魔法少女リリカルなのは
                  Accel  Knight


















外伝・過去編 気がすすまない勝負(VS御神編)





これはランが小さくなって、小学2年生。
なのはと知り合って3年程過ぎ、日常で起こったある出来事のお話である。










「……何でこんな事になってるんだろ」

開口一番俺はこう言うしかなかった。
今の自分の状況。
目の前に少々瞳に危険な光を宿らせた高町なのはの兄にして、重度のシスコンである高町恭也。
その手には小太刀程の長さの木刀。
そして、俺も何故か手には日本刀サイズの木刀。
で、俺と恭也さんは何故か向き合っていかにも一触触発な雰囲気。
まあその空気は恭也さんだけであるが。
俺本人は正直やる気はない。
そして、周囲には……。

「頑張ってね〜!ラン君!」

「しっかりやんなさいよ!」

ギャラリーであるなのはとアリサに応援されていた。
すずかに至っては事情がわかっているのか苦笑いを浮かべるばかり。
加えているのが高町美由紀さん、高町桃子さんと審判役としている高町士郎さん。
士郎さんはまあいいだろう。
しかし。

(道場にちゃぶ台まで持ってきて菓子食いながら観戦って随分と楽しそうですね!?)

思わずなのは達の光景を見て、内心突っ込んでしまう。
そして、なのはの応援に触発されたように恭也さんの殺気が上がる。

「……何でこうなったんだ?」

完全に本人の意思とは関係なく進む事態に、俺は思わず同じような事を呟いてしまった。
……もう一度最初から振り返ってみよう。


























〜回想〜


俺、北川乱はこの世界に来てから体が縮んでしまったので、精神年齢とは関係なく、身体年齢に応じたライフを過ごしている。
今の俺は小学2年生。
つまり、小学2年生ライフだ。
ちなみに小学校はなのはと同じ聖祥であり、去年には一騒動あったが、和解してアリサ・バニングスと月村すずかという友達もできた。
そして、今は休日で4人揃って翠屋に来たところである。
だが、そこで事態が起きた。
それは、俺がなのは達と席で楽しくお喋りをしている時だった。

「ラン!いい加減なのはとはどういう関係なのか、教えてもらうぞ!」

いきなり恭也さんが俺の傍までやってきて、そう言ってきたのだった。
実はなのはと友達になって以来、こうして恭也には何かを目を付けられる事が多かった。
これは経験談だからよくわかることだが、恭也はシスコンなのだ。
何故わかるかって?
それは昔俺もシスコンと言える部類にいたからだ。
まあ、俺の事は置いておくとして。
ともかく、友達になって以来何かとなのはと親しくしている俺に恭也は毎度の事ながら俺に迫ってきているのだ。
いつもなら適当にあしらって、俺が逃げるか、桃子さんが制裁して終了なのだが、今回は恭也の気迫が違った。
今回は逃がさないと言わんばかりの覇気が滲み出ている。

「いや、関係も何も……。俺はなのはの友達なだけですよ?別に恭也さんの思っているような特別な関係ではありません」

「……本当にそうか?」

「そうですよ。なのはとはただの友達です」

怪しむ恭也に俺はしれっと答えた。
しかし、今回はその答え方が悪かった。

「……ラン君、私ってラン君にとってただの友達…なの?」

「……はい?」

いつの間にか反対側の隣にいたなのはがうるうるとした瞳で俺を見ていた。
しかもわざと俺より体を低くして上目遣い。

(……可愛いすぎる!!)

なのはの仕草にズキューン!ときたのは置いておいて、とりあえずなのはの言ってる意味が要領を得ないので、聞く事にする。

「いや、だってなのはは俺の友達だろ?」

「うん。……でも、それだけ?」

「いや、それだけって言われてもな……」

俺はなのはの問いに困った。
ぶっちゃけなのはは俺の「ただの友達」発言が気に入らないんだろうが、俺はそうとしか思っていない。
つまり、付け加えようがないのだ。
しかし、このままではなのはの瞳に溜まっている雫がいつ流れるかわかったもんじゃないので、言い方が足りなかったかと考え、付け加える事にする。

「すまない。言い方が足りなかったな。なのはとは親しい間柄っていうのが抜けてたな。いや、ホントすまない」

「……!そうだよね!ラン君と私ってそういう関係だよね!」

なのはの嬉しそうな言葉に俺はうんうんとその場のノリで頷いていたが、それが良くなかった。
今度は背後からさらにどす黒くなった気迫を感じ、ぎぎぎと機械のような仕草で後ろを見る。
そこには、鬼にも見えなくもない恭也が立っていた。

「そうか……。なのはとは“親しい間柄”なのか。これは、一度なのはにふさわしいか見る必要があるな」

そう言って俺の襟首を掴む恭也さん。
ちょっと待って!
凄い力なんですけど!?

「いや、何でそうなるんですか!?ってか放して!」

そう言うが、恭也は放してくれず、俺はずるずると道場のある方角へと引きずられて行く。
そして、俺の視線の先では。

「ラン君、頑張ってね!」

いや、何を頑張るんですかなのはさん!

「まあ、頑張りなさいよ。骨くらいは拾ってあげるわ」

ってアリサは何もう人が死ぬ前提で言ってるんですか!?
俺死ぬ事決定ですか!?
いや、死亡フラグが立っているのは何となくわかるが……。

「あはは……(汗)頑張ってね」

すずか、苦笑いするくらいなら助けてくれ。
とこういう感じで俺は道場まで引き摺られ、恭也さんと勝負する事になってしまったのだ。

























こうして、回想が終わり、改めて俺は現在の状況を認識した。
しかし、どうも納得しきれない。
理不尽すぎる。
しかも、観戦のためにお店閉めちゃってるし、桃子さん。
何でも、

「将来なのはのお婿さんになるなら、しっかり見ておかないとね♪」

と言ってたらしい。
って随分楽しそうですね!?
そんな現在の状況に半ば理不尽すら感じてボケーっとしている俺に士郎さんが確認してきた。

「では、勝負は互いのどちらかが倒れた時点もしくは私が止めれば決着。それでいいね?」

……仕方ない。
そろそろ意識を切り替えよう。
さすがにこのままの意識で負けるって訳にもいくまい。
とりあえず、俺は意識を戦闘モードにして頷く。

「ああ、いつでもいい」

「俺もそれで構いません」

恭也もそれでOKなようだ。
そして、恭也は木刀を構える。
俺は無形の位のまま。

「……やる気があるのか?君は」

俺の態度に苛立たしげに言う恭也。
しかし、やる気はそれなりに持たせた。
結構無理やり。

「ああ。ちゃんとあるぜ。いいからかかってこいよ」

挑発を込めて言うと、恭也の額に青筋が立つ。
挑発成功。

「なら、こちらからいかせてもらう!」

「始め!」

士郎の合図と共に恭也がかなりの速さで飛び出してきた。
常人なら目に追えるかどうかすら怪しい程のスピード。
しかし、俺はしっかりと捉えていた。
袈裟懸けに振るわれた木刀を半身をそらしてかわす。

「!」

恭也は俺の行動に一瞬驚いたが、すかさずに追撃をかけてくる。
俺は振るわれた木刀を木刀で受け止める。
そして、一旦弾いた木刀がまた振るわれたので、再度回避。
俺はしばらく恭也の行動パターンと腕を見るため、防御と回避に専念する事にした。
























えと、高町なのはです。
今お兄ちゃんとラン君が稽古をしているところを見てるんですけど……。

(二人共速すぎなの〜!!)

正直目で追うのがやっとなの!
二人共速すぎ!!
私の目には凄い速度で動く二人が映っていました。


極度の運動音痴であるなのはだったが、血筋なのか意外と2人の動きをかろうじて目で追えていた。
一方、アリサは。


(ちょっと何なのあの2人!?本当に人間!?)

私は恭也さんとランの試合を見てるんだけど。
2人共速すぎでしょ!
動きが見えなくて、何してるかわからないじゃない!
ホント、ランって何者?


常人であるアリサは2人の動きが全く見えていなかった。
まあ、これが普通である。
一方、すずかは……。

(凄い……。ラン君。恭也さんの動きを先読みして動いてる……)

ラン君の身のこなしの速さに私は驚いています。
確かにラン君は体育の成績も良かったけど、正直ここまでとは思いませんでした。
人間かと疑いたくなるくらい。
……彼が私の正体を知ったらどう思うのかな?


なんと大人しいすずか嬢が一番2人の動きが見えていた。
なんというか、さすがである。
その他高町家の反応は……。

(凄い……。お兄ちゃんの動きについていってる……)

(恭也もだが、ラン君も速い。それにまるで実戦慣れしたような動きと反応。今までは鍛えられていた事はかろうじてわかっていたが、一体彼は何者なんだ?と ても8歳とは思えないぞ)

(これは将来有望かもね〜)

美由紀と士郎はランの動きに驚き、桃子は将来なのはのお婿さん的な意味で期待していた。
……桃子さん、見る点が違います。


そんな中、ランは恭也の動きをかわし続ける。

























俺はあれから少しの間、恭也の攻撃をかわし続けている。
恭也のスピードはかなり速い。
常人ならあっという間に終わりだ。
しかし、俺にとってこの程度のスピードは脅威ではない。

「くっ!ちょこまかと!」

俺に攻撃を当てられない事に毒づく恭也。
そろそろいいだろう。

「それはあんたと俺のスピードに差がないからだ」

言って、俺は後ろに飛んで間合いを取る。

「だが、そろそろ飽きた。今度は俺から行かせてもらう」

言うと、俺は地面を蹴って恭也に急接近。

「なっ!」

俺の突撃スピードに驚く恭也。
しかし、俺の横薙ぎに振るった木刀をしっかりとガードする。
だが、そんなものは想定済み。
木刀を持っている恭也の手を掴むと、それを支えにして回転蹴りを叩き込む。

「ぐっ!」

一瞬身を退いた事で、胴体に攻撃が逸れたが、衝撃で後ずさる恭也。
この隙を見逃す手はない。

「一気にいくぜ。倒れるなよ」

言って、俺は恭也に神速の連撃を仕掛ける。
恭也のように洗練された物はないが、無造作で無作法なため柔軟。
そんな木刀の連撃が恭也を襲う。

「くっ!ちぃ!」

それを恭也は木刀で何とか防いでいく。
喰らわないのはさすが御神流の師範代といったところ。
ひとしきり連撃を続けた後で、俺は最後の一撃を恭也に加える。
恭也はそれを何とか防ぎ、俺から間合いを取る。

「凄い……。恭也君を押してる……」

美由紀さんの呟きが聞こえた。
どうやら俺が恭也を押している事に驚いているらしい。
士郎さんと桃子さん以外は皆そのようだった。
すると、恭也が立ち、構える。

「…やるな。正直、君が鍛えられて覇気もあるのは薄々感じていたが、ここまで強いとは思わなかった」

「……そうか」

「とても8歳とは思えない程だ」

すると、恭也は木刀を腰の辺りに持って行き、構える。

「俺も、ここからは全力で相手しよう」

その構えに俺は見覚えがあった。

「あれって…抜刀術!?」

「恭也、まさかあれを!?」

美由紀さんと士郎さんが恭也の構えに驚きを見せる。
それ程の技なのだろうか。

「ねぇ、抜刀術って?」

抜刀術という言葉を知らないなのはが美由紀に聞く。
アリサとすずかも同様のようだ。

「抜刀術っていうのはね。本来は刀剣の刃を鞘内で走らせ抜き放つ事で剣速を2倍、3倍に加速させて、相手に攻撃の間を与えずに切り伏せる一撃必殺の技な の。居合、もしくは抜きとも言うわ」

「……凄いんですね」

アリサの言葉に美由紀は頷いた。

「恭也君は達人だから、鞘がなくてもそれができるの。ただ、抜刀術は一撃必殺のために放った後は完全な無防備となってしまうの。だから、使う人にとっては 諸刃の危険技でもあり、とっておきなんだ」

説明をし終えて、美由紀は視線を恭也とランに戻す。

(しかも、あの構え。恭也君は……たぶん虎切を使うつもり……)

美由紀はそう考えながら、ランに視線を移す。

(ラン君、大丈夫かな……?)

すると、ランも行動を起こした。
木刀を自分の手前に横にして掲げる。

「なら、俺も……」

言って、ランも木刀を持ち、体をやや捻って木刀を構えた。
その行動に皆が驚く。

「え!?」

「まさか!?」

「ラン君も抜刀術!?」

形は違えど、皆にはそれが抜刀術だとわかった。
恭也は腰近くで溜めているが、ランは腰から放しての構え。
構えに差はあれど、基本は一緒だから判別はついた。

「少し変わった構えだな」

「ま、ある人から教わったやつだからな」

言って、両者は構えたまま静止。
いつでも出せる時を窺う。
そして、少しの時が経った瞬間、誰かが落とした汗が床に着いた時、2人が同時に飛び出した。
持っていた木刀を神速のごとき速度で振るう。

“虎切”

“抜閃”(スラッシュ・ドロウ)


ガキィン!!!


2人の出した抜刀術が空間を挟んで交差、激突し、両者振り切った状態で床を滑って離れた。
ランは振り切ったまま屈んで、恭也は刀をやや下ろして立っている。
しんと周囲が静まり返る。
しかし、そこでランが立ち上がった。

「威力もスピードも互角か」

「そうみたいだな。まさか虎切と互角の威力を出されるとは思っていなかった」

「こっちも驚いたぜ。まさか、小太刀なのに射程が長いとはな。目測だけに頼ってたら吹っ飛ばされるところだった」

真剣なら間違いなく切り飛ばされていただろう。
そんな思考に一筋の冷や汗が俺の頬を伝う。

(しかし、やっぱ8歳の体だな。思ったよりも力が出せてない。やっぱ幼いゆえの限界があるな)

自分の体が思ったよりも、動いていない事にランはそう評価すると、また木刀を構える。
恭也も再び木刀を構えた。

「だが、これで終わりにする」

瞬間、恭也は“神速”を発動。
恭也の視界が一気にスローモーション、モノクロになる。
そのまま突撃し、やや低い体勢で一気にランの懐に飛び込み、横薙ぎに一閃。
ランの胴体にその一撃が吸い込まれた。

(これで終わり……)

恭也が自分の最大限の一撃が決まった事に気を抜いたその瞬間だった。

「痛えじゃねえか……」

「何!?」

ランの毒づきに恭也が驚いてランを見ると、木刀は振り切れていなかった。
なんと、ランが持ち前の気合で踏ん張って耐えたのである。
そして、驚く恭也の木刀を持つ腕ごと掴む。

「これで逃げられないぜ……」

(くっ!子供なのになんて力だ!)

恭也はランの手を引き剥がそうと腕を引こうとしたが、全く動かない事に驚く。
これが子供の腕力と握力かと。
そして、ランは空いた左手で握りこぶしを作って恭也の胸部の前に添える。

「手加減はするが、死ぬなよ?」

そう言った瞬間、恭也に激痛が走った。

「“二重の衝撃”(デュアル・ショック)」

その言葉を聞いた恭也は自らの体を突き抜けた痛みとともに意識を手放した。

























「そ、そこまで!」

恭也が気絶したところで、士郎がようやく試合を止めた。
そして、恭也に駆け寄る。

「恭也、大丈夫か!?」

すると、打ち込まれたわき腹を抑えたランが士郎に説明した。

「大丈夫だろ。単に気絶してるだけだ。まあ、しばらくは起きないだろうけど」

すると、美由紀が近寄ってきてランに問う。

「最後の一撃、あれ何をしたの?」

「拳が体に接触した瞬間の衝撃を刹那の間にもう一撃加える事でその衝撃をそのまま伝導させた」

「「「???」」」

その言葉を理解できなかったのか、なのは達は頭の上に?を浮かべまくる。
だが、美由紀や士郎はそれで理解できたのか、驚く。

「えぇ!?」

「それじゃあ、君は一切の抵抗なしに恭也に一撃を加えたってことかい?」

ランは頷いた。
つまり、こういう事だ。
本来、物体に攻撃するときは接触時に抵抗というものが発生する。
それはいわゆる加える力に対する瞬時の反発のようなものだ。
加える対象によってその大きさは異なってくるが、それは必ず存在する。
ランはその反発が生じる刹那の瞬間に、もう一撃加える事でその抵抗を無視したのだ。
つまり、本来恭也の鍛えられた肉体にある程度軽減されるはずだった一撃がその筋肉の壁を素通りしたのだ。
そのため、拳と体との距離がほとんど離れていなかったあの状況でも威力は絶大なものとなった。

「ああ。それゆえにこの技は一撃必倒だからな。これ以上やるのも、負けるのも嫌だから使わせてもらった」

それで、士郎の目が鋭くなる。

「もし、気絶ぐらいで済まなかったらどうするつもりだったんだい?」

それは案に恭也が死んでいたかもしれないという事を示している。
しかし、ランは士郎の目には一切怯えずに淡々と答えた。

「手加減はした。それに、お互い様だろ。俺の肋骨も今のでヒビは入っただろうからな。ま、俺が頑丈だからそれで済んだだけだが……」

(……本来なら木刀どころか普通の剣も効かないんだがな。やっぱ体が出来上がってない…か。俺もまだまだ未熟だな)

言いながらわき腹に触れると、痛みが走る。

「痛って……」

「そうだな。とにかく、今は恭也とラン君の手当てをしよう。桃子、救急セットと2人が寝られる場所、頼めるかい?」

「ええ。まかせて」

こうして、ランと恭也のひょんな事から生じた戦いはランの勝利で幕を閉じた。
その後、ランが3人に問い詰められたのは当たり前の事であろう。
もちろん、本人は適当にはぐらかしたが。























そして、その夜。
俺はまたも理解できない状況に見舞われていた。

「なぁ、なんで俺なのはの部屋にいて、一緒に寝てんの?」

そう、恭也が怪我を負わせてしまったという事で、今夜は高町家でお世話になる事になったのだ。
既に治療もしてもらって、夕飯も頂き、後は寝るというところで問題が起きた。
なのはが一緒に寝ようと言い出したのだ。
俺は怪我もしてるので断ろうとしたが、何故か桃子さんが「あらあら、じゃあそうしなさい」と言ってなのはを後押しするもんだから、結局なのはのベッドで隣 同士で寝るというはめになってしまった。
で、現在俺の目の前にはなのはがいて、こっちを見つめている。

「……嫌、だったかな?」

「いや、別に嫌って訳じゃないんだけど……」

もう少し節度を持って欲しい。
そう思う俺だった。
しかし、悲しそうな顔で言われたら断る事ができないのも俺である。

「ラン君……」

「ん?」

すると、なのはが再び声をかけてきたので、俺は再び意識をなのはの方に向ける。

「お兄ちゃんとは、その…あれからどうなったの?」

心配してきたのだろう。
皆仲良くを望むなのはだ。
俺と恭也さんの関係が歪む事を心配したのだろう。
俺は心配させまいと微笑んだ。

「なのはを頼むって言われちゃったよ」

あの後、目が覚めた恭也さんは俺の所に来て、いきなり詫びた。
訳を聞くと、どうもなのはとの関係が納得いかないらしく、一度なのはにふさわしいか試したかったとの事。
そして、俺はなのはの隣にいるにふさわしい実力を持った人間だったという事。
最後には「今後もなのはを頼む」とも言われてしまった。
どうやら恭也さんの俺に対する価値観はあれで随分変わったようだった。
元々大人びた思考も俺はしていた事だから、今回のでそれに拍車がかかったのだろう。
そして、また勝負してくれと頼まれ、とりあえず「気が向けば」と答えたら、「今度は負けないぞ」と言われてしまった。
俺としては、8歳の体で無理はしたくなかったのだが、今後はもう迫られる事はないだろうと思い、とりあえず1つの問題が解決した事を少し喜んだのだった。
俺はそれをなのはに伝えた。

「そっか。良かったね、ラン君」

「ああ」

微笑むと、そこでなのはが顔を赤くした。

(うぅ……不意打ちなの……(///))

どうやら間近で笑顔を見たため、不意にもときめいてしまったらしい。
しかし、そんななのはの心情を知る訳もないランはなのはの態度を不思議に思った。

「どうした?なのは?」

「え、うぅん!何でもないの!それじゃあお休みなさい」

そう言って、ガバッといいそうな勢いで、なのはは俺に背を向けてしまった。

(ま、いっか……)

「お休み、なのは……」

そう言って、ランもなのはに背を向けると、目を閉じた。
とりあえず、今後は静養だな。
そう思いながら、ランの意識は眠りへと落ちて行った。





















一方、なのはは眠れずにいた。

(そういえば、お兄ちゃんがラン君に私を頼むって…もしかして、ラン君との仲家族公認!?……ふふ、そうだったらいいの)

どうやらランの言った恭也の言葉を自分的に過大解釈しているようである。
高町なのは8歳。
想像が豊かで多感なお年頃である。























あとがき


という事でランの本編より過去の話をお送りしました。
この話は元々書こうと決意はしていたのですが、ネタが中々集まらず、今までずっとできませんでした。
しかし、別の件でネタを募集していたところ、ゆゆゆさんがいい参考サイトを紹介してくれ、そのおかげでこうしてこの外伝・過去編を書く事ができました。
ゆゆゆさん、本当にありがとうございました!
非常に大助かりでしたよ!
この場で礼とさせて頂きますね。
そもそもこの話は、ランの実力がどの程度あるのかを知ってもらおうという思いから書いたものです。
本編であれだけ強いような感じを出していたのですが、それがどの程度の物なのかはっきりしないところがありましたから。
それに、シスコンである恭也が何故ランにあまり突っかからないのか。
その理由も書きたいというのがあったというのが正直なところです。
ランの実力は、元々裏社会の人間なだけに人間離れしているといったところです。
幼いので、かつてよりは能力的に劣っていますが。
ランがドライバーを使わなかったらどれだけなのか。
それがわかって頂けたなら、私にとっては充分だと思っています。
まあ、あくまでも日常風景の1つとして書いたので、微笑ましいというかリリカルなのはらしい雰囲気も少しは出せているかと思います。
ただ美由紀の恭也に対する呼び方合ってるかな?
最近シリアスな話が続いていたので、こういうのも正直書いていていいなと思ったりしました。
最後のオチはその名残ですかね(笑)

突然外伝なんて書いてしまった訳ですが、次回は本編最終回です。
ギアスに続き、こちらも完結。
ようやく俺も完結作品を書いた作者なんだな〜、と感慨を受けています。
しかも、2本も。
これに慢心せずに以降もがんばりたいと思います。
では、また次回の更新でお会いしましょう。










外伝技解説


抜閃(スラッシュ・ドロウ)

ランが使用する神速並の速さを誇る抜刀術。
腰から放して構えるあたり、通常の抜刀術とは異なり、抜刀術の弱点を補うであろう秘策が窺える。
ただ技として洗練されたものではなく、ラン自体の剣術に決まった形がないため、達人からすればかなりの荒さが見える。
しかし、威力も速さも一級品。


二重の衝撃(デュアル・ショック)

拳打を主体とするランの最も得意とする十八番の技。
拳と対象が衝突する衝撃をそのまま貫通させる技であり、その威力は絶大、一撃必倒の名がふさわしい程。
文字通り喰らった者は再び立ち上がる事すらできない。
しかし、実際は刹那の間にする2連撃である。
これらから、ランはこの技を二重の衝撃(デュアル・ショック)と命名している。
だが、本人への反動も凄まじく、ランのような体の頑丈な者でなければ連続で使用する事が難しい。
ランはこの技を両腕のどちらでも出す事ができ、正拳だけでなく、裏拳からなどでも繰り出す事ができる。
ちなみにこれはランが元いた世界で、戦士となるため鍛えてくれた師匠が教えてくれたもので、その師匠は体のどの部位からでも繰り出す事ができた。
極めればどの部位からでも出せるというのがその師匠談。



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