はぴねす!
〜Magic & Fairy Tale〜
Prologue 過去の夢 前編



   この世界には魔法使いが存在する。

   もちろん公にも認められ、

   さまざまな分野で活躍している人もいるし、

   魔法科という学科が存在する学校もある。



   俺は魔法使いとしての素養を持っていた。

   幼いころ魔法を形作る言葉を教えてもらってから、

   稚拙ではあるけれども、魔法を使えることができていた。



   しかし、幼いころ、公園でいじめられていた女の子を守るために魔法を使った。

   もちろん、母からも魔法を使ってはいけないと言われていた。

   当てなければ大丈夫と、放った魔法は十分な威嚇になり、

   いじめっ子たちが逃げていくと、女の子には笑顔が蘇った。

   いい事をした、という誇らしさが胸をいっぱいにする。



   このときはまだよかった。だけど、その後は……。

   俺はまだ気づいていなかったんだ。

   特別な力を持つこと、そしてそれを持たざるものたちにとって

   いかにそれが恐怖であるかを。



   女の子を助けた後の生活はただただ孤独だった。

   たしかに自分はいい事をしたけれども、この孤独には耐えられなかった。

   いじめられた女の子も止めに入ることはなかった。

   そうすれば、またターゲットにされるから……。



   その責め苦に少し耐えられなくなると、

   今でもこの街で名の知れた森の中へ入って一人悩んだり、泣いたりしていた。



   結界とかがあったらしいけど、運よくそれには引っかからなかったらしい。

   今だったら、どうして引っかからなかったのか、疑問にも思うんだけどなぁ。

   そんなときだった。あの人と出逢ったのは……。









   「どうしたんだ、こんなところで泣いて。

    特に君みたいな子には、危ないところだぞ?ここは。」



   さわやかな、明るい笑顔をしながら、銀色の長い髪をまとった女の人。

   とても綺麗でつい見入ってしまいそうな優しい笑顔だった。

   だけど、このときばかりは自分がこんなに悩んでいるのに、

   やたら笑っているのに腹が立ったなぁ。

   

   「うるさい!!!ほっといてよ!!!!」



   なんて言って、つい八つ当たりなんかしたっけ。



   「うるさいとはごあいさつだなぁ。

    さっきも言ったけど、ここは危ないんだ。

    特に君みたいな子にはね。」



   何度も同じことを繰り返すし、俺みたいな子供って

   限定されているから、何のことだかさっぱりだった。



   「なんでもないよ!!!一人にしてよ!!!!」



   「う〜ん、そうはいってもなぁ。」



   散々わめいたけど、結局その人は苦笑いしながら

   どうしようかって感じで、俺の前に立っているだけだった。

   何言っても動いてくれないから、俺の方から駆け出したんだ。



   「もう!!僕のことはほっといてよ!!!!」



   突然駆け出した俺に驚いたのか、女の人はよろめいた。

   そのせいで、動き出す反応がちょっと遅れたんだよな。



   「おっとっと、ってバカ!!

    そっちに行くんじゃない!!!くっ!!!」



   って、さっきまでとはうってかわって大声出して。








   それから自分がどこに向かっているのか

   わかんなくなるくらい走ったんだっけ……。

   しばらくしたら、誰もいなくて、心細くて、

   この世界に自分ひとりしかいないような錯覚に陥って。



   「グルルルルル」



   そんな思いにふけっていたら、突然背後から

   うなり声のようなものが聞こえてきたんだ。

   声のしたほうに振り返ると、見たことのないものがゆっくりと歩いてきていた。



   何がなんだかわからなかった。

   ひょっとしたら自分はいつの間にか違う世界に

   紛れ込んでしまったのではないかと思うほど。



   一言で言い表せることができるなら、それは鬼だ。

   見た目は少々違うけれども、ゲームか何かで見たことのあるような化け物。

   そしてそれは明らかに自分に対して敵意を持っている、

   そして一歩ずつ、確実に俺に近づいていた。



   「あ……あ……。」



   見たことない化け物に恐怖と、不安と、困惑と。

   いろんな感情が入り混じって、どうすればいいのかわからなかった。



   そして、ゆっくりとした動きではあるけれど、

   もう10メートルと離れていない位置まできていた。

   どうするべきか悩むよりも、まず、身体と口が動いていた。



   「え・・・エル・アルダルト・リ・エルス・ディ・ルテ・

    カルア・ラト・リアラ・カルティエ・エル・アダファルス!!!」



   詠唱をかみそうになりながら、なんとか早口で魔法を完成させた。

   暴走した魔力ではあるけれども、それなりの威力はあったはず。

   後は炸裂した魔力の余波で発生した煙に乗じて、

   逃げれば大丈夫、そのはずだった。



   けど、逃げることはできなかった。

   もう、目の前にいたのだから。大きく腕を振り上げ、

   目前の獲物を消去せんとする意志は絶対的なものだった。



   振り下ろされた腕はとてもゆっくりに見えた。

   これだったら、自分にもよけられる。そう知覚しているが、

   恐怖に足がすくんだのか、まったく動けなかった。

   映画やテレビを一コマずつ見ているような気分だ。

   そして、これが振り下ろされたとき、俺は死んでいる。

   ただ、そうなることだけは解った。

   その瞬間をただ待つように、じっと振り下ろされる腕を見ていた。







   刹那。視界がぶれた。

   何が起こったのかはまったくわからなかった。

   ただ、世界が高速で動いていることだけは解った。



   「はあぁぁぁぁぁ、間一髪〜〜〜〜。」



   声の主に焦点を当ててみると、さっきの女の人だった。

   気が抜けたのか、盛大なため息をついた。

   間違いなく、俺のせいなんだけどな。



   「大丈夫か?どこも怪我はないか?」



   自分を心配してくれる女の人。

   自分が迷惑をかけたのに、心配してくれた人。

   ただこのときばかりは、頷くことしかできなかった。

   一瞬のことでまだ、頭の処理が追いついていなかった。



   「じゃ、ちょっと待ってろ。すぐ終わらせるから。」



   そういって俺を地面に降ろすと、

   いつの間にか近づいてきていた化け物と対峙していた。



   危ない、そう叫ぼうとしたとき、俺は気がついた。

   彼女の腕から出血していたことを。

   そして、彼女の後ろ腰には一振りの短剣が、

   鞘と共にベルトに挿しかけられていたことを。



   「来い!!マーサ!!!」



   「おっしゃ〜!今日は俺か!!?マスター!!!」



   突然女の人の髪の毛から元気な声と共に

   赤く光る物体が飛び出してきたときは、ただ呆然としていた。

   最初は人魂かと思った。後で話したら怒られたけど。

   よく見たら小人のような姿だった。







   「一気に決めるぞ!宿れ!!!」



   鞘ごと短剣を頭上に掲げると、剣の柄にある宝玉が

   淡く光りだし、その中に赤い小人は吸い込まれていった。

   その瞬間、短剣は刀のような形になった。

   短剣のときよりも柄が長くなっていて、形は変わっても宝玉だけは同じ形をしていた。

   そして、女の人はベルトにそれを通し、居合いのような構えを取った。



   九頭龍式舞闘剣術 抜刀・閃光



   声と、鍔鳴りの音が聞こえた瞬間

   化け物は腰から真っ二つに割れた。

   斬られた部分から黒い煙を噴出しながら。



   彼女は動いていないように見えた。

   そう、見えただけ。実際には動いていた。

   それはものすごい速さで。

   あまりにも速すぎると目で追うことができない。

   それを間近で確認した瞬間でもあった。

   ただあっけにとられるだけで、何が起こったのかわからなかったほどだ。



   「ちっ!!!」



   舌打ちすると、すぐさま俺の元まで戻り、俺を抱え、走り出した。

   何事かとさっきの化け物の残骸をみると、

   突然爆ぜた。そして、幾体もの化け物が、再び俺と女の人に襲い掛かってきた。



   「うわ、わわわ。な、なに!?」



   「くそっ!群体かよ!!!」



   女の人は憤慨しながら俺を抱えたまま走る。

   俺の重さなんか気にもならないのか、

   散り散りになり追いかけてくる化け物たちを引き離していた。



   「これ、疲れるからあんまり

    使いたくないんだが、仕方ないか……。」



   十分距離が確保できたのか、

   俺を下ろすと、ため息をつきながら愚痴をこぼした。



   「戻れ、マーサ。」



   「ええ〜、もう終わりかよ〜。」



   宝玉が再び淡く輝くと、不満げな声を出しながらさっきの赤い小人が現れた。

   女の人はまた今度といいながら、苦笑いをする。

   赤い小人も、しぶしぶではあったけど、絶対だぞといいながら、宙に浮いている。



   話している間にいつの間にか化け物たちが近づいてきていた。

   我先にといった感じで、俺たちを発見してからの速さは尋常ではなかった。

   それでもまだ余裕があるのか、彼女の物腰はかなり落ち着いたものだった。



   「ジュゼ、出てきてくれ。」



   「主殿。なにか御用でござるか?」



   すると、今度はこげ茶色の人魂、もとい小人が現れた。

   声の感じからすると、かなり老人気質が強い。



   「術を使う。やつらの位置を確認してくれ。」



   「任されよ。」



   二言三言はなすと、女の人は化け物たちと向き直る。

   小人の放つ淡い光りが少し強まる。

   それと共に、彼女は言葉を紡ぎだした。

   それと共に、彼女の額が淡く光り輝いているのが見えた。



母なる地に深き眠りに溺れし龍
我が祈り 我が声を聞きて目覚めよ
                                   てんちしんめい                     くろ
纏地針冥 禍々しき身体を冥き針と成し
降り掛かりし災いを貫け
プロジェクション・ニードル
地龍の鋼針


   言葉を紡ぎ上げ、術を発動させる。

   もう後数メートルのところに迫ってきていたが、

   すべて大地から突如現れた岩の針に貫かれていた。

   そして今度こそ、黒い霧となって霧散した。

   さっきのこともあるから警戒したが、再び襲い掛かってくることはもうなかった。



   「さて、じゃあ、帰ろっか?」



   その言葉を聴いて安心したのと、さっきの恐怖、

   そして、なにより、女の人が怪我をしてまで

   自分をかばったのに、何もできなっかた自分が

   悔しくて、情けなくて、俺ははじめて人前で泣いた。

   母さんの前以外ではこれがはじめてだった。

   そんな俺を慰めるように彼女は抱きついた俺の頭を優しく撫で続けてくれた。



後編へ続く


押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


月(ユエ)さん への感想は掲示板で お願いします♪


1

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.