外伝『勉強会』


  決戦が迫る中、時空管理局提督クロノ・ハラオウン准将は、新設された第一機動部隊旗艦〈アースラU〉の執務室に居た。
何をしているかと思えば、彼はデスクの前に座ってディスプレイを真剣な眼差しで眺めていた。それは、防衛軍の東郷から譲って貰った、過去の戦闘記録である。
彼は艦隊指揮官としての自覚を強め、東郷からシミュレーションで扱かれ、実戦でも大いに扱かれてきた。
  だが今回、機動部隊指揮官を拝命された事をきっかけに、さらなる艦隊運用のノウハウを吸収する必要性があるとして、この戦闘記録を貰ったのだ。
先人の戦いを知り、そこから出来うる限り吸収し、決戦までに発揮できるようにしなければならない。彼の中では、そういった焦りがあった。

「ふむ……これは艦隊運用の技量を極限にまで高めているな……」

そう言って見ているのは、第一次イスカンダル遠征時にあった、とある戦闘記録だった。それは〈ヤマト〉が初めて、〈宇宙の狼〉と対決したものである。
  〈宇宙の狼〉こと、ガミラス帝国の若き将軍エルク・ドメル上級大将。地球換算で三〇代後半と言われる軍人で、若さに似合わぬ地位を持っていた。
彼の指揮する第六空間機甲師団(艦隊の事を指す)は、ガミラス軍の中でも最大の戦闘力を持った艦隊である。
地球公式記録にはそこまでの名称は記されてはいないが、ドメル艦隊と呼ばれたそれは、〈ヤマト〉一隻を相手に、舌を巻くほどの艦隊運動を見せつけたのだ。

「二隻単位の小部隊で〈ヤマト〉に急接近と離脱を頻繁に繰り返し、乗組員を心身共に疲弊させる、か。これを数十回を続けられたら、確かに気が滅入るぞ」

〈ヤマト〉に挑発を掛け続け、最後に油断したところで奇襲攻撃を掛ける。この時、〈ヤマト〉は食糧事情もあって、ワープを決行した。
  が、これこそドメルの張り巡らせた罠に飛び込む結果を生んだ。〈ヤマト〉は惑星ビーメラに立ち寄ることになっていたが、その中間地点には、中性子星カレル163がある。
その重力に影響を受けるのは確実であり、予想されたワープアウト宙域に、ドメルは各部隊を配置、〈ヤマト〉を待ち受けていたのだ。
彼の策は図に当たった。〈ヤマト〉は偶然にもドメル直属の艦隊と接触。戦力比からして、概ね一二〇:一で、まともにやり合えば勝てる物ではない。
  記録映像の音声案内が、説明を続ける。

『この時、沖田艦長は中央を突破する事を決意。旗艦に肉薄してあわよくば撃沈、混乱させて離脱しようと考えました』
「多勢に無勢で、敢えて的中に突入するのか……。確かに、頭を潰せば艦隊を混乱に落とす事も出来る。いや、旗艦に肉薄すれば、ガミラス艦隊は砲撃の手を緩めざるを得ない」

クロノの推測は、まさに沖田の考えていたものと同じだった。旗艦と相手が肉薄しては、味方の砲撃が旗艦に当ってしまう。沖田はこれを狙うしかなかった。

「しかし、ドメルという軍人の手腕は見事だ。半数で〈ヤマト〉の周囲を円形に包囲して、正面にいる本隊へ追い立てるとは」

宇宙と言う空間は、海上とは違い立体そのものだ。その立体的艦隊運用で、ドメルは分艦隊で〈ヤマト〉周囲を包囲。それは円柱型とも言える、見事なものだ。
螺旋を描くようにして、常に〈ヤマト〉を取り囲みつつも砲撃とミサイルを放ち、弱体化させる。狩人の様な戦いぶりだった。
  〈ヤマト〉は波動防壁で最初こそ耐え凌ぐが、濃密な砲撃弾幕により有効時間を待たずに消失。その後は滅多打ちに等しいものだ。
しかし、それでも諦めない〈ヤマト〉は、遂にドメルの旗艦〈ドメラーズV〉と肉薄する。〈ヤマト〉に残された戦闘記録と、それを基に作られた3D映像が公開された。

「っ!? このドメルの旗艦は、零距離射撃を受けても沈まないのか。巨体は伊達ではない、ということか」

クロノは〈ドメラーズV〉の防御装甲に舌を巻いた。艦首正面の装甲は、〈ヤマト〉のショックカノンを弾き、すれ違う際の零距離射撃を受けても撃沈しなかったのだ。
大抵のガミラス艦(巡洋戦艦まで)であれば、一撃で轟沈、または大破するものであった。が、〈ドメラーズV〉は、ショックカノンをものともしない。
七三〇メートルの巨体と装甲は、見た目通りの性能を出したのだ。もっとも、管理局の兵装では豆鉄砲に等しい。アルカンシェルを除いて、であるが。

『〈ヤマト〉はドメル司令直属艦隊を振り切り、離脱を試みましたが、ここで別働隊が到着。戦闘不能の寸前まで追い詰められます』
「分艦隊の指揮官達の腕と言い、ガミラスにはこれ程の軍人達が〈ヤマト〉に襲い掛かったのか。僕だったら、まず逃げ切れないだろうな」

  思わず自分が〈ヤマト〉側指揮官だと仮定して、直ぐに撃沈と言う結果を弾き出す。艦の性能が勝っていても、逃げる事さえ敵わないと予想した。
しかしここで、展開は予想もしない方向へ向かった。突然、ドメル艦隊が転進してワープ、離脱してしまったのである。クロノも勿論、首をかしげる。

『この謎の反転は、後にガミラス帝国内で発生した、デスラー総統暗殺未遂事件が大きく関与している事が分かりました』
「となれば、最上層部の指示か……〈ヤマト〉はそれがなければ撃沈され、今の地球もなかったという事か……歴史とは、本当に“もしも”の場面があるんだな」

そう呟きながらも、クロノは再度、ドメル艦隊の高度な艦隊運動を見直した。螺旋を描きながら〈ヤマト〉を取り囲むドメル分艦隊。
しかも驚かせるのは、〈ヤマト〉の攻撃を受けても、絶対に艦列と陣形を崩さない点にあった。被弾した艦は離脱し、別の艦が埋め合わせる。
螺旋運動をしながらもこれを可能とするあたり、時空管理局の艦隊技量とは、天と地の差があると言ってよい。
  ドメル艦隊との初戦を見たクロノは、しばし考え、口を付けていなかったコーヒー入りのカップを手に取って啜る。
そんな時だった。数人の人物が、クロノの執務室を訪れた。それは艦隊参謀の八神 はやて、副艦隊司令官のゼヴィル・ランスバッハ一佐であった。

「失礼します、提督」
「失礼します」
「入ってくれ。今、観始めていたところだ」

クロノは艦隊上層部を集めての、勉強会を催していたのである。先のドメル艦隊の艦隊運用を巻き戻し、二人に見せると、瞬時に反応を示した。

「宇宙空間で、これだけ動けるようになるには、どれ程掛るやろか……」
「使用している艦の性能からして、大きな差がありますが、現用艦でここまで辿りつくには、一年は見越した方がいいでしょう」

はやてはあっけからんとして、ランスバッハは冷静に見て、自分らの現状を重ねた。一糸乱れぬ動きを求められてきた訳でもない次元航行部隊だが、今や艦隊戦を普通と考えねばならない情勢下にあるのだ。
今の防衛軍もさることながら、かなりの訓練が重ねられてきたことは、想像するのに難しくはなかった。
  次に映されたのは、ガミラス戦役でもっとも注目された戦い――『七色星団会戦』である。別名、第二次ドメル戦とも言う。

『七色星団は大マゼラン銀河に存在する、タランチュラ星雲内部のもっとも宇宙気象が激しい宙域です』

この七色星団と呼ばれる所以は、七つの縮退星が頃なる光を放つことから来ている。そして七つの縮退星から噴出される、宇宙ジェットとイオン乱流の嵐が吹き荒れる難所だ。
レーダーも近距離に限られてしまい、有視界戦闘を余儀なくされるほど。七色星団は宇宙気象が激しいが、七色の光が幻想的な光景を生み出している。
  当時のクルーの中でも、その光景に見とれた者も少なくない。また、全体的に荒れているわけではなく、比較的に凪いだポイントもあり、そこでなら艦載機も飛ばす事が出来た。
宇宙に上下はないが、渦巻くイオン乱流が雲のように見える他、広大な海原を再現しているようにも見える。誠に不思議な宙域だった。

「宇宙ジェットにイオンの嵐……我々なら絶対に踏み入れない環境ですな」
「全くだ。次元艦船なら、ひとたまりもないだろう」
「そんな中で、〈ヤマト〉は戦ったんやね……」

  『七色星団会戦』でドメルが率いていたのは、前回の大艦隊ではない。それとは打って変わって、弩級戦艦〈ドメラーズV〉を含めた四隻の空母。
地球の戦争史専門家は、何故、ドメルが数百隻の艦隊から、たった五隻の空母艦隊しか率いていなかったのか、としばし疑問に思ったものである。
それはクロノ達も同じ思いであったが、何処となく予想は出来た。

「これ程の難所だ。数百隻の艦隊が高度な艦隊運動をするには、条件が悪すぎる。下手をすれば、接触事故を起こすかもしれん」
「確かに……。しかし、それならば艦隊の規模を縮小させ、交代制で仕掛ければよい筈」
「それは、戦力分散と、逐次投入と言う事になるんとちゃいますか?」

目方の教えを受けているだけ、指摘も鋭い。だが、彼らの想像はどれも外れていた。アナウンスの解説によれば、先の暗殺未遂事件が関与している可能性が高いと指摘している。
疑惑を掛けられ、その疑いを晴らすべく再戦を申し出たものの、僅かな戦力しか許されなかった、という説。
また内部の権力がらみで、ドメルの存在を快く思わない一派が、何らかの手を回していたのではないか、という説。
  そしてこの説は、かなり確信を付いていたと言える。ドメルは暗殺事件の疑惑を掛けられた上に、家族の反政府運動の罪を晴らすために、リベンジを申し出たのだ。
しかも、ガミラス帝国内部で横暴していた親衛隊の根回しで、ドメルは新兵と老兵ばかりの航宙母艦(空母)四隻だけが配属されてきた。
普通であれば護衛艦の八隻は必要とされるが、それさえも与えられなかったのである。クロノ達は、その裏事情を底となく察しながらも、ドメルの立場を考えた。

「独裁国ともなれば、そういった権力闘争に巻き込まれる可能性もあるか」
「それにしても、母艦が四隻に、戦闘艦が一隻のみですか……〈ヤマト〉は戦闘能力からして、他を引き離す性能。艦載機は三〇機ほど……」
「普通ならドメル将軍が勝って当然と見るやろうけど、沖田艦長がどう乗り越えたか、やね」

そうだ。数は減ったとはいえ、弩級戦艦一隻、空母四隻、艦載機数一五一機と、〈ヤマト〉を凌駕していることには違いない。
悪条件化も重なる中で、〈ヤマト〉がどう切り抜けたのか。クロノ達は自分たちの考察も交えながら、観ていくのであった。




  第97管理外世界、〈ヤマト〉世界の地球にあった、第二次太平洋戦争の海上戦を、宇宙に反映したような戦いが、幕を開けたのである。
アナウンスが、改めて『七色星団会戦』における双方の戦力分析を述べると同時に、憶測ながらも両艦隊の位置を表示する。
ドメルに与えられた艦隊は、旗艦と空母含め五隻で構成されているが、詳しくは以下の通りになる。
  旗艦は上記した通り、ドメルの座乗艦〈ドメラーズV〉。ガミラス帝国内で最大規模の巨体を誇り、兵装は四連装四九センチ陽電子ビーム砲塔を七基。
そして三三センチ三連装副砲を四基、空間魚雷発射管を一四門備えている。巨体に比して武装は少ないが、それは重装甲を重視したためではないか、と指摘されている。
装甲は全般的に厚くされており、特に艦首はショックカノンを弾くほど。ただしその他の装甲は、破損はするが内部への被弾を防ぎきるもの。
さらに秘密兵器――瞬間物質移送機が装備されている。これはワープ能力の無い艦載機を、遠くへ飛ばす事が可能な兵器だ。

「これが護衛艦代わり、ということか」
「武装、装甲も〈ヤマト〉を凌駕する艦ですが、やはり一隻では心もとないですな」
「旗艦自身が護衛艦の代役を務めなあかんとはね……敵国ながら、ドメル将軍に同情してまうわ」
「それにしても、この瞬間物質移送機という代物が、厄介に思えますなぁ」

  空母艦隊の構成に入る。三隻は全長四一〇メートルを誇る〈ガイペロン〉多層式航宙母艦。多層式と表記される通り、この空母は飛行甲板が全部で四枚存在するのだ。
格納庫という概念がなく、最上甲板の艦載機はそのまま露天駐機という形になる。第二、第三、第四甲板は、一応は艦内に係留されることになっている。
発艦時は一度に多量の艦載機を出撃させることが出来、着艦時は最上甲板と最下層の第四甲板の後部からとなる。因みに第四甲板は、艦尾から艦首まで吹き抜けとなっている。
母艦自体には、八機の対宙火器と、二八センチ三連装陽電子カノン砲塔五基が搭載されていため、一応の迎撃能力と対艦戦闘能力は有する。
  一隻目は〈バルグレイ〉。地球識別ではガ軍多層式空母で、第一空母と仮名されていた。搭載機は戦闘機〈デバッケ〉。
戦場記録とレーダー記録から、五七機が搭載されていると推測された。艦体色は緑色で、飛行甲板各先端が二つ山のように尖っていた。
ガミラスの公式記録では、歴代〈ガイペロン〉級の中でも最新型とされており、索敵能力を強化するために、索敵の機器を多く詰め込んでいるらしい。
  二隻目は〈ランベア〉。地球識別では第二空母と仮名。攻撃機〈スヌーカ〉を五七機搭載。地球のレシプロ爆撃機〈スツーカ〉に通じるデザインの攻撃機である。
本艦は紫色の艦体色で塗装されており、ガミラスの公式記録では中期生産型とされ、当時のガミラス軍で主力を位置づけたタイプの一隻だ。
  三隻目は〈シュデルグ〉。地球識別では第三空母と仮名されている。空間雷撃機〈ドルシーラ〉を三七機搭載。
搭載数が少ないのは、〈ドルシーラ〉が大型機のためであるとされる。また、この艦はガミラス公式記録で、最古の初期生産型とされている。
その特徴として、〈ガイペロン〉級では最上甲板左舷に装備されている、アングルデッキが無い事が挙げられた。
地球側からは、旧式の艦隊も混ざった寄せ集めである事までは把握し切れてはいない。

「宇宙なのに甲板がある、というのは突っ込んではいけないか」
「いや、まぁ……」
「必要だと思うで。だって、大気圏内も航行できるんやし、そういった場合は当然、甲板は必要やろうし」
(うぅ……目方中佐の教えが、隅々まで行き届いている証拠か)

  クロノは突っ込み返しをされて何も言えない。ランスバッハも同様だ。事実、ガミラスは大気圏内の航行も日常的なものだ。
地上制圧のために艦載機を大気圏で発艦させる事もあった。それはさておき、と最後の一隻が紹介される。

『地球識別、ガ軍戦闘空母です。赤い塗装が特徴のこの艦は、対艦戦闘能力が高いのも特徴です』

  〈ゲルバデス〉級航宙戦闘母艦〈ダロルド〉。全長は三九〇メートル。双胴型を思わせる二又型の艦首(艦首以降の艦体は一体化しているが)。
艦前部から中部に掛けて飛行甲板となっており、後部は兵装と艦橋が集約された構造物となる。この艦は大型爆撃機〈ガルント〉一機のみを搭載していた。
アナウンスの指摘通り、この艦は対艦兵装が充実しており、兵士からは〈赤い火竜〉とのあだ名を付けられていたほどである。
艦橋周辺には、二八センチ三連装陽電子カノン砲塔が四基と、一三センチ三連装陽電子カノン砲塔四基を備えている。
  しかし戦闘時になると、飛行甲板と艦底部の一部が反転して武装甲板が露わになるのだ。それだけでも、一〇基三〇門の陽電子砲塔、八連対空レーザー四基が備えられている。

「何ちゅう艦やねん。〈シヴァ〉や〈ミカサ〉も凄いと思っとったけど、この艦も相当に過剰装備やねん」
「まったくだ」

驚くのも無理はないが、実は公式記録では〈ダロルド〉は試作製造艦の一号艦である。製造の狙いとして、単艦の長期行動を実現させるため、とされていた。
製造したはいいが武装を盛りつけたため、搭載能力は〈ガイペロン〉級の半数以下。無理に空母と戦艦の能力を兼ね備えたため、中途半端になった。
さらには建造コストが跳ね上がった事も相まって、建造の見直しがなされた。それ以降、飛行甲板の武装を減らすなどの処置を、後続艦に施したと言う。
  そこまで紹介された時、戦闘の経過に突入した。ドメルはまず、〈ヤマト〉艦載機隊を引き離すために、第一空母こと〈バルグレイ〉を突出させた。

「何故、分散させるのでしょうか。護衛機と攻撃機を纏めて送った方が良いと思いますが」
「それは、あれだな。〈ヤマト〉の護衛機は必ずしもガミラスの戦闘機に食いつくとは限らないからな」
「それに〈ヤマト〉の護衛機に乱入されたら、真面なフォーメーションも取れんやろうし、一気に送り込んでも味方同士で混乱する可能性も否定できんしなぁ」

目標物の付近に護衛機が張り付く中での攻撃は、案外厳しいものがある。例え、自分らの護衛機が張り付いてくれていてもだ。
それにドメルの手元には、とある異能力者であるジレル人の情報特務官から得た〈ヤマト〉のデータがあった。無論、〈ヤマト〉がそれを知るわけはない。
  〈ヤマト〉には艦載機がそれなりに搭載されていることを知ったドメルは、まず同じ戦闘機である〈デバッケ〉隊を差し向け、〈ヤマト〉周辺をがら空きにさせようとした。
これは見事に成功した。〈ヤマト〉のレーダーはそれを捉えていたが、さすがに遠くからではガミラス編隊の構成までは把握できない。
よって、全力でこれを迎え撃つ選択しかなかった。





『〈ヤマト〉の艦載機隊は、第一次攻撃隊の迎撃に向かいました。そこで、ドメル将軍は第二の攻撃を繰り出します』

常に偵察機に捕捉されていたとも気づかなかった〈ヤマト〉に対して、ドメルは第二空母〈ランベア〉から、〈スヌーカ〉隊を発艦させる。
  ここで登場したのが、瞬間物質移送機というものだった。〈ヤマト〉の戦闘能力を奪うために、彼は第二次攻撃隊を〈ヤマト〉直上へとワープさせた。

『第二次攻撃隊の攻撃は正確であり、瞬時に第一砲塔、第一副砲塔、レーダー、カタパルト、さらに第三艦橋のコンバーターを破壊しました』
「ピンポイントか……。レーダーが効力を半減させていたとはいえ、破壊されては目を奪われたも同然だ」
「はい。それに、レーダーを失うということは、次のガミラス攻撃隊が襲撃しやすくなります」

しかも防壁が展開できないため、確実に装甲へダメージを蓄積させることにもなる。方や〈ヤマト〉艦載機隊は、第一次攻撃隊とのドッグ・ファイトの真っ最中であった。
ガミラス軍は老兵や新兵の寄せ集めということもあって、数ほどの成果を上げられなかった。ただし例外は隊長機のみで、この隊長――ライル・ゲットー少佐の撃墜数は多かった。
  この戦闘時の音声記録が残されており、戦時の過酷さを知ってもらうためだという。聞くか聞かないかは個人次第で選べるが、クロノは敢えて再生した。
それは管理局では到底ありえないであろう、生々しい叫びと被弾音が録音されていた。

『た、隊長っ!』
『ビビるな、小橋! 俺が全部叩きとして……っ!?』

新人パイロットらしい青年と、逞しさを思わせる力強い声の二人。激励した男が、突然に鳴り響く警告音に声を掻き消された。
その直後、記録音声の中に被弾したと思われる、ガン、ガン、という音が四回ほど続くと、立て続けにビシャリ、と液体が飛び散るような音も僅かに聞こえた。
再びナビゲーターが説明する。

『この戦闘で、〈ヤマト〉艦載機隊は三〇機中、一二機が撃墜されました』
「部隊壊滅か……」
「実録ということもありますが、魔法のみで戦ってきた我々には、到底想像も、慣れもできないでしょう」

  はやても同感だった。だがミッドチルダでは、血を見る戦闘を体験した局員が大勢いる。が、それが初であり、戦闘後も後遺症を発する者も多いと聞く。
マルセフ総司令達の地球世界で、こんなことが日常的に起きていると考えると、本当に背筋が寒くなる思いである。

『第二次攻撃隊が奇襲に成功したのち、ドメル将軍はすぐに第三次攻撃隊を発艦させます』
「〈ヤマト〉の護衛機が戻れない中での、第三次攻撃か……」
『空間魚雷を備えた第三次攻撃隊三六機は、〈ヤマト〉の両舷に出現しました。沖田艦長の迅速な対応によって、反撃を行いますが、被弾しダメージを増々蓄積させました』

レーダーを失った〈ヤマト〉は、手の空いた者を索敵班として動員し、人の眼(観測用双眼鏡を使用しているが)で警戒にあたったのだ。
その甲斐もあって先手は取られなかったが、〈ヤマト〉は空間魚雷一二発あまりを受けてしまった。その代りに第三次攻撃隊も半数が撃墜されると言う被害を被る。
  視点は再び〈ヤマト〉艦載機隊に戻る。この時、偶然にも艦載機の一機が空母〈バルグレイ〉を補足した。

「なんで発見される宙域まで接近を?」
「それはきっと、ガミラス戦闘機隊の回収をする為ですよ」

はやての指摘は正しかった。〈スヌーカ〉隊と〈ドルシーラ〉隊の両隊は〈デバッケ〉隊とは違い、瞬間物質移送機を使って直接〈ヤマト〉へ飛んで行った。
つまり、その分だけ燃料は節約され疲労も軽減され、帰還への支障を減らす事にもなる。片や〈デバッケ〉隊は囮となるがために、通常通りに発艦した。
宇宙空間とはいえ、艦載機の行動は制限もされる。そこで空母が本隊と分離して、危険宙域まで接近して味方機を回収する必要があったのだ。

『この第一空母に対して、艦載機隊員の小橋隊員は、左舷側より攻撃を敢行します』
「先の悲鳴を上げていたパイロットだな」
「一機で落とそうとするなんて、無茶にも程があるかと」
「冷静さを失ってしもたんやな……」

  最年少かつ新人のパイロット小橋は、はやての言うとおり冷静さを失っていた。自分がガミラス機に追い掛け回されてばかりだったため、良くない方向へ暴走したのだ。
音声記録が再生される。

『やってやる! 僕はビビりなんかじゃない!!』
『おい待て、小橋! 小橋!!』

目を瞑ると、その声から突撃していく小橋と言うパイロットの姿が思う間でしまう。3D処理された画像にも、その時の様子が再現されていた。
彼らの不安通り、小橋機は〈バルグレイ〉の対空火器の網に掛って被弾した。その時の音声が、また生々しく、耳をふさぎたくもなる。

『母さん!!』


直後、彼の機体は炎上しながら螺旋を描き、爆散してしまった。
  しかし小橋機の放った小型対艦ミサイル二発は、〈バルグレイ〉の対空砲火を擦り抜けた。第二甲板層の右舷外壁(内側)へ見事命中したのだ。
ミサイルは〈バルグレイ〉の右舷装甲を貫き、盛大な爆炎を上げた。右へ僅かに傾く〈バルグレイ〉に、小橋の死に怒りを剥き出しにした、別の機が襲い掛かる。

『畜生おッ!!』

正面に回り込んだ彼は、怒りの声と同時に対艦ミサイルを放つ。それは回避する余裕もなく、最悪なことに〈バルグレイ〉の第二甲板層と第三甲板層に着弾した。
第二甲板層の奥には機関部が収まっており、第三甲板層の奥には弾薬コンテナが収まっているところなのだ。当然、爆沈は免れなかった。
右舷エンジンが火を噴き、各層からも紅蓮の炎が吹き上がる。トドメ言わんばかりに艦橋へ機銃掃射が加えられると、〈バルグレイ〉はバラバラに崩壊しイオン乱流に没した。





  この直後、ドメルは第四次攻撃隊を放った。それは〈ダロルド〉に搭載されていた大型爆撃機〈ガルント〉一機。
たった一機で何をするかと思えば、それは〈ガルント〉に搭載されている特殊削岩弾(地球呼称ドリルミサイル)で、〈ヤマト〉艦首を塞ぐことである。
波動砲を封じると同時に、そのまま時間制限で爆破しようという魂胆であった。

「時限爆弾ですか……非効率的な感じがしますが」
「そうだな。僕もそこが良く分からないんだが……」
『このドリルミサイルは、後に民間製品ではないか、との分析結果がでました』
「! 成程、民間製品だったら、改造する暇もありはせんわな」

  ドメルが持ち出したのは、惑星開発に用いる特殊削岩弾である。はやて言うとおり、これは兵器として用いられることを想定はしていなかった。
それに電波妨害の激しい七色星団である。リモコン操作では不確実性が高いうえ、時限式なら確実に爆破できると踏んだのだろう。
〈ガルント〉はワープ奇襲に成功した。艦首真正面に現れ、波動砲口に打ち込んだのである。が、勇敢なるパイロットは帰還できなかった。
ようやく戻ってきた艦載機隊に発見され、撃墜されてしまったのだ。とはいえ、後は爆破を待つばかり。ドメルは偵察機からの報告を待った。

『しかし、ここで技術班の懸命の作業によって、ドリルミサイルの爆破停止に成功しました。しかし、直ぐに逆転はさせません』
「民間製品とはいえ解除できるとは……」
「後はドリルミサイルを排除するだけですが……何故、ためらうのでしょうか」

  皆は考えたが、出た答えは一つ。このドリルミサイルを使ってドメル艦隊にダメージを与える事だ。しかし、そうも都合よくいくのだろうか?
このドリルミサイルがいつまでたっても爆破しない、という報告にドメルは唖然とした。まさか、解除されてしまったのか、と。
ならばどうするか。決まっている。艦隊を前に出して直接攻撃し、〈ヤマト〉を沈める他ない。後世の人間は、これを性急すぎる、とドメルに非難を浴びせる者が多い。
  しかし、ドメル艦隊の現状と、ドメル自身の事情があった。

「ドメル艦隊の艦載機は、〈ヤマト〉の対空砲火で半数以下に撃ち減らされとる。つまり、残る艦載機では、効果的なダメージは望めへん、ちゅうことやろうな」
「そうだな。戦闘機の護衛もないし、まして〈ヤマト〉の艦載機は健在だ。対空火器も残っている」
「無用な犠牲を出さないために、艦隊の砲撃で仕留める、ということですか」

それは的を得ていた。さらにドメル自身の進退どころか、家族の運命が掛っていた。ここで体制を立て直すと言って撤退したら、死刑は確実なのだ。
だからこそ、彼は余裕がなくなり艦隊の直接攻撃を選んだ。が、これが沖田の作戦の内であると、ドメル自身は気づいていなかった。

『ドメル艦隊は、戦闘空母を先陣にし、ドメル艦を二番目へ。第三空母を三番目、第二空母を四番目にした、単縦陣を形成して接近します』

  これは火力の高い〈ダロルド〉、そして〈ドメラーズV〉を前に出すことで、後方の空母を〈ヤマト〉の射線から防ぐ意味合いがあった。
艦載機戦から、今度は砲撃の殴り合いに転がる戦況。どちらも引けない戦いだけに、観ている側も緊迫してしまう。
砲撃戦の火蓋を切ったのは〈ダロルド〉であった。レーダーがあるだけ、有効射程での砲撃を可能としたのだろう。
  〈ダロルド〉の前方火力だけで、四二門を誇る。陽電子ビームが順次に放たれて〈ヤマト〉を襲ったが、砲撃手が未熟故か、命中率は良くない。
〈ヤマト〉は無傷の第二主砲で応戦するも、レーダーを失い座標リンクが出来ないだけに、目標を外す。

「レーダーが無い分、〈ヤマト〉に不利なのは確実ですが、ドリルミサイルを反転させなければ……」
「距離がありすぎても、相手にかわされては駄目なんだろう。可能な限り接近し、ドメル艦隊が回避する間もない距離で反転するしかなさそうだ」

しかしミサイル一発がどれ程の威力か分からないが、当てなければ爆発はしない。もし時限装置を動かしたら〈ヤマト〉が危ない。
命中率の悪い砲撃の応酬で、〈ダロルド〉は〈ヤマト〉に五発ほどの命中打を出したが、決定的な致命打には成り得ない。
対する〈ヤマト〉は、第二主砲の測距義のみで砲撃していたが、峡叉させるのがやっとだった。砲塔内の要員が四苦八苦しているのが目に浮かぶ。
  赤い陽電子ビームが再び〈ヤマト〉を襲う。沖田は耐え抜くばかりだ。互いの距離は縮まり、五〇〇〇キロにまで接近していた。
撃たれ続ける〈ヤマト〉だが、実は沖田の巧妙な指示があった。それは、砲撃が当たりにくい事を利用して、着実に、ドメル艦隊を誘導していたのだ。

『〈ヤマト〉の主砲が至近弾を出すたびに、ドメル艦隊は次第に右舷方向(〈ヤマト〉から見て左舷方向)へと進路を変えていきます』
「何を狙っているんでしょうか?」
「おびき出す目的は、ドメル艦隊を一掃させるためだろう。しかし、その先には……!」
「宇宙気象に巻き込むきなんや!」

  その通りであった。再現された戦況スクリーンには、ドメル艦隊と〈ヤマト〉が距離を近づけつつあるのが映されている。
しかし、その双方の進む先には宇宙気象――即ちイオン乱流の一番激しい宙域があったのだ。ドメル艦隊はそれに気づいてないのか、あるいは戦闘に集中しすぎているのか。
巧みな誘導を魅せる沖田だったが、ここで〈ヤマト〉の第二主砲に陽電子ビームが直撃する。ここにきて、前部砲塔は全て使用不能になってしまったのだ。
艦首の魚雷発射管も、先の雷撃で使用不能になっている。万事休すかと思いきや、ここで沖田は命じた。

『ドリルミサイルは双方の距離が四〇〇〇キロにまで接近した時点で、反転されました』

  ミサイルならば数十秒とかからない。そして沖田は、確実にドメル艦隊を罠に落とすために、自らイオン乱流の吹き荒れる宙域に突き進んだ。
それは下手をすれば自分が巻き込まれない判断だった。航海長は、嵐に巻き込まれぬよう巧みに操艦する。そして、放たれたドリルミサイルは……。

『沖田艦長は、ドリルミサイルがドメル艦隊との軸線上に乗った瞬間に、撃ち落とさせました』
「凄いな、レーダーなしで、あれを落とすのか」
「神がかってるでぇ」

それは南部 康男(当時中尉)による、直接砲撃だった。彼はレーダーなしで、後部第三主砲の測距義を使って、これを打ち抜いたのだ。
  一方のドメル艦隊先方〈ダロルド〉は、突然に反転を開始したドリルミサイルを発見するのに遅れ、そして驚愕した。
もしも〈ダロルド〉が熟練兵で構成されていたのであれば、早期な発見からの迎撃か、回避行動を取ることが出来たであろう。
それは叶わない。若年兵はレーダーの測定距離を、寄りにもよって間違えた。また〈ヤマト〉追撃に集中しすぎたためとも言われている。
  艦長のドーラ・バレク大佐は叱責するよりも、回避行動を最優先させた。採掘弾の信管が生きてなければ、至近を通過しても大丈夫だと信じていた。
しかし、回避しようとした直前に〈ヤマト〉のショックカノンが確認されると、〈ダロルド〉操舵手がどっちへ回避すべきかと判断を遅らせてしまった。
その僅かな時間差で、ドリルミサイルは撃ち抜かれた。それも、〈ダロルド〉艦橋の目前一〇〇メートルという超至近距離で、である。

『ドリルミサイルは大爆発を起こし、戦闘空母は巻き込まれて轟沈します』
「一瞬の判断ミスが命取り、とはまさにこういうこと言うのでしょうか」
「そうだと思う」

  〈ダロルド〉が轟沈するシーンは実録されたもので、その破壊力に絶句する三人。半径一キロは優に広がる爆炎なのだ。
ドメル艦隊の崩壊は、まだ続いた。〈ダロルド〉の轟沈から巻き込まれんと、〈ドメラーズV〉が減速して右舷へ反転するが、これは第三空母〈シュデルグ〉に災難を呼んだ。
〈シュデルグ〉は突然減速した〈ドメラーズV〉に追突しそうになり、咄嗟の判断で左舷方向へと舵を切ってしまった。
寄りにもよって、まだ強烈な爆炎が残る方向へだ。慌てて右舷に転舵をするが、慣性で横滑りしながらも虚しく爆炎に突っ込み、残った弾薬に引火して轟沈。
  第二空母〈ランベア〉は〈ドメラーズV〉の後に続いたが、この艦は後ろではなく旗艦の右舷にいるべきだった。
ドメル艦隊は〈ヤマト〉と並行しているのだ。ということは、〈ランベア〉は〈ヤマト〉の射界に入ったことを意味する。

『〈ヤマト〉の砲撃によって、最後の第二空母は左舷に二発が被弾。制御を失って乱流層の中に沈みます』
「荒れ狂うイオン乱流に飲み込まれたのか……想像するだけで恐ろしいな」
「これで、〈ヤマト〉と旗艦のみ。しかし、重装甲の旗艦を相手に……」

  ランスバッハの心配も最もだった。〈ヤマト〉は手負いで、〈ドメラーズV〉は全火器が健在で無傷なのだ。が、イオン乱流にいつ巻き込まれるかもわからない。
それでも、〈ヤマト〉は無謀とも思える同時並行による砲撃戦の応酬を選んだのである。まず〈ドメラーズV〉が砲撃を開始する。
艦前部の四連装陽電子ビーム砲三基、艦橋後部の一基、さらには艦底部の砲塔までもが旋回して、左舷方向にいる〈ヤマト〉を狙ったのだ。
焦っていたのか、それともこの環境下の影響か、〈ドメラーズV〉の命中精度は良いとは言い切れなかったが、それでも初弾で二発命中させた。
  四九センチと、他ガミラス艦とは規格外の口径と威力を誇る主砲だ。〈ヤマト〉の右舷装甲を傷つけ、いや、抉り取った。
〈ヤマト〉も残る第三主砲、第二副砲で応戦を開始する。南部の補正が掛っているためか、はたまた〈ドメラーズV〉が巨体であるためだろう。
初撃で〈ドメラーズV〉の第二主砲を根元から削ぎ取り、左舷後方の装甲に着弾させたのである。だが、〈ドメラーズV〉は装甲を抉られはしたが、致命的ではない。

『このドメル艦は、防衛軍が遭遇してきた勢力化の中で、最も強固な艦船であることが証明されました』
「しかし、最初の頃よりも脆く感じられますが、提督はどう思われます?」
「そうだな。確かに、最初の頃よりは、脆く思うが……」

そこで口を出したのがはやてだ。

「そんなことあらへんよ」
「? 何故だい、はやて」
「艦首の装甲は、正面切って撃ちあう事を想定して固くしたんやろ。けど、装甲の厚さは、全体に万遍なくできるモノではあらへんのや。それは建造のコスト費が膨大なものとなるとし、機動力もさらに落ちてまう。それに肝心なのは、外部は損傷しても内部が無事なことやで。見た目は火ぃ吹いてて、かなりの損害に見えるやろうけどね」

  目方の教えは凄まじいものだ、とクロノは心底から思った。〈ドメラーズV〉は彼女の言うとおり、側面装甲に被弾こそしているものの、強固に耐え抜いていた。
ドメルは臆すること無く、直ぐに撃ち返す。〈ヤマト〉に再び着弾する〈ドメラーズV〉の主砲。〈ヤマト〉にも爆炎が上がる。
ここで〈ヤマト〉は一気に決めるべく、右舷のミサイル発射管八門を一斉に放つ。それは並んで〈ドメラーズV〉に全弾が着弾した。
対空火器で撃ち落とす事も出来なかったが、それでも〈ドメラーズV〉は落ちない。いや、それどころか闘争心を掻きたてさせられたかのように、反撃してくるのだ。
  そこから壮絶な撃ちあいが続き、〈ヤマト〉は六発の命中弾を受けて、右舷対空機銃の半数を失い、右舷発射管も損傷した。
方や〈ドメラーズV〉はショックカノンを六発、ミサイルを八発受けても、まだピンピンしていたのだ。恐るべき重装甲である。

「艦隊同士ではなく、単艦同士の砲撃戦が、ここまで壮絶なものだとは思わなかった」
「今のSUS軍の戦艦は、防衛軍のショックカノンが二発か三発もあれば撃沈は容易いですからね……それだけに……」
「この艦の強固さが改めて、凄いっちゅうことやな」

という間に、軍配はついに〈ヤマト〉に上がった。〈ドメラーズV〉は突然に荒れ始めたイオン乱流の中へと突っ込んでしまったのだ。
そこにダメ押しと言わんばかりの〈ヤマト〉の砲撃。イオン乱流に揉みくちゃにされる〈ドメラーズV〉は、もはや何処に撃っているのか、というくらいに照準が合わない。
  そしてトドメの一発が、乱流によって艦体を仰られて晒した艦底部に、艦首から艦尾へと薙ぎ払うような形で着弾した。
操艦さえ不可能となった〈ドメラーズV〉に区切りをつけたドメルは、ここで艦橋部だけを切り離した。円盤状の艦橋部は独立戦闘指揮艦としての機能を持っていたのだ。
そこからドメルは〈ヤマト〉の艦底部に接舷。自爆するのはクロノの達の目から見ても、明らかなものだった。

『この時の、ドメル将軍と沖田艦長の通話記録が残されています。再生しますか?』

  クロノは無言で再生した。そこにあったのは、祖国の命運、家族の命運など、様々な思いを秘めた名将の、短くも重い会話であった。
互いが初めて顔を合わせた瞬間、両者はまるで懐かしき戦友に会った、そんな表情をしたという話もある。

『私は、銀河方面軍作戦司令長官エルク・ドメル……やっと、お会いできましたな』
『それは、私も同じ思いです』
『沖田艦長、貴方の見事な采配に心から敬意を表する』
『ドメル司令。勝敗は決した。これ以上の無用な争いは望まぬ。どうか、我々を通してはくれまいか?』

普通ならば憎んでも憎み余る敵――ガミラス。だが、沖田の会話からは、そんなものは感じ取れなかった。全力を尽くしあい、戦った結果か、それは尊敬しているようにも感じる。

『それはできない。貴方も軍人なら分かる筈だ。ここで〈ヤマト〉を見逃せば、それは今まで戦って死んでいった部下達の死が、無駄死にであったことを意味する』

これを聞いたクロノ達の心境は複雑なものだ。無用な流血を望まないのは誰しもが願う事。しかし、軍人である以上、命令には逆らえないし、ドメルの言ったように、死んでいった部下が無駄死にした、ということを認めることになる。
自分を犠牲にしても、〈ヤマト〉を仕留める。時空管理局で、命を捧げてまで任務を完遂しようという者は、少数に留まるに違いない。

『沖田艦長。私は軍人として、いや、一人の漢として、最期に貴方の様な人物と会い見えたことを、心から誇りに思う。君達テロンと、我がガミラスに、栄光と祝福あれ――!』

  その直後、ドメルの旗艦は自爆した。その際、ドメルの部下達はどうしたのか。〈ヤマト〉側からは見えなかったが、ドメルの部下は全員、最後まで忠誠を誓い従った。
だがドメルの死は、悪く言えば無駄死にとなってしまった。〈ヤマト〉が波動防壁をギリギリで展開させ、自爆からの爆風を防いだからだ。
クロノはここで記録再生を止めた。そして、この戦いの経緯を、改めて考え込む。双方の指揮官の判断能力、その下で戦う兵士達の力量。そして、運気。
  戦場を見極め、正確な情報収集にて得た物を最大活用して、〈ヤマト〉を着実に追い込めたドメルの手腕。反対に、戦況を中々把握できずに苦戦続きだった沖田。
誰もが見てもドメルの勝利を疑わなかっただろう。それを逆転させたのは何か? 彼らは考え込んだ末に、結論を出した。

「やっぱり、“人間”の力なんや」

古来より、戦闘の九九パーセントは準備にあると言う。作戦の優劣、兵力の動員規模と質、補給の堅牢さ。だが、優勢であっても、劣勢であっても、ひっくり返る要素がある。
それが人間と言う、最後の一パーセントの可能性だ。真田が〈アンドロメダ〉を前にして言った「戦闘は人間がするものだ」、これに掛っている。

「〈ヤマト〉側の諦めぬという意思、そしてそれを成し遂げたクルー。これが逆転の奇蹟を生み出した、とい訳ですか」
「そうだ。我々管理局も、魔法を使うが、詰まる所、それも人間の手によるものだ。魔導師の意志と行動が、時として有り得ぬ逆転を呼ぶ。勿論、魔導師をサポートする、非魔導師の存在も含まれる、と僕は思う。そうだろう、はやて」
「その通りや。今、この記録を見て、改めて思ったわ。魔法の力だけじゃない、なのはちゃんやフェイトちゃん、機動六課全員の力があって、事件を解決できたんや」

  PT事件も、闇の書事件も、JS事件も、皆、人間の力で解決してきた。時に絶望と思われた状況をひっくり返したのは、まぎれもない人なのだ。

「しかし、提督。この航空戦は、まだまだ分析する必要がありそうですな」
「あぁ。〈デバイス〉隊にも、大いに参考になる。フェイト達を呼んで、出来る限り検討してみるべきだな」
「了解や」

決戦が迫る日々の中で、クロノ達を筆頭とした管理局は、この激動の時代を生き残ろうと懸命に動き続けるのであった。



〜〜あとがき〜〜
どうも、大分ご無沙汰になってしまいました。今回は単なる過去の戦闘を振り返る中で、クロノ達の意志をいれてみただけ、というものとなりました。
楽をしているつもりはないです。ただ、やはりクロノも、艦隊指揮官として何らかの行動はしているでしょうし、それを考えて書いてみました。
因みに七色星団の描写は、旧作と2199をブレンドしつつ、独自の解釈を淹れていますので、ご注意ください。
故に、〈ヤマト〉に特務小隊が乗り込む場面はありませんし、攻撃隊の順番も旧作のまま。
しかし、砲撃戦で殴り合う過程は旧作基準では如何と思いまして、ドメルが何故接近戦を持ち込まねばならなかったのか、という理由を独自に付け加えました。
こうでもしないと、ドメルがまるで、自分から的になります、と接近していくようにしかならないので……。


それと以下は私的なものとなります。
八月二五日に、ヤマト2199を見に行きました。いやぁ、公開時から見続けてきました、最初こそ待ち遠しいと感じていた反面、第7章で、もう終わりか、という気持ち。
内容はネタバレを防ぎますが、個人として大変に素晴らしいものだと感じました。監督とスタッフは、よくここまで作り上げてくれたものです。
だた二五話が時間短縮ということでしたが、そのような違和感はなく、ただ、多少の作画崩れがあったかな、と思う程度(私は気にしないレベルですが)。
それに宮川彬良氏の、また新しい曲が聞けたこともあって、大変すばらしい。『ヤマト渦中へ』のさらなるアレンジ版は、思わず体が動いてしまいます。
締めくくりのED曲『愛の星』も、全てを締めくくる相応しい歌だと思います。これに参加された水樹 奈々さんの切なさそうな、そして心染みる歌声が、忘れられません。

とはいえ、やはり誹謗中傷する人もいるわけで……。特にデスラーファンは納得がいかないようで、あまりの冷徹ぶりな彼を見た余り、ヤマト2199は最悪だと言い切る始末。
個人の理想像はあって当然です。しかし、こう言いたい。自分の理想から外れたからといって、リメイク2199を最悪な作品と言い切るのは時期尚早だと。
それに出渕監督は言っていました『全ての人を満足させられるのは難しい』と。それにデスラーを熱き武人だと評価する人がいます。それはあくまで、続編以降でのこと。
旧作だって、自国の民間人を巻き込んでまで、本土決戦をやっているんです。しかも、自分から引きずり込んでおいて、です。
単なるリメイクでない以上、理想像と違う事を覚悟するべきですし、そういった所も含んで楽しく象徴し、キチンとした評価を出すべきだと思う次第です。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.