機動戦艦ナデシコ

〜The alternative of dark prince〜








第十三話 破滅、もしくは幸せへの『旅立ち』















悪夢は続いている。















「っ!」


ずくっ!


「痛ぅ」


最悪の目覚め。

起き抜けからの頭痛。

あの日からずっとこんな状態が続いている。


ずくっずくっずくっ。


頭が割れそうだ。


「くぅ……シャワーでも浴びよう」


痛みを堪え部屋に備え付けられている洗面所へ。

ちらりと洗面台の鏡に目をやる。

そこに映るのはぼさぼさした銀髪の男。

いつもと変わらない俺の姿。

だが、一点だけいつもと違う。


「うわ。凄い顔」


眼の下には濃く出来た隅。

ここのところ寝つきが悪くて、寝不足が続いていたからなぁ。

ドアを開けてバスルームへ。

シャワーの蛇口を捻る。


シャア――――――――。


この冷たさが気持ち良い。


ずきん、ずきん、ずきん、ずきん、ずき……。


「ふぅ」


徐々に引いていく痛み。

あれは何だったのだろう?

あの日、俺が気絶した日。きっと何かあったはすなんだ。俺は何か大事なことを忘れている気がする。


ずき。


「う」


だが、その淀みに手を伸ばそうとするたび、何かがそれを拒もうとするかのように頭痛にみまわれるのだった。

どうにか解決したいものだ。

が、今はどうしようもない。

雑念を振り払う。働いて借金を返すことだけ考えよう。

バスルームを出て着替えようと――


シュン。


ん? 何だ?

この軽快な機械音は。

何か機械仕掛けの扉が開くような。

そして、感じる。

背後に何かの気配。


「……あ」


自分を観察する。

俺の格好は、

腰に巻いた薄手のバスタオル一枚。

絶望的状況。

振り向くなと、俺の本能が訴える。

しかし、俺の体はそれに逆らって振り向こうと――


シュン。


今度は機械仕掛けの扉が閉まるような。

気配はなくなった。

なんだ、気のせいか。

さあ、本来の目的である服を着なければ。


シュン。


ズボンを穿いたその瞬間、また扉が開いた。

ぎぎぎ、と音のした方を向く俺の首。

そこにいたのは、勿論というかお約束というか。

ルリちゃんだった。

いや、待て。

何でまた開けるんだ?

そんな俺の困惑を知ってか知らずか、ルリちゃんは俺の部屋に入ってきた。

迷わず上半身裸の俺の方へ歩いてくる。

え? え? えぇ!?

駄目だ。ルリちゃんの顔から表情が読み取れない。な、何のつもりだ?

そうか。ドッキリか。

きっとこの部屋の外にはジンとサブロウタさんがいて、俺の反応を見て笑ってるんだ。

そうだ。そうに違いない。

まったく、どこまで俺を貶めれば気が済むのやら。

そんなことを考えているうちに、ルリちゃんは俺の間近まで詰め寄ってきた。

わ、わ。待った待った。

またもや何だかピンチ。


「あ、あの。るり、ちゃん?」


俺は何とかそれだけ言葉を発した。


「アキさん」

「あ、あ、あ」


ルリちゃんはこんなときまでいつも通り。

いや、いつもよりどこか真剣な感じがする。

ちょっと怖い。


「後ろ、向いて下さい」


は? 後ろを向けってどういう……。

あ。

あぁ、もしかしてそういうことなのだろうか。

半信半疑ではあったが俺は黙ってルリちゃんに背を向ける。


「…………」

「…………」


うぅ、ルリちゃんの視線を感じる。

何だか晒し者にされている気分だ。


「…………」

「っ!」


背中に冷たい感触。


「ルリちゃん!? 何をっ!」

「あ、すみません。痛かったですか?」

「あ、いや」


ルリちゃんは、俺の背中に手を触れていた。

正確には――

俺の背中に×の字に残る傷跡に。


「痛くはないよ。気付いたときからあったものだし、ずっと昔についた傷じゃないかな」

「そう、ですか」

「見てて気分の良いものじゃないよね?」

「いえ、そんなことは」


ん?

何か大切なことから眼を逸らしているような気がする。


「って、ルリちゃん! どうして俺の部屋に!?」

「どうしてって……何度もインターホンを押しても反応がありませんでしたし、ドアが開いていたので勝手とは思いましたが入らせてもらいました」

「いや、そんな淡々と説明されても……。いいから俺が着替え終わるまで部屋の外で待っててくれないかい?」

「分かりました」


はぁ、びっくりした。寿命が縮むかと思った。

ルリちゃんは俺を男と思っていないのだろうか。

分かっていたことだけどさ。

よし、着替え終了。


「ルリちゃん、もう良いよ」

「はい」

「ところで、ルリちゃん。何か用があったんじゃないの?」


当然、わざわざ俺の背中を見るためにやって来たわけじゃないだろう。


「あ、そうでした。今さっきミスマル提督からの召集がかかったんです」

「それだったら、なんで俺の所に来たんだい?」

「ええ、それなんですけど。今日はサブロウタさんがいないんです。それで、代わりに一緒に来てくれませんか?」

「そういうことなら構わないけど。で、どういう用件だったの?」

「例の幽霊ロボットについて、だそうです」











「今日来てもらったのは他でもない。ルリくん、幽霊ロボットの騒ぎ、知っているね?」


俺たちの目の前に腰掛けるカイゼル髭の人物。瞳を閉じデスクの上で手を組んでいる。

この人がミスマル・コウイチロウ提督。ミスマル・ユリカの実父なのだそうだ。

ただの親馬鹿だとの噂もあるが、本当はかなり出来る人物という話。

俺は直に会うのは初めてだ。


「はい」


幽霊ロボットとは――

太陽系内をボソン・ジャンプネットワークで結ぶ『ヒサゴプラン』。そのターミナルコロニーをなど、これまで三つのコロニーを次々と襲っている怪ロボットの ことである。これまでははっきりと確認されたことがなかったのだが、先日の四つ目の襲撃でその存在が明るみに出てきたのである。


「先日のターミナルコロニー『シラヒメ』襲撃も知っているね?」


『シラヒメ』の救援に駆けつけた第三艦隊のアマリリス。その艦長であるアオイ・ジュン中佐は、そのロボットがボソン・ジャンプをしたと証言。しかし、地球 連合総会は揉めに揉め、結局現段階でボソン・ジャンプ可能な全高8メートルの機動兵器など作ることは出来ない、ということで事故調査委員会には認められな かった。


「はい」

「事件は調査委員会と統合軍の合同捜査となり連合軍は蚊帳の外だ。しかし、このまま見過ごすわけにもいかん。そこで――」


ミスマル提督は眼を開け、こちらに視線を向けた。

それは、熟練した軍人の眼だった。

慌てて姿勢を正す。


「行ってもらいたいのだ。ナデシコに」

「え?」

「まずはターミナルコロニー『タギリ』を通り、『アマテラス』に向かってほしい」

「でも、『アマテラス』に予告はしなくて良いんですか?」

「うむ、すでに開発公団の許可は取ってある。拒否は出来んよ。まあ、厄介者扱いはされるだろうがね」

「……分かりました」

「そうか、頼むぞ。ところで、ルリくん。副長はどうしたのかね?」


いるはずのサブロウタさんがいないので不思議に思ったのだろう。

俺も理由を聞いていないから知らない。


「サブロウタさんは突然休暇を取ると言って、今日はお休みです」

「はっはっ。地球を発つ前に楽しんでおこうというわけか。彼もなかなか鋭い男のようだな」


サブロウタさんまさか……。

昼間から?

ツケ払ってないでしょうに。


「で、そこの若者は?」


軍人でもない俺を怪しむのは当然だろう。

だが、提督の眼は見たことのない人間に対する疑問ではなく、何と言うか……。

いや、気のせいか。


「あ、私の護衛とナデシコのコック、エステバリスのパイロットをしてもらっているテンガ・アキさんです。ご存知ありませんか?」

「ふぅむ。なるほど、君が……」

「はじめまして。テンガ・アキです」

「うむ、テンガくん」


それは、今までになく厳しい声と鋭い瞳だった。


「ルリくんのことよろしく頼むぞ」

「は、はいっ!」


提督は椅子を回して背を向けた。

そして、呟いた。


「……君も、気を付けたまえ」










そのころ……。


「……ついに、来るべき時が来るわ」





「もう少しよ……おにいちゃん」















こうして俺たちは地球を離れ、宇宙へ向かうこととなった。

俺は感じていたんだ。

この航海が、俺にとって重大な出来事になると。

そして、それは逃れることの出来ない運命なのだと。

俺は行かなければならない。

たとえそれが……身の破滅への道だったとしても。















<あとがき……か? これ>

こんにちは、時量師です。

まずは、ラピス・ラズリについて教えて下さった黒い鳩さん、ありがとうございます。

執筆の参考にさせていただきます。

そして、十二話が上手く書けているとのメッセージを下さった方がいるんです。本当に嬉しかったです。ありがとうございました。

さて、第十三話ですが、あと二話で劇場版とか言っておきながら、少し劇場版に掠ってしまいましたね。

言い訳なのですが、時量師はナデシコが出航してからが後半と据えておりますので、問題ないと考えます。

本来は登場するはずのジュンくんは一人称という都合でカットされましたが、致し方ないことです。あしからず。

次回は折り返し地点ということで番外編っぽいことをしたいと思います。

では、また次回。





感想

おお! 既にシラヒメ襲撃の様子。次回インターバルを挟んで後編へと…って、丁度13話で半分だとすれば2クール26話、TVにおける半年物みたいに出来 そうですね。 

さすが時量師さん! 計画性が違いますね♪ この
無計画話のびのび作家と比べれば天と地の開きがあります! もちろ ん、時量師さんが天ですよ♪

えらい長いあだ名を…。まあ、その辺は置いておいて、今回は前半アキ君の悩み&デリカシーの無いルリちゃん。後半はミスマル提督のお話という繋がりだね。

ピキ(怒)…脳みその容量が8ビッ トな貴方にはどうも、ちゃんと様の区別がつかないみたいですね…

いや…あの、ちょっと油断しただけだって! もう一度チャンスを…

いいでしょう、死んでやり直すチャンスをあげましょう…一度死ねば頭がよくなるかもしれません。

そういうのやり直すって言わない!!

知りませんよ、散って来なさい!
 レインボーブリッド・バースト!!
 
どごごー んー!

ぐばぁ…最近ちょっと減ってたのに…ガク。


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