魔法世界流浪伝




















第10話 2人と1匹で流れ旅



昨日泣きつかれて眠ってしまったキャロは、夢を見ていた。
里に追い出された時からよく見る夢だ。
生まれた頃から、魔力と共に召喚魔法に関して随一の才能を持って生まれた私。
制御するために、色々と大人の人達から学び努力する毎日。
けど、それは実らず召喚魔法で出したボルテールを暴走させてしまったあの日。
ずっと私の力を恐れていた里の人達は事態が収拾した後、ついに私を追い出した。
そんな生活で自然と我慢を覚えてしまった私は、特にその事に異を唱える事もなく里を出て行った。

「っ!!」

あの頃里を出た光景を見たキャロはがばっと起きた。
背中には寝汗が溜まり、服はやや湿っていた。

「また…あの時の夢……」

まだ怖いのだろう。
自分が1人になる時が。
自分を恐れるような大人達の嫌な目線が。
少々息を荒げていたキャロだったが、少しずつ落ち着いてくると、周りを見渡した。
フリードは相変わらず自分の隣で寝ている。
だが、もう片方の隣にいたはずの光司がいない。
一瞬、光司が昨日言ってくれた事も会った事も夢だったのかと不安に陥るキャロ。
しかし、それはすぐに杞憂となった。
何故なら、彼が持っていた荷物がまだそこに置いてあったからだ。
もし、彼と会った事が夢ならば、それすらここにはないのだから。
そして、キャロ自身にはいつの間にか布が被せられていた。

(光司さんがかけてくれたのかな……)

気づいたら自分は寝ていたのだ。
恐らくそうだろうとキャロは思う。
そして、布を自分の上から取り払うと畳んで脇に置き、洞窟を出る。

「光司さん……どこに行ったのかな?」

キャロは光司を探すべく周辺を歩き回る事にした。
やはりそこは10にも満たない女の子。
折角会った人である光司を捜すのは当然の事であった。

そして、しばらく歩き回るとキャロは森の少々空けた場所で光司を発見した。

「あ、光司さ……」

光司を見つけたキャロは声をかけようとしたが、途中で止めた。
何やら光司は目をつぶり、自分のデバイスの鍔に手をかけて直立不動のまま立っている。
そして、そこから発せられる真剣な雰囲気を感じて、キャロは声をかけるのを思わずためらってしまったのだ。
キャロは光司が何をしようとしているのかわからないため、離れたところでその様子を観察する事にした。
光司は動かない。
朝の涼しい風が森の木や光司、キャロを撫でるように吹く。
そして、木から1つの葉っぱが舞い落ちた。
その瞬間。

光司が目をカッと見開いたと共に、一閃。

ズバッ!!

通常あの刀のサイズでは届くはずのない間合いにあった木々数本が、いつの間にか刀身から延長されるように伸びていた光の刃に両断される。

ズズン……

本来刀の間合いの外から木を切った光司は、その刀を鞘へと納める。
そして、先程の真剣な表情と打って変わって、優しい表情でキャロを見てきた。

「これ終わったら、切った木を薪にして戻るつもりだったんだけど、先に起きちゃったみたいだね。不安にさせたかな?」

「い、いえ。そんな事ないです!」

先程までの一連の剣閃に魅入られていたキャロは、光司に声をかけられて慌ててそう答えてしまう。
本音は光司の言うとおりだったのだが、今までの生活のせいか本音を隠して遠慮する癖が付いてしまっていた。

「そうか。じゃあ、これを薪にしていくつか持っていくから手伝ってくれないか?」

「あ、はい」

しかし、光司はそんなキャロに特に追及する事もなく笑顔でそう告げるだけであった。
キャロは、そんな光司の傍まで走り寄るのであった。
























薪にした木をいくつか持って戻った2人は再び火を付け、光司があらかじめ用意していた携帯食糧を炊く事で光司とキャロは朝食を取った。
もちろんフリードも同じ物を食べさせている。

「あの、光司さん」

「ん?」

その時キャロが声をかけてきたので、一口食べた後光司はキャロに向き直る。

「今朝のあれは何をしていたんですか?」

今朝のあれというのは、恐らく光司が間合いの外の木を一気に切り倒した事だろう。
光司は特に隠す事もないので、普通に話す。

「鍛錬の一貫かな。あれは僕が組んだ魔法の内の1つでね」

「光司さんが組んだ魔法…ですか?」

小首を傾げるキャロに光司は頷く。
キャロが今朝見た光司の技には、魔導師の予備動作とも言える魔法陣の展開が全くなかったからだ。
ちなみに二人共話を聞いている間は食事を続けていたりする。

「魔力刃はキャロちゃんも知ってるよね?」

「はい」

「あれは、その魔力刃を剣を振る瞬間に同時に展開、伸ばす事で中距離攻撃に対応させた物なんだ」

その言葉にキャロは驚いた。
魔力刃は基本は近接戦闘の際用いられるのがほとんどであり、用途も刀身の長さに比例したいわゆる擬似剣だ。
それを間合いの外から、しかも剣閃と同時に出てくるのである。
近接戦闘を主体とする魔導師でなくとも、これは脅威だと思ったのだ。

「でも、これはそう便利な物でもなくてね。使うのには、長さに見合うだけの魔力をデバイスに充填しなければならないんだ。それに、使う本人には魔力の圧縮 と即座の形成展開が要求されるからね。デバイスがある程度は補佐してくれるけど、そう簡単な物でもないし、溜めがある。だから、定期的に感覚を忘れないよ うにああして何度か振ってるんだ」

「そうなんですか……」

光司に説明されてキャロも納得する。
確かに間合いの外から攻撃するこの魔法は強力と言って良い。
だが、それには溜めが必要な以上隙もある。
強力だが、準備に時間がいる以上便利とは少々言いがたい物なのも納得がいった。
しかし、魔法陣の展開がないというキャロの当初の疑問は解決されていない。

「でも、魔法陣の展開はありませんでしたよね?」

キャロの言葉に光司は少々目を見開く。

「よく見てたね。…理由としては、僕の使う魔法がミッド式でもベルカ式でもないから…とでも言っておこうかな」

苦笑しながら光司はそう言葉を濁した。
何か話したくない理由でもあったのだろうか。
そう思ったキャロは追及するのはやめておき、朝食に再び口を付ける。
そして、しばらくして食べ終わった光司はキャロに再び向く。

「さて、これからの話なんだけど」

「あ、はい」

キャロも食べ終えたため、あらかじめ使っていた簡易的な食器を下に置く。

「とりあえずしばらくは適当に人がいる世界を旅してみようかと思う」

「あ、はい……?」

キャロにはわざわざそれを言う光司の意図がわからなかった。
何故ならそれは光司が旅人という事から一見して普通の事だからである。
しかし、構わず光司は続ける。

「普段なら僕は人のいる世界といない無人の自然界を旅するかのどちらかなんだけど、キャロちゃんはそうはいかない。何故かわかるか?」

「いえ…どうしてですか?……私が足手まといだから…ですか?」

少々不安げな顔でそう聞くキャロ。
どうもこの少女にはネガティブに聞き取ってしまう癖のようなものがあるらしい。
思わず苦笑してしまう光司。

「いや、そうじゃないんだ。キャロちゃんはまだ幼い。これから色々と学ぶ事はいっぱいある。僕の鍛錬に付き合う形で無人の自然界に行って、キャロちゃんが 野生っ子みたいになってしまうのはさすがに同伴者として看過できない。だから、まずは人のいる世界へ…そうだな。主に管理世界を回ってまずは一通りの常識 と学を身に付けてもらう必要があると思う。もちろん、学校とかいうのは僕の立場上行かせられないが、生活に必要な程度の物は世界を回りながら教えるつ もりだ。僕が、人がいる世界を旅してみようといった理由はこれがあるからなんだ」

「そうですか。すみません、早とちりしてしまって」

そう言ってぺこりと頭を下げ謝るキャロ。
しかし、光司は全く気にしておらず微笑みながら続ける。

「気にしないでくれ。振っておいてなんだけど、理由も説明する前から理解しろなんてのが無理な話だからね。とにかく、そういう訳だ。それにキャロちゃんも 心の整理は色々と必要だろう。しばらく落ち着くまで、色んな世界を旅して見聞するのもいいと思う。これから学び取る物は色々と大きいからな」

そう言うと、光司は火を消し、食器を片付け始めた。

「じゃあ、準備次第行こうか」

「あ、はい!」

「キュク!」

そう言うと、キャロも片付けを手伝い始めた。
そして、その後2人と1匹はこの世界を後にし、各世界を旅し続ける事になる。























それからキャロとフリードは光司と共に色々な世界を旅した。
里にいただけのキャロにとって、見る世界はどれも新鮮だった。
車やバイクや人などが大勢通りかかり、人の生活基準が発展した都市。
そこへは、記念として遊園地に連れて行ってもらったりした。
あの時はそれ程金を持ち合わせていない光司に遠慮して一度断ったりもしたが、結果的にキャロは遊ぶ事の楽しさを知った。
また、映像に映っているニュースとやらで管理世界の情勢についても簡単ではあるが知る事ができた。
難しい事は光司に聞いたり、また彼も教えてくれたりしたので、キャロ自身色々な事を知る事ができたのだ。

他には自身のいた里のように自然や動物と共同して生活する集落などの場所も訪れた。
基本生活形態は変わらなかったが、色々と自身のいた里とは違う事も知る事ができた。
以外と安定している集落、逆に貧しく貧困な地域など様々な人を見る事になった。
その時に光司は言っていた。

「キャロちゃんも不幸な境遇なのは、間違いない。けど、世界にはそんな人達が五万といる。いや、それ以上かな。だから、キャロちゃんには自分の境遇を悲観 しないで、前を向いて走ってほしい」

その言葉に、キャロは納得できるものがあった。
確かに自分は不幸な境遇だと言える。
1人ぼっちで里からは追い出され、光司に拾われるまではどうなっていたかさえわからない。
だが、貧しい地域を訪れる事でそれ以上にひどい人がいる事も知った。
初めての時は、光司さんがその人を助けるのを横目で見る事しかできなかった。
だから、この時キャロは決めた。

自分はその人達の分まで幸せになれるように頑張ろう…と。

そして、その大きく2極化された世界各地を回る事2ヶ月。
キャロはついに光司にある事を申し出る決断をした。

























「あの光司さん!私に魔法制御を教えてください!」

ある世界の都市での宿で泊まっていたところ、キャロがこんな事を言い出した。
恐らくこの2ヶ月程の旅で心境の変化があったのだろう。
光司自身、キャロに過去に何があったかなどの詮索は一切しなかった。
必要があればそれをしたかもしれないが、そんな事はなかったし、誰にでも語りたくない過去の1つや2つある物。
自身もその部類だ。
だから、光司はキャロの過去の事を聞きはしなかった。
しかし、そんな彼女が突然こんな事を言い出したのだ。
これには光司も少なからず驚いた。

「それはまた突然だな。理由を聞いても?」

そう言うと、キャロはぽつりぽつりと話し始めた。
自分は幼い頃から大きな魔力と召喚資質を持っていて、里の人達からは恐れられていた事。
ある日、儀式の一貫で竜召喚したフリードを暴走させてしまったという事。
それがきっかけで、里の長からは追い出されたという事。
キャロ自身が1人になるまでの経緯を、彼女は泣きそうになりながら教えてくれた。

(……大の大人達が子供にする事か…普通)

光司はキャロの言葉にそんな感想を持った。
暴走させたのは幼さ故もある。
そこは、大人達がフォローしてコントロールできるように育てるのが大人達の責任であり、するべき事だ。
しかし、人間は恐怖というものがあり、自分の命が懸かっていればそれらを避ける手段を必ず優先する。
村の長も里への被害を考えた苦渋の決断だったとは思う。
しかし、この時代の大人は腐っている。
色々と事情はあったにせよ、この世界各地の色々な状況を見てきた光司にはそう思わざるを得なかった。
無論、自分もその大人だという事を含めて。

そんなキャロの、今までほとんど我侭を言わなかった彼女の自分からの申し出だ。
しかも、自らトラウマを克服しようとしている。
光司としてもできるだけ協力してあげたいと思ったが、何故それを自分に言いだしたのか少々理解できない部分があった。

「事情は理解した。僕としても、協力はしてあげようと思う。だが、何故僕にそれを言い出した?これと言っては何だが、僕自身人に教える事には向いていな い。正直、教えたとしてもキャロちゃんが竜召喚を成功させる確率は高くはないだろう。僕とキャロちゃんではスタイルが違いすぎるからね。だから、もう一度 聞くよ?何故僕に教えを乞おうとしたんだ?」

「えっと…この2ヶ月光司さんと旅していて、光司さんが凄い魔導師だと思ったからです」

この答えに光司は首を捻った。

「?僕は、魔力は平均だ。世間一般からする凄いとは程遠いと思うが」

「違います!」

しかし、それをキャロは否定した。
キャロは続ける。

「確かに光司さんの魔力はBランクで多くはないです。でも、光司さんにはそれに頼らない強さがありました。剣術、体術、その他にも色々ありますけど、私は この2ヶ月で見ましたから。光司さんは、凄い人だと思います」

自信満々である。
褒められて嬉しくはなる光司だったが、些かそれでも頭を捻る部分は残っていた。
だが、自分でこの子を最低限の力を付けると決めていた以上断るという選択肢は存在しない。
だから、確認の意味を込めてもう一度尋ねた。

「……だから、僕に魔力制御を?」

「はい。…それに、私が今頼れるのは光司さんしかいませんから。これ以上足手まといになりたくないんです」

(……この子なりに必死に考えた結果だな)

キャロの言葉からそう感じ取った光司。
現状を打開しようという前向きさ、今までの現実から逃げる事なくそれらをしっかりと見てどうしていきたいという意思がキャロにはあった。
その瞳からも、言葉からもそれが感じ取れたのだ。
この旅でキャロ自身が、人助けにおいて少なからず足手まといになっていたという事実もしっかり踏まえた上でだ。
もちろん光司はそんな事露ほども思っていないが。
とにかく、そういう事なら光司に断る理由はなかった。

「……わかった。なら、早速明日無人世界に行って修行を始めようか」

「はい!」

「言っておくが、厳しいよ?」

「大丈夫です!頑張りますから!」

ぐっと拳を握るキャロに、光司は苦笑した。
そして、翌日からは忙しくなるためこの日は二人共早めに就寝する事となった。
























翌日、自然資源が豊富な無人世界。
その広い高原に光司とキャロはいた。

「さて、早速だが修行を始める」

「はい!」

「クキュー!」

二人共既にバリアジャケット姿だ。
と言っても、光司はまだ刀を下げ、納めたままである。
そして、修行するキャロ自身は気合は充分といったところだった。
何気にフリードも気合が入っているようだ。

「と言っても、まずは確認だ。キャロは、基本的にできる魔法は基本の魔力弾、ブースト系の補助魔法、後程度は低いが身体強化魔法も一部使える。そうだ な?」

「はい」

「で、最も特筆すべきなのが召喚系の竜召喚。しかし、現在は制御が上手くいかないと」

「……はい」

キャロが少々落ち込むが、事実は事実。
特に何かを言う事もなく、光司は先へ進める。

「しかし、この召喚系の魔法は今のところ竜召喚だけなのか?」

「いえ、無機物の召喚なら私でもできます」

(なるほど……。一度竜召喚をやる前に見せてもらった方がいいか)

そう考えた光司はキャロに促す。

「なら、今此処でやってみせてくれ」

「はい!」

光司が少し離れると、キャロは詠唱を始める。
そして、すぐに詠唱は終わった。

「アルケミック・チェーン!」

召喚魔法陣から無数の鎖が出現する。

「ふむ……」

光司は既に顎に手を当てて、考察していた。

(無機物の召喚は問題なしか)

既にサテライトモードにしていたデバイスの表示したデータに視線を落とす。

(無機物操作もできている……。魔力制御や使用量に関しても特に問題はない。という事は…召喚魔法自体に問題はないという事になるか)

キャロの召喚魔法の一連の動作を見て光司は、召喚魔法自体にキャロの言う制御関連の問題はないと判断した。
まだ完全という訳ではないが、今のデータからすれば恐らく問題ない。
この2ヶ月キャロも少なからず魔法を使う機会はあったし、その際に暴発する程下手な訳がなく、むしろあの年にしてはよくできている方だった。

「どうですか?」

考え込んでいた光司にいつの間にか近づいてきていたキャロが、光司を見上げていた。
光司は結論は出た事だし、一旦考えを中断する。

「そうだな。特にキャロの言う魔法制御の問題は見られない」

「そうですか、良かった」

ほっとした表情のキャロ。
だが、光司は既に先の考えを再開していた。

(やはり竜召喚自体に問題があるというより、何か別の要因で制御ができていないパターンと見るべきか。やはり、ここは一度実際にやってもらう他ないだろ う)

百聞は一見に如かずである。

「じゃあ、ここからが本題だ。今からキャロには竜召喚を実際にやってもらう」

「え!?いきなりですか!?」

この言葉にキャロは驚いた。
いきなり失敗の可能性が高い竜召喚を光司はやれと言ったのだ。
当然である。

「ああ。魔法の制御自体に問題は見られなかった。ならば、実際見た方が早い」

だが、キャロにはそれと同時に一気に不安も押し寄せてきた。

「でも、失敗したら光司さんが……!」

(失敗したら、光司さんが危ない!それに嫌われてしまうかも…しれない……)

そんな思いを片隅に置いて、そう言い募るキャロ。
しかし、光司は表情を変えずにキャロの頭にポンと片手を置いた。

「僕なら心配ない。仮に暴走しても、止める手立てはあるからな。それに、元々失敗前提でこの修行を始めたんだ。今更だろう?」

「…………」

しかし、そう言われてもキャロは中々踏み切れない。
光司は、続けた。

「別に失敗するなとは言わない。いや、むしろ失敗しろ」

「え?」

これにはキャロも唖然となる。
光司は、はっきりと失敗しろと言ってきたからだ。

「気負いすぎると上手くいくものもいかない事がある。いっその事、そう思ってやって構わない。それに、キャロが頼んだ講師がしっかりと止める手立てを持っ ている事をここで証明する。だから、やってくれ」

しばらくキャロは俯いていたが、やがて決意を秘めた表情で顔を上げた。

「……わかりました」

2人は充分に距離を取る。
この距離なら、竜を召喚しても問題ない。

「……いきます」

「……ああ」

キャロが詠唱を始める。

「竜魂召喚!」

キャロの魔力が一気に解放される。

「蒼穹を奔る白き閃光、我が翼となりて天を駆けよ」

魔法陣から翼が広がる。

(今のところ召喚魔法に問題はなし)

「来よ、我が竜フリード・リヒ。竜魂召喚!」

瞬間、フリードが一気に大きくなって出現する。

(む!?)

フリードが真の姿で出現した。
だが、様子が可笑しい。

「っ!駄目!フリード!光司さん、逃げてください!」

サテライトモードからはある情報が頭の中に流れてきていた。
フリードの意識レベル、レッド。
つまり、暴走状態。

「ギャオオオオオ!!!」

フリードが雄叫びを挙げて、光司を睨みつけた。
そして、標的を定めたフリードは口の中に火炎を溜めていく。

「ダメ!フリード!止まって!」

キャロが必死に止めようと叫ぶが、フリードが止まる様子はない。
光司は意識をいつもの戦闘の物へと変えた。
そして、フリードを見上げて手を止まれというように挙げた。

「フリード」

「……!?」

睨まれたフリードの動きが止まる。

「止まれ」

その瞬間、光司が少し目を見開くように睨みつけた。
直後。

「グゥゥゥゥ……」

フリードが膝を折って、頭を下げた。
そう、まるで怯えた獣がその相手に従うように。

「……え?」

これにはキャロも目を丸くした。
何せ、光司はフリードに触れる事もなく、フリードを止めてしまったのだから。

「キャロ、竜召喚解除」

「あ、はい!」

言われたキャロが、ハッとして竜召喚を解除しフリードを元の子竜の姿へと戻す。
それでもフリードは光司を見て、怯えたままだった。

「……すまなかったな、フリード」

そう言って、光司はフリードの頭を優しく撫でた。
すると、しばらく撫でられていたフリードの様子が元に戻る。
それを見た光司はフリードを抱いて立ち上がると、キャロに向き直った。

「キャロも、今日はここまでにしよう」

「はい……」

優しくそう言われ、ホッとすると同時に失敗した悲しみに暮れるキャロであった。
























その夜。
光司が野生の熊を狩って、野営をし、今は夕食の時間帯となっていた。
2人共、黙々と食べるが、キャロの食べるスピードが遅かった。
まだ半分も食べていない。
それを見た光司は、食後にしようとしていた話を今する事にした。

「キャロ、ちょっと話しようか?」

「……はい」

そう言うと、キャロは食べかけの入った食器を脇に置く。

「今日の修行でキャロが失敗した原因がわかった」

びくりと震えるキャロ。
しかし、このままにしておいても仕方がない事なのだ。
原因は早めに突き止めて、それを早く克服した方が建設的だ。
ゆえに、光司は話を進める。

「その原因は、キャロの召喚時の精神面が恐ろしく不安定なせいだ。技術は特に問題はなかった」

「……精神面ですか?」

その言葉が意外だったのか、重要な点だけ聞き返すキャロ。
それに光司は頷いた。

「単刀直入に聞くよ。キャロは召喚時、不安でいっぱいだったり、また暴走するかもと考えた事はないか?」

「……あります」

俯きながらキャロは肯定した。

(やはりそうだったか)

どうやら光司の推測は当たっていたようだ。

「そうか……。実は、それが制御ミスの原因だったりする」

「え?」

これはキャロも意外だったのか、顔を上げて光司に視線を向ける。
光司はわかりやすいように説明した。

「元来、生物の力を借りる召喚魔法は召喚者の精神部分が一番の根幹になっている場合が多い。キャロの竜召喚もそうだし、他の場合に至っても実はさほど違い はない。無機物はさすがに別だが。どうしてだかはわかるか?」

「いえ、全く……」

「それは、生物の力を借りる場合、召喚者とその生物の間には心理状態のリンクが行われるからだ」

「リンク…ですか?」

光司は頷いた。

「ああ。別に他人の心がわかるとかそんなレベルまでにはいかないが、少なくともその召喚者がどういった状態か呼び出された生物は敏感に感じ取る。つまり は、怖いとか悲しいといった感情だな。使い魔の感情リンクもそれに近い。そういった物は特に不安などの負の部分をよく感じ取る。その呼び出した生物にも意 思はあるんだ。呼び出された者からしてみろ。召喚者がそんな不安だらけでは、呼び出された方まで不安になってくる。場合によっては、その生物が召喚者がそ ういう状態だった場合襲ってくる事もあるくらいだ」

光司がこんな事を知っているのは、魔法について色々と情報収集し、対策を検討した事があるからだ。
それが今役に立っている。

「……では、どうすればいいんですか?」

「召喚時に精神が安定していればいい。手っ取り早く言うなら、自信を付ける事だな」

「でも、私は……」

そう、キャロは失敗してばかり。
自信が付くはずがない。
光司もそれはもちろんわかっている。
これはあくまで、一番わかりやすい方法で言ったまでだ。

「わかってる。キャロがそれをすぐに身に付けるのは無理だ。だから、まずは竜召喚に対して何かしらの強い思いを抱いてするようにする」

「強い思い…ですか?」

「ああ。誰かを守りたい…とかそんな感じの強い決心とかがそれだな。これは一朝一夕に思いつくものでもないんだが、キャロには恐らくこれが一番手っ取り早 い」

「強い決心…ですか」

よくわからないといった表情を見せるキャロ。
それはそうだ。
この手の感情は、何かしら意味を見出せないとわからない。
だから、光司はそれを知る者としてアドバイスをする。

「そうだな……まずは、何のために竜召喚をコントロールするのか、それを考えるといい。そうすれば、自ずと答えも見えてくるし、コントロールもできるはず だ」

「……はい」

「後は、精神面での特訓をいくつかしようか。こちらは気休め程度だが、それでも足しにはなるだろう」

「……はい」

少々浮かない顔のキャロ。
光司は、そんなキャロの肩に手を置いた。
それを感じ取ったキャロが、光司の方を向く。

「最初から上手くいく人間なんていない。誰でも最初は失敗の連続だ。そこから次に生かせるよう学んでいけばいい。そうすれば、何も問題はないさ。いけない のは、そこから何も学ばない人間だからな」

「はい。わかりました」

真剣な表情で光司の言う事が少しでも伝わったのだろう。
キャロも真剣な表情でそう返してくれた。

「さて、さっさと夕飯を食べてしまおうか」

「はい」

こうして、2人は夕食を取り、その後寝袋で就寝した。
これ以降1ヶ月程、この世界に留まり、光司とキャロは修行を続けていく事となる。













あとがき

皆さんこんにちは、こんばんわ。
ウォッカーです。
第10話どうでしたでしょうか?
今回は光司とキャロ、フリードの旅と修行のお話でした。
冒頭には光司の技も一部出ていました。
確か伸びる刀身というのは、フェイトのザンバーであったと思いますが、あれとは違って即席で作る速さ特化の技です。
威力に関しては完全に負けていますが、切れ味に関しては実は負けていません。
ここは光司自身の魔力制御技術に秘密があるのですが、それはまた後にという事で。
さらに、キャロの修行というところで光司が真の姿になったフリードを止めていましたが、あれは単純に光司がフリードを沈める実力を持っているという事です ね、はい。
何故それ程の実力を持っているかは今後で明らかにします。
とりあえず今はフリードよりは余裕で強いという事にしておいてください。
キャロの竜召喚が上手くいかない原因で光司が色々と説明していましたが、実は光司は結構分析家です。
サテライトで相手の攻撃データを得て、後にデータを見て次に生かすという事を日々欠かさずしています。
今回はそれをキャロに使ったという事ですね。
ところで光司のデバイスの種類が気になっていた方がいると思いますが、光司のデバイスはインテリジェントではありません。
どちらかと言えば、機能的にはアームドとストレージの間でアームドの毛色が強い仕様となっています。
ただ特殊性がかなり強いので、一概には当てはめられませんが、わかりやすく言うならこんな感じです。
キャロの修行がどうなるか…それは次回にご期待ください。

さて、次回ですがキャロ編最後のお話となります。
と言っても、実質はキャロ編には番外という形でお話があるので、残りは2話になるのですが。
キャロの修行はどうなるのか?
光司はキャロに対し、どうするのか?
乞うご期待ください!

最近は一気に寒くなり、大変体調を崩しやすい時期なので皆さん風邪をひかないよう注意してください。
私は今一番忙しい時期なので、投稿できない期間が続きますが、シルフェニア8周年という事でできるだけ投稿していきたいと思っています。
なので、皆さんもこれからも応援よろしくお願いします。



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