今日の拠点を決める為、枝や幹を蹴りながら進んでいた俺達第七班は、現在非常に険悪な空気を周りに出して枝の上で立ち止まっていた。

 いつもなら大抵の場合俺が原因なのだけど、今回ばかりは俺はノータッチ。

「さ、サスケ君…。その抱えている女(ひと)は誰なの、かなぁ?」

「はぁ?あんたこそ誰だっての?」

 サクラが顔を引きつらせながら口を開けば、赤髪赤目の眼鏡を掛けた女もサスケの腕に抱かれながら口を開く。

 よくよく見れば顔は整っているかもしれない。だが如何せん、それも眉間に縦皺を三本立てられたなら、いくら整っていたとしてもお近づきにはなりたいなんて思えない。

 と、そんな事はいいとして…。こいつってば額当てから考えるに草隠れの忍びなんだよなぁ。大蛇丸がコレ付けて俺達の前に現れたから余計に敏感になってるって時に……。サスケぇ!なんでこんな奴拾ってくんだよ!

「わ、私はサスケ君と一緒の班の春野サクラ…って、そんな事よりあんたが誰かって話でしょッ!」

 サクラとサスケが連れて来た女が互いに罵倒し合うのを横目に見つつサスケに視線をやると、一丁前にため息なんて出していた。おいおい、お前が原因なんだからお前が何とかしろって。

「………」

「………」

 サスケと目が合うも、サスケは俺に助力を乞いたそうにしてくるし……。はぁ…俺が行っとけばこんな事には…。

▼ ▼ ▼ ▼

 サスケが女を連れてくる2時間前。それは俺達が今日の拠点を決める為、枝や巨木を蹴って森の中を駆けていた時だった。キャアアアアアアア!!!っという絹を裂くような??悲鳴が右の方から聞こえたのは。

 悲鳴を聞いて最初にサクラが足を止め、次いでサスケが足を止めた。二人が止まったからには俺も足を止めざるを得ないので、二人より二つ先の枝の上で立ち止まった。

「今の…女の子の悲鳴だった……」

「そうだな。だが、それがどうかしたか?」

「サスケの言う通りだ。女の悲鳴が聞こえたからって、足を止める理由にはなんねぇぞ」

「…二人の言うことは分かるわ。でも、今の悲鳴はただ事じゃない気がするの……。ねぇ、助けに行っちゃ駄目かな?」

 ……お〜いおいおい、春野サクラ。お前はあれか?誰かが悲鳴を上げたら助けに行く正義のヒーローにでもなったつもりなのか?お前が忍びをそういう風に解釈してんだとしたら、この先お前は絶対に死ぬぞ?

「…サクラ、お前が何を考えてそう思ったのか知らないが、俺達は今忍び同士で戦っているんだ。初日にも言ったが、悲鳴を上げる奴なんて忍びとしてはクズ以下だ」

「で、でもサスケ君!」

「サスケの言う通りだっての。それにな…お前が自分で自分を守れるくれぇ強かったら、俺達はここまで言わねぇんだよ。お前はあの悲鳴を上げた奴のところに一人で行って、ちゃんと帰ってこれんのか?」

 サクラの奴が体を震わせて泣きそうな顔で睨んでくる。いやいや、そんな目で見てきても駄目だっての。やれやれと肩を竦めて、さっさと今日の拠点を決めるぞと言おうとしたその時、サスケが口を開いた。

「……はぁ…俺がサクラの代わりに行って来る。こいつが行って戻って来るよりは早いだろう」

「サスケ君!!」

「…お前まで何言ってんだよ。そんな時間があったら、お前は術の修行をだな…「直ぐに戻る」あ!おいッサスケ!!」

 サスケは俺の話を最後まで聞かずに、悲鳴の聞こえた方向へと駆けて行きやがった。サクラははじめ嬉しそうにサスケの背中を見送っていたが、俺の様子に気が付いてからはいつもより従順な態度で話し掛けてきた。

「な、ナルト?私、サスケ君が戻ってくるまで今日の食料探してこよっか?」

「…お前はここであいつが戻ってくるのを待ってろ。…俺が行って来るからよ」

 お前はもう何もすんな!って言えたらどんなにいいか…。頭を一度振り、サクラがオロオロしているのを無視して俺は枝を蹴った。

 はぁ…昨日会ったアンコさん頑張ってたなぁ。サクラもあれくらい頑張ってくれたらとは思うけど、無理だろうなぁ。あいつの頑張る動機ってサスケ関係なんだもんなぁ。

 ……原作だと、サスケを連れ戻す為に強くなるって決心して綱手に弟子入りしたっぽいけど、このまま上手く行けばサスケは里抜けしないだろうし……。

 …………やめよ。考えたって仕方ねぇし。サクラだって馬鹿じゃねぇんだ。このままじゃ駄目だって、いつか気づくだろ。

▼ ▼ ▼ ▼

 今日の食料となる野草や木の実を採取してサクラを一人残した場所に戻ってみれば、知らない女を横抱きにして困った顔をしたサスケがそこにいた。

 そして話の冒頭に戻るってわけだ。サクラが助けたいなんて言わなかったら、こんな事にはならなかったと思うのは俺だけか?

 確かにサクラの気持ちも分からなくもない。自分の好きな人が知らない女を横抱きで自分の下に戻って来たら、そりゃこうなるわ。

 眼鏡女は足を怪我しているらしく、サスケは仕方なくお姫様抱っこを続けているようだ。今までのサスケなら、助けはしてもこうして連れてくるなんて面倒な事はしなかっただろう。

 これもサクラの影響かねぇ。女に甘く情に熱いサスケ……。ものすっごい違和感あるな。

 そうそう。この眼鏡女の名前って香燐なんだってさぁ。……そう、何を隠そうこの女。原作では大蛇丸にアジトの一つを任される管理者であり、その後サスケの作った蛇とかいう小隊の一員になるなど、後半部分で活躍するキャラの一人だったりするんだなぁ。

 確か感知タイプの忍びで、自分自身を噛ませて他者の傷やらチャクラやらを回復させるなんて変な能力を持っていたような気がする。

 なんでそんな奴がこんなところにいるのか。中忍試験を受けているからだと言われたらそれまでだけど、何でこいつが『今』出て来るんだというのが、ここで俺が言いたい事。

 原作で覚えているのは、こいつがサスケと一緒に行動していたという事だけだ。それもこの世界で言えば未来での出来事。

 ……俺が原作を変えてきたことが、これに繋がったのか?それによくよく探って見れば、大蛇丸のチャクラの反応もないようだし…。こいつはまだ大蛇丸とは何も関係ないただの草隠れの忍びってわけ。

 結局こいつをどうするかだけど…。考えとしてはいくつかある。こいつの班の連中を探してこいつを放り出すってのがまず一つ目。こいつを連れたまま残り二日を森の中で修行をするってのが二つ目。一度搭に向かってこいつをそこに放置して、また森に戻って修行するってのが三つ目。こいつをこの場に残してあとはバイバイするってのが四つ目。

 俺としては四つ目を推したいとこだけど、俺以外の奴らがそれに賛成するかって言うと、そうでもなさそうなんだよなぁ。

 サスケは自分が連れてきたんだから最後まで面倒を見るとか言いそうだし、サクラは何だかんだ言ってこいつを置いて行くことには反対しそうだし、眼鏡女は絶対にサスケに付いて行く気満々だし…。
 
 俺がこれからの事を考えている間も、女二人は口論を止める素振りも見せねぇし。……割りとマジでイライラしてきたな。

「…デコ介少し黙ってくれるか?それから眼鏡、お前も黙れ」

「ナルト!あんたには関係ないんだから黙ってなさいよ!」

「手前ぇこそ黙れよ金髪チビッ!」

 ほぉ……こいつら俺がキレないとでも思ってんのか?サクラは何度も痛い目に合ってるから少しは自重するかと思ったが、やっぱりデコはデコだったか。

 サスケは俺の表情筋がピクッと反応したのが分かったようで、眼鏡女から身を放して俺との距離を離した。それに眼鏡女が反応し、「サスケ?」と言っているが、サスケは青褪めた顔でいるのみ。

「…おい、メスザル二匹。これ以上何か喚くようなら、マジでしばらく眠ってもらうぞ?」

「…ッ!?」

「黙れってんだよ!チビ野郎!誰がお前の…」

 サクラは俺が本気でムカついているって事にやっと気付いたらしくビタッと体の動きを止めたが、眼鏡の方は興奮していたからなのか、俺の最後の忠告を無視して俺に罵詈雑言を吐いたので、瞬身の術で真後ろに移動して首に手刀を落として意識を飛ばしてやった。

「さて、これでしばらくは静かになんだろ。サクラ、お前も今度またピーチクうるさくしたら、コレだからな」

 枝の上に倒れて気絶した眼鏡を蹴りながらサクラに言うと、首がモゲるんじゃないかという程に上下に振って返事を返してきた。

「…で、これからどうするよ?俺としてはこいつをこのまま置いて行きたいとこだけど、それはお前らは嫌なんだろ?」

「俺が連れて来んだ。自分のケツは自分で拭く」

「わ、私はこんな女どうなっても良いけど、このまま放置するのは…」

 はいはい、思った通りの返答ありがとうございま〜す。さて、それじゃあ誠に不本意だけど、こいつを連れて行きますかね。

「分かった。ならこいつの面倒はサスケ、お前がしろよ。自分の言った事には最後まで責任を持つ。だろ?」

「…あぁ」

「そういう事だから、サクラ。お前はこいつが目を覚ましても口論は絶対にすんなよ。一回でもしてみろ。今度はお前もこうなるからな」

 眼鏡を再度蹴りながら、サクラに言うとビクビクしながらも「わ、分かったわよ…」とか細い声で返答してきた。

 ま、コイツの事だ。ドわすれして1〜2回は気絶すんだろうけど。…んじゃまぁ、ボチボチ行くとしますか。

「食料は俺が探してきたから、今日の拠点を探しに行くぞ」

「了解」

「はぁーい」

 そして俺達は再び、この森の中を搭へ進路を取りながらゆっくりと進んで行った。眼鏡はサクラが担いで運ぶ事になったが、余りにも遅いので途中でサスケが担ぎ直すという事があったりしたが、別にどうでもいいことなので割愛させてもらう。

▼ ▼ ▼ ▼ 

「おぉ〜結構でっけぇな」

 搭の真下から上を見上げてみれば、そこらに生えてる巨木と同じくらい目の前の搭がデカいと分かる。

 ちょっと前から視界には入ってたけど、近くでみればホント大きいのな。こんなにデカくする意味あんのかねぇ〜。

「それじゃサスケ。あたしは先に行くよ」

「あぁ…この中にはちゃんと治療できる施設がある筈だ。そこでちゃんと手当してもらえ」

「………」

 サスケが助けたあの日から丸二日。眼鏡女とは一緒に行動してきた。二次試験の予選終了時間まであと三時間ちょい。

 なんで三時間だけ時間を残したかっていうと、眼鏡女の仲間を塔に連れてくる時間を作る為だ。搭の中からは、眼鏡女の仲間っぽいチャクラ反応はしてこない。

 まぁ、こいつがこいつだし、仲間の二人もリタイア目前ってとこなんだろう。そいつら二人が巻物を揃えているかも微妙だ。でも、眼鏡女が予選に出れたら面白い事になりそうなんだよなぁ。

 サクラと試合させてみてぇし、サクラじゃなくてもいのやヒナタに自分達とは違う能力を持つ忍びと戦ってもらいたい。勿論、予選で誰が誰と戦うかなんてのは俺が決める事じゃない。あくまでも俺の希望なんだ。

 って事で、影分身に探しに行かせようと思ったんだわ。眼鏡女に仲間二人の服装なり、チャクラの特徴なりを聞いた時は怪訝な顔をされたが、適当に誤魔化しておいた。というか、俺との会話を早々に打ち切ってサスケに話しかけていたしな。

 今もそうだけど眼鏡女がサスケに話し掛けている時は、サクラの奴は機嫌悪そうにしながら黙って二人を見ているだけになっていた。最初に言ったように、眼鏡女とサクラが口論したら気絶させていたら、ピタっと口論をしなくなったからなぁ。

 学習能力はあるんだから、もう少し強くなる気持ちがあればとも思うけど、そいつは綱手姫が来てからお願いしよう。俺とこいつは本当に水と油だからな。

 とっ、いい加減眼鏡女の話が長くなってきたし、そろそろ行動に移るか。影分身を二体作って、一体は眼鏡女の仲間の捜索。もう一体は搭の近くにいる奴らから巻物を奪ってこさせる為だ。せっかく連れてきても、巻物が揃ってないんじゃ意味ねぇし。

 はぁ…時々思うけど俺って結構無駄な事してるよなぁ。ま、全部『仲間』の為って思えば頑張れるよな。

「はいはい、そろそろ移動するぞ〜。香燐だっけか?塔に着いたんだからお前は医務室行ってこい。俺らはこのまま予選を通過したことを伝えに行くからよ」

 眼鏡女もこの二日間で散々俺に気絶させられたからか、不承不承サスケから離れると搭の中へと入って行った。

「うし、俺らも行くか。サクラ、あいつがいなくなったからってサスケにベタベタすんなよ?」

「し、しないわよ馬鹿ッ!」

「フンッ……」

 初々しいカップルのような反応をそれぞれしてくれたのを楽しみつつ、俺達は塔の中へと入って行く。そして、搭の中を進んでいくと開けた場所に出た。

「ねぇ、アレ見て!」

 サクラは壁に向かって指を差すと大きな声をあげた。サスケはサクラの指が指し示す壁をポケットに手を突っ込んだまま見上げている。

 『天』無くば 智を識り機に備え 『地』無くば 野を駆け利を求めん

 天地双書を開かば危道は正道に帰す これ即ち『 』の極意・・・・導く者なり  三代目火影

「たぶんこれは巻物の事を言ってるんだと思う。ここで『天地』の巻物を開けって事なのかも……」

 サクラの呟きに俺とサスケは頷いて返す。俺はポーチから天地両方の巻物を取り出し、天の書をサスケに放り、俺は地の書を手に持つ。そして、二人同時に糊付けされた部分に指を入れ一気に広げた。

 二つの巻物の真ん中には同じ『人』という漢字一文字が書かれている。さぁ、早く出てきてよイルカ先生ッ。俺ってば、やっとここまで来たんだぜ!

「…これは……」

「ひと?じん…かしら?」

 『人』という漢字が書かれている周りには口寄せの術式が書かれている。これは巻物が開かれると発動する術式だ。俺は地の書を前の方に放り投げる。

「サスケ、それを俺が投げたところに放れ」

 サスケが天の書を放り投げた瞬間、天地両方の『人』と書かれた部分から白煙が立ち昇り始める。そしてその中から人影が浮かび上がり、次いで俺の尊敬する人の声が聞こえた。

「よっ!久しぶりだなお前達」

 白煙が晴れていくと腕を組んで笑みを浮かべたイルカ先生が現れた。

「久しぶりだってばよっ!イルカ先生!」

「どうしてイルカ先生が……」

「…………」

 サクラは吃驚しているし、サスケはイルカ先生を睨んでいる。まぁいきなり巻物から人が出て来るし、それが中忍で自分たちの元担任なら警戒するか。

「この『第2の試験』の最後は、俺達中忍が受験生を迎える事になっていてな。偶々、俺がお前達の伝令役を仰せつかったって理由だ」

「伝令役?」

 イルカ先生はサスケの呟きには反応せず、懐から懐中時計を取り出して開いた。そんなの見なくても余裕だってばよイルカ先生。

「お前達ギリギリだったなぁ。だがまぁ『第2の試験』合格だ!!」

「やったぁ!やったよッ二人とも!!」

「フンッ」

「ありがとうだってばよ。イルカ先生!」

 サクラが俺とサスケの首に抱きついてくる。これを避けるのなんて簡単だが、今のこいつの顔を見たらそんなのが野暮だって事くらい俺にも分かる。だってサクラの奴、泣きながら笑ってんだもんよ。

 …まぁ、偶にはいいかもな、こういうのも。

▼ ▼ ▼ ▼

 それから2分後。サクラは俺達に抱きついてるのに気付き、顔を真っ赤にして隅っこの方で体を丸めて顔を両手で抑えてしまった。

「イルカ先生…一つ聞いておきたい」

「何だサスケ?」

「もし、俺達が試験の途中で巻物を開いたら……イルカ先生。あんたはどうするつもりだったんだ?」

「…お前も相変わらず鋭い奴だな」

 イルカ先生はサスケの質問に苦笑して、自分が出てきた巻物をしゃがんで手に取った。

「お前の察しの通り、この試験の規則はお前達の確実な任務遂行能力を試す為のモノだ。つまり……もし、試験中に規則に反する条件で巻物が開かれた場合…」

「……開かれた場合?」

 隅っこの方で丸まっているサクラが相の手?を入れる。

「その眼の前の受験者には『第2の試験』終了時刻まで、気絶していて貰うよう命じられていた」

「やはりか……口寄せで合格を発表するのはそのついでだろ?」

「まぁ、その通りだな。お前達が巻物を開かなくて俺は嬉しいぞ」

 へへ。イルカ先生に褒められるのって嬉しいんだよな。勿論、父さんと母さんが一番だけどな。九尾は基本褒めてくれないし…。

『褒めてほしいのか?』

 …いや。お前は俺の相棒なんだ。褒める褒められるなんて関係、糞くらえだ。

『ククク……そうだな。わしはお前と対等の存在、それで良い』

 だな。俺が九尾と話していると、さっきまで隅っこにいたサクラがこっちに戻ってきた。まだ顔が真っ赤なんだから来なくてもいいのに…。

「ねぇ、先生」

「ん?どうしたサクラ」

「あの壁に書かれているのは何なの?何か虫食い文字になってるし…私達じゃ、全然意味分かんないんだけど」

 サクラお前よくやった!これを言う時のイルカ先生カッコいいからなぁ!

「おぉ忘れてたな。俺達はそれについても伝えるのが任務でな。これは火影様が記した『中忍』の心得なんだ」

「心得?」

「そう。この文章の『天』とは即ち人間の頭を指し、『地』は人間の身体を指してるんだ」

 イルカ先生は壁の方に体を向けて腕を組んで言葉を続ける。有難い言葉を聞くために俺は姿勢を正す。サスケ!!お前もポケットに手を突っ込んでないでちゃんと聞け!!!

「『天無くば智を識り機に備え』あれはな、簡単に言えば自分の弱点が頭脳にあるなら…『様々な理を学び、任務に備えなさい』って事を言ってるんだ。そして、『地無くば野を駆け利を求めん』サクラ、お前の弱点が体力にあるなら『日々鍛錬を怠らないようにしなければなりませんよ』と言う意味だ」

「へ〜」

 サクラが関心したように壁に書かれた文字を見る。

「そして天地両方を兼ね備えれば、どんな危険に満ちた任務も正道。つまり覇道とも言える安全な任務に成るってことだよなイルカ先生!」

 俺はイルカ先生の言葉を引き継ぐように続ける。そして、それを言い終わると同時にイルカ先生に顔を向ける。

「あ、ああ、その通りだナルト。それにしてもお前、勉強もできるようになったんだな……」
(…本当にお前は俺の手から離れたんだな。寂しいような、嬉しいような複雑な気持ちだ…)

 イルカ先生が寂しそうな顔で笑っているのに気付いた。先生、俺ってば先生みたいな忍者になるのが夢なんだぞ?だから、そんな顔すんなって。

「じゃあ、あの虫食いの所に入る文字って……」

「ゴホンッ…そうだ。中忍を意味する文字、さっきの巻物にあった『人』と言う一字が入る。この5日間のサバイバルは受験生の中忍としての基本能力を試す為のモノ。そして、お前達はそれを見事クリアした。中忍とは部隊長クラス、チームを導く義務がある。任務における知識の重要性、体力の必要性を更に心底心得よ。この『中忍心得』を決して忘れず、次のステップに挑んで欲しい!」

 ヤバい……マジでカッコいいよイルカ先生!!!俺は先生みたいな先生になる!絶対になってやる!!

 イルカ先生の元担任としてではなく忍者の先輩としての激励は、俺だけじゃなくサクラ、サスケの二人にも伝わったと思う。

「イルカ先生、試験に合格したら一楽のラーメン奢ってくれってばよ!」

「ん?アハハハ、良いぞ。試験に合格したら奢ってやるよ!サクラ、サスケお前らにも奢ってやるから頑張れよ!!」

「え?いいの!頑張ります!!」

「…そのために頑張るわけじゃないが……やってやるよ」

 イルカ先生は俺達のその反応を見て笑顔を浮かべた後、瞬身の術でこの場から消えた。イルカ先生にも応援してもらったんだ。絶対なってやるよ中忍に!!

▼ ▼ ▼ ▼

「どうじゃ?…呪印はまだ痛むか?」

「いえ……お陰で大分良くなりました」

 ナルト達が塔に辿り着くのと時を同じくして、塔の最上階の一つの部屋に三代目火影とみたらしアンコ、その他に二人の中忍がそこにいた。

 アンコの首筋に刻まれた呪印を封ずる術を三代目火影が行使するためだ。

 アンコは三日前の大蛇丸との戦闘によってボロボロのところを暗部によって助けられ、治療を搭の中で受けて安静にしていた。そして予選が終わる前に、大蛇丸によって浮かび上がってしまった呪印を押さえ込もうとしていた。

「それにしても……大蛇丸って木ノ葉伝説の、あの『三忍』の内の1人ですよね?」

「暗部すら手が出せなかった手配書レベルS級の抜け忍だろ?既に死んだって聞いてたんだがな…」

 中忍選抜試験を補佐する役目を担った二人の中忍が口を開く。

『でも、おかげであの子を欲しくなっちゃったのよねぇ。どんな手を使っても……』

『私が欲しいのは「うちはサスケ君」。それから「うずまきナルト君」よ』

『私が本当に欲しいモノを手に入れない事なんてなかった事を…ね』

 アンコの脳裏に大蛇丸の言葉が次々と浮かんでくる。

「おそらく……奴の狙いはサスケじゃろう」

「ッ!!」

「大蛇丸……奴の生き甲斐は術の開発。その為に『うちは』が必要なんじゃろうて」

 三代目火影はアンコの首筋から手を放し、窓から森を見て小さく呟く。

「火影様!大蛇丸は…あいつは『うちは』だけでなく、『うずまきナルト』もと!」

「ッ!!……ナルトまでもか!!大蛇丸……」

 中忍二人はアンコと火影の話に付いていくことが出来ない。

「……取り敢えず、試験はこのまま続行する事とする。…大蛇丸は必ず試験中に何か動きを見せる筈じゃ。警備している者はどんなに小さい事でも疑問に思ったら、わしか暗部、上忍の誰かに知らせるように!」

「「「はっ!!」」」

 アンコと中忍の三人は片膝を付いて部屋を飛び出していく。火影の言葉をここにいる全ての木ノ葉の忍びに伝えるために。

▼ ▼ ▼ ▼

「まずは『第2の試験』通過おめでとう!!」
(フフ…第2試験受験者数78名中……ここまで24名も残るなんてね。本当は1桁を考えてたのに…)

 イルカ先生と会ってから四時間後。俺達は搭の中心とも言うべき場所に来ていた。俺の周りには予選を突破した下忍達が班毎に別れて整列しているし、俺達の前には中忍試験の試験官達がずらっと並んでいる。

 その中忍の中心にはアンコさんがいる。アンコさん…大蛇丸とはあれから会えたのか分からないけど、今の様子を見る限りだと大丈夫そうだ。

 アンコさんの話を聞くかたわら周りを見てみれば、眼鏡女の仲間がボロボロになりながらもちゃんといることに気付いた。これで予選するって聞いたらびっくりするだろうなぁ。ドンマイ。

 てか、俺がブッ飛ばして埋めて来た筈の音忍達もいるし。体を見る限り、あれから苦戦らしい苦戦をしなかったようで、不敵な笑みで俺を見ていた。……後でもっかいボコるか?

 まぁ、あいつらなんて別にどうでもいいんだ。問題は、あいつだよあいつ。気持ちの悪い笑みを浮かべて俺に向けて手を振っている蛇野郎。

 結構強いの喰らわせたと思ったんだけどなぁ。カブトの奴が治療したのか分からないけど、今度は徹底的にブチのめしてやる。

▼ ▼ ▼ ▼

 いの、シカマル、チョウジの三人。

(お腹減ったよぉ〜〜!!)

(まだこんなに残ってんのかよ……めんどくせぇ〜帰りてぇ〜)

(ナルトにまた会えたのは本当に嬉しい。嬉しいけど………あのお団子先輩には絶対に負けないんだから!!)

▼ ▼ ▼ ▼

ネジ、リー、テンテンの三人。

(金髪君とお話したいなぁ〜この式?が終わったらお話しよっと♪)

(ガイ先生が一番輝いてます!!流石です!素敵です!カッコいいです!)

(うちはサスケ、うずまきナルト、それからあそこにいる砂の奴……こいつらと俺は戦いたい)

▼ ▼ ▼ ▼

我愛羅、カンクロウ、テマリの三人。

(ほっ…金髪も受かったか……って何を考えているんだ私は!!!)

(ッチ…まだこんなにいんのかよ。面倒じゃん……)

(うずまき、ナルト……俺は早くお前と戦いたいぞ…)

▼ ▼ ▼ ▼

キバ、シノ、ヒナタの三人。

(砂の奴ら……)

(…………)

(ナルト君と話したいな…ナルト君とお話すれば、元気になると思うし)

▼ ▼ ▼ ▼

(これほど残るとはのぉ……しかも残った者の殆どが新人とは…)
「あやつらが競って推薦する理由じゃな」

 三代目火影がカカシと紅、アスマの三人に顔を向ける。三人は軽く頭を下げて三代目火影の視線に答えた。

「それでは、これから火影様より『第3の試験』の説明がある。各自、心して聞くように!!では、火影様お願いします」

「うむ……これより始める『第3の試験』…その説明の前にまず一つだけ、はっきりと告げておきたい事があるのじゃ」

 三代目火影の口から語られたのは、中忍試験がなぜ他里の者と一緒に行うのか、また中忍試験の本当の理由、それら中忍になる前に知っておかなければならない事だった。

 その三代目火影の話が終わり、次いで病弱そうな忍びが前に出てくると下忍達に話し始める。

「えぇ…今回は第1、第2、それぞれの試験が甘かったせいか、少々残り過ぎてしまいましてね。中忍試験規定に乗っ取り予選を行い、『第3の試験』進出者を減らしたいと思います」

「そ、そんな……」

「先程の火影様のお話にもあったように『第3の試験』には沢山のゲストがいらっしゃるんです。ダラダラとした試合はできず、時間も限られて来るんですねぇ。……そういう理由で、体調の優れない方、これまでの説明で辞めたくなった方、今すぐ申し出て下さい。これから『直ぐに』予選が始まりますので」

「ッ!!これからすぐだと!?」

 犬塚キバが病弱忍者に向かって吼えるが、それはキバだけでなく殆どの下忍がそう思った事だろう。これでやっと家に帰れると思った秋道チョウジに至っては、ガックリと膝を付くだけでなく、滂沱の涙を流す事になった。

 そして、遂には誰も手を上げる者は誰もいなかった。第2の試験を突破した24名の下忍達は、全員これから一ヶ月後に開かれる本戦出場の切符を賭けて、戦いへと身を躍らせる事になる。

「誰もいないようですね。それでは10分後に直ぐに始めます。最初の試合は……」

 電光掲示板の方に病弱忍者が向くのに合わせて、下忍達全員がその方向に顔を向ける。そして、電光掲示板に大きくバンっと二人の人物の名前が出る。それは……。




あとがき
長々とお待たせして申し訳ありません。小説家になろうの系列、ノクターンの方で9000分以上の作品を見つけまして、それを読んでいたらこんなに時間が経っていました。いやぁ…怖いですねぇ『ハマる』って。



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