その子はおれと同い年だった。
能力とかも見るべきところは特にない。
ただ、特殊能力については今まで見たこともないようなことがらが並んでいた。
基本情報
名前:神宮司 まりも
性別:女
年齢:6歳
身長:114cm
体重:21kg
通常技能情報
・語学:127
・家事:81
etc…
身体能力情報
筋力:49(120)
体力:88(120)
俊敏:98(120)
器用:92(120)
感覚:71(120)
知力:101(120)
精神:97(120)
特殊技能情報
・狂犬(Ver.Ex)
・狂犬(Ver.AL)
AL支配因果律規定事項
・2001年12月10日 死亡確定
狂犬?
しかもVer.Exについては灰色表示、これは経験則から学んだことなんだが条件を満たしていないため有効になっていない技能のことだ。
反対にVer.ALについては有効になっている。
ここまではまだいい。問題なのはその次だ。
AL支配因果律規定事項
2001年12月10日 死亡確定
AL支配因果律規定事項だと?なんだそれはいったい。
Ver.ALという技能があることから、この世界に何らかの関係があるキーワードらしいということは予測がつく。
だがそれ以上になるとてんで見当も付かない。
因果律規定事項ってのもわからない。つまりは定められた運命っていうことか?
それに加えて死亡確定の不吉な文字。
近所のばーちゃんが先日永眠したが、そのばーちゃんにすらこんな死亡宣言みたいなものは見えなかった。
いったいどういうことだ?
これはALという世界に関して、この子の死亡が確定しているっていうことをいっているのか?
つまりこの世界はALという世界なのか?でもそれじゃあExってのはいったい何なんだ?別の世界?別の可能性?
因果と言うことは変えられない?この子がここに存在することがすでに原因であり、死亡は結果なため揺るぎない?
わからない。情報が少なすぎる。予測でしか判断ができない。
じりじりと焦りが背筋を這い回り、首筋がひりひりする。
冷静じゃいられない。
人の生き死にに関わることなんだ。
確かに今も海の向こうではドンパチやってるだろうし、国内でも犯罪や交通事故なんかで命を落としている人はいるだろう。
だけどそれは現実じゃない。いや、語弊があるな。現実感が伴わない、が正しい言い方か。
でもこれは違う。目の前の、今息をして、楽しげに母親と遊んでいる女の子の命に関わる事柄なのだ。
リアルだった。すさまじいまでの現実感をもって、死亡確定という文字をおれに突きつけていた。
考えがまとまらず、焦燥感が胸を焼く。
目の前にいる人間が死ぬ。
人である限り死ぬのは当然だ。
だが、その時期を知っているのと知っていないのとでは違う。あまりに違いすぎる
そこで気づいたのは天啓か。
すぐさま『思考制御』を使い思考を切り替える。
先ほどまでのぐるぐると目が回るような焦燥感が収まり、ひどくクリアな思考になる。
すぐさま今ある情報、推測される最悪の事態、何をすべきか、何をしたいのかを『思考高速化』で考えをまとめる。
『思考並列化』された頭で現状とるべき行動のシュミレートを繰り返す。
思考の渦の果てに導き出した答えは検証と実証。
あと21年もある。まだ焦るような状況じゃない。だが決して長いというわけでもない。
ALというキーワードのこともある。
まずは情報収集が必要だ。そして今の状況を把握する必要がある。しかも正確に、広い範囲で。
やることはたくさんある。
だがまず第一歩として、彼女に接触する必要があるだろう。
意味の分からない支配因果律などというものに余命宣言をされた彼女に。
そして考えるのだ。このわけの分からない事態を打開するための一手を。
そして、願わくば死亡確定などというふざけた予言をぶちこわすことができますように。
おれは胸にその思いを抱き、同年代の少女へと声をかけることにした。
なるべく子供っぽくと意識しながら、やはり女の子へと声をかけるのには勇気がいった。
前世を含めても、もともと異性は苦手だった。こちらから声かけしたことなど一度さえない。
その上前世を含めると30近い精神的な年の差があるのだ。
今は同い年だとはいえ、ロリコン、幼女愛好者などの蔑みの声が聞こえてくるような気さえする。
「よ、よう。おれ、隆也、立花 隆也ってんだ。おまえなんていう言う名前なんだ?」
「ふぇ?」
まりもがきょとんとした顔でこちらをみた。
栗色のふわふわした髪がかわいらしいどこかおっとりした女の子。
おれが改めて間近で見た神宮司まりもに抱いた印象がそれだった。
ひねりも何もない、いや子供らしいといえばそうなんだが、そんな声かけで二人の仲は始まった。
そう、それこそがおれの持つ『因果律への反逆』の発動条件だとは知らずに。