C.E暦70年2月14日。核攻撃から3日後―――世界樹海戦が始まる8日前のことだった。世界中が核攻撃の事実に旋風を巻き起こしていた。
その中にあって日本は、プラントへの救助活動を迅速に行ったものの、とある問題を抱え込んでいた。それは、島大悟に対する責任の追及である。
彼は軍上層部の命令によって、開戦した地球連合とプラントとの様子を記録していた。そこまでは良かったが、その後に命令にはない行動をとったことが問題だ。
  地球連合軍の空母〈ルーズベルト〉に攻撃停止命令を送り付け、挙句の果てには撃沈してしまったのである。軍関係者のみならず政治関係者も驚愕した。

「何故、戦闘に介入したのか。命令は観察のみだったのだぞ!」

そう言って、島を責め立てる人間は少なくなかった。特に軍務局長の芹沢の怒りは甚だしく、命令に背いたことを一方的に責め立てたのであった。

「これがどういう意味か解っているのか。貴官は日本を戦争に巻き込む危険に晒したのだぞ!」

軍法会議に出頭した島は何も反論しなかった。命令になかった行動をしたのは事実であるし、プラント市民の生命を守ろうとしたが為に日本を危機に晒したのである。
多勢に無勢と思われた島への責任追及。メディアも彼を批判していたのもあるが、実を言えば批判よりも賞賛する声も多かったと言える。
  その先頭に立ったのが、島の上司であった沖田である。彼は島よりも歳下ではあるが、命一杯に援護射撃をした。

「彼の行為は、確かに命令違反かもしれぬ。だが、多くの民間人が核の脅威に晒される瞬間を目前にして、咄嗟に執った彼の行動は間違ってはいない」
「そもそも、核兵器の使用は前国連でも、今の連合でも固く禁じられている代物だ。それを破って、一部軍隊が使用した。これは国際的に見ても絶対に許されるべきものではないし、阻止しなければならない!」

続いて土方も援護射撃をした。厳格な彼とて、市民が核兵器によって焼き殺される等と言う非道な行為を、許すことは到底できないものだった。
軍隊としての有り方を厳しく追及もされたが、あの島が置かれた状況は極めて時間のない中での判断だったと言えよう。
  発射を確認されてからコロニー命中まで数分もなかった。艦隊経由で判断を仰いでは到底間に合う訳がない。受け取った頃にはコロニーが完全消滅していただろう。
直接に司令部へ判断を仰いだとしても、結局は命中していたのは明白である。まして、ジャミングの効果は少なからず出ていたのだ。
そんな数分と言う逼迫した時間の中において下した、島の咄嗟な判断こそが、プラントの住民を救う結果に繋がったのである。
先ほどにもあったように、島に対する非難の声よりも、助け出されたプラント市民の感謝や称賛の声、同じく日本国内の賞賛の声を合わせた方が遥かに勝った。
  軍隊内部では、必ずしも命令に従わねばならないのが基本である。でなければ、好き勝手に行動された挙句組織としての意味をなくしてしまうからだ。
だがこの組織の仕組みが、時によっては最悪の結果を生むことさえあるといえよう。特に、現場または中級指揮官が全てを司令部に頼った場合だ。
敵に対する変化の対応策を、総司令部へ逐一報告しては「どうすべきか」等と問い合わせていては、きりが無いものである。
総司令部は大局を見て指揮判断するものであり、現場の変化は、あくまで現場指揮官や中級指揮官が対応せねばならない。
  もしも、中級指揮官達が独自の対応を取れず総司令部にばかり頼るようであれば、各部隊に現場指揮官や中級指揮官など必要ないのだ。
同時に、総司令部に任せきりと言うのは、一種の責任逃れとも言えるだろう。そこが軍隊組織の難しいところであり、中級指揮官達の力量が大いに試されるのである。

「司令部との連絡が取れない場合は、独自に判断し行動せよ」


これは、謂わば“独断専行”とよばれる行動である。今回の場合を鑑みると、島の置かれた状況は概ね独断専行に類する行動と言えよう。
沖田や土方などは、彼のおかれた状況を詳しく分析したうえで述べ、島の咄嗟の行動はあながち間違ったものではないと言った。
  また沖田自身も、軍隊の中にあって自問自答することが少なくない。

「たとえ、それが命令であったとしても、一度立ち止まり振り返る勇気も必要ではないのか」

軍人としては有るまじきことではあると、自覚している。戦えと言われれば戦うし、敵の軍人を殺せと言われれば、殺さなければならない。
  だが、非武装の民間人の大量虐殺といった、戦争ですらない行為に対する命令は別だ。軍隊は民間人を守るべき存在であり、戦うべき相手は同じ軍隊である筈だ。
沖田は島の心情を痛いほど察した。彼は叩き上げであっても無情な鬼でない。人情もあるし、人望もある。信頼厚き、立派な軍人なのだ。
軍法会議の被告席にて、島は援護してくれる上司に感謝しつつも、改めて己の非は認めねばなるまいとして発言した。

「私が独断で行動したのは、間違いない事実です。国家を巻き込みかねない行動であったことも、重く受け止めています」
「分かっていて行動した罪は重いぞ。除籍処分でも足りないくらいだ」
「待て。彼の行動を完全に許すことは出来ないにせよ、彼に対する市民の多くの声は賞賛だ。それにプラント政府からも正式に、感謝の言葉が出されている」
「では責任を追及せぬままにせよ、と言うつもりか!?」

激論は続いた。その間に挟まれる島の心境は複雑なものである。自分の取った行動に悔いはない。が、国を危ぶんだことを考えると、決意が揺らいでしまう。
結果として島に対する処分は、今後1年間の給料30%をカット。同時に3ヶ月の謹慎を命じられた。軽くは無いが、重くもない。
国内世論やプラント、他国からの反応を考慮してのものだったと言える。ともかく、この一件は謹慎と給料減俸という処置で幕を下ろしたのであった。

「父さん!」

  軍法会議が終わってからのことだ。彼を呼び止めた青年がいた。

「大介か」

島 大吾と同じ浅黒い肌を持った20歳の青年士官―――島大介(しま だいすけ)三等宙尉、島大吾の1人息子である。
航海科専門の出で、操艦技術や航路に関する仕事が主だ。父親の背中を見て育ってきた息子の大介は、宇宙に出ている父親を尊敬している。
宇宙の船乗りとしての固い信念をいつも聞かされてきたのだ。そんな息子を、島大吾も誇らしく思ったものだった。
一見すると軽く見える島大介だが、根は真面目であり、硬い意思を持っていた。
  だが、今や息子に顔を向けるのことが難しかった。独断専行とはいえ、命令違反には変わりなく、日本を危機に晒したのであるから。

「すまんな大介、心配をかけて‥‥‥」
「そんなことないさ、父さん」

父親として明るく振る舞ったつもりだが、息子は敏感に父親の内情を把握した。

「父さん‥‥‥俺は父さんの行動が、間違っていたなんて思わない」
「命令に背いたとしてもか? 大介」

大介にも解っている筈だ。軍人であるならば、命令に従うのが常であると。

「命令は絶対だとは思う。けど、父さんの行動で、10万人以上の人々が助かったんだ。これは父さんの私欲なんかじゃない、民間人の命を護る為の行動だったじゃないか!」
「確かに、民間人の多くを救えたことに、悔いはない。だが、日本の立ち位置を危うくしたのは私なんだ」

そう言われてしまうと、大介にも言う言葉が見つからなかった。
  しかし、そこで別の人物が口を開く。焦げ茶色の髪をした20歳の青年士官―――古代進(こだい すすむ)三等宙尉だ。古代守の弟であり、島大介の親友である。
この親友の父親とも面識があり、幾度か顔を合わせていた。古代進も、この父親を大いに尊敬している1人である。

「司令、小官は、日本の立場が危うくなるとは、考えにくいかと思います」
「‥‥‥何故かね」

古代は言う。島大悟の行動は、あくまで民間人の防衛の為に過ぎない。防衛の行動たる原因が、使用厳禁の対象とされていた核兵器の使用にあるのは、周知の事実。
これなくば防衛の行動には出なかったであろうことは、古代にも想像できる。全ての元凶は核兵器の使用、これにのみある。
各国が日本宇宙艦隊の行動に対して賛同的なのも、同じ理由だった。

「閣下の行いは、非難されるものではありません。事実として、他国はこの行動に賞賛の声すら送っております。地球連合が、日本にも攻撃を加えるようであれば、それこそ孤立を招くと思います」
「極端な言い方ではあるがな、古代」
「っ!? 土方さ‥‥‥土方司令!」

  さらに後ろから声をかけてきたのが、土方である。おもわず「土方さん」と呼びそうになったのを修正した古代は、背筋を伸ばして敬礼した。
島親子も倣って敬礼する。

「島一佐、よくやってくれた」
「土方提督」

鬼竜と渾名される土方の表情は、心奥底からの労いの言葉を掛けたのである。彼によれば、先ほど古代が言った通り、日本を指示する中立国は多かったのだ。
本当に非難されるべきは地球連合であり、核兵器の使用を許した上層部だと、こぞってマスメディアは取り上げている。

「とはいえ、貴官への処遇はこれが精一杯なのだ」
「いえ、これでも軽すぎるくらいです。閣下のお言葉を頂けただけでも、身に余ります」

因みに土方も、島大吾よりも年下にあった。そんな2人の様子を見ている島大介と古代進は、何処か安心した様子でそれを見守っていたのである。





  C.E暦70年2月22日。核攻撃から11日後、ポイントL1に浮かぶコロニー“世界樹”で、開戦から2度目の艦隊戦闘が発生した。『世界樹海戦』である。
地球連合軍は月面基地より、再編した第1艦隊、第2艦隊、第3艦隊の90余隻を投入して防衛に当たった。
対するザフトは10個部隊30余隻の艦艇を派遣していた。
  ザフトの目標は明確である。世界樹を占拠ないし破壊することで、地球連合軍の対宇宙戦略を潰そうというものだった。
ここを失えば、地球連合軍は中継地点を失い、直接に月基地へと赴くことになる。別に中継コロニーが無くなったとしても、月まで行けない訳ではない。
だが、問題は防衛の点から見た場合、この世界樹の重要性は増すということだ。L1を始めとする衛星軌道上を防衛する為には、やはり拠点が必要である。
艦隊だけでは、いずれ補給の為に月基地へと帰投する必要があった。地球からマスドライバーを使って補給物資を送ってもらうにしても、その行為は危険性が増す。
  何故ならば、艦隊の補給活動は無防備も同然であるからだ。この最中に攻撃を受けようものなら、大損害はまず覚悟せねばならないだろう。
いち早く敵を発見して補給活動を中止しなければならず、同時に中途半端に物資を搭載した輸送艦艇やコンテナを放棄あるいは護らねばならないのだ。
これらの理由からして、世界樹は決せして単なる中継センターでなく、防衛拠点となり得る重要なコロニーなのである。
  世界樹防衛の為に編成された連合艦隊。その総旗艦 マゼラン級〈サン・マルチーニョ〉に、前衛からの敵発見の報が入った。

「監視衛星に感あり―――ザフト!」
「全艦隊に告ぐ。全艦、砲雷撃戦用意。MA全機発進させ待機」

矢次に指示を飛ばしているのは、世界樹(L1)方面艦隊司令長官/第2艦隊司令官 パーヴェル・スタルク中将である。
年齢は42歳、ユーラシア連邦所属の軍人である。前回のプラント攻略戦で敗北の責を問われたマクドゥガル大将が更迭されてしまった為、その後任として彼が迎撃艦隊の総司令官を務めることになったのだ。
だが地球連合軍宇宙艦隊司令長官ではない。あくまで編成された連合艦隊内部においての司令長官である。所謂、司令官代理と言って良いだろう。
  そして主のいない第1艦隊は、自動人形(オートマタ)と渾名されている参謀長フィリップ・エヴァンス中将が、後任として責務に就いていた。
この人事に対して、将兵達の反応は士気が上がるどころか暴落したという。無理もない。ただでさえ積極性に欠け、温かみも威厳もない、まさにオートマタな人間だ。
能力はあるのだろうが、ハッキリ言ってジェームス・ロバース大佐の方がまだマシだと言う程だ。因みに、その彼はマクドゥガル大将の副官の任を解かれている。
  彼にとって最悪だったのは、この後にエヴァンスの副官を務めよと言う人事命令が下されたことだった。何故、あの参謀の下に就かねばならないのか。
さらには、鬱陶しい男―――アンドリュー・ハザード准将もいるのだから、精神的ストレスは倍増する。とはいえ軍部の命令だから仕方のないことだ。
それに旗艦〈アガメムノン〉のクルーの中には、ロバースを信頼してくれる者が多くいる。少しでも安心させるためにも、自分が残ってやるべきではないか。
自分の存在価値は、そこにあると決めたのである。それで〈アガメムノン〉艦橋に身を置いているロバースだった。
 
「敵MS多数、グリーン!」
「距離7000q、有効射程距離まで1500!」

  レーダーには、ザフトの艦隊とは別に無数のMSを確認した。因みに、オペレーターの言う“グリーン”とは、一種の方角を意味するものである。
地球連合軍の共通用語でもあり、戦闘における方向―――前後左右上下を、色に置き換えていた。グリーンは前方を意味している。
さらに各方面を4つに区分しており、ブラボー、アルファといった言葉を当てはめているのであった。

「化け物どもめ、好き放題させてたまるものか」

  前回の不満を残しているハザードは、別に自分が指揮する訳でもないのに、やたら交戦的な態度をとっていた。
クルーの中には、MSに勝てるものなのか、と不安を抱いている者が多い。MAでは歯が立ちにくい強敵に、自分らは勝てるのかと疑問に思う。
兵士達の不安とは別にして、総司令官スタルク中将は自分の立場上は勝たねばならないのは当然であった。
  もし宇宙進出において重要拠点となっている世界樹を破壊でもされてしまえば、地球連合の行動は一挙に制限されてしまうのも同然と言えるだろう。
失敗すれば自分の立場が危うくなる。マクドゥガルの二の舞になるのは、スタルクとしても到底受け入れがたいものであり御免であった。
何としてもザフトを追い散らし、世界樹を護りきらねばない。
  その為の策を、彼は密かに用意していた。MSは確かに驚異的な兵器だ。それは疑いようのない事実であるが、MSは完全無敵な機動兵器と言う訳ではない。
その証拠に先日の戦闘で落とされているMSが確認されている。あとは戦い方を完璧なものとすれば、対処の仕様はある。
まずは、役不足と認識されてしまったMAであるが、これはキチンとしたフォーメーションによる連携さえあれば十分に対抗できるのだ。
また対機動兵器に特化した、対MS用の陣形を組むことにより、機銃による弾幕形勢および撃墜率を高めることである。
機銃群はコンピューター制御が殆どだが、直接照準で落とすのは簡単なものではないのだ。
そこで、各銃座の担当区画を予めに分担しておくことで効率的な弾幕を形成する。
  さらにスタルクは、完成されたばかりの試作兵器を投入しようとしていた。それらは既に実装され、各艦隊に割り振られている。

「距離6000!」
「全艦隊、V1を発射せよ」
「V1発射!」

命令と同時に、各艦艇の魚雷発射管からV1なる宇宙魚雷が発射された。およそ90本を数えるそれらは、迫り来るザフトのMS部隊へと直進した。
しかし、それだけでは撃ち落とされる可能性が高い。そこで距離は若干遠いが、牽制による砲撃も開始した。ビームが空間を引き裂き、目前のMSに襲い掛かる。
  ザフトMS部隊は、狙いの浅い艦砲射撃を回避しつつも接近を続ける。その勇ましい兵士達を、世界樹攻略部隊司令官 レニク・タイゼンは見守っていた。
タイゼンは39歳の部隊指揮官であったが、今回の世界樹攻略戦に際して総指揮官に任命されたのである。
因みにザフトには、明確な階級制度は存在していない。全ては軍服の色彩によって判別されており、ザフト最高指揮官は、あの国防委員長たるパトリック・ザラだ。
彼は紫色の制服を着用している。部隊指揮官または艦艇指揮官を担う者は白い制服を着用し、それを補佐あるいは艦艇指揮官となる者は黒服を着用する。
それ以外には、士官学校における成績優秀な成績を収めた者は赤服を、それ以外の者は緑服を着用している。
  MS部隊は増々接近していく。地球連合の放った魚雷群も、間もなく接触するころだろう。
だが、タイゼンには余裕があった。

「地球連合め、宇宙魚雷如きで対処できると思うなよ。例の準備は?」
「万全です」

攻略部隊総旗艦/タイゼン隊旗艦 ナスカ級〈ラングミュア〉の艦橋にて、35歳の男性が答えた。副官フリッツ・シェーラである。
彼らザフトも地球連合と同じくして新技術を導入していた。この成否によって、今後の戦局は大きく変わる筈である。果たして、どちらの新兵器がものを言うのか。
  それが結果を出したのは、直ぐ後である。

「ニュートロン・ジャマー散布!」

タイゼンが命じた。

「V1作動‥‥‥今!」

連合軍のV1が作動した。この瞬間、双方ともに信じ難い現象と現状に立ち会うこととなる。

「な、何だあれは!?」

  最初にそう叫んだのはタイゼンである。目の前の戦場で、一瞬にして多くの火球が確認されたのだ。それも1つや2つではない。
広範囲にわたって400から500もの火球が、MS部隊の直前に突然として現れたのである。いったい何が起きたのか。
その疑問は、MSパイロット達も同じことであり、彼らの方はさらに深刻を極めた。

『これは‥‥‥いったい!?』
『うああああああっ!?』

訳も分からずに爆発するジン。それと同じ運命を辿る機が続出した。謎の火球によって180余機の内、12機ものジンが巻き込まれたのである。
  そんな中で冷静に分析するパイロットが1人。珍しくも赤い色に染められたジンに乗る26歳の男―――ラウ・ル・クルーゼだ。
一見すれば貴公子とも思える、端正な顎のラインと、やや長めの金髪。だが、目元から額にかけて仮面を付ける、不思議な雰囲気を放つ男であった。

「これは‥‥‥クラスターか」

クルーゼが鬱陶しげに呟いた。ディスプレイに辛うじて確認できた、黒く楕円型のカプセル。それがどこから現れたのか?
答えは簡単だった。先ほどの魚雷からのものだ。あの魚雷群の弾頭部分に、この小型爆弾がぎっしりと詰まっていたのだろう。
  それがMSと交差する手前でばら撒かれ、広範囲に広がったところで一斉に爆発する。1つの火球につき、直径50mといったところであろうか。
かなり小さいが、それが広範囲に渡って数百も発生したら、かなりの範囲を持つ。これが地球連合の試作兵器“V1”である。
クラスター爆弾という兵器は過去から存在するが、この兵器の開発ヒントは、何もクラスター爆弾からのものではなかった。
  開発に至る原因は、日本の宇宙艦隊にあったのだ。先年の地球軌道上における海戦で、日本艦隊は火球を作り出してミサイルを迎撃すると言う荒業を見せた。
それをユーラシア連邦が真似て、V1を開発したのである。
  だが、当初の予定ではミサイル、魚雷の1発で広範囲を巻き込もうと言うものだったが、日本艦隊程の威力は望めなかった。
そこで、クラスター爆弾をヒントに、小型爆弾を多量にばら撒くことで、MSに対抗しようとしたのである。
この目論は概ね当たったと言えよう。MSを狙って撃ち落とすのは、正直言って難しい。ならば、数を増やして広範囲を巻き込んでしまえ―――という訳だ。
  そんな地球連合軍は、戦果に驚く暇もなく最悪の事態に陥った。

「長距離レーダー、ホワイトアウト!」
「同じく長距離通信システム、使用不能!」
「何だと?」

スタルクは驚き声を上げたが、何も〈サン・マルチーニョ〉だけではない。全艦隊に渡って、レーダーと通信システムに不調をきたしたのである。
オペレーター達は愕然とした。遠方にいたザフト艦隊を一斉にロストした他、他艦艇との通信がやりにくくなってしまったのだから無理もない。

「火器管制システムにも障害発生!」
「提督、これは特殊な電波妨害のようです。レーダー、通信、火器管制におけるシステムに、影響が及んでおります」

  第2艦隊参謀長 トレバー・デーズ少将も、この妨害行為に狼狽しているように思えた。これでは、艦隊運用に多大な影響を及ぼすのは明白である。
艦隊は主に通信機能が正常に動いてくれてこそ、精密な連携が出来る訳であるが、通信手段が遮断されてしまったらどうなるか。
レーダーや光学測定によって、互いの位置を把握することくらいは出来るだろうが、それ以上の運用には通信システムは欠かせない存在なのだ。

「攻撃はできんのか?」
「攻撃自体は可能ですが、このジャミングにより正確な遠距離砲撃は不可能です。誘導兵器もあてになりません」
「おのれぇ‥‥‥。これでは連携が取れんばかりか、孤立してしまうではないか!」

  その通りだった。1万q先を捉えられた筈のレーダーも、なんと1000q以下にまで索敵能力が低下してしまったのである。
今までが広かっただけに、異様な狭い空間だ。有視界戦闘に切り替えざるを得ないこの状況を、ザフトは狙ってくるのは当然だった。
スタルクがそう結論を出しているのと同じく、ロバースも同様の答えを出していた。このままでは、地球連合艦隊は各個に撃破されてしまう。
  通信手段が大幅に絞られた今、可能なものはレーザー通信と有線通信、後は発光信号におよる方法だった。後者の2つは省かれる。
レーザー通信ならば、辛うじて離れた僚艦にも伝達が可能な筈だが、MAには難しく近距離での電波通信を行う他ない。
ロバースは直ぐにエヴァンスに上申し、淡々として聞き入れると、すぐにレーザー通信への切り替えを行った。
  同時にロバースは、砲撃の開始も上伸した。レーダー等の電子機器が使用不能になったとはいえ、最後の手段に光学測定が残されているのだ。
レーダー連動射撃には劣るが、無いよりもましだった。可もなく不可もなくと言った様子で、エヴァンスは上層部に上申したのである。





  レーザー通信を主体にしつつ、地球連合軍は艦隊陣形を狭める。従来の陣形間隔では、レーザー通信を上手く行えないのが理由であった。
陣形の調整をしつつも、エヴェンスもといロバースが上伸した砲撃の上申報告に従い、地球連合軍は見えない前方に向かって砲撃を開始した。

「砲撃開始!」

スタルクが命じた瞬間、戦艦から巡洋艦クラスの艦艇から一斉にビームが放たれる。光学測定で凡その位置を把握した連合軍は、とにかく撃ちまくった。
当たらなくてもいい、牽制程度でもいいから、砲撃によってMSの足並みを崩し続けようとしたのである。
  ザフトのMS部隊は、先ほどのV1攻撃によって陣形と速度を乱されていたが、立て続けにこの攻撃の嵐が舞い降りてきたことに驚愕する。
狙いは正確ではないかもしれないが、まぐれ当たりもあるだろう。各MSは回避運動に専念しつつ、接近を続けた。

「狙いの欠けた砲撃など、恐れるに足りんな」

クルーゼは吐き捨てると、他のパイロットには及ばないであろう機動力を見せつけ、一気に肉薄してきた。
  そして、目前の巡洋艦を捉えた時―――

「沈めッ!」

対艦ミサイルとバズーカが至近距離から放たれ、巡洋艦〈バリーシュ〉のVLSとミサイル発射機に命中。残ったミサイルに誘爆し、あっという間に轟沈した。

「先方で爆発を確認!」
「もう来たか」

  艦隊前衛の巡洋艦〈バリーシュ〉が撃沈の証となる爆発を生じさせたのを、スタルクが確認する。通信妨害からたった数分なのだが、MSの到着が早すぎる。
MSの突入を許した艦隊は、順次反撃を開始しているものの、先陣を切る赤いMSには効果のほどがなかった。
クルーゼは、巧みな操縦で弾幕を抜け、バズーカを至近距離から撃ちこんでいく。軽やかな動きに、MAなど付いていける筈もなかった。
迎撃に出るMAは、尽く撃墜されていく。この時点で、前衛部隊はものの見事に出鼻を挫かれ、浮足立っていた。

「狼狽えるな、艦隊は陣形を崩してはならん。弾幕を張り続けて応戦せよ! 体制を整えさえすれば、やられはせんぞ」

  スタルクは味方を叱咤激励した。艦隊が一斉に砲火を放ち、弾幕を張り続ける。機銃から連続してエネルギー弾や弾丸が飛び出し、宇宙空間を飛翔した。
各銃座も管制システムが不調の為、連動射撃は出来ない。が、当てようする必要はないだけに、まだ楽な方だと言えよう。
地球連合艦隊の通信・レーダー機能を奪ったのは、Nジャマーと呼ばれる特殊兵器である。ザフトが開発した新技術で、効果は前述の通りだ。
  だがさらなる効力がある。それは、核分裂を抑制するというものだ。これは即ち、核兵器を使用不能にしてしまうということだ。
本来はこれが目的であり、今の現象は副産物の一種である。が、そうだとしても妨害レベルは高いものに変わりはない。
ザフトもNジャマーの効力は受けており、レーダー管制システム等は使用不能だ。近接有視界戦闘を主にしなければならない。
そのためのMSなのだ。物量に勝る地球連合の通信機能を奪い、連携を見出し、各個に激破する。これを戦闘スタイルとしたのである。
  無論、彼らも連携は望むべくもない。が、個人プレーに強いコーディネイターからすれば、問題ないのであろう。
事実として、MS部隊は孤軍奮闘するMAを撃破していく。せっかくの対MS戦法は、水泡に帰してしまったのだ。

「戦艦〈スクルド〉撃沈!」
「あの赤いMS―――ッ! 弾幕を緩めるな、MA部隊も迎撃に専念し、敵MSの消耗を優先させろ!」

全てのMA部隊を、ザフト艦隊にではなく直掩に当てさせる。下手な戦力分散は、それこそ各個撃破の的になるのは明白だからだ。
また、ザフト艦隊への攻撃に当てたとしても、MSが後方の世界樹に近づいてしまったら意味が無い。ここは防御に専念する他ないと、スタルクは悟ったのだ。
  地球連合軍はNジャマーの影響下にあっても、辛うじて戦線を維持していた。これは、スタルクの非凡さを証明するものだろう。
また、ロバースの進言を、エヴァンスが淡々として受け入れ、それを上申していたことも起因していた。
何はともあれ、下手に反論する上司でなかっただけに、ロバースにとっては運がよかったのかもしれない。
相も変わらず積極性が無かったのに、変わりはなかったのだが。

「‥‥‥敵の第三波、退けました!」

  続く激闘の中、旗艦〈サン・マルチーニョ〉の艦橋には緊張が張り続けており、兵士達のモチベーションは確実に下がっていたのを、スタルクは感じ取った。
世界樹を護ろうと必死になる地球連合軍だったが、損害は次第に蓄積されていく。90余隻の艦隊は76隻にまで減っており、戦闘継続も限界に近い。
360機以上あったMA部隊も、今や217機に激減していた。MSの波状攻撃に、戦力をすり減らしていくのだ。

(我が軍の損害は無視できぬ。だが、奴らも限界が近い筈だが)

スタルクは焦り、額に汗を滲ませていた。これ以上の防衛戦は難しいことを自覚し、後方の世界樹も危ういことになっていることを知っていた。
  とはいえ、ザフトも無血だった訳ではない。艦隊は徹底して後方支援にあったが、地球連合軍の苦肉の策として行われた長遠距離ミサイル攻撃の損害を被った。
誘導兵器たるミサイルの効力は薄いものの、使えない訳ではない。艦隊の位置も大まかに把握されており、それを予めにインプットして発射したのだ。
登録されたパターンに従って発射されたミサイル群は、後方で待機しているであろうザフト艦隊に襲い掛かった。
追尾能力は無いとはいえ、設定された時間で自爆して損害を与える。あるいは、熱探知誘導弾に切り替えられ、ザフト艦隊に損害を与えた。
  結果として艦隊は、30隻の内で4隻を撃沈され、数隻も損害を受けてしまったのである。
MS部隊は、戦端を開いた時の被害に加えてMAと連合艦隊の対空砲火を受け、180機あった機体数は144機にまで減らされていた。
個人プレーで強さを発揮するとはいえ、コーディネイターの全てがエースパイロットである訳ではないのだ。
  地球連合軍とザフト、互いの艦艇の損耗率と機動兵器の損耗率からして概ね同等と言えたものの、実は地球連合軍の限界がより近かった。
スタルクが危惧した通り、世界樹は無傷ではなかったのだ。防御網を潜り抜けたMS等の攻撃も完全に護り切ることは、到底不可能であることを思い知る。
また、ここを放棄することは、地球連合軍にとって多大な影響を及ぼす。護り抜かねばならないのだが、自分らの状況は、それどころではないのだ。
地球にあるアラスカの総司令部にも内容を伝えており、判断を仰いでいる。もう間もなく返事が来てもいいころであるのだが。

「‥‥‥ッ! 提督、総司令部より入電しました」
「そうか」

  そう言ってスタルクは電文の内容に目を通した。内容を知った時、彼はため息を吐き出していた。ここまでか―――と。

「‥‥‥世界樹の避難は済んでいるか?」
「ハ、非戦闘員は完全に退避しておりますが‥‥‥」
「そうか。全軍に通達、これより世界樹を放棄し、撤退する!」
「な、なんですと!?」

参謀長デーズ少将は狼狽した。それはそうだろう、宇宙進出の要となる世界樹を放棄しようというのだから。
他の兵士も驚くが、これが総司令部の判断であるとすれば、納得するしかない。寧ろ、総司令部の判断であるからこそ、スタルクは何処か安心できた気もする。
  世界樹の損害は、もはや無視できないレベルの物となっており、であれば、いっそのこと破棄してしまった方が良い―――総司令部はそう考えたのだろう。
それにスタルクは、Nジャマーの妨害に遭いながらも、辛うじてザフトと互角に渡り合っている。
目標は達しえはしなかったが、相手にも同等の損害を与えることが出来たと言う点では、決して彼の評価を下げるものではない。
  その様な方程式を組み立てていたスタルクは、全艦艇に対して撤退を強く促した。決まった以上、下手な損害を出すことは避けたい。
また、損害を増やしてしまうことで、宇宙の守りを手薄にする訳にもいかないのだ。ザフトもMSを補給の為に収容中という、今が最大のチャンスでもある。

「世界樹は爆破して破棄するぞ。MAは全機合流、戦闘継続が可能な機は、撤退完了の間まで後方への警戒を厳とせよ」

命令は速やかに実行された。案の定、ハザード准将が反発の声を上げたが、エヴァンス中将は軽く無視してあしらうと、撤退の準備を急がせた。
  後退していく地球連合軍を目の前にして、旗艦〈ラングミュア〉に陣取るタイゼン司令は勝利を確信した。これで世界樹は、ザフトの物となるのである。

「よし、本国に通信だ。我、地球連合軍を撃退し、世界樹を‥‥‥」
「っ! 待ってください、司令!」

勝利に高揚したタイゼンに、オペレーターが冷や水を掛けた。何か、と不機嫌にも聞き返した数秒後、スクリーンが一瞬、発光した。
何事かと思うのも束の間だった。世界樹は突如として爆炎と閃光を放ち、崩壊していったのだ。

「奴ら、世界樹を自ら破壊したか!」

確保することが叶わなぬと知ったタイゼンは、悔しそうにしながらも拳を握りしめた。とはいえ、実を言えば世界樹の確保は第1任務ではない。
  彼ら侵攻部隊の最大の任務とは、新技術Nジャマーの効力を確認すること、その状況下におけるMSの有効性を示すことであった。
Nジャマーは見事に効力を発揮しており、同時に有視界近接戦闘における戦闘はMSの有効性を見せつけている。
双方の目的を果たしたことになるが、タイゼンとしては世界樹も確保しておきたかったものである。何せ、プラントは人的にも物的にも劣るからだ。
それが叶わなかったとしても、副目標である故に気に障ることでもない。が、彼としてはそれが悔しかった。

「司令、如何いたしますか?」
「第1目標は達しているのだ。ここは撤退する他なかろう。全部隊、本国へと帰還する」

これによって世界樹を巡る地球連合軍とザフトの戦闘は、地球連合軍側の撤退と世界樹の破棄によって終息したのである。





  一連の様子は、地球上でも確認できており、日本も例外ではなかった。その日本では、中央作戦司令部の中央指令室に幾名の軍人達がいた。

「地球連合が先に退いたか」
「これで、地球連合軍は宇宙進出への足掛かりを潰されたわけだな」
「いや、この世界にとっては、マスドライバーこそが、最も重要な足掛かりだ。世界樹を失ったぐらいでは、致命打とは言い切れん」

司令室の一角に顔を並べる各軍司令官、参謀達が意見を交わしている。ザフトの二度に渡る勝利は、プラント国内では気運が高まっているだろう。
ナチュラルよりも優秀な人類であると自負するコーディネイター。また、そんなコーディネイターを憎むナチュラル。
相互の国民感情が、増々をもって高まっていくのは目に見える。どちらが勝とうが負けようが、良い結果を生むはずもない。
一番に厄介なのは、この戦争の火の粉が日本にも降り注ぐことだ。現在のところは中立的立場を表明しているものの、雲行きは怪しい。
  海軍の秋山海将が口を開いた。

「しかし‥‥‥問題なのは、MSの戦闘力と、原因不明のジャミングではないかな」
「先日のプラントの攻防戦でも観たが、MSは戦闘機並みではないにしろ、潜り込まれれば厄介ですぞ。98式の機動力の比ではありますまい」

MSについての問題性に強く同調したのは豪腱宙将だ。今回の一件を通して、宇宙海兵隊や守備隊、或は陸軍らで保有する98式特殊機動外骨格とは、比較にならない機動性を有しているのが明らかであり、警戒せざるを得ない存在だと認識していた。
  とはいえ、MSは警戒すべき存在であるのは事実にしても、決して対処できない相手ではないこともまた事実である。
先日の誤射事件において、村雨型宇宙巡洋艦の装甲でも十分に耐えられたという、不幸中にして幸いなデータが得られているのだ。
加えて艦船の足の速さであれば、MSを引き離していくことも難しくないことだった。故に、完全に恐怖するようなまでの対象とは言えなかったのだ。

「それにジャミングの方も、通常の妨害電波とは違う‥‥‥という技術解析部の結果だ」

  それに応じて空軍司令官の鬼塚空将も同意する。レーダーや通信を激しく妨害した謎のジャミング。現在のところは不明だが、しばらくすれば結果が出るという。
このジャミングによって地球連合軍は、再度の苦杯を舐めさせられた訳である。次なる問題は、プラントがどう出てくるかだ。

「そもそも、この戦争をどういう形で終結させるつもりなのか?」

  そう発言したのは、陸軍司令官の窪田陸将だった。地球連合とプラントの国力比は、比べ物にはならないほどの差がある。
人口、経済力、生産力で大きく劣るプラントからすれば、勝利するためには地球連合本部を潰すか、致命的ダメージを与えたうえで有利な条件での講和を結ぶか。
逆に地球連合からすれば、プラント本国を制圧するだけで済む話である。勝算の少ない戦争に見えるものの、プラントの予想以上の技量が、それを覆している。
事実として、プラントは2度に渡る戦闘に勝利し、地球連合軍の橋頭堡を使用不能(厳密には地球連合が破棄したが)とさせた。
  出席者の1人である沖田の脳裏には、最悪な構図が浮かび上がっている。

(この世界の異常性からして、戦争は早い内に終わらないかもしれん。何よりも、コーディナイターを排除しようとするブルーコスモスの存在が大きい)

この異常な団体がコーディネイターを相手に屈するということは、まずないであろうことを予想していた。
まるで伝染病の如く全世界に広まり、魔女狩りにも近い行動を起こす彼らのことだ。地球連合が勝利するまで―――コーディネイターが、この世から1人残らず死に絶えるまで収まらないだろう。
そんな恐ろしい構図が、沖田の背筋を寒からしめたのである。

「プラントは、次にどう出る?」

  プラントの今後の動きに対して、宇宙軍司令長官永野宙将が口を開いた。

「橋頭堡を潰したとはいえ、地球連合が負けた訳ではない。まして、月基地を始めとして、宇宙空間には多数の宇宙艦隊が残されている」
「では、月基地を攻略しにかかるか?」
「あり得るな。あそこは一大軍事拠点なのだ。例え地球へ降下したとして、後方の安全がなっていなければ孤立するだけだ」

地球上へと降下するにしても、補給物資がなくば部隊は自然消滅する。地球連合軍は、残された兵力で補給路を断ってしまえば済む話でもある。
簡単な話に思えるこの攻略法だが、地球から月衛星軌道上までの範囲は極めて広い空間だ。しかもジャミング兵器の存在が、より発見を困難にするだろう。
  となれば、案外、プラントは月に手を付けずして地球へと進撃を開始する可能性がある。それだけではない。
プラント寄りの国家が、地球降下の手助けをすると考えるとどうか。あの大洋州連合やアフリカ共同体がバックアップに回るかもしれない。
これはプラントにとって、大いに有り難い話だ。降下拠点を提供してもらうだけではなく、補給物資に苦労する必要もなくなるわけだ。
2ヶ国を拠点として活動が始まれば、プラントの進撃速度は増す可能性がある。もしも総司令部が先に潰されてしまえば、宇宙艦隊の意味はなくなる。
  対する世界樹を失った地球連合軍の勢いは、間違いなく衰えるであろう。中継地点たる世界樹に保存されていたであろう物資も全て消滅したのだ。
となれば、今後の地球連合は直接に物資を届けなければならないことになる。これでマスドライバーが使えなくなれば、完全にお手上げである。

「地球連合とプラントの見解を述べるのも結構なことだ。が、まずは我々日本の立場を考慮し、緊急時における対策を練る必要があるのではないか」

口を結んでいた土方が、同僚達に促す。彼の言う通り、ここのところの戦闘を前にして、日本の国内でも不安の声が上がっていた。
いずれ日本も巻き込まれるのではないか、という声が最も多く、先日の核攻撃の一件からも懸念しているのである。
さらに言えば、日本は地球連合軍から目を付けられているのは確実であり、とりわけ隣国のユーラシア連邦、東アジア共和国の動向には目を光らせていた。
  ここで、場所は閣僚議会場へと移る。ここでは藤堂、芹沢をはじめとした、各トップが集まり、今後の方針を練っている最中であった。

「現在のところ、中立国に対する動きはないようですが、油断は出来かねます」

外務相の滝が発言する。他の中立国も立場は危うく、特に強力な武力を持たない国々は、ひたすら怯え続けるしかないのが現状であった。
日本を束ねる藤堂はこの先を危ぶんで、友好国との強力な国交を結ぶ必要があると、改めて感じ取っていた。
  オーブ連合首長国、スカンジナビア王国、赤道連合、汎ムスリム会議との協力関係をいち早く築き、対抗せねばならない。
中立を、独立を護る為の連立を組み上げる。聞こえはいいが、中にはこんな反論をする者も少なくなかった。

「連立を組んだら、寧ろ地球連合の目を引き付ける結果になるやもしれんぞ」
「そうだ。赤道連合やスカンジナビア王国、汎ムスリム会議はどうなのだ? 彼らの軍事力では、到底ではないが護りきれんだろう」
「それに我々の守りが手薄になることだって、大いに在り得る話ではないかね」

反論者の意見にも一理あった。もしも日本が、救援要請を受けた場合、断ることは難しい。強いことを知っている他国は、こぞって日本を頼るかもしれなかった。
そうなった時、日本はどうするのか。連合軍はそれを狙ってくる可能性もある。兵力分散は愚の骨頂とされているだけに、日本の立場は厳しいものだ。
そうさせないためにも、日本の軍事技術を提供すると言う案が練られている。これで各国で独自の軍事力を得るのだ。
  この軍事技術の提供にしても、限度はある。宇宙艦艇、戦闘機、戦車、様々なものにおける、技術レベルの限度はどうすべきか。
最新技術は渡せないにしても、一世代前であれば許容できる範囲ではないか。軍関係者もそのように答えている。

「しかし、そんなことをすれば、連立を組んだ時と同様、地球連合どころかプラントにも睨まれるかもしれんじゃないか」
「そうだ。軍事力を持つことによって、逆に目を引き付ける可能性も否定できん」

政治関係者は語る。しかし、軍事関係者からは冷ややかな目で見られ、反論される。

「中立国が武装せずして、どうやって自国を守る? 対話による解決は、確かに理想的であり、望むべく方法だ。かといって、全く武装しないのであれば、それは攻めてくださいと言っているも同じことである」
「極端すぎではないか、それは」
「いや、極端ではない。事実、我ら日本はどうであったのか。対話による解決は成果を上げず、結局攻められてしまったではないか」
「これこそ、武力なくして日本を守れなかった証拠であろう」

自国を例に取り上げられてしまっては、反論する余地のない官僚達。これを境にして、技術協定などを推進する官僚は熱く語りだす。
  友好国との交流を進めつつも、軍事兵器の相互発展を行うことによって、自国だけでなく、友好国の防衛能力を高める。
そして先日にも話の合った、中立国同士での連合体を作り上げるという、世界の第三勢力を築き上げようという計画。これも大分纏まりつつある。
他国からの侵略、脅迫、といった行為を許さず、共同して対応するのである。そのためにも、是が非でも友好国には相応の軍備力を持ってもらいたいのだ。
幸いにして、友好国の指導者は話の分かる面々で揃っている。それもこれも、大国からの圧力を受けてきた結果なのかもしれない。
  この中立国同士による連立が最終的に結ばれたのは、月明けのことである。のことである。

―――C.E暦70年3月2日『国際中立連盟』成立す―――


その参加国は以下の通りとなった。まず連立の中心となった日本。次に、日本との親交を深めつつあるオーブ連合首長国。
少しづつではあるが、確実に歩み寄る赤道連合と、スカンジナビア王国。そして、汎ムスリム会議。これら5ヶ国からなる連盟が誕生したのである。
  打倒コーディネイターによる平和を目指す地球連合、脅威から独立と平和を守る国際中立連盟、自らの独立と台頭を狙うプラント
3つの勢力へと別れた瞬間だった。この国際中立連盟(以後:中立連盟)の出現が、世界の流れにどのような影響を与えるのか、誰も知る由は無い。




〜〜あとがき〜〜
やっと掲載できました。お待ちいただいていた方には申し訳ないです。
今回は、島大吾の処遇、世界樹を巡る攻防、連盟の成立、といった3部構成となりました。
正直いますと、島大吾の処遇ですとか、世界樹戦闘シーンですとか、実際どうなのかと疑問を抱きながら書いておりました。
あまり現実的に考えすぎますと、面白みに欠けるということもありますし、調整が難しいです‥‥‥。


そういえば、最近『クルセイダー』なるカードゲームに、宇宙戦艦ヤマト2199が出たと公式HPで知って、興味半分で購入。
遊び方は全く知らないものの、ヤマトがでているというだけの理由で買いました。遊ぶためというより、コレクションのため、ですね。
都合よくレアが出るわけもありませんが、辛うじてドメラーズV世、デウスーラU世(コアシップ版)を入手。

が、ふと疑問に思ったことが3つほど。デウスーラU世のカードは、コアシップ状態と、合体状態の2種類があるのですが、どうやら能力はまるっきり同じだという‥‥‥。
それは幾らなんでもなかろう、とツッコミ。せめて合体状態の攻撃&防御を上げてもいいじゃない、と思いました。

2つ目、ガイデロール級戦艦のカードを入手したものの、その個艦名称と絵柄が食い違っていたという事実。
カード表記名は〈シュバリエル〉、けどカード絵柄は迷彩柄の〈ゲルガメッシュ〉。‥‥‥制作スタッフ、ちゃんと確認して作っているのかとツッコミ。

3つ目、弩級戦艦ドメラーズV世とガイペロン級空母の防御数値が同数であったこと。製作者は作品を見て作っているのか疑問に思う設定値でした。

もっとも、遊ぶわけではないのですが、そういったところ、気になってしまいました。



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