悪党はショタ連れロリに御用心!?



第一話(後半)
    
    少女と少年と殺しのライセンス






「ふぅ」


そう一息、煙を輪にして吐くと今一度キセルを咥え息を強く吐くと煙は

一筋の線になり先ほどの輪の中心を通り抜けていく。

タークスビレッジから自宅に帰ってきた少女は着替えをすますと

ボンヤリとキセルを咥え込みあとはただ座っているだけである。

そんな間合いに耐えられなくなったのか変えたかったのか少年がその一連の動作のに終止符を打つ。


「先生!えっとー・・・なにか調査とか必要ですよね?」


切り出したはいいがなんとも自身が途中でなくなったのか尻つぼみになりながら提案する。


「ん?・・・んんーー」


まさに んー を伸ばした分だけ閉じた目のラインが伸びそうな顔をして考える。


「ああ、魔ネットにつないで主なニュースを集めておいてくれぬか?」


「ニュースですか?」


「うむ、ここ数日で湧き出た事件、事故から妙なモノを見たとかそういうゴシップなモノまで
 
 ジャンル別に分けて置いほしいのじゃがよいかのぉ?」


「妙な噂的なモノまでですか・・・ かなりの量になりますよ?」


そう答えを聞くと灰皿にかつりとキセルを置き灰をすて袖にしまうと


「うむ、お主が気になったものでよい。よい感を持ってるから問題ないじゃろ。」


「はぁ。わかりました。」


そう、自信なさげに答えるとリビングから出て行く。

少女はツインテールの端っこを指でねじねじと巻きつけながらその背中を眺めていた。

そうして、数分ぼさっとするとゆっくり腰をあげて少し出かけてくるとバルックに伝える。

すると部屋越しに御酒はダメですからね!という言葉が帰ってくるのを挨拶代わりにし

玄関を抜け王都に向かってのんびりと二つの長いテールを揺らし自宅から離れていった。




                               ∽




石畳の広い大通りを抜けて右へ左へと当てもなく少女は彷徨っていた。

王都でも珍しい着物を着て一人歩く少女は浮いて見えたが、

そんな人々の記憶を直ぐに消してしまうほど賑わいと急がしさと人とに溢れていた。

それからどう歩いたか当の本人でさえ覚えてはいない。ただ分かったのはいつのまにか空のブルーが

赤みががっていたのだけである。そんな空を見上げ立ち止まる。

すると声をかけられている事に気がつき振り向いた。


「お、やっぱラティマちゃんじゃないか。どうしたんだいボンヤリとしちまってさー。」


「ん?ああ、酒場の常連のオヤジか。」


そう四十代半ばのゴッツイ体の男に気力なさそうに答える。


「んーー?らしくないなー。ハハーンさてはバルックのことで悩んでるな?」


「さぁ・・・どうだかのぉ?」


そうオヤジの推測から逃げるかのように答えると


「そんな答えでもダメだぜぇ。ラティマちゃんが悩んでるときはいつも小僧のことだって酒場の常連はみんな

 知ってるさー。ハッハッハー」


その豪快な笑いに負けたと悟ったのか


「やれやれ、かなわんのぉ。」


とどこか諦め気味に答える。


「何に悩んでるかはしらないが、心配いらねぇよ。男ってのは、派手に冒険して痛い目にあったほうが成長するってもんよ。

 ラティマちゃんは少し過保護すぎるんだよ。まぁ、バルックもイイヤツだし見てくれも女かワカランほどベッピンだから

 過保護な気持ちもわからなくないけどなぁ。ハッハー。」


「ふぅーむ。まるで、お見通しじゃのぅ。」


「亀の甲より年の功ってか?ヘッヘッ、うちのにもやっと暴れ時がおわったガキがいるからなぁー。」


「まったく、わしの半分も生きてないくせに。フフフ。」


「ハハハ、ちげいねぇー。でも、そうそう、ラティマちゃんには暗い顔よりそういう笑顔が似合ってるよ。

ほれ、これもってけよ。チェリー好きだっただろ?」


そう言うとチェリーがいくらか入った小さな紙袋を渡す。


「ありがとう。」


と礼を言いながら見た目の歳相応に微笑みチェリーを受け取る。

そうして、ピントをオヤジからさらに後ろに合わせると果物屋の前であったことを確認した。


「お主、果物屋をしていたのか。そうか・・・これからはココでチェリー買わしてもらうかのぉ。」


「お?嬉しいこといってくれるねぇー。がっつり酒代稼がせてもらうよ。ガハハハ。」


「しっかりと値切らせてもらうぞ。フフフ。ではまた寄らして貰うよ。それじぁまたのぉ。」


「お手柔らかにたのむぜぇ。それじゃまたなぁ。」


そう挨拶してその場を離れると、艶やかに色帯びた赤い唇に真っ赤なチェリーを咥え考えを整理していく。


(そうだな、果物屋オヤジの言う通りじゃのぅ。あやつも男、しかも帯剣を許されし騎士じゃ。

 ならばいつか人を殺す事も、人に殺される事もあるということか・・・。

 しかしのぉ、わしはもう嫌なのじゃよ。 大切な者をこれ以上目の前で失うのは・・・。クレンツィア・・・)


そう想い空を見上げながら西門に向かっていく。

王都の作りは中心を大きな十字路にして広がり北に宮殿、東に港、南と西は各大門がある。

大門を抜けたからといって街が終わるわけではなく、その先も賑やかな商店街やら住宅街などが続く。

果物屋は港に近い東の市場や商店が並ぶ地区にあったので自宅ある隣町のトリプトファンに付く頃には

すでに無数の星が輝いていた。


                 
                      ∽


  

日が落ちたトリプトファンは静かであった。ここは居住区であるがぶっちゃければお金持ち専用居住区である。、

故に各家の庭がやたら広かったり、ドレイクポートがあったりして人口密度は低く月の光と静寂ばかりが漂っている。

彼女は特に高級な家に興味はなかったが一時期、王族やら貴族の剣術指南役などの仕事をしていたこともあり

その謝礼からこの高級住宅区に家を持つことになった。

そんなブルジョア地区に不釣合いな人影が少女の帰路を阻むかのようにあった。


「よぉ!」


そう油ぎっしゅな男に呼び止められると


「はてさて、んーどこかで会うた気がするが・・・こんなスライム顔な・・・スライム顔・・・?

 おお!先日わしをバケモノといったスライム男!」


そう挑発ともとれる独り言を挨拶にすると


「て、てめぇ! まぁいい。こないだみたいにいくと思うなよ! さ、先生アイツです。やっちゃってください。」


そう後ろにいた者を呼ぶと。何も言わず剣士が一歩二歩と前にでてくる。

すると一瞬、月の色をした光が地面と平行に走る。



「!!!」




「ほぅ・・・。さすがは剣聖、おもしろい。」


そういうと剣を抜いた男がギョロリと少女を睨む。

その剣士と少女の間にはひらりひらりと2本の桃色の長い毛が宙を舞っていた。


(こやつ・・・)


数秒のお互いはにらみ合いの末、ラティマが袖からキセルを取り出そうとする。

すると、それを阻止せんかと恐ろしく眼光が鋭い男が攻撃にでる。

研ぎ澄まされた金属に反射する月光の残像が闇を切り刻むように少女に襲い掛かるが

どれも少女の白い肌を真紅に染めることはできなかった。

彼女もまたかわす以外のことはでずにいた。


(このままでは埒があかないのぉ・・・。うむ。ならば・・・)


ジリジリと地面僅かにすりながら睨み合う。

僅かな隙をみて少女が剣士を指差し 


「ヤツァフィリ・フレッツァ!!」


と叫ぶと炎の矢が生まれ指の方向へと飛び出す。

それに対応して剣士が炎に対して構えなおす。しかしその直後、少女が


「レグラタィア!」 


と叫ぶと炎の矢は一瞬にして無数にはじけ剣士を襲う


「!」


しかし剣士は瞬く間にその炎をすべてたたき落していた。


「エルフ魔法!?・・・ちっ。うっとおしい!」


そう男が言うとすでに少女はキセルを構え魔方陣を宙に描こうとしていた。

それを阻止するように男が踏み込む。すると少女は


「リィザーディ・アロクラン!!」


と言い宙を手刀で切ると風の刃が男をに向かって放たれる

男は剣を振り、切り裂こうとするが


「カディッチィア・ディア!」


そう少女が叫ぶと風の刃は剣に当たる寸前で二つの三日月型に別れ飛び去るとUターンして剣士を左右から襲う


「ええぇい!」


とイラつくように叫びながらその二つの風の刃を切り裂きながら少女を視界に捉えるとすでに少女は魔方陣を完成させていた。


そして眩い魔方陣の中から巨大な獣が構成されていく。


「また、バルックが倒れ・・・? 違う・・・。」


と現れながら以前バルックを運んだ巨大な獣は予想がはずれたのがちょっと寂しそうに言う。


「召喚魔法だと!? 貴様本当に剣士か?」


「さぁ?剣士と名乗った覚えはないのぉ。まぁ剣を振り回すのは得意だとか言ったことはあるかもしれんが・・・?」


「まあいい、そのバケモノごと切り刻んでくれる!」


それを合図に踏み込むが


「ーーーーーーー!!!!!」


声なのか音なのか分からない雄叫びで大気を震撼させると、

突然突風が巻き起こり砂から小石まで回りに転がってるものを巻きげ塵の煙幕と石の弾丸を作り出す。

それに足をとめた剣士であったが、


「ケッホ、ケッホ・・・大馬鹿者ーーーー!!わしまで巻き添えにしてどーーーするんじゃぁーー!!!」


「うう;;・・・口の中がじゃりじゃり・・・」


そう先に根を上げたのはラティマの方であった。


「す・・・すまん・・・」


そういいながら巨大な手で自分の頭をかきながら謝ると巨大な体が突然跳ねる。

それと入れ違いに月光の残像が闇を斬る。

着地した巨人は毛が逆立つほどに拳を強く握ると、剣の間合いですら届かない所にいる剣士に向かって拳を打つ。

すると突風が剣士を襲いそれを剣士は剣で真っ二つに切り分けながら接近する。

拳圧は空圧となり風の刃に化け、剣は月の光を受け闇を切り裂く光の刃となる。

しかしどちらも手傷を負うことはなく、長い30秒が過ぎていった。

それを少し疲れた様子で見ていた少女が2つの接近する影を感じ取っていた。


「おい!お前達、そこで何してる!!」


警備兵達が叫んでこちらに二人走ってくる。

その声に気がついたか剣士は間合いを取ると懐から魔石をとりだし地面に投げつける。

すると魔石は闇夜を一瞬だけ強い光に満たし、獣の不意をつき逃走する。

夜が闇に戻る頃にはその姿は漆黒の中に消えていた。

走ってきた警備兵の一人がツインテールの少女の顔をみると「これは、ラティマ様。お怪我はありませんか?」

など気使う言葉をかけながら事の経緯を聞き出しメモを取っていく。

もう一人の警備兵は少女が召喚した巨大な獣を見たことが無いためか恐る恐る近づこうとするが

今だ声すらかけられないでいた。その様子を黙ってみた獣ではあったが、


「オレ、敵じゃない、姫の命がなければ襲わない。安心しろ。」


少し片言まじりな発音ではあるが人の言葉を喋る獣に驚き


「あ・・・え・・・ええ・・・。」


とうろたえながら警備兵は答える。


「ン・・・。 お前上着ぬげ、ボタンとれかかってる。オレが直してやる。」


そういうと手を伸ばし巨大な手で上着をつかむ。


「え??えええ??」


警備兵が戸惑っている間にいつの間にか上着を獣はとっていた。


獣は鬣のあたりを手で探るとドコからともなく針を取り出し、針の穴に自らの鬣から抜いた毛を通す。

そして服と取れかかったボタンを縫い付けていく。素早く正確にその巨大な手は細かい作業をこなしていく。

もう一方の警備兵が質問を終えるころにはバッチリ服は修繕されていた。

それもまるで一流の服屋にでもだして直したかのように完璧に。


「直った。オレの毛頑丈だから今度は前みたく簡単にほつれたりしない。

 それにオレの毛、人を守る力少しだけある。お守りくらいにはなる。よかったな。」


巨大な手で縫い物を器用にしている不自然さ爆発の獣をポカンと見ていた警備兵であったが服を受け取ると


「あ・・ありがとうございます・・・。」


そう礼をいい、直されたボタンの所をマジマジと眺めていた。


そうして、一連の聴取が終わると警備兵は戻ろうとするが、少女が二人に声をかける。


「二人とも、あの剣士にうかつに手を出すでない。お主らでは恐らくバッサリとやられるからのぉ。」


「ハッ。肝に銘じておきます。できることならそうしておきますが、しかし仕事ですから。」


「難儀よのぉ・・・。無理はするなよ。」


「ありがとうございます。」


そう答え敬礼すると警備兵は去っていった。

そしてまた静かな夜が訪れ始めた。


「ん?そういえばスライム男・・・どうしたんじゃろな・・・?」




                    ∽





翌朝、ラティマは先日バルックがまとめた資料を携帯型の魔導演算機に転送させ

ソファーでごろごろしながらそれを片手にモニターを眺めていた。


(んーーやはり目立つのは少女の失踪事件か・・・。発覚してる事件だけでも、もう15件を超える。

最初とおもわれる事件からすでに2ヶ月、誰一人としてそれ以降の目撃はなく死体すらでない。

ん?そういえばレフグライン女学院の生徒もいるな。
 
 1人・・・2人・・・。15人中6人がレフグライン女学院の魔導専攻。皆成績も優秀だった・・・か。)

しばし、少女は掌サイズの携帯演算機を胸において天井を見つめ思案にふける。

演算機のボタンを親指で器用に押しながらアマネという文字を画面に映し出し通話の表示をさせると

演算機を細長い耳に当てると、


「ん、ラティマじゃ、久しいな。いま少しよいかのぉ?」


「これはこれはラティマ様お久しぶりです。ラティマ様からお電話なんて珍しいですね。」


そう携帯演算機から優雅な女性の声が聞こえてくる。


「突然じゃが、おぬしの学園でここ2ヶ月行方不明になった者の話を聞きたい。」


「行方不明者の生徒ですか。これはまた・・・。仕事ですか?」


「ふむ。少し仕事でな。」


「そうですか、しかし、ラティマ様とはいえ外部の方にあまり情報を流すわけにはいきません。

 そうですね。学園での生徒の評価くらいまでなら。」


「それだけでも十分じゃ。よろしくたのむ。」


そう答えると、あとは頷きながら数分聞いているだけであった。


「・・・なるほど。わかった。ありがとう。ところでそちらの制服はどこで手に入る?」


「ええと、確かラティマ様がご利用になられてるブティック・クリセンタマムでも手に入るはずですが。」


「うむそうかありがとう。手間をかけたのぅ。そうじゃ、また暇ができたら飲みにでもいかぬかの?」


「それはいいですわね。また飲みに行きましょう。」


「それでは、またのぉ。」


そういうと携帯を顔から遠ざけ真ん中から折りたたむと懐にしまった。

話の内容は殆どバルックが調べた記事どおりであった。

ソファーから起き上がると窓からバルックが剣を振り回しているのが見えた。


「おおーーーい、王都にいくぞ。支度せい。」






                   ∽






ブティック・クリセンタマム。王都にある高級な服屋であり一流ブランドからオリジナルの

ドレス、カジュアルウェア、アクセサリから下着までさまざまな女性用のファッションを取り扱う王都でも有名な店である。

そこにワンペアの男女がカラリとドアについた鈴を鳴らし入ってくる。


「ハイ、いらっしゃいませぇ〜ん あら〜ん。これはラティマ様とバルック様じゃないですかぁ〜ごぶさたですわぁ〜ん」


そう低い声のクセにナヨナヨしい喋り方をしたマッスルでアフロな男が挨拶をしながら腰をクネクネさせて近づいて来る。

少女はその様子になんの反応もなかったが、後ろにいた少年は少し後ずさりをして引いていた。


「相変わらず。二人ともかわいいですわぁ〜〜ん。で今日はどのようなご用件でぇ?」


そう言うと小指を立てながら、スモークがかかった淵の厚いフォックス型の眼鏡の位置を調整する。


「うむ、実はな、ちょっと仕事でレフグライン女学院の制服が必要でな。わしに会うサイズを頼む。」


それを聞くとなぜか、つり目の眼鏡がキラリと光り


「す、すてきですわぁーーー麗しのラティマさまが女学生の制服をぉーーー!!ああ、たまらない。

 ラティマ様!in!ジョシ!コウ!セイ!ワタクシ全力をかけてコーディネートさしていただきますわ!!!」


そう叫ぶとそそくさと少女の方をつかみ店の奥のほうに連れて行った。

一方少年はドアに背中がピッタリとつきもう後ずさり出来ずにいた。


数分してから少女は奥からでてくるが、いつものツインテールはなく髪を下ろし左右に細い三つ編みを垂らしていた。

そして自慢げに


「どうじゃ、バルック!これでどっからみても、い・た・い・け・な・ジョシ!コウ!セイ!」


とセーラー服タイプの制服を身に着けた少女は言う。

少年は唖然としていた。

唖然としていたのは、その姿からなのかその言葉からなのかそれは少年ですら本人もよく分からなかったであろう。

そんな少年にどうじゃ、どうじゃと、見せ付けさまざまなアクションをしている少女にようやく少年は声をかける。


「え?・・・ああ・・・えーっと、イイと思いますよ?・・・でもちょっと、スカート短すぎません?」


「何をいっておる?この短さで見えそうで見えないのがいいのではないか、ホレホレ」


そういうとイケイケ風味に腰を揺らしスカートを踊らせて白く美しい太ももをチラチラとはみ出させていた。


「あ、え、えとー・・・」


そう少年が赤面しながら言葉に迷っていると。


「素晴らしいですわ。これならそこらの男子学生ならイチコロですわ。」


そう両手を組んで大男が答える。


「そうじゃろ、そうじゃろ! よし、では早速いくとするかの。」


そうカラリとドアを鳴らすと「ありがとうございましたぁ〜〜ん。」という言葉を背に店を出て行った。




                        ∽






真昼の公園のベンチにセーラ服の少女。もう2時間は座っているだろうか。


(むむ・・・なぜ、だれも声をかけん。ハズレだとしても一人くらいは声かけろうに・・・。 ううーーーむ。)

白い肌、ワインレッドの瞳、桃色で光沢が眩い長い髪のエルフ。

こんな時間にそんな美少女が公園にいれば間違いなくナンパな男の一人や二人は声をかけるというものである。

だが、足を組み、頬杖をつき、僅かに漂う魔力の威圧、あげくの果てには時折キセルを一服。

これではむしろ怪しさバツグンで誰も声すらかけることは無かった。それに悲しいかな当の本人は気づいていない。

それから数分、ちらりと言われた通りに木に寄りかかり遠くからこちらを観察する帯剣した少年を見る。

すると、なにやら少年、見知らぬ男と会話をしている。それを横目でのぞいていると、

見知らぬ男は、突然ダッシュで逃げ出すように去っていった。


(ん?あれはバルックの知り合いかの???ふーむ。)


それから30分ほどたってみるとまた、別の男が少年と会話をすると

今度はなにやら、絶望したかのようにうな垂れて去っていく。


(なんじゃろか・・・。ううーーむ。)


そう思い少年に近づき話を聞くと


「なに?女と間違われて・・・ナンパされたじゃと!?」


「ば・・・ばかな・・・わしに誰も声をかけてこないというのに・・・。ありえん・・・。

 バルックに・・・バルックに・・・負けるなんて・・・」


まさにorz風味に絶望していると、何を掛け違えたのか低く笑い出していた。


「フフフ・・・フフフ・・・コレは名案じゃ・・・フフフフ・・・。」


「え?あ、あの、先生?大丈夫ですか??」


そう、心配とビビリが混ざった表情で地面に伏している少女に声をかけると、

突然少女は少年の腕を強く掴む。


「ヒェ!!」


おどろいた少年は声をあげるも、直ぐに次の声を上げることになる。


「う、うわぁぁぁーーーーー!!!」


突如、少女は立ち上ると砂煙を巻きあげ少年が宙に浮くのもかまわずに

来た道をモーレツダッシュで戻っていくのであった。




             ∽





疾風怒濤の如く移動する砂煙はブティック・クリセンタマムの前でその活動を停止する。

のびきったバルックを半分引きずりながら店に入ると、


「あらあら、いかがなさいましたぁ?なにか不都合でもおありになりましたかぁ〜?」


そう、アフロのマッスルハッスルな大男が出てくると、


「そうではない、ちょっと耳をかせぃ。」


そう少女が言うと大男はしゃがんで少女の背丈にあわせて話を聞く。


「フフフ、ハハハ!!!す、すばらしいですわ!もーワタクシがんばりますわ!ハァハァ。」


その声に反応したのか伸びてた少年の意識がはっきりした時には

大きな二つの手がガッシリと彼の肩を掴んでいてもがいても振りほどくことはできなかった。


「え?ええ??、いったいどうしたんです??・・・な・・・っていうか、ハァハァってなに!??」


そういいながらなんとか首だけ回し振り返ると、目と目が合う。するとニターーーとオーナーの口が広がる。


「ひえぇーーーー。」


少年は完全に怯えてしまい、もう大男のなすがままに店の奥に連れ去られていた。

少女は少年が店の奥に消えていくのを見守っていると、


「ラティマ様、顔色が少し優れないように見受けられますが大丈夫ですか?こちらに座ってお待ちになってください。」


そう、店員がクールに言う。


「ん?ありがとう。そんなに顔にでているかのぉ?」


「いえ、普通の人は気がつかない程度です。本当は何となくそんな気がしただけですが。」


「フフフ、お主なかなかの眼力の持ち主じゃのぉー。」


「いえいえ、そんなことはありません。」


そんな会話をしながらバルックを待っていると

奥から一人のセーラ服に身を包んだ少女が、いや、少年が嫌々ながら出てきた。


「おおーーーこれは・・・なんともかわいらしい。」


そうラティマが言葉を放つと少女の姿の少年は顔を真っ赤にして俯いている。


「最高でしょう?もーこれなら誰が見てもジョシ!コウ!セイ!ですわ〜ハァハァ。」


「おお、素晴らしい働きじゃぁ。まさに、バルックinジョシ!コウ!セイ!ハァハァ。」


「ちょっと、勝手に女装させて二人で盛り上がらないでくださいよ!なんでこんなこと僕がしなくちゃいけないんですか!」


顔を真っ赤にして少女にしか見えない剣士が言うと。


「まぁまぁ、これは作戦じゃ。ワシだと全然男がよってこないが、

 お主は何も変装しなくても男に声をかけられていたからな。プププ。」


「ま・・・まさか・・・この格好で公園に何時間もいるんですか?じょ、冗談ではないですよ!」


「やーるーのーじゃ!やらなければこの服の代金にバルック貴様をオーナーにくれてやるぅーー!!」


「ちょ、むちゃくちゃですよそれ!」


そう答えチラリと大男を見ると、なぜか目と目が会いとニターと口が広がるのが見える。


「ヒィーーーー;;」


そう泣きそうな声上げると観念したかのように


「・・・わ・・・分かりましたよ・・・・や・・・・・やればいいんでしょ・・・やれば・・・。」


「おお!やってくれるか、市民の平和の為に!」


・・・市民とか平和とかじゃなく絶対自分が楽しんでるだけのくせに・・・::


そうポツリという。イヤイヤながら、少女はもう一人の少女と共に店をあとにした。


「ありがとぉ〜ございましたぁ〜またのお越しを〜〜。」




                      ∽ 





公園に赤面の少女が木陰に立っている。

スカートが気になるのか常に抑えながらうつむいている。


(うわぁ。これはすごいのぅ。バルックのやつめスカートなんて履きなれてないから風が吹くと余計に気にしすぎちゃって。

 おもしろすぎ。あ、男が声かけてる。ああ、もうダメ・・・笑いが・・・。)

そうベンチに座った少女が笑いを堪えお腹を抑えている。


「おやおや? これはこれはラティマ殿でじゃないかい。いやいや、最初わからなかったよ。」


「ん?ゲゲ、ゼツリ、あ、いや、ミキティど・・殿!?。ド・・・ドウシテココニ??」


「ンーいやねぇールーウィン君がねぇ。王都に行けばいいものが見れるっていうからさぁ。ちょっときてみたんだ。

 まぁ、そしたらセーラー服の若作りのラティマ君を見つけたわけさ。」


「面白いもの・・・ああ、それなら、アッチの方がおもしろいぞ?ククク・・・プププ。」


そう笑いを堪えながら木陰でナンパされてる少女を指す。

黒髪の美女が良く観察するように目を丸く見開きみると世界は数秒氷つく。


「ププププ・・・モーだめ・・・ブハハハ・・・ちょ・・・あれ・・・バルック君だろ??これ、最高。」


「ちょ、声大きいぞ?。ミキティ殿、プププ、アハハ。」


2人は腹を抱え地面に転がりながらも笑いを堪えようとするがそれもむなしく笑い声が漏れてしまう。


その2人にノシノシと怒りのオーラを放ちながら少女が近づいてくる。


「なに2人でわらってるんですか!こっちは、はずかしいんですから!!」


「ゴメンゴメン、いや、まさかこんなものが見れるなんて思っても無かったからさー。」

そういうとセクシーな女は少女を寝ながら見つめると。


「うは!下着まで・・・女物になってるよ・・・プ・・・プハハハ。」


「え?、イヤァーーーー。」


そう叫びながら内股にしてスカートを押さえ中を見られないように必死になると、

砂煙を上げモーレツダッシュで公園を出て行った。


「ああ、いっちゃったねー。残念。」


「少しやりすぎたかのぉ。」


笑いを堪えてきつくなってた呼吸を2人は整え一息つく。


「さて、ボクは目的も達成できたし帰ろうかな。フフフ、まったくこれならルーウィン君も見にくればよかったのに。

 しかし、ルーウィン君も人が悪いなぁ。」


                   ∽



「クッシュン」


「あら、ルーウィン様、お風邪ですか?」


「いや、恐らくミキティ殿あたりが噂してるんじゃないかな?」


「そうですか。ですが、風邪にはお気をつけください。」


「ああ、ありがとう。」


そんな、青空の草原の下で猫男とメイドのやり取りが行われていた。



                    ∽






さてさて、そんなこんなでラティマとバルックの変装捜査は打ち切りになり。

翌日の調査は少年の強い拒否から普通に2人で王都をブラブラとする方針にかわったが

何一つとして成果はでなかった。そう、夕方までは。


「先生。」


「うむ、振り返る出ないぞ。どこか暴れられる場所に出るか。」


そう小声で話すとそのまま王都を出て人気の無い駅裏の広間まで歩きだす。



「そろそろ出てきたらどうじゃ?お主らの思うように人気のないところまで来てやったぞ?」


すると、建物の影から氷の矢が少女に向かって突然飛んでくる。


「先生!」


その声と同時にそれを少年が剣で叩き砕くと、素早く右側顔辺りにまで両手で剣を持ち上げ八相の構えにうつる。


「ほう、今度は魔法使いまで用意したか?」


「ふん、今度はしくじりはしないぜ!」


そういうと例のスライム男が出てくる。


「まったく、おぬしが一番弱いくせに偉そうにのぉ。」


「ふん、まぁ、そんなことが言えるのは今のうちだな。やっちまいな。」


そう言うと陰から例の剣士と知らないメンツが数名あらわれる。


「ほほぉ。これはまた仰山用意したもんだな。女一人に・・フフフ。わしもモテモテじゃのぅ。」


そういうと少女は即座に魔方陣を描き獣を召喚する。


「ガディアお主は、あの剣士を足止めせい。バルック、お主は自分の身を守っておれ。」


そう叫ぶと回りから無数の魔法が飛んでくる。バルックは剣で魔法を叩き落とし、

ガディアは風圧で魔法を砕き、ラティマはその魔法をすべてを走り抜けかわす。

少女はそのままリーダーらしき最弱の男に近づき捕まえようとするが、突然別の影が割り込む。

そのまま影が短剣を横に振りかざす。それに合わせ跳ね上がる。短剣と腕を越え宙返りをして

そのまま力を生かす形で片足を強く地面付けると、コンパスが円を書くようにスピンさせ影と向かい合う。


(まだ、いたのか。)


そう思う間にも次の魔法の群れが襲い掛かる。

それをかわすようにバクテンをして後退。魔法はすべて地面にぶつかる。


「フレッツァル フレディネグ」


スライム男に向けて爆列の炎が少女から飛び出すも魔法のシールドに阻まれてそこで爆発する。


(シールドを張っている奴もいるということか。これは数の暴力じゃのぅ・・・。)


「先生!大丈夫ですか!! 血が出ていますよ。」


「ああ、血?怪我はしてないは・・・。」


そう言うと内股から血が白い足を伝わり地面に落ちているのに気がついた。

そして今まで移動していた場所にもいくつか付いていた。


(く、こんなときに・・・。 !!! )


反射的にその場を離れる。するとそこに雷が落ちる。

が、移動した場所には先ほど男が現れ短剣を振りかざす。それをなんとかかわすも

そのまま強烈な蹴りが少女のお腹にヒットする。蹴りでそのまま数メートル飛ばされるも

その間に大地の魔法と爆裂の魔法を順に叩きつけ砂煙を大量に起こすと、


「ガディア、バルックをつれて逃げよ!」


と叫ぶ。

砂煙の中から、少女を襲った男たちの混乱の声がいくらか聞こえたがすぐに静まる。

砂煙が終わるとそこには座り込んだ少女がいた。


「ちょっ・・・と無理だったかのぉ。降参じゃ。」


と、血を太ももから流して少女は言うとドサリと倒れる。

すると、回りから光の線が無数に入り網をつくっていき少女を覆う。


「フ、フハハハハ・・・やっと、つかまえた!!手間かけやがって。」







                  ∽








「こら離せよ!先生を助けにいかなきゃ!」


少年は獣の肩の上でジタバタしていた。


「落ち着け、バルック。姫はわざと捕まった。問題ない。」


「だけど、先生は怪我してるんだぞ!あんなに血を流してたじゃないか!」


「それも問題ない。あれは普通の血のニオイじゃなかった。むしろアレのほうが健康。」


そう獣は冷静に答える。


「健康って血を流してるのに何わけ分からないことを!とにかく、助けに行かなきゃ!!」


「あせるの良くない。冷静になれ。それにバルックは姫のいるとこ分かるのか?」


そう冷静に問いかけると


「分からない・・・。どうすればいいんだよ!」


少年は我に返るもイラツキを隠すことはできなかった。


「大丈夫、場所が判明すれば姫から合図がくる。」


「合図?」


「そう、姫はただキセル吸ってるわけじゃない。あれ、吸うたびに僅かに魔力を貯蓄してる。

 だから呪文なしでオレ達を召喚できる。その魔力が合図。ニオイでオレ場所わかるから大丈夫。」


「そうだったのか・・・。」


そして、その合図がくるのを獣と少年は夕日を眺め待つのであった。






                    ∽







少女が気が付いたときは見知らぬ部屋で魔法の檻の中であった。


「うーん・・・ここは・・・」


(ああ、つかまったんだかのぉ。しかし、股が血だらけで気持ち悪いな。

 ブティックで店員と話したときにでも何かそういうものを貰っておけばよかったかのぉ。)

そして自分の着ている物や僅かな持ち物の有無を確かめる。

(何も盗られた形跡がないな・・・。普通きぐるみを剥ぐとかするじゃろぅに。
 

 まぁそれはそれでわしとしては好都合じゃがのぉ)

そんな捕まったことは後回しに考えていると40代ほどの男が入ってくる。


「ほほぅ、目を覚ましたか。こんなカワイイ剣聖とはソソルなぁ。」


と怪しげな笑みする。


「お主は・・・ええーーと。メディレ公か。」


「ご名答。しかし、噂が本当だったなんてねぇ。ちょっと前に聞いたんだけどさ、

 タイニーエルフっていわゆる生理が遥かに来るのが遅くて人間よりもかなりキツイんだってねぇ。

 剣聖様がそこらのゴロツキに負けちゃうほどきついなんてどんなだろうねぇ。

 ほらほら、その股の血でカーペット汚さないでくれるかな?フフフ・・・。」


「ハァ・・・なんというか・・・下品じゃの・・・」

 とあきれたように少女はぼやいた。


「しかし、ボカァはラッキーだなぁーその生理のお陰で噂の実証できてさらに剣聖を捕まえられるんだからね。」


「しかし、公爵ともあろう者が何を血迷ってワシをつかまえた?」


「ふ、ふふふ、ちょっとタイニーエルフってのに興味がわいてねぇ。それに剣聖というほどの力もほしくてね。」


「力じゃと?」


「そうさ、ブラッククリスタルの力をね。」


そう、自慢げに言う。


「ふぅ。なんだか、知らぬがおしゃべりすぎるのは問題ではないかのぉ?
 
 まぁ、あとは自分で調べさしてもらうわ。これ以上大人しくしていると何されるかわからんからのぉ。」


そう言うと袖からキセルを出しそれを檻の外に投げた。

するとキセルが眩しく輝きだす。


「な、何をした??」


とあわてるメディレ公だが


「いや、別に何もしとらんよ?ただ、ちょっと魔力を開放してるまでじゃ。」


確かにキセルは輝くだけで何もしないどころか1分ほど光ると元のキセルに戻ってしまった。

輝きが消えると、側にいた兵士にキセルを拾うのを命じ、兵士はその命令通りに動きキセルを手に取ると

近くで突然爆発音が建物全体に響く。すると勢いよく兵士ごとドアが吹き飛ばされキセル宙を舞い少年が飛び出てきた。

柄を正面に剣身を背後にし脇構えに構えると、

踏み込みそのまま真横に魔法の檻を切り裂くと檻は消え少女が自由になる。


「大丈夫ですか。先生! すみません、勝手に撤退してしまって・・・。

 ですが、なんとかガディアが先生の魔力を感知してくれたのでここまでこれました。」


「よいよい、そうワシが命じたのじゃ。ガディアに無理やりにでもつれてかせないとお主、引きそうになかったからなぁ。」


そういいながらキセルを拾う。


「さて、反撃開始じゃ。バルックや、若干時間を稼げ。なに、一分も稼げればよい。」


「はい!」


帯のアタリに隠した宝石一つを取り出す。以前ルーウィンから返してもらった宝石である。


(久しいな、さぁ始めるか。)


狭いドアから兵士達やらゴロツキどもが集まってくる。外を獣が、中では剣士がその動きを阻止する。


「古に伝わりしその力よ、封印されしその力、今、封印し我が命ずるその力開放せよ!」


するとその言葉に反応し宝石は一瞬で光の粉になり少女の体に吸収されていく。


「よし、戻った。」


するとキセルで魔方陣を描き出す。獣を召喚したときとは違う図形の魔方陣であった。


「ん!まずい、バルック、なるたけ離れろ!」


そう少女が後ろに後退しながら伝えると


魔方陣が眩く光だし、そこから突然巨大な薄い柱が伸び天井を貫き破壊する。


「お・・おい・・・デカすぎだぞ?シィナ。久々で張り切るのはいいが・・・」


そう巨大な柱に声をかける少女。


「あらあらまあまあ、申し訳ありませんわ。私ったら。でも本当にお久しぶりですわ。

 もう永遠に呼ばれないかと思いました。」

そう女の声が柱から聞こえると思ったら柱はドンドン小さくなり、気がつけば1本の剣になった


「では久々に暴れるかのぉ。シィナ準備はよいか?」


「ええ、いつでもこの体、我が主の御心のままに。」


そう黒と白の剣は答える。


「先生!」


その声を聞くと兵士が少女を袈裟懸けに切ろうとしていたが

その剣が降りるよりも速く床にささった白黒の剣を抜き柄で兵士のみぞおちを抉っていた。

ふと、少女が見渡すとメディレ公の姿が無い。


「逃げられたか。」


(狙いはワシのはずじゃ、それにこのままバルックに戦い続けるわけにはいかぬな。)


そのまま兵士を蹴飛ばし、1人2人切り倒し部屋を出ると

「ガディア、バルックを援護するんじゃ。」


「御意」


と声を上げるとそのまま廊下をでて吹き抜けを飛び降りて1階のエントランスホールにでる。

そして喋る魔剣に魔力を注ぎ、襲いかかるゴロツキ一人を切る。するとゴロツキは切られたところから

突然発火し業火に襲われ黒い墨となる。それを見た周りの兵士やらゴロツキ共はたじろいだ。


「我はラティマ・グランディア。この剣は魔剣シィナ。命惜しいものは今すぐ立ち去れ。

 命惜しくないものは魔剣の業火に焼かれるがいい。」


そう叫ぶと、一人、また一人とつられるように逃げ出す。また逆に襲ってくる者も僅かにいるが

何もできず切られて黒炭になり周囲の逃走本能をかきたてるだけであった。

広間に人がほとんどいなくなると見覚えのある光速の一撃が来る。

その一撃を柄から刃の方に飛び出た小型のシールドで受けるはじく。


「ふむ。やはり来るか。いつぞやの剣士。」


「今度こそ。その命頂戴させて頂く。」


一瞬、空間に二つの残像が走るが、そのままキンとお互いをはじく。


「名を聞いておこうかのぅ。剣士よ。」


「ヒエロク・バルビス。冥土の土産にもっていくがいい。」


2人は睨み合い正眼に構える。その2人の強い圧力に近づけるものはなく。

わずかに残った兵士やゴロツキも逃げ出すか見つめるだけであった。

そして決着は一瞬できまる。

何をしたかは定かではなかったが

光速の一撃を紙一重で少女はかわしそのまま男の胴を薙いでいた。


「こ・・・これが剣聖か・・・・み・・ごと。」


それを最後の言葉に剣士は黒炭になっていった。


「惜しいな。お主ほどの剣技ほかに使い道もあったろうに・・・。」


そうつぶやき回りにいる数人に


「さぁ、次に死にたいのは誰じゃ?」


そう脅し、強烈な殺気を飛ばすと、全員姿を消して逃げ出していた。


(ふぅ、もっと始めから逃げ出してくれてると助かるのじゃがのぅ。)


そう考えながら、ガラリとした屋敷を走り先ほど捕まっていた部屋に戻る。

すると、血だらけになった少年が正眼の構えで僅かに剣を震わしながら震えていた。

床には死体と真っ赤なカーペット。少年に付いた血はすべて返り血であった。


(やはり・・・な・・・)


そう少女が思うと


「バルック!!しっかりせい。」


と声をかけ近づく。すると少年は顔を向けるも焦点があってなく。そのまま動かない。






「パシィィィーーーン」






突然少女のビンタが少年の左頬を気持ちいいくらいな音をたてて叩く。


「セ・・・センセイ・・・?」


そう一言、すると血まみれの剣はドサリと床に落ちる。


「センセイ?・・・あの・・・沢山の人が切りかかってきてもう良く分からなくて

 なんか、気が付いたら・・・・みんな死んでて、ボクも血まみれで・・・・」


そう言うと少女の方から抱きしめると。少年はうわんうわん泣きだしていた。

体に染み付いた剣戟は少年の命を救ったがそれはつまるところ無数の殺しの技である。

人を殺すことなんて剣士とはいえこの少年の歴史にこれまであったろうか。

そしてそれはまた少女が危惧していたことでもあった。

どんなに「剣を抜くときは殺す覚悟と殺される覚悟をしろ。」と教え込んでも、

現実の惨状を前にすればこうなると彼女は理解していた。それでも彼女は彼が生きていることを安心するのだった。

僅かな時間少年を抱きしめていると建物が大きく揺れだす。

すると窓から魔導鋼機兵の一部が見えた。


「バルック、急いで屋敷を出るぞ。」


そういうと部屋の端にいたガディアは壁をぶち壊し2人を肩にのせて外へと飛び降りる。

そのまま庭にでると魔導鋼機兵からの砲撃が来ては。光塊は庭に穴をあけていった。


「ホラホラ、もっと速く動かないと当たっちゃいますよ!」


そう鋼鉄の巨人から声が出てくる。


「メディレ公!しかし、あやつこんな力あったのか?」


「そら!そら!そら!そら!」


そう叫ぶと巨大な魔導鋼機兵は雨のように魔力の塊が降らす。

それをどうにかこうにかかわす獣。


「バカなこんな強力な魔力砲を連射できるとは。これではまるで王宮のエリート魔導士クラスではないか。」


(これがブラッククリスタルとか奴のいってた力なのか??)


「とりあえず、建物の影にかくれるかのぉ。」


そう屋敷を盾にして砲撃を一時的に避ける。


「バルック、大丈夫か?落ち着いたか?」


そう聞き少年の手をとる。それを見てなんとか少年は大丈夫だと答える。


「今から、お主の魔方陣の封印を解く。よいか?お主は魔方陣を維持することだけに集中しろ。

 いけるな?今は少し大変かもしれないががんばるのだぞ。」


そう言うと少年は頷き、それを確認すると少女は少年のおでこにキスをした。

少女は強く少年の手を握り、少年は目を閉じる。


「カルファーレル」


そう言葉を紡ぐと少年から12個の光の点が放たれる。そしてその点は宙を移動し正二十面体を作り上げていく。

それは一つの魔方陣でありながらさまざまな角度で複数の五芒星の魔方陣を作り上げる失われた魔方陣。

2次元の魔方陣では生み出せない究極の魔法回路がそこに誕生した。


「よし、そのまま維持するのじゃ。少し辛いかもしれんが耐えるのじゃぞ。」

そう言うと目をつぶった少年はうなずき答える。

少女は剣を地面に刺しその魔方陣を両手でボールを持つように手に取ると、

ダッシュで走り屋敷の影から出る。


「ラティニア・デグラドア・ヒュガングル・ラタス」


とエルフ魔法を唱え魔方陣を魔導鋼機兵に向ける。

魔方陣は一瞬で輝きだし巨大閃光を放つ。その光は魔導鋼機兵の砲撃すら捻じ曲げて直進する。

しかし、魔導鋼機兵の防御壁に行方を阻まれる。その力のぶつかり合いで風が吹き荒れ

すでに夜であったがそこは真昼の明るさとなんら変わらないほどの光を生み出す。


(くっ、防御壁も強力じゃのぅ。・・・だが、これで押し切ってみせる。)


「ディドァ・サンタラ!!」


魔方陣に電撃が僅かに走り、さらに閃光は大きくなる。

すると防御壁にバリバリと電撃が走り出しひび入る。


「バカな、ブラッククリスタルの力が負けているだと!?そんなのはありえない!」


最後には防御壁は耐えられなくなりパリーーンと硝子が砕けるように散った。

閃光はそのまま威力を落とさず魔導鋼機兵を包み跡形もなく消し飛ばし夜の空へと消えていった。

魔導鋼機兵の消滅を確認すると少女はへたりとその場にしゃがみこんでしまった。


「ふぅ・・・つかれた・・・」


その場で少女が休んでいると少年が近づいてくる。


「先生・・・勝ちましたね。」


「ああ・・・なんとかといったところかのぅ。」


すると空から黒い石が降ってきたのが僅かに見えた。


「ん??・・・なんだじゃ・・・?」


少女が座り込んでいる近くに転がってきた。


2人が覗き込み、バルックが手を伸ばそうとすると、


「まった!まったーまったーーーー!!」


そうどこかで聞いた声が聞こえてくる。

どこからの声か2人は回りを見回すと突然屋敷の壁に魔方陣が浮かび上がり細い手が生えてくる。


「よっこらしょ!そこーーそれにさわっちゃだめだよー。」


と今度は壁から垂直に頭が生えてきた。


「空間転移魔法!!」


少年と少女の声が重なる。


「むむむ・・・よっこらせ、やだなぁーここの防御結界、妙に粘つくよ・・・んーーーしょっと。」


そういうと確かにガムテープに貼り付けられたように皮膚やら服が壁にへばりつきながら離れるのが見えた。


(あやつ空間転移なんて超高等魔法を使うのか・・・。
 
 しかも、弱いとはいえ防御結界を強いられたこの場所にでるなんて。)


「んんー。おまたせおまたせ。いやー間に合ってよかったよー。」


と自分の体を叩く動作する。


「ミキティ殿・・・なぜココに、それに今のは空間転移魔法ではないのか?」
 

「そうそう、その石っころを回収しにきたのさぁ。空間転移魔法?そだよ。ああ、これは使い方知ってれば

ラティマ君くらいなら直ぐに覚えられるよ。」


そう答えながら白い手袋をはめると黒い石を拾い、月明かりに照らしてジックリと観察する。


(空間転移魔法なんて使い方知ってても使えるなんて代物じゃないであろうに・・・。)


「ううーーん。これはやっぱオリジナルじゃないねぇ。ということは。やっぱり面倒なことになりそうだねぇ」


「お主それが何かを知っているのか?」


「まぁねぇ。それがお仕事だしねー。でも、今日はもう遅いし、2人ともボロボロだからボクは帰るよ。」

 それじゃぁ、まったねー。」


そういうとウサミミ美女は杖の裏で地面に魔方陣を描き、空間転移をし消えてしまった。


「あ、おい、まて・・・。いってしまったな。」


「いってしまいましたね。なんだったんでしょう。」


「なんだったんじゃろな。」


と2人はポカンとしてしまっていた。


「ああーなんだか騒がしくなる前に帰ろうかのぉ。とりあえず・・・つかれた・・・。」










第一話(後編)終




あとがき

さぁさぁやっと終わりました。第1話!

なんだか後編は、前編より大幅に長くなってしまいました。

今回話が急展開ですがどうでしょう。内容理解していただけたでしょうか?

戦闘シーンが3っつもありーの、バルック君のサービスシーンありーの

オカマありーので、ちょっと無理にネタつめこみすぎたかなぁーとか思いつつ

まぁーでもこれから2話に続くためのネタや謎が満載でそれなりになんとか

まとまったかなぁーというのが個人的な意見ではあります。

しかし、本当はもっと早く終わらして、カウントダウン祭り300万HITまであと10万あたりで

出す予定だったんですが、結局あと、8万HITのカウントになってしまいました。ちょっと残念。

ちなみに、魔剣の名前のシィナはとあるサイトの雑談メンバーからアンケートをとった結果

もっともカワイイ名前ということで使用しました。まぁどこかでよく聞いた名前ではありますが

あしからずー。



拍手のほうもありがとうございます。

15:23 挿絵に萌えた。 がんばてください^^ 
    <ありがとうございます。萌えていただけて非常に光栄であります。>



これからもがんばりますのでよろしくおねがいします。


さて、不思議な世界観。なんかこう、技術的に現代レベルで、魔法も発達していて、文化も同じくらいで、けどファンタジーみたいな空気のある SSで、破綻してないものってなかなかないような。あれ、A君のなんとかっていうライトノベルでありましたっけ。どうだったかな。
読み手にある程度親切で、それでもまるっきり別の世界っていう雰囲気が出てて素敵だと思います。

個人的に煙系の道具に能力がついてたりするのに酷く惹かれるR2です。どうもイメージしやすい感があって。
あと呪文も結構系統付けられてるらしいのですが、解説やら設定やら読まなくても本文を楽しめるのはとても良いなと思いました。読んでて疲れないのって大事 ですよね。
R2は固有名詞を覚えるのが苦手な人間なので、地の文で「スライム男」のような表現をされたり、主要人物にわかり易いキャラクター付けがされているととて も嬉しいです。
途中途中で理解し辛くなってきて読み返す、ということもありませんでした。
最近個人的ですが、下手なキャラクター付けをして、やり取りをパターン化させる作品ばかり読んでいたのでやけに面白く感じられたりも。

次回も期待してます。頑張ってください。


>ジョシ!コウ!セイ!
とりあえず今回の話は全てこの言葉に集約されると思います。





押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


やみねこさんへの感想は掲示板の方へ♪



戻 る

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.