―――ユーラシア連邦、東アジア共和国、日本を相手に大敗を喫す―――


  C.E暦69年10月8日。この知らせは全世界を震撼させるに十分なニュースだった。圧倒的兵力で武力侵攻を行った二大国の軍隊を、日本は少数ながらも圧倒的な軍事力を有する軍隊をもって返り討ちに―――どころか壊滅せしめたのである。
日和見を決め込んでいた大西洋連邦では、閣僚議員の大半が身体を飛び上がらせる、と言わんばかりの驚き振りを示したものだ。
大統領のアーヴィングも平常心ではいられなかった。日本が強いとは思っていなかったが、まさかこれほどとは思いもよらぬところである。
議会が招集された彼らは、日本に対する対応策を至急に練り合わせねばならないと知った。これでは大西洋連邦も危ぶまれる、と感じたのだろう。
  しかし、各国が対応を打ち出すよりも早く、日本側が素早く行動に移した。全世界へ向けて、2度目の通信を行ったのである。
また通信映像、ラジオ等、全てのメディアを使い、森外務相は必死に、そして懸命に訴えた。

「今回の戦争は、決して我々の望んだものではありませんでした。我々は会談を望みましたが、ユーラシア連邦、東アジア共和国は一方的な戦争を仕掛けてきたのです」

全世界の全周波数に向けて放送されたこの訴え。日本は繰り返し会談を求める事を強調しつつ、自国はれっきとした主権国家である事を付け加えた。
この戦争で勝利した日本が望む事。それは、この世界での存続を認めてもらうことである。賠償を求めようとはしないが、ただ、日本として存続出来るようにしたい。
多くの将兵が犠牲になったのも、ひとえに大国が小国を支配せんとしたため。今すぐに停戦し、講和を結ぶべきではないか。
  訴えに対して、同情する者が約4割、反対するもの約3割、どちらともいえない者が3割を占めた。反対の大半が、先の大国である事はすぐにわかる。

「どうするんだ、政府は。徹底抗戦を叫ぶつもりか?」
「かもしらん。領土を奪われたんだからな。それに大国のプライドがあるだろうよ」
「だが、日本は講和を望んでいたそうじゃないか。複雑ではあるが、今回は政府の自業自得って感じがする」

ユーラシア連邦、東アジア共和国の市民達は、政府の動向に目を向けた。このまま戦争を継続し、大きな被害を出してまで日本を屈服させるべきなのか。
それとも負けを認め、素直に交渉の場に着いて日本の自主独立を認めるか。もはや賠償だのと叫ぶ立場にはいられないのが、彼らの現状である。
勝手に戦端を開いて、勝手に大敗したのだ。そんな国に同情する余地はない、と冷たく見る国もあったくらいである。
  日本勝利の報告は耳を疑うべきものだが、それよりも驚くべき事実が幾つか存在した。それに真っ先に反応したのは、あのアズラエルであった。

「それは本当ですか、サザーランド大佐」

とある執務室に構えるアズラエルは、45歳の大西洋連邦軍人―――大西洋連邦参謀部 ウィリアム・サザーランド大佐という人物と通話中であった。
彼は軍内部でも知られるタカ派であり、極度のコーディネイター嫌いとされている。勿論、ブルーコスモとやらいう非公認組織の一員だ。
  そのブルーコスモスとしての間からか、サザーランドはアズラエルとの独自のパイプを持ち、大佐でありながら何かと発言権が大きい。
もっとも、アズラエル自体が、軍部に対して強い発言権を持っていることも原因なのかもしれないが。

『はい。情報部の報告によりますと、日本にはマスドライバーが2つ存在しているのは、確かなようです』

そう、つい先ほど衛星軌道上に打ち上げてある監視衛星の1つから、日本の国内にマスドライバー施設が確認されたと言うのである。
しかも、あの小さな島国に2つ。この地球には4つしかないマスドライバーが、よりにもよって日本に2つある!
  これで、ユーラシア連邦らが強硬手段に出た理由が分かった。彼らは独自のマスドライバーを手にして、宇宙戦力の増強を図るつもりなのだろう。

(しかし、観るのはそこではなく‥‥‥)

そうだ。マスドライバーよりも、1番注目すべきこと。それは、日本の宇宙艦隊が自力で大気圏を脱出したということである。
今でも戦闘艦が自力で大気圏を離脱することはできない。マスドライバーは必須の施設なのだが、それを使わずに可能とするとは、なんという科学力か。
この技術を取得すれば、我ら大西洋連邦の宇宙軍は飛躍的に強化できる。

(それだけじゃない。この技術が全艦艇に普及できれば、奴ら(プラント)の地球に対する戦略が、根本から崩れる!)

  こういった思考を直ぐに出来るあたり、彼もまた普通のビジネスマンではない。今までは、マスドライバーを奪取されれば、宇宙への道は絶たれると思われてきた。
そんな固定概念が、過去のものとなるのだ。どんなところにいても、自由に宇宙へ出られる。プラントが封鎖行動に出てきても、対応できるわけがない。
さらに驚くべき情報はあった。日本軍は対ビーム兵器の装備を充実させるばかりか、そのビーム兵器も国連軍を上回ると言う。

『ユーラシア連邦の報告によりますと、日本艦隊の光学兵器の射程は、6500qを優に超えるものとされます』
「なるほど。ユーラシア連邦の艦隊が一方的に敗北したのも頷けますね。それに今、試験装備中のラミネート装甲に似た装備も有していると聞きますが?」
『それだけではありません。彼らは装甲技術もさることながら、シールドも実用化させ、防御を固くしております』

水上艦も、宇宙艦も、シールドこと電磁防壁を有している。
  となると、ますますもって日本に対する重要性と興味は増した。

「それと気になる報告がありましたが‥‥‥戦闘機が宇宙を飛翔していた、というのも?」
『事実です。海軍と宇宙軍で確認された機体は同一の物。彼らは航空機を宇宙戦闘機として運用しているのです』
「しかも、メビウスより強力だと言うことですね?」

有り得ない、と最初は思った。戦闘機が宇宙を飛翔するなど、彼らの常識を覆す技術力なのだ。それでもって、メビウスを圧倒的にねじ伏せた。
もしかすれば、これはあのMSとやらに対抗しうる有力な兵器なのではないか。
  アズラエルは思考回路を全開にして考えた。

『現在、ハルバートン少将の指揮のもと、G計画が進行中ですが‥‥‥』
「あぁ、極秘裏に開発中のものでしたね。日本の技術を取得できれば、我が大西洋連邦は化け物どもを、大きく引き離す事ができるかもしれないですね」

  G計画ことガンダム計画とも呼ばれるそれは、まだ着手されたばかりのものだった。それも極秘で、表沙汰にはされていない。
これはプラントが開発した新兵器MSに対抗する為の計画だった。目には目を、歯には歯を、MSにはMSを、と開発計画責任者である大西洋連邦の軍人―――第5艦隊司令官 デュエイン・ハルバートン少将が提案したのである。
もっとも、最初はこれを却下された。MSには意表を突かれただけだ、と頑なに否定する上層部が多かったのだ。
  しかし、一部議員との協力で、密かに計画が着手された。きたるべき時に備えるMS、それがガンダムシリーズという代物であった。
とはいえ開発は順調に進むわけでもなく、実戦に配備されるまでには、まだ1年以上は見積もってしかるべきだと言う話である。それだけ二足歩行型の機動兵器開発は難しく、運用するにしても相当の訓練期間を設ける必要があった。
そういう点を見ると、やはりコーディネイターというのも、能力は伊達ではないことが伺える。それだけにアズラエルの怒りも燃え上がった。
  G計画には、MSの他に運用するための母艦も建造される。幾ら強力なMSとはいえ、所詮は1人乗りの機動兵器である。
母艦もなしに長期行動ができる筈もないうえ、補給やパイロットの休息の場を必要とするのだ。その母艦にも、様々な要素を盛り込むこととなっている。
初の大気圏航行能力を有し、水中も航行可能な万能戦闘艦。それを目指しているのだ。
  が、これも素直に進む様子は見えなかった。問題の慣性制御技術が解決を見ておらず、技術陣を大いに悩ませている次第である。

(G計画の母艦。あれにも、大気圏航行能力を付け加える予定ですが‥‥‥もしかすれば、ですね)

日本の技術をプラスさせれば、早期に開発が完了するかもしれない。いや、上手く事を運べば、先ほどの全艦艇が独自の大気圏離脱能力を有することが可能だろう。

(ここは出来る限り、日本との盟約を結ぶなりして、接近する必要がある。できれば、他の技術も全部貰いたいところですが‥‥‥)

そんなご都合展開はあるまい。日本も愚かではないだろうし、そう易々と軍事技術を渡してくれるとも思えない。
おまけに大西洋連邦だけが考えていることではあるまいに。近いところでは、赤道連合―――いや、オーブあたりも接触を図るだろう。
何せあそこも日本の移植者が多いと聞く。ウズミ・ナラ・アスハもそういった民族の繋がりを利用して、接近する可能性があった。

(まぁ、こちらにも技術供与ができれば、別にいいですけどね)

あの化け物どもに後れを取らぬためにも。この宇宙からコーディネイターを一掃するためにも。彼は狂気の笑みを、浮かべるのであった。





  時を同じくしてオーブ連合首長国。ここでも、日本に対する対応を迫られていた。日本の異常とも言える勝利の結果に、皆が騒めき立つ。
オーブは5つの氏族によって、代々に渡り政治体制を維持されている。日本の民主主義とは異なる政治体制を持つ国である。
その五大氏族で国の進路を取り決めているのが、首長のウズミ・ナラ・アスハだ。議会の場で、彼は閣僚の会話を黙して耳に傾けていた。

「日本の戦闘結果は、予想を遥かに上回る。まるでプラントの私兵軍並みの‥‥‥いや、それ以上のものだ」

そう発言する閣僚の1人、ウナト・エマ・セイランの表情は硬かった。日本の軍事力が予想を上回っただけに、その驚きは隠しようがない。
  何せ、海上では2個機動艦隊を壊滅させ、空軍も纏めて200機以上が落とされた。さらに宇宙では1個宇宙艦隊が壊滅しているのだ。
この損害は並大抵のものではない。下手をすれば、小国の有する全兵力を屠った計算になるのだから平然としてもいられない。
分析班の話では、日本が本気を出せばプラント理事国を纏めて相手にできるのではないか、という話である。

「これは危険すぎるのではないか」
「確かに‥‥‥だが、彼らを友好国とすれば、これほど頼もしいものはおるまい?」
「手を組めと言うのか」
「中立を謳うのも良いが、いざ手を差し伸べてくれる国がいても、悪くはないだろう」

  反応は2つに分かれた。日本と友好関係を築き、交流を深めることで将来へ備えるとする者達。ここは静観し、そのままにすべきだとする者達。
どちらにも言い分はある。それでも先を見据えた場合、どちらがオーブにとって利に働くだろうか。それを考えた時、やはり友好関係を築いた方が良いに決まっている。
  他の友好国であるスカンジナビア王国とは、あまりにも距離が開きすぎている。いざ救援を要請されても、時間が大いにかかってしまう。
また、両国の間にはユーラシア連邦と言う大国が位置している。阻害されれば、一層のこと難しいのは明白だった。
残る赤道連合は、位置的にはオーブと近いが、軍事力としては左程に期待できるものではない。スカンジナビアも同様である。

(だが、日本という国と結べば、我が国の防衛力は交流によって向上する。日本の位置も、ユーラシア連邦と東アジア共和国への大きな牽制にもなる)

  ウズミは、日本と言う存在が戦略的にもどれ程に大きいものかを実感していた。日本にとっては迷惑この上ないだろうが、大国の壁となりうるのだ。
それは中国に存在する万里の長城のような物。日本がある限り、二大国は太平洋方面に対する軍事行動が、殆どできないことになる。
まだ世界大戦に発展しているわけでもないのに、こういった想像するのも気が早いだろう。だが、言うではないか。

――備えあれば憂いなし――


  問題は大西洋連邦の出方であろう。この国は軍事行動に反対はしなかったものの、賛同もしなかった。中立的な位置を取っていたのだ。
それに大西洋連邦には兵器開発メーカーが多くある。噂のアズラエルとやらいう青年実業家も、この日本の魅力に気づいてもおかしくはない。
どこまでも想像の範囲ではあるが、日本との協力関係を築くことが第一ではないか。
  大方の意見が出てきたところで、ウズミも口を開いた。

「私は、日本との友好関係を築くべきであると見る」
「首長!」
「考えてもみたまえ。彼らはあくまで自国防衛のために戦ったに過ぎない。会談をより強く望んだのは、彼ら日本だ」

そのような国が、好んで戦乱を起こすとは思えない。それに、自国防衛のために動いた彼らは、我々にも何か通じるところがある。
対等かつ友好な関係を築き上げることが、オーブの未来のためになるのではないか。それに、オーブの軍備力を強化することもできる。
  彼もまた、日本がどのような軍事力を有していたのかを耳にしていたのだ。自力で飛び立てる宇宙艦艇など、特に魅力的なものであると。

(我がオーブの独立を維持するためにも、この軍事力強化は必須だ)

オーブには宇宙軍が設立されてはいるが、それは殆ど名前だけに等しい。大国とは比較にするのが馬鹿らしいくらいに、乏しい数しかなかったからだ。
宇宙艦艇にしても、戦艦と言える物が2隻のみ。続けて同級艦が建造の途上にあるが、一国の軍隊としては、やはり心もとないのが実情である。
他には、オーブの保有する宇宙コロニー“ヘリオポリス”と“アメノミハシラ”が存在する。そこにオーブ専用のメビウスが配備されているくらいのものだ。
  そこで、日本の宇宙艦隊技術を反映させることによって、飛躍的に軍事力を向上させようというのである。

「確かに、日本の宇宙艦隊は驚異的でもあり、魅力的である。これがあれば、我々の宇宙軍も増強が容易くなる」
「しかし、大西洋連邦などが、黙っていようか」
「いや、寧ろ積極的に日本と手を結ぶ可能性が高い。先を越されてはまずいのではないか」
「その通りだ。大国に先を越されては‥‥‥」

確かに不味い。が、同時にこの心配は、無くなるのではないか。言ってしまえば、日本にとってはありふれた技術である。
いずれ全世界に広まり、差は無くなるだろう。それが速いか遅いかの差である。いずれ技術力は、並び合い平行線を辿るものであると、ウズミは考えていた。

「手を結ぶにしてもだ。日本は、そう簡単に手を握ってくれるだろうか」
「それ程心配することでもないだろう。何せ、彼らは孤立している。そこで手を払う様であれば、自滅するのと同じだ」

  それはどうであろうか。そう思う者も少なくない。日本は孤立化を何としても回避したいのは事実だろうが、不用心に手を握るとも思えない。
差し出された手を、良く考えもせず握るのは危険だ。特に、この世界は色々と危険な空気が流れている。日本もそれに気づいている筈だ。
そこで我々がすべきこと。日本に悪印象を持たれるのは、一番回避せねばな要らないのは勿論。そのためには、現状の日本を擁護する必要がある。
恩を売る、という言い方にはなるが、これが一番であろう。信頼を得ずして確固たる盟約や同盟を結ぶことは出来ない。
結果として、日本の独立を支持し、信頼を得てから交流を積み重ねていく。この方向性で、その日の会議は幕を下ろす事になった。
  ウズミの娘、カガリは日本との協力関係を結ぶと言う話を耳にして、どこか嬉しそうな表情をしていた。

「私の知らない、異世界の日本‥‥‥か。一度でもいい、行ってみたいな」

活発な行動をする娘らしい、言葉であった。オーブの先人達が住まう日本とは異なった世界。そこは、どういったところなのだろうか。
高度な文明らしく、ハイカラ(・・・・)なビル群が立ち並び、まだ知らないものが当然のように見えているのだろうか。
あるいは、それほど変わらぬ背景か。想像しただけで、興味をそそるものだ。カガリは、自分の部屋の窓辺から、海を眺めた。

「この方角の先にあるんだ、私の知らない日本が」

憧れの眼差しを、ここでは見る事の出来ない日本に向けるのであった。



 

  巡り巡って、日本の勝利の報告はプラントにも飛び込んだ。ただ、最初こそプラント指導者達は、それがどうしたのかと軽視した。
それが一転したのは、日本の勝利した戦果の内容が尋常ではないこと、そして宇宙艦隊らの進んだ技術力を知った時である。

「危険だ。奴らは危険な存在だ!」
「言っていることが、さっきと違うな。取るに足らない存在ではなかったのかね?」

議会は激化した。たかが日本と言う小国に対して、異様に白熱化したものだ。急進派の一派も、軽んじた姿勢から180度変わる者も少なくない。
無論、プラントの私兵集団ザフトの方が、日本よりも最強であると自負する者もいる。
  だが、太平洋連合を経緯して入った情報には、目を疑わんばかりのものだ。MSにも劣らない宇宙戦闘機の存在。自力で大気圏を離脱できる宇宙戦闘艦艇。
ビームを弾くシールドと強固な装甲。これだけでも十分に驚異的なものに感じる。
特に着目すべきは、自力で大気圏離脱が可能な技術であろう。マスドライバーを使用しないで、宇宙へ戦力を直接投入できるとなると、彼らの戦略は根元から崩れる。
というのも、この技術が連合側へ流れ込んでしまったら―――という懸念も含まれていた為だ。有り得ない可能性の方が高いのだが。
  多目的実用生産工学専門家 パーネル・ジェセックが、各代表陣の中にあって非交戦的な意見を出していた。
やや角ばった顎に、短く刈り上げた髪の男性で、中立派(穏健派寄り)の議員でもある。

「日本とは敵対すべきではないな。もしも、日本を敵に回したらどうなるかね。戦闘機もMSを上回る可能性があると言うじゃないか」
「たかが戦闘機だろう! そんなものとMSを同列に扱うな、MSの前には無力であろうよ!」

急進派の議員である科学博士 ジェレミー・マクスウェルは反論する。科学者でありながらも、彼もまたMSへの信頼を寄せていた。

「その軽率な考えを止めたらどうだ。彼らはこの世界とは違うのだぞ。いい加減に認めたらどうなんだ」

戒める穏健派メンバーの1人でアラブ系の血筋を持つ青年―――基礎微細工学/応用微細工学専門家 アリー・カシム議員は言った。
  だが、急進派の多くは聞く耳を持たないような状態である。先のマクスウェル議員や、同じく急進派であるヘルマン・グールドと言った議員が再反論をする。
穏健派と急進派、はたまた中立派の議員達が意見や反論の応酬を展開していく様を、クラインは何とも言えぬ複雑な表情で見ていた。

「日本は大国の2個機動艦隊を壊滅せしめ、さらには1個宇宙艦隊を壊滅させたと言うではないか。多方面にわたり、全て完勝と言える結果だぞ!」
「所詮はナチュラルだ!」

次第に罵声じみた声も混ざり始める。
  その中で、日本の科学技術力に、脅威を感じていたうら若い女性がいた。マティウス市代表 エザリア・ジュールである。
彼女は兵器開発にも深く携わる人物で、当然、MS開発にも関与している。さらに急進派でもあり、パトリック・ザラを蔭ながら補佐している。
この度はMSの活躍で、その開発功績を称えられていた。本人もプラントに貢献していると言う満足感を得ていたが、この報告書を読んだ瞬間に全てが吹き飛んだ。

(まさか、有り得ない‥‥‥ナチュラル如きがシールドを装備している? しかも全艦艇に? 装甲も我々の物とは一線を超える‥‥‥ですって?)

  報告書の中身は、信じられないものばかり。こんなものを、ナチュラル―――しかも大した価値の無い小国が有しているという。
彼女の心内で、危機感が募った。MSが出遅れる筈が無いと信じたいものの、実戦で検証されなければ意味が無い。
ナチュラル嫌いとはいえ、彼女も兵器開発の責任者なのだ。無責任な発言や行動は許されないし、軽んじた姿勢が後にしっぺ返しとして降り注ぐ可能性もある。
  国防委員長のパトリック・ザラはといえば、彼もこの報告に危機感を募らせていた。ナチュラル如きは放っておくがいい、と吐き捨てたのは自分自身である。
だが、これらを見ると次第に思考の変換を余儀なくされていく。一番に危惧したのは、日本の科学力が地球上で広まる事にあった。

(もし奴らが、日本と同レベルの技術力を有したとすれば‥‥‥)

そこから先の想像は、先ほどのアズラエルが考えたことと、ほぼ同じものである。国連軍の宇宙艦隊は、工廠から直接に宇宙へ飛び上がる事が可能となるのだ。
マスドライバーまで輸送する必要が無く、それは大幅な時間短縮となる。国力生産で大きく引き離されるプラントからすれば、これは目を逸らすことの出来ない話だ。

「国防委員長は、どうお考えですか」

  30代後半程の髪の長い男性議員―――タッド・エルスマンに話を振られた。彼もまた急進派寄りの議員で、基礎医学、臨床医学、生化学、分子生物学、応用生体工学といった多くの工学における専門家を務めている人物である。
エルスマンに話しを振られたザラは即答しなかった。日本と言う存在は単なる小国ではない。理事国に並ぶ、プラントの弊害であると認識していたからだ。

「‥‥‥この報告書が事実である以上、日本に対する見識を改めなければなるまい」

この発言にざわめいたのは、多数が急進派である。穏健派も意外な表情はすれこそ、ざわめきはしない。固い意志によって、ナチュラルを卑屈していた彼とは思えない。
  かといって、それが良い方向への見識だと思うのであれば誤りであり、殆どが最悪への見識であった。

「この小国だけで、地球上と宇宙空間に存在する国連軍の総戦力を、3割は優に粉砕できるだろう」
「それは過大評価ではありませんか、国防委員長」

マクスウェル議員は、依然として日本を過小評価しているクチの様だ。

「私は正気だ。だが、これはあくまでナチュラルのレベルで見ればの話。我が方が有するMSを投入すれば、勝機はある」

  危険を認知はしているものの、ここで下手に出ては不味い。シーゲル・クライン一党の穏健派が次第に膨張し始めるだろう。
そこで彼は、日本の危険性を示唆しながらも高度な機動兵器を有する自分達ならば、十分に勝てると公言したのだ。さらに先ほど危惧した、マスドライバー不用説も取り上げ、ザラは日本がどれだけ危険を孕んでいるかも説明する。

「国防委員長、その発言は、つまり日本との開戦を大前提にしている訳ですか?」

  そう発言したのは、脱色した黄色の髪をした30代の女性だった。彼女は最高評議会議員のメンバーである、外交員 アイリーン・カナーバ議員だった。
外交員を務め、さらに穏健派寄りの1人で、クラインの側近的な存在である。

「当然。それとも、君には別の意味に聞こえたかな」
「あまりにも性急的すぎるでしょう。日本は我々に戦線を布告したわけではない。まして、彼らは生き延びようと必死になっていますよ」

  なればこそ日本には消えてもらう必要があるのだ、と言いかけたところで所詮それは叶わぬことだと悟った。
そうだ、ユーラシア連邦や東アジア共和国は兎も角、直接的な敵対関係にない大西洋連邦が日本との接触を図ろうと狙っているのが、容易に想像できるからだ。
あの貪欲な奴らのことだ。どうせ日本と手を結び技術交渉で軍備力の強化を図るに違いないだろう。かの軍需産業関係は、喉から手が出るほどに欲しているに違いない。
  その為にも大西洋連邦が日本を擁護する声明文を出せば、残る各国は少なくともそれに賛同する可能性は高い。かの2国は一方的に仕掛けて一方的に負けたのだ。
ユーラシアと東アジアに同情する者は皆無と言っていいだろう。自業自得と言うものだと、ザラは吐き捨てた。

「何も好き好んで開戦は望みませんよ。ただ、何事にも最悪の事態は、想定せねばなりますまい。ナチュラルの危険から身を守る、それがザフトの存在する意義ですからな」
「‥‥‥まぁ、今は静観する他あるまい。我々は日本よりも、プラント理事国に対して警戒せねばならない」

  シーゲルはそう言って、話の方向を変えた。プラント理事国は、相も変わらず食糧輸出の問題などで、プラントにちょっかいを出してきている。
こちらも穀物生産用のコロニーで賄えてはいるが、それは完全とは言い難い。それに地球からの原材料等の輸入は必須なのだ。

「プラント理事国のやりようからして、大規模な軍事行動に出てきてもおかしくはない」
「そうですな。実際に軍を派遣してきたのですから、有り得ない話ではありますまい」
「その場合、プラントに直接攻めてこようか」
「あるいは、輸入先の太平洋連合を黙らせる事もありうるが」

そうだ。輸入に頼る以上、輸入源を絶たれてしまえば、プラントは遅からず餓死する運命にある。こうなってしまう前に、別のルートを模索しておく必要があった。
他に輸入先として目ぼしい国は、1つしかない。南アメリカ合衆国である。ここはプラント理事国よりではなく、どちらかと言えばプラントよりの傾向がある。
  それにマスドライバーが、パナマに存在している。存在しているのだが、それは大西洋連邦の眼と鼻の先でもあった。

「此方側に引きずり込めるよう、なんとか交渉したいものだがな」
「あまり先延ばしできる問題でもない。検討を重ねる必要がある」

シーゲルを中心にして、彼らは輸入問題にのめり込んでいった。ただ数名の急進派は、輸入問題よりも先の日本と言う存在を、その頭にこべり着かせていたのである。





  大国を相手に勝利を得た日本―――の筈であったが、不安が消え去るわけでもない。国連や他国がどう反応するのか、予測がつかないでいた。
勝利から即日に世界へ向けて、日本がどういった境遇にあるのか、何を本当は望んでいるのかを、報じた。
後はこの世界の政府機関へとチャンネルを開ければよいのだが、応じてくれるか甚だ不安が残る。もし、全国が敵に回ったとしたら?

「想像したくはないな」

  執務室にて事務処理をしている沖田が呟いた。世界を相手に、再び戦争に投げ出されるなど想像もしたくない。多くの兵士の命が失われていくだろう。
この開戦における日本の被害は、海上の駆逐艦2隻を失った他、航空機は5機を撃墜されたのみ。戦死者数は130人弱で留まったという。
とはいえ、この後も戦争が続くようであれば、被害はこの2倍、3倍に膨れ上がるのは目に見える。何としても、講和なりに持ち込みたいところであった。
  ふと、執務室への内線が呼び出しの音を発した。沖田は作業を止めて受話器を取る。その受話器の向こうから聞こえて来た声の主は、親友の土方であった。

『沖田。お前が鹵獲したユーラシア軍の戦闘艦艇だが、幾つか判明したことがある。科学分析室へ来てくれ』
「わかった。すぐ行こう」

応じた沖田は書類を早々に片づけて、土方の待つ科学分析室へと急いだ。

「‥‥‥待っていたぞ、沖田」
「何か、解ったそうだが?」
「あぁ」

  科学分析室に入ると、土方は待ちわびたと言う表情で出迎えた。また、芹沢もその場に来ており、いつも通りのムスっとした表情を作っている。
彼の他に数名の士官がおり、大半は化学分析に携わる者ばかりである。この世界の技術レベルや、世界事情を把握しようと懸命な分析に努めているのだ。
幾つものモニター画面に並ぶ数字の羅列、採取した物のサンプルを収めたカプセルが並ぶ。分析員の間で、色々と検討しているのが伺える。
  その中の1人、真田志郎(さなだ しろう)三等宙佐は、沖田の前に歩み出る。29歳の若手士官で、宇宙防衛大学を優秀な成績で卒業している秀才だ。
軍人というよりは博士という言葉が似合っている。分析能力や多くの科学知識を有し、極めて合理的な思考を持つ。

「沖田提督が曳航された、数隻の艦艇についての分析が、完了しました」
「ほぅ、聞こうか」
「分かりました。新見君、先ほどのデータを」
「はい、先生」

真田は、助手らしい27歳の若い女性士官―――新見薫(にいみ かおる)一等宙尉にデータ掲示を指示した。それに頷いた彼女は、手元のコンソールを操作した。
大きなスクリーンに映されたのは、先ほど曳航した戦闘艦の1隻、ネルソン級である。破損が激しいものの、原型は留めている。
また、曳航された各艦艇が投影される。それらはユーラシア連邦宇宙軍の全種で、第1艦隊と第2艦隊が共同で曳航してきたものばかり。

「まずこれらの宇宙艦艇ですが、我々が有する戦闘艦艇よりも、総合的に劣るものと分かりました」
「具体的に言うと?」
「はい。まず、機関部におきましては、同じ核融合炉であることが判明しましたが、出力は小さいです」

  真田は次々と分析結果を述べた。この出力では、太陽系外苑部へ到達するには、自分らの数十倍の時間を有すると言うこと。
あくまで宇宙専用であり、大気圏への突入能力は皆無であること。その逆も到底できないこと。慣性制御と思しきものは無く、どの艦も無重力状態にあるであろうこと。
機関部を始めとした航行性能に関して、日本の所属した国連軍の技術よりも、劣っていることが分かった。

「装甲板は、通常の合金類と使用していることが判明しました。コスモナイトを始めとする、宇宙希少金属の類は検出されておりません」
「防壁の類は?」

  芹沢が訪ねた。これも装備されておらず、どうやら装甲で直接的に防御するのみであるという。次に兵装関係も、その性能が明らかにされた。

「我々が使用するフェーザー砲よりも、射程が約1500qほど短く、出力もさほど高くありません。この世界の戦艦1隻に、我々は駆逐艦1隻で事足りるでしょう」

駆逐艦が、戦艦を相手に互角以上に戦えると言う結果に、沖田は頷いて答えた。
  しかし、性能が劣るとはいえ侮れないのは、沖田が良く知っている。光学兵器は劣るが、ミサイル兵器では圧倒的に、この世界側の方が多いのだ。
その証拠として、真田はドレイク級をピックアップさせた。16発分を収めたミサイルランチャーを、艦体から離した位置に4つ装備し、艦体両舷には大型対艦魚雷が備え付けられていた。

「この130mの小型な艦はドレイク級とされますが、種別は護衛艦―――駆逐艦的な役割を担うようです」

  艦名やクラスは、回収されたブラックボックスや、生きていた艦内コンピューターから得られた情報によるものだった。
他艦もミサイル兵器の充実化が図られており、その点を見れば、日本艦隊を大きく圧倒していると言っても過言ではなかった。
その他、サラミス級、ネルソン級、マゼラン級、アガメムノン級と順番に説明されていく。
  さらに機動兵器のMAメビウスの解析も完了していた。

「これも完全な宇宙戦闘用です。機動面ではコスモゼロ等に並ぶようですが、加速力では大きく劣ります」
「真田、防空隊が撃ち落としたあれも、性能的にはどうなのだ?」

今度は土方が尋ねる。日本本土防空戦で落とした、相手の戦闘機スピアヘッド。大半は残骸と化していたが、破損の低いものを鹵獲してきたのだ。
大気圏専用の戦闘機と比べた場合も、コスモゼロやコスモファルコン、コスモタイガーU等に劣ると言う話であった。

「また、ユーラシア連邦のデータ内部に、奇妙なものも含まれておりました」
「奇妙な物、とは?」
「信じ難い話になりますが‥‥‥」

  そう言ってから、真田は口を一端閉じて、再び開いた。

「現地の者から、プラントと呼ばれるコロニー都市が存在していることは、承知していると思います」
「知っているが、そのプラントと、奇妙な物と何が繋がるんだ、真田」

訝しげな表情で、答えをせかす土方。真田は意を決して、奇妙なるもののデータを公開した。それを見て、最初に声を上げたのは芹沢である。

「‥‥‥なんだ、この絵に書いたようなロボットは」

その画面には二足歩行型のロボットが映っていたのだ。自分達の世界ですら、このような格好をした兵器は存在しない。
いや、似た様なものがあった。それは98式特殊機動外骨格ことパワーローダーと呼ばれる二足歩行型の作業ロボットのことであるが、あくまでこれは作業用だ。
一応―――というよりも軍用にも転用されている為、必ずしも二足歩行型ロボットが奇想天外な代物とは思わなかったが、そのサイズの違いが問題であろう。
  画面のロボットは約全長20m前後、その呼称をMSとされる。人間で言う所のバズーカ系統の兵器を持つ他、機関銃に類似した兵器を携帯している。
機関銃と言うよりは、寧ろ機関砲と呼ぶべき代物だろう。これで撃たれたら、人間は跡形もないことは勿論、戦車でさえ一撃で破壊される。
戦闘艦に対しては微々たるものだろうが、現在のところは何とも言えなかった。

「重要データに入っていたものです。これからするに、プラントのMSは、かなり高性能だと伺わせます」
「信じられんな。聞いた話では、一度だけ武力沙汰になったと聞くが‥‥‥まさか、これが戦場に出てきた訳か」

  芹沢は馬鹿馬鹿しいと思いたい反面、実際に記録として残されているところを見ると、嫌がおうにも信じざるを得なかった。
ただ問題は、これがどれ程の戦闘能力を有しているかというものだ。ユーラシア連邦等は、一度対峙して敗退しているという程度しかわからない。
沖田はMSに対して、危険だと直感していた。軍人の感というものだろう。だが今ここで、MSとやらに議論を費やす必要もない。

「ひとまず、これに関する話は置いておこう。真田君、他に分かったことは?」
「はい。次のデータは、藤堂長官らにも見てもらう必要があるでしょう。取り敢えず、分かった部分を公開いたします」

  この世界に存在する国は、大まかに把握していた。そして、地球の生存圏は月までであり、各箇所のラグランジュポイントにコロニー群が存在する。
月には国連軍の基地が4つ程点在しており、さらに中立都市コペルニクスと呼ばれる月面都市が存在していると言う。
月面の詳細なデータまではなかったが、主に月面が国連宇宙軍の主力基地と言っても間違いではないだろう、というのが主な見解である。
  また、月面以外にも軍用基地と思しきものがあるらしい。それと分かったのは、このデータ内においては、火星はいまだに開拓の様子を見せていないということだ。
本格的な国交を開始しない限り、火星の詳しい内情も分からないだろう。

「政治や経済はお門違いだが、日本が生き抜く可能性は大いにありそうだな」
「そうだな。だが、まずは他国との連携を築くのが第一だろう」

土方の言葉に、沖田は同意しながらも、目の前の目標を再認識させる。世界に日本を認めさせなければ、経済の発展もままならないのだ。
後日、日本は各国から独立を認めてもらうこととなるが、最初に手を差し伸べてきたのがオーブ連合首長国であることは、その時知る由もなかった。
そして、C.E世界が予想する以上に、日本の存在が急速に膨れ上がることとなるのである。良き意味でも、悪き意味でも。




〜〜あとがき〜〜
はい、第3惑星人でございます。
ヤマトとガンダムのクロスもの第5話を迎えました。この調子ですと中編ものでは済まされそうにないか‥‥‥な?
しかし、ヤマト世界の技術力は、凄いものだと感じますね。イスカンダルから受け取ったのは、あくまでエンジンの設計図です。
それ以外は地球が取得したものが大半。通常の核融合炉エンジンで冥王星まで数週間で行ける時点で、びっくりする話です。
が、他に凄いことと言えば、太陽に接近しても融解しない装甲でしょうか? ヤマトが巨大で装甲も厚いのも原因でしょうが、それでも十分に驚くべきことです。
そして波動砲も作ってしまうのですからねぇ‥‥‥。この2次創作には出ませんが、もしかしたら拡散陽電子砲なんかあったり‥‥‥。



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