コードギアス反逆のルルーシュR2
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                                       蒼の過去編







これは過去に記憶喪失のライが黒の騎士団に入ってしばらくしてからの物語である









5周年記念短編 蒼い月下と白カブト


ライは学園での生徒会の仕事を済ませ、黒の騎士団のアジトに着いた時にはすでに作戦会議は終わっていたようだ。
詳しくは聞いていないが、近々ブリタニア軍が大規模な兵力を動かす準備をしているという情報があったらしい。
提供者はどうやら例のブリタニア人らしい。

「日本解放戦線がらみ、かな」

先のナリタでの戦いでブリタニア軍は大きな損害を被ったものの、さすがコーネリアといったところか。
迅速に軍は立て直されている。
逆に組織力に乏しい日本解放戦線は敗北によって戦力を分断されたまま、戦力を再集結できずにいた。
要するに組織力と指揮官の質の差といったところだ。

「……遅刻だ」

「ずいぶん遅かったな、ライ」

入ってきたライに気づいたのか奥にいたゼロと扇がそれぞれ言った。

「何か急用でもあったのか?」

ゼロが理由もなく僕を遅刻する奴だとは思っていないようだ。

「そうではないが、学園の仕事で抜けられなかっただけだ。最近サボり気味の役員がいて仕事が滞っているし、その分頼りにされているから」

「…ほう」

「黒の騎士団であることなんて言える訳がないし、仕事は先の通り抜ける訳にもいかず、それで仕事を済ませてから来た。それにカレンと同時に抜けることも多 々あるから、変な疑いをかけられることもあったしね」

ライの主張に扇は納得したように頷いて言う。

「なるほどな。何にせよ疑われるのは良くないよな」

「まあ、それならいい。それで今回の作戦に関して、聞いているか?」

「……詳しくは知らない」

「そうか。なら手短に説明しよう」

ゼロは先ほどの作戦指示で使ったであろう画面を表示した。
それからゼロが説明を始める。

「コーネリアが日本解放戦線の中心人物のひとりである片瀬少将の捕獲を目論んでいる。片瀬少将は港に停泊中のタンカーを改造し、新たな拠点としている。そ の情報をブリタニアが掴んだのだ」

「それなら空爆で終わりじゃないのか?」

「ただのタンカーならば、な。しかしそのタンカーには流体サクラダイトが積載されている、としたらどうだ?」

そこでライは考えた。
普通のタンカーなら空爆ですぐに片をつけられる、しかしそこに積まれているものが特別だった場合は……。

「誘爆すれば周りを巻き込んで大爆発、か……?」

「そうだ。それこそいかほどの損害になるか。それに多量のサクラダイトの喪失はコーネリアの失点となる。空爆のデメリットが大きすぎる事は理解できた か?」

「……なるほどね」

「コーネリアは今回の作戦でナリタの戦いに投入しなかった海兵騎士団を投入するようだ。さて、ライ。そこで我々が優先すべき事はなんだ?」

ライはそれもすばやく考える。
確かこちらには彼の救出が要請されている。
それを優先させるなら片瀬の救出。
しかし、というかおそらくゼロの目的はコーネリアの捕獲。
最終的な選択肢は二つ。
片瀬の救出か、コーネリアの捕獲。
総合的な点も踏まえて色々と考えていく。
時間にしてはそんなにかかっていなかっただろう。
ライは答えを導き出した。

「やはり、コーネリアの捕獲だろう」

それにゼロは頷いた。

「そうだ。彼女が我々の手に落ちれば、ブリタニア軍の動きは事実上止まる」

ライの考えもそこに行き着いたのだ。
救出は先にせずとも、敵の動き自体止めてしまえば救出は容易だ。
ゆえにライはこの考えに行き着いた。

「解放戦線の黒の騎士団への吸収などその後でも何の問題もない。コーネリアを捕まえる事ができれば、それだけで黒の騎士団の地位が変わる」

ゼロはそこで仰々しく続ける。

「ナリタでの忘れ物を今日、この夜に取り戻すのだ」

「勝算は?」

「愚問だな」

ゼロがモニタに手を当てる。

「今回の作戦を説明する。敵は我々が来ることを知らない。それを利用し、奇襲をかける。コーネリアは解放戦線に藤堂中佐が合流していないことを知ってい る。彼女の性格なら本陣の守りを少なくして持てる兵力を全て投入するだろう。片瀬少将の逃げ道は海上しかない。当然コーネリアは誘爆を避けるため、タン カーを無理には止めないだろう」

そこまで説明されたらさすがに察しがついた。

「海兵騎士団に取り付かせて、戦いの主導権を握り、その後でじわじわと無力化させていくという事か」

「その通りだ。そしてそのとき、コーネリアの本陣と主力との間に距離ができる。つけいる隙はそこだ。ライ、お前は私やカレン達と共に高速艇の中で待機して おけ」

説明を終えると、ゼロはライに向かってナイトメアの起動キーを投げてきた。
ライはそれを片手でキャッチする。
手に取ったものを見ると、それは見たこともない形をしていた。
ひし形の蒼い起動キーだ。

「これは?」

「新型ナイトメアフレーム『月下』。その先行試作機のキーだ。キョウトから回ってきた。お前が使え」

そこでライは一瞬目を見開いたが、すぐに口を開いた。

「新型なら無頼より生存率が上がっているはずだ。僕ではなく君が使うべきじゃないのか?」

実は機体は違うが、カレンと同じような事を言っているライだったりする。
まあ組織にいる以上当然の反応なのだが。

「いや。その機体も紅蓮並に過敏すぎて、私もほかのパイロットもうまく扱えない。兵器としてはじゃじゃ馬すぎる。だが、君なら可能だ。ナリタで見せた君の 反応速度があれば、十分乗りこなせる」

先のナリタの戦いでライは単機で別方向の部隊の牽制を担当した。
突然のナイトメアの搭乗に加えて初めてのナイトメア操縦だったが、それが予想以上だった。
単機でその部隊を撃破してしまったのだ。
もちろん無傷ではないが、その立ち回り、操縦技量、判断がかなり評価された。
それに際し、ライはゼロに新しい機体として最低でも無頼改がほしいとゼロに要請していたのだ。
それが新型の試作機が回ってきたのだからこれ以上嬉しい事はないだろう。

「なるほど……それならありがたく使わせてもらう」

こうしてライはキーを受け取り、月下先行試作機のパイロットになった。
後にこれがライの愛機、そして発展機の基にもなる蒼い月下である。





















ライはゼロから渡された新型ナイトメアフレーム『月下先行試作機』のチェックを格納庫で整備班と共に行っていた。
そんな時、整備班と話しながら行動しているライの元へC.C.がやってきた。
それを見つけたライは整備班に一言言って月下を降り、C.C.に歩み寄った。

「君がここに来るのも珍しいな。ここでは何だからとりあえず向こうに行こうか」

ライは一旦月下から離れた格納庫の端にC.C.と共に腰を下ろした。

「おまえは迷わないんだな」

唐突にC.C.が言った言葉にライはきょとんとした。

「何の事だ?」

「おまえの通う学園の友人の父親を巻き込んだ事について」

ライはそれでハッとした。
以前キョウトから支援の約束を取り付けた翌日。
シャーリーの父親がナリタで黒の騎士団が行った作戦の巻き添えをくって死んだという事を聞いた。
そして、彼女の父親の葬儀にも同席した。
生徒会メンバーの皆と一緒に。
悲しい出来事だった。
その事でカレンはひどく悩んでいるようだった。

「……別にそれに対して罪悪感がないと言えば嘘になる。だが、僕は君にここに連れてこられた時からこうなる事を覚悟の上で黒の騎士団の一員になった」

「ふん、あいつとは大違いだな」

C.C.の言うあいつが誰の事かはわからなかったが、ライは続けた。

「戦争をするというのはそういう事だ。武器を取る事も、戦う事も、その結果身近な人の大切な人達を殺してしまう事も」

そう言うライの顔は少し悲しそうだった。

「おまえはどうやらこの手の事においては達観しているようだな」

ライはそれに顔を横に振った。

「違う。ただ割り切っているだけなんだ。どんな奇麗事を並べても所詮僕は人殺しである事に変わりはない。それに何故か僕は戦う事に関しての意味と覚悟を少 なからず理解しているような感じを覚えるんだ」

「……まさかおまえの失った記憶に関係している、という事か?」

「……たぶん。それにその失った記憶を取り戻すのが僕の戦う理由でもある訳だしね」

言った後、ライは立ち上がる。
そして、作業に戻ろうするが、途中で立ち止まった。

「C.C.」

「ん?」

「君は僕を達観してる、つまり強いとか言いたかったんだろうけど、それはやっぱり違う。僕は強くなんかない。戦う理由がなければ戦えない、弱い人間だよ」

言ったライは話は終わりだという感じで今度こそ立ち去って行った。
























その後ライは格納庫でのスペックチェックを終えて、当初の予定通り高速艇の中に入っていた。
戦況がわからないまま再び無線に集中する。
そしてまた衝撃波が機体を揺らす。

『始まったぞ、ゼロ。ゼロ、まだでないのか、ゼロ……』

そこでライ達が入っている高速艇の倉庫の天井が閉まり、それと同時にゼロが応答する。

『いまは駄目だ。思ったよりコーネリアの動きが速い。いま動くと共倒れになる』

「………」

ライは真っ暗な中で意識を集中させる。
一種の集中力を高める方法だ。
何故だか自分はこれが合っている、という感じで戦いの前には必ずやっている。
先ほどゼロが言ったように単純に出ては敵本陣と主力に挟み撃ちにされるだけだ。
ゼロはそれが分かっていて、だからタイミングを計っている。
ブリタニア軍の作戦が開始され敵の主力がタンカーを目指しているのだろう。
ゼロの意図は先ほどの事でわかっている。
ただライはゼロの意図がそれだけではないように感じていた。
それが何かは漠然となのでわからないが。

『ゼロ!早くしないと!』

どうやらあれこれしている間に事態は進行していたらしい。
扇さんが焦るくらいに。

『わかっている……出撃!』

ゼロがそう告げた一瞬後、激しい震動が機体を襲った。
攻撃された?いや違う。
とすれば……まさか!

『さすがだな、日本解放戦線は。ブリタニア軍を巻き込んで自決とは』

『自決!?しかし、そんな連絡は……?』

ゼロはそれを無視して続けた。

『我々はこのままコーネリアのいる本陣に突入する!それ以外には構うな!!結果は全てに優先する。日本解放戦線の死に報いたくば、我らの覚悟と力を示 せ!』

これによって敵兵力の消耗と指揮系統に混乱が出た上、黒の騎士団の志気も上がった。
しかし、自決……?
ライはこのときゼロの発言に疑問を持っていた。
確かに自決ならこの爆発も納得がいく。
しかし、救援要請を出していた上で自決は少々おかしい。
疑問に思っていたライだが、そこでひらめいた。

(まさか、タンカーを囮に……?)

先ほどゼロの作戦を聞いていが、どうもあれでは常識すぎて今ひとつ薄い感があった。
だが、それではっきり言って役立たずの解放戦線を囮または餌にして戦力を削ぎ落とせばその作戦がさらに有効になる。
それなら全てのつじつまも合ってくる。

(なるほど……そういう事か)

ライはそれで納得がいった。
ゼロも上手く言ったなと感心する。
しかし、ライはこの意図に感ずいても特に否定的な感情は浮かばなかった。
別にライは彼らに対する情なんか持っていない。
ひどい言い方かもしれないが、事実だ。
それに戦場にいる以上そんな感情を引きずって足を引っ張る訳にもいかなかった。
どちらにしても自分のするべき事は変わらない、それだけだ。
ただライはここまで自分が救出すべき対象に冷たくなれる事に少し驚いてもいた。

ライが考えを終えた直後、激しい衝撃と共に高速艇の天井のハッチが開いた。
船は既に陸に乗り上げている。

『パイロットが乗り込む前に海に叩き落せ!紅蓮弐式は私についてこい!』

『はい!』

『ライ!お前はカレンの援護に回れ。親衛隊をコーネリアに近づけるな!』

「……了解」

ゼロの指示を聞き終えると、ライは一気に月下の出力を上げてカレンと共に敵本陣へ飛び出す。
カレンがすぐさま親衛隊の一機に襲い掛かる。
その隙にゼロはコーネリアと対峙していた。
ライはカレンの援護として紅蓮を狙っていたサザーランドにスラッシュハーケンをぶつけて沈黙させた。
その直後、目前に赤紫のグロースターが滑り込んできた。
あの色は親衛隊の中でも特別な存在を示している。
間違いなく強敵。それも相当の手練。
本陣なのだから強敵がいて当然。
だからこそゼロはライ達に足止めを命じたのだろう。

「………」

ライは相手を見据える。
おそらく技量はあちらが上。
機体性能はおそらくこちらが上。
条件はたぶん向こうの方が分がいい。
ならば、主たるコーネリアの窮地、これを利用する手しかないだろう。
グロースターの進路を塞ぎつつ、通信回線を開く。

「名を明かさぬ無礼を許してもらいたい。黒の騎士団の一人として貴方の相手を務めさせてもらう」

あの機体に乗っているのはおそらく騎士侯。
つまり貴族のみが騎乗を許される。
経済的に保障された貴族が守るべきもの、それは誇りだ。
普段ライはこんな事をしないうえに変則的だが、対峙する者からの返答がないというのは以上の事から考えにくい。
上級将校なら尚更だ。
もちろん敵方にとって状況は切迫しているのだから普通の返答はない。
しかし、少なくとも無視はできないはずだ。
すると……。

『なめるな!』

グロースターが金色の大型ランスを腰溜めにして突撃してきた。
そう、彼の選択肢は戦うしかない。
ライが廻転刃刀を構える。
そういえば自分は刀型の武器を扱うのは初めてだが、何故か手に馴染む感じがあった。
これももしかしたら失った記憶に関係しているのかもしれない。
そんな事を頭の隅で考えながら無形の位で刀を構える。
グロースターのランスが迫る。
ライがカッと目を見開いた瞬間刀を即座に切り上げた。

「くっ!」

それによってランスを弾くが、衝撃が襲う。
しかし、ライは顔をしかめたのは一瞬で、すぐさま刀を返して斜めに振り下ろす。
それをグロースターは易々とかわした。
後方へ飛び、ランスを構える。

見事な動きだが、焦りが見える。
それも妙な事にコーネリアの親衛隊以上の焦りを、だ。
その時通信回線を通して声が聞こえてきた。

『私はコーネリア・リ・ブリタニア皇女が騎士、ギルバート・G・P・ギルフォードである』

聞こえてきた言葉にライは驚いた。
ギルバート・G・P・ギルフォード。
その名はコーネリアが選んだただ一人の専任騎士だ。

「……なるほど。貴方と戦える事を光栄に思います」

畏怖でも余裕でもなく、ただ純粋な思いを言葉に乗せる。
しかし、それ以上の言葉はいらない。
互い見える相手が倒すべき敵。
それだけだ。
ライが攻める前にギルフォードのグロースターがランスで鋭い一撃を繰り出す。
ここは無理をせず一旦回避に専念する。
突き出されたランスを避ける。
さらにそこへ振るわれたランスを屈んで避ける。
その後、ライは地面を蹴って後方へ一旦下がる。
ランスを避けて絶好の攻撃の機会ができたのだが、間合いがぎりぎり一歩足りないと直感的に判断したライは距離を取る事を選んだ。
それを見たグロースターの動きが一瞬止まり、ゆっくり構えを取る。
どうやら攻撃を避けられた事への驚愕ではなく、純粋な興味の表れに見えた。
攻撃はしのいだ。
だが、ここまでやれるのも月下の性能があってこそだ。
ただ、不思議と目は慣れてきた。
強敵と戦う事で自分のモチベーションが上がってきたのかもしれない。

「まともに戦うには少々危険だが……っ!!」

グロースターが流れるような動きで突発的にランスで攻撃を仕掛けてくる。
だが、さっきよりもさらにグロースターの動きが見える、捉えられる。
突き出されたランスを刀身でそらして上手く捌く。
そのまま下段蹴りを繰り出したが、グロースターは寸前で飛んでかわした。

(だんだんと相手の動きは捉えられてる。……だが、やっぱり上手い)

となればこちらの有利な要素を使って何とかこちらのペースに持ち込むしかない。
そして、今自分に有利なのはこの状況だ。
既に親衛隊の大半は騎乗前に機体を破壊され、稼動したものもカレンが抑えている。
そしてこちらは間もなくコーネリアの身柄を押さえられるはず……。

「ギルフォード卿。貴方の勇戦に敬意を表し、名誉ある降伏を提案します」

『私は姫様に選ばれた、姫様を守るための騎士。ならば、ここは私こそが!』

変に焦ると実力は半減する。

「ギルフォード卿。その姫様は我らの手中。これ以上の抵抗はその命脈を断ちます」

もちろんこれは嘘だ。
コーネリアを捕らえたという報告は入っていない。
つまりまだ捕らえていない。
しかし、そこでグロースターの動きが止まる。

『……卑怯者め!』

状況を確認したギルフォードが怒りもあらわにランスを構える。
しかし、ライにはその間で十分だった。

「もらった!」

「何っ!?」

その隙を見逃さずライは月下をすかさず飛び出させる。
ランスを左腕で掴む。
この月下の左腕には紅蓮弐式と同じ輻射波動機構が搭載されている。

『甲壱腕型』

そう名づけられたこれは紅蓮弐式の簡易版とはいえ、オリジナルに引けを取らない威力を持っていた。
ただ連射が効きづらいため、多用はできない。
だが、この絶好のチャンスをライは見逃さず甲壱腕型でランスを捕らえたのだ。
トリガーを引き絞ると輻射波動が放射される。
しかし、グロースターが途中で何とか甲壱腕型から逃れたので、完全にランスを破壊することはできなかった。
だが損傷には成功している。
少なくとも攻撃力は削いだ。

『っ!だが、この程度では』

ライもこれで勝ちとは到底思っていない。
まだこれからだ。
だが、この時点である程度の時間は稼いだ。
その証拠にギルフォードのグロースターの動きに明らかに焦りが見え始めた。
相手の出方を窺おうとしたライにグロースターが突撃を始めた。
どうやら強行突破してコーネリアの元へ向かうつもりらしい。
しかし……動きがさっきよりも馬鹿正直で稚拙だ。

「そんな攻撃に!」

ライは機体を捻ってランスをかわすと右手の固定式のハンドガンを構える。
放たれた銃弾がグロースターの左肩に数発命中した。
浅いが、損傷させた事には違いない。
そして、この機会を手放すほどライは馬鹿でも間抜けでもない。
ライの追撃を警戒してくるかと思ったグロースターが踏みとどまってランスを突き出す。
ランスの矛先が月下に迫るが、また寸前でライは身を捻って回避し、今度は回転刃刀を横薙ぎに振るう。
頭部狙いの斬撃をグロースターは寸前で回避しようとした。
しかし、攻撃した直後の事で完全には回避しきれず頭部の一部を切り裂かれた。

「くっ!あの状態でよく動く!」

ライはギルフォードがあの態勢から直撃を避けて被害を軽減した事に驚いていた。
自分でも先ほどの回避は正直あそこまでできるとは思わなかった。
さらにそこからの反撃も。
もう一回やれと言われたらできるかどうかも怪しい。
しかし、それぐらい上手くできたライの反撃を当たったとはいえ避けられたのだ。
これには驚かずにはいられなかった。
だが、そんな驚愕も一瞬でグロースターが仰け反った瞬間を利用して一旦距離を取る。

再び両者が対峙する。
ライの目的は時間稼ぎ、ギルフォードはコーネリアの下へ駆けつける事。
ここで無理に勝つ必要はない。
しかし、ライは一人の乗り手として目の前の強敵に勝ちたいと思っていた。
それに何故か負ける気もしない。
調子に乗っている訳ではないが、先ほどからギルフォードのグロースターの動きが徐々にはっきりと見えてきていたのだ。
この強敵に勝てば自分は何か掴めるかもしれない、とライは思っていたのだ。
対峙する月下とグロースターの間に静寂が生まれる。
続くのは少しの間だけだ。
そして、勝負がつくのはさらに短い、一瞬。
両者の空気がピリピリと引き締まる中、ギルフォードのグロースターがランスを腰溜めに構えた。
ライも構えようとした時、ふいに頭にあるイメージとビジョンが浮かんだ。
特に意識もせずにライは静かにその浮かんだ通りに構えを取る。
何故かそれが今一番いいと感じたからだ。
右手の刀の切っ先を相手に向け、そこに左手を添える感じで左手を置く。
実際には刀には触れてはいないが。
そして、両者が同時に飛び出す。
凄まじいスピードで両者が衝突した。

ガキィィィィン!!!

刀とランスが真っ向から衝突する。
拮抗したかに見えたが、グロースターの突き出したランスが逸れた。
対して月下の刀の進行方向は変わらない。
そして、グロースターの突き出したランスは月下の右肩をかすめ、月下の突き出した刀はグロースターの胴部に突き刺さる。
結果ライの月下はグロースターの懐に飛び込むようにして、グロースターの胴部を貫いた。
それで動力部に斬撃が命中したのか、グロースターは機能を停止する。
パイロットのギルフォードは機能停止前に脱出していた。
少しの間そのままの状態だったライだが、刀を引き抜く。
それに応じてグロースターが崩れ落ちた。

「はぁ、はぁ……」

勝った……。
月下先行試作機の機動力とこの状況、そして先ほど浮かんだイメージとビジョンがなければ、こんな勝利はなかっただろう。
ギルフォードの焦りが実力を半減させている事も大きかった。
何故あのような構えと攻撃ができたのか自分でもわからないライだったが、今はそれどころではなかった。
勝利したとはいっても状況はまだ終わっていない。

「ゼロはどうなった…?」

戦況を確認しようと回したカメラに、予想外の光景が映っていた。
ゼロの無頼が無残に破壊され、カレンの紅蓮弐式がまさに白カブトへ襲いかかろうとしていた。

(あれは白カブト…!ここに来ていたのか!)

「ゼロ!カレン!」

ライは月下を2人の下へ向かわせるが、その前に何とか離脱しようとしたゼロの無頼を白カブトが破壊してしまった。
かろうじてコクピットは射出された。
無事だといいが、今はもうひとつする事が増えた。

「カレン伏せて!」

『っ!』

白カブトと組み合った勢いで押されていた紅蓮の背後からライの月下が飛び掛る。
カレンはそれをライの言葉で察して白カブトの腕をはじくと横に移動する。
紅蓮の影で死角となっていたライの月下が白カブトに廻転刃刀を振りかざした。
振り下ろされた刀を白カブトはブレイズルミナスのシールドで止める。

「くっ!」

さすがに性能が違う。
向こうの方が上なのに加えて兵器も高性能だ。
白カブトが受け止めた腕で刀を弾く。
そこから反撃といわんばかりに次々と手刀や拳、蹴りが繰り出される。

(速い!!)

だが、ライは慌てていなかった。
今のライはほどよく気が引き締まっていてかなり理想的な状態とも言える。
ライは突き出される、手刀、拳や蹴りを先読みしてすばやく避けていく。
白カブトが下段の蹴りを放ったのを跳躍して回避すると同時に一旦距離を置いた。

(速かったけど、攻撃は直線的だ。読みやすい。これなら何とか……)

勝つ事はまず無理だろうが、短時間ならやることはできそうだ。
そうすると、代わってコーネリアのグロースターと交戦していたカレンの紅蓮弐式が隣に来た。

「ゼロは!?」

『だめ!通信が繋がらない!』

まずい。
ゼロに何かあったのか?
しかし、この状況ではそれを確認する事もできない。
このままでは戦いが混迷を深めていくだけだ。
ライは通信回線を扇につないだ。

「扇さん、全軍に撤退を始めさせてください。作戦は失敗です」

『ゼロは!?』

「無頼を破壊された後、通信不能です。コーネリアの捕獲に失敗した上にここには白カブトがいます。このままでは被害が増えるだけです」

『……わかった。そうしよう』

「僕とカレンはこちらを足止めしてから撤退します。それまで全体指揮は扇さんがしてください」

『わかった。2人とも無事に帰ってこいよ!』

「わかりました」

『はい!』

ライとカレンが返事したのを聞いて扇は通信を切った。
さて、とりあえずの処置は終えた。
後は前方の白カブトとコーネリアを撒くだけだ。
と言ってもそれが一番難しいのだが。

『で、私達はどうするの?』

カレンは先ほどの通信でライに何かあると思ったのだろう。
意見を求めてくる。

「念のために持ってきたアレを使おう。撤退する隙さえ作れば何とかなる」

『アレ?』

ライはカレンに撤退する隙を作る策を告げた。
それを聞いたカレンはフッと笑う。

『なるほど。そういう事ね』

「隙を作ったと同時に突入してきたルートを利用して用意した逃走ルートから撤退するよ」

『わかったわ』

紅蓮と月下が身構える。
それを見た白カブトとグロースターも身構える。
少しの静寂がその場を支配する。
そして、両者が同時に飛び出した。
紅蓮と白カブトが、月下とグロースターが衝突する。

『脆弱者が!』

ライは突き出されたランスを避けて刀を振り下ろす。
それをグロースターは紙一重で避けて今度はランスを振り下ろす。
ライは刀を返して次の一撃でランスを受け止める。
そのまま月下とグロースターは鍔迫り合いに入る。

『あの新型と同じか……!ただのカスタムタイプではないということか…!』

グロースターから発せられる音声から乗っている相手はやはりコーネリアだとわかる。
どうやら初めて見る月下とその性能、そしてライの実力を見て多少なりとも驚愕しているようだ。
やはり先ほどのギルフォード戦からどうも感覚が鋭くなってきているようだ。
いや、正確には元に戻っていると思った方がいいのかもしれない。
何故だかライ自身そんな感覚を覚え始めているのだ。
とにかく、先ほどの白カブトの動きもギルフォードより鋭く速いコーネリアの動きもはっきりと見えつつある。
ぎりぎりと鍔迫り合いをしていた両者は一旦互いの武器を捌いて間合いを取った。

「カレン!」

ライがカレンに呼びかけると白カブトと交戦していた紅蓮が一旦下がった。
そして、近くにきた所で月下と紅蓮が意気を合わせたように飛び出す。
互いにクロスするようにすれ違って白カブトとグロースターに肉迫する。
また交差した瞬間に死角になっていた紅蓮の後ろを通過する瞬間に月下がスラッシュハーケンを発射した。
狙いはコーネリアのグロースター。
もちろん不意打ちに近い攻撃だが、コーネリアはなんなくランスで弾き飛ばす。
だが、そこへ紅蓮が突っ込んだ。
輻射波動の右爪をグロースターに向けて突き出す。
しかし、そこへ白カブトが乱入してきた。
横合いから飛び出してきた白カブトのMVSを紅蓮は突き出していた腕を方向転換して輻射波動を放射。
振り下ろされたMVSを輻射波動で受け止める。
その隙にコーネリアのグロースターが攻撃を仕掛けようとする。
しかし、そこへ月下が刀を構えて飛び出してきた。
振り下ろされた刀をグロースターはランスで受け止める。
白カブトが破壊されるのを警戒してMVSを退いた所で紅蓮がライのいる方向へ退く。
紅蓮がライの月下の側方を通過した瞬間。

「今だ!!」

ライは鍔迫り合いしていたランスを弾いて距離を取ると同時に持っていた刀を捨てて腰に付けていたある物を掴んだ。
それを紅蓮を追ってコーネリアのほぼ隣に来ていた白カブトとコーネリアのグロースターの目の前に投げつける。
二機がKS爆雷かと警戒して左右に分かれて避けようとしたとき、それが炸裂した。
白カブト、コーネリアのグロースター、ライの月下、カレンの紅蓮が光に包まれる。

「カレン!今のうちだ!」

今ライが使ったのは閃光弾。
ナイトメア専用の手榴弾型の武器だ。
元々作戦の説明で夜間戦闘になる事を想定していたライが整備班に頼んで取り付けてもらったものだった。
万が一の時に使えると判断しての事だ。
夜間など暗い中で閃光弾は絶大な効力を発揮する。
それを今ここで使った。
今、先程投げられた閃光弾に注視していた白カブトのパイロットとコーネリアは一時的に視界が遮られ、目が眩んでいる事だろう。
ライはもちろん対閃光のためにサングラス系の光を抑える物を装着している。
カレンはライが閃光弾を投げた瞬間にそれから背を向けていた。
閃光弾は直視しなければ効果は薄い。
視力には一時的に影響があるかもしれないが、この程度ならば問題ない。
そして、上手く敵の足止めに成功したライとカレンはその隙に乗じて撤退した。









結果、扇の的確な指揮のおかげで大きな被害もなく黒の騎士団は撤退したが、白カブトによってライ達の作戦は阻止されてしまった。
ゼロも無傷ではなかったが、帰還した。
奇策とはいえ、ゼロの作戦は見事だった。
あと一歩というところまでコーネリアを追い詰めるほどに。
でもその一歩が足りなかった。
“結果はすべてに優先する”というゼロの言葉。
そう……今回の戦いはライ達の敗北だった。
だが、これによってライの戦闘スキルが向上し、後にライは黒の騎士団の双璧の一角として敵に恐れられる事となる。
このライと月下先行試作機の出会いと白カブトとの邂逅は後にライの運命を大きく左右していく事になる。













あとがき

まずはシルフェニア5周年おめでとうございます!!
4000万HITに続いて5周年!
素晴らしい事ですね。
これからも応援すると同時にこのサイトに投稿する一作家としてがんばっていきたいと思います。

という事で今回5周年という事で以前から予告していた外伝・蒼の過去編をお送りしました。
これは原作ゲーム『LOSTCOLORS』をなぞって僕自身がこの作品風にアレンジしたものになっています。
その中でも気に入っているいくつかのシーンから今長編である『Double Rebellion』につながるものとして書いています。
大本はだいたい一緒ですが、ゲームで描かれなかったシーンや長編に合わせた作者オリジナルの要素を盛り込んだ形になっています。
ちなみに今回はアニメ本編では13話にあたる所を元にしています。
この作品のほかにも後いくつか書く予定はしてますので、たぶんこれだけでは終わらないと思います。
ちなみにこの過去編でのライの設定は原作であるゲームとほぼ同じと言ってもいいので気になる方はゲームを参考にしてくださいね。

この作品はゲームを知っている方には少々つまらない作品でしょうが、読んで楽しんで頂ければ嬉しいです。
拍手、感想等あればこの過去編を作っていく上で励みになるので、してもらえればさらに嬉しいです。
では、またこの作品の本編である『Double Rebellion』で!



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