うずまきナルト……。あいつがあそこで仲間を助けるのはさっきので2回目だ。

 私の目にはあいつの動きが見えなかったし、私達の担当上忍のバキも「あいつは本当に下忍なのか?」と呟いていた。

 バキがそう言うのだから、私の目が駄目な訳じゃない。そんな時、我愛羅が邪悪な笑みを浮かべて、何やら呟いているのに気付いた。

「もう…良い……」

「我愛羅?」

 私の言葉を無視するのは今に始まった事じゃない。我愛羅はうずまきナルトが走り去った方を凝視している。

 …嫌な感じがする。里にいた時も何度か感じた、あの嫌な感じが…。

「『うちは』なんて、もうどうでも良い。『計画』なんて知った事か……」

 我愛羅の短めの茶髪が風もないのに揺れている。そして、我愛羅が背負っている瓢箪からも『あの』音が鳴りだしているのにも気付いた。

「ッ!!待てッ我愛羅!まだ…」

「邪魔をするなテマリ……殺すぞ…」

 我愛羅のその様子に気付いた私は、肩を掴んで止めようとしたが……。肩を掴もうとした私の手は、我愛羅の肩に触れるその直前にピタッとその動きを止めてしまう。

 久々に感じる我愛羅の本気の殺気。近くにいるバキとカンクロウも私同様に、動きを止めてしまった。

「血が…血が欲しいんだよ……」

 我愛羅の奴…まさかここで『あいつ』を出すつもりじゃ…。そんな考えが私の脳裏を過ぎる。

「ま、待てよ我愛羅。テマリの言う通り、お前の出番はまだ…ッ!?」

「…邪魔をするのか?」

 私の代わりに我愛羅を止めようとしたカンクロウだったが、我愛羅は私に向けていた殺気をカンクロウに向ける事で、それ以上カンクロウに言わせなかった。

 我愛羅のその殺気を受けて、カンクロウは首を千切れんばかりに横に振っている。

「…それで良い。殺されたくなければジッとしてろ…」

 クッ…我愛羅のその言葉に私達姉弟は顔を顰めてしまう。我愛羅にそう言われてしまうのは仕方のない事だと分かっている…。

 だが、我愛羅に直(じか)にそう言われると、胸が締め付けられてしまう。私がそんな事を感じていると、印を組んだ我愛羅は砂をその身体に纏ってその場から姿を消し、階下の…さっきまでうずまきナルトが立っていた場所に移動した。

「我愛羅君…まだ次の組み合わせは決まっていませんよ?」

 電光掲示板にはまだ次の試合の組み合わせは表示されていない。にも関わらず、腕を組んで司会兼審判の木ノ葉の忍びに殺気を込めた視線を我愛羅は向けた。

「そんなもの俺には関係ない…。俺以外の名前を出したら、お前を殺すぞ……」

「………仕方ありませんね。ゴホゴホ…」

 咳をしながらその忍びは火影の方を見て確認を取ったらしく、再び我愛羅を見てから電光掲示板に目を向けた。

「あいつ…『計画』潰したらどうする心算なんだよ」

 横にいるカンクロウの言葉を聞きながら、私は階下にいる我愛羅を見る。

「我愛羅……」

 そして、我愛羅の名だけが表示されていた電光掲示板に、表示されては消えていた11人の下忍の名前が漸く止まり、一人の名が表示された。

『ガアラ』VS『ザク・アブミ』

 木ノ葉か音か、はたまた草か……。今の我愛羅の相手をしなくてはならない奴には同情の念を禁じ得ない。私からはこれしか言えない…。

 苦しまずに殺される事、それだけを願うんだな。

▼ ▼ ▼ ▼

 12試合あった三次試験予選も漸く半分を消化し、残った下忍は12人。その中には、尾獣をその身に宿した人柱力の『ナルト』と『我愛羅』の二人も含まれている。

 そして、その人柱力の一人である『我愛羅』が、今戦おうとしている。

 対峙するのは音の最後の下忍、ザク・アブミ。

 原作では、呪印のせいで暴走したサスケによって両腕を折られたザクだが、今のザクはそんな事はなく五体満足で試合に臨んでいる。

▼ ▼ ▼ ▼

「砂の瓢箪野郎と戦うのは音の奴か…。シノと戦った女は鈴を付けた千本使い、そしてチョウジと戦った包帯野郎は音波使い……。さてさて、あいつはどんな攻撃をすんのかね」

 金髪君がヒナタちゃんを抱えて走り去った方に顔を向けていた私の耳に、視線を階下の二人に向けながら呟くそんなシカマル君の声が聞こえた。

「どんな奴が相手でも、あの砂の野郎には絶対勝てねぇと思うぜ」

 シカマル君の呟きに反応したのは、その近くにいた犬塚キバ君という男の子。

 この子は、ヒナタちゃんの事が好きなんだと思う。ううん、絶対そうだね。

 あの子のヒナタちゃんに向けていた顔って、ウチのリーがサクラちゃんに向けるそれと同じだもん。

「…キバの言う通りだ。俺もあいつにだけは勝てる気がしない…」

 シノ君って子がキバ君の言葉を補うように言葉を続ける。この子も、変な子だと思う。

 だって無口だと思ったら饒舌に話すし、口元隠してるし、サングラスしてるし……。でも、まぁウチのリーよりは、ましなんだろうね。

 はぁ…もう一年遅く生まれていたら金髪君達と同じ学年だったのに。

「…キバだけじゃなくてシノまでそう言うなら、あの瓢箪野郎はとんでもねぇ奴なんだろうな…」

「…嫌な匂いがするよ。あの瓢箪…」

 シカマル君は、二人の話を聞いて砂の男の子に注意を向けたみたい。ポテチを食べ続けていたデb…チョウジ君もそう呟いた。

 というか、さっきデ…って頭の中で思っただけで、チョウジ君に睨まれたんだけど…。

「そんな事より、今はヒナタの事よ!あんた達ヒナタが心配じゃないわけ!?」

 男の子4人が砂の男の子と音の下忍の試合について話をしていると、隣のいのちゃんが4人に怒鳴り声を上げた。

「そりゃ心配は心配だけどよ…」

「だったら!!」

 シカマル君のその言葉に益々怒っていくいのちゃん。でもさぁ、いのちゃん。ヒナタちゃんには金髪君が付いてるんだよ?

「いの、お前がヒナタを心配なように、俺達も同じくらい心配している。でもよ、忘れてねぇか?」

「あぁ…ヒナタにはあいつが付いてるからな。悔しいが、あいつが付いてるんならヒナタは大丈夫だ」

「キバ……」

 いのちゃんは(ヒナタちゃん以外の全員が)キバ君がヒナタちゃんを好きだと知っている。そのキバ君が、恋敵の金髪君がいるから大丈夫だと言う。

 いのちゃんが、声を小さくしてしまうのも仕方のない事だよね。

「…始まるみたいだよ……」

 チョウジ君が言うように試合が始まったみたい。キバ君達が言うように、私の勘もあの砂の子がヤバいって言ってるんだよね〜。こりゃ、さっきの試合みたいに一波乱ありそうだね。

▼ ▼ ▼ ▼

「それでは予選第7試合…始めて下さい」

 試合開始の合図と共に音の下忍、ザクが左手を我愛羅に向ける。対して我愛羅は両腕を胸の前で組んだまま動きをみせない。

「俺は木ノ葉の金髪に用があるんでな。さっさと勝たせて貰うぜ!!」

≪斬空波!!≫

 ザクの左の掌の中心に空いている穴から、全てを吹き飛ばさんとする衝撃波が放たれる。

 しかし、放たれた衝撃波が直撃すると思った瞬間、我愛羅の背負っている瓢箪から砂が飛び出してその衝撃波を防ぐ。

 砂煙舞う試合場。ザクは自分の攻撃で我愛羅が吹き飛ばされたと確信して笑みを顔に浮かべるが…。

 砂煙が晴れるとそこには、砂を前面に展開して防いだと思われる我愛羅が、対峙していた時同様の姿勢で立っていた。

(なっ!?)

 衝撃波の痕を残す砂の壁。それが、我愛羅の前に展開されている。

 …自分の攻撃が防がれた。その事実に、一時呆っとしていたザクに我愛羅が声を掛けた。

「……それだけか?」

 我愛羅は腕を組んだまま、つまらないとでも言うような目をザクに向ける。

「ッ!!今のは挨拶代りだ!」

 呆けていたザクは、その我愛羅の態度に怒りを露わにして右手をも我愛羅に向ける。

≪斬空波!!!≫

 ザクは性懲りもなく斬空波を我愛羅に放つが、それは砂の壁を吹き飛ばす事は遂になかった。

「ば、馬鹿な……俺の攻撃が…」

「くだらん……お前はもう死ね」

 自分の攻撃が効かなかった事に信じられないでいるザクに、我愛羅は砂を向かわせる。

▼ ▼ ▼ ▼

「ねぇカカシ先生…。あの砂って…」

 サクラは驚きの余り、眼を見開いて展開されている砂の壁を見る。

「……俺も長いこと忍びをやってるが、あんな術は見た事がない。土遁だと言う事が辛うじて分かる程度だ」

「木ノ葉一の業師と称されるお前でも知らないとなると……あの子、血継限界か?」

 本来『土遁』とは土や岩を利用した、術の殆んどが大規模な範囲にダメージを与えるモノ。

 決して今、我愛羅が使っているような自分自身を守ると言った小回りが効く代物ではない。

「砂の我愛羅……」

 サスケは写輪眼を発動させて、階下の戦いを凝視している。自分よりも強い者、その存在がまだいる事に対する喜びを感じながら…。

▼ ▼ ▼ ▼

 我愛羅が砂を操りザクを屠ろうとしているその頃、俺は手術中と書かれた赤いランプ、それが点灯したドアの前にいた。

『ナルト君…私は大丈夫。大丈夫だから…』

 数分前、このドアの向こうに連れていかれたヒナタが俺に言った言葉。

 その言葉を言った時のヒナタの顔は、いつも白いヒナタの顔のそれよりも青白く、とても大丈夫そうには見えなかった。

「もっと…もっと早く俺が助けに入っていればこんな事には…糞ったれッ!!!」

 ドカッ!!!

 右の壁に拳を叩き込む。遣る瀬無い感情を乗せた拳は容易く壁を凹ませる。こんな事をしてもヒナタの怪我が治るわけではない。

 それは分かっているが、やらずにはいられなかった。そんな状況の俺の耳に、廊下を歩いて来る者の足音が聞こえてきた。

「何の用だよ…」

 チャクラの感じから、俺は近づいてくるそいつが誰なのか分かっている。

「フフフ…そう嫌な顔をしないで欲しいわ。私はただ、さっきの試合のお詫びを入れに来ただけなのだから」

 嫌な笑い、そして気持ちの悪い声。糞ムカつく変態野郎が暗がりから姿を見せた。

「詫びだと?その顔は詫びを入れに来た顔じゃねぇぞ、変態」

「あら?それはごめんなさいねぇ。これでも、本当に悪いと思っているのよ?」

「……俺は今イライラしてるんだ。それ以上俺の堪に触るような事言ったら……その口がもう二度と利けないようにしてやる」

 俺のその言葉にまた、あの糞ムカつく笑いで応える大蛇丸。瞬時に螺旋丸を作り出し、直ぐにでも奴の顔面に叩き込めるように構えた。

「フフフ…本当にいいわね、君。その人を殺すのに何の躊躇いを見せない目…食べちゃいたいわ」

 原作のナルトが仙人モードになり、尚且つ風遁・螺旋丸でないと投擲出来なかったそれを、只の螺旋丸のまま俺は大蛇丸の顔面に狙いを付けて放り投げた。

 ガガガガガッッッ!!!と、俺が投げた螺旋丸は大蛇丸が寄り掛かっていた壁を音を立てて抉っていく。

 大蛇丸は反対側の壁に背を預けて、俺に笑みを向けてきた。本当にムカつく糞野郎だな、あいつ!!

「螺旋丸を投げるなんて、四代目や自来也でも出来ないわよ?…これ、以上は駄目ね。本当に殺されちゃいそうだし」

 そう言って浴衣のような和服の袖から小瓶を取り出して、俺に放り投げてきた。それをパシッと掴む。

「それはカブトの毒を解毒する薬。…あの子の毒を解毒出来るとしたら、綱手くらいの医療忍者がいなきゃ無理だからね」

「………何の心算だ…」

「言ったでしょ?私はお詫びを言いに来たって。……それじゃあね、ナルト君。君の試合楽しみにしてるわ」

 大蛇丸はそう言った後、背を向けて廊下の奥へと消えていく。このまま、ぶっ殺してやるか?

 そんな考えが一瞬俺の脳裏に走るが、今はこの薬をこのドアの向こうにいる医療班に渡す事が先決だと思考を切り替える。

 ……大蛇丸のくれるモノが本当に薬なのか心配だが、あいつがそんなセコイ真似をするとは思えない。

「…今は有りがたく貰ってやる。だが…次はお前とカブトを必ずブチ殺してやるッ!」

 廊下に消えた大蛇丸に聞こえるように、声を上げてからヒナタがいるドアに手を掛けた。

▼ ▼ ▼ ▼

 ナルトと大蛇丸が邂逅していたその時、試合場で行われていた予選第7試合は終盤に差し掛かろうとしていた。

 我愛羅の操る砂がザクの体を覆い、5〜6m上空へとザクの体を浮かべて制止していた。

(クッ…この俺がこんな奴に……)

 ザクは眼下にいる我愛羅に目を向ける。その我愛羅だが、腕を組んだまま目を閉じていた。

 それを見ていたザクはこんな時だというのに、過去の事を思い出していた。

 数年前、ザクがまだ幼い頃の事。ザクは友人はおろか、親もいない貧しい生活を送り、コソコソと盗みを働く事でしか生きる術がなかった。

 そして、そんなある日…。1つのパンを盗んだザクは大人2人にリンチに合い、身体をボロボロにして歩いている所に1人の男に声を掛けられた。

『見込みあるわね…君。その目がいいわ…』

『私の所に来れば、もっと強くなれるわよ』

『私の為に闘いなさい…』

『さあ、期待に応えて頂戴…』

 その得体の知れない男が木ノ葉の伝説の三忍の一人、大蛇丸だという事を知ったのはそれからしばらくしての事だったが、ザクにはそんな事は関係なかった。

 力を貰い、それを大蛇丸の為に役立てるだけで、今までの生活が嘘のような生活を送ることが出来た。

 それだけが、ザクの全てだった。そんなザクが、森の中ではナルトに何も出来ずにやられ、今もこうして我愛羅に何も出来ずに負ける。それがザクには許せなかった。

(これ以上…この大蛇丸様に失態を晒せるか!!)
「俺を舐めるなよ!!」

 そう言って、ザクは両手にチャクラを集中させる。今までよりも多くのチャクラをそこに集めるザク。

 今はこの砂から脱出することが先決であり、この砂は前の2回の攻撃から生半可な威力では弾けない事は実証済み。

 だからこそ、ザクは己が出せる全力でもってこの砂を吹き飛ばそうと、チャクラを両の掌に集めて行く。

 そして掌の中心にある穴を外側に向けて、斬空波を放とうとしたその時。

「死ね…雑魚が」

 我愛羅は組んでいた腕を解き、片手をザクに向けてギュッと握りしめる。

≪砂瀑送葬!≫

 我愛羅がそう言った瞬間、ザクの身体は爆発した。森の中で行ったその時を思い起こさせるようなその光景。

 血の雨が建物中に降り注いだ……。




あとがき
拍手それからメールでの感想&ご意見ありがとうございます。出来るだけ返信しようと思います。ただ、メールでの感想の返信はここでしようかと思います。

マグマさん返信遅くなり申し訳ありません。
マルチ投稿に関しては他の読者の皆様にも、言われておりますが…。あちらが大丈夫だとしても、ここシルフェニア様がマルチ投稿を了承していないことから、「ナルトの世界へ」はあちらへの投稿はしません。ご了承の程お願いします。

しゅんさん返信遅くなり申し訳ありません。
体は大丈夫なのですが、如何せん編集が終わっていないので、にじファン時まではもうしばらくかかるかと思います。

ハーデスさん返信遅くなり申し訳ありません。
ナルトのssは今はあまり書かれていませんね。私が書き始めた時はまだまだ他にも書かれている方がいらっしゃったんですが…。
ナルトの原作、仮面の男の正体、それからサスケの共闘、九尾の名前に関しても色々な方から言われていますね。そうですね…私は、このssを書き始めた時に、どれ一つも分かっていなかったので、そこはボカして書いていました。また、これもいつかどこかで書いたと思いますが、私は今のナルトがあまり好きではありません。原作は大好きです。それはこうして二次小説を書いていることからお分かりかと思いますが…。
そういう事で、このssでは九尾は九尾、名前は無いということでいこうと思っています。仮面の男はマダラで、トビ?そんなのカカシ編の時に死んじゃったんです。サスケの共闘は…サスケを離反させる予定はないので、それ自体起こらないかと思います。
長くなりましたが、これからもよろしくお願いします。



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