コードギアス反逆のルルーシュR2
              Double  Rebellion














IF END アーニャ


あれから半年……。
皆それぞれの道へ進んで行った。

新生日本の首相となった扇は、相変わらずブリタニアとの国交正常化のために奔走しているらしい。
武力ではなく、話し合いで事を進めていくつもりのようだ。
奥さんのヴィレッタとは、上手くいっているようで、第一子である赤ちゃんももうすぐ生まれるようだ。
藤堂は四聖剣の千葉と共に道場を開いて、戦いの第一線から退いた生活を送っている。
そのほかの四聖剣の朝比奈、卜部、仙波は日本の軍の将官となって、日々頑張っているらしい。
各国で軍縮が行われ、戦争の数は減ったものの、未だにテロや紛争などがあちこちで散発的に起こっているので、当分軍はまだ必要であるし、彼らみたいな存在 も必要だという事だ。
神楽耶は超合集国議長として、自身の役目を日々まっとうしているようだ。
玉城は以前から開いた喫茶店を相変わらず営んでいるらしい。
そこで、オペレーターだった双葉綾芽も働いているようだ。
その他に南や杉山などの元黒の騎士団のメンバーもそれぞれの生活を送っている。

合衆国中華の黎星刻は無事に治療を終え、今は天子の補佐に付いているとの事。
若い天子を支えるという彼の理念はまだ生き続けているようだ。
そして、周香凛とホン・グも天子を補佐するという形でそれぞれの役目をまっとうしているようだ。
その天子も忙しいながらも、それなりに充実した毎日を送っているらしい。
たまに神楽耶とお茶会をするという事も耳にしている。

それに対して、ブリタニアで暫定代表となっていたナナリーは、後に出来た臨時政府の信頼できる人達にブリタニアをまかせ、CRCの代表となっていた。
CRCというのは、膨大な旧皇室財産を戦後復興にあてて整理していくための団体だ。
既に最盛期だったブリタニア帝国は時代と共になくなり、体制は変化していっており、おそらく以前のようなブリタニア帝国が復活する事はもうないだろう。
ただ、その頃の栄光もあるためか、国法の改正が進んではいても、皇室をなくすというのには反対が多い。
だから、ブリタニアの人々の行く末はまだ決まっていない。
そして、その皇室の1人であるナナリーは、皇室財産の整理が済んだら、CRC代表からも身を退くつもりらしい。
臨時政府では、ナナリーに外交の交渉に参加できるだけの地位を用意しているという噂があるが、おそらく本人は断るだろう。
一見、投げやりに見えるかもしれないが、「自分は古い時代の人間。歴史を逆流させないためにも、表舞台からは早めに消えた方がいい」それがナナリーの持論 なのだ。
身を退いたらルルーシュと一緒に暮らすのかもしれない。
表立って彼女はルルーシュ皇帝を否定しているが、本心はそうではないのだ。
そして、ライが以前止めをささなかったラウンズ達は、ブリタニアを立て直すため、それぞれの任に就いている。
以前のブリタニア体制がなくなった事でナイトオブラウンズというものもなくなったが、ドロテアとノネットは軍部に残り国内や国外の紛争の鎮圧に尽力してい る。
モニカは、代表であるナナリーの補佐をしているとの事。
彼女らもあれからライの意思に共感し、今は未来のために己の力を使っている。
シュナイゼルはCRCの副代表という事だが、彼もおそらく整理がついたら引退するだろう。
ロイドは軍の研究部に残り、いまだにナイトメアの開発をしているらしい。
と言っても、軍縮が進んでいるので、それほどナイトメアを開発しているのではなく、次世代に向けた技術研究をしているようだ。
ラクシャータも同様に軍の研究部で仕事をしているらしい。
セシルは軍の研究部には残らず、ブリタニア記念博物館の管理というチーフマネージャーの役職に就いている。
真意はわからないが、彼女は彼女なりにその道を選んだという事だろう。
コーネリアやギルフォードは表舞台にほとんど出ておらず、今どうしているのかはわからない。
彼女は早くに皇室から退き、その後は普通の生活を送っている、そんなところかもしれない。
ジェレミアは相変わらずオレンジ畑の栽培に精を出しているようで、それなりの生活を送っているようだ。

アッシュフォード学園の皆もそれぞれの道を歩もうとしている。
ミレイは既にテレビアナウンサーになっており、今もその仕事を楽しくやっている。
シャーリーはルルーシュの事を知ってから、彼を支えるために色々と勉強したらしい。
前に比べてドジはましになったようだが、それでも相変わらずのようだ。
学園卒業後は、普通に就職して、時々ルルーシュの様子を見に行くらしい。
おそらく、それなりに生活の目処が立ったらそのままルルーシュと一緒に過ごすのだろう。
必然的に日陰の生活となってしまうが、それがシャーリーの決断であり、ルルーシュを支えると誓った彼女の考えなのだ。
ルルーシュもいい彼女を持ったと思う。
ニーナは科学者として、ロイドとは違うところで研究などをする日々らしい。
彼女は一度絶望しかけたものの、科学者としての道を突き進むようだ。
リヴァルは相変わらずミレイには振り向いてもらえないようで、普通ののんびりした学生生活を送っているようだ。
卒業後はどこかの企業に就職するらしい。
カレンは学園に既に復帰している。
復帰当初、以前のお嬢様の仮面を捨てた彼女に学園内では波紋が広がったらしいが(主に彼女を狙っている男子が)、活発的な彼女もそれはそれでいいと思う男 子もいたらしく、人気なのは相変わらずのようだ。
卒業後どうするのかは、まだ決めてないらしい。
ジノは世界一高い山や南極点に行ったりと、自由きままな活動をしているらしい。
カレンとはたまに連絡を取っているようで、逐一その画像がメールで送られてくるとカレンが呟いていた。
元から自由人気質なジノだったが、ラウンズの地位から解放されて拍車がかかったのかもしれない。
カレンとの仲が進展したのかは、不明だ。

スザクは、その後もゼロとして平和のために各地で尽力している。
英雄として祭り上げられている彼が、休まる日は当分ないだろう。
ルルーシュは、その後もジェレミアの元で日陰の身で、生活を送っている。
もう表舞台に出られなくなった以上、それは仕方のない事だが、ルルーシュはそれを受け入れているようだ。
生きているだけでも、ありがたい。
それがルルーシュが僕にくれた言葉だった。
ただ、彼もたまにスザクと連絡を取って、政策面でのアドバイスもしているらしい。
彼がゼロを再び演じるのかは、本人しかわからないが、今はその気はなく、アドバイス程度で済ませているようだ。
近い将来、ナナリーやシャーリーと住む事になりそうだが、ルルーシュはそれを表情にあまり出さないまでも喜んでいたように思う。
C.C.は、あの後も世界を回る旅を続けている。
C.C.らしく自由きままな旅をしているようだ。
彼女との契約は、ルルーシュを生かすという形で果たし、約束も彼女がまだ笑顔でいる事から果たしていると思う。
とにかく、彼女との約束は彼女が死ぬ時まで果たされたと言えるかはわからない。


そして、僕はというと………。

























ライはとある部屋でノートパソコンに向かってずっと作業をしていた。
その横には大量の書類の山がある。
と言ってもこれは既に処理を終えた書類で、残るは今している作業だけである。
カタカタとキーボードを打ち続けていたライだったが、しばらくしたところで手を放すと、う〜んと唸って伸びをした。

「とりあえず、これで今日の分は終わりかな」

その時、部屋の扉が不意に開かれる。
そこに視線を向けたライが見たのは、ピンク色の髪をした少女だった。
以前のような騎士服ではなく、しっかりとした正装している。
言うならば、少女SPと言ったところか。
体型と服装が何ともミスマッチではあるが、本人の可愛い感じは微塵も損なわれていない。

「ただいま、ライ」

「おかえり、アーニャ。今日の仕事はもういいのか?」

「うん、今日はもういいって。ナナリーが」

「そうか。じゃあ今日はゆっくりできそうだな。僕も今日の書類の処理は終えたから、今日は2人でゆっくりしようか」

「うん。…じゃあ、着替えてくる」

そう言って、アーニャは一旦部屋を出て、自室に向かった。
ここはアーニャがあの後、自分に残った財産を使ってブリタニア郊外に立てた家だ。
屋敷というにはいささか小さいが、2人で暮らすにはちょうどいい大きさだった。
アーニャは以前執事を雇っていたが、今は雇っていない。
本人としては2人きりの方がいいようだ。
まあ、厳密には2人きりではないのだが。
そして、アーニャは今ナナリーが代表を務めているCRCの仕事を手伝っている。
一度はナナリーの誘いを断った彼女だが、ライと一緒になり、ここに家を建てる時に、自分達のした行いにちゃんとしたけじめをつけるため、ナナリーに今度は こちらから申し出ていた。
それを快くナナリーは承諾してくれ、日々仕事に励んでいる。
ライは立場上表に出る事はできないので、アーニャが持ち込んでくる書類を処理する作業を手伝い、もとより肩代わりしている。
アーニャは元々書類作業が全般的に苦手だったので、黒の騎士団時代もゼロの代わりとして書類作業を行っていたライが適任という事もあり、アーニャは主にナ ナリーの身辺警護、ライは彼女に回ってきた書類の処理やナナリーが提案してくる財産整理の案の検討を担当している。
モニカの補佐もあるので、この辺りは今のところ問題はない。
で、まあ予想はつくと思うが、あの時ライはアーニャを選んだ。

























〜回想〜

半年前

C.C.とアーニャのどちらと付き合うのか、決断を迫られていた。
ライは真剣に彼女達の事を考え、自分の心に整理をつけ結論を出すと、口を開いた。

「……アーニャ、こんな僕で良ければ付き合ってほしい」

ライの言葉にアーニャの表情は明るくなり、C.C.は不本意そうな表情を見せたが、どこか納得したような感じも見せていた。
おそらくライに決断を迫った時点でこの事は覚悟していたのだろう。
どちらかを選ぶという事はそういう事なのだ。
C.C.には悪いが、ライは自分の正直な気持ちを告げた。

「確かにC.C.も好きだよ。それは本当だ。けど、僕はそれ以上にアーニャが好きだ。それに、アーニャには感謝しているんだ。自分の事が嫌いな僕を……初 めて好きだって言ってくれた人だから。だから、僕は自分を好きになれたし、敵であった君を好きで居続ける事ができた」

ライが2人の内、アーニャを選んだのは、好きだという気持ちを面と向かって言ってくれたから。
誰よりも先に。
たったそれだけの違いかもしれないのだが、ライにとってはそれが重要だった。

「今までアーニャには立場で苦労をかけてしまったから、その罪滅ぼしって訳ではないけど……こんな僕でいいのなら……いや、僕と付き合ってください!」

そう言って思いっきり頭を下げるライ。
いわゆる今度は逆の立場で告白されたアーニャは顔を真っ赤にしたが、嬉しそうに応えた。

「うん……!」

アーニャが応えた直後、外野から歓声が上がった。
わーとかキャーとかの声が一気にその場を満たす。
特に学園の皆から辺りからその声がよく聞こえる。
そして、そのまま走ってきた外野である黒の騎士団の人や学園の皆にライはもみくちゃにされた。
アーニャもジノあたりにからかわれている。
その様子を見ていたC.C.にルルーシュが歩み寄った。

「いいのか?これで」

ルルーシュの言葉にC.C.は微笑んだ。

「ああ。ライが選んだというのなら、私に文句はないさ。あいつの未来はあいつ自身が決める。それが、あいつの…ライの出した答えだからな」

「そうか……」

C.C.の言葉を聞いたルルーシュは視線をまたもみくちゃにされているライに戻した。
彼女がそう言うのならルルーシュにはもう言う事はないのだろう。

こうして、ライはアーニャと付き合う事となった。
それからライはアーニャと共に過ごす事を優先し、旅は区切りがつくまでやめ、二人三脚で2人がした事にけじめをつけていく事に決めたのだった。
2人にしかできない方法で。



























こうして今の仕事をしているという訳だ。
とりあえず皇室の財産の整理がつくまでは、この仕事をするつもりだ。
それが済んだらアーニャと旅行にでも行こうかと考えている。
過去の出来事に思いを馳せつつ、ライは廊下を歩いていた。
既に部屋から出て、別の部屋に向かっている。
そして、目的の部屋につくと、ライは扉を開けた。

「やっぱりここにいたんだな」

「あ……ライ…」

そこにはたくさんの猫と戯れるアーニャがいた。
アーニャが着替えてくると言ってから部屋に来なかったので、ライは彼女の行動を推測してこの部屋に捜しに来たのだ。
予想通りアーニャは猫達を飼っているこの部屋にいた。
アーニャは猫が好きなのか、家を建ててから飼い主のいない猫達を引き取って育てていた。
最初は放し飼いにしようと言ってきたのだが、さすがに書類などをめちゃくちゃにされてはたまらないので、この部屋で飼おうという事になったのだ。
ちなみに厳密に2人きりではないと言ったのも、この辺りの事情があるからである。
つまり、この家にいるのはライとアーニャとたくさんの猫なのだ。
ちなみにピンクのワンピースを着たアーニャが猫達と戯れる様子はなんとも可愛いものがある。
ライも彼女の隣に座ると、猫達が膝の上などに乗ってきた。
乗ってきた猫達をいじりながら、ライはアーニャに話しかける。

「部屋に来ないから、たぶんここにいると思ったんだ」

「うん……この子達といると…落ち着くから」

そう言って膝の上に寝ている猫をアーニャが撫でる。
すると、今度はアーニャから話しかけてきた。

「そう言えば……ライ、明日仕事ある?」

言われたライは記憶の中を探る。

「そうだな……。書類は済ませたし、明日は休みだから特にないよ」

「そう……。私も明日は休み」

その言葉にライは意外そうな顔をした。
アーニャは以前ラウンズだったという事もあり、それなりに頼りにされていて、仕事もそれに応じて結構多かったりするのだ。

「そうなのか?」

「うん……ナナリーが「明日は休んでください」って……。その……ライとゆっくりしてって……(///)」

言う程赤くなっていってしまったアーニャを見て、ライは笑う。

(……こういうところが可愛いんだよね、アーニャは)

そして、なんとなく彼女が望んでいるであろう答えをライは言う。

「じゃあ、明日は久しぶりにデートでもしようか?」

「え…!?デ、デートって……!?(///)」

ライの口からこんな言葉が出ると想像していなかったのか、アーニャはさらに顔を赤くする。
こういうところは初で新鮮だから、見ているライとしては彼女の意外な一面を見れて満足している。

「そ。2人で繁華街にでも出てさ。まあ、僕は簡単な変装をしなければならないけどね。それでもいいならって事になるけど……嫌か?」

いじわるっぽく聞いたライに、アーニャが全力で首を振って否定した。
ただ、彼女のいつもの冷静さが欠片もなく、真剣にあたふたしているところがおもしろい。

「う、ううん。ライが、してくれるなら受ける」

「そっか。じゃあ明日はその予定で行こう」

「うん!」

かつてはしなかった笑顔で頷くアーニャ。
その笑顔を見たライは、彼女の笑顔が見れて本当に良かったと心から思った。

























そして、翌日。
アーニャは可愛らしい昨日とはまた違った赤色のコートを着ていた。
ただ下半身はフリルの着いたスカートを履いている。
季節的には春先だが、この地域はまだ寒い。
そう思うのだが、これもファッションという事だ。
一方、ライは銀色のコートに灰色のジーンズを履いている。
口元は包帯で巻いて隠し、髪型も若干変えてフードを被っている。
一見すれば、怪しい人に見えるが、はっきり言って組み合わせの方が異常だろう。
何せ、ピンク髪の美少女と怪しさ爆発の青年という組み合わせなのだ。
美女と野獣とまではいかないが、美少女と包帯男(または不審者)といえるくらいにはおかしいだろう。
まあ、当の本人達は全く気にしていなかったが。
で、今は繁華街に来ているのだが、ライとしては目立たずにいるつもりが、思いっきり目立っている。
組み合わせ故に。
まあ、ここはアーニャの美少女補正もあるかもしれない。
そんな事など全く気づいていないというか、気にしていないアーニャはライに服装の感想を求める。

「どう……?ライ…似合う?」

若干不安そうに聞いてくるアーニャ。
ライは笑顔で(口元は見えないが)言った。

「よく似合ってる。かわいいと思うよ?ここ最近アーニャのこういう私服姿見てなかったから」

「……ありがとう(///)」

アーニャは顔を赤くして俯いてしまった。
そんな光景を微笑ましく思いつつ、ライは行動を促した。

「それじゃあ、行こうか。今日は折角の休みだから、楽しんでいこう」

「うん」

言って、ライとアーニャは久しぶりのデートに繰り出した。
























最初行ったのは服屋。

「これ、似合う?」

赤色のゴシックロリータのドレスを着るアーニャ。
ひらりとスカートが舞う。

「そうだね……似合うよ。ただ、これも着てみたらどう?」

そう言ってライが出したのは、ピンク色の同じ種類のドレス。
違いは袖やスカートのフリルといったところか。

「……着てみる」

ドレスを持ってまた試着室に戻るアーニャ。
結果だけ言う事になるが、やはりアーニャにピンクの服は似合った。
白とか赤もいいのは間違いなかったが。
そんな試着のやり取りが2時間程続いた。
ちなみにライも試着させられた。
それも結構な量を。
店員や客に正体がバレないか心配だったが、何故か店員まで試着で服を持ってくるのに夢中で気づかれなかったようだ。
まあ、試着の時にでも口元の包帯ははずさなかったのが、良かったのだろう、おそらく……。
その際にアーニャに写真を撮られたのはお約束だ。
結局買ったのは、その中の一部にしか過ぎなかったが、それなりの量だったので、家の方に配達してもらう事にした。
帰り際に店員がやりきったという顔をしていたのは気のせいだろう。









その後は2人で映画館。
見るのはSF映画。
アクション性の要素も多い最近話題となっている映画のようだ。
デートには似合わない映画ではあるが、アーニャがこれを希望したので、ライもそれに同調し、見る事となっていた。
だが……。

(近い……(///))

映画館でもちろん隣に座っているライとアーニャなのだが、アーニャがライにもたれかかっているのだ。
横を向けば、目の前にアーニャの顔が間違いなくあるだろう。
当の本人はそれに全く気づいていないようで、甘えるようにライの肩にもたれかかっている。
終始そんな状況で映画を見ていたライが、あまりの照れ臭さと緊張で映画の内容を覚えていなかったのも、お約束であろう。













それから映画を見終わった2人は、休憩と昼食がてらにカフェに来ていた。
ただ、ライが包帯をほとんどはずさずに飲み物を飲んでいるのは何か違和感がある。
そんな事を気にせずにジュースを飲んでいたアーニャがライに話しかける。

「ライ……」

「ん?」

「……今日なんだけど」

と言いかけたところだった。


ドカアァァァァァァァァァァン!!!


アーニャの言葉を途中で爆音が遮る。
あまりの大きな音に店内の人が混乱する。
すぐにライとアーニャは店のレジに勘定を置いて、外に出る。
すると、デパートの方から煙が上がっていた。
既に近くにいた警察が、その対処に当たろうとしている。
すぐさま事態を把握するため、ライはアーニャに向いて頷くと、2人で事態に対処している警察の人に声をかけた。

「どうしたんですか!?」

その声で警官が気づく。

「ん?君達は?」

「こういう者……」

と言ってアーニャが示したのは今の身分証明書だった。
それを見て警官が驚く。

「アーニャ・アールストレイム卿!?これは失礼致しました!」

「いい……。もうラウンズもないから、そんなにかしこまらなくてもいい」

「はっ……。で、こちらの方は?」

警官がライに視線を向けた。
アーニャは淡々と答える。

「私の付き人。今日は用事でここに来てたんだけど、気になってここに来た」

「それで、状況はどうなってるんです?」

すると、警官は説明してくれる。

「それなんだが、どうやら中にテロリストがいたようで、デパートに爆弾を仕掛けていたようなのだ。加えて武器も所持しているらしく、数人いるらしい。まだ 建物の中にいるようだが、人質を取る気はないらしく、逃げ遅れた人達を片っ端から殺しているらしい。逃げてきた人からそういう情報が入っている」

「無差別テロか……!」

「何か狙いはあるだろうが……そんなところだ」

ライは警官の説明を聞いて歯噛みした。
レクイエムやリベリオンで、全てが上手くいったとは思っていない。
だが、まだこういう事態が起こっている事にどうしても憤りを感じずにはいられなかった。
そんな様子にアーニャが気づいたのか、ライの服の裾を引っ張る。
それにライがハッとして気づいた。

「ライ……今は事態の収拾が先」

「そうだったね……。ありがとう」

「……(///)」

ライは赤くなったアーニャの様子には気づかずに、警官の人に向き直る。

「警官隊はまだなんですか?」

「今手配している。だが、到着には後数分はかかる……」

警官から歯がゆい様子が見て取れた。

(時間がかかりすぎる……)

事態は一刻を争う。
このままでは被害が増えるだけだ。

「なら、僕達が行きます」

その言葉に警官は驚いた。

「な!?いくらなんでも危険過ぎます!アールストレイム卿もあなたも民間人なのですよ!?こういう事は私達がします!」

だが、ライも退く気はなかった。

「だが、事態は一刻を争う。警官隊なんて待ってる暇はない。それに、アーニャは元ラウンズだし、僕も付き人だからそれなりの実力は持ってる。心配はいらな い」

そう言って、デパートに向かって一歩出ると、警官の人に振り返って言った。

「警官隊が来る頃には事態を収めておきますから、逃げてきた人達の誘導をお願いします」

そう言って、ライとアーニャは警官の制止を無視して、逃げる人達とは逆にデパートへと走って行った。



























デパートの4階まで上がったライとアーニャは周囲を見渡した。

「ひどいな……」

爆発や弾丸で壁はえぐれ、ところどころに火が上がっている。
そして、瓦礫に見え隠れするように無数の死体も転がっていた。
客だろうが店員だろうが、無差別に殺されている。
その時、上の階と周囲から銃声が聞こえた。
ついでに爆発音も聞こえる。

「どうするの?」

聞いてきたアーニャに当初から考えていたプランをライは話す。

「敵はおそらくこの階と上にいる。一緒に行けば、確かに安全なんだけど、時間が少々かかる。だから、ここは手っ取り早く二手に分かれて行こう。……で、 アーニャは武器持ってるか?」

確認のためライはアーニャに武器を所持しているか確認した。
ライ自身は今回念のために護身用として神刀と神剣を携帯している。
護身用にそんな強力な物を持つのかはどうかと思うが、刀身がないためセキュリティにもひっかからないし、携帯には便利なのだ。
しかし、今回はデート目的で来ていたため、アーニャは武器を持っているかわからないのだ。
つまり、このプランを実行する場合、アーニャが武器を持っている事が前提となるのだ。
確認したライにアーニャが素っ気無く答えた。

「持ってる」

そう言って出されたのは西洋式の剣。

「いつの間に……。いつからそんな物持ってたんだ?」

「さっきもう1人の警官から借りた」

(なるほどね……)

呆れ気味にアーニャの交渉術というか強引にもらう術にライは感心した。
とりあえずこの案で行けそうだ。

「じゃあ二手に分かれよう。アーニャはこの階の敵を掃討した後、まだ生き残ってる人がいれば保護してくれ。僕は上の階に行く」

「どうする?1人くらい捕らえる?」

アーニャの問いにライは首を横に振った。

「いや、それはいい。情報を吐かせる係は僕がやる。アーニャは容赦しなくていいよ」

「うん、わかった」

「じゃあ、合流は1階で」

ライが言った後、2人は早速二手に分かれた。



























ライは別れた後、上の階に続く階段に行き、上の階に辿り着いた。
下と変わらず、そこは惨いまでの惨状となっている。
神刀を構えて奥に進むと、テロリスト数名を発見した。
そして、そこには民間人がいる。

(逃げ遅れたのか!)

怯えた様子で必死に後ずさる民間人の女性。

「た、助けて……殺さないで……」

「へっ……今の政権でぬるぬる過ごしてる奴なんか必要ねぇんだよ」

テロリスト1人がそう口にして持った銃の引き金を引こうとする。
そこへライはためらいなく超神速で飛び出した。
踏み込んだ際の音でライのいた場所をテロリストが振り向いた瞬間には、ライは既にテロリストの構えた銃を両断していた。

「な、何ぃ!?」

銃が両断された事にテロリストの1人は遅まきながらも気づいた。
しかし、その時にはライは女性を抱いて物陰に避難している。
瞬く間に起こった状況の変化に女性はついていけず、女性は困惑していた。

「あ、あの…あなたは……?」

「ただの通りすがりです」

ライの答えはバカにしているのかと思われるが、女性はそこまで思考が回らず、ライの訳のわからない返答にさらに困惑するだけだった。
そんな女性の様子に構っている暇はないライは女性に隠れているように告げようとしたが、響く銃声と弾丸が壁をけずる音に遮られた。

ドガガガガガガガ!!!

「何だてめえは!いきなり割って入ってきやがって!ぶっ殺してやる!!」

テロリスト達が大声でそう宣告してくる。
ライの眼下にいる女性は悲鳴を上げた。

「きゃあ!」

そんな女性を庇いつつライは物陰に身を潜めると、女性の耳元に大きな声で話しかけた。

「ここに隠れていてください。後は僕がなんとかします」

ライは立ち上がると、すぐに場所を移動する。
無論、物陰から飛び出したので、当然見つかる。

「見つけたぞ!死ねぇ!!」

しかし、ライは当たらないように神速で縦横無尽に走る。
目に追えない程の速さで走るライをテロリスト達は追いきれず、結果弾丸はライの走った後の場所を穿つだけだ。
ライは一旦横に走るだけだったが、次の瞬間ターンして、テロリスト達に襲い掛かる。
神剣は先ほどから既に発動済み。
後は振るうだけ。

「超神速の一歩手前で十分だ」

瞬間、ライはデパートの床が砕ける程の脚力で飛んだ。
床を、壁を、天井を縦横無尽に飛び回り、戦い慣れた人間でも予測不可能な軌道でテロリスト達に迫る。

「な、なんなんだ!コイツ!?」

テロリストの1人がライの動きに悲鳴混じりの声を挙げる。
そして、次の瞬間、ライがテロリスト達を横切った。

「……な」

「矢光月・乱!!」

ズババババン!!!

すれ違い、テロリスト達の後ろに降り立ったライが刀を地面に付けた瞬間、テロリスト達が切れた。
悲鳴を上げる間もなく、絶命していく。
ライの持つ早切りの技『矢光月(やこうづき)』。
抜刀術とは違い、抜刀した状態から一瞬で相手を切る抜刀術とは別種の早技。
そして、今使ったのはその乱撃の型。
多人数相手に使う早技と連続切りを組み合わせた連続技である。
そして、ライはテロリスト達を一瞬で葬った。
1人を除いて。
殺していなかったテロリストが、ライに恐怖を覚え後ずさる。

「ま、待て!殺さないでくれ!」

そのテロリストに冷たい目線を向けてライは言い放つ。

「ああ、聞きたい事を聞くまでは殺さないでおいてやる。だから……」

ライは久々に使わなかった自身のギアスを発動した。

「僕の質問に全て答えろ」

言葉と共にライのギアスの瞳から放たれた赤き不死鳥が、テロリストの耳を伝って脳神経を支配した。
そこから彼の意識と記憶はなかった。






















ライはギアスを使って情報を聞き出した。
ギアスについては久しぶりだったが、特に問題は見当たらない。
おそらく、ほぼコントロールはできている。
後は乱用さえしなければ、以前のような心配もいらないだろう。
これも自分の成長によるものなのか、それはわからないが、良かったと思う。
これで周りに心配をかける種が1つ減ったのだから。
その後、テロリストを始末したライは物陰に隠れたままだった女性のところへ歩み寄った。
女性は一瞬びくりとしたが、すぐにライの姿を確認してホッとする。

「テロリスト達は僕が始末しました。もう大丈夫ですよ」

笑顔でそうライは言い、女性を立たせる。
驚きながらも、女性は立つとお礼を言った。

「あ、ありがとうございます!本当になんてお礼を言ったらいいか……」

「気にしないでください。それに当分の脅威は排除しましたが、このデパートにいるのは危ない。あなたはこのデパートから降りて脱出してくださ い。下では僕の仲間が同じようにテロリストを排除しているでしょうから、ここより下はとりあえず安全です。一応、下で僕の仲間がいると思うので、会ったら 事情を話して脱出するようにしてください。もし見かけなかった場合はそのまま1階まで降りて脱出を」

テキパキと言うライに女性は呆けていたが、脱出するように促され頷いた。
とりあえずライは自分が登ってきた階段まで女性を誘導する。

「ここから降りて真っ直ぐ行った階段に行けば、後は1階まですぐに降りられます。道中は気をつけて」

「あなたは?」

「僕にはまだ上の階を確かめる必要がありますので。行ってください」

「わかりました。本当にありがとうございます」

そう言って女性は一礼すると、すぐに階段を降りて行った。

(後は……6階だけだな)

ライは女性を見送った後、すぐに最上階の6階に向かった。




























間もなくして最上階の6階に辿り着いたライだったが、死体を見て違和感を抱いた。

(おかしい……今までの死体と違って、どれも巨大なハンマーで殴り殺されたような痕がある……)

そう、今まで銃弾による弾痕が目立つ死体が多かったのに何故かこの階にある死体はまるでハンマーで殴られたような痕があるのだ。
つまり、ここにいる人達はテロリストとはまた違う別人に殺されたという事。

「この階で何が起きているんだ……?」

と、ライが疑問を口にした瞬間だった。
後ろに突然発生した気配と殺気、そして同時に何かが振り下ろされるような空気の擦れる音。
咄嗟にライは前に飛んだ。
直後、その振り下ろされたものが床を割る。
飛んだライは着地すると、その背後から自分を殺そうとしてきたものの正体を見た。
それはとてつもない大男。
ゆうに身長は2mを超えており、肉体もそれに似合った猛々しいまでのものとなっている。
ついでに言えばハゲ頭だ。
だが、ライが驚いたのは別のところだった。

(何だ?いつの間にこんな大男が?それに……何故こんなに近づかれるまで気づかなかった?)

ライはこの男にここまで接近を許した事に驚いていた。
気配を感知するのに関してはライは行使する流派から見ても優れているのは間違いない。
だが、今目の前の大男はライに確実に接近していた。
その事に寸前までライは気づかなかったのだ。

先ほど起こった事態を頭の中でライは検証していたが、そんな事お構いなしの敵はライに襲い掛かってきた。
繰り出される拳を横に飛んで避ける。
標的を失った拳はそのまま軌道上にあった壁を粉々に砕いた。

(パワーは見た目どおりか!)

明らかに人間離れした力にライは驚愕しつつも、神刀を構える。

「おまえ、何者だ?ただのテロリストじゃないだろ」

「お……おれ…バンカ・フリード……」

大男が応えた瞬間、男の姿がゆらりと消えていく。

「何!?消……」

ライが驚く間に大男の姿が消えた。
だが、ライはすぐに頭を切り替えて気配を探る。

(……どこだ!?どこに行った!?)

あらゆる事象を想定し、神刀を構える。
しかし、気配がない。
周りを見渡していたライだったが、次の瞬間、そのライを右後方から襲うものがあった。

「っ!!」

空気のこすれる音がしたのに気づき、ライは咄嗟に神刀の峰をその方向に盾として向ける。
その直後、とてつもないパワーを持った拳がライを襲った。
先ほど壁を粉々にした拳と神刀がぶつかり合う。
しかし。

(……っ!重い…!受けきれない…!)

繰り出された拳の重みに歯噛みした瞬間、ライは吹っ飛ばされた。
不安定な体勢に加えて敵の拳の重さが予想以上だったのだ。
吹っ飛ばされたライは壁に叩きつけられる。
衝撃で意識がチカチカし、さらに壁が砕けた。
強打した頭から血が流れる。
しかし、すぐに傷は再生し、修復された。
頭は頭でも脳以外なら再生できる。
さらに、今ので敵の正体がわかった。

敵が何故あれほどの大男にも関わらず、気配を探れないのか。
それは敵が卓越した隠密能力を持つからだ。
ただ、ライの新月のような影のうすいとかそういうのを利用したものではない。
認識させないという時点では同じだが、その観点が違うのだ。
要するに敵の場合、認識させないのではなくて、認識したくないようにしているのだ。
あれ程の大男だ。
十分その時点で異常だし、人間というものは異常なものを見ると、それを認識するのを拒む癖がある。
それをあの男は巧みに利用していたのだ。
だから、突然対象を見失うような事をしたのだ。
それに、相手の名前と能力にも心当たりがあった。

あれはアゾネスのデータにあった実験体だ。
あれも別の目的の実験体として別の研究所に保管されていたようだが、どうやらテロリスト連中がそれを目覚めさせて利用していたらしい。
かなり前にそれらしき場所が襲撃され、研究所はその後取り壊しとなったし、テロリストが先ほど喋っていた意味不明な情報とも合致する。
「巨漢の秘密兵器」というのはこいつの事だったのだ。
おそらく聞こえていた爆音は爆弾が爆発する音ではなく、こいつが殺す度に壁を砕いていた音だったのだろう。
起き上がったライは神刀を構える。

「だが、種はわかった」

ならば、同じ実験体であったこの男を処理するのはライの役目だ。
それが、アゾネスを処理した時に決めた事でもある。
刀を構えたライに、大男バンカが動いた。
また姿が掻き消える。
だが、ライはもう慌てない。
神刀の刃を閃かせて、構える。

「神風流……」

行使するのは今まで使っていた流派ではなく、神刀を扱うための我流の流派。
数少ない神刀の技の1つ。
そして、バンカが今度は後ろではなく目前に現れる。
振り下ろされる拳。
しかし、ライは慌てずに刀を振るった。

「風の牙」

振り下ろされた拳よりも速く神刀が振るわれた。
その直後、バンカの体が吹き飛んだ。
それだけではなく、前方の壁や天井まで吹き飛んでいく。
そして、その一撃が終わった頃には、ライの前方には何もなかった。
あるのは床に付けられた巨大な無数の傷。

ライが使用したのは神刀用の技「神風流・風の牙」。
神刀の圧倒的なエネルギーを持って一度の振りで同時に無数の巨大な斬撃を発生させる技。
それはライの普段使う「蒼破閃」よりも数段強力な技である。

ちなみに何故これほど強力な技をライが使ったのかというと、ぶっちゃけ面倒になったからだ。
あれ程の巨体にはおそらく月牙並の威力の技か、奥義クラスの技が必要になってくる。
しかし、型分けされているこれらでは気配を消して奇襲してくる敵に咄嗟に対応できない。
その分神刀の技は強力1本で基本どのような状況でも使える。
加えて時間もなかったため、ライはこの技を使用した。
それに面倒だと考えたのは、傷は治ったとはいえ、頭を打ったからかもしれない。
とりあえず、バンカの体は跡形もなく消し飛ばした。
これでもうバンカは利用される事はないだろう。
ライはその後、階を一通り見て回り、生存者がいない事を確認すると、アーニャと合流するため、階下へと降りて行った。
こうして、ライとアーニャの活躍で速やかにテロは鎮圧され、事件は終わった。




























そして、その日の夜、アーニャと共にライは家に帰った。
あの後、警察の事情聴取を当事者としてされ、長々と話した結果、夜になってしまったのだ。
6階の一部を吹っ飛ばした事は爆発とごまかしたが、それ以外はすべて正直に話した。
テロリストに吐かせたアジトなどの情報も全て。
そのため、話が長くなってしまったのだ。
テロリストへの拠点へは近々殲滅作戦が行われるようだ。
それらを含めた事情聴取のおかげで、結果的にデートが台無しになってしまったのは残念ではある。
ちなみに傷はとっくに治っているので、付いていた血を取る為にシャワーを浴び、着替えをするに留まった。
その後、今はアーニャを捜して家の中を歩いているのだが、どの部屋にも彼女は見当たらなかった。
そして、ふと窓の外に目を向けると、庭のベンチにアーニャが座り込んでいた。


















程なくして家を出て、ベンチに座り込んだアーニャにライは話しかける。

「アーニャ、捜したよ。今日はもう遅いから、こんなところにいると風邪をひくよ」

「うん……」

だが、アーニャは動こうとしない。
その態度を疑問に思ったライは、隣に座ってもう一度呼びかける。

「どうしたんだ?帰ってからずっとその調子じゃないか」

「うん……」

だが、アーニャは頷くだけ。
ライは心当たりが自分にないか記憶を探っていると、1つだけそれに当てはまるものがあった。

「もしかして、あの後の事、まだ怒ってるのか?」

それはライがテロリスト達を鎮圧してデパートから出てきた時の事。
アーニャはライを見つけて駆け寄ってきたのだが、ライの頭に付いていた血を見て驚き、慌て始めたのだ。
傷は治ってるから大丈夫と言ったのだが、アーニャはしばらく心配していたように思う。
その時の光景はまだ新鮮で、彼女が変わった事を思い知らされた瞬間でもあったのだが、それを見て笑っていた事に怒っているのかと思ったのだ。
事実、それを見て笑ったライは、後で思いっきりボディーブローを入れられたのだから。

「別に……もう怒ってない」

アーニャはそう応えたが、またそれっきり黙ってしまう。
それ以上理由が見当たらないライは、結局彼女に理由を聞くしか選択肢がなくなってしまう。

「じゃあ、なんで…?言ってくれないと僕にもわからない」

「…………」

しばらく黙っていたアーニャだったが、ライが話すのをじっと待っていると、ぽつぽつと話し始めた。

「私……ずっと1人で戦ってきた」

「…………」

「今日も問題なかった。……でも、ライが帰ってきた時、頭から血を流してる事に凄く慌てた。すぐに治る事は知ってるのに……」

アーニャは独白するように自分の思いを口にしていく。

「私……弱くなった…のかな?ライが傷ついたくらいで……凄く不安になってる」

そこで、アーニャは初めてライを見た。

「ライが私の傍から離れてしまうって思うと…どうしようもなく不安…なんだ」

消え入りそうな声で言ったアーニャ。
その言葉に対し、ライは笑顔で言った。

「それは……弱さじゃないよ」

「え…?」

驚いたように呆けるアーニャにライは続けた。

「確かにアーニャは弱くなったのかもしれない。……でも、それは同時に強さなんだ。今までアーニャになかった強さなんだよ。アーニャは今まで守りたい大切 なものがなかっただろ?」

「……うん」

「だが、今はどうなんだ?」

「それは……」

ある。
確かにこの胸にその思いはある。
それは……ライ。
アーニャが答える前にライは続けた。

「人は…大切な人を守る時最も強くなれる。僕はそう思ってるんだ。ルルーシュが、スザクが、他の皆がそうであったように」

「…………」

「だから、それは弱さなんかじゃないよ。アーニャには最も大切で確かな強さが手に入ったんだ。それに弱さのない強さはただの暴力。まあ、誰かさんの受け売 りだけど、僕もそう思うから」

言い終えたライは笑顔でアーニャを見ていた。
アーニャは心の中でライの言葉を反芻しながら、考えた。
自分はライに出会って変わった。
その中でできたこの思い。
確かにこれは弱さとも強さとも取れる。
だけど、これを弱さと思って捨てたくはない。
むしろ、大切にしたいと思う。
これからもずっと。
その時アーニャは気づいた。

(やっぱり…そうなんだ……。私はライが好きで、そして好きになったから今の私がいる……。だから、今の私を私は大切にしたい)

そして、隣にいるアーニャの大好きな人はちゃんと私を見てくれている。
それだけで、不安が消えていくのがわかった。
大丈夫。
いつかは別れる時が来るかもしれないけど、この思いがある限り……私はきっと大丈夫だから。
そう思い、アーニャはライに顔を向けると。

「ライ……」

「何?」

「好き」

「え?……ん!?」

そう告白してアーニャはライと唇を重ねた。
それは触れるだけでなく、深く長いキス。
ライは驚いて真っ赤な状態でキスをしたアーニャを見ていたが、すっと目を閉じた。
長い長い甘いキスが続く。
だが、さすがに息が続かなくなると、2人は唇を放し、息をして酸素を取り込む。

「はぁはぁ……アーニャ、顔真っ赤だよ……」

「それは…ライも……はぅ(///)」

キスをしたアーニャは顔を真っ赤にしながら、先ほどの行動を思い出して惚けていた。
そんなアーニャを微笑ましくライは見ていたが、そこである事を思い出す。

(……ちょうどいい機会なのかもしれないな)

そう思ってライは掌サイズの小さな小箱をポケットから取り出した。
それを見たアーニャが何かを聞いてくる。

「何それ?」

「ん?開けてみてくれ」

ライはその小箱をアーニャに手渡す。
アーニャはその小箱をゆっくりと開けた。

「これ……指輪?」

中に入っていたのは特に何も飾っていないシンプルな銀の指輪。
しかも、2つ入っている。

「以前街に出てこっそり買ったんだ。まあ、店の人には少し怪しまれたけどね……」

まあ、今日みたいな格好だったら無理もないだろう。
実際、警察の事情聴取でも苦労したのだから。
だが、世間事情に疎いアーニャはライの渡した物の真意に気づかない。

「私にくれるの?プレゼント?」

「それもあるな。けど、これは僕の分だ」

言って、ライは指輪の1つを自分の左手の薬指にはめた。
そこで、アーニャがこのプレゼントの真意にようやく気づいた。

「……!…ライ、これは…もしかして……その…!」

顔を真っ赤にしてあたふたするアーニャをよそに、ライは彼女の左手を空いた右手で持ち、左手で小箱から残った指輪を取り出す。

「ま、待って…!こ、心の準備が……!」

「駄目だ」

ライは有無を言わさずにアーニャの左手の薬指に指輪をはめた。
すっと指輪をはめると、ライはアーニャの手を降ろした。
一見冷静にも見えるが、心中は完全にドキドキしまくっている。

(……思ったより緊張するな…)

今はアーニャ以上に顔が赤くなっている事だろう。
我ながら情けないと思う。
でも、それは決して不快ではなくて。
だから、気恥ずかしさを振り払ってライは告げた。

「落ち着いてからになるし、盛大な事はできないけど……アーニャ、僕と結婚してくれないか?」

ライが言い切った後、ガチガチに緊張していたライの手にアーニャの手が重ねられた。

「うん……!」

アーニャはライの一大決心の告白にしっかりと頷いてくれた。
その時の笑顔は忘れられないくらいに美しかったとライは後に語る。
ここに1つの恋が実った瞬間であった。























『生き残ったという事が、果たして幸福だったのか不幸だったのか。それは個人の主観にゆだねられる命題であり、そして、僕自身は今もこの命題に対する絶対 的な正解はまだ見出せていない。過去から現在にかけてどちらも思った事があるから。しかしながら、確実に1つ言える事がある。それは、当時の人々は誰もが 2つの時代を生き、そして、移り行き、変わりゆく時の流れにあわせて、否応なく自分自身をも変化させなければならなかったという事だ。僕も、おそらく他の 全ての人々も。だが、自分自身を変化させた事には後悔はない。それが、僕自身のためであり、僕自身が望む事だったからだ。だから、今はこうして大切な人と 支えあって生きていられる……』

後にライが友人にあてた書簡にそんな事を記している。
これを書いたライはアーニャと籍を入れて共に暮らしており、世界の行く末を見続けている。
大切な人と生きていく今のこの時間が、この幸福な時間が、より良い明日が未来にあると信じて。
そして、今日も世界はより良い明日へと向かって努力している……。
























                     完





















あとがき


はい、という事でIF ENDアーニャ編でした。
本筋のエピローグよりも長く、甘くなってしまったのは何故だろうか……。
う〜む、わからん。
書いたの自分なのに(笑)

結構前から企画していたIF編第一弾アーニャ編、どうでしたでしょうか?
アーニャ大好きな読者の方が楽しんで頂けたなら、私としても書いた甲斐があると思っています。
ストーリーとしては、ライがアーニャを選び、その後どうしているかという後日談的なものとなっています。
一旦は完全に身を引いたアーニャとライですが、2人でもう一度今までを振り返り、話し合った結果今の仕事をしているという事です。
これは、その一日としてアーニャとライのデート、そして極めつけはプロポーズまで行くという何とも私らしくない甘〜い展開となっております。
正直、「ラブ・アタック!?」からこのような話は書いてなかったので、久々に読者の方には新鮮に映るかもしれません。
そして、追加要素として出していなかった神刀の力とライの他にもいた実験体を出してみました。
折角神刀は出したのに、力を見せないままってのも寂しいですし。
ライが改造人間だという経緯からも他の実験体がいた事は容易に想像できますし、折角ですから出てきてもらいました。
戦後のライの1つの目的って事ですね、他の実験体の処置は。
まあ、完全に処理できなかった設定の消化という意味も兼ねてるんですけどね(苦笑)
アーニャとのHappy EndなこのIF編、楽しんで頂ければ本当に私としては満足です。

この話をもし最初に見てくれたという方は、もし興味があるなら是非他のIFやエピローグも見てくださいね。
既にどちらかを見ておられる場合は、最初の書き方が一緒で驚かれた方もいるかもしれません。
実はちゃんと違う部分があるのですが。
それでも楽しんでもらえたならいいかと。
これはIF編という事でIFに関するあとがきとして書かせてもらっていますので、今後の事を知りたい方はエピローグのあとがきを見てくださいね。
という訳で色も雰囲気もピンクだったIF END アーニャ編はこれで終わりです。
これを気に入ってくれた方は個人的にTrue Endみたいな形にしてくれてもいいかもしれませんね。
それは読者の方々におまかせします。
では、読者の皆様、エピローグと合わせてこれはこれで1つの完結なので、ここで終わりたいと思います。
また、何らかの次回作でお会いしましょう!
どうも、ありがとうございました!!



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m

<<前話 目次 次話>>

作家さんの感想は感想掲示板にどうぞ♪

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.