外伝『戦場に舞いし女神』


  宇宙空間にも劣らない、膨大な次元空間。そんな空間で、いったい誰が、このような戦闘を予想していたのだろか。高町 なのはは、ふとそう思った。
管理局、地球軍ら連合軍と、SUS軍が激突している。彼女は、そのど真ん中にいた。両軍の戦闘機が大量に飛び、命を懸けて相手を撃ち落とす。
撃ち落とされた戦闘機は、無情にもパイロットを道連れに爆発四散する。戦闘艦同士が主砲を撃ち合い、それはデブリと成り果てるまで続いていく。
  そんな危険な空間の中に、彼女はいた。生身の身体で次元空間にいるわけではない。彼女は、戦闘艇〈レイジングハート〉の中に乗って、次元空間を飛んでいるのだ。
球形状コクピットの中は無重力で、なのはは浮いた。そして、全周囲がスクリーンと化し、まるで自分が次元空間にいる様な錯覚を覚える。

(……来た)

彼女のデバイス――〈レイジングハート〉がSUS戦闘機の接近を告げたのだ。七時方向、仰角二〇度。瞬間、なのはは意思を働かせ、〈レイジングハート〉を動かした。
本来のデバイスである〈レイジングハート〉が、今や五〇メートルの戦闘艇と一体化している。今まで、戦闘機すら乗ったことの無い彼女が、動かしているのだ。
  いつも、自分が空を飛ぶ感覚と同じ要領。〈レイジングハート〉は機敏に機体を翻し、SUS戦闘機の銃撃を交わすことに成功した。
避け損ねても、シールドが身を守ってくれるが、避けた方がエネルギー消費が最少で済む。なのはは、自分を襲ってきたSUS戦闘機に、機首を向けた。
そして、ロックオンしたことを、相棒が告げる。彼女は沈黙を保ったまま、目標に対して銃撃を行った。

「……」

  命中し、火花を散らしたSUS戦闘機は、一瞬で火だるまとなって爆発した。爆発が収まると、そのこには戦闘機だったものが浮遊しているに過ぎない。
撃墜に成功した当人は、何も感想を声に出すこともなく、ただ、沈黙したままだ。その心中は複雑で、喜ぶことは出来ないが、同情する気にもなれなかった。
憎いSUS。後輩を撃ち殺されてしまった記憶が、再び甦る。が、同時に古代の表情と言葉が思い起こされた。

(いけない、私は……)

  憎しみや復讐心に捕われた時、それは自分を見失うことを意味する。分かっているのだ。だが、負の感情が時として、鎌首をもたげるである。
これは戦争であり、殺さなければ自分が殺される。命を奪うことに抵抗感を持つなのはも、非常な現実を前にして甘さを捨てざるをなかった。
多くの市民を守る為にも、親しい人達を守る為にも、そして、愛娘を守る為にも。鬼神となりて、己の手を血に染めよう。
  連合軍とSUS軍が激しい戦闘を開始してから、既に十数分が経過している。艦載機隊は先行して攻撃を加えていたが、それはなのは達も含まれていた。
ベルデル軍の攻撃隊、地球軍の攻撃隊、そして、管理局からは新鋭の〈デバイス〉攻撃隊が、合計で一三〇〇機を数えている。
これ程の大編隊がSUS軍に襲い掛かったのだ。無論、SUS軍も攻撃隊を送り込み、自身の艦隊には直掩の戦闘機を出して応戦してきた。
一〇〇〇を超す直掩機の大群に、連合軍は怯むことなく突っ込んでいったのだ。そこからは、艦載機同士の激しいドッグ・ファイトが繰り広げられた。
  〈ベルデルファイター〉が直掩機を引き付け、その間に地球軍ら艦載機が、艦隊へ攻撃を仕掛ける。管理局の攻撃隊も加わった。

『二時方向、伏角三五度。敵艦を補足しました』

〈レイジングハート〉が報告する。

(……あれは、SUSの戦艦クラスだね)

他国軍よりも小型ながら、その火力は札付きだ。対空火器も侮れないことを、なのはは思い出す。
だが恐れていても、何もならない。彼女は心を鬼にして、その補足した戦艦目がけて、突撃を開始した。エンジンを一気にふかし、加速していく。
  これに気づいたSUS戦艦は、主砲を旋回させてなのはに狙いを定める。見慣れぬ新兵器だ、とで思っているだろうか。
戦艦の主砲が発光し、赤いビームが疾走して襲い掛かる。が、なのはの機敏な反射神経によって回避されてしまった。
続けて主砲を発射するものの、命中させることが出来ない。手間取る内に、なのはの〈レイジングハート〉が肉薄した。

「発射」

  大型対艦ミサイル二発に通常ミサイル四発が、獲物を求めて襲い掛かる。SUS戦艦は対空機銃で撃墜しようとしたが、それは間に合うことはなかった。
全弾が命中し、甲板が一気に火の海と化した。主砲は吹き飛び、攻撃力を半減したところで、トドメの一撃が入る。
  機首下部に備え付けられている二〇センチ口径ショックカノン一門が、SUS戦艦の艦体上部に向けて発射されたのだ。
遠距離ではダメージを期待できないだろうが、至近距離で発射すれば、巡洋艦クラスの主砲と言えど大破させることは出来る。
砲身から飛び出したエネルギーは、SUS戦艦の甲板に見事命中した。シールドを貫通し、装甲を貫通したショックカノンは、艦内部を破壊尽くす。
爆炎に包まれる戦艦の脇を、〈レイジングハート〉は高速で擦り抜けた。数機の機銃が反撃したものの、それはシールドに弾かれる。
  人生で初めて、彼女は戦艦を仕留めた瞬間だった。

(私が、あれを……)

擦れ違い様に見た、撃沈していくSUS戦艦に特別な感情を抱かなかった。そして、戦艦を落とした次に、四機のSUS戦闘機が襲い掛かってくる。
SUS軍前衛艦隊のルヴェルが、この〈デバイス〉隊を蹴散らすために、四機編隊での迎撃を命じた直後のことであった。
  四機が相手……か。戦闘機同士であれば、この〈レイジングハート〉が落とされる可能性は低い。が、長時間に相手にしていたら、分が悪くなるだろう。
彼女は慌てず、相手を引き離すのではなく逆に引き付けた。SUSパイロットも、この行動を不審に思うものの、逃げないのなら好都合だと言わんばかりに、襲い掛かった。
それこそが、なのはが待っていた瞬間である。〈レイジングハート〉の連装機銃砲塔が旋回し、直進してくるSUS戦闘機を狙い撃つ。
戦闘艇の迎撃射撃に、SUS戦闘機二機は回避が遅れて被弾。そのまま錐もみ運動を初めて、爆発四散する。
  残る二機はアプローチを変えようと動くものの、腹を見せた途端に蜂の巣となって果てた。この時点で、彼女は戦闘機五、戦艦一を仕留めていた。
前の自分であれば、こんなことは出来なかっただろうか。そんなことを思ってしまう。そして、彼女と同じく、〈デバイス〉に乗って戦っている親友や戦友を見る。
まるで自分の身体の一部であるが如く、機体を操り舞っていた。その飛び方にも、各個人の個性が表れているのが、なのはの眼でも分かる。

(あの飛び方は、フェイトちゃんだね)

  フェイトは近接戦闘主体かつ、機動戦術をモットーとしているためか、その飛び方はまさに“舞っている”という表現が適切に思えた。
シグナムは騎士らしくも、機敏に動きつつも相手の懐に潜り込む。ヴィータは、回避は最小限にして、直線で突っ込んでいく。
余りに直線的すぎると、かえって危ないのでは、となのはは思った。
  〈デバイス〉隊に配属されたノーヴェ、ウェンディの二人は、最初の頃と比べるとかなり上達している。訓練の時は、初めて扱う戦闘艇に戸惑ったものだ。
無論、それは先に配属されたフェイトやシグナム、なのはを含めた殆どの者が、同様の反応を見せていた。こんな物を扱えるのだろうか、と。

『全機に次ぐ。直ちに離脱せよ。繰り返す、全機直ちに離脱せよ』

連合軍艦載機隊に向けて、撤収命令が下る。攻撃部隊は、搭載していた弾薬を使い果たしていたのだ。ならば、これ以上SUS艦隊に付きまとう必要はない。
それに〈デバイス〉隊のシールド稼働時間も限界に近い上、SUS艦隊と連合軍艦隊の双方が、距離を詰め始めている。
間違いなく砲撃戦闘の前兆であった。このまま留まっては、味方の邪魔になるだけだ。〈コスモパルサー〉や〈彩雲〉、〈ベルデルファイター〉、〈デバイス〉ら機体群は、命令に従って次々と機体を翻していく。
  だが、そう素直に撤収できるとは限らない。

『警告、後方より敵機三!』
「っ!」

なのはの乗る〈レイジングハート〉に対して、数機のSUS戦闘機が追撃を仕掛けてきたのである。相棒のサポートを受け、彼女は機体を下方へ急反転させた。
相手とは下方へ進むことで、狙いを外そうとしたのだ。だが相手は巧妙であった。回避先を予測して、他の機が回り込んできたのである。
〈デバイス〉級は、小型艦ながらもシールドを装備している。それは、〈コスモパルサー〉でさえ搭載していない超小型波動エンジンがあってこそだ。
  しかし、シールドは無限の防御兵器ではない。攻撃を受け続ければ、それだけシールドへの負荷は掛かり、消耗した分のエネルギーを回さなければならない。
彼女の〈レイジングハート〉を始めとして、他の機体も戦闘開始直前からシールドを展開したままである。その間、攻撃を幾度か受けている。
シールドの展開時間、耐圧限界点が迫りつつあった彼女の機体に対する、この追撃は厳しいものとなった。

『シールド展開が、限界値に達します。このままでは直撃を受けてしまう可能性があります』
「わかってるよ」

とは言うものの、SUS戦闘機隊も学習したのか、〈レイジングハート〉の後方と直上および直下から狙ってくる。
  〈デバイス〉級には、対空火器が備わっているものの、その射角は万全を期する訳ではない。この三方向には対応できないのだ。
なのはにしても、大人しく飛行するほどお人よしではない。機体を回転させるなりして照準をずらし、対空火器で迎撃しようとするものの、上手く行かなかった。

「これは、さっきまでのとは違う……っ!」
『直撃です。シールド消失!』

遂に〈レイジングハート〉の防御手段が消失してしまった。あとは機体の装甲と、己の技量のみ。ミサイルも撃ち尽くしている今、逃れるのは難しい、
相手にしているSUS戦闘機隊は、先ほどまでに相手をしていたものとは、技量が違った。不格好な形をした戦闘機からは想像もつかない運動性能を見せ、翻弄してくるのだ。
カタログスペック上は、〈コスモパルサー〉に劣り、〈ベルデルファイター〉に辛うじて並ぶくらいのものの筈だった。
  追撃してくるSUS戦闘機隊を、なのはは技量でカバーしつつも応戦した。しかし、それらはものともせずに、砲火を掻い潜り、肉薄してくる。
この時、彼女の心には焦りが膨大化していた。昔の重傷を負った時にせよ、ミッドチルダ攻防戦にせよ、それ以上に彼女は焦った。
無人兵器であった〈ガジェット〉が追いかけてくるのとはまるで違う。苦戦を演じることになった彼女を嘲笑うかの如く、SUS戦闘機隊は獰猛な鯱の様に襲い掛かる。

「しまっ……!」

一瞬の隙だった。なのはの反応にタイムラグが生じた瞬間に、二機の戦闘機ががら空きの後方を狙ってきたのだ。
赤いビームの雨が降り注いでくる。彼女はそう直感した……が、ここでまたもや変化が起きた。
  狙ってきたSUS戦闘機の一機が、機関銃による銃撃を受けて爆発したのだ。もう一機は急ぎ反転してその場を離れようとしたものの、同じ運命を辿った。
その光景に唖然とする彼女の視界に、救援に来てくれたであろう二つの機体が並走する形で現れた。
一つは同じ〈デバイス〉級であり、もう一機は〈コスモパルサー〉である。

『なのは、大丈夫!?』

心配して声をかけてきたのはフェイトであった。隣に並走しているのは、彼女の〈バルディッシュ〉だったのだ。
  救援に来てくれた親友に、なのはは感謝した。同時にもう一機の〈コスモパルサー〉からも無線を通じて声をかけてきた。

『こちら、地球艦隊旗艦〈シヴァ〉所属、艦載機隊長の坂本。どうやら間に合った用だが、無事か?』
「ぁ……ありがとうございます。大丈夫です」

坂本という名を、なのはは覚えている。フェイトとの初の模擬訓練を行った、地球防衛軍でも随一のパイロットであったことを。
彼女は、危ういところを救ってくれた坂本にも感謝をしつつ、戦場を離れて帰還の途に付いた。





  一方、絶好の獲物を取り逃がしたSUS戦闘機隊。その残存機の内、一機に乗るSUS人パイロットは、思わぬ邪魔に舌打ちをしていた。

「おのれ、もう少しで喰えたものを」

SUS軍 第一九〇航宙隊 第三戦闘機隊隊長のヘイム・グルウス少佐、SUS軍でも名の上がるエースパイロットである。地球年齢で言えば三八歳相当であった。
彼は地球軍と管理局の妨害によって、撃墜できなかったばかりか僚機を失ったことに怒りを見せた。
彼の無線機には、SUS軍が初手において劣勢である旨が入っていただけに、先の失敗に対する怒りは倍増するものである。
  内容によれば、SUS艦隊の損害は三〇余隻に上るという。一六三〇隻余りの大艦隊からしてみれば、致命打とは程遠い損害でしかない。
方や艦載機では、一一〇〇機余りの直掩機隊の損害は二四〇機。一二六〇機余りの攻撃隊の損害は三六〇機にも上るというものだった。

「何てことだ、奴ら相手に六〇〇機以上の損失を出したというのか!?」

味方の損害率に驚愕するグルウスは、無線機に向けて無意味な怒鳴り声を上げた。
  対する連合軍に与えた損失はと言えば、たった二三隻ほどに留まったという話だ。艦載機は四〇〇機前後を撃墜したということである。
それなりの損害を与えたように見えるが、比率で言えばSUS軍の損害の方が大きかった。不甲斐ない、と彼は友軍を罵った。
彼自身は立派に役目を果たしている。直掩機隊の隊長として率い、連合軍の艦載機を二四機撃墜しているのである。
彼個人の戦果は一二機という、驚愕の撃墜数を叩き出していた程だ。
  とはいえ、一人の戦果が全体の戦局に与える影響は、微々たるものである。エースとしての撃墜数を叩き出した彼は、それでもなお取り逃がした事の方が重大であった。
痛み分けともいえる損害を被った両軍は、そんな一パイロットの思惑を歯牙にかけず、新たな局面へと差し掛かろうとしている。
砲撃戦に巻き込まれては文句も言えず、彼は素直に指示に従って帰還した。

『誘導に従い、着艦せよ』
「了解」

  彼の母艦は前衛艦隊の旗艦〈マハムント〉。猛将ルヴェルの乗艦する最新鋭の大型戦闘艦だ。彼はパイロットであるが、この最新鋭艦に配属されたことに誇りを持っている。
全次元世界を治めんとするSUSの力強さを具現化したものなのだ。無論、その上を行くのは〈ノア〉であるものの、〈マハムント〉も負けてはいない。
そんな誇り高い母艦に到着早々、彼は先の大型機への対処を既に考えていた。

(奴――大型戦闘艇は、確かに恐ろしい。戦闘機にはない火力と加速力、防御力を持っているからな)

  〈デバイス〉と交戦したグルウスは、今一度冷静になって分析する。あれは、複数で攻撃しても容易には撃破できない。
まるで駆逐艦を相手にしているのではないか、という錯覚すら覚えた。その証拠として、戦艦を沈めうる重厚な火力と、シールドの存在。
残念ながら、SUS戦闘機隊の火力では打ち破ることは不可能に近い。複数で攻撃を続けて、やっとシールドの類を消滅せしめたぐらいだ。
今さら対抗兵器を作ることはできず、となれば従来の戦力を、戦術で補ってカバーするしかない。

(奴のシールドを一気に潰すには、一つしかない)

  打倒するための計算式をくみ上げるグルウスであったものの、艦隊決戦へ移行し始めた現状を鑑みると、再度の艦載機戦闘があるかどうかさえ怪しかった。
それでも一〇〇パーセントあり得ない訳ではない。出撃の声がかかる可能性はあるし、その時こそ連合軍の大型戦闘艇を潰すチャンスでもある。
今はともかく、その再度の出撃命令が下るまで、味方艦隊の奮闘ぶりを眺めるほかなかった。
  連合軍とSUS軍は、互いの艦載機隊を収容した。次は主砲による撃ち合いへと突入するのだ。双方の兵力は、連合軍一一六〇余隻、SUS軍一六〇〇余隻になる。
連合軍は全次元世界の存亡を掛けて、SUS軍は己の領土拡張を掛けて、その意思と意地をぶつけ合うのだ。

『全艦隊、砲雷撃戦用意!』

次元航行部隊 第一機動部隊旗艦〈アースラU〉の艦橋に、総司令官マルセフの指示が入った。その指示を受けて、第一機動部隊司令官であるクロノ・ハラオウンも指示を下す。
全艦艇は戦闘準備を終え、残るは砲撃の合図のみとなる。

「緊張しとるはん?」
「まぁ、ね。そういう君こそ、緊張しているんじゃないか?」

  司令官を作戦面で補佐する八神 はやては、座席に座って落ち着いているようにも見える。が、初の大艦隊同士による戦闘を前に、何処となく緊張しているようにも思えた。
クロノが指揮する第一機動部隊は、あくまで〈デバイス〉を運用するための艦隊だ。全機が発艦中ならまだしも、格納中に撃沈されてしまったら目も当てられない。
そのため、第一機動部隊は被弾しにくいであろう、後方に配置されているのだった。そして、緊張が走る艦橋に、遂に砲撃命令が下される。

『全艦、砲撃開始!』
「砲撃開始!」

敵味方を合計して二七〇〇隻もの艦艇群が、砲門を開き攻撃を開始した。赤、青、緑に彩られたエネルギービームの濁流が、次元区間を往来するのである。
  〈デバイス〉隊は、しばらくは出番がないということもあって、出られる用意をしつつも待機室にいた。
その中には、危うい目に遭いつつも帰還を果たしたなのはもいる。彼女は椅子に座り、失った分の水分を補給しようと、栄養ドリンクを口にする。
液体の入ったカップが、僅かに震えていることに、彼女は気が付く。戦闘の時の恐怖が、今になって出てきたのであろう。

「大丈夫?」
「ぁ……うん」

  隣に座るフェイトが、心配になって声をかける。この手の戦闘は、なのはの方が多少は慣れている筈であった。
声を掛けてくれるフェイトも、初めての実戦を終えて多少の動揺を見せているようでもある。だが、なのはの様に撃墜されそうになった、という恐怖を体験してはいない。

「なのはを狙った、敵の戦闘機だけどよ、ありゃかなりの腕だぜ」
「そうだな。私らが相手した者達よりも、巧みであった」

ヴィータとシグナムの二人は、なのはを襲ったSUS戦闘機隊の技量を高く見ていた。他の戦闘機よりも卓越した技量とチームワーク。
守護騎士である彼女らが相手をしても、容易にはいかないと見ているようだった。やはり、相手にも相応の強さを持った者がいると見るべきだ。
おそらく、次に出撃した時には、また狙ってくるかもしれない。これはシグナムの、騎士としての直感だった。
  〈デバイス〉のシールド稼働時間が限界であったとはいえ、並の技量を持つなのはを追い詰めた敵なのだ。
そんな者達が、次の艦載機戦闘で狙ってこないとは思えない。必ず、仕留めようと襲い掛かってくるではないか。
これはなのはに限った話ではない。〈デバイス〉に乗るもの全員にあり得る話なのだ。そんな時、やはり単機での対応は厳しいものとなるであろう。

「〈デバイス〉は重武装と高い防御があるから、単機でも十分に戦えるけど……」
「こうなった場合、最低でも二機のペアでお互いをカバーする他あるまい」

フェイトの心配に、シグナムはペアによる連携で対処する他ないことを告げる。だが問題なのは、彼女はペアによる戦闘訓練が浅いことにある。
もっともたる原因が時間の不足にあることは、誰にでも分かっていた。連携には連携をもって対処するしかないのだ。
  SUS軍の思わぬ強敵の存在に気づかされた彼女らを余所に、次元空間での激闘は続いている。数に劣る連合軍は、地球防衛艦隊を中核にしてSUS軍に出血を強いる。
SUS軍は猛将ルヴェルの猛攻によって、連合軍を少しづつすり減らしていった。どちらも、一歩も引かない殴り合い状態である。
連合軍側は、即席ともいえる艦隊編成でありながらも、よく連携して戦っていると言えるだろう。全艦隊指揮官が、決して非凡とは言わずとも、己の責務を全うしているのだ。

「如何、敵に読まれたか!」

  艦橋にて、クロノが叫ぶ。連合軍は、SUS軍を中央に誘い込み、次元航行部隊のアルカンシェル砲で畳みかけようとしていた。
それは脆くも潰え去り、SUS軍の猛攻を受ける羽目になったのだ。それも辛うじて抑えきり、後方配置の次元航行部隊とベルデル艦隊が動き出す。
連合軍の両翼に展開すると、迂回してくるSUS軍二個戦隊を抑え込もうと戦端を開いたのである。次元航行部隊は、SUS第六戦隊を相手にしていた。
短い時間に積み込んだ訓練の賜物か、次元航行部隊は以前よりも高い質を持って、第六戦隊と対峙した。
  さらに、クロノは〈デバイス〉による反復攻撃を実施させる。勿論、味方艦隊の砲火に巻き込まれぬよう、上方と下方から攻めさせることを徹底した。

「〈デバイス〉隊、全機発進!」

彼の命令に従って二度目の出撃を行った。白い機体群は、まるで鯱にでもなったかのように、SUS第四戦隊の上方と下方から襲いかった。

「敵の直掩機はいない……好機だね」
『その通りです、マスター』

〈レイジングハート〉に乗るなのはは、SUS第四戦隊には直掩機がついていないことを確認し、チャンスと捉えた。
相手もこの状態で艦載機を出すとは想像していなかったのか。艦隊の防空はがら空きであったのだ。
  〈デバイス〉隊 二〇機は、一〇機づつに分かれ、SUS艦隊を上下から挟み撃ちにする。

「みんな、行くよ!」
『『了解!!』』

なのは指揮する部隊は、下方から突撃を開始した。先頭を行くSUS戦艦の下方に、なのはは狙いを定める。
対空砲火が散発的に襲い掛かるが、その程度ではシールドを破ることはできない。〈デバイス〉隊の各機首のショックカノンが、やがて狙いすまされる。

「発射!」

そう叫んだと同時に、ショックカノンが発射される。青白い閃光を放ち、それらはSUS戦艦の艦艇下部に吸い込まれていき、命中する。
  砲撃戦で疲弊していた影響もあってか、その戦艦は被弾を許してしまった。下部から爆炎が上がり、瞬く間に火球と化してしまったのだ。
他の隊も攻撃を開始し、狙い付けた艦艇へ損害を加えている。フェイトも単独で駆逐艦を戦闘不能にし、シグナムらも上々の戦果を挙げているようだ。
続けざまにミサイルが発射される。艦隊の内部を縫うように、かつ、素早く移動しながらのミサイル飽和攻撃に、SUS第四戦隊は足を掬われつつあった。

「また、あの戦闘艇か!」
「二〇機の敵戦闘艇、本艦隊を攻撃中」
「戦艦〈ファグ〉戦闘不能、巡洋艦〈ガオル〉爆沈!」
「ルヴェル司令に戦闘機の支援要請だ!」

SUS第四戦隊は、これら〈デバイス〉隊のために直掩機を要請せざるを得なかった。小回りの利かない戦闘艦艇では、対処の使用がなかった。





  前衛艦隊旗艦〈マハムント〉から、第四戦隊を支援すべく戦闘機隊が発艦する。その中には、戦意旺盛なグルウスも含まれていた。

「奴らめ。今度こそ落としてやる」

ギラリと光る眼は、SUS人特有のものであり、またハンターとも言える。先ほどは地球軍の艦載機などに阻まれたが、今度こそは叩き落とすのだ。
直掩機隊四六機は〈マハムント〉が搭載している機体のみで、支援艦〈ガズナ〉級は遥か後方にて待機していた。
数から言えばグルウスら戦闘機隊の方が多い。だが性能は〈デバイス〉が上を行く。そこをグルウスは、技量と綿密な戦術で追い込まねばならない。
  〈マハムント〉の艦尾方向から、一斉に飛び立つ戦闘機隊。彼らは救援要請を入れてきた第四戦隊へと急行した。

『マスター、敵の戦闘機隊が来た模様』
「わかった。全機、敵の戦闘機に注意!」

なのはは僚機に向けて注意を促す。彼女自身も気を引き締め、向かってくる戦闘機隊へと矛先を向ける。
第四戦隊から離脱すると、瞬く間にそこはドッグファイトの舞台と化した。〈デバイス〉隊は、出撃前の打ち合わせの通り、二機によるペアを組んだ。
これによて、互いを援護しあい、集中的な攻撃を回避しようとしたのである。
  だが、撃墜に執念を燃やすグルウスらもまた、同様の方法をとってきた。もともと、彼らの方が数は多いのだ。
〈デバイス〉一機に対して、SUS戦闘機は二機追尾できる。それに僚機には、無茶な追撃を避けるように言い留めていた。
相手が大人しくなるまで、執拗に追尾し、時に射撃して精神的に追い詰める。これを徹底させるように言ったのだ。
それに、SUSパイロット達は素人ではない。機体の性能で負けてはいても、パイロットとしての技量は並である。

「チッ、こいつら、なぶり殺しにするつもりなのか!」

  ヴィータがイラつき、声を荒げる。魔導師として一級ではあっても、やはりパイロットとしての腕は一級とは言い難かった。
執拗に追い回してくるSUS戦闘機を、時には機銃で逆撃し、時には機体を翻して反撃しようとする。
それでも彼らは、距離を置いたり素早く反転したりと、隙を見せなかった。そして、動きが鈍ったところを狙って、機銃を叩き込んでくる。
シールドの効力で被害はないが、時間と負荷をかけていけばいくほど、〈デバイス〉は不利に陥る。意外な苦戦の中に、なのは達はいた。
  シグナムも、先ほどまでの動きと違うSUSに、苦慮していた。戦友を援護したくても、自分を追いつきまわす敵がいるのだ。

(動きがまるで違う。やはり、敵も侮れぬ、ということか)

SUS戦闘機隊は、二機づつのペアを組むとして、三組が余る計算になる。その余った三組が、〈デバイス〉隊に一撃を加えるのだ。
特に強敵と思われる機を狙うのではなく、練度の低いであろう機を狙う。その方が戦力差をつけやすいからである。
グルウスの命令は忠実に実行に移されていき、強力な戦闘能力を誇る〈デバイス〉隊も、思うような力を発揮できない。
  艦隊は相変わらず激戦を繰り広げており、しかも連合軍が押されている様子だ。逆転を狙うには申し越し時間がかかる。
例の要塞攻撃部隊が背後に現れるまでは辛抱せねばならなかった。その部隊はティアナとスバルの二人も参加している。

『こちら八番機、シールド消失、機体被弾、離脱します!』
『一四番機、被弾。離脱します……申し訳ありません!』

僚機から通信が入った。これになのははドキリとしたが、上手いこと離脱したことを知ってやや気持ちを落ち着けた。
逃げ切れただけでも良しとすべきだ。彼女はそう思い、後方にいる敵機をどうにかすべきだと、気持ちを改めた。
  だが僚機が離れたということは、それを追っていた敵機がこちらに回ってくるということなのだ。

『一機撃墜した!』
『こっちも落としたぞ』

今度は、ヴィータとシグナムの両名から、SUS戦闘機の撃墜報告が入った。一対一となれば、彼女らも戦い易くなるだろう。
とはいうものの、不利な状況に変わりはない。追って集って追い詰めてくるSUS戦闘機隊は、必死の抵抗を続ける〈デバイス〉隊を追い詰め続ける。
  グルウスの元には、〈デバイス〉を撃墜は叶わずとも被弾させたと言う報告を耳にしている。だが喜びなどしなかった。
その程度が限界か、と逆に呆れたものである。そして今、彼の目の前には、狙われ追われる二機の〈デバイス〉の姿があった。
僚機と、もう二組のペアと共同して追い込んでいたのだ。

「いいか、貴様ら。良く見ておけ!」

見る暇など、勿論ない。相手を追い回すことに精いっぱいだ。そのような事は鼻から分かっているが、グルウスはともかく狙った二機を追い詰めた。
  狙われた〈デバイス〉のパイロットは、追われると言う恐怖に、精神を擦り減らされていた。擦り減らされた分、相手への対応も次第に疎かになる。
グルウスは僚機と連携し、〈デバイス〉を艦隊へと追い込んでいく。そして、近くの友軍艦へ何やら通信を入れた。
御膳立ては整った。そこでトドメの一撃を、グルウスは放った。ビームは〈デバイス〉を乱打し、そのパイロットは慌てて機首を翻した……のがいけなかった。

「消えろ」

  その瞬間、二機の〈デバイス〉は赤い光に包まれる。それはSUS戦艦の大口径砲による、ビーム攻撃であった。
グルウスは大胆にも〈デバイス〉を相手に、友軍艦の主砲で撃ち落とすと言う、大胆な戦法を採ったのである。
しかも対要塞等で使用する大口径砲だ。これの使用には、協力を要請された艦長も渋ったものであるものの、前衛総司令官たるルヴェルの指示もあって、無視はできなかった。
それに大口径砲は横二列と縦五列の計一〇門、という広い射幅を有している。この範囲に追い込めば、必ず撃墜できる。
  事実、光に包まれた〈デバイス〉一機は、完全に消滅した。もう一機はギリギリ回避したもののシールドを失い、エネルギーの余波をもろに受けた影響により戦闘不能。
これで〈デバイス〉隊は、残り一六機。対するSUS戦闘機隊は四一機。このまま押せば、自分らの勝利は確実だ。

「よぉし。このまま追い詰めるぞ」

その声に、僚機の士気は上がる。
  一方の〈デバイス〉隊は、窮地に追い込まれていた。特に、初の撃墜機が出てしまったことに、なのはは勿論、クロノとはやても悔やんでいる。

「護衛の〈F・ガジェット〉は!」
「ただいま到着、交戦状態に入ります」

旗艦〈アースラU〉の艦橋にて、クロノは彼女らを助け出そうと必死になっていた。無人機である〈F・ガジェット〉は、直掩機として残していたものだった。
なまじ彼女らと同行させて混乱させては不味いと判断し、出していなかったのである。

「退かせるべきや、このままじゃあかん!」
「分かってる。だが、フェイト達の方がわかっているだろう、退くのが難しいことを……」

退くところを集中的に狙われてしまっては不味い。〈F・ガジェット〉を犠牲にして、彼女らの撤退を援護するほかないとクロノは判断したのである。
  土壇場で差し向けた〈F・ガジェット〉は、SUS戦闘機隊を狙って追い回し始めた。追い回す側から、受け身に回るSUS戦闘機隊は動揺する。
突然の乱入に、グルウスは苛立つ。ここまで追い詰めておきながら、邪魔が再度にわたって入るのだから無理もない。
それでも目の前の機体を放置するのは、彼のライドが許せなかった。追い回されているのは、案の定、なのはの〈レイジングハート〉だった。

「くそ……全機、慌てるな! 所詮は無人機だ。引きずり回して、友軍艦艇の対空砲火と連携して叩けばいい!」

第四戦隊にはいい迷惑であるが、数で劣る彼らからすれば、友軍の援護射撃は何よりも頼りになる存在であったのだ。
  対応策を促す一方で、彼自身は追い詰めることに専念する。今度こそ叩き落してやるのだと。

「やっぱり、この戦闘機は……!」

なのはは、自分を追い回してくる戦闘機の動きが、先ほどの物と同じであることを知り、緊張を高めていた。これはエース級の腕に違いない。
巧みの追い回す動きに、彼女は再び翻弄されそうになる。数分間、いや、数十分間とも思える長い時間、彼女は懸命に逃れていた。
自分からも攻勢に出ようとするが、相手に読まれて失敗する。その都度、ビームを叩き込まれてしまうのだ。
  相手は相当に、自分らを研究している。それも短時間の間にだ。

(皆も余裕はない。ここは何とか自分で……!)

ここで、クロノが放った〈F・ガジェット〉が舞い込んでくることに、彼女は気づいた。それは相手も同様で邪魔者の乱入により、追撃態勢を崩さざるを得なかった。
これをチャンスと見た彼女は、一気に距離を稼ぐ。グルウスは面倒だと言わんばかりに、機体を翻して接近してくる〈F・ガジェット〉を瞬く間に撃ち落した。
エースパイロットたる腕を無人機に発揮してもつまらない。彼はそう思いながらも、一度逃がした標的を探した。

「……上か!」

  瞬時の判断だった。素早く移動していたなのはは、グルウスの部隊上方に位置しており、まるで急降下爆撃機の様に襲い掛かった。
まだ残っている対空ミサイルを発射し、今度は彼女が追い回す。しかし、グルウスもフレアを放ってミサイルの追尾能力を無効化、これを回避する。
そして、〈レイジングハート〉が一気に距離を詰めてきた。来た、と彼は思った瞬間に、逆噴射で速度を一気に落とす。
  なのはから見ると、グルウスらは突然逆進し、あっという間に追い抜かしてしまった。これを、グルウスは狙ったのだ。
減速から急加速し、思い切りビームを放った。それも威力の高めなもので、シールドに直撃、出力を落とした。

「シールドが……」

弱まるシールドに同様するなのは。グルウスはチェックメイトだ、と笑みを浮かべた……その瞬間であった。
彼らの視界一杯に、小型の何かが散布されていた。何事かと思うのもつかの間、それらは一気に閃光で辺りを包む。

「目潰しか!」

コックピットを白く覆う光に、さしものグルウスも目をそらしてしまった。コンピューターが移動的に入光量を調節し、視界がクリアになった――刹那。

「……っ!?」

  それは、機首をこちらに向けている〈レイジングハート〉の姿だった。それを理解したと同時に、ビームの雨が銃座から撃ち出される。
機体はハチの巣にされ、グルウスは己の慢心に反省する間もなく、機体と共に散ったのである。これはかつて、フェイトが坂本を相手にした、模擬戦闘から得た戦法。
ただ違うのは、投下した武装ブロックをわざと爆破し、目くらましをした点にある。
  単に投下したのでは避けられる可能性も高い。そこで、彼女は爆破して敵の行動を奪ったのである。その読みは見事に当たった。
グルウスが視界を遮られた間に、〈レイジングハート〉は慣性航行に身を流しつつも機首方向を、一八〇度反転――後方のグルウスらへ瞬時に向けた。
後は彼女の相棒のデータ補正によって照準を付け、狙い打ったのである。グルウスは経験の浅い女性パイロットにしてやられたのだ。
 
『敵機撃墜を確認』
「ふぅ……。〈レイジングハート〉、皆は?」
『護衛機の来援で、順次離脱しています』

それを聞いた彼女は安心した。とはいえ、このまま留まっていては、次の敵機が向かってくるかもしれない。彼女は周囲を警戒しつつも、その宙域を離脱した。
ドックファイトによってSUS戦闘機隊は八機撃墜され、〈デバイス〉隊は一機損失と三機損傷と言う被害を被ったのであった。
  時を同じくして、SUS軍の後背に回り込んだ囮部隊の活躍により、SUS〈ケラベローズ〉要塞は強固な防御シールドを破壊された。
さらに、これに動揺したSUS軍を押し返すべく、連合軍は攻勢を強めたものの、将兵の疲労と艦隊が被った被害の多さによって、途中断念せざるを得なかった。
両軍はこれを機に、しばし休息の時間を得ることとなった。損傷した艦艇は応急修理を行い、無事な者は軽く食事を取るなりして体力を僅かでもつけようとする。
  〈アースラU〉の待機室には、出撃から戻ってきたなのは達がおり、再出撃まで時間を過ごしている。とはいえ、その空気は重いものであった。
初の戦死者が出たためだ。それに負傷したパイロットも二名程いる。戦争には犠牲は付き物であると言う、お決まりの言葉で気分が軽くなるわけでもない。
かといって、気を沈めていても次の戦闘に支障をきたすだけだ。それに、古代との会話を想い越しては、しっかりしなくてはならない、と気持ちを入れ替える。

「SUSの奴ら、どう出るんだ?」

  ヴィータが呟く。待機室に設けられている大画面には、両軍の配置図が映し出されていた。どちらも、一歩も引かない構えである。

「わからん……だが、相手は正面押しで来るだろう。小細工の余地など、もうない筈だ」

小さな騎士に、シグナムは腕を組みながらも答える。フェイトも、SUSの出方を気にしているが、双方の損害率を知ると、一段と戦争の過酷さを思い知らされた。
連合軍は三割を失って残り七一〇隻余り、SUS軍も三割近くを失って残り九八〇隻余り。失った艦船は、双方合わせて一〇〇〇隻近いものだった。

(連合軍は七一〇隻弱……。四〇〇隻以上の艦船が、多くの人命と共に……)

膨れ上がる死者の数。今までにない体験に、身を震わせた。本当に勝てるのだろうか、という不安まで持ちあがってしまう。
  また、〈デバイス〉隊のパイロットに推薦され配属されている、ウェンディ、ノーヴェの姉妹も、初めて見る大会戦に目を丸くしたものだった。
自分達が行ってきたことなど児戯にも等しい、と思わせるに十分な光景だ。恐らく、こんな戦闘を目の当たりにした姉妹は、彼女らが初めてだろう。
そしてこの戦闘は、どちらかが完全に消滅するまで続くであろうことを、知っている。自分らに後はなく、相手も講和する気は全くない。
マルセフが望んでいた早期講和、残念ながら叶いそうもない。なのはも、心奥底でそう考えていた。
  その時だった。艦内に放送が入る。それはクロノによる通達であった。

『諸君、艦隊司令クロノだ。総司令部より通達があった。これより、連合軍は再度の戦闘状態に入る。現在、連合軍は苦しい状況下にある。そして、皆も苦しいとは思う……だが、ここで退くことはできない。それは全員がわかっている筈だ』

心苦しいのは、誰もが感じていることだ。なのはも、彼の放送を聞きながらも理解している。そして、艦橋にいるはやても、彼の傍にあって早期終結を強く望んでいる。

「諸君、この一戦で、戦争を終わらせよう。……総員、戦闘配置!」

そこまで言い終えると、彼は艦内通信を切った。それからクロノは、一息吐く。随分と偉そうなことを言ってしまったものだ。
指揮官として、少しでも将兵のモチベーションを維持させんとした言動だった。隣に座るはやては、茶化すこともなく、労いの言葉を掛けた。

「ご苦労様、司令官。中々のもんやったで」
「ありがとう、はやて。だが、本当にこの一戦で終わらさなければならない」
「あぁ、その通りや。マルセフ提督も、ウチの進言を聞き入れてくれた。この作戦で、一発逆転をとらな……!」

若き指揮官と参謀もまた、なのは達以上に気を引き締め、再戦に目を向けるのであった。



〜〜〜あとがき〜〜〜
どうも、第三惑星人でございます。年が明けて一週間ほどが経過します……早いものです。
年末は大掃除、年明けてからは来客と、何かと慌ただしい日々だった気がします。
さて、久々の外伝でありますが、今回はなのは達パイロットの様子を中心にしてみました。
フェイトvs坂本編でも結構大変でしたが……無い知恵を絞って書いておりますw
次回は……いい加減に古代と雪の感動の再会でも書かないと不味いですね(汗)


そういえば、今年にヤマトの劇場が公開されるはずですね。詳細な情報は全くありませんが。
完全新作だろうと、なんだろうと、あのクオリティで続編(もしくはサイドストーリー?)が見れるだけでも、涙ものです。



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