機 動戦士ガンダムSEED Destiny 〜Whereabouts of fate〜




第二話 戦いを呼ぶもの(前編)




スティングは自分達の前に降り立った白いMS―インパルスを唖然としながら見ていた。

全体的なフォルムや特徴的な頭部から、自分達の載っている機体と同系列のものである事は間違いない。

だが、この機体は、たった今、自分達の目の前で合体して形成したのだ。

「こいつは……」

呆然としながら呟いていると、インパルスは対艦刀を振りかぶりガイアに飛び掛った。

<なんだっ、これは!?>

かろうじてその刃をかわしたガイアに、インパルスは下段から掬い上げるようにして斬撃を打ち込む。

シールドで防御はしたがMSとほぼ同じ長さの対艦刀による衝撃は緩和出来ず、ガイアは空中に弾き飛ばされた。

弾き飛ばされたガイアは頭部バルカンをインパルスに向けて乱射するが、PS装甲に阻まれる。

その射撃を気にした様子もなく、インパルスは腰にマウントされたライフルを構え、空中にいるガイアに向けビームを放った。

「くそっ、あれも新型か……!?」

ガイアを援護するようにライフルを発射しながら、スティングは毒づいた。

モニターに表示された『Unknown』の文字に、苛立ちが増す。

「どういう事だ。あんな機体の情報は……アウル!」

この工廠にある三機の新型MSを奪って来い、そう言われて彼らはここに潜入したのだ。

なのに四機目があるなんて話が違う。

やや押され気味なガイアを見て、スティングは急いでもう一人の仲間を呼び寄せようとした。

その間にもインパルスとガイアは目まぐるしく交錯しながら戦っている。

獣型に変形して飛び掛るガイアを見て、インパルスは対艦刀を再び分離させ、自分からガイアに向けて突っ込んだ。

<なにっ!?>

自分から突っ込んでくると思っていなかったステラはなんとかその斬撃をかわすと、振り向き様に空中から背部ビーム砲を放つ。

だがインパルスはそれをシールドで確実に受けると、右手に持った対艦刀を、ガイア目掛けて投げつけた。

それを見たステラはすかさずシールドで受けたが、空中でその衝撃に逆らえるはずもなく、更に後方へと弾き飛ばされた。

その戦い方を見ていたスティングは、口元を引き締めた。

―――機体だけじゃない、パイロットの方もなかなかやる! コイツは侮ってはならない相手だ……!




<シン! 命令は捕獲だぞ!>

突如スピーカーから飛び込んできた声に、シンは眉を顰めた。

声の主はミネルバの副長、アーサー・トライトンだ。

……無茶を言ってくれる。

シンは内心で副長に毒づきながら、対峙するガイアを見た。

MSの性能はほぼ互角、パイロットも相当強い。

そしてこちらが一機だけであるのに対し、向こうにはカオスが、そしてこの場にはいないがアビスもいるのだ。

それに襲撃の様子や今の攻防から察すると、向こうは実戦経験もあるのだろう。


実戦経験のない自分一人と、実戦経験のある相手が三人。

一機のザクがいるにはいるが、武装は接近戦用のビームトマホークのみで、援護は期待出来そうにない。

……はっきり言って、分が悪すぎる。

それに捕獲するという事は、戦闘能力だけを奪うという事だ。

この状況でそんな器用な事が出来るほど、自分の技量は高くないというのに……!


<分かってるんだろうな! あれは我が軍の……!>

なおも聞こえてくる声に、シンは荒々しく怒鳴り返した。

「分かってます! でも、努力はしますが保障はしませんよ!」

一方的に言い返しながらモニターを見れば、ガイアがシールドを掲げて斬り込んで来る。

それを後退しながらかわし、右手に持ち替えたエクスカリバーで斬り上げ、ガイアの振り下ろしたビームサーベルを受け止める。

ビーム刃同士が干渉し、激しく火花を散らした。


そう、出来るだけ努力はする。

だが壊さないよう手加減させてくれるほど、敵は優しくなさそうだ……!



「おい、シン!」

その様子を見ていたアーサーは、慌てたような声を出した。

それを艦長席で見ていた女性―タリア・グラディスは、小さく溜息を吐いた。

自分の副官は優秀なのだが、こういった咄嗟の事態に慌てふためくのが玉に瑕だ。

「いいわアーサー。シン、あなたの判断に任せます」

<了解!>

「艦長! ですが……」

「この状況じゃ贅沢を言ってられないでしょう? それに、これは演習ではなく―――実戦よ」

その言葉に、アーサーは息を呑んだ。

確かにこれは安全を確保された演習ではなく、殺すか殺されるかの実戦なのだ。

下手に躊躇してシンが殺されでもしたら、元も子もなくなる。

アーサーが頷いたのを見ると、タリアは軍港に連絡を入れた。

「強奪部隊なら、外に母艦がいるはずです! そちらは?」




その頃、軍港に二機のMSが密かに接近していた。

ステルス塗料で黒く塗られたこの機体―『ダークダガーL』は、地球連合の特殊部隊が好んで使う機体だ。

彼らはバックパックからガスを噴射し、レーダーを掻い潜りながら静かに軍港へと忍び寄っていた。


同じ頃、付近を巡回中だったナスカ級戦艦二隻のすぐ近くに、件の母艦はいた。

特務艦『ガーティ・ルー』の艦橋で、顔の上半分を仮面で覆った男―ネオ・ロアノークは、左腕の時計に目を向けた。

そこに表示された数字全てがゼロになると共にアラームが鳴り、ネオは口元を歪める。

「よぉーし、行こう。……慎ましく、な」

おどけたような号令と共に、ガーティ・ルーの艦橋はにわかに活気付いた。

「ゴットフリート、一番二番起動! ミサイル発射管一番から八番、コリントス装填!」

「イザワ機、バルト機、カタパルトへ」

矢継ぎ早に命令、操作する者は皆、地球連合の制服を着ている。

正面モニターにはナスカ級戦艦が映っているが、自分達に気づいた様子はない。

もうすでに射程圏内に入っているのに、だ。

それもそのはず、ガーティ・ルーが存在するはずの宙域には、いかなる艦影も無いのだから。

それは視覚的にも、そしてレーダーでも捉える事が出来ないという意味だ。

未だに気付かないナスカ級戦艦を見ながら、ネオは陽気な様子で命令を下した。

「主砲照準、左舷前方ナスカ級。発射と同時にミラージュコロイドを解除、機関最大。―――さぁて、ようやくちょっとは面白くなるぞ、諸君」

軽口を叩く指揮官に、隣に座す艦長のイアン・リーが謹厳そうな顔に微かだが笑みを浮かべる。

そして、おもむろに声を張り上げた。

「ゴットフリート、てーっ!」

号令と共に放たれた225センチ二連装高エネルギー収束火線砲・ゴットフリートMk-71が、標的となったナスカ級の機関部を撃ち抜き、一隻の戦艦 を乗組員ごと巨大な火球に変えた。

エンジンが唸りを上げ船体が加速する。

すると、何もなかった宙域に変化が現れた。

揺らめきながら帳を落とされたように、虚空から青銅色の戦艦が現れたのだ。

先の大戦でMSの迷彩用として開発された技術―ミラージュコロイド。

それは可視光線を歪め、レーダー波を吸収するという性質を持つもので、ガス状に散布したそれを磁場で安定させる事により、対象物を敵の目から完全に 隠す事が出来るのだ。

そしてこの艦は、ユニウス条約によって使用を禁止されていたこの特殊兵装を装備していた。

だがミラージュコロイドも熱量だけは隠す事は出来ない為、両舷に追加した推進装置から噴射したガスを使い、その推力だけでここまで接近したのだ。

エンジンを稼動させた今、ミラージュコロイドは意味を成さない為解除したのだが、既にその効果は充分だった。


突然現れ、主砲とミサイルを乱射しながら進んでくるガーティ・ルーに、撃沈されたナスカ級や付近の巡視部隊、アーモリーワンの管制が虚を衝かれたの は間違いない。

だが二隻目のナスカ級はミサイルの殆どを迎撃し、回頭して応戦してくる。

「そーら、来るぞォ!」

ネオは緊迫した様子のない口調で言うと、矢継ぎ早に命令を下す。

「モビルスーツ発進後回頭20! 主砲照準インディゴ、ナスカ級!―――あちらの砲に当たるなよ!」

開いたハッチから『GAT-02L2 ダガーL』二機が飛び立っていく。

先の大戦末期に量産された『GAT-01 ストライクダガー』の後継機であり、現在、地球連合の主力として活躍する機体だ。

汎用性に優れた機体で、発進した二機も対艦用バズーカ二門を追加兵装として背部に装備している。

応戦しているナスカ級からもジンやシグーが次々と発進しているが、先制を食らって次々とダガーLに撃ち落されている。

戦況は圧倒的に、ガーティ・ルーに有利な状況で進んでいた。

その様子を見ながら、ネオはゆっくりと回転を続けるアーモリーワンに目を向けた。

―――そろそろ、花火が上がる頃かな?




アーモリーワンの軍港司令部は、蜂の巣をつついたような騒ぎだった。

軍工廠が襲撃を受け、外に母艦の存在を予想して友軍艦を哨戒に出した途端、何もない空間から砲撃を受け撃沈されたのだ。

「不明艦捕捉! 数1、オレンジ25マーク8ブラボー! 距離2300!」

そのオペレーターの報告に、上官は耳を疑った。

距離2300、それは、アーモリーワンからはほとんど目と鼻の先だ。

「そんな位置に?」

「ミラージュコロイド……?」

上官の一人が可能性を口にした途端、辺りに動揺が走る。

確かにそれしか考えられないが、ユニウス条約で禁止されたものを、一体誰が……?

「地球軍なのか?」

その問い掛けに、オペレーターは苛立ちの増す答えを返す。

「熱紋ライブラリ照合―――該当艦なし!」

それが意味するのは、データにない新型艦という事だ。

船籍を特定する事も出来ないが、このままやられる訳にはいかない。

「迎撃だ! 艦を出せ、MSもだ!」

指示を受け、係留されていたローラシア級が発進し、ゆっくりと司令ブースの前を横切って行く。

先頭の艦が港口にさしかかろうとした時、突如として黒い影が躍り出た。

ここまで接近して機を窺っていた、ダークダガーLだ。

彼らはローラシア級の艦橋前に躍り出ると、肩に担いだバズーカを発射した。

そして撃ち出された砲弾は艦橋を突き破り、爆発。

その様子を確かめる間もなく、ダークダガーLは後続の艦に向けて次々と砲撃を開始していく。

一隻の艦がエンジンブロックに砲撃を受けて激しい爆発を起こし、その衝撃で流された艦が司令ブースを直撃した。

一隻が爆発すれば他の艦も次々に誘爆を起こし、この狭い発進路内では避ける事も出来ない。

こうして、港口は爆発と戦艦の残骸で埋め尽くされた。




微かな震動が足元から伝わり、スティングに『タイムオーバー』を知らせた。

目の前ではインパルスと獣型のガイアがまだ戦いを続けている。

ガイアが翼部のビームブレイドで斬りかかるがそれをインパルスはシールドで受け流し、ガイア目掛けてライフルを放つ。

だがガイアは格納庫の壁を足場とするトリッキーな動きで避け、背部ビーム砲を放った。

それを飛びのいて避け、着地した瞬間を狙ってスティングがサーベルで斬りかかったがかわされ、地面に突き立てられた対艦刀―ガイア目掛けて投げつけ たもの―を抜き、振り向き様にコックピットを狙ってくる。

それをかわして後退しながら、スティングは改めてインパルスに目を向けた。

二段構えの攻撃も避けられ、なおかつ反撃されたのを見て確信する。

―――やはり、コイツは強敵だ!


後退したカオスに代わってガイアが飛び掛ろうとしたが、上空からの砲撃に足を止められた。

見れば、加勢に来た二機のディンがガイアとカオス目掛けて銃弾をばら撒いている。

撃ち落そうとカオスがライフルを向けたが、その前に別の方向から飛んできたビームがディンを貫いた。

飛来したのはブルーの機体―アビスだ。

<スティング、さっきの―――>

それが何を意味しているかを察し、スティングは言葉を返す。

「分かってる。『お迎え』の時間だろ?」

<遅れてる。バス行っちゃうぜ?>

「分かってると言ったろうが!」

ガイアが離れたのを見てライフルを放つが、インパルスはそれもシールドで防ぐ。

<だいたい、ありゃ何だよ!? 新型は三機のはずだろ!>

アウルが非難がましく言うから、スティングもむっとした言い方で返した。

「俺が知るか!」

<どーすんの? あんなの予定にないぜ! ―――っち、ネオの奴!>

アウルがここにはいない上官に毒づくのを聞き、スティングも密かに同意した。

―――この三機の情報は得られたくせに、なんでアレは調べてないんだよ? 中途半端な!

「……けど、放っちゃおけないだろ! 追撃されても面倒だ!」

そこまで言った時シート右側のアラームが鳴り、目を向けると上空からシグーが接近していた。

ライフルでスラスターを撃ち抜くと、インパルスの方を向き直った。

ザフトも奇襲の混乱から立ち直っている以上、ここらで撤退した方がいいのは分かっていた。

だが、あの機体はさっさと沈めた方がいい。

その直感じみた考えに従い、インパルスへと向かって行く。

<はんっ! 首でも土産にしようっての?>

馬鹿にしたように言いながら、アウルもスティングの後に続く。

<カッコ悪いってんじゃねぇ、そういうの!>




スティング達が感じ取った震動は、ザクのコックピットにも伝わっていた。

「アスラン……」

「外からの震動だ。……港か?」

カガリの言葉に答えたアスランの脳裏には、二年前の光景が浮かんでいた。

自分を含むザフトの強襲部隊の攻撃によって崩壊した、オーブの所有するコロニー『ヘリオポリス』。

その光景を思い出して顔を顰めながら、前方で繰り広げられている戦闘に目をやった。

そこではインパルスが三機相手に孤軍奮闘している。

人型に戻ったガイアと斬り結んでいたインパルスの死角から、カオスとアビスが接近する。

そして突っ込むと見せかけたカオスとインパルスの側にいたガイアが飛びのくと同時に、アビスが胸部の大口径ビーム砲を放った。

それを横に飛んでかわしたインパルスだったが、直後、頭上から爪先部にビーム刃を形成したカオスが降ってくる。

その奇襲をインパルスはなんとか避けたが、完全にとはいかずに機体を掠った。


ザクのコックピットからその攻防を見ていたカガリとアスランは、息を呑んで愕然としていた。

目の前の機体は機動力、火力共に桁外れだが、驚嘆すべきはそれを操るパイロットの技量だ。

インパルスのパイロットは、恐らく紅服を纏うトップガンだろう。

その技量は名に恥じないものだが、それ以上に目を引くのは敵側の三機だ。

強奪部隊である以上、機体に触れるのは今日が初めてのはず。

それでいてここまで機体を使いこなせるとは……。


呆然と攻防を見ていたアスラン達だったが、ガイアの斬撃でインパルスが体勢を崩したのを見て顔色を変えた。

体勢を崩したインパルスの背後から、アビスがビームランスを振りかぶりながら迫っている。

慌ててインパルスがエクスカリバーを振り上げようとするが、間に合わない―――!

「アスラン!」

「しっかり掴まっていろ!」

咄嗟に叫んだカガリに短く命じると、アスランはペダルを思いっきり踏み込んだ。

限界まで出力を上げて駆け抜け、アビスのビームランスがインパルスを斬り裂く直前で、ザクが肩から体当たりを食らわせた。

シールドを掲げる間もなく体当たりを食らったアビスは後方に大きく弾き飛ばされる。

アスランは素早く機体を旋回させ、背後から突進してくるガイアに向けてビームトマホークを投擲した。

重い戦斧が唸りを上げて飛び、かろうじて掲げたガイアのシールドに突き刺さる。

そこで一旦距離をとろうとした時、身を起こしたアビスが胸部の砲口から強烈なビームを放った。

慌ててシールドを掲げて防ごうとしたが、大出力のビームはシールドごとザクの左腕を吹き飛ばした。

だがビームに込められた怒りはそれだけでは収まらず、左腕を吹き飛ばした衝撃でザクを背後の格納庫に叩き付けた。

コックピットが激しく揺さぶられ、シートに掴まっていただけのカガリが耐え切れずに宙を舞った。

「―――っ!」

どこかではね返り膝の上に落ちてきたカガリの身体を、アスランは慌てて抱きとめた。

その時、頭を支えた左手がぬるりと滑った。

その感触に掌を見れば、赤い血が付着している。

「カガリっ!」

ぞっとしながら呼びかけるが、気を失っているらしく返事がない。

そちらに気をとられかけたが、警告音とモニターに映る敵機の姿に慌てて機体を操作する。

直後、さっきまでザクのいた場所をビームが穿ち、格納庫を倒壊させた。

やむを得ない状況だったとはいえ、こんな状態で戦闘に介入するべきではなかった。

アスランは気を失ったままのカガリを気遣いながら、そのまま戦場を離脱した。




「早くっ! 入れるだけ開けばいい!」

倒壊した格納庫の中で、ルナマリアはじりじりしながら叫んだ。

作業員も兵士も総出で、機体の上から瓦礫を運び下ろしている。

一方のレイは自分の機体の傍らに立ち、コックピットハッチが見えるのを静かに待っていた。

あの三機が襲撃を始めた時、レイとルナマリアは自身の機体がある格納庫に向けて走っている最中だった。

だが到達する前に格納庫にミサイルが命中し、倒壊したのだ。

後一分駆けつけるのが早ければ、今頃は瓦礫の下だった。

その点では、彼らは幸運だったと言えるだろう。

「レイ!」

声が掛かったと同時にレイは機体の上に飛び乗り、コックピットに滑り込んだ。

「中の損傷は分からん、いつも通りに動けると思うなよ! 無理だと思ったらすぐ下がれ!」

その言葉に頷いてみせると、レイはハッチを閉めてOSを立ち上げた。

低い音と共にモノアイが点灯し、瓦礫を落としながらその機体が身を起こした。

両肩にシールドを装備し、頭部に一本の角を有したこの機体―『ZGMF-1001 ザクファントム』はザクウォーリアの上位機種に当たる もので、全体をレイのパーソナルカラーである白灰色に染められている。

<どけ、ルナマリア>

外部スピーカー越しに聞こえた声に、ルナマリアとスタッフが機体の上から飛びのいた。

ザクファントムの手がコックピットハッチを塞いでいた鉄骨を掴み、瓦礫と共にいとも簡単に払いのける。

赤い機体が現れ、ルナマリアは喜び勇んでコックピットに飛び乗った。




上空のディンが援護射撃をする中、インパルスはエクスカリバーを両手に持ちアビスへと斬りかかった。

弧を描いて胴体を両断しようと迫る斬撃を、アビスは飛びのいて避ける。

エクスカリバーを振り抜いたインパルスの背後からガイアがビームサーベルで斬りかかるが、シンは振り抜いた勢いで機体を旋回させ、その一撃をもう片 方のエクスカリバーで受け止めた。

「これ以上好き勝手……させてたまるかぁっ!」

その気迫に押されたかのようにガイアが空中に逃れると、シンはそれを追って飛ぶ。

戦場を空中に移した事で下からの攻撃も混じるが、シンはそれを一つ一つ確実にかわしていく。

だが流石に三対一は厳しいのか、アビスの甲羅状のシールドの内側から放たれた六本の熱線の一つが、インパルスの脚を掠めた。

それに歯噛みしながら、シンは敵となった、嘗ては共に演習を行っていた三機を見た。

「カオスもアビスもガイアも……なんでこんな事に!」

背中の翼に似た装備を持ち構えると、片方からビーム刃を出してブーメランとなったそれを投げつける。

それはインパルスへと向かっていたガイア目掛けて飛び、咄嗟に構えたシールドに当たってガイアを弾き飛ばした。

その反動で戻ってきたブーメランを握ると、シンはすぐさまシールドを掲げた。

直後、上空からアビスの放った六本の熱線が襲い掛かり、シンが防いだもの以外が地上へと降り注ぎ、その場にいたガズウートやゲイツRを貫いた。

地上で新たに生まれた火球を見て、シンの紅い瞳が怒りに燃える。

その時、ビームの矢がインパルスの側を通り、アビスのシールドに着弾した。

驚いてそちらを向くと、シンは微かだが頬を緩めた。

見慣れた赤と白の機体―アカデミーからの仲間である、ルナマリアとレイの機体だ。

―――よかった、二人とも無事だった!

レイはいつものように無駄の無い動きでビーム突撃銃をコントロールし、ルナマリアは威勢のいい啖呵を切りながら撃ちまくる。

<こんのぉ! よくも舐めたマネをっ!>

二機のザクから放たれるビームに、三機は翻弄された。




「コイツっ……何故墜ちない!?」

ステラは憎々しげに吐き捨てながら、飛び交う敵機を見た。

そこにはザクもいるのだが、彼女にはインパルスしか見えていない。

さっきから散々仕掛けたにも拘らず未だに撃墜できず、あまつさえ反撃されて痛い目を見せられた。

―――目障りだ! コイツを墜とすまで退けない、否、退くものか!

<スティング、キリがない! コイツだってパワーが……>

ぼやくアウルの声に焦りが滲み、スティングが決断を下した。

<離脱するぞ! ステラ、そいつを振り切れるか!?>

通信機からスティングの声が聞こえるが、その内容などステラにとっては知った事ではなかった。

モニターに映るインパルスを見ながら、殺気立った声で言い捨てる。

「……すぐに沈める!」

完全に頭に血が上ったステラは、ライフルと背部ビーム砲を乱射しながらインパルスに突っ込んだ。

「こんなっ……私は! ……私はっ!」

目の前に迫るインパルスも両手に持った対艦刀を交差させて待ち受ける。

両者の刃が一閃し、空中で機体が交錯する。

―――まただ、また防がれた! 何故コイツは沈まない!?

<離脱だ! やめろ、ステラ!>

スティングが怒鳴りつけるが、ステラはなおもサーベルを掲げて襲い掛かる。

「私が、こんなぁっ……!」

苛立ちと怒りで頭が沸騰しそうになるが、その時、ステラの耳にアウルの皮肉気な声が飛び込んできた。

<じゃあ、お前はここで死ねよ!>

―――っ!?……死? ……死ヌ!?

その言葉と共にステラの頭が真っ白になり、心臓から身体の隅々まで凍りつくほど冷たい何かが広がっていく。

まるで全身の血管に冷却液を流し込まれたようだ。

今までステラが立っていた自信という丈夫な土台は、薄い氷の板へと変わっていた。

<アウルっ!>

スティングが制止の声を掛けるが、アウルは意地悪く続ける。

<ネオには僕から言っといてやるよ―――サヨナラってな!>

ステラの身体が震えだす。

―――死ヌ? ……誰ガ……私?

両肩を抱いても震えは止まらない。

操縦桿から手を離したせいで、機体は慣性のまま無防備に流れる。

―――『サヨナラ』?

自分が立っている氷の板が、音を立てて罅割れていく。

まだ震え続けるステラの目の端には、うっすらと涙が浮かび始めた。


急に攻撃を止めたガイアにインパルスがブーメランを投げるが、間一髪でカオスが割って入りシールドで防いだ。

<アウル、お前……!>

<止まんないじゃん。しょうがないだろ!?>

<黙れバカ! 余計な事を……!>

仲間の言い争いを遠くに感じながら、ステラはスティングが庇ってくれなければ死んでいた事を悟った。

それを悟ると同時に、足元の氷が粉々に割れた。

ぽっかりと開いた穴から、ステラへと忘れていた感情が圧倒的な強さを持って迫り、絡みつく。

それは、恐怖だ。

「―――いやあぁぁぁぁっ!」

泣き叫びながら、必死になって機体を返す。

―――死ヌ! 逃ゲナケレバ、殺サレル!

ステラはもはや戦士ではなく、死に怯えて逃げ惑う少女にすぎない。

急加速で離脱するガイアを見て、スティングは舌打ちした。

その後に続きながら、アウルは悦に入ったような声で言う。

<な? 結果オーライだろ?>




「逃がすか!」

あまりに唐突な退却に、シンは一瞬反応が遅れたが、それを取り戻すようにバーニアを全開にした。

レイとルナマリアも後に続く。

天頂へと逃げる三機を追いながら、シンは気になっている事を考えていた。

あの三機に乗っているのは何者か、という疑問だ。

敵が地球連合、あるいはそれに類する者である事は確信していた。

だが問題はパイロットだ。

あの三機は陸海空それぞれに狙いを絞った、特殊な設計をしてある機体だ。

それを奪ってすぐに乗りこなすなど、ナチュラルには、否、コーディネイターでもそうそう出来るような芸当ではない。

反応速度にしてもナチュラルではあり得ない、もしかしたらコーディネイターすら上回っているかもしれないのだ。

<……ええっ!?>

そこまで考えた時、シンの思考は突然飛び込んできたルナマリアの声に遮られた。

サイドモニターを見れば、バーニアから黒煙を噴出しているザクウォーリアが見える。

恐らく格納庫が破壊された際にどこかを損傷していたらい。

「ルナ、戻れ!」

シンがそう言うとルナマリアは心外そうに<でも……>と言い返したが、

<無理をするな、ルナマリア>

と、レイが冷静に命じると、しぶしぶ機体を返した。







あとがき対談


こんにちは〜、種運命第二話前編をお送りいたしました。

ど も、あとがきアシスタントのシン・アスカです。

さてさて、このSSも第二話に突入ですよ、どうしましょ。

まだ二話だろ……。てかさ、これ小説版と変わった箇所とかあるの?

うむ、まずはアーサーとの口論が無くなってる。
これに関しては、このSSの君は戦闘中に無駄な口論をするような性格じゃないってのを知ってもらうのが狙いだったね。

ふ〜ん。まぁ艦長に怒られずに済んだからいいけど。

二つ目は、エクスカリバーの二刀流で戦っている所だね。
これには二つ理由があって、まずはSEED MSVに登場したソードカラミティが好きだってのが一つ。

……めっさ個人的な理由だな。

もう一つは、ソードシルエット装着時のインパルスは、あくまでも接近戦重視の機体だからね、その特徴を前面に押し出そうと思って。
それにソードインパルスってさ、装備だけ見ればソードカラミティに似てると思わないか?
対艦刀二本にビームブーメランが二つ、中距離用にインパルスはビームライフルがあって、カラミティはスキュラがあって。
あと、両方赤いし。

まぁ、言われてみれば……。
あ、あとさ……オーブにいた頃、俺に格闘技を教えてくれた人って、誰?

……さあ? 東の方じゃ負けなしの人なんじゃない?

いや、その人作品違うから。

まぁそれに関しては、その内分かってくるよ。
それでは皆さん、また後編でお会いしましょう〜!

次回もよろしくお願いします。








感想

第二話突入ですね〜、トシさん頑張っておられます。

しかし、小説版を良く知らない私にとって見ると、小説版は第一話を詳細に書いているんだな〜と感心します。

トシさんのアレンジ部分がどの辺りなのか分らないのは私の不徳の致すところですので、ご勘弁を(汗)

今回は、ステラ達の撤退までいけなかったので、次回ということになるのでしょうね。

今後シン君の師匠がトン・ポン・プ・パイ(注:映画スウォーズマンの字幕版を見ている人にしかわからないかも?)だとは…

では、素手でガンダムと渡り合ってもらわねば!!

世界観を叩き潰すようなこと言わないでください!!

そうはいっても〜トシさんが言っている事だしね〜

ぼかしているだけじゃないですか! 引っ張りたいんですよ! 駄作家でも、そのくらい分るでしょう!

とはいっても、実際の所コーディネーターに普通の武道の師匠が必要なのかどうかは、微妙って気もするけどね。

そうはいっても、天才でも結局関与していない事は憶えないんですから、ある程度の訓練は必要だと思いますよ?

でも、コーディネーターなら普通に武道を練習しただけで達人になれる気がするんだけど…

そう言えばそうですね…では、どうして師匠が必要になるのか少し気になりますね。

結局の所、コーディネーターは普通の武術なら学校の事業にでも盛り込んでおけば憶えてしまう。

でも、それが普通じゃなかったら?

はっ!…それが、流派、トン・ポン・プ・パイというわけですか…

うん、だからありえないことじゃ無い気がするんだよ。

確かに…珍しくまともな事を言ってますね。

珍しくって…結構ひどい…

いえ、訂正します。まともな事を言ったのはこれが初めてなんじゃないですか?

ぶっ! 

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