、国境沿いを護るボラー連邦艦隊や、制圧目標の各星系に襲い掛かったのである。
  天の川銀河中心核から直接に伸びる3kpc腕があり、その1つ外側には、じょうぎ腕と呼ばれる椀があった。
その星の群集にある目標星系の1つ、ボラルーシ星系は有人惑星のある有力な星系だ。これを攻略せんと迫るのは、ガルマン帝国 第2空間機甲軍団(以後、第2軍団)およそ600隻の艦隊戦力であった。
対当するのは、当星系の守備艦隊と急遽増援を受けた3個艦隊だ。戦力は547隻。ボラー基準で4個艦隊に相当するものだった。
そして、この星系は親ボラー派の国である。勿論武器や戦闘艦は全てボラー譲りだが、過去の教訓からボラー本国艦隊と同等の戦闘艦艇を配備している。

「監視衛星よりガルマン艦隊発見!」
「第7惑星ローの軌道上まで約10分」
「数、およそ120隻!?」

  赤く塗装されたボラルーシ警備艦隊旗艦 ラジェンドラ級大型戦艦〈エデロフ〉に緊張が走る。地球換算で63歳のボラルーシ星の軍人――司令官ロト・マースドック少将も指揮席で反瞬だけ緊張に支配され、直ぐに命令を発した。

「スターク中将に救援要請しろ! 全艦に緊急集結命令、および第一級戦闘配備!」

ボラルーシ艦隊は総計200余隻。警備体制を敷く為に分散させていた部隊に集結を命じて艦隊再編を開始したのだが、生憎彼の基にあるのは100余隻あまり。
残りの100隻が合流するには約15分程掛かり、肝心のボラー連邦軍の増援が到着するまで凡そ20分は掛かる見通しであった。
  また彼が気にしたのは発見された艦隊が1個艦隊規模と、手元にある戦力と概ね互角という点である。もっといてもおかしくはない筈だが、別戦力は見当たらない。
恐らくは分散している可能性が高いのだが、それを気にしていても仕方がない。もしボラー連邦増援艦隊に殺到しているのであれば、一刻も早く目前のガルマン帝国軍の一部艦隊を叩き、然る後に増援艦隊と合流しなければならないのだ。
まず上手く行けば、目前のガルマン帝国軍の艦隊を、同じボラルーシ警備艦隊の別働隊と挟撃することも可能であろう。

「まずは目前の敵を殲滅する。属州と見下す報いをくれてやるのだ」

彼はそう信じて自軍の艦隊を再編を5分以内に終えつつも、同時に艦載機攻撃を配下の空母部隊に命じたのである。
  一戦局での戦力比は大したことは無いが、なるべく前に出ず防御に徹して時間を稼ぐ。それがマースドックの戦術思考であり、幕僚もそれに賛同していた。
ヴォロフルト級大型空母やグム・ヴォルト級空母から総勢200機あまりの艦載機が発進し、迫り来るガルマンの第2軍団に爆弾のスコールを見舞おうとした。
艦載機攻撃隊による先手を打って怯ませ、戦局のペースを自分らに持ち込もうとするマースドック少将の表情には多少なりとも落ち着きがあった。
  だが、第2軍団はこの動きを既に読んでいた――いや、知っていた。彼らが念入りに飛ばしておいた、隠密偵察機〈スマルヒV〉がそれを目撃していたのだ。
第2軍団総旗艦 兼 第6空間機甲師団旗艦 ガルドローマ級〈シューバッツ〉の艦橋で、地年齢換算62歳、白髪で右目に眼帯をした軍人が口元に笑みを浮かべた。

「瞬間物質移送機作動! 艦載機諸君を派手に歓迎してやれ!!」

そう命令したのと、ボラルーシ艦隊の第1次攻撃隊が奇襲を受けたのはほぼ同時であった。上下左右からガルマン戦闘機〈ツェルテラーU〉の大群が襲い掛かるのだ。
待ち伏せを食らった彼らは編隊を崩し、数分もしない内に6割が撃墜されてしまった。
  マースドックは、その被害の割合に唖然としてしまう。残る艦載機隊は完全に戦意を損失したあげく、敗走を始める始末だったのだ。
これでは友軍が来るまでに持ち堪えられない、と判断して後退しようと命じるのだが‥‥‥。

「ミサイル一斉発射!!」
「発射ぁ!」

  第6師団から100余りのミサイルが一斉に宇宙空間へと飛び出した。解き放たれた獰猛なハンター達は、目前の獲物目がけて高速で飛翔する。
発射と同時に指揮官が矢次に命令を飛ばした。相手に対応策を練らせる時間を与えることなく、一気に撃滅しようとしたのだ。

「第13、14駆逐戦隊は突撃し、側面から敵艦隊を分断せよ!」
『ハッ!』
「第13、14空母戦隊は後方に下がり待機! 第15、第16駆逐戦隊、及び第13、第14打撃戦隊は直進し、敵艦隊正面に火力を叩き込む!」

眼帯の男――第2軍総司令官 兼 第6師団司令官シー・フラーゲ上級大将は、熱血と言う言葉を具現化したような初老の男である。
ミサイルが飛翔した数秒後には、ガルマン帝国軍の2個駆逐戦隊(巡洋戦艦2、巡洋艦8隻、駆逐艦20隻)が、2個縦列隊を成して急加速を始めた。
それはワープスピードまで出さんとする速度である。本隊他、残る部隊は紡錘陣形を取ってボラルーシ警備艦隊の真正面へ突進を開始する。
  そんな彼の姿を、他の師団長や幕僚陣は、羨望と諦観が入り混じったような複雑な顔をしているのだが、当人は意に介さない。

(フラーゲ閣下には、もう少し御自重してもらいたいものだが‥‥‥)

彼は軍団長なのだ。本来なら後方か中央で陣取って全軍の指揮を執るべき男である。彼は根っからの水雷屋専門の軍人であり、その軍歴は旧ガミラス時代まで遡る。
ガミラス崩壊後、ガトランティスのデスラーの下に馳せ参じ、〈ヤマト〉復讐戦に参加。その後のデザリアム採掘艦隊との戦闘でも得意の宙雷戦(雷撃戦)を発揮。
ガルマン建国後も一流の水雷屋として名を馳せた。問題がるとすれば、先のように自ら突撃戦を買って出しまう点であり、他の幕僚や同僚が心配する種でもある。
  一方のボラルーシ艦隊は、最初に放たれたミサイルから身を護る為に、航空機やミサイルの迎撃を巡洋艦と駆逐艦が前進して迎撃ミサイルにて対応する。

(迎撃できない数ではない。寧ろ相手の放った数にしてはやや少ない気がするが‥‥‥)

そう思ったのと、第6師団の変化はほぼ同時であった。迎撃ミサイルと第6師団のミサイルが交差した瞬間、自爆を始めたではないか!
それもかなり強力で、その方面に対する視界とレーダーの機能を一時的に奪ってしまった。これを我が艦隊内部で使うつもりだったのか?
  いや、そうではない。これこそがフラーゲの待っていた瞬間であったのだ。

「て、敵分艦隊が急速接近! 早すぎる!?」
「迎撃しろ、あんな速度では、相手のビームは当たりはせん!」

至極まっとうな事である。いくら光速に近いスピードが出せるとはいえ、速度制限を掛けねば攻撃できないのだ。それは何処の国も同じ話で、地球も例外ではない。
しかし、ガミラス時代の古参フラーゲの基本戦術は機動戦術による一撃離脱戦法(ヒット&アウェイ)だ。それ故、艦隊乗組員も戦闘速度限界を体に叩き込まれている。
さらには先の一時的な電波妨害(ジャミング)により、マースドックは正面のフラーゲの動きを把握できない。迎撃しようと砲撃するも、被弾の1つもしなかった。

「あ、当らない!」
「奴ら、あんな速度で‥‥‥!?」

ボラルーシ艦隊の右舷側に回り込んで来た第13、14駆逐戦隊はある程度は速度を落とした。それも平均水準の艦隊では到底真似できない芸当である。
  ボラー特有のエメラルド・グリーン色のビーム砲が虚しく空間を突き進む中、ガルマン帝国軍 駆逐戦隊のガルメリア級巡洋戦艦、バーガー級巡洋艦、カリステラ級駆逐艦の砲門が敵を捕らえた――!

バイズラック(平らげろ)!」


第13駆逐戦隊長 オルフェン・グメッツ大佐が叫ぶ。戦隊旗艦 ガルメリア級〈ハーヴェン〉の三連装カノン砲塔4基、速射輪胴砲塔2基が発砲した。
それと同時に、駆逐艦の速射輪胴砲塔3基が発砲した。100を超えるビームが、雨あられとボラルーシ艦隊の右舷を襲った。
陽電子ビームカノン砲塔から放たれるビームは、放射時間と威力が高いのが特色である。使い方次第では、薙ぎ払うように撃てば敵艦艇を溶断する事も可能だ。
  前面に出していたボラルーシの巡洋艦隊と駆逐艦隊が、艦尾から艦首にかけて装甲を溶断されて次々と爆沈していった。
電磁幕で辛うじて防ぎきる艦もいたが、そこで第2射が襲う。速射輪胴砲塔は、威力は平均並みで貫通力はカノン砲程ではないが、1秒間に1発という間隔で連射を可能としており、それが電磁幕の弱まったボラー艦に食らいつく。

「駆逐艦〈ペンシャ〉轟沈! 巡洋艦〈ボーモ〉大破!」
「くそ、第3警備艦隊は反転して敵を分断しろ!!」

ボラー連邦製の艦艇は、艦首方向に武装を集中配備している。側面攻撃が可能なのは、ゴラジルク級戦艦と巡洋艦2タイプのみ。
第3警備艦隊は反転して駆逐戦隊を側面から分断しようとしたが、それこそ敵前回頭という危険を犯す事になった。回頭すれば砲撃の標準も大きくずれる。
  追撃の第3射が回頭中の艦隊に降り注ぎ、戦艦3隻、巡洋艦1隻、駆逐艦5隻が溶断されるかハチの巣にされて、撃沈した。
中には応戦が功を奏して、ガルマン帝国軍 駆逐戦隊の巡洋艦1隻が大破戦線離脱し、駆逐艦1隻が撃沈した。
が、それ以上にボラルーシ艦隊の被害は大きかった。

「今だ、高圧直撃砲斉射ぁ!」

  正面からフラーゲの本隊が突撃して来るのに気付いたのは、電波障害が解ける直前の事だ。ガルマン帝国軍の決戦兵器である高圧直撃砲が彼らを襲う。
これは艦首内部に格納されている武装で、ボラー連邦軍の大口径主砲――ボラー砲よりも威力はあるが、充填時間が長いのが欠点でもある。
欠点を補う為に、自軍の駆逐戦隊を急速前進させて敵の注意を引きつけている間に、慣性航行中に前進しながら充填を完了させていたのだ。
放たれた高圧直撃砲は、分断されたボラルーシ警備艦隊の真正面から叩き込まれる。

「第3巡洋艦隊壊滅。第12駆逐艦隊も撃滅された模様!」
「敵本隊正面から突っ込む。別働隊も後背に回り込みます!」

  第6師団の本隊と分隊の連携した攻撃は、ボラルーシ警備艦隊に反撃の機会すら与えず、壊乱の淵に叩き込んだ。
駆逐戦隊はボラルーシ警備艦隊の右舷側から、時計方向に進路を変えつつも砲撃を続行し、後部に並ぶ空母部隊を撃沈せしめていった。
正面から突進するフラーゲ本隊は、高圧直撃砲を放った後に通常兵装に切り替え、魚雷攻撃と砲撃を集中的に、そして容赦なく、目前の艦隊へ撃ち込む。
前後から挟み撃ちに遭い、次々と爆炎を上げてデブリと化す友軍に唖然とするマースドック少将。

「敵正面、半包囲態勢を取って包囲する構えを!」
「お、恐るべし、ガルマン軍‥‥‥!?」

  その直後、彼の乗艦〈エデロフ〉もガルマン帝国軍の戦艦による集中砲火を受け、轟沈した。マースドックは遂に別働隊との合流にまで時間を稼ぐことが出来ずに無念の死を遂げる事となったのだが、残念ながらその味方もまた不運に呑み込まれていたのだ。
別働隊はどうしたのかというと、本隊へ急遽合流するすべく急行中だったが、そこにガルマン帝国軍 第7師団の側背攻撃を許してしまった。
側面を突かれたボラルーシ別働隊は初手で旗艦を失い、反撃するにも指揮系統の無い彼らは右往左往した挙句に全滅したのだ。
  やがて、フラーゲ本隊は半包囲態勢でボラルーシ警備艦隊を磨り潰し、旗艦を失った残存艦艇は指揮系統を纏めることも出来ず散発的な反撃か逃走を開始した。
開始したのだが、フラーゲの構築した包囲態勢による火力の集中投射には成す術も無く、ボラルーシ艦隊は文字通り消滅することとなったのだ。

「フラーゲ将軍、敵艦隊を撃滅いたしました」
「初戦はこんなものか。もっと真面な相手かと思ったが、そうでもなかったな」

あれだけ突撃しておきながら、よくそのような余裕が言えたものだ。敵艦隊のど真ん中を突っ切るのは、生きた心地がしない。
と言わんばかりの艦橋勤務の士官が、心中でボヤいたが、そう思うのは意外と艦橋内部にはいたものである。





  戦闘はまだ終わっていない。情報にあったボラー連邦軍の増援が、もう間もなく到着する頃なのだ。3個師団規模の戦力ならガルマン帝国軍側に利はある。
だがフラーゲが独走していた間に、その増援艦隊の命運も早々と決まろうとしていた。それまはず通信によって明らかにされる。

「第8空間機甲師団旗艦〈アドラーズ〉より通信。『我、敵艦隊への奇襲に成功せり。なお、先行していた潜航艦部隊の先制攻撃により、多大な損害を与えた模様』」
「ほう、大鷲と狼が餌に齧り付いたようだな」
「そのようでございますな」

フラーゲの参謀長を務める40代半ばのガルマン帝国軍人 クロット・カイツェン中将は落ち着き払った様子で、司令官に同意する。
この第2軍団には、シー・フラーゲ指揮下の5個師団の他に、次元潜航艦部隊の2個戦隊(8隻)が配備されていたのだ。
これはガルマン帝国軍屈指の秘密兵器と言える代物だ。自ら異次元の中に潜み、獲物を待ち伏せては雷撃戦を行うのがセオリーである。
ボラー連邦は、いまだこの類の戦闘艦を保有していないが、代わりに対策兵器は持っていた。
  だが潜航艦部隊の奇襲攻撃と、第8師団他の空母艦隊による航空機攻撃は絶妙なタイミングであった為、潜航艦の損失は全くない。
次元潜航艦はその性質上から量産するのが難しく、生産数も全体で90隻にも満たない。その為、1隻の喪失が部隊に影響を与えてしまう程の貴重な戦闘艦だ。

「報告いたします。相手に与えた被害を集計しますと、戦艦4、空母12、巡洋艦8、駆逐艦9を撃沈または大破させたとの事です」
「ほぅ、さすがは航空戦の専門家(プロ)だな。狼どもが空母と巡洋艦を集中的に叩き、艦載機隊が瀕死の空母を平らげたか? まぁ何にせよ見事な戦果だ。で、損害は?」
「ハッ。第1次攻撃隊300機の内、戦闘機8機、爆撃機11機、雷撃機13機、計32機が撃墜された模様です」

普通ならばこの倍の被害は出てもおかしくはない。それが軽減されたのも潜航艦部隊の活躍が大きい。また、艦載機戦のプロと言わしめる第8師団なればこそだろう。
  まもなく第2次攻撃隊が、ボラー連邦艦隊に殺到する頃だろう。勿論、瞬間物質移送機による襲撃を行うのだ。
ただし、この装置は今までグラー・ゼッペリン級大型空母(地球呼称では二連三段空母)の飛行甲板内部に埋め込まれていたのとは違う。
初期型は、発艦用であった左舷側艦体の飛行甲板先端に、単機用移送装置があった。航空機が通りかかると、飛び立つ事なく目標の宙域に送り込むのがセオリーだ。
  しかし欠点もあった。発艦用飛行甲板3つに、3基取り付けているとはいえ一度に送り込めるのは、たかだか3機くらいのものだった。
全機を発艦させても、3機づつでは各個撃破という愚を犯す事必須である。そうされない為には、敵の迎撃範囲外へ送り込むしかないのである。
そこで技術陣は一部改良を施した。移送機装置照射型2基を、甲板の左右に取り付けたのである。つまり、旧ガミラス帝国版に戻った事になる。
航空機が飛び立ち、照射エリア内にて編隊を組み終わるまで待たねばならないが、この方が一度に多量の艦載機を同時に送り込む事が可能なのだ。
実際、この方法を採用した事により、艦載機隊の被害率はグンと下がったばかりか、奇襲による撃破率も向上したという。

「よし、第2次攻撃もルデルに任せよう‥‥‥と言っても、奴は今母艦に居るまいが」
「‥‥‥そうですな」

  フラーゲが苦笑し、カイツェンが半ば呆れ口調で同意する。その人物をハンスリヒ・ルデル中将と言った。ガルマン帝国軍で屈指の名パイロットである。
旧ガミラス時代の末期頃に22歳の少尉で、爆撃機乗りとして勇名を馳せ、各戦線で武勲を次々と挙げた。帝国滅亡までの約7年間で大佐にまで大躍進した。
その後もデスラー指揮の基で、デザリアム採掘艦隊との交戦経験もある。ガルマン帝国時代に入り、現在50歳で中将にまで出世した、誰しもが認める強者だ。
因みに彼の挙げて来た戦果は驚くべきもので、ガミラス時代終結までに、地上戦闘車両1000超え、航空機28機、戦艦5隻、空母6隻、巡洋艦11隻、駆逐艦15隻を1人で撃沈破しているのだから、その異常さは際立っていよう。
さらにガルマン帝国時代に入ると、ガルマン人の解放と周辺諸国の解放のため、より一層の奮戦を見せた。結果として、上記の実に1.5倍もの戦果を挙げた。

「奴の活躍ぶりは羨ましいものだが、指揮官たるもの自ら爆撃機に乗るのは如何ともしがたいな。そうだろう、参謀?」
「そうでございますな」

  それは貴方も同じことですよ。口にしなくともカイツェンは何度目かのため息を吐いた。ルデルは将官クラスに昇進しながらも、自ら出撃する事を望んだ。
指揮官としてはどうかという声が多いが、出撃する都度、必ず敵艦を撃沈してくるので、兵士達の人気と信頼も天井知らずである。
先の奇襲でも、ルデルは爆撃機で出撃した際に、空母2隻を撃沈せしめていた。撃沈の方法として、ルデルはボラー連邦軍空母の発進口を巧みに狙ったのだ。
ボラー連邦軍の空母は、滑走路を露出せず艦内部に設けている。外部からのダメージを軽減できるが、艦首の発進口がアキレス腱となるのは予想するのに難しくない。
ルデルの放った対艦ミサイルの半分を発進口に叩き込んだ。発進間近のボラー艦載機は破壊され、艦内部で他の爆薬が引火して撃沈したのであった。
  フラーゲは自分の事を棚に上げながら、残るボラー連邦艦隊の殲滅に意気込んだ。

「全師団の空母戦隊を分離し、集中せよ。指揮は第8師団副司令ガーデル准将に任せる。さぁ、今度はお前達にも出番をくれてやるぞ! 残る戦闘艦隊は俺に続け!!」
「「ザー・ベルグ(了解)!!」」

士気を向上させると、第2軍はボラー連邦軍の残存艦隊へ前進を始めた。この後、ボラー連邦艦隊は第2次艦載機攻撃と次元潜航艦部隊の波状攻撃を受け続けた。
さらにフラーゲ率いる第2軍が機動戦術で翻弄、艦隊内部を引き裂かれた挙句に4割余りを失って潰走を始めた。
これが、この星系における勝利の合図ともなった。ボラルーシ星系は、自軍戦力の実に5割を失って他星系へと逃亡を開始した。
護る手立てを失った国家ボラルーシは、あっけなく陥落したのだ。
  ほぼ同じころ、他の星域も決着を付けつつあり、銀河の一部――たて腕におけるボラー連邦軍の戦線は、早くも崩れ去っていた。
この電撃的侵攻は稀に見る記録であったと言えよう。ガルマン帝国軍は、全体的に60隻前後の損害を出すものの、4つの主要星系を攻略した他、前進して支配宙域を拡大しボラー連邦を圧迫したのだった。
ボラー連邦軍は6つの戦線に派遣した本国艦隊と、派遣先の親交国艦隊を含め、短期間に合計700隻余りを失う大敗を招いてしまった。
実に6個艦隊が消滅した計算になる。

「ボラー連邦始まって以来、最大の恥辱である!」


  ボラー連邦本国の威信は大きく揺らいだ。ましてや、先日の地球連合艦隊に5個艦隊を壊滅させられたばかりなのである。動揺しない訳がない。
この17年間、必死になって国防体制を立て直し、膨大な戦力を整えて来たというのに、小国と侮った地球と属国群(元大ウルップ星間国家連合)に負け、さらに素早い反応を見せたガルマン帝国にも前線を軽々しく突破される。
本国首脳部と軍部は、瞬く間に非難の嵐にさらされる事、当然の結果であった。軍部の中には、こんな苦し紛れを言う者もいた。

「地球連合との戦闘にくらべれば軽い損害だ。反撃はこれからなのだ」

確かに少数だった連合軍の被害に比べれば、今回の損害率は少ないだろうが、この言い訳が通る訳でもない。まして周辺諸国からの不審の眼も、多くなりつつあった。
このままでは独立宣言をする国が多数出かねない。そうなっては鎮圧に翻弄させられる挙句、ガルマン帝国軍の電撃戦略にしてやられる事必須であった。
  ボラー連邦首都星 モスクーヴァの総司令部では、連邦首相も交えた緊急会議が開かれた。大半が体調不良だとも言わんばかりの表情を浮かべている。

「私は、これ程までに不甲斐ない姿を見たのは初めてだ。そして、極めて不快である!」

威圧的な低い声が会議室内に響く。声の主は地球換算でいえば55歳で、中肉中背でやや禿げ上がった頭部と、鋭い眼光が他者に物言わせぬ威圧感を放っていた。
彼が8代目首相 メドヴェレス・マルチェンコフだ。肩書は首相だが、デスラーと同じく独裁体制に変わりはない。だが彼の政治的手腕は確かなものであった。
ここまで国家を甦らせた上に、周辺諸国との関係を強化させてきたのだ。さらに属州、属国の軍備体制も大きく緩和させて、自軍と同じレベルを与えた。
  しかし現実は非情であり、彼の支持率は簡単に下がった。とはいえ、敗戦の責任は彼の責任とは言い切れない。寧ろ軍部の対応が非難されるものであった。

「敗北の責任は前線の指揮官にあるが、その後の大局を見分けられなかった責任は、君らにもあるのだぞ?」
「ハ、誠に面目もございません‥‥‥」
「‥‥‥小官の判断が誤っていたのは、疑いようもありません」

そう言って頭を垂れたのは、宇宙艦隊司令長官 マレンヴァン・ネッツォフ元帥と、参謀総長 ネルゴリ・モメリノフ大将の2人である。
2人は真っ当なボラー連邦の軍人だ。過小評価していた節はないこそすれ、地球連合に敗北するとは思いもよらぬことであった。
さらに敗北後の影響を考慮できず、ガルマン帝国軍の電撃戦を許す形となったのだ。最終的な裁可を下したのはマルチェンコフだが、作戦を立てたのは彼ら2人だ。
  とはいえ、マルチェンコフは直ぐに失敗の責任を追及し、粛清をするほど短気な男ではなかった。マルチェンコフ自身も、この結果は予想だにしなかったからだ。

「君らを更迭すべきだろうが、私も予想できなかった結果だ。今回は見逃す事にするが、今後ともはガルマン帝国に対する反攻戦を練りたまえ」
「首相閣下の寛大な御処置に感謝いたします。全力を持って、ガルマン帝国を退けて見せます」
「小官も首相閣下のご期待に沿えるよう、全力を尽くします」

この様子を、他の官僚や軍人たちが鼻白んで眺めやるほどの余裕はなかった。失敗をすれば自分らこそが粛清なり更迭なりされる可能性が大いにあるからだ。
他人を非難する暇があれば、自分の立場を考える方が先決だ。そんな思惑をする中で、モメリノフ総参謀長は自分の作戦案を提示し始めた。

「既に考え付いた作戦案を述べさせていただきます」

  手際の良い事だ。ネッツォフは横目で総参謀長を見やる。彼が考えた作戦とやらを聞き入る司令官と参謀一同、そしてマルチェンコフ。
聞き入る内に一同の反応は様々なものへと変化した。そんな大がかりな事をするのか、と言えば、可能性はなくもない、と控えめなものだった。
しかし、彼の作戦案を成功させれば、ガルマン帝国軍の侵攻スピードと戦力を大きく削り取れる。多少の時間は要するが、これ以外に有効だはなさそうであった。
他に意見がないのもそうだが、彼らボラー連邦にも、ガトランティス帝国と言う軍事国家の侵略の報告が入っていたのも即時決定の要因でもあった。
  マルチェンコフは、短い期間にガルマン帝国を制圧できると思うほど馬鹿ではない。

(なるべく早期にガルマンを後退させて、一時休戦を持ち込むしかあるまい)

彼なりにガトランティスの情報を集めていた。彼ら軍事国家は、まずもって同盟を結んでくれるような相手ではない。まして、不可侵条約も結んではくれないだろう。
アンドロメダ銀河を征服したという、その強大な軍事力が地球を制覇し、銀河攻略の橋頭保を築かれては誠に厄介だ。
どうにかしてガルマン帝国を押し返し、休戦協定を結ぶなりして、これらに対応せねばならない。銀河制覇など、まだまだ遠い夢の話に思えるのであった。





  ガルマン帝国は第1目標を達成した。ボラー連邦の戦線を切り崩し、同時に属国群を3つ降伏せしめたばかりか、天の川銀河北方面積の19%余りを獲得した。
この報告を聞いたデスラーは相好を崩しはしないが、満足げな表情でその戦果を聞き入れた。各軍団は良く戦い、期待に応えてくれている。
とはいえ、今回の侵攻はデスラーら首脳陣の即決と、その迅速な命令伝達、各指揮官達の行動と判断が積み重なって成し得た、電光石火であった。
ガルマン帝国軍はそのまま勢いに乗り、敵奥地へと進撃しようとしたが、ここで前線から奇妙な動きを察知したとの報告が舞い込んできた。
  それはまず、ガルマン・ガミラス軍 外洋航宙艦隊総司令部へと届き、統合作戦本部へもその報は届いた。
さらに経由し、最終的にはデスラーの下へと届けられた。

「‥‥‥至急、各指揮官を呼びたまえ。緊急閣議を始めねばなるまい。前線に居る者は、超光速通信で回線を繋ぎたまえ」
「ハっ!」

執務室のデスクに座るデスラーの命令に60代の男性――軍需国防省長官 ヴェルテ・タラン元帥が復唱し、指揮官の召集を即座に行った。
デスラーが気になった報告とは、ボラー連邦軍の動きについてだ。ボラー連邦は初戦の攻勢で瓦解し、最前線を放棄せざるを得なかった。
問題はその後だ。前線からの各報告によれば、前線にいたボラー連邦の残存艦隊と、その背後の宙域にいたであろう各艦隊が一斉に姿を消したと言うものであった。
  一見すれば撤退したか、戦線の縮小を図ったのだろうと思われた。相手がいなくなったことで、制圧された恒星系と宙域の数は飛躍的に増した。
喜ばしい反面、何か陰謀めいたものが、彼らガルマン帝国軍の前に立ちはだかっているのではないか、とデスラーは感じていたのだ。
召集された指揮官は、先の国防省長官を始めとして、中央軍司令長官、外洋宇宙艦隊司令長官、参謀総長、次元潜航艦隊司令官、各軍団司令官、等数十名が集まった。
前線で直接の指揮を執っている司令官はモニター越しで、その会議に参加していた。

『敵は我が軍を敬遠した、と予測できましょう』
「そうかも知らん。だが、だからと言って戦線から全ての戦力を下げるものかね?」
「その通り。ボラー連邦はいくつかの恒星系を放棄しているのだ。これは普通ではないぞ」

  会議室には様々な議論が飛び交っていた。しかし大半の意見は、ボラー連邦軍の後退は意図的なもの――即ち罠を張って待っているのではないか、という事だ。
放棄された中には有人惑星もあり、その様子からして出た結論が、ガルマン帝国軍を焦土作戦により疲弊させるものではないか、というものだった。
ボラー連邦も馬鹿ではないのだ。それに奥に進めば進むほど、ボラー連邦の本拠地が近づくのであり、抵抗も激しくなるのは当然と予想されている。

『しかし、このまま待つ選択は無いはず。足元の構築は無視する事はできないが、それは後方支援部隊に一任し、我等は前進するべきだと思います』

  モニター越しに積極的な発言をしたのは第3空間機甲軍団司令官 シュレスト・フォン・ホルス大将だ。地球年齢で言えば54歳で、純粋なガルマン人である。
だがそれに待ったを掛ける人物もいた。地球年齢換算で63歳程の壮年の薄い水色肌の男性、第6空間機甲軍団司令長官ギュンツァー・リッチェンス大将だ。

「いや、敵の情勢が読めない以上、進撃は一度様子を見た方が良いと、小官は意見するものであります。情報の把握をせぬままに突き進めば、どうなるか‥‥‥ホルス提督もお分かりの筈だ。我が軍は奥深くまで引きずり込まれたところで、各部隊と本国との通信網を遮断されるなり、後方を脅かされれば、士気は著しく低下する」

リッチェンスは、この場に集まる司令官達の中で、特に冷静沈着かつ慎重な男である。時折に慎重に過ぎて他同僚からは、及び腰だと指摘されるのも少なくない。
そう言われる当人は否定もせず、反論もしなかった。が、そう言われる男が一軍団の長に成り上がるのは、それなりの実績と信頼があればこそである。
  会議の出席者の1人、ヴェルテ・タラン元帥は、この人物を高く評価していた。慎重に過ぎるかもしれないが、逆に言えば用意周到とも表現できる。
実際、彼がまだ1個空間旅団(艦隊)の司令官時代では、その能力を如何なく発揮してボラー連邦軍の戦線を切り崩していった経緯がある。
旧ガミラス帝国時代は、人材能力を重視すると言うよりも血筋を重視する傾向が残っていた。また上官に媚を売って役職に就く輩もいた。
その典型例がグレトム・ゲールという、初代銀河方面軍作戦司令長官である。彼は艦隊指揮と作戦能力からして平均以下で、血筋と媚入りで長官職に就いたのである。
それを改めて、ガルマン帝国では能力重視に変更されていた。事実、このリッチェンスはガミラス人でもガルマン人でもない、併合されたネアンデル星の軍人だった。

『リッチェンス提督の懸念は、私も理解している。だが、ガトランティスが迫る以上、のんびりとしていられない。違うか?』
「確かにそうではあるが‥‥‥」

  ガトランティスという言葉を持ち出され、リッチェンスも押し黙ってしまう。侵攻は烈火の如き速度で運ぶのが肝心だ。特に今回は時間をかけられぬ理由もある。
だが、かといって突き進むだけでは、逆撃に会う事も否定できない。そうなってからでは遅いのだ! リッチェンスはそう訴えたかった。
そこで介入して来たのは、ホルスと同じく前線で直接指揮を執るフラーゲである。

『悪いが、自分もホルス提督に同意だ。今回ばかりは、スピードが命となる。リッチェンス提督の意見を非難する訳ではないがね』

とりわけ前線にいる指揮官達は、前進あるのみと主張を示したのだが、だからといって彼らはリッチェンスを軽蔑した訳ではない。
フラーゲやホルスが言ったように外部の介入を危惧しての事だった。
  そこに、長身で58歳程のガルマン帝国軍人――外洋航宙艦隊司令長官 ダール・ヒステンバーガー元帥が発言する。

『短期決戦でボラー連邦を降伏せしめるのが一番望ましい。だがリッチェンス提督の懸念も尤もだ』

彼は以前に西部戦線を担当した指揮官である。が、ボラーの予想外の反撃を受けてしまい、保有師団の3割強もの犠牲を出してしまった経緯があった。
一度はデスラーの不興を買ってしまい、2度目の失敗で死刑を言い渡されたのだ。彼は無能ではないものの、西部星域の勢力をたかがボラー連邦とその属国である、と軽視した上に情報をこまめに取ろうとはしなかったのが、大損害の原因であった。
その後は彼自身が最前線に立って軍を指揮し、己の不備を改めて猛進した。その結果が、西部戦線80%の支配圏獲得と言う快挙を成し遂げたのである。

『これは各軍団の警戒レベルを厳にしてもらうしかない。さらに、随時連絡も密にし、変化があれば報告を入れる事』

  もし相手が反転攻勢に出て来るそぶりを見せたのであれば、前線のやや後方に陣取るヒステンバーガーが、直ぐに対応を練って指示を出す。
最終的には、攻勢を続けてボラー連邦軍を圧迫するべきだとの意見で纏まりを見せた。ただし、緊急事態に陥った場合は無闇な交戦を割けて後退する事。
どの道止まると言う選択義が無い以上、この結果は当然と言うべきだろう。
  デスラーは部下達の苦労を労いながらも、注意を即して勝利への進軍を続けるように正式に命じた。

「ボラーを打倒せずして、銀河の平和は有り得ぬ。諸君、ボラーを必要以上に恐れず、かつ侮る事があってはならん。より一層の健闘に期待する」
「「「ガーレ・デスラー(デスラー総統万歳)!!」」」

意気揚々と声を上げる司令官や幕僚一同。デスラーに対するゆるぎない忠誠心の現れだ。ガルマン帝国は進み続ける、ボラー連邦の息の根を止めるまで‥‥‥。





  最前線のガルマン帝国軍は抵抗らしい抵抗もなく、最初の戦線――ケンタウルス腕とたて腕の境から5000光年ほど侵攻していた。この時既に、ガルマン帝国軍は、たて腕の7割以上を獲得している状態にあった。
ボラー軍は天の川銀河で最も外側にある、第2はくちょう腕(はくちょう腕のさらに外側にある)にその勢力圏を集中させていた。
ガルマン帝国軍が、たて腕を制覇すれば、ボラー連邦は、たて・ケンタウルス腕への橋頭保を完全に失う事を意味するのだ。
  だが被害が無ければ相手に与えた損害もない。前線の指揮官達は、とうとう姿を見せなかったボラー連邦に対する不安は、格段に増大した。
ここまで来ては、もはやボラー軍は効率の良い大反撃のタイミングを見計らっているに違いない。これまで各艦隊が各星系を占領し、後方支援部隊がその処理を引き受け、綿密な連絡の取りあいや、周囲への警戒を怠ることなくやってきた。
  前線に出ていた艦隊司令長官ヒステンバーガーも、後退を続けるボラー連邦に不気味さを感じていた。

「このまま、たて腕最後の砦であるスタレン・グラウド星系を制覇すれば、たて腕の目標値を獲得できる。‥‥‥が、ここまで来て、奴らは出てこない」

たて・ケンタウルス腕を制覇出来れば、その1つ外側にあるボラー連邦領――いて・りゅうこつ腕に対する防御壁が完成出来る。が、危険も大きいのも確かである。
銀河の腕の1つ1つは、言うまでもなく細長い形をしている。故に、この両腕が並びあうとなれば、防御すべき宙域は必然的に広がってしまうのだ。
とはいえガルマン帝国も、それをカバーできるだけの戦力はある。ここは何としてもケンタウルス腕の内側である、たて腕を制覇しなければなるまい。
  ただ注意しなければならないのは、たて腕の最深部――即ち銀河中心核付近にある国家群の存在だ。彼らはSUSに踊らされて一大連合国を築いていた。
その後はヒステンバーガーも知っており、SUS消滅後は再び小さな国家群に分かれ、各々の再建に奔走している。
しかも、地球との友好関係を築いた国も少なくないらしく、彼ら小国群を敵に回すという事は、下手をすればデスラー総統の盟友たる地球をも敵に廻し、さらには国家連合だった面々も息を吹き返して、ガルマン帝国に刃を向けてくるのではないか、という危惧もあった。
ボラー連邦と戦争をしている時に、このような状態に陥ったら目も当てられぬ。ガルマン帝国上層部は勿論、デスラーもオリオン腕全面への進撃禁止を言い渡した。
 さらに、銀河中心核からオリオン腕まで(各腕の根本付近)――3kpc腕、じょうぎ腕、たて腕、りゅうこつ腕にも、同様の禁止令を出したのだ。
ヒステンバーガーは、ふと思った。

「銀河中心の3kpc腕、じょうぎ腕、たて腕、じょうぎ腕、そしてオリオン椀の地球が、我等に加担しくれれば、よりボラー連邦を押しのけられるのだがな‥‥‥。しかし、それは彼らが納得しないであろうし、総統閣下もお許しになさらないだろう。彼らが中立を宣言しているだけ、まだ良しとみるべきか」

彼は指揮席で腕を組み、デスラーと地球、そして〈ヤマト〉と艦長に関する話を思い浮かべた。
  地球連邦は、デスラー総統が対等とお認めになられている数少ない国家だ。ましてや、ガミラスを危機に陥れたという〈ヤマト〉とその艦長と直接対決をされた。
総統閣下は、その艦長と会い見えた際、祖国を想うが為(聞くところによれば、その艦長の愛しむ女性を護る姿)の健闘ぶりに心を打たれたと言う。
その艦長を敵から戦友として、勇敢さに敬意を払われたと聞いている。
なればこそ18年前の時、ガイデル提督が独断で禁止宙域であったオリオン腕辺境へ攻め入った時の、デスラー総統の御怒りは尋常ではなかったと言う話だ。

(それに、我が軍は、地球に対しての負い目がある訳だ。おいそれと同盟を結ばせてくれと言って、頷いてくれる訳がないか)

  そこまで思考していた最中、彼のもとに通信が入った。それは、ボラー連邦がどういった行動に出ようとしているのかを示す報告だった。

「何‥‥‥それは本当か、ベーンケ提督!」
『はい。我が第11軍団配下の、第47機甲師団の偵察隊の報告からです』

それは、第11空間軍団司令官ルトレッド・ベーンケ大将からの報告であり、それを聞いたヒステンバーガーは、ボラー連邦軍がスタレン・グラウド星系に残存戦力を集結させつつあり、ガルマン帝国軍に対して反抗戦を仕掛けようと知るのである。

「成程な、たて腕辺境のスタレン・グラウド星系なら、全戦力をつぎ込む時間もあったろうな」

入った報告によれば、当星系に集結しつつあるボラー軍艦隊の総戦力は凡そ1500隻前後という大艦隊だというではないか。
初戦のボラー連邦軍の戦力は完全撃滅した訳ではないのだから、これくらいにはなるだろう。それにボラー連邦は、ガルマン帝国と概ね同規模の宇宙艦隊を保有しており、その規模は実に82個分程の主力艦隊を有し、艦艇数にすれば9840隻前後であった。
また警備艦隊諸々も含めれば、1万3000隻に膨れ上がるとされているのだが、アルデバランと先の奇襲で6個艦隊――実に1320隻前後を失った。

「これだけの戦力を叩くとなれば、こちらも動員した作戦部隊の半数以上を注ぎ込む必要があるが‥‥‥参謀長、どう思う?」
「ハッ。僭越ながら私も、今回のたて腕制圧戦に動員した6個軍団の内、4個軍団か5個軍団を動員する必要はあると考えます。他の軍団全てが、同時に動けるわけではございませんから、これが精一杯でしょう。それに‥‥‥」

  外洋航宙艦隊総参謀長 オルモーラ・ベリアス大将は、ヒステンバーガー同様の意見を出したが、それではこちらの犠牲も大きくなってしまうのは目に見える。
幾ら精強なガルマン帝国軍だとしても、ボラー軍もお飾り軍隊ではない。今やガルマンと拮抗する軍事国家なのだ。勝利しても被害が大きかった、では済まされない。
そこでベリアス総参謀長は意見を新たに付け加えた。

「次元潜航艦隊の奇襲攻撃を持ってしても、今度ばかりは相手も撃たせはしますまい。一度探知されてしまえば、あの対潜兵器の餌食となるのは目に見えております」
「そうだな。では、どうする?」

やや教師じみたような表情で、ベリアスに問いかけた。すると彼は難なく問題を回答して、教師へと提出する。無論、生徒のような笑顔はなかったが。

「ここは、デスラー砲(ゲシュ=ダールバム)艦隊を前線へ投入し、一挙に撃滅すべきかと‥‥‥」

  デスラー砲‥‥‥地球で言う波動砲を搭載した専用艦の事である。地球ではデスラーのみが使用していた事にちなんで、デスラー砲と呼称されていた。
正式名称をゲシュ=ダールバムと言う。ガルマン帝国はデスラー砲搭載艦を、主力戦闘艦に搭載する事はない。
ガミラス版の場合、地球よりもコスト的な問題があったのだ。その上で、砲撃戦で容易に沈まされてはたまったものではない。
そこで主要戦闘は他の戦闘艦に任せ、決戦時に限ってこれを投入する方針となっていた。
  このデスラー砲艦隊は、各師団に直接配備されている訳ではない。師団の1つ上である空間軍団本部に、その使用権が授けられていたのだ。
1個軍団に付き、12隻だけ配備されている。ここぞと言う時にだけ使う、決戦兵器たる戦闘艦であった。
因みに、これに似たものとして、地球以外にデザリアム帝国がある。この国家も、要塞主砲を搭載した小型戦闘艦(寧ろ運搬艦に搭載しただけの、あまりにもお粗末な代物だが)を開発した経緯があった。

「‥‥‥よかろう。デスラー砲艦隊を投入し、スタレン・グラウドの敵戦力を一掃する。今、動ける軍団は幾つあるかね」
「我が軍団を入れますと‥‥‥4個軍団になります」
「それで構わん。残りの軍団、および後方に待機している軍団は、いて腕方面からの侵入を警戒し、変化があれば即座に報告を入れるのだ。もたもたしていると、新たな敵戦力が投入されてしまいかねないからな」

  だがボラー連邦が、そう易々と、たて腕へ援軍を送るとは思えない。広大な銀河で勢力を保持するための戦力は貴重なのだ。
この会戦に新戦力を投入しすぎて、逆にいて腕の防衛が手薄になる可能性がある。それは彼らボラー連邦にとって、リスクの大きすぎる行動だろう。

(だが、何故か腑に落ちん‥‥‥。こちらの連絡距離が長くなったところを叩くつもりなのだろうが、それには戦力が少ない‥‥‥)

腑に落ちないと考え込むヒステンバーガーであったが、結局のところ、彼は4個軍団をもってスタレン・グラウド星系へと進軍を開始したのである。




〜〜あとがき〜〜
どうも、第3惑星人です。
本編は間もなく完結いたしますが、停滞気味の外伝を、これから続々と掲載していきたいと思います。
よって、今回は気になる方も、恐らくいらっしゃるであろう、ガルマン帝国とボラー連邦の情勢を、書き上げてみました。
この中で、銀河系の各腕を書き上げていますが、私自身、どのあたりをガルマン領にし、どのあたりをボラー領にしようかとかなり迷いました。
それに、お手元に天の川銀河の星図(各腕の名称入り)がないと分かりづらいと思いますが、どうかご了承ください。


――以下、ヤマト2199に関する感想――
さて、4月7日に、遂に始まりましたヤマト2199のテレビ放送!
仕事時間が重なり、生では見れませんでしたが、録画してテレビ放送ならではの違いを探しましたw
テレビ放送版は、各人物に対する字幕紹介が出てましたね。それと気になっていた、OPの総勢30組以上の合唱が聞けました!
女性歌手も入ったので、曲は軽めかつ、リズミカルな曲へと編曲されました。私自身は好きです。
しかし合唱だけに、どの声が誰だが判別は不可能w まぁ、たいてい合唱はそのような感じたと割り切ります。

賛否両論あるOPですが、これは東北の災害復興を願っての意味も込められたものです。
30組み以上が合唱する――即ち、これは皆で力を合わせて復興を願う、という気持ちも込められたものだと、私は思っております。

ただ残念なのは、プロジェクトX主題歌で有名な中島みゆきさんが作詞したというエンディング「愛詞」が聞けなかったことですね。
初回なので仕方ないかと思いますが、本格的に聞けるのは3話からな気がします(既にBDやDVDを拝聴済みの方は察していただけるのでは?)

最期にビックリした事。ヤマト2199第7章のEDを、あの水樹奈々さんが担当するという事です。
本クロスで扱っている『リリカルなのは』のフェイト役を演じられる他、そのOPも歌ったりと幅広い活動をされているようですね。
歌声は拝聴していますが、このお方が歌うのであれば、問題ないかと思います。
EDなので、恐らくは心にしんみりくる様な歌声を披露されるのかな‥‥‥と想像しています。

しかしなんですな、私がヤマト&リリカルをクロスさせていることもあってか、不思議な気分です。
その内『ピクシヴ』サイトで、中の人ネタとかでフェイトのヤマト2199Verとか描きそうな人がいそうw
因みにリリカル〜でリンディ役をされていたお方が、ヤマト2199で新見薫役という理系お姉様系を演じられてます。
その影響か、同サイトで、リンディのヤマト2199ver(あのボディスーツ青の版)を描かれている人がおりました‥‥‥。



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