魔法少女リリカルなのは
                  Accel  Knight


















第9話 協力は自分の意思で





ゲシュペンスト・ジョーカーのランに蹴り飛ばされた時空管理局の魔導士『クロノ・ハラウオン』は突然の事に何が何だかわからないでいた。
ただ、蹴られた顔を抑えて呻くだけだ。

「くっ……、一体何が……」

と言って、何とか飛ばされていた体勢を立て直すクロノだったが、そこで前方を見て驚いた。
既にゲシュペンスト・ジョーカーであるランが拳を掲げて迫っている。

「なっ!?」

咄嗟にクロノは左手でシールドを張ったが、ジョーカーが繰り出した拳を防ぎ切れずにまた吹っ飛ばされる。

「くぅ…!」

今度は不完全ながらも防御したクロノは事態の把握に頭をフル回転させていた。

(あれは……確か白い魔導士の子と協力してると思われる戦士……!魔力反応は一度だけあったが、それ以外は魔力反応もない。魔導士ではないのは確かだが、 彼は一体……!それに、何故いきなり……っ!)

考えている間に矢継ぎ早に繰り出された拳をクロノはなんとか防ぐ。
しかし、ジョーカーの実力が上回っているため、いささか分が悪い。
クロノはなんとか体勢を立て直そうと必死になっていた。



















その一方で、ランが突然の乱入魔導士との戦闘を見る形となってしまったフェイト達だったが、空中にいたフェイトにアルフが近寄ってきた。

「フェイト、今のうちに撤退するよ!」

「…でも……」

アルフの言葉にフェイトは頷く事ができなかった。
ランはいつの間にか乱入してきた魔導士にさらに乱入してきた訳だが、それからずっとその魔導士と戦闘を続けているのだ。
ランの方が圧倒的に有利だが、少なからず自分を助けてくれたランが心配なのだ。
と、そこで戸惑っているフェイトにランがちらりと視線を向けた。

「……!」

いや、正確にはフェイトに視線を向けたかなんてわからない。
ただ、フェイトはランが確実に一瞬だけど、自分を見たという事は確信できた。
そして、その視線が何を促すものだったかという事を。
ランの意図を正確に読み取ったフェイトは口を開いた。

「アルフ、撤退するよ」

「はいよ!」

(……ラン、ありがとう)

言って、フェイトはすぐにその場を離れ、撤退した。
いつの間にか彼女はランを名前で言うようになっていた。
一方、なのはは撤退していくフェイト達に気づいたが、その時には既に彼女達の距離は開いていた。
どうやらランの戦いに気を取られていたらしい。

「フェイトちゃん……」

なのはは去っていくフェイトの姿を見えなくなるまで見た後、また複雑な表情でランに視線を戻した。
























俺は戦闘の途中にフェイトに撤退しろという意味でちらりと視線を送ったが、彼女はその意味をちゃんと理解してくれたようで、すぐにこの場からいなくなっ た。

(後は……)

今目の前にいる謎の魔導士をぶっ飛ばすだけだ。
俺が蹴ったせいで名乗ろうとした魔導士の正体がわからないままなのは、置いておく。
別にそれほど興味もない、今のところは。
そう結論づけた俺は攻撃を加えて飛ばされる魔導士を追尾し、その途中で、カードスロットから一枚のカードを左手で取り出す。
それは今までの茶色いカードとは違う、白いカードだった。

「こいつでさっさと終わらせる」

俺はそのカードを左腰のカードローダーにセットする。
そして、そのまま叩いてローダーを閉じた。

【ロード!BF-アーマードウィング!】

と音声が鳴ると、俺、つまりゲシュペンスト・ジョーカーの周囲に無数の黒い羽が纏わり始めた。
さらに背部のウィングが6枚の黒い翼に変化する。
ただし、その翼は有機的な翼よりむしろ無機的で機械的なものに近い翼だ。
相手は俺の変化していく様子に驚くが、自身のデバイスであろう杖を俺に向ける。

「くっ!スティンガー!」

「Stinger Ray」

無数の藍色の魔力弾が同時に接近する俺に向けて発射される。
しかし、俺はその魔力弾を避ける事はせず、相手に突っ込んだ。
無論、その結果多数の魔力弾を浴びる。

ズドドドン!!

「ラン君!」

なのはがその様子を見て、悲鳴程ではないが、声を挙げる。
相手の魔導士もやったかという感じで一瞬気を抜いた。
だが、そこが甘い。

「効かんな」

魔力弾を被弾した事で発生した爆風から俺は飛び出した。
装甲には全くといっていいほどダメージがない。

「なっ!?無傷!?」

「悪いが、アーマードウィングをロードした時の俺はその程度の弾丸ではダメージを受け付けない。戦闘では破壊されず、受けるダメージを減衰するこの カードの効果の前ではな」

そう、俺は魔力弾が被弾する寸前にアーマードウィングの効果を発動していた。
このカードは戦闘では破壊されず、受けるダメージも0にするという効果がある。
この効果は変身時で使うと、ほぼ同じ効力を俺自身にもたらす事ができる。
つまり、それで相手の魔力弾を直撃をくらいながらも、全くの無傷でいる事ができたのだ。
まあ、あの程度の魔力弾なら通常で直撃を受けても大した傷にはならないが。
そして、このカードの効果にはもう一つ攻撃用の力が隠されている。

俺は、驚いて致命的な隙を見せている相手の懐に一瞬で潜り込み、拳を思いっきり叩き込んだ。

「ぐっ!」

今度は下に向けて叩き落としたため、相手は真下の海に向けて落ちる。
俺はそれを逃さず追撃する。
そして、そこで牽制かそれとも迎撃のためかさらに強力な魔力弾を撃とうとした相手だったが、魔力弾が発射される事はなかった。
その事に他ならぬ発射しようとした本人が驚く。

「な!?ブレイズキャノンが撃てない!?」

俺はそれに親切にも解説を入れてやる事にする。
冥土の土産がわりだ。

「この形態時の俺には、もう一つ能力があってな。おまえの肩を見てみろ」

俺に言われて、自分の肩を見た相手はさらに驚いた。

「これは……楔…!?」

そう、相手の左肩にはいつの間にか尖った楔のような突起物が刺さっていた。
だが、既にそれは何故か形を崩すように消えかけている。

「それは黒羽の楔って言ってな。俺がこの形態で攻撃すると、そいつが攻撃した相手の体に付く」

それで相手も気づいたようだ。

「さっきの一撃か…!」

「そうだ。そして……」

その瞬間、楔が完全に消える。

「黒羽の楔を俺の意思で取り除いた瞬間、貴様の攻撃力・防御力は0になる」

俺の言葉で相手は自分の起きた事に気づいた。

「じゃあ、まさか!」

「そう、おまえが魔力弾を撃てなかったのは、その楔が俺の意思によって効果を発揮し始めていたからだ。攻撃力が0なら、攻撃をしようとしても発動しないの は当たり前。魔法なんてものは特にな。……そして」

俺はジョーカーメモリをマキシマムスロットにセットする。

【JOKER!MAXIMUM DRIVE!】

「こいつで終わりだ」

俺はマキシマムスロットのボタンを叩くと、反撃の機会を失って隙だらけの相手に一気に飛び込む。
掲げた左腕のプラズマステークにはエネルギーが集中し、俺の周囲には無数の黒羽が俺を纏うように舞う。

「ブラック・ジョーカー・ハリケーン」

俺は左手のプラズマステークを容赦なく突き出した。























『待って!私達は時空管理局!あなた達と話し合いに来たの!』

しかし、突如聞こえた別の声で俺は突き出したプラズマステークを相手の顔寸前で止めた。
相手は俺の拳をただ目を見開いて見つめるだけで、硬直している。
間違いなくやられると思っていたからだろう。
俺が突き出した拳を止めたのは、聞こえたのが女性の声とその言葉に気になるものが入っていたからだった。

「時空管理局……?」

どこかの組織名だろうか。
俺は拳を止めはしたが、相手に拳を突きつけたままその声のした方に顔を向けた。
そこには、魔力によって映し出したものだろうか、魔力陣の中にモニターらしき物があり、そこに見知らぬ緑色の髪をした女性が映っていた。

『ええ。私達はあなた達に危害を加えるつもりはないわ。だから、戦闘行動を停止して』

だが、俺は一旦拳を止めたものの、その言葉を受け入れるつもりはなかった。

「違うな。間違っているぞ。俺がこいつに手を出したのは、二人の決闘を邪魔したからで、別に危害を加えられると思ったからじゃない」

俺の言葉に女性は多少驚いたようだが、すぐに表情を戻した。

『そうですか……。なら、今回は謝ります。ごめんなさいね。でも、私達は本当に話が聞きたかっただけなの』

俺はその言葉に嘆息すると、口を開く。

「なら、今後空気も読まずにでしゃばる行動は控える事だな。戦いを止めるためかは知らんが、それぞれの信念を賭けている戦いの邪魔をするな」

言って、俺は拳を引き、ジョーカーメモリをマキシマムスロットから取り出してレフトスロットに戻す事で、マキシマム状態を解いた。
それで、相手の魔導士も緊張していた体を解く。
そして、それで正気を取り戻したのかその魔導士がすぐ口を開いて、声を挙げた。

「僕は時空管理局執務官、クロノ・ハラウオン。君には、公務執行妨害として、あの子達と一緒にアースラまで来てもらう!」

その時俺は思った。

(こいつ……自分の身の上をべらべらと……アホだな。しかも、立場さっきまで逆だったのに、なんで上から目線なんだ……?)

これが俺のクロノ・ハラウオンに対する第一印象だった。
























それから多少の紆余屈折があったものの、クロノに案内されたなのは、ユーノ、俺は彼らのアジトであるアースラという戦艦に来ていた。
移動手段は魔法による転移で、今ちょうどその転移でアースラという戦艦の中に着いたところだった。
転移が終わったところで、なのはが周りをきょろきょろと見渡す。

[ユーノ君、ユーノ君。ここって一体……]

なのはが念話を使ってユーノに話しかける。
俺は受信だけは可能なので、とりあえず話を聞くだけにしている。
それに、俺もこの戦艦については気になっていた。

[時空管理局の次元航行船の中だね。……えと、簡単に言うと、いくつもある次元世界を自由に移動する、そのための船]

なのはは苦笑した。

[あ、あんまり簡単じゃないかも……]

確かにユーノの言ってる説明は小学生のなのはには難しいだろう。
俺は小声でなのはに話す。

「ようするに、いろんな世界に行ける船だと思えばいい」

[あ、なるほど]

俺の説明になのはは納得したようだ。
はっきり言って、俺の説明はざっくりしすぎだが、このくらいの年頃にはこれぐらいの説明がちょうどいい。
だが、そこで俺は今度はユーノに聞く。

「そういえば、時空管理局って主に何をしてる組織なんだ?」

相変わらずの小声で話したが、ユーノはちゃんと聞き取れたようで、答えてくれた。

[ランはさっきの僕の話でこの世界や僕の世界の他にも世界がある事は理解したよね。それで、管理局はその狭間をこのような船で渡って、それぞれの世界で干 渉し合うような出来事を管理するのを仕事としているんだ]

なるほどなぁ。
組織名の通りの仕事をする組織らしい。
わかりやすくていいが。
そして、扉をくぐったところで、クロノが振り返った。

「あぁ、いつまでもその格好というのは窮屈だろう。バリアジャケットとデバイスは解除して平気だよ。……そこの君もその装甲を解いたらいい」

クロノがなのはに言った後、俺にも告げた。
その視線に多少睨むような感じはあったが。

「あ、そっか。そうですね。それじゃあ……」

そして、なのははバリアジャケットを解除して、いつもの私服に戻り、レイジングハートも待機状態に戻した。
それを俺は見ると、ジョーカーメモリをレフトスロットから取り出して変身を解く。
そこで、その様子を見ていたクロノが驚いた。

「え!?こ、子供!?」

俺はその言葉にムッとしつつも、説明する。

「ああ、子供だよ。変身すると、大人の体型になるから初めての奴には誤解されやすいんだよな。なのはもそうだったし。つーか、別におまえと大して変わらな いだろ」

そう最後に突っ込んだ俺だったが、既にクロノは聞いていなかった。
ショックを受けたようで、壁に手を付いている。

「僕は……あんな子供に負けたのか……」

精神は大人だけどね〜とかは言わないでおく。
しばらくガックリしていたクロノだったが、なんとか立ち直ると今度はユーノに話しかけてきた。

「君も、元の姿に戻ってもいいんじゃないか?」

「え?」

「は?」

思わず俺達はクロノの言葉の意味がわからず、間抜けな声を出してしまう。

「あ、そういえばそうですね。ずっとこの姿でいたから忘れてました」

そう言って、訳の分からない俺達を前にして、ユーノが目を閉じると、ユーノから光が発せられた。
近くにいたなのはが驚いている。
フェレットだった彼の体が変化していくのだ。
そして、輝きが収まると同時にそこにいたのは、なのはや俺と同じ年ぐらいの金髪の少年だった。
それを見たなのははギョッとしている。
かく言う俺も目が点になっていた。

「「…………」」

「はぁ、なのはとランにこの姿を見せるのは久しぶりになるのかな」

少年姿のユーノがなのは俺にそう言うが、当の本人である俺達は目が点になって、なのはに至ってはユーノを指差す手が震えている。
そして、次の瞬間。

「えええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええ!!!?」

と絶叫した。
まあ、無理もない。

「な、なのは?」

なのはの態度に戸惑い始めるユーノ。
一方、なのはは完全に驚いて動揺していた。

「ユーノ君って、ユーノ君って…あの、その、何!?えぇっと、だって、嘘!ええぇぇ!?」

「落ち着け、なのは。何を言いたいのかわからないぞ」

なんとか事態から立ち直った俺は、なのはに落ち着くように言った。
しかし、まあ言いたい事はなんとなくわかる。
俺もユーノへの見方がすごく変わりそうだ。
……よし、これからは淫獣と呼ぶ事にしよう。
主にあの時の温泉的な理由で、もちろん声には出さずに。
うん、決まった。
そう結論づけた俺やなのはの様子を見たクロノが戸惑ったように聞いてきた。

「君達の間で何か見解の相違でも?」

「……ああ。激しくあったな」

とりあえず、俺はそう答えておいた。
俺となのはの様子に戸惑っていたユーノはなのはに聞く。

「えぇと、なのは。僕達が最初に出会った時って確かこの姿じゃあ……」

「ち、違う違う!最初からフェレットだったよう!そうだよね、ラン君!」

「ああ、間違いなくフェレットだった。治療もしたからな」

なのはの言葉に俺は激しく同意した。
なのはと俺の言葉にユーノは頭に指を置いて、当時の事を思い出そうとする。

ポクポクポク…チーン!

「あ、ああ!そうだそうだ!ご、ごめんごめん!この姿見せてなかった……」

「だよね!そうだよね!びっくりしたぁ……」

そりゃ誰でもびっくりするわ。
声には出さずに済んだが、正直俺もかなり驚いた。
なのは程驚かなかったのは、おそらくこういう事をどこかで想定していたからかもしれない。
いや、喋るフェレットって普通いないしね。
誤解が解けたところで、様子を見ていたクロノがコホンと咳払いをした。

「ちょっと、いいか?」

「はい?」

「ん?」

「君達の事情はよく知らないが、艦長を待たせているので、できれば早めに話を聞きたいのだが」

おっと、確かにその通りだ。
あまりのショッキングな事態に5分くらいは立ち止まっていたらしい。

「あ、はい……」

「すいません」

「って謝る必要はないと思うぞ。艦長は逃げないんだし」

となのは、ユーノ、俺が三者三様にそれぞれ言う。
最後の俺の言葉にクロノは眉を顰めたが、それほど気にしなかったようだ。

「では、こちらへ」

そして、またクロノが先導する形で俺達は艦長室まで案内された。

























「艦長来て貰いました」

俺達が扉の前に立つと、扉が開き、クロノはそれと同時に言葉を発した。
そこまでは別段普通だったのだが。

(なんだ、この部屋……)

視界に入った部屋の様子に俺は内心汗をかいた。
はっきり言って、部屋が不自然に和風すぎる。
盆栽や茶道に使う茶器や茶碗、さらにはししおどしまであり、昔ながらの完璧な和風の部屋だった。
だが、部屋にいる女性と部屋の無機質な壁がどうもその和風な感じに合っていない。
その部屋の中央の赤い絨毯に座っている女性、リンディが正座をして俺達を待っていた。

「お疲れ様。まぁ、3人ともどうぞどうぞ。楽にして」

手を合わせながら、笑顔で言うリンディ。
なんというか緊張感がない。

(……大物だねぇ)

そんな事を思いながら、俺はなのは達と共に赤い絨毯に腰を下ろした。
そこへクロノが茶菓子と抹茶を持ってきた。

「どうぞ」

「お、サンキュ」

俺はそう言って、茶菓子を口に運ぶ。
洋菓子とはまた違った甘みが口の中に広がる。
と、そこで、俺は艦長であるリンディに一つ聞く。

「そういえば、あんたは俺の姿を見てなんとも思わないんだな」

俺の問いにリンディは笑顔で答える。

「これでも驚いてるわよ?でも、私が招いたのは3人。確かにあのロボットのような鎧を着た戦士は大人の体型だけど、クロノが連れてくる人を間違うなんてま ずない。とすれば、あの時見なかったあなたが必然的にその戦士という事になるわ。どういう仕組みでそうなっているのかまではわからないけど」

俺はその洞察力に内心感心した。
さすが、艦長といったところか。

「なるほど。さすがというべきだな」

そこで、リンディが改まる。

「それじゃあ、皆さんのお話、聞かせてもらえる?」

























「なるほど。そうですか」

自己紹介から始まり、俺達は今まで一通りの事を話した。
その間リンディもクロノも黙って聞いており、話もそれずにすんだ。
全ての事情を聞き終えたリンディは再び口を開く。

「あのロストロギア……ジュエルシードを発掘したのはあなただったんですね」

「……それで、僕が回収しようと」

「立派だわ」

「だけど、同時に無謀でもある」

ユーノの話にリンディは賞賛したが、クロノは切って捨てた。
言われたユーノは俯く。
なのははその様子をちらっと見たが、すぐにリンディに向き直る。
ちなみに俺はというと、のほほんと茶を飲んでいる。

「あの…ロストロギアって何なんですか?」

俺もその言葉は気になっていた。
俺もなのはもつい最近まで魔法とは無縁の生活を送っていたのだ。
管理局が決めている法や用語など知るはずもない。

「まぁ……遺失世界の遺産、と言ってもわからないわね」

「……ロストテクノロジーみたいなもんか?」

わかりやすく説明しようと考えるリンディに俺はそう聞いてみた。
まあ、なのはにとって全然わからない事には変わりないが。
リンディは俺の言葉に少々考えながら答える。

「そうね……。言っている事は近いわ」

そう言って、説明すべき内容がまとまったのか、再びリンディが口を開く。

「次元空間の中にはいくつもの世界があるの。それぞれに生まれて育っていく世界、その中に極稀に進化しすぎる世界があるの。技術や科学、進化しすぎてし まったそれらが自分たちの世界を滅ぼしてしまってその後に取り残された危険な技術の遺産」

「それらを総称してロストロギアと呼ぶ」

リンディの解説をクロノが引き継ぐ。

「使用法は不明だが、使いようによっては、世界どころか次元空間さえも滅ぼすほどの力を持つ事もある危険な技術……」

「しかるべき手続きを持って、しかるべき場所に保管されていなければいけない代物。あなた達が探しているロストロギア、ジュエルシードは次元干渉型のエネ ルギーの結晶体。いくつか集めて特定の方法で起動させれば、空間内に次元震を引き起こし、最悪の場合次元断層さえ巻き起こす危険物」

またリンディが言いながら、俺達を視線で捉えた。
なのはは思わず姿勢を正していたが、俺はそういう視線にはなれているので、特に緊張する事もなかった。

「君とあの黒衣の魔導士がぶつかった時に発生した震動と爆発、あれが次元震だよ」

「あ……」

クロノに言われたように、なのはにも心当たりがあった。
もちろん、俺にもすぐにそれがわかったが、俺が思ったのは厳密にはそこではなかった。

(……こいつら、随分前から様子見していたのか?)

わずかに目を細くして、俺は話を聞く。

「たった一つのジュエルシードで全威力の何万分の一の発動でも、あれだけの影響があるんだ。複数個集まって動かした時の影響は計り知れない」

そこで、ユーノが口を挟んだ。

「聞いた事があります。旧暦の462年、次元断層が起こった時のこと……」

「ああ、あれはひどいものだった」

「隣接するいくつもの並行世界が崩壊した。歴史に残る悲劇。繰り返しちゃいけないわ」

そう言って、リンディは抹茶に角砂糖を入れた。
それを見て、なのははあっと小さく声を挙げ、俺はそれを見て、気分を悪くした。

(……どんだけ甘党だよ、この艦長。俺なら確実に死ねるな……)

しかも、普通に飲んでいる。
見ているだけで胸焼けしそうだ。
その俺達の様子に気づいた様子もなく、抹茶を飲んだリンディは告げた。

「これよりロストロギア、ジュエルシードの回収については時空管理局が全権を持ちます」

「「え?」」

(……何?)

その言葉になのはとユーノは思わず声を挙げ、俺は眉を再び顰めた。
俺の様子には気づく事なく、クロノが言う。

「君達は今回のことは忘れて、それぞれの世界に戻って元通りに暮らすといい」

「でも、そんな……」

なのはに思うところがあったのか、反論しようとするが、クロノはきっぱりと言ってのけた。

「次元干渉に関わる事件だ。民間人に介入してもらうレベルの話じゃない」

「でも……!」

クロノの正論に戸惑いながらも、食い下がるなのは。
なのはは自分が街を守れる力があって、その街を守るために今までジュエルシードを回収してきた。
それをいきなり忘れろと言われても、納得できないのだろう。

「まあ、急に言われても気持ちの整理がつかないでしょう。今夜一晩ゆっくり考えて、3人で話し合って、それから改めてお話をしましょ」

その言葉で俺は管理局側の狙いがわかった。

(このアマ…!)

そこで、我慢できなくなった俺は口を開く。

「おい、ちょっと待て」

俺の声にその場にいた全員が俺の方に向く。
俺は構わず続けた。

「どうして話し合う必要がある?」

「それは、さっきなのはさんが……」

言いかけたリンディを遮り、俺は言った。

「おかしいな。さっきそいつは民間人が介入するレベルじゃないと言っていた。それなら考える時間なんて必要ないだろ。俺達を無理やり引かせてそれで終わり のはずだ。矛盾してるぜ」

「それは……」

リンディが反論しかけたが、俺はその暇を与えずにはっきり言ってやった。

「この際はっきり言おうか。あんたは俺達に親切なフリをして俺達から協力すると言わせる事で、対等な協力関係ではなく、自分達を有利な立場にしようとして いる。あわよくば、管理局に協力させるつもりなんだろ?俺は魔力は持ってないが、そいつを圧倒できる戦闘能力は持っているし、なのはは魔導士として充分な 力と才能を持っている。これほど欲しい人材はそうそういないだろうからな」

「…………」

「ラン君……?」

「ラン……?」

俺の推理というか確信をついた言葉は、リンディを黙らせるには充分だった。

「思えばさっきの話からおかしいところはあった。次元震での話でもそうだ。あんた達、本当は結構前からこっちの世界を様子見してただろ?大方、俺達の戦闘 能力でも測ってたんじゃないのか?……やる事が随分とこすいな、おい」

実際、ランの言葉は的を得ていた。
リンディはアースラのクルーになのはの魔力値やランの戦闘能力を調べさせていた。
もしそうなら、なのはの性格を利用して管理局に取り込む事も可能だろう。
それを踏まえて先ほどの言葉だったのだが、今回は相手が子供だと甘く見すぎた。

「本当なんですか!?艦長!」

クロノがリンディに詰め寄るが、彼女は何も喋らない。

「沈黙は肯定と受け取るぜ。後、一つ言っておく。あんたは相手が子供だからと上手くやれるつもりでいたようだが、あいにく俺はこういう種の相手は慣れてい るんだ。ガキだからといって、俺をなめるなよ……!」

そう言って、俺は殺気を飛ばした。
その殺気にリンディとクロノが怯んだ様子を見せる。
だが、リンディはとりあえず自分を落ち着かせると、俺に頭を下げた。

「騙すような事をして、ごめんなさい。確かに、艦長としてあなた達を利用するような真似をしたわ。本当にごめんなさい。でも、管理局は常に人材が不足して いるの」

「それは言い訳にしか聞こえないな。それが人を利用していい理由にはならない。あんた達が管理局を信念として動くように、俺達もそれぞれに抱く信念をもっ て 動いている。それは誰にも利用する事はできない」

「……そうね、ごめんなさい」

「なっ!艦長!」

そう謝ったリンディに対し、クロノは慌てた。
当然だろう。
次元艦を預かる艦長が頭を下げているのだ。
何らかの不備が生じかねないと思っているのだろう。
だが、俺はそれに構わず、一度息をはく。

「……ただ、協力してやらない事はない。なのはもユーノも元々そのつもりのようだしな。そうだろ?なのは、ユーノ」

「うん!」

「もちろんだよ!」

「そう、ありがとう。ご協力、感謝します」

「ただし」

礼を言ったリンディに俺は強調するように付け足す。

「条件は飲んでもらう」

「条件?何かしら?」

「一つはこの件が終わったら、俺達を解放する事。俺となのはは巻き込まれた側だからな。管理局に入る気はない。だから、この一件では協力者として扱っても らう。そして、もう一つは命令に対する拒否権を認める事。対等だと言うのなら、これくらいはしてもらいたいな。こっちにはこっちで戦う理由ってものがあ る」

「そんなの、認められるわけが「わかりました。その条件飲みましょう」艦長!?」

クロノは俺の言葉に反論しようとしたが、艦長であるリンディが即断した。
このくらいの条件なら飲んでもいいと判断したのだろう。
実際、そうなのだが、俺から要求するのはこのくらいで、それ以上はないのだから不満もない。

「なら、これからはそのつもりでよろしく頼む」

「ええ。じゃあ、クロノ。彼らを送っていってもらえる?」

「……わかりました。元の場所でいいね」

「ああ」

そう言って、クロノが立ち上がったので、俺達も立ち上がると、クロノに続いた。
俺達が部屋から去った後、残ったリンディが呟いた。

「あの優れた洞察力と交渉術、それにあの殺気……。彼、一体何者なのかしら……。とてもただの子供とは思えないわね……」

一連のランの行動を見たリンディは彼を相手にする時はこれからいっそう注意するように心がけることにした。

























そして、俺達はクロノに先ほどまで戦場だった公園に戻った。
そのクロノは俺達をこの場所に送り届けると、早々に帰って行った。
今いるのは俺となのはとユーノの3人だけである。

「……とりあえず、帰ろっか」

「そうだな」

夕暮れに染まる海を眺めていた俺達だったが、俺はそこでなのはとユーノに話しかけた。
先ほどからなのはの態度がおかしかったからだ。

「俺が怖くなったか?」

「「え?」」

言われたなのはとユーノは俺の方を向く。

「さっきの事だ。あんな態度、今までなのはやユーノに見せた事なかっただろ?」

というより見せる必要がなかった。
あの殺気を出すのは、敵かよほど気に喰わない奴だ。
なのはは優しい女の子だし、友達で、別に特に気に喰わない点もない。
ユーノも別に悪い奴ではない。
ラッキースケベな淫獣ではあるが。
いや、今は人間か。
まあ、そこはここでは関係ない。
以上から、特に使う理由もなかったのだ。
それがあんな形で自分の見せてなかった一面を見せる事になってしまった。

「……怖くないよ」

口を開いて答えたのはなのはだった。
俺はその言葉をすぐに否定する。

「嘘だ」

「嘘じゃないよ!」

なのはが真剣になって俺の言葉を否定したので、俺は驚いて初めてなのはの方に向くと、そこにはなのはの真剣な顔があった。

「確かにあの時の見たこともない雰囲気のラン君には驚いたし、怖いって思った。けど、ラン君は優しい人だよ!あれも私達のためを思って言ってくれたんで しょ?」

「……まあ、そうだな」

俺は歯切れ悪く答える。
確かにそれもあるが、単に利用されるというのが我慢ならなかったというのもあるのだ。
だが、なのはは俺の様子を気にせず真剣に言う。

「だったら、怖いなんて思える訳ないよ。ラン君はあの時からずっと優しい人なんだから。少なくとも私にとってはそうだよ」

すると、ユーノもなのはの言葉に勇気をもらったかのように口を開いた。

「僕もなのはと同じだよ。確かにあの時のランには驚いたけど、特に怖いとは思ってないから。それに、僕達のためにあそこまでしてくれたんだから、むしろお 礼を言うべきだよ。ありがとう」

と言って、礼までされた。
俺はそれに戸惑ったが、心のどこかで少し救われた気がした。

「……ったく、とんだお人好しだな。おまえら。別に俺は優しい人なんかじゃねえぞ?」

「そんな事ないよ!ラン君は優しいよ!いつもはボーっとしてるかもしれないけど、いつもさりげなく私達を助けてくれてた。私はちゃんとそれを知ってる よ!」

なのはの言葉に俺はもう自分の優しさとかについて話すのはやめにすることにした。
なのはの頑固さに、これ以上何を言っても変わらないだろうと思ったからだ。
これについては、彼女はいくら俺が言っても言葉や態度を変えないだろう。
俺は本当に決して優しい人間ではないのに。
思わずため息が洩れる。

「……わかった。なのは達がそう言うのならそれでいい。……ありがとう」

「ううん、私こそありがとう」

礼に礼を返されると変な感じがするが、俺はありがたく受け取っておく事にした。
すると、ユーノが話題を変えてくる。

「でも……管理局が今までのを様子見してたというのは本当なのかな?」

「十中八九本当だな。まあ、組織ってのは損得勘定で動かないと成り立たない部分もあるしな。大方そこで動いてたって事だろ。あの艦長は」

「…………」

ユーノは俺の言葉で俯いて黙ってしまった。
おそらく、今までそれなりに信用していた管理局がそんな事で今まで手を出さないでいたのかという憤りが大きくなっているのだろう。

「ま、そこは気に入らなくても仕方ないだろ。今はちゃんと事態の収拾に動いてくれてるしな。……ただ、これからの交渉事は俺がする」

「ランが…?」

ユーノが首を傾げたのに対し、俺は頷いた。

「ああ。なのはとユーノはこういう事すら向かないし、まだ若いからな。交渉のような駆け引きは難しいだろ」

「って君も僕やなのはと同い年くらいだけど……」

「あっ、やっぱりそうなんだ」

ユーノの突っ込みになのはがそう呟いている。
俺は苦笑した。

「別に年の意味で言ってる訳じゃないさ。経験がほとんどないって意味で言っただけだ」

「あ、そっか……」

ユーノが納得したところで、俺は再度確認する。

「だから、交渉事などの駆け引きは俺がする。いいな?」

「うん、まかせるよ」

「なのはもそれでいいか?」

「うん!私交渉っていうのよくわからないし、ラン君ならまかせられると思うから」

「じゃあ決まりだな」

俺はとりあえず今後の自分の受け持つ役割を決めると、なのはに再び話しかける。

「じゃあ、帰るか。なのは、帰ったら家族との話し合い、俺も付き添ってやるよ」

「いいの?」

首を傾げるなのはに、俺は笑顔で答えた。

「その方が心強いだろ?」

「……うん!」

と、そこでユーノが人型からフェレットに戻った。
そして、なのはの肩に乗る。

「とりあえず、普段はこっちの方が便利そうだから、僕はこの姿でいるね」

「そうだな」

こうして、俺達は帰路についた。
途中、ユーノが自分の正体を隠していたみたいで謝ったが、俺達はびっくりしただけだとユーノに言うだけだった。


























その頃アースラでは、艦のスタッフがラン、なのは、フェイトの戦闘映像を分析していた。
モニターに映し出されているのは、ラン、なのは、フェイトがそれぞれ戦う様子だ。

「すごいや!どっちもAAAクラスの魔導士だよ!」

歓喜の声を挙げるのはアースラ通信主任兼執務官補佐のエイミィ・リミエッタ。
茶髪のショートカットにつむじからぴょんと跳ねた毛が特徴的だ。
そして、無論どっちが指しているのは、なのはとフェイトの2人である。

「ああ……」

「こっちの白い子はクロノ君の好みっぽいかわいい子だし」

キーボードをカタカタと打ちながらエイミィは感想を口にする。

「エイミィ!そんな事はどうでもいいんだよ!」

「魔力の平均値を見ても、この子で127万。黒い服の子で143万。最大発揮値はさらにその三倍以上。クロノ君より魔力だけなら上回っちゃってるね?」

と言って、画面から目を離してエイミィはクロノを見る。

「魔法は魔力値の大きさだけじゃない!状況に合わせた応用力と的確に使用できる判断力だろ」

「その割には、あの鎧を着た子にボコボコにされちゃってたけどね」

「それは……!」

エイミィの指摘に気にしていた事を言われたクロノは、声を強くして言おうとするが、その前にエイミィが付け足すように言った。

「でも、大丈夫だよ。信頼してるから。だってアースラの切り札だもん。クロノ君は」

その切り札がランにあっさり負けててはダメなような気もするのだが。
第三者が聞いたらそう言いそうだが、ここでは置いておこう。
だが、そのエイミィを不満そうに睨むクロノであった。
その時、部屋の扉が開く。

「あ、艦長!」

そこから入ってきたのは制服姿のリンディではなく、私服姿のリンディだった。
リンディは部屋に入って、モニターを見ると、エイミィとクロノが何をしていたのかすぐに察した。

「ああ、3人のデータね」

「はい」

リンディはモニターを眺めていたが、不意にその顔が厳しくなった。

「確かに、凄い子達ね」

「これだけの魔力がロストロギアに注ぎ込まれれば、次元震が起きるのも頷ける……」

「それに、あのランという子。あの子に至っては魔力すら使っていない。……エイミィ、彼の力がどういうものかわかった?」

リンディがランのゲシュペンスト姿の戦闘の様子を見ながら、エイミィに聞く。
エイミィはすぐに解析した結果を報告する。

「いえ……正確には。ただ、あの藍色の形態の時にだけ、本人に魔力が計測されました」

「それはどのくらい?」

「平均で400万くらいです。最大時ではその3.5倍程」

「そんなに!?」

エイミィの報告にクロノは驚いた。
ランク的にはなのは達の1つ上なのである。
数値だけでも普通に大きい。

「それだけではありません。魔力が確認できなかった他の黒、赤、青の形態でも、この戦闘記録を見る限り凄まじい戦闘能力を持っているのは確かです」

「具体的な例はない?」

「先刻使用された赤い形態で、ジュエルシードの暴走体の触手を焼きつくした時点での瞬間温度を計測したところ、5000度と出ました」

「ご、5000度!?」

またもクロノが驚く。
無理もない。
ランがクリムゾンで使用した炎は太陽の黒点並の温度を誇っていたのだ。
それをランはピンポイントで確実に使っている。
それにリンディもさすがに驚く。

「それは凄いわね。……一体、彼は何者なのかしら?」

「さあ……。僕としては、単に強い力と意思を持つ男の子としか……。後、気に喰わないところも多いですが」

「……とりあえず、彼については引き続き調査を続けましょう。幸い、こちらに協力してくれるみたいだから」

そう言って、リンディはランの戦闘モニターから視線を外し、全体をまた見る。

「それで、あの子達……なのはさんとユーノ君、ラン君がジュエルシードを集めてる理由はわかったけど、こっちの黒い服の子はなんでなのかしらね」

「随分と必死な様子だった……。何かよほど強い目的があるのか……」

クロノは顎に手を当てて考える。

「目的……ね」

モニターでは、ちょうどフェイトがアークセイバーで木の化け物の根を切り裂く所だった。

「まだ小さな子よね……。普通に育っていれば、まだ母親に甘えていた年頃でしょうに……」

フェイトが何のために戦うのか。
それは彼女自身と概ねながらもランしか知らない事であった。
その事をもちろんリンディが知るはずもなく、1人の母親として彼女はフェイトの事を考えていた。

























そして、俺は予定通りなのはの家におじゃましていた。
今なのはは桃子さんと一緒に食器を洗っている。
俺はとりあえずリビングの椅子に座って、携帯をいじっていた。
そこに、士郎さんと恭也さんが来る。
士郎さんが冷蔵庫から飲み物を取り出す。

「さて…じゃあ、桃子、なのは、お父さん達はちょっと裏山へ出かけてくるからな。ラン君もゆっくりしていってくれ」

「ありがとうございます」

俺は士郎さんに言われて礼をした。
今更かもしれないが、この高町一家は俺が両親もおらず、1人暮らしでいるためか、こうしてよく家に居てもいいと言ってくれる。
なのはと知り合った当初はこの家に住まないかと言われた程だ。
もちろん、俺にも事情はあるし、いきなり他人の家に世話になるのも気が引けたから、その提案は断ったが。
ただ、何故か後見人としての提案は説得される内に受け入れてしまい、いつの間にか士郎さんが俺のこの世界での後見人になってしまっている。
俺が5歳の時だったから、あまりの必死さに飲まれてしまったといったところだろうか。
どうも、この一家にはそういう点では頭が上がらなかった。

「今夜も練習?」

「ああ」

「気をつけてね!」

「ああ!さあって、行くか?」

「おう」

「久しぶりだからな〜、びしびし行くぞ!」

そんな会話を続けながら、二人は玄関へと向かっていく。

「あ〜、待って待って!私も見学!」

言って、美由紀が2人を追いかけて行く。

「来るなら早くしろ!」

「うん、ちょっと待って!」

その声の直後、派手な音がした。

「……また美由紀さんドジッたな」

「みたいね」

そう言って、俺はなのはと桃子さんと顔を見合わせ、笑った。

















それから桃子さんとなのはは食器を拭き、片付けを終えた。

「さ、これでおしまいっと」

「うん」

桃子さんが食器棚を閉めながら言うと、なのはも台を下りた。

「さて……それじゃあ大事なお話って、何?」

そう桃子さんが口にする。
俺はなのはを見て、自分から言うように目配せする。
なのはは俺を見てた後、頷いた。

「うん」

なのははそれから話し始めた。
ユーノに出会ってから今日までの事。
俺に手伝ってもらっている事。
なのはは魔法やユーノの正体までは話さなかったが、言える限りの事は全て話していた。
それから、そのために少しなのはが家を空けないといけない事。
俺はそれをなのはの傍から黙って見守っている。

「もしかしたら、危ない事かもしれないんだけど、大切な友達と一緒に始めた事、最後までやり通したいの」

「うん」

桃子さんは目を閉じて静かに頷く。

「心配かけちゃうかもしれないんだけど……」

「それはもういつだって心配よ。お母さんはお母さんだから、なのはの事がすごく心配。もちろん、ラン君もよ」

なのはが俯く。
俺は心配されていた事に苦笑するしかなかったが。

「だけどね」

そこで、なのはが顔を上げる。

「なのはがどっちにするか迷ってるなら危ない事はダメよ!って言うと思うけど。でも、もう決めちゃってるんでしょ?友達と決めた事、最後までやりとおし てって。なのはが会ったその女の子ともう一度話をしてみたいって。……それに、ラン君も一緒に行くんでしょ?」

言われた俺は頷いた。

「ええ、そうですね」

「じゃあ、いってらっしゃい。後悔しないように」

言って、桃子さんはなのはに歩み寄って頭に手を乗せる。

「お父さんとお兄ちゃんは私がちゃんっと説得しといてあげる!」

「うん……ありがとう、お母さん!」

「ラン君、なのはの事お願いね?」

「まかせてください。しっかり守りますから」

「(///)」

俺が笑顔でそう言うと、なのはは赤くなって俯いた。
その様子を見て桃子さんが微笑ましそうに笑う。

「あらあら」

こうして、なのはは桃子さんに少々からかわれたが、なんとかしばらく家を空ける許可を得たのだった。


























その後、俺はなのはが準備している間、外へ出て、手に持ったレイジングハートでアースラへ通信をかけようとする。
ユーノからアースラへ通信をするやり方をあの後教わり、なのはとレイジングハート自身に許可を得てこうしている。
魔力の方はカードのブラックマジシャンから供給してもらっている。

「すまないな、レイジングハート。頼めるか?」

「All right」

レイジングハートから再度了承を得た後、アースラへ通信を繋げる。
すると、程なくしてリンディ艦長がその通信に出た。
レイジングハートから出たモニターに彼女の姿が映る。

「どうも、先刻ぶりですね」

『ええ。それで、何か用かしら?』

「とりあえず、こちらは先刻言った通り、そちらに協力する。条件は守ってもらえるんだろうな?」

『ええ、もちろんよ』

リンディが頷くのを見て、俺は話題を変えた。

「そこで、そちらに聞きたい事があるんだが……」

『何かしら?』

「そっちでは魔法以外の武器はどういう扱いになっているんだ?」

リンディは俺の質問に答えてくれる。

『そうね……。一般的にそちらで言う銃などは質量兵器として分類されているわ。後、使用には基本的に禁止制限がされているわね』

「……そうか。なら、そちらの方で使用許可を取ってくれないか?」

『どういう事かしら?』

「もうそちらで戦闘記録を調べているからわかっていると思うが、俺は基本魔力がないし、使うって言ってもマジック形態の時にしか魔法は使わない。そし て、俺が使う形態の中にはあんた達の言う質量兵器がかなり含まれているものもある。その場合俺の戦力がかなり制限されるから、それをなくすために許可をし てほしい」

俺の言葉にリンディは少々驚いた様子を見せた。
おそらく、最初の戦闘記録を調べたという俺の言葉だろう。
ここまで行動を推測されていた事に、少なからず驚いているようだった。

『……それをしないと、あなたの戦力が下がるのね』

「まあな」

正確にはそれほど低下しない。
例え許可が下りなくても、使うつもりだし、何よりあちら側はPTメモリやドライバーに関する情報がほとんどない。
だから、お咎めを受ける事もほとんどないのだ。
もしあったとしても、後でどうにかすればいい。

『……わかりました。許可しましょう』

『か、母さ…艦長!』

その言葉に隣に居たクロノが反発した。
っていうか親子だったらしい、あの2人。

『協力してもらえるのなら、戦力は大きい方がいいわ。こちらとしても、切り札は温存したいもの。ね、クロノ?』

『……はい』

渋々リンディの言葉にクロノが頷いた。

「まあ、俺にあそこまでやられてる奴が切り札なんだから、たぶん出番はそんなにないと思うけどな」

『な、なんだと!』

俺の釘を刺した発言にクロノが怒る。

『よしなさい、クロノ』

『……!はい、艦長……』

リンディに止められて、クロノが押し止まる。
なるほど。
いいストッパー役じゃないか。

『ただし、拒否権があるからと言っても、命令は極力守ってちょうだい。いいわね?』

「ああ。無茶な命令でもされない限りはな……。じゃあ、後でそちらに合流する」

そう言って、俺は通信を切った。

「ありがとな、レイジングハート」

「You're Welcome」

俺はその言葉に微笑むと、なのはの部屋に戻ってレイジングハートをなのはに返す。
どうやらなのはの準備は俺が交渉している間にできたようだ。
なのはの肩にユーノが乗る。

「行くか!」

「うん!」

そして、家を出た俺達は月明かりの下で走り出した。
これからは今まで以上に危険な事が待ち構えているだろう。
だが、俺はなのはを守り、フェイトをどうにかするだけだ。
それに、これは俺にとって願ったりな事だ。
より危険な状況に身を投じる事が俺の望みの一つでもあるのだから。

















なのははランと共に走りながら思っていた。

(もう後戻りはできない。自分で決めた道。自分が本当にやりたい事!ラン君と一緒なら、きっとできると思うから!)

私も本当にここに戦う理由ができた瞬間だった。






















一方、時の庭園。
そこには、4つの輝くジュエルシードを見つめるプレシア・テスタロッサがいた。

「早く、早くなさい、フェイト。……約束の地が…アルハザードが待っている。私の…私達の救いの地が!」






















あとがき


約20日ぶりの続き、9話でした。
とりあえず、ようやく真の意味で忙しさから解放されました。
いや、嬉しいです。
これで、執筆活動にも熱を入れる事ができます。
まあ、この作品は私のやりたい放題なんで、ぼちぼち続きを書いていこうと思ってます。
とりあえず、目指すはギアスもなのはも完結…ですね。

ようやく入りました、管理局との接触。
楽しみにしていてくれた方もいてくれたようで……どうだったでしょうか?
楽しんでもらえたなら嬉しいです。
そして、ほぼ予告通りやってしまいました。
クロノ執務官フルボッコ……(汗)
いや、ランは決闘邪魔されるの結構嫌いだから、ああいう流れは自然なんですけど……。
しかも、何ていうチートな能力なんだ、アーマードウィング……(滝汗)
当初はそのまま効果を発揮にしようかと思っていたのですが、よく考えればとんでもなくチートな能力でした(汗)
そこで、効果を緩和してとにかくチートではないように、デメリットを付けました。
でないと、これあったらほぼ勝てちゃうので……(汗)
それでなくとも、勝ててしまうのは気のせいでしょうか……。
まあ、あまり気にしないでください。
ちなみにフェイトは撤退時、ちゃんとジュエルシードを持って帰っています。
数は最後のあれで合ってるかは微妙なんですけど……。
間違っていたら教えてください。
修正しますので。
今回は管理局という組織との接触、交渉という事でランの元々大人な部分が全体的に出ていた回でした。
彼、元々は20歳という設定ですから。
これで少しは変化が出てきたと思うので、ここから楽しんでもらえていったらいいと思います。
さて、次回ですが、ランがフェイトのために色々と頑張ります!
そして、ついに表舞台にもゲシュペンスト・ダブルの真の力が登場!
ランが大活躍する次回!
乞うご期待ください。
っていうか、ランが活躍するのは私の意向的に当然なんですけどね(苦笑)

今回はちょっと調子が悪い中あとがきを書いたので、どうもぐだぐだですいません。
いや、いつもこの作品はこれくらいだったかも……。
それと、指摘をしてくれた読者の方ありがとうございます。
まだ試験的に書いているので、わかりにくい部分はすぐには消えないかと思いますが、なるべくそういう部分はなくすようにこれから努力していきますね。
ですので、暖かい目で見守ってくださるとありがたいです。
今回もあとがきの後に設定を載せておきましたので、気になる方は是非見てください。
今回も最後まで見てくださってありがとうございました!
では、また次回で!



















設定(6)


ゲシュペンスト・ジョーカーWithBF−アーマード・ウィング

ゲシュペンスト・ジョーカーにBF−アーマード・ウィングのカードを読み込んで、その力を付加、シンクロした形態。
ゲシュペンスト・ジョーカーにBF−アーマード・ウィングの力が加えられているため、その力はさらにパワーアップしている。
BF−アーマード・ウィングの性質を取り込んでいるため、より戦闘向きな力を持っている。
使用時の外見変化として、背部ウィングがアーマード・ウィングと同様になるのと、周囲を黒羽が舞う事。
効果により、戦闘での破壊はされず、戦闘ダメージもある一定の威力までは無効、それ以上は緩和する事ができる。
ただ、戦闘では破壊される事はないが、使用者本人のダメージが限界を超えると、変身解除後に死に至るので、油断や慢心は禁物である。
今回はクロノ・ハラウオンの行動に腹を立てたランが速攻で倒すために使用した。
マキシマムドライブ使用時の必殺技は「ブラック・ジョーカー・ハリケーン」。



BF−アーマード・ウィング

レベル7/闇属性/鳥獣族・シンクロ/効果/ATK2500/DEF1500

今回ランが使用したカード。
BFシリーズの中の1つで、戦闘では無類の強さを誇ると言ってもいいカード。
効果はほぼそのまま適用され、ゲシュペンストに戦闘破壊無効、戦闘ダメージ緩和の効果を与える。
楔カウンターの効果は、「黒羽の楔」として、攻撃した相手に付加、攻撃者の任意で取り除く事により付けられた相手の攻撃力、防御力を1分間だけ0にすると いう効果となっている。
性格は基本無口。
使用可能形態とメモリはゲシュペンスト・ジョーカー、ゲシュペンスト・サイクロンジョーカーとジョーカーメモリ。



BF(ブラックフェザー)シリーズ使用時の設定

BFシリーズは基本ジョーカーとシンクロ率が高く、ジョーカーの時のみ使用可能。
ただ、サイクロンジョーカーの組み合わせの場合、組み合わせそのものの相性がいいので、この形態の時も使用する事ができる。



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