『サモンナイト2』二次小説

メルギトスシンドローム









第10話 「因果を律する者」

























「ご主人様!危ない!」

「―――あぅ!?」

呆然と突っ立っていたトリスに彼女の護衛獣レシィが飛びついて押し倒した。

すると一瞬前までトリスが立っていた場所を炎の魔人の生み出した竜巻が蹂躙する。

「ご主人様!大丈夫ですか!?」

「う…うん。ありがとう、レシィ……」

「ご主人様がご無事ならお礼なんかいいんです!それより、早く避難しましょう!」

「……でも……」

トリスの手を引いてすぐにでもその場を離れようとするレシィだったが、トリスはその場に縫い付けられたように動こうとしなかった。

そこからそれほど離れていない場所でもそれとよく似た光景が役者をマグナとレオルドに代えて繰り広げられていた。

「主殿!速ヤカニコノ場カラ退避シテクダサイ!本機ニハコノ場ニ留マッテ主殿ヲオ守リデキルホドノ性能ハ備ワッテオリマセン!」

「レオルド……でも、俺は……」

「ご主人様!」

「主殿!」

それぞれの護衛獣が必死になって双子召喚士を避難させようとするが、二人は自分のしでかしたことへの罪悪感でその場を離れられなくなっていた。

状況の不利を確信した黒の旅団は負傷者を回収して速やかに撤退を開始していた。

聖女一行も一度は危険域を離脱したのだが、アメルとネスティが頑なにマグナとトリスを救出に行くと言って聞かないので荒れ狂う召喚獣の勢力圏内に引き返し てきていた。

多くの生き物たちが暮らしていた人の手が付けられていない草原は、魔人が所構わずぶちまける炎の塊と妖狐が途切れなく呼び寄せる雷鳴によって焼け野原と なっていた。

持て余した力をぶつける相手のいなくなった2匹はとうとうお互いを標的として余剰魔力を放出し始めた。

稲妻と火炎がとめどなく降り注ぐ地獄でマグナとトリスの生存は絶望的かと思われたが、聖女一行が引き返してきたときには双子召喚士と護衛獣たちは無事な姿 でその場にいた。

彼らの周りには光の障壁と水の膜が発生して彼らを守護していたのだ。

「まったく、こんな壮絶な光景を二度も間近で見ることになるとはな」

「ホント、1年前の決戦の日を思い出すわね〜」

「ギブソン先輩!ミモザ先輩!」

駆けつけたネスティの言うとおり、その場には蒼の派閥先輩コンビも加わっていた。

マグナたちを防御している壁は彼らの召喚獣が生み出したものだ。

「マグナ、トリス!急いでこの場を離れるんだ!」

「ギブソン先輩……でも、あいつらは俺たちが……」

「先輩の言うことを聞きなさい!エルエルとローレライの結界も長くは持たないんだから!」

「主殿、一度戦略的撤退ヲ」

「あの子達はあたしたちが呼び出したんだから、あたしたちがなんとかしないと!」

「無茶ですよご主人様!あんなのご主人様たちだけで止められっこありません!」

「君たちは馬鹿か!先輩たちに迷惑をかけておいてこれ以上聞き分けの無いことを言うんじゃない!」

「お前らの気持ちもわからなくは無いがよ、これ以上ここに留まるのは正直きついぜ!」

先輩コンビの召喚した天使エルエルと人魚ローレライの力ではこの場にいる全員を守るだけの効果範囲を確保することはできなかった。

ネスティやミニスも自らの属性の召喚獣を呼び出して結界を張り、負傷した者にはアメルが聖女の癒しをかけているが、旅団との戦闘の直後で疲弊している彼ら がこの場に留まっていては全滅を免れないだろう。

「黒の旅団は我々の知人が引き付けてくれている。君たちは今のうちに迂回してファナンを目指すんだ!」

「確かに、現状で目的地までの強行軍は無理のようです。先輩たちはどうされるんですか?」

「私たちは派閥に戻ってあの召喚獣たちへの対策を考えるわ。被害がファナンにまで及んじゃうと金の派閥との外交問題になっちゃうしね」

「本当に申し訳ありません。僕がついていながらこんなことになってしまって……」

「気にすることはない。それより今は避難をするほうが先決だ」

「そうですね」

双子召喚士・先輩コンビと合流した聖女一行はすぐにその場を離れようとした。

いつまでもその場を動こうとしないマグナとトリスはフォルテとリューグが担ぎ上げてでも連れて行こうとするが、彼らが激しく暴れて抵抗するためうまくいか なかった。

「おい!手間かけさせるんじゃねえ!」

「さっさとここを離れねえと丸焼きになっちまうぞ!」

「ごめん皆。でも、俺たちはまた同じ過ちを犯してしまった……」

「あたしたちはあの子達に対して責任を取らなきゃいけないの……」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!サモナイト石も砕けちゃって送還のしようがないんだから逃げるしかないじゃない!」

「あなたたちは精一杯やったわ。こんなことになってしまったのは私たちにも責任があるんだから、あなたたちだけが全てを背負わなくてもいいのよ」

頑なにその場を離れようとしない双子召喚士をパーティーの全員が必死に説得しようとする。

彼らの中には仲間を見捨てていくという選択肢は最初から存在していなかった。

しかし一向に説得に応じようとしないマグナとトリスに兄弟子ネスティが業を煮やして怒鳴りつける。

「マグナ!トリス!いいかげんに……!」

「待ってください!」

兄弟子の雷を予想して一瞬首をすくめた双子召喚士だったが、横からアメルが口を挟んできたためネスティの説教は中断された。

そのアメルの顔にはいつもにはない悲壮感と決意が見て取れ、その場にいた者たちは息を飲んだ。

「マグナさん、トリスさん、行ってください。あの子たちを止めてあげてください」

「な!?アメル?!君は何を……!!」

「行ってください!あの子たちを止められるのはあなたたちしかいないんです!!」

「アメル……」

「…うん、わかった」

「「行ってくる!」」

アメルの鬼気迫る様子に皆が動けないでいるうちに双子召喚士たちは勢いよく荒れ狂う二匹の召喚獣のもとへと駆け出した。

それに気づいた他の者たちは慌てて彼らを追いかけ、ネスティはその場に留まったアメルに詰め寄る。

「アメル!君はいったいどういうつもりだ!?マグナとトリスをあんなふうに焚きつけて!!召喚石もなしに召喚獣を操ることは……」

「…わかってます、そんなことは」

「じゃあ何故?!」

「あたしにもわかりません……ただ、このままではいけないと思ったんです。あの子たちにとっても、マグナさんとトリスさんにとっても」

「このままではいけない……?」

「本当に自分でもよくわからないんです。でも、このままじゃいけない。放っておいたら取り返しのつかないことになる。そんな気がするんです……」

アメルの苦しそうにゆがめられた横顔は己の中の何かと葛藤しているようにも見えた。

おそらく本当に彼女にも理由がわからないのであろうことがネスティにもわかった。

しかしそれだけで納得するわけにはいかない。

ネスティは双子召喚士の兄弟子として、そして調律者(ロウラー)の理解者であるライルの一族として、誰よりも彼らのことを理解しているつもりだった。

しかし実際には双子の調律者(ロウラー)たちは彼にも理解のできない領域に進みつつある。

そして彼らと同じかそれ以上に理解できない存在である目の前の少女、聖女アメル。

彼女はいったい何者で、マグナ・トリスとはどういう関係なのか。

今目の前で繰り広げられている事態はいったい何を意味するというのか。

融機人(ベイガー)として先祖代々の膨大な量の情報を蓄えてきたネスティでも想像すらできなかった。

そのとき彼は、自分がアメルに対して嫉妬に近い感情を抱いていることを自覚した。

































マグナとトリスは走っていた。自らの呼び出してしまった者たちのもとへ。

どうやって彼らを止めたらいいのかなんてわからない。それでも行かなければならなかった。

マグナとトリスの双子は蒼の派閥の召喚士だが家名を持たない、平民出の成り上がりである。

幼くして派閥に連れて来られる前は北方の閑散とした町で、家も身寄りも無く二人寄り添って生きてきた。

一応トリスの方が妹ということになっているが、実際にはどちらが先に生まれたのかは定かではない。

マグナは妹だと思っているトリスを兄である自分が支えてやらなければと思っているようだが、逆にトリスは自分がしっかりしてマグナの助けにならなければと 思っている。

まだ幼い子供が生きていくには辛い北の地で二人は盗み、物乞い、不法侵入などを行ってか細い命の灯を繋いできた。

そんな彼らがそれを手にしたのは偶然だったのか運命だったのか。

たった1つの紫色に光る宝石。それが彼らの運命、因果を変えた。

(あの時、俺たちは確かに感じたんだ)

(あの石は、泣いてた。一人ぼっちで、寂しくて……)

(あれがサモナイト石だったのか、あるいはもっと別の何かだったのか、それは今ではわからないけど……)

(あたしたちはその石を抱きかかえて、もう一人じゃないよ、寂しくないよと言ってあげた)

その瞬間、彼らの秘められた魔力に反応したその石は、寂れかけた町に多大な被害をもたらした。

石は彼らの手の中から消滅し、召喚術の暴発を起こしたとしてマグナとトリスは蒼の派閥に連行された。

その後、彼らがクレスメントと呼ばれるかつて因果すら操ると言われた召喚士の一族の末裔であることが判明するのだが、それは本人たちには伏せられて今日に 至る。

(あの石は、俺たちのせいであんなことになったんだ)

(本当はあんなことする子じゃなかったのに、あたしたちが拾ったせいで)

(派閥に連れて行かれた俺たちは、無理やり召喚術の勉強をさせられた)

(二度とあんなことを繰り返さないためだと言われて我慢してたけど、本当は召喚術に関わるのは怖くなっていた)

(でも、またこんなことを繰り返すんだったら、剣術だけでなくもっと召喚術を勉強しておけばよかった)

(試験に合格したり、護衛獣を召喚したりして、あたしはもう大丈夫だと勘違いしていた)

(ごめんよ、君たちは俺たちのせいでそんなに荒れ狂っているんだな)

(ごめんなさい。あたしたちが未熟なばっかりにこんなことになってしまって)

立ち止まった彼らが見上げる先では、足元の双子召喚士に気づくそぶりも無く荒々しく魔力を放出する二匹の召喚獣。

「もうやめるんだ!お前たち!」

(俺たちのせいだと言うのなら、ちゃんと責任を取るから。だからそんなに悲しそうに寂しそうに泣かないでくれ)

「もういいの!静まって!」

(力が溢れているのならあたしたちに返してくれればいいから。元の世界に帰る方法も、あたしたちが見つけてあげるから)

「ハサハ!」

「バルレル!」

「「誓約の名の下に、悲しき呪縛から解き放たれ、我が召喚に応えよ!!」」































ハサハはね、にんげんになりたいの。

にんげんになるために、ほうじゅにまりょくをあつめながら、りゅうじんさまのおやしろでくらしていたの。

ハサハはきつねのへんげなの。

おとうさんもおかあさんもいない。

ずっとずっと、ながいあいだずっとひとりぼっちだったの。

ときどきみかけるにんげんのこどもたちは、みんなでたのしそうにあそんでいたの。

ハサハはそれをみて、たのしそうだなあとおもって、みてることしかできなかった。

にんげんはたのしそうなの。ハサハとちがって、ひとりぼっちじゃないの。

だからハサハはにんげんになりたいの。

おにいちゃんは、ハサハをにんげんにしてくれる?

ハサハがにんげんになったら、ハサハをひとりぼっちにしないでいてくれる?

いつもいっしょにいて、たのしいおあそびをおしえてくれる?

ハサハさびしいのはきらい。

だからおにいちゃん、ハサハをひとりぼっちにしないでね?






























俺様はニンゲンが大嫌いだ。

俺の100分の1も生きていないくせに勝手に俺を呼びつけて、誓約でがんじがらめにした挙句、実験とか言って人の体を好き勝手に切り刻みやがった。

だいたいニンゲンなんか俺たち悪魔の食料に過ぎないんだ。

常に負の感情を生み出して俺たちにマナを供給していればいい。それだけの存在だ。

だのに分不相応にも俺たちを使役できると勘違いしていやがる。

いちいち俺たちに突っかかってくる天使どももうざったいが、ニンゲンはそれよりもっと俺をムカムカさせる。

悪魔や天使の中には召喚されてニンゲンに忠誠を誓う奴もいると聞く。信じられねえぜ。

何者にも縛られない精神生命体の俺たちが、なんでニンゲンなんかの言いなりになるんだ。

かつての戦いで魔力が落ちちまってさえいなけりゃ、召喚なんかに応じることはなかったのに。

そうすれば、ニンゲンを嫌いになるなんてこともなかったのによ。

あん?テメエも俺を使役できるつもりでいんのかよ?

ん、テメエはまさか……いや、なんでもねえ。

ニンゲンごときがこの狂嵐の魔公子を押さえつけることができるなんて思わねえことだ。

サプレスに戻るために形だけ従ってやってもいいが、形だけだ。

ニンゲンどもで溢れかえったリィンバウムより辛気臭いサプレスの最下層のほうがマシなんでな。

ただし、酒だけは別だ。

俺に言うこときかせたけりゃ、うまい酒を持って来い。

そうすればこの悪魔王の力を哀れなニンゲンどもにちょっとだけ分けてやってもいいぜ。ちょっとだけな。

































全てが収まったとき、そこには双子の召喚士と、シルターンの着物に身を包んだ獣耳の少女、ツンツンヘアーで小悪魔的な羽と尻尾の生えた悪魔の少年が横た わっていた。

「ご主人様!」

「主殿!」

それぞれの護衛獣が召喚主のもとへ駆け寄る。どうやら二人とも気絶しているだけらしい。

「…いったいどうなってやがるんだ?」

「こっちの召喚獣二人も気絶してるだけみたいね」

フォルテは呆然とつぶやき、ケイナはハサハとバルレルに歩み寄って意識が無いことを確認する。

追いついた他の者たちもことの成り行きに驚くほか無い。

「あいつらが、あの化け物たちの正体だってのか?」

「シルヴァーナと同じくらい大きかったのに、こんなに小さくなっちゃうなんて……」

「…驚いたな」

「ええ。召喚石も無しにあれだけの魔力を持った召喚獣を押さえ込むなんてね」

一行に遅れて合流したネスティとアメルもすぐにマグナとトリスに駆け寄った。

「マグナ!トリス!」

「大丈夫ですか?!」

すぐさまアメルが癒しの力を使おうとするが、ネスティがそれを止めた。

「待てアメル。どうやらこいつらは魔力を使い果たしてしまっただけのようだ。外傷は無い」

「そうですか。よかった…」

ほっと胸をなでおろすアメル。しかし厳しい表情を崩さないネスティはレシィとレオルドにそれぞれの召喚主を担ぎ上げるように指示する。

「すぐにこの場を離れよう。いつ黒の旅団が戻ってくるかわからないからな」

「…だな。今の状態であいつらとやりあったら命がいくつあっても足りねえぜ」

「こっちの子たちはどうするの?」

「…連れて行こう。一応マグナとトリスの召喚獣だからな。放っていくわけにもいかない」

「わかったわ。それじゃ、私がこっちの女の子を。フォルテ、あんたは、男の子の方よ」

「へいへい」

ケイナがハサハを、フォルテがバルレルを担ぎ上げ、他の者も激戦の後で気が緩みそうになるのを堪えて出発の体勢を整えた。

「それではギブソン先輩、ミモザ先輩。さんざんご迷惑をおかけしましたが、僕たちはこれで。本当にありがとうございました」

「気にすることは無い。後輩が先輩に迷惑をかけるのは当たり前のことだよ」

「そうそう。それよりさっきも言ったけど、一度迂回してファナンに向かったほうが無難よ」

「わかっています」

先輩たちの助言に一言そう答えて、ネスティは海岸のほうに見えるファナンの明かりに向けて歩き出した。

他の皆も重い足を騙し騙し動かしながら一歩一歩進んでいく。

そう簡単にゼラムを脱出できるとは思っていなかったが、こんな大事になるとはきっと誰も予想していなかった。

ルヴァイドたちですらそうであろう。

彼らとはまた戦うことになるのであろうか。

今回の戦闘ではマグナたちの暴走召喚がなければおそらく黒の旅団に聖女アメルを奪われていただろう。

あれほどの組織力を持った相手に果たして自分たちは勝てるのだろうか。

いや、勝てなくてもいい。負けなければいいのだ。

しかしそれすらも困難かもしれない。

あの素顔さえわからない凄腕の黒騎士が相手では……















第10話 「因果を律する者」 おわり
第11話 「看病」 につづく













感想

今回護衛獣は一気に四体に♪

とはいえ、書き分けがしんどくなってきますね(汗)

キャラ数が増えれば描写も増やしていかないといけないのは自明の理であります。

でも、ハサハは美味しいキャラですので、これから出番を増やしていけばプラスかも?

ハッ…ハサハちゃんですか〜彼女は主人公の萌を独り占めしてしまう恐ろしいキャラで す。

あまり出しすぎない方がいいですよ〜

ん〜確かにね、ハサハのキャラ人気で一気にプラスになっても描写的にハサハ中心というえらい事に(汗)


だいたいハサハちゃんは本来3では未来編にしか出てこないのに…

黒い鳩さんが調子に乗って書いちゃうから、他のキャラよりハサハちゃんが目立ってしまってまずい事に(汗)

私まで割を食ってる感じです!

うぐっ…確かに…インパクト上当然の如く他者を駆逐しつつある (汗)

まあ、私にとって見れば面白けりゃいいけど♪(爆)

そんな事言ってて、後半になって辛い思いするのは黒い鳩さんですよ〜。

シナリオ暴走で違うお話になったら進めるのに時間がかかって大変なくせに。

ぐは!!

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