第7話『決戦! 未来を掛けた戦い(前編)』


〜CHAPTER・T〜



  バラン星近海にて〈ヤマト〉を待ち構えていた残存ガミラス艦隊は、集結しうる一大戦力を持って迎え撃たんとしていた。
  残存ガミラス軍総司令官ことジュラ新総統は、総旗艦〈デウスーラU世〉艦橋にてガミラス諸兵らの戦いぶりを目の当たりにしようとしている。サイレン星でもモニター越しに〈ヤマト〉とガミラス艦隊の戦闘を見ていたが、今度は自らが戦場に立っている。戦闘の指揮はガル・ディッツを始めとした専門家に任せているとはいえ、最終的な判断は自分が決めねばならないのだ。
  大量の艦船の残骸から構成されたデブリ群とバラン星の爆縮による影響で広範囲に四散した多量のガスに紛れて、ガミラス艦隊各部隊が〈ヤマト〉を狙い済ましている。
  その中で最初に会敵したのは、前衛として配置されていた第4部隊約120隻であった。

「〈ヤマト〉加速、射程距離まで30秒」
「各艦命令あるまで待機」

  第4部隊旗艦〈ゼルグートU世〉艦橋に緊張が走る。兵士達が砲戦の為に照準測定を続け、司令官の砲撃命令を待っていた。

(何故だ……何故、私が最前線に!)

  指揮官席に座るガミラス軍人こと第4部隊司令/〈ゼルグートU世〉艦長バシブ・バンデベル准将は、目の前に迫る危機を受け入れ難い様子で、見るからに拒絶反応を起こしていた。元より栄光ある軍人生活よりも貴族社会における安泰な生活を望んでいた人物で、軍人としての実績は乏しい部分が多かった。典型的な貴族出身という理由で出世した名ばかり軍人であろう。
  今回の戦闘においては、精々ジュラの直営艦隊として後衛に回されるであろうことを期待していたのだが、それがどうしたことか180度反転して最前線に立たされる事態に陥ったのだ。
  無論、これを決定したのはディッツ総司令官であり、彼からすれば〈ゼルグートU世〉の装甲と火力を遊ばせる理由はなく、真っ先に最前線で〈ヤマト〉にぶつけて消耗させようという趣旨によるものであった。ガミラスでも随一の堅牢な装甲を有する巨大戦艦であり、他にも後期型とも言うべき装甲突入型ゼルグート級があるが、これはこれでジュラ率いる直掩艦隊の最期の防衛の砦として後衛に配置されていた。
  この決戦前の軍議において、バンデベルは自身の配置に不満を漏らしてディッツに抗議の声を上げたが真っ向から却下された。

「全てのゼルグート級を前面に出せる訳がない。突破されたら反転からの追撃は容易なことではないぞ。ゼルグート級の艦長ならば、その欠点は分かる筈だがな、バンデベル准将」
「そうではありましょうが……ならば、私も後方にいてしかるべきでは……!」
「貴官の役目は、その火力と装甲で〈ヤマト〉の出鼻を挫き、出血を強いることだ。抜かれた後は、第2部隊と第3部隊が奇襲を掛け、そして第5部隊のゼルグート級と直掩部隊で集中的に叩く。もし〈ヤマト〉が後退しようとすれば、貴官が退路を断って包囲網を形成するのだ」
「しかし――」

  軍議に参加している将官らは冷たい目線でバンデベルを蔑んでおり、その視線と空気をバンデベル自身も敏感に感じ取った。そこに一撃を加えたのがジュラ新総統に魅入られて以降、熱烈に支持しているグレムト・ゲール少将だ。

「貴様ァ、後に隠れるつもりか?」
「ば……馬鹿なことを……」
「ならばこの戦いで、ジュラ総統閣下への忠誠の証をお見せするのだな! デスラー総統に仇名す逆賊――」
「ゲール将軍、その件は不問にすると申し上げました」
「――ハハッ! これは失礼を致しました総統閣下!」

  同席していたジュラに注意を即されると、素早い変わり身で表情と態度を一辺させるゲールの様子に、これもまた一同が不快に感じない筈が無かった。ゲールは上司に媚びて部下に辛く当たるという、まさに典型的な中間管理職者という悪い事例の生きた見本として晒していた。
  兎も角、バンデベルの主張はにべもなく却下されてしまい、結果として今に至るという訳である。

「将軍、あと10秒で射程圏内です」

  悩めるバンデベルの苦悩を知ってか知らずか隣に歩み出て来たのは、緑色の上着と濃緑色のズボンを着用している士官だった。その士官はマントは未着用であるが、これは大半が佐官クラスまでとなり、将官クラスとなるとマントが着用される形式だ。ただし一部に例外もあるが。
  30代後半ほどの士官の階級は大佐であり、角ばった顎と鼻にオールバックの髪形、体格は力士の様にガッシリとしていた。その彼が〈ゼルグートU世〉副長マイゼル・ドラム大佐であり、実質的にはバンデベルの部下もとい副官となる。ドラム大佐は平民出身の軍人で、派手さとは迂遠ではあるが、ガミラス人とは言えど堅実な実績を積み上げて大佐の地位に上った人物だ。
  因みにクーデターに加担したつもりはサラサラなく、敢えて言うならば巻き込まれたクチであろうか。不本意にもバンデベルと同罪となった以上、彼は仕方なくバンデベルに付き従って放浪していた次第である。
  それでも、今回の決戦においてはジュラ新総統の期待には応えるべく、彼なりに職責を全うせんとする姿勢を見せていた。

「そ……そうか」

  オドオドしているバンデベルよりも、よほどドラムの方が指揮官らしく見えてしまい、艦橋にいる兵士も寧ろドラムに信頼を寄せている節があった。同じ平民出身者の多いガミラス一般兵は、権力をゴテゴテに張付けた貴族よりも、実力で地位を上げた指揮官にこそ任せられるというものであった。バンデベルは、それを理解しておらず、平民は平民でしかない、と貴族主義に傾倒したままであった。
  考えている時間などは無く、あっという間に射程圏に〈ヤマト〉を捉えたことを索敵士官が報告する。

「将軍」
「ッ……全艦砲撃開始!」

  此処まで来たら後戻りなど出来はしないのだ。ドラム大佐にまるで一喝されるように、バンデベルも攻撃命令を下したのだった。
  命令を受け、旗艦〈ゼルグートU世〉の前部甲板と艦底にある四連装陽電子ビーム砲塔4基が、初めて〈ヤマト〉に対し火を噴いた。各砲塔から吐き出された4本の赤い陽電子ビームが、互いに引かれ合うように螺旋を描くと、〈ヤマト〉のショックカノン砲塔の様に1本の強力なエネルギー流となって突き進む。他の艦艇も倣って〈ヤマト〉に砲撃を開始し、周囲に散らばる艦の残骸や小惑星帯を蹴散らしていき、膨大なエネルギーの流れとなって〈ヤマト〉に降り注ぐことになった。
  対する〈ヤマト〉は、ガミラス軍艦隊第4部隊の砲火を確認した直後に波動防壁を展開する。

「ガミラス艦隊、発砲!」
「波動防壁展開」

  一瞬だけ〈ヤマト〉の周囲を青白い光が覆うが、それが〈ヤマト〉を波動防壁が包み込んだ証拠である。波動防壁の展開直後に、多数の陽電子ビームが周囲の空間を引き裂き、〈ヤマト〉に着弾するものの貫通を許さなかった。この宙域の影響で狙いが定まらないのが救いであったろうが、距離が縮めば狙いも正確になる筈だ。集中砲火でやられる前に、決着を付けねばならない。

「敵陣を一気に突破する。目標、ジュラ総統の乗る旗艦! 島、針路このまま、最大戦速」
「了解。最大戦速」

  この時、艦長代理を任せられているは戦術長古代進だった。本来ならば副長である真田志郎が受け持つ筈であったが、たまたま第一艦橋から席を外していた時に、ジュラ率いる残存ガミラス艦隊の会敵となり、その時に古代が迅速に対応していたことから、古代に一任したのである。
  真田は自身が軍人とはいえど、沖田の様な柔軟な発想や対応を取ることが出来ない欠点を熟知しており、戦闘の面においては古代の方が遥かに適任者であったと自覚していた。故に、この戦闘においては古代をサポートする側に徹すると宣言したのであった。
  指揮を任せられた古代は、この膨大な敵艦隊を恐れることなく真っ直ぐに一点を睨み付けていた。

(一か八かだ)

  彼が恐れているのは膨大な戦力ではなくジュラへの対応であったと言える。如何なガミラスの総統となったジュラとはいえ、命を奪うことはしたくはない。まして、彼女がガミラスにとっての希望的存在なのは容易に想像できる。〈ヤマト〉が成すべきことはガミラスを滅ぼすことではなく、地球を救うことなのだ。本当ならば、この様な戦闘は避けておきたいところではあるが……。
  この戦闘で彼女の命を奪わぬ様に終止符を打つには一つしかない。それを成し得る為には、全員の団結力が必要不可欠である。

「南部、頼んだぞ」
「任せてください。波動砲が無くたって……!」

  砲雷長南部康雄二等宙尉は、中央司令部に勤務していた司令部付の軍人だったが、大艦巨砲主義の傾向が強く、航空機による支援には懐疑的な側面を持ち合わせるという人物だった。まして彼の親が南部大公社という一大軍需企業の最高経営者で、南部はその一人息子でもあった。加えて波動砲という強力な武器に心酔していた頃もあったが、旅を続ける最中に心境の変化を伴い、今では波動砲に頼り切らない姿勢を見せていた。

「なお敵艦隊中心部に超大型艦1を確認」

  レーダーに反応する戦艦クラスの存在を報告する雪。第4部隊の中心核に居たのがバンデベルの座乗艦〈ゼルグートU世〉であり、それを〈ヤマト〉がバラン星を強行突破した際に記録したデータ集の中に存在した記録と、ほぼ一致した。

「バラン星で確認した戦艦と一致!」
「あのドメルが乗っていた旗艦と同型艦だな。バラン星の爆発に巻き込まれずに生き残ったようだが……」

  真田にしても、ゼルグート級の火力と装甲は良く把握していた。特に正面での撃ち合いにおいては、艦首の分厚い装甲でショックカノンを受け付けない強固さを発揮する。加えて主砲である陽電子ビーム砲は、ガミラス軍で保有する艦載砲の中では最大級の威力を持つことも確認できていた。
  〈ヤマト〉の波動砲壁で防げないことは無いが、あまり他の敵艦から集中砲火を受けすぎてしまえば、波動防壁も消失してしまいかねない。そんな所に超弩級戦艦の集中砲火を受けてしまえば、〈ヤマト〉といえども大損害は免れないだろう。

「古代、このデブリとガス帯で敵の照準は甘くなっている。上手く利用して、敵の大型戦艦をやり過ごすしかない」
「そうですね。ジュラの旗艦を捉えるまでに、余計な損害は受けないよう、潜り込むしかない……島!」
「わかった。少々、荒っぽく行くぞ」
「頼む」

  阿吽の呼吸で応対する島と古代の後姿を頼もしく見やる真田は、古代が指揮官としての素質を明確に表していることを確信した。
  航海長島が航海中に実戦の中で磨き上げた操艦技術により、〈ヤマト〉はデブリとガス帯の中をまるで小型戦闘艇の様な機動力で突き進む。当然、そうなれば〈ヤマト〉自身も砲撃がしにくくはなるが、耐え時だと南部はジッと待ち続ける。
  ジュラにいる宙域に比べればデブリとガスの密度は圧倒的に少ないが、全く影響を受けないとは言い難い。前進すればするほどにガスとデブリ群は濃くなり戦いにくくなるのだ。



  それでも加速する〈ヤマト〉に対して、砲撃を続けるガミラス軍第4部隊は陣形中央を突破されまいと我武者羅になったが、たった1隻に対して120余隻もいながら有効打を出せない状況にバンデベルは必然的に苛立ちを募らせざるを得ないことなる。
  あのバラン星での遭遇戦では、観艦式という戦闘隊形とは関係ない隊列故に効果的な砲撃が出来なかったのは、バンデベルも分かっていたのだ。今回は明確な戦闘隊形で迎え撃っているのだが、〈ヤマト〉は一発の反撃もしない代わりに強固な防壁とデブリ群とガス帯、そして自身の高度な回避運動によって砲火を掻い潜ってきているではないか。

「〈ヤマト〉さらに接近」
「ぬぅ……何を手間取っている、有効打も出せんのか!」

  苛立ち席を立つバンデベルだが、傍に立つドラム大佐が冷静な姿勢で状況を説明する。

「なにせバラン星一帯は、濃密なガスとデブリがばら撒かれていますから、正確な射撃は望めないかと……」
「わかりきっておるわ、そんなことは!」

  そんなことを言うくらいなら策を練るべきであろう。苛立ちを隠すことなく表情でドラムに訴えるバンデベル。部下の進言は大事ではあるが、そもそもバンデベルは部下からの進言は真面に取り合おうとしたことは無い。
  所詮は成金貴族の軍人貴族でしかないのだ――ドラムはドラムで、平民軍人と見下すバンデベルを内心で蔑みつつ一瞥する。

「我らの任務は、〈ヤマト〉を消耗させることですから、あの防御シールドを弱めるだけでも構いません。ここは両翼を伸ばさず、寧ろ半包囲態勢を取って十字砲火を浴びせるべきです。包囲網を突破されたら、予定通り反転して後背を追撃すればよろしいかと」
「それではあのゲールに、デカイ面をさせることなろうがッ」

  安全な後方にて観戦していたかったバンデベルは、総司令官ディッツに反対されて最前線に配備されたことを根に持っている以上に、ゲールという存在が目ざわりこの上ない対象となっていた。ゼーリックが生きていた際にも、ゲールの卑しい姿勢と態度は良く知っていたのだ。欲に塗れた日和見主義者だと馬鹿にしていたのだが、そのゲールがジュラを新総統として強く忠誠を誓い、全身全霊で戦い抜く姿勢を見せている。
  対するバンデベルは、不問にされたもののデスラー暗殺とクーデターに加担したというレッテルが付いて回っており、このジュラ新総統による新体制下では肩身の狭い思いをしている。まして、ゲールからも完全に見下されるような態度を取られ、真面に反論も執れよう筈も無い自分の立ち位置に苛立ちを覚えた。此処で逃げ腰になれば、またゲールに嫌味と軽蔑と皮肉をブレンドされて叩かれるに違いない。
  今のバンデベルは、何がどうであれ〈ヤマト〉に対して戦果を挙げねばならない立場にあった……と自分で思い込んでいる。

「本隊を前進させろ、ついで〈ゼルグートU世〉も前に出せ! この艦の火力で叩き潰してくれる」
「なりません。我らは微速後退して〈ヤマト〉に対し、なるだけ砲撃を――」
「やれといったらやるんだ。体当たりしてでも奴を沈めてやる!」

  これ以上説得しても無駄だと、ドラムは諦めざるを得なかった。先ほどまで、あれほどに最前線に配備されたことを根に持ち、頼りなさげだったバンデベルが、ある意味でも闘争心剥き出しにして先頭に立っているのは良いかもしれない。だがそれも、ゲールが絡んでいることが原因であるが、それ以上に、ただ目頭が熱くなって喚くだけの軍人としかドラムには見えなかった。
  中央の本隊を前進させてしまえば、当然として〈ヤマト〉との距離は近くなり、命中はし易くなるであろう。逆に言えば相対距離が一気に縮まり、仕留め損なってすれ違ってしまえばあっという間に距離を置かれてしまうということだ。それがバンデベルには分かっていなかった。
  バンデベル指揮下の中央部隊が前進を掛けて来たのを知った古代は、敵の陣形が早くも崩れかかったことを悟った。相手が半包囲する為とはいえ早々と前進を掛けてくるということは、突破しやすくなるということだ。

「敵超弩級戦艦に向けて前進。ギリギリの所で敵艦の下方を擦り抜ける」
「ヨーソロー!」

  ゼルグート級に向けて真正面から突撃するのは、これで二度目だ。前回はドメルの〈ドメラーズV世〉と真正面からやり合い、島の神業によって陽電子ビームを避け、更には互いの舷側を擦り合わせながらゼロ距離射撃を行ってみせたのである。
  目の前にいる赤い超弩級戦艦は、周囲に複数の戦艦を連れて砲撃を行うが、やはり狙いは正確とは言い難かった。

「波動防壁、稼働時間残り15分」
「大丈夫だ、この被弾率ならば十分にジュラの旗艦まで持つ」

  対ドメル戦では周囲に障害物が無かったことから、ドメルの艦隊戦術に悪戦苦闘させられたものの、この散りばめられた障害物と索敵を妨害するガス帯のあるお蔭で、予想以上にエネルギーの節約が出来ていた。真田も、このまま前進すれば総旗艦〈デウスーラU世〉に辿り付けると確信していた――他に敵がいなければだが。
  波動防壁でデブリを弾き飛ばしながら至近距離まで迫る〈ヤマト〉に、バンデベルは気迫迫るものを肌身に感じつつも砲撃を命じる。

「撃てッ」

  側面から迫る敵艦隊に眼もくれず、一目散に突進して来る〈ヤマト〉を仕留める最大のチャンスだと言わんばかりに、〈ゼルグートU世〉は一撃で仕留めようと前部甲板に並ぶ490o陽電子ビーム砲塔3基12門を斉射する。赤いビームが砲塔1基に付き4門放たれて周囲のデブリを蒸発させながら〈ヤマト〉を貫かんと差し迫った。
  それを真正面で捉えた〈ヤマト〉。

「来る」
「ッ!」

  雪が声を上げるよりも早く、島は己の肉眼で発砲炎の瞬間を捉えると、咄嗟に操縦桿を右へ切った。
  寸でのところで、〈ヤマト〉が左舷スラスターを目一杯に吹かして艦体を右に傾けたことで、〈ゼルグートU世〉の砲撃は回避される。一瞬の判断で回避しえたのは、島の鋭い観察力と反射神経、そして直感によるものであり、300m以上の巨体は滑らかに敵超弩級戦艦の艦底側へと潜り込んでいく。
  だが、回避して一瞬だけ姿勢が固定された直後に、〈ヤマト〉も初めて反撃の狼煙の一手を打つ。
  砲雷長南部が、前部主砲塔2基並びに副砲塔1基と連動する照準画面に〈ゼルグートU世〉を捕捉した途端に攻撃を発したのだ。

「撃てッ」

  命令と同時に第1主砲塔と第2主砲塔、そして第1副砲塔の砲身先端から爆炎が上がる。
  至近距離で反撃してきた〈ヤマト〉に、不敵な笑みを浮かべるバンデベル。強固に設計された艦首は、装甲の厚みのみならず、対ビーム防御手段として常用されているミゴヴェザー・コーティングを何重にも施工しているのだ。
  如何に〈ヤマト〉のビーム兵装とはいえど、簡単に撃ち抜けるほどに軟な装甲ではない。

「無駄なことを――ッ!?」

  嘲笑おうとしたバンデベルは、数秒もしない内に表情を氷結させて見事に失敗した。
  何故ならば、彼が想像していたエネルギー・ビームだけ発射されたのではなく、その中に実弾が混ざっていたからだ。厳密には主砲塔2基からは実体弾、副砲塔1基からはショックカノンが発射された。その実体弾は、〈ヤマト〉が戦闘で幾度と使用してきた実体弾こと三式弾だった。木星の浮遊大陸基地では、機関の不調でエネルギーが確保できない時に使用され、冥王星では惑星の重力を利用した曲射砲撃を行い、七色星団でも対航空機用弾頭として使用されてきた。
  エネルギー兵器以外の実弾と言えば、ミサイル・魚雷兵器しかないガミラスからすれば時代遅れの産物と見られていたが、ハイテク技術に頼り切ったことが、逆にローテク技術によってひっくり返された良き実例であろう。〈ゼルグートU世〉は、無論ビーム兵器に対する耐性だけではなく、実弾兵器に対する耐性も兼ねてはいるが、ミサイル以上に強固な弾丸が叩き込まれることは、ある意味で想定外とも言えた。

「砲弾です、砲弾が艦首に着弾!」
「砲弾だとッ!?」

  艦首に叩き込まれたのは、6発の対艦用三式弾と3発のショックカノンである。第1主砲塔の三式弾が、分厚い艦首装甲に施されたミゴヴェザー・コーティングという厚化粧をものともせずに引っぺがし、次に第2主砲塔の三式弾が同じ個所を狙って直接に装甲を引き裂きに掛かる。
  それでも艦内へめり込んだ弾頭は1発のみで、他の5発は艦首装甲の比較的浅い正面部分を舐める様に一直線に削り取るか、貫く半ばで装甲に突き刺さった状態で止まるに過ぎなかった。
  それでも先の1発の弾頭は、きっちりと艦首内部に食い込んだのだから、南部の砲術手腕は極めて高いものといえよう。まして、穴を開けられた艦首にトドメを刺さんとばかりに、第1副砲のショックカノンが概ね同一の箇所を撃ち抜き、艦首内部区画を破壊したのだ。
  艦首装甲が喰い破られたことに、バンデベルは強い衝撃によって精神面をも打ちのめされた。

「艦首装甲に敵弾貫通」
「艦首区画、大破!」
「馬鹿な……ガミラス随一の重装甲を持つゼルグート級が!?」

  艦橋の窓越しからも、派手に爆発する艦首部が見える。同時にメインスクリーンには、ダメージコントロールを手掛けるオペレーターが操作するコンソール画面と、同一の画面が投影される。そこには、〈ゼルグートU世〉の艦体図があり、艦首部分が酷く赤色に点滅していた。艦首区画の5割が使い物にならないことを示していた。



〜CHAPTER・U〜



「バンデベル将軍、〈ヤマト〉が降下します」

  唖然とするバンデベルだったが、そこで素早く対応したのがドラム大佐である。

「〈ヤマト〉を下に潜り込ませるな、艦底の砲塔は迎撃ッ」

  真下を潜り抜けようとする〈ヤマト〉を逃さないと言わんばかりに艦底の前部側に備え付けられていた主砲塔1基が狙うと、至近距離で捉えた〈ヤマト〉に大口径陽電子ビームを発射する。
  だが〈ヤマト〉の周囲に張り巡らされていた波動防壁が、辛うじて陽電子ビームを弾き逸らした。
  そのまま〈ゼルグートU世〉の艦底を擦り抜ける〈ヤマト〉だったが、嫌がらせとも言わんばかりに左舷側に並ぶパルスレーザー速射砲塔群を掃射する。破壊力は主砲に及ぶべくも無いが、無数に発射されるパルスレーザーは、〈ゼルグートU世〉の艦底を艦首から艦尾に向けて無数の傷跡を付けた。深い傷ではないが、装甲の厚さからいっても艦底側が薄いことから、全く無傷とは言い難い。

「左舷短魚雷、発射!」

  しかも〈ヤマト〉は、同じく左舷側に装備する八連装短魚雷発射管をも斉射して、尽く命中させたのだ。これにはさしもの〈ゼルグートU世〉も堪えたようで、艦底区画が幾つか破壊され、艦内全体にも強い振動と衝撃を与えた。
  真下から突き上げるような衝撃にふらつくバンデベルは、思わず指揮席に寄りかかる。

「艦底中央区画、損傷」
「〈ヤマト〉、後方へ抜けます」
「なんと……」

  呆然とするバンデベルに、ドラムは指示を請う。

「将軍、〈ヤマト〉が抜けた以上、一先ず役目は終えました。直ぐに体勢を立て直し、〈ヤマト〉の退路を断つべきかと」
「わ……かっている! 一先ず態勢を立て直せ。後に反転して〈ヤマト〉の退路を遮断しつつ、追撃に入るぞ」

  〈ヤマト〉に被害らしい被害を耐えることが出来ずに突破された結果に、バンデベルは自身の立ち位置が危うくなったのだと思い込みつつ、兎に角は退路を断たねばならないと艦隊の再編と反転を命じた。
  その隙にグイグイと距離を引き離す〈ヤマト〉は、一直線に総旗艦〈デウスーラU世〉に向かう。

「敵前衛艦隊突破。なお、敵艦隊は態勢を整えつつ反転する模様」
「追撃に移るにしては動きが緩慢だ……」

  最初の関門を突破したものの、反転攻勢にしては動きが遅いことに疑問を抱く真田は、最初に懸念していた事態を思い返す。

「古代、周囲の警戒を――」
「前方に新たな熱源探知、攻撃来る」
「――ッ! やはり伏兵が紛れていたか」

  真田が呟いた直後、正面から襲い来る陽電子ビームの嵐に、クルー一同も何処か予想していただけに身を引き締め直す。
  多数のデブリを蒸発させながら直進してくるガミラス艦隊の陽電子ビームを、波動防壁で弾き逸らすことで損害を抑えるが、いつまでも受け続ける訳にはいかない。

「古代、まだまだいるぞ」
「わかりました。前面の敵に構う暇はない、最も近い敵艦のみ迎撃し、反撃は最小限に留める。目標は総旗艦だ!」

  古代も伏兵やらを相手にしていては、それこそ相手の思う壺となり、袋叩き似合うだけだと理解していた。
  加速を止めずに一直線に総旗艦へ向かう〈ヤマト〉を襲ったのは、元第13空間機甲旅団司令ギュンター・クロイツェ少将の率いる第2部隊である。またギュンター・クロイツェにとって〈ヤマト〉という存在は因縁のある相手だ。あの弟カリウスを屠った戦艦なのだ。

「強行突破をしたいのなら、させれば良い」

  クロイツェは自分の目的をよく理解し、執拗に〈ヤマト〉の前面に立とうとはしなかった。一直線に総旗艦へ向かって来ることは自明の理である以上は、その進んで来るコースを空けて誘い込み、袋叩きにするのが効率的なのだ。
  彼の指揮する第2部隊は第13空間機構旅団を中核として、残りは集結した残存艦艇を再編したものであるが(他の部隊も同じ条件である)、最前線に立った第4部隊のバンデベルとは打って変わって部隊は良く統率された動きで〈ヤマト〉を攻撃し、波動防壁の耐久度を着実に落としていった。
  第2部隊旗艦ガイデロール級〈クヴェルツ〉も、僚艦らと一緒に〈ヤマト〉に火力を叩き込みつつ進行方向から逸れていく。

「〈ヤマト〉反撃するも被害は軽微」
「ガス帯とデブリの影響で、命中率は芳しくありません」
「構わない。邪魔なシールドを弱めておけばいい。後は後続のゲールに任せる」
「しかし、閣下。ゲール少将が何処まで出来ますかな」

  戦果は期待できないと言わんばかりに、艦長エウスト・リーデン大佐が呟く。

「奴は軍人としての水準は辛うじて平均値。所詮、ゼーリックの取り巻きにすぎん奴だ……執着ぶりや忠誠ぶりには感服するがな」
「では第5部隊に託す他ないですね」
「……ジュラ総統に厚い忠誠を尽くすからには、ゲールが如何に卑屈な男でも頑張りはするだろう……結果は期待できんが」
「ですな」

  散々に扱き下ろされるゲールの話はそこまでとし、クロイツェは視線を〈ヤマト〉に集中する。
  〈ヤマト〉は時折にショックカノンで反撃し、直近にいる艦艇を一撃で串刺しにして見せるなど、クロイツェも改めて〈ヤマト〉の火力と高い命中率に舌を巻く。なるほど、これほどの防御力と攻撃力、そして外から見ても感じる程の強い意志を持った戦艦であれば、ドメル将軍も苦戦を強いられ、弟カリウスも戦死した訳だ。
  軍人として心が昂るが、クロイツェはそれを自制の蓋で押し留めると、ひたすら波動防壁の消耗に尽力した。

「――〈ヤマト〉右舷に着弾確認!」
「奴のシールドが弱体化したか」
「奴は恐ろしく硬いですな……間もなく交差します。これ以上は無理です」
「予定通りだ。全艦、〈ヤマト〉が過ぎた直後に急速反転。追撃に移る」

  〈ヤマト〉の波動防壁が一部食い破られ、装甲に直接被弾するものの、その程度ではビクともしない。第2部隊がわざと空けた空間を迷わず突っ切る〈ヤマト〉を、己の目で確認するクロイツェ少将。後は後方のゲールに任せるしかないのだが、果たしてゲールが何処までやれるか見物であった。
  前衛に配置した各部隊が抜かれていく光景を、後方に位置する総旗艦〈デウスーラU世〉のジュラとヴェルテは静観していた。

「タラン将軍、〈ヤマト〉は第2部隊を突破。第3部隊のエリアに入ります」
「そうか……これは確実に来るな。艦長、本艦も迎撃態勢に移行しておけ」
「ハッ。砲戦甲板展開、砲戦用意!」

  総旗艦〈デウスーラU世〉艦長ハルツ・レクター大佐は、ヴェルテの指示を受けて〈デウスーラU世〉の甲板内に格納されている主砲塔の展開を命じる。ゲルバデス級航宙戦闘母艦の様に、非戦闘時は兵装を甲板内に隠している〈デウスーラU世〉は、艦体左右の上甲板と艦底外壁から、それぞれ380o陽電子カノン砲塔を展開する。ゼルグート級の390o陽電子ビーム砲には砲口の大きさで劣るが、カノン式になったことから貫通力は大きく上回り、総合的な砲火力は寧ろ〈デウスーラU世〉が勝った。
  380o三連装陽電子カノン砲塔が6基18門も展開されると、全てが前方を向く。その他330o陽電子ビーム砲塔やカノン砲塔も、向けられるものは全て〈ヤマト〉に向けられる。そもそも〈デウスーラU世〉の主砲塔配置は、これまでのガミラス艦艇と異なる。一般的には艦橋を挟むようにして、なおかつ艦体前後に一直線に配置されるものだが、この最新鋭艦のみ艦橋を挟んで艦体左右へ一直線に配置されていたのだ。
  これは正面と後方への全力砲撃が可能という大きなメリットをもたらす半面、側面に対しては半分の火力しか向けられないデメリットも生じる。ゲルバデス級も似たような性質を持っていると言えるだろう。また逆を言えば、これまでの砲配置にしても左右への砲火力は高い反面、前後への火力は半分近くに減るのだ。どっちにしろ万全とはいかないのが常なのである。
  そして、正面から物量をものともせずに接近してくる〈ヤマト〉を、ジュラは指揮官席で静観していた。

(〈ヤマト〉……沖田十三の強い意志を宿す艦……やはり、此処まで来ますね)

  普通であれば、彼女の様な若い女性のみならず、女子供であれば戦場の恐怖に震えるであろう。死ぬかもしれない戦場で平然としていられようか――ジュラは例外だったが。
  傍に立つヴェルテは、軍人顔負けの落ち着きを持って席に鎮座しているジュラに感心した。

(ジュラ総統の、あの落ち着きぶり……誠に感心してしまう)

  覇気とは迂遠かもしれないが、若い女性ながらも堂々とした佇まいには、艦橋のクルーらも感心してしまうものだった。

「将軍、第3部隊が攻撃に入ります」
「ゲールが何処までやれるか……」

  第2部隊が〈ヤマト〉の防御を削り取った後に、第3部隊の頑張りようが試されるのだ。



  ヴェルテの不安視する第3部隊は、グレムト・ゲール少将の指揮のもと、前衛の2個部隊を突破した〈ヤマト〉を確認するや攻撃を仕掛けた。ゲールの指揮していたバラン星駐留軍を中核とした部隊である為か、ダズル迷彩の艦が約4分の1は含まれている。これはゲール艦隊の特徴でもあり、当然、彼の旗艦ガイデロール級〈ゲルガメッシュ〉も濃緑と薄緑のツートンカラーを基色にしつつ、白と黒のダズル迷彩が塗装されていた。

「いけぇッ、〈ヤマト〉を徹底的に叩くのだ!」

  第3部隊旗艦〈ゲルガメッシュ〉艦橋で、ゲールはいつも以上に気分を高揚させたまま攻撃を指示した。
  〈ヤマト〉から見て左右から、それぞれ70余隻がガス帯とデブリ群から出現する格好となり、まさに両舷からの挟撃を受ける形となるが、これも予め予測に入れていた古代が取る行動は決まっており、ひたすら前進するのみだった。
  反撃も最小限度にとどめ、確実に撃沈可能な距離に来た艦艇のみに照準を合わせて1隻づつ屠っていく。それでもゲール指揮下の第3部隊は、執拗に〈ヤマト〉の舷側を狙い撃たんと高速で接近して陽電子ビームを乱打する。ガス帯の影響も色濃くなっており、デブリも照準に害を及ぼすものの、とかく手数を頼みの綱にして打撃を与えようとした。
  やがて第2部隊が削り取ってくれたおかげで、ゲール第3部隊の砲撃も少しづつではあるが〈ヤマト〉に直撃弾を出した。

「ジュラ総統閣下の御前である。全艦、なんとしても奴を沈めるのだ」

  右手に指揮棒を握り締めるゲールは、まるで舞台役者の様な振る舞いで指揮棒の切っ先を〈ヤマト〉に向けて命じる。本人はジュラに気に入ってもらおうという気持ちがあることは、誰の目に見ても明らかであり、その振る舞いは三文芝居をする三流役者のようだと記録するところだ。
  二手に分かれていた第3部隊は、デブリ群を掻い潜りながらも〈ヤマト〉の艦体側面に砲火を浴びせ続ける。あまり最前線に出る機会が無いバラン星駐留軍であったが(ゲールが前線に出ないのも原因ではある)、やはりジュラという新しき指導者の前だというのも起因してか、奮発して〈ヤマト〉に牙を向いている。

「〈ヤマト〉速度変わらず、総統閣下の総旗艦〈デウスーラU世〉へ向かいます」
「分かり切っておるわ! このまま同航戦に持ち込み、〈ヤマト〉を両舷から挟み撃つのだ」

  艦隊陣形はお世辞にも綺麗に整っているとは言い難いものの、これまでのゲールとは思えない指揮ぶりによって挟撃態勢を崩さずに同航戦へ持ち込んだ。
  このゲール率いる第3部隊の動きを、旗艦〈ディルノーツ〉で見ていた艦隊総司令官ディッツは、物珍しそうに関心を示す。

「ほぅ……ゲールも多少はやるようだな」

  もとより戦略家としては平均以下で、戦術家としては辛うじて平均的な指揮能力と判定され、更には媚び諂う姿勢と忠誠心は見上げたものだと評価していた。それだけに、この戦闘における彼の指揮ぶりは予想外だった。
  ましてゼーリックに同調して(出世欲の為だけに)、実績に乏しいながらも重要な中間基地の司令官に推薦されたことを思えば、尚更のことゲールが実戦向きでも無ければ後方支援向きでもない凡庸な軍人……と、追加の烙印を押されるものだったのだ。
  果敢に攻撃を繰り返す第3部隊だが、〈ヤマト〉の足は緩むことは一向に無く、時折に第3部隊も離脱する艦が出ていた。
  ゲールが獅子奮迅しても、残念ながら戦果には結びつかなかったのである。

「……とはいえ〈ヤマト〉を止めるには、やはり力不足か」
「ディッツ提督、〈ヤマト〉は第3部隊追撃を受けつつ針路変わらず。間もなく第5部隊の交戦距離に入ります!」
「わかった。第5部隊ヘルマン・ベール准将に連絡、〈ヤマト〉が射程圏内に入り次第、迎撃を開始せよ」

  片やゲールは、いつも以上の奮発を見せて〈ヤマト〉を追い込もうとするが、第4部隊と第2部隊を抜けたにもかかわらず強固なバリアに阻まれ、やはり決定的な打撃を与えるには足りなかった。
  これではバンデベルを笑えたものではない……と考えている余裕は無く、鬼のような形相で兵士達を叱咤した。

「何をしているか、突破されるぞ!」
「しかし、〈ヤマト〉は依然として強固なバリアで護られ、有効打はありません。それに我が部隊の目的は撃沈ではなく――」

  彼に仕える副官イデル・モンク少佐がゲールを諫めようとするも、当の本人は聞く耳持たずであった。

「ジュラ総統が観ておられるのだぞ、〈ヤマト〉撃沈の戦果を総統閣下に献上せずに何とする!?」
「ですが、これ以上は我が部隊にも無用の損害が増えるばかりです。まして、間もなく第5部隊の交戦距離に入ります」
「我が部隊は二手に分かれているのだ。第5部隊の射線には入らん、このまま平行追撃戦を継続して追い詰めてやれ!」

  これ以上は何を言っても無駄だと、モンク少佐は悟り切って口を閉ざす。これまでも、彼の忠告が受け入れられたケースは無いと言って良いもので、ゲールが「やれ」と言ったら出来ないことでも「やる」しかないのだ。
  相も変わらず平行追撃を継続する第3部隊の様子は、第5部隊旗艦装甲突入型ゼルグート級〈ハルバトロン〉でも確認された。

「腰巾着が、自棄になっているな」

  ガッシリとした逞しい体躯に、金色の短髪をしたガミラス士官が呟く。その見るからにファイター然としたヘルマン・ベール准将は、地球換算で言うところの31歳に相当し、ガミラス軍内部でも期待されている若手軍人の1人だった。火力を活かした打撃力にものを言わせた戦術を得意としており、まさにゼルグート級を扱うに相応しい人物だった。ベール准将は、これまでにも装甲突入型ゼルグート級を使った突撃戦法で敵勢力の艦隊を撃砕していった経歴を持っている。無論、装甲突入型ゼルグート級を受領される前からも、火力の集中運用によって戦線を突き崩した実力者であった。
  その彼が率いる第5部隊が〈ヤマト〉を真正面から迎え撃つ。第5部隊の中核となったのは、ベール准将の第9空間重突撃機甲大隊であり、旗艦含めて3隻もの装甲突入型ゼルグート級が集中配備されていた重武装部隊だ。

「さて、我ら重突撃機甲大隊の猛撃を、〈ヤマト〉は切り抜けられるかな?」

  ニヤリとするベール准将。
  因みに装甲突入型ゼルグート級の主武装は一等航宙艦ゼルグート級と差異があった。後期型に位置づけられる本級は、四連装400o陽電子ビーム砲塔を7基28門備える。一等航宙艦ゼルグート級に比して砲威力は劣るものの、大抵の艦艇にとって400o陽電子ビームは十分に脅威的な兵装である。また魚雷兵装は装備されておらず、これは敵陣に突入することを大前提にした為の結果だ。
  なにせ、兎にも角にも分厚い装甲とビーム兵装のみに重点を置いた設計思想で、艦首装甲の厚みも前期型に当たる一等航宙艦ゼルグートの級1.4倍となっており、他の装甲部分でさえ1.2倍の厚みを誇っているなど、文字通り動ける要塞と言っても過言ではない。当然のことながら装甲に厚みを増加させた分だけ、基礎となった一等航宙艦ゼルグート級よりも艦体規模がやや大型化していたが、あまり大型化し過ぎるのも問題とされたため、艦内部空間も大分縮小することで大型化を抑えていた。
  魚雷兵装を省いたのも突入戦で魚雷に引火誘爆の可能性を失くす為であり、建造費をなるべく低くする処置でもある。その他にも、旗艦としての指揮管制機能も最低限のものになっているなど、艦内設備は最小限度のものにしていた。

「……〈ヤマト〉、あと60秒で射程距離に入ります」
「全艦に告ぐ。我が部隊の役目は〈ヤマト〉を仕留めることだ。良いか、一歩たりとも引かずに〈ヤマト〉を破壊するのだ」
「射程距離まであと50秒」

  巨艦3隻が中心になり、周囲を戦艦が護っており、さらに周囲を中小艦艇が展開して〈ヤマト〉を狙いすます。
  徐々に被弾を増やしつつある〈ヤマト〉も、ガミラス艦隊の新たな戦力を感知し、より厄介な存在であることも理解した。

「艦首右舷に被弾」
「超弩級戦艦3を含む艦隊を確認。数110」
「まだいたのか!」

  雪の報告に、南部は苛立たし気に声を荒げる。

「両舷の敵艦隊は変わらず本艦を追撃中。なお、後方からも敵艦隊が追撃してくる」
「立ち止まることはできない。止まれば包囲殲滅されるだけだ」
「だが古代、真正面にあれだけの戦力が集まっているんじゃ、突破は出来ても損害が馬鹿にならないぞ!」

  操縦桿を握る島の額には汗が吹き出し、褐色の肌を濡らしている。彼の言う通り、一直線に突撃しても正面に立ちはだかる超弩級戦艦らに返り討ちにされないとも限らなかった。
  しかし、此処まで来て引き返せる筈も無く、進む以外に道はないとはいえ、古代にしてもゼルグート級が3隻も纏まって存在するとあっては、決意が揺らがざるを得なかった。このまま強引に突破も出来ないことは無いが、波動防壁も稼働時間が限界を迎えるよりも早く、集中砲火で強制的に限界を迎えさせられるであろう。ともなれば、最後はジュラの本陣から浴びせられる集中砲火で撃沈される可能性も否定できない。

「……!」

  どうするか、と悩む時間も無い中で、古代は戦況を映すメインパネルを見ていると、ふと咄嗟に閃いた。後方からは突破した第1と第2の艦隊が追撃し、両舷からは横方向への逃げ場を失くさんと迫る第3の艦隊。そして真正面に第4の艦隊が立ちはだかる。誰がどう見ても完全包囲の一歩手前であったが、あるガミラス艦隊の動きみて思いついたのだ。

「島、減速だ」
「こんなところで足を緩めたら――」
「分ってる。敵の優位を逆手に取るんだ」

  一か八かの賭けに等しいことだと分かってはいるが、古代の脳裏に思い浮かぶ行動はこれしかなかった。それを手短に説明する古代に、島は無論、他のメンバーも難易度の高い戦術行動だと理解した。これはガミラス艦隊の動きに期待するところも大きかったからだ。
  真田が手早く全員の意思を纏める。

「敵艦隊を混乱させるには、この手しかあるまい。敵の動きに委ねられるが……やろう」
「有難うございます、真田さん」

  〈ヤマト〉が包囲網を抜ける為の行動へ移ろうと手筈通りに減速を開始する。

「機関減速、ヨーソロー!」
「徳川機関長、無理を掛けますが、お願います」
「わかっとるよ、任せてもらおう」

  急に速度を落としつつある〈ヤマト〉が、加えて艦の姿勢も崩れつつあった。
  これを見たディッツは、〈ヤマト〉が機関に不調をきたして航行不能になっているのではないか、という可能性を見出す。

「〈ヤマト〉減速、コントロールを失った模様」
「ここに来てようやく効果が出たか……いや、それにしてはあまりダメージを受けた様子はないが」

  咄嗟に甘い考えを棄てたディッツは、本当に〈ヤマト〉が機関トラブルで航行不能に陥ったのかと疑問も抱いていた。
  かといって無暗に手を出すのも何か裏があるのではないかと勘繰るディッツは、どのみち射程距離に入るのだから、操艦不能な〈ヤマト〉を装甲突入型ゼルグート級ら第5部隊の集中砲火で仕留めさせようとの方針を変えはしなかった。
  故に、敢えて変更命令も出さずに流したのだが……。

「第3部隊が更に包囲網を縮めます」
「なに?」

  ゲールの第3部隊が、両翼からさらに距離を縮めて〈ヤマト〉を袋叩きにしようと動き出したのだ。あながち間違った行動ではないのであるが、今の〈ヤマト〉の様子が不自然さを纏っていることを考えれば無用に接近するのも考え物であった。一応はゲールも味方部隊の射線に入らない様にはしているが、それも〈ヤマト〉が針路を変更しなかった場合のみだ。
  もしもこの状態で、乱戦に縺れ込まれたりすればどうなるか――思い至った時には、すでに遅かった。

「第5部隊、斉射しま――」
「て、提督。〈ヤマト〉急加速!」

  第5部隊がベール准将の命令に従い、射程距離に入った〈ヤマト〉へ一斉射撃を敢行したや刹那、〈ヤマト〉が動き出した。

「ッ……やはり偽装をしていたか」
「〈ヤマト〉左舷へ転舵」

  ディッツから見れば〈ヤマト〉が右へ急速に方向変換したことになる。即ち向かう先は自ずと明確となった。

「ゲールの奴め、先走りおって」

  ディッツは奥歯を噛みしめながら、無用に接近したゲールを罵ったのである。




※主要登場人物

名前:マイゼル・ドラム
年齢:36歳
肩書:〈ゼルグートU世〉副長
階級:大佐
詳細――
  平民出身の士官。力士の様なガッシリとした体格と、オールバックの髪形、大きめの鼻等が特徴。
  叩き上げの士官で、軍人としての能力はバンデベルより遥かに優れている。


名前:エウスト・リーデン
年齢:40歳
肩書:〈クヴェルツ〉艦長
階級:大佐
詳細――
  艦隊旗艦〈クヴェルツ〉の艦長。ギュンター・クロイツェを支える右腕的存在。


名前:ハルツ・レクター
年齢:32歳
肩書:〈デウスーラU世〉艦長
階級:大佐
詳細――
  親衛隊所属の士官で、最新鋭艦〈デウスーラU世〉艦長を務める。


名前:イデル・モンク
年齢:37歳
肩書:副官
階級:中佐
詳細――
  ゲールの副官。横暴な上司に振り回される苦労人。


名前:ヘルマン・ベール
年齢:31歳
肩書:第5部隊司令官
階級:准将
詳細――
  ファイター然とした若手士官。元第9空間重突撃機甲大隊司令。
  砲撃戦に長けており、重火力を活かした集中砲撃能力に定評がある。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.