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 メデューラ擬きと反ガミラス統治破壊解放軍の襲撃から、嘉禄も逃れた第2護衛艦隊は第11番惑星付近へワープアウトを果たした。最後まで踏みとどまり、味方の離脱を援護した古代進の座乗艦〈ユウナギ〉も到無事に着した。そして、到着と同時に艦隊司令部に対して、戦闘の経緯を報告しなければならなかった。〈ハーゲル〉は既に生存者がいなかったこと、不可解な艦内の惨状、メデューラと思しき宇宙生物、破壊解放軍の襲来‥‥‥短時間ながらも、巡るましい状況の変化を手短に報告した。

「―――以上が、ことの次第です。土方提督」
『そうか‥‥‥御苦労だったな、古代艦長』

 通信画面には、土方と呼ばれた壮年の男性士官が映っている。古代の報告を一通り聞き終えると労いの言葉を掛けた。鋭い姿勢に、白髪とモミアゲが特徴的な60代の男性士官―――地球連邦防衛軍航宙艦隊司令長官 土方竜宙将は、宇宙軍の要である航宙艦隊の責任者だ。かの沖田十三の同期であり親友でもあった土方は、空間防衛総隊と呼ばれる各惑星の防衛部隊を統括していた。ガミラス戦争後は、再編された防衛軍艦隊の総司令官となっのである。それは、かの親友沖田十三の跡を継ぐ形の就任となり、最新鋭の戦闘艦艇群の配備と、人材不足の中での人材育成に尽力してきた、防衛軍内部でも屈指の指揮官だ。

『〈ハーゲル〉の救援に間に合わなかったのは残念だ。しかし、それ以上に、貴官らが遭遇したという宇宙生物は、捨て置くわけにもいくまい』
「しかし、あの生物の出現位置は0.1光年も外です。この太陽系に向かって来るでしょうか?」
『分らん。だが、ガミラスと地球を結ぶルートでもある以上、危険は捨てきれん』

 確かに、土方の言う事にも一理ある。今後、あの宙域を通過する艦船に危害が無いとは言い切れない。危険を除去する必要性があった。

『兎も角、まずは、その破壊解放軍と称する連中の対処だ。11番惑星の守備艦隊に警戒態勢を発令している。ゼルグート級がいるとはいえ、対処できないものではない。後の事は守備艦隊に任せて、一先ず、第2護衛艦隊は地球へ帰還せよ。〈ハーゲル〉で採取されたサンプルの分析も、必要だろう』
「了解しました」
『‥‥‥古代』
「ハ」

 通信が終わるかと思ったところで、土方が呼び止める。

『自分を責めるな』
「‥‥‥!」

 通信は、そこで終わった。古代は艦長席に身を沈め、誰にも分からない程度に溜息を吐いた。先の戦闘で、第2護衛艦隊は1隻の駆逐艦を失うに留まったのだが、古代の表情は決して晴れなかった。彼自身が艦隊を率いて、初めての損失艦を出しのである。自分の判断が遅かったせいではないか‥‥‥と悔やんでいたのだ。そこを土方に気付かれて、責めるなと言ったのであろう。何だかんだで、古代はまだ20代半ばの若い指揮官であり、土方のような強い精神を持ってはいない。それでも、自身も指揮官として戦えるよう、覚悟を示さねばならないのだった。
 第2護衛艦隊が第11番惑星に接近すると、レーダーに新たな艦影が捕捉された。土方の言っていた、守備艦隊だった。

「古代艦長。11番惑星の第9守備艦隊です」
「第9守備艦隊旗艦より入電『帰還を歓迎す。第2護衛艦隊は、直ぐに地球へ帰還されたし』―――以上」
「了解したと返信」

 第11番惑星から出撃してきた第9守備艦隊は、惑星を防衛する部隊の1つだ。パトロール艦隊と連携し、早期に発見された外部勢力の艦隊に対していち早く接敵し、牽制しつつ追い払う艦隊であった。金剛改型×1隻、ザラ級×2隻、プラント級×9隻の12隻編成となっている。最新鋭のザラ級とプラント級は、小型ながらも小口径波動砲を備えており、先の破壊解放軍の艦隊を駆逐する事も難しくはない。無論、金剛改型にも小型波動砲が備わっていた。
 当初は、古代からの要請を受けた艦隊司令部が、護衛艦隊を派遣させようとしていた。しかし、緊急事態に付き帰還してきたことから、第9守備艦隊に警戒態勢を命じた。後は、第9守備艦隊が周辺に展開して、来るであろう破壊解放軍に備える。同時に、パトロール艦隊もいち早い敵影の察知の為、広範囲に展開していた。
 両艦隊のクルーは、すれ違いざまに敬礼し、そのまま距離を離して行く。横目でそれを見送った古代は、地球へ向けてのワープを準備させた。

「地球圏へ向けて、ワープ!」

 地球へサンプルを送り届ける古代だが、太陽系に迫る惨劇は、直ぐに始まることを知らなかった。
 地球へ帰還を果たした古代は、〈ハーゲル〉から採取した各種サンプルを宇宙科学局へ提出した。基より、ガミラスから宇宙生物のサンプルを受け取り、研究解明を行うつもりであった。研究チームとして加わっていたのは、ヤマトクルーだった新見薫一等宙尉である。方に掛かる程度のショートヘア、ピンク色のヘアピンで左側の髪を纏めている。アンダーフレームの眼鏡を掛けた、30歳前半のうら若い女性士官である。一方、で科学関連の分野においては高い才能を有する才女として名が通っていた。
 もう1人は、同じく〈ヤマト〉の副長として勤務していた真田志郎三等宙佐である。刈り上げた黒髪、そして眉毛が無い為、やや強面な印象をぬぐえない30代半ば程の男性士官だ。戦闘の面では型にはまりやすい為、不向きな面が強い。その一方で、科学者としては非常に優秀であり、論理的な範疇にあっては、他社の追随を許さない頭脳の持ち主であった。
 その2人が、宇宙科学局の分析室に並んで立っている。様々な機材が並ぶ分析室で、幾つものサンプルの分析が始められていた。2人は、研究員たちの研究データの途中経過に目をやり、興味深く頷いて見せたりしている。

「先生、これは‥‥‥」
「大変に興味深いな、これは‥‥‥ん?」

 データに夢中になる真田は、ふと、分析室に足を踏み入れた人物に気付く。新見も、そちらを向くと、見知った顔であることを知り顔をほころばせた。

「古代」
「古代く―――古代一尉」

 真田は懐かしそうに、新見は気まずそうに言い直す。新見は、古代進の兄であった古代守と恋仲関係にあったのだ。彼は惜しくもイスカンダルの地で亡くなったが、古代守のことを「古代君」と呼んでいた。弟とはいえ、古代進に対しても、思わず「古代君」と呼んでしまいそうになるのだった。そこで、慌てて階級名で呼ぶことも少なくない。
 分析室を訪れた古代は、艦隊が整備中であり、報告も終わったがてら顔を出しに来た次第である。

「お久しぶりです、真田さん、新見さん」
「あぁ。報告では聞いたが、随分と大変だったようだな」
「えぇ‥‥‥それでなんですが、回収したサンプルは、どうですか?」

 〈ハーゲル〉で回収されたサンプルについて、古代も気になっていた。古代は生物学者でも物理学者でも、科学者でもないが、自分が捜索した案件について、少しでも知りたかったのだ。そして無論のこと、あのメデューラと思しき宇宙生物についてもだ。

「今解析中なんだが‥‥‥順を追って話そう」
「そうですね、先生」

 新見は頷き、最初に解析に入った謎の結晶体について、データを表示する。

「古代一尉が回収した鉱石らしきものですが、異様な結晶体で構成されているわ」
「異様な結晶体?」
「えぇ。詳しく調べないことには何とも言えないのだけれど‥‥‥少なくとも、単なる鉱物ではないわね。まだ確認されていないものも多いの」

 見た目からして、その結晶体らしきサンプルは、赤色、黄色、青色、とカラフルなもので、見る人によってはダイヤの原石か、鉱石に見えるかもしれない。しかし、これを構成するのは、地球上で見るような組成体ではない様である。まだ分析を始めたばかりで何とも言えないようだが、現在の科学技術であれば解析に時間も掛からないであろう。
 次に、艦内で浮遊していた赤い発光体についてだった。特殊なケースに入れられた赤い発光体は、まるで宇宙のホタルようだ。

「正式ではないけれど、宇宙ホタルと呼びますが‥‥‥この発光体は、一種のバクテリアとも言えるものよ」
「バクテリア‥‥‥ですか?」

 バクテリアは地球上でも存在するものだ。しかし、古代にイメージするバクテリアとは、目に見えない程に小さな存在で、しかも膨大な数になる。それに引き換え、目の前で浮遊する赤い発光体は、目に見えてわかるバクテリアだ。当然、地球上のバクテリアと比べれば巨大である。

「ホタルの様に発光し、宇宙空間を彷徨う。性質もバクテリアと同じようだ。金属をも分解してしまうだろう」
「‥‥‥では、回収されたブラックボックスとデータは?」

 〈ハーゲル〉の艦橋から持ち出したブラックボックス、そして保存庫のデータバンクから出来る限りのデータを落とし込んできた。その中に、何があるのか、古代も気になっている。しかし、ブラックボックスに関しては、宇宙科学局ではなく中央司令部管轄の調査機関に回されており、此処にはないと真田は説明する。当然と言えば当然の処置であり、事故云々の調査を科学局がするのは御門違いだ。然るべき調査機関がするべき仕事である。古代は、やや残念そうに表情をしかめるが、もう一方のデータバンクについては真田が解析してくれていた。
 抽出されたデータは、主に運び込まれた生物サンプルの品目と管理番号、薬品、機材だった。何が運び込まれようとしていたのか、と古代は尋ねる。

「1つは、メデューラだ」
「惑星カッパドギアで遭遇した‥‥‥」
「そうだ。そして、お前が先ほど遭遇したのも、同種に近い」
「近い?」

 あれは、古代の知るメデューラとは似て異なる雰囲気があった。どうやら、その違和感は的中していたようで、今度は新見が補足した。

「貴方も知っての通り、メデューラはあらゆるエネルギーを常食とし、成長する生物。ですが、記録にある生物は、メデューラとは違う特徴が見受けられたわ」

 1つが、体面の色である。水色に近い表面を持っていたメデューラと違って、こちらはエメラルドグリーン。しかも、より透明性が増しているようにも思えた。

「突然変異種かもしれんが、どの経緯で、そうなったのかは分からん。或は、元々、この様な形でいる新種とも考えられる」

 2つ目に、伸縮自在な触手は無論、触手を中心に発せられる強力な熱。それも、戦闘艦の装甲板を熔かす程に強力なものだ。戦闘艦の装甲板は、太陽などの恒星付近でも活動できるくらいに、熱の態勢はある。現に〈ヤマト〉も恒星表面近くを航行した経験もあった(波動防壁がないと、内部の人間が持たないが)。触手で巻き付けた部分が超高熱で融解された上に、力強く引き締められることで、まるで粘土を紐を使って輪切りにするが如く分断してしまう。
 それだけではない。古代が戦闘宙域を離脱直前まで撮られた映像では、この宇宙生物はビームを受けても平然としているようだった。破壊解放軍の攻撃に怯まずに突っ込んでくるタフさも、メデューラとは違う。ガミラスの記録では、メデューラはエネルギーを吸い取る口の部分以外への攻撃は有効だとしている。なのに、この宇宙生物には有効弾となり得ていないのだ。
 光学兵器はもとより、実弾兵器に対してはどうかと言えば、効果があるとは言い難い。破壊解放軍が放ったミサイルや魚雷は、宇宙生物に命中したうえに爆発で吹き飛んでいるが、かといって死滅する様子はないのである。こうした物理兵器でも効果が無いというのであろうか。
 帰還前に土方が対応をする旨を言っていたが、果たしてどうするのかという不安が湧いてくる。
 真田が続けて口を開いた。

「ただ、この生物は、今のところ外宇宙にいる。通過する艦船には、迂回ルートを取らせるしかないが、地球へ直接辿りつく可能性は低いだろう」
「だといいのですが‥‥‥」

 言い知れぬ悪寒が、古代の背筋を奔った。
 
「次に、先の宇宙ホタルだ」
「これが?」
「あぁ。性質は先ほどの通りだから、割合するが、問題はもう1つの方だ」
「なんです」

 眉に皺を寄せる真田の表情を伺う古代に、今度は新見が説明する。

「古代一尉は、グリーゼ581星系で遭遇した、ガス状生命体を覚えてる?」
「あぁ・・・・・・恒星に吸い込まれていった奴ですね」
「そう。このガス状生命体―――ミルベリアルスと言うのだけれど、これもサンプルとして運ばれていたの」
「!」

 驚きを隠せなかった。〈ヤマト〉を取り込んで消化しようとしていた、あの巨大な得体のしれない物体をも運んでいたというのか。ただし、運び出している時は、無論のこと微量の状態だった。しかも、ガミラスが運用したガス状生命体とは違い、完全なる天然のミルベリアルスだ。弄らない限り、あのように急速成長することは無い。それでも、それに襲われたことのある古代からすれば、反射的に恐怖感を持ってしまうのも、無理のない話である。
 宇宙に住まう生物たちの、秘めたる神秘の力を解き明かそうという、人間なら持ちうる探求心により、ガミラスから持ち込まれる予定だった。ところが、あの破壊解放軍とやらに襲われてしまい、地球人科学者の手に渡ることは無かった。
 だが、ここで幾つもの疑問も持ち上がる。それらサンプルはどうなってしまったのか?

「救助し行ったときには、宇宙ホタル以外に何もいませんでした。どれもが破壊されていて‥‥‥」
「‥‥‥となると、真相を握るのは、メデューラに酷似した生物のようだな」

 顎に手を当てて考え込む真田の脳裏には、先ほど口にしていた、突然変異か新種の説がせめぎ合っていた。推察だけで結論に導く訳にはいかないが、艦内の荒された状況から、もしかすれば、突然変種かもしれないのではないか。そんな仮説が浮かび上がっていた。
 また、古代は艦内で撮影された、熱で熔かされていた隔壁や通路の壁の映像についても聞いた。

「じゃあ、真田さん。隔壁が破られていたのは‥‥‥」
「ふむ。見る限り、異常な高熱で熔かされている。爆薬ならいざ知らず、隔壁一枚をドロドロに溶かしてしまうのは、非効率的なものだ」

 一般的に考えるのであれば、閉じられた隔壁を破壊するのにどういった方法をとるか。1つは、真田の言うような爆薬によって派手に吹き飛ばす方法。2つは、バーナーの類で穴を穿つ方法。もう1つは、電子的に解除して隔壁を開放させる方法。手っ取り早いのは、爆薬の類で吹き飛ばしてしまうことだろう。
 ところが、この映像にあるのは、非効率的にも思える“全面を熔かす”方法だ。さらに突き詰めるのであれば、バーナーの類だった場合、熔かすのはあくまで線状であり、一回りグルっと囲むように対象物に穴を開けていく。言い換えるならば、切り込みを入れてやるようなものだ。だが、これは、きりこみどころか、穴を空ける部分を丸ごと溶かし切ってしまっている。明らかに、人為的行為にしては手間をかけすぎている。
 そこで繋がってくるのが、駆逐艦〈D−29〉を襲った宇宙生物の攻撃手段だ。となると、確証は出来ないが、一連の流れは組み立てられる。

「あの宇宙生物が、何らかの影響で突然変異し、艦内でエネルギーと乗組員を食い殺した。そして、エネルギーを吸い尽くした〈ハーゲル〉から、今度は古代の艦隊に目星をつけた‥‥‥。これなら、辻褄が合ってくるが、問題は、この宇宙生物がどんな過程で誕生したかだ」
「外見上はメデューラですが、変異種の可能性が高いです。先制の仰る通り、変異に至った原因が分かれば―――」

 真田を声を中断させたのは、古代の腕に取り付けられている通信端末だった。何か急な連絡でもあったのかと思いつつ、真田と新見に話の端を折ったことを詫びてから、端末の通話モードを機能させる。相手は相原であった。

「どうした、相原」
『大変です。今、11番惑星が何者かの攻撃を受けたとの情報が入りました!』
「!?」
「攻撃だと?」

 古代は驚き、傍にいた真田も動揺した様子である。新見も戸惑いの表情をしている。
 第11番惑星が攻撃を受けたという事は、例の破壊解放軍なる連中がやって来たという事であろうか。となると、宇宙生物を倒したか、逃げ切ったか、或は、新たな増援を呼んできたか。だが、だとしても、どうして第11番惑星まで来る必要がある? 破壊解放軍は、叛乱軍としては規模は中々に大きい組織だが、真面に正規軍とやり合えるような規模ではない。パトロール艦隊や輸送艦隊をターゲットにしたゲリラ戦が精々だ。
 だが、古代の予想は斜め上を行っていた。それも、何処かで予想していた1つの未来であり、しかも複雑に絡みあう最悪の結果であった。

『11番惑星司令部からは、ガトランティスの艦隊との情報が入っています』
「ガトランティス!?」

 ガトランティス―――ガミラスと戦争状態に入っている、戦闘民族と称される国家だ。とかく蛮勇、悪く言えば野蛮な兵士で、ガミラス人や地球人すら上回る屈強な肉体を持つ軍隊だった。しかも、捕虜になると任意で自爆するという、常軌を逸した存在である。まだまだ解明されていない部分も多いが、ガミラスと戦争を継続できるだけの軍備力を持つだけに侮れない。しかも、〈ヤマト〉もイスカンダルから帰還中に遭遇し、一戦交えたこともある。いずれは地球にも来るやもしれない、と地球連邦政府は予測していたが、遂にその時が来たのだろう。
 こうなると、地球連邦は全力を挙げて迎え撃つに違いない。もとより、この時の為に、波動砲を備えた最新鋭の艦隊を整備してきたのであるから。
 余談だが、古代を始めとしたヤマトクルーは、この波動砲装備の艦隊整備には批判的な立場にあった。波動砲は、星を破壊する危険な兵器だという認識から来るのだが、地球連邦上層部は現実目線から見て、少数で大軍に対抗するには波動砲が必須だと唱えたのである。この主張の食い違いは、上層部内部でも存在したが、ガミラスとの戦争で追った深い傷が、波動砲艦隊を後押しした。過去に負った教訓を糧に、こんどはしてやられてたまるか―――そんな思いが勝った。
 後は人間の問題だろう。波動砲を、本当に正しく使えるか。試されることとなるのだ。
 第11番惑星を襲ったのが、どの程度の規模なのかは不明だが、ガミラスとの戦争と同等か、それ以上の規模と見ていいだろう。

『と、兎に角、急いで艦隊司令部までお戻りください。各艦隊に、臨戦態勢が発令されます』
「分かった。直ぐに戻る」
『お待ちしております』

 余程切迫しているようだ。古代は通信を終えると、真田と新見に向き直る。

「緊急事態だな」
「はい。あのガトランティスの攻撃を受けたとの事ですが‥‥‥」
「ふむ。つらい戦いになるやもしれんが、古代‥‥‥死ぬなよ」

 かつて、ガミラス戦争で親友であった古代守を見送り、帰ってこなかった記憶が思い起こされる。新見も同じだった。

「気を付けてね、古代一尉」
「ありがとうございます。真田さん、新見さん」

 毅然とした態度で敬礼し、解析室を後にした。
 古代の後姿を見送ると、真田と新見は振り返り、解析中の結晶体やらサンプルに目を向けた。

「‥‥‥ガトランティスだけだろうか」
「はい?」

 ふと口走った真田に、新見は首をかしげる。

「どうも、嫌な予感がする。科学的根拠などないのだがね‥‥‥」
「先生‥‥‥」

 真田は、これまでにも科学的根拠のない事には懐疑的な面が多かった。それは、戦闘指揮にも現れており、常に論理的な思考によって執られてきた。だが、それが彼自身の限界であり、そして自覚しているのである。沖田十三の様な論理的な思考を超えた決断力と判断力、或は、それを受け継ぐ古代進とは、到底くらべものにはならない。故に、真田は、敢えて論理的思考は続けるとして、それを判断材料として提供してきたのであった。
 またイスカンダルから授与された惑星再生を可能とするコスモリバースシステムも、真田にとっては未知の領域であった。分かることは、波動エネルギーを制御するうえで、これ以上にないほどの存在である程度であり、惑星再生の要が人間の記憶であり、そして魂という科学的に説明しきれないものが中核となっていた。これに対し、真田は「発達した科学は、魔法と区別がつかない」として、コスモリバースシステムを受け入れるしかなかったこともあったのだ。今尚、イスカンダルが有していた、人の魂を機械へ移植する技術を解明できてはいない。
 何かが起きようとしているという、科学的根拠ではなく、人間としての直感が、真田に危機感を募らせていた。

「兎も角、我々は、この解析を急ごう。新見君」
「はい、先生」

 そう言うと、2人は他の研究員と共に、サンプル解析に没頭を始めた。

「古代さん!」
「相原、南部!」

 艦隊司令部に戻った古代は、相原と南部と合流を果たした。この艦隊司令部は、国連宇宙海軍が解体・再編されたから創設された、宇宙艦隊の総司令部とも言える部署だ。艦隊司令部の下に、主力艦隊、護衛艦隊、守備艦隊、パトロール艦隊、訓練艦隊、支援艦隊、輸送艦隊等の各部門の司令部が置かれる。古代の所属するのは、護衛艦隊司令部であった。かつての〈ヤマト〉クルーとして旅を共にした戦友たちも、各艦隊に配属されたり、或は司令部付となったり、各々の部署で職務を全うしている。
 早速、古代は状況を聞き出す。

「戦況は?」
「それが‥‥‥」

 言いよどむ相原に、古代も状況が切迫している事を察する。相原は改めて戦況を報告する。

「中央司令部の報告では、11番惑星は、ガトランティス艦隊の襲撃を受け、大損害を被っています」
「‥‥‥詳細は?」
「パトロール艦隊、守備艦隊共に壊滅。衛星軌道上の戦闘衛星も殆どが破壊され、11番惑星は無防備状態です」

 何と言う事だ、と古代は奥歯を噛みしめる。
 第11番惑星は、当初、古代の報告にあった破壊解放軍の接近に神経を尖らせていた。ところが、突如として現れたのは多数のガトランティス艦隊だった。虚を突かれた―――とまではいかないが、破壊解放軍が来るとばかり思っていただけに、彼らガトランティス艦隊の来襲は想定外だったのだ。しかも、守備艦隊の右舷側からのワープによる奇襲である。相手は襲い掛かる気満々で来ている訳で、攻撃に転じるのに時間など必要とはしなかった。
 ワープ開けしたガトランティス艦隊の内容構成は、情報によれば、以下のものであった―――

・ナスカ級打撃型航宙母艦×5隻
・ヴェーゼラ級支援型戦艦×10隻
・ローセル級護衛巡洋艦×18隻
・ラスコー級突撃型巡洋艦×26隻
・ククルカン級襲撃型駆逐艦×52隻

―――計111隻に上る艦隊だ。これだけでも地球主力艦隊の7割に達する規模だ。因みに、ガミラスが戦争を仕掛けて来た艦隊の規模も同程度のものである。
 ガトランティス艦隊は、圧倒的に数に劣る守備艦隊に容赦などしなかった。ガトランティス艦隊は、ククルカン級とラスコー級からなる戦隊を、側面から切り込ませたのだ。それだけでも24隻を数え、守備艦隊は瞬く間に劣勢に立たされてしまった。倍の敵艦が突っ込んで来るのを何とか撃退しようと、反転しつつ迎撃する。だが手数にものを言わせたビームの嵐に、波動防壁も耐え兼ねて被弾を許していき、撃沈する艦が相次いでいった。最大の武器である波動砲も、この様な乱戦に持ち込まれては使うどころの話ではなかったのだ。
 守備艦隊は獅子奮迅して6隻ものガトランティス艦を撃沈したが、自身も12隻から7隻にまで撃ち減らされてしまった。加えて、ナスカ級から飛びだった攻撃機デスバテーターの対艦攻撃により、5隻を損失。2隻のみとなった守備艦隊は、虚しく第11番惑星へと撤退することとなったのだ。
 そして現在、第11番惑星は、生き残った残存艦と、コスモタイガーUを主力とした防空隊が、必至に防空戦を維持している様子だった。それでも、ガトランティス艦隊の絶間ない艦載機攻撃により、第11番惑星は疲弊していく。特に、民間人への被害も考慮しない無差別爆撃には怒りがこみ上げる次第であった。しかも、隙を突いて上陸部隊も降下し、市街地での戦闘を激化せているという。この上陸部隊には、空間騎兵隊が主力となって対抗しているが、自爆をも辞さないガトランティス兵の攻撃と、無差別攻撃を行う無人兵器が、空間騎兵隊の戦力を削っていった。

「中央司令部は、何か言っているのか」
「はい。これをガトランティスの本格的侵攻と判断した司令部は、機動艦隊の派遣を決定しました」
「内容は、奇襲を考慮して第3艦隊、第4艦隊を主軸とした部隊です。その他、ガミラスの駐留軍も合わさって連合艦隊を形成します。規模にして120隻余り」
「‥‥‥11番惑星に現れたガトランティス艦隊を撃破するには十分だな」

 相原に続いて、南部が編成された部隊の詳細を明らかにする。第3艦隊と第4艦隊で64隻に上り、ガミラス艦隊は60隻だった。ガミラスの月面大使館に駐留する軍備力は、1個師団並の240余隻あまりである。その内の4分の1の兵力を抽出し、ガトランティス艦隊に対抗する形となる。
 因みに地球の戦闘艦は、かの〈ヤマト〉から得たデータを反映して建造している為、ガミラスやガトランティスの戦闘艦に比べれば、高い戦闘力を誇る。それを考えれば、十分すぎるであろうことは、古代にも分かった。しかし、ガトランティスなる敵が、どの程度の戦力を、今後差し向けてくるのか不安はあるが。

「護衛艦隊は?」
「現状待機ですが、決戦時には動員される可能性はあります」
「そうか‥‥‥ん?」

 まだ出動命令は出ないにしろ、いつでも動けるようにしておかねばならない。そう思った時だった。彼の視界に、見覚えのある女性が映ったのだ。

「雪じゃないか」
「あれ、森さん」
「森君」

 古代の声に反応して、相原と南部も振り返り、その名を口にした。森雪一等宙尉。中央司令室勤務の女性オペレーターで、〈ヤマト〉では船務長を務めた人物。そして、古代の婚約者でもある。くすんだ金髪のロングヘアに、美貌と言って差し支えない容姿の20代前半の士官だ。

「どうしたんだ、雪」
「交代時間なの。古代君も、もしかしたらこっちに来てるかと思って‥‥‥」

 司令部付を示すグレーのジャケットにタイトスカート、白いブーツを着用し、首もとには標準の白いスカーフが見える。多少走ったのか、やや髪が乱れているようだったが、雪はさっと髪を手で整えている。その際、左手の指には、婚約の証である指輪が見えた。

「古代さん、僕たちは今後の対応を練りますので、失礼します」
「失礼します」

 ふと、2人の空気を読んだ相原と南部が、フロアからそそくさと立ち去っていく。

「あ、あぁ、すまない」
「私‥‥‥気を使わせちゃった?」

 十中八九、その通りである。この2人の恋仲はヤマトクルー公認と言っても過言ではないのである。それだけに、戦友たちは2人に配慮しているのだ。
 2人きりになったのも、何かと気まずい感じもするが、古代は近くにあるカフェに誘うことにした。雪も、それに賛同し、古代に付いていく。士官らが出入りするカフェに入ると、そこでブラックコーヒーを2杯注文する。直ぐにウェイターがコーヒーを淹れると、2人の据わるテーブルに並べた。古代は、そのコーヒーカップを手に取り、香りを味わってから一口含んだ。

「やっぱり、君のコーヒーの方が良いな」
「ふふ、嬉しいことを言ってくれるわね、古代君」
「本当の事さ」

 実を言えば、森雪はコーヒーを淹れる事が苦手である。どう淹れても、周りの同僚たちからは「不味い」との評判を受けてしまうのだ。これまたヤマトクルーの折り紙付きである。ただし、その中にあって別格だったのが古代である。彼は雪の淹れたコーヒーを飲み、ケロッとして「美味しい」と言うのである。天然かはさて置いて、古代をよく知る戦友かつ親友の島大介からは、「味覚障害なんじゃないか」という失礼極まりない事を言われたこともある程だった。
 艦隊勤務から帰って来て、自宅で迎える朝には、雪の淹れたコーヒーを飲むことが日課である。

「ねぇ、貴方が遭遇した事件の事だけど‥‥‥」

 さり気なく、雪は〈ハーゲル〉救助に遭遇した事件の事を口にした。

「私、心配だったの」
「心配?」
「えぇ。司令室で、貴方の艦隊が敵と遭遇したことを聞いて、思わず胸が苦しくなったの‥‥‥」

 そうだ、雪は司令室に勤務している為、情報もいち早く彼女の耳に入る。無論、私情を挟む訳にはいかないが、心内では動揺してしまいそうになったのだ。

「すまない。心配をかけた。けど、こうして戻って来たんだ」
「私もホッとしたわ。無事に帰還してくれて‥‥‥」

 やや涙ぐむ雪の姿に、古代も申し訳なさが滲み出る。軍人である以上は危険が付きまとって当然であり、雪も当然のことながらそれを理解している。だが、実際に危うい状況下にあると、気が気でなくなってしまいそうであった。

「それに、ガトランティスが侵攻開始したわ。ガミラスとの戦争みたいに、総力戦になれば、古代君も出てしまうかもしれない。そうなったとき‥‥‥私、怖いの」
「雪‥‥‥」
「今の生活でも、十分に幸せなの。けど、貴方を失ったらと思うと‥‥‥」

 雪には両親がいない。既に他界してしまっており、引き取り手に土方竜がいた。彼が親代わりに育てて来たのだ。ある意味、古代にとっては“お義父さん”になる訳だが、土方も古代の事は理解し、雪との結婚を認めている。
 古代は、不安そうな雪の左手に、自身の左手を伸せたかと思えば、右手も添える。両手で雪の左手を握り、真っ直ぐな瞳で彼女を見る。

「大丈夫。必ず、帰るよ。雪を置いていくつもりなんてないからね。一緒に生きていくんだ」
「‥‥‥うん」

 添えられた古代の手に、右手を添える。互いに愛情の深さを再認識するのであった。



U




 第11番惑星の襲撃を受けたことに対し、地球連邦防衛軍は至急対策会議を開いた。侵攻しているガトランティス艦隊を撃退するため、第3艦隊と第4艦隊の派遣を決定したのである。ガミラス駐留軍も地ガ安保条約を適用したことで一部兵力を割き、第11番惑星を攻略戦とするガトランティス艦隊の撃退を目指す。地球艦隊の指揮を預かるのは、第3艦隊司令官/旗艦 アンドロメダ級〈アポロノーム〉艦長 安田俊太郎宙将補である。50代半ばの男性士官で、短く刈り上げた髪と、やや丸みを帯びた顔の輪郭をしている。主力艦隊司令官と、アンドロメダ級3番艦〈アポロノーム〉の艦長を兼任しており、指揮官としては上々の手腕を有する。
 〈アポロノーム〉は、空母型として建造された戦闘航宙母艦であり、艦橋構造物と一体化した、艦尾側に大きく張り出した巨大な格納庫が印象的な艦である。1枚板の様な格納庫を支える為、艦橋の後部に支柱を増設した為、後部の主砲2基は撤去されてしまっていた。それでも、艦載機180機という膨大な艦載機数を誇った。無論、艦首の連装波動砲は健在の他、40.6p三連装ショックカノン砲塔2基6門等を備えており、戦艦としての性能は十分残されていた。

「司令。ガミラス艦隊が合流しました」
「わかった」

 地球艦隊の右翼に展開するガミラス艦隊を一瞥した安田司令。後は、第11番惑星に侵攻しているガトランティス艦隊を撃滅するのだが、その作戦内容は、時間が惜しかったことから事細かくは出来なかった。ガトランティス艦隊が第11番惑星に張り付いている以上、まずもって波動砲の攻撃は控えねばならない。となれば、通常の砲雷撃戦を行う以外にない訳である。
 そこで、地球艦隊は正面から仕掛け、その隙にガミラス艦隊が側背を直撃して、一気に瓦解へ追い込むというものであった。後は、ガトランティス艦隊の正確な位置を把握しなければならない。もし襲撃時から配置を変えていないのであれば、連合艦隊側から見て第11番惑星の反対側に布陣していることとなる。

「後は、現場に行ってみなければ分かるまい」

 艦長席でひとり呟く安田司令。この一戦で、ガトランティス艦隊を完膚なきまで叩き潰すのだ。恐らくは、後続の艦隊が来てもおかしくはない。この第11番惑星を襲っている艦隊を徹底的に潰し、ガトランティスに確固たる意志を見せつけてやるのだ。

「全艦ワープ準備完了」
「‥‥‥全艦、ワープ!」

 安田司令の号令に従い、地球艦隊、ガミラス艦隊はワープを行い、その場から姿を消した。
 一方の第11番惑星では、襲撃を受けて今だ地球防衛軍の残存兵力が抵抗を続けている。心細い戦力で、だが気骨ある精神で戦線を支えていたのだ。それも、襲撃を受けて2日が経とうとしている。守備艦隊は既に1隻残らず破壊された。残存艦は大気圏内で防空戦闘に努めていたが、支えきれなくなって大地に身を沈めたのだった。防空隊も次第に数を減らしているが、彼らも獅子奮迅している。
 そんな彼ら防衛軍の踏ん張りを、無益な抵抗として見下ろす者達もいた。衛星軌道上で眺めやるガトランティス艦隊は、定期的に艦載機を送り込んでは、地表の地球人並びにガミラス人を無差別的に殺している。加えて無人兵器ニードルスレイブと、自軍の陸戦部隊が地表を荒しまわっている。

「戦士としては、敬意に値する‥‥‥が、所詮は無駄な足掻きに過ぎぬ」

 第8機動艦隊前衛艦隊旗艦 ナスカ級〈コズモダート〉の艦橋で、嘲笑う1人のガトランティス人がいた。中肉中背に緑色の肌、紺色の髪、髪と一体化した眉毛、鋭い視線が特徴を持つ、前衛艦隊司令 エレム・コズモダート。ガトランティス軍第8機動艦隊所属の前衛艦隊司令を担う彼は、攻略対象の星系に対して、一番手に槍を投げつける役目を負っていた。常に足掛かりを作り、本隊の前座を作るのである。そして今回も、彼は第11番惑星に奇襲を仕掛け、守備艦隊とパトロール艦隊を殲滅し、地表で無駄な抵抗を示す地球軍の残党を殲滅しつつあった。彼は、その役目を果たそうとしている。
 これまでにも、同様の方法で実績を積み上げてきたコズモダート司令は、地球軍の抵抗を無駄な足掻きとして、冷たい視線で見つめている。幾らでも相手をしてやっても良いのだが、おいそれと時間をかけすぎる訳にはいかない。彼ら地球軍の抵抗は、即ち援軍の為の時間稼ぎに過ぎないのだ。いっそのこと、逆にこちらから仕掛けても良いだろう。援軍に来ることは確実な以上、それを逆手に取るのだ。

「地上は、無人部隊と陸戦隊に任せる。1人残らず抹殺せよ。我らは、地球人どもの艦隊を迎え撃つ」

 コズモダートは、全ての陸戦部隊を地上に降ろしておいて、自らの艦隊を移動させた。まず、ナスカ級航宙母艦×5隻、ローセル級巡洋艦×2隻、ククルカン級駆逐艦×8隻で構成する直営部隊を第11番惑星の前面に展開。他50隻余りの戦闘部隊をさらに前方へ展開し、残る40隻ほどの別働隊は第11番惑星の裏側で待機。増援に来た地球艦隊を戦闘部隊で釘付けにし、別働隊を側背から突撃させる寸法であった。ただし、この時点でコズモダートは、ガミラス艦隊が出張ってきていることを知らなかった。
 案の定、コズモダートが読んでいた通りに地球艦隊は来た。前衛艦隊の正面にワープアウトした地球防衛軍第3艦隊と第4艦隊は、早々に戦闘態勢を取る。方やコズモダート率いる前衛艦隊は迎撃態勢を万全としていた。戦闘部隊も既に砲門を開き、地球艦隊に標準を合わせ始めていた。

「地球艦隊約60隻、我が艦隊の前方2万に出現」
「地球人め。ノコノコと現れおったな。当初予定通り、奴らを引き付ける。いいか、奴らの戦闘艦は防御が厚い。集中的に狙って奴らの殻を押し潰してしまえ」

 旗艦〈コズモダート〉艦橋で、不敵な笑みを浮かべる。コズモダートは、先の戦闘で地球の戦闘艦が予想以上に強固だったことを知った。ガトランティス軍の艦船は、申し訳程度の対ビーム用コーティングしかない為、その耐久度は雲泥の差があった。しかし、その強固な防御も無限ではないこともコズモダートは悟っていた。集中的に攻撃してやれば、地球の戦闘艦を撃沈する事は容易いと看破していたのである。
 交戦可能距離に入った両軍は、一先ず典型的な砲撃戦で幕を開けることとなった。

「砲撃開始」

 安田司令の号令でショックカノンを斉射する地球艦隊。

「攻撃せよ」

 コズモダートの命令でビームをばら撒くガトランティス艦隊。
 青白いショックカノンと、緑色のビームが宇宙空間を交差すると、互いの艦列へ切り込んでいく。ガトランティス艦隊は、とかく手数の多さを武器にして、特定の艦に対して砲火を集中する。すると、如何に威力が低めのビームとはいえど、単時間で被弾を続ければ波動防壁はあっという間に耐久度を減らしていく。特に、ガトランティス軍の主力戦艦であるヴェーセラ級支援型戦艦の有する、大型回転砲塔や艦橋大砲塔の威力は高く、波動防壁の耐久度削り取るには十分であった。巨大戦艦であるカラクルム級戦闘艦の次に巨大な戦艦だけあって、地球艦隊に猛威を振るう。

「司令。敵の砲火が前衛艦に集中。被害拡大」
「敵も利口だな」

 前衛に配置した味方艦が、次々と被弾していく様子を見た安田は、敵将の対応力に感心した。ガミラスからは蛮族と忌み嫌われていたと聞くが、この序盤戦からして、蛮族とは言い難い戦術で対抗してきているではないか。ならば―――と、安田はガトランティス艦隊に対抗する。

「戦艦戦隊は前へ出る。巡洋艦戦隊、駆逐艦戦隊は、戦艦戦隊の後方から精密射撃に努めよ」

 第3艦隊、第4艦隊は、指揮下のドレッドノート級を前面に出して壁役を形成した。ドレッドノート級ならば、多少は持ち応えられる。その隙を縫って、中小艦艇群が正確な砲撃を実施してガトランティス艦隊に反撃を試みた。ザラ級巡洋艦と吹雪級駆逐艦は、魚雷とミサイル、ショックカノンのフルコースをガトランティス艦隊に見舞った。
 瞬時の対応力に感心するのは、コズモダートも同じだった。

「ふん、さっきのよりは楽しませてくれる」

 もっとも、第11番惑星守備艦隊は、兵力も少なく真面に戦闘とも言えないものだった。加えて、これまで侵略してきた星系でも、地球艦隊程に面白みのある相手は中々恵まれなかったものである。だが、悠長に戦闘にのめり込んでいる訳にはいかない。

「別働隊に通達。空間跳躍にて、敵の側背から仕掛けるのだ」

 彼の命令は、直ぐに別働隊へ発せられた。しかし、その命令が実行されることは無かった。
 別働隊の指揮官より緊急電が入ると、コズモダートは眉を顰めた。

「どうした。命令は伝えたぞ」
『こちら別働隊。緊急事態が発生!』
「な‥‥‥に?」

 焦った中級指揮官の様子に、コズモダートも不快な表情を本格的に作り上げる。

『正体不明の生命体に襲われ、我が隊の損害著しく―――』
「―――通信途絶しました」
「何が起きている‥‥‥別働隊の戦況はどうなっている!」

 ここで計算外の邪魔が入り、コズモダートも冷静さを失う。もしや、敵の別働隊が回り込んでいたというのか。いや、違う。別働隊指揮官は「正体不明の生命体」と言っていた。つまり、今、別働隊を襲っているのは、地球軍の攻撃ではなく何者かも知らぬ生命体だという事になる。無論、宇宙生物と言うのは珍しい話でもないのだが、よもや謎の生命体とやらに壊滅的打撃を受けるとは予想外だった。
 オペレーターが回線を繋ぎ、映像を艦橋のスクリーンに回す。すると、そこには信じ難い光景が広がっていた。

「馬鹿な‥‥‥あんな生物の為に、我が艦隊が‥‥‥」

 コズモダートも、その映像を見て唖然とした。そこに映っているのは、古代が遭遇したメデューラ擬きだったのだ。
 事の経緯は、次のようなものだった。前衛艦隊別働隊は、コズモダートの命令を受ける直前になって1隻のガミラス艦を補足した。それはメデューラ擬きに襲われた破壊解放軍の旗艦〈ドゥオルシエ〉であったが、ガトランティス兵がそれを知る由もない。
 〈ドゥオルシエ〉は、あの後、メデューラ擬きの攻撃を受けて味方艦隊を失い、単艦になって死に物狂いの抵抗を続けた。とはいえ、冷静さを欠いた彼らは、余計にビームやミサイルを放ったことで成長を加速化させた。しかも、今度は〈ドゥオルシエ〉に巻き付き、例の如く超高熱で艦体を溶かしにかかったのだ。ドゥオーシは錯乱し、慌ててワープによる離脱を命じた。これしか最善策は無かったのだが、メデューラ擬きを引き剥がすには足りなかった。結局、〈ドゥオルシエ〉はワープアウト直後に行動不能になり、慣性力に従って宇宙空間を猛スピードで突き進んでいった。それも、太陽系の方角に向かってである。当然、ドゥオーシは他の兵士諸共、メデューラ擬きの餌食となり、無残な最期を遂げた。
 そして今、第11番惑星にまで飛んできたメデューラ擬きは、惑星付近で待機していたガトランティス艦隊のエネルギーに反応し、鉄屑同然となった〈ドゥオルシエ〉から離れて襲い掛かったのである。当然、ガトランティス兵は驚愕した。廃艦状態のガミラス大型艦から離脱してきた、正体不明の巨大生命体が恐るべきスピードで食らい付いて来たのだから。

「迎撃、迎撃!」

 別働隊は弾幕を張ったが、それで怯むことすらないメデューラ擬きは、1隻目の補食に取り掛かった。ラスコー級があっという間に絡め取られると、長大な触手が別のククルカン級2隻を同時に捕獲し、熱で溶かし始めた。そして残骸を放り投げ、別のガトランティス艦に命中させる荒業を繰り出し、次々と捕食し、食い潰していったのである。その最中にコズモダートから命令を受けたとして、どうして対応できようか。別働隊は襲撃の為に隊列を組み終えていた事も相まって、後方からの奇襲に対応しきれず、あっという間に20隻にまで食い潰されてしまったのである。
 理解が追い付かない―――コズモダートは喘いだ。これでは、地球艦隊と真っ向からやり合わねばならないどころか、自分こそ奇襲攻撃を受ける可能性がある。今だ正体不明の生命体と交戦中の別働隊は、もはや使い物にはならないのは目に見えてわかる。輝かしい戦績を残して来たコズモダートが、意味の分からぬ宇宙生物の邪魔建てによって、泥を塗られるとは!

「おのれ、おのれ、下等生物の分際で‥‥‥!」

 権を握り締めるコズモダートは、憎悪によって全身を震わせていた。だが、このまま下手に戦力を擦り減らす訳にもいかない。どのみち、第8機動艦隊も到着するが、ここは功に焦らず体勢を立て直し、この正体不明の生物について情報を集めておくべきか。そう判断すると、彼の動きも早かった。

「無念だが、一体後退する。砲火を敵の戦闘に集中し、然る後に反転離脱!」

 ガトランティス艦隊の動きを見た安田司令は、追撃命令を出すべきか考えた。だが、不可解な情報も入っていた。飛ばしていた偵察機より、第11番惑星の裏側で起こっている信じ難い情景に耳を疑ったのである。それは、コズモダートが示した反応と全く同じであった。

「司令、敵艦隊はどうなさいます」
「‥‥‥構うな。後はガミラスに任せる。我らは11番惑星の救援を最優先とする」

 第3艦隊と第4艦隊は、戦艦1隻、巡洋艦3隻、駆逐艦4隻を失うものの、戦闘には全く支障は無い。ここは、一刻も早い第11番惑星の救援を優先とした。
 そして、ガミラス艦隊がワープで奇襲を仕掛けてきたのは、丁度この時の事だった。

「ガミラス艦隊、敵艦隊の側背にワープアウト。攻撃を仕掛ける」
「おいでなすったな。あちらさんに対処を任せる。全艦、第11番惑星に急行し、地表のガトランティスを掃討する。なお、報告にあったとされる宇宙生命体が、敵艦隊を襲っているとの情報があった。生命体メデューラに酷似していることから、襲ってくる可能性がある。駆逐艦戦隊は衛星軌道上沿いに先行し、敵艦隊並びに宇宙生命体を牽制せよ。残る我が艦隊は、大気圏内へ突入し、地表の敵を一掃する」

 第3艦隊ならびに第4艦隊から、それぞれ1個駆逐艦戦隊4隻が抽出され、第11番惑星の裏側へ向かって脚を進めた。

「第9、第12駆逐艦戦隊、前進します」
「全艦、11番惑星へ降下開始!」

 安田の号令を受け、艦隊は惑星へと降下を開始した。
 方やガトランティス艦隊は、ワープで奇襲してきたガミラス艦隊に追撃され、損害を重ねていった。コズモダートの表情は、既に怒りと屈辱に塗れていたが、撤退するしか選択は残されてはいない。旗艦〈コズモダート〉艦橋で、掌を力の限り握り締めるコズモダートの肩は、屈辱感のあまりに震えてすらいた。

「ガミラスめが、調子に乗りおって‥‥‥!」
「司令、後衛の被害甚大!」

 またもや駆逐艦が火を噴いて沈んでいく。

「弾幕を敵艦隊の針路先に集中し、脚を止めつつ、空間跳躍せよ!」

 反転迎撃するのは愚策と承知しているコズモダートは、兎に角、逃げの一手を打った。不本意ながらの撤退は、遂にガミラスの追撃を振り切り、その宙域からの撤退を成功させたのである。しかし、彼の艦隊が負った損害は、経験上有り得ないものだった。100隻以上あった艦隊は、謎の宇宙生物の攻撃と地球・ガミラス艦隊の攻撃によって30隻にまで撃ち減らされてしまったのである。だが、コズモダートの得た情報は、第8機動艦隊にとって有益なものとなり得るのだ。
 ガトランティス艦隊を取り逃がした―――というよりも、追撃に固執しなかったガミラス艦隊は、艦隊を反転させて第11番惑星へ針路を戻した。
 その艦隊の中心には、赤を基色としつつ白と黒の迷彩柄をした大型艦が1隻存在する。ガミラス軍が保有する戦艦と空母のハイブリッド艦こと改ゲルバデス級航宙戦闘母艦だ。“改”と名の付く通り、元のゲルバデス級の改良型である。全長390mの艦体と、前半が空母、後半が戦艦という特異な姿は、ほぼゲルバデス級と一致している。そのゲルバデス級は、一見すると便利そうでコストの掛かる戦闘艦として扱いの難しい代物であった。
 そこで改ゲルバデス級からは、一部機構を簡略化したことでコストダウンを図ったものだ。飛行甲板と砲戦甲板が一体化した、前部甲板の反転機能を撤去することで、艦前半を完全な空母機能とした。同時に艦底側にあった砲戦甲板も、反転機能を取り払い外部空間に展開したままとすることで、艦前部の艦内空間を広く確保することに成功した。よって、開いた空間には艦載機や弾薬等の積み込みに使用できる。また、艦載機の着艦を艦尾側から行う際に、艦橋構造物直下の格納庫シャッターを開閉すると共に、艦尾側の第3主砲塔を格納する機構があった。この第3主砲塔を削減するこで、シャッター開閉だけで全通式飛行甲板と成せるよう改良したのである。結果、改ゲルバデス級は、遥かに空母機能を充実化させることに成功したのだ。
 ガミラス軍ゾル星系駐留軍旗艦 改ゲルバデス級〈ミランガルU〉艦橋にて、1人のガミラス人女性士官が撤退したガトランティス艦隊を眺めやっていた。

「戦う気が無いのを、相手にしたってどうしようもないわね」

 地球人換算で31歳になる若い女性士官は呟く。肩に掛かる程に伸びた薄紫色のセミロング、男勝りに思えるややつり上がった目線、ガミラス軍の正式軍服であるボディスーツ式野戦服からでも解るスラリとした体形。軍服さえなければ、ファンションモデルの業界にでも務めていそうな美貌の持ち主だった。彼女が、駐留軍副司令官 ネレディア・リッケ大佐である。かつて〈ヤマト〉と共にガトランティス遠征軍と戦った経歴を持つ軍人で、この太陽系に派遣されてきたのも、そういった経歴を買われての事だった。
 昔に比べて髪を伸ばしたスタイルのネレディア少将は、視線を第11番惑星に向け直す。そこにある光景の方が、よほど信じ難いものだ。

「メデューラが、こんな所にいるとは思いもしなかったけど‥‥‥」

 おかしい。彼女も薄々気づいていたのだ。

「データベースとは違う新種かしら‥‥‥。まぁ、いいわ。兎も角、11番惑星には我がガミラスの民間人もいる。全艦、地球艦隊を援護する!」

 ガミラス艦隊は即座に動き、メデューラ擬きに悪戦苦闘する地球防衛軍の駆逐艦戦隊の援護に掛かった。
 第11番惑星は“地獄絵図”という言葉がピッタリ当てはまるほどの惨状だった。かつては辺境の孤独な星だったが、地球が第11番惑星に手を付ける前に、ガミラス軍が密かに手を入れて人が住めるほどの環境に作り変えてしまった。しかも、小型の人工太陽を作って昼と夜を人工的に作り出している。とはいえ、第11番惑星全体に人が住んでいる訳ではない。2000人ほどの入植者(地球人・ガミラス人含め)いる程度だった。
 ところが、ガトランティスの無差別攻撃によって、都市は壊滅し、民間人も1800人余りが命を落とす事態となっている。それほどまでに徹底した無差別爆撃であり、防衛軍の抵抗をあざ笑うかのような残虐さであったのだ。

「民間人も見境ないとはな」

 大気圏内から迂回して都市に辿り付いた安田率いる地球艦隊。安田も、廃墟と化した第11番惑星の都市をみて怒りを覚えずにはいられなかった。幸いにして、地球防衛軍防衛専用の救援信号は捉えている。地球艦隊は、艦載機コスモタイガーUによる制空権の確保を行い、地上を徘徊する無人兵器とガトランティス陸戦部隊の排除を進めた。そして艦隊は民間人の避難する鉱山へと早急に掛け付けると、旗艦〈アポロノーム〉が鉱山入り口付近に艦体を着陸させた。ハッチを開き、そこから民間人と残存防衛軍兵士らの収容を始めたのだ。
 だが、衛星軌道上の戦況は芳しくない。旗艦〈アポロノーム〉の艦橋にも、駆逐艦戦隊からの切羽詰まった音声通信が入って来たからだ。

『こちら駆逐艦〈ウラカゼ〉! メデューラなる生物は、敵艦を食い尽くし、こちらへ標的を変えて接近中。迎撃するも効果は見受けられず‥‥‥既に僚艦1隻がやられた。ガミラス艦隊も救援に来るも、こちらを優先に狙って来ています!』
「こちら〈アポロノーム〉。民間人救助完了まで、後10分は掛かる見通しだ。もう少し持ちこたえてくれ」
『了解した。しかし、これは想像以上の―――ッ』
「? 応答しろ〈ウラカゼ〉、応答しろ!」

 突然、〈ウラカゼ〉との通信が途絶える。何が起きたのか、安田には分からなかったが、〈ウラカゼ〉は後方から急接近したメデューラ擬きの体当たりを受けて大破、通信障害を起こしたのであった。何せ駆逐艦を遥かに上回る大きさに成長したメデューラ擬きの物理的攻撃は、駆逐艦にとって大ダメージたり得る物だった。
 事態の切迫を改めて感じ取った安田は、民間人らの収容作業を急がせた。

「上空は切迫している。収容を急がせろ!」
「司令、ガミラス艦隊より緊急電!」

 次いで入って来たのは、ネレディアからの緊急電だった。

『こちらネレディア・リッケ大佐。安田司令、このメデューラは尋常ではない。私が何とか食い止める故、司令は救助を急がれたい』
「感謝する、リッケ大佐」

 若くも指揮官として板についているネレディアを頼もしく感じる安田は、彼女の遅滞戦に掛けて収容作業を継続する。
 急ぎ駆けつけて来たネレディアは、艦隊のミサイル飽和攻撃を持ってメデューラ擬きの動きを止めようとした。

「爆風で奴の動きを鈍らせる。友軍には当てるなよ、ミサイルを斉射!」

 直接狙わず、ミサイルの爆発の圧力と衝撃を利用して、メデューラ擬きの脚を止めようと試みる。地球の駆逐艦戦隊を掠める様にして抜けたミサイル群は、メデューラ擬きの鼻先で爆発し、その圧力に巻けたメデューラの脚は確かに止まった。しかし、それも一時的な事で、直ぐに動きを再開させる。

「クッ‥‥‥」

 厄介な生命体だ、と睨み付けるネレディア。
 しかし、メデューラ擬きは、突然として動きを変えた。その行先には、ガミラスが作り上げた人工太陽があった。

「まさか、人工太陽を‥‥‥!」

 ある意味では、最高の時間稼ぎが出来たと言える。だが、それは同時に、メデューラ擬きに最高の餌を与えてやるのも同然なのである。これ以上にメデューラ擬きが成長しては一大事だ。既に、この宇宙生命体は、胴体部だけで約140m、触手部分を含めると280mというとんでもない大きさに育っていた。
 因みに人工太陽そのものは、直径約4q程度の小さなものである。無論、小さいとはいえ4qサイズは、人工物としては十分に巨大だった。また、太陽とは言うものの、本物の様に強力な熱を発している訳ではない。波動炉心を利用して強力な光を発している為、艦船が近づいても融解する訳ではないのだ。ガミラスの技術師団が作り出した人工太陽を、メデューラ擬きは吸い尽くそうとしている。これを阻止する事は出来る。簡単な話で、人工太陽に停止プログラムを送ればいいのだ。そうすれば、人工太陽は炉心を閉鎖してエネルギー供給を止める。メデューラ擬きも離れるだろう。
 離れた後に向かうのは、恐らく自分らだ。或は地表の地球艦隊。一刻も早い、救助作業の完了を願うばかりだ。

「メデューラ、人工太陽に接触」
「人工太陽、外壁を破壊され、波動炉心よりエネルギーを吸収」
「不味いわ‥‥‥安田司令は、まだなの?」

 メデューラ擬きは、飢えた狼の如く人工太陽に食らい付き、高熱で外壁を溶かした。熔かした部分から触手を侵入させると、炉心から波動エネルギーを吸い取り始めたのである。人工太陽として使う為に作られた波動炉心のエネルギー量は凄まじいもので、瞬く間にメデューラ擬きの栄養源として成長を促進させた。
 待ち焦がれた、民間人収容完了の報告が入ったのは、まさにその時だった。

『リッケ大佐。お待たせした。民間人の収容は完了、直ちに離脱する』
「承知した。あの生命体は人工太陽を吸い尽くす前に、こちらから機能停止命令を送ります。次に狙うのは、恐らく我ら艦隊の筈。早期に離れましょう」

 第3艦隊、第4艦隊は早急に地表を離れると、一目散に宇宙空間へと飛び出した。ガミラス艦隊よりも先にワープを敢行し、その宙域を後にする。無論、得体のしれない生命体を監視する為に、監視衛星を幾つか放出しておいた。ネレディア率いるガミラス艦隊も艦隊を反転させ、地球へ艦首を向けさせた。ただし、離脱間際に機能停止命令を送信し、それの受理を確認したところでワープによる離脱を行ったのである。
 メデューラ擬きは、餌にしていた人工太陽の炉心が機能を停止したことを理解したのかは定かではないが、今度は人工太陽そのものを捕食し始める。超高熱で外壁を熔かして摂取していき、その都度、メデューラ擬きも膨張していくのだ。やがて、人工太陽を喰らい尽くしたメデューラ擬きは、第11番惑星に刃を向けることとなる。この第11番惑星の一件を知った地球連邦とガミラス大使館は、早急に対策に乗り出すこととなった。
 だが、これを見ていたのは彼らだけではない。第11番惑星より外宇宙へ向けて約5000万q離れた宙域で遊弋する、ガトランティス艦隊の姿があった。その数、凡そ1万5000隻。先のコズモダートが率いていた艦隊とは比べ物にならない規模の大艦隊である。これが、太陽系へ向かう途上にあったガトランティス軍ゾル星系先遣部隊の第8機動艦隊だ。
 第8機動艦隊の編成内容は以下の通り―――

・メダルーサ級殲滅型重戦艦×2隻
・メダルーザ級重砲艦×4隻
・カラクルム級戦闘艦×2000隻
・ヴェーゼラ級戦艦×3000隻
・ナスカ級航宙母艦×100隻
・ローセル級護衛艦×400隻
・ラスコー級巡洋艦×4000隻
・ククルカン級駆逐艦×5500隻

―――という編成内容となっていた。
 この艦隊の中に組み込まれているメダルーサ級は、ワープ攻撃を可能とした火焔直撃砲搭載艦であり、かの〈ヤマト〉を苦しめた〈メダルーガ〉の同型艦である。また、このメダルーサ級を量産していたガトランティス軍だったが、そこからコストダウンを図った、火焔直撃砲のみを搭載したメダルーザ級も編入されている。五連装大口径徹甲砲塔や艦首魚雷発射管を備えず、火焔直撃砲本体と転送装置を残し、後は幾つかの大型回転砲塔や対空速射砲塔を有する程度であった。
 黄緑、または黄緑と白のツートンカラーの多いガトランティス艦だが、この第8機動艦隊の中に一際目立つカラーリングを施したカラクルム級戦闘艦が1隻混じっている。白を基色としつつ、グレーの迷彩が入ったものだ。当艦が旗艦〈メーザー〉である。

「‥‥‥成程。珍しい物がいたものだな」

 〈メーザー〉艦橋の指揮席に立ち、腕を組んで細く笑みを浮かべるガトランティス人が呟く。長身で、神経質を思わせる細い顔つきに鋭い目線、眉と一体化した脱色した紺色の髪。指揮官であることを示す、裾の長い白いロングコートを纏う彼が、第8機動艦隊司令長官 ヴァドラ・メーザー提督である。ガトランティス軍きっての知将とされるガトランティス人で、今回の太陽系攻略を任されていた。

『面目ございません、メーザー提督』
「貴官も災難だったな」

 旗艦〈メーザー〉艦橋のスクリーンに映るコズモダートは、悔しさに顔を染め上げていた。メーザーは冷徹な眼差しを向けていたものの、不測の事態に見舞われたコズモダートを責めようとはしなかった。寧ろ、この生命体は役に立つと考えたほどである。

「こちらには都合が良い。あの化け物が狙うは地球だ。彼奴らも化け物を放ってはおくまい」
『どうなさるおつもりですか』
「簡単な事よ。化け物めを地球へけしかけてやるのだ。見た所、厄介なようだが、我が軍の手に掛かれば容易い」

 だが、太陽系を食い尽くされてしまっては元も子もないのは、メーザーも承知している。この宇宙生物には、地球とガミラスの戦力を食い尽くしてもらうだけで、惑星はなるだけ無傷にしておかねばならない。まずは、第11番惑星におけるメデューラ擬きの動きを見定めてからでも遅くは無い。

「我が軍には、火焔直撃砲がある。インフェルノ・カノーネもある。これで化け物共々、地球軍もガミラス軍も掃滅してやれば良い」
『了解いたしました、提督』

 それだけ言うと、コズモダートとの通信を終える。メーザーは、5000万q先に浮かぶ太陽系に目を向けると、口角を少し釣り上げた。

「地球も、これで見納めだな」

 自軍の勝利を疑うことなく、メーザーは全軍にワープの準備を命じるのであった‥‥‥。




〜〜〜あとがき〜〜〜
 第3惑星人です。第2章、如何でしたでしょうか。これでも半分に届きません。まだ2部は必要かもしれません‥‥‥。
 本来、初期プロットでは、ガトラティスを登場させる予定は毛頭無かったのですが、2202の世界感を使っている以上、ガトランティスも出てきてもいいんじゃない?とかいう割り切っていたようで割り切れてなかった―――要するに行き当たりばったりにより、短命だった第8機動艦隊を思い出し、どうせならば、と無謀にも登場させてしまいました。
 なんだかんだで余計なものを入れてしまったので、収集着くか心配ですが、完結できるよう、頑張りますので、よろしくお願いします。



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