『サモンナイト2』二次小説

メルギトスシンドローム









第15話 「干渉」
























「そうか。それがパッフェルの答えなんだね」

「はい。私はナナさんと共にいきます」


貴族たちの所有する別荘に混じって気づかれることは無いが、年に一度の豊漁祭を間近に控えて賑わいの増す別荘地の片隅に蒼の派閥総帥の個人所有コテージが ある。

その銀砂の浜辺に面したテラスで総帥エクスと密偵パッフェルは向かい合っていた。


「大悪魔メルギトス……これも僕の先祖の業か。面倒なものばかり残してくれる」


エクスは苦虫を噛み潰すような表情でその名を呼ぶ。


姦計と虚言を司る大悪魔 メルギトス。

かつて、リィンバウムを我が物とするためにサプレスより大軍を率いて攻め入り、召喚兵器と化した天使アルミネとの壮絶な一騎打ちの末に相打ちとなり、禁忌 の森の封印された古の魔王。


「そんな昔話に出てくるような存在が現実に今のリィンバウムに存在しているだなんて、この平和な世界を見ていると想像もできないよ」


そう言ってエクスは目の前に広がる銀色の砂浜と青い海をみつめる。

世界は今日も昨日の続きを繰り返し、目新しい変化も無く日常を湛えている。


「しかし実際には、旧王国の崖城都市デグレアは屍人の町と化し、聖女を祭っていたレルムの村は滅ぼされ、旧王国と聖王国との全面戦争も時間の問題です」

「君は彼女の話を全面的に信用するつもりなのかい?」


いつもの飄々とした態度ではなく真剣な様子で相対する彼女にエクスは真意を測るような視線をよこす。

しかしその顔にはどこか子供らしい、面白いものを見るような表情が浮かんでいた。


「君と彼女の関係は知っているつもりだ。彼女がそんな嘘をつけるような器用な人物ではないことも認めよう。しかし、彼女の話の確実性には疑問がぬぐえな い」

「………」

「君が彼女を信用するのは勝手だ。しかし蒼の派閥総帥がそんな確実性の無い話を鵜呑みにするわけにはいかない。わかるね?」

「……はい」


大人が子供を諭すような言い方をする総帥エクスにパッフェルという密偵は肯定の意を示すしかない。


奈菜の話に確実性が無いのはパッフェルも承知していた。

しかしパッフェルは奈菜の話ではなく、奈菜自身を信用していた。

そのことはエクスにもわかっている。

そして奈菜の特異性は直接話をしたエクス自身も感じていたことであった。


「彼女の話の裏を取ることにしよう。君に抜けられちゃうと少々時間がかかるかもしれないけどね」

「…申し訳ありません」

「君には別の任務もあるんだし、しょうがないか。こっちは僕の方で何とかしておくよ」

「よろしくお願いします」


上司の皮肉に殊勝に謝るパッフェルにエクスは寂しげな笑顔を向ける。

パッフェルは自分だけのモノではないとわかっていながら、エクスは一抹の寂しさを感じずにはいられなかった。

しかしそれを表情に出したのは一瞬、次の瞬間には総帥の顔になってエクスは切り出した。


「パッフェル、君たちはスルゼン砦に向かう予定だったよね?」

「はい」


スルゼン砦で先日珍しい召喚獣が召喚されたという報告があった。

その召喚獣は名も無き世界から呼ばれた可能性が高いという話であったが、そのことは表向きには伏せられている。


1年ほど前にサイジェントという町で起きた『無色の派閥の乱』以後、エクスは名も無き世界からの召喚獣の扱いに慎重になっている。

派閥内に名も無き世界に興味を持つ者が増え、彼らが実験動物扱いされることを危惧したからだ。


そのためその召喚獣を派閥本部に徴収することはできなかったのだが、召喚主本人がそういった行いをしていないとも限らない。

だからエクスは信用の置けるパッフェルに調査を依頼したのだ。


「彼女の話によると、かなり高等な悪魔が砦を滅ぼすんだってね?」

「はい」

「ならば増援を手配しよう。それでなんとかしてくれ」

「増援?今からで間に合うのですか?」


蒼の派閥のある聖王都ゼラムからスルゼン砦までは丸一日かかる。

今からゼラムへ行って増援の手配をしていて2日後の襲撃に間に合うのだろうか?

パッフェルはそう思ったのだが、エクスはなんでもないことのように答える。


「大丈夫。その二人はもうこの町にいるから」

「二人?」

「そう。今回の任務にうってつけの二人さ」


そう言ってエクスは悪戯っぽく笑った。




























「ごめんくださーい!」


一世一代の大博打を終え、泣き腫らした顔をどうにか整えたあたしは、ユエル・夕月を伴ってモーリン宅の戸を叩いた。

パッフェルさんと話し合った結果、今後の展開のことを考えてシルヴァーナのペンダントをミニスに返しておこうということになったからだ。


「は〜い、ただ今」


家の中からアメルのものらしい返事の声と駆けてくる足音が聞こえる。

緊張しているらしいユエルは怯える子犬のように縮こまってあたしの後ろに隠れる。


そして案の定、戸を開けて顔を覗かせたのはアメルだった。

一番家庭的だし、こういうのが違和感ないんだけど、一応狙われてる身だってこと自覚してるんだろうか?


「こんにちは、アメルさん」

「まあ、ナナさんにユヅキさん、ユエルちゃんも、いらっしゃい。ナナさんのお身体はもういいんですか?」

「はい。お蔭様で、すっかり良くなりました」


寝たきりだったあたしをアメルが治してくれたことは聞いている。

心を覗いてあたしのことを知られちゃったかと心配したが、彼女のなんの含みも無い笑顔を見る限り大丈夫のようだ。


「今日はミニスちゃんに用事があって来たんですけど、ミニスちゃん居ますか?」

「あ、はい。ミニスちゃんならお部屋に居ると思いますよ。ちょっと待っていてください。呼んで来ますから」


そう言ってアメルはパタパタと家の奥に引っ込んでいった。

しばらくしてアメルに連れられてミニスが姿を現した。

途端にユエルは一層緊張してあたしの服をぎゅっと掴む。


「こんにちは、ミニスちゃん」

「こんにちは。私に用ですって?いったい何なの?」

「実は、あなたが捜してたペンダントのことなんだけど……」

「見付かったの!?」


あたしが話を切り出すとミニスはすごい剣幕で詰め寄ってきた。

それだけシルヴァーナのことを心配しているってことなんだろうけど、ユエルがすっかり怯えきってしまっている。

しかしミニスにとってもユエルにとってもいつまでもこのままというわけには行かないので、あたしは後ろに隠れているユエルを前に出るように促す。


「ほら、ユエル」

「う…うん…」


ユエルはオドオドとしながらもミニスの前に歩み出て、たくさんあるポケットの一つに手を突っ込んでそれを取り出した。


「あの…これ……」

「それ、私のペンダント?!」


おずおずとペンダントを差し出したユエルからそれを受け取ったミニスはシルヴァーナの召喚石を両手に抱える。

するとペンダントはミニスの魔力に呼応するように緑色の淡い輝きを放ちだした。

ミニスの表情が見る見る喜色を湛えていく。

きっと彼女の目にはサモナイト石を通して大空を舞う白銀の翼竜の姿が見えているのだろう。


「シルヴァーナだ!これ、シルヴァーナのペンダントだ!」


ミニスはペンダントを掲げて飛び上がるほど喜んでいる。

アメルも我が事のように嬉しそうな顔をしてミニスを祝福している。


「ありがとう!あなたが見付けてくれたのね!」

「……うん……」


ミニスに満面の笑顔でお礼を言われたユエルの表情は晴れない。

あのペンダントはユエルにとっても心の支えであった。

ユエルの故郷であるメイトルパの気配を感じさせるサモナイト石。

この世界において常に一人ぼっちだったユエルを支えてきたたった一つの宝物。

メイトルパに帰るよりもあたしたちと来ることを選んでくれたとはいえ、まだ故郷への未練はぬぐいきれないようだ。


そしてあたし自身の胸にも罪悪感が芽生えていた。

あたしはミニスが必死になってペンダントを捜していることを知っていた。

ユエルがそれを持っていることもずっと以前からわかっていた。


今までペンダントのことを話さなかったのはあたしがシナリオへの介入を恐れていたから。

ペンダントを無くしていなければミニスはマグナたちの仲間になっていなかった。

ペンダントが無ければユエルはこの世界で生き抜くことができなかった。

シルヴァーナのペンダントは2人の少女にとって良い結果をもたらした。シナリオ通りに。

あたしはシナリオ通りに事を運ぶ為にミニスにもユエルにも本当のことを話さなかった。

なんだか自分が人の運命を弄んでいるような錯覚を覚える。


あたしは知っていることを言わなかっただけだ。あたしがその場に居なくても物語は予定通りに進められただろう。

なのにこの罪悪感はなんだ。

あたしは何もしていない。彼女たちの運命に干渉していない。

なのにどうして悪いことをしている気持ちになるのだろう。

ここはゲームではない。現実だ。

あたしはプレイヤーなんかじゃない。彼女たちの運命を決める権利は無い。

なのにどうして、あたしは……


「ナナさん?どうかなさったんですか?」


ハッとして伏せていた顔をあげると、アメルが心配そうにあたしの顔を覗きこんでいた。

あたしたちの様子に気づいたのか、ミニスとユエル、夕月もこちらを心配そうに見ている。

あたしは慌てて笑顔を作り、その場を取り繕おうとする。


「な、なんでもないです!ちょっと考え事をしてただけで……」


あたしがそう言って否定するとミニスとユエルはホッとしたような顔になったが、アメルだけは未だに心配そうな顔をしている。


「本当ですか?何か悩み事があるんじゃ……」

「大丈夫です!本当、なんでもありませんから」


再度否定するが、それでもアメルは納得していないようだ。

しかしあたしが否定していることや、ミニスやユエルの前だということを気にしたのか、最後にこう付け加えることで引き下がった。


「ナナさん。悩み事があるんでしたら、いつでも相談してくださいね?」


だから悩んでないって、と言おうとしたが、アメルから有無を言わせぬ圧力を感じたあたしは大人しく頷いておく。

するとアメルは満面の笑みを浮かべて、約束ですよと嬉しそうに念を押す。


どうしてアメルはこんなにあたしのことを気にするんだろう?

そんなに悩んでるような顔してたのかな?

単にアメルが優しいから?

それともやっぱり、癒しの力を使ったときにあたしの心が見えたから?


「あれ?どうしたんだ皆?」


あたしがアメルの笑顔に隠された真意を探ろうとしていると、家の中からレオルドとハサハを従えたマグナが姿を現した。

どうやら玄関先で騒いでいるのが気になったらしい。


マグナの姿を見つけたミニスは主人の帰りを待っていた座敷犬のようにすっとんでいって今日あったことを母親に話す子供のように目をキラキラさせながらまく し立てる。


「あ、マグナ!ねえ見て!私のペンダントが返ってきたの!シルヴァーナが戻ってきたの!」

「え!本当か!?」

「うん!この子が見つけてくれたのよ」

「そっか、よかったな。ユエル、ありがとう」

「う、うん」


人懐っこい笑みを浮かべるマグナからも礼を言われ、ユエルは戸惑いながらも頷きを返す。


とそのとき、マグナの横に控えていたハサハがちょこちょことユエルに歩み寄っていった。

ハサハは両手に抱える宝玉を覗き込むような仕草をした後、ユエルを見上げて囁いた。


「おねえちゃんは、ひとりぼっちじゃないよ?」

「え!?」


己の心のうちを見透かされたユエルは驚きの声を上げる。

ハサハは視線をあたしや夕月に巡らせた後、もう一度ユエルに囁く。


「ひとりぼっちじゃないよ。ね?」


ハサハの言葉の意図を察してユエルはあたしと夕月の顔をみつめる。

あたしはなんだか恥ずかしいので照れ笑いを返す。

夕月は相変わらずの鉄面皮だが視線はしっかりユエルの目を捉えている。

そんなあたしたちの様子がユエルにはどう映ったのか、ユエルは下を向いてプルプルと震えだした。


「ユエル?」

「おねえちゃん?」


あたしとハサハが心配して声をかけると、ユエルはがばっと面を上げた。

その泣き笑いのような表情には、悲壮感は漂っていなかった。


「うん!ユエル、もう宝物が無くても大丈夫!だってユエルは一人ぼっちじゃないもん!」


ユエルがそう言ってくれて、あたしもなんだか救われたような気持ちになる。

それまで成り行きを見守っていたマグナたちも口々にユエルを祝福する。


「なんだかわからないけど、俺たちのことも忘れないでくれよなユエル」

「ユエルちゃん、あたしたちもユエルちゃんのお友達ですよ」

「そうよ。まだお礼も言い足りないんだから、これから仲良くなりましょう」

「主殿ノゴ友人りすとニハ貴女モ含マレテオリマス」

「ハサハとも、おともだちになってくれる?」


それを聞いたユエルは一瞬信じられないという表情で目を見開いて、次の瞬間にはクシャクシャの笑顔で皆の言葉に答えた。


「うん。うん!皆、ユエルの友達だよ!ずっとずっと、友達だからね!」


感極まったのか、ユエルは笑顔のまま泣き出してしまった。

あたしは慌ててユエルに駆け寄って、悪いとは思いながらもエクスのハンカチを取り出してユエルの涙をぬぐってあげる。

するとユエルはあたしに抱きついてわんわん泣き出してしまう。

最初は戸惑ったが、ユエルの温もりはあたしの心にも安心感を与え、あたしは優しい気持ちになってユエルの背を撫でてあげる。


「ナナ、ユエルは友達だよ。ずっと友達だよ」

「うん、わかってる。私はずっとユエルの友達よ」


ユエルはしばらくの間あたしの胸の中で泣き続けた。

そして落ち着いてきたと思ったらすやすやと寝付いてしまった。


仕方がないのでいつかの如くあたしが担いで夕月に後ろから支えてもらって帰ることにする。

マグナたちは人様の家の玄関で散々騒いだあたしたちに気を悪くしたふうもなく快く送り出してくれた。

夕暮れ時の港町をユエルを担いで歩いていると、まるでお母さんになったような気持ちになって少しこそばゆくなった。
































「ただいま戻りました〜」

「あ、お帰りなさいパッフェルさん」


あたし達より先に出かけたパッフェルさんはあたし達に少し遅れて仮宿に帰宅した。

ベッドではユエルが寝ているので小声で迎えの返事を返す。

それに気づいたのか、パッフェルさんも声のトーンを落とす。


「あらら?ユエルさんはおネムさんですか?」

「今日はいろいろあって疲れちゃったみたいです」


そう言ってユエルの寝顔に視線を移す。

涙の跡は拭ってあり、満面の笑みを湛えた寝顔がそこにはあった。

その笑顔を見ているだけで心にほんのり幸せが満ちてくるのはパッフェルさんも同じようだった。

しばらく無言でユエルの寝顔を見つめた後、ハッとしてパッフェルさんは切り出した。


「そうそう、ナナさんにユヅキさん、お二人に紹介しておきたい人たちがいるんですよ〜」

「え?紹介?」

「はい〜。ユエルさんにはまた後ほど紹介しますので、まずはお二人に」


そう言ってパッフェルさんは後ろ手に閉めていた戸を開けて二人の男女を室内に招き入れた。


「このたび蒼の派閥から助っ人に駆けつけてくださったお二人です。ささ、どうぞ中へ」


蒼の派閥ということはおそらく召喚士であろう二人の人物。


一人はどこにでもいそうな普通の少年。

年齢はあたしと同じくらいであろうか。

少し子供っぽく見える顔立ちだが、芯はしっかりしていそうな印象を受ける。


もう一人はおっとりとしていてお嬢様っぽい女の子。

こちらもあたしと同い年くらい。

和風っぽい服に長めの髪が似合っている気品漂う美人。


二人の男女はそれぞれの性格を現すような人懐っこい笑顔と上品なたたずまいで名乗りを上げる。


「勇人っていいます。よろしく」

「クラレットと申します。よろしくお願いいたします」

「――――――ッ!!?」


あたしは声にならない叫びを上げるしかなかった。

なんで初代サモンナイト主人公がこんなとこにいるんだーーー!!















第15話 「干渉」 おわり
第16話 「陸に上がるのは嫌ですか?」 につづく




感想

むむむっ、今回はナナちゃんとユエルちゃん良いお話ですね〜♪

ナナちゃんの罪悪感は仕方ないですけど、

ユエルちゃんは純粋ですから、お友達が出来れば少しは寂しくないでしょうね!

しかし、今回はネタが色々錯綜してるね〜

エクスとパッフェルの話は、ちょっと重要かも?

でもサモンナイト世界における1と2って時間軸が近いけど……

彼らが帰ってないとはね〜

1の主人公とヒロインですね?

主人公は選択式で動と静、男性と女性の選択で4人

神堂勇人君、深崎藤矢君、橋本夏美さん、樋口綾さん。

それから、ヒロインといいますか…まあそちらも男女2人

クラレットさんにキール君

そのうち勇人君とクラレットさんがやってきました!

そうだね、サモンナイト1の主人公とヒロインとしては一番メジャーなコンビだね。

私は藤矢とクラレットだったが(爆)

個人的には樋口綾は書きたい系統のキャラではある(笑)

とまあ、その辺はさておき、

2人はゲームのキャラであると同時に、主人公は無色の世界の住人と言うことになる。

問題なのは、勇本人は地球で普通に生活していた一般人でゲームなんかもやった事がある人間だと言う事だ。

え? 何か問題ありますか?

勇は日本人なんだろうね〜ナナと同じく……

でも、ナナにとって勇は……

ゲームの世界の住人と言う訳ですか…

それは複雑ですね〜

もちろん、ナナさんはリィンバウムをゲームの世界としてではなく受け入れ始めていますが、

それでも、違和感はぬぐえない所でしょうね。

その通り、さて、この先は浮気者さんの実力を拝見する方向で行こう。

まあ、今までの文面を見れば大丈夫だと思うけどね。

マジに私なんかより上手いし。

確かに、浮気者さんはキャラを良く理解して書いていらっしゃいますね。

黒い鳩さんのようにいきあたりばったりではありません。

ん、確かに結局の所そういったところが文章に出るからSSは怖いね〜(汗)

今後は私ももう少し詳しく調べてから書かないと恥ずかしいな〜とは思ってます(滝汗)

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