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 土星沖海戦の幕は、ガトランティス軍誘導部隊と地球防衛軍守備艦隊の接敵から開けられた。
 この土星宙域外園で待機遊弋していた守備艦隊旗艦 ドレッドノート級〈デウカウリオン〉の艦橋にも、緊張感が張り詰める。

「前方30万kmにワープアウト反応」
「来たな。全艦戦闘準備!」

 防衛軍守備艦隊司令長官 尾崎徹太郎宙将補は身構える。太陽系全土の守備艦隊を統括する責任者であり、土星沖を決戦上にするに際して、彼自身も最前線に出てきていたのだ。尾崎は50代前半の男性士官だが、白髪に染まった髪と、カイゼル髭などにより、実年齢よりも重ねて見えてしまう。同期生もである山南と比較すると、一目見ると尾崎の方が年上に見られてしまう事が、しばしばあったものである。
 前方にワープアウトしたガトランティス艦隊は9隻。だが、その直後に現れた巨大生命体ドゴラの姿を目の当たりにすると、尾崎も発すべき言葉を失った。

「ドゴラ、ワープアウト!」
「こ‥‥‥これが、ドゴラか」

 エメラルドグリーンに輝く半透明なクラゲ状の巨大生命体は、ユラユラと不気味に揺れ動きながら宇宙空間を移動してくる。それを誘導するガトランティスの小艦隊も、失敗せぬようにと懸命になっていることであろう。だが地球側としては、このまま通す訳にはいかない。ガトランティスは無論、この得体のしれない巨大な生命体に、地球を喰われる訳にはいかないのだ。
 ドゴラのワープアウト後、さらに1隻の大型艦もワープアウトをする。例の転送システム搭載型のメダルーザ級だった。

「データベースと異なる模様。ですが、メダルーサ級に酷似しております」
「簡素化した感じだな。量産向けの艦かもしれんが‥‥‥」

 メダルーサ級特有の巨大な砲塔が無いところから、量産向けに特化した艦艇であろうことは見抜ける。と言う事は、間違いなく同型艦が存在するということだ。この簡易型転送システム艦を、現状では新たなデータベースとして登録し、メダルーサB級と呼称することとなった。

「ドゴラ、ガトランティスの小艦隊を追ってこちらに急速接近」
「機雷原に接触します」

 瞬間、先頭を航行していたラスコー級が突然火を噴いた。散布していた空間機雷に接触したのだ。これに続き、他の艦も機雷に接触して次々と火の手を上げた。当然のことながら速度は著しく低下することとなり、ドゴラの絶好の獲物と成り果てることとなった。触手に瞬く間に絡め取られると、そのまま体内へ取り込んでしまう。もはや、分断し細切れにしてから捕食するという手間も必要ない。駆逐艦程度は丸呑みで済んでしまう。
 ビームを恐れずに戦闘艦を捕食するドゴラを、初めて目の当たりにする尾崎は絶句した。敵の事とはいえ、これが自分らに向けられたらと思うとゾッとする。

「化け物だな、本当に」

 ドゴラは、機雷原に引っかかった誘導部隊を次々と引っ掴み、順々に体内へと取り込んでいく。その度に、少しづつ成長もとい膨張している様に思えた。本当に地球よりも巨大な生命体になるのではないか、と考えてしまう。
 当然のことながら、後方にいたメダルーザ級は、友軍が敵のトラップに掛かったことを知り、前進を止めている。このまま転送波を照射しようとしても、転送波の波長が整う前に自分が喰われてしまうだろう。誘導すべき艦を失ったメダルーザ級は、完全にその宙域に停止するや否、今度は後退を始めた。どうやら、ドゴラの動きを見定めているように感じられるが、或は、本隊の到着を待っているのであろう。驚異の1万5000隻という驚異の戦力が、この宙域に現れるのを。

「敵艦、大きく後退」
「ドゴラ、機雷原の補食にかかりました」

 その間、ドゴラは案の定、敷設されていた空間機雷に片っ端から食らい付いていく。エネルギーとしては、駆逐艦に比して小規模なもので、ドゴラの身体を成長させるには物足りない筈だ。それでも、触手を伸ばして機雷を掻き集めようとする。当然、機雷であるからして触れれば爆発する。その爆発するエネルギーを体内に取り込んでいくのは、もはや出鱈目に思える光景だ。しかも、触手で触れずとも、機雷を磁石の様にして吸い寄せていく。触れあった機雷が爆発すのも構わず、成長の糧としてしまうのだった。

「機雷原、7割が喰らい尽くされました!」
「予想以上に早い‥‥‥予定通り、囮を進発せよ」

 空間機雷の損耗率が余りにも早すぎる事から、段階をやや繰り上げての誘導作戦に移行した。守備艦隊の目前には、旧型の磯風改型3隻が並べられている。囮用として使う為に、乗組員を退去させており、後は指定されたルートを全力で航行するだけであった。その3隻の磯風改型は、プログラムに従って加速を始めると、一先ずはドゴラに向かって突進していく。後は攻撃して気を引きつけるだけだ。

「頼むぞ、食らい付いてくれ」

 尾崎は祈った―――が、彼の祈りは虚しくも裏切られる。

「敵メダルーサB級、高エネルギー反応!」
「!?」

 後退していたメダルーザ級が、突如として火焔直撃砲の発射態勢に入ったのだ。ドゴラを殺処分するつもりなのか、或は邪魔な地球艦隊をドゴラ諸共に始末する腹なのだろうか。ガトランティス兵にしか分からないが、兎も角、事実なのは火焔直撃砲の射線上に自分らがいるということだ。勿論、尾崎はメダルーザ級の転送砲撃を警戒し、艦隊間隔を広めにとっていた。後は重力振を観測し、回避するだけだったのだが、このタイミングで来るとは少々予想外だった。
 しかし、囮用の無人艦らは、尾崎の様なとっさの判断をしようもなかった。元々が有人仕様の駆逐艦だったのをプログラミングによって自動運行している。それだけに、後に製造された無人艦とは違うのだ。回避してくれるほどに利口ではない。
 とはいえ、ガトランティス側もドゴラの習性を知っていた筈だ。余計な刺激を与えて成長を促進させるつもりなのか、或は、あの転送エネルギー砲ならば勝てると思っているのだろうか。可能性としては、まったく0%ではないかもしれない。ゼルグート級を一撃で葬る程の超高熱のエネルギー流なのだ。ドゴラを焼却できる可能性は無いとは言い難い。
 それで上手く倒せれば良いが、結果はどうなることか‥‥‥。そう思った刹那。

「砲撃を観測!」
「全艦、回避運動!」

 尾崎の命令が跳び、守備艦隊各艦は一斉に回避運動を行う。だが、この砲撃は転送波を使用していない。直接による砲撃を実施したのだ。ドゴラという生命体が、囮部隊の射線上に存在したことから転送砲撃の正確さは低下してしまう。故に、敢えての直接砲撃を行い、ドゴラと無人艦―――あわよくば地球艦隊を纏めて殲滅してやるつもりだったのであろう。
 直接射撃された火焔直撃砲のエネルギー流は、まるで燃え盛る彗星が如く宇宙空間を疾走する。当然、ドゴラが最初の標的となった。灼熱の火焔は、機雷を捕食中だったドゴラを文字通り貫通せしめた。そもそも装甲とは迂遠の体質であり、貫通するのはいとも簡単なものだった。かつて、あらゆる艦を飴細工の様に溶かして捕食していたドゴラが、逆に飴細工の様に溶かされ、大穴を穿たれる。同時に、ドゴラの肉片も飛び散っていくのが分かったが、同時に身体がスパークしている事にも気づいた。エネルギーを採取する際に観測される現象だが、この火焔直撃砲もエネルギーとして吸収しているのだろう。
 尾崎の見る所では、吸収するよりも消滅する方が早い様にも感じた。

「ドゴラに直撃。さらに囮部隊への直撃コース!」

 言うが早いか、無人艦3隻が纏めて消滅する。当然、守備艦隊らにも牙を向くが、予め発射の様子が観測できたことから、回避は容易だった。守備艦隊は火焔直撃砲の通り道を避け、損害を出さずに済ませられた。

「我が艦隊の損外なし」
「ドゴラは!」
「‥‥‥敵の攻撃を受け、活動を一時停止ている模様!」
「停止‥‥‥効いているのか」

 安堵すべきか、落胆すべきか、と問われれば安堵するだろう。皮肉かもしれないが、敵の攻撃によってドゴラが倒し得るかもしれないのだ。
 しかし、ここで新たな変化が戦場に訪れた。

「司令、メダルーザB級の後方、多数の重力振観測―――いえ、そのさらに後方、倍以上の重力振!」
「本隊がおいでなすったか」

 途端、メダルーザ級の後方から、大規模な重力振が発生したかとも思えば、見たこともないような数の戦闘艦群が姿を現した。ガトランティス軍艦船特有の、三角リングが多重に重なるワープアウトの出口から、ヌゥッと巨大な艦船が姿を見せる。

「相変わらずデカイ‥‥‥!」

 データベースで見てはいたが、ガトランティス軍の主力艦は桁違いだった。カラクルム級戦闘艦は全長520mの艦体を持つ巨艦で、しかも主力戦艦として運用されているばかりか数も膨大だった。そのサイズダウンしたヴェーゼラ級戦艦でさえ、全長310mの艦体を持っていた。
 片や地球の主力艦であるドレッドノート級は全長250mとかなり小ぶりで、ガミラスの主力戦艦的な位置づけであるハイゼラード級で全長390m。ガイデロール級でも全長330mの巨艦だ。どうしても見た目で圧倒されてしまうが、ドレッドノート級は小さいからと言って侮れる存在ではない。小さな〈ヤマト〉と言っても過言ではない性能を持つ戦艦であり、火力も防御力もガミラスの戦艦の上をいくのだ。小柄なハードパンチャー型ボクサーというべき戦艦なのである。
 とはいえ、目の前に並ぶガトランティス艦隊の規模から見れば、如何に高性能な地球の戦艦とは言え多勢無勢なのは、一目瞭然であろう。

「敵先頭集団に変化あり。陣形転換の模様」
「ここで陣形を変える? 何をするつもりだ」

 ガトランティス軍第8機動艦隊の先頭集団の一部が、突然、陣形を変更する。とはいっても、ほんの一部艦艇群だった。カラクルム級戦闘艦10隻、ヴェーゼラ級戦艦15隻が、それぞれ組み合わさって五列縦陣に並んでいく。また一列に5隻―――先頭からヴェーゼラ級、カラクルム級、ヴェーゼラ級、カラクルム級、ヴェーゼラ級という配置で形成されていた。
 何を仕出かす気なのかと、尾崎は嫌な予感に捕らわれていた。そして、地球側本隊が到着したのは、折しもこの瞬間だった。

「土方総司令の本隊、ワープアウト!」
「来たか‥‥‥しかし、あれは‥‥‥」

 守備艦隊の後方に、620余隻もの連合艦隊が姿を見せた。尾崎は、それを知って安堵するものの、直ぐに状況を報告した。

「総司令に繋げ」

 一方のガトランティス軍第8機動艦隊は、同じタイミングで現れた地球艦隊を観測していた。旗艦〈メーザー〉の艦橋で仁王立つメーザーも、いいタイミングで地球・ガミラス連合軍が来てくれたものだと感心していた。今まさに放とうとしている光の矢を、連合軍にも浴びせてやる絶好の機会だったからだ。

「敵艦隊約620隻が出現!」
「格好の的だな」

 笑みを浮かべるメーザー。誘導部隊から緊急通信を受けて、生命体ドゴラの誘導がとん挫したことを聞いていた。さらに地球軍の先遣隊と思しき艦隊が立ちはだかっていることから、纏めて早期に殲滅しようと企てたのだ。敵が目の前にいる以上は、誘導作戦は意味をなさない。相手も利用する可能性があるからだ。この様な得体のしれない怪物に、永遠と構っている訳にはいかないメーザーは、潔くドゴラを殺処分する方針を固めたのだ。無論、地球軍の先遣隊も纏めてである。
 ドゴラは、火焔直撃砲の影響で身体を吹き飛ばされ、行動を凍結させていたものの行動を再開する。ただし、風穴を開けられた影響か、ドゴラの体長は数周りほど小さくなっているようにも思えた。
 火焔直撃砲が効いている証拠だろう―――メーザーは確信し、続けて“インフェルノ・カノーネ”で散り散りにしてやろう画策していた。このインフェルノ・カノーネとは、カラクルム級の持つ特殊な砲撃システム“雷撃旋回砲”を応用した戦術だった。雷撃ビットと呼ばれる超小型のビットが、大量に艦外射出されると、それらはリング状に展開して艦の周囲を囲む。本体であるカラクルム級のエネルギーを供給し、そのビットから細やかなビームを放出するのだ。それもガトリング砲と見紛うばかりの連射力で、まるでビームのシャワーかと思ってしまうものだ。これを浴びれば、大抵の艦は蜂の巣にされ、耐え兼ねて撃沈する。
 そして、この砲撃システムを、複数艦で連携して行うのがインフェルノ・カノーネである。各艦が一列縦陣に並び、その周囲を複数のビットリングで取り囲む。次にエネルギーを最大限に供給しあう事で、雷撃ビットの威力を倍加させる。最期は、一列に並んだカラクルム級を覆う程の強力なビームの束が、艦列の先頭で最大限に集約されて放たれるのだ。つまり、一列に並ぶカラクルム級は、雷撃ビットのリングから放たれるビームの嵐の中心に位置する為に、一撃で廃艦となる―――使い捨て戦法なのだ。地球人やガミラス人では考えられない戦術だった。
 後に、カラクルム級の消費量を減らしつつ、その代替艦としてヴェーゼラ級戦艦が、インフェルノ・カノーネのエネルギー供給に使われるようになっていた。

「インフェルノ・カノーネの陣、整いました」
「化け物共々、宇宙の塵に成り果てるがいい」

 縦列陣を形成し終え、エネルギーを雷撃ビットに充填するインフェルノ・カノーネの陣。そのエネルギーの集約に敏感に感じ取ったドゴラは、回復し終えると瞬く間にガトランティス軍第8機動艦隊へ向けて、突進を始める。しかし、ドゴラがガトランティス軍に到達するよりも早く、インフェルノ・カノーネはエネルギーの充填を終えた。
 滅びの光が、ドゴラと連合軍に向けて放たれる。

「殲滅」

 メーザーの一言で、各インフェルノ・カノーネの陣から、ビームと言うにはあまりにも幅広い、光の矢が解き放たれた。それは、密集していれば80〜100隻は纏めて蒸発させるであろう程の太さであり、それが5発同時に発射されている。加速しつつあったドゴラを真面に直撃することになり、この宇宙生命体を飲み込むには十分だった。一気に光の波に呑み込まれたドゴラは、散り散りになってしまった。
 当然、今度は連合軍に向かって襲い掛かることになるが、残念ながら連合軍には届くことは叶わなかった。着弾するかと思われた瞬間、連合軍の真正面もとい先遣艦隊の正面に青白い歪みのようなものが発生した。その歪みに引き寄せられるようにして、インフェルノ・カノーネは直撃したのだが、何と謎の歪みにビームを遮られてしまったのだ。

「生命体消滅。しかし、敵艦隊への直撃はありません!」
「ぬぅ」

 謎の空間の歪みが盾となって、攻撃を無効化されたことに驚きを禁じ得ないメーザー。初めて見る防御方法だったのだ。まして、星の地表を深く抉る程の威力がある攻撃を防いだのは、一体何であったのか。彼の疑問に応えてくれる者は誰もいなかった。

「ならば、火焔直撃砲で蹴散らしてくれる。重砲隊、前へ!」

 次の手として、メダルーサ級、メダルーザ級ら重砲隊がやや前進する。今度は火焔直撃砲で蹴散らそうと考えたのだ。
 ところが、それよりも早く、連合軍側からの行動が観測される。

「提督、転送波が安定しません」
「何?」
「強力な干渉波が放たれているようです。これでは、直接射撃しか行えません」
「干渉波‥‥‥だと」

 これではメダルーサ級らの利を生かせないではないか‥‥‥そう思ったのも束の間、動いたのは連合軍であった。
 ガトランティス軍によるインフェルノ・カノーネを防いだ連合軍将兵は、思わず肝を冷やしていた。

「グラビティフィールド、敵エネルギー砲を防ぎました。全艦に損害なし」
「うむ」

 総旗艦〈ゼウス〉艦橋で、落ち着き払った様子で報告する翁川二佐に、総司令官土方宙将は頷く。尾崎の緊急電が無ければ、防ぎきれなかったかもしれない。
 インフェルノ・カノーネを防いだのは、アンドロメダ級に装備される重力子スプレッドと呼ばれる兵装だった。艦首の左右上下部に計4基備え付けられているもので、普段は装甲板と一体化する形で格納されている。使用時には、迫り出す仕組みになっていた。此処から発射された光弾は、一定の距離で巨大な重力場に変化する。強力な重力を持つ為、ビームは貫通できず遮られてしまうが、使い用によっては莫大なエネルギーを集約する役目を持っていた。アンドロメダ級5隻とZ級1隻から発射された重力子スプレッドは、広範囲に渡ってグラビティフィールドを形成し、インフェルノ・カノーネを防いだのだ。
 地球防衛軍とガミラス軍の到着で、連合軍の陣容は整った。尾崎率いる守備艦隊も本隊に合流し、一戦力となっている。配置としては、中央集団に、土方を中心とした第1連合艦隊(直属艦隊、第2艦隊、第5艦隊、守備艦隊)が並ぶ。左翼集団には、山南を指揮官とする第2連合艦隊(第1艦隊、第3艦隊、第4艦隊、護衛艦隊)が配置される。右翼集団には、バレルの指揮するガミラス艦隊が配置されていた。
 そして、気になるドゴラだったが、地球側でもその存在を感知する事はできなくなっていた。

「ドゴラ、消滅した可能性大」
「倒された?」

 神崎からの報告に、早紀は訝し気になる。倒されたら、それはそれで構わないのだが、エネルギーを底なしに食い尽くすドゴラが、果たして消滅しえるだろうか。土方も艦長席に座りつつも、目前の宙域を睨んでいた。
 だが、いつまでもドゴラを気にしてはいられない。次は、こちらの番である。一時的にドゴラの事を思考の隅に寄せると、土方は命じた。

「全艦、拡散波動砲発射用。目標、前方のガトランティス艦隊」
「拡散波動砲発射用意。波動エネルギー急速充填。目標、ガトランティス艦隊」

 土方の命令に応じ、早紀三佐が復唱し〈ゼウス〉自身の波動砲戦準備に入る。〈ゼウス〉は試験的に装備された四連装波動砲を持つが、システムが何処まで着いていけるかは分からない。戦術長兼航海長席に座る神崎のディスプレイには、戦術AIが次々とガトランティス艦を補足していくのが、リアルタイムで表示されていく。一気に100隻を超えると、200隻‥‥‥300隻‥‥‥400隻、と一気に数値が上がっていく。この時、僚艦の標的と重複しないように、マルチロックシステムが作動していた。効率よく破壊するために、AIがフル稼働しているのだ。
 同時に、ガトランティス軍側も新たな動きを見せている。メダルーサ級、メダルーザ級らが砲撃体制に入っていくのが確認された。不味い―――翁川は口に出しそうになった。波動砲戦の態勢に入っている地球艦隊は、無防備も同然である。ガミラスの壁が機能している以上は、相手は転送砲撃が出来ない筈だが、発射できないわけではない。あくまでも、転送をさせないように妨害しているに過ぎないからだ。

(直接射撃されたら‥‥‥)

 だが、彼の心配は杞憂だった。地球防衛艦隊の新型波動砲は、従来よりも速く充填可能な急速充填システムがあり、波動砲を始めて装備した〈ヤマト〉よりも短い時間で充填が可能だからだ。無論、火焔直撃砲もエネルギー充填という点では負けず劣らずだったが、今回ばかりは地球防衛軍側の行動が時間的に機先を制していた。

「波動エネルギー充填完了」
「全艦のエネルギー充填、完了しました」

 躊躇うことなく、土方は砲撃を命じる。

「拡散波動砲、発射!」

 瞬間、〈ゼウス〉の艦首が眩い光を放った。次の瞬間には4本の波動砲が砲口から吐き出され、宇宙空間を疾走したのだ。同時に、他のアンドロメダ級、ドレッドノート級、そしてザラ級も交じっての波動砲一斉射が行われていた。漆黒の宇宙空間を照らし出す波動砲の束は、迷いなくガトランティス軍を串刺しにした。巨艦カラクルム級を真正面から貫通し、ヴェーゼラ級を飲み込み、その他艦艇も跡形も無く呑み込んでいったのだ。
 この攻撃で、第8機動艦隊は前衛から中衛にかけて約1万隻を完全消失し、約2000隻が余波を受けて大破、約1000隻が中破または小破していた。

「敵艦隊の8割が消滅。残り3000隻あまり」
「カタログスペック通り、という所ですね。長官」
「気を抜くな。奴らはこちらの4倍残っているぞ」

 3000隻に激減したとはいえ、670隻(先ほどの守備艦隊含め)の連合艦隊からすれば、まだまだ脅威である。しかも、これ以上の波動砲は撃たせようとはしないだろう。当然、今度は直接の砲雷撃戦となる。損害は当然ながら出てくるだろう。これを如何にして小さく抑え、敵の出血を強いるかであった。此処がまさに正念場と言えるだろう。

「全艦砲雷撃戦用意。敵艦隊を正面から迎え撃つ」
「砲雷撃戦用意。火器管制オンライン」

 〈ゼウス〉の指揮AIは命令に反応し、ひとりでに砲雷撃戦の準備を完了させる。

「ガミラス旗艦より、盾が展開されます」
「盾のコントール権、〈ゼウス〉へ移る」

 〈ガミラス臣民の壁〉は、通常のビーム兵器は無論、火焔直撃砲にも耐えうる設計を受けた防御兵器だ。これが計6基もあり、その内の4基は地球軍の中央集団と左翼集団の各旗艦へ2基づつコントロールを移された。残る2基は、バレルの座乗艦に継続して残されている。2基の盾を、左右かつ斜めざまに配置する形となっているが、これにより自身の攻撃を盾で塞いでしまうことは無い。
 ガトランティス軍の攻撃を万全の構えで待ち受ける一方、そのガトランティス軍は大損害を受けて混乱の極みにあった。

「先頭集団、消滅。中央集団、壊滅状態!」
「我が軍、残り3000あまり」
「馬鹿な、あの大砲を、地球は大量に備えていたというのか‥‥‥!」

 メーザーは呆然としていた。後衛に位置していたメーザーや、空母部隊を預かっていたコズモダートらは、嘉禄も消滅と言う事態を免れていた。それでも、彼らが受けた衝撃は並々ならぬものであったのは、想像するのに無かった。〈ヤマト〉の波動砲を知ってこそいたが、地球軍の全艦にこれほど多くの波動砲の改良型が存在するとは予想外だったのだ。たった一撃で1万隻以上を失ってしまったとはいえ、ガトランティス軍史上、初めての快挙であろう―――無論、悪い意味での快挙だが。
 ガトランティスなら、戦って死ぬのは当たり前だが、こんな屈辱的な負け方は許されない。何としても、連合軍を蹴散らしてみせねば!

「敵艦隊の大型艦に狙いを定め、火焔直撃砲を斉射せよ!」
「ですが、あの壁が邪魔となりますが‥‥‥」
「構わん、あのふざけた壁ごと消してしまえ!」

 見掛け倒しに過ぎない。火焔直撃砲なら、あれを貫通できる筈である。冷静さを欠いたメーザーは、考えもせずに火焔直撃砲の斉射を命じた。
 しかし、現実は彼の願望とは掛け離れたものとなる。火焔直撃砲は、地球軍艦隊の各旗艦並びにガミラス軍旗艦を狙ったが、〈ガミラス臣民の壁〉が貫通を拒んだのである。一枚板と舐めてかかっていたメーザーは、火焔直撃砲が無効化されていた事に衝撃を受けた。火焔直撃砲が効かないとなれば、次にまた、あの大砲の乱れ撃ちが来るとも限らない。
 残された手段は、数の利を生かしての正面決戦しかなかった。あの大砲を撃つ暇が無いほどの、絶間ない砲撃を浴びせて戦力を削り取ってやれば良いのだ。
 手始めにコズモダートを呼び出し、彼には艦載機部隊での攻撃を命じた。

「第5部隊は艦載機を全て出し、敵を上下から波状攻撃で擦り減らすのだ」
『御意』
「本隊並びに第2部隊は正面より突撃。第3部隊、第4部隊は、敵が乱れたところを、左右より挟撃。もって、包囲殲滅する!」

 大損害を受けたことを受けて冷静さを欠いたとはいえ、メーザーは指揮官としての手腕を確かに有していた。数の利を効率的に生かせるよう、艦隊を動かしていったのだ。
 彼の指示を受けたコズモダート率いる空母部隊は、直ぐに艦載機デスバテーターを飛ばし、連合軍に攻撃させた。

「上下より波状攻撃を仕掛け、敵艦を削り取れ」

 旗艦〈コズモダート〉で、リベンジ戦に燃えるコズモダートも必死だったと言えよう。直属上官であるメーザーの敗北は、決して他人事ではないからだ。無論、コズモダート自身も、ドゴラの介入と地球軍、ガミラス軍の攻撃により大損害を受けた屈辱的思いがあった。それだけに、このまま負け戦ともなれば、自分も無能者の烙印を押されてしまいかねない。
 コズモダートは必至の形相で連合軍に艦載機隊を差し向ける。

「敵艦隊から、多数の艦載機が射出された模様」
「恐れるな。我らガトランティスに後退などありはしない。刺し違えてでも倒せ!」

 ガトランティス軍艦載機部隊約1200機と、連合軍艦載機部隊約450機は、宇宙空間という広大なバトルフィールドでぶつかり合った。
 そのデスバテーターの第一波1200機余りが、まさにイナゴの大群が如き威容で襲い掛かる。デスバテーターは機動面でこそ劣るものの、機首側の機銃だけでなく機体背面に小型の速射砲塔を備えており、後背からの襲撃に対応が可能であった。後背か要ら襲い掛かろうとする敵機に対して、弾幕を張りつつも目前の標的を追い回し、撃墜しようと躍起になる。
 地球軍は、敵艦隊の空母数と射出された艦載機数比率から計算し、自軍とガミラス軍の全力出撃を避けて半数を出撃させていた。地球の主力戦闘機コスモタイガーUは、火力、機動性、加速性、共にもう申し分のない機体である。全体的に高性能と言っても差支えなかったが、如何せん、新人パイロットの比率の方が多い。かのガミラス戦争でベテランパイロットが失われたからだ。生き残りのパイロット達は、心を鬼して新人パイロットを育成する事に尽力したが、飛行経験がまだ3年未満あるいは1年未満のパイロットが割合を占めている。それでも互角に辛うじて戦えるのは、機体の性能のお蔭と言えよう。
 片やガミラス軍のデバッケは、長年ガミラスの主力艦載戦闘機として運用される機体であり、性能はコスモタイガーUに劣るものの、まず良機と言えた。また格闘戦闘機ツヴァルケも、全戦線で配備されるようになってきた強力な機体だった。ガミラス駐留軍のパイロットは、中堅と新人が半々を締めていることから、デスバテーターを相手に互角に戦えた。
 また、連合軍は艦隊の火力も投入してデスバテーターの撃墜を試みる。先ほど使用した重力子スプレッドを用いて、敵艦載機群の目前にグラビティフィールドを作り出して撃墜し、その他ミサイル攻撃で撃ち落とす。それで掻い潜るデスバテーターには、コスモタイガーUとデバッケ、ツヴァルケが迎え撃つ。
 上下空間での激しいドッグファイトが繰り広げられる最中、艦隊も砲火を交えていった。

「地球軍もガミラス軍も諸共、押し潰せ。正面から粉砕するのだ」

 メーザーは、数の利を活かしての突撃戦を仕掛ける。

「ガミラスの盾と波動防壁を活用して防御壁を築き、残る艦は敵の先頭集団を切り崩せ」

 連合軍中央集団の土方は、防御手段を有効に活用した防御陣を構築し、真正面から迫るガトランティス軍を迎撃する。

「敵の艦列は奥行きがある。焦らず、目前の標的に集中しろ」

 連合軍左翼集団の山南は、敵の艦列が奥深く続いている事から、下手して奥の艦を狙うことなく、目前の敵艦撃破に専念させる。 

「敵に比して、我らは少数だ。砲火を集中し、敵を切り崩す」

 連合軍右翼集団のバレルは、数少ない砲火を分散するより、集中運用すべきだと理解していた。特にカラクルム級の装甲も案外馬鹿にならないもので、とかく集中してやれば撃沈させることは可能だった。ガミラス軍の赤い陽電子ビームが、集中してカラクルム級に叩きつけられ、赤い紅蓮の炎に包まれていく。無論、その報復もあり、ガミラス軍の中小艦隊が数隻爆沈していくのだ。
 正面からの衝突となった両軍の砲火は、凄まじいまでのエネルギー流を生み出した。数千隻単位の艦隊戦によって解放されたエネルギーは、互いを傷つけあう。巨艦が砲火の乱れ撃ちによって火だるまになって撃沈し、一方で小型艦は一撃で吹き飛んでいく。沈め、沈められの関係を、短時間ながらに繰り返していく。時折、火焔直撃砲も混ざるが、重力子スプレッドで妨げられてしまう。それでも3000隻規模の砲火の嵐は驚異的で、連合軍艦船にダメージを与える。
 だが、この両軍から解放された膨大なまでのエネルギーは、両軍ともに気付き得ない程の最悪の事態を生み出す温床となったのだ。
 その変化が訪れたのは、砲撃戦に突入して15分程だった。真っ先に気付いたのはガトランティス軍であり、先頭集団の変化から始まっていたのだ。

「メーザー提督。先頭集団の損害が拡大します」
「拡大だと?」

 先頭集団が、次々と航行不能または戦闘不能になっていく。それは戦闘による影響ではないようで、突然にして機関のエネルギーが減少する事態が頻発しているのだという。あまつさえコントロール不能に陥り、他の艦艇に接触するという事態に陥っている。あまりに無様な事態に憤慨するメーザーだったが、突然の戦闘不能や航行不能は有り得ないと考え直す。地球軍やガトランティス軍の新たな攻撃か、と不審に思った。
 しかし、敵からの何かしらの攻撃らしいものは探知されていない。ならば、何か‥‥‥。

「て、提督!」
「どうしたのだ」

 突然にして声を上げた副官に、メーザーは鋭い視線を向けながら訪ねた。言葉を詰まらせる副官だったが、一瞬の間を置いてメーザーに報告する。

「生命体反応、多数感知! およそ5000‥‥‥いえ、それ以上!」

 その報告に、今度はメーザーが言葉を詰まらせた。



U




 ガトランティス軍の突如としての陣形の乱れは、当然のことながら正面に展開する連合軍の知るところであった。ガトランティス軍の先頭集団が、次々と攻撃を停止させていくだけではなく、力なく浮遊を始めていく。敵を目の前にして攻撃しないばかりか、無気力に支配されたが如く漂うガトランティス艦に、連合軍将兵は驚きを禁じ得なかった。
 無論、それを好機と捉えて攻勢に出ない理由などありはしない。

「陣形の崩れた艦列に、砲火を集中せよ」

 第2艦隊司令官 谷宙将補は的確に指示を飛ばしていく。合理主義に傾倒するだけあって、その瞬間を的確にとらえての効果的な攻撃は、ガトランティス軍先頭集団に確実なダメージを与えていった。ショックカノンの嵐が、カラクルム級を滅多打ちにしてバラバラにする。ヴェーゼラ級も粉砕され、その他中小艦隊は跡形も無く破壊されていく。面白い様に敵艦を撃ち減らしていった。
 片や、ガトランティス軍に疑問を抱く者もいる。

「トラブルでもあったか? あるいは誘い込む罠‥‥‥にしても、出来が悪すぎる」

 第4艦隊司令官 仁科宙将補は、あまりの不自然さに、思わず顎に手を当てて考え込む。先ほどまでの数を頼みにする威勢は何処へ行ったのか。

「航空隊は、引き続き敵艦載機を牽制。我が艦隊も、敵の混乱に乗じて砲火を集中せよ」

 第5艦隊司令官 富山宙将補も、その不自然さに気付いていたこそすれ、利用しない手は無いと言わんばかりに攻勢に出る。
 このように、ガトランティス軍の不可解な陣形の崩れを見逃す連合軍ではなく、一気に砲火が集中され、次々とガトランティス艦は撃破されていった。しかも、それに比例するかのようにして、ガトランティス軍先頭集団の陣形の崩壊は、速度を増していく。見る見るうちに、動かぬ棺桶になっていったのだ。
 ガミラス軍でも、予期しない陣形崩壊に戸惑いを覚える。特に、戦火を交えたことのあるリッケやバーガー等は、素直にチャンスだと見なかった。

「なんだ、あいつらは船の維持も真面に出来ねぇのか」

 バーガーは口で小馬鹿にしつつも、油断はしなかった。

「シャンブロウの敵と比べて、非常にまとまった敵だと感じたのだけれど‥‥‥どうしたのよ、一体」

 第11番惑星の経験から、有り得ない崩壊ぶりに怪訝な表情を作るリッケ。
 地球防衛軍総旗艦〈ゼウス〉自身も、崩壊する先頭集団に向かって砲火を叩き込んでいた。アンドロメダ級と同等の40.6pショックカノン砲塔や、空間魚雷が次々とガトランティス艦をデブリに変えていくのだ。AIの自律制御は、人間の様な手加減と言うものを知らないと言わんばかりに、動けない艦を狙い撃っていく。
 〈ゼウス〉艦橋で、翁川が戦況を報告する。

「敵先頭集団、陣形さらに乱れる」
「‥‥‥どうなっている」

 翁川の報告に、土方は機会が巡って来たのかと思ったのだが、直ぐにその可能性を掻き消してしまった。あれだけの戦力を持ち、しかも自らを使い捨ててまで攻撃するガトランティス軍が、そう簡単に乱れを作ることなど有り得ようかと考えたのだ。艦橋の天井スクリーンにアップされた、混乱する先頭集団の様子を見た土方は、他の指揮官同様に乱れ方に不可思議な点があることに気付いている。

「これは、チャンスなのでは?」
「いえ。この乱れ方は異常です」

 翁川は、チャンスとして一気に攻勢に出るべきかと具申するが、神崎が待ったを掛けた。何がおかしいのか、と真横に座る神崎を見返す翁川。
 今度は早紀が口を開く。

「敵機関部に異常が発生したと考えられますが、こうも連鎖的に航行不能になるとは考えにくいです。まるで―――」
「―――ウィルスに感染したかのような現象だ」

 沈黙していた土方が口を開いた。

「翁川、敵艦隊内部をスキャンしてみろ」
「りょ、了解!」

 何が起きているのか翁川には分からないが、言われた以上はスキャンを行って状況を把握しなければならない。そのスキャンはものの数秒で済み、結果があっという間に出された。スクリーンに投影されるガトランティス艦隊の先頭集団の表示の他に、異なる反応が無数に表示されていく。AIによると、これらの反応は明らかに戦闘艦のものではないとし、生命体反応だと答えを出していた。生命体の群れは、ガトランティス艦に纏わりつき、次々とエネルギーを奪い行動不能にしていくのだ。しかも、それに比例するようにして、生命反応が強くなっていく。
 つまりこれは‥‥‥。

「ドゴラ!」
「これが、全部‥‥‥ドゴラ」

 翁川は驚愕し、早紀も険しい表情を作る。

「ドゴラは、消滅したんじゃない。敵の攻撃で分裂を起こしただけだ!」

 ドゴラの危険性を認識していた土方にしても、予想以上の生命力と増殖力を目の当たりにして警戒感を強めざるを得なかった。これは宗方博士の忠告が的を得ていたという事だろうが、一刻も早い対策を取らねばならない。幸いにして、連合軍側はドゴラによる損害を受けてはいなかったが、いつドゴラがこちらにも牙を向いて来るか知れたものではない。

「全軍、敵艦隊を牽制しつつ距離を取れ。分裂したドゴラを紛れ込ませるな」
「しかし、それではガトランティス軍の攻勢を招くのでは‥‥‥!」

 あり得る話だ。下手に後退すればガトランティス軍の突撃を招きかねない。だが、現にガトランティス軍はそれどころではなかった。行動不能に陥った先頭集団の艦艇が、後続の艦の針路を妨げる形となり、おいそれと突撃できるような状況になかったのだ。しかもガトランティス軍は、ドゴラが著しく分裂した宙域に自ら足を踏み入れてしまった。抜け出そうにも簡単にはいかないだろう。
 むしろ連合軍は、これを機に一気に後退するチャンスとも言えた。土方は、その状況を見て判断し、確実に後退できると踏んだのである。

「敵はそれどころではない。もし強引に迫るなら、そこに砲火を集中して対応すれば良い。急げ、モタモタしていると、我々が餌食にされるぞ!」

 土方の命令を受けた連合軍は、陣形を維持しつつも後退を開始する。艦載機隊も徐々に後退を始め、ドゴラの餌食とならないように安全圏に下がっていく。
 まだまだこれからだという矢先の後退命令に、不満を燻らせる指揮官も少なからずいた。

「チッ。真面に戦わねぇ内に後退か」

 バーガーは、その代表格だが、聞き分けがなかった訳ではない。戦うのは軍人としての本分であり、血の気が多いバーガーも状況を理解していた。まして、ガトランティス艦隊が成す術も無く捕食されていく様を、まざまざを見せつけられてはどうしようもない。刺激すれば、刺激するだけ成長する相手を戦うのは無謀だ。

「ったく、面倒な奴だぜ」

 悪態をつくバーガーは、煮え切らない気持ちのまま艦隊を後退させる。無論、敵に付け込まれぬよう、整然と、そして規律正しい砲撃のローテーションを付け加えたもので、強引に突破しようとしたガトランティス艦数隻を粉砕した。もっとも、ドゴラによってコントロール不能に陥りかけた艦艇ばかりだった。それでも気を抜けば、ドゴラを纏わりつかせたガトランティス艦隊に肉薄され、今度は連合軍もドゴラの餌を化してしまうだろう。
 ガトランティス軍は、先頭集団からじわじわと損害を増やしつつあり、ドゴラの対応に苦慮していた。もはやパニックに近いものがあり、真正面の連合軍とドゴラと、どちらをも相手にしなければならない事態である。予想外の乱入者によって、第8機動艦隊残存兵力は約2500隻にまで一挙に減っていた。連合軍の砲火も強力だったとはいえ、無数に分裂したドゴラの旺盛な食欲の前に、ガトランティスも成す術を持たなかった。ビームを浴びせれば、寧ろ活性化し、成長し、強大になってしまう。

「あんな奴の為に、我が第8機動艦隊が‥‥‥」

 メーザーの神経は焼き切れる寸前にあった。辛うじて彼の座乗艦まで、ドゴラは侵食してきてはいないのだが、放っておけば自分も巻き込まれてしまうだろう。
 しかし、それよりもメーザーにとっては、屈辱を二度に渡り味わう事の方が余程に重大な問題であった。連合軍こと地球軍の波動砲で大損害を被り、あまつさえ、今度は得体のしれない生命体によって艦隊が捕食されているのだ。加わって連合軍の砲火が、ガトランティス軍の損害に拍車を掛けていく。
 碌に戦わずして損害ばかりを増やしている現状に、メーザーは完全に冷静さを失っていた。

「予定を繰り上げる。第2部隊は留まり、第3、第4部隊は大きく迂回して敵軍の側面から叩く!」

 もはや前衛の第2部隊は使い物にならない。潔く切り捨てて、メーザーは両翼に配置していた第3・第4部隊を全力で迂回させる。約1200隻のガトランティス軍両翼部隊は、艦列を大きく乱しながらも、後退中の連合軍へ襲い掛かったのである。
 連合軍側も、ガトランティス軍の無謀極まりない行動に驚くが、兎に角は冷静に対処を心掛けた。特に敵の側面から切り込むことを待っていたバーガーなどは、ドゴラを迂回して突撃してくるガトランティス軍を見て、寧ろ待っていたと言わんばかりであったくらいだ。向こうから追撃してくれるというのだから、これを迎え撃たない理由は何処にもなかった。
 連合軍右翼に位置するガミラス軍を率いるバレル少将は、右前方から迫るガトランティス軍左翼こと第3部隊に対し、ミサイルの斉射で報いた。

「敵艦隊の先頭にミサイルを集中して浴びせるのだ」

 発射された空間魚雷やミサイル群は、航跡をたなびかせながら疾走するガトランティス軍第3部隊へ真正面から着弾した。先頭を突き進んでいた駆逐艦や巡洋艦は、無論これに反応して迎撃を始めたものの迎撃しきれず、艦体は木っ端微塵に吹き飛ぶ。後続の艦は、前方の艦がどうなろうと構わずに突っ込んでいくが、爆炎を突き抜ける前に新たなミサイル群が姿を見せ、次なる犠牲者となっていった。
 反対側の連合軍左翼こと地球軍第2連合艦隊は、山南の咄嗟の対応によって、ガトランティス軍右翼部隊こと第4部隊の出鼻をくじいた。手始めにアンドロメダ級の重力子スプレッドで重力の壁を作り、そこに突っ込んだガトランティス艦が立て続けに自壊する。それを迂回する艦隊に対し、新たな砲火が浴びせられた。

「重力子スプレッドを迂回する敵艦を狙い撃て」

 旗艦〈アンドロメダ〉の砲火に倣い、他艦も一斉に主砲と空間魚雷、ミサイルを連続斉射する。陣形を大きく乱し、満足のいく砲火すら成し得ないガトランティス軍第4部隊もまた、第3部隊と同じく数を減らしていくだけだった。さらに、分裂したドゴラの群体が、第2部隊をおおかた喰らい尽くすと、次に迂回するガトランティス艦隊に反応し、一斉に襲い掛かり始めたのだ。これまた予想外の乱入者に予定を狂わされるガトランティス軍。
 結局、第2部隊と同じ運命を辿りつつあるガトランティス軍第3・第4部隊は、艦列後部をドゴラに喰われ、前列は連合軍の集中砲火を受ける羽目になった。
 目も当てられぬ惨状に、言葉どころか息すら忘れるメーザー。

「馬鹿な‥‥‥馬鹿な‥‥‥」

 旗艦〈メーザー〉艦橋で身体を強張らせるメーザーは、ようやくそれだけの言葉を発した。まるで壊れた録音機の様に、言葉を発する。
 そこへ、コズモダートから通信が入った。

『提督。ここは、一端後退を』
「コズモダート‥‥‥」
『このままでは、むざむざ兵力を消耗させるだけなのは、明らかです。ここは一度退き、あの化け物が地球軍を喰らうのを見計らいしょう!』

 コズモダートの言う事は、この状況下においては最前の提案だった。ドゴラによって無駄な消耗を強いられ、真面な戦闘も叶わない以上、戦い続けても意味はない。如何に自分らが戦闘の消耗品と自覚しているとはいえ、あまりにも悲惨な結末で消え去るのは納得がいかなかった。コズモダートも一度は屈辱を味わい、メーザーの計らいで粛清されずに再戦を認められた。地球軍に一矢報いる為にも、ここはメーザーを説得して、戦士として死ぬ為にも後退を提案したのである。
 部下からの提案に、メーザーは直ぐに答えを出せなかった。知将として名を馳せると同時にプライドも高いメーザーは、この無様な戦闘に納得できないとはいえ、退けば無能者の烙印を押されることを恐れたのだ。

『提督、我が方は、まだ1200余りの兵力が残されております。化け物相手に疲弊した敵軍を葬るには十分! どうか、ご再考を!』
「‥‥‥わかった」

 懸命の説得に、メーザーも折れた。どの道、自身は無能者の烙印を押されることは疑いない。ならば、死ぬまでとことん戦ってやろうではないか。死に物狂いになったガトランティスの意地を見せつけてくれる。メーザーは拳をこれでもか、と握り締めた。撤退と言う屈辱的な行為を甘んじて受け、必ず戦闘で一矢報いてやるのだ。彼は心に誓って、残存艦に命じた。

「全艦、一時後退。あの化け物との距離を置く」

 再戦を望みつつ、メーザー率いる残存艦隊は戦線の離脱を開始した。
 その様子を受けて、連合軍側では多少の安堵感はあったものの、目の前に映る驚愕の光景を見てしまうと、安堵感など何処ぞへ吹き飛んでしまうのである。

「ガトランティス残存艦隊、戦線を離脱する模様。しかし―――」
「ドゴラは残されたままだ」

 総旗艦〈ゼウス〉で険しい表情を作る土方も、このドゴラの対処を考えあぐねる。
 今やドゴラは、数えるのも馬鹿らしい規模に分裂していた。しかもガトランティス艦を捕食した結果、あっという間に成長している。無論、それだけが原因ではない。これらドゴラの群体が漂う空間を、双方の軍が放ったビームとミサイルの豪雨が通過したことから、知らぬ間に栄養を投下していたのである。手加減なしに放り込まれたエネルギーを好き放題に摂取したドゴラは、もはや手の付けようが無いほどに増え、成長し、今度は連合軍に襲い掛かろうとしていた。
 そんなドゴラの群体に歯向かおうとする者など、連合軍にはいなかった。先のガトランティス軍が良い様に襲われていたのを見れば、自分らがどうなるのか明らかであるからだ。
 できることはただ1つ。ドゴラの群体から離れることだったが、問題も同時に生じる。つまり、ドゴラが拡散してしまう事だった。今は、この宙域の残骸などを捕食しているが、それを食い尽くしたドゴラが何処へ向かうか知れたものではない。

「厄介ですね‥‥‥」
「奴らが群れで行動してくれれば良いが、バラバラで動かれたら始末に負えん」

 ところが、ドゴラ群体の活動が著しく活発化した。何をするのかと警戒感を強める土方だったが、群体の動きを理解した途端に何度目か分からぬ驚きに目を見張った。それは、多くのドゴラ群体らが、各ポイントに集結を始めたのだ。集結するドゴラ群体は、まるで水滴のように結合していくのである。

「融合‥‥‥いや、再結合している!」
「分裂できる生命体である以上、再結合も不可能ではないですが、これは‥‥‥」

 早紀も神崎も、初めて見る生命体の活力には驚きを禁じ得ない。分裂し、結合し、そしてまた分裂する‥‥‥しかも、各分裂体も成長し、結合すれば、それだけ巨大化するのだ。このままでは、本当に惑星を丸ごと呑み込んでしまかねないだろう。だが、逆の見方をすれば、ドゴラが一ヵ所に集中してくれれば監視する手間が省けるということだ。
 そう思う内にドゴラは磁石の様に集まり、結合を繰り返していくと、瞬く間に体長約6qにも巨大化していった。足の長さを含めば12〜13qは下らない長さとなろう。それが、クラゲの様に触手をふわふわと浮遊させているのである。不気味に発光するエメラルドグリーンの身体に、誰もが目を奪われる。

「ドゴラ再集結。測定結果が出ました。体長‥‥‥6q、触手を含めて12.5qにもなります!」

 翁川がコンソールを操作し、出された結果を読み上げたが、彼自身も驚愕せざるを得なかった。

「これほどの巨大化‥‥‥例のガス状生命体の特性が発揮されていると考えられます」

 ドゴラの巨大化が、ミルベリアルスの持つ自己増殖機能から来ていることを見抜く神崎。

「如何なさいます、長官?」

 そして、早紀が指示を請う。生命体の範疇を超えているであろうドゴラを睨めつける土方だが、手の出しようもない現状では、警戒して見張る事しかできなかった。
 だが、ドゴラの驚異的な能力が襲い掛かったのは、まさにこの時であった。〈ゼウス〉が突然にして前方へ流され始めたのだ。

「ッ! 艦が流される!」
「何?」

 突然の早紀の報告に土方も聞き返す。前方と言う事は、即ちドゴラのいる方向だ。どういうことであろうか―――対応より先に疑問が出てきてしまう。その疑問に、神崎が異常を検知して報告した。

「謎の重力傾斜を検知。重力傾斜の中心は‥‥‥ドゴラ!」
「馬鹿な! ドゴラが、この重力を発していると!?」

 揺れる艦内で、思わず神崎を見返す翁川。ドゴラを中心にして、重力が働いているのだ。つまり、周囲に存在するもの全てが、ドゴラに向かって吸い込まれていくということである。生物あるいは生命体が、このような芸当を可能とするものだろうかという、生命体以前の問題だった。
 いや、そんなことを議論している暇はない。重力傾斜を引き起こしている張本人が判明した以上、この場に居ては危険なのだ。

「反転、全艦離脱!」
「急速回頭、最大戦速!」

 〈ゼウス〉の艦体各部に配置されているバーニアが稼働し、他艦よりも素早い回頭運動を始める。他艦もそれに倣って回頭を始めたのだが、ドゴラの重力傾斜は予想以上に重いものとなりつつあった。特に出力の小さい護衛艦や駆逐艦、或は旧型の小艦艇等は、その重力に抗う事すら難しかったほどである。また新鋭艦であるドレッドノート級やザラ級等も、一瞬の遅れが命とりになってしまいかねなかった。
 この予想外の重力傾斜により、連合軍は瞬く間に陣形を崩していった。もはや、陣形よりも自分の艦の姿勢を安定させることの方が余程重要だったのだ。地球防衛軍各艦隊は、旗艦であるアンドロメダ級の動きに倣って反転するが、急激な重力傾斜と反転運動が混乱を呼び起こしてしまった。吸い込まれながらの反転によって、僚艦に衝突して大破してしまった挙句、ドゴラに吸い込まれていく艦が少なからず存在したのだ。

「戦艦〈ダートマス〉、巡洋艦〈オイゲン〉接触、重力傾斜に流される!」
「ク‥‥‥ッ! とんだバケモンだな、こいつは」

 旗艦〈アンドロメダ〉艦橋に入ってくる被害報告に、思わず苦虫を噛み潰したような表情になる山南。だが、厄介なことはそれだけにとどまらなかった。

「司令、艦の残骸が複数飛来!」
「何だと!」

 ドゴラが触手で拾い上げた残骸を、野球選手の如く連合軍に投げつけてきたのだ。勢いを付けた残骸が戦艦に直撃すると、その衝撃に耐えきることが出来ずに機関を損傷させ、そのまま重力傾斜に流され始めていった。他の艦も同様に残骸の被害者となって、ドゴラに呑み込まれていく。さらにはドゴラ自身も接近しながら重力波を放つのだから、溜ったものではなかった。
 ガミラス軍では、大半が中小艦艇で締められている事から、特に駆逐艦クラスが犠牲になり始めていく。
 旗艦 ゼルグート級〈ヴァレルズ〉艦橋でも、バレルは懸命の指揮に追われていた。〈ヴァレルズ〉に寄り添っていた盾は、ドゴラの重力に逆らえなかったことから破棄されている。無論、他の艦艇に移された盾も既に流されてしまっていた。

「破片群、本艦へ直撃コース!」
「後部砲塔、対応せよ!」

 ドゴラが投げつけて来た巨大な艦船の破片を、〈ヴァレルズ〉の後部砲塔が砲撃して粉々に粉砕するが、それでこの状況が改善される訳ではなかった。

「少将、我が部隊の2割が、ドゴラの重力に流されました!」
「ドゴラ、更に接近!」
「ぬぅ‥‥‥ジャンプスピードへ加速! 」
「機関一杯!」

 〈ヴァレルズ〉が機関部を目一杯に稼働させると、艦尾に薄紫色の噴射炎が吹き上がった。だが、ドゴラの重力傾斜が予想以上に強力なものであったことから、〈ヴァレルズ〉の機関出力でさえ逃げ切る事は不可能となっていく。ましてや、重力源たるドゴラそのものが接近してくるとなれば尚更だろう。

「駄目です。ドゴラとの距離、離れません!」
「さらに接近。このままでは、全部隊が呑み込まれます!」
「どうする‥‥‥」

 バレルは揺れる艦橋内で、万策尽きたかと諦めかけていた。
 緊急電が入ったのは、その時である。

『こちら土方。これより全艦反転し、指定したコースを全速力で突っ切り、ドゴラから離脱する!』
「指定したコース‥‥‥!?」

 総旗艦〈ゼウス〉の土方が、全艦隊に向けて送った指定コースとやらを見たバレルは、思わず我が目を疑った。それは、ドゴラに向かって突進し、その脇をすり抜けていくという無謀極まりない選択だったからだ。敢えてドゴラの重力傾斜に逆らわず、その流れを利用して加速する。勢いを付けてドゴラの脇を抜けて、一気に重力圏を離脱する―――重力を利用したスイングバイである。だが、ひとたび間違えばドゴラの重力圏に捕らわれ、あの触手に絡め取られてしまうだろう。賭けに委ねる離脱方法だった。
 しかし、バレルや他の指揮官らにしても、土方の示した離脱方法以外には見つからない。まして、この状態で異論や他の意見を出している暇などなかった、というのが正しいが。どの道、攻撃しても埒のあかないドゴラとの追いかけっこを永遠と続ける訳にはいかないのである。一か八か、この脱出方法に委ねるのだ。犠牲は出るだろうが、その犠牲が、極力少ないことを祈るばかりだった。

「はん、上等だ。重力の波に乗ってやろうじゃねぇか!」

 バーガーは意気揚々としていた。元々、突撃隊長として敵軍に真っ先に突っ込んできた彼からすれば、今回の重力を利用した離脱方法は難しものではない。ただし、指揮下の艦艇群が遅れずに付いて来てくれるかが問題ではあったが。

「まったく、土方提督は想像以上に大胆ね。あの沖田十三艦長の同期と聞いていたけど‥‥‥」

 ネレディアは半ば呆れも入り混じっていたが、名将ドメルを打ち破った沖田の同期だというのも頷ける。

「指定されたコースに従い、全艦回頭! 最大戦速で重力圏を突っ切る!」

 何はどうあれ、この場を切り抜けなければならない。リッケは艦隊に指示を飛ばすと、旗艦〈ミランガルU〉に倣って艦首を翻していく。全体的に中小艦艇で構成されるが故に、ガミラス軍の反転運動は素早かったといえる。地球軍よりも早く回頭し、ガミラス軍旗艦〈ヴァレルズ〉も重力を上手く利用しての回頭行動を成功させた。
 土方の率いる中央集団こと第1連合艦隊の取った反転コースは、宇宙空間ならではのダイナミックなものとなる。

「第1連合艦隊、上反転130度、最大戦速!」
「了解。上反転130度!」

 指示に従い、総旗艦〈ゼウス〉は艦首を上に向かって反転させた。つまり、航空機で言うところの宙返りの要領であり、第1連合艦隊は揃って艦の姿勢が上下反転する格好となる。それも構うことなく、総旗艦に倣って無人艦隊、第2艦隊、第5艦隊、守備艦隊が続いた。
 山南の第2連合艦隊は、右舷に回頭し、なおかつ弧を描くようにドゴラの右側に向かって突進していく。その中で、旧式艦が混じっている護衛艦隊は取り分け必至だった。ワープも可能な波動機関に交換されているとはいえ、やはり設計の古さは否めない。機関出力も新鋭艦らには若干及ばず、特に磯風改型らは死に物狂いと言えよう。艦尾から目一杯の噴射炎を吐き出し、重力圏に捕らわれない様にしている。

「無茶苦茶言うよ、土方総司令は!」

 そう嘆く乗組員らだが、それ以外に活路が無い以上はどうにもできない。
 護衛艦隊の一部隊を率いる古代は、防衛大学時代の恩師たる土方の命令に、どこか懐かしさを覚える。いや、分っている。沖田と同じなのだと。

「全てのエネルギーを機関部に回せ。少しでも出力を落とせば、我が部隊は飲み込まれるぞ!」

 旗艦〈ユウナギ〉で、懸命に指揮する古代に応えようと、航海長は汗を滲ませながら操艦する。彼の操艦次第で、クルーの命運が決まると言っても過言ではないのだ。同じく機関長も、艦のエネルギー供給の管理に余念が無かった。失敗すれば、推進力不足でドゴラに吸い込まれるのだから。そうこうしている間に、連合軍はドゴラの左右と真上を猛スピードで通過していく。

「ドゴラの至近を通過!」
「触手接近!」
「ッ!」

 伸縮自在な触手が、連合軍へ向けて限りなく伸ばされた。だが、残念ながら脱出の真っ最中の連合軍に、それを迎撃する余裕などない。ビーム兵器にエネルギーを回すのは推進力の低下を招く自殺行為であり、実弾兵器類は重力の影響で真面に命中すらしないのだ。ひたすら逃げの一手を打つしかないのだった。案の定、ドゴラの触手が数隻の連合軍艦艇を掴み取り、或は殴りつけるという巨大かつ暴力的な方法で重力圏に巻き込んでいく。
 吸い込まれていく僚艦を助けてやりたい―――古代の心内に、そんな気持ちが芽生えたが、それこそ犠牲を増やすだけの行為だということも理解していた。

(‥‥‥クッ!)

 歯ぎしりする古代は、犠牲となった僚艦に心で詫びた。
 連合軍は多少の犠牲を強いながらも、ドゴラの重力圏を無事に切り抜ける事に成功する。一気に加速力を付けた連合軍艦隊は、勢いで重力圏の外に出つつ、地球圏へ向けての一斉ワープを行った。

「全艦、ワープ!」

 3つに分散していた連合軍は、一斉にその宙域から姿を消した。
 後に残されたドゴラは、自身で放つ重力を弱めると、移動を再び開始する。それは、確実に地球へ向けての進行だった。それは、ドゴラの野生の勘によるものかは分からないが、確実に言えることは1つだ。地球消滅に危機に瀕しているという事実が、突きつけられているのである。




〜〜〜あとがき〜〜〜
第3惑星人でございます。第4章完成に漕ぎ着けましたが、あと1章で完結する予定です。
前回のあとがきでもご説明した通り、このドゴラは何でも有り有りになっていますが、一応、原作の能力に則ったものでもあります。

・分裂
 原作のドゴラも、自衛隊の対空ミサイルの攻撃で分裂してしまいました。ただし、結合するかは不明です(オイ)。

・重力
 こちらは、ドゴラが大量の石炭を巻き上げて吸収していました。しかもピンポイントが可能なようで、車一台分だけを確実に捉える事も可能。

等、一応は原作の能力を鑑みて、私が大げさに能力を拡大させています。
はてさて、年内に完結できるか‥‥‥下手すると年明けになりそうです。



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