目の前のコロニーが爆散し、崩れていく・・・

火星の後継者、その最後の一味が占領したコロニー。





「終わった・・・」


崩壊していくコロニーを見ながら、アキトは眠るように目を瞑る


(・・・真っ暗だ・・・復讐・・・そして虚無・・・か・・・)


復讐が終わったいま、アキトに残るのは暗い闇・・・

そして脳裏にある、いままで意識して見ないようにしていた一縷の光。

それらに改めて向き合う。





(・・・終わったよ・・・ルリちゃん・・・ラピス・・・そして・・・)

「ユリカ・・・か・・・」




紡いだ言葉は外の爆音にかき消されるように宇宙に消えていった・・・。














機動戦艦ナデシコ

〜永久の誓い、永遠のパートナー〜














プロローグその1

決別






――ネルガル重工―― 『イネスの秘密医務室』



「アキト・・・ドコカニ行くノ・・・?」


ベットに横になったまま、桃色の髪の少女は、少女にとって大切な・・・ただ1人の男に尋ねる。

少女の名はラピス・ラズリ、かつてルリと呼ばれる少女を超えるために生み出され

その後火星の後継者に捕まり、様々な実験をされた果てに、男に助け出された少女。


「あぁ・・・過去の清算をしてくるだけさ・・・いい子で待ってるんだよ、ラピス・・・」


そう諭すように語り掛ける男、男の名はテンカワ・アキト、かつて全てを奪われ

彼から奪った全ての者に死をもらたしてきた死神・・・黒の王子。

対峙するものに死を振り撒く死神と化した彼だが、いまその表情に死神の面影はない

いまここにあるのは、少女に対し優しげな、見守るような声。


「ウン、ワカッた・・・早く帰ッてキてネ、アキト・・・」


そう言うと、少女は目を閉じた・・・すぐに寝息が聞こえてくる。


「・・・ありがとうラピス・・・幸せにな・・・」


男は最後に少女の顔を見て、顔を無表情に切り替えてから部屋を出て行った。

・・・安らかに眠る少女の顔には、もう昔のような『自分の元から男が居なくなる』という憂いはない、なぜなら・・・














「・・・本当に・・・いいの・・・?」

「あぁ、もうこれ以上俺のために命を削らせるつもりはない」


思いつめた表情で問いかける女性、この医務室の主、イネス・フレサンジュ

無表情のまま揺るぎない決意に満ちた声ではっきり答える男、アキト

2人は少女の部屋を出てすぐの廊下で対峙していた。


「わかったわ・・・でもあの娘の気持ちは・・・」

「砂時計をいつまでも止めておくことは出来ない・・・ラピスを頼む・・・」

「本当に・・・最後まで自分勝手ね・・・お兄ちゃん・・・」


「すまない・・・もう会うこともないだろうが・・・世話になったな・・・アイちゃん」

そう言うと男は去って行き、イネス一人がそこに残った。



「馬鹿・・・お兄ちゃん・・・本当に自分勝手・・・で・・・」


最後の言葉に、自分の想いを全て込めた・・・それでもアキトは止まってはくれなかった。

壁にもたれかかり、そのままズルズルと座り込み、ひざを抱えて、声を出さないように泣き続けた・・・。















――とある廃墟――


5年前の戦争の折、ここは損傷率が激しく、いまだに復旧がなされていない、そんないくつかの廃墟の1つ。

そこらじゅうにボロボロに壊れたビルがあり、そのビルの合間に隠れるように

テンカワアキトの愛機、ブラックサレナが静かに立っている。

アキトはユリカの入院している病院の近くの廃墟にサレナを残し、徒歩で病院へ向かっていた。

ユリカのいる病院はネルガル系列だが・・・もし軍にでも見つかれば、捕まるか殺されるだろう

病院関係者にはアカツキが話を通してあるから、いつもの格好で病院に普通に入ることが出来た。


(いまは昼間・・・ルリは普段通り通常勤務だと聞いている、これは最後の俺の使命、なすべきこと・・・

ユリカに会って、それで全てが終わる・・・)


・・・ルリには会えない、俺の予想通りだったなら、ルリを傷つけることになる。

全てを確かめて・・・結果がどちらにせよ、全て終わらせる・・・。


「確か・・・この棟か・・・」


ユリカがいる最上級VIP用の病室に向けて足を進める、そして部屋に続く最後の角を曲がる。


「やっぱりここへ来ましたね」

「っ!?」


ユリカの部屋、その扉の前に立っていた人物・・・それは


「ルリちゃん・・・どうして・・・」


男にとって、愛しい義娘、いまはナデシコCにいるはずの、ホシノ・ルリ。


「火星の後継者の残党、最後のコロニーが昨日壊滅しました、だからここに来ると思って待ってたんです」


そう無感情な声で言ったルリの顔には疲弊の様子が見えた、おそらくは昨晩からずっとここで待っていたのだろう

扉の前に簡易なイスが置かれていて、その上には掛け布団がかけてある。


「・・・今日は通常勤務中のはずじゃ・・・」

「私の能力を忘れましたか?そのくらいの情報操作なんて簡単です」


言いながら、コツコツと音を立てて歩き、アキトの前に立つ。


「どうして・・・私が居ない間に来ようとしたんですか?」


言葉の鋭い棘が心に深く突き刺さる、だが俺は・・・何も言えない

ルリと目をあわすことに耐え切れず、俺は思わず目を逸らした・・・

その瞬間、身体に軽い衝撃――。


「アキトさん・・・アキトさんっ!アキトさ んっ・・・!!


ルリはアキトの胸に飛び込んだ――アキトの服を掴み、顔を胸に押し付けて。


「ルリ・・・ちゃん・・・」


「・・・顔を・・・見ないでください・・・お願いします・・・少しだけ・・・このままで・・・」


一瞬呆気に取られたが、追い討ちをかけるようにルリのその言葉で、決意が揺れる。


(だめだ・・・もう、決めたことだ、そしてもう後戻りはできない・・・)


もう一度、冷たく自分に言い聞かせ、ルリを引き剥がすためルリの肩に手をかけ・・・


「あ・・・」


まるで自分の身体を操っていた糸が切れたような感覚、アキトは崩れるように倒れこんだ。


「え・・・ア・・アキトさん!?」


倒れこんだアキトにルリが駆け寄る・・・ルリの目は赤く、涙の跡がうっすら残っていた。


「・・・大丈夫だ・・・眩暈がしただけ・・・それより、ユリカの部屋に・・・」

「・・・わかりました・・・本当に・・・大丈夫なんですよね・・・?」

「あぁ・・・」


すぐに立ち上がったアキトを見て、ルリの表情は晴れないが、とりあえずは納得したようだ

原因はわかっている、ラピスからのリンクが断たれた、それはラピスの記憶が失われたことを意味する。


(こんどこそ本当のさよならだな、ラピス・・・そしてこれで・・・本当に後戻りはできない・・・)


正確にはラピスの記憶を消したわけではない、リンクのことを忘れ

ラピスの中での『アキト』の存在を、イネスにすり替えたのだ。

違和感は残るかもしれないが、時が解決してくれるだろう・・・。

イネスも、ラピスを必ず幸せにしてくれると約束してくれた、彼女なら大丈夫だろう

幼いころに母親と生き別れた彼女は、『家族』というものの大切さを知っている・・・。

だが俺は・・・。


「ルリちゃん・・・この部屋に入ったら、君はきっと後悔する・・・それでも、入るのか?」

「?・・・それはどういう・・・・・・いえ、入ります、どんなことになっても・・・家族として、受け止めてみせます」


その言葉はアキトの心を深く抉った、それを・・・いまから壊してしまうかもしれないから・・・

だが決意は変えられない、そうルリの瞳は言っている。


「わかった・・・」


そう応えて、バイザーを外し、扉に手を伸ばす――。







コンコン


「はぁ〜い」

「失礼する・・・」

「失礼します」


対峙する3人・・・始めに口を開いたのは・・・


「あ、ルリちゃんいらっしゃい・・・その人は?ルリちゃんの知り合い?」


あっけらかんとした顔でアキトを指差し、ルリに問う


「な・・・何を言ってるんですか?!アキトさんですよ!!わからないんですか?!!」



ルリは、ユリカはアキトが死んだことになっていることは知らない。

事情はユリカにショックを与えるため言ってはいないが、先日見舞いに来た時も、ユリカは


「すぐにアキトが迎えにきてくれる、だってアキトは王子さまだもん」などと言っていた・・・。


「あはは、何言ってるの?ルリちゃん、アキトはこんな変な格好しないよ〜・・・それに・・・」

「なんかこの人怖いね・・・あ、ルリちゃんの知り合いだったっけ、ごめ〜ん。」


詰め寄ってきたルリにだけ聞こえるように最後のセリフを続けた。


「な・・・ユリカさん!なんてことを・・・アキトさんは・・・アキトさんは―――」


ルリは叫ぶように過去を話した、火星の後継者の事、アキトが行った復讐のこと・・・だが


「何言ってるの・・・?ルリちゃん!アキトはそんなひどいことぜーーったいしないよ?」

「な・・・」

「だってアキトは王子さまだもん、私を助けてくれたのはアキトじゃなくてその人なの?」


ユリカの言っていることが理解できない、それでもその言葉を信じたくなくて、否定したくて、ルリは心が裂けそうになりながらも言葉を続ける。


「ユリカさん!!アキトさんは・・・アキトさんはユリカさんのために―――」「もういいよ、ルリちゃん」


ルリの言葉をさえぎったのは、いままで黙って扉の前にいたアキトだった。


「ど・・・どうしてですか!!?」

「いいんだよ、それよりユリカさんだったな、貴女にテンカワアキトからの言伝を持ってきた」

「え!アキトから?な〜んだ、あなたアキトの知り合いだったの!でもなんでアキトは自分で来てくれないの?」


いままでルリが言っていたことなど、まったく無かったかのように、ユリカは嬉しそうな顔をした。


「貴女の王子、テンカワアキトは死んだ」



「・・・へ?」



部屋に沈黙が流れる・・・

ユリカは呆気に取られたような顔、ルリはアキトの真意がわからず、俯いたままだ。


「これはあいつの結婚指輪だ、貴女に渡してくれと頼まれた」


「あ・・・」


ルリはその指輪に目を向ける、ルリの想いを閉じ込めさせた・・・結婚指輪・・・。


「え・・・?なに・・・?アキトが、死んだ・・・?」


ユリカは相手が何を言ったのか、理解できないかのように呆然としている。


「それと、『俺のことは忘れて、新しい幸せを見つけろ』だとさ、俺の用事はそれだけだ、じゃあな」


一方的にそうユリカに言い放つと、アキトはバイザーを顔に着けてから、部屋を出て行った。


「あ・・・」


ルリも続いて、ふらふらと後を追うように部屋を出る、放心しているユリカの事は・・・もう振り向きもしなかった。











部屋を出ると、アキトが待っていた・・・その顔には、表情を隠すバイザー。


「・・・こういうこと・・・だったんですね・・・後悔・・・するって・・・」


消え入りそうな声で、そう問う


「・・・そうだ、できればルリちゃんには知られたくなかったけど・・・ね」


答えるアキト、その表情は・・・バイザーで見えない。


「どうして・・・ユリカさんは・・・」

「あいつは俺に自分の理想を重ねてたんだよ、自分だけの王子様ってやつをね、

あいつにとって俺は・・・中身のいらない、表面だけの存在ってわけさ、そして・・・

ルリちゃんに俺が用意できた温かい家族ってのも・・・表面だけだったってことさ・・・」


ルリのセリフを遮ってアキトが言う、ルリの言葉を聞くのが辛いから、一方的なまでにセリフを並べたてて

事実だけを突きつける、それはルリを引き離すためか、それともアキトの『逃げ』なのか・・・


「そんな・・・そんなこと・・・」


強く、『違う』と否定できない、たったいま、信じたくない、信じられない真実を突きつけられたばかりだから。


「ごめんね、ルリちゃん・・・だから俺が・・・ルリちゃんが取り戻したかった、

家族ってのは・・・もうないんだよ・・・だから・・・もう俺に関わる必要はない・・・」


アキトはいつかの夏の日のように・・・ルリに背を向けた。

あの夏の日のように・・・ルリと向き合わず、逃げることを選んだ――。












ユリカの病室の前で、ルリはイスに座って膝を抱えた。

アキトが去った後も、後を追うことも出来ず、俯いたまま、ただ考えだけを巡らせる・・・。


確かに、自分の中の『家族』は壊れた、アキトが帰ってきても、もう元に戻ることはない

でも、もう1つだけ真実があった、伝えられなかった、でも消えずに・・・ずっと、胸に秘めていた真実が・・・。

それは、いまはもう隠す必要のない、ルリに残った最後の希望――。

















「さようなら、かつて愛した人・・・」


歩いてきた道を振り返り、病院の方角に向けて言葉を送る・・・目の前では言う事は許されなかった言葉を。

そしてゆっくりと歩き出す、自らの終着駅へと。




「今度こそ全てを失った・・・」


改めて・・・失ってしまった、2つの大切な絆を思う――。

ラピス・ラズリ・・・桃色の少女・・・ルリと同じマシンチャイルド


(思えば、俺はラピスにルリちゃんを重ねていたのかもな・・・俺にユリカのことをどうこう言う資格など、ない・・・)


そしてホシノ・ルリ・・・最愛の義娘・・・仮初ではあったが・・・大切な『家族』


(俺は・・・本当にルリちゃんには・・・『家族』を与えてあげたかったんだけどな・・・)


だけど全ては終わった、ラピスも・・・ルリも、全て自分の手で断ち切った。


「これでいい・・・俺と・・・最後まで付き合ってくれるよな・・・?サレナ・・・」


最後にアキトに残った、無機質な絆・・・復讐のパートナー『ブラックサレナ』


いまや5m先までしか見えなくなった目で、サレナの隠してあるビルの方角を見やる。

来るときに残してきた、バイザー越しでしかわからない目印を頼りに歩く。


「未練がましいな、俺も・・・最後の最後で道連れを欲しがるとはな・・・」


呟きながら廃墟へ足を進める、言葉にしないと、決意が崩れてしまいそうだから。

軋む身体に鞭を打ち、決して立ち止まらぬよう歩みを進める、立ち止まったら、振り返ってしまいそうだから。














「待ってください!!」




――その声は、俺の崩壊寸前だった意志をあっさりと壊してしまった。

崩れそうだった決意を砕いたのは、決して立ち止まらないように必死だった足を止めたのは―――


「聞いてください・・・アキトさん・・・」


1つの決意をその金色の瞳に秘めた、最愛の義娘―――。















<懺悔室>

新連載スタートしました〜。

忙しいこの年末の時期の投稿とは・・・微妙(汗)

黒い鳩さんごめんなさい・・・(涙)

この長編は結構前から温めてきた作品なのですが・・・

ようやく形にすることができました〜、どうぞ見てやってください。

実はもうプロローグその2も出来ているのですが、まぁそこは修正とかありますので様子見ってことで(笑)

黒い鳩さまを見習って『〜光と闇に祝福を〜』のようにゲストを呼んでみました☆

本作品のメインヒロイン(?)ホシノ・ルリさんです♪どうぞ〜〜〜



(シーン・・・)

・・・あれ?

(シーン・・・)

ルリさん?出番ですよ〜、来てください〜〜

(シーン・・・)

おかしいな・・・あ・・・楽屋裏(?)に手紙・・・!?なになに・・・


『本編が忙しいのでこんなとこに来てる暇はあ りません』


ひ・・・酷い・・・(泣)

やはり黒い鳩さまのマネなど無理だったのでしょうか・・・(涙)



と・・ともかくプロローグ2ではなんとか出演いただけるよう誠心誠意がんばりますので

機動戦艦ナデシコ〜永久の誓い、永遠のパートナー〜をよろしくお願いします☆

PS、みなさまの感想お待ちしております〜(涙)



感想

アキト×ルリですね〜

雪夜さん本格的に動き始めたわけですね〜♪

アキトが皆に最後の別れを言う…王道を走ってますね〜

ユリカはヒロインから撤退、もうこれでルリに敵なしといった所でしょうか?

後は二人の愛の物語を紡ぐだけ…で済むはずもありませんが…

次回に期待ですね♪

期待ですね♪ じゃありません! 〜光と闇に祝福を〜の方一体どうなってるんですか! こちらでは私ヒロインのお話が始まると言うのに!

いや…一応これでも事情があって…

はあ…分かりました…所詮実力の無い貴方ではその程度と言う事ですね…

あう…

分かりました、これから向こうに出演交渉をしてきます。

いや、ルリちゃん? あっちにはあっちのルリちゃんがいるんだから…

ルリちゃん?

いやルリ様…

はあ、仕方ありませんね…兎も角、雪夜さん。私は貴方を応援していますよ♪

では。

 

押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


次の頁に進む

 
戻 る

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.