サバイバル演習が始まって約10分。俺は林の中の一本の木に身を隠し、下にいる遅刻魔を観察していた。遅刻魔の戦闘能力は『ある意味』未知数。わかっていることは、少なくともガチで戦ったら遅刻魔が死んじゃうかも?という事。

 鈴がギリギリ取れる位の力で行こうと思うのは、昨日の夜に考えていたのと同じだ。忍具を使いながらの戦闘はどうだ?ただの下忍の目に写らない速度で動ける遅刻魔相手に当てる事ができる奴は後々警戒されるか?

 いや、まぐれ当たりを狙っているように見せかけて……それも忍具の無駄使いだな。なら、どうするか…。この試験の本当の意味に基づいた戦闘は?…あの二人が俺の言う通りに動いてくれるわけがないから、これは初めから考えになかったんだったな。

 ……反則だなぁこの試験。下手に実力付けたらこうもメンドくさくなるなんてなぁ。でも、俺鈴取りたいしなぁ…………。俺には遅刻魔を倒せる実力が確実にある。もし忍術、体術、幻術を写輪眼でコピーされたとしても勝てる自信がある。

 だけどそんな事したら暗部を引き連れて、俺を殺しに来るかもしれないからなぁ………主に「根」の奴らとか。ッ!違う違うっ!!頭ん中が変になった。今考えなきゃいけないのは、遅刻魔に如何にして警戒されないように鈴を取るかって事だ。

 う〜ん……サスケは体術や忍術に秀でてる方だろう、アカデミー生として見たらだけど。サクラは座学とかの知識はあるけど、この演習じゃその知識も宝の持ち腐れ。何の意味も持たない。

 この二人の力を足して、それに『ナルト』の力を加えた位で行こうかな…。よし!決まった。後は自分の持ち駒を考えるか。多重影分身はやるとして、忍具、サスケ並の体術、サクラの頭脳、後は風遁くらいかな。見てろよ……遅刻魔!!

 俺の視線の先にいるのは原作通り『イチャイチャバラダイス』っていう十八禁指定されている本を読む遅刻魔の姿。にやにや笑ってられんのも今の内だっての!絶対に鈴取って、それからちょっと本気の蹴りをお見舞いしてやる!

「遅刻魔、勝負だ!」
 
 俺は隠れていた木の上から飛び降りて、遅刻魔=カカシの前に降り立った。

▼ ▼ ▼ ▼

「お前、ホントに忍者になる気ある?」

 そのカカシの言葉に俺は激しく同意した。少し離れた草むらに隠れながらカカシの動向を観察していたが、突然ドベがカカシに対して勝負を挑んだ。

 手にはクナイを持っているがそれだけ。起爆札を巻きつけるとか、ワイヤーを付けるとかそんくらいはしろよ馬鹿ッ!

 ドベ、落ちこぼれと言われて馬鹿にされているあいつが何をしようと俺には関係ないが、この演習が始まる前に見せたあれは何だったんだ?この俺が…悔しいが……見えない早さで何かをカカシに投げた事は、ドベとカカシの言動で分かった。

 だがあれはドベが出来る動作を超えていなかったか?また、卒業試験の時から時折見せるあの落ち着きは?っち、何で俺があいつの事を意識しなくちゃなんねぇんだ!

 と、俺が考えていると二人が動いた。風がドベを中心に吹き荒れる。あれは忍術か?

「忍者になる気は勿論あるっての。でもさぁ、あんたも少しは真面目にやろうよ。本読んだままとかふざけ過ぎだろ?」

「ん?これは俺とお前達とのハンデだ。こうでもしないと鈴取れないでしょお前達」

 こればっかりはドベの言う通りだ。いくら上忍だからって嘗めるのもいい加減にしろ!

「ハンデねぇ。なら、そのままその本読んでていいけど、怪我してもしらねぇから」

 軽い調子で言うドベだが、目が笑っていない…。あいつを中心に吹いていた風が強まった事からムカついている事が分かる。

 ドベはクナイを逆手に構えたまま大きく振りかぶり、カカシの懐に潜り込んだ瞬間横薙ぎにクナイを薙いだ。あの動きは俺と同じくらい早い!?それに、俺が知っているドベの動きじゃない!

 だが、俺が驚いたドべの攻撃はあっさりとカカシの左手で押さえられる。…あれを抑えんのかよ。だが、ドベの動きは止まらない。クナイを持つカカシに掴まれた右手を基点に、体を回転させて拘束を解くと左肘打ちを繰り出した。

 悔しいがあれは良い動きだ。カカシの左脇腹に吸い込まれるようにドベの肘は当たり、カカシは苦い顔を浮かべる。カカシが左手で裏拳を放つが、ドベはとっくに離脱していた。

 そして、離脱したドベはクナイをカカシに投擲した。今度は俺の目にも見えた。動きはコンパクトに、威力は十二分にある投擲動作。しかし、俺のそれより遥かに高いそれは、カカシに当たる事はなかった。

「風遁のチャクラを纏ったクナイとか……当たったら俺死んじゃうんだけど?」

「あんたならあれくらい避けるっしょ?それに、その本はもういいの?」

 ドベが指を指す所にあるのは、真ん中に鋭利なモノで斬り裂かれたような痕があるカカシが読んでいた本だった。あれを狙ったってのか?確かにあの本は俺も燃やしたかったが、ドベのクナイがないのは何故だ?

「性質変化を使えるなんて、アカデミーからの資料にはなかったんだけどなぁ」

「資料?そんなもんあてになるわけないじゃん。俺ってばアカデミーん時より強いし」

 性質変化?何の事だ?それに資料ってのは…俺達のってことだよな。っくそ、なら俺が何を得意にしているかなんてバレバレじゃねぇかっ!だが、ドベはなんて言った?アカデミーの時より強いだと?

 昨日今日で実力が変わるわけないが、それを頷ける強さが今のあいつにはある………っち、認めない訳にはいかねぇか。

▼ ▼ ▼ ▼

 何何なに?どういう事?『あの』ナルトが『あの』上忍と互角???それに……後ろを振り返ってみると、岩の奥に刺さっているクナイの柄が見える。あれって、ナルトが投げたクナイ…よね?

 カカシ先生が避けたと思ったら、私が隠れていた場所を何かが通過していった。何だろう?って振り返って見てみたら、後ろにあった大きな岩の中心に亀裂が合って、亀裂の奥にクナイの柄が見えたから間違いないって思った。

 でも、こんな威力……私は信じられなくてまた振り返った。

 そうしたらナルトとカカシ先生がいる所から、私がいるここまでの途中にある数本の木に何かに貫かれた痕があった。これって………考えたら分かる事。でもそれをしたのが万年ドベ、落ちこぼれのナルトっていうのが信じられない。

 そうだ!サスケ君ならこれも分かるかも。よし、やっぱりサスケ君を探そう。そして、サスケ君と一緒に合格よ!しゃ〜んなろ〜っ!!

▼ ▼ ▼ ▼

 はたけカカシこと俺は驚きの連続だった。火影様に貰った資料の中に先生の息子がいた事。その子を俺が担当する事。その子がアカデミー始まって以来の落ちこぼれである事。そして……今、俺を本気にさせた事だ。

 資料を火影様に貰うまでは、下忍の担当なんてめんどくさい事しないで暗部に戻って任務したいなぁとか思っていたが、先生の息子の写真を見たらそれも吹き飛んだ。先生と瓜二つな顔、それにツンツンの金髪、こっちをみて笑みを浮かべる表情、あぁ本当にこの子は先生の息子なんだと感じた。

 しかも、その息子を俺が担当できる。これには火影様に感謝してもしきれない。この子は、九尾の器として里の皆に嫌われている事を俺は知っている。それを助けようと思い何度も行動したが、どれも上手くいかなかった。だが、これからは違う。俺はこの子の傍にいる事が出来る。

 嬉しくなり資料を読んでいくとそれも徐々に変わっていった。資料にあるのは、実技・忍術が共に最低、体術・座学が共に普通というものだった。これには俺も落胆した。先生のような天才忍者なのだろうと思っていたからだ。だが、俺が思っていた天才忍者は次の資料にあったうちはサスケだった。

 この少年も一族が皆殺しに合い、先生の息子同様に悲しい思いをして育ったと聞く。写真を見てみれば少年の目に闇がある事に気付く。春野サクラという少女は、座学で成績トップだが、実技が普通より下という頭脳派忍者だ。この三人が俺の担当か。嬉しくも複雑な感情を持ちながら次の日、この三人と俺は出会った。

 そして、今現在演習をしている訳だが、目の前にいる少年は先生と同じ金髪を風に揺らしながら俺を見て来る。

 演習を始める前に俺に投げた手裏剣の時から何かおかしいとは思っていたが、それもさっきので確信した。こいつは自分の実力を隠している。それも、アカデミーの時から。

 これには、内心嬉しさが溢れた。先生の息子はやはり天才だったのだと。そして、俺を見てくる目はどうやって鈴を取ろうか考えている目だ。なら、俺も本気で取られないようにするだけだ。試験の事を忘れた訳ではないが、今のこの状況を楽しんでいる俺がいるのも事実だ。だから……。

「ナルト、これからは俺も本気だ。だから、お前も『手加減』してないで本気でこい!」

 手裏剣を投擲しながら口を開く。下忍には決して避けられない速度の手裏剣は果たして、ナルトには当たらなかった。

「あちゃぁ……バレちゃったかぁ。でもま仕方ないかな?先生内緒にしといてくれる?」

「クク…鈴を取れたら考えてやるよ」

 自分が笑っているのが分かる。こんなに楽しい組手は久しぶりだ。

「なら、大丈夫。鈴は取るからさ」

 ナルトはそう言うと、影分身を三体出してくる。さぁ、こっからが本当の勝負だ!

▼ ▼ ▼ ▼

 バレちまったなぁ。けど、鈴を取ったら内緒にしてくれるみたいだしいいか。それより、本気を出せるって良い事だな。

 制限がなくなった事から考えて、体術は本気で忍術に至っては父さんから禁術指定されてないモノ使って、後はまぁ臨機応変にってとこかな。

 サスケが見ている事は分かってる。サクラはサスケを探しに右左ってか?ホント馬鹿だなあいつ。けどサスケがなぁ……変にプライドが高いからめんどくさい。でも、まぁそれも後回し。今は…。

≪影分身の術≫

 カカシとの戦闘に集中だな。一応今の木ノ葉で火影に次ぐ実力の持ち主って事だったから、負ける気はしないけど油断もしない。

 影分身に、腰につけたポーチから両手で手裏剣を取り出し3体同時に投擲する事を指示する。そして、それを避けたカカシに影分身2体を特攻させる。体術は2体とも俺と同じ強さだから、カカシも手古摺ってるみたいだな。でも、笑ってるのが不気味だ。

 んじゃ、こっちはこっちで、忍術で追い込むかな。

≪土遁・土流槍≫

 てな事を考えていたら、影分身がカカシにやられたみたいだ。確か同じ術で、原作のナルトもやられてたような……。んで、ニコニコ笑ってこっちに手裏剣とクナイを投擲してくるカカシ。しかも、ワイヤー付きで×になるように投げてきた。避けないとスライスチーズってか。ホント、退屈しないねぇ!!

 ピョンと上に跳んでそれを避けると、そこには既に跳んでいたカカシがいて、そのまま体重を乗っけた踵落としをしてきた。これ喰らったら痛いだろうなぁ。ま、『喰らったら』だけどな。

 ドコっと地面に叩きつけられた俺は、バフンっと白煙を出して体を丸太に変えた。変わり身の術って使える技だと思わね?まぁ、やられる前に身代わりとして入れ替わらなきゃ駄目だけどさ。

 んで、宙にいたカカシに俺は風遁で作ったチャクラ刀を五本投擲。媒介にしたのは木の枝だったり。

 カカシもそれに気付いて変わり身の術で回避。まぁ、カカシが移動したとこにはもう1体の影分身がスタんばってるから……お、蹴り飛ばされてこっちに来たな。

 カカシも影分身を出そうとするけど、俺がそれを許す訳もなく体術で邪魔をする。

「っく!」

 あははは。カカシの笑顔も崩れてきたな。俺との勝負を楽しんでたみたいだけど、防ぐだけになってるもんな。でも手加減なしって言ったの自分だし〜。

 螺旋丸を作ってカカシの後ろでスタんばってる影分身。そろそろ、お腹も減って来たしこんくらいで良いかな。それっ!!

 右膝でカカシの顎をかち上げ、直ぐに腰を落として左の嘗底をカカシの腹にぶち当てると、面白いように後ろに吹き飛んだ。

 そのまま螺旋丸を喰らったらもっと面白かったんだけど、カカシは吹き飛んでいる時に瞬身の術で回避して、俺の影分身をクナイで斬り裂いた。

「螺旋丸まで……ホントにお前は面白いよナルト、でもまだ勝負は終わってないぞ!」

「いや、先生もう終わりだって」

「何を言って……ッ!」

「あははは、うん。これ取ったからもう終わりだってばよ」

 俺はそう言って鈴をチリンチリンと鳴らした。と、それと同じくして目覚まし時計のアラームが演習場に鳴り響いた。

▼ ▼ ▼ ▼

 時計が12:10を指し、俺達三人は丸太が三本立っている場所でカカシの前に座っている。まぁ、俺は一人弁当を食べてるけど。お、このエビフライうめぇっ。

 サスケとサクラが、弁当を食べている俺を怨むように見て来るがそんなのは当然無視。二人は朝食を抜いているせいで腹の虫がグ〜グ〜鳴っている。

 サクラに至っては「ダイエット中だから」という理由で昨晩のご飯も抜いているらしいが、俺には関係ない。

「おーおー、腹の虫が鳴ってるな。ところで、この演習についてだが……」

 考え込むようにカカシは空を見上げ、視線を俺達(俺以外の二人へだが)へと戻した。顔には思いっきりの笑顔を張り付けて。

「ま、お前らはアカデミーに戻る必要もないな」

 二人はそれを聞き、一瞬呆けた顔を浮かべるがそれも次第に喜びへと変える。なんでこいつら喜んでんだ?忍者辞めろって言われてんのに。

 そして、カカシは笑顔から冷めた目で二人を見下ろした。

「うん、二人とも…忍者をやめろ」

 そりゃ、そうだ。何もしてないお前らが合格なら他の奴らは全員合格だっての。

 ずっと笑ったままのカカシ。戦闘の時だってどこかふざけていた態度だったカカシが、初めて怒気を見せている。これはカカシが、俺達を思って怒ってくれてるんだからありがたく聞いとけ。

「た、確かに、私とサスケ君は鈴を取れなかったわ。けど、やめろってのは言いすぎじゃないっ!?」

「…はぁ……お前ら二人とも、忍者になる資格のないガキだってことだよ」

 サクラの抗議を一蹴する言葉に反応したのは、やっぱりサスケ。自分が侮辱されたのがムカついたんだな。立ち上がるとクナイを逆手に持ち、カカシを襲う。この間、サスケの動きはサクラには見えていない。だが、それもカカシには効かないわな。

「サスケ君!」

 サクラはサスケがカカシに踏みつけられるという光景を見て悲鳴のような声を上げた。五月蠅ぇから近くで騒ぐな。

「だからガキだってんだ。俺とナルトの戦闘を見てなかったのか?」

 ぐりぐりと靴底をサスケの頬に押しつける。うはっ、カカシ先生なんて悪役っぷり。

「サスケ君を踏むなんてダメー!!」とサクラは叫ぶ。だが、その叫びは何の意味もなさずに、サスケは恥辱を受け続ける。何これ、俺も何かした方がいいの?ねぇ?

 カカシは心底呆れ果てたような、何も期待していない目をサクラと下にいるサスケに向けた。

「お前ら忍者舐めてんのかっ?何のために班ごとのチームに分けて演習やってると思ってんのよ?」

「え?どーゆーこと…?」

 サクラの問いに、カカシはやれやれと首を振る。俺には、だから不合格なんだよ、とカカシが暗に言っているように感じる。

「つまり、お前らはこの試験の答えをまるで理解していない」

「答え、だと?」

 サスケの言葉にも同様に鋭い視線を向けるだけ。サスケ可哀想〜。

「そうだ。この試験の合否を判断する答えだ」

「だから、さっきからそれが聞きたいんです!」

 カカシにサクラが猛抗議するが、それもカカシには効かない。というか、効く効かないに関わらず、もうちょっと考えてからモノ言った方がいいぞサクラ。ほら、カカシがまたやれやれって首振ってるし。

「それはチームワークだ」

 不可解。二人の顔にそれが張り付いている。はぁ………キバ、チョウジ、シノ、お前らはちゃんと理解してるか?してるよな。だって仲良しで組になったんだもんな。俺もお前達と成りたかったよ。

「全員で来れば鈴を取れたかもな。まぁ、そこで弁当食ってる奴は別だが」

 おいおい、そこで俺に振る?カカシは俺ににっこりと笑顔を見せて来る。

「なんで鈴が二つしかないのにチームワークなわけぇ!?三人で鈴取ったとして、一人我慢しなきゃならないなんて、チームワークどころか仲間割れよ!」

 まぁ、普通に考えればそうだわな。でも、俺達は忍者だ。任務遂行をするためには誰かが犠牲になるかもしれない。でも、それをさせないためにどうするか考え、実行するのが本物の忍者だ。俺は父さんと母さんにこれだけは耳にタコが出来るくらい言われている。

「当たり前だ!これはわざと仲間割れをするように仕組んだ試験だ」

 サクラが何を言ってんだこの人?って顔をしているが、カカシは続ける。

「この仕組まれた試験内容の状況下でも、なお自分の利害に関係なくチームワークを優先できる者を選抜するのがこの試験の目的だ」

 これこそが里の上の奴らが求める人材だ。でも、カカシはまだ隠されたもう一つの答えを言っていない。

「それなのにお前らと来たら……」

 カカシはそう言うと、サクラに視線を投げる。

「サクラ!お前はナルトが戦っているにも関わらず、それを見過ごした。最後まで俺に挑むことなく、な。さらに、どこにいるかも知れないサスケを探すだけとか…ふざけてんのかと俺は思ったぞ」

 っぐ、っとサクラが言葉に詰まる。まぁ、その通りだから何も言えんわな。正直、原作のサスケを探すサクラはこの時いらない子だと思いましたよ俺は。

「サスケ!お前は二人を足手まといと決め付けて個人プレイに走る。それも、罠を仕掛けるのはいいが、途中から俺とナルトの戦いに目を奪われていた。手助けをする事なくな」

 サスケもカカシの足元で苦虫を噛んだような顔をする。いやカカシ、サクラもそうだけど下手に手助けされるより邪魔されなかったから俺としては良かったんだけど…というか、カカシもそれは分かっているか。この場合は、何か言わなきゃならないからな。

 そして、サクラが「ならナルトはどうなのよ!」って言ってるが、そんなもの鈴を取ってしまえば良い事だし、何よりお前らが俺の言う事を聞く訳ないじゃん。

 俺がお前らの言う事聞いても良いけど、この試験で手を取り合って仲良く〜なんてサスケがする訳ねぇし、サクラも俺よりサスケと合格する方を選ぶ筈。なら、俺は一人で鈴を取りに行くしかない。

 カカシも俺と同じ意見だったみたいで、俺が思った事をそのまま言った。そうしたら、二の句も告げなくなるサクラ。

「任務は班で行う!確かに忍者にとって卓越した個人技能は必要だ。しかし、それ以上に重要視されるのは『チームワーク』だ。これを乱す個人プレイは仲間を危機に落とし入れ、殺すことになる。例えばだ…」

 カカシは、何か考えたのだろう。足元のサスケにクナイを突き付けた。

「サクラ!ナルトを殺せ。さもないとサスケが死ぬぞ」

 いわゆる人質というものだな。こうなったら普通は混乱し、任務どころじゃなくなる。

 「え!?」とサクラは動揺し、俺とサスケを交互に見る。こいつ、本気で俺の事殺そうとか考えてないだろうな……。

「と、こうなる。人質をとられた挙句、無理な二択を迫られ殺される。任務は命がけの仕事ばかりだ」

 カカシはサスケを解放し、演習場入口の近くにある石碑に近づいていく。それに、俺達も続く。

「これを見ろ。この石に刻まれている無数の名前。これは全て里で英雄と呼ばれている忍者たちだ」

 これに俺の父さんと母さんの名前がある事に、俺は可笑しくなる。父さんと母さんが家で話しながら、ゆっくりしているだろう姿を想像できるから。父さんは火影じゃなくなったので、生前よりゆっくり出来ているからいいって言ってた事からも可笑しさ倍増だ。

「だが、ただの英雄じゃない。任務中に殉職した英雄達だ……これは慰霊碑。この中には俺の親友の名も刻まれている」

 そして、と俺の顔を見て来るカカシ。そんな顔すんなって。そんな顔されたら申し訳なくなってくるっての。

「…………最後にもう一度だけチャンスをやる。ただし、昼からはもっと過酷な鈴取り合戦だ。挑戦したい奴だけ飯を食え。ただし、サスケには食わせるな。上官が話をしている最中に攻撃してきた罰だ。もしそいつに食わせたりしたら、そいつをその時点で不合格とする」

「てめぇっ!」

「ここでは俺がルールだ。分かったな?」

 殺気混じりの視線が反論を許さないことを教えてくる。ま、俺には効かないけど。

 昼食を取ってから開始と言われたが、カカシの持って来た弁当は二つ。その弁当も俺が一つ食べたから残りは一つ。ならそれは、サクラが食うべきものである。だが、腹の虫が鳴いているにも関わらず、サクラは食べようとしない。

 んで、サスケは俺はいいから早く食べろっていう空気を出し、この場には嫌な空気が流れる。はぁ・・・・・でも、この二人も思っていたより悪い奴らじゃないみたいだし。……俺も一肌脱ぎますか。

「腹いっぱいだってばよ。お前も早く食べろって」

「あ、あんたが先に食べるから!」

「ん?俺は鈴を取ったから当然だろ?それをお前に文句言われる筋合いはないぞ?」

「そ、そうだけど……」

 ま、こんくらいで許してやるか。

「サスケに食わせるなって言うあれ、無視しようぜ?」

「え?で、でも…」

「俺はいらねぇ。余計なこと言ってんじゃねぇぞドベ」

「いいからいいから、先生はこの弁当をサスケには食わすなって言ったけど……」

 俺は自分のリュックから取りだした弁当をサスケに渡す。

「それって…」

「あぁ、俺ってばプリント無視して弁当持って来てたんだってばよ。だから、サスケはそれを食え。あ、毒とか入ってねぇから安心しろ」

「誰がお前の「それ以上は言うなよ?」……」

 サスケの言葉を遮って、俺はクナイをポンポンっと弾ませながら殺気を含んだ視線を投げる。

「お前が俺の施しを嫌うのはいいが、その弁当の悪口は言うな。それと、午後は俺も手伝ってやるからお前も、それとサクラもちゃんと飯食って力付けろ。第七班は全員で合格するぞ」

 サクラは「うん」と笑顔で、サスケはフンっと鼻を鳴らし、弁当をそれぞれ食っていく。それを俺も笑って見て、そろそろかなと思考を変える。

「お前らぁぁああああああああああああ!」

 予想通りカカシが凄まじい勢いで此方に向かって走って来る。五月蠅いなぁ………。

「くっ!」

「きゃあああああっ!」

 その鬼気迫る形相にサクラは驚き叫び、サスケは身構える。お、弁当を放り投げずに横に置いてから構えたのか…。サスケの評価は俺の中で、ちょっとだけ上がった。

「ごーかっく♪」

 んで、先程と打って変わって、ニッコリした表情のカカシ。

「……え?」

「…………」

 サクラ、サスケの二人は拍子抜けしたのか、呆気にとられた顔を浮かべる。

「忍者は裏の裏を読むべし。忍者の世界でルールや掟を破る奴はクズ呼ばわりされる」

 そして、カカシが一気に捲し立てる。

「……けどな!仲間を大切にしない奴は、それ以上のクズだ」

 やっと分かって来たのだろう。サスケとサクラは、喜びを顔に浮かべた。サスケが笑みを浮かべるのって初めて見た。

「これにて演習終わり、全員合格!第七班は明日より、任務開始だ!」

 ビシィッ!と指を立てるカカシ。ふぅ……これでやっと終わりか。長かったような、短かったような……。

「よし、帰るぞ」

「……フン」

「しゃ〜んなろ〜ッ!!」

「分かったってばよ」

 こうして俺たちは、第七班としての一歩を踏み出した。




あとがき
時間を置いてしまってすみません。オリンピックを見てましたw
八月中に10話くらいまで更新出来ればいいかなと考えていますが、最新話についてはまだ・・・にじファンで掲載していたところまで更新したら、本格的に最新話を書こうと思いますので、もう少しだけわたしに時間をください。

それではまた次回!




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