機動戦 士ガンダムSEED Destiny 〜Whereabouts of fate〜



第二話 戦いを呼ぶもの(後編)





満身創痍になりながらも戦い続けていた二隻目のナスカ級が、ついにガーティ・ルーの主砲の直撃に耐え切れず撃沈された。

「左舷後方よりゲイツ、新たに3!」

港の方は予定通り潰せたらしく、新たに発進してくる艦影はない。

だが小回りのきくMSまでは抑える事は出来ず、次々にジンやゲイツが発進している。

それを見てもリーは表情を動かさず、淡々と命じる。

「アンチビーム爆雷発射と同時に加速20%、10秒。一番から八番スレッジハマー装填! MSを呼び戻せ!」

肘をついてのんびりと戦闘を見ていたネオは、おもむろにオペレーターに訊ねる。

「―――彼らは?」

それが何を意味するかを察したオペレーターは、首を横に振った。

「まだです」

その返答に、ネオはやや困惑したように息をつき、リーはあっさりと問いかける。

「失敗ですかね?」

アーモリーワンに潜入した別働隊、つまりステラ達の事だ。

既に予定時刻をかなり割っている。

「港を潰したといっても、あれは軍事工廠です。長引けば、こちらが保ちませんよ」

冷たいようだが、長時間この宙域にとどまるのは望ましくない。

襲撃してくるMSは増える一方であり、封鎖した港が予定より早く復旧するという可能性もある。

「分かってるよ。だが失敗するような奴らなら、俺だってこんな作戦、最初からやらせんしな」

リーの進言に気を悪くした様子もなく応じた後、席を立った。

どちらへ、と視線で問いかけるリーに答えながら、ネオはふわりとエレベーターへと向かった。

「―――出撃して時間を稼ぐ。艦を頼むぞ」

「はっ」

それについて何かを言うわけでもなく、リーは頷いた。

指揮官が艦を離れて戦場に出るのは望ましくないが、これに関しては経験上言っても無駄だと分かっていたからだ。

リーは手元のインターフォンを取って告げた。

「格納庫、エグザスが出るぞ! いいか?」

ほどなくして左舷ハッチが開き、一機のMA(モビルアーマー)が射出された。

赤紫色のどこか鮫を思わせるこの機体『TS-MA4F エグザス』は、ネオの専用機だ。

一対のレールガンと四基の特殊兵装を持つ機体が流星のように、新たに接近してくるゲイツR三機に迫る。

ダガーLを撃破したゲイツRが新たに見つけた標的―エグザスに銃口を向けるが、エグザスは射線や弾道を見切るかのように縦横無尽に飛びまわる。

そして機体を取り巻いていた四基の特殊兵装がパッと四散した。

それらは全く独自の軌道を描きつつ、敵機にビームの雨を降らせる。

このエグザスは、先の大戦で『エンデュミオンの鷹』と呼ばれたエースパイロット、ムウ・ラ・フラガが駆ったMA『メビウス・ゼロ』の発展改良型に当 たる。

そして飛び回る四基の特殊兵装―ビームガンバレルは、大戦末期に開発され、『月下の狂犬』モーガン・パリシェが駆った『ガンバレル・ダガー』に装備 されていた有線式ビームガンバレルを改良したものだ。

高速で動く小さなガンバレルを捉えるのは難しく、三機のゲイツは翻弄されるまま次々に被弾し、撃墜されていく。

全方位攻撃が可能なこの兵装を搭載したエグザスにとってはMSでさえ必ずしも脅威とはならないが、自在に扱うには卓越した空間認識能力が必要とな る、使い手を選ぶ機体だ。

瞬く間にゲイツ三機を墜とした上官の搭乗機を艦橋から眺めていたリーは、思わず苦笑した。

―――確かに、これでは大人しく指揮官席に座っていられないのも無理はない。






強奪された三機を追いながら、レイは前を行くインパルスを見た。

普段から感情を見せないシンだが、インパルスからは、静かな怒気が伝わってくる。

無理もない。

あの三機は、まるで楽しんでいるかのように暴れ回り、工廠を破壊したのだから。

このような事をされれば誰だって怒りを抱く。

それはレイとて例外ではなかったが、それ以上に気に掛かっている事もあった。

あの三機が行ったのは、紛れもなく挑発行為だ。

そして一応の停戦をしたとはいえ、未だに地球連合とザフト間では小さな争い事が絶えない。

そんな微妙な時期に、何故このような挑発行為をしたのだろうか?

それがレイには気になっていた。

その時、カオスが背部の兵装ポッドを分離させ、それを補うようにアビスが前に出る。

アビスの胸部ビーム砲と両肩のレールガンが火を吹き、インパルスとザクを狙う。

「くっ、考え事をしている場合ではないな……!」

インパルスや強奪された三機のようにPS装甲を持たないザクは、通常弾でも破壊できる。

レイ達は素早く散開してアビスの砲火を避けるが、すでにカオスから離れた兵装ポッドが両者の背後に回り込んでいる。

二機の兵装ポッドは生きているかのように動き回り、ありとあらゆる角度からビームを放ち、レイ達を追い詰める。

<ちっ、奪った機体でこうまで……!>

通信機越しに聞こえるシンの声に焦りが滲む。

このカオスの兵装ポッドは、先の大戦時に開発された『ZGMF-X13 プロヴィデンス』に導入されたドラグーンシステムを使っている。

操作を簡易にしているとはいえ、このシステムは正規のパイロットでも手を焼く代物だ。

それを自在に扱う以上、絶対にこの機体を渡してはならない。

「脱出されたらお終いだ! その前になんとしてでも捕らえるぞ!」

<分かってる! だが、いざとなったら墜とすぞ!>

そう言うと、インパルスは左手の対艦刀を背中にマウントし、代わりに持ったライフルで射撃を行う。

だが先の一連の動作は牽制だったのか、レイ達と距離を開けた三機は、スラスターを全開にしてプラント外壁に向かった。

シンのインパルスも加速し、レイも後に続くが、その時―――。

「……!?」

レイの体を奇妙な感覚が突き抜けた。

反射的に身を起こして辺りを窺うが、そこには何もない

「……なんだ?」

背筋を電流が駆け抜けたような感覚だったが、もうそれは消えている。

だが、まだ見えない何かに頭を押さえつけられているような、妙な圧迫感がある。

初の実戦によるプレッシャーかもしれない。

そう片付けると、レイは改めて逃げる三機を見た。

今この場にいるのは、自分とシンだけだ。

―――ならば、あれを止められるのもまた自分達だけなのだから!






その頃、ミネルバの艦橋ではバート・ハイムが司令部を呼び出そうとしていた。

だが既に壊滅した司令部が答えられるはずもなく、聞こえるのはノイズだけだ。

「駄目です! 司令部、応答ありません!」

その報告に、タリアは顔を顰めた。

恐らくはさっきの震動、あれが港への攻撃であり、その時に司令部もやられたのだろう。

「工廠内でガス発生、エスバスからロナール地区まで、レベル四の退避勧告」

情報収集に当たっていたメイリン・ホークの報告で、タリアは益々機嫌が傾いていく。

「……艦長、まずいですよね、コレ。もし逃げられでもしたら……」

「……バサバサと首が飛ぶわね、主に上層部の」

動揺したアーサーの言葉にむっつりと答えると、アーサーは更に情けない声を出した。

……自分達の首は大丈夫だと、開き直るくらいは出来ないのだろうか。

これが収まったら、みっちりとしごいてやる―――こんな状況の中、タリアはそう心に決めた。


「えっ、お姉ちゃん……!?」

驚いた声を出すメイリンに訊ねると、バーニアに不調をきたしたザクが緊急着艦するらしい。

元々この艦に配属される機体なので、それが前倒しになったと思えばいいのだが。

「それにしても……何処の部隊かしらね、こんな大胆な作戦を行うなんて」

モニターには、シン達の追撃を振り切って外壁に向かうセカンドステージ三機が映し出されている。

必然性から考えれば地球連合だが、あの三機はかなり特殊な機体だ。

それを奪って早々に乗りこなすようなパイロットが、ナチュラルであるとは思えない。

にもかかわらず、これほどの作戦を遂行できる部隊が地球連合以外に出来るとは思えないのだ。

式典前の混乱にまぎれて潜入し、新型機を奪取し、プラント内部で騒ぎを起こす。

それに呼応するように外からの襲撃で港を潰すなど―――。



その時背後のエレベータが開き、タリアは後ろを振り向き、驚きの声を上げた。

「議長?」

彼女の視線の先には、随員を伴ったデュランダルが立っている。

「状況は!? どうなっている!」

入るなり端正な顔を引き締め、厳しい表情で訊ねるデュランダルに、タリアはモニターを見ながら簡単に状況を説明した。

内心、厄介な事になったと思いながら。

確かにデュランダル議長は立派な人だとは思うが、ここは戦艦の中であり、今は非常時だ。

そんな中、抗いがたい権力を持った部外者を艦橋に入れたいと思う艦長など、そうはいないだろう。



それを思いタリアが密かに嘆息した時、モニターがぱっと明るくなった。

見れば、ガイアが背部ビーム砲とライフルを外壁に向けて乱射している。

それを止めようとしたインパルスがビームブーメランを放つが、アビスの放った胸部大口径ビーム砲によって灼き尽くされる。

「まずいな……」

それを見たデュランダルが苦い呟きを洩らす中、ガイアは再度砲撃を行う。

インパルスとザクが阻止しようと向かうが、カオスとアビスに阻まれていいように動けない。

その時、インパルスから通信が入った。

<ミネルバ、フォースシルエットを!>

その要求にアーサーがタリアの方を向く。

「艦長」

どうします、と言外に語るアーサーの言葉に、タリアは頷いた。

ここがあの三機を押さえられるか否かの瀬戸際だ。

持てる切り札を切るのなら、今この場しかない。

「許可します、射出して!」

彼女の命を受け、メイリンが格納庫に指示を下す。

その様子を見ながら、アーサーは背後に視線を感じた。

それを見たタリアは肩越しにデュランダルを見やる。

「もう、機密も何もありませんでしょう?」

「ああ……」

諦めたように肩を竦めるデュランダルの声の後、メイリンがうわずったような声と共に最後の指示を出した。

「フォースシルエット、射出!」






「こいつらぁ……!」

スティングは兵装ポッドを開きインパルスへミサイルを放つが、それはインパルスの胸部バルカンによってことごとく撃ち墜とされた。

その横では、ザクファントムの精密な射撃にアウルが呻き声を洩らしている。

<いい加減……っ!>

「しつこいっ!」

スティングも吐き捨てた。

―――あと少しで、外に出られるというのに……!

彼らの背後ではステラがビーム砲で外壁を撃ち続けているが、プラントの外壁を形成する厚い自己修復ガラスは、中々割れようとはしない。

元々、ガイアはMA形態の素早い動きを利用した、ヒットアンドアウェイを得意とする機体だ。

その為大出力のビーム砲を装備していないのだが、それが仇となった。

ガイアに装備されているビームぐらいでは、自己修復ガラスを破る事は出来ないのだから。

だがステラは逃げようと必死で砲撃を続けており、その背後から対艦刀をかざしたインパルスが迫る。

「やらせるかよっ!」

スティングは兵装ポッドを分離させ、ほぼ同時に二方向からインパルスへとビームを放つが、インパルスは驚異的な反応速度で掲げたシールドでその砲撃 を防いだ。

が、その隙にスティングは一気に懐に飛び込み、インパルスが振り下ろした対艦刀の腹をシールドで叩き払った。

直後、対艦刀は半ばから折れ、破片が辺りに飛び散った。

―――よし、やれる!

スティングはたたみ掛けるようにライフルを発射しようとしたが、インパルスは折れた対艦刀でカオスの左腕を下から持ち上げた。

―――なにを……?

その行動に首を傾げたスティングだったが、その一瞬が仇となった。

インパルスの持つもう一振りの対艦刀が弧を描きながら振り上げられ、カオスの左腕をシールドごと斬り飛ばしたのだ。

「んなっ!?」

それにスティングが驚きの声を上げるが、インパルスは刀を返し峰の部分でカオスの胴を思い切り打ち据えた。

衝撃で吹き飛ばされたカオスに向けてザクファントムがライフルを連射し、シールドを失ったカオスは急いでその場から離れた。

「……くそっ! あの野郎……ん? あれは……」

スティングの視線の先では、戦闘機らしきものがインパルスへと向かっていく。

そして、機体後部の巨大な翼状のユニットを分離し、それと同時にインパルスも背面の装備を切り離したのだ。

その光景に目を奪われる中、戦闘機から切り離されたユニットがインパルスに装着され、機体の色が鮮やかなトリコロールカラーに変化する。

「なっ……!?」

青、赤、白の三色に変化したインパルスは、今までとは比べ物にならない速度でカオスへと突っ込んでくる。

それを見てライフルを連射するが、その砲撃をことごとくかわすと一瞬で間合いを詰め、抜き放ったビームサーベルを斬り下ろす。

その斬撃を辛くもかわし、スティングは唸る。

「こいつは……」

<装備を換装する!?>

一部始終を見ていたアウルが圧倒された口調で叫ぶ。

アウルはスティングを援護するようにシールド内部の三連装ビーム砲を放つが、インパルスはそれさえも楽々と掻い潜り、シールドを掲げて突っ込んだ。

アビスはその速度に反応できないまま、シールドで打ち据えられて弾き飛ばされる。

それを尻目に、インパルスはなおも砲撃を続けているガイアへと向かった。

自分へと迫るインパルスを見たステラは、怯えきった悲鳴を上げる。

<やめてぇ! あっち行ってっ!>






フォースシルエットに換装したインパルスは、サーベルを掲げてガイアへと迫る。

ガイアは必死に逃げてはいるが、対艦刀よりも軽いサーベルを使った連撃はゆっくりと、だが確実にガイアを追い詰めている。

「これで……っ!」

そう言いながらガイアの右腕を斬り飛ばそうとしたその時、背後から強烈な熱線が放たれた。

MA形態に変形したカオスが全砲門を開いて外壁へと一斉射撃を行ったのだ。

それに合わせるように、アビスも一斉にビームを放つ。

一点に集中して行われた攻撃に自己修復ガラスが耐えかね、ついに外壁が破られた。

―――しまった……!

ぽっかりと開いた穴の向こうには宇宙が見える。

付近は急速に減圧され、突如として発生した乱気流に気体が飲まれた。

機体を立て直そうとバーニアを全開にしている中で、ガイア、カオス、アビスの三機がその穴を潜って逃げ出すのが見えた。

「くそっ!」

歯噛みしながら燃料計を見れば、既にレッドゾーン付近まで来ている。

このインパルスは先の大戦で地球連合が開発したMS『GAT-X105 ストライク』を参考にして作られているが、ストライクとは違い本 体自体にエネルギーパックがある。

その為、ストライクのように装備を換装する度にエネルギーが回復したりはしないのだ。

この状態だと、動けるのは三百秒―つまり五分が限界だ。

ここで母艦に戻って補給をした方がいいのかもしれないが、そんな事をしていては敵に逃げられるのが目に見えている。

―――だったら……!

シンは迷わずにコックピットにあるボタンを押し、それと同時に機体が元の鉄灰色に戻った。

シンが取ったのはPSを切る事でエネルギー消費を抑えるというものだったが、これはかなり危険な事だ。

何故なら、ガンダムタイプの機体はその防御力をPSに頼っている。

つまりPSを切った状態では、その装甲強度はジンとほぼ同じ程度にまで下がるのだ。

「これである程度は抑えれるか……。レイ、少しの間頼む」

<分かった。敵機をレーダーで捕捉したら直ぐに知らせよう>

レイの乗るザクファントムは元々は隊長クラスの人間が乗る機体であり、そのレーダーの捕捉範囲はインパルスよりも上だ。

その通信を終えると、彼らも乱気流に身を任せ、勢いよく宇宙へと飛び出した。






「あいつら、何を勝手に……! 外には敵艦がまだ……」

困惑するアーサーに、メイリンの鋭い声が被せられる。

「インパルスのパワー、危険域です! PSをカットしている為ある程度は抑えられていますが、最大でも300が限界です!」

「ええっ!?」

アーサーの顔が青ざめた。

タリアは毅然として立ち上がると、静かに告げる。

「インパルスまで失う訳には行きません……」

彼らの行為は軽率ではあるが、この状況では無理もないといえるだろう。

ならば、ここで見捨てる訳には行かない。

「―――ミネルバ、発進します!」

彼女が宣言すると、クルー達の間にどよめきが走った。

だが港が潰されて増援が期待できない以上、自分達が行くしかない。

確認の為にデュランダルを見据えると、彼は苦渋の表情で頷き同意を示す。

「……頼む、タリア」

タリアは力強く頷き、再び席に着いた。

「ミネルバ、発進シークエンススタート。本艦はこれより戦闘ステータスに移行する!」

発進シークエンスが始まり、クルー達が次々に行動を起こす中でタリアは後ろを振り返った。

「議長は、早く下船を」

だが相手はしれっとした顔で、思いもよらぬ言葉を返した。

「タリア、とても残って報告を待っていられる状況ではないよ」

その言葉にアーサーが驚きながら議長を見やり、タリアも厳しい表情でデュランダルを見る、いや、睨んだ。

「しかし……!」

「私には権限もあれば義務もある……。私も行く、許可してくれ」

例え議長でも、艦長権限で放り出すことは出来た。

だがタリアにはそう出来ない事情があり、前に向き直ると密かに嘆息した。

―――だから、この人を艦橋に入れたくなかったのだ……。






「これが明日進水式の艦か……。確か、ミネルバだったか」

アスランはミネルバにザクを着艦させた。

ハッチの付近は資材の搬入でごった返しており、誰もザクになど目を向けない。

その様子を見ながら、アスランは隣にいるカガリに目を向けた。

一応止血はしたし意識もはっきりとしているが、専門家に見てみらった方がいいだろう。

アスランは格納庫に機体を乗り入れ、ハッチを開いてカガリを伴い下に降りた。

まだ痛むのか、降り立った途端によろめいたカガリを支えながらアスランが話しかける。

「大丈夫か?すぐに……」

カガリを気遣うアスランの背に、少女の鋭い声が突き刺さった。

「そこの二人っ、動くな!」

振り向くと、赤い髪の少女―ルナマリアが拳銃を構えてアスラン達に鋭い視線を向けている。

その背後から武装した兵士達が駆け寄り、手に持ったライフルの銃口をアスラン達へと向ける。

アスランが反射的にカガリを背後に庇った時、艦内にアナウンスが流れた。

<本艦はこれより発進します! 各員、所定の作業に就いて下さい―――>

その内容に周囲がどよめく。

「動くなっ!」

アナウンスに気を取られたルナマリアだったが、すぐにアスランに目を戻して叫ぶ。

確かに部外者が我が物顔でザクに乗り込み、この艦に入ってきたのだからこれは当然と言える。

「何だお前達は? 軍の者ではないな? 何故その機体に乗っている!?」

気が立った様子でルナマリアは矢継ぎ早に問い掛ける。

それを不審に思っていたアスランだったが、今の状況に思い至るとすぐに納得した。

同じような部外者によって、機体を奪取されたばかりなのだから。

「あ……」

カガリがうろたえながら口を開くが、アスランはそれを制すと兵士達を見据え、わざと高圧的な口調で叫んだ。

「銃を下ろせ。こちらはオーブ連合首長国代表、カガリ・ユラ・アスハ氏だ」

それを聞いたルナマリアは驚きながら銃を下ろし、兵士達も動揺する。

「俺は随員のアレックス・ディノ。議長との会見中に騒ぎに巻き込まれ、避難もままならずにこの機体を借りた」

「オーブの、アスハ……?」

ルナマリアは怪訝そうに言うが、相手がVIPである以上下手に動く事はできない。

それを察し、アスランは居丈高に要求を突きつけた。

「代表は怪我もされている。議長はこちらに入られたのだろう? お目に掛かりたい!」

彼らを取り囲んだ兵士達は、困惑顔で目と目を交わした。






ネオは敵機を撃墜した後、エグザスを駆ってアーモリーワンを目指した。

一応、潜入した別働隊の成否を確認する為だ。

ネオは彼らの能力を正しく把握、評価していたので失敗したとは考えていない。

だがそれでもここまで遅くなる以上、何かしらのイレギュラーが発生したと考えたのだ。

プラントの外壁部分でエンジンを切ると、そのまま外壁に張り付いて様子を窺っていた。

すると、プラントの一角からビームが放たれ、そこに穿たれた穴から三機のMSが飛び出してくる。

恐らくは別働隊だろう。遅れはしたが、無事に任務を果たしたようだ。

それを見ながら何故ここまで遅れたのかと考えていたが、それを追うようにして二機のMSが飛び出してきた。

一機は白いザフト特有の形状をしたMS、もう一機は鉄灰色のガンダムタイプのMSだ。

赤い十字型の翼を広げたMSを見て、ネオは苦笑した。

―――四機目の新型か。成る程、これは俺のミスだな……。

自嘲しながらキーボードを叩き、簡単な電文を母艦に送る。

Nジャマーの影響下で無線の使用に制限のある戦場では、レーザー通信が最も信頼できる通信方法だった。

「さぁて、アレを何とかしないと連中にどやされるな」

おどけたように言いながらエンジンを始動させると、ごく軽くスラスターを操って外壁を離れて旋回する。

そして、鮮やかなトリコロールカラーに変わった新型目掛けて一気に加速した。






アーモリーワンを飛び出した途端、宇宙の深淵がシンを取り囲んだ。

やはり何度出ても、宇宙空間は慣れない。

そんな事を考えながらモニターを全方位に切り替える。

だが三機はどこにも見えない。

「……ちっ、どこに行った」

歯噛みしながら周囲を探っていると、レイから緊急通信が入り、すぐさまPSを起動させる。

直後、言いようのない悪寒を感じてシールドを掲げると、そこに一条のビームが突き刺さった。

その攻撃に周囲を探るが、敵機の姿は見えずレーダーにも反応がない。

「一体どこから……」

その時、再び二条のビームが迫るが、それは全く違う方向からそれぞれ襲い掛かる。

それをなんとか避けると、シンは視界の隅に赤紫色の機体を捉えた。

「あれは……MA?」

そのMA―エグザスは機体下部に取り付けられた一対のレールガンを発射しながらインパルスの横をすり抜ける。

それを狙ってライフルを構えた途端、何もないはずの空間からビームが襲う。

―――他にも敵が!?

砲撃の主を捉えようとするが何も見えず、代わりに再び四方からのビームにさらされた。

機体を動かしてなんとかその砲撃を避け続けていると、ようやくシンはその主を捉えた。

ビーム砲を備えた小さな物体が縦横無尽に飛び交っている。

―――ドラグーンみたいなものか!?

恐らくはさっきのMAに付属する特殊兵装だろうと見当はついたが、このくらい宇宙空間であんな小さなものを見つけることは出来やしない。

レーダーがあるにはあるが、Nジャマー影響下ではあれだけ小さく高速で動く物体は捉えきれないだろう。

機体を小刻みに動かしながら避け続けていたが、次第にエネルギーも減っていく。

「くそっ! これじゃあ……!」

<シン! とにかく動き回れ、止まっていてはただの的だ!>

「分かってる! ちっ、厄介なものを……!」

レイの言葉に返すと、シンは舌打ちしながら四方からの攻撃を避け続けた。






「なかなかやるな、敵のパイロットも!」

縦横無尽に飛び交いながら放たれる攻撃を避けるインパルスを見て、ネオは素直に感心した。

それに一機を追い詰めればもう一機がフォローに周り、中々決定打を撃てない。

「成る程ね、あいつらが手こずる訳だ……」

そんな事を言いながら、ネオはインパルスよりもザクファントムに気を置いていた。

インパルスは辛うじて避けているという感じだが、ザクファントムはどちらかと言えば攻撃を予測しているように感じる。

放たれた瞬間には目標に到達するビームの弾道を見切るなど、普通の人間には無理な話だ。

にも拘らず、あの機体はこちらの攻撃をことごとく避けている。

―――これは偶然か? それとも……。

そう考えた時、

<―――この敵は普通とは違う!>

不思議な声をネオは聞いた。

通信の混線ではなく、全身の細胞が感じ取ったような奇妙な感覚。

「なんだ……!?」

その感覚にやや好奇心を覚えながらザクファントムへと突撃し、攻撃を集中させる。

だが相手はそれをかわし、特殊兵装を一基撃ち墜とした。

それを見て、ネオは驚愕しながらも笑みを浮かべた。

―――確かに、この敵は普通とは違う……!






<システムコントロール全要員に伝達。現時点を以って『LHM-BB01 ミネルバ』の識別コードは有効となった。
ミネルバ緊急発進シークエンス進行中……A55M6警報発令、ドックダメージコントロール全チーム、スタンバイ―――>

発進シークエンスが進む中、メンテナンス用のケーブルが外れ、ドックのクレーンが下がった。

ミネルバの下で巨大なハッチが開き、ミネルバは横の壁ごと下へとスライドして行き、船体が完全に下がると開いていたハッチが閉まる。

ゲート内が減圧され、ミネルバの巨体がゆっくりと浮き上がった。

「発進ゲート内、減圧完了―――いつでも行けます!」

普段とは違い凛々しい声でアーサーが言うと、タリアは声を張った。

「機関始動。ミネルバ、発進する!」

船体下のハッチが開き、ミネルバをそっと押し出すように繋留フックが外れた。

遠心力を受け、船体はゆっくりと宇宙空間に沈んでいく。

進水式も迎えないまま、ミネルバは星の海へと漕ぎ出でた。



これが、ミネルバが辿っていく波乱に満ちた航海の始まりだった……。







あとがき対談


こんにちは、トシです。
種運命第二話後編をお送りいたしました〜。

やぁ 皆さん、こんにちは。
今回の対談の相手、ユウナ・ロマ・セイランだよ。

呼んだ覚えはないんだけど……。

また またぁ、照れなくても良いよ♪
ほらぁ、僕はカガリの婚約者なんだよぉ? 色々と聞きたいことがある んじゃないの?

いや、君みたいにヘタレ株を上げに上げてる奴の話なんぞ聞きたくないから。
大体さぁ、君もせっかくいい声優さんが声をやってるんだから、もう少し格好良くならないのかね?

だっ たら! 君の話で格好良く書いてよぉ! もうカガリがメロメロになっちゃうぐらいに!!

……断固として拒否する。

そん なぁ!?

やっぱりさ、君は格好良くなったらユウナじゃないし。うん、やっぱこのSSでもヘタレ街道 をひた走って……って、何でナイフを構えていらっしゃる?

…… 吾は面影糸を巣と張る蜘蛛……ようこそ、この素晴らしき惨殺空間へ……。

それは君キャラが違う! ……っていうか例え中の人が同じでも君の顔でそれは似合わ な……!?

――― 極死……七夜……っ!

へぐぅっ!?

ふん、容易い……さ て、次の夜まで消えるとしよう……。
それでは諸君、次の話でまた 会おう……。




感想

ふむぅ、追撃戦開始ですね〜。

この時点ではまだシン君もそれほど変わった主人公じゃ無かったんですが…

カガリ嬢との対面以後でしょうかね…

段々と駄々っ子君化していったのは…(遠い目)

この作品においてはどうなっていくのか、楽しみにお待ちしています♪

そういえば、今日の戦闘はとても良かったですね。

そうだね、良く考えて書いてらっしゃるよ。

小説版からどれ位入っているのか分りませんが、文章は綺麗にできていると思います。

ただまぁ、WEB小説としては少し重くなってしまっているけどね。

ライトノベルよりもライトって一体…(汗)

そうはいってもね、実際コメントのみで進んでいく作品すらあるからね…

確かに…見るとか、動くとかもある程度口でフォローできしまうのが小説の凄い所ですしね。

表現力に関しては、私には何とも言えないけど、コメントだけでも表現力と話の構成さえしっかりしていれば

面白い作品が出来ると思うよ。

そういう人もいますね…確かに…でも…誰でも出来るような技じゃないですけどね。

うん、まねしようと思っても出来るもんじゃないけどね。。

実力が無いのを棚に上げているだけの気もしますが…

ははははは…


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