魔法少女リリカルなのは
                  Accel  Knight


















最終話 Call the name





時の庭園の崩壊が進む中、脱出したなのは達はアースラのブリッジに来た。
ブリッジは状況報告に余念がないようで、慌しい。

「ラン君は!?まだ脱出してないの!?」

「え……?」

リンディがクルーに問う中、その言葉を聞いたなのはは絶句した。
無論、他の皆も同様で言葉を失っている。
そんな中、オペレーターが苦々しく報告する。

「まだ……です。脱出用の転送陣の場所は伝えてあるのですが……クロノ執務官達が脱出した以降転移反応がありません……」

(そんな……!)

まだランが脱出していない。
この事実になのはは居ても立ってもいられなくなり、リンディに声をかける。

「リンディさん、どういう事なんですか!?ラン君はまだあの中に!?」

それでなのは達がブリッジに戻った事に気が付いたリンディは振り返って苦々しく応える。

「ええ……。彼はまだあの中にいるわ……」

「そんな!?なんで助けないんですか!?」

言い募るなのはにリンディは悔しそうな、悲しそうな声で言った。

「それは無理なのよ……。転移魔法の座標はあそこしか出せない。それに時の庭園は崩壊が進んでいる……。助けに行く事は難しいわ。崩壊に巻き込まれる恐れ がある……」

「なら、私が行きます!」

そう言ってなのはが踵を返し、ブリッジを出て行こうとしたが、クロノがその手を掴んでなのはを止めた。

「クロノ君!?離して!」

「ダメだ!さっき艦長も言っただろ!?崩壊に巻き込まれる恐れがあるって!このまま行けば君が庭園の崩壊に巻き込まれる事になる!」

「それじゃあラン君はどうでもいいっていうの!?」

「そうは言ってないだろう!!」

なのはの言葉をクロノはさらに大声で叫んで否定した。
その声になのはは肩をびくりと震わせる。

「彼も僕達の仲間だ。できるなら助けに行きたい。……けど、彼1人のためにまた君や僕達を危険にさらす事はできないんだ」

「でもっ!」

「お願いだ、なのは。わかってほしい。彼のために君や他の人まで失う訳にはいかないんだ」

クロノは先ほどの大声から一転して、なのはに頼み込むように言った。
非常な判断かもしれないが、クロノの判断がここは正しい。
なのは達が脱出する時点でもかなり崩壊が進んでいたのだ。
もし、ランを助けに行けば、その身が今度こそ危険にさらされる事になる。
最悪戻ってこれないかもしれない。
でも、なのはは納得したくなかった。
いつも自分を助けてくれたランを、ここで見捨てる事になってしまうから。

「でも……!」

その時、今まで言葉を発しなかった人が、口を開いた。

「……私は信じる」

口にしたのはフェイトだった。
なのはとクロノの方を向いて呟くように続ける。

「ランは…戻ってくるって約束してくれたから……。だから、私はランを信じて待つよ。……だから」

フェイトの言葉はそこで途切れた。
いつの間にか聞き入っていたなのはは、フェイトの言葉の続きがわかった。

信じて待とうよ。

フェイトはたぶんそう言おうとしたんだと思う。
そうだ。
フェイトも不安なのは間違いない。
だが、フェイトはランの言葉を信じて待つと決めたのだ。
なら、私が、高町なのはがランを信じてやらなくてどうするんだ。

「……わかった。私も待つよ。ラン君が戻ってくるまで」

フェイトの言葉で少し目が覚めたなのは。
彼女はもうじたばたする事をやめ、ランが戻ってくるのを信じて待つ事にする。
もう自分にできるのはそれしかないのだから。



























落ちている。
まさにその表現が今の俺に相応しかった。
虚数空間に落ちた俺は、プレシアやアリシアのポッドと共に、その重力に引かれてただ落ちているだけだった。
仰向けの状態で落ちてきた上の方を見上げている。
だが、もう脱出はできない。
おそらくこの空間は閉鎖空間だ。
落ちたら二度と戻ってこれない。
そんな空間だろう。
その証拠に体を動かそうとしても、重力に引っ張られるばかりでまともに動くには相当の労力を要する。
落ちてきた上の方に上がるなんて不可能だろう。
たとえアクセルアイゼンの推進力を使ったとしてもだ。
それに、俺にはもう脱出する気力はなかった。
崩壊に飲み込まれ、この空間に入った時点で俺は死ぬと直感していた。

「……俺は…死ぬのか…。まあ、こんな死に方も悪くないか……」

あがいてあがいて、最後にみっともなく死ぬ。
ちょっと形は違うが、望みは達成された。
これもいいかと思い、俺は目を閉じる。
だが、その時脳裏にある少女の声と姿が浮かんだ。

『絶対に皆で帰ろうね!』

それは満面の笑顔で俺にそう言ったなのはだった。
この言葉はフェイトとなのはが決戦をする前、朝の合流の後に言われた事。
その場にいたなのはとユーノと俺と、アルフとでした約束。
……なんでだろう。

『約束して!絶対戻ってくるって!』

今度浮かんだのは、フェイト。
プレシアと決着を着けようとした俺にそう叫んだ時の姿。
つい最近まで敵だったのに、フェイトは俺の心配をした。
……なんでだろう。

わからない。
何故今ここで彼女達の声や姿が浮かぶんだ?
敵も殺せないどころか、話し合おうとするとんだ甘ちゃんなのに。
同じように敵なのに、俺の心配をする甘い奴なのに。
まあ、フェイトの事は助けた時の事が影響してるからかもしれないが。
どちらにしろ、あいつらはとんでもない甘い奴らばかりだ。
なのはやフェイトだけでなく他の奴らも。
俺はその甘さが正直大っ嫌いだ。
だけど、俺はいつの間にかその甘さを受け入れ、フェイトを助けたりと自分も甘い事をしている。
そして、そんな奴らといる時が心地いいと感じている俺がいる。

何故だ。
何故なんだ。
俺の望みは達成されたはずだ。
それでいいはずだ。
なのに、なんであいつらの顔が浮かぶ!?
言葉が浮かぶ!?
これでいいはずなのに!
俺の望みが叶う時なのに!

自分の奥底に隠れていた感情を理解できず、困惑する俺にまたあるものが浮かんだ。

『あなたが、フェイトを思ってやれるのなら、私の代わりにあの子を見てあげて。私があの子にしてやれなかった分まで。あの子がいつか1人立ちできるように 』

それはプレシアが最後に言った約束だった。
俺はそれを思い出し、ハッとした。




そうか……俺は………。



まだ…死ねないんだ。






俺はやっと答えを見つけた。
そうだ。
俺はまだ死ねないんだ。
まだ幼いなのはにさらなる悲しみを与えないためにも、フェイトをこれからあの人の代わりに見守るためにも。
自分が経験した過ちを繰り返させないためにも。
よくよく考えれば、これは思った程無様な死に様でもない。
だから、まだ死ねないんだ。

答えを出した俺は目を開けた。
その決意を表すかのように、アクセルアイゼンの眼に光が灯る。
体に再び力が湧いてくる。
俺は一旦、バーニアを使って姿勢制御をする。
そして、近くにいたプレシアとアリシアを見た。
ここを出て行く前にやっておきたい事がある。

俺はバーニアを精一杯噴かせて彼女達の傍に行った。
なんとか彼女達の傍に辿り着いた俺は、プレシアをアリシアのポッドに寄せて抱き寄せるように手を添えさせる。
無論もう彼女に意識はない。
でも、俺は最後にこうさせておきたかった。

「今度は…ちゃんと傍にいてやれよ。行き先がどこへだろうと…な」

アルハザードなんて俺には存在するかはわからない。
そんなところなんてないかもしれない。
ただ、例えさ迷うとしても、もう放さないようにしてあげるのが、この2人の本当のあり方だと思うのだ。
だから、こうした。
意味なんてない。
ただ、俺がこうしておきたかっただけだ。
俺は2人を一瞥した後、彼女達から離れた。
彼女達を連れて行く事はできない。
連れて行く事は彼女の、プレシアの望みではないし、どの道自分1人で精一杯だ。
そして、少し離れた所で立ち止まる。
と言っても、上下左右の方向感覚なんてわからない。
単に落ちてきた方向から推測で動いているだけだ。
つまり、普通に動いて脱出するのはまず不可能。
それに空間が閉じられている可能性も高い。
ならば……。

「分の悪い賭けだが……これしかない」

そう言うと、俺はある物を左手で取り出した。
手に持ったのは、メモリとは違う別の装置。
名をハイパーアクセラレイター。
それを左のベルトに固定して、出ていた角を一度倒した。

【HYPER!】

音声が鳴ると同時にアクセルアイゼンが変化し始めた。
一部装甲が展開し、体の色が普通のレッドからメタリックレッドに変わる。
白の部分もメタリックホワイトカラーに変化する。
そして、変化が終了した時には、ランの変身したアクセルアイゼンの体は輝いていた。

アクセルアイゼン・ハイパー。
それがこの形態時の名称である。
効力は能力全体の進化。
つまり、アクセルアイゼンの時とは一線を画す能力を持ったアクセルアイゼンとなる。

「時空間越えなんてやった事ないが、これしか方法はない。後は、俺次第と運…だな」

俺がこれを使ったのには理由がある。
アクセルアイゼンの最もたる特徴、アクセルシステム。
本来は基本的に機体のスピードや加速力を飛躍的に向上させるシステムだが、ハイパーの時にはその効力そのものが変わる。
ハイパーモードと化したアクセルアイゼンがシステムを使うと、時間移動が可能になる。
簡単に言えば、突然別の場所に一瞬で飛んだりする事もできるし、相手のどんな攻撃もかわす事ができる。
他にも使える用途は色々ある。
俺が目をつけたのはそこだった。
時間移動を行えるのなら、空間を越える事も可能なんじゃないかと。
以前親父が言っていた。
「アクセルはその気になれば、世界を分かつ空間すら飛び越える事ができる」と。
俺はそれを一度もやった事がないし、できた事もなかった。
だが、ここで脱出する手段はこれしかない。
なら、後はやるしかなかった。

「悪いな……ユキ。俺はまだ死ねないみたいだ。そっちに行くのはまだ先になる。……けど、いつか兄ちゃんもそっちに行くから。その時まで待っててく れ……」

俺は最後にそう呟いた。
これだけは言っておきたかった。
ただの自己満足かもしれないが、死ねない立場としてこれだけは言わなければ自身が納得しきれなかったからだった。
そして、俺は左手を構える。

「行くぜ……ハイパーアクセル・オン!」

俺はそう宣言して左手でアクセラレイターを叩いた。
アクセラレイターが反応する。

【HYPER ACCEL ON!】

そして、ランはこの虚数空間から消えた。
残ったプレシアとアリシアはその重力にしたがって落ちて行った。



























そして、事態を見守り、ランの安否を心配していたなのは達に無常にも現実はその結果を示した。
庭園が完全に崩壊し、爆発する。
オペレーターが弱々しい声で報告する。

「庭園崩壊終了……。全て…虚数空間に…飲み込まれました」

「次元震…停止します。断層発生は…ありません……」

「……ラン君は?」

リンディはオペレーターに報告を求めた。
例え最悪の結果でも、なのは達に過酷な現実を強いるとしても、彼女はそれを知る必要があった。

「……転移反応の形跡はありません。…おそらくは…時の庭園と一緒に……」

オペレータが弱々しくそう報告した。
そう、転移してアースラに戻った形跡がない以上、ランは時の庭園と共に虚数空間に飲み込まれた事になる。
その言葉を聞いて、なのはとフェイトはがくりと膝を付いてしまった。

「なのは!」

「フェイト!」

とっさに2人の様子に気づいたユーノとアルフが2人に駆け寄る。
そんななのはは駆け寄ってきたユーノに問う。

「ねぇ……ユーノ君。ラン君は…死んじゃったのかな?」

「……それは」

ユーノはなのはの問いに答えられなかった。
言ってしまえば、この子は壊れてしまいそうで。
そう思わせる程悲しい目をしていて。

「だって…ラン君だよ?あんなに元気で、強かったラン君が死ぬ事なんて…ないよね?」

彼女は、なのはは必死で今の現実を認めようとしないでいる。
だが、ユーノにはそんななのはを見ている事ができなかった。
たとえそれが悲しい現実だったとしても、なのははやはり知らなければならない。

「……ごめん、なのは。ランは…恐らくもう……。虚数空間に飲み込まれたら、誰も助からない。例え、ランでも……」

ユーノは遠回しにだが、なのはに現実を突きつけた。
その言葉を聞いたなのはは一瞬愕然として、その後目に大粒の涙を湛える。

「……そんなの嘘だよ。だって、ラン君は私とユーノ君を手伝ってくれてただけなんだよ?それなのに…何でラン君が死なないといけないの……?」

その言葉にリンディとクロノの心が痛んだ。
そうだ。
何故彼が死ななければならない。
まだ10歳にも満たない子供なのに、まだ将来がある若い子なのに。
どうして、世界はこれほどまでに無慈悲なのだろう。

「なんで……なんで………うわああぁぁぁぁぁぁん!!!」

なんでと繰り返し呟いて、とうとうなのはは泣き出した。
フェイトも同様にアルフの胸で泣いている。
ユーノも、アルフもただそんな2人を受け止めてあげる事しかできなかった。



そんな深く悲しい雰囲気がブリッジを支配して、しばらくした後、ある異変が起きた。
オペレーターの近くにある計器が反応を示したのだ。
気づいたオペレーターが計器を操作し、艦長であるリンディに報告する。

「艦長転移反応です!」

「転移反応!?転移魔法なの!?」

「いえ、転移魔法の反応ではありません!…こんな反応と力は見た事がない!転移先の座標は……!?このアースラのブリッジです!」

オペレーターが転移反応と判断できたのは、転移魔法と似ている部分があったからだ。
それに、転移先の座標まで特定できたのは、その部分にも似ているところがあったからである。
しかし、その転移反応は転移魔法とは異なるものだった。
その証拠に異常なまでのエネルギー反応と転移魔法とは異なる波長を示している。
未知の転移反応にブリッジにいる皆に緊張が走る。
そして、事態が起こった。
皆がいる背後の空間に亀裂が入ったのだ。

『っ!』

咄嗟にみんな身構える。
そんな中、空間に次々とひびが入り、小さく割れ始める。
そして、その中から手が出てきた。
それは人間の手ではなく、機械のロボットのような手。
その手は割れた空間を引き裂くように横に動かされ、次に出たもう一方の手も同じような動作をする。
そして、人一人分の空間が割れ、確保されたところで、転移してきた張本人が出てきた。
まあ、様子からすれば、それは転移と言えるのか怪しいところではあったが。
そして、出てきたのは赤い重厚な姿をしたロボット。
その姿を見た事がない者はその姿にどこかで見たような感じを覚え、見た事のある者はその姿を見て呆然としている。
そして、出てきたその赤いロボットが聞き覚えのある声で呟いた。

「どうやら…なんとかなったみたいだな」
























俺は座標に指定したアースラのブリッジを見てそう呟いた。

【HYPER ACCEL OVER!】

その瞬間、ハイパーアクセルが切れ、背後に生じていた空間の亀裂と穴も消滅した。
ハイパーアクセルは使いこなせれば非常に便利な能力だが、条件がある。
それは、転移先の座標を本人が知っていなければならないという事。
つまり、本人の知らないところには飛べない。
そこで、俺はアースラのブリッジを強くイメージして飛んだのだった。
結果的になんとか虚数空間から脱出する事ができた。
飛んだ直後、自分が生じさせた時流空間の中で先にある光まで必死に手を伸ばしたのが、良かったようだ。
俺の強い意志とこの力がなければ、到底無理だっただろう。
そして、自分の前には呆然としているなのはやフェイト、アルフ、クロノ、ユーノ、クロノ、リンディなど俺の仲間達がいた。
なのはとフェイトに至っては目が赤い。
泣いていたのだろうか。

心配…かけたのかもしれないな。

俺はとりあえず、変身を解く事にした。
フェイトとアルフは見て知っているだろうが、あいにく他の皆はこの姿を見るのは初めてなのだ。
俺はドライバーに挿していたアクセルメモリとアイゼンメモリを引き抜き、変身を解いた。
そして、簡単な敬礼みたいなのを取る。

「北川乱、只今戻りました。任務完了です」

「「ラン(君)!!」」

「うぉ!?」

本当に俺だと判断したなのはとフェイトがいきなり俺に抱きついてきた。
咄嗟の事で俺は2人の勢いを受け止めきれず、尻餅をついてしまう。

「…いてて。なのは、フェイト、おまえら何を……」

そう言ってなのはとフェイトを咎めようとした俺だったが、2人を見てやめた。
2人とも俺に抱きついて泣いている。

「良かった……良かった……ラン君……!」

「…グスッ……ヒック……!」

なのはは繰り返しそう呟き、対するフェイトは何も言わなかったが、2人ともとても俺を心配していたようだ。
俺は帰ってきて良かったと思い、2人に言う。

「約束は…ちゃんと守るさ…。2人共、心配かけてすまなかった」

「…もうこんな思い…させないで……お願い……」

なのはが必死にそう願い出てきた。
それは難しいなと思いつつ俺はなのはに優しく答えた。

「ああ……わかったよ」

そう言って優しく2人の背に手を置いた。
その光景を見て、皆良かったとそれぞれ思った。
ユーノやアルフもそうだが、クロノも少し涙ぐんだ表情でこの光景を見ている。
そして、俺は同じような表情でいたリンディさんにそのままで声をかけた。

「リンディさん、あんたに話がある……」

そう、俺は伝えなければならない。
プレシアの最後を。


























しばらくして、場所が変わり、ここは医務室。
俺はリンディさんに報告を終えた後、ここで治療を受けていた。
怪我は重くはないが、あれだけの戦闘を行ったので、決して軽くはない。
今ユーノが俺の頭に包帯を巻いていた。
なのはは俺の隣に座って俺の治療の様子を見ている。
クロノとエイミィも向かい側のベッドで同じように様子を見ていた。

「あれ?フェイトちゃんは?」

フェイトがいない事に今気づいたのか、なのはが口にする。
その問いにクロノが答えた。

「アルフと一緒に護送室。彼女はこの事件の重要参考人だからね。申し訳ないが、しばらく隔離になる」

「そんな……」

非難の声を挙げようとしたなのはだったが、俺はそれを制した。
クロノは続ける。

「今回の事件は一歩間違えれば、次元断層さえ引き起こしかねなかった、重大な事件なんだ。時空管理局としては、関係者の処遇には慎重にならざるを得ない。 それはわかるね?」

「……うん」

そこで、ユーノが俺の包帯を巻き終わった。

「うん、これでよし。終わったよ、ラン」

「お、サンキュー。…さて、それじゃあさっさと用を果たすとしますか」

そう言って俺は立ち上がると、医務室を出ようとする。

「ラン君、どこ行くの?」

「護送室。フェイトには伝えなければならない事があるしな。あ、それとちゃんと艦長であるリンディさんの許可は取ってあるから」

「じゃあ、私も!」

そう言って付いて行こうとしたなのはだったが、俺は止めた。

「いや、一人で会うって事で許可を得てるからな。なのはには悪いけど、俺1人って事で。それにあまり他人に聞かれたくない」

そう言って、俺は医務室を出て行った。























「「…………」」

フェイトとアルフは暗い護送室でただ俯いていた。
フェイトは膝に両手を置いて、アルフは床で胡坐をしてただじっと下を見つめたままだ。
だが、その時ドアの開く音がした。
2人が音のした先を見ると、そこに立っていたのは管理局員とランだった。

「では、面会は30分までで」

「ありがとうございます」

そう言ってランは護送室の中に入ってきた。

「アンタ……」

「ぁ………」

「随分と辛気臭いな。まぁ、無理もないか……」

「何で、アンタがここに?」

「おまえらに話しておかないといけない事があってな。リンディ艦長に許可をもらった」

そこまで口にして、ランはそういえば今までちゃんと自己紹介してない事に気づいた。
前の時は目的の事を優先していたからちゃんとするのを忘れていたのだ。

「今更な気もするが、ちゃんと自己紹介しておくよ。北川乱、一応民間協力者として管理局に協力していた。ちなみに魔導士じゃない。聞きたい事は?」

確認のため、一応聞いたが、特にないらしい。
2人共ただ俺を見つめるだけだ。
時間制限があるので、さっさと本題に入ろうとすると、アルフが喋ったので、意識をそちらに向ける。

「そういえば…アンタにはちゃんと礼を言ってなかったね」

「礼?」

礼を言われるような事をしたかと疑問に思うラン。

「フェイトを助けてくれたじゃないか」

「…あぁ、そういう事な」

それで俺はアルフの言っている事がわかった。
まあ、助けた事は事実なのだが、別段お礼を言われたいからした訳でもない。
女性には優しく。
これが俺の基本なのだ。

「ありがとう…助かったよ」

「……ありがとう」

だが、俺の心情を知らない2人は俺に礼を言ってくれた。

「……別に礼を言われるような事はしていない。…それに、これからする話を聞いてそんな気持ちすぐ消えるかもしれないしな」

「話……?」

フェイトがオウム返しに肝心な部分を言って来たので、俺は率直に言う事にした。

「フェイトの母さん、プレシアの事についてだ」

それを聞いた2人はハッとなった。
そう、プレシアと最後まで対峙していたのは俺だ。
なら、プレシアがあの後どうなったかも知っている。
そして、今ここにプレシアがいない事にすぐに思い立ったのか、フェイトは悲しそうな顔をして恐る恐る聞いてきた。

「あの…母さんは……」

「ああ……アリシアと一緒に虚数空間に飲み込まれたよ」

俺が正直に言うと、フェイトは俯いた。
すごく悲しそうに。
アルフはそんなフェイトを心配そうに見ている。
ここで慰めるべきなのかもしれないが、あいにく俺にはそんな資格はないし、する気もなかった。
俺はフェイト達が去った後の事を語る。
それはリンディに報告したものと同じ事だった。

「フェイト達があの部屋を脱出した後、俺は彼女と再び対峙し、決着を着けた」

「……どっちが勝ったんだい?」

アルフが聞いてきた。
しかし、それはわかりきった事だった。
俺がこの場にいるのが、その証拠である。

「結果は俺の勝ちだった。だが、その時には既に俺達のいた部屋は完全に崩壊寸前でその後俺とプレシア、アリシアは虚数空間に飲み込まれたんだ」

「「!!」」

その言葉に2人は驚いた。

「よく脱出できたね!?」

「あれに飲み込まれたら二度と帰ってこれないのに……」

ありえない事をした俺に驚く2人を今は無視して、俺は続ける。

「俺には……賭けだったが、脱出できる手段が一つだけあったからな。だが、プレシア達を連れて行く事は叶わなかった。彼女がそれを望まなかった。何より彼 女達を連れて脱出する事は不可能だった」

「どうして……?」

フェイトの問いに俺は話を続けるついでに答える。

「俺の使った脱出手段……ハイパーアクセルって言うんだが、あれは俺個人にしか効果をもたらさないんだ。たとえ、効果があったとしても、時空間移動の際に 体が耐え切れずに消えてしまう。もし、一緒に時空間移動をするなら、それなりの対策と処置がいる。それにこの脱出手段すら確実とはいえなかった。だか ら……結果的に彼女達を置いて俺は脱出した。なんとか上手くいってここ に再びいる事ができてるけどな」

「…………」

「だから、生き残ったのは俺だけ。プレシアとアリシアは虚数空間に残していったから、その後どうなったかまでは俺も知らない。……これが、俺の知るプレシ アの最後だ」

俺が事実を告げると、二人共黙ってしまった。
当然だろう。
特にフェイトは母親を失ったのだ。
その悲しみは計り知れない。
だから、俺は言った。

「俺がプレシアを殺したようなもんだ。だからフェイト。もし、おまえがその事実に耐えられずにいるのなら、俺を恨んでくれ。フェイトにはその権利 があるし、プレシアと戦った俺にはそれを受け止める義務がある」

その言葉にフェイトは驚いた。
無理もない。
もし、母親を失った悲しみに耐えられないのなら、ランを恨んで最悪殺したっていいと言っているのだ。
だが、フェイトはランの頼みを拒絶した。

「そ、そんな事できないよ!ランは私のためにしてくれたんだよ!?それをどうして……!」

続けようとしたフェイトを俺は遮った。

「確かにフェイトのためにした事だ。だけど、俺自身のためにした事でもあるんだ」

「……ランのために…?」

俺は頷いた。

「俺の信念のために。……だから俺を恨んでくれて構わない。俺のエゴでしたのは変わらないんだから」

「…………」

フェイトは俺の言葉で黙ってしまった。
俺はフェイトが答えを出すのをじっと待った。
そして、彼女は自身の決断を口にした。

「……やっぱり、できないよ。ランは私なんかより優しい人だから……こんな私を助けてくれた人だから」

優しい…か。
俺はそんなに優しい人間ではないのに。
むしろ、フェイトの方が優しい人間だろ。

「それは違う。俺は優しくなんかないさ」

俺の言葉にフェイトは首を振った。

「……ううん、優しいよ」

どうやら言い分を変える気はないらしい。
全く、俺は優しい人間ではないというのに。

「……わかった。それなら、俺もフェイトも同じくらい優しい人って事にしといてくれ」

「……うん」

フェイトは俺の言葉に頷いてくれた。
これでいいのかもしれない。
だから、俺は最後に2人に言ってあげた。

「フェイト、アルフ……」

「「………?」」








「お疲れ様、今まで良く頑張ったな」










俺は満面の笑顔でそう言った。
フェイトの頑張った苦痛の日々の終わりを告げる言葉として。
そして、彼女達が今まで頑張ってきた証として。

こうやって本当は一回プレシア自身が言えばよかったのだと思う。
プレシアにはああ言ったが、「愛してる」なんて言わずとも、笑顔とそれだけ言えさえすれば、それだけでフェイトは救われたのだ。
無論、アルフも。

だが、結局それは叶わなかった。
だから、俺はプレシアとの約束を果たすために、まずは最初にこれを行動に移した。

俺にこんな事を言う資格もする資格もない事はわかっている。
だが、言っておきたかった。
彼女達の心がほんの少しでも救われるように。
2人の大きな悲しみを少しでも分かち合えたらと思って。

それが今の俺にできる精一杯だった。

「ぅ……ぐすっ……うあああ…!」

「………っ!」

二人共一瞬だけ呆けてから、その瞳に涙を溜め、それぞれ俺の左右に抱きついて泣き始めた。
俺はそれを優しく受け止める。
まあ、子供なので、受け止めきれてないのもあるが。

「うあああああっ!」

「私……母さんに…生きていて欲しかった……!笑って欲しかった……!」

アルフとフェイトの慟哭がすぐ近くで聞こえる。
結局、傍にいるだけでも良かったのかもしれない。
子供にとって親というものはかけがえのない繋がりなのだから。

俺は心の奥底で思う。
確かにこれでフェイトとアルフは救われたのかもしれない。
そう思いたい。
ただ、失った代償も大きかった。

そうする事でしか前に進めなかったのは理解している。
自分もそうだったから。
だから、せめて、フェイトが自分の意思で再び走っていけるように、俺は彼女達を支えようと思う。
そうしなければ、壊れてしまうから。
だから、俺のできる範囲で支えよう。
約束だから、ではなく、他ならぬ自分の意思で。

これで2人の心はほんの少しだけ軽くなったのかもしれない。

そう俺は信じる、いや、信じたい。




























それから数日後。
色々とあった騒がしい日々は終わりを告げた。
久しぶりに暴れた気分だったが、なんというかあっという間だった気がする。
で、俺達は次元震が治まるまでの間数日、アースラの中で過ごした。
武装局員の治療の際、俺が医療に詳しいと言ったら、付き合わされた。
主に治療は魔法だったが、俺の作業はその後の処置だった。
そんな中で、また一つ俺達に与えられた物があった。
それは表彰状。
簡単に言えば、今回の事件で活躍してくれた証として表彰されたのだ。
まあ、その時なのははガチガチに緊張していて、俺はそれを見て思わず笑ってしまったが。
そして、俺達は今賞状を受け取り、アースラの廊下をクロノと共に歩いていた。
だが、途中でふとなのはが足を止めた。
気づいた俺やクロノ、ユーノが足を止める。

「クロノ君……フェイトちゃんはこれからどうなるの?」

クロノは振り返ったままで答える。

「事情があったとはいえ、彼女が次元干渉犯罪の一端を担っていたのは事実だ」

「………」

その言葉になのははしゅんとする。
クロノは続けた。

「重罪だからね。数十年以上の幽閉が普通なんだが……」

「そんな!!」

「なんだが!」

非難の声を挙げたなのはだったが、クロノが話がまだ途中だという事を強調する。

「状況が特殊だし、彼女が自らの意思で次元犯罪に加担していなかった事もはっきりしている。後は偉い人達にその事実をどう理解させるかなんだけど、その辺 にはちょっと自信がある。心配しなくていいよ」

「クロノ君……」

「何も知らされずに、ただ母親の願いを叶えるために、一生懸命なだけだった子に罪を問う程時空管理局は冷徹な集団じゃないから」

俺はそれを聞いて少しホッとした。

「なのは、良かったな」

「うん!クロノ君って、もしかして凄く優しい?」

「な!」

クロノが一気に赤くなった。
なんつーわかりやすい反応。

「し、執務官として当然の発言だ!私情は別に入ってない!」

「照れてるくせに〜。わかりやすい奴だな〜」

ニヤニヤしながら、俺はクロノを肘で小突く。

「照れてない!」

「ほら、そうやってすぐムキになる〜」

「「アハハハハ!」」

そんな俺とクロノのやり取りを見てなのはとユーノが笑った。
その後、俺達はしばらくクロノをからかって楽しんだ。
























で、所変わって今度は食堂。
あの後、リンディさんに呼び出されてここにいる。

「次元震の余波はもうすぐ治まるわ。ここからなのはさん達の世界になら、明日には戻れると思う」

「!…良かった〜」

呼び出されたのは、今後の予定を話すためだった。
俺を挟んでなのは、ユーノが座っている。

「ただ、ミッドチルダ方面の空間はまだ安定しないの。しばらく時間がかかるみたい」

「そうなんですか……」

「数ヶ月か半年か。安全な航行ができるまで、それくらいはかかりそうね」

「そうですか……」

「ま、仕方ないな。こればっかりは」

ユーノが俺の言葉に頷いた。

「うちの部族は遺跡を探して流浪している人ばっかりですから……急いで帰る必要がないと言えばないんですが……。でも、その間ずっとここにお世話になる訳 にもいかないし……」

ユーノとしてはどうしようもないのだろう。
困った表情のユーノになのはが瞳を輝せて言った。

「じゃあ、うちにいればいいよ!今まで通りに!」

今まで通り……フェレット姿でか(汗)
ユーノも大変だな(苦笑)
元はちゃんとした人間なのに。

「なのは、いいの?」

っていいのかよ。

「うん!ユーノ君さえ良ければ!」

思いっきり笑顔で頷くなのは。
ああ、これはたぶん一緒にいてほしいだけなんだな。

「じゃあ…その…えと…お世話になります」

結局承諾しちゃったよ。

「うん!」

ま、本人がいいならいっか。
俺とリンディさんはそんななのは達を暖かい視線で見ていた。
つーか、俺一応子供なのに…何この立場。
その時、クロノとエイミィが食堂に入ってきた。
ただエイミィの方は物凄く眠そうだ。
2人で何か話している。
すると、今度はリンディが話を振ってきた。

「あの人が目指していたアルハザードって場所。ユーノ君は知ってるわよね?」

「はい、聞いたことがあります。旧暦以前、前世紀に存在していた空間で、今はもう失われた秘術がいくつも眠る土地だって……」

「……なるほどね。今まで正直わからないままだったけど、そんな所だったのか」

とそこで食堂に入ってきていたクロノが話に入る。

「だけど、とっくの昔に次元断層に落ちて滅んだと言われている」

「どうも!」

後ろには昼食を持ったエイミィもいた。
その2人が席に着いた後、リンディが口を開く。

「あらゆる魔法がその究極の姿に辿り着き、その力を持ってすれば叶わぬ望みはないとされたアルハザードの秘術…。時間と空間を遡り、過去さえ書き換える事 が出来る魔法。失われた命をもう一度蘇らせる魔法。彼女はそれを求めたのね?」

これは確認だった。
俺は頷く。

「ああ……。詳細は今まで知らなかったが、十中八九そうだろうな」

「でも、魔法を学ぶ者なら誰もが知ってる。過去を遡る事も死者を蘇らせる事も決してできないって」

「まあ、俺はそれまがいの事ができてしまっている訳だけどな。もちろん前者の方で」

その言葉で全員の視線が俺に集中した。
ハイパーアクセルの概要はこの場の全員に伝えているため、皆が知っている。
クロノがそこで俺に質問してきた。

「君の…そのハイパーアクセルというのは、過去に飛ぶ事ができるのか?」

「……できるな。基本は時間移動の能力だから。だからと言って過去を書き換える事に興味はない。そもそも飛んで過去を書き換える事自体、親父に禁忌とされ ていたしな。俺もずっとそのつもりでいる」

「どうしてそう思うんだ?その気になれば、君はいつだって過去に行けるはずだ。無論、今でも」

そうだ。
その気になれば、俺はいつだって過去に飛べる。
だが、その気はさらさらない。
その気があったなら、ずっと前にそうしている。

「過去っていうのは、そいつが存在した証だ。どんな形にしろ、な。俺はそれを変えるつもりはない。過去を、自分を、そいつを否定するのと一緒になるから な。だから、 力はあっても使用はしないんだよ。それに、俺は全知全能の神じゃない。書き換えるなんて、口にすれば容易いが、そんな難しい事出来やしないんだよ」

「そうね……」

「結局、プレシアがアルハザードへの道を見つけたのはわからないままだが、どっちにしろ過去を書き換えるなんて無理なんだよ」

ちなみにこの件はリンディと既に話をつけている。
結果から言えば、この事は黙っているという事だ。
俺の能力を知れば、管理局の上層部がどう利用してくるかわからない。
時間移動が可能な代物だ。
悪用すれば、それこそとてつもない事が起こる。
管理局ではないにしろ、俺はこの能力を組織に渡すつもりなど毛頭なかった。
リンディも俺の時間移動の能力の本当の恐ろしさを理解していたのか、これには同意してくれた。
もちろん組織としては喉から手が出るほどほしかったのかもしれないが。

そこで、リンディが話を終わらせる事にしたようだ。

「ごめんなさい。食事中に長話になっちゃった。冷めない内にいただきましょう?」

「なのはやランにとっては多分アースラでの最後の食事になるだろうし……」

「う、うん……」

「お別れが寂しいなら素直にそう言えばいいのにな〜。クロノ君の照れ屋さん」

「な!?何を……!」

クロノの態度にニヤニヤとするエイミィと俺。
相変わらずわかりやすい。
こういう時は大抵楽しませてくれる。

「なのはちゃん、ラン君、いつでもここには遊びに来ていいんだからね〜?」

「はい!ありがとうございます!」

「ありがとうございます」

笑顔で言うなのはとニヤニヤ顔で言う俺。
同じ笑顔なのに対照的に見えるのは、おそらくなのはが純粋だからだろう。
クロノのオロオロする様子を見て、からかうエイミィとリンディさん。
俺はそんな風景を存分に楽しみながら、食事を取った。



























そして、明朝。
俺達は元いた世界に帰る事になった。
既に荷物も持っている。

「それじゃあ今回は本当にありがとう」

「協力に感謝する」

なのはがクロノと握手する。
すると、クロノが俺にも握手を求めてきた。
ま、いっか……。
俺もクロノと握手をかわす。
手を放した後、クロノは再び口を開く。

「フェイトの処遇は決まり次第連絡する。大丈夫さ、決して悪いようにはしない」

「……ありがとう」

「……頼む」

そんな中、エイミィは転送装置の調整を行っており、やや離れたところでパネルを叩いている。

「ユーノ君も、帰りたくなったら連絡してね?ゲートを使わせてあげる」

「はい。ありがとうございます」

フェレットになったユーノがなのはの肩でお礼を言う。

「じゃあ、そろそろいいかな?」

どうやら準備が完了したらしい。

「「はーい」」

「いつでもいいですよ」

「それじゃ……」

「うん、またね。クロノ君、エイミィさん、リンディさん!」

「またな」

俺はそれだけ言って、なのはの隣に立って、一度互いに笑い合った。
3人は手を振っていてくれている。
俺達も手を振ってそれに応える。
しばらくして足元の魔法陣が発動し、俺達は転移した。



























そして、俺達は海鳴公園に戻ってきた。
なのはは着いたところで深呼吸した。

「帰るか、なのは、ユーノ」

「「うん!」」

そう言って、俺達は走り出した。
そして、俺はなのはと別れた後、マンションに帰宅し、簡易転移装置に入ってアーク・スマッシャーに入った。
そこで、懐かしい声が出迎えてくれる。

『お帰りなさいませ。マスター』

「ああ、ただいま。エイダ」

俺は再び日常に戻る。
そう、俺にとってはまたいつもの日常だ。
魔法を知ったからと言って、すぐ変わる事はない。



























また平和な日常が戻って数日後の朝。
俺はまだ寝ていたのだが、ベッドの枕元にあった私生活用の携帯の着信音が鳴った。
俺は目を開け、眠いながらもその携帯電話を取り、通話ボタンを押す。

『あ、ラン君!?聞いてほしい事があるの!』

大ボリュームでなのはの声が俺の耳を襲った。
気付けにはちときついぜ……。
思わず離した携帯を元の位置に戻すとなのはと話す。

「で、どしたの?まだ朝早いだろ……」

『実は……』

話を聞いた俺は電話が終わった後で、すぐに支度をしてマンションを出た。


























目指したのは海鳴公園。
あの話でフェイトは本局に移動、それから事情聴取と裁判が行われる。
と言っても、その裁判自体はほぼ無罪が確定するとの事。
だが、それを行うのに結構な時間がかかるので、その前にフェイトに会える事になったのだ。
フェイトもなのはに会いたがっているらしい。
で、何故俺も行くのかというと、どうやらフェイトは俺にも会いたがっているとの事だった。
だから、こうして海鳴公園を目指している。

そして、程なくして海鳴公園に着いた。
既になのはとユーノは着いていたようだ。
なのはが俺が公園に着いた事に気づく。

「あ、ラン君だ!ラン君〜!こっちだよ〜!」

なのはが手を振っているのが見えた。
傍にはフェイトやアルフ、クロノもいる。
俺は走ってみんなの所に着いた。

「悪い。少し遅かったか?」

「ううん。私も今着いたところだから」

「そっか」

どうやら遅れてなくて良かった。
すると、クロノが話しかけてくる。

「あまり時間はないが、しばらく話すといい。僕達は向こうにいるから」

「ありがとう」

「ありがとう……」

なのはとフェイトは気を遣ってくれたクロノに礼を言った。
俺は言わなかったが、クロノ達は気にせずに離れて行った。






















俺達は橋の上で3人で海を眺めていた。

「なんだか話したい事いっぱいあったのに、変だね。フェイトちゃんの顔見たら忘れちゃった」

なのはが苦笑しながら、言う。
すると、フェイトも同意した。

「私は…そうだね。私も上手く言葉にできない」

はは……ま、そんなもんかもしれないな。
俺は単純に何も考えてないからだが。

「だけど、嬉しかった」

「え?」

「真っ直ぐ向き合ってくれて」

なのはとフェイトが再び向き合う。

「うん、友達になれたらいいなって思ったの」

そう言って微笑むなのは。
だが、すぐに寂しそうな顔になる。

「でも、今日はこれから出かけちゃうんだよね……」

「そうだね。少し長い旅になる……」

「また会えるんだよね?」

なのはが不安そうな顔で問う。
だが、フェイトは微笑んで頷いた。

「少し悲しいけど、やっとホントの自分を始められるから」

俺はその言葉に微笑んだ。
なのはも嬉しそうにする。

「来てもらったのは、返事をするため」

「え?」

なのははキョトンとするが、フェイトは顔を赤くしながらも続ける。

「君が言ってくれた言葉、友達になりたいって」

「うん、うん!」

なのはは嬉しそうに頷く。

「私に出来るなら、私で良いならって。だけど、私どうしていいかわからない。だから教えてほしいんだ。どうしたら友達になれるのか」

俺はそこで微笑んで、言った。

「んなの簡単だよ」

「え?」

フェイトが振り向く。
俺はなのはを手招きして呼ぶ。

「なのは」

「?」

近づいてきたなのはに俺は耳打ちすると、なのはは頷いた。
一旦顔を見合わせて、2人でフェイトの方を向く。

「そうだよ。友達になるの、すごく簡単」

俺となのははタイミングを合わせて。

「「名前を呼んで」」

2人で微笑んだ。

「まずはそれから」

「君とかあなたとかそういうのじゃなくて」

「ちゃんと相手の目を見て、はっきり相手の名前を呼べばいい」

誰でもまずはそれからだ。
小難しい事は何一ついらない。

「私、高町なのは。なのはだよ!」

「なのは……」

小さい声でなのはをフェイトが言う。

「もう一回自己紹介する事になるが、俺は北川乱。ランって呼んでくれ」

「ラン……」

今度は俺の名前を呼んでくれた。

「なのは……」

「うん」

「なのは……!」

「うん!」

噛み締めるようになのはの名を呼び、なのはは満面の笑みで頷く。

「ラン……」

「ああ……」

「ラン……!」

「そうだ」

ニカっと笑う俺。
しっかりと呼んでくれた。

「ありがとう、なのは、ラン……」

なのははフェイトの手を両手で握る。

「なのは……」

「うん!」

なのははいつの間にか涙を流している。
俺はそれほどでもないが、ちょっと感動している。

「君の手は暖かいね。なのは」

ついになのはは泣いてしまった。
静かに泣いている。
こういうところも変わっていない。

「少しわかった事がある。友達が泣いていると、同じように自分も悲しいんだ」

「!…フェイトちゃん!」

ついになのははフェイトに抱きついた。

「ありがとう、なのは。今は離れてしまうけど、きっとまた会える。そうしたら、また君の名前を呼んでもいい?」

「うん!うん!」

抱きつきながら何度も頷くなのは。

「ランも…いいかな?」

「ああ、いいぜ。約束だ」

俺も頷いた。

「会いたくなったらきっと名前を呼ぶ」

そこでなのはが顔を上げた。
フェイトが俺達を見つめる。

「だから、なのはとランも私を呼んで。2人に困った事があったら、今度はきっと私が2人を助けるから」

フェイトの言葉に泣きながらなのははまた抱きついて、俺も2人の近くに行くと、二人の肩に手を置いた。
この繋がりがずっと続けばいいと思いながら。























離れて座って見ていたクロノ、アルフ、ユーノだったが、アルフが3人の様子を見てふと口を開く。

「あんたとこの子はさ……」

話しかけたアルフは泣いていた。

「なのは…ほんとに良い子だね。フェイトが…あんなに笑ってるよ……」

ただ、その声音は嬉しそうな響きを含んでいた。
それを見ていたクロノはすっと立ち上がると3人に近づいていく。






















「時間だ。そろそろいいか?」

クロノが声をかけてきたので、俺達は一旦少し離れる。

「うん」

フェイトはクロノの言葉に頷いた。

「フェイトちゃん!」

そんななのはの肩に俺は手をかける。
そして、振り向いた彼女に少し首を振った。
そう、これ以上はフェイトのためにならない。
なのははその事がわかると、髪を結っていたリボンを外す。
そして、差し出した。

「思い出にできる物、こんなのしかないんだけど……」

「じゃあ、私も……」

そう言って、フェイトも左の方の髪を結っていたリボンをはずすとなのはに差し出す。
2人はそれを交換した。

「ありがとう、なのは」

「うん!フェイトちゃん」

リボンを交換したフェイトは俺に体を向けた。
俺は特に渡す物すらなかったからどうしようかと思ったのだが、フェイトがいきなり名刺サイズの紙と携帯を渡してきた。
それには見覚えがあった。

「これ……」

「前にランが私にくれたSOS番号と携帯電話。たぶん私にはもういらないから。だから、返そうと思ってここに来てもらったんだ」

そうか、そういう事か。
なら、答えは決まってる。

「返す必要はねぇよ。フェイトが持っててくれ」

「え、でも……」

「それは俺がフェイトに渡した物で、まだフェイトは一度も使ってない。それにさっき言っただろ?困った事があったら、今度は私が助けるって。なら、俺も同 じだ。また困った事があったら、俺が助ける。その時にそれを使ってくれ。まだ番号は生きてるから」

「………」

「それに、さ。俺渡せるような物持ってきてないんだ。だから、それを思い出代わりにして持っててくれよ」

ばつが悪そうに俺はそう言うと、フェイトも俺の心情に気が付いたのか、苦笑した。

「わかった。じゃあ、大事に持っておくね」

「ああ」

そして、なのはとフェイトはまた向き合う。

「じゃあ、きっと、また」

「うん、きっと、また」

そう言って互いに頷き合った。
すると、後ろから来たアルフがなのはの肩にユーノを乗せた。

「ありがとう。アルフさんも元気でね」

「ああ。色々ありがとね、なのは、ユーノ、ラン」

「それじゃ僕も」

それで俺達はまた振り返る。

「クロノ君も、またね」

「ああ」

そして、別れのときが来た。
クロノ、フェイト、アルフの足元に転移魔法陣が浮かぶ。

「バイバイ、またね……クロノ君、アルフさん、フェイトちゃん!」

フェイトが小さく手を振り、俺達もそれに応えて手を振る。
そして、辺りは光に包まれ、目を開けた時にはフェイト達は消えていた。

「なのは、帰ろうか」

俺は後ろから声をかける。

「うん!」

なのはは笑顔で振り返って応えた。
それはとてもいい笑顔だった。
そして、俺達は今度こそ闘争の日常を終え、平和な日常へと戻って行った。




























あとがき


皆さん、こんにちは、こんばんわ。
最近いきなり暑くなってきていますが、いかがお過ごしでしょうか?
暑がりの私にとっては段階飛びすぎだろ!と唸ってばかりです。
さて、去年の12月から連載し、扉絵まで書いて頂いたこの作品ですが、ついに今回で完結です!!!
今まで読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました。
こうして終わる事ができたのも、見てくださっていた読者の方々のおかげです。

という訳で、今回は最後という事でそれなりにきちっとした解説を。
今回、ランは無事に帰還しました!
時空間移動なんて、なんてチート能力!
前回の発言が一発で撤回されましたね。
まあ、ぶっちゃけ仮面○イダー○ブトみたいにしてみたくてこうしたんですけどね。
時空間移動の際に空間バリバリ引き剥がしてるのに、次元震が起きないのは意外にもちゃんと安定しているからです。
他にもランの過去や戦う意味が結構見えたと思います。
それが後にも関わってくるので、チェックしておいた方がいいかもしれません。
フェイトに渡したあれももしかしたら……。
なんて事があるので。

完結に至ったので、話しますが、この作品を作った理由は意外と単純だったりします。
スパロボとなのはでコラボしてみよう!と思っただけで始めちゃったりしてます。
加えてWにも嵌っていたので、その要素も加えてみてはどうかと。
それで、この作品が出来上がったという訳です。
PT向けに考えるのがそれなりに大変でした。
それが、グダグダながらもここまで発展、続けられたのは良かったと思っています。
リリカルなのは自体はほとんど見ていないに等しかったので、ある意味初めての試みとなりましたが、今では無事できてよかったと思っています。

さて、次回作はタイトルも主人公の立場も一新!という事で、また別の部屋を作って連載したいと思います。
舞台はもちろんA'sです。
まだまだ明らかになっていないランの事や新しい力も登場します!
触りな次回予告はこのあとがきの後にある設定のさらに後のおまけとして書いているので、気になる方は是非読んでくださいね!
慣れない物だったので、上手くできてないかと思いますが(汗)
完結まで応援してくださった読者の方々本当にありがとうございました。
本編はこれで完結です。
また次回作でお会いしましょう!
本当にありがとうございました。
















設定(last)


ハイパーアクセラレイター

アクセルアイゼンの性能を一段階進化させるための装置。
形状はアクセルアイゼンの頭部を平たくして薄い四角の装置にしたようなもの。
GドライバーVer.Aから出るベルトの左側にあるアタッチメントに装着、発動スイッチでもある角(ホーン)を倒す事で使用できる。
あくまで性能を段階的に進化させるもののため、武装などの強化はされない。
最も特徴的な物として、時空間移動が可能なハイパーアクセルシステムが使用可能になる事。
ランは時間移動しかできないと思っていたが、実は空間を越える事も可能であり、その事を父親は意図的に知らせなかったと考えられる。
ただし、いずれランが使う時のためにほのめかすような言葉は言っていた。


アクセルアイゼン・ハイパー

ハイパーアクセラレイターによって進化したアクセルアイゼン。
その力は全て一段階進化しており、武装に変化はないものの、出力、スピード、装甲などの全ての面において、アクセルアイゼンとは一線を画す存在となってい る。
この形態時には、機体色が全てメタリックカラーになる。
それだけでなく、時空間移動が可能なハイパーアクセルが使用でき、移動に関しては速さを司る「アクセル」の1つの究極を体現したものといえる。
今回は、虚数空間から脱出するためにランが使用。
博打要素が大きかったが、見事に時空間越えに成功。
この時初めてランは、ハイパーアクセルを使いこなす事ができた。
マキシマムの必殺技はパワー、スピードにもちろん飛躍はあるものの、名前には変化なし。
「名前にハイパーを付ければいいってもんじゃないだろう」というのが使用者本人談。















おまけ 次回作予告


これはPTから派生させたメモリという力を持つ少年の戦いの物語。

「俺、北川乱。ランって呼んでくれ」

「私は八神はやて言います」

それは偶然の出会い。

「貴様は何者だ?」

そして、闇の書の守護騎士であるヴォルケンリッターとの出会い。
新たな家族との生活。

「これは……」

しかし、以前からアーク・スマッシャーに入れられていたデータでランはある真実を知ってしまう。

「……俺も蒐集に参加する」

そして、ランは裏切り者の汚名を着る覚悟で大切となった者達のために戦う事を決意する。

「どうして…ランが……」

「それは俺があいつらと行動を共にしているからだ。フェイト」

望まぬ再会を経て対峙するかつての味方であり、友達。
そんなかつての仲間から蒐集をするラン。
果たしてランの行く道の先にあるものは……?
そして、ランははやてを救う事ができるのか?

魔法少女リリカルなのはA's Accel Rebellion

次回……更新


「さあ、ラストショウダウンだ!!」


異世界の戦士が闇と悲しみの運命を振り切るため、再び剣を取る!!





押して頂けると作者の励みになりますm(__)m

<<前話 目次

作家さんの感想は感想掲示板にどうぞ♪

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.