C.E暦69年3月14日。中立連盟との会談を無事に終えたプラント。そして早速と言わんばかりに評議会では様々な意見が飛び交うこととなった。

「火星を改造するなど、我らを手懐ける為の餌に決まっている!」
「その通りだ、あの藤堂ら連盟は、良いようにプラントを操ろうとしているのではないのか」

急進派の反発は想定通りだった。会談に参加したアイリーン・カナーバは、自分の席に座りながらも、淡々として奮発する急進派メンバーを見返している。
火星の開発とプラントの新都市建設というものは、彼らからすれば夢物語に過ぎないのだ。それともナチュラルではなくコーディネイターなら出来るとでも言うのか。
出来ないことは無いだろうが、それは日本の想定する期間の倍の年月を要するに違いない。如何なるコーディネイターであったとしてもだ。
  何せ日本は既に経験済みのことであり、それだけ惑星改造のノウハウは身に着けている。後は多くの者を巻き込んで作業を効率化させることだった。
対してコーディネイターは惑星改造というものは夢と理論上の話でしかないのである。経験の差―――これが大きな違いだ。
カナーバはコンソールを操作すると、先日の会談で藤堂から受け取った火星都市の映像を皆に向けて表示した。

「こちらの映像を見ても、信じて頂けぬようですね」
「こんなのは合成に決まっている。低俗な野蛮人どものやることだぞ」

全員に向けて空中に表示された映像に対し徹底して否定するジェレミー・マクスウェル議員。さらにヘルマン・グールド議員も否定的な態度を見せつける。
  一方でパーネル・ジェネック議員は合成映像の可能性には賛同しかねる表情であった。

「火星をテラフォーミングしたというのは信じがたいが、この映像に虚偽は含まれてはいないようだ」

画像解析に当てたデータを示し、その映像に虚偽がない事を示す解析結果にカシム議員は真摯に受け止めていた。
火星の環境を作り変えて住める様に開拓し、そこに新たなコーディネイターの国を造れる。何年といわず何十年、下手すると何百年と掛かる一大事業であるが。
  それに火星開発の話ばかりではなくプラント自身が提案した事項までもが、日本はすべて呑みこんでしまっていることを忘れてはならない。
核兵器使用の厳禁と中立的立場の維持、そして民間貿易と技術提携の4つだ。

「火星の話は兎も角としてだ、中立連盟は我々の提案した内容を受諾し、了承している。これに関しては、反発のしようはあるまい?」
「その通りです。とやかく言う理由はありません。まして、技術の提携ができるとは予想していませんでした」

議長であるシーゲル・クラインに続いて、ユーリ・アマルフィ議員が発言した。
この会談で、中立連盟もとい日本との技術提携の話が承諾されるとは、正直な話として望み薄だったのである。それが一同の予想を覆して、中立連盟側は承諾した。
慣性制御技術を始め医療技術もプラント側へと流れ込んでくるのだから驚きだ。
  中立連盟と直接に会談を行ったカナーバ議員が言う。

「慣性制御が可能となれば、我々プラントは、より地上に近い環境を再現できます。それだけではなく、核融合炉の機関技術までもが手にできるのですよ」
「それだけではない。医療の技術、食料の生産技術までもが含まれている。これは、宇宙に住まう我々にとって欠かせないものだ」

多目的生産に関わるジェセック議員も、今回の会談で手にすることができる技術の内容に興味津々のようであった。
こういったことに関し急進派もとやかく言うような立場ではなかった。何せ彼らも関与したうえで決定された提案事項なのだから。
  その中でカナーバは今回の技術提携の承諾を得たことに関連して、4月にでも決行されるであろう例の計画の中止を求めたのである。

「議長、『オペレーション:ウロボロス』発動の延期を提案いたします」
「何を馬鹿な事を」

そう反発するのはパトリック・ザラだ。ザフトは4月頃を目途に決行予定で、その事前準備やらに入っているのだ。それを途中で中断しろと言うのは納得いかない。
彼は中立連盟に対しては多少の配慮等も考えてはいるのだが、根底に根付いているナチュラルの拒絶がそれを上回っている。
  それにザフトに属する諸兵が納得するはずがないのだ。かの核兵器による酷い仕打ちを受けて以来、打倒連合の気運は高まったままなのである。
アフリカで大敗したこともあって逆襲すべしとの声も上がっていた。早急的に『オペレーション:ウロボロス』を実行しないと後の祭りにもなりかねない。
ザラ国防委員長も自覚している事であるが、連合軍の生産能力は見くびるべきではない、と注視はしているのだ。

「延期などできるか!」
「そうだ、連合の奴らに目にもの見せてやるのだぞ。それを、わざわざ自分らで手放すのか?」

  急進派はこぞって反対の声を上げる。彼らには連合へのダメージを与える事しか頭にないのか、とクラインは内心で嘆いた。

「中止するとは言ってはいないだろう、延期すると言ったのだ」
「同じことだ。奴らに時間を与えてどうする!」

アマルフィが注意したがグールドは聞く耳を持たない。

「良いか、会談で交渉が成功した矢先に、この様な行為に出てみろ。連盟は不快感をあらわにするぞ」
「かまわんではないか。中立連盟と称する奴らは、自ら争いに参加はしないのであろう? だったら言わせておけばいいではないか!」
「そうではない、中立連盟が機嫌を損ねて、これまでに取り繕った体裁を無効にされてしまったらどうするのだ、と言っているのだ!」

カシム議員がすかさず反論した。中立連盟は自国防衛・同盟国防衛・非戦闘員保護等の理念を掲げでいる以上は、高圧的に武力介入等をするつもりはないだろう。
プラントが民間人等に被害を及ぼしたともなれば提携条件は全て無効とするくらいの処置はするだろう。
さらに火星圏への移住計画も全て水泡へと帰し、何の援助もうけることは出来ない。それどころか、技術向上のチャンスそのものを失う事になるのだ。
  そういった可能性を自ら手放して良い筈がない。プラントのコーディネイターは間違いなく天才が多いが、かと言って今の日本の技術陣には及ぶべくもなかった。
技術を一気に飛躍させるチャンスを、どうして手放せようか。カナーバも急進派へ釘をさす。

「よろしいですか? 先ほども申しましたが、中立連盟から流れてくる技術を自ら放棄する結果になるかもしれないのですよ」
「それに、地球連合にも似た技術は流れ込んでいる! ということは、彼ら連合軍は早い時期に、戦力を立て直して大攻勢を図ってくるのだぞ」

連合にも同様な技術提携がある。そう聞いた議員は、押し黙ってしまう。連合は続々と新技術を導入して、プラントへ大攻勢をかけるのは目に見えるからだ。
MSの優位性がまだあるとはいえ、物量で押し切られてしまっては後の祭りと言うものであろう。
  この事については、ザラも腕を組んで瞑想した。確かに技術提携の了承を取り消されるのは惜しい。一方で地球連合の回復に時間をやるのも癪であった。

「では聞くが、何時頃になれば良いのかね」
「まだ了解を得たばかりです。双方において、スケジュールを組み込む必要もあります。遅くとも6月には‥‥‥」
「2ヶ月遅れか」

その頃には地球連合に新たな動きがあっても不思議ではない。情報部の間では再び侵攻してくるのではないかとの予測が立てられているくらいだ。
まして月面プトレマイオス基地には新たな兵力が供給されたり、新技術の導入に躍起になっているともある。これにザフトが焦らない筈が無かった。
  それに気になる情報もある。確かではないが地球連合は何やら隠れて動いているらしい。隠密にやっているので、確証が得られないのだ。
裏を返せば、それは何かあるということにもなる。情報部も情報収集に熱を入れているが成果は無い。

「‥‥‥いや、ザフトとしては、その遅れは許容できん」
「国防委員長―――!」
「予定通り、4月頭に実行すべきと考える」

連合からの反撃を回避するためにもザラは頑なに作戦の延期を拒否した。クラインは悲痛な表情で見やったが、ザラは態度を変えようとはしない。
  急進派は勿論のこと、これに賛同する。だが、限度と言うものがなければ中立連盟を本気で怒らせることになるやもしれない。
彼らに介入させないようにするには、やはりNジャマーの使用制限をすること、及びピンポイントで要所を狙い打つことだった。

「ただし、狙うは軍事施設付近、及び無人地帯のみ。前にも言ったように、牽制として行う‥‥‥これで、文句はあるまい?」

前の会議でもNジャマー散布は地球連合への牽制として行うことを前提として話し合われていたのだ。これは非戦闘員を巻き込まないようにする為の措置である。
撃ち込むことについては他にも幾つかの懸念もあった。軍施設に直接撃ち込んでしまうと、着地点を即座に解析されてしまう可能性があること。
Nジャマーを発生させる装置は地中深くに潜り込む仕組みになってはいるものの、場所を特定されてしまっては掘り起こされる可能性がるのだ。
  もしくはNジャマーを地中から掘り起こされないまでも、その堀った軌跡を辿られてNジャマーを地中で爆破されてしまう事も十分にあり得る。
だからこそ軍事施設に影響を与えうる範囲で、なるべく離れたところに撃ち込むのである。

「それに一刻も早く、地表に橋頭堡を確保せねばなんのだ。もたついていると、地球連合が強行に出かねんぞ」
「その通り。民間人に手を出さねばいいのだろう? だったら何の問題もあるまい」

民間人に被害が出なければ良い。確かにそうなのだが、クラインを始めとした穏健派の表情は何処か晴れることはなかった。
  取り分けクライン本人は言い知れぬ不安によって足元を崩されるような感覚を覚えていた。

(何も起きなければいいのだが)

コーディネイターとナチュラルの間に存在する壁が、両者を蔑み、忌み嫌い、遂には戦争と言う愚かな行為にまで発展してしまった。
クライン自身もまたコーディネイターとして、この世に生を受けて来た身だ。だからこそ、彼はコーディネイターの行く末を大いに心配してもいる。
出生率の低下は勿論のことだが、この互いを共有しあう体制を是が非でも造らねばならないのだ。

(Mr.藤堂、貴方がカナーバ議員に仰ったこと、誠に同感です。しかし‥‥‥)

彼はカナーバから直接、藤堂からの意見を伝えられていた。コーディネイターとナチュラルの隔たりを消さぬ限り永遠に争いはなくならないと。
  しかし現実は違って非情であり、逆風ばかりが強く吹いているのが実情である。互いを理解しあうには相当数の時間が掛かることだろう。
どのみちコーディネイターはナチュラルと自然勾配を繰り返して純正な生態系に戻るべきなのだ。科学が進んでいるからと言って命を弄ぶ様な真似は許されない。
クラインと藤堂の見解は概ね合致はしていた。問題は、それを実行するにしても途方もない時間を掛けなばならないという事である。
  今の世界にはコーディネイターとナチュラルの共存できる環境が少ない。オーブ首長国連合とスカンジナビア王国くらいだった。
日本はまだ来たばかりという事もあって、コーディネイターが入国している様子は見受けられない。それでも、いずれコーディネイターも入国するだろう。
  いずれにせよ、この『オペレーション:ウロボロス』を実行することは避けられない。細心の注意を払って実行に移されるとは言うが―――。
それに、地球連合へ牽制に成り得ればよいが、クラインの想像からするとその可能性は低いように思われた。寧ろ煽るだけに終わるのではないか。
先年の核攻撃にしてもそうだ。連合は非を認めず、全ては一部独断の責任であると言って、責任を回避しようとしていた。
先日の件もだ。パトロール部隊との偶然なる遭遇戦でしかないと言って、自らの非を認めようとはしないのである。

「ナチュラルの頭上に鉄槌をくれてやれば、如何な連合とはいえおいそれとは動けまい」
「そうだ。Nジャマーの威力は既に知っていようからな」

  急進派はどうにも先が見えていないようだ。地球連合に対して、本当に釘をさせるのか、もう少し考えてみたらどうなのだ。
作戦の実行に変更は受け入れられず、結局はそのままとなった会議にクラインは先の不安を感じるのであった。





  『3月会談』と呼ばれた、プラントと連盟との会談が終わってから20日後のC.E暦70年4月1日のことである。
これまでの間で連盟はプラントと協議した貿易関連の内容について、互いに協議を行い調整をしている真っただ中と言えた。
上手く行けば4月の前半には最初の貿易船が出る。食糧品や医薬品、日常生活に必須なものが諸々。他にも技術的支援のために技術者の渡航も行われる予定だ。
機関技術と重力慣性制御の技術等は、特に重視すべきものであった。
  しかし、プラントが『オペレーション:ウロボロス』を実行するとはつゆ知らず、国際中立連盟もとい日本では1隻の戦艦がお披露目を見ることとなっていた。
場所は呉にある宇宙軍工廠だ。建造用ドックは海に面してはおらず、舗装された地面に囲まれている縦長のドームが幾つも並んでいる光景が見える。
このドームの中で宇宙軍専用として軍艦が建造されるのだ。発進する際にはドームが前後にスライドする形で開かれるのである。
  新造艦が就役するとあって、記者達が列を作ってはカメラをスタンバイしている。政治や軍部の関係者の双方が集まり新造艦の進宙式に臨んでいた。

「この世界に来て、初の新造艦とはな」
「しかし、大丈夫なのか? 連合とかプラントが、何か横槍を入れてくるんじゃないのか」
「どうってことないだろ。なんで連合とか、プラントに横槍を入れられなきゃならんのさ」

記者達の中では新造艦に対する期待を膨らませる一方で、よその国々の反応に不安を抱いている様子も見受けられた。
新造艦に対する歓迎と期待があれば、他国からの圧力があるのではないか、という不安と恐れもあった。
  様々な感情が渦巻く会場の空気を、出席者の1人である沖田十三と土方竜は敏感に感じ取っていた。

「民間人の間にも、今後への不安感は絶えないようだな」
「あぁ。核兵器を使用した連合のこともある。何かあれば、自分らの頭上に落とされるんじゃないか―――そんな恐怖があるんだ」

  衝撃的なニュースとして駆け抜けた、ユニウスセブンへの核攻撃。日本市民は、もはや他人行儀で見れるような立場ではないことを感じていたのだ。
それ故に如何な軍事力で連合を圧倒できる日本と言えども、報復に発射されるのではないかという恐怖が民間人の心奥底に植えつけられている。
無論そのようなことは藤堂を始めとした政府トップが許さないし、軍部の方でも民間人を護り抜くことを固く決めている。
  同時にテロ攻撃による不安も芽生え始めていた。真田や古代守が言ったように、ブルーコスモスの強硬な連中が自棄を起こしてくることを警戒しているのだ。
現在のところ入国者に対しては厳重な警戒を敷いており不審な報告はない。持ち込まれる荷物も厳重にチェックされ、事前にテロを防ごうと躍起になっていた。

「沖田、先日にハッキングがあったが、結局はホシ(・・)が分からないままなのか」
「そのようだ。軍務局長や情報部も躍起になっていたが、分からずじまいだった」
「盗まれたのは、今就役する新造艦の設計図なのだろう? 支障は無いとは言い切れんだろう」
「設計図だけであって、兵装の技術等が入力されている訳ではないからな。だが、確信をもって大丈夫だとは言えん」

今日就役する新造艦は、今後の戦闘艦造りの為のテストペットとしての役目がある。この世界に来てから得た新技術を導入した初の戦闘艦なのだ。
次世代型機関である太陽機関をはじめ、大口径陽電子衝撃砲や試作型コスモナイト複合型TP装甲、砲弾も長門型弩級宇宙戦艦と同じく実弾使用を前提としている。
  またこの新造艦には軽空母としての能力も備わっており、最大搭載機は40機(予備機含め)もの艦載機を搭載可能な格納庫を有している。
これは艦尾内部において、機関部を取り巻くように確保されたスペースを活用して得たもので、赤城型宇宙空母とは一線を越したような搭載方法を採用している。
なお40機を搭載は出来るが、実際に運用されるのは2個航空隊に匹敵する32機のみ。予備機として4機が搭載され、残りのスペースは整備用として用いられる。
  他にも2機分を格納できる小規模な格納庫や、あらゆる面で活動可能を前提とした特殊機体等を搭載できる格納庫もあと2つほど確保しているのだ。
これを見るに軽空母と呼ぶには多い搭載規模であろう。先に就役している赤城型でさえ最大搭載機数は57機だった。17機分の差があるとはいえ相当な航空戦力だ。
地球連合宇宙軍で正式採用されているアガメムノン級宇宙空母でさえ、メビウスの搭載機数は30機そこそこというレベルの話である。
  この様に新造艦は、単艦行動でも十分な防空カバーが成し得ることが期待されている。しかし実験艦だからこそ、この様な無茶な格納庫を備えたとも言えた。
後に建造予定の主力戦闘艦には、そこまでの航空機を搭載する予定はなかった。寧ろ、そこまでのパイロットを易々と補充できると言う訳でもないのだ。 

「‥‥‥そろそろ時間だな」

  沖田が懐中時計に目をやり、開会の時間が来たことを確認する。すると用意されたマイクの前に司会者が歩み寄り、出席者に対して静粛になるよう促した。
辺りが静まり返ると、司会者は段取りを組んだ通りに進宙式の開会を宣言した。

「これより、進宙式を開会致します」

司会者は淡々とスケジュールを消化するかの様にして式を進めていく。行政関係者からは行政長官藤堂平九郎が代表者として挨拶を述べ、新造艦の進宙に対する想いと、この世界の行く末に付いても含んで出席者や参加者一同に対して訴える様に話す。

『我々日本が、この世界に来て1年と経ちません。今日に至るまで、苦しい立場に置かれてきましたが、我が国は、防人である軍の方々によって護られてきました。それだけではありません。私達日本に対して、手を差し伸べて頂いたオーブ連合首長国、スカンジナビア王国、赤道連合、そして汎ムスリム会議の方々のお蔭でもあります』

  今や日本は国際中立連盟に名だたる一国として存在し、参加国共々に生き抜こうと手を取り合う関係にまでなっている。
それだけではない。宇宙に住まうマーズコロニーに対しても積極的な支援を行うことによって、火星へのテラフォーミングに加速を付けんとしている。
その他貿易関係も徐々に進んでおり、中立連盟同士の間ではその存在感を強めていた。

『今やこの世界は、悲惨な戦争状態へと突入してしまいました。私達中立連盟もまた、その渦中に巻き込まれぬよう、確たる姿勢で向き合わねばなりません』

武力介入は勿論、侵略されることも絶対に避けたいものだ。沖田は藤堂の演説に耳を傾けながら、そう思った。

『‥‥‥以上、私の言葉とさせていただきます』

  やがて、全てのことを話し終えると、藤堂は降壇して席に戻った。後は、新造艦のお披露目となる。そうとわかると、記者一同の目つきも変わった。
良い写真を納めてやると言わんばかりにカメラを回し、係留されているドックのドームにカメラ目線を集中させる。

「それでは、皆さま。新造艦のお披露目となります。後方のドームをご覧ください」

司会者の言葉と共に、そのドームが動き出した。縦長のドームは、中央からぱっくりと割れると、そのまま前後に開いていく。
ゆっくりと開いていくドームは、中に閉じ込めていた新造艦の外見を次第に露わにしていった。光が差し込み、その形、色が晒されていくのである。

「こいつは‥‥‥!」

  そう言って唖然とする記者達。割れたドームの中央から現れたのは、これまでとは全く違うフォルムを持った艦橋部分だった。
長門型や金剛型宇宙戦艦とは一線を越えるそれは、まるで城でも建っているのではないかと錯覚する程に異様であり、同時に偉容を解き放っていた。
高く聳える艦橋、そして煙突らしい構造物、マストが見えた。それだけではない。艦体中央の左右には、これでもかと言わんばかりの小さな砲塔があった。
対空火器用のパルスレーザー砲塔であろう。その数は尋常ではなく、四連装型や連装型がハリネズミのように並んでいるのだ。
  さらにドームが開くと、次に見えたのは巨大な砲塔だった。従来の丸っこいビーム砲塔でなく、やや角ばった、ガッシリとした力強い感じの砲塔である。
三連装砲塔のようで、その戦艦の力の象徴とも言うべき風格があった。それが前に2基、後ろに1基。加えて副砲らしき小さ目の砲塔も前後に2基あった。
ドームが完全に前後に移動し、中に隠れていた新造艦の全貌が露わになった時、参観者たちは圧倒された様な感覚に襲われた。

「すげぇぞ、これは」
「しかもでかい!」

  カメラを回しながらも興奮が冷めぬ参加者の多くは、口々にそのようなことを言っている。そうしているうちに、今度は宇宙軍司令長官の永野宙将が姿を見せた。
マイクの前に立ち、会場を人撫でするように見まわしてから口を開いた。

「当艦を〈大和(ヤマト)〉と命名するものである!」


大和型弩級宇宙戦艦1番艦〈ヤマト〉。日本古来の国名を与えられた、そして国と命を守る防人の艦だ。
全長333mの水上船型の巨艦には、高く聳え立つ艦橋、煙突、力強い主砲塔、そして艦首に設けられた大口径陽電子衝撃砲がある。
  まごうことなき、それは戦艦の姿であった。この〈ヤマト〉と言う名の艦は宇宙と言うより海を行くべき雰囲気がある、と誰もが思ったに違いない。
古き戦艦が、そのまま宇宙専用にリデザインされたような感覚である。記者一同は、その威容に圧倒されながらも手にしたカメラを回してフィルムに収めた。

「試作艦とか言うには、到底似つかわしくないな」

  思わずポツリと感想を漏らしたのは、出席者の1人であるカガリ・ユラ・アスハだった。彼女はつい先日までは木星行きの資源輸送船団に同行していた。
そんな彼女は12日間ほどの時間を掛けて地球に戻ってきたのだ。これまで体験したことのない木星までの宇宙航行や、資源採掘の模様をその眼で見て来た。
普通だったら成し得ぬ体験であろう。いや、日本と言う国が現れたからこそである。でなければ10年以上の時間を掛けていたのは確実であった。

「カガリ様」

  護衛を担うレドニル・キサカ一等陸佐はそっと窘める。カガリは男勝りな性格もあって言う事はきっぱりと言うタイプでもあった。
キサカに言われてから、ようやく自身が口にしたことの不味さに気付き、思わずしまったと表情に出すカガリ。
  そんな彼女に苦笑交じりに大丈夫だとフォローするのは、輸送船団から護衛役を任されている星名徹准中尉だった。

「大丈夫ですよ。気にしないでください」
「あ、ありがとう」

相も変わらず人当たりの良い笑顔にカガリも緊張した様子を綻ばせる。ここ10日以上も護衛役として付いてくれている彼には大分慣れてきていた。
何だかんだで星名はカガリの専属護衛官のような存在になってしまったようだ。当人は「護衛任務ですから」と言って苦言の一つも漏らさない。
それと同時に何度目か分からない、人格者としての隔たりを感じてしまうカガリであった。
  〈ヤマト〉の全貌が明らかになると藤堂が再び歩み出た。彼はドックの端まで来ると、そこにはクレーンの先にスタンバイされた祝いのシャンパンがある。
紐で固定されたそれを、藤堂は手にしていた鋏を入れた。そして一呼吸を置いてから、その紐を切る。

「この世界に平和があらんことを」

ポツリと呟いたそれは誰にも聞こえなかったが、藤堂はそう願いつつもシャンパンの瓶を眺めやる。やがてそれは〈ヤマト〉の艦首に当たり、見事に砕け散った。
その瞬間、参加者達から歓声が上がる。用意された久寿玉も次々と割れ、紙吹雪が舞っていく。

『〈ヤマト〉が錨を上げます!』

  興奮の冷めぬ会場を前に、司会者がそうアナウンスした。静かにたたずんでいた〈ヤマト〉はエンジンに火をくべ、その巨体にエネルギーを回し始める。
慣性制御によって艦の重力を調整し、同時に姿勢御スラスターの噴射熱が艦底部より噴き出す。300mを超える重々しい巨体が遂に空中へと浮かび上がった瞬間だ。
空に浮かぶ鋼の城とでも言うべき戦艦〈ヤマト〉は、艦尾推進器から轟音を上げて全身を始める。このまま飛び上り衛星軌道上に待機する艦隊と合流するのだ。
  〈ヤマト〉を旗艦とする第3艦隊は、未だ不完全な状態にあった。〈ヤマト〉の2番艦〈武蔵(ムサシ)〉はもう少し時間が掛かる。
また鹵獲改造艦も思いのほかに手間取っており、やはり5月上旬までは掛かりそうであった。改造と言うのは、生半可ではないのだ。
一方で次世代型戦闘艦として建造された吾妻(アヅマ)型巡洋艦2隻、天津風(アマツカゼ)型駆逐艦4隻が完成していた。
どちらも試作艦的な意味合いとして建造されており、次世代への橋渡しとなる存在である。それでも次世代への有力な後継ぎとしての期待は大きいと言えた。
  因みに、これら中型艦と小型艦らに関しては装備は一新されているものの、機関部だけは太陽機関を搭載してはいない。
量産に成功した訳ではなく、あくまでも日本に運び込まれていた完成品を大和型に搭載しただけの話で、それ以外の中小艦艇専用の太陽機関は開発されていないのだ。
その為、従来の核融合機関を搭載している―――かといって、旧式化した代物と言えるほどに古いとは言い難いものだった。
  寧ろ慣れ親しんだ機関技術であるだけに、そこから発展型を実現化したのだ。従来採用してきた核融合機関と比較して、新型核融合機関の出力は3割増しになった。
故に大和型で採用したショックフェーザー砲を、太陽機関未装備の新造艦艇群に使用する事が可能となっているのだ。
無論のこと航行性能も向上しているうえ、まだまだ核融合炉式の機関技術でも十分活躍の場は存在していることを示していた。





 1番艦〈ヤマト〉が大気圏を脱する頃、丁度良いタイミングで地球へ帰還してきた日本宇宙軍第2艦隊第1護衛部隊と鉢合わせをする形となった。

「提督、あれが噂の‥‥‥」
「あぁ。とんでもない大物だ」

第2艦隊旗艦〈キイ〉の艦橋において、原玄也一等宙佐と大石倉之助宙将は、初めて目にする戦艦に思わず目が釘付けになっていた。
彼ら第2艦隊は、いつも通りの輸送船団護衛の為に展開しており、現在は復路の輸送船団を護衛しながら機関の途に付いている最中であった。
レーダーに捉えた時の反応からして、もしやとは思っていたが、本日予定されていた新造艦の進宙式と日程が重なった故の偶然であろう。
  レーダー担当官も驚いて声を上げてしまったくらいだ。これまで日本軍で最高峰を誇ってきたのは、この〈ナガト〉や〈キイ〉ら長門型だったのだ。
全長300mにもなる本級をさらに凌ぐ大和型弩級戦艦は、艦影もこれまでとは違った水上艦船型であり、昔ながらの艦橋、主砲塔が他者に威圧感を与えている。
遠方画像でそれを視認した時、大石宙将らは噂以上であると驚いたのだ。

「昔の戦艦が宇宙に飛び上ったみたいですね」
「しかも〈ヤマト〉と来たものだ。大昔の〈大和〉を沸騰させる。設計班にも、中々にロマンチックな連中がいたものだな」

それを皮肉と見るか、賞賛と見るか、原から見ると後者のように思えた。
  しかし、不思議に思える。目の前に映る〈ヤマト〉は、水上艦船を模したために艦底部はまるで武装が無いのだ。代わりに艦橋らしきものが付いている。
本当に水上艦をそのまま宇宙へ飛ばしてきたようだった。

「それに見てみろ。あの風格ある砲塔を」
「長門型とは規格が明らかに違いますな。口径は‥‥‥46pはあるのでは?」
「いや、それ以上だな」

大石の予想は的を得ていた。この大和型は日本で初(C.E世界でも無論初)の48pショックフェーザーカノン砲塔を備えているのだ。
しかも前部2基の主砲塔に関しては実弾砲撃も可能である。48pによる実弾射撃など、どれ程の破壊力を誇るのか想像がつかない。
  かつて旧日本海軍やアメリカ海軍が、地上施設に向けて艦砲射撃を行ったことがある。戦艦の有する36p砲弾でさえも、かなりの損害を与えることに成功しており、下手をすると航空機以上にその真価を発揮したのではないかとも言える。

「あんなどでかい砲で実弾を撃たれたら、この〈キイ〉とて耐えられんぞ」
「えぇ。エネルギー兵器なら、まだ可能性はあるかもしれませんが、48pクラスの実弾ともなりますと、その運動エネルギーによる破壊力は想像を絶します」
「この世界には120p口径や225p口径のビーム兵器があるとは聞くが、あれとは次元が違うな」

確かにこの世界には120p口径や225p口径と言う、一見すればとんでもない数字の兵器である。しかし、残念ながら外見と実力は反比例していた。
アガメムノン級の有する225pゴットフリートよりも長門型の40pフェーザー砲の方が、射程と威力ともに遥かに上を行くのである。
  それがどうだろう、今度は48pときた。現時点でこの大和型に敵う戦艦などいないのではないか。大石は半ば本気でそんなことを考えていた。

「しかも、艦首のあれを見てみろ」
「どうやらショックカノン‥‥‥ですな? しかも、かなり大口径の」
「そうだ。この長門型の40pショックカノンなどでは、比較しきれんだろうな。連合から技術供与を受けたという、陽電子破城砲の技術でも加算されているのだろう」

地球連合の最新兵器ローエングリン。破壊力はショックカノンに勝るとも劣らず、侮れない兵器である。
  ただし、自然環境への悪影響の点で鑑みるとローエングリンの方が勝ってしまい、地球上での乱用は禁物とされているのが現状だ。
兵器自体のサイズにおいても、ショックカノンの方がコンパクト化と同時に環境への悪影響を小さくすることに成功していたのである。
何より難しいのは小型化である。それを成功させれば、サイズが小さいほど艦艇に乗せやすくなり、加えて艦艇そのものの小型化にも繋がってくるからだ。
  そして〈ヤマト〉と共に航行する新造艦6隻にも大石の眼は向けられる。

「宇宙軍は戦力再編の為に、艦政本部共々しゃかりきになって、新造艦の開発に勤しんでいるようだ。〈ヤマト〉に随伴する艦影を見てみろ、例の新造艦だぞ」
「そのようで。今までの村雨型や磯風型と比べると、一風変わった感じですね」

吾妻型宇宙巡洋艦の全長が180m、天津風型宇宙駆逐艦の全長が112mと、これまでの前級に比べるとやや大型化しているようだった。
葉巻型または流線型の艦型だった前代と比べると、今回新造された次世代型はロケット型にほぼ近いものと言えるだろう。
ロケット型の艦体にカノン砲塔や魚雷発射管等の武装を取り付け、艦橋も背の低い艦体一体型ではなく、タワー型に近いものに変更されている。
  ただし駆逐艦は、磯風型突撃宇宙駆逐艦の様な背の低い一体型の艦橋を採用している。そのため完全なロケットの様に見えた。

「新型の吾妻型巡洋艦か。艦首には36pショックカノン、主砲には20p口径のカノン砲塔、副砲は12.7cm口径のカノン砲塔を採用。艦首には魚雷発射管等も豊富に取り揃えてある‥‥‥村雨型に比べると、だいぶ充実化しているな」
「この慣熟訓練で不具合を洗い出せれば、その後の量産体制に生かせますから、戦力の大幅な向上となるでしょう」

勿論のこと駆逐艦の性能も向上している。全長は112mと若干大型化してはいるが、搭載している武装は磯風型を大きく周った。
艦首には四連装魚雷発射管×4基、主砲12.7p連装カノン砲塔×2基、副砲10p連装カノン砲塔×4基、爆雷投射機×8基、VLS×8セル、20o連装機銃×4機―――と磯風型を上回るかなりの武装を有しているのが分かるだろう。
  この吾妻型と天津風型が、今後の宇宙艦隊の中核を成してくるのだと思うと、だいぶ心強く思えてくるものだった。

「宙雷戦隊は大きく強化されそうですが、肝心の戦艦や空母の次世代型の関しては、まだ先になりそうですな」
「いや、そうでもないだろうな。既に計画は進行中との話を耳にしているぞ」
「‥‥‥それはどこの情報筋ですか、閣下」

半ば呆れの様子な原幕僚を一瞥し、大石はニヤリとするだけであった。次世代型戦艦に付いては既に大和型がいるが、これはあくまで試験的なものだ。
無論、総旗艦としての大役を担う事も想定したうえでの問題であるが、現在の金剛型や赤城型に変わる戦闘艦をいち早く揃えなければならない。
大和型建造のノウハウを生かし、既に艦政本部では戦艦と空母の設計へと入っているとの事だった。
  先の1号艦〈ヤマト〉並びに、これから就役するであろう2号艦〈ムサシ〉では、試験的な意味もあった故に建造コストは度外視されている。
今度ばかりはコストを無視する訳にもいかず、その決められた範囲内で設計し、建造していかなければならないのだ。
兵装や電子機能、艦内設備、機関部、装甲、さらには艦体規模も、出来る限りのコンパクト化を目指さねばならなかった。

「まぁ、主力となる戦艦は、大和型よりも費用を抑えなければならんが、そこはあれだな」
「と、仰いますと?」
「コンパクト化は、日本人の十八番(おはこ)だ。今現在、就役した吾妻型や天津風型も、かなり抑えているしな」

  そう、日本の技術陣の得意とするところは小型化であると言っても過言ではあるまい。その一例に第二次世界大戦の折、世界初並びに最大の潜水空母を建造した。
潜水艦は大きすぎると発見されやすく機動力も鈍くなるという欠点があるが、日本技術者は知恵を絞った末に、如何にか航空機の搭載を実用化をしたのだ。
上層部の無理なスペックに応えるべく、搭載機の折り畳みや格納庫ハッチ内部の空間をも利用し、まさにぎゅう詰め状態にしながらも搭載を可能とした。
  また同時代に就役した世界最大の大和型戦艦も、実はコンパクト化された戦艦と言う意味合いでも他国技術者を驚かしたと言う。
全長260mで小型化と言うと違和感を感じるだろう。因みに敵対国であったアイオワ級戦艦は全長270mとあって、大和型より10mほど長い。
とは言え米戦艦にして言うと、パナマ運河を通過することを前提なおかつ速力重視ということもあって、全長が伸びてしまったというのもある。
  だが搭載している武装に関して言うと、大和型は46p砲9門、アイオワ級は40p砲9門を積んでおり、破壊力は大和型が勝る(速力では劣るが)。
極めて単純な比較ではあるが、大和型は戦艦としては小さ目でありながらも、46pという当時最大の砲を9門も搭載できたのだ。
また戦後、平成の時代にあっては、陸上自衛隊の10式戦車が他国に比べてコンパクト化され尚且つ重量の軽減に成功していた。
この様に日本技術陣は世界でも難しい小型化に挑戦し、成功させている経緯があるのである。

「言われてみれば、そうですな。吾妻型、天津風型は、前型と比べれば大型化はしておりますが、連合国の戦闘艦に比べればかなり小さい」

  原幕僚の言う通り、連合軍で採用されている戦闘艦は日本艦艇に比べて大型だ。連合の戦艦は、バーミンガム級弩級宇宙戦艦392m、及びマゼラン級弩級宇宙戦艦327m、ネルソン級宇宙戦艦250mであるのに対して、日本側の長門型弩級宇宙戦艦300mや金剛型宇宙戦艦205mを大きく上回っているのが分かる。
空母は、アガメムノン級宇宙空母300mに対して赤城型宇宙空母315mと上回ってはいるが、艦載機を多く詰め込む必要から止むを得ないと言えるだろう。
巡洋艦は、サラミス級宇宙巡洋艦187mに比して村雨型宇宙巡洋艦150m。駆逐艦は、ドレイク級宇宙護衛艦130mに比して磯風型突撃宇宙駆逐艦80m。
また先の新型艦艇にしても、やはり連合軍艦艇よりも一回り程小型であることに変わりは無いが。
  この様に日本艦艇の殆どは、連合艦艇に比して小型化しているのが分かるであろう。

「何はともあれ、運用面で問題が無ければ良いがな」
「提督、そこは技術者を信じましょう。南部重工の面々も張り切っているでしょうし」
「そうだな。だが、結果として運用するのは我々軍人だからな‥‥‥何事も、使ってみんことには分からんよ」

いい加減そうなイメージを持たれる大石だが、彼も部下や兵士達の命を大切に思う。それだけに、艦艇の性能には細心の注意を払うのである。
  やがて気を取り直すと、大石は接近中の新造艦艇群へ打電するように命じた。その内容は極めて簡素だが、それだけで十分なものであった。

『貴艦隊ノ航海ガ無事ニアランコトヲ、第2艦隊司令官 大石宙将』

数秒もすると直ぐに返信が帰って来た。

『心遣イ二感謝ス、第3艦隊司令官 日向宙将』

  返信の送り主を見た途端、大石は苦笑した。

「日向か‥‥‥大役を受けたものだな、あいつも」

第3艦隊の運用を受け持つ人物―――日向鉄(ひゅうが まがね)宙将。年齢は50歳で黒い髪をオールバックに纏め、同色の髭を上唇と頬から顎まで生やしている。
また、彼の顔の左側には左目を跨ぐような縦の傷痕が1本残っており、それが彼を強面な風貌に仕立て上げているようにも思えた。
外見は強面だが中身はそれに反比例して部下思いである。彼は大石の防衛大学時代における同期生であり親友とも言える間柄だ。
豪胆かつ大胆不敵な戦術を好む大石と違って、日向は冷静沈着で的確な動きをするのが特徴である。
  戦艦〈ヤマト〉の艦橋にて、親友の通信を受け取った日向は小さな笑みを浮かべていた。過ぎ去りゆく第2艦隊を見えなくなるまで見届けると針路の選定を命じる。

「‥‥‥我々はこのまま、アステロイドベルトへ向かう。全艦の針路を修正」
「了解。アステロイドベルト方面へ向かいます」

復唱したのは。当艦の艦長を務める水谷茂(みずたに しげる)一等宙佐だ。年齢は48歳。先ほどすれ違った大石、並びに日向の後輩で沖田や土方の教え子でもある。
また同時に、〈ナガト〉艦長の山南修一等宙佐とは防衛大学校の同期生で、真面目の水谷、楽観の山南と呼ばれあった仲だ。
楽観主義な山南とは違い、常に真面目なのは良い事ではあったが、逆に表情が硬くなりがちで余裕が無いように見えてしまうのである。
それでも彼の軍人としての評価は上々であり、沖田や土方、そして大石からも、山南と並んで有能な艦艇指揮官と認められているほどだ。
その腕を見込まれて、水谷は新型戦艦であり第3艦隊旗艦でもある〈ヤマト〉の艦長を拝命した訳である。
  日向を提督として迎え入れ一応の体裁を整えた第3艦隊だが、現在で艦隊を構成するのは7隻のみ。〈ムサシ〉や鹵獲改造艦ら9隻が加わるのはもう少し後だ。
とはいえ第3艦隊とは名ばかりで本質は実験艦隊といっても過言ではない。新造された艦艇の運用を行いデータ収集するのが主な役目となるからだ。
無論、一通りのテストが終われば第3艦隊は戦闘部隊としても運用されることになる。実験が終わったからといって遊ばせるわけにはいかなかった。

「それと、これは本艦達の処女航海だ。各艦は機関部の調整を行い、加速並びに減速の不具合が無いか、また、索敵システムの具合も確認するように」
「はっ!」

  アステロイドまでの航海で新造艦艇の機関部の調整を行い、レーダー等の索敵機能、または操舵性を確認する。そしてアステロイド宙域に差し掛かったら、そこで小惑星を標的にした射撃訓練を行い兵装の各種試験運用の不具合を発見するのである。
特に新装備された大口径ショックカノン砲に対するデータ収集は必須だ。実際に使用してどのような不具合が出るのか見当もつかないからだ。
  しかし、各艦艇がアステロイドベルトへの針路を定め順次加速を始めようとした刹那、〈ヤマト〉のレーダーが不穏な動きを察知した。
それは一瞬の事ではあったが、索敵範囲のギリギリの範囲内において数隻の艦船が地球軌道へ向かうのが確認されたのだが、忽然として見失ったのである。
索敵士官は怪訝に思いながらも、その様子を水谷へと報告、そして艦艇照合を開始した。

「8時方向、9万9000qの宙域に艦影を捉えた。ですが‥‥‥」
「捉えてどうした?」
「いえ、その‥‥‥」

  申し上げにくそうな表情をしながらも索敵士官は報告を続けた。

「捉えた途端、反応が消失(ロスト)しました」
「ロスト‥‥‥レーダーのシステムエラーではないのか」

何分この戦艦は新型戦艦だ。試作艦として様々な機能を盛り込んだり新型機材を詰め込んでいる分、不調をきたす部分も出ないわけではない。
そういった問題を潰すのが、この慣熟航海なのだ。水谷が艦の責任者として担当者に対し正常に戻す様に命じるが、それがシステムエラーではない事が判明する。
  どうやら8時方向を中心にして、レーダーを妨害されているようだった。また気象士官からも同様の現象が確認されている。
それはつまり人工的な妨害―――ジャミングであることが確定したということである。日向と水谷はの身体は一瞬にして緊張に包まれた。
単なる輸送艦や移民船であるならば気にする必要はないのだが、こうしたジャミングが行われた以上は素通りする訳にもいかない。
  日向は全艦艇に索敵の集中を命じると共にレーダー索敵から光学索敵による切り替えさせ、ロストした方面を集中的に索敵するようを命じる。
また、この不可解な事態を宇宙軍司令部へと打電をするよう通信士官へ命じた。

(杞憂であればよいのだがな‥‥‥)

日向の心内に何やら不穏なものが芽生える。それは長年、軍人として培ってきた勘だ。信ぴょう性には欠けてしまうが、言い知れぬ不安が水谷を包んでいた。
何よりもこのジャミングがそれも物語っている。索敵班が懸命になって捜索しており、捜索周波数を変えたり測距儀等で光学的に探していく。
  だがレーダー機器にも、そして光学機器にも反応が出ず、やがてジャミングは綺麗に治まってしまった。先ほど打電した宇宙軍司令部からも返信が来たが、それらしい不審船は確認されなかったという無念な結果が戻って来てしまう。
それでもジャミングの症状は確認された。船がそこにいたことは確かなようだ。

「提督、如何致しますか?」
「‥‥‥当艦隊は、このままアステロイドへ向かう」
「よろしいのですか」

  水谷の心中にも何か引っかかる物があるのだろう。とはいえ、自分らはこれから試験運用を兼ねたによる処女航海の真っただ中である。
こと警備に関しては、その手の先任者である空間防衛総隊の軌道防衛艦隊らに任せていれば大丈夫ではないだろうか。何か異変があれば彼らが対処する。
その為の空間防衛総隊なのだから。

「構わない。後のことは、本土の防衛総隊に任せるとしよう」
「了解しました」

それだけ言うと第3艦隊はアステロイドへ向けて加速を始めた。
  この時、彼らが執拗に捜索を続けていれば後に起こる大惨事を防げたのかもしれないが、それはどこまでも結果論でしかない。
それは第3艦隊がその宙域を離れてから、ほんの1時間後のことだったのだ。地球全土を巻き込んだ、史上最大最悪の人災が起きたのは―――。




〜〜〜あとがき〜〜〜
どうも、第3惑星人でございます。前回の投稿から何か月以上も更新できず、やっとこさ最新話を更新できました。
首をなが〜くしてお待ちいただいた方々には、大変お待たせしました。何分、ネタが思い浮かば無いうえに仕事の後ですと、中々書く意欲が湧いてこず・・・(単なる言い訳)
それでもって、ヤマト側(しいて言うなら日本側)キャラも、中々思い浮かばず、他作品から拝借する始末。
今回出てきた日向鉄も、元ネタの漢字一文字を抜いただけで、ご存知の方なら「あのキャラか」と直ぐにお分かり頂ける筈。


・以下、私事―――
『宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟』が終わって数か月と立ちますが、個人的に続編を作ってほしいと常々感じています。
それとガンダムTFE ORIGINがアニメーション化されている模様ですが、『青い瞳のキャスバル』偏の冒頭7分しか見てません(目的はルウム戦役見たさでしたが)。
ヤマト2199が制作された影響か、ORIGINの艦船モデルも作り込まれているように感じました。それに爆発時の破片とかもかなり力を入れてました。
ただ、細部のディテールアップに関しては、ヤマト程に力を入れている訳でもなさそうでした。寧ろヤマトは『やり過ぎでは?』と思えるくらい描き込んでますが(褒め言葉)。
またORIGIN版のマゼラン等の戦艦デザインが、結構な好みだったりします。是が非でもコスモフリートコレクション化して販売を欲しい次第です。



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