外伝『不幸な偶然』


  時に西暦2220年5月、地球が未曾有の大災害に見舞われんとしていた真っただ中の事である。巨大なブラックホールに、地球が呑みこまれてしまうのだ。
そんな前例のない危機を前にして、地球連邦政府は移民計画を立案して即座に移民を行っている。しかし、SUS星間国家連合の前に第1段階はとん挫してしまった。
さらに第2段階となる第2次移民船団もが、国家連合軍の連合艦隊を前にして失敗しているのだ。が、この船団においては波動エンジンの事故によって予想外の事態を招いた。
地球連邦防衛宇宙軍の護衛艦隊一部と、連合艦隊が纏めて次元空間へと飛ばされてしまったのである。そこからガラリと歴史の流れを変えていく切っ掛けとなった。
  迷い込んだ地球艦隊は、時空の支配者とも呼べる時空管理局との遭遇を果たす。さらには、次元空間にまで進出していたSUS軍の存在。
そして偶発事故に巻き込まれた、連合艦隊の面々までもがSUSと合流してしまう。ここに、地球艦隊・時空管理局の連合軍と、SUS軍と・連合艦隊という図式が成立したのだ。
天の川銀河での壮絶な戦いとは別に、今後は次元空間でも人類の存亡を掛けた戦いが勃発することとなった。
  次元世界に向けて流される、SUSとの戦争情報は瞬く間に拡散している。だが、そんな戦争など我が身の事ではないとして、他人事のように見ている一団もいた。

「色々と面白い事になってるわね……次元世界も」

電波ジャックしてニュースを見ている数名の男女のうち、蒼いロングヘアーを三つ編みにした20代半ばと思われる女性が、興味深そうに見ている。
服装は黒を基色としたもので、丈が極端に短く袖もないベスト、同色のスリットの入ったロングスカートのようなもの。大胆にも腹部周りを晒しているような恰好だ。
さらにロンググローブによって、二の腕まで覆われている。徹底した黒い衣装に、何処かサディスティックかつエキゾチックな雰囲気を醸し出していた。
  カレン・フッケバイン、それが彼女の名前である。次元世界を騒がせ始めている殺人集団フッケバイン一家の筆頭格で、その徹底した残忍さは悪名を轟かせているほど。
時空管理局の手に捕まることもなく、ひたすら殺戮を欲しい侭にしているが、何も彼女だけではない。彼女と組んでいる数名のメンバーも同等の犯罪者である。

「けどよぉ、戦争ったって、あんまりやり過ぎちゃ困るんじゃねえのか」

ソファに腰掛けるカレンに対して、がらの悪い青年が苦言を呈した。見た目、やはり20代半ばと言ったところで、髪は杏子色、鋭い目つきで他人を殺せそうな威風である。
服装も赤いタンクトップに黒いジャケット、ジーンズ姿と言う、一見ではチンピラにしか見えないものだ。彼はヴェイロン、フッケバイン一家のメンバーである。

「殺せる奴らが減っちまったら、困るのは俺達だ。しかも、管理局が負けたら、あのSUSだとかいう訳の分かんねぇ宇宙人野郎が、でかいツラすんだぜ?」

  フッケバインの行動目的は、管理局において明確にされてはいないが、彼らは「世界を殺せる毒となる」ことを目指していた。
メンバー全員は世界を憎み、破壊しつくすことを目指しているものだが、そんな途中に外部勢力が殴り込みをかけてきているのだ。
ヴェイロンの言う通り、殺せる対象が段々と減っていくだろう。しかもフッケバインなどを見たら、SUSは間違いなく攻撃してくる。

「どうやら管理局の船では太刀打ちできないようですね。この分では、到底勝つことなどできないでしょうし、彼の言った通り、我々も動きにくくなるでしょう……」

  そのように冷静に分析するのは、紳士的かつ修道士にも思える風貌の青年だった。フッケバイン一家の参謀を務めるフォルティスである。
管理局の有する次元航行艦ではSUSの艦船に太刀打ちできず、大半は地球の軍艦に任せるしかない。ニュースに流れる内容は、そんなものだった。
その地球と言う存在が、逆に増しつつある。メディアによっては、単艦で次元航行艦10隻以上を葬ることのできる性能を有しているのではないか、と騒ぎ立てているのだ。
間違ってはいない情報であり、下手すると惑星さえ破壊可能な超兵器も有している。それを知ったらヒートアップするのは目に見えるが。

「地球か……そういや、あんときに襲った連中も、地球って言ってなかったか?」
「管理局コードで、第97管理外世界と登録されていた筈だがな」

  ヴェイロンの問いに、今度は物静かな若い女性が答えた。彼女は物静かであるこそすれ、他者を威圧するような雰囲気を纏わりつかせている。
卵色のロングヘア、褐色の肌、鋭い視線と右目を覆う眼帯。服装もボディスーツ系統で覆われ、その上から白いロングコートを羽織っていた。
彼女はサイファーと呼ばれる女性で、やはり20代半ばほど。冷静沈着な剣術家でり、これまでも多くの人間を切り伏せてきている1人だ。
  そしてヴェイロンの言うあの時とは、次元空間内を航行していた未確認の艦船を拿捕した時のことである。それは、ちょうど地球移民船団が襲われて2日後だった。
2隻の船が悠々と航行していたのを見つけたフッケバイン一家は、とある情報収集を行うために強制的に足止めして臨検(・・)したのだ。
無論、それが単なる臨検である筈もなく、艦内にいた地球防衛軍軍人達を尽く捕まえては情報を引き出し、終われば処分していった。
残酷な手も躊躇わず、手足を切断して無理矢理に問い詰めるのは勿論、携帯する武器で身体を突き刺したまま、グリグリと捻るという方法までとっている。
  いかな防衛軍の兵士とて、そのような残虐極まりない拷問には耐えかねる。だが、得られた情報は対して多い物とは言い難かった。
それでも、地球連邦、地球防衛軍、宇宙軍、移民船団、移動性ブラックホール、といった情報は得られている。今まで聞いたこともないような単語が大半を占めていたが。
消滅する地球から移り住むために移民行動を起こしているというのは、大まかな流れで分かった。そして、その途上で奇襲を受けて壊滅したことも。
  手にした情報の中には、ワープ航法という技術も含まれていた。これには、さしものフッケバインらも驚きを禁じ得なかったようである。

「結構頑固な連中が多かったがよ、まさか地球ってのがそんな力を持ってるとはなぁ」
「それについては同意ですね。私の記憶にも、地球は大して科学の進んだ星とはありませんでしたし……」

興味深そうにフォルティスが考え込んだ。地球とは、管理局に影響を与えるほどに名を馳せる世界ではなかった筈だ。
そう考えれば、彼等軍人の言った地球は97管理外世界とは別ものであり、全く未知の次元の異世界同軸存在(パラレルワールド)ということになる。

(このままでは混乱しますし、天の川銀河――(アー)銀河世界とでも言うべきなのでしょうね)

其処までフォルティスの考えが進めていたが、そうなればあの情報収集は、完全に悪手だったと今さらながらに後悔してしまう。
彼らは最初こそ謀略を疑い、寧ろ自分らの欲する情報が出てこないことに苛立って暴挙に出たのである
  しかし、情報以外に興味深いものが手に入った。それが、護送船らしき船のコントロールシステムだ。驚くべきことに、この船は全くの無人操縦艦だったのだ。
残念がら機関部に関しては、足止めするために破壊してしまったゆえに回収も分析も不可能であった。それでも、この航行システムは意外な収穫と言えた。
何故なら、彼女らが乗る飛翔戦闘艇〈フッケバイン〉は、1人の少女によって運行されているからだ。しかも10歳にも満たぬ少女が操っているのである。
その少女をステラ・アーバインと言う。金髪の容貌で、フッケバイン一家の移動拠点を管理し続ける重要なパーツでもあった。
  だがその少女も負担を避けることは叶わず、時折自動操縦にして負担を和らげるようにしている。カレンもどうにかしてやりたいとは思っていた矢先のことだった。
その無人操縦プログラムどころか、操縦ユニット全てを此方に移してステラの負担を軽減したのだ。勿論、自動操縦時には性能低下、戦闘能力皆無という惨憺たる有様だが、其の間だけはステラは艦内の何処でも豊かな表情を見せて駆け回れる。
これだけでも、あの船を略奪したかいはあったのだ。また別次元の地球と言い、拿捕したSUSなる国の船と言い、彼女らの人知を超えた世界がまだまだあることを悟った。
もしかしたら、この次元世界にこそ、求めているものがあるのかもしれない。カレンはふとそんなことを考え始めていた。

「……何やら匂うわね、地球って」
「?」

ポツリと呟くカレンに、周りの視線が集中する。彼女の目線は未だにニュースへと向いてはいたが、微笑を浮かべているのがはっきりとわかった。

「そんな科学の発展した世界っていうことは、案外探しているものの情報があるかもしれない、ってことよ」
「けどさあ、その地球って時空座標とか未確認なんでしょ?」

  疑問に思ったのは、年齢は10代後半ほど、赤毛のサバサバしたロングヘアの女性であった。黄緑色のショートパンツ、カレンの様な丈の短い黄緑色のジャケットを羽織り、頭にはゴーグルをつけているのが特徴だった。
彼女はアルナージ。銃撃を得意とする人物で、加えて大飯ぐらいである。酷いときにはトラックの1台分に相当する食料を平らげてしまうというものだった。

「まぁね。行ければの話よ。それは兎も角として……」

  すっと、ソファから立ち上がると、彼女は話の方向性を切り替える。

「予定では、そろそろ依頼人との合流宙域に出る筈よね」
「えぇ。転移予定ポイントを出れば、合流宙域になりますよ」

彼ら暗殺一家が管理局の目を逃れられてきたのは、本拠地となる飛翔戦艇〈フッケバイン〉の性能にある。動力機関「ヴィルヘルム」と呼ばれる非魔力炉機関であり、さらには長距離次元跳躍を可能とするばかりか航跡を残さないという、捕捉が極めて困難な性能を有しているのだ。
現在の管理局では、この船に対応できるものはほぼ無いと言ってよい。なんせ魔法に携わる攻撃を無効化することもできるうえ、実弾兵器の被害を受けても自動修復が可能だ。
  無敵に等しい〈フッケバイン〉だが、実を言えばそれだけが原因ではない。彼ら一家を必要とする裏の世界の人間達が、匿っているという事実もあった。
必ず皆殺しにする一家を雇って、暗殺の依頼を持ち込んでくる輩も多い。その代わりに、彼らを表ざたにさせないよう取り計らってもらうのである。

『それじゃあ、ジャンプするよ!』

艦内に響く幼い少女の声――ステラのものだ。これら、彼女ら一家には新たな依頼が舞い込んで来ていた。いつも通りに依頼を熟し、皆殺しにするだけのことであるが。
だが今日までにおいて、抹殺や殺戮を欲しい侭にしてきた彼女らが、これまでにない体験をすることになろうとは、思いもよらぬことであった。





  暗殺者一家が転移しようとする数十分前――地球からアンドロメダ銀河方面向かって、約191万6000光年の宙域のこと。
アンドロメダ銀河と天の川銀河を結ぶ航路上において、恒星系はそう多くは点在せず、たまに銀河から弾き飛ばされたような小惑星などが浮遊している程度だ。
もしもこの2つの銀河間を旅しようともなると、如何にワープ航法を用いても10年から14年はかかる距離。途中で立ち寄ることもままならないだろう。
普通ならばそんな危険極まる大航海をするようなものはいなかった。そう、普通の話であれば……である。かつて、その大航海をやってのけた国家がいたのだ。
  それが、地球をどん底に叩き落した超大国――ガトランティスである。ズォーダー5世大帝の指導のもと、ガトランティスは大航海の果てに天の川銀河まで進出したのだ。
移動性の彗星都市とも言うべき移動都市を拠点として動き回り、針路上にある星々を討ち従えていくこの国家は、地球が遭遇した中で最も恐るべき敵であった。
だが〈ヤマト〉の決死な抵抗と、極めて強力な超能力を有するテレサの活躍で、大帝諸共、帝星ガトランティスは崩壊していったのである。
その後も残党が太陽系に残っていたが、再編された地球防衛軍の掃討戦で壊滅していった。駆逐された今もなお、地球連邦は彼らガトランティスの脅威を拭える訳ではなかったが。
  何せ天の川銀河の数倍の規模を誇るアンドロメダ銀河を制覇した国家だ。当然、アンドロメダ銀河にも幾多の戦力は残されているだろう。
権力争いで共倒れになってくれた方が、地球連邦としては一番助かるものだと考えていた。が、それはどこまで願望なのであって、現実はそうも甘くはない事を後に立証される。
また、移動都市無き今、長大な航路を1年以内に成し遂げる方法は、残念ながらない。前述したとおり、通常の艦船では10年以上も掛かるからだ。
  しかし、ガトランティス帝国は艦隊ごとワープ可能な特殊技術を確立させていた。その技術を盛り込んだワープ専用の特殊艦艇も完成させているのだ。
装備の類は殆どなく、エネルギーを全てワープに回す必要があるが、長大な航路を行くガトランティスにとっては無くてはならないものだった。
システムとしては、まず10隻余りの特殊艦艇群が広範囲に広がったところで、機関出力を臨界点にまで上げて前方へ空間跳躍波を放つ。
かの瞬間物質移送機と同じものだが、こちらはその飛ばす距離も規模も全く違う。そして、その複数の空間跳躍波が同調して初めて飛ぶことが出来るのだ。
艦隊ごと突入し、特殊艦自身もそのまま突入して共に長距離ワープを完了させてしまう。1回の跳躍で約2万光年あまりを可能とするのだった。
  そして今また、ガトランティスの大艦隊がその姿を現そうとしている。直径20qに及ぼうかという巨大な重力振が発生したかと思うと、次の瞬間には変化が始まった。
ゆがんだ空間から数十、いや、数百を超える艦艇が一斉に飛び出してきたのだ。ガトランティス艦船のワープの特徴としてワープアウトすると、まるで小さな白い彗星の様なものに包まれつつも、スピンしながら通常空間に姿を見せるのである。
  ワープアウトしてくる艦隊は、その数を次第に減らし、最後にワープ専用艦艇数十隻が姿を現して終わった。

「跳躍完了、味方艦に脱落なし」
「索敵開始。周囲への警戒を厳に」

ガトランティス軍兵士が、全軍のワープアウトにおける異常が無いかを調べ、同時にレーダーも瞬時に周囲を索敵して近くに敵艦がいないことを確かめる。
  ガトランティス軍の全貌は、まだ明白とは言い難い。今いるだけでも約4375隻の大規模艦隊であり、それが175隻単位の集団として25個も形成されている。
その25個の艦隊が、さらに5つの集団に分散され、楔形の陣形をかたどっているのだ。しかもガトランティス帝国の軍事編成は、かなり改変されている。
現在のガトランティス航宙艦隊は、210隻で分艦隊と成し、それが4つか5つ集まる事で1個艦隊約875隻と定められているのだった。
  これら艦隊を構成している艦艇自体は、20年前とさほどに変わるものではない。まず艦隊のワークホースである〈ククルカン〉級襲撃型駆逐艦。
次に艦隊の中核を担う〈ラスコー〉級突撃型巡洋艦、及びミサイル兵装タイプの〈ルーベルク〉級雷撃型巡洋艦、護衛専門の〈ローセル〉級護衛型巡洋艦。
艦隊の中心戦力となる〈ヴェーゼラ〉級支援型戦艦と、艦隊指揮を担う〈ムスティア〉級指揮型重戦艦。さらに空母の姿も多数みられる。
主力の〈ナスカ〉級打撃型航宙母艦に、最大級を誇る〈ペリゴール〉級大型航宙母艦の群れだ。各艦艇は改装や改良こそ受けているが、20年前とはあまり変わらぬものだった。
  そして楔型陣形の矛先に当たる先頭集団には、一際目立つ大型戦闘艦がいる。それは、地球艦隊を徹底的に苦しめた戦闘艦に酷似したものだった。
二又の艦首と二又のエンジンノズルという双胴船のシルエット、前部甲板には艦体の3分の1を占めるであろう巨大な二段式五連装砲塔(下段連装、上段三連装)を搭載。
後部甲板にはV字型の飛行甲板を備え、艦橋は巨大砲塔と飛行甲板に挟まれる位置に建っていた。この他にも、ガトランティス特有の速射輪胴砲塔を5基等、多数装備。
さらに二又艦首の間には、9門もの魚雷発射管があり、先ほどの五連装砲塔含めて前方への攻撃力の高さを伺わせているのが分かるだろう。
極めつけは、艦体下部に半格納されている巨大な砲身のようなもの。ガトランティス帝国の決戦兵器『火焔直撃砲』である。
  〈メダルーザ〉級殲滅型重戦艦〈メガルーダ〉、それがこの戦艦の名前であり、天の川銀河遠征軍 先遣艦隊旗艦を務めている。
〈メガルーダ〉は〈メダルーザ〉級の発展改良型であり、遥かに性能を向上させている艦だ。無論、他の艦隊にも多数の同型艦が存在していた。
この先遣艦隊には全部で5隻の〈メダルーザ〉級が配備されている。〈メダルーザ〉級は艦隊指揮の機能備わっている故に各艦隊の旗艦となっているのだ。
そして当級は、量産は可能であっても高コスト故に1個艦隊に1隻という具合であった。それも主力艦隊にのみ配備されるのである。

「誤差、許容範囲。予定宙域に跳躍した」
「跳躍システム搭載艦、冷却措置に入る。次回跳躍まで24時間」
「よぉし、斥候部隊は先行して艦隊の進路を確保せよ」

  旗艦〈メガルーダ〉艦橋のオペレーターの報告に対して、すかさず一部隊を前進させるよう命じるのは、当艦隊の司令官。
地球換算で言う48歳の男で、ガトランティス人特有の薄緑色の肌をしている。直立すれば2mを超える屈強な体格で、軍服を纏わなければ軍人らしからぬ風貌と言えた。
下手をすると、宇宙を荒らしまわる宙賊の頭目であろう。彼は遠征軍先遣艦隊司令官、第2艦隊司令官を兼任するゴラン・ダガーム大将。
ガトランティス帝国きっての猛将で、別名『雷鳴のゴラン・ダガーム』と呼ばれている。戦闘の負傷で失った右目には瞳の入っていない義眼がはめ込まれているが、それがなおさら彼の破壊力をプラスしている。
  ダガームに命じられて前進を開始する斥候部隊は、〈ナスカ〉級打撃型航宙母艦5隻に巡洋艦や駆逐艦のみを入れた35隻程度の艦隊だった。
本隊より先行して、24時間後に通過するポイントまでの索敵を行い、その安全を確認するのが彼らの役目なのだ。

「斥候部隊、前進」
「僅かな異変も見逃すでないぞ。あの目障りなエユースがいるかもしれんからな」

ダガームはどっしりと指揮席に座り、斥候部隊に注意を促した。彼の言うエユースとは、ガトランティス帝国が17年前からいがみ合っている相手だ。
地球の言語に直すと……SUSと言うらしい。そう、次元空間で名を馳せるあのSUSと同一なのである。ただしガトランティス帝国では、このSUSがどれ程の規模を持つ勢力なのかは掴めてはいないままだった。
  また、SUSの有する技術は、ガトランティス帝国とは概ね肩を並べるものの、油断はできないと警戒されている。
それでもアンドロメダ銀河の内政を盤石としていたガトランティス帝国は、銀河外苑の守りを固めて侵入を退け続けているのであった。

「エユースは神出鬼没ですから、航路上で待ち伏せしていないとも限りません。まして、我らの後背を突いてくることもありましょう」

ダガームの参謀長ヴィグ・リグミッツ少将が述べた。地球換算で言うと40歳で、中肉中背の体躯をしている。暴走しがちなダガームの貴重なストッパーとも言える人物で、それ故に気苦労は数知れずであった。
上官の無茶を止めら得るのは彼か、或は上官くらいのものだ。

「出てきたとしても、この俺様が蹴散らしてくれるがなぁ!」

  豪快に笑いながらも自信のほどを言い放つダガームに、リグミッツは口に出さず軽く頭を下げて見せた。下手に口出しするのは、寿命を縮める事になるからだ。

「それに、立ち塞がるのがエユースだろうと、天の川銀河のテロンだろうと、火焔直撃砲があれば敵ではないのだ」
「お言葉ではありますが、用心はされるべきでありましょう。テロンはかつて、バルゼー提督の火焔直撃砲を無力化しております故、侮るべきではないかと愚考いたします」
「ふん、バルゼーの無能と同列に並べる気か、貴様は」
「いえ。ダガーム閣下であれば、火焔直撃砲なくとも圧倒的攻勢によって、テロンの艦隊など揉み潰せましょう」

リグミッツは慎重に言葉を選びながら、ダガームを諫める。火焔直撃砲は強力な決戦兵器だが、それをかつての地球艦隊は攻略してしまったのだ。
それを知っているから、リグミッツも油断はできないと忠告するのである。またダガームの手腕を賞賛することで、彼の面目を立たせるよう配慮もした。

「その通りだ。バルゼーの様な男では荷が重かったのだろうが、この俺は違う。火焔直撃砲だけでなく、この艦隊の強さそのもので叩き潰してくれる!」

上手くご機嫌取を成すリグミッツは、内心でほっとする。ガトランティスは、前回の規模を大きく上回る戦力で、天の川銀河を制圧しようとしているのだ。
そんな大兵力にあって、火焔直撃砲という決戦兵器は、あくまでオプション的なものでしかない。基本的には、艦隊戦力そのもので力を振う事となろう。
  20年前では考えられな規模の遠征軍を差し向けてきたガトランティス帝国には、それだけの余裕ができたことを意味している。
とはいえ、ガトランティス帝国は20年前に首脳部の全滅したことによって、アンドロメダ銀河では内乱の時代を迎えていた時期があった。
それでも数十年続くかと思われた内乱は、大半の権力者達の予想した期間を裏切ってしまい、たったの2年足らずで終息してしまったのだ。
  内乱を瞬く間に鎮め切ったのは、現在の大帝の座を頂いている人物であった。その才覚は誰しもが認めるところであり、かのズォーダー5世の血筋を引く者だ。
アンドロメダ銀河を平定し、圧倒的支持のもとで軍備の再編と増強を推し進め、官僚も能力のあるものを中心に一新させるなどして、治政を盤石としたのである。
かくして、新生ガトランティス帝国が誕生したわけであり、その後もSUSなる敵勢力の侵攻を度々打ち砕いているのだった。
  やがてダガームの指示で前方へ大きく進んでいった斥候部隊から、1時間後に〈メガルーダ〉へと連絡が入る。

「斥候部隊第4小隊より入電。『我が隊より1時方向にて、2つの次元振を感知せり。データ照合するも不一致。これより追尾を開始する』」
「次元振……だと?」
「は、はい!」

斥候部隊の内、1個部隊から上がって来た報告にダガームが眉を顰めた。ワープ航法による空間跳躍であるならば、通常空間に出る時に発生するのは重力振である。
だが感知されたのは次元振と呼ばれる、別の空間振動である。これは空間跳躍とは異なる観測だが、一体何処の輩が近辺に姿を現したのだろうか。
  リグミッツは再度にわたって確認を取らせたが、やはり次元振との結果であった。反応は2隻とのことだが、どう対処すべきであろうかと判断に迷う。
先のエユースことSUSならば、航路の安全を確保するためにも排除する必要があるのだが、どうやら熱源及びエネルギー放射パターン、電波パターンは全く違うとのことだ。
下手に攻撃するのも得策ともいえないのだが、全宇宙を支配せんとするガトランティスの方針から言えば、どのみち和睦や共存は選択肢に含まれてはいない。
ガトランティスの軍門に下るしか生きる道は無いのである。後は殲滅するのみで、それでもってアンドロメダ銀河を圧倒的武力で支配していったのだ。

「単なる通りやか……いや、不自然過ぎるな」
「提督、1号機より入電。『我、未確認の艦船を2隻補足せり』画像データも送られてきました」

  さしものダガームも判断を即決するには至らない。そこで偵察機が送って来た画像を、斥候部隊を中継して確認してみると、その表情はやや険しさを増した。
今までに見たこともないフォルムで、無論データの照合もできない。まさか地球や、かのガミラスが差し向けて来たものではあるまいか。そんな予想も頭の中を通過した。
だがあまりにも思想をかけ離れたフォルムだ。リグミッツにしても、この艦船が何処のものかは想像がつかない。加えて、その2隻はどう見ても旅行中には見えない。
  そもそも、こんな何もない宙域を航行するなんて者は、民間人でいるとも思い得ない。なれば何か? そこで導き出されるのは、SUSの偵察艦ではないかとの説だった。
1隻は全体的に黒い塗装に塗り潰されており、所々赤いラインが見える。ナイフを背中合わせで並べたような、舷側にも鋭いフィンが幾つもついているフォルム。
さらに艦底部にも大きく突き出している。形はSUSと違うのだが、塗装色や縦長と言える艦体の形状からして、SUSと考え込むのも無理からぬことであった。

「フォルムは少し違うようですが、エユースの物とも見えますな。新造艦か、偵察艦か……あり得ないことではありませんが……」
「虫けらどもめ、こそこそと盗み見でもしようと言うのだな!」

  ダガームの中で結論は早々に出ていた。しかし、この捕捉された艦艇――〈フッケバイン〉の面々からすれば、とんでもない勘違いであろう。
とはいえ、リグミッツからすると、運が無かっただけなのだ、の一言で済まされるに違いない。そしてダガームは、偵察目的だと勘違いした〈フッケバイン〉の抹殺を考える。
戦力的にも不安はない。斥候部隊の1個小隊7隻でも十分に事足りるはずだ。しかも1隻は〈ナスカ〉級も含まれている為、圧倒的に斥候部隊が勝ると確信していた。
  だが同時にダガームは、1つの疑問も持っていた。それが次元振を観測したことである。

(我が軍には潜宙艦隊がおる……だが、あれは異次元潜航型。しかし、こやつは……)

ガトランティスには潜宙艦と呼ばれる特殊戦闘艦が配備されている。初期型ではワープ航法時の空間歪曲を転用した亜空間フィールドで、自分の姿を遮蔽するのみだった。
しかし、時代の流れと共に、ガトランティスは本格的な亜空間戦闘用の特殊潜航艦を開発、実戦配備に漕ぎ着けることに成功していたのだ。
これによって、自分の姿を隠すのではなく、文字通り別空間へと潜り込むことを可能としたのである。それはつまり、ガルマン・ガミラス帝国と肩を並べるレベルと言ってよい。

「リグミッツ、こやつをどう思う?」
「ハ、次元振を観測されたという事は、エユースは新技術を導入したのではないかと」
「そうだな、俺もそう思う。亜空間潜航の技術とは違った新兵器を導入しているに違いない。となれば、奴らは好き放題にこちらを監視できようと言うものだ」

  不快ではあるが、その反面でダガームは打算を立てていた。この未確認艦を拿捕して、次元空間に関する技術を奪うのだと。
さすればガトランティスは、より強力な軍事力を手にすることができるかもしれない。それに、この艦を拿捕して帝国の技術の進展に貢献できると考えてもいた。

「エユース艦、もう1隻と共に小惑星へ侵入した模様」
「小惑星……成程な、補給基地にでもされているのだろう」

斥候部隊より入った映像には、〈フッケバイン〉がもう1隻の船と共に小惑星へと入港している様子が映されていた。
ダガームの言うように、それはフッケバインらが立ち寄る為に建設された、小惑星に見せかけた基地である。ともなれば、ますます好都合となるだろう。
入港しているのであれば、簡単に再出港するのは簡単ではない筈だ。こちらが早々に包囲してやればいい上に、陸戦隊を送り込んで制圧してしまえばよいのだ。

「第4分隊に命令、そのまま追跡し捕獲せよ!」
「閣下、まさか鹵獲して……!」
「その通りだ。奴らをとっ捕まえ、我が帝国への進展の糧とするのだ」

リグミッツは戸惑った。別にSUSから攻撃を仕掛けているわけでは無い。しかし敵として認識されている以上、見かけたら野放しにするわけにいかなかった。
それでも彼は、ダガームが独断行動とならぬように最低限のブレーキを掛けさせる必要を感じた。

「しかし、本隊へ一報を」
「放っておけ」
「しかし、総司令官には……」

  そう言いかけて、ダガームに睨まれる。彼は今回の遠征軍総司令官を毛嫌いしている故の反応だった。

「あの生意気な若造に知らせてやる必要などない、あんな奴に横やりを入れられたら堪らんわ!」

不快さを増したダガームを諫めるのは簡単なものではない。過去において、彼を諫めようと失敗して殴り飛ばされた士官は数知れないのだ。
そんな中にあって、当初は幕僚の末端でしかなかったリグミッツは、殴り飛ばされていった同僚たちに後ろめたさを感じながらも、彼の性格を看破しえる事に成功したのである。
時折かける意見具申や助言が功を奏し、結局はダガームの専属参謀のような立ち位置になったのである。いや、どちらかというとなってしまった、というものだろう。

「閣下、相手はエユース故に攻撃することは問題ありますまい。まして、新技術を持ったエユースを鹵獲できたとき、功績は紛れもないダガーム閣下のものとなりましょう」

  彼の変化に細心の注意を払いながらも、リグミッツはダガームには最低限の行為はしてもらおうと根回しした。
それに本当の功績は天の川銀河の制覇であって、今はSUSの撃滅ではない。それにSUSにはこれまで手痛い目に合わせているのだ。
また目の前の艦隊を撃滅した功績は、誰しもがダガームのものであると証言するだろう。かく言うリグミッツもその証言をするつもりである。

「……わかった。お前の進言通りにしてやろう。だからさっさと打診しておくのだ、『我、これよりエユースを排除す』とな」
「ハッ。通信長、直ぐに打診してくれ」
「了解!」

ダガームは粗暴だ。だが、粗暴なだけの漢が、大将等と言う地位と功績を持てる筈はない。彼の指揮は大兵力で敵を押し潰すことにあるが、並以上の艦隊指揮が執れるので、数以上の破壊力を発揮する闘将タイプの指揮官なのだ。
通信使が暗号電文で送信している傍ら、前方に展開している斥候部隊第4小隊は、〈フッケバイン〉への追撃を開始した。






  一方のフッケバイン一家は、まさか軍事大国に目を付けられているとも知らず、予定通りに合流ポイントへと到着していた。
この小惑星は直径が2qもあり、そのまま内部をくり貫いてちょっとした補給基地と化していた。フッケバイン一家を徴用する裏世界の人間達が設けてやった施設だ。
〈フッケバイン〉は小惑星の内部に入港して、そこから物資を搬入するのである。そして同時に、以来の受取場でもあったのだ。
これまでに安全だと判断されて建設されたものだったが、よもやガトランティスに見つけられてしまったとは、彼らも想像だにできなかったに違いない。
  フッケバイン一家の長であるカレンは、裏世界の人間1人と、仕切られた部屋で交渉の真っ最中であった。
一室を分ける様に特殊な壁で仕切られている。その中央にも特殊防弾性の硬質ガラスが張られている上に、反対側が良く見えないようスモークガラスとなっている。
分けられた部屋には、それぞれソファーが設置されており、そこに座って交渉するのである。2人の会話は既に大半が進み、終了を迎えようとしていた。

『以上が今回の内容だ。よろしく頼むよ』
「承知しましたわ。きっちりと片付けておきます」

ビジネスウーマンの様なふるまいをしつつも、依頼主の仕事を承諾する。後は〈フッケバイン〉の補給が終わるまで待つばかりであった。
  彼女もそんな風に思っていた時だ。突然、基地内部にアラートが鳴り響いたのは。

『何事かね』
「確認しますわ……フォルティス、如何したの?」

こんな宇宙で警戒警報が出るとは、よもや時空管理局に発見でもされたか。それとも依頼主が掌を返して自分らを裏切ったのか。どちらにしろここにはいられないだろう。
カレンが急ぎフォルティスに確認を取ると、彼自身も緊迫した表情で現れた。

『大変です。未確認の宇宙船7隻が、空間跳躍して至近距離に現れました』
「何ですって?」

カレンは報告に思わず疑問を投げかけそうになったが、素早く呑みこんだ。空間跳躍を成し得るのは、SUSや地球やらの世界ならではだが、この世界がそうだとしたら?
私達は知らず知らずのうちに、そんな危険な連中の居る宇宙空間でのんびりと補給作業をしていたのだろうか、と思うと呆れるものだ。

『小型機も多数が急速に接近中です。このままでは取りつかれます』

  よもや裏切られたのか。こんな広大な宇宙空間でピンポイントに狙った様な襲撃は、事前に準備をして置かねば成し得ないのだ。
カレンはその場を直ぐに離れようと席を立ったが、次いでにと言わんばかりに依頼主に発破をかけた。

「……貴方、私達を嵌めたのね?」
『ば、馬鹿を言うな! お前達は誰のお蔭で捕まらずに済んでいると……!』
「もう結構ですわ、此処がばれた以上、長居もできないし使えない。何処の誰かは存じませんが、いずれ責任を明確にしてもらいますよ」
『ま、待て! 私ではないと――』

それ以降、無駄な話を一方的に切ってしまったのだ。依頼主にしてみればとばっちりでしかないが、それを恨もうとも相手が悪すぎたのだが……。
  そもそも、この斥候部隊が確認されたのは、ほんの数分前のことだった。カレンが商談中の間は、他の者達は忙しい訳でもなく、〈フッケバイン〉を降りて小惑星内部の各施設を回るなり、搬送される物資の確認をしたり、ある者はトレーニングをしていたり、ある者はソファーでごろ寝をしていたり、ある者は馬鹿食いをしていたりと自由気ままなものだ。
そんな中で自由気ままにいられないものが2名いた。周囲への警戒を行っているステラと、参謀のフォルティスである。

「どうです、ステラ」
「うぅん……何も観測できないよぉ」
「ならいいのですが」
「心配性だな、おめぇは」

  ヴェイロンが呆れたように言う。彼は宇宙での戦闘を良く知らない身ではあるが、心配など無用だと決めつけていた。何せ、ここは広大な宇宙空間である。
しかし、SUSと地球の件を思い出すと、そうも居られないのがフォルティスの心境だった。この世界が、宇宙を渡る技術を有している世界であったならば楽観もできない。
またアルナージはヴェイロン寄りの考えのようで、相も変わらず料理を持った皿を片手にもしゃもしゃと口と放ばっている。
それでも嫌な予感がする、とフォルティスは直感的なもので感じていた。しかも、それが現実となるのは数分も必要なかったのである。

「……!」
「ステラ、何か変化がありましたか?」

  ふと、ステラが何かに気づいたようだ。それは極めて小さなものだったが、この〈フッケバイン〉と依頼主の艦船に近づいているのが感知されたのだ。

「うん。ちっちゃいのが1つ、こっちへ飛んでくるの。なんだか、すっごく見つけにくいよ、これ……」

それをフォルティスへ報告されたとき、彼は咄嗟に危険であると判断した。ステラが報告した謎の反応はスクリーンに反映されていたが、かなり近づかれていたのだ。
これは、ステラを責めるべきかというと少し酷であろう。ガトランティスの放った偵察機は、当然のことながらステルス性を考慮した機体であるのだ。
しかも視覚的にも判別しにくいように黒く塗り潰されており、如何な〈フッケバイン〉とはいえ一筋縄で補足出来るようなものではなかった。
  フォルティスはカレンに報告し、ステラにも至急出港出来るように準備を指示する。

「そんなに慌てることなのかよ、フォルティス。たった1つなんだろ? しかも小さいのが」
「ここは宇宙空間ですよ、ヴェイロン。如何に我々とはいえ、真空では手も足も出ません。それに、この長大な距離を飛んできたことを鑑みれば……」

そうだ、16m程度の小型機1機のみでうろついていることなど、到底考えられない話である。それとも次元転移してきたものだろうか、とも考えられた。
しかしそれ程までに小型な機体で、次元航行を可能としたものは存在しない。転移魔法ならともかく、艦船サイズでなければ次元転移は難しいだろう。
ともなれば、考えられるのは母艦が存在しているということだった。これならば、この広大な宙域を単機で動いている理由にも繋がりやすい。

「急ぎ皆さんを集めないと……」
「ッ!? フォルティス、2万qの宙域と、4万qの宙域に空間歪曲と重力振を感知したよ! 全部で……7つも」
「空間歪曲と重力振!?」

  フォルティスは唖然とした。次元振ではなく重力振と空間歪曲が観測されたという事は、少なくとも次元航行艦に関するものではないと悟ったからだ。
それはつまり、SUSや地球といった世界が有する技術――即ちワープ航法を可能とした艦船がやって来たのだ。
危険であることを肌で感じつつ、フォルティスは急いで艦外にいるメンバーに呼びかける。ヴェイロンにしても、余裕の表情から一転して殺戮者のそれに変化していた。

「マジで宇宙人野郎のお出ましかよ……」
「どれもこれも、データ照合不一致……当然ですね」

  監視カメラのズーム映像から確認された7隻の艦船と、照合できるデータは何一つない。大型のもので300m級が1隻に、260m級が2隻、190m級が4隻だ。
見たこともないフォルムで、白と黄緑のツートンカラー、或は黄緑一色で塗装されたものだ。複眼上パーツがある為、昆虫のようにも見える。
〈フッケバイン〉も500m以上の巨艦で、見た目や大きさでは〈フッケバイン〉が圧倒していると言っても良い。が、中身の方ともなると話は違ってくるだろうが。
発見された斥候部隊からは、次々と艦載機が発艦されている。同時に近距離にワープアウトした3隻――巡洋艦1隻と駆逐艦2隻が前進し、小惑星へと向かってくるのだ。
明らかに敵対行為であろう。フォルティスはカレンに通信を繋げると、現状を報告していったのである。
  現状を他のメンバーに伝えていったのだが、ガトランティス艦隊の方が一歩早かった。無論、近づかれる前に小惑星に備え付けられている防衛システムが作動したのだが……。

「効果が無い!?」

ステラは驚愕した。他世界の技術も導入された非魔導兵器であるビーム兵器を多数備えているのだが、その尽くがガトランティス艦の簡易シールドの前に弾かれていったのだ。
仕返しと言わんばかりに、発艦していた艦載機〈デスバテーター〉4機が対地ミサイルを切り離して発射。小惑星に尽くが着弾し、被弾の衝撃で内部が大きく振動した。

「もう来たのね……」

  急ぎ〈フッケバイン〉へ足を運んでいたカレンは、揺れる基地内部に顔をしかめる。しかもフェルティスの話によれば、3隻の未確認艦が強行接舷してきていると言うのだ。
つまりは小惑星を乗っ取るつもりなのだろう。それとも、フッケバイン一家の抹殺か?

「どちらにしろ、邪魔してくるのだったら……」
「排除するか」

  通路上で鉢合わせしたサイファーが、さりげなくカレンの後に続いていた。彼女の手には、既に専用の武器「ケーニッヒ・リアクテッド」と呼ばれるものが握られている。
一見すると日本刀にも見える武器だが、何やら刺々しいパーツが握り手部分に付いていたりと、かなりものものしいデザインだ。
彼女の表情は、殺せる事を喜びとするような狂気の笑みが含まれているようだった。いや、実際に含まれていると言ってよい。
女子ども、老人、関係なく切り殺せるほどの残忍さを持つのだ。相手が武器を携帯する軍人であれば、なおさらのこと切り捨てがいの有るというものだった。

「全滅させて問題なかろう?」

  そう言って現れたのが、上半身を晒した筋肉質の大男が姿を現す。見た目20代後半くらいで、青い髪をした青年だが、その表情は無表情だ。
フッケバイン一家では格闘に長けたメンバーで、名前をドゥビルと言う。彼の手にも両刀戦斧型の武器が握られており、その巨躯には相応しい物と言えよう。

「問題ないわよ。ただ、出来れば2人か3人ほど捕まえておきたいわね。何処の連中か、話を聞きたいから」
「了解した」

地球の軍人の時の様な失態をせず、貴重な情報を取れたら万々歳だ。ともかくは、侵入してくる敵を蹴散らす必要がある。
加えてカレンは、〈フッケバイン〉に残っているヴェイロンとアルナージにも連絡し、敵部隊の殲滅を指示した。
  その2人は自分の武器を取り出しており、カレンの指示に対して、直ぐに向かうと返答した。ヴェイロンはショットガンに銃剣を装着した様な武器を有し、方やアルナージはロケットランチャーを並列に並べたような物と、チェーンガンを2つ並列に並べたような物を、両手に有していた。
彼らフッケバイン一家は、エクリプス(EC)ウイルスと呼ばれるものに感染した者達だ。詳しい事のほどは明らかにされてはいないが、一言で表すならば強烈な破壊衝動を引き起こし、殺りくや破壊をしていかねば生きては行けない様なものだという。
人間で言うならば、食事が欠かせないものだというのと同意である。ただし、色々と厄介なウイルスのようで、感染しても適合しないとやがては自壊してしまうというのだ。
適合した感染者は、無敵にも等しい肉体を手にすると共に、魔力にたいするエネルギーを完全に遮断することも可能だった。つまり、魔導士の天敵と呼べる存在なのだ。

「敵は3ヶ所から侵入してきているわ。ま、さらに別れてしてるみたいだけど……みんな、思うようにやっちゃってね」

笑顔でさらりと恐ろしいことを言い放つカレンもまた、長刀の様な武器を手にしていた。





  小惑星内部に乗り込んでいったガトランティス軍のアンドロイド陸戦部隊およそ120体は、母艦から送られてくる指示を基にして前進を重ねていた。
このアンドロイドは、広大な宙域を支配するうえで人材不足を解消するために考案されたロボット兵器である。存在自体は数十年以上前からあり、年々改良を施されていった。
アンドロイドの普及によって艦船の乗員比率を軽減することに役立つほか、この様な危険な場所へ投入する際にもアンドロイド兵が良く多用されるのである。

「そのまま進めば、動力炉と思しき部屋に達する。此処を一気に掌握すれば、我が掌中に落ちたも同然だ!」

ガトランティス軍〈ローセル級〉護衛型巡洋艦〈ドルドーニ〉の艦橋で、アンドロイド陸戦隊に指示を送るのはニヴァル・ドルーム中佐。
当艦の艦長であり、この3隻で編成された分隊の司令だ。彼は、小惑星全体へ行ったスキャナーによる結果を簡略図にし、熱源反応やエネルギー反応高いポイントに的を絞った。
  小惑星内部には、それ相応の抵抗があるだろうとは予想されてはいた。事実、この小惑星内部には幾つかの自動迎撃システムが配備されているようで、先ほどから奇妙なロボット型兵器が侵攻の行く手を阻んでいるのである。
それでもガトランティス軍への強力な防御策とは言えず、迎撃ロボット達はたちまち十倍する火力を持って逆撃を受けていった。
  陸戦隊とはいえレーザー突撃銃や迫撃砲、ロケットランチャー等の最低限度な装備は有しているので、苦戦するには至らないでいたのだ。
しかもアンドロイド故に、生身の人間が感じる痛みに支配されることもなく、多少の損傷をものともせずに攻撃していく。

「第334小隊、コントロールエリアに間もなく到達」
「第982小隊、動力炉エリアに間もなく到達」
「第750小隊、軍港エリアに間もなく到達」
「掌握も時間の問題か……」

ドルームは満足げに頷いた。軍港と思しきエリアには、例の船が停泊しているままだ。それに軍港の出入り口付近には、駆逐艦2隻を回り込ませている。
相手は大型艦ではあるが、エユース如きに遅れはとるまい。それに軍港から出てきた瞬間に蜂の巣にしてやればよいのであって、こちらに理があるのだ。
  しかし、順調に進んでいくかと思われた制圧戦は、ものの数分後に砕け散ることとなった。

「し、司令!」
「どうした?」

突然、声を上げる兵士にドルームは、しかめっ面をしながらも何があったのかを問う。兵士は焦る表情を隠すことも出来ぬままに、モニターに表示した。

「な……なんだ、これは!?」

アンドロイド兵から送られてくる映像を見た途端、ドルームは愕然とした。そこには優勢だった筈のアンドロイド兵士達が、通路に悲惨な姿で打ち倒された姿がある。
人間だったらさぞかしグロテスクな光景が広がっていた頃だろう。何せ胴体を切り刻まれたり、胴体を分断されたり、はては首を切り落とされているのだ。
  その間にもアンドロイド兵士達は、レーザー銃やロケットランチャーで敵を攻撃している。しかし、その攻撃対象は先ほどまでのロボット兵器ではなかった。

「テロン人……だと?」

どう見ても、それは地球人にしか見えない者達だった。そうとしか見えないのだが、反比例するように人間とは思えぬ戦闘能力を見せつけているのだ。
人間では出来ぬ素早い動きで、こちらの射撃を翻弄していく。当たったかと思いきや、シールドの様な物で弾かれてしまう。

「ば、馬鹿な! 何故テロン人どもがこんな所にいるのだ! いや、そもそも、あんな戦闘能力を有している民族とは聞いてはおらんぞ!?」
「ですが、過去のデータでも、この様な記録は……」

  オペレーターが狼狽える。それも当然だ。彼らは地球人ではないし、普通の人間でもない、考えられぬ力を持った殺人集団なのだから。
如何な高度な科学力を有するガトランティスとはいえ、個人レベルでの肉体的向上までは手を付けてはおらず、まして魔力といった類は全く研究すらしていない。
想定外の戦闘模様に戦慄する艦橋内に、次々とアンドロイド陸戦部隊の被害報告が飛び込んでくる。数分の間に、各小隊は4割以上の損害を叩きだされていったのだ。
アンドロイド兵は死を恐れることなく果敢に攻撃しているのだが、個人レベルでの戦闘能力で遥かに勝るフッケバイン一家相手では、圧倒的に力不足であった。

「第334小隊、損耗率49%!」
「第982小隊、750小隊、どちらも損耗率50%を超えた!」
「ありえん!」

  信じられない。噂には死兵となっても戦い抜くとは聞いていたが、これはそれを払拭させるどころか塗り替えてしまう勢いの衝撃だった。
各3つの部隊から入る戦闘模様は常軌を逸している。長刀を振りかざしている女――カレンは、(いばら)の鞭を振ってアンドロイド兵を叩き壊し、切断していく。
両手にガトリング砲とロケットランチャーのような物を抱える女――アルナージは、凄まじい弾幕を張ってアンドロイド兵を蜂の巣に、いや、粉みじんにしてしまう。
  さらには屈強な戦士をモデルとしたような、全身鋼のロボットにも見える大男――ドゥビルは、両手の大斧を振って豪快にアンドロイド兵を文字通り叩き割っていく。
時には剛力で殴り、数十mも吹き飛ばしてしまう勢いだ。もはやアンドロイドが玩具にしか見えない、生身の人間が戦って勝てるとは思えなかった。
他にも褐色に隻眼の女――サイファーが長刀を振りかざしては、アンドロイドを紙細工のようにズタズタに切り裂いていく。
もう1人の銃剣の様な武器を持った男――ヴェイロンも、散弾式エネルギー弾を発射して広範囲にわたり攻撃し、接近しては切り捨てていくのだ。

「たった数分で……全滅!?」

  何よりも信じ難いのは、超人的能力を有するテロン人とはいえ、たった5人によって100体以上のアンドロイド兵が粗大塵と化していく光景であった。
もはや撤収の暇などない。ドルームは白兵戦による制圧戦は無謀だと判断し、咄嗟に離脱するように指示した。

「小惑星より離脱するのだ、急げ!」
「陸戦部隊はどうなさるのです!?」
「所詮は人形だ、惜しむものは無い。自爆させて時間を稼げ!」

〈ドルドーニ〉はスラスターを全力で吹かして、破孔部分から急速に離れていく。同時に残存するアンドロイドに爆破命令を発した。
この措置は珍しい物ではない。敵の捕虜となり分析されるのを防ぐために、自爆機能を備え付けられているのだ。
数秒後、基地の数か所で爆炎が上がった。どうやら残ったアンドロイド兵が自爆したようだ。ドルームは今までにない恐怖に、身体を震わせながらもその光景を眺める。
  陸戦部隊では歯が立たないことを身をもって知ったドルームは、直接上官の小隊司令と、総司令官であるダガームにこの事実を映像付きで通信を送る。
この報告を最初に聞いた第4小隊司令のラーグル・ボウテ大佐は、ドルームと同じく驚きの反応を示し、戦術の方向性を転換させた。

「穴の中に引っ込んでいる奴らを燻り出すのだ、全艦砲撃用意! 良いか、確認できる出入り口付近はわざと開けておけ、出てきたところで推進器を狙い打つのだ!」

〈ナスカ〉級打撃型航宙母艦の第4小隊旗艦〈ボウカ〉は、甲板に新たな艦載機を配置してはカタパルトで打ち出していく。
さらに直営隊として置いていた残り3隻にも戦線へ投入させ、叩かれて出てくるところを狙い打つつもりであった。
  一方、ガトランティスのアンドロイド兵を撃退しきったフッケバイン一家だったが、よもや自爆されるとは思わず追撃を断念せざるを得なかった。

「チクショウ、こいつら自爆しやがって」

もうもうと立ち込める煙に巻かれながらも、ヴェイロンは舌打ちしながら姿を現した。同時にアルナージも煙で汚れてはいたが、ぴんぴんとしていた。

「いやぁ、ビックリしたね? ヴェイロン」
「あぁ、そうだな。お蔭で宇宙人野郎の頭を取り損ねたぜ」

さぞ悔しそうに歯ぎしりするヴェイロンだったが、そこでカレンから念話が入った。

『そっちは大丈夫かしら?』
「あぁ、問題ねぇよ。自爆されちまったがな……」
『そっちも自爆したのね……ま、無事でよかったわ』

  カレンも埃や煙に巻かれて薄汚れてはいたが、怪我らしい怪我はない。しかし、当初の生きた兵士を捕虜とするという目標は、潰えてしまったことに残念に思っていた。
〈フッケバイン〉のステラから送られてきたスキャナー情報により、相手は機械仕掛けの兵士――彼女らの世界で言うガジェットであることが判明していたからだ。
こんな世界でもガジェットが存在するのかと感心し、さらには彼女らが知るガジェットよりも高性能な代物であることが、この戦闘でよくわかった。
  いや、ガジェットではなく、寧ろ戦闘機人の簡易型とも言うべきだろうか。戦闘機人ほどの戦闘能力には到底及ばないが、その数と人間レベルの知能を有している事から、かなり量産の利く戦闘機人と見る事も出来たのだ。
そこでカレンは、生身の相手を捉えることは出来なかったが、この破壊されて転がっている戦闘機人を回収して調査するのも手だ、と考えていた。

「へっ、んにしてもよぉ、こいつら大したことなかったな」
「本当にねぇ。レーザーとかさ、魔導師と比べると武器は強かったけどさ」

  彼らは魔法エネルギーに対する措置は完璧と言ってよい。ただし魔力に頼らない武器に対しては絶対とは言い難く、シールドの消費も幾段早かった。
それで身体的能力に勝る彼女らだからこそ、無謀にも思える突撃が可能であり、あれだけのアンドロイド兵を破壊することに成功したのである。
  ふと、ヴェイロンは依頼主の安否が気にかかった。心配などする性格ではないが、カレンと交渉していただけにその後の様子は気になった。

「そういや、依頼主はどうしたんだ?」
『さぁね、どうしたかしら』

依頼主の安否など、カレンの知るところではない。ましてここが危うくなった責任を追及してやらねばならない、とさえ思っていたくらいだ。
実のところ依頼主一行は、寸でのところで乗って来た船に乗り込んでいた。彼らは突然の未確認勢力の襲撃に右往左往しており、如何すべきかなどと口論を展開しているのだ。
彼女にしてみれば、そんな事はどうでも良いことであって、今はここを離れるのが先決であろうと結論付けていた。

『直ぐに戻るわよ。ただし、ヴェイロンとアルナージにお願いだけど、その辺に転がってる無傷に近い戦闘機人を回収して頂戴。最悪、頭だけでも良いわ』
「なんでだよ」
『文句言わないで頂戴。先日に尋問で失敗してるんだから、何かしら情報を得るのよ』

  港に一番近かったのは、言うまでもないこの2人だ。そのため、カレンは無傷に近いアンドロイドの鹵獲を頼んだのである。
もっとも破損していて当然だろうから、大事な部分であろう頭部だけでも良かった。ヴェイロンとアルナージは渋々という呈で、回収作業に当たろうとした……刹那。

『皆さん、急いでください! 敵が攻撃を仕掛けてきます……ッ!?』

フォルティスが注意を喚起した途端に、小惑星内部は先ほどよりも激しく揺れた。ガトランティス艦隊が強硬策に出た証拠である。
その激しさは先ほどの非ではなく、断続的に振動と爆破が繰り返されている。その事からも、攻撃の激しさを物語っていた。
このままでは危険だと即座に判断し、カレン達は高速で駆け出して一直線に〈フッケバイン〉へと向かう。

「怒らせちゃったみたいね」

向かいながらも、他人事のようにカレンは呟いた。





「あ、丁度良い時に来てくれましたね」

  揺れの収まった小惑星内部から〈フッケバイン〉へと乗り込んだカレン達に対して、フォルティスが険しい表情をして待っていた。

「どうしたの、フォルティス。攻撃も止んだみたいだけど……」
「それがですね……ともかく、これを見てください」

何があったのかと聞く前に、フォルティスはコンソールを弄ってスクリーンを作動させる。すると、その画面には見慣れぬ風貌の大男が映っていた。
黄緑色の肌という、普通の人間とは違う肌の色に、戦歴を示す顔の傷跡と義眼が強烈な印象を与えている。この映像通信は相手側から発せられていた。
  カレンは悟った。この男が、基地を襲撃してきた部隊の指揮官なのだと。しかも、聞いたこともない言語で喋っているため、何を言っているか不明である。
しかし直ぐに翻訳フィルターがかけられると、送信波には吹き替え言語も含まれており、何故か地球が使用する言語へ翻訳されている事が分かった。
翻訳フィルターに通された途端、その指揮官と思しき男の会話が彼らの標準語へと再変換される。

『我が名は“雷鳴のゴラン・ダガーム”。ガトランティス帝国、天の川銀河方面先遣艦隊司令官である』
「テロン人……?」
「恐らく、人間を指しているのでしょう」

  テロン人とは地球人の事を指して言うのだが、それを彼らが知る筈もない。寧ろカレンは、ダガームと名乗る男が言った、『ガトランティス帝国』という国名や、『銀河方面軍先遣艦隊』といった軍隊名等の単語の方に興味を持っていた。
ここから天の川銀河というと、190万光年以上の距離があるのだ。そんな長大な距離を、このガトランティスとやらは航行していると言うのか。
それだけの科学力を有しているのだろう、という予想は直ぐについた。同時に、敵に回すと厄介な存在でもあると判断する。
  ダガームは、斥候部隊から送られてきた損害報告と、エユースならぬテロン人らしき人種の戦闘能力を目の当たりにして、考えを直ぐに切り替えたのだ。
テロン人ではないかもしれない、とリグミッツもテロン人説を否定していた。そこでダガームは、鹵獲する方針は変更せずに、一端降伏勧告を促すことに決めたのだ。
如何に個人プレーで強くとも、戦闘艦同士の戦いともなればこちらに圧倒的優位がある。それに第5斥候部隊も向かっているのだから、焦る必要はない。
それでもガトランティスには進軍の遅れを許す余裕はなかった。その為に、手っ取り早く降伏勧告を出して、拿捕しようというのである。

『テロン人に告ぐ、汝らは我が艦隊によって包囲されている。よって、脱出の道は既に無い。大人しく我が軍門に下りて、船を明け渡すのだ! さすれば、我が陸戦隊を退けた、その功績に免じて、相応の地位と報酬を渡そう』
「舐めたことを言いやがるぜ、このジジイ」
「それだけの余裕があろうということだ」

  ヴェイロンが忌々し気に吐き捨てると、サイファーが冷静に状況を推察した。確かに、この小惑星の周辺にはガトランティスの宇宙艦が、6隻も配置されているのだ。
対してこちらは〈フッケバイン〉1隻と、たかが偽装しただけの貨客船1隻のみ。勝敗は目に見えて明らかであった――まだ性能差が不明確ではあるが。
カレンは無視しても良かったのだが、敢えて儀礼的に名乗り出た。というよりも、今回ばかりは楽観視ばかりは出来ないでいたのだ。
ガトランティス帝国が、次元世界で騒がせているSUSや地球らと同等のレベルの国家であることを考えると、自分らは相当に不味い立場にあると悟ったからだ。

「私がこの船の責任者、カレンよ」
『ほほぅ……我が陸戦隊を退けた女か。それで、返答は如何に? 今すぐ返答してもらおう』
「私達を評価してくださる、との事ですわね」
『そうだ。そのような腕を、もっと有効的に使わせようと言うのだ』
「おぃ、本気で言ってるのかよ」
「静かになさい、ヴェイロン。彼女には彼女なりの計算があるのですよ」

  ヴェイロンが信じがたいと言わんばかりである一方で、フォルティスは彼を諫めてカレンに全てを任せる様に説得する。
無論カレンは、ダガームの差し伸べる手を握ろうとは思わない。それにこんな男が、自分らを評価している等というのは、嘘であることを見抜いていた。
どうせ欲しいのは〈フッケバイン〉だろう。でなければ船を明け渡せとは言わない。この船を手に入れたら、用済みとして処分するつもりなのだ。
戦うことを避けて、素早く逃げる方法を彼女は模索していた。信じると見せかけて、一気に離脱するのが妥当だと彼女は考えていたのだ。
  その為にもなるべく時間稼ぎをしたいものだった。またカレンは既に、念話でステラに強硬出港を伝えており、同時に次元転移の用意も進める様に指示していた。
また別の区画にある港では、依頼主一行の乗る次元航行艦船が出入り口へ向かって艦を動かしている。こちらと同じように、直ぐに逃げれるようスタンバイしているようだ。
いや、スタンバイしているのではない。自分らだけ逃げようとしているのだ。止める義理はないのだが、実はこの行動がフッケバイン一家の命綱を叩き切る原因にもなっていた。
  それを知ってか知らずか、依頼主の艦はゲートを開放して外へと出て行こうとする。当然、それは待ち伏せ中のガトランティス艦の知るところであった。

「……」
『……それが貴様らの答えだな。よぉく分かった』

ダガームは、もはや生かしておく理由は無いと判断し、即座に始末する方針を固めていた。カレンが何を言おうとも、もはや覆されることは無い。

『汝らに名誉の死を賜わん……』

それだけ言うと、彼の方から一方的に通信を切った。もう、ここに居ても仕方がない。カレンは無謀ではあると感じつつも、強行突破を選択した。

「ステラ、最大船速で出て頂戴! シールド展開、主砲も発射体制を維持よ!」
「いくよぉ!!」

彼女の合図をもって、〈フッケバイン〉はエンジンを最大限にまでふかし、ゲートを一気に飛び出す。500mを超える艦艇とは思えぬ瞬間加速である。
漆黒の宇宙空間へと飛び出した〈フッケバイン〉の目の前には、此れを予期していたであろうガトランティスの駆逐艦〈カルバク〉が待機していた。
ステラは最大限にシールドを展開しつつ、そのまま真っ直ぐに駆逐艦へと突っ込んで行く。
  それを確認した〈カルバク〉は、手加減もなしに砲撃を開始した。八連装速射輪胴砲塔と呼ばれる、マウントボール型の砲塔が右回転すると、側面の穴からビームが飛んだ。
この八連装速射輪胴砲塔は、大中サイズ合わせて8基も装備しており、その全てが前方へ向けて集中砲撃もできるという大きなメリットがあった。
さらには、実弾兵器として搭載されている量子魚雷も有していた。これは空間跳躍機関のエネルギーを利用した投擲兵器の一種だ。
弾着する瞬間に、対消滅反応を起こしてその膨大な爆発エネルギーにより目標物を原子レベルで崩壊させる代物である。

「来るよ!」

  ステラが叫んだ途端、〈カルバク〉が放った緑色のビーム砲撃が〈フッケバイン〉に襲い掛かった。たかが1隻とはいえ、その火力は侮ることは出来ない。
〈フッケバイン〉の艦体に大半が命中し、防御シールドの耐久度を一気に削り取っていった。これにはステラも焦りを覚える。
何せ時空管理局相手には無敵を誇る自慢の艦なのだ。それが、たった1隻――しかも200mにも満たない小型艦艇相手に、〈フッケバイン〉の防御壁は破られようとしている。
  そんなことはさせない。この〈フッケバイン〉は皆の家でもあるのだ。ステラは躍起になって叫び、〈カルバク〉に主砲の照準を合わせた。

「小っちゃい癖に生意気だよ、沈んじゃえ!!」

〈フッケバイン〉の下部に搭載されている大口径の主砲1門が、赤とピンクの混ざり合った不気味な輝きを放って半瞬遅れで発射された。
緑色のビーム群とすれ違うようにして、〈フッケバイン〉の主砲は宇宙空間を疾走する。それは距離が近いこともあって、初撃で〈カルバク〉の艦首に直撃した。
さしもの宇宙金属で生成されているガトランティス艦とはいえ、駆逐艦では受け止めるには荷が重すぎたようで、艦体の上部と下部で引き裂かれるように爆沈していった。

「やったぁ!」
「油断しないで、このまま全速で突っ走って。後ろからくるわよ!」

  喜ぶステラを褒める事もなく、カレンは全速で離脱するように指示する。次元転移さえすればこちらのものだ、と確証は持てないが。
しかも逃げる事を許さぬと言わんばかりに、残った駆逐艦1隻と巡洋艦1隻の2隻が追撃してくる。残る艦艇は、当然と言うべきか依頼主の艦に殺到した。
逃げようとする彼らに対して、ガトランティス艦3隻は猛攻を加えたのだ。その次元航行艦は武装など無きに等しく、しかも宇宙を渡る機関技術を有する戦闘艦に敵う筈もない。
  巡洋艦〈グリスコル〉他2隻の駆逐艦は後背から追撃し、速射輪胴砲塔を連射する。雨の様なビームの弾幕に包まれると、瞬く間に被弾していった。
1つ、2つ、3つ、と爆炎を吹きだす。1発でもかなりの損害を出しているだけに、これだけの被弾数では耐える余地は何処にもない。
  しかもダメ押しと言わんばかりに、駆逐艦1隻から量子魚雷2発が撃ち放たれた。するとオレンジ色の光を放ちながらも高速で飛行し、そのまま命中。
次元航行艦の左舷と右舷に1発づつ命中した途端、派手な爆発を起こす。戦闘艦ならいざ知らず、たかだか民間船で耐えきれる保証がある筈もなかった。
のた打ち回るように艦が揺れ、やがて大爆発を生じさせた。それが依頼主らのあっけない最後である。
同情する気持ちなど微塵もないカレンだったが、今度は2隻の艦から追撃を受ける身となる。かまう暇は無い、とひたすら前進して転移までの時間を稼がせようとした。
  一方で、離れた宙域にいるダガームら本隊は、斥候部隊が戦闘を開始している間に戦闘準備を整えていた。ダガームは、もはやフッケバイン一家に構ってはいられないと見切りをつけて、早々に鹵獲する方針を打ち切っていたのだ。

「火焔直撃砲でありますか……?」
「なんだぁ、意義があるのか!?」

ダガームは、火焔直撃砲による殲滅を命じたのである。対してリグミッツは、それは使うべきではない、と言いかけたものの、結局は反論しなかった。

「ございません。一気にテロン人を殲滅すべきでありましょう」
「それでいいのだ。早く艦を反転させろ!」

  ダガームが声を荒げる中、〈メガルーダ〉は直ちに反転し、艦首を〈フッケバイン〉が居る宙域に向けた。火焔直撃砲の転送システムなら、こんな距離は朝飯前である。

「提督、目標の至近に小惑星があります。転送座標に狂いが生じますが……」

ボドム・メイス大佐が忠告する。彼は年齢が38歳程で、ダガームほどでないが屈強な身体付きだ。口周りの茶髭と、そり込みを入れた頭髪、それを後頭部で一束にしている。
旗艦〈メガルーダ〉の艦長として、ダガームの下で戦う武将である。それでも、ダガームの横暴には呆れるばかりだった。
その怒りも、最近は多少和らいでおり、やはりリグミッツの神業的なフォローや助言、進言があってこそだ。
  火焔直撃砲は、ワープと同様に何もない無害な空間でないと、思ったような座標に弾道を着弾させることができなかった。
偵察機からポイントを指定されても、障害物の影響までは修正しきれない。それが火焔直撃砲の欠点の1つなのである。
それでもなお、彼は発射を強行させた。若干のズレがあっても、エネルギーの余波で沈める事も可能だからだ。

「構わん、小惑星ごと吹き飛ばすのだ!」
「了解。火焔直撃砲、発射準備!」

  艦長を睨み付けると、ダガームは早くしろと急かす。これ以上に口答えすれば、彼の剛腕が物を言うだろう。メイスは渋々と言った様子で発射体制を命じた。
火焔直撃砲の破壊力は、波動砲の様に惑星を破壊するほどは無いが、大抵の艦船は一撃で葬るに足る威力を有している。艦隊決戦兵器として、それで十分に事足りるのだ。
しかも一番の強みは、波動砲以上に連射が効くことにある。かのガトランティス戦役では、地球防衛軍の連合艦隊がこの連射に苦しめられている経緯もあった。
  〈メガルーダ〉艦長を務めるボドム・メイス大佐は、渋々と言った様子で、だが即座に戦闘配置と火焔直撃砲の発射準備を命じた。
艦首下部の砲身部防護用のダンパーが左右に解放されると同時に、巨大な砲身部が下方へせり下がる。これで火焔直撃砲の射線が確保されるのだ。

「薬室内圧力上昇!」
「相対着弾座標入力!」
「転送機エネルギー挿入!」

艦首先に内蔵されている2つの瞬間物質移送機にエネルギーが回されると、転送フィールドを波状に放ち始める。転送装置は2つで初めて安定した空間を形成できるのだ。
  発射体制を進める傍ら、不満を燻らせる者達もいた。それが、生憎と待機命令を出されてしまった空母機動部隊の面々である。

「我ら機動部隊の出番が、全くないとは……!」
「いきり立つでない」

第2艦隊空母部隊の旗艦〈マグダレニア〉では、指を加えて眺めるだけの境遇を歎き悔しがる副官を、地球換算で36歳の戦国武将風な指揮官が諫めていた。
彼は空母部隊指揮官イスラ・パラカス少将、“疾風”との異名を奉られる空母専門の軍人である。

「我が軍の真の目的は、憎きテロンと、天の側銀河を制すことにあるのだ。今ここで、盗賊ども相手に無駄な消耗は避けるのが得策であろう」
「そうかもしれませんが、あのダガーム提督に功績を横取りされては、我らの面目がありませんぞ」
「焦るでない、ヤグーマ。功績を優先させてばかりでは、いずれ自分を見失い足元を掬われる……戦は嫌と言うほど来るのだ。その時にこそ、我が部隊の出番だ」

副官のモダ・ヤグーマ中佐は、パラカスの補佐としては忠実な軍人である。が、どうも功績を立てんとする気持ちが前に出過ぎる傾向にあるのが欠点だ。
それをパラカスは諫めては矯正するの繰り返しをしている。それも指揮官として、或は上官としての務めであるとして、自分に課しているのだった。
  その間に発射体制は整い、エネルギーの集約も1分と必要なかった。〈メダルーガ〉に搭載されている火焔直撃砲が、輝かしい光球を作り上げる。
エネルギー集約されより輝かしい光が辺りを照らす。そして斥候部隊からの座標データを基に、〈メダルーガ〉の転送座標がリンクされた。
同時に斥候部隊は、火焔直撃砲の巻き添えを受けぬために急ぎ反転し、射線上からの退避を始めている。味方艦の砲撃で沈むなど洒落にもならなかった。
  暗い宇宙空間でこの輝きは、少し遅れて奴らにも届いている頃だろう。だが気づいても遅いのだ。ダガームは笑みを深めると、座席から立ち上がった。

「虫けらどもめ、とくと見よ……ガトランティスの輝きを!!」

そして腕を持ち上げ、そのまま前方へ突き出すと同時に命じたのである。

「火焔直撃砲、発射ぁ!!」


「火焔直撃砲、発射ァ!!」

強力な火球が一気に放射され、プロミネンス状となると同時に転送空間へと吸い込まれていく。この発射の瞬間は、彼方の〈フッケバイン〉でも観測された瞬間でもあった。

「おっきな光が見えたよ……っ!?」

 ステラが大きな声で知らせたと同時に、今度は〈フッケバイン〉の重力センサーやエネルギーセンサーが反応する。さらに他のシステムが一気に警戒を示し始めたのだ。
不安が現実となるのに時間など必要なかった。重力センサーが感知した宙域にクローズアップされた時には、巨大な歪みが発生していたのだ。
カレンの脳内に、警鈴がこれでもか、と煩いほどに鳴り響く。途端、それは出現した。フォルティスは愕然とする。

「こ、これは!?」

次の瞬間には、重力振の中心部から巨大な白い彗星の輝きが出現し、かと思いきや今度はプロミネンスとも見間違う巨大な火柱が出現したのだ。
赤き灼熱のプロミネンスが、宇宙空間に現れるまでに約1〜2秒だった。それでも回避する暇などある筈もないだろう。
  火焔直撃砲は、フッケバイン一家らの居る小惑星に直撃し、巨大な鉄と岩の塊である基地に直径400mあまりの巨大な風穴を開けてしまう程の威力だ。
さらには小型のエネルギー弾も小惑星基地を襲い、瞬く間に穴だらけにしてしまった。そして動力炉にでも引火したのだろう、小惑星基地は巨大な業火に包まれ大爆発をお越し、粉々に砕け散り、小さな破片群に姿を変えてしまったのである。
小惑星基地が見るも無残な、ただの残骸へと成り果ててもなお、火焔直撃砲は威力の衰えを知らないままに宇宙空間を疾走した。
  運よく射線から外れた〈フッケバイン〉だったが、あくまで直撃コースを免れただけで、その至近距離ギリギリのところを火焔直撃砲が掠めていく。
〈フッケバイン〉は無傷で済まされなかった。火焔直撃砲は、その余波だけでフッケバイン一家が持つ特殊能力『エクリプス制御能力(エクリプスドライバー)』による、エネルギー分解速度すら上回る莫大な熱量を叩きつけてきたのだ。
その影響で2枚のフィン状パーツと、艦体の一部を削ぎ取っていってしまったのである。自動操縦のままであったら、一瞬にして小惑星基地と同じ運命を辿っていただろう。
本来無敵の筈の〈フッケバイン〉が、その想定する力など問題にならない攻撃(ハンマー)によって、初めて傷を負ったのである。

「な……なんなんだよ、こりゃ!!」
「いきなり空間から火焔が出てきたよ!?」

  そんなのはこっちが聞きたいくらいよ! カレンは、いつになく焦りを見せていた。当然である。何もない空間から巨大なエネルギーが飛び出して来たのだから。
レーダーには弾道など見えていないのだから、尚更のこと恐ろしい。といよりも、先ほど退避行動に入ったガトランティス艦を不信に思ったが、これが理由だったのかと悟る。
ステラも訳が分からないようで、冷静さなど当の果てに吹き飛んでしまっている。しかも破損した状況が、混乱に拍車を掛けていると言ってよい。
時空管理局の艦船如きに負ける筈もない〈フッケバイン〉が、ただの一撃で損傷を許したのだ。
  一方で1撃目での撃破に失敗したダガームは、歯ぎしりしていた。だから、小惑星が邪魔だと言ったのだ――と、ボドムは表情に見せないように心で罵る。

「小惑星消滅。目標、なおも健在!」
「えぇい、下手糞め。2発目を急げぇい!」

小惑星の存在が射線を狂わせた結果、〈フッケバイン〉を逃してしまった。ただし偵察機の報告から、損傷させたことは確実のようである。
なればこそ、ジャマな小惑星を粉砕した今なら確実に命中させることは出来るだろう。そうは思ったのだが、実は余計に射撃管制への障害を増やしていたことに気づいていない。
粉砕した小惑星の破片が周囲に飛び散ってしまい、宙域に障害物として点在しているからだ。これではより正確な射撃が可能であろう筈がない……。
  だが、第2射目に突入しようかと言う時になって、通信士官が入電の報を持って来た。誰もが恐れるダガームに口を差し挟むのが怖いものである。
その通信使の様子が、見てわかる程に強張っていた。

「か、閣下。本隊より入電『攻撃を中止し、即刻隊列に戻れ』との通達が入りましたが……」
「あの若造が、横槍を入れおってからに!」

案の定、司令官からの停戦命令が飛んできてしまい、ダガームは噴気する。下手をすると通信士が殴り飛ばされるのではないか、という気迫であった。
とはいえ命令を無視するわけにいかない。本当の目的は天の川銀河への進軍なのだから尚更である。もはや、あのちんけな艦船に構っている暇ない。
  不愉快極まりないダガームを置いて、〈フッケバイン〉の方は命辛々という呈で次元転移によって離脱していた。
司令官に邪魔されたこと、取り逃がしたこと、などの不満が蓄積する結果に終わってしまったが、そこをリグミッツが口添えをする。

「閣下は既に、エユースを完膚なきまでに撃破なさいました。ここは一旦、総司令官のご命令に従いまして、後の戦闘は天の川銀河へ渡ってからにいたしましょう」
「……まぁいいだろう。だが、次の戦では横槍など入れさせぬからな!」

毛嫌いする総司令官に悪態を付きつつも、ダガームは〈メガルーダ〉を反転させて隊列に戻した。
  そして火焔直撃砲から嘉禄も生き延びた〈フッケバイン〉の面々は、安全が確認されるや否や慌ただしさから落ち着き始めていた。

「危なかったな」

サイファーが壁に寄り掛かりながら呟いた。人切りとして殺戮を繰り返してきた彼女にしても、今回の様な不測の事態と、見たこともない攻撃には冷静ではいられなかった。
楽観視していたヴェイロンにしても、アルナージにしても、冷や汗をかいており、ソファーにぐったりとしている。あんなの食らったら、ひとたまりもないよ、と思ったものだ。

「時空管理局には、アルカンシェルがありますが、さっきの攻撃はそれ以上の破壊力ですね……」

  フォルティスは冷静になり、攻撃してきた兵器の特性について考察している。そもそも、弾道など確認すらできておらず、確認できたのは重力振のみ。
次元空間から跳躍してきたとも考えられるが、次元レーダーには何も反応は無かった。想像をはるかに超えた新兵器だ、という結論しか出せなかった。

「下手したら、依頼主と心中していたところよ。まったく、他人の事をどうこう言えるような立場じゃないわね」

不機嫌なのはカレンである。補給ポイントをガトランティスに潰された挙句、依頼主も船ごと消滅してしまった。どのみち、他にも秘密の補給ポイントがあるから問題は無いが。
それでも初の恐怖体験的な攻撃に遭遇した心理的ダメージは、決して浅くは無かったと言えた。それに〈フッケバイン〉も左舷を損傷してしまったのだ。
自己修復機能で解決できる事ではあるが、これから先のことをもう少し真面目に考えた方が良いかもしれない。

「取りあえず、今後は通常空間に出る時も用心すべきね……」
「そうすべきでしょうね」

カレンの方針に、フォルティスは頷いた。これから先、SUSと遭遇するかもしれないとの懸念を抱きつつも、フッケバイン一家は静かに次元空間の海に溶け込んでいった。




〜〜〜あとがき〜〜〜
どうも、第3惑星人です。非常〜に長らくお待たせしました。しかも新作でなければ、本編の更新でもない外伝の行進です。
リリカルなのはのForce編は連載停止中とのことですが、そんな事は気にせずに自分の妄想全開で、今回の様な話を造ってみました。
ぶっちゃけて言ってしまいますと、「怖いもの知らずなフッケバイン一家に怖い目を見せてみたい」なんて思った経緯から書いてみた次第。
またヤマトの新作劇場という事もありまして、劇場版キャラを早速拝借しました。まぁ、私の2次創作時系列では、ダガームとかは出てない設定なので(笑)。
個人的にはシヴァの続編を書きたいのですが、話の展開が上手いこと思いつかない状態で足踏みどころか立ち止まり状態ゆえ……。

※追記――2015年1月5日
読者様からアドバイスを頂きまして、内容の大幅な改定を行いました。
SUSとの戦闘がやっつけすぎるのは自分でも感じていたのですが、やはりフッケバインとの戦闘が良いのではないかとのご意見を賜った次第。
そこで、無理を承知で内容を組み替えてみました。フッケバイン一家の戦闘スタイルとかは全くの素人故に把握しきれていないので、簡素なものとなってしまったのは悔やむところ。


〜〜以下、個人的なこと〜〜
宇宙戦艦ヤマト2199新作映画『星巡る方舟』を3回程ばかり視聴しました。『面白いです』の一言に尽きます。
冒頭10分無料試聴からして、鳥肌が立ちまくりだったので、劇場で見て尚更興奮しました。出渕監督、大変に良い仕事なさいましたよ。
近年のアニメには無い、SFかつ戦艦ものの筆頭として、ヤマトは素晴らしい作品として仕上がっていると思います。
艦隊戦は文句なしの出来栄えですし、何よりもBGMとの相性が良いので手に汗握る様なものでした。宮川彬良さん、ご苦労様です。
また中盤のガミラス人と地球人の共同生活は、人によって冗長ととらえる人もいますが、私は『相互理解』の為には必要不可欠な時間だと感じます。
最期のヤマト・ガミラスvsガトランティスの決戦も、呼吸するのを忘れるような激闘と出来でした……戦闘航宙母艦、万歳!!
こんな迫力のあるアニメが、今後に作られないとなるとすごく寂しいです……。



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