北極星  上

 

-プロローグ -


 ある説によれば特異点を元にこの宇宙は誕生と消失を繰り返して存在しているのだと誰かが言っていた。

 宇宙はビックバンとビッククランチを繰り返しエントロピーを増大させる。

 するとその時のエントロピーが次の宇宙のスーパーストリングスの大きさを決めるのだという。

 そのスーパーストリングスはカラビ・ヤウ空間への写像として投影することができ、

 その投影はいくつもの可能性を保有するものだという。

 もし粒子の素であるスーパーストリングが様々な可能性を持つ写像として投影されるのならば

 特別な方向性をもったエネルギー。例えば意志、例えば精神、そして魂。

 それもまたあらゆる可能性でどこかに投影されるのではないだろうか?

 ならばここにある一つの精神にもまた別の可能性が投影された世界があるのかもしれない。

 

                 ∽

                         

 

 

 

-月-

 

 その夜は満ちた大きな蒼い月の夜だった。

 月の光は物寂しい丘に建つ古びた教会の影を静かに伸ばす。

 光は崩壊の薫りを漂わせた教会の屋根を突き抜け

 祈りを捧げる少女だけを優しく抱擁していた。

 そして時を表現するかのように天井を突き抜けた光は

 少女からゆっくりと離れ、静寂の終わりを静かに響く足音で伝える。
 
 足音が止まると少女を抱擁していた光は女の黒く長い髪を梳く。
 
 すると祈りを捧げていた白いドレスの少女は静かに立ち上がり振り返る。

 少女と女は向かい合い、そして一言二言、女と言葉を交わせば周りに薄っすらと見せていた

 いくつかの人影は素早くどこかへ散開していった。

 そうして最後に少女は女の問いに頷くと淡い撫子色の髪を手櫛で軽く梳き女と一緒に教会を出て行った。

 

 

                ∽

 

-朝-


 誰かが何かを語りかけている。

 どうやらそれは私の名前らしい。

 ああ、そうだ。私の名はポラリスだ。

 なるほど、どちらかといえば私は寝ているというわけで、誰かがこの睡眠の邪魔をしにきたというわけか。

 しかし、今はこの心地よい睡眠から抜け出さなくてはいけない時だろうか?

 たしか昨晩、姫と共に蒼月の儀に出てそのまま今日の早朝まで城内の警備。

 その後なんとも色気のない朝帰り。そして今は睡眠をとる時間で間違いない。

 もしかして緊急召集か? いやそれであればこんな生易しい起こし方ではないだろう。

 なれば今日は休みのはずだから、このまま寝ていても問題ない。

 まぁそれも一日すっとばして明日の朝が今でなければの話だが・・・・・・。

 そう眠りと目覚めの間でぼんやりと思考をめぐらしていると別の声が頭に響いてくる。

 はて、一人はテンコとして、我が屋敷と聴覚に侵入するのは何者か?

 単なる侵入者であればテンコが何らかの攻撃的な行動にでるだろうがその気配もない。

 もしかして、私はうっかり休日を丸一日熟睡してすでに今は明日の朝なのか?

 いやいや、そんなドジをすることはさすがにあるまい。だが、しかし、万が一ということもあるか。

 はてさて、どうしたものか。どうやら思考がループという名の永久機関に落ちいってしまったようだ。
 
 まったくをもって結論がでそうにない。

 そうして、ようやく視覚による観測という方法で答えを確認すれば

 正確で素早い答えがでるのだと理解すると、心地よい眠りと思考のループに別れを告げ

 太陽の光を左右色違いの眼で確認した。

 最初に映った人物はやはり予想通りのテンコであった。いつもながら深紅の細く長い髪と白い肌は

 まるで吸血鬼どころか女の私ですら誘惑されそうな美しさを感じる。

 そうして気だるい体を起こし誘惑に身をまかせ、少女の髪を撫で梳きそしてキスを挨拶とした。

 ぼんやりと立った少女は表情一つかえず挨拶をかえし、そして訪問者を告げる。

 それを聴くとテンコとの戯れはほどほどにして私は寝室を後に居間にでる。

 そうすれば報告できいた最年少美少女参報が紅茶をすすっているのが見えた。

 彼女がこちらに気づくと立ち上がり礼をする。

 私もそれに習い礼を返し、彼女と向かい合わせにイスに座る。するとまた彼女も座る。

 そして、訪問の理由を尋ねると、「いえ近くに寄ったものですから」と彼女は答えた。

 いやいや、この少女はそんな近くに寄ったからといって私の家を訪問するほどの仲でもないし

 そんなかわいらしい一面がある娘ではあるまい。そう考えつつテンコが持ってきた紅茶をすすると、

 昨晩、当国最西方の要塞、コスモスが落城したという情報が入ってきたと少女がつぶやく。

 ふむ、要塞コスモスといえば難攻不落で有名であるはずだったと記憶している。

 たしか、あそこの地形は侵攻側にとってよろしくなく、

 国境の向こうがキャニオンで侵攻軍は天然の要塞を越えてこなくてはいけない。

 さらにこの国は大陸の隅にある小国で東と南は大海に覆われている。

 故に西方、北方に防備を集中することができその砦は強固なものである。
 
 その要塞が一晩で落ちるとはどういうことか?非常に信じがたい。

 しかしながら彼女が嘘や冗談を言ってるようにも見えない。

 とりあえず、その報告が確かかどうか尋ねると、ほぼ確定ではないかと少女は答える。

 ただ、報告書を持ってきた唯一の者も意識不明、

 それ以降の報告はなくこちらから調査員を送り確認の最中ではあると。

 そう告げると彼女はポケットから懐中時計を取り出し時間を確認し、

 パチリと懐中時計のフタを閉め立ち上がり、時間なので失礼します。と、つげ玄関に向かっていく。

 すると途中で振り返り、思い出したかのように報告書には要塞の内部から突然攻撃を受けたという

 内容が記述されていました。と付け加え、長いツインテールの先が床に着くかつかないか位まで

 深い礼をして去っていった。

 

 

 私は今一度カップに口をつけてテンコに目をやり、一つ質問をする。すると

 

「ルリ様はポラリス様の様子を見に来たかと思われます。最後のルリ様が仰せられようからすれば

要塞内部に直接転移魔法等により強襲をかけたものかと。しかし要塞への転移魔法はプロテクトで

封じられてますし、障害物や長距離がある場合の転移はクリスタルの必須条件から

非常に難しくほぼ不可能。故に今回はこの大陸でも指折りの転送魔法使いのポラリス様に

嫌疑とまではいかずも注意がいったものかと考えられますが」

 

 と淡々と答える。

 ふむ、どうやら私と同じ答えのようだが。はてさてどうしたものか、相手は僅か16歳。

 だが、天才とよばれるほどの美少女参報だ、これ以上の考えがあるのかもしれない。

 まぁどちらにしても今日の休日はおじゃんか・・・・・・。

 私はテンコに城に行くと伝えると手早く私の外出の準備を手伝う。

 そして完了すると私にしがみ付き私と転送魔法で城門前のクリスタルまで飛んだ。

    

            

                ∽

 

-偽名-


 城内の一角にある仕事部屋の机には案の定、書類が山積みされていた。

 むろん、いくらかは過去の物で片付けてないだけの話だが、

 今朝、最後に見たときより数倍の高さになっている。

 大半は恐らく要塞落城関係の報告書であろう。

 どうにもめんどくさいが、今はそんなことも言ってられないので諦めて目を通す。

 情報というヤツはとかく多いほうがいい。もちろん多すぎては覚えられないこともあるし

 ウソやら誤認などの情報も増える。だが、沢山の情報があればそれらの真偽が確かめられ

 もっとも真実に近いものが手に入ると私は信じている。

 何枚か読み続けていると、やたら読みづらい書類がある。字が汚いのではなく無駄に小さいのだ。

 マキビか・・・・・・とぼやくとテンコは黙ってメガネを差し出してくる。

 私が礼を言うと


「ハリ・マキビ補佐官の書類は読みづらいと城内で思っている者は多いようです。

こないだ噂になっていました」


 とテンコは返す。それを聴くと私はクスリと笑った。

 

 そんな感じでいくらか目を通していくと今回の砦の被害状況暫定報告があった。

 ほぼ全滅らしい。砦の警備に当たっていた師団長の死亡が載っていた。

 師団長はジロウ・ヤマダという人物らしい。

 はて・・・・・・? ジロウ・ヤマダなどという師団長はいただろうか?

 脳内の情報をあさってみたがそれらしい人物の名前はでてこない。

 師団長であればかなりの高官であり、人数もそれほど多いわけではない。

 だから大概は記憶しているし、仕事上何度か会話くらいするはずである。

 だがこの名前を聞いてもまったくそれらしい人物が思い当たらない。

 ふむ。頭の片隅で記憶をたどりながらその書類を読んでいくと、

 最後の言葉は「レッツゴー!ゲキガン3」と記述がある。はて? これは何かの間違いだろうか?

 まぁ見なかったことにして読み続けると、最後に注釈があり

 「本人の希望により一般広報での名義は、ガイ・ダイゴウジ とする」と書かれていた。

 ガイ・ダイゴウジ。ああ、思い出した思い出した。以前何度か会った事がある。

 確か、最初の自己紹介では、魂の名前がどうのこうのとか言ってたか。

 なるほどガイ・ダイゴウジというのは偽名だったのか。ふーーん、と一人で納得していると、

 偽名ならそうそう他にもいたなとふと思い出した。名前はなんだったかな?武器商ネルガルの・・・・・・

 えーとスペ・・・・・スペ?? ゴソゴソと記憶をあさっていると、コンコンとドアがノックされる。

 つい条件反射で入室を許可すると。こんにちわ。とチョビ髭にメガネの男が入室してくる。
 
 ああそうだ、


「ミスタープロスペクター!」

 
 と顔を見たとたん今まで出てこなかった名前を口に出してしまう。

 突然上げた声のせいかメガネの男は一瞬驚いた顔をするも、すぐにご機嫌うるわしく云々と挨拶をする。

 こちらも。これはこれは云々と挨拶をし本題に入る。どうやら、注文していた物ができたようだ。

 以前、城周りでテンコが賊を相手にし武器半壊させられたので、発注したものである。

 こちらに持ち込んで欲しいとお願いすると、男は


「ゴートさんこちらにお願いします」


 と言うと大きな男が箱を担いできた。 箱をドシリと部屋に置く。


「いやいや、さすがに私が運ぶには重過ぎまして。ああ、でも前回よりも軽くなってます。

ほんの8%程度ですけど、強度のほうは前回よりも11%ほど上がってます」

 

 テンコは箱をあけソレ手に取りを軽く持ち上げると、振り返り、ありがとうございますと頭をさげる。


「いやいや、ホントにそんな重い物を扱えるのですねぇ。驚きました。

しかし、前回の武器の損傷具合にも驚きましたが・・・・・・」


 と言いかけると思い出したように書類を取り出す。私はそれを読んでいく。

 やはりテンコ話し通り、重力場を使った魔法との衝撃の可能性が高いと私は結論づけた。

 しかし重力場を使った魔法は一般には使われてはいない。なぜなら使い手がほとんどいなく、

 使い手になる前に失敗して自らの魔法で死亡する確率が非常に高い、だから使い手がいても

 他者にそれを教えることはまずない。そして私のまた・・・・・・。

 その忌まわしき記憶の回顧を遮るかのように、プロスペクターは帰社しますので、

 と礼を私にかけてくれる。その声に感謝し私もまた礼を返した。

 それからなんだか睡眠不足の中、会議と言う名の拷問にかけられた。

 特にハルキ・クサカベが喋りだしたあたりがかなり危なかった。

 私からすればどうでもいい熱血論を永遠と語ってるものだからたまったもんでなはない。

 助かったのはゲンパチロウ・アキヤマである。私の状況を察してくれたのか、クサカベの発言で

 危うく堕ちそうだった所を机の下でツンツンとコッソリ刺激をくれたのであった。

 会議の内容が落城したコスモスの件だったのは確かだが、細かい内容はとんと覚えていない。

 まぁ会議をまとめた書類が後で来るからまたソレを読めばいいだろう。

 とりあえず、テンコに見回りにいかせ、机に伏せわたしは寝た。

 机に髪は撒き散らされ、髪で重力も感じ取れた。

 今の状況があられもない姿であると簡単に想像できたが、

 そんなのはどうでも良かった。とにかく眠い。そうして意識は消えていった。

 

 

                  ∽

 

-ビヒ骨ラーメン-

 

 部屋は真っ暗。明かりをつけて確認すると、夜の9時だった。

 ああ、寝すぎてしまったなと机の後がのこった頬をさすりながら

 (よく誰も起こさなかったな・・・ってか誰か起しなさいよ!) 
 
 っと頭ん中で一人ツッコミをしてみたが、

 虚しいかな、返事をしたのは腹の虫だけであった。

 この時間では食堂はしまっているので、しかたなく城内ですべての胃袋を救済している

 ホウメイさんに泣きこんで何かつくってもらおうと台所に向かった。

 しかし、そこで本人を探すも見つからず、ホウメイガールズは声をそろえて

 「帰宅しました」というのだった。

 ああ、なんてことだ。しょうがないと諦めた私は外に出る。

 さてこの時間で営業している都合のいい店はあったか?

 雪谷食堂ならやってるかな。店主、たしかサイゾウ、そんな名前だった。

 なかなかいい料理を出してくれた記憶がある。まぁ今はこの腹の虫が泣き止めば

 なんでもいいかと、余計な事は考えずに目的地に向かった。

 雪谷食堂につくと、カウンターの一番奥に腰掛ける。

 クラーケンの塩辛を肴に手酌で酒を一杯二杯。

 そして、ミニマルドラゴンの手羽先で、酒を変えて一杯二杯。

 最後はビヒモスの濃厚でまろやかなダシが旨いビヒ骨ラーメンでしめる。

 店からでれば少し冷えた夜の風が温まった体には心地よかった。

 そして、また城に帰れば残った細かい雑務をこなし、城内の警備を

 サー・フクベに引き継ぐと二人で帰宅し、気が済むまで風呂場でテンコの髪を愛でる。

 相変わらず表情がほとんどかわらないが、最近、僅かに変化があるようにも思える。

 それは私の錯覚や思い込みかも知れないが、折角の楽しみを小難しいことで台無しにするのは

 嫌だったので無視することにして、二人で一緒に就寝した。

                    

                   ∽

 

 

 

-ヒサゴン-

 

 
 気がつけば要塞コスモスが見えていた。

 2日前、城に向かえば会議会議ひたすら会議でようやく解放されたと思ったら

 コスモス奪回の作戦に狩り出された。本来私は、王宮警備の仕事なのだから

 遠征なんて職務外である。しかし、転送魔法が使えるもんだから厄介な事件が起きると

 勝手にチームに配属されている。だから今回も嫌な予感がしてはいた。

 してはいたが、コスモスまで地竜に乗って丸一日移動ってのは最悪だった。

 転送で1発ドッカンと近場まで飛びたかったが、部隊を丸ごと転送なんてできないし、

 作戦中一人勝手に行動もできないので仕方なく部隊と共に動いた。

 それにしても腰が痛い。乗る前にこっそりセイヤ・ウリバタケに相談したら、

 一番乗りやすくカスタムしたこのヒサゴンを貸してくれたが、このヒサゴンが

 他の地竜と何が違うのか結局わからずじまいのままコスモスに辿りついていた。

 一時休憩の後、重要メンバーは集合し作戦会議。

 今回の作戦の司令官はヨシサダ・ムネタケ。奇しくもコスモス防衛で

 戦死したサダアキ・ムネタケの父であった。

 そして、砲撃はルリが、地上からの攻撃はサブロウタ
 
 空中からの攻撃をリョーコ・そして制圧はアララギが隊長で作戦は進む。。
 
 私は一人さみしく潜入任務である。

 作戦は簡単である。まず、サブロウタ、リョーコ両隊が直接防壁に近づき中和する。
 
 そして、それを妨害しにきた敵と応戦、さらにそれを砲撃隊が支援。その陽動の間に私が潜入し

 防壁を張っている機関を破壊。その後、再度防壁が張られる前にオモイカネを起動しての

 ルリによるグラビティブラストで要塞の一部を丸々破壊する。そして破壊箇所から

 アララギ隊が突入、制圧にかかると言う算段だ。

 今回の作戦は意外と基本的な陽動作戦ではあるが敵の将がアズマであれば十分であろう。

 もしこれが、知将と誉れ高いジュン・アオイや戦術王女とまでいわれる敵国の王女、

 ユリカ・ミスマルであるのならばすでに我々の負けであるといってもいい。

 つまり敵国はこの要塞は本腰をいれるつもりはないということか。

 敵国にとってこんな補給が困難な要塞に力を入れても仕方がないということもあるだろうが。

 しかし本腰をいれるつもりもないのに難易度の高いコスモスをわざわざ落としたのはどういうわけか?

 それにいまだあのコスモスを無傷で落とした方法が分からない。

 確かに今回の作戦のようにプロテクトが掛かってる所に転送魔法で外から入る方法はある。

 だがそれには私が先ほど預かったこのカギとなるクリスタルがなければ不可能だ。

 特に国家機密的な所にあるクリスタルはこの世に一対でしか存在しない特殊なクリスタルを使う。

 だからカギは1つしか存在しなく、そのカギは厳重に管理されている。
  
 報告書通り内側から占領したのであれば一体、どうやってこの要塞を攻略したのか?

 特殊な技術が向こうにはあるというのだろうか。そういえば書類にはコスモスを落とした部隊は

 落城させるやいなや、コスモスから姿を消したのだという。

 そして、その後ほぼ空き巣のコスモスにアズマの部隊がそのまま占拠したと書かれていたことを

 思い出していた。

 


                 ∽

 

 

 

-星の輝く合間に -

 

 夕日に沈むコスモスを一人見ていると、声をかけられる。

 部隊でのミーティングが終わったらしい。声の主はルリだった。

 振り返ると、ルリは謝罪をしていた。

 何のことかと思えば、危険な侵入を一人に押し付けてしまったことらしい。

 いつものことだから気にはしていないと答えると、

 どうしても最小限の人数で作戦を完遂したかったものですから。

 と付け加える。確かに今、本国内の兵をいたずらに動かし警備手薄にするのは得策ではない。

 特にコスモスを落とした部隊、方法、がまったくの謎。そんなヤツらが国内に潜入しているという

 話しも出ている。ここはいかに最小限の人数で砦を取り戻すかがカギとなるだろう。
 
 それでも、一人での潜入は危険だ。転送室がいかに巧妙な隠し部屋になっていたとしても、

 相手がそれに気がつかないという保証はないし、何より気がつかれていれば飛んで火にいる夏の虫

 である。それを無事クリアしても周りは全て敵その中を掻い潜り目的の部屋を爆破。

 それらすべてが成功しても、逃げそびれば味方のグラビティブラストの餌食になってしまうかも

 しれない。確かに危険といえば危険だが、なんとなくいつものことかな?

 と特に何も思ってなかったので改めて謝罪されると少しばかりくすぐったかった。

 そうして夕日が完全に沈むまで静寂の時間を楽しむと、ルリは魔法が詰まった石を

 いくらか渡してくれた。どうやら部屋を爆破するときに使うと一緒に誘爆し派手に

 破壊してくれるそうだ。石の説明を聞くと、最後に


「わたし、作戦成功すると信じてますから」


 そう言って前に見たのと同じ礼をして去っていった。

 そうして作戦開始1時間ほど前、まだ北極星が他の星と一緒に煌いている早朝。

 各部隊は作戦の最終準備、真っ最中であった。ときにアララギ隊が妙に気合が入っている。

 そういえば、アララギ隊ってたしかルリファンクラブの集りだとかなんだとか噂をきいたが、

 どうやら本当らしい。今もルリ様の立てた作戦、命に代えても成功させるのだとか
 
 聞こえてきた。確かに、ルリは妾の子とはいえラピス王女からすれば従妹に当たる王家の

 人間ではあるので王家への忠誠といえば間違いはないかもしれないが・・・。

 しかし、ファンクラブかぁ、少しうらやましいかもしれないと思ったが、

 あれを自分に当てはめたらなんだかゲンナリしてしまった。

 そんな妄想をしてるとテンコが戻ってきて、


「では作戦に行ってきます。危険な任務に御一緒できずにすみません。

ですが戦闘中でもポラリス様に御武運があるように祈っています」


 と表情を変えずに言う。私は赤い髪を撫でながら挨拶のキスを啄ばむ。

 そうしてテンコは静かに去っていった。

 空に赤色が増し出し、紫色が天球の隅っこに追いやられたころに作戦は開始された。

 まず先発隊が少数精鋭で要塞にちょっかいをかけにいく。その中にテンコも混じっていた。

 先発隊につられて敵は湧いてくる。それをテンコはなぎ倒していく。

 振り回しているのはミスタープロスペクターが持って来てくれたヤツで外側に刃のついた輪であり

 それはテンコの身長ほどはある大きな物であった。

 特殊な硬くて軽い金属製であったがその重さは人が振り舞わすには余りにも重い。

 だがホムンクルスであるテンコには問題にはならなかった。むしろその重さを利用し

 敵を鎧や防護魔法の上から叩き割り、その反作用や重心を巧みに使いしなやかに攻撃を

 かわし攻撃に変えていく。また砲撃隊も見事だった。後方からの砲撃を考えて先発隊は人数を

 あえて減らしているが、それでもこれだけの砲撃を遠距離から味方に一切当てないとは

 見事なものである。

 さて、そろそろだと想い司令官に報告しカギとなる特殊なクリスタルを光らせると

 私は要塞内へと飛んだ。

                   

                 

 

 

 

-三重連星-
 

 クリスタルに導かれて要塞に着くと、その隠し部屋には一人の男がいた。
 
 私は男が言葉を発する前にただの肉片にするつもりだった。

 が、私は驚いた。驚いて彼の方を手で示したまま突っ立っていた。

 
「こんにちわ」

 
 それが白衣の男の第一声だった。その挨拶に私は返事もできなかった。


「おやおや、久しぶりの対面なのに挨拶もしてくれないとは切ないですねぇ」


 そう部屋に響いた。その声でハっと我にかえると無意識にその男の名を声にだした。


「ヨシオ・ヤマサキ・・・・・・」


「いやぁ、名前しっかり覚えていてくれたのですね。うれしいです。ミズ・ホクシン?

ああ、いや、ここではミズ・ポラリス。であってますか?」
  
 
 フフフとあざ笑うように男は言う。
 
 ヤマサキは私の質問に対して淡々とかたった。どうやら私が記憶しているヤマサキと同じのようだ。

 そう、研究の為なら多少の倫理や危険など目に入らない男。それが彼に対する私の記憶であった。

 そしてここで待っていたのもどうやら何かの実験をするためらしい。

 そして突然、男は提案をする。国に故郷も戻ってこないかと?

 私にかけられた容疑は調査により完全に消え、真犯人も処刑されたのだと。

 だが私は断った。今はこの国にそしてラピス王女に仕える身。今更、海をこえた遥か向こうの島国に

 戻るつもりはないと。


「残念です。ならその体、実験材料になってもらいましょう」

 
 すると突然、黒い少女が巨大な斧を振り回し割り込み、そのまま斧をとんでもない速度で振り回す。
 
 なんとかかわしてみるが向こうは予想以上に速い。間合いをあけて一瞬で強力な重力防壁を張り
 
 斧を受け止める。そして重力防壁を一瞬で振動、膨張、させて爆発を引き起こし少女を吹き飛ばす。

 もう壁に叩きつけて、つぶれたトマトにするつもりでやった。

 だが少女は壁に足をつけ跳ね上がり着地する。


「ホムンクルス」


 そうつぶやくと、


「ご名答。どうです?彼女もすごいでしょう。君の半身と同じ物。

まぁいくらか改良はしてあります。ま、所有はネルガルの物ですが私の作品です。

名前はブラック・サレナってつけてみました。

君に似てきれいな黒い髪でしょう。この子の髪はまだ短いですけどね」

 そういうことか。半身がホムンクルスの私でこのホムンクルスの完成度を

 確かめようという魂胆か。しかし、こんなところで油を売っているわけにはいかない。

 無駄に時間を消費すればするほど他の隊が危うくなる可能性が高くなる。

 ルリの言葉とテンコの言葉が頭をよぎる。そう私を信じて待っている者が私にはいる。

 なれば、もう手は一つのみ。任務に私情はいらない。

 ホムンクルスに命令を下しているヤマサキに向かって強力な魔力をまとわせ

 錫杖を重力フィールドの反発を応用して超高速で飛ばす。

 空間は突然の高速移動する物体に驚いたかのように爆音を轟かし衝撃波を生み、

 同時に着弾の甲高い音を鳴り響かす。 

 しかし錫杖は空中で止まっている。ホムンクルスが反応するより速く飛ばしたから今頃は

 ヤマサキを貫通しているはずだったが不思議なことに強力な防壁が張られていた。

 ヤマサキは研究者であるが術使いではない。だから戦闘においては一般人と大して変わらない、
 
 だから術でこれほどの防壁を作ることはできない男のはず。

 それにこの部屋は一切防壁の張れる様な機材は見当たらない。どういうことであろうか?

 
「いやいや、私もホムンクルスの研究ばかりしていたわけではないです。

ほかにも色々研究してるんですよ」


 と言うと白衣のポケットに突っ込んでいた手を引き上げるとオレンジほどの大きさの

 装置をとりだす。するとそれから防壁が張られているのがわかった。


「いやーここまでコンパクトにするには大変でしたよ。ついでにこんな機能もつけてみました」


 驚きを隠せずにいると、突然ヤマサキが消える。

 気がつくと、後ろから耳元で囁かれた。


「 ――? ――!! 」 

 
 まさかの転送だった。これには愕然し、自分の瞳孔が最大まで開いているのが鮮明に感じ取れた。


「こんなこともできるんですよ。すごいでしょう。そして、これで実験はひとまず終了です。」


「? ! ――ッ――ァッ――!! 」

 
 その言葉の終了と同時に横腹に激痛が走る。細い鋼鉄の串のようなもので刺された。
 
 そしてヤマサキがまた正面に現れたと思うと、視界一面が真っ赤に思考と共に奪われる。

 そして心臓の鼓動にあわせて何度か、痩せ細った男の顔と私の顔が連続して入れ替わる。

 左目が赤い男が出るたびに刺された痛さより気持ち悪るさが強くなり、

 自分が息をしているのかすら分からない。何かに指の先まで支配されるような悪感をも感じる。

 私はとうとう胸を押さえ膝を地面につけてしまった。

 
「なかなかおもしろいでしょう?色々研究していると面白い物にであえるんですよ。

その装置は、この世界でなく別の世界にある貴方の魂をつないで、

そして向こうの魂の結末が見れるんです」


 他にもなんだか自慢げに言ってたが、ヤマサキの言っている意味はさっぱり分からない。

 いやそれ以上にそんなことはどうでもよかった。

 ワケも分からず泣け叫びたかったがそれすら許されない。

 とにかく串のようなものを引き抜き投げ捨てる。すると大分気分がマシになり視界ももどり、

 なんとか刺されたところを押さえ立ち上がる。

「あ、抜いてもダメですよ? もう向こうとつながっているはずですから。

でも丁度いいじゃないですか。貴方の名前の北極星。それは3つの星が一つに見えて存在する

三重連星なんだそうですよ。昔の名前ホクシン、そして今の名前ポラリス、そして向こう側の貴方。

素敵ですね。これからもっと美しく輝き続けますよ。フフフ・・・・・・・それでは私はこれで。御機嫌よう」
 
 
 と言葉を残すと、ホムンクルスと共に消えていった。

 奴が消えると私は膝をつき数分休む。すると先ほどの気分の悪さは引いていき、

 刺された痛さが如実になってきた。だが痛さならどうにかなる。耐えればいい。 

 気合を入れて立ち上がり錫杖を拾い部屋をでると、作戦通りに事をすすめる。

 連続して小さい転送を繰り返す。見つかったら遠慮なくこの痛みの八つ当たりを

 ぶつけるかのように兵士達をつぶれたトマトにしていく。

 止血もしないで暴れたのが悪かったのか目標に辿りついたときは寒気がしていた。

 だがそんなものを無視し、貰った石をばら撒き、一気に爆破させ、

 タイミングを合わして転送で抜け出だす。

 しかし陣営まで直接、転送する力はもう私には残ってなく、

 念のために作っておいた安全そうな近場に転移すると、暗黒の咆哮が空に走ったのが見えた。

 ああ、任務完遂かな? と思うと私の意識は消えた。

 

 


 
                ∽

 

 

−北極星 上 完 −

 

 

 


−おまけ−

 

というわけでかなりナデシコから関係ない話になっています。

元々の始まりといえばーお絵かきBBSにあったシモンというキャラを

あれ?なんか善人そうな魔法使いな北辰がいるーと勘違いしたところからはじまりました。

元のアニメを知らなかったので、どうにも北辰にみえてしまったワケで・・・。

それから「魔法使いな悪人でない北辰ストーリー」を考えたわけです。

つまり最初はこの主人公は男北辰だったわけです。

ですが、テンコとかいろいろ話しを付け足していくと、どうしても、シリアスな話しなのにギャグっぽく

なってしまったのです。まぁ善人な男北辰な時点でギャグ路線なあげく、

少女をつれてるロリコンになるわけですから・・・。そんなわけで途中で、

じゃー女にしてみるかーと、いうことで路線を変更しました。

北辰が女かぁーといろいろ考えたのですが、世界も違うのでイメージが残る程度に

美化してみようという試みでいろいろしました。またラピスを狙うものから守護する者へとの

転換もおもしろいかと思いました。その他のキャラの配置は意外と適当ですね。何人かをのぞいて・・・。

さて、次から宿命のあの人が出てきます。それではこの辺で。次回もよければ見てやってくださいましー。

 

 

 

やみねこ=らっふるず・くちん

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 



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