3.
「お疲れ、イーブイ」
「ブーイ」
次の日の学校の帰り道、並んで歩いていた。その時...
「ブイ、ブブイッ」
「どうしたの?」
「ブイッ」
イーブイは原っぱの方を指して私に呼びかける。
「原っぱに行きたいの?」
「ブイッ!」
分かった、と返事をしてから、お母さんに電話をする。
「もしもし、お母さん?イーブイが、近くの原っぱに行きたいって言ってるの。行ってもいいかな?」
「いいわよ。気をつけてね」
「はーい!ありがとう」
「行ってもいいって」
そうイーブイに伝えると、嬉しそうに飛び跳ねる。そして、何かを呼ぶように鳴く。
「ブーイ!」
すると、草むらの中から、あのときのイトマルたちが列を成してやってきた。
「キュイ!キュイ?」
「ブイッ」
ポケモンが何を話しているのかはわからないから、なんと言ったのかは不明だが、何かを確認しているように聞こえた。
イーブイの、おそらく肯定を意味する返事に、イトマルたちが飛び跳ねる。
「ブイッ」
イーブイは、私とイトマルたちに向かって、ついて来い、というような仕草をする。ついて行った先は、一見小さな洞穴だった。
「ここ?」
聞いてみると、即答で頷いた後、中に入っていく。
入口は狭かったけれど、思ったよりも中は広い。曲がりくねった一本道を、イーブイを先頭に黙々と歩いていく。
10分ほど進んだとき、またイーブイが鳴いた。
「ブーイッ」
イトマルたちのときよりも大きく、何かをお願いしているような声だった。
「グオォ!」
「シュー!」
「クゥォオ!」
たくさんのポケモンの鳴き声が聞こえた瞬間、それらのポケモンたちが現れた。
なんと、伝説のポケモン、ミュウツーを中心として。
《その後ろの人間が...いや、ポケモンというべきだろうか...ともかく、彼女がエリという者で間違いないか?》
「ブイッ」
「え?ポ、ポケモンが人間の言語を?」
言い伝えでも聞いたことがない。だが、ポケモンの不思議な力があれば、話せるのかもしれない。いまここで起こっていることは、話して良いものではない。そう感じさせるほどの威厳が、そのポケモンたちにはあった。
《私はミュウツー。エリ、やっと、また会えたな》
「え?やっと?しかも、また ⁉️ あの...ミュウツー、あった記憶はないんだけど...」
《私がその記憶を消した。その記憶を持つが故に、厄介事に巻き込まれるのを防ぐために》
「厄介事?」
《おまえの”家族”がおまえの本来の存在に気づく...とかだ》
「本来の存在?」
私がそう聞き返すと、ミュウツーは少し困惑した様子で答えた。
《間違えて、その部分も消してしまったか...。まあよい、今から話そう》
そうして、ミュウツーは私のことについて教えてくれた。
とあるポケモン2匹は、ある日、プリズマ団の人間に捕獲され、無理矢理タマゴをうまされた。そして、そのタマゴから孵ったポケモンは、人間の姿をしていた。しかし、その実態はポケモンで、異常なほどに高い能力を有していた。プリズマ団は、そのポケモンを悪用しようと考え、計画した。その危機を、テレパシーで2匹のポケモンから感じ取ったミュウツーたちは、その計画を止めるべく、研究所をもろとも破壊。そのポケモンはミュウツーたちの保護もあり、体力が回復した。
しかし、プリズマ団はそのポケモンを追い、計画を止めないことが明らかになった。そのポケモンは、周りに多いポケモンの姿に変身することで難を逃れていたが、そのことをプリズマ団に知られてしまった。
このままだと時間の問題なので、ミュウツーが人間の家族の記憶をいじり、そのポケモンの記憶を一部消した。
その謎のポケモンが私らしい。
《というわけだ》
ミュウツーはどこか懐かしい表情をしている。
「私をうみ出した2匹のポケモンは誰?」
《それは分からない。それを探してみたくないか?》
なるほど。
「私を探していたのはそのため?」
するとミュウツーは、少し笑った。
《そうだ》
「そろそろ、学校で校外学習と銘打った、『宝探し』がある。その時に行くことはできる。」
《ならば、それで行こう。その宝探しとやらが始まったら、またここへ来てくれ》
「分かった」
そうして洞穴を出た私たちは、家に帰った。血の繋がりはない、だけど大切な家族に迎えられて。